(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072533
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】キサゲ加工装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B23D 79/06 20060101AFI20240521BHJP
B23Q 7/00 20060101ALI20240521BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B23D79/06
B23Q7/00 M
B23Q17/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183398
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
【テーマコード(参考)】
3C029
3C033
3C050
【Fターム(参考)】
3C029EE16
3C029EE20
3C033BB10
3C033EE10
3C033PP19
3C033PP20
3C050FC09
(57)【要約】
【課題】自動的に被加工物の加工面を判別して複数の面に対するキサゲ加工を行うための技術を提供する。
【解決手段】キサゲ加工装置は、刃部によって被加工物の表面にキサゲ加工を行う加工ロボットと、被加工物を移動させる移動装置と、被加工物の表面を測定する測定装置と、測定装置による測定結果に基づいて加工ロボットによる加工を制御する制御装置と、被加工物の表面に設けられたマークを読み取るための読み取り装置を備え、制御装置は、読み取り装置により読み取られたマークの画像を解析して被加工物を識別する固有番号を取得し、固有番号に基づいて被加工物の第1面と、第1面とは異なる第2面とを判別し、第1面と前記第2面それぞれに対して所定の加工が行われるように、固有番号により紐づけられ管理されている加工点データに基づいて、移動装置および前記加工ロボットを制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部によって被加工物の表面にキサゲ加工を行う加工ロボットと、
前記被加工物を移動させる移動装置と、
前記被加工物の表面を測定する測定装置と、
前記測定装置による測定結果に基づいて前記加工ロボットによる加工を制御する制御装置と、
前記被加工物の表面に設けられたマークを読み取るための読み取り装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記読み取り装置により読み取られた前記マークの画像を解析して前記被加工物を識別する固有番号を取得し、前記固有番号に基づいて前記被加工物の第1面と、前記第1面とは異なる第2面とを判別し、前記第1面と前記第2面それぞれに対して所定の加工が行われるように、前記固有番号により紐づけられ管理されている加工点データに基づいて、前記移動装置および前記加工ロボットを制御する
ことを特徴とするキサゲ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記被加工物が、前記第1面が前記加工ロボットにより加工される第1の姿勢と、前記第2面が前記加工ロボットにより加工される第2の姿勢と、を取るように、前記移動装置を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のキサゲ加工装置。
【請求項3】
前記被加工物の前記第1面と前記第2面は裏表の関係にあり、
前記制御装置は、前記被加工物が前記第1の姿勢と前記第2の姿勢を取るように前記移動装置を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項4】
前記マークは、前記被加工物が前記第1の姿勢にあることを示す第1マークと、前記被加工物が前記第2の姿勢にあることを示す第2マークと、を含み、
前記制御装置は、前記読み取り装置により読み込まれる前記画像に含まれる前記マークが前記第1マークと前記第2マークのいずれであるかに基づいて、前記被加工物が前記第1の姿勢であるか前記第2の姿勢であるかを判別する
ことを特徴とする請求項2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項5】
前記読み取り装置は、前記被加工物が前記第1の姿勢にあるときに前記マークを撮影可能な位置に配置される第1の読み取り装置と、前記被加工物が前記第2の姿勢にあるときに前記マークを撮影可能な位置に配置される第2の読み取り装置と、を含む
ことを特徴とする請求項2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項6】
