(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072530
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材
(51)【国際特許分類】
H01G 11/86 20130101AFI20240521BHJP
H01G 11/22 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/34 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/44 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/40 20130101ALI20240521BHJP
C01B 32/348 20170101ALI20240521BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20240521BHJP
【FI】
H01G11/86
H01G11/22
H01G11/24
H01G11/34
H01G11/42
H01G11/44
H01G11/40
C01B32/348
H01G11/26
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183392
(22)【出願日】2022-11-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 孝規
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】一樂 陽司
(72)【発明者】
【氏名】天能 浩次郎
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC04B
4G146AC05B
4G146AC08A
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AC10A
4G146AC28A
4G146AC28B
4G146AD11
4G146AD23
4G146BA27
4G146BD10
4G146CA02
4G146CB09
5E078AA01
5E078AA15
5E078AB02
5E078BA13
5E078BA14
5E078BA23
5E078BA65
5E078BA66
5E078BA67
5E078BA70
5E078BA71
5E078BA73
5E078BB06
5E078BB07
5E078BB14
(57)【要約】
【課題】高静電容量が得られる電極材を提供すること。
【解決手段】測定温度25℃での水蒸気吸脱着等温線の相対圧0.3における水蒸気吸着量が50mL/g以上、BET比表面積が750~3500m
2/g、体積基準の平均粒子径D50が1~50μm、であるアルカリ賦活法で得られた水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定温度25℃での水蒸気吸脱着等温線の相対圧0.3における水蒸気吸着量が50mL/g以上、
BET比表面積が750~3500m2/g、
体積基準の平均粒子径D50が1~50μm、
であるアルカリ賦活法で得られた水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材。
【請求項2】
全酸性官能基量が2.0~5.0meq/g、且つ
全酸性官能基量に対するヒドロキシ基、及びカルボキシ基の合計量が0.5~5.0meq/g、
である請求項1に記載の電極材。
【請求項3】
塩基性官能基量が0.3meq/g以下である請求項1又は2に記載の電極材。
【請求項4】
前記電気二重層キャパシタは、通液型キャパシタである請求項1又は2に記載の電極材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)は従来の蓄電デバイスの二次電池と比べると急速充放電が可能であり、また充放電の繰り返しによる劣化が少なく長寿命であると共に安全性が高いことから注目されているが、エネルギー密度に劣るため、適用範囲が限られていた。
また電気二重層キャパシタの電解質は有機系電解質、イオン液体電解質、水溶液系電解質、ゲル電解質などの電解質が検討されているが、水溶液系電解質を用いた水溶液系電気二重層キャパシタは材料費が安価であると共に、安全性も高いなど多くのメリットを有することから注目されている。一方で水溶液系電気二重層キャパシタは充電時に水の電気分解が起きないように低電圧(1.2V以下)で使用する必要がある。そのため水溶液系電気二重層キャパシタの適用範囲を広げるためには、静電容量を高めてエネルギー密度(=静電容量[F]×作動電圧[V]/質量[g])を高める必要がある。
