(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072405
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
A61M1/36 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183185
(22)【出願日】2022-11-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年11月8日「第9回JCR(Japan College of Rheumatology)ベーシックリサーチカンファレンス プログラム・抄録集、P-11(一般社団法人 日本リウマチ学会)」にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000153258
【氏名又は名称】株式会社JIMRO
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武政 大地
(72)【発明者】
【氏名】金田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山路 健
(72)【発明者】
【氏名】草生 真規雄
(72)【発明者】
【氏名】村山 豪
(72)【発明者】
【氏名】西岡 雄仁
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA09
4C077BB03
4C077KK13
4C077MM01
4C077NN02
4C077PP02
4C077PP08
4C077PP09
4C077PP13
4C077PP16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肺動脈性肺高血圧症の予防又はより安全な治療装置、及び肺動脈性肺高血圧症の予防又はより安全な治療方法を提供する。
【解決手段】顆粒球の吸着性担体7を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部1と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部11と、を備える、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
【請求項2】
吸着性担体が酢酸セルロースからなる担体又はガラスに酢酸セルロースのコーティングを施した担体である、請求項1記載の肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
【請求項3】
吸着性担体が径0.1~10mmのビーズ状担体である、請求項1又は2記載の肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
【請求項4】
肺動脈性肺高血圧症の患者から全血を採取する採取器と、
採取した全血のうちの少なくとも白血球成分を前記血液流入部へと導入し、前記血液流出部から流出する血液を前記患者へと返血するポンプと、を更に備える、請求項1記載の肺動脈性肺高血圧症の治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置、及び肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は肺動脈の血管壁の肥厚や血管収縮により肺動脈圧が上昇する疾患で、早期発見は難しく、十分な治療がなされないと数年以内に死亡する。肺動脈の血管壁の肥厚は血管内皮細胞や血管中膜の平滑筋細胞の異常増殖により引き起こされるが、詳細な機序は不明であるため厚生労働省により難病指定されている。これまで血圧を低下させることを目的に治療薬の開発が進められ、現在では作用機序の異なる3種類の降圧薬を組み合わせて治療することで生命予後は改善してきたが、薬剤の効果が不十分な場合には肺移植の適応とされている。
【0003】
最近の研究では、血管周囲に浸潤した白血球による炎症反応が肺動脈性肺高血圧症の病態形成に重要であることが明らかにされてきた。特に、白血球のうち好中球が放出する好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)に含まれるミエロペルオキシターゼや過酸化水素が血管内皮細胞や平滑筋細胞の異常増殖を促進させることが報告されており(非特許文献1)、末梢血の好中球とリンパ球の比率(N/L比)が肺動脈性肺高血圧症の重症度の指標になることも報告されている(非特許文献2)。
【0004】
動物実験では、薬剤を用いた好中球の制御による高血圧症の改善が試みられている(非特許文献3)。ヒトでも骨髄抑制作用のあるシクロフォスファミド等の抗がん剤による肺高血圧症の治療が考えられるが、抗がん剤では重篤な有害事象の発生が懸念されるため、より安全な治療法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lulwah Aldabbous et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.2016;36:2078-2087.
【非特許文献2】Lars Harbaum et al. BMC Pulmonary Medicine.2017;17:72
【非特許文献3】Jean F. Regal et al. PLoS ONE.2015;10:e0132063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置、及び肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み鋭意検討した結果、体外循環技術を利用して安全且つ効率的に顆粒球を分離除去する装置を用いることで、肺動脈性肺高血圧症モデルにおいて肺高血圧症による体重減少の抑制、死亡の回避、症状の軽減が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本開示は、下記の1)~11)を提供するものである。