前記マークは、前記被加工物において、前記加工ロボットによる加工の対象にならない面に設けられている
ことを特徴とする請求項4または5に記載のキサゲ加工装置。
【請求項7】
前記被加工物に設けられた前記マークは、QRコードである
ことを特徴とする請求項6に記載のキサゲ加工装置。
【請求項8】
前記読み取り装置は、カメラである
ことを特徴とする請求項6に記載のキサゲ加工装置。
【請求項9】
刃部によって被加工物の表面にキサゲ加工を行う加工ロボットと、前記被加工物を移動させる移動装置と、前記被加工物の表面を測定する測定装置と、前記測定装置による測定
結果に基づいて前記加工ロボットによる加工を制御する制御装置と、前記被加工物の表面に設けられたマークを読み取るための読み取り装置と、
を備えるキサゲ加工装置の制御方法であって、
前記読み取り装置が、前記被加工物の表面を読み取るステップと、
前記制御装置が、前記読み取り装置により読み取られた画像を解析して前記被加工物を識別する固有番号を取得するステップと、
前記制御装置が、前記固有番号に基づいて前記被加工物の第1面と、前記第1面とは異なる第2面とを判別するステップと、
前記制御装置が、前記第1面と前記第2面それぞれに対して所定の加工が行われるように、前記固有番号により紐づけられ管理されている加工点データに基づいて、前記移動装置および前記加工ロボットを制御するステップと、
を有することを特徴とするキサゲ加工装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が施される。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。キサゲ加工によって対象物の被加工面に形成された切削パターンに潤滑油の油溜まりが生じることで、摺動面において所望の摺動性を得ることが可能となる。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかし、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、キサゲ加工の処理を自動化する提案もなされている。例えば特許文献1に開示のロボットを用いたキサゲ加工装置は、視覚センサの撮像データを画像処理し、処理された画像において加工を行うべき位置を決定する。さらに所定のプログラムに従い加工時にツールに加わる力を制御することにより、キサゲ加工を自動化することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、省力化の要望から、キサゲ加工の自動化をさらに推し進める必要性が高まっている。ここで、被加工物が有する複数の面に対してキサゲ加工が必要となる場合について検討する。例えばオモテ面とウラ面が他の部材と摺動するような摺動部材の場合、両面にキサゲ加工を施す必要がある。したがって、ロボットを用いてキサゲ加工を自動化する場合も、被加工物の複数の面に対する加工を一連の処理として自動化することが好ましい。しかしながら従来、自動的に被加工物の複数の面を判別し、それぞれの面に適したキサゲ加工を行う方法についての開示はなく、自動化を推し進める上での問題となっていた。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、自動的に被加工物の加工面を判別して複数の面に対するキサゲ加工を行うための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様に係るキサゲ加工装置は、刃部によって被加工物の表面にキサゲ加工を行う加工ロボットと、前記被加工物を移動させる移動装置と、前記被加工物の表面を測定する測定装置と、前記測定装置による測定結果に基づいて前記加工ロボットによる加工を制御する制御装置と、前記被加工物の表面に設けられたマークを読み取るための読み取り装置と、を備え、前記制御装置は、前記読み取り装置により読み取られた前記マーク
の画像を解析して前記被加工物を識別する固有番号を取得し、前記固有番号に基づいて前記被加工物の第1面と、前記第1面とは異なる第2面とを判別し、前記第1面と前記第2面それぞれに対して所定の加工が行われるように、前記固有番号により紐づけられ管理されている加工点データに基づいて、前記移動装置および前記加工ロボットを制御する。
【0009】