電気二重層キャパシタの静電容量は電極の表面積が大きいほど大きくなるため、電極材には比表面積の大きい活性炭が使用されているが、更なる高容量化を目指して活性炭の比表面積だけでなく、メソ孔を発達させて容量の増大を図る技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には体積当たりの容量密度が高く、大電流での充放電特性に優れたキャパシタ用活性炭として、ミクロ孔領域の比表面積とメソ孔領域の比表面積との比率を規定すると共に、特定のBET比表面積を有する活性炭が提案されている。
特許文献2には、充放電に適した細孔を有し、静電容量の大きいキャパシタ電極材用活性炭として、椿の実を原料とすると共に、所定の細孔直径を有する細孔の細孔容積を20%以上とした活性炭が提案されている。
【0004】
また近年、水などの液体中に含まれるイオン性物質を除去する方法として、電気二重層の原理を利用した通液型キャパシタが知られている(例えば特許文献3)。通液型キャパシタでは、電極での電気エネルギーの蓄電、放電を繰り返すことにより、イオン性物質の吸着・放出を行うことができるため、液体からイオン性物質を除去できる。通液型キャパシタにおいても、電気二重層キャパシタと同様、電極材の静電容量の増加が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-105836号公報
【特許文献2】特開2014-72497号公報
【特許文献3】特開2015-99856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性炭の細孔構造を改良することで静電容量を増大できるが十分ではなく、静電容量の更なる増大が求められていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも高静電容量が得られる電極材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得た本発明の電極材は以下の構成を有する。
[1] 測定温度25℃での水蒸気吸脱着等温線の相対圧0.3における水蒸気吸着量が50mL/g以上、
BET比表面積が750~3500m2/g、
体積基準の平均粒子径D50が1~50μm、
であるアルカリ賦活法で得られた水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材。
【0008】
[2] 全酸性官能基量が2.0~5.0meq/g、且つ
全酸性官能基量に対するヒドロキシ基、及びカルボキシ基の合計量が0.5~5.0meq/g、
である上記[1]に記載の電極材。
【0009】
[3] 塩基性官能基量が0.3meq/g以下である上記[1]又は[2]に記載の電極材。
【0010】
[4] 前記電気二重層キャパシタは、通液型キャパシタである上記[1]~[3]のいずれかに記載の電極材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも高静電容量を達成できる水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材を提供できる。したがって、本発明の電極材を用いた水溶液系電気二重層キャパシタは低い電流密度で従来の活性炭系の電極材を用いた水溶液系電気二重層キャパシタと比べて高い充放電容量(F/g)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、電流密度を変化させた際の電流密度と充電容量の関係を示す図である。
【
図2】
図2は、電流密度を変化させた際の電流密度と放電容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らが検討した結果、本発明の電極材を水溶液系電気二重層キャパシタに用いると、電極と電解質との界面における電気二重層に加えて擬似容量(電極表面での荷電移動反応による付加的な容量)を付加できるため、電解材質量当たりの静電容量(F/g:以下、「質量比静電容量」ということがある)を増大できることを見出し、本発明に至った。
特に本発明の電極材は、電流密度0.1~0.4A/g、好ましくは0.1~0.3A/g、より好ましくは0.1~0.2A/g、さらに好ましくは0.1A/gの低電流密度において質量比静電容量(F/g)が高い。
【0014】
本発明の電極材は、測定温度25℃での水蒸気吸脱着等温線の相対圧(P/P0)0.3における水蒸気吸着量が50mL/g以上、BET比表面積が750~3500m2/g、体積基準の平均粒子径D50が1~50μmであるアルカリ賦活された水溶液系電気二重層キャパシタ用電極材である。
【0015】
水蒸気吸着量
本発明の電極材は低い相対圧(相対圧:0.3)において水蒸気吸着量が大きいため、水溶液系電解質との濡れ性が極めて良好であり、質量比静電容量の増大に寄与する。
