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特開2024-72588形状情報生成方法及び制御情報生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072588
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】形状情報生成方法及び制御情報生成方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240521BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20240521BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240521BHJP
【FI】
B23K9/095 501C
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B33Y50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183506
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(72)【発明者】
【氏名】椋田 雄
(57)【要約】
【課題】簡単な処理で、場所ごとに適正な量の余肉が付与された造形物の形状情報を生成することが可能な形状情報生成方法及び制御情報生成方法を提供する。
【解決手段】造形物Wの目標形状の3次元の形状情報を取得する情報取得工程と、形状情報に基づいて作成した造形物WのモデルMwを複数のパーツモデルMbl1~Mbl3,Mcaに分解するデータ分解工程と、パーツモデルMbl1~Mbl3,Mcaごとに膨張処理または縮小処理を行う膨張縮小工程と、パーツモデルMbl1~Mbl3,Mca同士の重ね合わせ量Hを設定する結合条件調整工程と、重ね合わせ量Hに基づいてパーツモデルMbl1~Mbl3,Mca同士を結合することで、膨張処理または縮小処理に伴う形状変化量から結合に伴う重ね合わせ量を差し引いた量が余肉Paとして付与された造形物WのモデルMwからなる形状情報を生成するデータ結合工程とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工に要する余肉が付与された造形物の3次元の形状情報を生成する形状情報生成方法であって、
前記造形物の目標形状の3次元の形状情報を取得する情報取得工程と、
前記形状情報に基づいて作成した造形物のモデルを複数のパーツモデルに分解するデータ分解工程と、
前記パーツモデルごとに膨張処理または縮小処理を行う膨張縮小工程と、
前記パーツモデル同士の重ね合わせ量を設定する結合条件調整工程と、
前記重ね合わせ量に基づいて前記パーツモデル同士を結合することで、前記膨張処理または前記縮小処理に伴う形状変化量から前記結合に伴う前記重ね合わせ量を差し引いた量が前記余肉として付与された前記造形物のモデルからなる形状情報を生成するデータ結合工程と、
を含む、
形状情報生成方法。
【請求項2】
前記膨張縮小工程において、前記造形物の中実部位のパーツモデルを膨張させ、前記造形物の中空部位のパーツモデルを縮小させる、
請求項1に記載の形状情報生成方法。
【請求項3】
前記結合条件調整工程において、前記パーツモデル同士の重ね合わせ位置の調整処理をさらに行い、
前記データ結合工程において、前記重ね合わせ量及び前記重ね合わせ位置に基づいて、前記パーツモデル同士を結合する、
請求項1に記載の形状情報生成方法。
【請求項4】
前記結合条件調整工程において、前記重ね合わせ量を前記パーツモデルに付与した余肉幅以上とする、
請求項1に記載の形状情報生成方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の形状情報生成方法によって生成された形状情報に基づく造形物のモデルを層形状にスライスするスライス工程と、
前記層形状を分解して溶接ビードの軌跡情報を含む積層造形装置のための制御情報を生成する制御情報生成工程と、
を含む、
制御情報生成方法。
【請求項6】
前記スライス工程の前に、生成された形状情報に基づく造形物のモデルを複数の領域に分割する分割工程をさらに含み、
前記スライス工程において、分割した前記領域を前記層形状にスライスし、
前記制御情報生成工程において、前記層形状を分解して前記溶接ビードの軌跡情報を含む制御情報を生成する、
請求項5に記載の制御情報生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状情報生成方法及び制御情報生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザーやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、工作物製品の三次元モデルを定義し、この三次元モデルにおけるツールの経路を描く一組の連続した相対空間座標からなる第二デ-タファイルを作成し、第二デ-タファイルの経路を相対的な動きが追従するように、加工テ-ブルに対し溶接ヘツドを位置決め操作して造形する技術が開示されている。
【0004】
このような積層造形においては、造形に伴う熱変形、または、切削や研磨といった後処理工程も踏まえ、いくらかの余肉を設定して造形する必要がある。
【0005】
特許文献2には、造形する造形物の目標形状の外縁を表す目標プロファイルを予測した熱収縮量に応じて膨張させ、さらに、予測した機械加工による解放ひずみの弾性変形量に応じて変形させることで、余肉量を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6274839号明細書
