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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072474
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】プライマー層形成用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240521BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240521BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240521BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240521BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/00 D
C09D167/00
C09D7/61
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183302
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 邦朗
(72)【発明者】
【氏名】清水 武洋
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038HA166
4J038JC32
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA11
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐候性に優れたプライマー層を形成できるプライマー層形成用塗料組成物を提供すること。
【解決手段】FeおよびZrが固溶しており、X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上であり、平均粒子径が5nm以上、50nm以下の範囲にある、ルチル型酸化チタン粒子、並びに、ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む、プライマー層形成用塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeおよびZrが固溶しており、
X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上であり、
平均粒子径が5nm以上、50nm以下の範囲にある、
ルチル型酸化チタン粒子、並びに、
ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む、
プライマー層形成用塗料組成物。
【請求項2】
前記樹脂の引張伸度が、100%以上、2000%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂のガラス転移温度が、0℃以下である、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項4】
前記ルチル型酸化チタン粒子のTiの含有量が、前記ルチル型酸化チタン粒子の全量に対して、TiO換算で、40質量%以上、90質量%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項5】
前記ルチル型酸化チタン粒子のFeの含有量が、Tiに対するモル%で、0.01モル%以上、5モル%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項6】
前記ルチル型酸化チタン粒子のZrの含有量が、Tiに対するモル%で、0.1モル%以上、15モル%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項7】
前記ルチル型酸化チタン粒子のSnの含有量が、Tiに対するモル%で、1モル%以上、30モル%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項8】
前記ルチル型酸化チタン粒子のSiの含有量が、Tiに対するモル%で、5モル%以上、70モル%以下の範囲にある、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【請求項9】
前記ルチル型酸化チタン粒子のZr/Feモル比が、1以上である、請求項1に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー層形成用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、特に眼鏡レンズの材料としては、無機ガラス基材に代わってプラスチック基材が使用されることが多くなっている。これは、プラスチック基材が軽量性、耐衝撃性、加工性、または染色性等の面で優れた特性を備えているばかりでなく、第二世代プラスチックレンズとしてその素材の改良、または開発が進められ、より軽量化や高屈折率化等が図られたためである。しかしながら、これらのプラスチック基材は、無機ガラス基材に比べて傷つき易いという欠点がある。
【0003】
そこで、この欠点を回避するため、プラスチック基材を用いた光学レンズの表面には、通常はシリコーン系の硬化性塗膜、すなわちハードコート層が設けられている。さらに、高屈折率のプラスチックレンズ基材を用いた場合には、このレンズとハードコート層との間に起こる光の干渉(干渉縞として現れる)を避けるため、前記ハードコート層に金属酸化物微粒子を含ませて、その屈折率を前記レンズ基材の屈折率に合わせるような処置が施されている。例えば、特許文献1には、前記金属酸化物微粒子として酸化チタン、酸化ジルコニウム、および五酸化アンチモンを含む複合酸化物微粒子を使用することが開示されている。また、特許文献2では、チタン酸化物を含有する金属酸化物微粒子を核粒子としてその表面をアンチモン酸化物からなる被覆層で被覆して構成されるコア・シェル型の金属酸化物微粒子を使用することが提案されている。また、チタン酸化物を用いることで、紫外線による基材の着色(黄変)を抑制できることも知られている。
【0004】
一方、プラスチックレンズ基材の表面にハードコート層を形成して、さらに、その上に反射防止コート層を設けた光学レンズは、耐衝撃性に劣るという欠点を有している。この欠点を解決するための手段としては、例えば特許文献3において、プラスチックレンズ基材とハードコート層との間にプライマー層を設ける技術が提案されている。
【0005】
プラスチックレンズ基材としては、近年、より高屈折率の材料が求められているため、ポリチオウレタンレンズやポリチオエポキシレンズが使用されつつある。しかし、これらの基材の中には難密着性のものもあるため、前記プライマー層を設ける必要性が一層高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-264806号公報
【特許文献2】特開2002-363442号公報
【特許文献3】特表平8-505896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの知見によれば、プライマー層においても、より高い耐候性が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、耐候性に優れたプライマー層を形成できるプライマー層形成用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、以下のプライマー層形成用塗料組成物が提供される。
[1] FeおよびZrが固溶しており、
X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上であり、
平均粒子径が5nm以上、50nm以下の範囲にある、
ルチル型酸化チタン粒子、並びに、
ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む、
プライマー層形成用塗料組成物。
[2] 前記樹脂の引張伸度が、100%以上、2000%以下の範囲にある、[1]に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[3] 前記樹脂のガラス転移温度が、0℃以下である、[1]または[2]に記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[4] 前記ルチル型酸化チタン粒子のTiの含有量が、前記ルチル型酸化チタン粒子の全量に対して、TiO換算で、40質量%以上、90質量%以下の範囲にある、[1]~[3]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[5] 前記ルチル型酸化チタン粒子のFeの含有量が、Tiに対するモル%で、0.01モル%以上、5モル%以下の範囲にある、[1]~[4]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[6] 前記ルチル型酸化チタン粒子のZrの含有量が、Tiに対するモル%で、0.1モル%以上、15モル%以下の範囲にある、[1]~[5]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[7] 前記ルチル型酸化チタン粒子のSnの含有量が、Tiに対するモル%で、1モル%以上、30モル%以下の範囲にある、[1]~[6]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[8] 前記ルチル型酸化チタン粒子のSiの含有量が、Tiに対するモル%で、5モル%以上、70モル%以下の範囲にある、[1]~[7]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
