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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072508
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ゴム材料の設計方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/70 20190101AFI20240521BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240521BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20240521BHJP
【FI】
G16C20/70
G06F30/27
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183358
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖人
【テーマコード(参考)】
5B146
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5B146AA10
5B146DC03
5B146DE12
5B146DL08
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を、効率的に取得できるゴム材料の設計方法及びシステムを提供する。
【解決手段】ゴム材料の設計方法を実行する設計システム1において、演算装置2は、ポリマーの部分構造を単分子として扱い、非ポリマーをその原料の単分子又はその原料の原料粒子として扱い、単分子及び原料粒子の夫々を素材として、データ取得装置8を用いて取得した入力データ10に基づいて、各加硫ゴムを各素材によってモデル化し、各ゴム特徴量データ20を作成し、作成した各ゴム特徴量データと入力データとを学習データとして用いた機械学習によって構築された物性予測モデルにより、各候補の組成データで組成された各対象加硫ゴムのゴム物性データを算出し、生成した各候補の中からゴム物性データが目標値に近似する候補を選択し、選択した候補の組成データを、目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含み、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を取得するゴム材料の設計方法において、
前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造を単分子として扱い、前記構成原料に含まれる非ポリマーについては、その原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱い、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、
多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、
前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化するデータ処理を演算装置により行って、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成し、
作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって前記演算装置により物性予測モデルを構築し、
それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記候補の組成データで組成されたゴム材料のゴム物性データを算出し、生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択し、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得するゴム材料の設計方法。
【請求項2】
前記学習データでは、前記ゴム特徴量データの前記特徴の中から選択された所定数の候補特徴を示す前記総特徴量が用いられており、
前記ゴム特徴量データと前記目標値に関する前記ゴム物性データに基づいて前記演算装置によりデータ処理することにより、前記目標値に関する前記ゴム物性データの変化に対する影響度が基準よりも高い前記特徴の中から前記所定数の特徴を前記候補特徴として選択する請求項1に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項3】
複数の前記候補の生成と生成したそれぞれの前記候補の組成データで組成されたゴム材料のゴム物性データの算出とを前記演算装置により繰り返しデータ処理することにより、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を探索する請求項1または2に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項4】
選択した前記候補を前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記候補の中から類似度に基づいて代表対象加硫ゴムを選択して、選択したそれぞれの代表対象加硫ゴムの組成データを前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得する請求項1または2に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項5】
前記候補の組成データの生成には、前記候補に用いる前記素材の種類を制約する制約条件を用いて、その制約条件を満足する前記組成データを前記候補として生成する請求項1に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項6】
前記候補の組成データの生成には、構築した前記物性予測モデルを用いて算出された前記ゴム物性データの評価指標を用いる請求項1または5に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項7】
前記素材特徴量データは、前記多数種類のゴム材料についての前記組成データに存在していない多数種類の素材に関する特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える請求項1に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項8】
前記素材特徴量データでの前記特徴量は、化学分析データ、分子構造データ、および、画像データを用いて算出される請求項1に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項9】
前記画像データを用いて得られる前記素材に関する特徴は、前記単分子および前記原料粒子の粒子径、その粒子径の分散、凝集体の大きさ、その凝集体のアスペクト比を含む請求項8に記載のゴム材料の設計方法。
【請求項10】
演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含んでいて、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成が取得されるゴム材料の設計システムにおいて、
前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造が単分子として扱われて、前記構成原料に含まれる非ポリマーについてはその原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱われて、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、
多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、
前記演算装置は、前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化して、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成するデータ処理と、
作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって物性予測モデルを構築するデータ処理と、
それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて、それぞれの前記候補で組成されたゴム材料の前記ゴム物性データを算出するデータ処理と、
