(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072480
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電子回路基板用積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20240521BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240521BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240521BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
B32B15/08 J
B32B27/30 B
H05K1/03 630H
H05K3/00 R
H05K1/03 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183313
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 高宏
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01D
4F100AB01E
4F100AB17D
4F100AB17E
4F100AB33D
4F100AB33E
4F100AK04A
4F100AK09A
4F100AK12A
4F100AL09A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100CB00B
4F100CB00C
4F100DD01D
4F100DD01E
4F100EJ20
4F100EJ24
4F100EJ38
4F100EJ41
4F100EJ42
4F100EJ61
4F100GB43
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JB16A
4F100JG05A
4F100JK06
4F100YY00A
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な電子回路基板用積層体を提供する。
【解決手段】基材フィルム15の片面または両面に接着層16を介して金属箔17が積層され、前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向され、融点が260~290℃、ガラス転移温度が230~260℃、周波数10GHzにおける比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下であり、前記金属箔を引き剥がすときのピール強度が、260℃×30秒の加熱試験の前後を通じて3N/10mm以上である、電子回路基板用積層体10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面または両面に接着層を介して金属箔が積層された電子回路基板用積層体であって、
前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向され、融点が260~290℃、ガラス転移温度が230~260℃、周波数10GHzにおける比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下であり、
前記金属箔を引き剥がすときのピール強度が、260℃×30秒の加熱試験の前後を通じて3N/10mm以上である、
電子回路基板用積層体。
【請求項2】
前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンおよびスチレン系熱可塑性エラストマーからなる、
請求項1に記載の電子回路基板用積層体。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレン共重合体である、
請求項2に記載の電子回路基板用積層体。
【請求項4】
前記金属箔をパターンエッチングしてマイクロストリップラインを作製したときのS21パラメータが40GHzにおいて-5dB/100mm以上、0以下である、
請求項1に記載の電子回路基板用積層体。
【請求項5】
前記金属箔の前記接着層との界面の最大高さ粗さRzが2.0μm以下である、
請求項1に記載の電子回路基板用積層体。
【請求項6】
融点が260℃以上のシンジオタクチックポリスチレンを主成分とする樹脂組成物を溶融、混練して、前駆体フィルムに成形する工程と、
前記前駆体フィルムを二軸延伸して、230℃以上の温度で弛緩熱処理して基材フィルムを製造する工程と、
前記基材フィルムの少なくとも片面に接着層を形成する工程と、
前記接着層上に金属箔を積層する工程と、
を有する電子回路基板用積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル回路基板を製造するための積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル回路基板等を製造するために、合成樹脂フィルムと、その片側または両側に銅箔を接着して積層したフレキシブル銅張積層板(FCCL)が用いられる。電気信号の伝送損失は導体損失と誘電損失からなり、信号の周波数が高いほど誘電損失の比重が大きくなる。近年、電気信号の高周波数化が急速に進展するにしたがって、銅箔の近傍材料による誘電損失の低減が課題となっている。特許文献1~5には、誘電損失の低減を目指4したFCCLであって、合成樹脂フィルムと接着剤層と銅箔からなる3層または5層の銅張積層板が記載されている。特許文献6には、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムの表面にめっきによる金属層を形成した電子回路基板用積層体が記載されている。また、特許文献7には、高周波信号を効率よく伝送するためのフラットケーブル用基材フィルムとして、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂を含有するフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-038281号公報