[9] 前記ルチル型酸化チタン粒子のZr/Feモル比が、1以上である、[1]~[8]のいずれかに記載のプライマー層形成用塗料組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐候性に優れたプライマー層を形成できるプライマー層形成用塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、ルチル型酸化チタンにFeおよびZrを固溶すると、光触媒活性が低い粒子を得ることができることを見出した。この粒子を含む塗膜は、その耐候性が顕著に向上する。また、ルチル型酸化チタンにFeを固溶した粒子を含む塗膜に生じやすい着色という課題も、FeおよびZrという特異的な元素の組み合わせにより解消された。さらに、本発明者らは、この粒子と、ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方とを含む塗料組成物を用いてプライマー層を形成すると、特に耐候性に優れたプライマー層が形成されることを見出した。
【0012】
本発明は、FeおよびZrが固溶しており、X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上であり、平均粒子径が5nm以上、50nm以下の範囲にある、ルチル型酸化チタン粒子、並びに、ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む、プライマー層形成用塗料組成物に関する。
【0013】
以下、本発明のプライマー層形成用塗料組成物(以下、塗料組成物ともいう。)について詳述する。
【0014】
[酸化チタン粒子]
本発明の塗料組成物は、フィラーとしてルチル型酸化チタンを含む。ルチル型酸化チタンは、他の結晶構造を有する酸化チタンと比較して光触媒活性が低いので、耐候性が高い塗膜を得るための材料として好適である。また、屈折率という点においても、ルチル型酸化チタンは他の結晶構造を有する酸化チタンと比較して大きいので、例えば光学材料として好適に用いることができる。さらに、他の結晶構造を有する酸化チタンと比較してバンドギャップが狭く、紫外線(UV)吸収能に優れるため、UV吸収材料としても好適に用いることができる。このようなUV吸収能を有する材料を基材に塗布した場合、基材のUV劣化を抑制し、塗膜付基材の耐候性を向上させることができる。酸化チタンの他の結晶構造として、アナターゼ型、およびブルッカイト型等があり、これらはX線回折測定によって判別することができる。
【0015】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子のTi含有量は、ルチル型酸化チタン粒子の全量に対して、TiO換算で40質量%以上、90質量%以下の範囲にあることが好ましく、45質量%以上、80質量%以下の範囲にあることがより好ましく、50質量%以上、70質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。Tiの含有量が少なすぎると、屈折率およびUV吸収能が低下しやすくなる。また、Tiの含有量が多すぎても、光触媒活性が高くなってしまう。したがって、Tiの含有量が前述の範囲にあると、屈折率およびUV吸収能が高く、光触媒活性が低いルチル型酸化チタン粒子が得られる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0016】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子は、FeおよびZrが固溶している。一般に固溶とは、2種類以上の元素(金属の場合も非金属の場合もある)が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものを意味する。このような固溶体は、置換型固溶体と侵入型固溶体とに分類される。置換型固溶体または侵入型固溶体のどちらであっても、FeおよびZrが固溶すれば、ルチル型酸化チタンの結晶格子は変動する。このような結晶格子の変動は、X線回折測定によって観測することができる。本発明の酸化チタン粒子についていえば、FeとZrとが固溶すると、X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上となる。
【0017】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子のFe含有量は、Tiに対するモル%で(Tiの量を100モル%とした場合に)、0.01モル%以上、5モル%以下の範囲にあることが好ましく、0.05モル%以上3モル%以下の範囲にあることがより好ましく、0.08モル%以上、2モル%以下の範囲にあることが特に好ましい。Feの含有量が前述の範囲にあると、ルチル型酸化チタン粒子の光触媒活性が低くなるとともに、着色も少なくなる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0018】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子のZr含有量は、Tiに対するモル%で、0.1モル%以上、15モル%以下の範囲にあることが好ましく、1モル%以上、10モル%以下の範囲にあることがより好ましく、3モル%以上、7モル%以下の範囲にあることが特に好ましい。FeとともにZrが固溶された本発明の酸化チタン粒子は、それぞれが単独で固溶された酸化チタン粒子に対して、顕著に光触媒活性が低くなる。この相乗効果により、Feを固溶した際に生じる着色を最小限に抑えながら、光触媒活性を低下させることができる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0019】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子のFeとZrのモル比(Zr/Fe)は、1以上であることが好ましく、1以上、60以下の範囲にあることがより好ましく、1以上、30以下の範囲にあることがさらに好ましく、1以上、15以下の範囲にあることが特に好ましい。FeとZrのモル比が前述の範囲にあると、より光触媒活性が低く、着色が少ないルチル型酸化チタン粒子を得ることができる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0020】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子は、Ti、Fe、およびZr以外の元素を含むことが好ましい。具体的には、Sn、Si、K、およびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、特にSn、またはSiを含むことが好ましい。Snは、ルチル型酸化チタンの結晶性を高める働きがあり、アナターゼ型等のルチル型以外の結晶構造が生成することを抑制する。これにより、ルチル型酸化チタン粒子の耐候性がより向上するとともに、透明性も高くなる。この観点から、Snの含有量は、Tiに対するモル%で1モル%以上、30モル%以下の範囲にあることが好ましく、3モル%以上、20モル%以下の範囲にあることがより好ましく、5モル%以上、15モル%以下の範囲にあることが特に好ましい。また、Siは、ルチル型酸化チタン粒子の光触媒活性をさらに低下させる。この観点から、Siの含有量は、Tiに対するモル%で、5モル%以上、70モル%以下の範囲にあることが好ましく、10モル%以上、50モル%以下の範囲にあることがより好ましく、15モル%以上、40モル%以下の範囲にあることが特に好ましい。Ti、Fe、およびZr以外の元素の含有量は、Tiに対するモル%で、5モル%以上、120モル%以下の範囲にあることが好ましく、10モル%以上、70モル%以下の範囲にあることがより好ましく、20モル%以上、50モル%以下の範囲にあることが特に好ましい。Ti、Fe、およびZr以外の元素の含有量が前述の範囲にあると、屈折率が高く、光触媒活性が低いルチル型酸化チタン粒子を得ることができる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0021】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子は、その表面に被覆層が形成された被覆粒子であることが好ましい。例えば、Zr、Si、Al、およびSb等から選ばれる少なくとも1種の元素を含む被覆層が形成されていると、ルチル型酸化チタン粒子の光触媒活性をより低下させることができる。特に、Si、およびZrのいずれか一方または両方を含む被膜層が形成されていると、光触媒活性をより低下させることができ、水、またはアルコール等の極性溶媒中における分散性も良好になりやすい。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、基材との密着性が高いプライマー層が得られる。
