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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072546
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】殺飛翔害虫剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20240521BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240521BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01P7/04
A01M1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183420
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 要
(72)【発明者】
【氏名】境原 由次
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CB02
2B121CB07
2B121CC02
2B121CC40
2B121EA01
2B121EA21
2B121FA15
4H011AC01
4H011BB18
4H011DA14
(57)【要約】
【課題】人体及び環境への安全性が高く、殺虫性能が高い殺飛翔害虫剤を提供する。
【解決手段】円形度が0.85以上の二酸化ケイ素粉末からなる、殺飛翔害虫剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形度が0.85以上の二酸化ケイ素粉末からなる、殺飛翔害虫剤。
【請求項2】
前記飛翔害虫が蚊である、請求項1に記載の殺飛翔害虫剤。
【請求項3】
前記二酸化ケイ素粉末の平均粒径が20μm以下である、請求項1又は2に記載の殺飛翔害虫剤。
【請求項4】
前記二酸化ケイ素粉末の吸油量が50mL/100g以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の殺飛翔害虫剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の殺飛翔害虫剤を含有する、殺飛翔害虫組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の殺飛翔害虫剤、又は請求項5に記載の殺飛翔害虫組成物を物品表面に適用する工程を含む飛翔害虫の駆除方法であって、前記殺飛翔害虫剤の前記物品表面への適用量が0.08mg/cm以上である、駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺飛翔害虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊、ハエ等の飛翔害虫は、人等の動物に病原体を媒介して感染症を引き起こしたり、皮膚炎を引き起こしたりする要因となっている。特に、一部の蚊は、デング熱、ジカ熱、黄熱病、脳炎、マラリア等の病原体を媒介することから、衛生学的に非常に有害な昆虫である。
従来、このような飛翔害虫から身を守るために、殺虫剤を散布する方法、皮膚表面に害虫忌避剤を塗布する方法等が汎用されている。例えば特許文献1には、害虫忌避剤を担持した無水珪酸多孔質微粒子、合成樹脂微粒子及び溶媒とからなる忌避剤組成物が開示され、エアゾール製品及びスプレー製品の原液として用いた場合、分散性、再分散性、及び感触が良く、白化しないこと、忌避効果を長期間維持できることが開示されている。
【0003】
しかしながら、殺虫剤に含まれる殺虫成分、害虫忌避剤に含まれる害虫忌避成分は、人体への安全性が懸念されている。特に、蚊に刺されやすい幼児に対しては安全性の高い殺虫剤又は害虫忌避剤の適用が望まれる。
また、従来は主として屋外での虫刺されを予防することが検討されてきたが、近年の研究によれば、蚊に刺される頻度は、屋内でも屋外と同程度かそれ以上に高いことが明らかになってきた。そこで、屋内でも飛翔害虫から身を守るための提案が望まれている。
【0004】
殺虫成分を使用せずに害虫を駆除する技術として、殺虫成分、害虫忌避成分等の化学成分を用いる方法(化学的方法)以外に、物理的方法による殺虫技術も知られている。例えば特許文献2には、微細突起付の表面を有する害虫防除材を用いることで、従来の化学殺虫剤を含まず、蚊などの害虫を駆除できることが開示されている。
また特許文献3には、吸油量が35mL/100g以上である二酸化ケイ素粉末からなるトコジラミ駆除剤により、殺虫成分を用いることなくトコジラミを駆除できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-63201号公報
【特許文献2】特表2010-503612号公報