【特許文献2】特許第6981957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、積層造形によって造形する造形物は、設定する余肉量が少ないほど、切削や研磨等の後工程のリードタイムを短縮できるが、余肉量を少なくすると、造形時の積層高さ不足などに対応できる余裕が少なくなる。また、余肉量を多くすると、造形が難しい複雑な形状箇所を緩和できるなどの利点はあるものの、切削や研磨等の後工程における負担が増えてしまう。
【0008】
また、造形物の余肉量を部分的に調整しようとすると、複雑なCAD編集が要求され、機械的または自動的な処理が難しくなる。
【0009】
そこで本発明は、簡単な処理で、場所ごとに適正な量の余肉が付与された造形物の形状情報を生成することが可能な形状情報生成方法及び制御情報生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 加工に要する余肉が付与された造形物の3次元の形状情報を生成する形状情報生成方法であって、
前記造形物の目標形状の3次元の形状情報を取得する情報取得工程と、
前記形状情報に基づいて作成した造形物のモデルを複数のパーツモデルに分解するデータ分解工程と、
前記パーツモデルごとに膨張処理または縮小処理を行う膨張縮小工程と、
前記パーツモデル同士の重ね合わせ量を設定する結合条件調整工程と、
前記重ね合わせ量に基づいて前記パーツモデル同士を結合することで、前記膨張処理または前記縮小処理に伴う形状変化量から前記結合に伴う前記重ね合わせ量を差し引いた量が前記余肉として付与された前記造形物のモデルからなる形状情報を生成するデータ結合工程と、
を含む、
形状情報生成方法。
(2) (1)に記載の形状情報生成方法によって生成された形状情報に基づく造形物のモデルを層形状にスライスするスライス工程と、
前記層形状を分解して溶接ビードの軌跡情報を含む積層造形装置のための制御情報を生成する制御情報生成工程と、
を含む、
制御情報生成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な処理で、場所ごとに適正な量の余肉が付与された造形物の形状情報を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
図2図2は、造形制御装置の機能ブロック図である。
図3図3は、造形物の一例を示す造形物の斜視図である。
図4図4は、形状情報の生成手順を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、造形物の目標形状の3次元の形状情報から作成した造形物のモデルを示す模式図である。
図5B図5Bは、空洞部のパーツモデルを分解した造形物のモデルを示す模式図である。
図5C図5Cは、複数のパーツモデルに分解した造形物のモデルを示す模式図である。
図5D図5Dは、各パーツモデルに余肉を付与した造形物のモデルを示す模式図である。
図5E図5Eは、パーツモデルを重ね合わせる際の重ね合わせ量を示す模式図である。
図5F図5Fは、設定した重ね合わせ量及び重ね合わせ位置に基づいて、パーツモデルを結合した造形物のモデルを示す模式図である。
図6A図6Aは、複数の領域に分割した造形物のモデルの模式図である。
図6B図6Bは、各領域を層形状にスライスしたモデルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形システムは、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形するものである。
【0014】
<積層造形システムの構成>
上記の積層造形システムの一構成例を説明する。
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
積層造形システム100は、造形制御装置15と、マニピュレータ17と、溶加材供給装置19と、マニピュレータ制御装置21と、熱源制御装置23とを含んで構成される。
【0015】
マニピュレータ制御装置21は、マニピュレータ17と、熱源制御装置23とを制御する。マニピュレータ制御装置21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御装置21の任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0016】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ11には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ11は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ11の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0017】
トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0018】
溶加材供給装置19は、トーチ11に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給装置19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ11へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給装置19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0019】