【0022】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子の表面または被覆層の表面は、シランカップリング剤等の有機ケイ素化合物またはアミン系化合物で表面処理された表面処理層を有することが好ましい。これらの表面を有機ケイ素化合物またはアミン系化合物で改質すると、塗料組成物中に含まれる樹脂や有機溶媒成分への分散性が高くなる。
【0023】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子が備える被覆層の割合は、被覆粒子の全量に対して、酸化物換算で、1質量%以上、30質量%以下の範囲にあることが好ましく、1質量%以上、20質量%以下の範囲にあることがより好ましく、3質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。Zr、Si、AlおよびSbを含む被覆層の場合、それぞれ、ZrO、SiO、Al、またはSbに換算して、被覆層の量を算出する。それ以外の元素を含む場合は、原料の価数から酸化物を推定するものとする。例えば、KOH由来のKが含まれているのであれば、KOとして換算するものとする。製造工程において原料の価数に変動がある場合は、最終的に得られる被覆粒子のX線光電子分光測定(XPS測定)することで、元素の価数を特定するものとする。具体的には、XPS測定により得られスペクトルから、それぞれの価数に帰属されるピークを特定し、最もピーク強度の大きいピークの価数を基準として、酸化物を推定するものとする。例えば、Cu、およびCu2+のピークが現れ、Cu2+のピークの方が、Cuのピーク強度より強ければ、CuOとして換算するものとする。また、表面処理層の割合は、被覆粒子の全量に対して、1質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが好ましく、2質量%以上、9質量%以下の範囲にあることがより好ましく、3質量%以上、8質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。表面処理層の割合は、表面処理層に含まれる無機成分を酸化物換算して算出するものとする。例えば、シランカップリング剤に由来する表面処理層を含む場合は、表面処理層に含まれるSiをSiO換算して算出する。
【0024】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子の平均粒子径は、5nm以上、50nm以下の範囲にあり、8nm以上、40nm以下の範囲にあることが好ましく、10nm以上、30nm以下の範囲にあることがより好ましい。ルチル型酸化チタン粒子の平均粒子径が前述の範囲にある本発明の塗料組成物を用いると、プライマー層を形成する際に、緻密な塗膜が形成されやすい。本発明において、平均粒子径の値は、電子顕微鏡を用いて一次粒子の大きさを測定し、その平均をとったものである。
【0025】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子の屈折率は、1.8以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、2.1以上であることが特に好ましい。このように高い屈折率を有するルチル型酸化チタン粒子は、光学材料用として好適に使用できる。屈折率の上限は、特に限定されないが、3以下であってもよい。
【0026】
本発明の塗料組成物に含まれる酸化チタン粒子の黄色度(YI値)は、58以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。Feがルチル型酸化チタンに固溶すると、この値が大きくなり、黄色みが強くなる。しかしながら、FeとともにZrを固溶することで、Feが少なくても高い光触媒活性抑制効果を発揮することができるため、低着色と高耐候性の両立が実現できる。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高く透明なプライマー層が得られる。
【0027】
本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子の光触媒活性は、ルチル型酸化チタン粒子と染料を混合した系に紫外線を3時間照射し、照射前後の吸光度の変化率(退色率)から求めることができる。ルチル型酸化チタン粒子の退色率は、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。光触媒活性が高いと退色率は高くなり、光触媒活性が低い場合は退色率も低くなる。本発明の塗料組成物に含まれるルチル型酸化チタン粒子は、この退色率が低く、すなわち光触媒活性が低い。このようなルチル型酸化チタン粒子を含む本発明の塗料組成物を用いると、耐候性が高いプライマー層が得られる。
【0028】
[樹脂]
本発明の塗料組成物は、ポリウレタン樹脂、およびポリエステル樹脂の少なくとも一方を含む。本発明の塗料組成物は、前述のルチル型酸化チタン粒子とこれらの樹脂の組み合わせによって、より耐候性が高いプライマー層が得られる。この理由は明確ではないが、Fe、Zrが固溶したルチル型酸化チタン粒子とこれらの樹脂の組み合わせによって耐候性が高まったものと考えられる。本発明の塗料組成物に含まれる樹脂とフィラーの質量比(樹脂/フィラー)は、30/70以上、90/10以下の範囲にあることが好ましい。
【0029】
本発明の塗料組成物に含まれる樹脂の引張伸度は、100%以上、2000%以下の範囲にあることが好ましく、200%以上、1500%未満の範囲にあることがより好ましく、250%以上、1000%未満の範囲にあることが特に好ましく、290%以上、900%未満であることが極めて好ましい。樹脂の引張伸度が前述の範囲にあると、より耐衝撃性に優れかつ密着性に優れたプライマー層が形成されやすくなる。
【0030】
本発明の塗料組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。樹脂のガラス転移温度が前述の範囲にあると、より耐衝撃性に優れかつ密着性に優れたプライマー層が形成されやすくなる。
【0031】
[溶媒]
本発明の塗料組成物は、溶媒を含む。前記溶媒は、樹脂およびルチル型酸化チタン粒子の分散性を良好にするため、溶媒は水と有機溶媒の混合溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、およびオクタノール等のアルコール類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、およびγ-ブチロラクトン等のエステル類;
ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、およびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、およびシクロヘキサノン等のケトン類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、およびエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;
シクロヘキサン等の環状炭化水素;並びに;
ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、およびN-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。前記溶媒の含有量は、塗料組成物の全量に対して、60質量%以上、99.8質量%以下の範囲にあることが好ましく、70質量%以上、98質量%以下の範囲にあることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0032】
[プライマー層を含む塗膜付基材]
本発明の塗料組成物は、ガラス、またはプラスチック等の各種基材に塗布することで、基材の表面にプライマー層が形成される。このように、プライマー層が形成された基材は、必要によってハードコート層、反射防止層、紫外線カット層等がプライマー層の上に形成され、塗膜付基材が得られる。前記膜付基材は、眼鏡レンズ、およびカメラ等の各種光学レンズ、光学ディスプレイの前面板、ショーウィンドケース、窓ガラス、複写機用コンタクトガラス、自動車用ライトカバーおよび各種の紫外線遮蔽用フィルター等の光学用基材として用いることができる。本発明の塗料組成物を用いて得られたプライマー層を含む塗膜付基材は、高い耐候性を備えているので、前述の用途において好適に使用される。また、本発明の塗料組成物を用いてプライマー層を形成する場合、基材の種類は、チオウレタン系またはポリカーボネート系の基材であることが好ましい。
【0033】
[本発明の塗料組成物の製造方法]
本発明の塗料組成物は、例えば、以下(1)~(3)の工程を備える製造方法を用いて調製することができる。なお、本発明の塗料組成物の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。
