(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072583
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】GABAを有効成分とする乳腺組織の健康維持剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20240521BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240521BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240521BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20240521BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240521BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A23L33/175
A23L33/10
A61P35/00
A61K31/197
A61K31/353
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183497
(22)【出願日】2022-11-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000177508
【氏名又は名称】三和酒類株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】外薗 英樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 潤二
(72)【発明者】
【氏名】田中 直
(72)【発明者】
【氏名】戸井 雅和
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD19
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA45
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乳腺組織の健康を維持することのできる経口剤を提供する。
【解決手段】GABAを有効成分として含有することを特徴とする、乳腺組織の健康を維持するための剤。また、GABAとエクオールを併用することにより、乳腺組織の健康維持効果、乳腺組織の異形成抑制による初期乳がんを予防する効果を高めることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GABAを有効成分として含有する、乳腺組織の健康維持剤。
【請求項2】
さらにエクオールを含有する、請求項1に記載の健康維持剤。
【請求項3】
乳がんの予防用である、請求項1または2に記載の健康維持剤。
【請求項4】
乳腺組織異形成および乳がんの浸潤を抑制する作用を有する、請求項3に記載の健康維持剤。
【請求項5】
さらに肌弾力を維持する作用を有する、請求項1または2に記載の健康維持剤。
【請求項6】
経口投与される製剤、飲食品、または医薬品である、請求項1または2に記載の健康維持剤。
【請求項7】
GABAの一日摂取量が10~3000mgである、請求項1または2に記載の健康維持剤。
【請求項8】
請求項1または2に記載の剤を含む、乳腺組織の健康を維持するための飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳腺組織の健康を維持し、乳がんを予防する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に乳がんの患者数は増加しており、米国では女性の8人に1人が、日本でも9人に1人が罹患する身近で重篤な病気である。乳がんの重大な問題は、他の臓器、特に肝臓、脳、骨、肺、リンパ節および皮膚、軟部組織等へ広がる転移性乳がんに進展することである。乳がんは、相互に関連し合う複雑な複数の増殖経路により維持されている混成的な疾患である。
【0003】
乳がんは乳腺の中に増殖性の良性の腫瘍が発生することから始まり、乳腺内の腫瘍がさらに増殖する過程で、乳腺の間質側に浸潤する能力を獲得し、悪性化する(浸潤性がん)。浸潤したがん細胞が血液やリンパの流れに乗って他の臓器、リンパ節へと転移して転移巣を形成し、致死となる。
乳がんの原因はまだ解明されていないが、発症リスクを高める要因はいくつか明らかになっている。主な要因には、女性ホルモンであるエストロゲンの過剰暴露、年齢、遺伝子の異常などがあり、女性ホルモンに関する要因、個人の遺伝性や体質に関わるものと、体型やアルコール、喫煙歴など生活習慣に関わるものがある。
【0004】
発症要因の一つに女性ホルモンであるエストロゲンが関与していることは疫学的に知られており、エストロゲンが乳がん発生を促進することも実験的に証明されているが、腫瘍発生の初期像、初期発生機序については不明な点が多く、実験的に解明されていなかった。本発明者らは、初期乳がん発症モデルマウス系を開発し、DNA修復能が低下したマウスを用いて、これに30日間エストラジオール(E2)を腹腔内投与したところ、乳腺の異形成が誘導され、これにより乳がん初期像の一つと考えられる異型性増殖性乳腺病変の発生におけるエストロゲンの効果を科学的に証明した(非特許文献1)。初期乳がんでは、増殖性の異型性腫瘍性病変が形成され、持続的増殖能を獲得し、さらに浸潤能を獲得してゆく。さらには、初期乳がん発症モデルマウス系にエストロゲンの類似体であるエクオールを腹腔内投与すると、エストラジオールを投与しても乳腺組織異形成が抑制され、乳がんの発症が抑えられることを確認した(非特許文献1)。