生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択して、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得するデータ処理と、を行う構成にしたゴム材料の設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の設計方法およびシステムに関し、より詳しくは、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を、効率的に取得できるゴム材料の設計方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料は、原料ゴムのポリマーと各種添加剤を構成原料として含んでいる。これら構成原料の種類や配合量に応じてゴム材料のゴム物性は変化する。そのため、目標とするゴム物性を有する所望のゴム材料を得るには、構成材料の配合(種類および配合量)を適切に設定する必要がある。構成材料の配合を異ならせて多数種類のゴム材料を製造し、これらゴム材料のゴム物性を測定する従来手法では、所望のゴム材料を得るには多大な試行錯誤が必要になる。
【0003】
近年、機械学習によって構築された予測モデルを利用してゴム材料の材料特性を予測する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法では、ゴム材料を構成する特定素材(構成原料)の特性値に基づいてゴム材料の特定性能(ゴム物性)の予測値が予測される。この特定素材の特性値を変更することに伴って、ゴム物性の予測値を変化させることができるので(特許文献1の段落〔0123〕~〔0126〕などを参照)、この予測値を特定性能の目標値に近似させるには、担当者が特定素材の特性値を繰り返し変更する作業が必要になる。また、どの特定素材のどのような特性値をどの程度変更するのかは担当者の経験やスキルに依存する。そのため、目標とする特定性能を有するゴム材料の組成を効率的に取得するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-088015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を、効率的に取得できるゴム材料の設計方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のゴム材料の設計方法は、原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含み、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を取得するゴム材料の設計方法において、前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造を単分子として扱い、前記構成原料に含まれる非ポリマーについては、その原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱い、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化するデータ処理を演算装置により行って、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成し、作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって前記演算装置により物性予測モデルを構築し、それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記候補の組成データで組成されたゴム材料のゴム物性データを算出し、生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択し、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得することを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム材料の設計システムは、演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含んでいて、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成が取得されるゴム材料の設計システムにおいて、前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造が単分子として扱われて、前記構成原料に含まれる非ポリマーについてはその原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱われて、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、前記演算装置は、前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化して、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成するデータ処理と、作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって物性予測モデルを構築するデータ処理と、それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて、それぞれの前記候補で組成されたゴム材料の前記ゴム物性データを算出するデータ処理と、生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択して、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得するデータ処理と、を行う構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構成原料の各素材によってゴム材料をモデル化して、ゴム材料の特徴をその素材の特徴を用いて表すことにより、ゴム材料とそのゴム物性との複雑な関連性を簡潔に精度よく把握することができる。把握した関連性を利用して取得された組成データにより、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を効率的に取得することが可能になる。
【0009】
取得される組成データは、既存のゴム材料の組成データに存在していない新たなものであることに加えて、人的な経験やスキルによる影響が排除されているので、所望のゴム材料を得るための開発作業や改良作業の効率化に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ゴム材料の設計システムの実施形態を例示する説明図である。
図2】データセットを例示する説明図である。
図3】素材特徴量データを例示する説明図である。
図4】化学分析データを例示する説明図である。
図5】分子構造データを例示する説明図である。
図6】ゴム材料の設計方法の実施形態の手順を例示するフロー図である。
図7】対象加硫ゴムの所定のゴム物性の目標値を例示する説明図である。
図8】加硫ゴムのモデルとその総特徴量を例示する説明図である。
図9】ゴム特徴量データを例示する説明図である。
図10】実施形態の変形例1での手順を例示するフロー図である。
図11】候補特徴の総特徴量の決定係数を例示するグラフ図である。
図12】物性予測モデルを用いて予測された予測値と観測値との相関性を例示するグラフ図である。
図13】実施形態の変形例2での手順を例示するフロー図である。
図14】クラスタリングの結果を例示する樹形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のゴム材料の設計方法およびシステムを、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するゴム材料の設計システム1の実施形態を用いて、ゴム材料の設計方法が実施される。この設計システム1および設計方法は、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成(組成成分の種類およびその組成量)を取得するために使用される。即ち、この実施形態によって、後述するように、所定のゴム物性の目標値D3aを満足する対象加硫ゴムBの組成データD2bが取得される。
【0013】
