(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072463
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240521BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240521BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20240521BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
E04H9/02 321C
E04B2/56 643A
F16F7/12
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183290
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】393019137
【氏名又は名称】株式会社市浦ハウジング&プランニング
(71)【出願人】
【識別番号】598165264
【氏名又は名称】株式会社織本構造設計
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 純一
(72)【発明者】
【氏名】江口 司津
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
(72)【発明者】
【氏名】中澤 昭伸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 融
(72)【発明者】
【氏名】田上 誠
(72)【発明者】
【氏名】國本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 衣菜子
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E002FB07
2E002MA12
2E139AA01
2E139AC22
2E139AC26
2E139AC33
2E139BA04
2E139BD22
3J048BE10
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA03
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】耐力壁に対して応力が生じたときに、接合構造部又は連結構造部が先行降伏して、耐力壁面材に変形、めり込み、割裂が生じない耐力壁を提供する。
【解決手段】中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁11であって、耐力壁は、柱フレーム12と梁フレーム13とからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレーム14と、耐力壁フレームの内側に所定の隙間15を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材16とを、先行降伏させるための接合構造部17を介して接合し、複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部18を介して連結した構成である。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結したこと
を特徴とする耐力壁。
【請求項2】
下部側の前記梁フレームにはH形鋼からなるコネクター部材が設けられ、
前記耐力壁面材の下端部からアンカーボルトが挿入定着されており、
該アンカーボルトの下部が前記コネクター部材に緊結されていること
を特徴とする請求項1に記載の耐力壁。
【請求項3】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合しており、
該接合構造部は、前記耐力壁面材の縁部に設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に嵌め込まれた接合部材と、前記耐力壁フレームの内側に設けられた孔部を有する第1ブラケット片と、からなり、
前記接合部材は、所定長さの角形鋼管と、該角形鋼管の一端部に挿入された補強部材と、前記角形鋼管の他端部に溶接された鋼板と、該鋼板に溶接された孔部を有する第2ブラケット片とを有し、
前記角形鋼管の他端部には、矩形状孔部が形成され、
前記第1ブラケット片と、第2ブラケット片とを重ね合わせて、両方の孔部同士に高力ボルトを螺着したこと
を特徴とする耐力壁。
【請求項4】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合しており、
該接合構造部は、前記耐力壁面材の縁部に形成されたスリットに挟まれる大孔部を有した鋼板と、前記耐力壁フレームの内側に設けられたブラケット片と、からなり、
該ブラケット片と、前記鋼板とを重ね合わせて、両方の孔部同士に高力ボルトを螺着したこと
を特徴とする耐力壁。
【請求項5】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結しており、