水蒸気吸着量は50mL/g以上、好ましくは60mL/g以上、より好ましくは70mL/g以上、さらに好ましくは80mL/g以上であって、上限は特に規定はないが好ましくは500mL/g以下、より好ましくは400mL/g以下、さらに好ましくは300mL/g以下である。
本発明の水蒸気吸着量は、測定温度25℃での水蒸気吸脱着等温線の相対圧0.3における値であり、測定条件は実施例の通りである。
【0016】
BET比表面積
本発明の電極材は、BET比表面積が大きい程、キャパシタの静電容量が増大するため好ましいが、BET比表面積が大きくなりすぎると見かけ密度が低下して体積当たりの静電容量(F/cc)が低下する。
BET比表面積は750m2/g以上、好ましくは1000m2/g以上、より好ましくは1500m2/g以上、さらに好ましくは1750m2/g以上であって、3500m2/g以下、好ましくは3000m2/g以下、より好ましくは2500m2/g以下である。
【0017】
体積基準の平均粒子径D50
上記水蒸気吸着量とBET比表面積を満足する電極材は、平均粒子径が小さい程、粒子同士の接触面積が増加するため粒界抵抗が低減する。
本発明の電極材は、体積基準の平均粒子径D50が50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、よりさらに好ましくは10μm以下であって、1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
本発明の体積基準の平均粒子径D50の測定条件は実施例の通りである。
本発明では体積基準の粒子径D10は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であって、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
また体積基準の粒子径D90は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であって、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0018】
細孔容積
(細孔容積)
電極材の細孔容積は小さすぎると静電容量を十分に確保できないことがある。また細孔容積が大きすぎると嵩高くなって使用時の充填量が減少することがある。本発明の電極材の細孔容積は好ましくは0.3cm3/g以上、より好ましくは0.5cm3/g以上、さらに好ましくは0.8cm3/g以上であって、好ましくは3.0cm3/g以下、より好ましくは2.5cm3/g以下、さらに好ましくは2.0cm3/g以下である。
【0019】
平均細孔径
電極材の平均細孔径は小さすぎると電解質イオンの拡散性が低下することがある。一方、平均細孔径が大きすぎると充填密度の低下につながり体積当たりの静電容量が低下することがある。
本発明の電極材の平均細孔径は好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは1.5nm以上、最も好ましくは1.8nm以上であって、好ましくは5.0nm以下、より好ましくは4.5nm以下、更に好ましくは4.0nm以下、より更に好ましくは2.0nm以下である。
【0020】
全酸性官能基量
全酸性官能基量が多いほど、電極材の親水性が向上して電解質イオンの吸着性が向上すると共に、酸化還元反応による擬似容量が増加に寄与する。
酸性官能基とは、実施例に示す塩基性試薬と反応し得る基であり、全酸性官能基とは、(1)ヒドロキシ基(R-OH基)、(2)カルボキシ基(R-COOH基)、(3)ラクトン基などのエステル基(R-OCO基)、および(4)α,β-不飽和カルボニル基などのカルボニル基(キノン構造に含まれるカルボニル基など:R=O基)をいう。
また全酸性官能基量とは、実施例に記載の測定方法によって求められる電極材に含まれる上記(1)~(4)の各酸性官能基の合計量をいう。
全酸性官能基量は、好ましくは2.0meq/g以上、より好ましくは2.5meq/g以上、さらに好ましくは3.0meq/g以上であって、好ましくは5.0meq/g以下、より好ましくは4.5meq/g以下、さらに好ましくは4.0meq/g以下である。
【0021】
ヒドロキシ基(R-OH基)、及びカルボキシ基(R-COOH基)の合計量
上記酸性官能基のうち、特にヒドロキシ基(R-OH基)、及びカルボキシ基(R-COOH基)が多い程、酸化還元反応による擬似容量増加に寄与するため好ましい。
全酸性官能基量に対するヒドロキシ基、及びカルボキシ基の合計量は、好ましくは0.5meq/g以上、より好ましくは0.8meq/g以上、さらに好ましくは1.0meq/g以上、よりさらに好ましくは1.5meq/g以上であって、好ましくは5.0meq/g以下、より好ましくは4.0meq/g以下、さらに好ましくは3.5meq/g以下、よりさらに好ましくは3.0meq/g以下である。
【0022】
塩基性官能基量
本発明の電極材において塩基性官能基量が増加すると酸性官能基量が減少して静電容量が減少するため、少ない程好ましい。