【0005】
エクオール(Equol)はイソフラバン化合物であって、大豆食品を摂取したとき、食品に存在するイソフラボノイドが、腸内微生物によって転換されて生成される、大豆イソフラボンの活性代謝物である。乳がん、前立腺がん、老化防止、更年期障害及び閉経後の骨粗鬆症に対して、大豆イソフラボンよりもその代謝物であるエクオールが有効であることが報告されている(特許文献1、非特許文献2~4)。
【0006】
また、初期乳がん発症モデルマウスにエストラジオールを腹腔内投与しながら、発酵大麦エキスを飲ませると、エクオール投与の場合と異なり、乳腺に増殖性の良性腫瘍は発生するものの、乳がんの浸潤は抑えられ浸潤性にはならないことが報告されている(非特許文献5)。同時に、発酵大麦エキスの経口摂取により乳腺の弾性繊維が維持されることが確認されていることから、発酵大麦エキスが、乳腺の弾性繊維を維持する作用により乳がんの浸潤を防ぐと考えられている。
【0007】
一方、 γ-アミノ酪酸(GABA)は、自然界に広く分布する非タンパク質構成アミノ酸で、哺乳類の中枢神経系に多く存在する抑制性の神経伝達物質である。2001年の食薬区分改正により食品としての利用が可能となり、単独で錠剤やカプセル剤のサプリメントとしても市販され、精神安定作用、血圧降下作用等の多岐に亘る生理活性(非特許文献6)や肌弾力の改善作用(特許文献2)が報告されている。発酵大麦エキスには、GABAはほとんど含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015-500802号公報
【特許文献2】特開2018-30826号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】iScience 23, 100821 February 21,2020
【非特許文献2】Biol. Reprod. (2004) Vol.70, p.1188-95
【非特許文献3】Jpn. J. Clin. Oncol. (2002) Vol.32, No.8, p.296-300
【非特許文献4】J. Nutr. (2002) Vol.32, No.3, p.595S
【非特許文献5】Acta Histochem. Cytochem. (2021) Vol.54, No.2, p.73-78
【非特許文献6】美味技術研究会誌 (2010) No.15, p.32-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
乳房の内部には、小葉という母乳を分泌するための器官と、母乳の出口である乳頭、小葉と乳頭を繋ぐ乳管があり。この小葉、乳管、乳頭をまとめて乳腺という。乳腺は、内腔側の乳腺上皮細胞と間質側の筋上皮細胞で構成される。乳房の中の乳管あるいは小葉の乳腺上皮細胞が、無秩序に増殖を始めて間質側に浸潤を起こすようになったものを悪性である乳がんと呼ぶ。
乳がんの浸潤とは、乳腺上皮細胞が間質側の筋上皮細胞層および基底膜を破り、間質に進出する現象である。浸潤した乳がん細胞群は組織内で広がると同時に、血管やリンパ管を介して他の臓器に転移する。
【0011】
乳管の中だけで増殖している乳がんを非浸潤性乳がんといい、乳管の外にまで広がっている乳がんを浸潤性乳がんという。浸潤性乳がんになると、リンパ管・リンパ節への転移や、血管内にがん細胞が入って肝臓・肺・骨等への遠隔転移が起こる可能性が出てくる。転移先での増殖による臓器の機能不全で死に至ると言われており、少なくとも転移を抑制することができれば、死亡のリスクは大きく低下する。
また、異形成とは、細胞や組織を顕微鏡などで観察して判断する際の病理学の用語で、細胞の形が正常とは異なった状態で成り立っている状態を指し、「現状ではがんとは言えないががんに進行する可能性が高い状態(前がん病変)」や「悪性・良性の境界にある状態(境界悪性)」であることをいう。
【0012】
本発明の課題は、乳腺組織の健康を維持できる有効成分を提供することである。乳腺組織の健康維持とは、乳腺組織の状態を、異形成とならないように抑制すること、または異形成の進行を抑制することである。その結果は、乳がんの予防に通じる。
さらに、本発明の課題は、乳腺組織の健康維持効果を有する飲食品を製造することや、乳腺組織の健康を維持するためのサプリメント、医薬品、飲食品、飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、GABAが乳腺組織の異形成を抑制して初期乳がんを予防することを見出し、この発見に基づいて、飲食品、サプリメント、医薬品としてGABAの使用に関する本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の(1)ないし(7)の乳腺組織の健康維持剤、または(8)の飲食品組成物に関する。
(1)GABAを有効成分として含有する、乳腺組織の健康維持剤。
(2)さらにエクオールを含有する、上記(1)に記載の健康維持剤。
(3)乳がんの予防用である、上記(1)または(2)に記載の健康維持剤。
(4)乳腺組織異形成および乳がんの浸潤を抑制する作用を有する、上記(3)に記載の健康維持剤。
(5)さらに肌弾力を維持する作用を有する、上記(1)または(2)に記載の健康維持剤。
