(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072440
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 25/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
H01L25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183257
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 孝行
(72)【発明者】
【氏名】中柴 康隆
(72)【発明者】
【氏名】笠岡 竜雄
(57)【要約】
【課題】半導体装置の信頼性を向上する。
【解決手段】半導体装置は、半導体基板SUB1と、半導体基板SUB1上に形成された多層配線層MWL1と、多層配線層MWL1上に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1配線と、多層配線層MWL1上に形成され、かつ第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成された上層インダクタTLと、多層配線層MWL1上、第1配線上および上層インダクタTL上に形成された無機絶縁膜10aと、無機絶縁膜10a上に形成され、かつ平面視において第1配線と上層インダクタTLとの間に位置する無機絶縁膜10aを覆うように配置された有機絶縁膜20aと、を備える。ここで、第1配線と上層インダクタTLとの間において、有機絶縁膜20aには、無機絶縁膜10aの上面の一部を露出する開口部OPが設けられている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された多層配線層と、
前記多層配線層上に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1配線と、
前記多層配線層上に形成され、かつ前記第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成されたインダクタと、
前記多層配線層上、前記第1配線上および前記インダクタ上に形成された無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜上に形成され、かつ平面視において前記第1配線と前記インダクタとの間に位置する前記無機絶縁膜を覆うように配置された有機絶縁膜と、
を備え、
前記第1配線と前記インダクタとの間において、前記有機絶縁膜には、前記無機絶縁膜の上面の一部を露出する開口部が設けられている、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記開口部は、平面視において、前記インダクタを囲むように形成されている、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記開口部は、
第1方向に延在する第1開口部と、
前記第1方向と交差する第2方向に延在する第2開口部と、
前記第1開口部と対向して前記第1方向に延在する第3開口部と、
前記第2開口部と対向して前記第2方向に延在する第4開口部と、
から構成され、
平面視において前記第1開口部と前記第3開口部との間に前記インダクタが配置され、
平面視において前記第2開口部と前記第4開口部との間に前記インダクタが配置され、
平面視において前記第1開口部と前記第2開口部とは、離れており、
平面視において前記第1開口部と前記第4開口部とは、離れており、
平面視において前記第3開口部と前記第2開口部とは、離れており、
平面視において前記第3開口部と前記第4開口部とは、離れている、半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記開口部は、前記インダクタを内包するように形成されている、半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記開口部は、前記第1配線の一部分を内包するように形成されている、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記半導体装置は、
前記第1配線と、前記第1配線と電気的に接続された回路と、前記インダクタと、前記有機絶縁膜を含む第1半導体チップと、
前記インダクタに前記第2電位を供給するように構成された回路を含む第2半導体チップと、
を有する、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記インダクタは、
第1ボンディングワイヤと接続可能な第1パッドと、
前記第1パッドと接続された第2配線と、
を有し、
前記第2配線の幅は、前記第1配線の幅よりも大きい、半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1配線は、前記多層配線層の最上層と接するように配置され、
前記インダクタは、前記最上層と接するように配置される、半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
ボンディングワイヤと接続可能なパッドを露出するために前記有機絶縁膜および前記無機絶縁膜を貫通するように設けられたパッド開口部を有し、
前記開口部は、前記パッド開口部とは異なる、半導体装置。
【請求項10】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された多層配線層と、
前記多層配線層内に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1インダクタと、
前記多層配線層上に形成され、前記第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成され、かつ前記第1インダクタと磁気結合可能に構成された第2インダクタと、
前記第2インダクタ上に形成された無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜を覆うように形成されたモールド樹脂と、
を備える、半導体装置。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体装置において、
前記無機絶縁膜の上面は、前記モールド樹脂と直接接触している、半導体装置。
【請求項12】
請求項10に記載の半導体装置において、
前記無機絶縁膜は、窒化シリコン膜よりも誘電率の小さい膜であり、
前記無機絶縁膜と前記モールド樹脂との間に有機絶縁膜が介在している、半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記有機絶縁膜は、ポリイミド樹脂膜、フッ化ポリイミド樹脂膜またはベンゾシクロブテン膜である、半導体装置。
【請求項14】
請求項11に記載の半導体装置において、
前記モールド樹脂は、球状フィラーを含む、半導体装置。
【請求項15】
請求項11に記載の半導体装置において、
前記半導体装置は、
前記第1インダクタに前記第1電位を供給するように構成された第1回路を含む第1半導体チップと、
前記第2インダクタに前記第2電位を供給するように構成された第2回路を含む第2半導体チップと、
前記第1インダクタ、前記第2インダクタおよび前記無機絶縁膜を含む第3半導体チップと、
を有する、半導体装置。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体装置において、
前記第1半導体チップは、
前記第1回路の構成要素である第1トランジスタと、
前記第1トランジスタと電気的に接続された第1多層配線と、
前記第1多層配線を覆うように設けられた第1窒化シリコン膜と、
前記第1窒化シリコン膜を覆うように設けられた第1有機絶縁膜と、
を有し、
前記第2半導体チップは、
前記第2回路の構成要素である第2トランジスタと、
前記第2トランジスタと電気的に接続された第2多層配線と、
前記第2多層配線を覆うように設けられた第2窒化シリコン膜と、
前記第2窒化シリコン膜を覆うように設けられた第2有機絶縁膜と、
を有する、半導体装置。
【請求項17】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された多層配線層と、
前記多層配線層上に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1配線と、
前記多層配線層上に形成され、かつ前記第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成された第1電極であって、キャパシタの構成要素となる前記第1電極と、
前記多層配線層上、前記第1配線上および前記第1電極上に形成された無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜上に形成され、かつ平面視において前記第1配線と前記第1電極との間に位置する前記無機絶縁膜を覆うように配置された有機絶縁膜と、
を備え、
前記第1配線と前記第1電極との間において、前記有機絶縁膜には、前記無機絶縁膜の上面の一部を露出する開口部が設けられている、半導体装置。
【請求項18】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された多層配線層と、
前記多層配線層内に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された下部電極と、
前記多層配線層上に形成され、前記第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成され、かつ前記下部電極と容量結合可能に構成された上部電極と、
前記上部電極上に形成された無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜を覆うように形成されたモールド樹脂と、
を備える、半導体装置。
【請求項19】
請求項18に記載の半導体装置において、
前記無機絶縁膜の上面は、前記モールド樹脂と直接接触している、半導体装置。
【請求項20】
請求項18に記載の半導体装置において、
前記無機絶縁膜は、窒化シリコン膜よりも誘電率の小さい膜であり、
前記無機絶縁膜と前記モールド樹脂との間に有機絶縁膜が介在している、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して、異なる電位の間での信号伝送を可能とする半導体装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-82212号公報(特許文献1)には、トランスフォーマを構成するコイルの寄生抵抗成分の大部分を占める直列抵抗を低減するために、微細化を妨げることなく、コイル断面積を大きくすることが可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して非接触の信号伝送を可能とするトランスフォーマ(デジタルアイソレータ)がある。このトランスフォーマによれば、非接触の状態での信号伝送が可能となるため、一方の回路からの電気的ノイズが他方の回路に悪影響を及ぼすことを抑制できる利点が得られる。そして、このように構成されているトランスフォーマでは、互いに大きく電位の異なる回路間での非接触の信号伝送も可能となるように、絶縁耐圧の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態における半導体装置は、半導体基板と、半導体基板上に形成された多層配線層と、多層配線層上に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1配線と、多層配線層上に形成され、かつ第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成されたインダクタと、多層配線層上、第1配線上およびインダクタ上に形成された無機絶縁膜と、無機絶縁膜上に形成され、かつ平面視において第1配線とインダクタとの間に位置する無機絶縁膜を覆うように配置された有機絶縁膜と、を備える。ここで、第1配線とインダクタとの間において、有機絶縁膜には、無機絶縁膜の上面の一部を露出する開口部が設けられている。
【0006】