この設計方法の概要を説明すると、一種類または複数種類の原料ゴムのポリマーと各種添加剤とを構成原料として含んでいるゴム材料を、構成原料の特徴を反映する後述の素材Mによってモデル化して、所望のゴム材料である対象加硫ゴムBの組成データD2bを取得する。そこで、まず、入力データ10(データセット10a、素材特徴量データ10b)に基づいて演算装置2により多数種類の加硫ゴムA(A1、A2、・・・、An)をそれぞれの素材M(M1、M2、・・・、Mn)によってモデル化するデータ処理を実行する。このモデル化のデータ処理により、それぞれの加硫ゴムAの特徴を素材Mの特徴を用いて表して、それぞれの加硫ゴムAの特徴の総特徴量が設定されたゴム特徴量データ20を作成する。そして、入力データ10およびそれぞれのゴム特徴量データ20を学習データとして用いる機械学習により構築されたモデルを用いて、演算装置2によりデータ処理することにより、対象加硫ゴムBの組成データD2bを取得する。
【0014】
設計システム1は、演算装置2を備えている。演算装置2は公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置2は、中央演算処理部(CPU)3、主記憶部(メモリ)4、補助記憶部(例えば、HDD)5、入力部(キーボード、マウス)6、および、出力部(ディスプレイ)7を有している。補助記憶部5には、所定のプログラムと、入力データ10として、データセット10aと素材特徴量データ10bとが記憶されている。また、補助記憶部5には、データ処理の過程で作成されるゴム特徴量データ20、30が記憶されている。設計システム1は、各種のデータ取得装置8(化学分析装置や電子顕微鏡、測定装置など)を備えていてもよいが、補助記憶部にデータセット10aと素材特徴量データ10bとが記憶されていれば、各種のデータ取得装置8は必須ではない。データ取得装置8としては、公知の種々の化学分析装置や電子顕微鏡、ゴム物性を測定する測定装置などを用いることができる。
【0015】
演算装置2は、入力部6により所定のプログラムが起動されて実行されると、そのプログラムにより指示された各データ処理を実行する。そして、各データ処理を実行して対象加硫ゴムBの組成データD2bを出力部7に出力する。
【0016】
図2に例示するデータセット10aは、異なる多数種類の加硫ゴムA(A1、A2、・・・、An)についての配合データD1と、組成データD2、および、複数種類のゴム物性データD3を有している。加硫ゴムAの種類数(n)は、多いことが望ましく少なくとも20個以上であり、好ましくは100個以上である。配合データD1は、必須ではないが、データセット10aが配合データD1を有することにより、対象加硫ゴムBの組成データD2bの取得に加えて、取得したその組成データD2bを用いて、対象加硫ゴムBの配合データD1bを把握することも可能になる。
【0017】
配合データD1は、複数種類の配合成分C(C1、C2、・・・、Cn)の配合量を示している。配合成分Cとしては、一種類または複数種類の原料ゴムのポリマー、各種公知の添加剤(加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、着色剤、無機充填剤(カーボンブラックやシリカ)など)が例示される。添加剤には樹脂(ポリマー)が含まれることもある。配合成分Cの配合量は、原料ゴムのポリマーの配合量を100phr(100質量部)として、その他のそれぞれの配合成分Cの配合量が設定されている。
【0018】
組成データD2は、多数種類の素材M(M1、M2、・・・、Mn)の組成量を示している。素材Mは、その素材Mにより構成されている構成原料の特徴を反映している。この実施形態では、加硫ゴムAの構成原料に含まれるポリマーについてはその構成部分を単分子として扱い、構成原料に含まれる非ポリマーについては、その原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱う。そして、本願発明では、これら単分子および原料粒子のそれぞれを素材Mとする。したがって、加硫ゴムAの原料ゴムのポリマーは、その部分構造が単分子(素材M)として扱われる。ポリマーの部分構造としては、ポリマーを構成する最小の単位であるモノマーが代表的に用いられるが、ポリマーの主鎖、官能基(単一の特性基または複数の特性基の組み合わせ)、置換基を例示することができる。例えば、原料ゴムのポリマーは、素材Mとなるモノマーの集合体としてモデル化される。添加剤のうち、樹脂ポリマーは、上述した原料ゴムのポリマーと同様に、その部分構造が単分子(素材M)として扱われる。添加剤のうち、非ポリマーは、その原料の単分子(素材M)またはその原料の原料粒子(素材M)として扱われる。カーボンブラック、シリカなどの無機充填剤や酸化亜鉛などは、例えば、同一形状を有する剛体球体の原料粒子(素材M)として扱われる。それぞれの素材Mの組成量は、配合データD1での原料ゴムのポリマーの総配合量を100phr(100質量部)として設定されている。なお、それぞれの素材Mの組成量としては、組成成分全体に対するそれぞれの比率(組成比やモノマー比)を用いることもできる。種類が異なる加硫ゴムAどうしでは、それぞれの素材Mの種類が異なっている、あるいは、同種類の素材Mのそれぞれの組成量が異なっている、もしくは、その両方が異なっている。
【0019】
ゴム物性データD3は、所定の製造条件データに基づいて配合データD1で形成される未加硫ゴムを加硫して製造された加硫ゴムAを公知の種々の測定装置を用いて測定、取得されている。ゴム物性データD3の種類としては、tanδ(損失係数)、引張強さ(TB)、硬度、300%モジュラス、破断強度、破断伸び、比重などが例示される。ゴム物性データD3は、加硫ゴムAごとに種類が異なっていてもよく、また、加硫ゴムAごとに種類数が異なっていてもよい。
【0020】
データセット10aは、それぞれの加硫ゴムAの製造条件データを有することもできるが、製造条件データは必須ではない。製造条件データは、配合データD1で示されるそれぞれの配合成分Cを混合して未加硫ゴムを形成する際の混合条件や、未加硫ゴムを加硫する際の加硫条件である。混合条件としては、混練ミキサでの、混合温度、混合時間、ロータの回転速度、混練ミキサから排出した時の未加硫ゴムの温度などが例示される。混合条件は、加硫工程前に架橋反応が本格的に生じない範囲で、ゴム材料が十分に可塑化し、それぞれの配合成分Cを均一に分散させる条件に設定される。加硫条件としては、加硫温度T〔℃〕、加硫圧力P〔MPa〕、加硫時間t〔min〕などが例示される。加硫条件は、配合データD1で形成される未加硫ゴムに対して加硫過不足がない適切な条件に設定される。製造条件データは、混合条件と加硫条件との両方を有するものに限定されず、例えば、加硫条件のみを有していてもよい。製造条件データが不足している(欠損している)場合は、予め設定されている基準条件(データ)を用いることもできる。
【0021】
データセット10aは、組成データD2を異ならせて製造された多数種類の加硫ゴムAを用意して、データ取得装置8を用いて組成データD2や所望する複数種類のゴム物性データD3を取得することにより作成してもよい。また、データセット10aは、ゴム部材、ゴム製品の製造業者が従来から蓄積している膨大な上記のデータD1、D2、D3を用いることができる。製造業者が蓄積しているデータとしては、実際のゴム部材、ゴム製品の製造過程や製造後の検査などの製造ラインでの測定値が例示される。また、そのデータとしては、研究開発での多数の実験、試験の結果やコンピュータシミュレーション結果などのラボデータが例示される。
【0022】
図3に例示する素材特徴量データ10bは、表の最左列に記載された各素材M(M1、M2、・・・、Mn)に関する特徴を示す特徴量を備えている。図3の表中には、それぞれの特徴(分子量、芳香族成分比など)についての特徴量が具体的な数値として記載される。素材Mの種類数(n)は、それぞれの加硫ゴムAを構成する素材Mを網羅できれば特に限定されるものではない。素材特徴量データ10bは、より多くの種類の素材Mに関する特徴量を備えることが望ましく、組成データD2に存在しない素材Mに関する特徴量を備えるとよい。組成データD2に存在しない素材Mとしては、組成データD2に存在する芳香族モノマー以外の芳香族モノマーや組成データD2に存在する脂肪族モノマー以外の脂肪族モノマーが例示される。また、組成データD2に存在しない素材Mとしては、組成データD2に存在する添加剤以外の公知の種々の添加剤も例示される。
【0023】
図4および図5のそれぞれは、素材特徴量データ10bの元となる化学分析データD4および分子構造データD5の一例を示している。また、図示しない画像データD6も素材特徴量データ10bの元になっている。素材特徴量データ10bは、これらの複数種類のデータ(D4、D5、D6など)を統合して作成されている。素材特徴量データ10bは、分子構造データD5や画像データD6を用いて得られる特徴を備えていなくてもよいが、化学分析データD4、分子構造データD5、および、画像データD6のそれぞれを用いて得られる特徴を備えることが望ましい。このように、複数種類のデータを統合することで、各素材Mに関する特徴の数が大幅に増える。それ故、素材特徴量データ10bとして、多種多様な特徴を網羅することが可能となる。
