(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072520
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】計算装置、計算方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240521BHJP
G01L 5/107 20200101ALI20240521BHJP
【FI】
A61B5/11 230
G01L5/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183376
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】藤江 裕道
(72)【発明者】
【氏名】史野 根生
【テーマコード(参考)】
2F051
4C038
【Fターム(参考)】
2F051AA17
2F051AB06
2F051CA01
4C038VA04
4C038VA17
4C038VB40
4C038VC11
(57)【要約】
【課題】簡易にグラフトの初期固定張力を算出することができる計算装置、計算方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得する取得部と、前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出する算出部と、を備える計算装置。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得する取得部と、
前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出する算出部と、
を備える計算装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記位置の変化に基づいて前記プローブの変位を算出し、
前記変位及び前記長さに基づいて前記グラフトの伸びを算出し、
前記変位、前記長さ及び前記反力に基づいて前記グラフトに加わる張力を算出し、
前記伸びと前記張力の関係式を算出することで、前記初期固定張力を算出する、
請求項1に記載の計算装置。
【請求項3】
前記グラフトの両端の位置に基づいて、前記グラフトの長さを算出するグラフト長算出部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の計算装置。
【請求項4】
前記プローブの位置、前記変位又は前記反力に基づいて適正な計測であるか否かを判定する適正計測判定部をさらに備える、
請求項2に記載の計算装置。
【請求項5】
プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得するステップと、
前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出するステップと、
を有する計算方法。
【請求項6】
コンピュータに、
プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得するステップと、
前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出するステップと、
を行わせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算装置、計算方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
靭帯損傷はスポーツや交通事故で多発する損傷である。靭帯損傷時の再建手術においては、断裂した靭帯を取り除き、同体内にある腱を移植する方法が行われる。靭帯の再建の際には移植腱(グラフト)の移植時の緊張度である初期固定張力を正確に測定することで術後の膝の特性が向上することが示されている。
【0003】
しかしながら、一般的には手術を行う者がプローブを移植した腱に接触させ、その手ごたえから初期固定張力を感覚的に予想することで手術が行われている。また、移植腱の初期固定張力を計測する手法が開発されているものの、器具が大型で複雑であるため、滅菌が難しいことや計測するために手術を長時間中断する必要があることなどという欠点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mae T, et al, Residual graft tension after graft fixation in anterior cruciate ligament reconstruction: Manual vs tensioning boot techniques, J Orthop Sci., 2020 Nov; 25(6): 1061-1066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡易にグラフトの初期固定張力を算出することができる計算装置、計算方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得する取得部と、前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出する算出部と、を備える計算装置である。
【0007】
本発明の一態様は、プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得するステップと、前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出するステップと、を有する計算方法である。
【0008】