【特許文献2】国際公開第2018/030026号
【特許文献3】特開2017-121807号公報
【特許文献4】特許第6539404号公報
【特許文献5】国際公開第2016/017473号
【特許文献6】特開2015-002334号公報
【特許文献7】国際公開第2019/049922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記状況を考慮してなされたものであり、高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な電子回路基板用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電子回路基板用積層体は、基材フィルムの片面または両面に接着層を介して金属箔が積層された電子回路基板用積層体である。前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向され、融点が260~290℃、ガラス転移温度が230~260℃、周波数10GHzにおける比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下である。そして、前記金属箔を引き剥がすときのピール強度が、260℃×30秒の加熱試験の前後を通じて3N/10mm以上である。
【0006】
ここで、ガラス転移温度Tgは熱機械分析(TMA)によって測定された値である。具体的には、JISC6481-1996に準拠して測定できる。また、ピール強度は、JISC5016-1994に規定する90度方向引きはがし強さをいう。
【0007】
この構成により、強度および耐熱性が高く、高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な電子回路基板用積層体が得られる。
【0008】
好ましくは、前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンおよびスチレン系熱可塑性エラストマーからなり、より好ましくは、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレン共重合体である。これにより、電子回路基板用積層体の伝送損失を低く抑えながら、ピール強度をより高くすることができる。
【0009】
上記電子回路基板用積層体は、好ましくは、前記金属箔をパターンエッチングしてマイクロストリップラインを作製したときの伝送損失を示すS21パラメータが40GHzにおいて-5dB/100mm以上、0以下である。
【0010】
好ましくは、前記金属箔の前記接着層との界面の最大高さ粗さRzが2.0μm以下である。ここで、最大高さ粗さRzは、JISB0601-2013に規定する最大高さ粗さである。これにより、フレキシブル回路基板の伝送損失をさらに低く抑えることができる。
【0011】
本発明の電子回路基板用積層体の製造方法は、融点が260℃以上のシンジオタクチックポリスチレンを主成分とする樹脂組成物を溶融、混練して、前駆体フィルムに成形する工程と、前記前駆体フィルムを二軸延伸して、230℃以上の温度で弛緩熱処理して基材フィルムを製造する工程と、前記基材フィルムの少なくとも片面に接着層を形成する工程と、前記接着層上に金属箔を積層する工程とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子回路基板用積層体によれば、基材としてシンジオタクチックポリスチレンを主成分とする基材フィルムを用いるので、液晶ポリマーやポリイミドを用いる場合と比較して、より低コストで、高周波電気信号に対しても伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造することができる。また、シンジオタクチックポリスチレンの吸水性が低いことによって、フレキシブル回路基板を多湿な環境で使用しても伝送特性が悪化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の電子回路基板用積層体の層構成を示す図である。A:5層構造、B:3層構造。
【
図2】実施例の電子回路基板用積層体に用いた基材フィルムの、A:比誘電率Dk、B:誘電正接Dfの測定結果を示す図である。
【
図3】実施例および比較例の電子回路基板用積層体のS21パラメータの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1Aを参照して、本実施形態の電子回路基板用積層体10は、基材フィルム15の両面に、接着層16を介して金属箔17が積層された5層構造を有する。