熱源制御装置23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御装置23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給装置19の溶加材供給速度が調整される。
【0020】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0021】
造形制御装置15は、上記した各部を統括して制御する。
【0022】
上記した構成の積層造形システム100は、造形物Wの造形計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ11を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードがベースである母材13上に形成される。つまり、マニピュレータ制御装置21は、造形制御装置15から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ17、熱源制御装置23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御装置21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ11を移動させて溶接ビードを形成する。このようにして溶接ビードを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0023】
図2は、造形制御装置15の機能ブロック図である。造形制御装置15は、造形物Wを造形する際に用いられる形状情報を生成する形状情報生成装置として機能する。造形制御装置15は、情報取得部31と、データ分解部33と、膨張縮小部35と、結合条件調整部37と、データ結合部39と、を含んで構成されている。
【0024】
上記の造形制御装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。造形制御装置15は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形システム100から遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0025】
<造形物>
次に、上記の積層造形システム100によって造形する造形物Wの一例について説明する。図3は、造形物Wの一例を示す造形物Wの斜視図である。
【0026】
図3に示すように、造形物Wは、複数のブロック部BL1,BL2,BL3を有している。これらのブロック部BL1,BL2,BL3は、それぞれ直方体形状に形成されており、ブロック部BL1にブロック部BL2が積み重ねられ、ブロック部BL2にブロック部BL3が積み重ねられている。そして、ブロック部BL2は、ブロック部BL1に接合され、ブロック部BL3は、ブロック部BL2に接合されている。また、造形物Wは、その略中心位置に、造形物Wの底部で開口する空洞部CAを有している。
【0027】
この造形物Wは、造形制御装置15を備えた積層造形システム100によって、母材13上に溶接ビードが順次に形成、積層されることで造形される。このとき、造形物Wは、母材13に設置された底部を除く外表面及び空洞部CAの内表面に余肉を付与した状態で造形される。そして、余肉が付与された造形物Wは、その外表面及び空洞部CAの内表面に機械加工が施されて目標形状に形成される。
【0028】
<形状情報の生成>
次に、上記の造形物Wを造形する際に使用される形状情報の生成処理について説明する。図4は、形状情報の生成手順を示すフローチャートである。
【0029】
(情報取得工程)
情報取得部31が、造形物Wの目標形状の3次元の形状情報を取得する(ステップS1)。この形状情報は、造形物Wにおける余肉の付与前の3次元の形状情報である。この造形物Wの形状情報としては、例えば、市販のCAD編集ソフトなどで生成された造形物Wの情報であってよい。なお、造形物Wの形状情報は、造形物Wを設置する母材13の情報を含むものでもよい。
【0030】
図5Aは、造形物Wの目標形状の3次元の形状情報から作成した造形物WのモデルMwを示す模式図である。このモデルMwは、積層造形後に機械加工を施して目標形状とする造形物Wの形状を示すモデルである。
【0031】
(データ分解工程)
データ分解部33が、取得した3次元形状の形状情報に基づく造形物WのモデルMwを複数のパーツモデルに分解する(ステップS2)。
【0032】
この取得した3次元形状の形状情報に基づくモデルMwの分解については、任意の形状に分解してよいが、例えば、中実部位と、内部の中空部位とに分解し、さらに、これらの部位を単純な構造体として分解するのが好ましい。また、分解した中空部位については、一旦中実部位として処理するのが好ましい。ここで、単純な構造体としては、例えば、直方体や円柱などのいくつかの対称性を有し、かつ図形を表現するパラメータ(例えば、高さ、幅、半径等)が予め決められているような構造体が好ましい。
【0033】
図5Bは、空洞部CAのパーツモデルMcaを分解した造形物WのモデルMwを示す模式図である。図5Cは、複数のパーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaに分解した造形物WのモデルMwを示す模式図である。
【0034】
図5Bに示すように、まず、造形物WのモデルMwから中空部位である空洞部CAを分解し、この分解した中空部位である空洞部CAを中実部位からなるパーツモデルMcaとする。さらに、図5Cに示すように、空洞部CAを分離した造形物WのモデルMwを単純な直方体のブロック部BL1,BL2,BL3に分解し、これらの分解したブロック部BL1,BL2,BL3でパーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3とする。