本発明の一態様は、コンピュータに、プローブをグラフトに押し込んだときの前記プローブの位置の変化と前記プローブに前記グラフトから加わる反力を取得するステップと、前記位置の変化、前記反力及び前記グラフトの長さに基づいて前記グラフトの初期固定張力を算出するステップと、を行わせるプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易にグラフトの初期固定張力を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る計測システム1の構成の一例を示す図である。
【
図3】センサの座標系とプローブの位置関係を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る計算装置3の構成を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る計算装置3の動作を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態に係る計算装置3の算出部31の構成を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係る計算装置3の動作を示すフローチャートである。
【
図9】第3の実施形態に係る計算装置3の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0012】
〈第1の実施形態〉
図1は、第1の実施形態に係る計測システム1の構成の一例を示す図である。
計測システム1は計測器具2と計算装置3を備える。計測システム1において、計測器具2がグラフトを計測し、計算装置3が計測器具2による計測結果に基づいて、グラフトの初期固定張力を算出する。
【0013】
〈計測器具〉
計測器具2は、プローブ本体20、第1センサ22、第2センサ23、連結部24、保護部25を備える。
【0014】
プローブ26は、棒状に構成される。プローブ本体20の基端部は、計測器具2の使用者が握るグリップ21である。プローブ本体20の先端部は、グラフトに接触させる接触部261である。接触部261は、プローブ本体20の軸に対して屈曲して構成される。以下、接触部261の中心を接触中心点262と呼び接触部261の先端を接触先端点263と呼ぶ。
プローブ26のうちグリップ21と接触部261との間には、第1センサ22及び第2センサ23が設けられる。第1センサ22は、接触部261の位置と姿勢を計測する。第1センサ22は、例えばジャイロセンサであって、加速度計と角速度計の機能を有する。第2センサ23は、接触部261に作用する力を計測する。第2センサ23は、例えば6軸力覚センサであって、接触部261に作用する力の3軸成分(fx、fy、fz)とモーメントの3軸成分(mx、my、mz)を検出する。以下、プローブ本体20において、第1センサ22及び第2センサ23から接触部261までの部分をプローブ26と呼ぶ。プローブ26には、囲うように設けられた筒形の保護部25が設けられる。保護部25はプローブ26と接触しないように設けられる。グリップ21には、グリップ21と保護部25とを連結し、保護部25を支持する連結部24が設けられる。
計測器具2は、第1センサ22及び第2センサ23をカバーする構造を備えてもよい。これにより、計測器具2は、第1センサ22及び第2センサ23が接触部261による接触以外の接触をセンシングすることを防ぐことができる。
【0015】
図2は、計測器具2の使用方法を示す図である。計測器具2の使用者は、グリップ21を握り、接触部261の面をグラフト27に垂直に押し当て、垂直方向に押し込む。第1センサ22はプローブ26の接触部261の位置を計測し、位置の変化から接触部261の変位dが計測される。第2センサ23は接触部261にグラフト27から加わる反力fを計測する。このとき、保護部25により、プローブ26の接触部261以外にグラフト27などが接触することを防ぐことができる。第1センサ22及び第2センサ23による計測結果は計算装置3に出力される。
【0016】
以下、第1センサ22及び第2センサ23による計測方法について説明する。
図3は、センサの座標系とプローブの位置関係を示す図である。第1センサ22の座標系をJ座標系(C
j)とし、第2センサ23の座標系をF座標系(C
f)とする。J座標系においてプローブの先端方向をz軸とし、センサ面に垂直方向をy軸とする。F座標系においてz軸はJ座標系と一致し、y軸及びx軸はJ座標系のy軸及びx軸とそれぞれ平行である。また、J座標系の原点とF座標系の原点とは距離u
0離れている。
【0017】
プローブ26において屈曲させた部分である接触部261はJ座標系のxz平面に平行である。J座標系においては、接触先端点263の座標を(p、q、r)とする。このとき、q=0である。
【0018】
第1センサ22のJ座標系(Cj)が異なる座標系(Cj’)になるときの変位は式(1)の同次変換Tで表される。
【0019】
【0020】
ここでn, o, aは回転変位を表す。nx, ny, nzはCj’におけるx軸の成分をそれぞれCjのx軸、y軸、z軸の成分で表したものである。ox, oy, ozはCj’におけるy軸の成分をそれぞれCjのx軸、y軸、z軸の成分で表したものである。ax, ay, azはCj’におけるz軸の成分をそれぞれCjのx軸、y軸、z軸の成分で表したものである。Pは直動変位を表す。px, py pzはCj’における原点のCjにおける座標である。
【0021】
第2センサ23においては、Cfのz軸を鉛直上向きにしたときと鉛直下向きとしたときのfz及びmyの差をそれぞれ算出する。fzの差の1/2をプローブ26の重量(mg)とし、myの差の1/2をmy0とする。
【0022】
第2センサ23においては、z軸を鉛直上向きとしたときのCfを基準とし、fzには-mg、myには-my0をすることで補正を行う。
【0023】
x軸とz軸を水平としたときのmx及びmzを算出し、プローブ26の重心位置gをCfにおいて、G=(Gx、Gy、Gz)=(-mz/mg、0、mx/mg)と定める。