一実施の形態における半導体装置は、半導体基板と、半導体基板上に形成された多層配線層と、多層配線層内に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された第1インダクタと、多層配線層上に形成され、第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成され、かつ第1インダクタと磁気結合可能に構成された第2インダクタと、第2インダクタ上に形成された無機絶縁膜と、無機絶縁膜を覆うように形成されたモールド樹脂と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
一実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】モータなどの負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【
図4】関連技術における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【
図5】関連技術における半導体チップを示す平面図である。
【
図6】実施の形態1の具現化態様における半導体装置の構成を示す図である。
【
図7】実施の形態1の変形例1における半導体チップを示す平面図である。
【
図8】実施の形態1の変形例2における半導体チップを示す平面図である。
【
図9】実施の形態1の変形例3における半導体チップを示す平面図である。
【
図10】実施の形態1の変形例4における半導体チップを示す平面図である。
【
図12】実施の形態2の具現化態様における半導体装置の構成を示す図である。
【
図13】変形例における半導体装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0010】
<回路構成>
図1は、モータなどの負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【0011】
図1に示すように、駆動制御部は、制御回路CCと、トランスフォーマTR1と、トランスフォーマTR2と、駆動回路DRと、インバータINVとを有し、負荷回路LODと電気的に接続されている。
【0012】
送信回路TX1および受信回路RX1は、制御回路CCから出力される制御信号を駆動回路DRに伝達するための回路である。一方、送信回路TX2および受信回路RX2は、駆動回路DRから出力される信号を制御回路CCに伝達するための回路である。
【0013】
制御回路CCは、駆動回路DRを制御する機能を有する回路である。駆動回路DRは、制御回路CCからの制御に基づいて、負荷回路LODを制御するインバータINVを動作させる回路である。
【0014】
制御回路CCには、電源電位VCC1が供給され、制御回路CCは接地電位GND1により接地される。一方、インバータINVには、電源電位VCC2が供給され、インバータINVは接地電位GND2により接地される。このとき、例えば、電源電位VCC1は、インバータINVに供給される電源電位VCC2よりも小さい。言い換えれば、インバータINVに供給される電源電位VCC2は、電源電位VCC1よりも大きい。
【0015】
送信回路TX1と受信回路RX1との間には、誘導結合(磁気結合)したコイル(インダクタ)CL1aとコイルCL1bからなるトランスフォーマTR1が介在している。これにより、送信回路TX1から受信回路RX1に、トランスフォーマTR1を介して信号を伝達することができる。この結果、駆動回路DRは、トランスフォーマTR1を介して、制御回路CCから出力された制御信号を受信することができる。
【0016】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR1によって、制御回路CCから駆動回路DRへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、制御回路CCから駆動回路DRに制御信号を伝達することができる。このことから、制御信号への電気的ノイズの重畳に起因する駆動回路DRの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0017】
トランスフォーマTR1を構成するコイルCL1aおよびコイルCL1bは、それぞれインダクタとして機能する。トランスフォーマTR1は、誘導結合したコイルCL1aとコイルCL1bからなる磁気結合素子として機能することになる。
【0018】
同様に、送信回路TX2および受信回路RX2の間には、誘導結合したコイルCL2bとコイルCL2aとからなるトランスフォーマTR2が介在している。これにより、送信回路TX2から受信回路RX2に、トランスフォーマTR2を介して信号を伝達することができる。この結果、制御回路CCは、トランスフォーマTR2を介して、駆動回路DRから出力された信号を受信することができる。
【0019】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR2によって、駆動回路DRから制御回路CCへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、駆動回路DRから制御回路CCに信号を伝達することができる。このことから、信号への電気的ノイズの重畳に起因する制御回路CCの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0020】
トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとにより構成されており、コイルCL1aとコイルCL1bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL1aに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL1bに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このとき、コイルCL1aが一次コイルであり、コイルCL1bが二次コイルである。このように、トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとの間に生じる電磁誘導現象を利用している。すなわち、送信回路TX1からトランスフォーマTR1のコイルCL1aに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR1のコイルCL1bに生じた誘導電流を受信回路RX1で検知することにより、受信回路RX1は送信回路TX1から出力された制御信号に対応した信号を受信できる。
【0021】
同様に、トランスフォーマTR2は、コイルCL2aとコイルCL2bとにより構成されており、コイルCL2aとコイルCL2bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL2bに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL2aに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このように、送信回路TX2からトランスフォーマTR2のコイルCL2bに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR2のコイルCL2aに生じた誘導電流を受信回路RX2で検知することにより、受信回路RX2は送信回路TX2から出力された制御信号に対応した信号を受信することができる。
【0022】
送信回路TX1からトランスフォーマTR1を経由して受信回路RX1に至る経路と、送信回路TX2からトランスフォーマTR2を経由して受信回路RX2に至る経路とにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間の信号の送受信が行なわれる。すなわち、送信回路TX1が送信した信号を受信回路RX1が受信し、送信回路TX2が送信した信号を受信回路RX2が受信することにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間で信号の送受信を行うことができる。上述のように、送信回路TX1から受信回路RX1への信号の伝達には、トランスフォーマTR1が介在する一方、送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達には、トランスフォーマTR2が介在する。これにより、駆動回路DRは、制御回路CCから送信された信号に応じて、負荷回路LODを動作させるためのインバータINVを駆動することができる。
【0023】
制御回路CCと駆動回路DRとは、基準電位の電圧レベルが異なっている。すなわち、制御回路CCでは、基準電位が接地電位GND1に固定されている一方、
図1に示すように、駆動回路DRは、インバータINVと電気的に接続されている。
【0024】
インバータINVは、例えば、ハイサイド用IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)とローサイド用IGBTとを有している。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御と、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御を駆動回路DRで行なうことにより、インバータINVによる負荷回路LODの制御が実現される。
【0025】
具体的に、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ハイサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。同様に、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ローサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。
【0026】
ここで、例えば、ローサイド用IGBTのオン制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)+しきい値電圧(15V)」をゲート電極に印加することにより実現される。
【0027】
一方、例えば、ローサイド用IGBTのオフ制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)」をゲート電極に印加することにより実現される。
【0028】
したがって、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、0Vを基準電位として、ゲート電極にしきい値電圧(15V)を印加するか否かによって行なわれる。
【0029】
一方、例えば、ハイサイド用IGBTのオン制御も、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、この基準電位に対して、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0030】
ところが、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ローサイド用IGBTのエミッタ電位のように接地電位GND2に固定されているわけではない。すなわち、インバータINVにおいては、電源電位VCC2と接地電位GND2との間に、ハイサイド用IGBTとローサイド用IGBTとが直列接続されている。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTがオンする際には、ローサイド用IGBTをオフする一方、ハイサイド用IGBTがオフする際には、ローサイド用IGBTをオンする制御が行なわれる。
【0031】
したがって、ハイサイド用IGBTがオフしている際には、ローサイド用IGBTがオンしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、オンしているローサイド用IGBTによって、接地電位GND2となる。
【0032】
一方、ハイサイド用IGBTがオンしている際には、ローサイド用IGBTがオフしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、IGBTバス電圧となる。
【0033】
このとき、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0034】
上述したように、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ハイサイド用IGBTがオンしている場合とオフしている場合で変動する。すなわち、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、接地電位GND2(0V)から電源電位VCC2(例えば、800V)まで変動する。したがって、ハイサイド用IGBTをオンするためには、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「IGBTバス電圧(800V)+しきい値電圧(15V)」を印加する必要がある。