(1)ルチル型酸化チタン粒子を含む分散液調製工程
(2)樹脂分散液調製工程
(3)混合工程
以下、本発明の塗料組成物の調製方法について、詳述する。
【0034】
[(1)ルチル型酸化チタン粒子を含む分散液調製工程]
この工程では、FeおよびZrが固溶しており、X線回折測定により得られる(110)面の面間隔が0.3250nm以上であり、平均粒子径が5nm以上、50nm以下の範囲にある、ルチル型酸化チタン粒子を含む分散液を調製する。このようなルチル型酸化チタン粒子は、例えば、以下(A)~(C)の工程を経て調製することができる。
(A)共沈ゲル調製工程
(B)熱処理前駆体調製工程
(C)水熱処理工程
【0035】
(A)共沈ゲル調製工程
この工程では、Ti、Fe、およびZrを含む水溶液を中和して、Ti、Fe、およびZrを含む共沈ゲルを調製する。Ti、Fe、およびZrを含む共沈ゲルを調製することで、最終的に得られるルチル型酸化チタンへのFeおよびZrの固溶がより促進される。
【0036】
Ti、Fe、およびZrを含む水溶液は、Ti源、Fe源、およびZr源を水に溶解して調製することができる。Ti源は、四塩化チタン、硫酸チタン、およびチタンアルコキシド等の従来公知の原料を使用することができる。また、Fe源は、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、および酢酸鉄等の従来公知の原料を使用することができる。さらに、Zr源は、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、および硝酸ジルコニウム等の従来公知の原料を使用することができる。また、Ti、Fe、およびZrを含む水溶液のpHは、3以下であることが好ましい。
【0037】
この工程では、前述の水溶液を中和するために、pHが10以上のアルカリを使用することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはアンモニア等が水に溶解したアルカリ水溶液を用いることができる。pHが4以上、10以下の範囲となるまで前述の水溶液とアルカリ水溶液とを混合することで、Ti、Fe、およびZrを含む共沈ゲルが生成する。この共沈ゲルは、濾過により回収することができ、必要によって水等を用いて洗浄してもよい。
【0038】
(B)水熱処理前駆体調製工程
この工程では、前述の工程で得られた共沈ゲルを水に再分散し(解膠し)、水熱処理前駆体を調製する。共沈ゲルを解膠する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、共沈ゲルを水に分散させて超音波処理する方法、酸またはアルカリを用いて水に分散させる方法等を用いることができる。また、過酸化水素水を用いて解膠してもよい。このとき、最終的に得られる水熱処理前駆体中の固形分の濃度が10質量%以下となるように、水の量を調整することが好ましい。
【0039】
この工程で得られた水熱処理前駆体に含まれる固形分の平均粒子径は、5nm以上、50nm以下の範囲にあることが好ましく、10nm以上、40nm以下の範囲にあることがより好ましく、15nm以上、30nm以下の範囲にあることが特に好ましい。共沈ゲル水分散液に含まれる固形分の平均粒子径が大きくなると、最終的に得られるルチル型酸化チタンの平均粒子径も大きくなりやすい。したがって、共沈ゲル分散液に含まれる固形分の平均粒子径は、前述のルチル型酸化チタン粒子の平均粒子径と近くなるように調整することが好ましい。
【0040】
この工程では、共沈ゲルを解膠した後、特定の元素成分を添加してもよい。例えば、Sn、Si、またはAl等の元素を含む原料を添加してもよい。これらの原料は、水溶性の原料であることが好ましい。また、水溶性でない場合は、ゾルのような微細な粒子の状態で分散している原料が好ましい。このとき、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属等を含む塩を原料として用いる場合は、原料を溶解した後、陽イオン交換樹脂等を用いて、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属を除去することが好ましい。
【0041】
(C)水熱処理工程
この工程では、前述の工程で得られた水熱処理前駆体を水熱処理して、FeおよびZrが固溶したルチル型酸化チタン粒子を調製する。この工程では、オートクレーブ等の従来公知の器機を用いて、水熱処理前駆体を水熱処理することができる。水熱処理の温度は、100℃以上、250℃以下の範囲にあることが好ましく、120℃以上、220℃以下の範囲にあることがより好ましく、130℃以上、210℃以下の範囲にあることが特に好ましい。前述の温度域における保持時間は、1時間以上、48時間以下であることが好ましく、5時間以上、24時間以下であることがより好ましく、10時間以上、20時間以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0042】
水熱処理を行った後の液中にはルチル型酸化チタンが含まれており、必要によって分離、および洗浄等を行ってもよい。また、分離したルチル型酸化チタンを焼成して、その結晶性を高めることもできる。
【0043】
ルチル型酸化チタン粒子の表面に被覆層を形成する場合は、例えば、特開2009-155496号公報に記載の方法により形成することができる。また、同公報に記載の方法を用いて、その表面または被覆層の表面を疎水化処理(表面処理)することもできる。
【0044】
前述のルチル型酸化チタン粒子を溶媒に分散する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、前述の酸化チタン粒子が粉末状である場合は、水、または有機溶媒等に添加した後、ビーズミル処理、または超音波処理等の分散処理を行うことで、分散液を調製することができる。このとき、分散液中の固形分の濃度を10質量%以下とすると、溶媒中に前述の酸化チタン粒子をより分散させやすくなる。また、前述の酸化チタン粒子のゼータ電位を測定し、分散に好適な範囲となるように、pHを調整することもできる。
【0045】
この工程における溶媒は水と有機溶媒の混合溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、前述のとおりのものを使用できる。
【0046】
[(2)樹脂分散液調製工程]
この工程では、ポリウレタン樹脂、およびポリエステル樹脂の少なくとも一方が溶媒に分散した樹脂分散液を調製する。このような樹脂分散液は、例えば、市販の樹脂エマルションを購入して使用してもよく、粉末状の樹脂を溶媒に分散して調製してもよい。この工程における溶媒は、樹脂が溶媒中に分散することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0047】
[(3)混合工程]
この工程では、前述の工程で得られたルチル型酸化チタン粒子を含む分散液と、樹脂分散液とを混合して、本発明の塗料組成物を調製する。混合の方法は、従来公知の方法を用いることができる。
【0048】
[プライマー層を含む塗膜付基材の製造方法]
本発明の塗料組成物を使用してプライマー層を含む塗膜付基材を製造する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のプライマー層形成用塗料組成物をディッピング法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法、またはバーコーター法等の従来公知の方法で基材に塗布し、乾燥させ、加熱処理または紫外線照射等によって硬化させる方法で調製することができる。
【0049】
基材としては、ガラス、またはプラスチック等からなる各種基材が挙げられ、具体例としては光学レンズ等として使用されるプラスチック基材が挙げられる。本発明においては、チオウレタン系の基材、またはポリカーボネート系の基材が好適である。基材に形成するプライマー層の膜厚は、0.2μm以上、5μm以下の範囲にあることが好ましく、0.4μm以上、3μm以下の範囲にあることがより好ましい。
【実施例0050】
調製例、参考例および実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[調製例および参考例で得られたルチル型酸化チタン粒子の測定方法ないし評価方法]
各種測定ないし評価は、以下の[1]~[10]の方法で行った。
【0051】
[1]平均粒子径
測定試料の形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、S-5500)を用いて、30kVの加速電圧で観察した。観察用の試料は、以下のように作製した。測定試料の水分散ゾルを水で固形分濃度0.05質量%に希釈した後、コロジオン膜付金属グリッド(応研商事(株)製)に塗布し、250Wの赤外線ランプを30分間照射して溶媒を蒸発させて観察用の試料を作成した。得られたSEM像を印刷し、一次粒子100個についてノギスにて粒子径を計測し、その平均値を平均粒子径とした。なお、粒子の形状に異方性がある場合は、その長径を粒子径とした。
【0052】
[2]固形分濃度
測定試料に含まれる溶媒を赤外線照射等により除去した後、残渣を1000℃で1時間焼成して強熱残分(固形分)を得た。試料の質量に対する強熱残分の質量の割合を固形分濃度とした。