(6)経口投与される製剤、飲食品、または医薬品である、上記(1)または(2)に記載の健康維持剤。
(7)GABAの一日摂取量が10~3000mgである、上記(1)または(2)に記載の健康維持剤。
(8)上記(1)または(2)に記載の剤を含む、乳腺組織の健康を維持するための飲食品組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、GABAを有効成分として含み、乳腺組織の異形成を抑制して初期乳がんを予防することにより、乳腺組織の健康を維持するための剤を提供することができる。さらに、GABAにエクオールを併用すると、この効果を高めることができる。
また、乳腺組織の健康を維持するために手軽に摂取できるサプリメント、医薬品、飲食品、飼料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の結果を示す。 10週齢のScidマウスに25日間、E2を1日当たり6μg腹腔投与し、同時に、Equolを1日当たり6μg腹腔投与するか、および/またはGABAを1日当たり0.5mg(low)または5mg(high)腹腔投与した。最後の投与の24時間後に第4乳腺をサンプリングし、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色(上段)およびエラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色(下段)により組織観察をした写真を示す。
【
図2】同じく実施例1の結果を示す。染色後さらに乳腺組織の切片での異形成の発生頻度を評価した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の乳腺組織の健康を維持するために体外から摂取させるGABAとは、γ-amino butyric acid(γ-アミノ酪酸)の略称である。英語名の頭文字をとった略称GABA(ギャバ)が一般的に広く用いられている。動植物等広く分布するアミノ酸の一種で、哺乳動物の脳や脊髄に存在する抑制系の神経伝達物質である。GABAは脳の血流を改善し酸素供給量を増加させ脳代謝を亢進させる働きを持つ。GABAは主に生体の脳髄に存在し、中枢神経の神経伝達物質として関与しており、神経の主要な抑制性伝達物質として知られ、間脳の血流を活発にして脳細胞の代謝機能を高めるとともに、ストレスによる自律神経を緩和させることを目的として利用される。また、肌弾力の改善作用があることが知られている。
【0018】
本発明におけるGABAは、野菜、果物、穀類などから抽出されたGABA、発酵食品から生産されるGABA、有機合成から生産されたGABAである。
上記野菜、果物、穀類とは、かぼちゃ、なす、とまと、きゅうり、米、玄米、麦芽、大豆などをいい、発酵食品とは、乳酸菌、酵母、納豆菌由来のキムチ・漬物・発酵乳・納豆などの発酵食品をいう。胚芽米、緑茶、米ぬかの乳酸菌による発酵、グルタミン酸から乳酸菌を用いて発酵することにより得ることができ、さらに、自然界に存在するグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)を用い、グルタミン酸および/またはグルタミン酸ナトリウムを原料に酵素変換したもの、さらには発酵食品中の細菌を単離し、培養液中で調製したものであってもよい。
【0019】
これらの発酵した溶液並びに抽出した溶液は、適宜凍結乾燥やスプレードライにて乾燥し粉末化してもよい。特に限定するものではないが、GABAの含有量は液状では0.1%~30%であり、粉末状では0.1%~99%である。ヒト1日あたりの摂取量は、GABAとして1~3000mgであり、10mg~3000mgが好ましい。より好ましくは、20mg~1000mgであり、更に好ましくは100mg~1000mgである。GABAとして10mg未満では、効果が期待できず、また3000mg以上では、一回の摂取が取りにくくなる。
【0020】
また、本発明で使用するエクオール(Equol)はイソフラバン化合物であって、大豆食品を摂取したとき、食品に存在するイソフラボノイドが、腸内微生物によって転換されて生成される、大豆イソフラボンの活性代謝物である。エクオールは市販のものを使用することができる。
エクオールは、腸内細菌によって生成され、その生成には個人差が存在するとされている。エクオールを生産できない人は、エクオール産生菌が腸内に存在しないと推定され、このような人の場合、大豆加工食品を摂取したとしても、所望の抗エストロゲン効果、エストロゲン類似効果は期待できないと考えられている。
【0021】
本発明における乳腺組織の健康維持とは、乳腺組織の状態を異形成とならないように抑制すること、または、異形成の進行を抑制することをいう。乳房の内部には、小葉、乳管、乳頭からなる乳腺があり、乳がんは乳腺の組織にできるがんで、多くは乳管から発生するが、一部は小葉から発生する。
また、異形成とは、細胞や組織を顕微鏡などで観察して判断する際の病理学の用語で、細胞の形が正常とは異なった状態で成り立っている状態を指し、「現状ではがんとは言えないががんに進行する可能性が高い状態(前がん病変)」や「悪性・良性の境界にある状態(境界悪性)」であることをいう。
【0022】
乳腺組織の異形成とは、乳腺の前がん病変や境界悪性を意味するので、致死性とまではいえないものの、乳腺組織が健康な状態ではないことを意味する。そして細胞は、時間の経過とともに異形成から浸潤性のがん細胞に進行するから、本発明によって異形成を抑制できれば初期の乳がんを予防することになり、さらに、初期において乳がんを予防できれば、浸潤性の乳がんの発症を回避することができる。