【特許文献3】国際公開第2015/105128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の殺虫技術は、害虫が微細突起に接触して外皮に損傷が起こり、その結果脱水により死亡させるというものである。しかしながら該殺虫技術では飛翔害虫の駆除効果が十分ではなく、殺虫効果のさらなる向上が望まれる。
特許文献3の殺虫技術はトコジラミの駆除に限られており、飛翔害虫に対する殺虫効果については言及されていない。トコジラミ等の非飛翔害虫と比較して、蚊などの飛翔害虫には駆除剤を接触させるのが困難であることから、殺飛翔害虫剤にはより高い殺虫性能が求められる。
本発明は、人体及び環境への安全性が高く、殺虫性能が高い殺飛翔害虫剤の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定値以上の円形度を有する二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤により、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]円形度が0.85以上の二酸化ケイ素粉末からなる、殺飛翔害虫剤。
[2]上記[1]に記載の殺飛翔害虫剤を含有する、殺飛翔害虫組成物。
[3]上記[1]に記載の殺飛翔害虫剤、又は上記[2]に記載の殺飛翔害虫組成物を物品表面に適用する工程を含む飛翔害虫の駆除方法であって、前記殺飛翔害虫剤の前記物品表面への適用量が0.08mg/cm以上である、駆除方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人体及び環境への安全性が高く、殺虫性能が高い殺飛翔害虫剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[殺飛翔害虫剤]
本発明の殺飛翔害虫剤は、円形度が0.85以上の二酸化ケイ素粉末からなる。
本発明の殺飛翔害虫剤は、飛翔害虫の肢に付着させることで飛翔害虫の表面脂質を吸収する。これにより飛翔害虫の表面バリア機能が失われた結果、飛翔害虫体内の水分損失により死亡させ、飛翔害虫の駆除効果を奏すると考えられる。
【0010】
本発明において「飛翔害虫」とは、飛行しながら人等の動物に近づき、その皮膚から吸血する害虫、吸血はしなくても飛翔しながら病原細菌等を媒介する害虫、飛行すること自体が人間に対し不快感を与える害虫、飛行可能な農業害虫等をいう。
飛翔害虫の具体例としては、アカイエカ、コガタアカイエカ、チカイエカ、ネッタイイエカ等のイエカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、シナハマダラカ、トウゴウヤブカ、ガンビエハマダラカ、ステフェンスハマダラカ等の蚊;セスジユスリカ、アカムシユスリカ等のユスリカ;クロオオブユ、キアシオオブユ、アオキツメトゲブユ等のブユ;イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエ、クロバエ、ニクバエ、タネバエ、タマネギバエ、ミバエ、ショウジョウバエ、チョウバエ、チェチェバエ、サシバエ等のハエ;シクロアブ、ウシアブ、メクラアブ、ゴマフアブ等のアブ;トクナガクロヌカカ、オオシマヌカカ、ニワトリヌカカ等のヌカカ;キイロスズメバチ、セグロアシナガバチ、ミツバチ等のハチ、農業害虫としてバッタ、イナゴ、ウンカ、メイガ、カメムシ、アザミウマ、ウリハムシ等が挙げられる。
本発明の殺飛翔害虫剤は、これらの中でも、特に蚊に対する駆除効果が優れている。前述した蚊の中でも、アカイエカ、コガタアカイエカ、チカイエカ、ネッタイイエカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカに対する駆除効果に優れる。
【0011】
殺飛翔害虫剤を飛翔害虫の肢に付着させる方法としては、例えば、殺飛翔害虫剤を、飛翔害虫の生息場所に存在する任意の物品表面に適用する方法が挙げられる。そして飛翔害虫が該物品表面に降着するなどして殺飛翔害虫剤に飛翔害虫の肢が接触すると、殺飛翔害虫剤が飛翔害虫の肢に付着する。
ここで、殺飛翔害虫剤である二酸化ケイ素粉末の円形度が所定値以上であると該粉末が前記物品表面から外れやすく、飛翔害虫の肢に移動しやすくなった結果、飛翔害虫の肢への粉末の付着量が増大して殺虫性能が向上すると考えられる。
【0012】
殺飛翔害虫剤として用いられる二酸化ケイ素粉末の円形度は、殺虫性能の向上の観点から、0.85以上であり、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.92以上、さらに好ましくは0.95以上、よりさらに好ましくは0.96以上、よりさらに好ましくは0.97以上、よりさらに好ましくは0.98以上、よりさらに好ましくは0.99以上であり、1.00以下である。
