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特開2024-72486蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072486
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/591 20210101AFI20240521BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240521BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240521BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240521BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20240521BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240521BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M50/591 101
H01M10/04 Z
H01M10/052
H01M10/058
H01M50/586
H01G11/52
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183326
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
(72)【発明者】
【氏名】月ヶ瀬 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慈
(72)【発明者】
【氏名】森本 凌平
【テーマコード(参考)】
5E078
5H028
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA14
5E078BA18
5E078BA44
5E078BA52
5E078BA53
5E078BA54
5E078CA06
5E078DA03
5E078DA06
5H028AA05
5H028AA08
5H028CC08
5H028CC11
5H028CC17
5H028EE06
5H028EE10
5H028HH01
5H028HH05
5H029AJ12
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ01
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ12
5H043AA04
5H043AA19
5H043BA17
5H043BA19
5H043CA15
5H043GA22
5H043JA21
5H043KA22
5H043KA30
5H043LA02
5H043LA14
5H043LA21
(57)【要約】
【課題】短絡をより抑制する。
【解決手段】蓄電デバイスは、第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、第1電極と第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備え、第1電極と分離膜との間及び第2電極と分離膜との間の少なくとも一方に、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たし、第1電極、第2電極及び分離膜のうち隣に配置された少なくとも1つとは水溶性か難水溶性かが異なるポリマー膜を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備え、
前記第1電極と前記分離膜との間及び前記第2電極と前記分離膜との間の少なくとも一方に、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たし、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち隣に配置された少なくとも1つとは水溶性か難水溶性かが異なるポリマー膜を備えた、
蓄電デバイス。
【請求項2】
前記ポリマー膜は、膜厚が1μm以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記ポリマー膜は、水溶性であり、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記ポリマー膜の隣に配置された少なくとも1つは、難水溶性である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記ポリマー膜は、カルボキシメチルセルロースを含み、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記ポリマー膜の隣に配置された少なくとも1つは、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体のうち1以上を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記第1電極は、柱状の負極である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記ポリマー膜は、前記第1電極と前記分離膜との間及び前記第2電極と前記分離膜との間の両方に設けられている、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうちのいずれかである基材の表面に、ポリマー溶液を用いて、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たすポリマー膜を形成するポリマー膜形成工程と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記基材上に形成される塗膜の原料を含む塗膜原料液を用いて、前記基材上に形成されたポリマー膜の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、
を含み、
前記ポリマー膜は、前記塗膜原料液に難溶であるか、前記基材は、前記ポリマー溶液に難溶であるか、の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー溶液は、ポリマー濃度が1質量%以下である、請求項7に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー膜は、水溶性であり、前記基材は、難水溶性である、請求項7又は8に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー溶液は、カルボキシメチルセルロースを含む水溶液であり、前記塗膜原料液は、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体のうちの1以上を有機溶媒に溶解させた溶液を含む、請求項7又は8に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、負極活物質を含む繊維体を結束した柱状体と、導電粒子と結着材とを含み柱状体の凹凸面に形成された平滑層と、を備えた柱状負極と、イオン伝導性及び絶縁性を有し平滑層の表面に形成された分離膜と、正極活物質を含み分離膜の外周に形成された正極と、を備えた蓄電デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、炭素繊維束の凹凸面に導電粒子や結着材を含む平滑層を備えることで負極の表面が平滑になるため、その周囲に形成された分離膜が有効に負極と正極とを隔離して、短絡を抑制することができる。この蓄電デバイスは、例えば、炭素繊維や人造黒鉛粒子がポリフッ化ビニリデン(PVdF)で結着された柱状負極の表面に、アルミナ粒子、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む分離膜スラリーを塗布、乾燥して分離膜を形成し、形成した分離膜の表面に正極活物質と導電材とPVdFとNMPとを含む正極スラリーを塗布、乾燥して正極を形成して作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-114774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の蓄電デバイスでは、負極の表面を平滑にすることで短絡を抑制しているが、短絡をより抑制することが望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、短絡をより抑制することができる蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、例えば負極の表面に分離膜スラリーを塗布、乾燥する前に所定のポリマー膜を形成するか、分離膜の表面に正極スラリーを塗布、乾燥する前に所定のポリマー膜を形成すると、短絡をより抑制できることを見出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスは、
第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備え、