本発明の第二の態様に係るキサゲ加工装置の制御方法は、刃部によって被加工物の表面にキサゲ加工を行う加工ロボットと、前記被加工物を移動させる移動装置と、前記被加工物の表面を測定する測定装置と、前記測定装置による測定結果に基づいて前記加工ロボットによる加工を制御する制御装置と、前記被加工物の表面に設けられたマークを読み取るための読み取り装置と、を備えるキサゲ加工装置の制御方法であって、前記読み取り装置が、前記被加工物の表面を読み取るステップと、前記制御装置が、前記読み取り装置により読み取られた画像を解析して前記被加工物を識別する固有番号を取得するステップと、前記制御装置が、前記固有番号に基づいて前記被加工物の第1面と、前記第1面とは異なる第2面とを判別するステップと、前記制御装置が、前記第1面と前記第2面それぞれに対して所定の加工が行われるように、前記固有番号により紐づけられ管理されている加工点データに基づいて、前記移動装置および前記加工ロボットを制御するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動的に被加工物の加工面を判別して複数の面に対するキサゲ加工を行うための技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0013】
本発明は、被加工物(ワーク)に対するキサゲ加工を自動的に行うキサゲ加工装置に好適である。本発明は、キサゲ加工装置に備えられた、又はキサゲ加工装置と通信可能な制御装置や情報処理装置が実行するキサゲ加工装置の制御方法としても捉えられる。本発明はまた、キサゲ加工装置の制御方法を実行させるプログラムや、そのプログラムを記憶する記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、情報処理装置により読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0014】
<実施例1>
(キサゲ加工装置100)
図1は、本実施例に係るキサゲ加工装置100の概略構成の全体像を示す模式図である。キサゲ加工装置100は、スクレーパ10を保持して動作させるロボットアーム20と、指示データに従いロボットアーム20を制御する制御装置30と、三次元形状計測器70と、ワーク回転機構80を備える。
【0015】
キサゲ加工装置100は、被加工物であるワーク90の加工対象面(被加工面)に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク90は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面がキサゲ加工の加工対象面である。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具であるスクレーパ10を用いて加工対象面の凸部を切削し、加工対象面の平面度を高めることによって直進性が得られ、さらに油溜まりの窪みを設けることで摺動摩擦係数を低減させる。本発明では、ワーク90が有する2以上の複数の面がキサゲ加工の対象となる。本実施例ではワーク90の対向する2つの面にキサゲ加工が施される。以降、加工対象となる両面のうち一方を第1面(オモテ面)、他方を第2面(ウラ面)と呼ぶ。
【0016】
キサゲ加工の加工対象面は、一般的に切削面や研削面、鋳造面等の一定の平面度を有し、微小な凹凸を有する平面である。キサゲ加工の本来の目的は、摺動面をより高精度な平面に仕上げることである。更に、摺動面の摺動時にリンギング現象が発生することを防止すべく、キサゲ仕上げ加工においては、摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させる。
【0017】
本実施例におけるキサゲ加工装置100は、加工対象面の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面の凸部を切削する平面出し加工処理と、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理と、を行う。それぞれの加工処理には、高精度化及び加工能率向上のため、一般的には異なる切削条件やキサゲ工具が用いられる。
【0018】
スクレーパ10は、刃部11と、刃部11を保持する刃保持部12と、刃保持部12と接続される柄部13と、を有する。柄部13は、アダプタ21と接続されており、アダプタ21を介してロボットアーム20により保持される。刃部11は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば金属製のワーク90の加工対象面を切削することが可能である。柄部13は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状であり、長手方向の一端に、刃保持部12によって刃部11が保持されている。刃保持部12は、例えば、刃部11をネジ部品によって保持するチップホルダであり、刃部11を着脱自在に保持する。刃部11が摩耗して寿命に達したときや、異なる切れ刃幅や曲率半径を有する刃部11が用いられるときは、柄部13に新しい刃部11を付け替えることができる。なお、スクレーパの構成は上述のものに限られず、例えば、刃部が柄部に対して分離不能なものや、刃部と柄部が一体的に形成されたものでも良い。