【0024】
第1センサ22による測定結果、及びmg及びGにより、プローブ26の自重成分を算出する。力の3軸成分はmg(nz、oz、az)、モーメントの3軸成分はmg(gyoz-gzoy、gzox-gxoz、gxoy-gyox)を減算することでプローブ26の自重成分をキャンセルすることができる。
【0025】
ここで、プローブ26におけるある点の座標が(s、t、u)であるとき、この点を原点とする同次変換は式(2)により表される。
【0026】
【0027】
そのため、J座標系から見た座標(pax、pay、paz)は式(3)により表される。
【0028】
【0029】
この座標が第1センサ22により検出される。また、(fx、fy、fz)を測定することで、第2センサ23は接触部261にグラフト27から加わる反力fを計測する。
【0030】
〈計算装置〉
図4は、第1の実施形態に係る計算装置3の構成を示す図である。計算装置3は、取得部30、算出部31、出力部32、記憶部33を備える。記憶部33は、対象となるグラフトの長さlを記憶する。グラフトの長さlは、例えば利用者が事前に対象となるグラフトの長さを測定し、計算装置3に備えられた入力部に入力することで記憶部33に記憶される。また、算出部31は、変位算出部310、伸び算出部311、張力算出部312、伸び張力関係式算出部313、初期固定張力算出部314、剛性算出部315を備える。
【0031】
取得部30は、第1センサ22及び第2センサ23による計測結果を取得する。算出部31は、第1センサ22により検出されるプローブ26の位置の変化、第2センサ23により検出される反力f及びグラフト27の長さlに基づいて、グラフト27の初期固定張力を算出する。
【0032】
変位算出部310は、接触部261の座標に基づき、接触部261の変位dを算出する。
【0033】
伸び算出部311は、グラフトの伸びDを算出する。伸び算出部311は例えば、式(4)により変位d及びグラフトの長さlに基づいて、グラフトの伸びDを算出する。
【数4】
【0034】
張力算出部312は、グラフトの張力Fを算出する。張力算出部312は例えば、式(5)により変位d、反力f及び長さlに基づいて、グラフトの張力Fを算出する。
【数5】
【0035】
伸び張力関係式算出部313は、伸びDと対応する張力Fから伸びと張力の関係を算出する。伸び張力関係式算出部313は、張力Fが所定の範囲(F2以上F1以下)のときの伸びDと張力Fの関係から、伸びDと張力Fとの近似式を算出する。近似式は例えば二次関数F=AD^2+BD+C(A、B、Cは適宜決定される定数)である。
【0036】
図5は、算出される近似式の一例を示す図である。算出される張力Fが小さい場合(例えばF
2以下である場合)は、グラフト27の表面近傍のみを緊張させて計測された変位d及び反力fに基づくため、算出される張力Fは実際の張力よりも小さい。そのため、グラフト27全体を緊張させる下限の張力Fを例えばF
2と設定し、張力FがF
2以上となるときの値を使用して近似式を算出する。
【0037】
初期固定張力算出部314は、グラフトの初期固定張力GTを算出する。初期固定張力GTは算出された近似式において、D=0つまり伸びがないときの張力Fの値である。
【0038】
剛性算出部315は、グラフトの剛性Sを算出する。剛性Sは算出された近似式においてD=0となるときの近似式が示すグラフの傾きである。つまり、剛体Sは式(6)により表される。
【0039】
【0040】
出力部32は、算出部31による算出結果を出力する。
【0041】
図6は、第1の実施形態に係る計算装置3の動作を示すフローチャートである。
初めに計算装置3は計測を開始する(ステップS100)。計算装置3は、例えば取得部30が第2センサ23から取得する反力fが所定の値以上であるときに計測を開始する。計算装置3は、例えば入力部に計測開始を示す信号が入力されたときに計測を開始する。取得部30は、計測器具2による計測結果として座標及び反力fの大きさを示すデータを取得する(ステップS101)。変位算出部310が座標の変化に基づいて変位dを算出する(ステップS102)。伸び算出部311が伸びDを算出する(ステップS103)。張力算出部312が張力Fを算出する(ステップS104)。伸び張力関係式算出部313が伸びと張力の関係式を算出する(ステップS105)。初期固定張力算出部314が、伸びと張力の関係式に基づいて初期固定張力GTを算出する(ステップS106)。剛性算出部315が、伸びと張力の関係式に基づいて剛性Sを算出する(ステップS107)。出力部32が算出結果を出力する(ステップS108)。
【0042】
以上により、計算装置3はグラフトの初期固定張力GTを算出することができる。初期固定張力GTを算出するためには、グラフトにプローブ26を押し当てたときの変位d及びプローブ26からの反力fが必要であるが、これらの値は計測器具2などの簡易な装置で計測することができる。よって、計算装置3は、簡易にグラフトの初期固定張力を算出することができる。
【0043】
〈第2の実施形態〉
図7は、第2の実施形態に係る計算装置3の算出部31の構成を示す図である。第2の実施形態に係る算出部31は、第1の実施形態に係る算出部31に加えグラフト長算出部316を備える。
【0044】
第2の実施形態において、プローブ26の先端がグラフトの両端に接触され、グラフト27の両端の座標が計算装置3に出力される。取得部30はグラフト27の両端の座標を取得する。例えば、利用者がプローブ26の先端をグラフトの端部に接触したときに、計算装置3に備えられた入力部に信号を入力することで、取得部30はグラフト27の端部の座標を取得する。グラフト長算出部316はグラフト27の両端の座標に基づきグラフト27の長さlを算出する。算出されたグラフト27の長さlは記憶部33に記憶される。
【0045】