前記第1電極と前記分離膜との間及び前記第2電極と前記分離膜との間の少なくとも一方に、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たし、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち隣に配置された少なくとも1つとは水溶性か難水溶性かが異なるポリマー膜を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイス用電極の製造方法は、
第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうちのいずれかである基材の表面に、ポリマー溶液を用いて、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たすポリマー膜を形成するポリマー膜形成工程と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記基材上に形成される塗膜の原料を含む塗膜原料液を用いて、前記基材上に形成されたポリマー膜の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、
を含み、
前記ポリマー膜は、前記塗膜原料液に難溶であるか、前記基材は、前記ポリマー溶液に難溶であるか、の少なくとも一方を満たすものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法では、短絡をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、第1電極と分離膜との間及び第2電極と分離膜との間の少なくとも一方に、所定のポリマー膜を設けるため、第1電極と分離膜と間や第2電極と分離膜との間で生じることのある相溶が抑制される。これにより、第1電極の材料や第2電極の材料の分離膜側への移動などが抑制され、短絡の発生をより抑制できると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】蓄電デバイス10の一例を示す模式図。
図2】単セル11の断面図を示す模式図。
図3】塗布装置60の一例を示す模式図。
図4】蓄電デバイス30の一例を示す模式図。
図5】実験例1~4の放電電流と放電容量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(蓄電デバイス)
まず、本実施形態で開示する蓄電デバイスについて図面を用いて説明する。図1は、蓄電デバイス10の一例を示す模式図である。図2は、蓄電デバイス10の断面図を示す模式図である。本開示の蓄電デバイス10は、第1電極活物質を含む第1電極18と、第2電極活物質を含む第2電極22と、第1電極18と第2電極22との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜20とを備える。第1電極18と分離膜20との間には第1ポリマー膜19が配置され、分離膜20と第2電極22との間には第2ポリマー膜21が配置されている。ここでは、第1電極18は柱状であり、第2電極22は第1電極18の外周に積層されている。蓄電デバイス10は、第1電極18を1つ備えた単セル11としてもよいし、第1電極18を複数備え、第2電極22が隣合う分離膜20同士の間を埋めるように設けられているものとしてもよい。この蓄電デバイス10では、500本以上の第1電極18が結束された構造を有しているものとしてもよい。
【0012】
この蓄電デバイス10は、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスのキャリアイオンは、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオンやマグネシウムイオンやストロンチウムイオン、カルシウムイオンなどの第2族イオンなどが挙げられる。また、第2電極22は、柱状の第1電極18の周りに存在するものとしてもよいし、第1電極18の間の空間に充填されているものとしてもよい。また、この蓄電デバイス10は、分離膜20を介して第2電極22と隣り合う状態で複数の柱状の第1電極18が結束された構造を有するものとしてもよい。更に、この蓄電デバイス10は、第1電極18、第1ポリマー膜19、分離膜20、第2ポリマー膜及び第2電極22のうち1以上に電解液を含むものとしてもよい。第1電極18及び第2電極22には、集電線などの集電部材が埋設されているものとしてもよいし、この集電部材を備えないものとしてもよい。この蓄電デバイス10は、第1電極18に電気的に接続された第1集電体24と、第2電極22に電気的に接続された第2集電体25とを備えているものとしてもよい。この蓄電デバイス10において、第1電極18を負極又は正極とし、第2電極22を正極又は負極としてもよいが、第1電極18を負極とし、第2電極22を正極とすることが好ましい。
【0013】
ここでは、説明の便宜のため、単セル11を複数備えている蓄電デバイス10を主として説明する。また、ここでは、負極としての第1電極18を複数備え、正極としての第2電極22が第1電極18の周囲に存在する、リチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池である蓄電デバイス10をその主たる一例として以下説明する(図1、2参照)。
【0014】
蓄電デバイス10において、第1電極18は、第1電極活物質としての負極活物質を含み、結着材を用いて柱状に形成されている。ここで、「柱状」とは、屈曲しない太さのもののほか、屈曲可能な太さのものも含むものとする。この第1電極18は、柱状であればよく、その断面は円形であってもよいし、多角形であってもよい。蓄電デバイス10では、複数の第1電極18が所定方向に配列されている。この第1電極18は、蓄電デバイス10の最も短い辺の方向とは異なる方向に配列されているものとしてもよい。第1電極18は、第1集電体24に接続される端部以外の外周が分離膜20に覆われている。例えば、第1電極18は、蓄電デバイス10全体の負極容量の1/nの容量を有し、n個が第1集電体24に並列接続されているものとしてもよい。この第1電極18は、長手方向に垂直な断面の直径Dが10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、30μm以上であるものとしてもよい。また、第1電極18の直径Dは、800μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であるものとしてもよい。この直径Dが10μm以上では、電極構造体としての強度を担保することができ安定した充放電ができる。また、この直径Dが800μm以下ではキャリアのイオンの移動距離が長くなりすぎず、高出力性能が得られる。また、この直径Dが10~500μmの範囲では、単位体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる。あるいは、この範囲では、キャリアのイオンの移動距離をより短くすることができ、より大きな電流で充放電を行うことができる。なお、直径d,Dは、平均直径をいうものとする。この柱状体12の長手方向の長さは、蓄電デバイスの用途などに応じて適宜定めることができ、例えば、20mm以上200mm以下の範囲などとしてもよい。柱状体12の長さが20mm以上では、電池容量をより高めることができ好ましく、200mm以下では、負極の電気抵抗をより低減することができ好ましい。
【0015】
第1電極18は、例えば、負極活物質に必要に応じて導電材を加えて結着材で結着したものとしてもよく、負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合した負極合材を備えたものとしてもよい。負極活物質としては、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、水溶性でも難水溶性でもよいが、本実施形態では、難水溶性とする。難水溶性の結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。結着材は、キャリアイオンの伝導性を有するものが好ましい。
【0016】
第1電極18は、図1に示すように、負極活物質を含む繊維体13を結束した柱状体12の表面に、導電粒子と結着材とを含む平滑層15を形成したものとしてもよい。柱状体12は繊維体13の結束体であることから、その側面側の外周面には凹凸面14が形成される。平滑層15は、こうした凹凸面14に形成されて、柱状体12の外周面を平滑化する。
【0017】