【0035】
このことから、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御を行なう駆動回路DRにおいては、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を把握する必要がある。このため、駆動回路DRは、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を入力するように構成されている。この結果、駆動回路DRには、800Vの基準電位が入力され、駆動回路DRは、この800Vの基準電位に対して、15Vのしきい値電圧(15V)をハイサイド用IGBTのゲート電極に印加することによって、ハイサイド用IGBTをオンするように制御する。したがって、駆動回路DRには、800V程度の高電位が印加される。
【0036】
このように、駆動制御部は、低電位(数十V)を取り扱う制御回路CCを有するとともに、高電位(数百V)を取り扱う駆動回路DRを有している。このことから、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、異電位回路間での信号の伝達を行なうことが必要とされる。この点に関し、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2を介在して行なわれるため、異電位回路間での信号の伝達が可能である。
【0037】
上述したように、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とにおいては、一次コイルと二次コイルとの間に、大きな電位差が発生する場合がある。逆に言えば、大きな電位差が発生する場合があるため、導体では繋がずに磁気結合させた一次コイルと二次コイルを信号の伝達に用いている。したがって、トランスフォーマTR1を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL1aとコイルCL1bとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。同様に、トランスフォーマTR2を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL2bとコイルCL2aとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。
【0038】
<信号の伝送例>
図2は、信号の伝送例を示す説明図である。
【0039】
図2において、送信回路TX1は、送信回路TX1に入力された方形波の信号SG1のエッジ部分を取り出して一定パルス幅の信号SG2を生成し、トランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に信号SG2を送る。この信号SG2による電流がトランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に流れると、それに応じた信号SG3が誘導起電力によりトランスフォーマTR1のコイルCL1b(二次コイル)に流れる。この信号SG3を受信回路RX1で増幅し、更に方形波に変調することで、方形波の信号SG4が受信回路RX1から出力される。これにより、送信回路TX1に入力された信号SG1に対応した信号SG4を受信回路RX1から出力することができる。このようにして、送信回路TX1から受信回路RX1に信号を伝達することができる。送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達も同様に行なうことができる。
【0040】
<2チップ構成>
上述した駆動制御部のうちの送受信回路部は、例えば、2つの半導体チップに分けて形成される。具体的に、
図3は、2チップ構成を示す図である。
図3において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1とトランスフォーマTR1と受信回路RX2とが形成されている。一方、半導体チップCHP2には、受信回路RX1と駆動回路DRと送信回路TX2とトランスフォーマTR2とが形成されている。
【0041】
このような2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1が送信回路TX1と受信回路RX2と同一の半導体チップCHP1に形成される。したがって、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2の集積化が可能となる。同様に、トランスフォーマTR2が駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2と同一の半導体チップCHP2に形成される。このため、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2の集積化が可能となる。
【0042】
ここで、例えば、半導体チップCHP1においては、送信回路TX1と受信回路RX2とが形成されることから、半導体チップCHP1には、送信回路TX1や受信回路RX2を構成するトランジスタが形成される。同様に、半導体チップCHP2においても、駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2が形成されることから、半導体チップCHP2にも、駆動回路DRや受信回路RX1や送信回路TX2を構成するトランジスタが形成される。したがって、半導体チップCHP1においては、トランスフォーマTR1とトランジスタとが一緒に形成される。同様に、半導体チップCHP2においても、トランスフォーマTR2とトランジスタとが一緒に形成される。
【0043】
<関連技術の説明>
以下では、2チップ構成を前提とした関連技術における半導体装置の構成について説明する。本明細書でいう「関連技術」とは、公知技術ではないが、本発明者が見出した課題を有する技術であって、本願発明の前提となる技術である。
【0044】
図4は、関連技術における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【0045】
図4において、半導体装置は、半導体チップCHP1と半導体チップCHP2を有している。すなわち、
図4に示す関連技術における半導体装置は、2チップ構成をしている。半導体チップCHP1は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP1上に導電性接着材PST1を介して搭載されている。一方、半導体チップCHP2は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP2上に導電性接着材PST2を介して搭載されている。
【0046】
ここで、ダイパッドDP1およびダイパッドDP2のそれぞれは、例えば、銅材から構成されている。また、導電性接着材PST1および導電性接着材PST2のそれぞれは、例えば、銀ペーストや半田から構成されている。
【0047】
半導体チップCHP1には、
図3に示す送信回路TX1や受信回路RX2やトランスフォーマTR1が形成されている。この半導体チップCHP1は、
図4に示すように、半導体基板SUB1と、半導体基板SUB1上に形成された多層配線層MWL1を有している。
【0048】
半導体基板SUB1には、複数のトランジスタQ1が形成されており、複数のトランジスタQ1が形成された半導体基板SUB1の上方に多層配線層MWL1が形成されている。多層配線層MWL1では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL1のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ1と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ1と配線によって、送信回路TX1や受信回路RX2が構成されている。
【0049】
そして、多層配線層MWL1には、配線だけでなく、トランスフォーマTR1の構成要素である下層インダクタBL(コイルCL1a)も形成されている。下層インダクタBLは、例えば、渦巻き状の配線からなる。
【0050】
続いて、
図4に示すように、半導体チップCHP1においては、多層配線層MWL1の最上層と接するように、多層配線層MWL1上に配線および絶縁膜IF1が形成されている。さらに、多層配線層MWL1の最上層と接するように、多層配線層MWL1上にトランスフォーマTR1の構成要素である上層インダクタTL(コイルCL1b)が設けられている。
【0051】
そして、多層配線層MWL1の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上、上層インダクタTL上および絶縁膜IF1上には、無機絶縁膜10aが形成されており、この無機絶縁膜10a上に有機絶縁膜20aが形成されている。有機絶縁膜20aは、無機絶縁膜10aに接して形成されている。
【0052】
ここで、無機絶縁膜10aは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20aは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0053】
このとき、有機絶縁膜20aおよび無機絶縁膜10aには、上層インダクタTLの構成要素であるパッドの表面を露出するために、有機絶縁膜20aおよび無機絶縁膜10aを貫通するようにパッド開口部30aが設けられている。
【0054】
次に、半導体チップCHP2には、
図3に示す駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が形成されている。この半導体チップCHP2は、
図4に示すように、半導体基板SUB2と、半導体基板SUB2上に形成された多層配線層MWL2を有している。
【0055】
半導体基板SUB2には、複数のトランジスタQ2が形成されており、複数のトランジスタQ2が形成された半導体基板SUB2の上方に多層配線層MWL2が形成されている。多層配線層MWL2では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL2のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ2と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ2と配線によって、駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が構成されている。
【0056】
そして、多層配線層MWL2の最上層と接するようにパッドを含む配線および絶縁膜IF2が形成されている。さらに、多層配線層MWL2の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上および絶縁膜IF2上には、無機絶縁膜10bが形成されており、この無機絶縁膜10b上に有機絶縁膜20bが形成されている。有機絶縁膜20bは、無機絶縁膜10bに接して形成されている。
【0057】
ここで、無機絶縁膜10bは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20bは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。このとき、有機絶縁膜20bおよび無機絶縁膜10bには、パッドの表面を露出するために、有機絶縁膜20bおよび無機絶縁膜10bを貫通するようにパッド開口部30bが設けられている。
【0058】
次に、
図4に示すように、半導体チップCHP1に設けられている上層インダクタTLは、例えば、ボンディングワイヤWを介して、半導体チップCHP2の多層配線層MWL2の最上層と接するように配置されている配線(パッド)と電気的に接続されている。具体的には、
図4に示すように、パッド開口部30aから露出する上層インダクタTLの構成要素であるパッドと、パッド開口部30bから露出するパッドとがボンディングワイヤWを介して接続される。半導体チップCHP1に設けられている上層インダクタTLは、例えば、パッドと、パッドと接続された渦巻き状の配線からなる。
【0059】