1)顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
2)吸着性担体が酢酸セルロースからなる担体又はガラスに酢酸セルロースのコーティングを施した担体である、1)記載の肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
3)吸着性担体が径0.1~10mmのビーズ状担体である、1)又は2)記載の肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置。
4)肺動脈性肺高血圧症の患者から全血を採取する採取器と、
採取した全血のうちの少なくとも白血球成分を前記血液流入部へと導入し、前記血液流出部から流出する血液を前記患者へと返血するポンプと、を更に備える、1)~3)のいずれか1項記載の肺動脈性肺高血圧症の治療装置。
5)肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療に用いるための、顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える装置。
6)吸着性担体が酢酸セルロースからなる担体又はガラスに酢酸セルロースのコーティングを施した担体である、5)記載の装置。
7)吸着性担体が径0.1~10mmのビーズ状担体である、5)又は6)記載の装置。
8)前記装置が、肺動脈性肺高血圧症の治療に用いるための装置であって、
肺動脈性肺高血圧症の患者から全血を採取する採取器と、
採取した全血のうちの少なくとも白血球成分を前記血液流入部へと導入し、前記血液流出部から流出する血液を前記患者へと返血するポンプと、を更に備える、5)~7)のいずれか1項記載の装置。
9)対象の血液を、顆粒球の吸着性担体と接触させ、かくして得られる顆粒球が吸着除去された処理血液を当該対象に戻すことを含む、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療方法。
10)吸着性担体が酢酸セルロースからなる担体又はガラスに酢酸セルロースのコーティングを施した担体である、9)記載の方法。
11)吸着性担体が径0.1~10mmのビーズ状担体である、9)又は10)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、体外循環技術を利用して安全且つ効率的に顆粒球を分離除去することによる、全く新しい肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】モノクロタリン誘導性肺高血圧症ラットモデルにおける体重減少に対する効果。
【
図4】モノクロタリン誘導性肺高血圧症ラットモデルにおける生存率に対する効果。
【
図5】モノクロタリン誘導性肺高血圧症ラットモデルにおける右室収縮期圧に対する効果。図中のバーは平均値を示す。
【
図6】モノクロタリン誘導性肺高血圧症ラットモデルにおける右心肥大に対する効果。図中のバーは平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
一態様において、本開示は、顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療装置(以下、本開示の装置と称する)を提供する。ここで、「顆粒球の吸着性担体」とは、その表面に顆粒球を吸着させることができる材料を意味する。
本開示の装置は、対象の血液を、顆粒球の吸着性担体と接触させ、かくして得られる顆粒球が吸着除去された処理血液を当該対象に戻す、いわゆるアフェレーシスのための装置である。
よって、本開示の装置は、顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える、対象の血液から顆粒球を除去するための装置と言い換えることができる。
【0013】
別の一態様において、本開示は、対象の血液を、顆粒球の吸着性担体と接触させ、かくして得られる顆粒球が吸着除去された処理血液を当該対象に戻すことを含む、肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療方法(以下、本開示の方法と称する)を提供する。
本開示の方法は、対象の血液を、顆粒球の吸着性担体と接触させ、かくして得られる顆粒球が吸着除去された処理血液を当該対象に戻すことを含む、対象の血液から顆粒球を除去する方法と言い換えることができる。
【0014】
アフェレーシス(apheresis)は、種々の疾患を治療する目的で使用されることが報告されており、例えば、顆粒球の吸着性担体を血液に接触させることにより該血液から顆粒球を選択的に除去することが、潰瘍性大腸炎、クローン病、膿疱性乾癬、及び関節症性乾癬の治療で実際に行われている(アダカラム(登録商標)添付文書、株式会社JIMRO)。しかしながら、アフェレーシスが肺動脈性肺高血圧症の予防又は治療に応用できることは全く報告されていない。
【0015】
本開示において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
また、「治療」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延を意味し、「治療」には疾患の完全治癒に加えて、症状を改善させることが包含される。
【0016】
