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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072591
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】舗装の残存寿命を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/30 20060101AFI20240521BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20240521BHJP
   E01C 23/01 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01N3/30 N
G01N19/00 E
E01C23/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183509
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 とおる
(72)【発明者】
【氏名】小柳 遼人
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡真
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】亀田 昭一
【テーマコード(参考)】
2D053
2G061
【Fターム(参考)】
2D053AA35
2D053AB03
2D053AD01
2D053FA00
2G061AA13
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA14
2G061CB20
2G061DA11
2G061EA04
2G061EA10
2G061EB02
(57)【要約】
【課題】舗装の残存寿命を評価する方法を提供することを一つの課題とする。
【解決手段】アスファルト混合物層を有する舗装の残存寿命を評価する方法であって、(1)想定される交通荷重に相当する所定の荷重を前記舗装に載荷したときの前記アスファルト混合物層のひずみ量を取得する工程と、(2)取得した前記ひずみ量と、予め取得した破壊基準曲線に基づいて、前記舗装に前記荷重が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数を推定する工程、及び、(3)推定した前記許容載荷回数に基づいて、前記舗装の残存寿命を評価する工程を含む方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト混合物層を有する舗装の残存寿命を評価する方法であって、
(1)想定される交通荷重に相当する所定の荷重を前記舗装に載荷したときの前記アスファルト混合物層のひずみ量を取得する工程と、
(2)取得した前記ひずみ量と、予め取得した破壊基準曲線に基づいて、前記舗装に前記荷重が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数を推定する工程、及び、
(3)推定した前記許容載荷回数に基づいて、前記舗装の残存寿命を評価する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記工程(2)の前に、前記舗装から採取した前記アスファルト混合物層の破断ひずみを取得する工程をさらに含み、
前記工程(2)における許容載荷回数の推定が、取得した前記ひずみ量及び前記破断ひずみと、前記破壊基準曲線として、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)に基づいて行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)におけるひずみ量の取得が、想定される交通荷重に相当する前記荷重を前記舗装に載荷したときの前記舗装のたわみ量を測定し、測定された前記たわみ量に基づいて、前記荷重を前記舗装に載荷したときの前記アスファルト混合物層のひずみ量を推定することにより行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)において測定される前記たわみ量が、少なくとも前記荷重の載荷中心における第1のたわみ量と前記荷重の載荷中心から半径方向に所定の距離離れた位置における第2のたわみ量を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、下記式(5)に基づいてひずみ量を推定することを特徴とする請求項4に記載の方法:
【数5】
(式(5)において、εはひずみ量、Dは荷重の載荷中心におけるたわみ量、Dは荷重の載荷中心から半径方向に距離L離れた位置におけるたわみ量、hはアスファルト混合物層の厚さを表す。)
【請求項6】
前記工程(2)の前に、前記式(5)に基づいて推定された前記ひずみ量を多層弾性理論に基づいて補正する工程をさらに含み、
前記工程(2)における許容載荷回数の推定が、補正された前記ひずみ量に基づいて行われることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記式(5)に基づいて推定された前記ひずみ量に、
(A)多層弾性理論に基づいて、前記荷重を前記舗装に載荷した場合に前記アスファルト混合物層に発生すると推定されるひずみ量(ε)と、