繊維体13は、例えば、金属の繊維体としてもよいし、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料の繊維としてもよい。炭素材料は、導電性が高く、第1電極18として好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト類や、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類のうち1以上が挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。また、繊維体13は、グラファイト構造を有する炭素繊維としてもよい。このような炭素繊維は、例えば、繊維方向である長手方向に結晶が配向したものが好ましい。また、長手方向(繊維方向)に直交する方向に断面視したときに結晶が中心から外周面側に放射状に配向したものであることが好ましい。繊維体13の直径dは、例えば、5μm以上としてもよいし、7μm以上としてもよいし、10μm以上としてもよい。また、繊維体13の直径dは、50μm以下の範囲としてもよいし、25μm以下としてもよいし、20μm以下としてもよい。第1電極18は、複数の繊維体13を撚糸して得られたものとしてもよいし、複数の繊維体13を結着材により結着させたものとしてもよい。
【0018】
繊維体13の真密度は、より大きいことが好ましく、2.0g/cm3以上であることが好ましく、より好ましくは2.2g/cm3以上、更に好ましくは、2.3g/cm3以上である。また、この真密度は、3.0g/cm3以下であるものとしてもよい。
【0019】
平滑層15は、導電粒子16と結着材17とを含み、柱状体12の凹凸面14に形成された層である。この平滑層15は、柱状体12の外周面を平滑化する層であり、凹凸面14に充填されているものとしてもよい。平滑層15は、できるだけ薄い方が容量低下を防止する観点から好ましい。平滑層15の厚さは、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が一層好ましい。また、平滑層15の厚さは、凹凸面14の平滑化の観点からは、より厚いことが好ましい。平滑層15の厚さは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。平滑層15の厚さは、凹凸面14の凹凸の大きさに応じて適宜設定すればよい。平滑層15の厚さは、単セル11の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像を取得し、この画像において1本あたり10点以上の検出点を任意に設定し、この検出点における凹凸面14の表面と平滑層15の外表面との距離を測定する処理を各単セル11ごとに行って得られた平均値とする。
【0020】
平滑層15は、繊維体13の直径d以下のメディアン径を有する導電粒子16を含むことが好ましい。この導電粒子16では、凹凸面14の内部を充填しやすいため、平滑層15の上面をより平滑にすることができ、分離膜20を隈無く形成しやすい。繊維体13の直径dに対する導電粒子16のメディアン径D50との比であるD50/dは、例えば、0.5以上0.95以下の範囲が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下が更に好ましく、0.75以下としてもよい。平滑層15は、メディアン径が10μm未満の導電粒子16を含むものとしてもよい。導電粒子16の粒径は、凹凸面14の内部への充填されやすいサイズであればよく、例えば、8μm以下が好ましく、7.5μm以下がより好ましく、7μm以下としてもよい。この導電粒子16の粒径は、粒子作製の困難性の観点から、1μm以上としてもよい。
【0021】
導電粒子16は、導電性を有するものとすれば特に限定されず、例えば、金属や炭素の粒子としてもよい。このうち、導電粒子16は、炭素材料の粒子であることが好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト類や、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類のうち1以上が挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。黒鉛系の炭素材料は、導電性を有すると共に、キャリアのイオンを挿入脱離可能であり電極活物質として機能することから、導電性及び充放電容量の低下防止の観点からより好ましい。
【0022】
結着材17は、導電粒子16を凹凸面14上に固定することができれば特に限定されないが、キャリアイオンの伝導性を有することが好ましい。この結着材17は、水溶性でも難水溶性でもよいが、本実施形態では難水溶性とする。難水溶性の結着材17としては、例えば、PVdFや、PVdF-HFP共重合体、PMMA、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。平滑層15の組成について、平滑層15は、導電粒子16を80質量%以上含むことが好ましい。平滑層15は、導電粒子16を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むものとしてもよい。導電粒子16の含有量が多ければ、導電性や充放電容量の向上を図ることができる。また、平滑層15は、導電粒子16以外が結着材17であるものとしてもよく、結着材17を20質量%以下含むものとしてもよい。
【0023】
分離膜20は、キャリアイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有し第1電極18と第2電極22とを絶縁するものであり、セパレータの機能を有する。分離膜20は、第1電極18の平滑層15の表面上に第1ポリマー膜19を介して形成されている。分離膜20は、第2電極22と対向する第1電極18の外周面の全体に形成されており、第1電極18と第2電極22との短絡を防止している。分離膜20は、ポリマーを含むものとしてもよく、さらに絶縁性の無機粒子を含むものとしてもよい。この分離膜20のポリマーは、水溶性でも難水溶性でもよいが、本実施形態では難水溶性とする。難水溶性のポリマーとしては、例えば、PVdFや、PVdF-HFP共重合体、PMMA、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdF-HFP共重合体では、電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。分離膜20の無機粒子としては、アルミナなどのセラミック粒子が挙げられる。この無機粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上5μm以下としてもよく、0.5μm以上1μm以下としてもよい。分離膜20において、無機粒子の含有量は、ポリマーと無機粒子との全体に対して50%以上99%以下としてもよいし、70%以上97%以下としてもよいし、80%以上95%以下としてもよい。この分離膜20の厚さは、例えば、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であるものとしてもよい。分離膜20の厚さが2μm以上では、絶縁性を確保する上で好ましい。特に、分離膜20の厚さが2μm以上であれば、作製しやすい。また、分離膜20の厚さは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下としてもよい。分離膜20の厚さが40μm以下では、イオン伝導性の低下を抑制できる点や、セルに占める体積をより低減する上で好ましい。分離膜20の厚さが2~40μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。分離膜20の厚さは、単セル11の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像を取得し、この画像において1本あたり10点以上の検出点を任意に設定し、この検出点における平滑層15に接する表面と第2電極22に接する表面との距離を測定する処理を各単セル11ごとに行って得られた平均値とする。
【0024】
分離膜20は、キャリアであるイオンを伝導する電解液を含むものとしてもよい。この電解液は、例えば、非水系溶媒などが挙げられる。電解液の溶媒としては、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。この電解液には、蓄電デバイス10のキャリアであるイオンを含む支持塩を溶解したものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0025】
第2電極22は、第2電極活物質としての正極活物質を含み、隣合う分離膜20同士の間を埋めるように設けられている。なお、第2電極22は、分離膜20の外表面に形成されているものとしてもよい。第2電極22は、単セル11の作製時において、第1電極18を内包し断面の外形を六角形状とするものとしてもよい(図1参照)。この形状であれば、正極活物質が外周に形成された第1電極18を結束すると、第2電極22が第1電極18の間に充填されやすく好ましい。この第2電極22は、複数の第1電極18の間に存在するものとすればよく、図1に示すように、外形が六角形状であることに限定されない。第2電極22は、導電材を含み、それ自体に導電性を有するものとし、集電部材などは省略されているものとしてもよい。第2電極22には、いずれかの領域に第2集電体25が接続されている。
【0026】