図1Bを参照して、本実施形態の他の電子回路基板用積層体11は、基材フィルム15の片面に、接着層16を介して金属箔17が積層された3層構造を有する。電子回路基板用積層体10、11の金属箔17を回路パターンにエッチングするサブトラクティブ法によって、フレキシブル回路基板を製造できる。また、電子回路基板用積層体10、11を他の樹脂フィルムやガラスクロスなどと複合化して、ビルドアップ基板を製造することもできる。なお、以下においては5層構造の電子回路基板用積層体10を引用して各層の特性、材料等を説明するが、その説明は3層構造の電子回路基板用積層体11についても妥当する。
【0015】
基材フィルム15は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を主成分とし、二軸配向されている。
【0016】
二軸配向とは、面方向において、高分子が互いに異なる2方向、例えばフィルムの押出方向(MD)およびそれに垂直な方向(TD)で配向していることを意味する。基材フィルム15を二軸配向させることによって、所要の強度および耐熱性を付与することができる。二軸配向は、未延伸の前駆体フィルムを二軸延伸することにより実現できる。
【0017】
SPSは、シンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマーである。シンジオタクチック構造とは、炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基または置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を意味する。SPSの立体規則性の程度(タクティシティ)は同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量することができる。13C-NMR法により測定されるSPS系樹脂のタクティシティは、数個のモノマー単位からなる連鎖、例えば、2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドのうち、構成単位の立体配置が逆のシンジオタクチックであるもの(ラセミダイアッド等)の割合によって示すことができる。本実施形態におけるSPSは、通常、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、もしくはラセミトリアッドで60%以上、好ましくは75%以上、もしくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティを有するスチレン系ポリマーである。なお、基材フィルム15には、異なる2種類以上のSPSを混合して用いてもよい。
【0018】
SPSとしてのスチレン系ポリマーの種類としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体等及びこれらの混合物、又はこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等が挙げられる。ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等が挙げられる。ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等が挙げられる。ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。SPSとしてのスチレン系ポリマーとしては、ポリスチレンが好ましい。
【0019】
SPSの重量平均分子量は、10,000~3,000,000、好ましくは30,000~1,500,000、特に好ましくは50,000~500,000である。
【0020】
SPSの融点は、260℃以上である。これにより、基材フィルムのガラス転移温度Tgを高くして、電子回路基板用積層体10の耐熱性を上げることができる。一方、SPSの融点が高くても特に問題はないが、SPSの融点は通常290℃を超えることはない。
【0021】
好ましくは、基材フィルム15は実質的にSPSおよびスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)からなる。TPSは、熱可塑性エラストマー(TPE)のうち、ハードセグメントがポリスチレンからなるものである。「実質的にSPSおよびTPSからなる」とは、SPSおよびTPS以外の樹脂を含む場合であっても、その含有量が、電子回路基板用積層体10として所要の伝送損失および耐熱性が得られる範囲であることをいう。具体的には、基材フィルム15の全樹脂に占めるSPSの割合とTPSの割合を足し合わせた値が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。基材フィルム15がTPSを含むことにより、基材フィルムの誘電特性の悪化を抑えながら、ピール強度を高めることができる。
【0022】
TPSとしては、種々の市販のものを用いることができる。また、TPSとしては、水素添加されたものを用いることが好ましい。これによりTPSの耐熱性が向上し、また高温で行われる基材フィルム原料の溶融・押出工程において予期せぬ反応が生じることを防止することができる。
【0023】
水素添加TPSとしては、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレン(TPS-SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEP)などの、ソフトセグメントが異なる各種のものを用いることができる。なかでも、ソフトセグメントがポリ(エチレン/ブチレン)からなるTPS-SEBSを用いることが特に好ましい。なお、基材フィルム15に含有されるTPSは、異なる2種類以上の樹脂を混合したものであってもよい。
【0024】