円形度は、二酸化ケイ素粉末の2次元画像における円の面積をS、円の周囲長をLとした場合に、4πS/Lで表される値であり、1に近いほど円形度が高いことを意味する。また本明細書において定義する二酸化ケイ素粉末の円形度は、フロー式粒子像分析装置で測定される円形度の50%積算値(50%円形度)をいう。
二酸化ケイ素粉末の円形度は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0013】
なお、本発明の殺飛翔害虫剤は、例えば、円形度が互いに異なる市販の二酸化ケイ素粉末を2種以上混合した混合物であってもよい。この場合、本発明の効果を得る観点から、前記二酸化ケイ素粉末混合物の円形度が0.85以上であればよい。
【0014】
殺飛翔害虫剤として用いられる二酸化ケイ素粉末の平均粒径は、殺虫性能の向上の観点から、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは12μm以下、よりさらに好ましくは10μm以下、よりさらに好ましくは8μm以下である。また、殺虫性能の向上の観点、及び取り扱い性の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、よりさらに好ましくは1μm以上、よりさらに好ましくは2μm以上、よりさらに好ましくは3μm以上、よりさらに好ましくは4μm以上である。そして、二酸化ケイ素粉末の平均粒径は、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上15μm以下、よりさらに好ましくは0.5μm以上15μm以下、よりさらに好ましくは1μm以上12μm以下、よりさらに好ましくは2μm以上12μm以下、よりさらに好ましくは3μm以上10μm以下、よりさらに好ましくは4μm以上8μm以下である。
本明細書において二酸化ケイ素粉末の平均粒径とは、レーザー回折法により測定されるメジアン径であり、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。なお、本発明の殺飛翔害虫剤が、例えば、平均粒径が互いに異なる市販の二酸化ケイ素粉末を2種以上混合した混合物である場合には、前記二酸化ケイ素粉末混合物の、レーザー回折法により測定されるメジアン径が上記範囲であることが好ましい。
【0015】
殺飛翔害虫剤として用いられる二酸化ケイ素粉末は、殺虫性能の向上の観点から、好ましくは多孔質の粉末である。また、二酸化ケイ素粉末の粒子形状は、円形度が0.85以上である限り、中空粒子、中実粒子のいずれでもよいが、殺虫性能の向上の観点、強度及び入手性の観点からは中実粒子であることが好ましい。
【0016】
殺飛翔害虫剤として用いられる二酸化ケイ素粉末は、表面未処理の二酸化ケイ素粉末でもよく、表面処理された二酸化ケイ素粉末でもよい。殺虫性能の向上の観点、及び、後述する殺飛翔害虫組成物を調製する際の水性媒体への分散性の観点からは、表面未処理の二酸化ケイ素粉末であることが好ましい。
二酸化ケイ素粉末に施される表面処理は、通常、疎水化処理であり、例えば、シリコーン処理;アルキルアルコキシシラン処理;脂肪酸処理;パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルコール、パーフルオロアルキルアルコキシシラン等のフッ素含有化合物処理;N-アシルグルタミン酸等のアミノ酸処理;アルキルリン酸エステル処理等が挙げられる。
【0017】
殺飛翔害虫剤として用いられる二酸化ケイ素粉末の吸油量は、殺虫性能の向上の観点から、好ましくは50mL/100g以上、より好ましくは70mL/100g以上、さらに好ましくは100mL/100g以上である。また、殺虫性能の向上の観点、強度及び入手性の観点から、好ましくは200mL/100g以下、より好ましくは180mL/100g以下、さらに好ましくは160mL/100g以下である。そして、二酸化ケイ素粉末の吸油量は、好ましくは50mL/100g以上200mL/100g以下、より好ましくは70mL/100g以上180mL/100g以下、さらに好ましくは100mL/100g以上160mL/100g以下である。
二酸化ケイ素粉末の吸油量は、JIS K 5101-13-2:2004に準拠して測定することができる。
【0018】
本発明の殺飛翔害虫剤は、そのまま前記物品表面に散布して用いることができる。あるいは、以下に記載の殺飛翔害虫組成物を調製し、組成物の形態で用いることもできる。取り扱い性の観点からは、本発明の殺飛翔害虫剤は、殺飛翔害虫組成物の形態で用いることが好ましい。
【0019】
[殺飛翔害虫組成物]
本発明は、前記殺飛翔害虫剤を含有する殺飛翔害虫組成物(以下、単に「組成物」ともいう)を提供する。すなわち本発明の殺飛翔害虫組成物は、有効成分として、円形度が0.85以上の二酸化ケイ素粉末を含有する。
