(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072441
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】エンジンのピストン
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20240521BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F02B23/10 G
F02F3/26 C
F02B23/10 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183259
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将人
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA07
3G023AB01
3G023AD01
3G023AD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】圧縮行程終期にタンブル流の破壊を確実化して高速かつ均一な燃焼が実現されるピストンを提供する。
【解決手段】ピストン5の冠面に、クランク軸線方向(前後方向)に長いセンター凹所20が形成されている。センター凹所は円弧状に湾曲した底面25を有し、底面の縦断側面視での曲率半径R2は縦断正面視での曲率半径R1の4倍程度になっており、かつ、R1はシリンダボア1の内径Dとほぼ同じ寸法になっている。圧縮行程の終期においてタンブル流28は全体的に前後方向に均等に拡散し、水平旋回する作用を受けない。従って、タンブル流がωスワール30に変化することを防止できる。その結果、ピストンの上死点までタンブル流が維持されて、タンブル流はピストンの上昇によって破壊されて微細な乱流の群に変化する。従って、高速燃焼・均等燃焼を実現できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに向いた冠面に、クランク軸線方向に長いセンター凹所又はセンター突起が形成されており、
前記センター凹所又はセンター突起は、クランク軸線方向である前後方向から見た縦断正面ではシリンダボアの内径の80~120%の範囲の曲率半径R1の湾曲面に形成されて、クランク軸線及びシリンダボア軸心と直交した方向である左右方向から見た縦断側面視では前記R1の3倍以上の曲率半径R2の湾曲面に形成されている、
エンジンのピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジン(内燃機関)のピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンにおいては、燃料を完全燃焼させることは排気ガスの成分悪化防止や燃費向上のために必須である。また、自着火によるノッキングの防止や燃焼圧の向上による出力向上の観点から、燃焼速度(火炎伝播速度)を速めることが要請されている。この点、シリンダボアにタンブル流を生成させることが有益であり、混合気にタンブル流を付与することにより、燃料と吸気との混合性を高めつつ、乱流化によって燃焼速度を向上させることができる。
【0003】
そして、ピストンの冠面に凹所を形成して、凹所によって混合気の流れをガイドしてタンブル流の生成を促進することが提案されている。その例として特許文献1,2には、ピストンの冠面に、クランク軸線方向である前後方向に長い形状で、かつ、前後両端面を平面視(気筒軸線視で)で膨らませた形状の凹所を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-113996号公報
【特許文献2】特開2021-80899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、混合気の乱流化には特にタンブル流を生成させることが有効であるが、混合気を速やかに完全燃焼させるには、シリンダヘッドとピストンとで構成された燃焼室に充満している混合気の全体を一気に燃焼させることが必要である。そして、タンブル流の生成は混合気の乱流化に有効であるが、最終的にタンブル流が破壊されて微細な乱流に変化しないと、火炎が速やかに伝播せずに完全燃焼を期待し難いし、燃焼ムラも発生しやすい。
【0006】
そこで、ピストンの冠面に凹所を形成した場合の混合気の挙動を検討すると、圧縮行程の終期において、ピストンが円形であることに起因して、タンブル流が凹所の内部でピストンの軸心回りに旋回するωスワール流に変化する現象があり、このωスワールは圧縮されても破壊されにくいため、せっかく強いタンブル流を生成させても、微細化が進まずに火炎の伝播速度を向上できなくなったり燃焼位置が偏ったりして、高速燃焼・完全燃焼を実現し難いことになる。
【0007】