【0019】
ロボットアーム20は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置30によって制御される加工ロボットである。ロボットアーム20は、その先端側にロボットハンド23を有する。ロボットハンド23は、スクレーパ10等に取り付けられたアダプタ21を着脱自在に保持(把持)できる。すなわち、ロボットアーム20は、スクレーパ10に限られず、アダプタ21を介してその他の治具を保持することができる。そして、ロボットアーム20は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド23をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。すなわち、ロボットアーム20により、ロボットハンド23が保持するスクレーパ10やその他治具を自由に動作させることができる。
【0020】
また、ロボットアーム20は、不図示の力覚センサを備える。力覚センサは、キサゲ加工時に、スクレーパ10等に作用する負荷(抵抗)を検出するセンサである。制御装置30は、力覚センサが出力するキサゲ加工中の負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御や動作が正常に行われているかについて判定を行うことができる。なお、ロボットアーム20は加工ロボットの一例であり、
加工ロボットはロボットアーム20に限定されない。本発明に係る加工ロボットは、保持したスクレーパ10等を動作させることによって自動でキサゲ加工を行うことができる構成であれば、特に限定されない。
【0021】
ワーク90の加工対象面に対するキサゲ加工は、加工用架台50にワーク90を固定し、ロボットハンド23がスクレーパ10を保持した状態で制御装置30がロボットアーム20を制御することによって行われる。本実施例では加工対象面が上を向いた状態でキサゲ加工が行われる。そのため、ワーク90の第1面を処理する際は第1面が上を向いた状態とし、第1面の処理が終わって第2面を処理する際は、ワーク90の面を入れ替えて、裏面が上を向いた状態とする。また、加工用架台50には、ワーク90の表面に設けられたマークを読み取る読み取り装置として、カメラ55が設けられている。本実施例の読み取り装置は、加工用架台50に固定されたワーク90のそれぞれ異なる側面を撮影する2台のカメラ55a、55bを含み、これら第1の読み取り装置と第2の読み取り装置による撮影により得られた画像データは、制御装置30に送信される。
【0022】
また、キサゲ加工においては、予め、測定装置としての三次元形状計測器70によって加工対象面の三次元形状データ(凹凸形状データ)が取得される。三次元形状計測器70は、接触式であっても非接触式であっても良いが、測定精度が仕上がりの面精度に大きく影響するため、高精度な三次元形状データが取得されることが好ましい。本実施例においては、三次元形状計測器70にもカメラ75(75a、75b)が設けられており、ワーク90の表面に設けられたマークを撮影して画像データを制御装置30に送信する。
【0023】
ワーク回転機構80は、ワーク90を回転させて複数の加工対象面の向きを入れ替えるための機構である。ワーク回転機構80は例えば、ワーク90の長手方向の両端部を挟持するための挟持部、挟持部に対して回転駆動を行うことで挟持されたワーク90を回転させる回転駆動部、および、ワーク90が挟持部の動作対象範囲内に位置するようにワーク90を支持する支持部、を含んで構成されてもよい。なお、ワーク回転機構80を設ける代わりに、加工用架台50にワーク90の被処理面を入れ替える機構を設けてもよい。なお、ワーク90が有する複数の加工対象面の向きを入れ替えることが可能であれば、上記のようなワーク回転機構80に限定されない。
【0024】
キサゲ加工装置100は、ロボット移動装置などの移動装置により、ワーク90を加工用架台50、三次元形状計測器70、および、ワーク回転機構80の間で移動させることができる。このような構成により、キサゲ加工装置100は、三次元形状計測器70によるワーク90の計測、加工用架台50におけるキサゲ加工処理、および、ワーク回転機構80によるワークの加工対象面の入れ替えを繰り返して、ワーク90の複数の面にキサゲ加工を施すことができる。また、キサゲ加工装置100は、キサゲ加工の前や後にワーク90を検査する検査装置や、加工後のワークを整理して保持する保持台などを備えていてもよい。
【0025】
(制御装置30)