このように構成されている半導体チップCHP1および半導体チップCHP2は、例えば、エポキシ樹脂から構成されるモールド樹脂MRで覆われている。以上のようにして、関連技術における2チップ構成の半導体装置が構成されている。
【0060】
さらに、関連技術における半導体装置の構成について説明する。
【0061】
図4に示すように、半導体チップCHP1には、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマの構成要素である上層インダクタTLが設けられている。このとき、上層インダクタTLは、半導体チップCHP2に設けられている多層配線層MWL2に存在する配線と電気的に接続されており、上層インダクタTLには、約800V程度の基準電位である第2電位が印加される。具体的に、関連技術における半導体装置は、上層インダクタTLに第2電位を印加する回路(第2回路)を有する半導体チップCHP2を含んでいる。半導体チップCHP1に設けられた上層インダクタTLは、導電性部材の一例であるボンディングワイヤWを介して、半導体チップCHP2に設けられた回路と電気的に接続されている。これにより、上層インダクタTLには、半導体チップCHP2に設けられた回路から出力された第2電位が印加される。
【0062】
また、半導体チップCHP1には、下層インダクタBLが設けられているとともに、下層インダクタBLに約0V程度の基準電位である第1電位を印加する回路(第1回路)も有している。これにより、下層インダクタBLには、半導体チップCHP1に設けられた回路から出力された第1電位が印加される。この結果、上層インダクタTLには、第2電位が印加される一方、下層インダクタBLには、第1電位が印加される。
【0063】
ここで、上層インダクタTLは、半導体チップCHP1の厚さ方向において、第2電位とは異なる第1電位が印加される下層インダクタBLと磁気結合可能に設けられている。具体的に、上層インダクタTLが多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられている一方、下層インダクタBLが多層配線層MWL1に設けられている。これにより、上層インダクタTLと下層インダクタBLは、互いに磁気結合可能に構成される。
【0064】
図5は、関連技術における半導体チップCHP1を示す平面図である。
【0065】
図5において、半導体チップCHP1の平面形状は、矩形形状をしており、半導体チップCHP1の周縁部にシールリングSRが設けられている。このシールリングSRには、第1電位が印加される。そして、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、上層インダクタTLが設けられている。ここで、上層インダクタTLは、例えば、一対の差動配線に対応して、センタータップパッド1aと、渦巻配線1bと、トランスパッド1cと、渦巻配線1dと、トランスパッド1eを備えるように構成されている。また、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、複数のパッドPDおよび複数の配線WLが設けられている。これらの複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、例えば、
図4において、多層配線層MWL1の最上層と接するように配置されている。
【0066】
したがって、
図5に示す上層インダクタTLと複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられている。言い換えれば、
図5に示す上層インダクタTLと複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、同層に配置されている。そして、半導体チップCHP1には、
図5に示す上層インダクタTLの配線(渦巻配線1bおよび渦巻配線1d)と複数の配線WLを覆うように、有機絶縁膜20aが形成されている一方、上層インダクタTLのパッド(センタータップパッド1a、トランスパッド1cおよびトランスパッド1e)と複数のパッドPDが有機絶縁膜20aから露出している。このとき、有機絶縁膜20aは、例えば、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0067】
複数のパッドPDには、上層インダクタTLの下方に配置されている下層インダクタBL(
図4参照)と電気的に接続されたパッドが含まれる。すなわち、上層インダクタTLと対になる下層インダクタBLが、上層インダクタTLの下方に配置されており、この下層インダクタBLから配線を介して引き出されたパッドが上層インダクタTLと同層に形成されている。また、複数のパッドPDには、
図4に示す多層配線層MWL1に配置されている多層配線と電気的に接続されたパッドも含まれており、複数の配線WLには、下層インダクタBLと電気的に接続された配線やトランジスタQ2と電気的に接続された配線が含まれている。
【0068】
ここで、例えば、上層インダクタTLには、第2電位が印加される。これに対し、下層インダクタBLと接続されたパッドPDや配線WLには、第1電位が印加される。つまり、上層インダクタTLと対になる下層インダクタBLには、上層インダクタTLに印加される基準電位(第2電位)とは異なる基準電位(第1電位)が印加される。以上のようにして、関連技術における2チップ構成の半導体装置の構成要素である半導体チップCHP1が構成されている。
【0069】
<改善の余地>
続いて、関連技術に存在する改善の余地について説明する。
【0070】
上述したように、上層インダクタTLには、第2電位が印加される一方、シールリングSRや下層インダクタBLと電気的に接続されたパッド(複数のパッドPDの一部)や複数の配線WLの一部には、第1電位が印加される。つまり、
図5に示すように、多層配線層上において、異電位の構成要素が同層で配置されている。この結果、例えば、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたシールリングSRとの間、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたパッド(複数のパッドPDの一部)との間あるいは第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加された配線(複数の配線WLの一部)との間で「沿面放電」と呼ばれる放電現象が発生するおそれがある。このことから、関連技術では、「沿面放電」に起因する絶縁耐圧の低下が問題点として顕在化する。
【0071】
ここで、「沿面放電」とは、絶縁物の表面に配置された一対の電極間に高電圧を印加したとき、絶縁物の表面に沿って電極間を電流が流れる放電現象として定義される。
【0072】
このように、関連技術においては、多層配線層上に互いに異電位の構成要素が配置されていることから、「沿面放電」が生じやすく、「沿面放電」に起因する絶縁耐圧の低下が問題点として顕在化する。すなわち、関連技術には、「沿面放電」を抑制して絶縁耐圧を向上する観点から、改善の余地が存在する。
【0073】
この点に関し、本発明者は、「沿面放電」について鋭意検討した結果、「沿面放電」に関する新たな知見を見出し、この見出した新たな知見に基づいて、関連技術に存在する改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、本発明者が見出した「沿面放電」に関する新たな知見について説明した後、新たな知見に基づいてなされた工夫点である本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0074】
<「沿面放電」に関する新たな知見>
「沿面放電」を抑制することは、磁気結合した一対のインダクタを利用して、異なる電位間での信号伝送を可能とする半導体装置の信頼性を向上するために重要な事項であり、「沿面放電」の解析と「沿面放電」を抑制するための対策が必要とされる。
【0075】
この点に関し、本発明者は、「沿面放電」が生じる箇所について解析した結果、例えば、
図4の太い矢印で示すように、「沿面放電」に起因する放電電流は、無機絶縁膜10aと有機絶縁膜20aとの界面に沿って流れることを新規に見出した。
【0076】
したがって、「沿面放電」を抑制するための手がかりは、無機絶縁膜10aおよび有機絶縁膜20aに存在すると考えられる。そこで、本発明者は、まず、有機絶縁膜20aに着目した。特に、有機絶縁膜20aは、ポリイミド樹脂膜から構成されていることから、ポリイミド樹脂膜に着目して、ポリイミド樹脂膜による「沿面放電」への影響を確かめる検証を行った。具体的に、本発明者は、ポリイミド樹脂膜の耐湿性が「沿面放電」に影響を与えていると推測し、このことを裏付けるための検証結果を実施した。
【0077】
例えば、半導体装置に対して、高温高湿試験(HAST)を行った結果、高温高湿試験における時間の経過とともに、半導体装置の耐圧が低下することが確認された。すなわち、高温高湿試験における時間が経過するとともに、ポリイミド樹脂膜の湿度が増加する結果、半導体装置の耐圧が低下すると推測される。特に、高温高湿試験を実施した後、ポリイミド樹脂膜に対してベーク処理(加熱処理)を施すと、半導体装置の耐圧が回復することからも、半導体装置の耐圧がポリイミド樹脂膜の湿度に関係することが明らかとなった。すなわち、ポリイミド樹脂膜の湿度が高くなると、「沿面放電」が生じやすくなる。これは、ポリイミド樹脂膜の湿度が高くなると、見かけ上、ポリイミド樹脂膜の誘電率が高くなる結果、ポリイミド樹脂膜の内部における電束密度(D)が大きくなって、耐圧が低下することにより、「沿面放電」が生じやすくなると考えられる。つまり、電束密度(D)と電界(E)との間には、D=εEの関係があり、誘電率(ε)が大きいほど、ポリイミド樹脂膜中の電界を示す電束密度(D)が大きくなる(誘電効果)。この結果、ポリイミド樹脂膜の湿度が高くなると、誘電効果が大きくなり、「沿面放電」が生じやすくなると考えることができる。さらには、パッドに近接して高い誘電率を有する膜が配置されると、この膜においても上述した誘電効果が生じる結果、耐圧の低下を助長すると考えられる。
【0078】
具体的には、パッドに近接して無機絶縁膜10aが配置されているが、この無機絶縁膜10aは、誘電率の大きな窒化シリコン膜から構成されている。この点に関し、上述したように、電束密度(D)と電界(E)との間には、D=εEの関係があり、誘電率(ε)が大きいほど、窒化シリコン膜中の電界を示す電束密度(D)が大きくなる(誘電効果)。この結果、無機絶縁膜10aを高い誘電率を有する窒化シリコン膜から構成すると、誘電効果が大きくなり、「沿面放電」が生じやすくなると考えることができる。
【0079】
以上のことから、本発明者は、以下に示す新規な知見を獲得している。すなわち、本発明者が見出した新規な知見とは、(1)高い湿度を有する膜ほど「沿面放電」が起こりやすく、(2)高い誘電率を有する絶縁膜ほど「沿面放電」が起こりやすいというものである。
【0080】
そこで、本発明者が新規に見出した上述した知見に基づいて、本発明者は、関連技術に存在する改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0081】
<実施の形態1>
<<実施の形態1における基本思想>>
本実施の形態1における基本思想は、高い湿度を有する膜ほど「沿面放電」が起こりやすいという上述した第1知見に基づく思想である。具体的に、本実施の形態1における基本思想は、高い吸湿性を有する絶縁膜からなる有機絶縁膜において、「沿面放電」の放電電流が流れる放電経路に存在する有機絶縁膜に開口部を設ける思想である。さらに詳細にいうと、本実施の形態1における基本思想は、第1電位が印加されるように構成された第1配線と、第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成されたインダクタとの間に位置する無機絶縁膜を覆うように配置された有機絶縁膜において、有機絶縁膜には、無機絶縁膜の上面の一部を露出する開口部が設けられているという思想である。
【0082】
この基本思想によれば、第1電位が印加されるように構成された第1配線と、第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成されたインダクタとの間に高い吸湿性を有する有機絶縁膜が除去された領域が存在する。この結果、高い吸湿性を有する有機絶縁膜が除去された領域では、誘電率が低くなることから、この除去領域では、第1配線とインダクタとの間において「沿面放電」が生じにくい。これにより、基本思想によれば、「沿面放電」の発生を抑制することができることから、半導体装置の絶縁耐圧を向上できる。