第2電極22は、例えば、正極活物質と、結着材と、必要に応じて導電材とを混合した正極合材からなるものとしてもよい。正極活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMnc2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMnc4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32やLiNi0.4Co0.3Mn0.32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。導電材は、第1電極18で例示したものなどを用いることができる。結着材は、水溶性でも難水溶性でもよいが、本実施形態では難水溶性とする。難水溶性の結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVdF、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0027】
第2電極22において、第2電極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、第2電極22の質量全体に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。導電材の含有量は、第2電極22の全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。また、結着材の含有量は、第2電極22の質量全体に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0028】
第1電極18と分離膜20との間には第1ポリマー膜19が設けられている。第1ポリマー膜19は、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たせばよいが、両方を満たすことが好ましい。第1ポリマー膜19は、第1電極18及び分離膜20の少なくとも一方とは水溶性か難水溶性かが異なればよいが、第1電極及び分離膜20の両方と水溶性か難水溶性かが異なることが好ましい。水溶性のポリマーとしては、親水性ポリマーなどが挙げられ、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー等が挙げられる。このうち、特に、カルボキシメチルセルロースが、水への溶解性、安定性、耐電解液性、耐有機溶媒性、などの観点から好ましい。これらは、単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。水溶性のポリマーは、有機溶媒に難溶なポリマーであることが好ましい。難水溶性のポリマーとしては、疎水性のポリマーなどが挙げられ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂や、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、PMMAとアクリルポリマーとの共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等が挙げられる。これらのうち、PVdFや、PVdF-HFP共重合体が、耐電解液性、耐水性、などの観点から好ましい。これらは、単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。なお、本実施形態では、第1ポリマー膜19は、水溶性のポリマーとする。
【0029】
第1ポリマー膜19は、ポリマーを主体とする膜体であることが好ましく、無機粒子(例えば、セラミック粒子などの絶縁粒子や炭素粒子など導電粒子)のような、ポリマー以外の成分を実質的に含まないことが好ましい。例えば、第1ポリマー膜19は、ポリマーが90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0030】
第1ポリマー膜19の膜厚は、イオン伝導性の観点から、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が一層好ましく、0.2μm以下がより一層好ましい。第1ポリマー膜19の膜厚は、短絡をより抑制する観点からは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上がさらに好ましく、0.05μm以上が一層好ましい。第1ポリマー膜19の膜厚は、単セル11の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像を取得し、この画像において1本あたり10点以上の検出点を任意に設定し、この検出点における第1電極18に接する表面と分離膜20に接する表面との距離を測定する処理を各単セル11ごとに行って得られた平均値としてもよい。SEMでの測定が難しい場合には、後述する第1ポリマー溶液の、第1電極18への塗布量、固形分(すなわち第1ポリマー)濃度、固形分の密度、溶媒の密度、から第1ポリマー溶液中の固形分の体積を算出し、これを第1ポリマー膜形成面の面積で除して、第1ポリマー膜19の膜厚として算出してもよい。第1ポリマー膜形成面の面積は、断面SEM像から第1電極18の直径を測定して周長を算出し、これに第1ポリマー溶液を塗布した長さを乗じて算出してもよい。なお、第1電極18の直径は、断面の複数箇所(例えば4箇所)の平均直径としてもよい。また、第1電極18の直径は、第1電極18の外周面の凹凸の中間位置での直径としてもよい。
【0031】
分離膜20と第2電極22との間には第2ポリマー膜21が設けられている。第2ポリマー膜21は、電子絶縁性であるか膜厚が10μm以下であるかの少なくとも一方を満たせばよいが、両方を満たすことが好ましい。第2ポリマー膜21は、分離膜20及び第2電極22の少なくとも一方とは水溶性か難水溶性かが異なればよいが、分離膜20及び第2電極22の両方と水溶性か難水溶性かが異なることが好ましい。水溶性ポリマーや難水溶性ポリマーとしては第1ポリマー膜19で例示したものが挙げられる。第2ポリマー膜21の材質は、第1ポリマー膜19の材質と同種でも異種でもよい。なお、本実施形態では、第2ポリマー膜21は、水溶性ポリマーとする。
【0032】
第2ポリマー膜21は、ポリマーを主体とする膜体であることが好ましく、無機粒子(例えば、セラミック粒子や炭素粒子など)のような、ポリマー以外の成分を実質的に含まないことが好ましい。例えば、第2ポリマー膜21は、ポリマーが90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0033】
第2ポリマー膜21の膜厚は、イオン伝導性の観点から、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が一層好ましく、0.2μm以下がより一層好ましい。第2ポリマー膜21の膜厚は、短絡をより抑制する観点からは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上がさらに好ましく、0.05μm以上が一層好ましい。第2ポリマー膜21の膜厚は、単セル11の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像を取得し、この画像において1本あたり10点以上の検出点を任意に設定し、この検出点における分離膜20に接する表面と第2電極22に接する表面との距離を測定する処理を各単セル11ごとに行って得られた平均値としてもよい。SEMでの測定が難しい場合には、後述する第2ポリマー溶液の、分離膜20への塗布量、固形分(すなわち第2ポリマー)濃度、固形分の密度、溶媒の密度、から第2ポリマー溶液中の固形分の体積を算出し、これを第2ポリマー膜形成面の面積で除して、第2ポリマー膜21の膜厚として算出してもよい。第2ポリマー膜形成面の面積は、断面SEM像から分離膜20の直径を測定して周長を算出し、これに第2ポリマー溶液を塗布した長さを乗じて算出してもよい。なお、分離膜20の直径は、断面の複数箇所(例えば4箇所)の平均直径としてもよい。また、分離膜20の直径は、分離膜20の外周面の凹凸の中間位置での直径としてもよい。
【0034】
第1集電体24は、導電性を有し、第1電極18から集電する部材であり、第1電極18の端面に電気的に接続されている。第1集電体24は、本数Nが500本以上である第1電極18が並列接続されているものとしてもよいし、1千本以上や、1万以上の第1電極18が並列接続されているものとしてもよい。第1集電体24は、導電性を有する部材であり、例えば、カーボンペーパー、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化(還元)性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。第2集電体25の形状は、第2電極22が接続できるものであれば特に限定されず、例えば、板状、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。第2集電体25は、第2電極22に電気的に接続されている。この第2集電体25は、蓄電デバイス10の底面側もしくは側面側に配設されている。第2集電体25の材質及び形状は、例えば、上述した第1集電体24で挙げたいずれかの材質及び形状を用いることができる。
【0035】