【0024】
図4に例示する化学分析データD4は、赤外吸収分光法(IR)、ラマン分光法、液体クロマトグラフィー(LC、HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、核磁気共鳴分析法(NMR)などの公知の種々の化学分析法を用いて得られたデータである。このように、化学分析データD4の作成には、複数の化学分析法を用いることが好ましく、異なる三種類以上の化学分析法を用いることがより好ましい。化学分析法では、構成原料(原料ゴムのポリマーや添加剤)に対しての測定結果が得られる。即ち、化学分析法を用いて得られる特徴は、構成原料に関する特徴であり、例えば、モノマーを測定対象とした場合に、そのモノマーを構成する複数種類の素材Mに関する特徴である。化学分析法を用いて得られる特徴の種類として、分子量〔Mw〕、ガラス転移温度(Tg)〔℃〕、ビニルトルエン量(%)、インデン量(%)、構成原料に対する芳香族成分比(%)、脂肪族成分比(%)などが例示される。
【0025】
図5に例示する分子構造データD5は、公知の分子フィンガープリントを用いて算出された算出値を用いて得られたデータである。フィンガープリントアルゴリズムとしては、各種のプログラミング言語のライブラリに登録されている多数のアルゴリズムを用いることができる。分子フィンガープリントでは、特定の分子結合、官能基、環構造などのモデル分子をバイナリベクトルやカウントベクトルなどの算出値を用いて表している。即ち、分子構造データD5を用いて得られる特徴は、モデル分子に関する特徴であり、素材M、複数種類の素材Mの集合体、素材Mの部分構造に関する特徴である。図5中では、モデル分子の種類として素材Mが採用されて、素材M(M1、M2、・・・、Mn)ごとの特徴が集積しているが、モデル分子の種類によっては、複数種類の素材Mの集合体(例えば、素材M1と素材M2の集合体など)ごとの特徴が集積していてもよく、素材Mの部分構造(例えば、素材M1の複数種類の部分構造や素材M2の複数種類の部分構造など)ごとの特徴が集積していてもよい。分子フィンガープリントを用いて得られる特徴の種類として、双極子モーメント、原子数、C1SP3(一つの他の炭素に結合した単結合炭素)、SlogP(オクタノール・水分配係数の耐数値)、極性表面積、結合数、二重結合の数、溶解度指数(MolLogP)などが例示される。
【0026】
画像データD6は、公知の電子顕微鏡やX線散乱法を用いて取得された顕微鏡画像データやX線画像データを用いることができる。画像データD6を用いて得られる素材Mに関する特徴は、単分子および原料粒子に関する特徴であり、その種類として、単分子や原料粒子の粒子径〔nm〕、その分散、単分子や原料粒子の凝集体の大きさやアスペクト比が例示される。
【0027】
素材特徴量データ10bは、各データを統合した状態で補助記憶部5に記憶されてもよいが、化学分析データD4と分子構造データD5と画像データD6とが個別のデータとして補助記憶部5に記憶されていてもよい。また、化学分析データD4は、例えば、赤外吸収分光法を用いて得られた化学分析データとガスクロマトグラフィーを用いて得られた化学分析データと核磁気共鳴分析法を用いて得られた化学分析データとが個別のデータとして補助記憶部5に記憶されていてもよい。また、化学分析データD4は、数値化されていない状態のデータでもよく、例えば、スペクトルデータでもよい。同様に、画像データD6も数値化されていない状態のデータでもよい。
【0028】
素材特徴量データ10bは、構成原料ごとに分けることもできる。例えば、原料ゴムのポリマーを構成する素材Mとしてポリマー素材に関する特徴が集積した原料ゴムポリマー特徴量データと、添加剤を構成する素材Mとして添加剤素材に関する特徴が集積した添加剤特徴量データとに分けることができる。また、添加剤特徴量データは、無機充填剤(カーボンブラック、シリカ)や酸化亜鉛などの原料粒子として扱われる素材Mに関する特徴が集積した添加剤原料粒子特徴量データと、原料粒子以外の添加剤(単分子、単分子の集合体)を構成する素材Mに関する特徴が集積した添加剤単分子特徴量データとに分けることができる。このように、素材特徴量データ10bを構成原料ごとに分けることで、構成原料ごとにゴム物性との関連性がより高い特徴を採用することができる。これによりゴム材料とそのゴム物性との関連性を簡潔により精度よく把握するには有利になる。
【0029】
図6に例示するようにゴム材料の設計方法の手順としては、まず、演算装置2の入力部6を用いて目標値D3aを入力する(S110)。次いで、演算装置2の補助記憶部5に記憶された所定のプログラムを実行することで、そのプログラムは、演算装置2に各手順を実行させる(S120~S190)。最終的に、対象加硫ゴムBの組成データD2bが出力されると終了となる。以下に、各ステップ(S110~S190)の内容について詳述する。
【0030】
図7に例示する目標値D3aを入力するステップ(S110)では、演算装置2の入力部6を用いて、所望の複数種類のゴム物性データD3に対して設定されたそれぞれの目標値D3aを入力する。ゴム物性データD3の目標値D3aは、所望の複数種類のゴム物性データD3に対して設定される。図7中では、所望の複数種類のゴム物性データD3として、60℃でのtanδ(初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz)、0℃での硬度Hs、300%モジュラス、比重の四種類が設定されているが、これに限定されず所望のゴム物性データD3が採用される。
【0031】
入力データ10を読み込むステップ(S120)では、演算装置2により、入力データ10として補助記憶部5に記憶されているデータセット10aおよび素材特徴量データ10bを読み込むデータ処理が実行される。入力データ10であるデータセット10aおよび素材特徴量データ10bは、他の演算装置からダウンロードされて、演算装置2の補助記憶部5に記憶されてもよいが、他の演算装置の補助記憶部に記憶された状態で演算装置2の主記憶部4に読み込まれてもよい。
【0032】
加硫ゴムAをモデル化するステップ(S130)では、演算装置2により、入力データ10に基づいて、データセット10aのそれぞれの加硫ゴムAをそれぞれの素材Mによって構成されたモデルとしてモデル化するデータ処理が実行される。このステップで、演算装置2は、データセット10aの組成データD2と素材特徴量データ10bに基づいて、それぞれの加硫ゴムAの特徴を素材特徴量データ10bの特徴を用いて表し、それぞれの加硫ゴムAの特徴を示す総特徴量を算出するデータ処理を実行する。次いで、演算装置2は、それぞれの加硫ゴムAのそれぞれの特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データ20を作成する。
【0033】
図8は、加硫ゴムA1をモデル化したモデルと算出された総特徴量の一例を示している。加硫ゴムA1は、二種類の原料ゴムのポリマー(C1、C2)と複数種類の添加剤(C4~Cn)とが構成原料になっている。加硫ゴムA1のモデルは、原料ゴムの各ポリマーが単分子の集合体として扱われていて、各添加剤では樹脂ポリマーが単分子の集合体として扱われていて、非ポリマーが単分子または原料粒子として扱われている。そして、これら単分子および原料粒子が素材Mとして扱われてモデル化されている。総特徴量は、素材特徴量データ10bでの特徴量と組成データD2での組成量(あるいは、モノマー比)とを用いて算出された、それぞれの加硫ゴムAでのそれぞれの素材Mの総合的な特徴量の代表値(平均値、中央値、最頻値など)を用いる。なお、特徴によっては、総特徴量が代表値ではなく、合計値を用いるものもある。このように、それぞれの加硫ゴムAの特徴は、素材特徴量データ10bでの特徴が用いられる。つまり、それぞれの加硫ゴムAの特徴を示す総特徴量は、加硫ゴムAの分子構造的な特徴を示している。
【0034】
総特徴量は、データセット10aと素材特徴量データ10bを用いた量子化学シミュレーションあるいは分子動力学シミュレーションを用いて算出することもできる。各シミュレーションを用いることにより、精度の高い総特徴量を算出可能になる。また、各シミュレーションを用いることにより、双極子モーメント、電荷分布の偏り、分子間距離などの特徴を、それぞれの加硫ゴムAの特徴に採用することも可能となる。総特徴量の算出手法は、演算負荷に応じて適時、選択するとよい。
【0035】