【0083】
<<実施の形態1における具現化態様>>
次に、上述した基本思想を具現化した具現化態様について説明する。
【0084】
<<<半導体装置の構成>>>
図6は、具現化態様における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【0085】
図6において、半導体装置は、半導体チップCHP1と半導体チップCHP2を有している。すなわち、
図6に示す具現化態様における半導体装置は、2チップ構成をしている。半導体チップCHP1は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP1上に導電性接着材PST1を介して搭載されている。一方、半導体チップCHP2は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP2上に導電性接着材PST2を介して搭載されている。
【0086】
ここで、ダイパッドDP1およびダイパッドDP2のそれぞれは、例えば、銅材から構成されている。また、導電性接着材PST1および導電性接着材PST2のそれぞれは、例えば、銀ペーストや半田から構成されている。
【0087】
半導体チップCHP1には、
図3に示す送信回路TX1や受信回路RX2やトランスフォーマTR1が形成されている。この半導体チップCHP1は、
図6に示すように、半導体基板SUB1と、半導体基板SUB1上に形成された多層配線層MWL1を有している。
【0088】
半導体基板SUB1には、複数のトランジスタQ1が形成されており、複数のトランジスタQ1が形成された半導体基板SUB1の上方に多層配線層MWL1が形成されている。多層配線層MWL1では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL1のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ1と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ1と配線によって、送信回路TX1や受信回路RX2が構成されている。
【0089】
そして、多層配線層MWL1には、配線だけでなく、トランスフォーマTR1の構成要素である下層インダクタBL(コイルCL1a)も形成されている。下層インダクタBLは、例えば、渦巻き状の配線からなる。
【0090】
続いて、
図6に示すように、半導体チップCHP1においては、多層配線層MWL1の最上層と接するように配線(第1配線)および絶縁膜IF1が形成されている。さらに、多層配線層MWL1の最上層と接するようにトランスフォーマTR1の構成要素である上層インダクタTL(コイルCL1b)が設けられている。すなわち、多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられた配線(第1配線)と上層インダクタTLとは、同層に配置されている。そして、多層配線層MWL1の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線(第1配線)上、上層インダクタTL上および絶縁膜IF1上には、無機絶縁膜10aが形成されており、この無機絶縁膜10a上に有機絶縁膜20aが形成されている。具体的に、有機絶縁膜20aは、平面視において配線(第1配線)と上層インダクタTLとの間に位置する無機絶縁膜10aを覆うように配置されている。この有機絶縁膜20aは、無機絶縁膜10aに接して形成されている。
【0091】
ここで、無機絶縁膜10aは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20aは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0092】
このとき、有機絶縁膜20aおよび無機絶縁膜10aには、上層インダクタTLの構成要素であるパッドの表面を露出するために、有機絶縁膜20aおよび無機絶縁膜10aを貫通するようにパッド開口部30aが設けられている。また、具現化態様では、
図6に示すように、配線(第1配線)と上層インダクタTLとの間において、有機絶縁膜20aには、無機絶縁膜10aの上面の一部を露出する開口部OPが設けられている。
【0093】
すなわち、具現化態様では、ボンディングワイヤWと接続可能なパッドを露出するために有機絶縁膜20aおよび無機絶縁膜10bを貫通するように設けられたパッド開口部30aだけでなく、無機絶縁膜10aの上面の一部を露出する開口部OPが設けられている。この開口部OPは、パッド開口部30aとは異なる構成をしている。すなわち、開口部OPから露出する無機絶縁膜10aには、パッド開口部30aとは異なり、無機絶縁膜10aを貫通する貫通孔が設けられていない。
【0094】
このように構成されている開口部OPにおいて、例えば、開口部OPから露出する面全体は、無機絶縁膜10aから構成されていることが望ましい。すなわち、開口部OPから露出する領域には、必ず無機絶縁膜10aが露出していることが望ましい。
【0095】
次に、半導体チップCHP2には、
図3に示す駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が形成されている。この半導体チップCHP2は、
図6に示すように、半導体基板SUB2と、半導体基板SUB2上に形成された多層配線層MWL2を有している。
【0096】
半導体基板SUB2には、複数のトランジスタQ2が形成されており、複数のトランジスタQ2が形成された半導体基板SUB2の上方に多層配線層MWL2が形成されている。多層配線層MWL2では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL2のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ2と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ2と配線によって、駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が構成されている。
【0097】
そして、多層配線層MWL2の最上層と接するようにパッドを含む配線および絶縁膜IF2が形成されている。さらに、多層配線層MWL2の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上および絶縁膜IF2上には、無機絶縁膜10bが形成されており、この無機絶縁膜10b上に有機絶縁膜20bが形成されている。この有機絶縁膜20bは、無機絶縁膜10bに接して形成されている。
【0098】
ここで、無機絶縁膜10bは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20bは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。このとき、有機絶縁膜20bおよび無機絶縁膜10bには、パッドの表面を露出するために、有機絶縁膜20bおよび無機絶縁膜10bを貫通するようにパッド開口部30bが設けられている。
【0099】
続いて、
図6に示すように、半導体チップCHP1に設けられている上層インダクタTLは、例えば、ボンディングワイヤWを介して、半導体チップCHP2の多層配線層MWL2の最上層と接するように配置されている配線(パッド)と電気的に接続されている。具体的には、
図6に示すように、パッド開口部30aから露出する上層インダクタTLの構成要素であるパッドと、パッド開口部30bから露出するパッドとがボンディングワイヤWを介して接続される。半導体チップCHP1に設けられている上層インダクタTLは、例えば、パッドと、パッドと接続された渦巻き状の配線からなる。すなわち、上層インダクタTLは、ボンディングワイヤWと接続可能なパッド(第1パッド)と、パッド(第1パッド)と接続された配線(第2配線)と、を有している。このとき、多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられた配線(第1配線)の幅は、上層インダクタTLを構成する配線(第2配線)の幅よりも小さいものがある。
【0100】
図6に示すように、半導体チップCHP1には、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマの構成要素である上層インダクタTLが設けられている。このとき、上層インダクタTLは、半導体チップCHP2に設けられている多層配線層MWL2に存在する配線と電気的に接続されており、上層インダクタTLには、約800V程度の基準電位である第2電位が印加される。具体的に、具現化態様における半導体装置は、上層インダクタTLに第2電位を印加する回路(第2回路)を有する半導体チップCHP2を含んでいる。半導体チップCHP1に設けられた上層インダクタTLは、導電性部材の一例であるボンディングワイヤWを介して、半導体チップCHP2に設けられた回路と電気的に接続されている。これにより、上層インダクタTLには、半導体チップCHP2に設けられた回路から出力された第2電位が印加される。
【0101】
また、半導体チップCHP1には、下層インダクタBLが設けられているとともに、下層インダクタBLに約0V程度の基準電位である第1電位を印加する回路(第1回路)も有している。これにより、下層インダクタBLには、半導体チップCHP1に設けられた回路から出力された第1電位が印加される。この結果、上層インダクタTLには、第2電位が印加される一方、下層インダクタBLには、第1電位が印加される。また、半導体チップCHP1には、多層配線層MWL1の最上層と接するように複数の配線(第1配線)が設けられており、複数の配線(第1配線)には、第1電位が印加されるように構成された配線も含まれている。
【0102】
ここで、上層インダクタTLは、半導体チップCHP1の厚さ方向において、第2電位とは異なる第1電位が印加される下層インダクタBLと磁気結合可能に設けられている。具体的に、上層インダクタTLが多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられている一方、下層インダクタBLが多層配線層MWL1に設けられている。これにより、上層インダクタTLと下層インダクタBLは、互いに磁気結合可能に構成される。
【0103】
このように構成されている半導体チップCHP1および半導体チップCHP2は、例えば、エポキシ樹脂から構成されるモールド樹脂MRで覆われている。
【0104】
以上のようにして、具現化態様における2チップ構成の半導体装置が構成されている。つまり、具現化態様における2チップ構成の半導体装置は、第1電位が印加されるように構成された第1配線と、第1配線と電気的に接続された回路と、上層インダクタTLと、有機絶縁膜20aを含む半導体チップCHP1と、上層インダクタTLに第2電位を供給するように構成された回路を含む半導体チップCHP2とを有するように構成される。
【0105】
<<<具現化態様における特徴>>>
続いて、具現化態様における特徴点について説明する。
【0106】
具現化態様における特徴点は、例えば、
図6に示すように、多層配線層MWL1の最上層と接するように配置された配線(第1配線)および多層配線層MWL1の最上層と接するように配置された上層インダクタTLの間において、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aには、無機絶縁膜10aの上面の一部を露出する開口部OPが設けられている点にある。言い換えれば、具現化態様における特徴点は、第1電位が印加されるように構成されている配線(第1配線)と、第2電位が印加されるように構成されている上層インダクタTLとの間に位置する無機絶縁膜10aを覆うように配置されたポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aに開口部OPが設けられている点にある。
【0107】
これにより、異電位が印加される配線(第1配線)と上層インダクタTLとの間で生じる「沿面放電」を抑制することができる。なぜなら、配線(第1配線)と上層インダクタTLとの間に設けられているポリイミド樹脂膜に開口部OPが形成されている結果、「沿面放電」の放電経路に高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜が除去されている領域(開口部OP)が存在するからである。つまり、高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜が除去されている領域(開口部OP)が「沿面放電」の放電経路に存在する結果、開口部OPによって「沿面放電」が遮断される。このことから、具現化態様によれば、「沿面放電」の発生を抑制することができることから、半導体装置の絶縁耐圧を向上することができる。