塩基性官能基量は、好ましくは0.3meq/g以下、より好ましくは0.2meq/g以下、さらに好ましくは0.1meq/g以下、よりさらに好ましくは0.05meq/g以下であって、下限は特に限定されず、0meq/gであってもよいし、0meq/g超でもよい。
【0023】
元素分析
本発明では電極材を元素分析して得られる炭素、窒素、水素、酸素の合計量に対する窒素の比率を制御することも好ましい実施態様である。
電極材に含まれる窒素比率が高すぎると比表面積およびカルボキシ基やヒドロキシ基など静電容量増加に寄与する官能基量が減少することがあるため、窒素比率は少ない程、好ましい。
窒素の比率は、電極材を元素分析装置を用いて実施例記載の条件で分析して得られる炭素、窒素、水素、酸素の合計量に対する窒素量の比率を算出する。なお、酸素量は実施例に記載の式に基づいて算出された値である。
炭素、窒素、水素、酸素の合計量に対する窒素量の比率は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。窒素量の比率の下限は特に限定されず、0質量%であってもよいし、0質量%超であってもよい。
【0024】
不純物
電極材中にリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や鉄等の不純物が存在すると、サイクル寿命や安全性を低下させることがあるため、不純物含有量は少ない程、好ましい。
電極材中のアルカリ金属残存量は合計で好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、よりさらに好ましくは250ppm以下である。
カリウム残存量は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、よりさらに好ましくは100ppm以下である。
鉄残存量は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、よりさらに好ましくは100ppm以下である。
上記各残存量の下限は特に限定されず、0ppmであってもよいし、0ppm超であってもよい。
本発明ではICP発光分光分析装置で電極材中の不純物は測定するが、具体的な測定条件は実施例の通りである。
【0025】
本発明の電極材はアルカリ賦活法で得られたものである。アルカリ賦活して得られた電極材は高比表面積と高酸性官能基量の達成に寄与する。また水蒸気賦活された電極材の細孔構造と比べると、本発明のアルカリ賦活された電極材は静電容量向上に寄与する細孔構造を有する。アルカリ賦活法としては後記するアルカリ賦活処理工程が例示される。本発明の好ましい実施態様は活性炭をアルカリ賦活して得られた電極材である。
【0026】
本発明の電極材は電気二重層キャパシタの電解質に水溶液系電解質を使用する場合を対象とする。
水溶液系電解質としては、例えば水酸化カリウム水溶液、硫酸水溶液など水を溶媒とする各種公知の電気二重層キャパシタ用電解質が挙げられる。
【0027】
本発明の電極材は、水溶液系電気二重層キャパシタの正極、および/または負極のいずれにも使用可能である。
また本発明の電極材は、水などの液体中に含まれるイオン性物質の除去を目的とする水溶液系通液型電気二重層キャパシタの正極、および/または負極の電極材としても使用可能である。
電気二重層キャパシタの構成は各種公知の構成を採用できる。
【0028】
以下、本発明の電極材の製造方法を説明するが、本発明の製造方法は上記所望の物性が得られれば下記製造方法に限定されない。また下記製造条件は好ましい範囲を示したものであるが、所望の物性が得られるように各製造条件を適切に調整することを要する。
【0029】
賦活原料
賦活原料には炭素質物質、好ましくは炭素質物質の炭化物が好ましい。本発明では公知の炭素質物質を用いる。例えば、木材、おが屑、木炭、ヤシガラ、セルロース系繊維、合成樹脂 (例えばフェノール樹脂)等の難黒鉛化性炭素;メソフェーズピッチ、ピッチコークス、石油コークス、石炭コークス、ニードルコークス、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル等の易黒鉛化性炭素:およびこれらの混合物等が挙げられる。これらの炭素質物質は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい炭素質物質は易黒鉛化性炭素であり、特に石油コークスが好ましい。
【0030】
炭化処理工程
炭素質物質の炭化処理は、炭素質物質を窒素などの不活性ガス中で熱処理、例えば400℃~1000℃で1時間~3時間保持して炭化することが好ましい。
【0031】
アルカリ賦活処理工程
本発明の賦活処理工程はアルカリ金属化合物を含む賦活剤と、賦活原料とを混合し、不活性ガス中で加熱して活性炭を得るアルカリ賦活処理である。本発明では従来よりも低温でアルカリ賦活処理するため比表面積と酸性官能基量の両方を増大できる。