この蓄電デバイス10において、体積エネルギー密度は、より高いことがより好ましく、例えば、400Wh/L以上であることが好ましく、500Wh/L以上であることがより好ましく、600Wh/L以上であることが更に好ましい。この蓄電デバイス10において、正極活物質の容量に対する負極活物質の容量の比である正負極容量比(負極容量/正極容量)は、1.0以上1.5以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2以下の範囲である。第2電極22の形成厚さは、第1電極18の直径D及び正負極容量比に応じて適宜設定されるが、例えば、5μm以上50μm以下の範囲としてもよい。第2電極22の形成厚さは、例えば、第1電極18上に形成された部分のうち最大の厚さをいうものとする。
【0036】
(蓄電デバイスの製造方法)
次に、本開示の蓄電デバイスの製造方法について説明する。この蓄電デバイスの製造方法は、上述した蓄電デバイス10の製造方法としてもよい。蓄電デバイス10の製造方法は、例えば、第1電極18を形成する第1電極形成工程と、第1電極18の表面に第1ポリマー膜19を形成する第1ポリマー膜形成工程と、第1ポリマー膜19の表面に分離膜20を形成する分離膜形成工程と、分離膜20の表面に第2ポリマー膜21を形成する第2ポリマー膜形成工程と、第2ポリマー膜21の表面に第2電極22を形成する第2電極形成工程と、を含む。この蓄電デバイスの製造方法では、長尺の電極構造体を形成し、長尺の電極構造体を所定長さに切断して単セル11を作製してもよい。上記各工程では、液状物を用いて、第1電極18、第1ポリマー膜19、分離膜20、第2ポリマー膜21、第2電極20などを形成してもよく、その際、各工程では各々、図3の塗布装置60を用いてもよい。図3Aは、塗布装置60の正面図であり、図3Bは、インナーノズル62の中心軸に沿って塗布装置60を切断した断面図である。
【0037】
塗布装置60は、塗布対象物Lに液状物を形成するものである。塗布対象物Lは、長尺材としてもよい。液状物としては、例えば、後述の、炭素繊維束を結着する結着材や、平滑材、第1ポリマー溶液、分離膜原料液、第2ポリマー溶液、第2電極原料液などが挙げられる。塗布装置60は、図3に示すように、インナー部材61と、アウター部材65と、供給管69とを備える。塗布装置60は、インナーノズル62の外面62bと、アウターノズル66の内面66bとにより構成されるキャビティ67から液状物を、インナーノズル62の中心孔62aを通過する塗布対象物Lに塗布する。液状物は、アウターノズル66の先端とインナーノズル62の先端とにより形成される円周状のスリットから塗布対象物Lへ吐出される。インナー部材61は、中心孔62aが形成され、塗布方向に突出したインナーノズル62を有している。インナー部材61は、板状の本体の下面側に外面62bを有する円錐状のインナーノズル62が形成されている。インナーノズル62は、その内部に塗布対象物Lが通過する円錐形状の供給空間63が形成され、その先端に中心孔62aが形成されている。塗布対象物Lは、この中心孔62aを通過する。インナーノズル62の本体側の外周には、Oリング64が配設されている。Oリング64によって、キャビティ67からの液状物の流出が抑制される。アウター部材65は、中心孔が形成され、塗布方向に突出しインナーノズル62を同心状に収容するアウターノズル66を有している。アウター部材65は、円柱状の本体の内部に、インナーノズル62が挿入される円錐状の空間が形成されている。アウター部材65の下面側に、下方へ突出したアウターノズル66が形成され、その中央に中心孔66aが形成されている。アウター部材65は、中心孔62aと中心孔66aとが同心となるように位置決め部で位置決めしてインナー部材61を固定する。アウター部材65は、その側面にキャビティ67へ連通する供給管69が接続されている。供給管69へは、図示しないタンクから、ポンプを介して液状物が供給される。インナー部材61とアウター部材65との間には、図示しないシムプレートが配設されていてもよい。例えば、このシムプレートの厚さを変更することによって、液状物が吐出される円周上のスリットの幅を容易に変更することができる。この塗布装置60は、取付部70によって、図示しない筐体などに固定されていていもよい。例えば、特許第7059997号に開示された炭素繊維撚糸装置において、塗布部に代えてこの塗布装置60を取り付けて用いてもよい。なお、特許第7059997号の炭素繊維撚糸装置では、塗布部において、ノズルブロックの外周の4箇所に配設されたシリンジにより4方向から結着材を炭素繊維束に供給するが、この塗布装置60を用いることで、より安定的に液状物を塗布できる。
【0038】
・ 第1電極形成工程
この工程では、第1電極18を形成する。この工程では、第1電極18の原料を含む第1電極原料液を用いて第1電極18を形成してもよい。例えば、負極活物質と結着材と必要に応じて導電材を備えた第1電極合材に、結着材を溶解可能な溶媒を加えて第1電極原料液としたものを、成形、乾燥させて第1電極18を形成してもよい。第1電極原料液は、スラリーとしてもよいしペーストとしてもよい。第1電極原料液に含まれる溶媒としては、上述した第1電極18の結着材(例えばPVdF)を溶解可能な溶媒が挙げられ、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いることができる。なお、第1電極形成工程で得られる第1電極18は、後述の第1ポリマー溶液に難溶であることが好ましい。例えば、第1電極18の結着材は、第1ポリマー溶液に含まれる溶媒への溶解性が、第1ポリマー溶液のポリマーよりも低いことが好ましい。
【0039】
この工程は、繊維状の第1電極活物質を含む繊維体13を結束した柱状体12を形成する柱状体形成工程、を含むものとしてもよい。この柱状体形成工程では、例えば、複数の繊維体13を撚糸し、結着材で結着させて柱状体12を形成してもよく、その際、上述した特許第7059997号の炭素繊維撚糸装置を用いて柱状体12を形成してもよい。
【0040】
この工程は、繊維状の第1電極活物質を含む繊維体13を結束した柱状体12の凹凸面14に、導電粒子16と結着材17とを含む平滑材を形成する平滑工程、を含むものとしてもよい。この平滑工程では、上述した第1電極18の説明に応じた条件を採用することができるものとして、その詳細な説明を省略する。平滑工程では、繊維体13の平均直径以下のメディアン径を有する導電粒子16を用いるものとしてもよい。また、メディアン径が10μm未満の導電粒子16を用いることが好ましい。また、平滑工程では、平均厚さが30μm以下の平滑材を凹凸面14に形成するものとしてもよい。また、平滑工程では 繊維体13としての炭素繊維を結束した柱状体12を用い、導電粒子16として黒鉛粒子を含む平滑材を用いるものとしてもよい。また、平滑工程では、導電粒子16を80質量%以上含み固形分濃度が50質量%以上である平滑材を用いるものとしてもよい。平滑材には、固形分以外に溶媒を加えるものとしてもよい。この固形分濃度は、柱状体12への塗布がより確実にできる濃度とすればよく、60質量%以上としてもよいし、70質量%以上としてもよい。乾燥の容易性の観点からは、固形分濃度が高い方が好ましく、平滑材を塗布する容易性の観点からは、固形分濃度が低い方が好ましい。溶媒は、結着材を溶解可能な溶媒であることが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0041】
・ 第1ポリマー膜形成工程
この工程では、第1電極18の外周面に、第1ポリマー溶液を用いて、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たす第1ポリマー膜19を形成する。この工程では、第1電極18の外周面に第1ポリマー溶液を塗布、乾燥することにより第1ポリマー膜19を形成してもよい。第1ポリマー溶液は、第1ポリマー膜19の原料を含むものであり、上述した第1ポリマー膜19のポリマー(例えばCMC)を溶媒に溶解した溶液を含む。溶媒は、上述した第1ポリマー膜19のポリマーを溶解可能な溶媒であればよいが、基材となる第1電極18の結着材を溶解しにくい溶媒であることが好ましい。本実施形態では、第1ポリマー膜19は水溶性ポリマーのため、溶媒としては例えば、水を用いることができる。第1ポリマー溶液において、ポリマー濃度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が一層好ましい。このポリマー濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましく、0.3質量%以上が一層好ましい。ポリマー濃度を調整することで、第1ポリマー膜19の膜厚を比較的容易に調整できる。第1ポリマー溶液の塗布方法としては、塗布装置60を用いる方法としてもよいし、ディップコーティング、アプリケータロールなどのローラコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどとしてもよい。なお、第1ポリマー膜形成工程で得られる第1ポリマー膜19は、後述の分離膜原料液に難溶であることが好ましい。例えば、第1ポリマー膜19のポリマーは、分離膜原料液に含まれる溶媒への溶解性が、分離膜原料液のポリマーより低いことが好ましい。また、第1ポリマー膜19のポリマーは、分離膜原料液に含まれる溶媒への溶解性が、第1電極の結着材よりも低いことが好ましい。
【0042】
・ 分離膜形成工程