該連結構造部は、前記耐力壁面材の縁部同士に渡ってそれぞれ設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に嵌め込まれた連結部材とからなり、
該連結部材は、所定長さの角形鋼管からなり、
該角形鋼管の中央部には、矩形状孔部が形成され、
該角形鋼管の両方の端部には、補強部材が挿入されていること
を特徴とする耐力壁。
【請求項6】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結しており、
該連結構造部は、前記耐力壁面材の縁部同士に渡ってそれぞれ設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に形成されるスリットに挿入されてピンで固定された鋼板と、前記切り込み部に嵌め込まれた連結部材とからなり、
前記鋼板は、前記空間部に臨む形状の切欠部を有し、
該連結部材は、4本のL形鋼のそれぞれのウェブ同士を重ね合わせており、各L形鋼のウェブには所定の間隔を開けて2片のスチフナーが設けられ、該L形鋼のそれぞれのウェブ同士と、前記スチフナー同士とを高力ボルトで緊結すると共に、前記ウェブ同士の間には前記鋼板が挟持されており、
前記ウェブには、前記L形鋼の両方の端部側に前記スチフナーに沿って補強部材が嵌め込まれており、
前記L形鋼のフランジを前記切り込み部にビス止めしたこと
を特徴とする耐力壁。
【請求項7】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結し、
前記耐力壁フレームと前記耐力壁面材との間の前記隙間には、耐火材を充填し、
前記耐力壁フレームは、耐火被覆材で被覆したこと
を特徴とする耐力壁。
【請求項8】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結し、
前記柱フレームは、木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物に用いられている柱であり、前記梁フレームが接合していること
を特徴とする耐力壁。
【請求項9】
中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、
該耐力壁は、上部と下部との梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、
前記耐力壁面材は、横長形状に配置した状態で複数枚が垂直方向に並列しており、
前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結していること
を特徴とする耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐力壁に関するものであり、更に詳しくは、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる高剛性、高耐力性、高靱性のある木質系の耐力壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の木質系の耐力壁としては、木製の柱及び梁に対して、あるいは柱フレーム及び梁フレームからなる耐力壁フレーム内の受材に対して、構造用合板や直交集成板等からなる木質系の耐力壁面材を、釘やボルト等の金物材で固定した構造のものが一般的である(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-184723号公報
【特許文献2】特開2014-70357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来例の木質系の耐力壁においては、耐力壁フレームに対して、木質系の耐力壁面材を、釘やボルト等の金物材で固定しているので、耐力壁面材に対して金物材の剛性が著しく高く、また支圧面積が小さいために、応力が生じたときに耐力壁面材に変形、めり込み、割裂等の損傷が生じる。即ち、耐力壁面材としての強度や耐力を十分に発揮する前に、金物材で固定した部分に破壊が生じて、強度や耐力が十分に発揮できない。
さらに、木質系の耐力壁面材の強度(耐力)は、木質部材の材料強度にバラツキがあるため、性能上の安全性を加味する必要があり、即ち、耐力を低く見積もる必要があるので、構造設計上、耐力壁自体の強度(耐力)を最大限に生かすことができないという種々の問題点を有している。
【0005】
一方、耐力壁フレームに耐力壁面材を嵌め込み金物等で固定する場合は、水平荷重が生じたときに耐力壁フレームの内側で耐力壁面材の回転、即ち、ロッキング現象が進行して、水平剛性が小さくなるという問題点を有している。
【0006】
従って、従来例における木質系の耐力壁においては、応力が生じたときに耐力壁面材に変形、めり込み、割裂等の損傷を減らして、耐力壁面材としての強度や耐力を十分に発揮できることと、木質材料強度のバラツキによる影響を少なくすることと、水平荷重が生じたときに耐力壁面材のロッキング現象を防止することとに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結したことである。
【0008】