従って、高速燃焼・完全燃焼のためには圧縮行程終期においてωスワールの発生を抑制すること(ωスワール比を低くすること)が重要であるが、従来例ではωスワールの抑制について十分な考察や提示は成されていないと云える。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、完全燃焼を実現できるピストンの構造を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、ピストンに関して、
「シリンダヘッドに向いた冠面に、クランク軸線方向に長いセンター凹所又はセンター突起が形成されており、
前記センター凹所又はセンター突起は、クランク軸線方向である前後方向から見た縦断正面ではシリンダボアの内径の80~120%の範囲の曲率半径R1の湾曲面に形成されて、クランク軸線及びシリンダボア軸心と直交した方向である左右方向から見た縦断側面視では前記R1の3倍以上の曲率半径R2の湾曲面に形成されている」
という構成を採用した。
【0010】
本願発明において、R1はシリンダボアの内径の80~120%であるので、R2はシリンダボアの内径の3倍以上と言い換えることもできる。すなわち、シリンダボアの内径Dを基準にして、R1はDの80~120%、R2はDの3倍以上ということもできる。R2の上限はR1又はDの5倍程度が好ましい。
【0011】
本願発明は様々に具体化できる。例えば、前記センター凹所又はセンター突起における湾曲面の前後両端を前記冠面よりも深く位置させて、前記センター凹所又はセンター突起の前後両側に壁面が存在している、という構成を採用できる。
【0012】
つまり、冠面に深い基礎凹部を形成して、その底面を湾曲したセンター凹所に形成したり、センター突起を突設したりすることができる。この場合、センター突起については、その上端面は冠面から上に突出しないように設定するのが好ましい。また、センター凹所又はセンター突起のいずれにおいても、湾曲面の前後両端と壁面との連接部は、角張った状態に形成することも可能であるし、隅肉を設けて曲面に形成することも可能である(応力集中や熱の籠もりを防止する点では、隅肉を設けて曲面に形成するのが好ましいと云える。)。
【発明の効果】
【0013】
タンブル流はクランク軸線方向視である正面視で旋回流として現れる一方、ピストンは円形であるため、燃焼室の前後両端部はタンブル流が通過しない傾向を呈するが、本願発明では、センター凹所又はセンター突起はクランク軸線方向である前後方向に長く延びているため、タンブル流がセンター凹所又はセンター突起によって前後方向に分散させることが許容される。
【0014】
そして、タンブル流は上記のとおりシリンダボアの内部において正面視で旋回流として現れるが、正面視でのセンター突起又はセンター凹所の曲率半径がシリンダボアの内径の80~120%になっていると、圧縮行程の終期において、タンブル流の流れをスムースにガイドできる。すなわち、点火直前まで(上死点まで)タンブル流の流れを維持できる。
【0015】
更に、ピストンが円形であることとセンター凹所又はセンター突起が前後方向に長いことに起因して、圧縮行程の終期に、タンブル流が、シリンダボアの軸心方向から見た平面視において旋回するようにガイドされてωスワールが生成される傾向を呈するが、本願発明のように、センター凹所又はセンター突起の側面視断面形状の曲率半径R2を正面視断面形状の曲率半径R1の3倍以上に設定すると、タンブル流は、タンブル流としての傾向を維持したまま前後方向に均等に分散して、タンブル流がωスワールに変化すること(ωスワールが生成されること)を防止又は著しく抑制できる。
【0016】
従って、タンブル流として生成されていた混合気の流れを破壊して微細な乱流に変えることができる。つまり、燃焼速度(火炎伝播速度)の高速化と燃焼室全体での均等な燃焼のためには、混合気が高速で流動する微細な乱流の群で構成されていることが好ましく、そのために強いタンブル流を生成することが有益であるが、従来は、強いタンブル流を生成できても圧縮行程の終期にωスワール化することによってタンブル流を微細化できていなかったのに対して、本願発明では、上死点に至るまでタンブル流の流れを残してωスワール化することを防止又は抑制できるため、強いタンブル流を破壊して運動エネルギが大きい微細な乱流群に変化させることができるのである。
【0017】
その結果、燃焼室に運動エネルギが大きい微細な乱流が均等に分散した状態を実現して、スパークプラグによる火炎の伝播速度を向上できると共に、燃焼室の全体で燃焼を均等化できて、高速で完全燃焼する状態を実現できる。部分的な燃焼遅れ現象を防止できることにより、ノッキングも防止できる。ωスワールの防止・抑制効果のためには、R2をR1の4倍前後(3.5~4.5倍)に設定すると特に好適であった。
【0018】
さて、エンジンにおいて吸気バルブは前後2箇所に配置されていることが普通であり、従って、タンブル流も前後2つの流れとして生成される傾向を呈する。そして、圧縮行程の終期において、ピストンが円形であることに起因して、左右方向の流れであるタンブル流が前後方向に方向変換するようにガイドされる作用を受けることになり、その際に、従来のセンター凹所の構造では、混合気の左右方向の流れがセンター凹所によって水平旋回するようにガイドされて、その結果、タンブル流がωスワール化してタンブル流の破壊が抑制されていたと云える。