この工程では、第1電極18上に形成された第1ポリマー膜19の外周面に、分離膜原料液を用いて分離膜20を形成する。この工程では、第1ポリマー膜19の外周面に分離膜原料液を塗布、乾燥することにより分離膜20を形成してもよい。分離膜原料液は、分離膜20の原料を含むものであり、上述した分離膜20のポリマー(例えばPVdF)を溶媒に溶解させた溶液としてもよいし、さらに分離膜20の無機粒子を分散させたスラリーとしてもよい。溶媒は、分離膜20のポリマーを溶解可能な溶媒であればよいが、第1ポリマー膜19のポリマーを溶解しにくい溶媒であることが好ましい。本実施形態では、分離膜20は難水溶性ポリマーを含むため、溶媒としては、例えば、第1電極形成工程で挙げた有機溶媒を用いることができる。塗布方法としては、第1ポリマー膜形成工程で例示した塗布方法を用いることができる。なお、分離膜形成工程で得られる分離膜20は、後述の第2ポリマー溶液に難溶であることが好ましい。例えば、分離膜20のポリマーは、第2ポリマー溶液に含まれる溶媒への溶解性が、第2ポリマー溶液のポリマーよりも低いことが好ましい。
【0043】
・ 第2ポリマー膜形成工程
この工程では、分離膜20の外周面に、第2ポリマー溶液を用いて、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たす第2ポリマー膜21を形成する。この工程では、分離膜20の外周面に第2ポリマー溶液を塗布、乾燥することにより第2ポリマー膜21を形成してもよい。第2ポリマー溶液は、第2ポリマー膜21の原料を含むものであり、上述した第2ポリマー膜21のポリマー(例えばCMC)を溶媒に溶解した溶液を含む。溶媒は、第2ポリマー膜21のポリマーを溶解可能な溶媒であればよいが、基材となる分離膜20のポリマーを溶解しにくい溶媒であることが好ましい。本実施形態では、第2ポリマー膜21は水溶性ポリマーのため、溶媒としては例えば、水を用いることができる。第2ポリマー溶液において、ポリマー濃度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が一層好ましい。このポリマー濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましく、0.3質量%以上が一層好ましい。ポリマー濃度を調整することで、第2ポリマー膜21の膜厚を比較的容易に調整できる。第2ポリマー溶液の塗布方法としては、第1ポリマー膜形成工程で例示した塗布方法を用いることができる。なお、第2ポリマー膜形成工程で得られる第2ポリマー膜21は、後述の第2電極原料液に難溶であることが好ましい。例えば、第2ポリマー膜21のポリマーは、第2電極原料液に含まれる溶媒への溶解性が、第2電極原料液のポリマーより低いことが好ましい。また、第2ポリマー膜21のポリマーは、第2電極原料液に含まれる溶媒への溶解性が、分離膜のポリマーよりも低いことが好ましい。
【0044】
・ 第2電極形成工程
この工程では、分離膜20上に形成された第2ポリマー膜21の外周面に、第2電極原料液を用いて第2電極22を形成する。この工程では、第2ポリマー膜21の外周面に第2電極原料液を塗布、乾燥することにより第2電極22を形成してもよい。第2電極原料液は、第2電極22の原料を含むものであり、正極活物質と、結着材と、結着材を溶解可能な溶媒とを含むスラリーとしてもよい。溶媒は、上述した第2電極22の結着材(例えばPVdF)を溶解可能な溶媒であればよいが、第2ポリマー膜21のポリマーを溶解しにくい溶媒であることが好ましい。本実施形態では、第2電極22は難水溶性の結着材を含むため、溶媒としては、例えば、第1電極形成工程で挙げた有機溶媒を用いることができる。塗布方法としては、第1ポリマー膜形成工程で例示した塗布方法を用いることができる。
【0045】
以上の各工程を行うことにより、単セル11が得られる。蓄電デバイスの製造方法は、さらに、結束工程と、接続工程を含むものとしてもよい。結束工程では、単セル11を結束する処理を行う。結束工程では、複数の単セル11を配列して得られた積層体をプレス成形してもよい。また、接続工程では、結束した電池構造体から露出した第1電極18に第1集電体24を接続する処理を行う。第1集電体24の接続は、例えば、導電性結着材で結着してもよいし、金属箔などの第1集電体24を圧着してもよい。このような工程を経て、複数の単セル11が結束された蓄電デバイス10を作製することができる。
【0046】
ここで、本実施形態の構成要素と本開示の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1ポリマー膜19及び第2ポリマー膜21が本開示のポリマー膜に相当する。また、本実施形態の第1ポリマー膜形成工程及び第2ポリマー膜形成工程が本開示のポリマー膜形成工程に相当する。第1ポリマー膜形成工程をポリマー膜形成工程とすると、第1電極18が基材に相当し、第1ポリマー溶液がポリマー溶液に相当し、第1ポリマー膜19がポリマー膜に相当し、分離膜20が塗膜に相当し、分離膜原料液が塗膜原料液に相当し、分離膜形成工程が塗膜形成工程に相当する。第2ポリマー膜形成工程をポリマー膜形成工程とすると、分離膜20が基材に相当し、第2ポリマー溶液がポリマー溶液に相当し、第2ポリマー膜21がポリマー膜に相当し、第2電極22が塗膜に相当し、第2電極原料液が塗膜原料液に相当し、第2電極形成工程が塗膜形成工程に相当する。
【0047】
以上詳述した蓄電デバイス10及び蓄電デバイス10の製造方法では、短絡をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、難水溶性の結着材を含む第1電極18の表面に、水溶性の第1ポリマーを水に溶解させた溶液を含む第1ポリマー溶液を用いて第1ポリマー膜19を形成してから、難水溶性のポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液を含む分離膜原料液を用いて分離膜20を形成している。そのため、第1電極18の結着材が第1ポリマー溶液に溶解したり、第1ポリマー溶液のポリマーが分離膜原料液に溶解したりすることが抑制される。その結果、第1電極18と分離膜20との間の相溶による第1電極の材料の分離膜側への移動などが抑制され、短絡が抑制されると推察される。また、難水溶性のポリマーを含む分離膜20の表面に水溶性の第2ポリマーを水に溶解させた溶液を含む第2ポリマー溶液を用いて第2ポリマー膜21を形成してから、難水溶性の結着材を有機溶媒に溶解させた溶液を含む第2電極原料液を用いて第2電極22を形成している。そのため、分離膜20のポリマーが第2ポリマー溶液に溶解したり、第2ポリマー溶液のポリマーが第2電極原料液に溶解したりすることが抑制される。その結果、第2電極22と分離膜20との間の相溶による第2電極の材料の分離膜側への移動などが抑制され、短絡が抑制されると推察される。このようにして、蓄電デバイス10では、電極間における短絡の発生をより抑制することができる。なお、例えば、平滑層15を分離膜原料液への溶解性の低いものとして本開示のポリマー膜として用いることも考えられるが、導電性の平滑層15をポリマー膜とするよりも、絶縁性のポリマー膜を用いた方が、短絡をより抑制できる。また、平滑層15をポリマー膜とする場合、平滑層15としての機能の観点から平滑層の膜厚は例えば10μm以上が好ましいと予想されるが、ポリマー膜の厚みを10μm未満とした方が、イオン伝導性の低下を抑制できる。
【0048】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0049】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイスのキャリアをリチウムイオンとしたが、特にこれに限定されず、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2族元素イオンとしてもよい。また、正極活物質は、キャリアのイオンを含むものとすればよい。また、電解液を非水系電解液としたが、水溶液系電解液としてもよい。
【0050】
上述した実施形態では、第1電極18は、円柱形状である例を説明したが、特にこれに限定されず、四角柱や六角柱などの形状としてもよい。また、第2電極22は、外径を六角柱状で示したが、四角柱状や円柱状としてもよい。
【0051】
上述した実施形態では、正極活物質を遷移金属複合酸化物としたが、特に限定されず、例えば、キャパシタに用いられる炭素材料としてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0052】
上述した実施形態では、第1ポリマー膜19及び第2ポリマー膜21の両方を備えるものとしたが、どちらか一方を省略してもよい。また、第1ポリマー膜形成工程及び第2ポリマー膜形成工程の両方を含むものとしたが、どちらか一方を省略してもよい。なお、一方を省略する場合、導電成分の含有率が高い電極(本実施形態では、導電性の活物質を含む第1電極18)に隣り合う第1ポリマー膜19を省略せずに形成した方が、短絡抑制の効果がより大きいことが期待され、好ましい。
【0053】