TPSの配合量は、SPS(a)とTPS(b)の重量比が(a)/(b)=97/3~60/40とすることが好ましく、さらに、95/5~70/30、90/10~80/20とすることがより好ましい。この好ましい配合割合は、TPSの全部または一部として、TPS-SEBSを用いる場合も同じである。TPSの配合量が少なすぎると、電子回路基板用積層体10のピール強度向上の効果が小さい。一方、TPSの配合量が多すぎると、基材フィルム15の誘電特性の悪化が無視できなくなる。
【0025】
基材フィルム15は、ポリマー以外に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、無機フィラー、着色剤、結晶核剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0026】
基材フィルム15の融点は、基材フィルムがSPSのみからなるか、実質的にSPSおよびTPSからなるかに依らず、260℃以上である。これにより、基材フィルムのガラス転移温度Tgを高くして、電子回路基板用積層体10の耐熱性を上げることができる。一方、基材フィルム15の融点が高くても特に問題はないが、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常290℃を超えることはない。
【0027】
基材フィルム15のガラス転移温度Tgは、230℃以上、好ましくは240℃以上である。これにより、電子回路基板用積層体10の耐熱性を上げることができる。一方、ガラス転移温度Tgが高くても特に問題はないが、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常260℃を超えることはない。なお、本明細書中で、ガラス転移温度Tgは、熱機械分析(TMA)によって測定された温度をいう。ガラス転移温度Tgはいくつかの方法で測定可能であるが、TMAによるものが、実用上の耐熱性の指標として優れている。TMAによるガラス転移温度Tgは、具体的には、JISC6481-1996に準拠して測定したTMA曲線から求めることができる。SPSの素材自体はガラス転移温度Tgが低いが、二軸配向させることによってガラス転移温度Tgを高くして、耐熱性を向上させることができる。
【0028】
基材フィルム15の熱膨張率は、MDおよびTDのいずれの方向についても、好ましくは80ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下である。なお、熱膨張率は小さいほど好ましいが、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常10ppm/℃を下回ることはない。また熱膨張率のMDとTDとの差の絶対値は、好ましくは50ppm/℃以下、より好ましくは20ppm/℃以下である。
【0029】
基材フィルム15の厚さは、好ましくは10~100μm、より好ましくは12~50μmである。これにより、電子回路基板用積層体10の強度と柔軟性をバランスよく両立できる。
【0030】
基材フィルム15の比誘電率Dkは、周波数10GHzにおいて2.6以下である。また、基材フィルム15の誘電正接Dfは、周波数10GHzにおいて0.002以下、好ましくは0.001以下である。電子回路基板用積層体10の伝送損失には、基材フィルム15、接着層16および金属箔17の全ての層が影響するが、基材フィルム15の比誘電率Dkおよび誘電正接Dfが低いことによって、市販の接着剤や銅箔等を用いても、高周波電気信号の伝送損失を低く抑えることが可能となる。なお、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常、比誘電率は2.0以上、誘電正接は0.00001以上である。
【0031】
接着層16の比誘電率Dkは、周波数10GHzにおいて、好ましくは2.6以下である。また、接着層の誘電正接Dfは、周波数10GHzにおいて、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下である。このような接着層は、東亜合成株式会社製AF-700、ニッカン工業株式会社製SAFYなどの市販の接着剤によって形成できる。
【0032】
接着層16の成分は、基材フィルム15および金属箔17に対して所要の接着力を有していれば特に限定されず、各種公知の接着剤、例えば、特許文献2、3または5に記載された接着剤を用いることができる。接着層は、液状の接着剤を基材フィルム15または金属箔17の表面に塗工して形成してもよいし、フィルム状に成形された接着剤(以下において「接着剤フィルム」という)を用いて形成してもよい。接着層は、好ましくは、接着剤フィルムを用いて形成する。
【0033】
接着層16の厚さは、好ましくは3~50μm、より好ましくは5~30μmである。接着層が薄すぎると、接着性能が十分に得られないことがある。一方、接着層が厚すぎると、溶剤が残留しやすく、フレキシブル回路基板の製造工程等で発泡することがある。
【0034】
金属箔17の種類は特に限定されず、例えば、銅、金、アルミまたはこれらを主成分とする合金の箔を用いることができ、好ましくは銅箔を用いる。銅箔としては、各種市販の銅箔を用いることができる。
【0035】