【0019】
これに対して本願発明では、圧縮行程の終期において、タンブル流は前後方向に方向変換するようにガイドされるが、前後に長いセンター凹所又はセンター突起に沿って全体的に横移動する傾向を呈して、水平旋回の傾向が著しく低下する。すなわち、タンブル流としての流れを残した状態のままでセンター凹所又はセンター突起の前後方向に広がるのであり、これにより、タンブル流を微細な乱流に破壊することが促進されて、燃焼の高速化と均等化とを大幅に向上できる。
【0020】
上記具体例のように、ピストンの冠面に基礎凹部を堀り込んでこれにセンター凹所又はセンター突起を設けると、センター凹所又はセンター突起によるタンブル流のガイド機能を確実化して、ωスワールの生成抑制機能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【
図2】第1実施形態をクランク軸線方向から見た中央部の縦断正面図である。
【
図3】(A)はクランク軸線と直交した方向から見た縦断側面図、(B)は作用を示すための平面図である。
【
図4】第2実施形態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【
図5】第2実施形態をクランク軸線方向から見た中央部の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用の多気筒エンジンに適用している。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、請求項でも定義しているように、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。平面視は、シリンダボアの軸線方向から見た状態である。図面に前と後ろの文言を表示しているが、これは便宜的なものであり、いずれを前としてもよい。
【0023】
(1).第1実施形態の構造の説明
エンジンの基本構造は従来と同様であり、
図2,3(A)に示すように、シリンダボア1が形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面にガスケット3を介して固定されたシリンダヘッド4とを有しており、シリンダボア1にはピストン5が摺動可能に嵌挿されている。ピストン5にはコンロッドがピストンピン6によって連結されており、コンロッドはクランクピン(図示せず)に連結されている。
【0024】
シリンダヘッド4には、シリンダボア1に向けて開口した燃焼室用下向き凹所7が形成されている。下向き凹所7は、テーパ面を有するペントルーフ型に形成されており、底面視では前後方向に長い形態を成している。
【0025】
図2のとおり、シリンダヘッド4には、下向き凹所7に向けて開口した前後一対ずつの吸気ポート8と排気ポート9とが左右に振り分けて形成されており、かつ、吸気ポート8を開閉する吸気バルブ10と、排気ポート9を開閉する排気バルブ11とが摺動可能に装着されている。下向き凹所7の頂面部には、点火プラグ12を装着している。
【0026】
図1(A)でピストン5の全体を表示している。ピストン5の基本構造は従来から知られているものであり、3段の環状溝13が形成された基部14と、基部14から下向きに突出した左右長手の支持部15とを有して、支持部15に、前後方向に貫通したピストンピン挿通穴16を設けている(
図1(A),
図4(A)では、環状溝13は2本しか表示していない。)。環状溝13にはピストンリング17とオイルリング18とが装着されている。
【0027】
本実施形態の特徴の1つとして、まず、ピストン5の冠面(頂面)に前後方向に長い俵形のセンター凹所20が形成されている。センター凹所20の長手中心線O1はピストン5の前後長手中心線O2から僅かに排気側にずれており、その前後長さはピストン5の直径に近い長さになっている。
【0028】
ピストンの冠面のうちセンター凹所20を挟んで吸気側に位置したエリアには、吸気行程時に吸気バルブ10を逃がすための前後一対のバルブリセス21が形成されており、バルブリセス21よりも吸気側のエリアは銀杏葉状の吸気側平坦面22になっている。
【0029】
他方、本実施形態では排気バルブ11のためのバルブリセスは形成されておらず、冠面のうちセンター凹所20を挟んで排気側に位置した部位は三日月状の排気側平坦面23になっている。また、ピストン5の冠面のうちセンター凹所20を挟んだ前後両側は、細い弓形に形成された前後平坦面24になっている。従って、吸気側平坦面22と排気側平坦面23と前後平坦面24とによって冠面(頂面)が形成されている。
図1(B)(及び
図4(B))では、平坦面22,23,24を平行斜線で表示している。なお、各平坦面22,23,24の外周縁は僅かに面取りされている。
【0030】
