(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072485
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】印刷機のインキ膜厚測定装置およびインキ膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
B41F 31/02 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B41F31/02 Z
B41F31/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183325
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】高取 偉織
【テーマコード(参考)】
2C250
【Fターム(参考)】
2C250DB02
2C250DC02
2C250DC04
2C250DC05
2C250EB18
(57)【要約】
【課題】 インキ装置を搭載した印刷機について、インキ装置のローラ上におけるインキ膜厚を、当該インキ装置の駆動時に自動的に高い精度で測定することができ、高い印刷生産効率が得られる印刷機のインキ膜厚測定装置の提供。
【解決手段】 印刷機のインキ膜厚測定装置は、印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を測定する印刷機のインキ膜厚測定装置であって、前記インキ装置は、前記インキ装置におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定する、前記測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられたインキ膜厚測定用センサを有し、前記測定対象ローラは、金属製のものであり、かつ、軸方向に揺動しないものであることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を測定する印刷機のインキ膜厚測定装置であって、
前記インキ装置は、前記インキ装置におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定する、前記測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられたインキ膜厚測定用センサを有し、
前記測定対象ローラは、金属製のものであり、かつ、軸方向に揺動しないものであることを特徴とする印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項2】
前記インキ膜厚測定用センサが、マルチカラー共焦点方式のものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項3】
前記インキ膜厚測定用センサは、前記測定対象ローラの回転軸と平行な測定ラインに沿ってリニア移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項4】
前記インキ膜厚測定装置は、前記インキ膜厚測定用センサを前記測定ラインに沿って移動させる制御部を有し、
前記制御部においては、前記測定対象ローラ上のインキ層における最も厚みの大きい部分の膜厚が検出されることを特徴とする請求項3に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項5】
前記インキ装置の駆動時において前記測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定可能であることを特徴とする請求項1に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項6】
前記インキ装置は、インキの供給源であるインキファウンテンを有し、前記インキファウンテンとインキの供給先である版胴との間に、前記インキファウンテンに接近する上流側に前記インキファウンテンからインキを供給する機能を有するインキ供給機能ローラ群が配置されるとともに、前記版胴に接近する下流側にインキを均す機能を有するインキ均し機能ローラ群が配置され、
前記インキ供給機能ローラ群が、上流側から下流側に向かってファウンテンローラ、ダクターローラおよびトランスファローラがこの順で配置され、
前記測定対象ローラが、前記トランスファローラであることを特徴とする請求項1に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項7】
一の印刷機に搭載された複数の前記インキ装置の各々に対応して設けられることを特徴とする請求項1に記載の印刷機のインキ膜厚測定装置。
【請求項8】
印刷機において、当該印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を、前記インキ装置を駆動しながら測定するインキ膜厚測定方法であって、
前記インキ装置として、前記インキ装置におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定する、前記測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられたインキ膜厚測定用センサを有するものを用い、