本開示において、「対象」としては、肺動脈性肺高血圧症の恐れがあるヒト及び肺動脈性肺高血圧症に罹患しているヒトが挙げられ、好ましくは肺動脈性肺高血圧症に罹患している肺動脈性肺高血圧症患者である。
【0017】
本実施形態の装置及び方法において用いられる顆粒球の吸着性担体(以下、本実施形態の担体又は単に担体と称する)は、具体的にはリンパ球に比し顆粒球への親和性が高い吸着性担体である。本実施形態の担体には、顆粒球を吸着させることができる素材、具体的にはリンパ球に比し顆粒球への親和性が高い吸着性素材が用いられるが、その材質としては、当該特性を有し且つ接触する血液に有害なものでなければ特に限定されるものではなく、例えば水に対する接触角が55°~95°の範囲内にある材質からなるものが挙げられる。ここで接触角とは、静止液体の自由表面と固体表面とが、該自由表面が該固体表面と接触する点において形成する角度を意味し、液体の内側に位置する角度が使用される。主な担体の水に対する接触角度を表1に示す。
【0018】
【0019】
したがって、本実施形態の担体としては、酢酸セルロース、ポリスチレン、ナイロン(6-ナイロン、11-ナイロン等)、ポリトリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エチルセルロース等の吸着性素材からなる担体が好適に例示され、酢酸セルロースからなる担体が特に好ましい。
【0020】
あるいは、ガラス等は水に対する接触角が55°~95°の範囲内にないが、ガラス等に酢酸セルロース等の水に対する接触角が55°~95°の範囲内にある成分のコーティングを施した担体を本実施形態の担体として用いることもでき、ガラスに酢酸セルロースのコーティングを施した担体が特に好ましい。コーティング手段は、特に限定されず、例えば、スプレーコーティングを用いることができる。
【0021】
また、本実施形態の担体は、各種担体の表面特性を調整することにより取得することもできる。斯かる表面特性としては、担体による顆粒球除去効率の観点から、中心線平均粗さRa値が0.2~10μmであり、でこぼこ平均間隔Sm値が5~200μmの範囲にある表面粗さを好適に例示することができる。このような表面特性を有する担体及びその製造法は、特許第2501500号公報に教示されている。
【0022】
また、担体の形状及び大きさ等は、任意であり特に限定されるものではないが、一般には血液細胞と区別し得る大きさを有し、接触する血液との接触面が大きい形状、すなわち効率的な接触を可能とする形状であるのが好ましい。例えば、径0.1~10mm程度のビーズ状担体であることができる。当該ビーズの直径は、0.1~5.0mmが好ましく、0.2~0.5mmがさらに好ましい。
【0023】
ビーズ状担体は、酢酸セルロース、ポリスチレン、ナイロン、ポリトリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を射出成形、押出成形等の既知の成形方法を利用して成形することが可能である。さらに、成形後必要に応じて研磨することにより直径を揃えることも可能である。
また、直径1mm未満の小径のものは、懸濁重合のように既知の重合法によって製造することもできる。さらに、ガラスビーズは、溶融物から成形することができる。
【0024】
本実施形態の担体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
かかる担体を用いることにより、顆粒球を血液から効果的に除去することができる。ここで、顆粒球とは、白血球のうち、好塩基球、好中球、好酸球、及び肥満細胞の総称であり、好ましくは好塩基球を指す。また、血液とは、対象由来の血液である限り特に限定されないが、操作性の観点から、好ましくは全血である。
【0026】
本実施形態においては、対象の血液が上記担体との接触処理に付され、顆粒球が吸着除去された処理血液が当該対象に戻される。
【0027】
処理血液は、血液細胞成分として対象に戻すことができ、これによって所望の効果を奏するが、特に血漿成分を分離除去する必要はない。また、処理血液には必要に応じて血液成分を任意に補給することもできる。
【0028】
接触処理の手段は、担体への顆粒球の吸着処理が有効に行われ、処理血液が対象に戻され得るように回収できる限りにおいて特に限定されず、また該処理血液を対象に戻す手段も何等限定はない。例えば、体外循環装置を介して連続的に或いはバッチ式にて接触処理した処理血液を常法に従い静脈内投与する手段等を適宜採用できる。
【0029】
好適には、担体を収容した顆粒球吸着部と、対象の血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流入させて当該対象に戻すための血液流出部とを備える本実施形態の装置を介して、連続的に本実施形態の方法を実施することができる。
【0030】
本実施形態の装置の顆粒球吸着部は、好ましくは担体を収容したカラムであり、生理的液体、特に滅菌された生理的食塩水、に浸した担体を充填したカラムである。血液は、血液流入部を経て該カラムに供給され、その後、該カラムから血液流出部を経て対象に返血される。カラムの形状及び大きさは、任意であり特に限定されるものではないが、例えば、長さ100~500mm、直径10~100mmの円筒状のカラムが好適に用いられる。
【0031】
本実施形態の装置は、対象から血液を採取する採取器を含んでいてもよい。本実施形態の装置の血液流入部は、対象の適当な血管、例えば腕又は手の血管に連結あるいは採取器を介して連結すればよく、本実施形態の装置の血液流出部は、該対象の別の適当な血管、例えば腕又は手の血管に連結すればよい。本実施形態の装置の血液流入部及び血液流出部の一方又は両方は、ポンプ手段を含んでいてもよい。ポンプは、対象から採取した血液のうち少なくとも白血球成分を血液流入部へと導入し、血液流出物から流出する血液を対象へと返血するものであることが好ましい。本実施形態の装置の血液流入部及び血液流出部の一方又は両方は、血液の流量及び/又は圧力を測定するための手段を含んでいてもよい。また、本実施形態の装置の血液流入部及び血液流出部の一方又は両方は、薬剤(例えば、血液凝固防止剤)を血液に添加するための手段を含んでいてもよい。