図9に例示するゴム特徴量データ20は、表の最左列に記載された各加硫ゴムA(A1、A2、・・・、An)に関する特徴を示す総特徴量を備えている。図9の表には、それぞれの特徴(平均分子量、芳香族成分比など)についての総特徴量が具体的な数値として記載される。図9中では、特徴として、平均分子量、芳香族成分比、平均双極子モーメント、平均原子数、平均粒子径が例示されている。芳香族成分比は、それぞれの素材Mの総合的な特徴量の合計値に基づいている。その他の平均分子量、平均双極子モーメント、平均原子数、および、平均粒子径のそれぞれは、それぞれの素材Mの総合的な特徴量の平均値に基づいている。
【0036】
物性予測モデルを構築するステップ(S150)では、演算装置2により、ゴム特徴量データ20とゴム物性データD3とを学習データとして用いる機械学習によって、物性予測モデルを構築するデータ処理が実行される。物性予測モデルは、学習データを用いた機械学習により構築され、対象加硫ゴムBの候補についての複数種類のゴム物性データD3bを予測するコンピュータプログラムの一種である。物性予測モデルは、公知の種々の機械学習により構築された予測モデルを用いることができる。機械学習の手法としては、ガウス過程回帰や重回帰分析、ランダムフォレスト、再帰的ニューラルネットワーク(RNN)や敵対的生成ネットワーク(GAN)などのディープニューラルネットワーク(DNN)などが例示される。
【0037】
対象加硫ゴムBの候補の組成データD2bを生成するステップ(S160)では、演算装置2により、それぞれの加硫ゴムAの組成データD2とは異なっている組成データD2bを候補として多数生成するデータ処理が実行される。候補の組成データD2bは、素材特徴量データ10bに存在する多数種類の素材Mの組み合わせやそれぞれの素材Mの組成量を異ならせることで生成される。多数種類の素材Mを、原料ゴムのポリマーを構成する素材Mの集合である原料ゴムポリマー素材群と添加剤を構成する素材Mの集合である添加剤素材群とに分類し、分離したそれぞれの群から候補に用いる素材Mを選択するとよい。添加剤素材群は、ポリマー(単分子の集合体)と非ポリマー(単分子)と非ポリマー(原料粒子)とに分類し、分類したそれぞれから候補に用いる素材Mを選択することもできる。候補の組成データD2bを生成する手法は、公知の種々の生成手法を用いることができる。生成手法としては、最適化アルゴリズムを用いる手法、機械学習によって生成された組成生成モデルを用いる手法、ガウス過程回帰を用いる手法などが例示される。最適化アルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム(GA)、ベイズ最適化(BO)、最急降下法などが例示される。機械学習の手法としては、敵対的生成ネットワーク(GAN)や条件付き敵対的生成ネットワーク(CGAN)などのディープニューラルネットワーク(DNN)などが例示される。
【0038】
このステップでは、特に制約を設けることなく候補の組成データD2bを生成することが可能であるが、制約を設けない場合に生成される候補の総数が膨大となり、演算負荷も高くなる。そこで、候補の組成データD2bの生成には、候補に用いる素材Mの種類を制約する制約条件を用いて、その制約条件を満足する組成データD2bを候補として生成することが望ましい。特に、候補の組成データD2bの生成では、ポリマーを構成する素材Mの種類が多数種類に及ぶため、制約条件により、ポリマーを構成する素材Mの種類を制約するとよい。
【0039】
制約条件としては例えば、ポリマーを構成する素材Mの種類を特定の種類に限定する。特定の種類は、任意に設定することが可能であるが、それぞれの加硫ゴムAの原料ゴムのポリマーを構成する素材Mの中の主成分にするとよい。例えば、それぞれの加硫ゴムAを構成する原料ゴムのポリマーの素材Mの中で組成量が多い順番で上位となる複数種類の素材Mを主成分と見做し、候補でのポリマーの素材Mの種類を主成分と見做したそれぞれの素材Mに限定する。図2に例示するデータセット10aでは、素材M1~M3が主成分と見做せる。よって、候補の組成データD2bの生成では、制約条件により、原料ゴムのポリマーの素材Mとして素材M1~M3の組成量を異ならせた組成データD2bを生成する。主成分と見做せる素材Mの数は、例えば、三種類程度である。
【0040】
また、上述の特定の種類としては、芳香族モノマーを用いることもできる。素材特徴量データ10bに組成データD2に存在する芳香族モノマー以外の芳香族モノマーを追加して三百種類以上の芳香族モノマーを示す素材Mの特徴を設定しておき、候補でのポリマーの素材Mの種類を、芳香族モノマーに限定する。これにより、候補の組成データD2bの生成では、制約条件により、ポリマーの素材Mとして複数種類の芳香族モノマーの組み合わせとそれぞれの組成量を異ならせた組成データD2bを生成する。
【0041】
制約条件は、上記に限定されるものではない。例えば、添加剤を構成する素材Mの種類の限定や、添加剤の中の原料粒子と見做した素材Mの種類の限定、特定の素材Mの組成量を固定値として、他の素材Mの組み合わせや組成量を異ならせることもできる。
【0042】
候補の組成データD2bの生成では、従来には存在しない新規の組成を見出すことが可能となる。素材特徴量データ10bに組成データD2に存在しない素材Mの特徴量が含まれることで、素材特徴量データ10bに存在する素材Mの種類数が多くなる。素材特徴量データ10bに存在する素材Mの種類数が多くなるほど、新規の組成を見出すには非常に有効になる。
【0043】
最適化アルゴリズムを用いた手法により候補の組成データD2bを生成する場合には、ステップ(S150)で構築した物性予測モデルを利用するとよい。具体的に、それらの手法では、物性予測モデルを用いて算出された対象加硫ゴムBの候補のゴム物性データD3bの評価指標を用いる。評価指標としては、公知の種々の指標を用いることができる。代表的なその指標としては、精度評価指数、情報量基準、および、仮設検定が例示される。
【0044】
遺伝的アルゴリズムを用いた一例では、まず、制約条件による制約を満たす多数の組成データを有するデータセットを生成する。次いで、そのデータセットを最初の現世代のデータセットとし、現世代のデータセットの中から評価指数に基づいて選択(ルーレット選択、トーナメント選択、エリート選択など)された組成データに対して遺伝的操作(交叉、突然変異)を行う。次いで、遺伝的操作により生成された複数の組成データを集積した次世代のデータセットを作成し、作成した次世代のデータセットに対して評価指数を算出する。そして、作成した次世代のデータセットを現世代のデータセットと見做して、選択と遺伝的操作と次世代のデータセットの作成と評価指数の算出とを繰り返す。この繰り返しにより得られた最大世代数のデータセットが最適解の組成データを有するデータセットになる。この最適解の組成データを含むデータセットを候補の組成データD2bとして選択する。
【0045】
対象加硫ゴムBの候補のゴム物性データD3bを算出するステップ(S170)では、演算装置2により、生成したそれぞれの候補の組成データD2bで組成される対象加硫ゴムBの候補のゴム特徴量データ30を作成し、作成したゴム特徴量データ30と構築した物性予測モデルを用いて、それぞれの対象加硫ゴムBの候補のゴム物性データD3bを算出するデータ処理が実行される。ゴム特徴量データ30は、上記のステップ(S130)と同様の手法を用いて作成される。ゴム特徴量データ30のデータ構造は、それぞれの加硫ゴムAのゴム特徴量データ20と同様の構造であり、各特徴の総特徴量が異なり、ゴム種の種類数が異なる。したがって、ゴム特徴量データ30の詳細な説明は省略する。
【0046】
候補の中から目的とする組成データD2bを選択するステップ(S180)では、演算装置2により、入力された目標値D3aと算出したそれぞれの対象加硫ゴムBの候補のゴム物性データD3bとを比較して、それらのゴム物性データD3bが目標値D3aと近似する対象加硫ゴムBの候補の組成データD2bを選択するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置2は、算出したゴム物性データD3bを目標値D3aと比較して、近似していると設定されている許容範囲か否かを判定する。許容範囲は任意に設定することができるが、例えば、目標値D3aに対して±5%、あるいは、±2%程度の範囲である。演算装置2は、候補の組成データD2bの中からそれぞれのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似していると判定した組成データD2bを選択する。選択される対象加硫ゴムBの組成データD2bは一つに限らず、複数の場合もある。
【0047】
選択した組成データD2bを出力するステップ(S180)では、演算装置2により、演算装置2の出力部7に選択した組成データD2bが出力されるデータ処理が実行される。出力部7により出力された組成データD2bが、所定のゴム物性の目標値D3aを満足する対象加硫ゴムBの組成(組成成分の種類およびその組成量)として取得される。
【0048】
