(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072471
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】食品容器
(51)【国際特許分類】
A47J 36/04 20060101AFI20240521BHJP
B65D 85/50 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A47J36/04
B65D85/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183299
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】常門 加奈
【テーマコード(参考)】
3E035
4B055
【Fターム(参考)】
3E035AA20
3E035BA02
3E035BA05
3E035BC02
3E035BD10
4B055AA01
4B055BA13
4B055DB30
4B055FA01
4B055FB33
4B055FC20
(57)【要約】
【課題】流通過程においては容積が小さく、喫食の際には十分な大きさに変形する食品容器を提供すること。
【解決手段】融点及びガラス転移点を有する樹脂で構成された食品容器であって、常温でトレー状の形状を有しており、前記ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、食用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形する。常温で容積の小さいトレー状の形状を有しているから、この状態で輸送、保管あるいは展示することができる。一方、喫食の際には、前記ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、食用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形させることができる。このため、別途食器を準備することなく、そのまま食することが可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点及びガラス転移点を有する樹脂で構成された食品容器であって、
常温でトレー状の形状を有しており、
前記ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、食用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形することを特徴とする食品容器。
【請求項2】
前記ガラス転移点が、50~70℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の食品容器。
【請求項3】
フリーズドドライ食品を内蔵していることを特徴とする請求項1に記載の食品容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その流通過程においては容積が小さく、喫食のさいには十分な大きさに変形する食品容器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在フリーズドライ食品は、真空凍結乾燥技術を用いて食品中の水分を蒸発させて取り除くことにより常温で長期保存可能となるため、即席食品や保存食品として多く市場に流通している(特許文献1参照)。しかし、これを食す際は、お椀などの食器を用意して中身を入れ湯を注ぐ必要がある。
【0003】
一方、安価な紙カップ等に収容して、そのまま湯を注ぐことで食することのできるものも存在する(特許文献1参照)。しかし、この場合には、喫食時に別途容器を準備する必要はないものの、流通時も喫食時と同じ容積を有し、その流通や保管の際の効率を低下させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、その流通過程においては容積が小さく、喫食の際には十分な大きさに変形する食品容器を提供することを目的とする。本発明の容器は、喫食の際に十分な大きさの容器に変形するため、別途食器を準備することなく、そのまま食することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1に記載の発明は、融点及びガラス転移点を有する樹脂で構成された食品容器であって、
常温でトレー状の形状を有しており、
前記ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、食用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形することを特徴とする食品容器である。
【0007】
前記ガラス転移点は、食品を喫食するのに適する温度、例えば、50~70℃の範囲内にあることが望ましい。
【0008】
また、この容器には、湯を注ぐだけで食用に適する食品が内蔵されていることが望ましい。例えば、フリーズドドライ食品である。このように本発明の容器にフリーズドドライ食品が内蔵されている場合、ガラス転移点以上融点未満の温度の湯を注ぐだけで食用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形すると共に、そのフリーズドドライ食品を食用に適するものに戻すことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の容器は、常温で容積の小さいトレー状の形状を有しているから、この状態で輸送、保管あるいは展示することができる。