【0032】
接触処理の条件は、対象の症状、体重、性別、年齢、担体の量、吸着特性等の要因を考慮して適宜決定することができる。例えば、血液の流量は、5~200mL/minが好ましく、20~50mL/minがより好ましい。処置時間は、10分~10時間とすることが好ましい。典型的には、1週間あたり1時間の接触処理を1回、例えば30mL/minの流量で行うことが挙げられる。
【0033】
本実施形態の装置の一態様を、
図1及び
図2を参照して説明するが、本実施形態の装置はこれに限定されるものではない。顆粒球吸着部の構造の一例を
図1に示し、その構成の材料の一例を表2に示す。また、血液流入部及び血液流出部を備え、顆粒球吸着部を含む体外循環装置の概略の一例を
図2に示す。
【0034】
図1に示すように、顆粒球吸着部はカラムであり、ポリカーボネート製のカラム(8)に、滅菌された生理的食塩水(9)中に浸したビーズ(吸着性担体(7))が充填されている。カラムの内容物は内部キャップ(4)、外部キャップ(5)、及びO-リング(6)で封止されている。血液供給ラインは、血液流入口(1)でノズルキャップ(2)及びパッキン(3)によりカラムに取り付けられる。
【0035】
【0036】
図2に示すように、体外循環装置は、カラム(26)、血液回路ライン、モニター(23)、及びポンプ(24)を含む。対象(21)の前腕前部血管からの血液流出物はバブル検出器(22)を通過してポンプ(24)及びモニター(23)に行く。次に血液は、カラム(26)に入る前に凝固防止剤投与口(25)を通過する。カラムからの流出後に、血液はドリップチェンバー(29)に入る。該ドリップチェンバーにはドリップチェンバー空気出口(27)及び静脈圧力ゲージ(28)が取り付けられている。血液はバブル検出器(30)の通過後、前腕前部血管(31)を経て対象に返血される。
【0037】
後記実施例に示すように、肺動脈性肺高血圧症モデル動物として認知されているモノクロタリン誘導性肺高血圧症ラットについて、顆粒球の吸着性担体を収容した顆粒球吸着部と、血液を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流出させるための血液流出部と、を備える装置を用いて、末梢血を顆粒球の吸着性担体と接触させ、かくして得られる顆粒球が吸着除去された処理血液を当該ラットに戻す処置を行うと、体重減少の顕著な抑制、生存率の顕著な上昇、右室収縮期圧の顕著な抑制、及び右心肥大の顕著な抑制が認められる。したがって、本実施形態の装置及び方法は、肺動脈性肺高血圧症の新たな予防又は治療手段として有用である。一般に、薬剤治療の多くに副作用が認められる一方、アフェレーシスは薬剤を投与するのではなく特定成分を選択的に除去するものであるため、副作用が抑制され、安全性が高く、対象への負担が少ない。
【実施例0038】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
【0039】
実施例1 酢酸セルロースビーズ充填カラムを用いた体外循環処置による肺高血圧症モデル動物における肺高血圧に対する効果(体重減少、生存率、右室収縮期圧、右心室肥大)
(1)実験方法
体重(250~350g)の雄性Sprague-Dawleyラットに、モノクロタリン(MCT)60mg/kgを皮下注射して肺高血圧症ラットモデルを作製した。MCT投与3、10、17日後、酢酸セルロースをガラスビーズにスプレーコーティングして作製した酢酸セルロースコーティングビーズ(CA)(300μm径)を1.5mL容積に充填したカラムを用い、体外循環処置(循環時間1時間、流速0.15mL/min)を行った(CA処置群)。また対照群は体外循環処置を行わなかった(CA未処置群)。この実験はCA処置群2匹、CA未処置群10匹で実施した。
【0040】
(2)体重減少に対する効果
上記実験から得られたMCT投与後29日までの体重の推移を
図3に示す。
図3に示されるように、CA処置は体重減少を顕著に抑制した。
【0041】
(3)生存率に対する効果
上記実験から得られたMCT投与後27日までのカプランマイヤー生存曲線を
図4に示す。
図4に示されるように、CA処置は生存率を顕著に上昇した。
【0042】
(4)右室収縮期圧に対する効果
MCT投与後27日の時点で生存していたラット(CA未処置群3匹、CA処置群2匹)について、カテーテル検査により、右室収縮期圧(RVSP)を測定した。肺高血圧症の進行に従い、肺動脈肥厚により右心室圧が上昇することから、右室収縮期圧が高い程重症であると判断できる。結果を
図5に示す。
図5に示されるように、CA処置は右室収縮期圧を顕著に抑制した。
【0043】
(5)右心肥大に対する効果
MCT投与後27日の時点で生存していたラット(CA未処置群5匹、CA処置群2匹)について、肺高血圧症モデルラットの右心室重量(RV)、左心室重量(LV)、および心室中隔重量(S)を測定し、右心肥大の指標としてRV/(LV+S)を求めた。肺高血圧症の進行に従い、肺動脈肥厚による右心室圧上昇に伴う右心肥大が生じることから、RV/(LV+S)の値が大きい程重症であると判断できる。結果を
図6に示す。
図6に示されるように、CA処置は右心肥大を顕著に抑制した。
【0044】
図3~6に示されるように、酢酸セルロースビーズを用いた体外循環処置による、肺高血圧症モデル動物に対する症状の抑制効果が確認された。