【0053】
[3]粒子組成の測定方法
(チタニウム、スズ、ケイ素、鉄およびアンチモン)
測定試料(酸化チタン粒子等の無機酸化物粒子)の水分散液をジルコニアるつぼに採取し、赤外線照射により水分を除去した後、得られた乾燥物を、NaとNaOHを加えて加熱し、溶融させた。得られた溶融物に、さらに、硫酸および塩酸を加え、希釈のために水を加えた。
ICP装置((株)島津製作所製、ICPS-8100)を用いて、得られた溶液中のチタニウム、スズ、ケイ素、鉄およびアンチモンの量を酸化物換算(TiO、SnO、SiO、FeおよびSb)で測定した。
【0054】
(ジルコニウム、モリブデン、およびアルミニウム)
測定試料の水分散液を白金皿に採取し、フッ化水素酸と硫酸を加えて加熱した後、水を加えて、無機酸化物粒子を溶解させた。さらに、これを水で希釈した後、ICP装置((株)島津製作所製、ICPS-8100)を用いてジルコニウム、モリブデンおよびアルミニウムの量を酸化物換算(ZrO、MoOおよびAl)で測定した。
(カリウム)
測定試料の水分散液を白金皿に採取し、フッ化水素酸と硫酸を加えて加熱し、塩酸を加えて、固形分を溶解させた。さらに、これを水で希釈した後、原子吸光装置((株)日立製作所製、Z-5300)を用いてカリウムの量を酸化物換算(KO)で測定した。
【0055】
[4]粒子の結晶構造解析
測定試料の水分散液を、磁製ルツボ(B-2型)に固形分重量として2g分を採取し、110℃で12時間乾燥させた後、残渣をデシケーターに入れて室温まで冷却した。次に、残渣と少量のチタン酸ストロンチウム((株)高純度化学研究所製)を混合して15分間粉砕した後、X線回折装置SmartLab((株)リガク製)を用いて粉末X線回折を測定した。得られた回折パターンについては、PDXL2version2.7.2.0のソフトウェアを用いてピーク位置の特定を行い、少量混合したチタン酸ストロンチウムの(110)面に由来するピーク(2θ)が32.374degとなるように補正した。測定条件およびデータ解析の詳細については以下の通りとした。
・測定条件
測定装置:粉末X線回折測定装置SmartLab((株)リガク製)
X線発生装置:9kW開放管(CuKα線源、電圧45kV、電流200mA)
Soller/PSC:5.0deg
IS長手:10.0mm
PSA:なし
Soller:5.0deg
IS:1/2
RS1:13mm
RS2:20mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-70deg
スキャンスピード:5deg/min
X線検出器:高速1次元X線検出器(D/TeXUltra250)
測定雰囲気:大気下
試料台:Al製試料ホルダー(底なし)
・データ解析
解析ソフトウェア:統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2Version2.7.2.0((株)リガク製)
平滑化:B-Splneによる平滑化(X閾値1.5)
バックグラウンド除去:フィッティング方式
Kα2除去:強度比0.497
ピークサーチ:2次微分法、σカット値=3、σカット範囲0.5~20.0
プロファイルフィッティング方法:測定データに対してフィッティング
プロファイルフィッティングピーク形状:分割型擬Voigt関数
【0056】
[5]酸化チタン粒子の光触媒活性抑制効果の評価(退色速度の測定)
Tiの質量濃度(TiO換算)が0.335%かつ、水/メタノール=1/1(質量比)となるように、酸化チタン粒子分散液に適宜溶媒を加えた。次いで、得られた分散液と固形分濃度0.02質量%のサンセットイエローFCF染料のグリセリン溶液とを質量比(分散液質量/グリセリン溶液質量)が1/3となるように混合して試料を調製し、これを奥行き1mm、幅1cm、高さ5cmの石英セルに入れた。次に、I線(波長365nm)の波長域が選択された紫外線ランプ(アズワン(株)製、LUV-6)を用いて、前記石英セルの幅1cm×高さ5cmの面に対して強度が0.4mW/cm(波長365nm換算)となるように距離を調整し、紫外線を照射した。
【0057】
前記試料の波長490nmにおける紫外線照射前の吸光度(A0)およびn時間紫外線照射後の吸光度(An)を紫外可視光分光光度計(日本分光(株)製、V-550)で測定し、以下の式からUV照射3時間時点での染料の退色率(SY退色率)を算出した。
退色率=(An-A0)/A0×100(%)
【0058】
[6]塗膜の膜厚および屈折率の測定方法
光学測定装置(オリンパス(株)製、USPM-RUIII)を用いて塗膜および塗布基板の反射率スペクトルを測定し、塗膜の膜厚および屈折率を算出した。
【0059】
[7]粒子屈折率の測定方法
特開2010-168266号公報の[0105]~[0110]に記載の方法により、酸化チタン粒子とマトリックスとの比が異なる塗膜を複数作製し、上記の方法で各塗膜の屈折率を求めて、それらから粒子屈折率を算出した。
【0060】
[8]熱硬化塗膜の耐候性評価
熱硬化塗膜付基材について、耐候性試験機(Q-Lab社製、紫外線蛍光ランプ式促進耐候試験機QUV)を用いて耐候性試験を行い、目視でクラックが確認されるまでの時間を評価した。耐候性試験条件は、以下のステップ1、2および3を1サイクル(12時間)として、クラックの有無を目視観察した。
[耐候性試験条件]
・ステップ1:UV照射(光源:UVA-340、放射強度:0.70W/m、温度:60℃、時間:8時間)
・ステップ2:結露(光源:無し、温度:50℃、時間:4時間)
・ステップ3:ステップ1に戻る。
[評価方法]
・環境:10ルクス以下
・観察方法:LEDライトを熱硬化塗膜付基材の横方向から照射しクラックの有無を目視観察した。
【0061】
[9]酸化チタン粒子の着色量評価(YI値)
酸化チタン粒子を水分散体として固形分濃度が5質量%となるように調整して、光路長10mmの石英セルに入れ、その吸収スペクトルを紫外可視光分光光度計(日本分光(株)製、V-750)にて測定し、標準イルミナントD65におけるXYZ表色系に換算した。このXYZ表色系から、JISK7373:2006に定める標準イルミナントD65を使用し、XYZ表色系を用いる場合のYI値の求め方に則り、下記の式でYI値を算出した。
YI=100(1.2985X-1.1335Z)/Y
【0062】
[10]Bayer試験
磨耗試験機BTE(COLTSLaboratories社製)およびヘーズ値測定装置(日本電色工業(株)製、NDH5000)を使用し、プラスチックレンズ基板(後述する試験片。以下「被試験レンズ」ともいう。)と基準レンズとのヘーズ値の変化に基づいてBayer値を算出した。基準レンズとしては、市販のプラスチックレンズ基材であるCR-39(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、PPG社製モノマー使用、基材の屈折率1.50)を使用した。
具体的には、まずそれぞれのレンズのヘーズ値を測定し、基準レンズの初期ヘーズ値をD(std0)、被試験レンズの初期ヘーズ値をD(test0)とした。それぞれのレンズを上記磨耗試験機のパンに設置し、その上に専用砂(Kryptoniteβ)500gを充填し、パンを150回/分で4分間(計600回)左右に振動させた。振動後のレンズのヘーズ値を測定し、基準レンズのヘーズ値をD(stdf)、被試験レンズのヘーズ値をD(testf)とした。Bayer試験値(R)を以下の数式から算出した。
R=[D(stdf)-D(std0)]/[D(testf)-D(test0)]
【0063】
[調製例1:酸化チタン粒子1]
[酸化チタン粒子を含む水分散ゾルの調製]
(A)共沈ゲル調製工程
TiをTiO換算で7.75質量%含む四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ(株)製)668gと、FeをFe換算で7.75質量%含む塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)の水溶液6.03gと、ZrをZrO換算で7.75質量%含むオキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)54.7gと、アンモニアを15質量%含むアンモニア水(宇部興産(株)製)とを混合し、pH9.5の白色スラリーを調製した。次いで、このスラリーを濾過した後、濾物を水で洗浄して、固形分濃度が10質量%でFe、ZrおよびTiを含む共沈ゲルを560g得た。
【0064】
(B)水熱処理前駆体調製工程
前述の工程で得られた共沈ゲル202gに、過酸化水素を35質量%含む過酸化水素水(三菱瓦斯化学(株)製)347gおよび水1145gを加えた後、80℃、1時間撹拌し、さらに水328gを加えて、共沈ゲルの解膠液を2020g得た。この解膠液は、黄色透明であり、そのpHは8.5であり、解膠液中の粒子の平均粒子径(動的散乱法(大塚電子(株)製、ELSZ)を用いて得られた粒度分布データから、キュムラント解析を用いて算出した値)は25nmであった。
【0065】