上述した実施形態では、第1電極18、分離膜20及び第2電極22は難水溶性で、第1ポリマー膜19及び第2ポリマー膜21は水溶性としたが、第1電極18及び分離膜20の少なくとも一方が第1ポリマー膜19と水溶性か難水溶性かが異なるか、第2電極22及び分離膜20の少なくとも一方が第2ポリマー膜21と水溶性か難水溶性かが異なるか、の少なくとも一方を満たせば、これに限定されない。例えば、蓄電デバイス10の第2電極22を水溶性としてもよい。また、第1電極形成工程、分離膜形成工程及び第2電極形成工程では、難水溶性のポリマーと有機溶媒とを含む原料溶液を用い、第1ポリマー膜形成工程及び第2ポリマー膜形成工程では、水溶性のポリマーと水とを含むポリマー溶液を用いたが、第1電極形成工程及び分離膜形成工程の少なくとも一方の原料溶液が、第1ポリマー溶液のポリマーとは水溶性か難水溶性かが異なるポリマーとそれを溶解可能な溶媒とを含むか、分離膜形成工程及び第2電極形成工程の少なくとも一方の原料溶液が、第2ポリマー溶液のポリマーと水溶性か難水溶性かが異なるポリマーとそれを溶解可能な溶媒とを含むか、の少なくとも一方を満たせば、これに限定されない。
【0054】
上述した実施形態では、第1電極18の表面に形成した第1ポリマー膜19の表面に分離膜20を形成したが、分離膜20の表面に形成した第1ポリマー膜19の表面に第1電極18を形成してもよい。また、分離膜20の表面に形成した第2ポリマー膜21の表面に第2電極22を形成したが、第2電極22の表面に形成した第2ポリマー膜21の表面に分離膜20を形成してもよい。
【0055】
上述した実施形態では、第1電極18、第2電極22及び分離膜20のうち隣に配置された少なくとも1つとは水溶性か難水溶性かが異なる第1ポリマー膜19や第2ポリマー膜21を備えた蓄電デバイス10を製造する場合について主に説明したが、第1電極、第2電極及び分離膜のうち隣に配置された少なくとも1つとは所定の溶媒に対して易溶性か難溶性かが異なる第1ポリマー膜や第2ポリマー膜を備えた蓄電デバイスを製造してもよい。こうしても、所定の溶媒への易溶性、難溶性の違いを利用して、第1電極と分離膜との相溶や第2電極と分離膜との相溶を抑制し、電極間の短絡を抑制することができる。
【0056】
上述した実施形態では、第1電極18は、繊維体13を結束した柱状体12の表面に平滑層15を形成したものとしたが、平滑層15を省略してもよく、第1電極形成工程において、平滑工程を省略してもよい。また、第1電極18は、負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合した負極合材を柱状に成形したものとしてもよく、第1電極形成工程においてこの負極合材を柱状に成形してもよい。
【0057】
上述した蓄電デバイス10は、柱状の第1電極18を備えその外周に第2電極22を備えるものとしたが、図4の蓄電デバイス30のように板状の第1電極38を備えその表面に板状の第2電極42を備えるものとしてもよい。ここで、「板状」とは、屈曲しない厚さのもののほか、屈曲可能な厚さのものを含むものとする。蓄電デバイス30は、第1電極活物質を含む第1電極38と、第2電極活物質を含む第2電極42と、第1電極38と第2電極42との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜40と、を備える。第1電極38と分離膜40との間には第1ポリマー膜39が配置され、分離膜40と第2電極42との間には第2ポリマー膜41が配置されている。ここでは、第1電極38は板状であり、板状の第2電極42は第1電極38の表面に積層されている。また、第1電極38には第1集電体44が接続され、第2電極42には第2集電体45が接続されている。なお、第1電極38、第1ポリマー膜39、分離膜40、第2ポリマー膜41、第2電極42、第1集電体44及び第2集電体45は、形状以外は、第1電極18、第1ポリマー膜19、分離膜20、第2ポリマー膜21、第2電極22、第1集電体24、第2集電体25に対応するため、その詳細な説明を省略する。また、蓄電デバイス30の製造方法は、第1電極形成工程で板状に第1電極38を形成し、第1ポリマー膜形成工程で第1電極38の表面に第1ポリマー膜39を形成し、分離膜形成工程で第1ポリマー膜39の表面に分離膜40を形成し、第2ポリマー膜形成工程で分離膜40の表面に第2ポリマー膜41を形成し、第2電極形成工程で第2ポリマー膜41の表面に第2電極42を形成して単セル31を形成する点、及び、結束工程及び接続工程に代えて、単セル31を第1集電体44及び第2集電体45を介して積層し積層方向に加圧して成形する積層工程を行う点以外は、蓄電デバイス10の製造方法と同様のため、その詳細な説明を省略する。
【0058】
本開示は、以下の[1]~[11]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備え、
前記第1電極と前記分離膜との間及び前記第2電極と前記分離膜との間の少なくとも一方に、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たし、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち隣に配置された少なくとも1つとは水溶性か難水溶性かが異なるポリマー膜を備えた、
蓄電デバイス。
[2] 前記ポリマー膜は、膜厚が1μm以下である、[1]に記載の蓄電デバイス。
[3] 前記ポリマー膜は、水溶性であり、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記ポリマー膜の隣に配置された少なくとも1つは、難水溶性である、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス。
[4] 前記ポリマー膜は、カルボキシメチルセルロースを含み、前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記ポリマー膜の隣に配置された少なくとも1つは、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体のうち1以上を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[5] 前記第1電極は、柱状の負極である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[6] 前記ポリマー膜は、前記第1電極と前記分離膜との間及び前記第2電極と前記分離膜との間の両方に設けられている、[1]~[5]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[7] 第1電極活物質を含む第1電極と、第2電極活物質を含む第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在し電子絶縁性でイオン伝導性を有する分離膜と、を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうちのいずれかである基材の表面に、ポリマー溶液を用いて、電子絶縁性であるか膜厚が10μm未満であるかの少なくとも一方を満たすポリマー膜を形成するポリマー膜形成工程と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記分離膜のうち前記基材上に形成される塗膜の原料を含む塗膜原料液を用いて、前記基材上に形成されたポリマー膜の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程と、
を含み、
前記ポリマー膜は、前記塗膜原料液に難溶であるか、前記基材は、前記ポリマー溶液に難溶であるか、の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイスの製造方法。
[8] 前記ポリマー溶液は、ポリマー濃度が1質量%以下である、[7]に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[9] 前記ポリマー膜は、水溶性であり、前記基材は、難水溶性である、[7]又は[8]に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[10] 前記ポリマー溶液は、カルボキシメチルセルロースを含む水溶液であり、前記塗膜原料液は、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体のうちの1以上を有機溶媒に溶解させた溶液を含む、[7]~[9]のいずれか1つに記載の蓄電デバイスの製造方法。
[11] 前記第1電極は、前記第1電極活物質を含む繊維体を結束した柱状体と、導電粒子と結着材とを含み前記柱状体の凹凸面に形成された平滑層と、を備えた、[1]~[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
【実施例0059】
以下には、上述した蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例2~5が本開示の実施例に相当し、実験例1が比較例に相当する。
【0060】
[電池の作製]
以下の手順に従って、各実験例の電池を作製した。
・ 直径dが7μmの炭素繊維を400本束ねて炭素繊維束とし、10cmあたり5回転の撚糸をしながら、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を2質量%含むNMP溶液を塗布、乾燥することで緻密、円形化した。その後、直径が5μmの高結晶性の天然黒鉛粉末97質量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量%とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)で分散させた負極スラリーを、乾燥後の膜厚が約10μmになるように塗布、乾燥して柱状負極を形成した。柱状負極の直径Dは約225μmであった。