センター凹所20の底面25は、クランク軸線方向から見た縦断正面視において円弧面として湾曲した形状になっており、正面視での曲率半径R1はシリンダボア1の内径Dと同じ程度に設定しているが、シリンダボア1の内径Dの80~120%の範囲に設定されていたらよい。また、底面25の左右両端20a,20bは、吸気側平坦面22及び排気側平坦面23と連続している。
【0031】
また、センター凹所20の底面25は、左右方向から見た縦断側面視においても円弧面として湾曲した形状になっており、縦断側面視での曲率半径R2は、シリンダボア1の内径D(及びR1)の略3倍以上に設定されている。より好ましくは4倍に設定されている。
【0032】
そして、R2がR1の略3倍以上(好ましくは略4倍)であることにより、センター凹所20おいて、一定の曲率半径R2で湾曲した底面(円弧状底面)25の前後両端はピストン5の頂面よりも下方に位置しており、このため、センター凹所20の前後両側には壁面26が存在して、壁面26の上面が前後平坦面24と連続している。壁面26と底面25との連接部は円弧状に湾曲した隅肉部27になっており、隅肉部27の曲率半径は5mm程度に設定されている。
【0033】
センター凹所20は、正面視及び側面視での形状が円弧状であるため、平面視では、前後の長手側縁が左右両側に膨れた俵形(樽形)になっている。センター凹所20の吸気側端縁20aはバルブリセス21と連続し、センター凹所20の排気側端縁20bは排気側平坦面23と連続している。前後のバルブリセス21の間には、センター凹所20と連続した斜面20cが形成されている。
【0034】
(2).第1実施形態のまとめ
以上の構成において、吸気行程において吸気ポート8からシリンダボア1に放出された混合気は、
図2に点線の矢印で示すようにタンブル流28の初期の流れが形成され、このタンブル流28は圧縮行程の終期まで残っているが、圧縮行程の終期では、矢印28で示すように、燃焼室において正面視で旋回する傾向を呈しつつ、ピストンに押し潰されて微細化し、小さな渦や乱流に変化していく。
【0035】
そして、
図3において模式的に示すように、圧縮行程の終期には、タンブル流28は前後長手の仮想軸心29の回りに旋回する傾向を呈する一方、ピストン5は円形であるため、圧縮行程においてタンブル流28は前後方向の外側に向けて方向変換する作用を受けるが、この場合、
図3(A)に二点鎖線で示すように、タンブル流28の旋回の仮想軸心29が屈曲すると、
図3(B)に点線の矢印で示すように、タンブル流28が平面視で旋回してωスワール30が生成される。
【0036】
そして、タンブル流28がωスワール30に変化すると、ピストン5が上昇しても押し潰されずにωスワール30が上死点まで残り、このため、タンブル流28の微細化(破壊)が進まずに燃焼速度(火炎伝播速度)を向上できないと共に、高圧状態に維持された未燃混合気が燃焼室内に残ってこれが自発火することによるノッキングも発生しやすくなる。従って、ωスワール30の発生は極力抑制するのが好ましい。
【0037】
この点、本実施形態のように、センター凹所20の底面25を円弧状側面に形成して縦断側面視での曲率半径R2を縦断正面視での曲率半径R1の略3倍以上に設定すると、タンブル流28は平面視で殆ど旋回せずに前後方向に広がる傾向を呈してタンブル流28が残り、その結果、タンブル流28が微細化することによる燃焼速度のアップと、燃料の分散性が高まることによる均等な燃焼とを実現できる。
【0038】
更に述べると、
図3(B)に矢印で示すように、タンブル流28は吸気側から排気側に向かって流れて、センター凹所20において前後方向に分流する傾向を呈するが、センター凹所20の底面25が湾曲面になっているため、タンブル流28は、センター凹所20の中心部に向かう内向き流28aと外周側に向かう外向き流28bとに分流する傾向を呈する。
【0039】
そして、タンブル流28は、基本的には外周側に向けて流れる傾向を呈するが、底面25は外側に向けて深さが浅くなっているため、内向きには流れやすくて外向きには流れにくい状態になっており、このため、内向き流28aと外向き流28bとがバランスして、全体として前後方向に広がる傾向を呈する。このため、ωスワール30の生成が防止又は著しく抑制される。
【0040】
従って、タンブル流28を微細に破壊して、燃焼時間の短縮と燃焼室全体での均一燃焼とを実現できる。その結果、燃焼効率のアップによる燃費の改善やノッキング防止効果を享受できる。本願発明者が解析したところ、点火ブラグがスパークしてから燃焼が終了するまでのうちの特に後半での燃焼速度の低減効果に優れていることが分かったが、これは、タンブル流28の破壊が進むことによって火炎伝播速度が向上している結果であると云える。特に、R2がR1の略4倍であると、タンブル流28の破壊を確実化できて好適であった。
【0041】
なお、センター凹所20の底面が側面視で湾曲せずに直線形状であると、センター凹所20は平面視で長方形になるため、センター凹所20の前後長さを長くすると左右幅は小さくなる一方、左右幅を大きくすると前後幅は小さくならざるを得ず、センター凹所20の平面式と容積とを大きくすることができずにタンブル流28の破壊を十分に行えない可能性が高い。
【0042】