(B)多層弾性理論に基づいて、前記荷重を前記舗装に載荷した場合に、前記荷重の載荷中心において発生すると推定される第3のたわみ量と、前記荷重の載荷中心から半径方向に距離L離れた位置において発生すると推定される第4のたわみ量を、前記式(5)に代入して得られるひずみ量(ε
の比率(ε/ε)を乗じることにより、前記式(5)に基づいて推定された前記ひずみ量を補正することを特徴とする請求項6に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は舗装の残存寿命を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より地球環境に配慮した舗装の構築、補修費用削減といった観点から、舗装の長寿命化が注目を集めており、これと呼応して、舗装の残存寿命を適切に評価することの重要性が増してきている。
【0003】
既設舗装の状態を評価する方法としては、フォーリングウェイトデフレクトメータ(FWD)により、舗装表面に荷重を与えた際に生じるたわみ量を測定し、測定されたたわみ量に基づいて計算される、舗装を構成する各層の残存等値換算厚(残存TA)を利用する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。TAとは、アスファルト舗装の各層を表層・基層用の加熱アスファルト混合物で作ると仮定した場合に必要な厚さであり、既設舗装の残存TAによれば、その舗装の残存強度を表層・基層用の加熱アスファルト混合物の等値換算厚という指標で評価することができる。残存TAは、FWDにより測定される荷重の載荷直下のたわみ量(D)及び荷重の載荷直下から半径方向に1500mm離れた位置のたわみ量(D1500)に基づいて計算され、得られた残存TAと設計時のTAとの差を比較することにより、その舗装に不足しているTA(不足TA)が求められている。求められた不足TAの大きさは、舗装補修工事の計画を策定する際の一つの指標として用いられている。
【0004】
一方、同じく非特許文献1にあるように、FWDにより測定されたたわみ量に基づいて、逆解析により、舗装を構成する各層の弾性係数を推定し、推定された弾性係数に基づいて、舗装の健全度を評価する方法も知られている。すなわち、舗装を構成する各層について、ポアソン比と厚さ及び仮の弾性係数を与えた場合に多層弾性理論に基づき計算されるたわみ量を、FWDで測定されたたわみ量と比較し、両者が一致する場合の弾性係数を各層の弾性係数と推定することができる。経験的に、推定された弾性係数が6,000MPa以上であれば、そのアスファルト混合物層は健全であると判断することができるとされている。
【0005】
また、例えば、特許文献1~3に見られるように、舗装を撮影した画像データに基づいて、ひび割れ、剥がれ等の舗装の損傷を検出する方法も知られている。
【0006】
しかしながら、以上の方法は、いずれも評価時点における舗装の健全度を評価するものであって、将来にわたって、その舗装がどのくらいの期間供用可能であると考えられるか、すなわち舗装の残存寿命を知ることはできない。このように舗装の残存寿命を評価する方法は未だ未確立であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-147961号公報
【特許文献2】特開2021-060656号公報
【特許文献3】特許掲載公報第特許7076932号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】財団法人 道路保全技術センター,“活用しよう!FWD”,[online],平成17年3月,一般社団法人 道路・舗装技術研究協会,[令和4年8月19日検索],インターネット <URL:http://parowaytec.jp/jyouhou/fwd/katuyoufwd.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況に鑑みて為されたものであり、舗装、特に既設舗装の残存寿命を評価する方法を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
材料は、破壊荷重より小さな荷重であっても、荷重を繰り返し受けることによって、材料内部に発生する微細な亀裂が次第に成長し、最終的に破壊に至ることが知られており、この現象を疲労破壊という。交通荷重により日々繰り返し荷重を受けている舗装において、疲労破壊はひび割れの原因となる。よって、舗装の疲労破壊挙動を予測することによって、舗装の残存寿命を評価することができると考えられる。
【0011】
具体的には、供用後の舗装からアスファルト混合物層を切り出し、切り出した試験片に所定のひずみを繰り返し与えて、試験片が破壊に至るまでの許容載荷回数を求める曲げ疲労試験を行い、得られる疲労曲線から推定される許容載荷回数に基づいて、舗装の残存寿命を評価することが考えられる。この方法は最も直接的であるが、曲げ疲労試験を行うには多数の試験片が必要である。試験片を舗装から切り出すことになると、舗装を少なからず損傷させてしまうし、また、多数の試験片を切り出すにはそれ相応の時間を要するので長時間の交通規制により周囲の交通に迷惑をかけてしまう恐れもある。また、曲げ疲労試験は試験自体に要する時間も多大であるため、試験結果に基づいて残存寿命を評価するにはかなり膨大な時間を要するものであった。したがって、舗装に過度の損傷を与えることなく、また、少ない作業負担で舗装の残存寿命を評価することを可能とする、より現実的な方法が望ましい。