前記測定対象ローラとして、金属製のものであり、かつ、軸方向に揺動しないものを用いることを特徴とする印刷機のインキ膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を測定する印刷機のインキ膜厚測定装置およびインキ膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の内容物を収容可能な2ピース缶に各種の印刷を施す印刷システムにおいては、印刷層は、一般にオフセット方式の印刷機で缶体の外周面に施される。その印刷に際しては、缶体上に最終的に転写されるインキ層の厚みを最適化するために、各種のインキ条件(インキ転写量やインキ層の膜厚)を測定することが求められている。
例えば特許文献1には、缶胴に転写されるインキ塗布厚さを設定値(見本缶のインキ塗布厚さ)に等しくするための印刷条件を予め定めるために、インキ転写量を実機と同様の条件で別途測定することができるインキ塗膜量試験装置が開示されている。
また従来、インキ膜厚を測定する場合は、インキ濃度を各種調整して見本缶を作成し、その際のインキ装置のローラ上におけるインキ膜厚を現場で作業者がロータリーゲージによって手作業で測定して最適な印刷条件を決定していた。
【0003】
しかしながら、例えば手作業によるインキ膜厚の測定では測定精度にバラツキが生じることがあり、また、測定作業が人手を介するために煩雑で、さらにインキ装置の駆動中は測定することができないため印刷生産効率が低い、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、インキ装置を搭載した印刷機について、インキ装置のローラ上におけるインキ膜厚を、当該インキ装置の駆動時に自動的に高い精度で測定することができ、高い印刷生産効率が得られる印刷機のインキ膜厚測定装置およびインキ膜厚測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置は、印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を測定する印刷機のインキ膜厚測定装置であって、
前記インキ装置は、前記インキ装置におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定する、前記測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられたインキ膜厚測定用センサを有し、
前記測定対象ローラは、金属製のものであり、かつ、軸方向に揺動しないものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、前記インキ膜厚測定用センサが、マルチカラー共焦点方式のものであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、前記インキ膜厚測定用センサは、前記測定対象ローラの回転軸と平行な測定ラインに沿ってリニア移動可能に設けられた構成とすることができる。
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、前記インキ膜厚測定装置は、前記インキ膜厚測定用センサを前記測定ラインに沿って移動させる制御部を有し、
前記制御部においては、前記測定対象ローラ上のインキ層における最も厚みの大きい部分の膜厚が検出されることが好ましい。
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、前記インキ装置の駆動時において前記測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定可能であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、前記インキ装置は、インキの供給源であるインキファウンテンを有し、前記インキファウンテンとインキの供給先である版胴との間に、前記インキファウンテンに接近する上流側に前記インキファウンテンからインキを供給する機能を有するインキ供給機能ローラ群が配置されるとともに、前記版胴に接近する下流側にインキを均す機能を有するインキ均し機能ローラ群が配置され、
前記インキ供給機能ローラ群が、上流側から下流側に向かってファウンテンローラ、ダクターローラおよびトランスファローラがこの順で配置され、
前記測定対象ローラが、前記トランスファローラであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置においては、一の印刷機に搭載された複数の前記インキ装置の各々に対応して設けられることが好ましい。
【0011】
本発明の印刷機のインキ膜厚測定方法は、印刷機において、当該印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ層の膜厚を、前記インキ装置を駆動しながら測定するインキ膜厚測定方法であって、
前記インキ装置として、前記インキ装置におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ層の膜厚を測定する、前記測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられたインキ膜厚測定用センサを有するものを用い、
前記測定対象ローラとして、金属製のものであり、かつ、軸方向に揺動しないものを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷機のインキ膜厚測定装置およびインキ膜厚測定方法によれば、インキ装置における測定対象ローラ上のインキ層の膜厚(インキ膜厚)を測定するインキ膜厚測定用センサを有し、これが測定対象ローラの周面に対向して非接触で設けられていることにより、インキ装置の駆動時に人手を介さず自動的にインキ膜厚を高い精度で測定することができる。その結果、実生産工程に係る印刷機に本発明のインキ膜厚測定装置を搭載すれば、リアルタイムでのインキ膜厚の挙動が可視化されるので、インキ膜厚に不具合が生じたときに調整作業等を直ちに行う等、迅速に対応することができ、高い印刷生産効率が得られる。