本発明のアルカリ賦活処理工程ではアルカリ賦活剤としてアルカリ金属化合物を使用する。アルカリ金属化合物は例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属の硫酸塩である。好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化カリウムである。
賦活剤の使用量は賦活原料に対する賦活剤の混合比率を高くする程、活性炭の比表面積が増大傾向を示す。一方、賦活剤の混合比率が高くなり過ぎると活性炭の密度が低下傾向を示す。本発明では上記比表面積となるように賦活剤の混合比率を調整すればよく、賦活原料に対する賦活剤の質量比(賦活剤の質量/賦活原料の質量 )は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2.0以上であって、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下である。
本発明のアルカリ賦活処理はアルゴン、ヘリウム、窒素など任意の不活性がス雰囲気下で行う。
本発明のアルカリ賦活処理温度は、低すぎると十分な比表面積と酸性官能基量を確保できない。一方、800℃以上になると酸性官能基量が減少する。したがってアルカリ賦活処理時の加熱温度は450℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上であって、800℃未満、より好ましくは780℃以下、さらに好ましくは760℃以下である。
賦活処理時間は好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であって、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
本発明の比表面積と酸性官能基量の増大を図るために昇温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上であって、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下である。
【0032】
洗浄処理工程
洗浄処理工程は、アルカリ賦活処理後の活性炭に水洗浄処理や無機酸洗浄処理を行って活性炭中に残留するアルカリ金属を除去する工程である。洗浄処理は複数回繰り返すことでアルカリ金属除去率を高めることができる。
【0033】
水洗浄処理
水洗浄処理で使用する水の温度は好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であって、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。水洗浄処理は水洗浄とろ過を複数回繰り返し、ろ液のpHが7.0以下となるまで行うことが望ましい。
【0034】
無機酸洗浄
無機酸洗浄では無機酸として塩酸、フッ化水素酸等の水素酸や、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸等の酸素酸などを使用でき、好ましくは塩酸である。活性炭の物性を維持しつつ、アルカリ金属除去率を高める観点から活性炭100質量部に対し、無機酸10質量部~100質量部となるように無機酸濃度を調製することが好ましい。無機酸水溶液の液温は、無機酸の揮発を抑制しつつ、活性炭中のアルカリ金属除去効率を高めることができる温度域に設定することが望ましく、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であって、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。
【0035】
無機酸洗浄処理は洗浄とろ過を複数回繰り返し、活性炭中のアルカリ金属などの不純物を上記レベルまで低減させることが好ましい。
【0036】
水洗浄工程
無機酸洗浄処理後、水洗浄処理をして活性炭中に残留する無機酸を除去する。水洗浄処理で使用する水の温度は無機酸の除去効率を高める観点から好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは50℃以上であって、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。水洗浄処理は水洗浄とろ過を複数回繰り返し、ろ液のpHが6.5以上となるまで行うことが望ましい。
【0037】
乾燥処理工程
洗浄処理後、乾燥処理を行って活性炭を乾燥させてもよい。乾燥は活性炭に残存する水分を除去できる条件であればよく、例えば大気雰囲気下で加熱し、0.5時間~24時間乾燥させることが望ましい。
【0038】
粉砕工程
乾燥後、活性炭の体積基準の平均粒子径D50が上記所定の範囲となるように粉砕を行う。粉砕手段としては特に限定されないが、ボールミル、ジェットミルなどの粉砕機で粉砕し、本発明の電極材である粉末状活性炭が得られる。