また、センター凹所20の底面が側面視で湾曲せずに直線形状であると、タンブル流28がピストン5の外周側に向けて流れる傾向を呈するため、タンブル流28がセンター凹所20の前後両端でUターンして戻る挙動を呈して、ωスワール30の流れに変換されてしまう。従って、ωスワール30の抑制には貢献できない。
【0043】
他方、センター凹所20の底面のうち前部と後部とのある程度の範囲を、
図3(A)に点線で示すように、例えばシリンダボア1の半径(D/2)程度の曲率半径R3の小湾曲面31に設定した場合は、白抜き矢印で示すように、センター凹所20の前後方向外側に向いたタンブル流28の流れが、小湾曲面31にガイドされて上向きに反らされてからセンター凹所20の中央部側に戻る動きをすることになり、このため、タンブル流28の旋回軸心が二点鎖線のように屈曲して、強いωスワール30が生成されてしまう。
【0044】
従って、ωスワール30の生成防止・抑制のためには、一定の曲率半径R2で湾曲した底面25がセンター凹所20の略全長に亙って形成されているのが好ましい。センター凹所20の前後両端に隅肉部27を設けるのはヒートポイント化防止の点で好ましいが、隅肉部27の前後幅は僅かであるので、隅肉部27の存在はωスワール30の抑制防止の障害にはなっていない。
【0045】
エンジンにおいて、圧縮比を高めることは出力及び燃費の向上の点で好適であるが、センター凹所20の左右幅W1と最大深さH1とは、圧縮比に反比例している(実施形態のセンター凹所20は、圧縮比を12.8に設定している。)。このようにセンター凹所20の幅W1と最大深さH1とが圧縮比に反比例している理由は、燃焼室の容積の変化にセンター凹所20の容積の変化を整合させているためである。
【0046】
本実施形態では、センター凹所20を除いた部位は、バルブリセス21を除いて平坦面22,23,24になっているが、このように広い平坦面を形成すると、
図2から理解できるように、燃焼室の面積をできるだけ狭くして混合気がセンター凹所20を中心にした箇所に閉じ込められるため、燃焼時間の短縮による完全燃焼化に貢献できる。
【0047】
(3).第2実施形態
図4,5に示す第2実施形態では、ピストン5の冠面に前後方向に長いセンター突起32を形成している。センター突起32は、縦断正面視形状及び縦断側面視形状とも上向きに膨れた湾曲面に形成されており、縦断正面視における湾曲の曲率半径はシリンダボア1の内径Dと略同じになって、縦断側面視における湾曲の曲率半径R4はシリンダボア1の内径Dの略4倍になっている。従って、2つの曲率半径とシリンダボア1の内径Dとの関係は、センター凹所20と同じである。
【0048】
センター突起32は、冠面に堀り込まれた基礎凹部に形成されている。このため、センター突起32の外周の外側には壁面33,34,35が形成されており、前後の壁面33は前後平坦面24と連続して、吸気側の壁面34はバルブリセス21と連続し、排気側の壁面35は排気側平坦面23と連続している。センター突起32の外周端と壁面33,34,35との連接部は、若干の寸法(例えば5mm程度)の曲率半径で湾曲した隅肉部36になっている。すなわち、基礎凹部の外周部に隅肉が付けられている。
【0049】
この実施形態では、センター突起32は前後両端が最も深いため、平面視では鼓型になっており、センター突起32の前後長さはピストン5の外径に近い長さになっている。
図5に示すように、センター突起32の頂点はピストン5の頂面(平坦面22,23,24)よりも僅かに低くなっている。センター突起32の左右幅寸法W2の及び高さH2は、圧縮比と反比例している。
【0050】
この第2実施形態でも、タンブル流28が前後方向に均等に拡散することがセンター突起32によってガイドされるため、ωスワールの生成を防止又は著しく抑制して、タンブル流28の破壊を促進することができる。
【0051】
本願発明は、上記の両実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、センター凹所又はセンター突起と壁とは角張った状態に連続させることも可能である。センター凹所を形成した場合、排気側端縁の外側に壁が形成されるように深く堀り込むことも可能である。逆に、センター凹所の前後両側に壁を形成せずに、センター凹所における円弧状底面の前後端縁を前後平坦面と連続させることも可能である。排気側のバルブリセスを設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明は、エンジンのピストンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 シリンダボア
2 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
5 ピストン
7 燃焼室用の下向き凹所
8 吸気ポート
10 吸気バルブ
20 センター凹所
21 吸気バルブ用のバルブリセス
22,23,24 平坦面
26,33,34,35 壁面
28 タンブル流
29 タンブル流の仮想回転軸心
30 ωスワール
32 センター突起