この解膠液(2020g)に陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)を混合した後、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO換算で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液273gを撹拌下で徐々に添加した。
【0066】
得られた解膠液に含まれる陽イオン交換樹脂を分離した後、アルミニウムをAl換算で0.4質量%含有するシリカゾル(平均粒子径16nm(動的散乱法を用いて得られた値)、比表面積375m/g、pH2.2、固形分濃度16質量%:特開2009-197078号公報の実施例1「シリカゾルの調製」に記載された方法を参考に調製)32.5gおよび水508gを混合して、水熱処理前駆体を調製した。
【0067】
(C)水熱処理工程
前述の工程で得られた水熱処理前駆体をオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、5L)中で165℃、18時間、加熱した。これを室温まで冷却して、ゾル状の反応物を回収した。この反応物を、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、SIP-1013、SIP-0013)で濃縮して、固形分濃度が10質量%の水分散ゾル270gを得た。
【0068】
得られた水分散ゾルに含まれる粒子は、ルチル型結晶構造を有し、鉄、ジルコニウム、スズ、ケイ素、アルミニウムおよびカリウムを含む酸化チタン粒子であった。この酸化チタン粒子の組成(Ti含有量(TiO換算)、添加元素含有量(Tiに対するモル%)、Zr/Feモル比)および諸物性、各評価結果を表1に示す。なお、添加元素を鉄、ジルコニウム、スズおよびケイ素として各含有量を算出すると、それぞれ、Feが0.07mol%であり、Zrが4.0mol%であり、Snが5.3mol%であり、Siが19.7mol%であった。
【0069】
[塗膜形成用塗料の調製]
オキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)をZrO換算で2質量%含むオキシ塩化ジルコニウム水溶液2.63kgに、アンモニアを15質量%含むアンモニア水を撹拌下で徐々に添加して、pH8.5のスラリーを得た。次いで、このスラリーを濾過して得られた固形分を、水で洗浄して、ZrO換算で10質量%含むジルコニアケーキ526gを得た。
【0070】
前述のケーキ20gに水180gを加え、さらに水酸化カリウム(関東化学(株)製)を85質量%含む水酸化カリウム顆粒4.0gを加えて系内をアルカリ性にした後、過酸化水素を35質量%含む過酸化水素水40gを加えて、50℃の温度に加熱してこのケーキを溶解した。さらに、水156gを加えて、ZrO換算で0.5質量%含む過酸化ジルコン酸水溶液を400g得た。この過酸化ジルコン酸水溶液のpHは12.9であった。
【0071】
前述の工程で得られた酸化チタン粒子を含む水分散ゾルを水で希釈し、固形分濃度2質量%のゾル700gを調製した。このゾルに前述の工程で得られた過酸化ジルコン酸水溶液を196g室温下で添加、撹拌して、過酸化ジルコン酸水溶液混合物を得た。
【0072】
前述の工程で得られた過酸化ジルコン酸水溶液混合物を温度60℃、6時間で加熱処理した後、室温まで冷却した。これを、固形分濃度が0.1質量%となるように水にて希釈した後、オートクレーブにて温度165℃、18時間の水熱処理を行った。反応物を取り出した後に限外濾過膜装置(旭化成(株)製、SIP-1013、SIP-0013)で濃縮して、固形分濃度が10質量%のジルコニア被覆酸化チタン粒子の水分散液145gを得た。
【0073】
前述の工程で得られた水分散液140gを、表面処理剤としてテトラエトキシシラン(多摩化学工業(株)製)10.7gを溶解したメタノール溶液に、撹拌下で添加した。次に、得られた混合液を50℃の温度にて6時間加熱した後、室温まで冷却してから、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、SIP-0013)を用いて混合液中の分散媒を水からメタノールに置換した後、さらに濃縮して、固形分濃度が20質量%のメタノール分散液を得た。
【0074】
前述の工程で得られたメタノール分散液6.63gを撹拌し、精製水1.97g、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)3.02gを加えた。さらに室温で一時間撹拌して、前記メタノール分散液とγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランの共加水分解を行った。
【0075】
次いで、この混合液に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)を6.92g、アセチルアセトンアルミニウム(キシダ化学(株)製)を0.071g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L-7001)を0.071g加えて、室温で一時間撹拌した後、室温にて48時間静置した。これにより、熱硬化性塗膜形成用塗料を調製した。
【0076】
[塗膜付基材の作製]
[プラスチックレンズ基材の前処理]
市販の屈折率1.60のプラスチックレンズ基材(三井化学(株)製の「モノマー名:MR-8」、チオウレタン系)を必要な枚数準備し、温度40℃に保った8質量%濃度のNaOH水溶液に10分間浸漬してエッチング処理を行った。さらに、これを取り出して水洗した後、十分に乾燥させた。
【0077】
前述の工程で得られたプラスチックレンズ基材の表面に、前述の工程で得られた熱硬化性塗膜形成用塗料を塗布し、塗膜を形成した。この塗料の塗布にはスピンコート法を用い、硬化後の膜厚が2.5μmとなるように条件を調整した。前記塗膜を温度80℃で10分、次いで温度120℃で1時間、加熱処理して硬化させ、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0078】
[調製例2:酸化チタン粒子2]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄水溶液を17.7g加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0079】
[調製例3:酸化チタン粒子3]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)水溶液を60.3g加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0080】
[調製例4:酸化チタン粒子4]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)水溶液を106g加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0081】
[調製例5:酸化チタン粒子5]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、解膠液(2020g)に対して、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO換算で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液205gを加えること以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0082】
[調製例6:酸化チタン粒子6]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、解膠液(2020g)に対して、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO換算で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液410gを加えること以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0083】
[調製例7:酸化チタン粒子7]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、ZrをZrO換算で7.75質量%含むオキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)の量を5.47gとすること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0084】
[調製例8:酸化チタン粒子8]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、ZrをZrO換算で7.75質量%含むオキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)の量を9.30gとすること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0085】