また、下部側の前記梁フレームにはH形鋼からなるコネクター部材が設けられ、前記耐力壁面材の下端部からアンカーボルトが挿入定着されており、該アンカーボルトの下部が前記コネクター部材に緊結されている構成としたものである。
【0009】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合しており、該接合構造部は、前記耐力壁面材の縁部に設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に嵌め込まれた接合部材と、前記耐力壁フレームの内側に設けられた孔部を有する第1ブラケット片と、からなり、前記接合部材は、所定長さの角形鋼管と、該角形鋼管の一端部に挿入された補強部材と、前記角形鋼管の他端部に溶接された鋼板と、該鋼板に溶接された孔部を有する第2ブラケット片とを有し、前記角形鋼管の他端部には、矩形状孔部が形成され、前記第1ブラケット片と、第2ブラケット片とを重ね合わせて、両方の孔部同士に高力ボルトを螺着したことである。
【0010】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合しており、該接合構造部は、前記耐力壁面材の縁部に形成されたスリットに挟まれる大孔部を有した鋼板と、前記耐力壁フレームの内側に設けられたブラケット片と、からなり、該ブラケット片と、前記鋼板とを重ね合わせて、両方の孔部同士に高力ボルトを螺着したことである。
【0011】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結しており、該連結構造部は、前記耐力壁面材の縁部同士に渡ってそれぞれ設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に嵌め込まれた連結部材とからなり、該連結部材は、所定長さの角形鋼管からなり、該角形鋼管の中央部には、矩形状孔部が形成され、該角形鋼管の両方の端部には、補強部材が挿入されていることである。
【0012】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結しており、該連結構造部は、前記耐力壁面材の縁部同士に渡ってそれぞれ設けられた空間部を備える切り込み部と、該切り込み部に形成されるスリットに挿入されてピンで固定された鋼板と、前記切り込み部に嵌め込まれた連結部材とからなり、前記鋼板は、前記空間部に臨む形状の切欠部を有し、該連結部材は、4本のL形鋼のそれぞれのウェブ同士を重ね合わせており、各L形鋼のウェブには所定の間隔を開けて2片のスチフナーが設けられ、該L形鋼のそれぞれのウェブ同士と、前記スチフナー同士とを高力ボルトで緊結すると共に、前記ウェブ同士の間には前記鋼板が挟持されており、前記ウェブには、前記L形鋼の両方の端部側に前記スチフナーに沿って補強部材が嵌め込まれており、前記L形鋼のフランジを前記切り込み部にビス止めしたことである。
【0013】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結し、前記耐力壁フレームと前記耐力壁面材との間の前記隙間には、耐火材を充填し、前記耐力壁フレームは、耐火被覆材で被覆したことである。
【0014】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる、又は上下の梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結し、前記柱フレームは、木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物に用いられている柱であり、前記梁フレームが接合していることである。
【0015】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁であって、該耐力壁は、上部と下部との梁フレームからなる耐力壁フレームと、該耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、前記耐力壁面材は、横長形状に配置した状態で複数枚が垂直方向に並列しており、前記複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結していることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る耐力壁によれば、地震や台風などによる大きな水平せん断力が働いたときに、耐力壁フレームや耐力壁面材よりも先に、接合構造部(接合部材)又は連結構造部(連結部材)が先行降伏するので、耐力壁面材に変形、めり込み、割裂等の損傷が極めて少なく、その結果、耐力壁面材としての強度や耐力を十分に発揮できる。
そして、接合構造部(接合部材)又は連結構造部(連結部材)が先行降伏するため、それらを交換して耐力壁を再利用することができるので、低コストで当初の耐力壁の性能を復元することができる。
接合構造部(接合部材)及び連結構造部(連結部材)は、鋼材の組み合わせ方や形状、種類、厚み、配置個数等の選択によって、強度(耐力)を自由に設定することができるので、木質部材の材料強度による性能のバラツキを抑えて、接合構造部や連結構造部のひずみ硬化の影響を構造計算によりコントロールすることが可能である。その結果、耐震構造の耐力壁としても使用できる。