【0035】
(膨張縮小工程)
膨張縮小部35が、分解したパーツモデルごとに膨張処理または縮小処理を行う(ステップS3)。この膨張処理または縮小処理は一律に行ってもよいし、一部の範囲を固定して残りの範囲のみ膨張または縮小させてもよい。さらに、パーツモデルの枠部分のみを太くあるいは細くするなどしてもよい。なお、中実部位を形成するパーツモデルは膨張処理を行い、中空部位を形成するパーツモデルは縮小処理を行う。
【0036】
図5Dは、各パーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaに余肉Paを付与した造形物WのモデルMwを示す模式図である。
図5Dに示すように、中実部位を形成するパーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3に対しては、膨張処理を行い、外周に余肉Paを付与する。また、中空部位を形成するパーツモデルMcaに対しては、縮小処理を行い、内周側に余肉Paを付与する。
【0037】
(結合条件調整工程)
結合条件調整部37が、パーツモデル同士の重ね合わせ量を設定する(ステップS4)。この重ね合わせ量は、分解したパーツモデルを結合して元に戻す際に重ね合わせる量である。この重ね合わせ量を調整することで、パーツモデルの周りの余肉を一律で付与した場合においても、余肉量を部分的に変更することができる。重ね合わせ量は長さで指定してもよいし、体積で指定してもよい。
【0038】
図5Eは、パーツモデルMbl1,Mbl2を重ね合わせる際の重ね合わせ量Hを示す模式図である。図5Eに示すように、パーツモデルMbl1,Mbl2を結合する際に、重ね合わせ量Hを、付与した余肉幅以上に調整すれば、パーツモデルMbl1,Mbl2同士の継ぎ目における余肉Paを低減または無くすことができる。また、母材13に設置されるパーツモデルMbl1においては、そのパーツモデルMbl1が母材13に接する設置面となる境界部分の重ね合わせ量Hを調整して余肉Paを低減または無くすことができる。
【0039】
また、重ね合わせ量Hの調整とともに、重ね合わせ位置を別途調整してもよく、このようにすれば、局所的に余肉Paを調整することができる。例えば、図5Eに示すように、パーツモデルMbl1に結合させるパーツモデルMbl2の位置を右側(図5E中矢印X方向)へずらすように調整すれば、パーツモデルMbl2の左側における余肉量を減少させて薄くしたり、パーツモデルMbl2の右側における余肉量を増加させて厚くしたりすることができる。
【0040】
(データ結合工程)
データ結合部39が、設定した重ね合わせ量及び重ね合わせ位置に基づいてパーツモデル同士を結合することで、膨張縮小工程における膨張処理または縮小処理に伴う形状変化量から結合に伴う重ね合わせ量を差し引いた量が余肉Paとして付与された造形物WのモデルMwからなる形状情報を生成する(ステップS5)。
【0041】
図5Fは、設定した重ね合わせ量及び重ね合わせ位置に基づいて、パーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaを結合した造形物WのモデルMwである。図5Fに示すように、パーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaを、設定した重ね合わせ量及び重ね合わせ位置に基づいて結合させることにより、膨張縮小工程における膨張処理または縮小処理に伴う形状変化量から結合に伴う重ね合わせ量を差し引いた量が余肉Paとして付与された形状情報を生成する。具体的には、目標形状(図5Fにおいて2点鎖線で示す形状)に対して外周側及び空洞部CAの内周側に余肉Paが付与された造形物Wの形状情報であるモデルMwを生成する。また、各パーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3の継ぎ目については、重ね合わせ量の分だけ調整された余肉量が反映される。このように、外周や空洞部CAの内周、パーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3の継ぎ目、パーツモデルMbl1における母材13への設置面となる底部など、各場所に合せた余肉量を簡単な操作のみで設定することができる。
【0042】
以上のように、本構成例に係る形状情報生成方法によれば、造形物WのモデルMwをパーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaに分解した後に、それぞれのパーツモデルMbl1,Mbl2,Mbl3,Mcaごとに膨張処理または縮小処理を行って余肉Paをそれぞれ付与し、設定した重ね合わせ量Hで結合することにより、余肉Paが付与された3次元の形状情報であるモデルMwを生成できる。つまり、造形物WのモデルMwに対して、特定の面、線あるいは点等を追加することなく、分解、膨張、縮小、結合等の比較的単純な処理で場所ごとに適正な量の余肉Paを柔軟に付与できる。
【0043】
<制御情報の生成>
次に、上記の形状情報生成方法によって生成された造形物Wの形状情報に基づいて、積層造形システム100によって造形物Wを造形する際に用いられる制御情報を生成する場合について説明する。
図6Aは、複数の領域Abl1,Abl2,Abl3に分割した造形物WのモデルMwの模式図である。図6Bは、各領域Abl1,Abl2,Abl3を層形状にスライスしたモデルMwの模式図である。
【0044】
(分割工程)
図6Aに示すように、生成された形状情報に基づく造形物WのモデルMwを複数の領域に分割する。分割する領域としては、前述したデータ分解工程と同様に、単純な構造体として分解するのが好ましい。例えば、生成された形状情報に基づく造形物WのモデルMwを、単純な直方体のブロック部BL1,BL2,BL3の領域Abl1,Abl2,Abl3に分割する。