【0013】
また、測定対象ローラが金属製、かつ、軸方向に揺動しないローラである構成によれば、揺動の振動による縦振れ(軸と垂直な方向への位置ズレ)が生じないため、より高い精度でインキ膜厚を測定することができる。
【0014】
また、インキ膜厚測定用センサが、マルチカラー共焦点方式のものである構成によれば、インキ層に反射させた光について、受光量が最も大きな波長の光を受光ピークの位置から検出し、当該位置のインキ層にピントが合った時の高さを測定することにより、インキ膜厚が測定されるので、極めて高い精度でインキ膜厚を自動的に測定することができる。
【0015】
また、インキ膜厚測定用センサが測定対象ローラの軸方向にリニア移動可能に設けられている構成によれば、インキ装置の駆動中すなわち測定対象ローラの回転中に軸方向に移動しながらインキ膜厚を測定することで測定対象ローラの全周面上のインキ層についてインキ膜厚を測定することができる。
また、インキ膜厚測定用センサを測定ラインに沿って移動させ、インキ層の最も厚みの大きい部分の膜厚が検出される制御部を有する構成によれば、確実にインキ膜厚の最大値を自動的に高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のインキ膜厚測定装置が適用される印刷機の構成を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す印刷機におけるインキ装置の構成の概略を示す説明図である。
【
図4】
図2のインキ装置におけるインキ膜厚測定装置を軸方向と垂直かつ水平な方向から見た部分側面図である。
【
図5】
図2のインキ装置におけるインキ膜厚測定装置を上方から見た部分平面図である。
【
図6】
図2のインキ装置におけるインキ膜厚測定装置を軸方向から見た部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る印刷機のインキ膜厚測定装置およびインキ膜厚測定方法の実施の形態について,
図1~
図7を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係る印刷機は、缶体の外周面に印刷するものであって、ブランケットホイール1の外周面に沿って8個の版胴2が固定位置に配置された、8色重ね刷りが可能なオフセット印刷機である。この印刷機における版胴2の各々には、各色のインキ装置3が配置されている。この印刷機において、版胴2の各々には、各色のデザイン画像の版が装着され、各版胴2が回転することによって、各版胴2の外周面にインキ装置3からインキが転移され、各版胴2の版面の画線部に相当する箇所にインキが付着する。従って、ブランケットホイール1が回転すると、当該ブランケットホイール1に装着されたブランケット面と版胴2の版面とが順次回転接触することにより、ブランケット面には多色の画像が形成される。
版胴2に装着される版は、例えば、インキがのらない非画線部がシリコーン樹脂層等にて形成された水なし平版であってもよく、また、インキがのる画線部が感光性樹脂層等にて形成された樹脂凸版であってもよい。
【0018】
一方、印刷対象である2ピース缶等の缶体は、インフィードシュート5からターレットホイール6に供給され、ターレットホイール6の回転に応じて図示しないマンドレルホイールのマンドレルに嵌合移載され、回転するブランケットホイール1と回転接触することによって、ブランケット面上に形成された画像が缶体の周面に転写されて印刷される。なお、
図1において、7は、印刷が施された缶体の周面に仕上げワニスを塗布するためのアプリケーターローラであり、8は、移載用トランスファディスクであり、印刷が終了して仕上げワニスが塗装された缶体が、マンドレルホイールから移載用トランスファディスク8に受け渡され、次工程に送られる。
【0019】
各色のインキ装置3は、
図2に示すように、インキの供給源であるインキファウンテン11を有し、インキファウンテン11と版胴2との間には、ローラ群が軸平行に設けられている。このローラ群においては、インキファウンテン11に接近する上流側に、インキファウンテン11からインキを供給する機能を有するインキ供給機能ローラ群10aが配置され、版胴2に接近する下流側には、インキを均す機能を有するインキ均し機能ローラ群10bが配置されている。
【0020】
インキ供給機能ローラ群10aにおいては、ファウンテンローラ12、ダクターローラ13およびトランスファローラ14が上流側から下流側に向かってこの順で配置されている。ダクターローラ13は、複数の小ローラが軸方向に小間隔をあけて回転自在に着設され、各小ローラがファウンテンローラ12およびトランスファローラ14と交互に接触するように、2つの位置に個別に切り替え可能に設けられている。
ファウンテンローラ12およびトランスファローラ14は各々金属製のローラよりなり、また、これらは駆動源(図示せず)によって駆動されるものである。
ダクターローラ13の各小ローラは、表層がゴムよりなるゴムローラによって構成されている。
ファウンテンローラ12およびトランスファローラ14は温調水にて温調制御されている。
【0021】