耐力壁面材と耐力壁フレームとの間に所定の隙間を開けるので、水平変形したときに、耐力壁面材及び耐力壁フレーム相互の損傷を防ぐことができる。
本発明に係る耐力壁は、梁フレームが、木質よりも高剛性、高耐力性、高靱性であり、接続構造部によって、耐力壁面材が接合できれば良いので、木造、鉄骨造、RC造、SRC造、それらの混合の建物に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明に係る耐力壁の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図3】2枚の耐力壁面材を、連結構造部を介して連結させた状態の耐力壁の正面図である。
【
図4】3枚の耐力壁面材を、連結構造部を介して連結させた状態の耐力壁の正面図である。
【
図5】2枚の耐力壁を重ね合わせた状態の縦断面図である。
【
図6】第1実施例の接合構造部を示す斜視図である。
【
図7】第1実施例の接合構造部の接合部材の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図8】第2実施例の接合構造部の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図9】第3実施例の接合構造部の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図10】第2実施例及び第3実施例の接合構造部と第5実施例の連結構造部とを使用した耐力壁の正面図である。
【
図11】第4実施例の連結構造部を示す正面図である。
【
図12】第4実施例の連結構造部の連結部材の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図13】第5実施例の連結構造部を示す正面図である。
【
図14-1】第5実施例の連結構造部の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図14-2】第5実施例の連結構造部の連結部材を4本のL形鋼と鋼板とに分離して示す側面図である。
【
図15-2】第6実施例の耐力壁の上部側の梁フレーム近傍の縦断面図である。
【
図17】第7実施例の耐力壁の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図18】第7実施例の耐力壁の側面を略示的に示す縦断面図である。
【
図19】第7実施例の耐力壁の耐力壁面材を重ねた側面を略示的に示す縦断面図である。
【
図21】第9実施例の接合構造部の各部材を分離して示す斜視図である。
【
図22】第9実施例の接合構造部の使用例を示す斜視図である。
【
図23】第9実施例の接合構造部と第5実施例の連結構造部とを使用した耐力壁の正面図である。
【
図24】第9実施例の接合構造部と第3実施例の接合構造部と第5実施例の連結構造部とを使用した耐力壁の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
耐力壁に対して応力が生じたときに、耐力壁フレームや耐力壁面材よりも、接合構造部(接合部材)又は連結構造部(連結部材)が先行降伏して、即ち、先行してせん断変形して、耐力壁面材に変形、めり込み、割裂等の損傷が生じないようにする等の目的を、以下に述べる種々の手段を講じることによって実現した。
【0019】
耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる耐力壁フレームに木質系の耐力壁面材を嵌め込んだ耐力壁(出願人は「ロッキングコッター耐力壁」と称する)と、横長形状の木質系の耐力壁面材を上下方向に複数枚重ねて、上端部と下端部とを梁フレームに接続した耐力壁(出願人は「シアリングコッター耐力壁」と称する)が存在する。
所謂ロッキングコッター耐力壁は、柱フレームと梁フレームとからなる矩形状の耐力壁フレームと、耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結した構成である。
所謂シアリングコッター耐力壁は、上部側と下部側との梁フレームからなる耐力壁フレームと、耐力壁フレームの内側に所定の隙間を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材とを、先行降伏させるための接合構造部を介して接合し、耐力壁面材は、横長形状に配置した状態で複数枚が垂直方向に並列しており、複数枚の耐力壁面材同士は、先行降伏させるための連結構造部を介して連結した構成である。
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、
図1-1、図-2及び
図2において、符号11は中高層木造、鉄骨造、RC造、SRC造の建築物に用いる耐力壁を示し、この耐力壁11は、両側の柱フレーム12と上部側及び下部側の梁フレーム13とからなる矩形状の耐力壁フレーム14と、耐力壁フレーム14の内側に所定の隙間15(
図1-1参照)を空けて設けられる一枚の又は複数枚の耐力壁面材16とを、先行降伏させるための接合構造部17を介して接合した構成である。