図8は、第2の実施形態に係る計算装置3の動作を示すフローチャートである。初めに計算装置3はグラフト長の計測を開始する(ステップS200)。計算装置3は、例えば入力部にグラフト長の計測開始を示す信号が入力されたときに計測を開始する。取得部30が第1センサ22からグラフト27の両端の座標を取得する(ステップS201)。その後、グラフト長算出部316がグラフト27の長さを算出する(ステップS202)。ステップS203からステップS210は、第1の実施形態のステップS101からステップS108と同じである。
【0046】
第2の実施形態に係る計算装置3はグラフト27の長さを算出することで、グラフトの長さを事前に記憶させておくことなく、グラフト27の初期固定張力を算出することができる。
【0047】
〈第3の実施形態〉
図9は、第3の実施形態に係る計算装置3の構成の一例を示す図である。第3の実施形態に係る計算装置3は、第2の実施形態に係る計算装置3に加え適正計測判定部34を備える。
【0048】
適正計測判定部34は、ある条件が成立している場合に適正な計測が行われていると判定する。条件は、例えば接触中心点262の座標がグラフト27の中点の座標との間の距離が所定の長さ以下であることである。適正計測判定部34は、例えば取得部30により取得されるグラフト27の両端の座標と接触中心点262の座標に基づいて、接触中心点262の座標がグラフト27の中点の座標との距離を算出し、所定の長さ以下である場合に適正な計測が行われていると判定する。
【0049】
条件は、例えば接触部261の変位dの方向と、接触部261とがほぼ垂直であることである。適正計測判定部34は、例えば変位dのベクトルと、接触部261に平行なベクトルとの間の角度を算出し、角度が90度から一定の範囲内にある場合に適正な計測が行われていると判定する。接触部261に平行なベクトルは例えば、接触中心点262と接触先端点263の座標に基づいて算出される。
【0050】
条件は、例えば反力fのベクトルと、接触部261とがほぼ垂直であることである。適正計測判定部34は、例えば反力fのベクトルと、接触部261に平行なベクトルとの間の角度を算出し、角度が90度から一定の範囲内にある場合に適正な計測が行われていると判定する。
【0051】
条件は、例えば反力fの作用線と、接触中心点262との距離が所定の距離以内であることである。反力fの作用線と、接触中心点262との距離は接触中心点262の座標P0(s、t、u-u0)とP0に最も近い反力fの作用線上の点Q(Qx、Qy、Qz)との距離である。ここで点Qの座標は接触部261の力の3軸成分(fx、fy、fz)とモーメントの3軸(mx、my、mz)を用いて式(7)により算出される。
【0052】
【0053】
適正計測判定部34は、上記条件のうち、1つの条件が成立している場合に適正な計測が行われていると判定してもよいし、複数の条件が成立している場合に適正な計測が行われていると判定してもよい。
【0054】
適正計測判定部34が適正な計測が行われていると判定するとき、例えば出力部32は外部に信号を出力し、計測器具2の使用者に適正な計測が行われていることを通知する。出力部32は適正計測判定部34が適正な計測が行われていると判定しないとき、外部に信号を出力し、計測器具2の使用者に適正な計測が行われていないことを通知してもよい。
【0055】
出力部32は、例えば表示装置に信号を出力し、各条件が成立しているか否かを表示させてもよい。上記条件のうち、接触中心点262の座標がグラフト27の中点の座標との間の距離が所定の長さ以下であることは、接触部261をグラフト27に押し込む前に成立しているか否かを判定可能である。そのため、出力部32は、例えば表示装置に信号を出力し、接触部261の位置が適切であるか否かを表示させることで、利用者に接触部261の位置の修正を働きかけることができる。
【0056】
第3の実施形態に係る計算装置3は、適正な計測が行われているか否かを判定し計測器具2の使用者に通知することにより、使用者は計測器具2を正確な位置又は正確な角度で使用することができる。また、使用者は正確な位置又は正確な角度で接触部261に働く反力fを計測したかを知ることができる。これにより、より正確にグラフトの初期固定張力を算出することができる。
【0057】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0058】
ここまで計測器具2を用いてグラフトや靭帯の張力を計測する方法について説明してきたが、計測器具2は軟骨や半月板などの弾性率も計測することができる。具体的には物体(例えば、軟骨や半月板など)に接触先端点263を押し込んだときの接触先端点263の変位d2及び反力f2に基づいて、物体の等価弾性率Eを算出することができる。具体的な計算方法としては、横軸にd2の3乗、縦軸にf2の2乗の関係を示したグラフにおいて計測結果を直線近似し、直線の傾きKを算出する。その後、Kと接触先端点263の曲率半径Rに基づいて式(8)により、等価弾性率Eが算出される。
【0059】
【0060】
上述した実施形態における計算装置3の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記録装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。また、計算装置3の一部または全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 計測システム、2 計測器具、21 グリップ、22 第1センサ、23 第2センサ、24 連結部、25 保護部、26 プローブ、261 接触部、262 接触中心点、263 接触先端点、27 グラフト、3 計算装置、30 取得部、31 算出部、310 変位算出部、311 伸び算出部、312 張力算出部、313 伸び張力関係式算出部、314 初期固定張力算出部、315 剛性算出部、316 グラフト長算出部、32 出力部、33 記憶部、34 適正計測判定部