上述したように本実施形態では、ゴム材料(加硫ゴムA、対象加硫ゴムB)をそれぞれの素材Mによってモデル化して、ゴム材料の特徴を素材Mの特徴を用いて表す。高分子のゴム材料の分子構造は複雑なので、ゴム材料の全体的な分子構造とそのゴム物性との関連性は把握し難いが、上述した素材Mの特徴は比較的把握し易い。そのため、ゴム材料の特徴を素材Mの特徴を用いて表すことで、ゴム材料とそのゴム物性との関連性を簡潔に精度よく把握することが可能になる。そして、把握した関連性を利用して取得された組成データD2bにより、所定のゴム物性の目標値D3aを満足する対象加硫ゴムBの組成を効率的に取得することが可能になる。
【0049】
組成データD2bは、データセット10aに存在していない新たなものであることに加えて、人的な経験やスキルによる影響が排除されて取得できる。それ故、所望のゴム材料を得るための開発作業や改良作業の効率化に大きく寄与する。
【0050】
本実施形態では、最終的に所定のゴム物性の目標値D3aを満足する対象加硫ゴムBの組成を取得しているが、データセット10aに配合データD1が含まれる場合、対象加硫ゴムBのゴム配合を把握することもできる。具体的には、演算装置2により、配合データD1と組成データD2とを学習データとして用いる機械学習により配合生成モデルを構築するデータ処理を実行し、出力された組成データD2bと配合生成モデルとを用いて演算装置2によりデータ処理することにより、対象加硫ゴムBの配合データD1bを算出する。これに伴い、対象加硫ゴムBの開発作業や改良作業の効率化により有利になる。
【0051】
データセット10aに製造条件データが含まれる場合、物性予測モデルの生成や対象加硫ゴムBの候補の組成データD2の生成に、製造条件を制約条件データに基づいて制約する制約条件を用いるとよい。このように、製造条件を制約することにより、所定のゴム物性の目標値D3aを満足する対象加硫ゴムBの組成を取得する過程で、製造条件がゴム物性に及ぼす影響を考慮することが可能になる。その結果、その対象加硫ゴムBを製造するための製造条件も簡便に把握することが可能になる。
【0052】
それぞれのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似していると判定されて選択される対象加硫ゴムBの組成データD2bが複数存在する場合がある。その場合、それぞれの組成データD2bに所定の規則に基づいた順位を付け、その順位に従った順序で出力部7により出力するとよい。
【0053】
例えば、選択されるそれぞれの組成データD2bを、ゴム物性データD3bの種類毎に、それぞれの組成データD2bで形成される対象加硫ゴムBのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似する順にして、出力部7により出力する。このように、順位付けすることで、それぞれのゴム物性データD3bの種類毎の目標値D3aとの近似具合を指標として、それぞれの組成データD2bの優位性を把握し易くなる。
【0054】
また、選択されるそれぞれの組成データD2bを、ゴム物性データD3bの種類に対して設定されている優先度の重み付けに基づいて決定されるそれぞれの組成データD2bで組成される対象加硫ゴムBのそれぞれのゴム物性データD3bの目標値D3aに対する近似の評価が高い順にして、出力部7により出力する。このように、順位付けすることで、それぞれのゴム物性データD3bの種類間での優先度の重み付けを考慮したそれぞれの組成データD2bの優位性を把握し易くなる。
【0055】
候補の中から目的とする組成データD2bを選択するステップ(S180)では、許容範囲を用いたが、評価関数を利用した評価により目標値D3aに近似するゴム物性データD3bを選択してもよい。それぞれのゴム物性データD3bと目標値D3aとを比較して近似程度を評価する評価関数としては、平均絶対誤差、平均二乗誤差、平均絶対誤差率、および、平均二乗誤差率などの公知の種々の評価関数を用いることができる。目標値D3aに近似するゴム物性データD3bの評価の指標として評価関数を用いることで、組成データD2bの差異によるゴム物性データD3bへの影響の度合いをより詳細に把握することができる。
【0056】
次に、ゴム材料の設計方法および設計システム1の実施形態の変形例1について説明する。
【0057】
図10は変形例1でのゴム材料の設計方法の手順の一例を示す。変形例1では、上述した図6の手順に対して別のステップS200が追加されている。即ち、変形例1の手順では、ゴム特徴量データ20の作成(S140)の後に、演算装置2により、ゴム特徴量データ20の特徴の中から候補特徴の選択(S200)が行われる。したがって、変形例1では、演算装置2により、選択された候補特徴を用いて物性予測モデルが構築される(S150)。
【0058】
候補特徴を選択するステップ(S200)では、演算装置2によりゴム特徴量データ20の特徴の中から候補特徴を選択するデータ処理が実行される。作成されたゴム特徴量データ20の特徴には、素材特徴量データ10bの特徴が採用されているため、その数が膨大となる。それ故、ゴム特徴量データ20の全ての特徴を用いて物性予測モデルを構築することも可能であるが、構築に要する演算負荷が高くなる。また、ゴム特徴量データ20に存在する特徴の中には、目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化にほとんど寄与しない特徴も含まれている。
【0059】
詳述すると、このステップ(S200)では、演算装置2によりゴム特徴量データ20と目標値D3aに関するゴム物性データD3に基づいて、候補特徴として、目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化に対する影響度が基準よりも高い特徴の中から所定数の特徴を選択するデータ処理が実行される。このデータ処理の実行により、学習データとして用いられる候補特徴の所定数がゴム特徴量データ20での特徴の数よりも少なくなる。このステップでは、候補特徴を選択する手法として、公知の種々の選択手法を用いることができる。選択手法としては、相関係数を用いた手法、フィルタ法(FilterMethod)、ラッパー法(WrapperMethod)、組み込み法(EmbeddedMethod)、ステップワイズ法(Stepwise)、主成分分析法、クラスタリングなどが例示される。
【0060】
影響度は、目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化に影響を及ぼす度合いを示す。影響度が低い特徴ではその特徴量が変化しても目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化が乏しいが、影響度が高い特徴ではその特徴量の変化に応じて目標値D3aに関するゴム物性データD3が比較的大きく変化する。影響度の指標は、選択手法ごとに異なる。この影響度の基準のレベルは、任意に設定することができ、明らかに目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化に大きく影響する特徴が選択されるように設定すればよい。
【0061】
影響度が基準よりも高い特徴の中から所定数の候補特徴を選択する基準は、任意に設定することもできるが、影響度の高低や特徴どうしの相関性の高低を基準とするとよい。影響度が高い特徴ほど候補特徴として選択されることになり、影響度が低いほど候補特徴として選択されなくなる。また、特徴どうしの相関性が高い場合にそれらの特徴の中のいくつかの特徴が候補特徴として選択されなくなり、特徴どうしの相関性が低い場合にそれらの特徴が候補特徴として選択されることになる。この選択基準は、選択手法ごとに異なる。例えば、選択基準としては、分散拡大係数(VIF)、ベイズ情報量基準(BIC)や赤池情報量基準(AIC)などの情報量基準を用いることができる。所定数は、任意に設定することができ、少ないほど演算負荷の低減に有利になる。その数は、10個以下が好ましく、3個以上、5個以下がより好ましい。
【0062】
候補特徴の選択は、目標値D3aに関するゴム物性データD3ごとに行うことが望ましい。例えば、目標値D3aとして、60℃でのtanδ、0℃での硬度Hs、300%モジュラス、比重の四種類が設定されている場合、それぞれで候補特徴が異なる。このように、目標値D3aに関するゴム物性データD3ごとに候補特徴の選択が行われることにより、そのゴム物性データD3に対して最適な候補特徴が選択されることになる。
【0063】
図11のグラフ図は、目標値D3aに関するゴム物性データD3を60℃でのtanδとし、候補特徴の選択手法としてステップワイズ法を用いて、所定数を五個とした場合の選択結果の一例を示す。図11中では、選択された候補特徴を示す総特徴量V~Zのそれぞれの決定係数が示されている。各総特徴量V~Zの決定係数は、0.6よりも大きくなっており、選択された候補特徴の影響度が高いことを示している。