組成物中の殺飛翔害虫剤の含有量は特に制限されないが、殺虫性能の向上の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、よりさらに好ましくは10質量%以上である。また、組成物の取り扱い性及び安定性向上の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。そして、殺飛翔害虫組成物中の殺飛翔害虫剤の含有量は、好ましくは1質量%以上40質量%以下、より好ましくは2質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下、よりさらに好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0020】
(水性媒体)
殺飛翔害虫組成物は、前記殺飛翔害虫剤、特に、表面未処理の二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤を分散させるための分散媒として、さらに水性媒体を含有することが好ましい。水性媒体としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール;1,3-ブチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の炭素数6以下の低分子ジオール及びトリオールが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
上記の中でも、表面未処理の二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤の分散性の観点、及び、組成物を物品表面に適用した際の乾燥速度の観点から、水性媒体としては好ましくは水及び低級アルコールからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは水及びエタノールからなる群から選ばれる1種以上である。
【0021】
殺飛翔害虫組成物が水性媒体を含有する場合、組成物中の水性媒体の含有量は、殺飛翔害虫剤の分散性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、組成物の1回の使用による殺虫性能の向上の観点から、好ましくは99質量%以下である。
【0022】
(その他の成分)
殺飛翔害虫組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、前記殺飛翔害虫剤及び水性媒体以外に、例えば、アニオン性又はノニオン性の界面活性剤、増粘剤、防腐剤、着色剤、香料、pH調整剤等を含有することもできる。
但し、組成物中の前記殺飛翔害虫剤及び水性媒体以外の成分の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、よりさらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.5質量%以下、よりさらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0023】
殺飛翔害虫組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、殺飛翔害虫剤、水性媒体、及び必要に応じて用いられるその他の成分を配合し、公知の攪拌装置等を用いて混合することにより製造できる。
【0024】
殺飛翔害虫組成物は、人体及び環境に対する安全性の観点、並びに、前記二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤の殺虫性能を有効に発揮させる観点から、殺虫成分を含有しないことが好ましい。本発明における殺飛翔害虫組成物は、飛翔害虫を駆除するための有効成分として、前記所定の二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤を用いたものであり、既知の殺虫成分を含有しなくても、殺虫効果の高い組成物とすることができるためである。また、殺飛翔害虫組成物が殺虫成分を含有すると、前記二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤に殺虫成分が吸収され、飛翔害虫の表面脂質を吸収する効果が損なわれると考えられるためである。
【0025】
ここでいう殺虫成分とは、例えば、ピレスロイド系殺虫剤、有機リン系殺虫成分、カーバメート系殺虫成分が挙げられる。
ピレスロイド系殺虫剤としては、例えば、メトフルトリン、dl,d-T80-アレスリン、フタルスリン、d-T80-フタルスリン、d,d-T80-プラレトリン、d,d-T98-プラレトリン、d-T80-レスメトリン、トランスフルトリン、イミプロトリン、シフェノトリン、d,d-T-シフェノトリン、エンペントリン、ペルメトリン、フェノトリン、エトフェンプロックス、ピレトリン等が挙げられる。
また、ピレスロイド系殺虫剤以外の殺虫成分として、例えば、フェニトロチオン、マラチオン等の有機リン系殺虫剤、プロポクスル、カルバリル等のカーバメート系殺虫剤、ケルセン、キノメチオネート、ヘキサチアゾクス等の殺ダニ剤、イミダクロプリド、ジノテフラン、クロチアジニン等のネオニコチノイド系殺虫剤等が挙げられる。