[調製例9:酸化チタン粒子9]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、ZrをZrO換算で7.75質量%含むオキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)の量を27.4gとすること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0086】
[調製例10:酸化チタン粒子10]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、ZrをZrO換算で7.75質量%含むオキシ塩化ジルコニウム(太陽鉱工(株)製)の量を82.1gとすること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0087】
[調製例11:酸化チタン粒子11]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、解膠液(809g)に対して、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO換算で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液1483gを加えること以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0088】
[調製例12:酸化チタン粒子12]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、解膠液(353g)に対して、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO換算で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液1943gを加えること以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0089】
[調製例13:酸化チタン粒子13]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、アルミニウムをAl換算で0.4質量%含有するシリカゾル(平均粒子径16nm(動的散乱法を用いて得られた値)、比表面積375m/g、pH2.2、固形分濃度16質量%:特開2009-197078号公報の実施例1「シリカゾルの調製」に記載された方法を参考に調製)の添加量を24.8g、次いで添加する水の量を388gとする以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0090】
[調製例14:酸化チタン粒子14]
調製例3のルチル型酸化チタン粒子調製(B)水熱処理前駆体調製工程において、アルミニウムをAl換算で0.4質量%含有するシリカゾル(平均粒子径16nm(動的散乱法を用いて得られた値)、比表面積375m/g、pH2.2、固形分濃度16質量%:特開2009-197078号公報の実施例1「シリカゾルの調製」に記載された方法を参考に調製)の添加量を53.8g、次いで添加する水の量を841gとする以外は、調製例3と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表1に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0091】
[調製例15:酸化チタン粒子15]
調製例3と同様にして得られた熱硬化性塗膜形成用塗料を用い、スピンコート条件を硬化後の膜厚が0.1μmとなるように調整した以外は同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表1に示す。
【0092】
[参考例1:参考酸化チタン粒子1]
調製例1で得た酸化チタン粒子の代わりに酸化チタン粒子(酸化チタン(IV)、ルチル型、-5μm、99.9%(富士フイルム和光純薬(株)製))を用いること以外は、調製例1と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。これら酸化チタン粒子および熱硬化塗膜付基材の評価結果等を表2に示す。
【0093】
[参考例2:参考酸化チタン粒子2]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄水溶液およびオキシ塩化ジルコニウムを加えないこと以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0094】
[参考例3:参考酸化チタン粒子3]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、オキシ塩化ジルコニウムを加えないこと以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0095】
[参考例4:参考酸化チタン粒子4]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、オキシ塩化ジルコニウムを加えないこと、塩化第二鉄水溶液を177g加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0096】
[参考例5:参考酸化チタン粒子5]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、FeをFe換算で7.75質量%含む塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)水溶液を加えないこと以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0097】
[参考例6:参考酸化チタン粒子6]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)水溶液を加えずにMoをMoO換算で7.75質量%含む塩化モリブデン(V)(富士フイルム和光純薬(株)製)を109g加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、調製例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0098】
[参考例7:参考酸化チタン粒子7]
調製例1のルチル型酸化チタン粒子調製(A)共沈ゲル調製工程にて、塩化第二鉄(東亜合成(株)製、高品位過鉄)水溶液を加えずに塩化アンチモン(III)13.4gを加えること以外は、調製例1と同様の方法で水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾルに含まれる粒子の組成および諸物性、各評価結果を表2に示す。また、この水分散ゾルを用いたこと以外は、実施例1の塗膜形成用塗料調製および熱硬化塗膜付基材調製と同様にして、熱硬化塗膜付基材を得た。この熱硬化塗膜付基材の評価結果を表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例で得られた塗料組成物およびこれを用いて得られたプライマー層を含む塗膜付基材の測定方法ないし評価方法]
各種測定ないし評価は、以下[11]~[19]の方法で行った。
【0102】
[11]外観(干渉縞)
内壁が黒色である箱の中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック(株)製、三波長型昼白色蛍光灯)を取り付け、蛍光灯の光を各実施例に記載された塗膜付基材の表面で反射させ、光の干渉による虹模様(干渉縞)の発生を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
A:干渉縞が殆ど無い。
B:干渉縞が目立たない。
C:干渉縞が目立つ。
D:ぎらつきのある干渉縞がある。
【0103】
[12]外観(曇り)
内壁が黒色である箱の中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック(株)製、三波長型昼白色蛍光灯)を取り付け、各実施例に記載された塗膜付基材を蛍光灯の直下に垂直に置き、これらの透明度(曇りの程度)を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
A:曇りが無い。
B:僅かに曇りがある。
C:明らかな曇りがある。
D:著しい曇りがある。
【0104】
[13]耐擦傷性試験
各実施例に記載された塗膜付基材の表面をボンスタースチールウール♯0000(日本スチールウール(株)製)にて手擦りし、傷の入り具合を目視にて判定し、以下の基準で評価した。
A:殆ど傷が入らない。
B:若干の傷が入る。
C:かなりの傷が入る。
D:擦った面積のほぼ全面に傷が入る。
【0105】
[14]密着性試験
ナイフを用いて各実施例に記載された塗膜付基材の表面に1mm間隔で切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成し、セロハン製粘着テープを強く押し付けた後、塗膜付基材の面内方向に対して90度方向へ急激に引っ張り、この操作を合計5回行い、以下の基準で評価した。
◎:剥がれがない。
○:ごく僅かに剥がれがある。
△:少し剥がれがある。
×:明らかな剥がれがある。
××:著しい剥がれがある。
【0106】
[15]耐温水性試験
80℃の温度に保たれた湯中に各実施例に記載された塗膜付基材を10分間浸漬させた後、前述の密着性試験と同様の試験を行い、以下の基準で評価した。