インキ均し機能ローラ群10bは、3つのバイブレータローラ16,18,20を有する。上流側には、トランスファローラ14と同一周速度で回転し、軸方向に往復動するバイブレータローラ16が配置され、インキ供給機能ローラ群10aにおけるトランスファローラ14との間には、ディストリビュータローラ15が配置されている。下流側には、トランスファローラ14と同一周速度で回転し、軸方向に往復動するバイブレータローラ18およびバイブレータローラ20が配置され、バイブレータローラ16,18の間、およびバイブレータローラ18,20の間には、それぞれディストリビュータローラ17,19が配置されている。また、バイブレータローラ18と版胴2との間には、フォームローラ21が配置され、バイブレータローラ20と版胴2との間には、フォームローラ22が配置されている。
バイブレータローラ16,18,20は、各々金属製のローラよりなり、また、これらは駆動源(図示せず)によって駆動され、かつ、各々軸方向に揺動されるものである。
ディストリビュータローラ15,17,19およびフォームローラ21,22は、表層がゴムよりなるゴムローラによって構成されている。
バイブレータローラ16,18,20は温調水にて温調制御されている。一方、ディストリビュータローラ15,17,19およびフォームローラ21,22は、自空冷ローラとして構成されている。
【0022】
そして、上記印刷機には、印刷機に搭載されたインキ装置のローラ上のインキ膜厚を測定するインキ膜厚測定装置30が設けられている。
インキ膜厚測定装置30は、インキ装置3におけるローラ群のうち少なくとも一つの測定対象ローラ上のインキ膜厚を測定するものであり、測定対象ローラ上のインキ膜厚を測定するインキ膜厚測定用センサ35と、インキ膜厚測定用センサ35を測定対象ローラの軸方向にリニア移動させるガイド部31と、インキ膜厚測定用センサ35の移動および測定を制御する制御部(図示せず)と、ディスプレイ又は携帯情報端末等の表示デバイスにより構成され、インキ膜厚測定用センサ35の測定結果等を表示する表示部(図示せず)とを備える。
インキ膜厚測定装置30は、インキ装置の駆動時または停止時のいずれにおいても測定対象ローラ上のインキ膜厚を測定することができる。
【0023】
測定対象ローラは、金属製かつインキ装置の駆動時に軸方向に揺動することのないローラであることが好ましく、本実施形態においてはトランスファローラ14としている。
金属製であっても駆動時に揺動するローラ(本実施形態に係るインキ装置3においてはバイブレータローラ16,18,20)を測定対象ローラとした場合には、縦振れのため、インキ膜厚を測定しても30μm程度の振れが生じて、得られる測定結果の精度が極めて低くなる。なお、バイブレータローラ(16,18,20)は、機械構造的にギアのかみ合わせ部をクラッチ方式に構造を変更することで駆動時でも揺動させない状態とすることができ、このように駆動中でも揺動しない状態とすれば測定対象ローラとすることができる。また、例えばインキ装置における他の金属製でないゴムローラ(ダクターローラ13やディストリビュータローラ15,17,19、フォームローラ21,22)を測定対象ローラとした場合には、ゴムの膨潤やシャフト押さえのクランプによって縦振れが生じ、インキ膜厚を測定することができない。
【0024】
インキ膜厚測定用センサ35は、トランスファローラ14の周面上に転写されたインキ層の膜厚、すなわち、トランスファローラ14の回転軸と垂直な方向の厚みを検知する非接触式のものであり、トランスファローラ14の上方(軸に垂直かつ鉛直な方向)にインキ膜厚測定用センサ35の光軸が伸びる状態に、トランスファローラ14の周面に対向して非接触に設けられている。
【0025】
インキ膜厚測定用センサ35と、トランスファローラ14との距離は、例えば13.7~80.0mmとすることができる。この距離が過小である場合は、インキ膜厚測定用センサ35にインキ層からのインキミスト汚れが生じて精度の高い測定ができないおそれがあり、測定結果の信頼性が低下してしまう。
インキ膜厚測定用センサ35とトランスファローラ14との距離は、インキ膜厚測定用センサ35がトランスファローラ14の軸方向への移動をしても変更されず、固定されている。
【0026】
インキ膜厚測定用センサ35は、例えばマルチカラー共焦点方式のセンサを用いることができる。
マルチカラー共焦点方式のインキ膜厚測定用センサ35は、ブルーレーザを赤と緑を同時発光する蛍光体に照射して得られるマルチカラー光を照射光として用い、反射光について受光量が最も大きな波長の光を受光ピークの位置から検出し、当該位置のインキ層にピントが合った時のインキ層の高さを測定し、これをインキ膜厚とするものである。マルチカラー光は、一般的な白色LED光源による光と比較して、より広範囲な波長帯域で安定した高輝度発光が得られ、測定レンジのどの位置でも十分な光量を確保することができる。
インキ膜厚測定用センサ35としては、具体的には、マルチカラーレーザ同軸変位計「CL-L/P070」「CL-L/P030」「CL-L/P015」を用いることができ、特に測定対象ローラの周面との距離をある程度確保するために、「CL-L/P070」「CL-L/P030」を用いることが好ましい。
また、上記のインキ膜厚測定用センサ35は、センサーレンズヘッドのインキ層からのインキミスト汚れ防止として、微量のエアーをレンズに吹きつけたり、レンズに向かってくるインキミストを微量のエアーを用いてレンズに向かわないように制御したりして、レンズの汚れを防止する汚れ防止機構を有する構成のものとすることができる。
また、印刷機のインキ装置3の停止時は、インキミスト汚れ防止エアーは制御によって自動で停止する。これにより、省エネルギーやインキ乾き防止の効果が得られる。