粉砕条件は乾式粉砕が好ましい。粉砕後、粒度分布を調整することも好ましい。粒度調整手段としては、気流分級、篩による分級などの公知の分級方法を用いることができる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
実施例1
賦活原料
石油コークスを賦活原料とした。
賦活処理工程
石油コークス1.0質量部に、賦活剤として質量比([賦活剤のアルカリ成分の質量]/[賦活原料の質量]:以下、KOH/C比という)が3.5となるように市販のアルカリ賦活剤(濃度48.5%水酸化カリウム水溶液)を添加し、窒素雰囲気中550℃まで昇温し、該温度で3.75時間保持し、アルカリ賦活炭を得た。
水洗浄処理工程
得られたアルカリ賦活炭はろ液のpH7.0以下になるまで60℃の温水で洗浄を繰り返した。
無機酸洗浄工程
次いで5.25wt%塩酸水溶液中で1時間酸洗浄を行った後、吸引ろ過を行った。
後処理工程(水洗処理工程)
ろ過後の活性炭はろ液のpHが6.5以上になるまで60℃の温水で温水洗浄と脱水を繰り返し行い、洗浄品を得た。
乾燥処理
得られた洗浄品は、115℃に設定した乾燥機で24時間の乾燥処理を行った。
粉砕工程
その後、カウンタージェットミル(ホソカワミクロン社製 200AFG)を用いて粉砕し、実施例1の活性炭を得た。
【0041】
比較例1
アルカリ賦活活性炭(MCエバテック社製 MSP-20X)を用いた。
【0042】
比較例2
ヤシガラ水蒸気賦活活性炭(MCエバテック社製 CLF-1)を用いた。
【0043】
上記各試料を下記条件で評価した。
【0044】
比表面積
試料(0.2g)を250℃にて真空乾燥させた後、窒素吸着装置(マイクロメリティックス社製ASAP-2420)を用いて液体窒素雰囲気下(-196℃)における窒素ガスの吸着量を測定して窒素吸着等温線を求め、BET法にて比表面積(m2/g)を求めた。
【0045】
全細孔容積
窒素吸着等温線から相対圧(P/P0)=0.93における窒素吸着量から全細孔容積(mL/g)を算出した。
【0046】
平均細孔径(4V/A)
活性炭の細孔をシリンダー状と仮定し、下記式に基づいて平均細孔径を算出した。
平均細孔径(nm)=4×全細孔容積(mL/g)/比表面積(m2/g)×1000
【0047】
元素分析
試料内の炭素量(C)、水素量(H)、窒素量(N)の重量割合をCHNコーダー(ジェイ・サイエンス・ラボ社製JM1000HCN)にて測定した。また、得られたC量、H量およびN量から下記式に基づいて試料内の酸素量(O)を算出した。
O量(wt%)=100(wt%)-C量(wt%)-H量(wt%)-N量(wt%)
【0048】
粒子径
各試料の粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD(登録商標)-2000)を用いて測定し、得られた粒度分布の測定結果から体積基準の累積頻度曲線を求め、累積頻度10%、50%、90%における粒子径を算出した。
【0049】
金属不純物
試料1.0gに塩酸(35%塩酸:純水=4:1)を100mL加え、10分間煮沸することで抽出し、放冷した後に煮沸前の重量となるように純水を加えてメスアップを行い、ろ過した。その後、濾液をICP発光分光分析装置(サーモエレクトロン株式会社製)を用いて、活性炭中のカリウム(K)および鉄(Fe)濃度の定量を行った。
【0050】
全酸性官能基量評価
全酸性官能基量は、Boehm法(文献「H.P.Boehm,Adzan.Catal,16,179(1966)」)に従って求めた。具体的には、実施例1は活性炭1g、比較例1、2は活性炭2gにナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)を50mL加え、2時間、500rpmで撹拌した後、24時間放置した。24時間経過後、さらに30分間撹拌を行いろ過分離した。得られたろ液25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。また、ブランクテストとして、前記ナトリウムエトキシド水溶液(0.1mol/L)25mLに対して0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pH4.0になるときの塩酸滴定量を測定した。そして、下記式により全酸性官能基量(meq/g)を算出した。
全酸性官能基量(meq/g)=[(a-b)×0.1]/[(S×25/50)]
a:ブランクテストにおける塩酸滴定量(mL)
b:試料を反応させたときの塩酸滴定量(mL)
S:試料重量(g)
【0051】
個別酸性官能基評価
0.1moL/1000mLのNaOEtを0.1moL/1000mLのNaOH、または0.05moL/1000mLのNa2CO3、または0.1moL/1000mLのNaHCO3として全酸性官能基量と同じように評価を行なった。また、各酸性官能基の算出は以下の式により求めた。