制御装置30は、加工点データに従ってロボットアーム20を制御し、ワーク90の加工対象面に対してキサゲ加工を実施する。また制御装置30は、ロボットアーム20を制御するための加工点データを生成する。すなわち、制御装置30は、ロボットアーム20を制御する装置として機能するとともに、ロボットアーム20を制御する際に用いる加工点データを生成するための情報処理装置としても機能する。本発明のキサゲ加工装置100が行う制御方法の各ステップは、制御装置30のプロセッサ34がメモリに展開されたプログラムの指示に従って情報処理を行い、キサゲ加工装置100の各構成要素に対して制御を行うことで実行される。
【0026】
図2は、制御装置30の物理構成の一例を示すブロック図である。制御装置30は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置30を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)31、記憶装置32、入出力装置33、及びプロセッサ34を備え、これらが通信バス35を介して接続されている。
【0027】
通信I/F31は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置30は、通信I/F31を介して、三次元形状計測器70による測定結果(ワーク90の三次元形状情報)を受信したり、カメラ55により撮影された画像データを受信したりする。
【0028】
記憶装置32は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含む。主記憶装置は、プロセッサ34が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ34の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ34が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、又は、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置32(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、及び各種情報テーブル等が格納されている。
【0029】
入出力装置33は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。作業者は、入出力装置33を通じて、キサゲ加工の加工パス設定や工具交換のための制御用パラメータを入力できる。
【0030】
プロセッサ34は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施例に係る各処理を行う。例えば、プロセッサ34が、記憶装置32の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって本発明の各種の処理が実現される。なお、制御装置30は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0031】
次に、制御装置30の機能構成について
図3を参照して説明する。
図3は、制御装置30の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置30は、加工点データ生成部36、画像処理部37、制御部38を機能部として有している。制御装置30のプロセッサ34は、記憶装置32の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。加工点データ生成部36は、加工ロボットに対する指示データとしての加工点データ生成処理を実行する。画像処理部37は、読み取り装置としてのカメラ55、75により撮像された画像データを受信してマークの解析を行う。制御部38は、加工点データ生成部36が生成した加工点データに従ってロボットアーム20を制御し、キサゲ加工を実行する。制御部38は、画像処理部37の解析結果に基づいてワーク90の被加工面を判別して、被加工面ごとに所定の加工を行う。すなわち制御部38は、現在の処理対象となる被加工面に適した加工点データを用いたキサゲ加工を行う。
【0032】
(ワーク90)
図4は、本実施例のワーク90の構成を示す模式図である。
図4(a)はワーク90をある方向から見た斜視図であり、
図4(b)はワーク90を
図4(a)の状態から上下反転させた様子を示す斜視図である。以降、
図4(a)の状態をワーク90の第1の姿勢、
図4(b)の状態をワーク90の第2の姿勢とも記載する。
図4(c)は、
図4(a)のA-A’線におけるワーク90の断面図である。図示したように、本実施例のワーク90は長手方向を有する四角柱の形状であり、長手方向に直交する方向における断面が長方形となっている。
【0033】