【0064】
変形例1のように、ゴム特徴量データ20の特徴の中から候補特徴を選択する場合、物性予測モデルの構築での対象加硫ゴムBのゴム特徴量データ30では、対象加硫ゴムBの全ての特徴を示す総特徴量を算出する必要はなく、上記のステップ(S200)で選択された候補特徴を示す総特徴量のみを算出すればよい。これにより、さらなる演算負荷の低減を図ることができる。
【0065】
上述したように変形例1では、ゴム特徴量データ20の特徴の中から所定数の候補特徴が選択される。選択された候補特徴は、それぞれの加硫ゴムAの特徴の中から目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化にほとんど寄与しない特徴が除外された残りの特徴の中から、その変化により寄与する特徴として選択されている。つまり、影響度が基準よりも高くなる選択条件を設けることで、それぞれの加硫ゴムAの特徴の中からその特徴量が変化しても目標値D3aに関するゴム物性データD3がほとんど変化しないものを除外できる。これにより、特徴とゴム物性データD3との関連性の特定には明らかに不適切な(不要な)特徴が候補特徴として選択されることを回避できる。
【0066】
また、影響度の高低や特徴どうしの相関性の高低による選択基準を設けることで、より目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化により影響を及ぼす特徴を選択でき、さらに、互いの相関性が高い関係にある特徴が複数ある状態を回避できる。候補特徴の中に互いの相関性が高い関係にある特徴が複数ある状態では、候補特徴とゴム物性との相関性を正確に把握できない場合がある。それ故、このような選択基準を設けることにより、分子構造レベルでの特徴とゴム物性データD3との関連性をより高精度に特定することができる。
【0067】
加えて、ゴム特徴量データ20の特徴の中から所定数の候補特徴に制限することにより、データ処理するデータ量が大幅に削減される。これにより、物性予測モデルの構築に要する演算負荷を大幅に低減できる。また、選択された候補特徴には、目標値D3aに関するゴム物性データD3の変化にほとんど寄与しない特徴が含まれないため、構築された物性予測モデルの精度の向上には有利になる。
【0068】
図12は、目標値D3aに関するゴム物性データD3を60℃でのtanδとし、それぞれの加硫ゴムAのゴム物性データD3を観測値とし、候補特徴を用いた機械学習として重回帰分析を用いて構築した物性予測モデルを用いて算出された値を予測値とした場合の結果の一例を示す。予測値Prは、下記の数式(1)に示す物性予測モデル(重回帰式)にそれぞれの加硫ゴムAの特徴の中から選択された候補特徴を示す総特徴量V~Zに基づいて算出された値である。式中のαは定数を示し、β1~β5はそれぞれ係数を示し、物性予測モデルの構築により算出された値が入力される。
【0069】
【数1】

・・・(1)
【0070】
図12中の黒点は、それぞれの加硫ゴムAの観測値とそれぞれの加硫ゴムAの候補特徴と上記の数式(1)(物性予測モデル)を用いて算出した予測値Prの該当位置にプロットしたものである。このプロットした黒点群を直線に近似した直線が観測値と予測値Prとの相関関係を示す。図12に示すように観測値と予測値Prとには高い相関性があることが分かる。したがって、ゴム特徴量データ20の特徴の中から選択された候補特徴を用いて構築された物性予測モデルの精度が高いことが分かる。
【0071】
次に、ゴム材料の設計方法および設計システム1の実施形態の変形例2について説明する。
【0072】
図13は変形例2でのゴム材料の設計方法の手順の一例を示す。変形例2では、上述した図10の変形例1の手順に対して別のステップS300が追加されている。即ち、変形例2の手順では、候補の対象加硫ゴムBの組成データD2bが多数、選択された場合に、演算装置2により、候補の対象加硫ゴムBの数の減少(S300)が行われる。したがって、変形例2では、演算装置2により、候補数が絞られた対象加硫ゴムBの組成データD2bが出力される(S190)。
【0073】
ステップ(S180)で多数の候補の対象加硫ゴムBの組成データD2bが選択された場合に、選択された全ての組成データD2bに基づいて、実際に対象加硫ゴムBを製造するには、多大な労力を要することになる。そこで、選択された候補の対象加硫ゴムBの数を減少するステップ(S300)では、演算装置2により、選択された候補の対象加硫ゴムBの中から類似度に基づいて代表加硫ゴムBaを選択するデータ処理が実行される。
【0074】
類似度は、対象加硫ゴムBどうしの各総特徴量が類似する度合いを示している。類似度が高いほど対象加硫ゴムBどうしで類似する総特徴量の数が多くなり、類似度が低いほど対象加硫ゴムBどうしで類似する総特徴量の数が少なく、各総特徴量が大幅に異なる。この類似度の基準のレベルは、任意に設定することができ、候補の対象加硫ゴムBの数が絞られて最終的に出力される対象加硫ゴムBの数に応じて設定すればよい。
【0075】
詳述すると、このステップで、演算装置2は、ステップ(S180)で選択された多数の対象加硫ゴムBに対して、公知の種々の分類手法を用いて、それぞれの対象加硫ゴムBを、複数種類の特徴が類似している対象加硫ゴムBどうしで構成されるクラスターと非類似の非クラスターとに分類する。次いで、演算装置2は、分類されたそれぞれのクラスターの中からそれぞれ一つの対象加硫ゴムBをクラスター対象加硫ゴムBbとして選択する。次いで、演算装置2は、クラスター対象加硫ゴムBbと非クラスターの対象加硫ゴムBcのそれぞれを代表加硫ゴムBaとして、選択する。分類手法としては、対象加硫ゴムBどうしの類似度を用いる手法や機械学習によるクラスタリング(階層クラスター分析)が例示される。
【0076】
クラスターの中からクラスター対象加硫ゴムBaを選択する基準は、特に限定されないが、データセット10aに存在する加硫ゴムAの組成データD2や各種総特徴量との類似度がより低い対象加硫ゴムBがクラスター対象加硫ゴムBbとして選択されることが好ましい。代表対象加硫ゴムBaも同様に、加硫ゴムAとの類似度がより低い対象加硫ゴムBが選択されることが好ましい。そこで、このステップでは、演算装置22により、選択された多数の対象加硫ゴムBに対して、分類手法を用いて、加硫ゴムAに対する類似度がより低い対象加硫ゴムBを特定し、特定した対象加硫ゴムBに対して、分類手法を用いて代表対象加硫ゴムBaを選択するデータ処理が実行されるとよい。これにより、ステップ(S180)で選択された多数の対象加硫ゴムBの中から加硫ゴムAに似通った対象加硫ゴムBが排除された残りの対象加硫ゴムBから分類手法を用いて代表対象加硫ゴムBaを選択できる。
【0077】
図14は、分類手法としてクラスタリングを用いて、選択された多数の対象加硫ゴムBを分類した結果として出力される樹形図の一例を示している。類似度の基準として結合レベルを用いる。結合レベルは、所望するクラスター数(代表対象加硫ゴムBaの数)に応じて、任意に設定することができる。例えば、図14中の破線で示す結合レベルを設定した場合、選択される代表対象加硫ゴムBaは、四個となる。図14中の黒点で示したものが代表対象加硫ゴムBaの中のクラスター対象加硫ゴムBbを示している。図14中の白点で示したものが代表対象加硫ゴムBaの中の非クラスターの対象加硫ゴムBcを示している。代表対象加硫ゴムBaの数は、例えば、五個以下である。
【0078】
以上のように変形例2によれば、選択された代表加硫ゴムBaの数が、ステップ(S180)で選択された候補の対象加硫ゴムBの数よりも少なくなる。それ故、代表加硫ゴムBaを対象加硫ゴムBと見做して、その組成データD2bを出力することにより、出力された組成データD2bに基づいて実際にゴム材料を製造して実験する回数を大幅に低減できる。
【0079】
また、データセット10aに存在する加硫ゴムAに対する類似度が低い対象加硫ゴムBが代表加硫ゴムBaとして選択される。つまり、代表加硫ゴムBaは、既存のゴム材料とは異なる特徴を有する新たなものになる。それ故、所望のゴム材料を得るための開発作業や改良作業の効率化により大きく寄与する。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のゴム材料の設計方法および設計システムは特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0081】
上述した各手順では、候補を生成するステップ(S160)とゴム物性データD3bを算出するステップ(S170)とを繰り返して、目標値D3aに近似するゴム物性データD3bを有する対象加硫ゴムBの組成データD2bを探索するとよい。例えば、目標値D3aに対して±5%、あるいは、±2%程度の範囲を許容範囲として設定し、算出されたゴム物性データD3bがその許容範囲内に収まるまで、各ステップ(S160、S170)を繰り返す。繰り返しでの候補を生成するステップ(S160)では、前回の算出されたゴム物性データD3bの評価指標に基づいて、候補を生成するとよい。