【0052】
【0053】
活性炭の官能基量の定量方法は一般的に知られている、{表面、34[2](1996)音羽p.62}又は{Catal.,1966[16](米)p.179]に基づくものであり、実施例1は活性炭1g、比較例1、2は活性炭2gを100mLのエルレンマイヤーフラスコに取り、N/10のアルカリ試薬((a)炭酸水素ナトリウム、(b)炭酸ナトリウム、(c)苛性ソーダ、(d)ナトリウムエトキシド)を各々50mL加え、24時間振とうした後濾別し、未反応のアルカリ試薬をN/10塩酸で滴定し、カルボキシル基は(a)~(d)の全て、ラクトン基は(b)~(d)の試薬、水酸基は(c)~(d)、キノン基は試薬(d)と反応するので、各々の滴定量を差し引きすることによって官能基量を定量する。
【0054】
塩基性官能基量評価
塩基性官能基の量は、全酸性官能基量測定時の逆滴定により求めた。具体的には実施例1は活性炭1g、比較例1、2は活性炭2gに塩酸(0.1mol/L)を50mL加え、2時間、500rpmで撹拌した後、24時間放置した。24時間経過後、さらに30分間撹拌を行いろ過分離した。得られたろ液25mlに対して0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを滴下し、pH8.0になるときの水酸化ナトリウム滴定量を測定した。また、ブランクテストとして、前記塩酸(0.1mol/L)25mlに対して0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを滴下し、pH8.0になるときの水酸化ナトリウム滴定量を測定した。そして、下記式により塩基性官能基量(meq/g)を算出した。
塩基性官能基量(meq/g)=(c-d)×0.1/(S×25/50)
c:ブランクテストにおける水酸化ナトリウム滴定量(mL)
d:試料を反応させたときの水酸化ナトリウム滴定量(mL)
S:試料質量(g)
【0055】
水蒸気吸着量評価
試料をセルに約40mg投入し、250℃、5時間の真空加熱により前処理を行った後、置換ガス(ヘリウム)を導入し、秤量を行った。その後、蒸気吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製、BELSORP‐max)を用いて、循環恒温槽により25℃に保持されたウォータバス中で、相対圧(P/P0)0.0~0.85の範囲で水蒸気吸着測定を行い、得られた水蒸気等温線から、相対湿度(P/P0)=0.3における水蒸気吸着量を算出した。
【0056】
キャパシタ性能評価
実施例1及び比較例1、2の試料を用いて電気二重層キャパシタ性能を評価した。具体的には、試料とケッチェンブラックを30%硫酸水溶液を用いて混錬し、電極ペーストを調製した。調製した電極ペーストをガラス製の容器に充填し、セパレータとしてガラスファイバーろ紙を乗せ、その上から再度電極ペーストを充填した。集電体およびリード線にはPFA製の熱収縮チューブで保護した白金線と白金メッシュを使用した。参照極にはHg/HgSO4/sat-K2SO4を用い3極式セルを作成した。
充放電試験には電気化学測定システムを用いて、25℃にて電位範囲を標準水素電極(RHE)基準で0.1~1.0Vとし、 充放電電流密度が0.1、0.5、1.0A/g-活性炭で充放電を行い、ケッチェンブラックの容量を考慮せずIRドロップ部を除いた領域で、片極の活性炭重量から充放電容量を計算した。なお、充放電試験は全て同じセルを用いて、0.1A/gで10サイクル、0.5A/gで10サイクル、1.0A/gで10サイクルの順で行い各電流密度での10サイクル目の充放電容量を評価した。
充放電容量算出電位
・電流密度0.1A/g時の充電容量は0.5~1.0V、放電容量は0.6~0.1Vとした。
・電流密度0.5A/g時の充電容量は0.6~1.0V、放電容量は0.5~0.1Vとした。
・電流密度1.0A/g時の充電容量は0.7~1.0V、放電容量は0.4~0.1Vとした。
【0057】
【0058】
【0059】
電流密度を変化させた際の充電容量(
図1)、放電容量(
図2)の結果を示す。従来の活性炭を電極材とした比較例1、2では低電圧側ではほとんど容量増大は見られなかった。一方、本発明の活性炭を電極材に用いた実施例1では、低電流密度側(特に0.4A/g以下)において、顕著な容量増大が見られた。特に電流密度0.1A/gは電流密度0.5A/gと比べると約2.4~2.6倍、電流密度1.0とA/gと比べると約4.7~5.0倍程、充放電容量が増大した。
図1、2から電流密度0.4A/g付近まで本発明の電極材は電解質イオンの吸着量が大きく、電流密度がさらに高くなるにしたがって従来の電極材の方が電解質イオンの吸着量が多くなっていることがわかる。
本発明の電極材を用いた水溶液系電気二重層キャパシタは、水溶液系電気二重層キャパシタの実用作動電圧において高い静電容量を有するため高エネルギー密度を達成できることがわかる。