乳がんの浸潤とは、乳腺上皮細胞が間質側の筋上皮細胞層および基底膜を破り、間質に進出する現象である。浸潤した乳がん細胞群は組織内で広がると同時に、血管やリンパ管を介して他の臓器に転移する。
【0023】
本発明の乳腺組織の異形成を抑制する作用は、具体的には動物実験で初期乳がん発症モデルマウス系により確認される。この初期乳がん発症モデルマウス系は、本発明者らが開発した実験系であり、DNA修復能が低下したマウス系統であるscidマウスを用い、これに30日間エストラジオール(E2)を腹腔内投与して乳腺組織異形成を発生させるという系である。この系によりエクオールを腹腔内投与して乳腺組織異形成を抑制できたことが、非特許文献1に記載されており、乳がんの予防効果がある物質の評価ができる実験系である。本発明もこの実験系を用いてGABAまたはGABAとエクオールの併用による効果が評価される。
【0024】
本発明のGABAを含む乳腺組織の健康維持剤、またはGABAとエクオールを含む乳腺組織の健康維持剤は、GABA、またはGABAとエクオールを豊富に含む飲食品の形態であってもよい。当該飲食品の形態としては、特に限定するものではないが、粉末状、顆粒状、カプセル、錠剤に成形しても良い。また、その他の形態としては、食品素材、食品添加剤としても良く、あるいは、シロップ剤、懸濁剤、ドリンク剤、流動食、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、機能性調味料、ゲル状食品、プリン、ヨーグルト、菓子・ケーキ類、パン類、麺類、パスタ、チョコレート、キャンディ、チューインガム等の形態でもよい。
また、飲食品はヒト用に限定されず、ペットや家畜として飼育されている犬や猫などの哺乳動物用の餌料を含む。また、飲食品の概念には、通常の飲食品の他、飲料やいわゆるサプリメントや健康食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、特定保健用食品などが包含される。
【0025】
本発明の乳腺組織の健康維持剤の一実施形態は、医薬品、食品(サプリメント)、食品添加物用のうちの少なくともいずれか1つの用途で利用されることが好ましい。医薬品で用いる場合は、特に制限するものではないが、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の経口投与剤があげられる。
医薬組成物の有効投与量は、投与対象の状態(年齢、身体の状態等を含む)、剤型などによって異なるが、ヒト(体重60kgの成人)に対する経口投与量は、上記ヒト1日あたりの摂取量の範囲で設定することができる。
【0026】
次に、本発明の具体例を、以下の実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0027】
[実験方法]
10週齢のscidマウスに、陰性対照群としてPBSを、陽性対照群としてE2 6μg/日を、実験群1にE2 6μg+エクオール(Eq) 6μg/日、実験群2にE2 6μg+GABA 0.5mg/日、実験群3にE2 6μg+GABA 5mg/日、実験群4にE2 6μg+Eq 6μg+GABA 0.5mg、実験群5にE2 6μg+Eq 6μg+GABA 5mgを、各群6匹ずつに対して、25日間毎朝、腹腔内投与した。最後の投与の24時間後に第4乳腺をサンプリングし、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色およびエラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色により組織を観察した。
また、乳腺組織の切片での異形成の発生頻度を評価した。
【0028】
[実験材料]
マウス(female):C.B-17/Icr-scid/scid Jcl は日本クレア社から購入した。
E2は、SIGMA社製E2758を、Equol(Eq)は、SIGMA社製SML2147を、GABAは、SIGMA社製A5835を使用した。
【0029】
[結果]
乳腺組織切片のH&E染色(上段)、EVG染色(下段)の写真を
図1に示す。PBS(phosphate-buffered saline)のみの陰性対照が正常な乳腺の形状である対し、E2のみの陽性対照では浸潤を起こすものが見られた。そしてE2にEqやGABAを添加した実験群1~5では、浸潤を起こすものは見られなかった。
【0030】
異形成の発生頻度を
図2に示す。縦軸は異形成の発生頻度である。
E2のみの陽性対照の平均値を100%とした時、Eq単剤(実験群1)では約58%、GABA単剤(実験群2、3)では、それぞれ44%、37%、Eq+GABA(実験群4、5)では、それぞれ34%、30.5%であった。また、陰性対照では16%であった。
【0031】
またこれらの有意差をDunnettの方法で検定した。その結果、陰性対照に対して、Eq単剤(実験群1)ではp<0.05で有意差があり、実験群2~5では有意差はなかった。また陽性対照に対し、全ての実験群で有意差があった。
【0032】
[考察]
以上の結果から、乳がん予防効果が公知であるエクオール(Eq)よりも、GABA単剤およびEq+GABAは、乳腺組織のより高い異形成抑制効果を有することで、初期乳がん予防効果を示すと考えられる。中でもEq+GABAの効果が最も高い可能性が示唆された。