また、複数枚の耐力壁面材16同士は、先行降伏させるための連結構造部18(
図3、
図4参照)を介して連結した構成である。
【0021】
耐力壁11は、高いせん断力を有する木質系の耐力壁面材16と、耐力壁面材16よりも高剛性、高耐力性、高靱性のある柱フレーム12及び梁フレーム13からなる耐力壁フレーム14とから構成される。
【0022】
柱フレーム12及び梁フレーム13は、例えば、鉄骨、H形鋼であるが、これ以外の様々な材料のものを用いることが可能である。
【0023】
耐力壁面材16は、例えば、単板集積材(LVL)や直交集積板(CLT)などの木質系の壁面材である。
【0024】
耐力壁面材16は、
図1-1に示すように、耐力壁フレーム14の内側に所定の隙間15を空けて設ける。その結果、耐力壁面材16がロッキングしたときに、耐力壁フレーム14のコーナー部19に耐力壁面材16が当たらないので、ロッキングしたときの耐力壁面材16の損傷を防止できる。
【0025】
先行降伏させるための接合構造部17及び先行降伏させるための連結構造部18の具体的な構成については、下段で順次述べる各実施例の項目で詳細に説明する。
また、下段で順次述べる各実施例において、柱フレーム12と梁フレーム13とからなる矩形状の耐力壁フレーム14については、その構成が上述の説明と同様であり、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0026】
下部側の梁フレーム13にはH形鋼からなるコネクター部材20が設けられ、耐力壁面材16の下端部からアンカーボルト21が挿入定着されており、アンカーボルト21の下部がコネクター部材20に緊結されている。従って、耐力壁面材16の下端部16aに生じる引抜力に抵抗できて、耐力壁面材16の損傷を抑制できる。
【0027】
図3に示す耐力壁11は、横方向(左右方向)に並列させた2枚の耐力壁面材16を、連結構造部18を介して連結させた状態を示し、
図4に示す耐力壁11は、横方向(左右方向)に並列させた3枚の耐力壁面材16を連結構造部18を介して連結させた状態を示している。いずれも、下部側の梁フレーム13にはH形鋼からなるコネクター部材20が設けられ、耐力壁面材16の下端部からアンカーボルト21が挿入定着されており、アンカーボルト21の下部がコネクター部材20に緊結されている。
【0028】
図5に示す耐力壁11は、2枚の耐力壁面材16を重ね合わせた状態を示している。下部側の梁フレーム13にはH形鋼からなるコネクター部材20が設けられ、耐力壁面材16の下端部からアンカーボルト21が挿入定着されており、アンカーボルト21の下部がコネクター部材20に緊結されている。
【実施例0029】
第1実施例の接合構造部17は、
図6に示すように、耐力壁面材16の縁部16bに設けられた空間部22を備える切り込み部23と、切り込み部23に嵌め込まれた接合部材24と、耐力壁フレーム14(柱フレーム12)の内側に設けられた孔部25を有する第1ブラケット片26とからなる。
なお、
図6中の耐力壁面材16は、縁部16bの近傍を示したものであり、耐力壁面材16の全体形状の図示は省略している。接合構造部17は、
図1-1に示した場合と同様に、耐力壁面材16の上部側と両側とに沿って複数箇所に設けられる。
【0030】
接合部材24は、
図7に示すように、所定長さの角形鋼管27と、角形鋼管27の一端部に挿入された補強部材28と、角形鋼管27の他端部に溶接された鋼板29と、鋼板29に溶接された孔部30を有する第2ブラケット片31とを有する。
補強部材28は、木材や樹脂モルタル等で形成されており、補強用鋼板32がビス33で固定されている。補強用鋼板32は矩形状孔部34の手前の破線部分35(
図7参照)の内部に位置する。
角形鋼管27の他端部には、矩形状孔部34が形成されており、角形鋼管27の矩形状孔部34の下部側にも同様な矩形状孔部34(破線参照)が形成されている。
【0031】
そして、第1ブラケット片26と、第2ブラケット片31とを重ね合わせて、両方の孔部25、30同士に高力ボルトを36螺着して緊結している。
【0032】
このような構成の接合部材24は、角形鋼管27に矩形状孔部34が形成されて当該部分の強度を低下させている。そして、矩形状孔部34の内部には補強部材28が位置しないので、耐力壁11に応力が生じたときに、角形鋼管27の矩形状孔部34近傍が先行降伏、即ち、先行してせん断変形する仕組みになっている(
図7の「先行降伏させる範囲」参照)。その結果、耐力壁面材16には変形、めり込み、割裂等の損傷が最小限に抑えられる。
また、矩形状孔部34近傍の角形鋼管27がせん断変形したときの、その変形部分を納めるスペースとして、空間部22が設けられている。
なお、角形鋼管27の厚さや矩形状孔部34の大きさを適宜に調整することによって、先行降伏するための接合構造部17(接合部材24)の強度の低下具合や先行降伏のし易さを適宜に調整することができる。
そして、耐力壁面材41の縁部41aのスリット41bに鋼板43を挟み込み、小孔46、47にドリフトピン45を挿入して(矢印参照)、耐力壁面材41の縁部41aに鋼板43を取り付ける。
さらに、鋼板43とブラケット片44とを重ね合わせて、両方の孔部48、49同士に高力ボルト50を螺着して緊結する。