【0027】
ガイド部31は、トランスファローラ14の軸方向(ローラの長手方向)に伸びるガイド用穴31aが形成されたガイドレール31bと、ガイドレール31bをインキ装置3のローラ群を軸支する共通のブラケット33に適宜の高さおよび位置に固定する支持部31cと、ガイド用穴31aに脱離しない状態に挿入されて軸方向に移動可能な固定部材31dを有する。インキ膜厚測定用センサ35は、固定部材31dによって固定されることにより、ガイド部31に連結される。
【0028】
制御部は、インキ膜厚測定用センサ35の移動および測定を制御するものであり、具体的には、ガイド部31によってインキ膜厚測定用センサ35をトランスファローラ14の回転軸と平行な測定ラインに沿ってリニア移動させるとともに、トランスファローラ14上のインキ層における最も厚みの大きい部分の膜厚を検出するものである。
インキ膜厚測定用センサ35の移動速度は、インキ装置3のインカースピードその他の印刷条件に基づいて、適宜に決定することができる。
【0029】
インキ膜厚測定装置30は、インキ装置3の各々に対応して複数設けられており、図示の例では、印刷機が8個のインキ装置を有することから、8個のインキ膜厚測定装置30が設けられている。各インキ装置3においては、有色インキや透明インキを用いることができ、いずれのインキ装置3においてもインキ膜厚測定装置30によってインキ膜厚を測定することができる。
【0030】
本発明のインキ膜厚測定方法においては、以下のようにインキ膜厚の測定が行われる。
まず、上記の印刷機のインキ装置3においては、印刷機が稼働すると、インキファウンテン11とファウンテンローラ12との間に軸方向に一様な隙間が存在することにより、ファウンテンローラ12に軸方向に均一な厚さにインキが塗布される。次いで、ダクターローラ13の各小ローラには、ファウンテンローラ12と接触している間に従動回転し、回転時間に比例する周長に亘って、小ローラに均一な幅および厚さのインキが転移されて帯状のインキ膜が形成される。このインキ膜は、小ローラがトランスファローラ14と接触している間に、小ローラ間の間隙部に基づく筋状の非塗布部(図示されない)を残してトランスファローラ14に転移され、これによりトランスファローラ14の周面上にインキ膜が形成される。さらに、ディストリビュータローラ15を介してバイブレータローラ16に転写され、バイブレータローラ16、および、ディストリビュータローラ17,19を介して転写されたバイブレータローラ18,20においてインキ層の周面方向の均質化が図られながら、フォームローラ21,22を介して版胴2にインキ層が転写される。
そして、このインキ装置3の駆動時に、インキ膜厚測定装置30の制御部においては、インキ膜厚測定用センサ35をトランスファローラ14の軸方向に移動させ、軸方向の各点についてインキ膜厚を測定させることによって、その最大値を検出し、その結果を表示部に表示する。表示部においては、生産工程中(インキ装置3の駆動中)にリアルタイムでインキ膜厚が視認される。印刷機に備えられた複数のインキ装置3に係る複数のインキ膜厚測定装置30による測定結果を統合して視認することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えばインキ膜厚測定装置30は、インキ膜厚測定用センサ35によって測定されたインキ膜厚に基づいて、インキ装置3に供給するインキの量、インキの温度、粘度、インキ供給機能ローラ群10aの基準設定温度やインキ均し機能ローラ群10bの基準設定温度等をフィードバック制御する構成とされてもよい。
【実施例0032】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下の条件の本発明のインキ膜厚測定装置30を用い、印刷機を駆動させながら、トランスファローラ14の周面上のインキ膜厚を測定したところ、インキ膜厚測定用センサ35の測定値は0.0069mm(6.9μm)であった。
・インキ膜厚測定用センサ35:マルチカラーレーザ同軸変位計「CL-L/P030」(キーエンス社製)
・トランスファローラ14との距離:30mm
・インキ装置3のインカースピード:400缶/分(cpm)
・使用インキ:墨インキ
【0033】
〔参考例1〕
実施例1と同じ構成の印刷機について、印刷機のインキ装置を駆動させた後、一時停止してロータリーゲージ(エリクセン社製)を用いて手作業でトランスファローラ上のインキ膜厚を測定したところ、0.007mm(7.0μm)であった。ロータリーゲージによる測定は、3回行い、その平均値を算出した。
【0034】
以上の実施例1および参考例1の結果から明らかなように、従来の測定法である手作業の測定結果と、実施例1の自動測定の誤差は0.1μmであり、上記の本発明に係る実施例1のインキ膜厚測定装置が実用に耐えることが確認された。
なお、インキ層の厚みは通常、5~20μm程度である。
【0035】
〔参考例2〕
インキ膜厚測定用センサとして、三角測距方式のものを用いたことの他は実施例1と同様に構成した印刷機を用いて、印刷機のインキ装置を駆動させながらトランスファローラ上のインキ膜厚を測定したところ、実施例1との誤差が少なくとも20μmはあり、また測定毎のバラツキも大きく、実用に耐えないことが確認された。
【0036】
〔比較例1〕
測定対象ローラをトランスファローラ14の代わりにバイブレータローラ16としたことの他は実施例1と同様に構成し、印刷機のインキ装置を駆動させながら揺動中のバイブレータローラ16上のインキ膜厚を測定したところ、実施例1との誤差が少なくとも30μmはあり、実用に耐えないことが確認された。