【0108】
具体的に、開口部OPでは、ポリイミド樹脂膜が除去されて、エポキシ樹脂からなるモールド樹脂MRが埋め込まれる。ここで、ポリイミド樹脂の誘電率(比誘電率)は、「4.8」で、その吸湿性が「1.2%」であるのに対し、エポキシ樹脂の誘電率(比誘電率)は「3.5」で、その吸湿性が「0.45%」である。したがって、具現化態様によれば、ポリイミド樹脂膜よりも小さい誘電率(比誘電率)および小さい吸湿性を有するエポキシ樹脂が埋め込まれた開口部OPが「沿面放電」の放電経路に存在する。このため、膜の誘電率(比誘電率)および吸湿性が小さいほど「沿面放電」が生じにくいことを考慮すると、上述した特徴点を有する具現化態様によれば、「沿面放電」を抑制できることがわかる。
【0109】
この点に関し、高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜が存在することによって、「沿面放電」が助長されるのであれば、ポリイミド樹脂膜全体を除去することも考えられる。
【0110】
しかしながら、2チップ構成の半導体装置では、ポリイミド樹脂膜全体を除去することはできない。以下に、この理由について説明する。
【0111】
例えば、
図6において、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aは、有機絶縁膜20aを覆うように形成されているモールド樹脂MRに起因する「フィラーアタック」を抑制するために設けられている。すなわち、モールド樹脂MRでは、熱伝導率を向上させるために、エポキシ樹脂にフィラーが添加されている。このフィラーは、通常、尖った破砕フィラーが使用される。このことから、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aが存在しないと、尖った破砕フィラーが無機絶縁膜10aを突き破って配線を傷つける現象が生じる。この現象が「フィラーアタック」と呼ばれる。つまり、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aは、モールド樹脂MRに含まれる破砕フィラーに起因する「フィラーアタック」を抑制する役割を有している。特に、「フィラーアタック」は、微細配線で顕在化する。この点に関し、
図6に示す半導体チップCHP1には、上層インダクタTLおよび下層インダクタBLだけでなく、トランジスタQ1および多層配線が形成されている。このとき、トランジスタQ1と接続される多層配線は微細配線であるため、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20a全体を除去してしまうと、「フィラーアタック」の影響を大きく受けることになる。すなわち、
図6に示すような2チップ構成の半導体装置では、上層インダクタTLとともに微細配線も配置されているため、微細配線に対する「フィラーアタック」を抑制する観点から、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20a全体を除去することはできない。
【0112】
そこで、具現化態様では、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aを残存させながら、高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜に起因する「沿面放電」を抑制するため、放電経路となる第1配線と上層インダクタTLとの間において、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aに、無機絶縁膜10aの上面の一部を露出する開口部OPを設ける構成を採用している。これにより、具現化態様によれば、ポリイミド樹脂膜によって微細配線での「フィラーアタック」を抑制しながら、ポリイミド樹脂膜に設けられた開口部OPによって「沿面放電」の発生を抑制できるという顕著な効果を得ることができる。
【0113】
<<<実施の形態1における変形例1>>>
図7は、本変形例1における半導体チップCHP1を示す平面図である。
【0114】
図7において、半導体チップCHP1の平面形状は、矩形形状をしており、半導体チップCHP1の周縁部にシールリングSRが設けられている。このシールリングSRには、第1電位(約0V)が印加される。そして、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、上層インダクタTLが設けられている。ここで、上層インダクタTLは、例えば、一対の差動配線に対応して、センタータップパッド1aと、渦巻配線1bと、トランスパッド1cと、渦巻配線1dと、トランスパッド1eを備えるように構成されている。また、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、複数のパッドPDおよび複数の配線WLが設けられている。これらの複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、例えば、
図6において、多層配線層MWL1の最上層と接するように配置されている。
【0115】
したがって、
図7に示す上層インダクタTLと複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、多層配線層MWL1の最上層と接するように設けられている。言い換えれば、
図7に示す上層インダクタTLと複数のパッドPDおよび複数の配線WLは、同層に配置されている。そして、半導体チップCHP1には、
図7に示す上層インダクタTLの配線(渦巻配線1bおよび渦巻配線1d)と複数の配線WLを覆うように、有機絶縁膜20aが形成されている一方、上層インダクタTLのパッド(センタータップパッド1a、トランスパッド1cおよびトランスパッド1e)と複数のパッドPDが有機絶縁膜20aから露出している。このとき、有機絶縁膜20aは、例えば、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0116】
複数のパッドPDには、上層インダクタTLの下方に配置されている下層インダクタBL(
図6参照)と電気的に接続されたパッドが含まれる。すなわち、上層インダクタTLと対になる下層インダクタBLが、上層インダクタTLの下方に配置されており、この下層インダクタBLから配線を介して引き出されたパッドが上層インダクタTLと同層に形成されている。また、複数のパッドPDには、
図6に示す多層配線層MWL1に配置されている多層配線と電気的に接続されたパッドも含まれており、複数の配線WLには、下層インダクタBLと電気的に接続された配線やトランジスタQ2と電気的に接続された配線が含まれている。ここで、上層インダクタTLには、第2電位(約800V)が印加される。これに対し、下層インダクタBLと接続されたパッドPDや配線WLには、第1電位(約0V)が印加される。したがって、第2電位が印加される上層インダクタTLと、第1電位が印加されるパッドPDや配線WLとの間に「沿面放電」が発生する可能性がある。この点に関し、本変形例1では、
図7に示すように、上層インダクタTLを平面的に囲むように開口部OPが設けられている。これにより、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたシールリングSRとの間、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたパッド(複数のパッドPDの一部)との間あるいは第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加された配線(複数の配線WLの一部)との間での「沿面放電」を効果的に抑制することができる。
【0117】
<<<実施の形態1における変形例2>>>
前記変形例1では、上層インダクタTLを平面的に囲むように開口部OPが設けられている例について説明したが、開口部OPは、上層インダクタTLを完全に囲むように形成されていなくてもよい。具体的には、
図8に示すように開口部を形成してもよい。
【0118】
図8は、本変形例2における半導体チップCHP1を示す平面図である。
【0119】
図8において、開口部は、Y方向(第1方向)に延在する第1開口部OP1と、Y方向と交差するX方向(第2方向)に延在する第2開口部OP2と、第1開口部OP1と対向してY方向に延在する第3開口部OP3と、第2開口部OP2と対向してX方向に延在する第4開口部OP4から構成されている。ここで、平面視において第1開口部OP1と第3開口部OP3との間に上層インダクタTLが配置され、かつ、平面視において第2開口部OP2と第4開口部OP4との間に上層インダクタTLが配置されている。そして、平面視において第1開口部OP1と第2開口部OP2とは、離れており、平面視において第1開口部OP1と第4開口部OP4とは、離れており、平面視において第3開口部OP3と第2開口部OP2とは、離れており、平面視において第3開口部OP3と第4開口部OP4とは、離れている。このように構成されている開口部(第1開口部OP1、第2開口部OP2、第3開口部OP3および第4開口部OP4)によっても、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたシールリングSRとの間、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたパッド(複数のパッドPDの一部)との間あるいは第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加された配線(複数の配線WLの一部)との間での「沿面放電」を効果的に抑制することができる。
【0120】
<<<実施の形態1における変形例3>>>
図9は、本変形例3における半導体チップCHP1を示す平面図である。
【0121】
図9において、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aには、開口部OPが設けられており、開口部OPは、上層インダクタTLを内包するように構成されている。言い換えれば、開口部OPは、上層インダクタTLを露出するように形成されている。
【0122】
これにより、本変形例3によれば、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたシールリングSRとの間、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたパッド(複数のパッドPDの一部)との間あるいは第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加された配線(複数の配線WLの一部)との間での「沿面放電」を効果的に抑制することができる。
【0123】
ここで、上層インダクタTLが開口部OPに内包されているということは、上層インダクタTLを覆うポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aが存在しないことを意味する。そして、上層インダクタTLは、渦巻配線1bおよび渦巻配線1dを有している一方、上層インダクタTLを覆う有機絶縁膜20aが存在しないことから、モールド樹脂に含まれている破砕フィラーによる「フィラーアタック」によって、上層インダクタTLを構成する渦巻配線1bおよび渦巻配線1dが損傷を受けることが懸念される。
【0124】
この点に関し、「フィラーアタック」による悪影響を受けやすい配線は、微細配線である。これに対し、上層インダクタTLを構成する渦巻配線1bおよび渦巻配線1dは、寄生抵抗を低減するため幅広配線から構成されている。つまり、上層インダクタTLを構成する渦巻配線1bおよび渦巻配線1dの幅は、微細配線である第1配線の幅よりも大きい。
【0125】
このような幅広配線では、「フィラーアタック」の影響を受けにくい。したがって、本変形例3のように、開口部OPが上層インダクタTLを内包するように形成されていても、モールド樹脂に含まれている破砕フィラーによる「フィラーアタック」による悪影響は少ない。さらには、例えば、モールド樹脂に含まれるフィラーとして、尖っている粉砕フィラーではなく、尖っていない球状フィラーを使用することにより、「フィラーアタック」を抑制することができる。以上のようにして、本変形例3においても、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたシールリングSRとの間、第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加されたパッド(複数のパッドPDの一部)との間あるいは第2電位が印加された上層インダクタTLと第1電位が印加された配線(複数の配線WLの一部)との間での「沿面放電」を効果的に抑制することができる。