金属箔17と接着層16の界面が平滑であるほど、フレキシブル回路基板の伝送損失が低く抑えられる。このことから、金属箔17の接着層16に合わせる面は平滑であることが好ましく、金属箔の当該表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下とする。ここで、最大高さ粗さRzは、JISB0601-2013に規定する最大高さ粗さである。一方、金属箔の接着層に合わせる表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは0.2μm以上である。これにより、接着層との十分な接着強度が得られる。金属箔の接着層に合わせる面の最大高さ粗さRzは、電子回路基板用積層体10において金属箔17の接着層16との界面の最大高さ粗さRzとなる。
【0036】
金属箔17の厚さは、金属の種類に応じて、所要の導電性が得られる範囲で決定することができる。金属箔が銅箔である場合は、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~40μmである。これらの範囲内の厚さであると、十分な導電性と、フレキシブル回路基板に求められる柔軟性を高い水準で両立できる。
【0037】
電子回路基板用積層体10には様々な性能が要求されるが、特に重要なものとして、伝送損失、ピール強度、耐熱性および耐熱衝撃性が挙げられる。
【0038】
電子回路基板用積層体10の伝送損失は、金属箔17をパターンエッチングしてマイクロストリップラインを作製したときのS21パラメータによって評価することができ、好ましくは40GHzにおいて-5dB/100mm以上、0以下である。S21パラメータのマイナスは伝送損失があることを示し、S21パラメータの絶対値が小さいほど伝送損失が小さいことを示している。
【0039】
電子回路基板用積層体10のピール強度は、積層体10から金属箔17を引き剥がすときのピール強度であって、JISC5016-1994に規定する90度方向引きはがし強さが、3N/10mm以上、好ましくは5N/10mm以上、より好ましくは6N/10mm以上である。
【0040】
電子回路基板用積層体10の耐熱性は、加熱試験後のピール強度によって評価できる。電子回路基板用積層体10には、フレキシブル回路基板のリフロー処理を想定して、典型的には260℃以上の耐熱性が求められる。加熱試験は、具体的には、試験片をリフロー炉に通して、260℃で30秒の加熱を加えることによって実施できる。また、260℃×30秒の加熱を繰り返してもよい。リフロー炉に通す回数は、少なくとも1回、好ましくは6回以上で、加熱試験後のピール強度は、3N/10mm以上、好ましくは5N/10mm以上、より好ましくは6N/10mm以上である。
【0041】
電子回路基板用積層体10の耐熱衝撃性は、JISC5016-1994に規定された熱衝撃(高温浸せき)試験前後の導通抵抗の変化によって評価できる。熱衝撃試験は、具体的には、試験片に260℃~20℃の熱サイクルを所定回数与える。導通抵抗の変化は、100回の熱サイクルの前後で、好ましくは10%以下である。試験方法の詳細は、実施例で後述する。
【0042】
次に、本実施形態の電子回路基板用積層体10の製造方法を説明する。
【0043】
基材フィルム15の原料となる樹脂組成物を溶融・混練して、前駆体フィルムに成形する。前駆体フィルムの成形は、例えば、押出成形法、カレンダー成形法、キャスティング法によって行うことができ、好ましくは、押出成形法によって行う。
【0044】
成形された未延伸の前駆体フィルムは、例えば、同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式によって、好ましくは同時二軸延伸方式によって二軸配向される。二軸延伸の延伸倍率、延伸温度、延伸速度は、樹脂の熱的特性や所望の熱膨張率、引張破壊呼びひずみに応じて適当な条件を選択することができる。本実施形態では、延伸倍率は、MDおよびTDともに2.0倍~5.0倍とすることが好ましく、2.2倍~4.0倍とすることがより好ましい。MDおよびTDの延伸倍率は近似していることが好ましい。具体的には、MDの延伸倍率とTDの延伸倍率の差が、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.3以下である。
【0045】
二軸延伸されたフィルムに対しては、さらに弛緩熱処理を行う。熱収縮率の絶対値を低減し、ガラス転移温度Tgを高くして、耐熱寸法安定性を向上させるためである。弛緩処理は、延伸されたフィルムの融点以下、好ましくは(融点-10℃)以下で行う。弛緩処理温度は、230℃以上、好ましくは240℃以上とする。これにより、基材フィルムのガラス転移温度Tgを230℃以上とすることができる。弛緩倍率はMDおよびTDともに、好ましくは0.80~1.00倍、より好ましくは0.85~1.00倍、最も好ましくは0.90~0.98倍とする。MDおよびTDの弛緩倍率は近似していることが好ましい。具体的には、MDの弛緩倍率とTDの弛緩倍率の差が、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、最も好ましくは0.02以下である。
【0046】
以上により製造された基材フィルム15に、次に、接着層16と金属箔17を積層する。5層構造の電子回路基板用積層体10では、基材フィルム15の両面に接着層16と金属箔17を積層する。なお、3層構造の電子回路基板用積層体11では、基材フィルム15の片面にのみ接着層16と金属箔17を積層する。
【0047】
基材フィルム15を構成するSPSは接着性に乏しいため、まず基材フィルムの表面を活性化処理する。活性化処理の方法は特に限定されず、コロナ放電処理、オゾン酸化処理、UV・オゾン処理、プラズマ放電処理、電子線照射などの方法を用いることができる。好ましくは、基材フィルムの表面を大気圧プラズマで処理し、より好ましくは、基材フィルムの表面を大気圧窒素プラズマで処理する。SPSを主成分とする基材フィルムでは、大気圧プラズマ、特に大気圧窒素プラズマ処理によって、基材に与えるダメージを抑えることができるので好ましい。