・ 柱状負極の周囲に、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水溶液(CMC水溶液)を塗布、乾燥してCMCの膜体(負極側ポリマー膜)を形成した。
・ 負極側ポリマー膜の周囲に、直径0.8μmのアルミナ粉末90質量%と、PVdF10質量%とを、NMPで分散させたセパレータスラリーを乾燥後の膜厚が約15μmになるように塗布、乾燥してセパレータを形成した。
・ セパレータの周囲に、CMC水溶液を塗布、乾燥してCMCの膜体(正極側ポリマー膜)を形成した。
・ 正極側ポリマー膜の周囲に、直径5μmのニッケル酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)90質量%と、アセチレンブラック5質量%と、PVdF5質量%とを、NMPで分散させた正極スラリーを、乾燥後の膜厚が約30μmになるように塗布、乾燥して正極を形成した。以上により、負極、セパレータ、正極を塗り重ねて作製した長尺のファイバー電極を得た。
・ 長尺のファイバー電極を、長さ100mmにカットし、端部の正極とセパレータをレーザ加工で剥離して柱状負極を露出させ、集電前処理済みのファイバー電極を得た。
・ 集電前処理済みのファイバー電極18本(ただし、後述の短絡率の評価で短絡無しと確認されたもの)を、XYプレスで一体、緻密化し、正極集電タブと負極集電タブを取り付け、電解液を含浸させた後に、アルミラミネートフィルムで封止し、電池化した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)30体積%とジエチルカーボネート(DEC)70体積%との混合溶媒に、1MのLiPF6を溶解させたものとした。以上により、単セルであるファイバー電極を18本備えた電池を得た。
・ なお、負極側ポリマー膜の形成及び正極側ポリマー膜の形成は、上述の塗布装置60を用いて長尺の塗布対象物Lにポリマー溶液を塗布し、150℃の熱風乾燥炉で乾燥し、上から下に巻き取ることで行った。このとき、巻取り速度は、1m/min以上5m/min以下の範囲内の一定速度とした。CMC水溶液の吐出量は、0.01mL/min以上0.05mL/min以下の範囲内の定量吐出とした。CMC水溶液のCMC濃度は0.25質量%以上1.0質量%以下とした。
・ 負極側ポリマー膜及び正極側ポリマー膜の膜厚は、以下のように算出した。まず、負極側のCMC水溶液について、上述の吐出量である塗布量、CMC濃度、CMCの密度、水の密度、から1分間あたりに塗布したCMC水溶液中のCMC固形分体積Vnを算出した。また、上述の巻取り速度である塗布速度と、柱状負極の周長から、1分間あたりの負極側の塗布面積Snを算出した。そして、固形分体積Vnを塗布面積Snで除して、負極側ポリマー膜の膜厚を算出した。同様に、正極側のCMC水溶液について、同様に1分間あたりに塗布したCMC水溶液中のCMC固形分体積Vpを算出し、塗布速度とセパレータの周長から1分間当たりの正極側の塗布面積Spを算出し、固形分体積Vpを塗布面積Spで除して、正極側ポリマー膜の膜厚を算出した。なお、負極及びセパレータの周長は以下のように求めた。XYプレスで一体、緻密化した電極断面をSEM観察し、負極及びセパレータの各々について凹凸の中程の距離を直径として測定し、4箇所の平均値を算出し、これを各々の周長とした。
【0061】
(実験例1) 負極側ポリマー膜の形成と正極側ポリマー膜の形成を省略した。
(実験例2) 負極側ポリマー膜の形成にあたり、CMCを0.25質量%含むCMC水溶液を用いた。負極側ポリマー膜の膜厚は0.02μmであった。正極側ポリマー膜の形成は省略した。
(実験例3) 負極側ポリマー膜の形成にあたり、CMCを0.5質量%含むCMC水溶液を用いた。負極側ポリマー膜の膜厚は0.07μmであった。正極側ポリマー膜の形成は省略した。
(実験例4) 負極側ポリマー膜の形成にあたり、CMCを1.0質量%含むCMC水溶液を用いた。負極側ポリマー膜の膜厚は0.18μmであった。正極側ポリマー膜の形成は省略した。
(実験例5) 負極側ポリマー膜の形成にあたり、CMCを0.5質量%含むCMC水溶液を用いた。負極側ポリマー膜の膜厚は0.07μmであった。正極側ポリマー膜の形成にあたり、CMCを0.5質量%含むCMC水溶液を用いた。正極側ポリマー膜の膜厚は0.06μmであった。
【0062】
[評価]
(短絡率の評価) 各実験例の集電前処理済みのファイバー電極について、炭素繊維-正極間のDC抵抗を測定して短絡の有無を確認し、測定した全数(約1000本)に対する短絡有りの数の割合(短絡率)を評価した。
(電池特性の評価) 各実験例の電池について、20℃の温度条件下、CCCV充電(充電電流は10mA、CV時間2時間)で4.1Vまで充電を行い、CC放電(放電電流は1mA、5mA、10mA、20mA、40mA、60mA、100mA)で3.0Vまで放電を行った。なお、60mAが4Cに相当する。
【0063】
[結果と考察]
表1に、実験例1~5について、負極側ポリマー膜に用いたCMC水溶液の濃度、負極側ポリマー膜の膜厚、正極側ポリマー膜に用いたCMC水溶液の濃度、正極側ポリマー膜の膜厚、ファイバー電極の短絡率、電池の放電容量をまとめた。また、図5に、実験例1~4の放電電流と放電容量との関係を示した。
【0064】
表1に示すように、負極側ポリマー膜及び正極側ポリマー膜のどちらも形成しなかった実験例1では、63%の電極が短絡した。これに対し、負極側ポリマー膜を形成した実験例2~4では、短絡率が実験例1の半分以下まで低下した。特に、0.5質量%のCMC水溶液を用いて負極側ポリマー膜(膜厚は0.07μm)を形成した実験例3では、短絡率が実験例1の1/9にまで低下した。それ以上CMC水溶液の濃度を高めても短絡率は低下しなかった一方、負極側ポリマー膜だけでなく、0.5質量%のCMC水溶液を用いて正極側ポリマー膜(膜厚は0.06μm)も形成したした実験例5では、短絡率が実験例1の1/20にまで低下した。このような効果が得られた理由は、以下のように推察された。例えば、基材となる負極の表面にセパレータのスラリーを塗布する前や、基材となるセパレータの表面に正極のスラリーを塗布する前に、塗布するスラリー中の有機溶媒(NMP)との親和性が基材よりも低いCMCを塗布したため、基材と塗布するスラリーとの相溶が抑制されたと推察された。それにより、分離膜への導電成分の混入が抑制され、短絡率が低下したものと推察された。なお、本実施例では、各実験例の相対比較を行うことを目的とし、高速で炭素繊維を送り出しながら撚糸及び柱状負極、分離膜、正極の形成などを実行しており、短絡確率の絶対値は重要ではないことを付記する。
【0065】
表1及び図5に示すように、CMC水溶液の濃度を1.0質量%(膜厚0.18μm)とした実験例4では、40mAを超える電流での放電容量が若干低下したが、CMC水溶液の濃度がそれよりも低い実験例2,3では、放電電流にかかわらず、実験例1と同程度の放電容量が得られた。
【0066】
以上より、以下のことが推察された。例えば、負極スラリー、セパレータスラリー、正極スラリーを順に塗布、乾燥させて塗り重ねることにより電極体を作製する場合、塗り重ねたスラリー中の溶媒が、基材となる電極やセパレータを膨潤させて相溶して、短絡が生じることがある。そこで、基材となる電極やセパレータの表面に、スラリーを塗り重ねる前に、塗り重ねるスラリーへ相溶しにくいポリマーを塗布することで、相溶による短絡を抑制でき、その際、ポリマーの塗布量を調整する(例えば0.02~0.1μm)ことで電池性能の低下も抑制できる。
【0067】
なお、実験例1~5では、柱状電極に同心構造となるようにセパレータと電極とを塗り重ねた電池について検討したが、本質的には、シート状の電極にセパレータと電極とを塗り重ねた電池などでも同様に、相溶による短絡を抑制できると推察された。例えば、負極活物質を含むスラリー、セパレータ材料を含むスラリー、正極活物質を含むスラリーを順に塗布、乾燥させて塗り重ねることにより電極体を作製する場合も、負極、セパレータ、正極の少なくとも一つに所定のポリマー溶液を塗布、乾燥して、塗り重ねるスラリーへの溶解性を低下させることで、短絡率を抑制でき、その際、ポリマー溶液の塗布量を調整することで電池性能の低下も抑制できると推察された。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0070】
10,30 蓄電デバイス、11,31 単セル、12 柱状体、13 繊維体、14 凹凸面、15 平滑層、16 導電粒子、17 結着材、18,38 第1電極、19,39 第1ポリマー膜、20,40 分離膜、21,41 第2ポリマー膜、22,42 第2電極、24,44 第1集電体、25,45 第2集電体、60 塗布装置、61 インナー部材、62 インナーノズル、62a 中心孔、62b 外面、63 供給空間、64 Oリング、65 アウター部材、66 アウターノズル、66a 中心孔、66b 内面、67 キャビティ、69 供給管、70 取付部、d,D 直径、L 塗布対象物。
図1
図2
図3
図4
図5