【0126】
<<<実施の形態1における変形例4>>>
図10は、本変形例4における半導体チップCHP1を示す平面図である。
【0127】
図10において、ポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aには、開口部OPが設けられている。この開口部OPは、上層インダクタTLを内包するとともに、シールリングSR(第1配線)の一部も内包するように形成されている。言い換えれば、開口部OPは、上層インダクタTLとシールリングSR(第1配線)の一部を露出してY方向におけるチップ端にまで達するように形成されている。これにより、本変形例4によれば、Y方向において、上層インダクタTLとシールリングSRとの間にポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aが存在しないことから、Y方向における上層インダクタTLとシールリングSRとの間での「沿面放電」を効果的に抑制することができる。
【0128】
<実施の形態2>
<<3チップ構成>>
上述した実施の形態1における半導体装置では、2チップ構成が採用されている。ただし、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP1の製造プロセスが複雑化する。または、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP2の製造プロセスが複雑化する。この結果、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の製造コストが上昇することがある。
【0129】
そこで、上述した半導体装置を2チップ構成ではなく、3チップ構成で実現することが検討されている。以下では、新規な3チップ構成について説明する。
【0130】
【0131】
図11において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1と受信回路RX2とが形成されている。また、半導体チップCHP2には、駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とが形成されている。一方、半導体チップCHP3には、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とが形成されている。
【0132】
これにより、3チップ構成では、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2だけが形成された半導体チップCHP3を有している。すなわち、3チップ構成では、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の構成に関わらず、半導体チップCHP3を使用することができる。このことから、3チップ構成によれば、使用可能な半導体チップCHP1および半導体チップCHP2のバリエーションを増加させることができる利点が得られる。言い換えれば、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3の汎用性を高めることができる。さらに、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3は、トランジスタを含んでいないため、配線工程だけで形成することができる結果、製造プロセスの簡素化を図ることができる。したがって、3チップ構成によれば、製造コストの削減が可能である。
【0133】
なお、以下では、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3を「トランスチップ」と呼ぶことがある。
【0134】
<<実施の形態2における基本思想>>
本実施の形態2における基本思想は、高い湿度を有する膜ほど「沿面放電」が起こりやすいという上述した第1知見に基づく思想である。すなわち、高い吸湿性を有する膜が形成されていると、「沿面放電」が生じやすいということを考慮して、本実施の形態2における基本思想では、「トランスチップ」において、高い吸湿性を有する絶縁膜からなる有機絶縁膜を形成しない思想である。言い換えれば、本実施の形態2における基本思想は、無機絶縁膜上に高い吸湿性を有する絶縁膜からなる有機絶縁膜を形成せずに、無機絶縁膜の上面がモールド樹脂と直接接触するように「トランスチップ」を含む半導体装置を構成する思想である。
【0135】
具体的に、「トランスチップ」は、半導体基板と、半導体基板上に形成された多層配線層と、多層配線層内に形成され、かつ第1電位が印加されるように構成された下層インダクタと、多層配線層上に形成され、第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成され、かつ前記下層インダクタと磁気結合可能に構成された上層インダクタと、上層インダクタ上に形成された無機絶縁膜と、を備える。そして、「トランスチップ」は、無機絶縁膜を覆うようにモールド樹脂で封止されることを前提とする。このとき、本実施の形態2における基本思想は、無機絶縁膜の上面をモールド樹脂と直接接触させる思想である。
【0136】
この基本思想によれば、「沿面放電」が生じやすい高い吸湿性を有する膜からなる有機絶縁膜が「トランスチップ」に形成されていないことから、「沿面放電」の発生を抑制することができる。したがって、この基本思想によれば、半導体装置の絶縁耐圧を向上できる。
【0137】
<<実施の形態2における具現化態様>>
次に、上述した基本思想を具現化した具現化態様について説明する。
【0138】
<<<半導体装置の構成>>>
図12は、具現化態様における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【0139】
図12において、半導体装置は、半導体チップCHP1と半導体チップCHP2と半導体チップCHP3を有している。すなわち、
図12に示す具現化態様における半導体装置は、3チップ構成をしている。
【0140】
半導体チップCHP1は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP1上に導電性接着材PST1を介して搭載されている。一方、半導体チップCHP2は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP2上に導電性接着材PST2を介して搭載されている。また、半導体チップCHP3は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP3上に導電性接着材PST3を介して搭載されている。
【0141】
ここで、ダイパッドDP1、ダイパッドDP2およびダイパッドDP3は、例えば、銅材から構成されている。また、導電性接着材PST1、導電性接着材PST2および導電性接着材PST3は、例えば、銀ペーストや半田から構成されている。
【0142】
半導体チップCHP1には、
図11に示す送信回路TX1や受信回路RX2が形成されている。この半導体チップCHP1は、
図12に示すように、半導体基板SUB1と、半導体基板SUB1上に形成された多層配線層MWL1を有している。
【0143】
半導体基板SUB1には、複数のトランジスタQ1が形成されており、複数のトランジスタQ1が形成された半導体基板SUB1の上方に多層配線層MWL1が形成されている。多層配線層MWL1では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL1のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ1と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ1と配線によって、送信回路TX1や受信回路RX2が構成されている。
【0144】
続いて、
図12に示すように、半導体チップCHP1においては、多層配線層MWL1の最上層と接するように配線および絶縁膜IF1が形成されている。そして、多層配線層MWL1の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上および絶縁膜IF1上には、無機絶縁膜10aが形成されており、この無機絶縁膜10a上に有機絶縁膜20aが形成されている。ここで、無機絶縁膜10aは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20aは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0145】
次に、半導体チップCHP2には、
図11に示す送信回路TX2や受信回路RX1や駆動回路DRが形成されている。この半導体チップCHP2は、
図12に示すように、半導体基板SUB2と、半導体基板SUB2上に形成された多層配線層MWL2を有している。
【0146】
半導体基板SUB2には、複数のトランジスタQ2が形成されており、複数のトランジスタQ2が形成された半導体基板SUB2の上方に多層配線層MWL2が形成されている。多層配線層MWL2では、複数の層間絶縁膜と複数の配線が積層されている。そして、多層配線層MWL2のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ2と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ2と配線によって、送信回路TX2や受信回路RX1や駆動回路DRが構成されている。
【0147】
続いて、
図12に示すように、半導体チップCHP2においては、多層配線層MWL2の最上層と接するように配線および絶縁膜IF2が形成されている。そして、多層配線層MWL2の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上および絶縁膜IF2上には、無機絶縁膜10bが形成されており、この無機絶縁膜10b上に有機絶縁膜20bが形成されている。ここで、無機絶縁膜10bは、窒化シリコン膜から構成されている。一方、有機絶縁膜20bは、ポリイミド樹脂膜から構成されている。
【0148】
次に、半導体チップCHP3(「トランスチップ」)には、
図11に示すトランスフォーマTR1やトランスフォーマTR2が形成されている。この半導体チップCHP3は、
図12に示すように、半導体基板SUB3と、半導体基板SUB3上に形成された多層配線層MWL3を有している。多層配線層MWL3には、配線だけでなく、トランスフォーマTR1の構成要素である下層インダクタBL(コイルCL1a)が形成されている。下層インダクタBLは、例えば、渦巻き状の配線からなる。
【0149】
そして、
図12に示すように、半導体チップCHP3においては、多層配線層MWL3の最上層と接するように配線および絶縁膜IF3が形成されている。さらに、多層配線層MWL3の最上層と接するようにトランスフォーマTR1の構成要素である上層インダクタTL(コイルCL1b)が設けられている。
【0150】
さらに、多層配線層MWL3の最上層と接するように形成されているパッドを含む配線上、上層インダクタTL上および絶縁膜IF3上には、無機絶縁膜10cが形成されている。ただし、
図12に示すように、具現化態様では、この無機絶縁膜10c上には有機絶縁膜は形成されておらず、無機絶縁膜10cの上面全面は、モールド樹脂MRと直接接触している。ここで、無機絶縁膜10cは、窒化シリコン膜から構成されている。
【0151】
図12に示すように、半導体チップCHP3には、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマの構成要素である上層インダクタTLと下層インダクタBLとが設けられている。このとき、上層インダクタTLは、半導体チップCHP2に設けられている多層配線層MWL2に存在する配線と電気的に接続されており、上層インダクタTLには、約800V程度の基準電位である第2電位が印加される。具体的に、具現化態様における半導体装置は、上層インダクタTLに第2電位を印加する回路(第2回路)を有する半導体チップCHP2を含んでいる。半導体チップCHP3に設けられた上層インダクタTLは、導電性部材の一例であるボンディングワイヤW2を介して、半導体チップCHP2に設けられた回路と電気的に接続されている。これにより、上層インダクタTLには、半導体チップCHP2に設けられた回路から出力された第2電位が印加される。