【0010】
一方、喫食の際には、前記ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、食
用に適する大きさのカップ状又はお椀状に変形させることができる。このため、別途食器を準備することなく、そのまま食することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に関し、カップ状又はお椀状の形状を記憶する前の部材の斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態に関し、カップ状又はお椀状の形状に成型された容器の斜視図である。
【
図3】
図3は本発明の実施形態に関し、トレー状の形状に成型された容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を説明する。
図3は本発明の実施形態に関し、そのトレー状容器1
3の斜視図である。このトレー状容器1
3には、例えば、ナスの味噌汁等のフリーズドドライ食品(図示せず)が内蔵されている。
【0013】
この容器1
3はトレー状であるが、これに湯を注ぎ、ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することにより、
図2に示すように、食用に適する大きさのカップ状又はお椀状の容器1
2に変形する。例えば、ガラス転移点が50~70℃の範囲内にあり、融点が160℃以上であれば、80℃程度の湯を注ぐことにより、トレー状容器1
3を食用に適する大きさのカップ状又はお椀状の容器1
2に変形すると共に、内蔵したナスの味噌汁等のフリーズドドライ食品を食用に適するものに戻すことができる。
【0014】
なお、こうしてカップ状又はお椀状に変形した容器12は、この温度に維持したまま外力を加えることにより、任意の形状に変形することが可能である。このため、内蔵した食品を食べ終わった容器12は、これを変形して減容して廃棄することが可能である。
【0015】
このようにガラス転移点以上融点未満の温度に加熱することによりカップ状又はお椀状に変形する容器は、2種類以上の樹脂を混合した混合樹脂を成形して得ることができる。
【0016】
[硬化物]
この混合樹脂のうち、一方の樹脂は重合性を有する樹脂を硬化させたものである。
【0017】
(重合性樹脂)
この硬化物を構成する重合性樹脂は、環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に、重合性基を有する基を導入して得ることができる。
【0018】
環状化合物としては、環状エステル(ラクトン化合物)、そのグリコリド、あるいはラクチド等の環状ジエステルを例示できる。環状エステル(ラクトン化合物)としては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物)等を挙げることができる。
【0019】
これら環状化合物の中でもε-カプロラクトンは人体に害がないことから、ε-カプロラクトンを好ましく使用することができる。
【0020】
次に、金属触媒の存在下で、アルコールを開始剤として、この環状化合物を開環重合することにより、前記前駆体化合物を製造することができる。
【0021】
金属触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、及び、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及び、アルコラート等が使用できる。例えば、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-イミン錯体、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、及び、イットリウムアルコキシド等の化合物である。
【0022】
また、開始剤としては、1価又は2価以上のアルコールが挙げられる。
【0023】
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、n-ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、及び、ヘキシルラクテート等が挙げられる
また、2価以上のアルコール(多価アルコール)としては、テトラメチレングリコール、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセロール、及び、トリメチロールメラミン等が挙げられる。
【0024】
開環重合は、不活性ガス雰囲気下で100~250℃に加熱することで可能である。時間は0.1~48時間程度でよい。
【0025】
こうして環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に重合性基を導入する方法としては、例えば、重合性基と、前駆体化合物の有するヒドロキシ基に対して反応性を示す置換基とを併せて有する化合物を前駆体化合物と反応させる方法が例示できる。なお、前記前駆体化合物の有するヒドロキシ基を他の官能基に置換し、この置換基に対して反応性を示す官能基と、重合性基とを併せて有する化合物を反応させることも可能である。
【0026】