また「殺虫成分を含有しない」とは、殺飛翔害虫組成物中の殺虫成分の含有量が、1質量%未満、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下であり、よりさらに好ましくは実質的に0質量%であることを意味する。
【0026】
殺飛翔害虫組成物は、人体及び環境に対する安全性の観点、並びに、前記二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤の殺虫性能を有効に発揮させる観点から、害虫忌避成分を含有しないことが好ましい。
ここでいう害虫忌避成分としては、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、イカリジン、ジメチルフタレート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、p-メンタン-3,8-ジオール、カラン-3,4-ジオール、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、シトロネロール、ユーカリプトール、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、2-ウンデカノン等が挙げられる。
「害虫忌避成分を含有しない」とは、殺飛翔害虫組成物中の害虫忌避成分の含有量が、1質量%未満、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下であり、よりさらに好ましくは実質的に0質量%であることを意味する。
【0027】
殺飛翔害虫組成物は、人体及び環境に対する安全性の観点、並びに、前記二酸化ケイ素粉末からなる殺飛翔害虫剤の殺虫性能を有効に発揮させる観点から、殺菌剤を含有しないことが好ましい。ここでいう殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム等のカチオン性殺菌剤、殺菌効果を有するカチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤が挙げられる。「殺菌剤を含有しない」とは、組成物中の殺菌剤の含有量が、0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下であり、よりさらに好ましくは実質的に0質量%であることを意味する。
【0028】
(剤型)
殺飛翔害虫組成物の剤型としては、固体製剤、液体製剤、スプレー製剤等が挙げられる。これらの中でも、物品表面への適用しやすさの観点からは、液体製剤又はスプレー製剤が好ましい。
液体製剤としては、前記殺飛翔害虫剤を水性媒体に分散させた分散液を含む液体製剤が挙げられる。
スプレー製剤としては、前記殺飛翔害虫組成物を噴霧容器に充填した製剤が挙げられる。該噴霧容器としては、殺飛翔害虫組成物を充填して物品表面に噴霧することができるものであれば特に制限されない。このような噴霧容器としては、トリガースプレー式容器等の押出噴霧容器;噴射剤を充填したエアゾール式容器;等が挙げられる。
噴霧容器の容量は特に制限されないが、物品表面に向けて噴霧する観点から、通常、50mL以上、500mL以下である。
【0029】
[飛翔害虫の駆除方法]
本発明は、前記殺飛翔害虫剤、又は前記殺飛翔害虫組成物を物品表面に適用する工程を含む飛翔害虫の駆除方法(以下「本発明の方法」ともいう)であって、前記殺飛翔害虫剤の前記物品表面への適用量が0.08mg/cm以上である駆除方法を提供する。
殺飛翔害虫剤の適用対象となる物品は、飛翔害虫の生息場所に存在する任意の物品であればよく、例えば、建築物、車両、船舶等の内装品、農作物が挙げられる。具体的には、内装品としては建築物、車両、船舶等の天井、壁、床、窓、ドア、並びに、家具、カーテン、ラグ、農作物としてはイネ等が挙げられる。
上記の中でも、殺飛翔害虫剤を飛翔害虫の肢に効率的に付着させる観点からは、前記物品は、建築物、車両、船舶等の壁、窓、ドア、又はカーテンが好ましい。
【0030】
前記殺飛翔害虫剤又は前記殺飛翔害虫組成物を物品表面に適用する方法としては、殺飛翔害虫剤を物品表面に散布する方法、殺飛翔害虫剤又は殺飛翔害虫組成物を物品表面に塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。殺飛翔害虫剤の適用しやすさの観点からは、殺飛翔害虫組成物を物品表面に塗布又は噴霧する方法が好ましい。
殺飛翔害虫組成物を噴霧する場合には、該組成物を噴霧容器に充填した前記スプレー製剤を用いて組成物を噴霧する方法が用いられる。
【0031】