【0152】
また、下層インダクタBLは、半導体チップCHP1に設けられている多層配線層MWL1に存在する配線と電気的に接続されており、下層インダクタBLには、約0V程度の基準電位である第1電位が印加される。具体的に、具現化態様における半導体装置は、下層インダクタBLに第1電位を印加する回路(第1回路)を有する半導体チップCHP1を含んでいる。半導体チップCHP3に設けられた下層インダクタBLは、導電性部材の一例であるボンディングワイヤW1を介して、半導体チップCHP1に設けられた回路と電気的に接続されている。これにより、下層インダクタBLには、半導体チップCHP1に設けられた回路から出力された第1電位が印加される。
【0153】
ここで、上層インダクタTLは、半導体チップCHP3の厚さ方向において、第2電位とは異なる第1電位が印加される下層インダクタBLと磁気結合可能に設けられている。具体的に、上層インダクタTLが多層配線層MWL3の最上層と接するように設けられている一方、下層インダクタBLが多層配線層MWL3に設けられている。これにより、上層インダクタTLと下層インダクタBLは、互いに磁気結合可能に構成される。
【0154】
以上のように構成されている半導体チップCHP1、半導体チップCHP2および半導体チップCHP3は、
図12に示すように、例えば、エポキシ樹脂から構成されるモールド樹脂MRで封止される。言い換えれば、半導体チップCHP1、半導体チップCHP2および半導体チップCHP3は、モールド樹脂MRで覆われる。このようにして、具現化態様における3チップ構成の半導体装置が構成されている。
【0155】
上述したことをまとめると、具現化態様における3チップ構成の半導体装置は、下層インダクタBLに第1電位を供給するように構成された第1回路を含む半導体チップCHP1と、上層インダクタTLに第2電位を供給するように構成された第2回路を含む半導体チップCHP2と、下層インダクタBL、上層インダクタTL含む半導体チップCHP3と、を有する。ここで、半導体チップCHP1は、第1回路の構成要素であるトランジスタQ1と、トランジスタQ1と電気的に接続された多層配線を有する多層配線層MWL1と、多層配線層MWL1を覆うように設けられた窒化シリコン膜からなる無機絶縁膜10aと、無機絶縁膜10aを覆うように設けられたポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20aと、を有する。また、半導体チップCHP2は、第2回路の構成要素であるトランジスタQ2と、トランジスタQ2と電気的に接続された多層配線を有する多層配線層MWL2と、多層配線層MWL2を覆うように設けられた窒化シリコン膜からなる無機絶縁膜10bと、無機絶縁膜10bを覆うように設けられたポリイミド樹脂膜からなる有機絶縁膜20bと、を有する。これに対し、半導体チップCHP3は、多層配線層MWL3に設けられた下層インダクタBLと、多層配線層MWL3の最上層と接するように設けられた上層インダクタTLと、上層インダクタTLを覆うように設けられた窒化シリコン膜からなる無機絶縁膜10cと、を有する。そして、半導体チップCHP1、半導体チップCHP2および半導体チップCHP3は、
図12に示すように、例えば、エポキシ樹脂から構成されるモールド樹脂MRで封止されている。この結果、半導体チップCHP1においては、有機絶縁膜20aとモールド樹脂MRが直接接触し、半導体チップCHP2においては、有機絶縁膜20bとモールド樹脂MRが直接接触している。これに対し、半導体チップCHP3においては、無機絶縁膜10cとモールド樹脂MRが直接接触している。
【0156】
<<<具現化態様における特徴>>>
続いて、具現化態様における特徴点について説明する。
【0157】
本実施の形態2の具現化態様における特徴点は、例えば、
図12に示すように、「トランスチップ」(半導体チップCHP3)において、無機絶縁膜10c上にポリイミド樹脂膜が形成されておらず、無機絶縁膜10cがモールド樹脂MRと直接接触している点にある。
【0158】
これにより、「沿面放電」が生じやすい高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜が「トランスチップ」に形成されていないことから、「沿面放電」の発生を抑制することができる。したがって、この特徴点によれば、半導体装置の絶縁耐圧を向上できる。
【0159】
ここで、上述したように、ポリイミド樹脂膜は、モールド樹脂MRに含まれるフィラーによる「フィラーアタック」を防止する機能を有している。この点に関し、具現化態様における特徴点を採用すると、「トランスチップ」において、ポリイミド樹脂膜が形成されていないことから、モールド樹脂MRからの「フィラーアタック」が懸念されると考えられる。この点に関し、「フィラーアタック」による悪影響を受けやすい配線は、微細配線であるが、「トランスチップ」には、トランスフォーマだけが形成されていることから、微細配線は形成されていない。つまり、上層インダクタTLを構成する渦巻配線は、寄生抵抗を低減するため幅広配線から構成されている。つまり、上層インダクタTLを構成する渦巻配線の幅は、半導体チップCHP1や半導体チップCHP2に形成されている微細配線の幅よりも大きく、このような幅広配線では、「フィラーアタック」の影響を受けにくい。
【0160】
したがって、本実施の形態2の具現化態様のように、ポリイミド樹脂膜が形成されていなくても、モールド樹脂MRに含まれている破砕フィラーによる「フィラーアタック」による悪影響は少ない。さらには、例えば、モールド樹脂に含まれるフィラーとして、尖っている粉砕フィラーではなく、尖っていない球状フィラーを使用することにより、「フィラーアタック」を抑制することができる。このようにして、3チップ構成では、「トランスチップ」に半導体チップCHP1や半導体チップCHP2に形成されているような微細配線が形成されていないことから、ポリイミド樹脂膜が形成されていなくても問題ない。
【0161】
以上のことから、本実施の形態2の具現化態様によれば、「フィラーアタック」を考慮する必要がなく、「トランスチップ」からポリイミド樹脂膜を取り除くことができる。これにより、具現化態様によれば、「沿面放電」が生じやすい高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜が「トランスチップ」に形成されていないことから、「沿面放電」の発生を抑制することができる。この結果、本実施の形態2によれば、半導体装置の絶縁耐圧を向上できる。
【0162】
<<<実施の形態2における変形例1>>>
本変形例1では、高い湿度を有する膜ほど「沿面放電」が起こりやすいという上述した第1知見に基づく思想に加えて、高い誘電率を有する絶縁膜ほど「沿面放電」が起こりやすいという上述した第2知見に基づく思想も具現化した例について説明する。
【0163】
本変形例1では、例えば、
図12において、「トランスチップ」(半導体チップCHP3)に形成されている無機絶縁膜10cを窒化シリコン膜から構成するのではなく、窒化シリコン膜よりも誘電率(比誘電率)の小さい膜から構成する。これにより、本変形例2によれば、上述した第2知見から、「沿面放電」の発生を抑制することができる。
【0164】
具体的に、本変形例2では、例えば、窒化シリコン膜よりも誘電率(比誘電率)の小さい膜として、酸化シリコン膜や酸窒化シリコン膜を使用している。ここで、窒化シリコンの誘電率(比誘電率)は、「7」で、その吸湿性が「ほぼ0%」であるのに対し、酸化シリコンの誘電率(比誘電率)は「4.5」で、その吸湿性が「ほぼ0%」であり、酸窒化シリコンの誘電率(比誘電率)は「5.7」で、その吸湿性が「ほぼ0%」である。
【0165】
したがって、無機絶縁膜10cとして、高い誘電率(比誘電率)を有する窒化シリコン膜ではなく、誘電率(比誘電率)が窒化シリコンよりも小さな酸化シリコン膜や酸窒化シリコン膜を使用することにより、「沿面放電」の発生を抑制することができる。
【0166】
<<<実施の形態2における変形例2>>>
本変形例2では、例えば、
図13において、無機絶縁膜10cが窒化シリコン膜よりも誘電率の小さい膜から構成されているとともに、無機絶縁膜10cとモールド樹脂MRとの間に有機絶縁膜20cが介在している例について説明する。
【0167】
ここで、例えば、無機絶縁膜10cは、酸化シリコン膜や酸窒化シリコン膜から構成することができる。一方、本変形例2では、少なくとも無機絶縁膜10cが窒化シリコン膜よりも誘電率の小さい膜から構成されている結果、無機絶縁膜10cとモールド樹脂MRとの間に有機絶縁膜20cが介在していても、無機絶縁膜10cが窒化シリコン膜から構成されている場合よりも「沿面放電」の発生を抑制することができる。
【0168】
すなわち、例えば、有機絶縁膜20cがポリイミド樹脂膜から構成されていたとしても、無機絶縁膜10cが窒化シリコン膜よりも誘電率の小さい膜から構成されていれば、少なからず、「沿面放電」の発生を抑制することができる。
【0169】
ただし、「沿面放電」の発生を抑制する観点から、無機絶縁膜10cとモールド樹脂MRとの間に介在する有機絶縁膜20cは、ポリイミド樹脂膜よりも吸湿性の低い膜から構成されていることが望ましい。例えば、ポリイミド樹脂膜よりも吸湿性の低い膜としては、フッ化ポリイミド樹脂膜またはベンゾシクロブテン膜を挙げることができる。
【0170】
ここで、ポリイミド樹脂の誘電率(比誘電率)は、「7」で、その吸湿性が「1.2%」であるのに対し、フッ化ポリイミド樹脂の誘電率(比誘電率)は「2.7」で、その吸湿性が「0.3%」であり、ベンゾシクロブテンの誘電率(比誘電率)は「2.7」で、その吸湿性が「0.2%」である。したがって、無機絶縁膜10cとして、高い誘電率(比誘電率)を有する窒化シリコン膜ではなく、誘電率(比誘電率)が窒化シリコンよりも小さな酸化シリコン膜や酸窒化シリコン膜を使用するとともに、有機絶縁膜20cとして、高い吸湿性を有するポリイミド樹脂膜ではなく、吸湿性がポリイミド樹脂膜よりも低いフッ化ポリイミド樹脂膜やベンゾシクロブテン膜を使用することにより、「沿面放電」の発生を抑制することができる。
【0171】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0172】
例えば、前記実施の形態では、インダクタ間の「トランス通信」を例に挙げて説明したが、前記実施の形態における基本思想は、これに限らず、キャパシタの「電極間通信」においても適用可能である。キャパシタの場合、下層インダクタBLに代えて下部電極が多層配線層MWL1内に配置され、上層インダクタTLに代えて上部電極が多層配線層MWL1上に配置される。上部電極と下部電極とは、それぞれ板状の配線からなる。上部電極と下部電極とは、容量結合可能に設けられている。上部電極に印加される電位は、上層インダクタTLに印加される電位と同じである。また、下部電極に印加される電位は、下層インダクタBLに印加される電位と同じである。上部電極と他の部材との関係は、上層インダクタTLと他の部材との関係と同じである。また、下部電極と他の部材との関係は、下層インダクタBLと他の部材との関係と同じである。
【符号の説明】
【0173】
1a センタータップパッド
1b 渦巻配線
1c トランスパッド
1d 渦巻配線
1e トランスパッド
10a 無機絶縁膜
10b 無機絶縁膜
10c 無機絶縁膜
20a 有機絶縁膜
20b 有機絶縁膜
20c 有機絶縁膜
30a パッド開口部
30b パッド開口部
BL 下層インダクタ
CC 制御回路
CHP1 半導体チップ
CHP2 半導体チップ
CHP3 半導体チップ
CL1a コイル
CL1b コイル
CL2a コイル
CL2b コイル
DP1 ダイパッド
DP2 ダイパッド
DR 駆動回路
GND1 接地電位
GND2 接地電位
IF1 絶縁膜
IF2 絶縁膜
IF3 絶縁膜
INV インバータ
LOD 負荷回路
MR モールド樹脂
MWL1 多層配線層
MWL2 多層配線層
OP 開口部
OP1 開口部
OP2 開口部
OP3 開口部
OP4 開口部
PD パッド
PST1 導電性接着材
PST2 導電性接着材
PST3 導電性接着材
RX1 受信回路
RX2 受信回路
SG1 信号
SG2 信号
SG3 信号
SG4 信号
SR シールリング
SUB1 半導体基板
SUB2 半導体基板
TL 上層インダクタ
TR1 トランスフォーマ
TR2 トランスフォーマ
TX1 送信回路
TX2 送信回路
VCC1 電源電位
VCC2 電源電位
W ボンディングワイヤ
WL 配線