【0048】
接着層16を形成するために液状の接着剤を用いる場合は、基材フィルム15の両面に接着剤を塗工し、塗工面に金属箔17を重ね、全体をプレス機等で挟んで、加熱により接着剤を硬化させる。あるいは、基材フィルム15の一方の面に接着剤を塗工して金属箔17を重ね、プレス機等で挟んで加熱により接着剤を硬化させた後、もう一方の面にも同様に接着層16と金属箔17を積層してもよい。
【0049】
接着層16を形成するために接着剤フィルムを用いる場合は、基材フィルム15の両面に接着剤フィルムと金属箔を重ねて、全体をプレス機等で挟んで、加熱により接着剤を硬化させる。あるいは、基材フィルム15の一方の面に接着剤フィルムと金属箔を積層し、次いで他方の面に接着剤フィルムと金属箔を積層してもよいし、基材フィルムの両面に接着剤フィルムを積層し、次いで、両面の接着剤フィルム上に金属箔を積層してもよい。
【0050】
以上により、全部の層が一体化されて、電子回路基板用積層体10が製造される。本実施形態の電子回路基板用積層体の製造方法によれば、基材フィルムと金属箔を接着剤によって接着するので、導電層をめっきにより形成するのと比較して、製造が容易である。
【実施例0051】
上記実施形態の電子回路基板用積層体および比較例の電子回路基板用積層体を作製して、性能を評価した。
【0052】
まず、実施例に用いる基材フィルムSF-1と、比較例に用いる基材フィルムSF-2およびSF-3を作製した。
【0053】
(基材フィルムSF-1)
SPS(出光興産株式会社製、ザレック、ガラス転移点100℃、融点270℃)90質量%と、TPS-SEBS(株式会社クラレ製、セプトン)10質量%を予め混練したフルコンパウンドを、T-ダイを先端に取り付けた押出機を用いて320℃にて溶融押出後、冷却して前駆体フィルムを得た。この前駆体フィルムを110℃で延伸速度約500%/分、延伸倍率3.4×3.4(MD×TD)で同時二軸延伸し、その後、250℃で弛緩倍率0.95×0.95(MD×TD)で弛緩熱処理を行い、厚さ50μmの基材フィルムを作製した。この基材フィルムSF-1のガラス転移温度Tgは240℃であった。
【0054】
(基材フィルムSF-2)
SPS(出光興産株式会社、ザレック、ガラス転移点95℃、融点247℃)を、T-ダイを先端に取り付けた押出機を用いて、320℃にて溶融押出し、冷却して前駆体フィルム(約500μm)を得た。この前駆体フィルムを110℃で延伸速度500%/分、延伸倍率3.3×3.4(MD×TD)で同時二軸延伸し、その後、230℃で弛緩倍率0.94×0.96(MD×TD)で弛緩熱処理を行い、厚さ50μmの基材フィルムを作製した。この基材フィルムSF-2のガラス転移温度Tgは200℃であった。
【0055】
(基材フィルムSF-3)
SPS(出光興産株式会社製、ザレック、ガラス転移点95℃、融点247℃)80質量%と、TPS-SEEPS(株式会社クラレ製、セプトン)20質量%を予め混練したフルコンパウンドを、T-ダイを先端に取り付けた押出機を用いて320℃にて溶融押出後、冷却して前駆体フィルムを得た。この前駆体フィルムを110℃で延伸速度約500%/分、延伸倍率3.4×3.4(MD×TD)で同時二軸延伸し、その後、210℃で弛緩倍率0.95×0.95(MD×TD)で弛緩熱処理を行い、厚さ50μmの基材フィルムを作製した。この基材フィルムSF-3のガラス転移温度Tgは200℃であった。
【0056】
(実施例1)
基材フィルムSF-1の両面をラインスピード10m/分で、出力4kW/幅500mmの大気圧窒素プラズマで活性化処理した後、片側のセパレートフィルムを剥離した接着剤フィルム(東亜合成株式会社、AF-700、厚さ5μm)を重ねて、真空プレス機を用いて120℃×0.4MPa×30秒で貼り付けた。次に、接着剤フィルムの反対側のセパレートフィルムを剥離して、銅箔(接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRz=1.3μm、厚さ18μm)を重ねて、真空プレス機を用いて120℃×0.4MPa×30秒で貼り付けた。さらに、熱プレス機で180℃×3MPa×30分間プレスし、プレス機を開放した後に加熱オーブン内に静置して180℃×30分間加熱して、実施例1の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同じ方法で、ただし、銅箔として接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRzが0.85μmのものを用いて、実施例2の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0058】
(実施例3)
実施例1と同じ方法で、ただし、基材フィルムの両面をラインスピード10m/分で、出力4kW/幅500mmの真空プラズマで活性化処理して、実施例3の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0059】
(比較例1)
実施例3と同じ方法で、ただし、基材フィルムとしてSF-2を用い、銅箔として接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRz=0.85μmのものを用いて、比較例1の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0060】