殺飛翔害虫剤の物品表面への適用量は、殺虫性能の向上の観点から、0.08mg/cm以上であり、好ましくは0.10mg/cm以上、より好ましくは0.20mg/cm以上、さらに好ましくは0.40mg/cm以上、よりさらに好ましくは0.50mg/cm以上である。殺飛翔害虫剤の物品表面への適用量の上限は特に限定されないが、本発明の方法によれば、殺飛翔害虫剤の適用量が少なくても十分な殺虫性能が得られることから、経済性の観点で、好ましくは5.0mg/cm以下、より好ましくは3.0mg/cm以下、さらに好ましくは2.0mg/cm以下、よりさらに好ましくは1.5mg/cm以下、よりさらに好ましくは1.0mg/cm以下である。そして、殺飛翔害虫剤の物品表面への適用量は、0.08mg/cm以上であり、好ましくは0.08mg/cm以上5.0mg/cm以下、より好ましくは0.10mg/cm以上3.0mg/cm以下、さらに好ましくは0.20mg/cm以上2.0mg/cm以下、よりさらに好ましくは0.40mg/cm以上1.5mg/cm以下、よりさらに好ましくは0.50mg/cm以上1.5mg/cm以下である。
【0032】
本発明の方法において、殺飛翔害虫剤又は殺飛翔害虫組成物を適用する物品表面の面積は適宜選択されるが、殺虫性能の向上の観点からは、より広い面積に適用することが好ましい。例えば、物品表面の総面積に対する、殺飛翔害虫剤を適用する物品表面の面積の割合は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、よりさらに好ましくは70%以上であり、100%以下である。ここでいう物品表面とは1種の物品の表面を意味し、好ましくは壁表面である。
【0033】
前記工程を行うことにより、殺飛翔害虫剤又は殺飛翔害虫組成物を適用した物品表面に飛翔害虫が降着するなどして殺飛翔害虫剤に飛翔害虫の肢が接触すると、殺飛翔害虫剤が飛翔害虫の肢に付着し、飛翔害虫の表面脂質を吸収する。これにより飛翔害虫の表面バリア機能が失われた結果、飛翔害虫体内の水分損失により死亡させ、飛翔害虫の駆除効果を発現することができると考えられる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。なお本実施例において、各種測定及び評価は以下の方法により行った。
【0035】
(50%円形度)
殺飛翔害虫剤である二酸化ケイ素粉末の50%円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(シスメックス(株)製)を用いて測定した。表1に記載の二酸化ケイ素粉末を、固形分濃度が0.001~0.05質量%になるように脱イオン水で希釈して分散液を調製し、測定に使用した。測定モードはHPF測定モードとし、トータルカウントモードで1000個計測した際の平均円形度(50%積算値)を50%円形度とした。
【0036】
(平均粒径)
殺飛翔害虫剤である二酸化ケイ素粉末の平均粒径は、レーザー回折法を用いて測定した。レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-960」((株)堀場製作所製)を用いて表1に記載の二酸化ケイ素粉末の粒度分布を測定し、該粒度分布におけるメジアン値を平均粒径とした。
【0037】
(飛翔害虫の死亡率)
(I)ヒトスジシマカの準備
ヒトスジシマカは、住友テクノサービス(株)より購入したヒトスジシマカ成虫雌を27℃、相対湿度(RH)70%の条件下ケージ内で飼育したものを使用した。餌として、10質量%スクロース水溶液を与えた。
(II)死亡率の測定
ガラスケース(6.5cm×6.5cm×6.5cm)の側面4面に、各例で調製した殺飛翔害虫組成物を、殺飛翔害虫剤の塗布量が表1に記載の量となるように塗布し乾燥させた。このガラスケースの中に10匹のヒトスジシマカを移し、15秒毎に計8回タップしヒトスジシマカが殺飛翔害虫剤面に接触もしくは降着するように促した。その後、ヒトスジシマカをプラスチックケージ(30cm×30cm×30cm)に移し、27℃、相対湿度(RH)70%、10質量%スクロース水溶液を与え、2h後、及び24h後の死亡率を観察した。
【0038】
実施例1~8、比較例1~3(殺飛翔害虫組成物の調製及び評価)
表1に記載の二酸化ケイ素粉末(殺飛翔害虫剤)をエタノールに分散させて15質量%-エタノール分散液を調製し、殺飛翔害虫組成物として用いた。比較例1は二酸化ケイ素粉末を使用せず、エタノールのみを用いた。
表1に記載の殺飛翔害虫剤、及び、得られた殺飛翔害虫組成物を用いて、前記方法により各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1より、本発明の殺飛翔害虫剤は、飛翔害虫である蚊の殺虫性能に優れることがわかる。これに対し、本発明の殺飛翔害虫剤を用いなかった比較例1、円形度が本発明の範囲外である二酸化ケイ素粉末を用いた比較例2及び3では、いずれも蚊の殺虫性能に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、人体及び環境への安全性が高く、殺虫性能が高い殺飛翔害虫剤を提供できる。