前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させるための化合物としては、塩化(メタ)アクリル酸、及び、臭化(メタ)アクリル酸等の不飽和酸ハロゲン化合物類等を例示できる。
【0027】
なお、こうして前記前駆体化合物に重合性基を導入して重合性樹脂を製造する場合、導入する重合性基の量が異なる複数種類の重合性樹脂を製造し、この複数種類の重合性樹脂を配合することが望ましい。
【0028】
(硬化)
こうして製造される重合性樹脂は、公知の硬化方法で硬化させることができる。例えば、熱硬化あるいは光硬化である。
【0029】
なお、熱硬化あるいは光硬化のために、重合性樹脂に重合開始剤を添加又は配合してい
てもよい。
【0030】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
【0031】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0032】
[非重合性樹脂]
この混合樹脂のうち、他方の樹脂は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有し、重合性のないものでよい。この非重合性樹脂も、環状化合物を開環重合して得ることができる。
【0033】
環状化合物は、前記重合性樹脂を製造する際にその原料とした環状化合物と同様でよい。例えば、環状エステル(ラクトン化合物)、そのグリコリド、あるいはラクチド等の環状ジエステルである。環状エステル(ラクトン化合物)としては、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物)等を例示することができる。
【0034】
前記重合性樹脂の場合と同様に、人体に害がない点から、ε-カプロラクトンを好ましく使用することができる。
【0035】
なお、混合樹脂の融点やガラス転移点は、前記重合性樹脂を構成する環状化合物の種類や量、環状化合物を開環重合した前駆体化合物に反応させる化合物の種類や量、非重合性樹脂を構成する環状化合物の種類や量を調製することによって調整可能である。
【0036】
[その他の成分]
本発明に係る容器は、以上の重合性樹脂の硬化物と非重合性樹脂とを主成分とする混合樹脂で構成することができるが、この混合樹脂には、その熱変形性能を阻害しない範囲で、その他の成分を添加又は配合することも可能である。例えば、金属材料又は無機材料等である。
【0037】
この混合樹脂を使用して、本発明に係る容器を製造するためには、まず、この混合樹脂を任意の形状の部材に成型する。その形状は任意でよいが、例えば、
図1に示すように、板状の部材1
1である。この板状の部材1
1は、例えば、前記混合樹脂を金型等に注入し、その後、組成物を硬化させることにより、製造することができる。
【0038】
次に、この板状の部材1
1を、その融点以上の温度に加熱し、その温度のまま外力を加えて、食用に適する大きさの前記カップ状又はお椀状の容器1
2に変形する(
図2参照)。例えば、融点以上の温度に加熱した雄型と雌型の間で加圧することによって成形する。
【0039】
こうして、融点以上の温度で成形されたカップ状又はお椀状の容器12は、それを常温に温度降下した後にも、そのカップ状又はお椀状の形状を維持する。なお、この容器12は、そのカップ状又はお椀状の形状を記憶しており、融点未満の温度で別の形状に変形された場合にも、再度ガラス転移点以上の温度に加熱することによって、元のカップ状又はお椀状の形状に変形する。
【0040】
そして、カップ状又はお椀状の形状のまま常温に温度降下した容器1
2をガラス転移点以上融点未満の温度に加熱し、その温度のまま外力を加えて、トレー状の容器1
3に変形する(
図3参照)。例えば、ガラス転移点以上融点未満の温度に加熱した雄型と雌型の間で加圧することによって成形する。
【0041】
こうして、ガラス転移点以上融点未満の温度で成形されたトレー状の容器13は、それを常温に温度降下した後にも、そのトレー状の形状を維持する。このため、このトレー状容器13に内蔵したナスの味噌汁等のフリーズドドライ食品を収容し、外装材で包装して出荷できる。外装材としては、水蒸気バリア及び酸素バリア性が高く遮光性を有する包装袋が使用できる。例えば、外層側から順に、ポリエステルフィルム、アンカーコート層、ポリエチレン層、アルミニウム箔、アンカーコート層、ポリエチレン層を積層して構成される包装フィルムで構成された背貼り袋である。そして、このように容積の小さいトレー状容器13の形態で出荷し、保管・流通され、また、店頭に並べられるから、これら保管・流通あるいは店頭陳列時に広い場所を要することがない。
【0042】
一方、喫食時には、まず、外装を外して、フリーズドドライ食品入りのトレー状の容器13を取り出し、ガラス転移点以上融点未満の温度の湯、例えば80℃の湯160mlを注ぎ入れることにより、味噌汁等のフリーズドドライ食品が復元すると同時に容器もカップ状又はお椀状の容器12に変形する。このため、別途食器を準備することなく、そのまま食することができる。
【0043】
なお、喫食後の空の容器12は、これをガラス転移点以上融点未満の温度の湯に浸し、力を加えて変形し、減容して廃棄することが可能である。例えば、80℃の湯の中に3秒間浸して加温し、30mm四方の大きさまで小さくして廃棄することができる。
【符号の説明】
【0044】
11:カップ状又はお椀状の形状を記憶する前の部材
12:カップ状又はお椀状の形状に成型された容器
13:トレー状の形状に成型された容器