(比較例2)
実施例3と同じ方法で、ただし、基材フィルムとしてSF-3を用い、銅箔として接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRz=0.85μmのものを用いて、比較例2の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0061】
(比較例3)
実施例3と同じ方法で、ただし、基材フィルムとしてSF-3を用いて、比較例3の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0062】
(比較例4)
基材フィルムとして市販の液晶ポリマー(LCP)フィルム(厚さ50μm)を用い、実施例1および実施例3と同じ接着剤フィルムと銅箔を用いて、比較例4の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0063】
(比較例5)
基材フィルムとして市販のポリイミド(PI)フィルム(厚さ50μm)を用い、実施例1および実施例3と同じ接着剤フィルムと銅箔を用いて、比較例5の電子回路基板用積層体(5層構造)を作製した。
【0064】
表1に基材フィルムおよび接着層の比誘電率Dkおよび誘電正接Dfを示す。表1において、基材フィルムの誘電特性は、ASTMD2520に規定された空洞共振器法によって測定した。接着層の誘電特性はメーカーのカタログ値である。
図2に、実施例に用いた基材フィルムSF-1の、10GHz超の領域での比誘電率Dkおよび誘電正接Dfを示す。
図2のDkおよびDfは平衡型円板共振器法による3回の測定結果である。
【0065】
【0066】
実施例および比較例の電子回路基板用積層体の伝送損失を評価した。また、いくつかの試料について、ピール強度、耐熱性、耐熱衝撃性を評価した。
【0067】
各試料の伝送損失は、銅箔をパターンエッチングして、線幅約0.2mm、長さ100mmのマイクロストリップラインを作製して、特性インピーダンスを50ΩとしたときのS21パラメータを、ネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社、E8363B)とプローブ(フォームファクター社、ACP40-GSG250)を用いて、40GHzまでの周波数で測定して評価した。S21パラメータのマイナスは伝送損失があることを示し、S21パラメータの絶対値が小さいほど伝送損失が小さいことを示している。
【0068】
ピール強度は、作製した電子回路基板用積層体を20mm×100mmに切断して、エッチングにより銅箔の幅を10mmにした試験片を用い、JISC5016-1994に準拠して、50mm/分の速さで銅箔を引っ張って、90度方向引きはがし強さを求めた。
【0069】
耐熱性については、上記ピール試験と同形状の試験片を、リフロー炉に通して270℃×30秒の加熱を加えることを6回繰り返した後に、ピール強度を測定した。なお、加熱試験は260℃で行われることが多いが、本実施例ではやや厳しい条件で評価した。
【0070】
耐熱衝撃性については、JISC5016-1994に準拠して、ただし熱サイクルの条件を変えて高温浸漬試験を行って、試験前後の導通抵抗を測定した。具体的には以下のとおりである。当該JISの付
図5と同様の、銅めっきスルーホールの耐熱衝撃性試験用のデイジーチェーン基板を作製し、100Vの電圧を印加して所定の2点間の導電抵抗値を初期値として測定した。次いで、260℃のシリコンオイル槽に15秒浸漬し、取り出し後15秒以内に移送して、20℃の冷却槽に15秒浸漬、取り出し後15秒以内に移送の熱サイクルを100回繰り返した後、再度同様に導通抵抗値を測定した。耐熱衝撃性の基準は、熱サイクルによって、導電抵抗が10%超変化しないこととした。
【0071】
表2に各試料の層構成を、評価結果とともに示す。
図3に、いくつかの試料のS21パラメータを示す。試料はすべて5層構造で、接着層および銅箔は、同一のものが基材フィルムの両面に積層されている。表2において、銅箔の最大高さ粗さRzは接着層側の表面の値である。ピール強度は2~4回の試験結果の平均である。耐熱衝撃性は、熱サイクル前後の導通抵抗の変化が10%未満であるものを「OK」とした。
【0072】
【0073】
表2および
図3に示したS21パラメータから、実施例1~3の伝送損失は、いずれも比較例4、5より小さいことが確認できた。また、銅箔の接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRzが同じである実施例2と比較例2では、伝送損失はほぼ同じであった。ただし、表2に示したように、比較例2では耐熱性および耐熱衝撃性が悪かった。
【0074】
表2から、実施例1~3では、270℃の加熱試験によっても、ピール強度が低下していない。実施例1と実施例3を比較すると、実施例1の方がピール強度が高かった。この原因は、実施例1では、大気圧プラズマ処理によって基材フィルムのダメージが抑えられたためと考えられる。比較例1~3では、加熱試験による変形が激しく、加熱試験後のピール強度は測定できなかった。なお、ピール試験の破壊モードは、実施例および比較例のすべての試料で基材フィルム表層の材料破壊であった。
【0075】
また、実施例1~3では、上記熱衝撃試験によっても試験片の変形は見られず、導通抵抗の変化率も10%以下であった。比較例1~3では、熱衝撃試験(熱サイクル)による変形が激しく、熱衝撃試験後の導通抵抗は測定できなかった。
【0076】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。