ワーク90は、キサゲ加工装置100による加工の対象となる2つの面(第1の加工対象面92a、第2の加工対象面92b)と、加工の対象とならない2つの面(第1の加工除外面92c、第2の加工除外面92d)と、を有する。第1の加工対象面92aと第2の加工対象面92bの両面は対向しており、裏表の関係にある。第1の加工除外面92cと第2の加工除外面92dの両面も対向している。
【0034】
第1の加工除外面92cには、本実施例の第1マークとしての第1の二次元コード94aが設けられており、第2の加工除外面92dには、第2マークとしての第2の二次元コード94bが設けられている。二次元コード94として例えばQRコード(登録商標)を利用できる。本実施例では第1の加工対象面92a(第1面)と第1の加工除外面92cが一対となっており、第1の二次元コード94aには第1の加工対象面を識別するための固有番号が記憶されている。同様に、第2の加工対象面92b(第2面)と第2の加工除外面92dは一対となっており、第2の二次元コード94bには第2の加工対象面を識別するための固有番号が記憶されている。面を特定できる情報であれば、固有番号としてどのような情報を用いてもよい。
【0035】
(処理フロー)
図5を参照して本実施例の処理フローを説明する。本フローは、キサゲ加工装置100の被加工物であるワーク90が装置内に搬入された状態から開始する。ステップS101において、ワーク90が三次元形状計測器70に設置される。三次元形状計測器70は、プローブやレーザなど所定の方法によりワーク90の表面をスキャンして表面形状情報を取得し、三次元座標情報として制御装置30に送信する。同時に、三次元形状計測器70が備えるカメラ75a、75bはそれぞれ、ワーク90の側面を撮影し、画像データを生成して制御装置30に送信する。ここでワーク90は、カメラ75a、75bの撮影範囲に第1の二次元コード94a、第2の二次元コード94bが入るように設置されており、撮影範囲に二次元コードが入っていない場合は、ワーク90の再設置を行ってもよい。
【0036】
ステップS102において、制御装置30は、受信した三次元座標情報と、ユーザより入力されたキサゲ加工の詳細情報に基づいて、第1の加工対象面92aおよび第2の加工対象面92bそれぞれについて、スクレーパ10による加工に用いる加工点データを生成する。キサゲ加工の詳細情報には、例えば、スクレーパ10により切削される凹部の加工幅や加工形状などが含まれる。制御装置30はさらに、第1の二次元コード94aおよび第2の二次元コード94bの画像に基づいて第1の加工対象面92aおよび第2の加工対象面92bを特定し、それぞれの加工対象面と加工点データを対応付けて、記憶装置32に記憶する。
【0037】
より具体的には、例えば、制御装置30は、第1の二次元コード94aが設けられた第1の加工除外面92cと第1の加工対象面92aとの位置関係に基づいて第1の加工対象面92aを識別し、当該第1の加工対象面92aについて計測された三次元座標情報に基づいて第1の加工点データを生成する。そして、第1の加工点データを、第1の二次元コード94aから読み取られる固有番号と紐づけて記憶装置32に記憶し管理する。同様に制御装置30は、第2の二次元コード94bが設けられた第2の加工除外面92dと第2
の加工対象面92bとの位置関係に基づいて第2の加工対象面92bを識別し、当該第2の加工対象面92bについて計測された三次元座標情報に基づいて第2の加工点データを生成する。そして、第2の加工点データを、第2の二次元コード94bから読み取られる固有番号と紐づけて記憶装置32に記憶し管理する。
【0038】
ステップS103において、ワーク90が加工用架台50に設置されると、カメラ55a、55bがそれぞれワーク90の側面を撮影し、画像データを生成して制御装置30に送信する。続いて、ステップS104において、制御装置30は画像データを解析して2次元コードから固有番号を取得し、現在のワーク90においていずれの加工対象面が上を向いているかを判別し、加工対象面に応じたキサゲ加工を実施する。例えばワーク90が
図4(a)のような第1の姿勢にあるとき、カメラ55aの撮影範囲には第1の二次元コード94aが入り、カメラ55bの撮影範囲には第2の二次元コード94bが入っている。そこで制御装置30は、ワーク90が第1の姿勢を取っており、第1の加工対象面92aが上を向いていると判別する。そして、第1の二次元コード94aから読み取られる固有番号に基づいて記憶装置32を参照して、第1の加工点データを取得し、ロボットアーム20を操作してキサゲ加工を行う。
【0039】