【0045】
(スライス工程)
図6Bに示すように、造形物WのモデルMwの分割した領域Abl1,Abl2,Abl3ごとに、層形状にスライスする。具体的には、ブロック部BL1,BL2,BL3の領域Abl1,Abl2,Abl3ごとに、溶接ビードの積層方向と直交する面でスライスして複数のビード層Lに分割する。その後、このビード層Lを、溶接ビードのビード形状に対応するように分解し、例えば、単純な幾何図形である台形状のビードモデルを作成する。そして、溶接ビードの軌跡情報を含む制御情報を生成する。
【0046】
本構成例では、予め造形物WのモデルMwに適正な量の余肉Paが付与されている。したがって、この造形物WのモデルMwを層形状にスライスして分解することにより、溶接ビードを追加したり溶接ビードの長さを延長させたりして溶接ビードごとに余肉を付与するような煩雑な処理を省きつつ、積層造形システム100で用いる制御情報を生成できる。
【0047】
しかも、生成された形状情報に基づく造形物WのモデルMwを複数のブロック部BL1,BL2,BL3の領域Abl1,Abl2,Abl3に分割しても、その領域Abl1,Abl2,Abl3ごとに適正な余肉Paが付与されているので、目標形状の造形物Wの造形が可能な制御情報を生成できる。
【0048】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 加工に要する余肉が付与された造形物の3次元の形状情報を生成する形状情報生成方法であって、
前記造形物の目標形状の3次元の形状情報を取得する情報取得工程と、
前記形状情報に基づいて作成した造形物のモデルを複数のパーツモデルに分解するデータ分解工程と、
前記パーツモデルごとに膨張処理または縮小処理を行う膨張縮小工程と、
前記パーツモデル同士の重ね合わせ量を設定する結合条件調整工程と、
前記重ね合わせ量に基づいて前記パーツモデル同士を結合することで、前記膨張処理または前記縮小処理に伴う形状変化量から前記結合に伴う前記重ね合わせ量を差し引いた量が前記余肉として付与された前記造形物のモデルからなる形状情報を生成するデータ結合工程と、
を含む、形状情報生成方法。
この形状情報生成方法によれば、パーツモデルに分解した後に、それぞれのパーツモデルごとに膨張処理または縮小処理を行って余肉をそれぞれ付与し、設定した重ね合わせ量で結合することにより、余肉が付与された3次元の形状情報を生成できる。つまり、造形物のモデルに対して、特定の面、線あるいは点等を追加することなく、分解、膨張、縮小、結合等の比較的単純な処理で場所ごとに適正な量の余肉を柔軟に付与できる。
【0050】
(2) 前記膨張縮小工程において、前記造形物の中実部位のパーツモデルを膨張させ、前記造形物の中空部位のパーツモデルを縮小させる、(1)に記載の形状情報生成方法。
この形状情報生成方法によれば、造形物の中実部位の外表面及び中空部位の内表面に、それぞれ機械加工用の余肉を良好に付与できる。
【0051】
(3) 前記結合条件調整工程において、前記パーツモデル同士の重ね合わせ位置の調整処理をさらに行い、
前記データ結合工程において、前記重ね合わせ量及び前記重ね合わせ位置に基づいて、前記パーツモデル同士を結合する、(1)または(2)に記載の形状情報生成方法。
この形状情報生成方法によれば、重ね合わせ位置を調整するので、余肉量を偏らせて余肉を部分的に薄くしたり厚くしたりすることができ、局所的な余肉設計の自由度が向上する。
【0052】
(4) 前記結合条件調整工程において、前記重ね合わせ量を前記パーツモデルに付与した余肉幅以上とする、(1)~(3)のいずれか一つに記載の形状情報生成方法。
この形状情報生成方法によれば、パーツモデル周りに均一に付与した余肉のうち、例えば、継ぎ目部分や母材への設置部分では、余肉を効率的に低減またはなくすことができる。
【0053】
(5) (1)~(4)のいずれか一つに記載の形状情報生成方法によって生成された形状情報に基づく造形物のモデルを層形状にスライスするスライス工程と、
前記層形状を分解して溶接ビードの軌跡情報を含む積層造形装置のための制御情報を生成する制御情報生成工程と、
を含む、
制御情報生成方法。
この制御情報生成方法によれば、積層造形装置によって造形物を造形する際に用いる制御情報となる造形物のモデルに適正な量の余肉が付与されている。したがって、この造形物のモデルを層形状にスライスして分解することにより、余肉を付与させるために溶接ビードを追加又は溶接ビードの長さを延長させるような煩雑な処理を省きつつ、積層造形装置で用いる制御情報を生成できる。
【0054】
(6) 前記スライス工程の前に、生成された形状情報に基づく造形物のモデルを複数の領域に分割する分割工程をさらに含み、
前記スライス工程において、分割した前記領域を前記層形状にスライスし、
前記制御情報生成工程において、前記層形状を分解して前記溶接ビードの軌跡情報を含む制御情報を生成する、(5)に記載の制御情報生成方法。
この制御情報生成装置によれば、生成された形状情報に基づく造形物のモデルを複数の領域に分割しても、その領域ごとに適正な量の余肉が付与されているので、局所的に溶接ビードを追加又は溶接ビードの長さを延長させるような煩雑な処理を省きつつ、目標形状の造形物の造形が可能な制御情報を生成できる。
【符号の説明】
【0055】
31 情報取得部
33 データ分解部
35 膨張縮小部
37 結合条件調整部
39 データ結合部
100 積層造形システム(積層造形装置)
Abl1,Abl2,Abl3 領域
H 重ね合わせ量
Mbl1,Mbl2,Mbl3,Mca パーツモデル
Mw モデル
Pa 余肉
W 造形物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B