【0082】
上記の各手順により出力部7から出力された組成データD2bに基づいて、製造された対象加硫ゴムBに対して、製造する過程で得られる配合データやデータ取得装置8を用いて取得した複数種類のゴム物性データを、データセット10aに追加するとよい。対象加硫ゴムBの組成データD2bは、データセット10aに存在する組成データD2と異なっている。つまり、上記の各手順を繰り返すごとに、データセット10aにより多数の異なる組成データD2が網羅されていく。このように、データセット10aを構成するデータが順次充実されることで、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する対象加硫ゴムBの組成の取得には非常に有効である。
【0083】
対象加硫ゴムBの組成データD2bとして、原料ゴムのポリマーを構成する素材Mと添加剤を構成する素材Mの両方の種類と組成量を取得したが、添加剤を構成する素材Mの種類や組成量を固定にして、組成データD2bとして、原料ゴムのポリマーを構成する素材Mの種類や組成量のみを取得することもできる。また、原料ゴムのポリマーを構成する素材Mの種類や組成量を固定にして、組成データD2bとして、添加剤を構成する素材Mの種類や組成量のみを取得することもできる。
【0084】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明(1):原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含み、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成を取得するゴム材料の設計方法において、
前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造を単分子として扱い、前記構成原料に含まれる非ポリマーについては、その原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱い、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、
多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、
前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化するデータ処理を演算装置により行って、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成し、
作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって前記演算装置により物性予測モデルを構築し、
それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記候補の組成データで組成されたゴム材料のゴム物性データを算出し、生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択し、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得するゴム材料の設計方法。
発明(2):前記学習データでは、前記ゴム特徴量データの前記特徴の中から選択された所定数の候補特徴を示す前記総特徴量が用いられており、
前記ゴム特徴量データと前記目標値に関する前記ゴム物性データに基づいて前記演算装置によりデータ処理することにより、前記目標値に関する前記ゴム物性データの変化に対する影響度が基準よりも高い前記特徴の中から前記所定数の特徴を前記候補特徴として選択する発明(1)に記載のゴム材料の設計方法。
発明(3):複数の前記候補の生成と生成したそれぞれの前記候補の組成データで組成されたゴム材料のゴム物性データの算出とを前記演算装置により繰り返しデータ処理することにより、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を探索する発明(1)または(2)に記載のゴム材料の設計方法。
発明(4):選択した前記候補を前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記候補の中から類似度に基づいて代表対象加硫ゴムを選択して、選択したそれぞれの代表対象加硫ゴムの組成データを前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得する発明(1)~(3)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(5):前記候補の組成データの生成には、前記候補に用いる前記素材の種類を制約する制約条件を用いて、その制約条件を満足する前記組成データを前記候補として生成する発明(1)~(4)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(6):前記候補の組成データの生成には、構築した前記物性予測モデルを用いて算出された前記ゴム物性データの評価指標を用いる発明(1)~(5)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(7):前記素材特徴量データは、前記多数種類のゴム材料についての前記組成データに存在していない多数種類の素材に関する特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える発明(1)~(6)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(8):前記素材特徴量データでの前記特徴量は、化学分析データ、分子構造データ、および、画像データを用いて算出される発明(1)~(7)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(9):前記画像データを用いて得られる前記素材に関する特徴は、前記単分子および前記原料粒子の粒子径、その粒子径の分散、凝集体の大きさ、その凝集体のアスペクト比を含む発明(1)~(8)のいずれかに記載のゴム材料の設計方法。
発明(10):演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、原料ゴムのポリマーと添加剤とを構成原料として含んでいて、所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成が取得されるゴム材料の設計システムにおいて、
前記構成原料に含まれるポリマーについてはその部分構造が単分子として扱われて、前記構成原料に含まれる非ポリマーについてはその原料の単分子またはその原料の原料粒子として扱われて、前記単分子および前記原料粒子のそれぞれを素材として、
多数種類の前記素材の組成量が設定された組成データが異なる多数種類のゴム材料についての前記組成データと複数種類のゴム物性データと、それぞれの前記素材の特徴を示す特徴量を複数種類の特徴について備える素材特徴量データと、を入力データとして、
前記演算装置は、前記入力データに基づいて、それぞれの前記ゴム材料をそれぞれの前記素材によって構成されたモデルとしてモデル化して、それぞれの前記ゴム材料の特徴を前記素材特徴量データでの前記特徴で表して、それぞれの前記ゴム材料の前記特徴を示す総特徴量が設定されたゴム特徴量データを作成するデータ処理と、
作成したそれぞれの前記ゴム特徴量データと前記入力データとを学習データとして用いる機械学習によって物性予測モデルを構築するデータ処理と、
それぞれの前記ゴム材料の前記組成データとは異なっている組成データを候補として複数生成し、前記物性予測モデルを用いて、それぞれの前記候補で組成されたゴム材料の前記ゴム物性データを算出するデータ処理と、
生成したそれぞれの前記候補の中から、算出した前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記候補を選択して、この選択した前記候補の組成データを、前記所定のゴム物性の目標値を満足するゴム材料の組成データとして取得するデータ処理と、を行う構成にしたゴム材料の設計システム。
【符号の説明】
【0085】
1 設計システム
2 演算装置
10 入力データ
10a データセット(配合データ、組成データ、ゴム物性データ)
10b 素材特徴量データ
20、30 ゴム特徴量データ
図1
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