ステップS105において、制御装置30は、全ての加工対象面への処理が完了したかどうかを判定する。未処理の面が残っている場合(S105=N)、ロボット装置によりワーク90をワーク回転機構80に移動させて、ワーク90を回転(本実施例では上下反転)させる。続いて再びステップS103に進み、ワーク90が、第2の加工対象面92bが上を向いた第2の姿勢を取っていることを確認する。そしてステップS104に進み、第2の二次元コード94bから読み取られる固有番号に紐付けられて管理された第2の加工点データを取得し、キサゲ加工を行う。
【0040】
一方、全ての加工対象面が処理済みであれば(S105=Y)、ステップS107に進み、キサゲ加工装置100からワークを排出する。なお、本フローでは第1面と第2面それぞれに対して1回ずつキサゲ加工を行う例を示したが、これに限定されない。例えばステップS105の後に再びS101に戻り、ワーク形状の再計測と再加工を行うことで、加工精度を向上させてもよい。また、平面出し加工処理と仕上げ加工処理それぞれについて本フローを適用してもよい。また、本フローでは第1面と第2面の三次元形状計測をまとめて行ったが、第1面について三次元形状計測からキサゲ加工までの一連の処理を行った後、ワーク90を反転させ、第2面について三次元形状計測からキサゲ加工までの一連の処理を行うようにしてもよい。
【0041】
以上、本実施例の構成によれば、ワーク90に設けられた二次元コードにより識別された加工対象面と、三次元形状計測器70により計測された三次元形状に基づく加工点データが紐付けられて管理されることで、加工対象面ごとに適切な加工点データを用いたキサゲ加工が実施される。したがって、複数の面が加工対象となるワーク90における面の識別および加工を自動的に実施できるので、キサゲ加工装置100の自動化をさらに推し進めることが可能となる。
【0042】
(変形例1)
本実施例において、ワーク90における二次元コード94の数や配置については、種々の変形例を取ることができる。本発明は、ワーク90の加工対象面を特定し、面ごとに生成された加工点データを管理することができれば、上記フローの方法に限定されない。
図6は、ワーク90の変形例の1つを示す図である。本変形例のワーク90において、第1の加工除外面92cには第1の二次元コード94aが設けられているが、第2の加工除外面92dには二次元コードは設けられていない。このような構成の場合でも、制御装置30は、第1の加工除外面92cと、第1の加工対象面92aおよび第2の加工対象面92
bとの位置関係に基づいて、加工用架台50に設置されたワーク90の面を識別することは可能である。したがって、第1の二次元コード94aから読み取られる固有番号と、第1の加工点データおよび第2の加工点データを紐づけて管理し、加工対象面ごとに適切なデータを用いて加工をすることができる。
【0043】
(変形例2)
また、三次元形状計測器70におけるカメラ75、および、加工用架台50におけるカメラ55の数や配置についても種々の変形例を取ることができる。例えば、ワーク90に設けられたマークが1つであり、カメラの数も1つである場合、カメラの撮影範囲にマークが入るようにワーク90を設置するとよい。また、ワーク90に設けられたマークが1つ、カメラの数が2つの場合、ワーク90を上下いずれの向きに設置した場合でもマークを撮影範囲に収めることができる。また、ワーク90に設けられたマークが2つ、カメラの数が1つの場合、カメラの撮影範囲に入ったマークの種類に基づいて各加工対象面を識別すればよい。
【0044】
(変形例3)
ワーク90の形状が四角柱以外であったり、加工対象面が3つ以上であったりする場合でも、ワーク90に応じたマーク設置を行うことで、加工対象面ごとに適切なデータを用いて加工をすることができる。
【0045】
(変形例4)
また、上記フローでは、ワーク90に設けられるマークとして二次元コードを、マークの読み取り装置としてカメラを用いたが、本発明はこれらに限定されない。例えばマークとして一次元バーコードを、読み取り装置としてレーザ方式のバーコードスキャナを用いてもよい。あるいは、文字や数字などをカメラで読み取る方式でもよい。その他、ワーク90のうち加工の対象にならない面に設けられたマークを識別可能であれば、どのような方式でもよい。また、ワーク90にマークを設ける方法についても、シールの貼付、刻印、印刷など、任意の方法を採用できる。なお、二次元コードまたはその他のマークを、ワーク90の管理のために利用してもよい。その場合制御装置30は、ワーク90のマークから読み取られた固有番号と、そのワーク90の加工に用いられた加工点データなどの様々な情報を関連付けて記憶装置32に保存してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10:スクレーパ、11:刃部、20:ロボットアーム、30:制御装置、55:カメラ、70:三次元形状計測器、75:カメラ、90:ワーク、92:加工対象面、94:二次元コード、100:キサゲ加工装置