◎:剥がれがない。
○:ごく僅かに剥がれがある。
△:少し剥がれがある。
×:明らかな剥がれがある。
××:著しい剥がれがある。
【0107】
[16]耐候性試験
各実施例に記載された塗膜付基材をキセノンウエザーメーター(スガ試験機(株)製、X-75型)に60時間、または120時間曝露した後、前述の密着性試験と同様の試験を行い、以下の基準で評価した。
◎:剥がれがない。
○:ごく僅かに剥がれがある。
△:少し剥がれがある。
×:明らかな剥がれがある。
××:著しい剥がれがある。
【0108】
[17]耐衝撃性試験
各実施例に記載された塗膜付基材に無機酸化物成分を真空蒸着法によって蒸着し、反射防止膜を形成した。重さ17gの硬球を127cmの高さからこの塗膜付基材の中心部に落下させ、以下の基準で評価した。
○:反射防止膜が割れない。
×:反射防止膜が割れる。
【0109】
[18]引張伸度
樹脂エマルションを温度80℃にて20時間で乾燥させて、厚さ約40μmのフィルムを作成した。次に、JISK6301に規定される4号ダンベルにて打ち抜いて試料を作成する。次いで、この試料を、引張速度200mm/分、測定温度25℃の条件下に設定された引張物性測定装置(オリエンテック(株)製、テンシロンUTA-500)にかけて前記試料の伸び率を測定した。ここで、前記試料が切断される直前に測定された伸び率を引張伸度とした。なお、この測定方法は、JISK6251に準拠したものである。
【0110】
[19]ガラス転移温度
樹脂エマルションを温度80℃にて20時間で乾燥させて、厚さ約40μmのフィルムを作成した。次いで、この試料を、昇温速度2℃/分、周波数35Hzの条件下に設定された動的粘弾性測定装置(オリエンテック(株)製、レオバイブロンDDV-0.1FP)にかけて前記試料の動的粘弾性を測定した。ここで、動的粘弾性における貯蔵弾性率Eが極大となる温度をポリウレタン化合物のガラス転移温度とする。なお、この測定方法は、JISK7244に準拠したものである。
【0111】
[実施例1]
市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス460、固形分38質量%、水62質量%、引張伸度750%、ガラス転移温度-21℃)132gに水およびメタノールを添加し樹脂分散液を500g調製した。また、前述の酸化チタン粒子3がメタノールに分散した酸化チタン粒子分散液(固形分20質量%、メタノール80質量%)250gに水およびメタノールを添加しルチル型酸化チタンを含む分散液を500g調製した。次に、樹脂分散液とルチル型酸化チタン粒子を含む分散液とを混合した。さらに、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーン(ダウ・東レ(株)製、「DOWSILL-7001」)を5g加えて、プライマー層形成用塗料組成物を1005g調製した。この塗料組成物に含まれる各構成成分の組成は、質量比で、樹脂/酸化チタン粒子/水/メタノール=5/5/40/50であった。この工程で得られたプライマー層形成用塗料組成物の性状を表3に示す。
【0112】
[ハードコート層形成用塗料組成物]
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、SILQIEST A-187)145gにメタノール25gを加えて、攪拌しながら0.01N塩酸45gを滴下した。さらに、室温にて一昼夜攪拌して加水分解を行った。
【0113】
次いで、加水分解後の液に、市販の酸化チタンゾル(日揮触媒化成(株)製、オプトレイク1120Z(8RX-7・A15))585g、硬化剤としてのイタコン酸(キシダ化学(株)製)25g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製)10gおよびレベリング剤としてのポリエーテル変性シリコーン(ダウ・東レ(株)製、「DOWSILL-7001」)5gを加えて、室温にて一昼夜攪拌してハードコート層形成用塗料組成物を調製した。
【0114】
[プライマー層を含む塗膜付基材]
基材として、三井化学(株)製の「モノマー名:MR-8」(屈折率1.60のプラスチックレンズ基材)を準備した。次いで、この基材を、40℃の温度に保たれた10重量%濃度のKOH水溶液に2分間浸漬してエッチング処理を行った。さらに、この基材を取り出して水洗した後、十分に乾燥させた。
【0115】
次いで、ディッピング法(引き上げ速度100mm/分)を用いて、基材の表面に前述のプライマー層形成用塗料組成物を塗布した。その後、100℃の温度で10分間加熱処理して、プライマー層の予備硬化を行った。この時、形成された前記プライマー層の予備硬化後の膜厚は、概ね0.8~1.0μmであった。
【0116】
さらに、ディッピング法(引き上げ速度300mm/分)を用いて、予備硬化されたプライマー層の表面に前述のハードコート層形成用塗料組成物を塗布した。その後、基材を100℃の温度で10分間、乾燥させた後、120℃の温度で2時間、加熱処理して、ハードコート層の硬化を行った。この時、プライマー層の本硬化も同時に行われた。ハードコート層の硬化後の膜厚は、概ね2.4~2.8μmであった。この工程で得られた塗膜付基材の性状を表4に示す。また、前述の[11]~[19]の方法で評価した結果を表4に示す。
【0117】
[実施例2]
ハードコート層形成用塗料組成物に含まれる市販の酸化チタン粒子を、酸化チタン粒子3に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を調製した。また、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を評価した。結果をそれぞれ、表3、および表4に示す。
【0118】
[実施例3]
プライマー層形成用塗料組成物を調製する工程において、市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス460、固形分38質量%、水62質量%、引張伸度750%、ガラス転移温度-21℃)132gを、別の市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス420、固形分32質量%、水68質量%、引張伸度290%、ガラス転移温度-10℃)156gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を調製した。また、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を評価した。結果をそれぞれ、表3、および表4に示す。
【0119】
[実施例4]
プライマー層形成用塗料組成物を調製する工程において、市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス460、固形分38質量%、水62質量%、引張伸度750%、ガラス転移温度-21℃)132gを、市販のポリエステル系エマルション(高松油脂(株)製、ペスレジンA-160P、固形分25質量%、水75質量%、引張伸度800%、ガラス転移温度-30℃)200gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を調製した。また、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を評価した。結果をそれぞれ、表3、および表4に示す。
【0120】
[比較例1]
プライマー層形成用塗料組成物を調製する工程において、市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス460、固形分38質量%、水62質量%、引張伸度750%、ガラス転移温度-21℃)132gを、市販のエチレン酢ビ系エマルション(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS-201HQ、固形分56質量%、水44質量%、引張伸度1000%、ガラス転移温度-20℃)89gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を調製した。また、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を評価した。結果をそれぞれ、表3、および表4に示す。
【0121】
[比較例2]
プライマー層形成用塗料組成物を調製する工程において、市販のウレタン系エマルション(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス460、固形分38質量%、水62質量%、引張伸度750%、ガラス転移温度-21℃)132gを、市販のエチレンアクリル特殊エステル系エマルション(住化ケムテックス(株)製、スミカフレックスS-3950、固形分60質量%、水40質量%、1500%超、-50℃)83gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を調製した。また、実施例1と同様の方法で塗膜付基材を評価した。結果をそれぞれ、表3、および表4に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】