【0012】
このような状況の下、本発明者らは、更なる鋭意研究努力を重ねる過程において、舗装表面に所定の荷重、すなわち、交通荷重に相当する大きさの荷重が与えられた場合に、当該舗装が有するアスファルト混合物層のひずみ量が分かれば、当該ひずみ量と予め取得した疲労曲線に基づいて、交通荷重に相当する荷重が舗装に繰り返し載荷された場合に、当該舗装が有するアスファルト混合物層が疲労破壊を起こすまでの許容載荷回数を求めることができるので、各現場の舗装から多数の試験片を切り出すことなく、舗装の残存寿命を評価し得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、ある一態様において、
アスファルト混合物層を有する舗装の残存寿命を評価する方法であって、
(1)想定される交通荷重に相当する所定の荷重を前記舗装に載荷したときの前記アスファルト混合物層のひずみ量を取得する工程と、
(2)取得した前記ひずみ量と、予め取得した破壊基準曲線に基づいて、前記舗装に前記荷重が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数を推定する工程、及び、
(3)推定した前記許容載荷回数に基づいて、前記舗装の残存寿命を評価する工程、
を含む方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0014】
ある一実施態様において、許容載荷回数の推定に用いられる上記破壊基準曲線は、疲労曲線であり得、より具体的には、ひずみ(ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)であり得る。ある舗装が有するアスファルト混合物層についての疲労曲線(ε-N)曲線は、当該アスファルト混合物層と実質的に同じ供試体を用いて曲げ疲労試験を行うことにより予め取得することができる。当該アスファルト混合物層と実質的に同じ供試体とは、当該アスファルト混合物層と実質的に同じ組成を有する供試体であり、前記アスファルト混合物層の設計組成と同じ組成を有する供試体、換言すれば、前記アスファルト混合物層の設計組成と同じ組成を有するアスファルト混合物を用いて作製された供試体が含まれる。このような供試体は、例えば、当該アスファルト混合物層を再現した供試体、或いは、当該アスファルト混合物層の構築に用いられたものと同じアスファルト混合物を用いて構築された他の舗装から採取された供試体等であり得るが、当該アスファルト混合物層を再現した供試体を用いるのが最も簡便である。なお、本明細書において、「再現した」という場合、時系列的に評価対象となる舗装の施工前に作製したもの、施工と同時に作製したもの、施工後に作製したもののいずれもが含まれる。
【0015】
あるアスファルト混合物層についての疲労曲線(ε-N曲線)は、上述した供試体を用いて曲げ疲労試験を行うことにより取得することができる。具体的には、当該供試体に所定の大きさのひずみ(ε)を繰り返し与えた場合に、当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し載荷回数(N)を測定すれば良い。曲げ疲労試験は当業者であれば常法に従って実施することができるが、例えば、「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B018T アスファルト混合物の曲げ疲労試験方法」に記載されている方法に従って実施してもよい。また、曲げ疲労試験により得られた疲労曲線を、舗装の設計に用いる破壊確率を考慮して補正しても良い。なお、舗装設計において、舗装が設定された設計期間を通して破壊しない確からしさを「設計された舗装の信頼性」、その場合の破壊しない確率を「信頼度」といい、各路線は要求される信頼度に応じて設計されている。曲げ疲労試験により得られた疲労曲線を破壊確率を考慮して補正することにより、各路線に要求される信頼度に応じた疲労曲線を得ることができる。
【0016】
ところで、供用後の舗装は、交通荷重や環境変化など、各現場に応じた種々の要因により徐々に経年劣化する。供用後間もない舗装であればさておき、供用後、期間が経過して経年劣化した舗装にあっては、予め取得した疲労曲線(ε-N曲線)と現場のアスファルト混合物層が示す疲労曲線との間に隔たりが生じ、予測される残存寿命の正確性が損なわれる場合がある。特に、近年、舗装の長寿命化への要請から、今後は一つの舗装が従来よりも長期間、継続して使用に供されることが想定される。このような状況に鑑みれば、供用後の舗装についても残存寿命をより正確に予測し得る、より汎用性の高い方法が望まれる。
【0017】
このような課題を解決しようと、さらに鋭意研究努力を重ねる過程において、本発明者らは、舗装においては、経年変化に伴い曲げ疲労が蓄積するのみならず、それと同時に、アスファルト混合物層の破断ひずみ、すなわち、アスファルト混合物層に与えるひずみを徐々に大きくしていった場合にアスファルト混合物層が破断に至る時のひずみも低下しており、曲げ疲労の蓄積の程度と破断ひずみの低下の程度が似通っている点に着目した。本発明者らはこの点に着目し、さらに鋭意研究努力を重ねた結果、破断ひずみはアスファルト混合物の経年劣化の状態を反映しており、アスファルト混合物の疲労曲線におけるひずみの大きさを破断ひずみに対する比率、すなわち、アスファルト混合物に与えられるひずみを当該アスファルト混合物の破断ひずみに対する相対的な大きさでとらえることにより、経年劣化の影響を受け難い破壊基準曲線が得られ、供用後の舗装の残存寿命をより正確に評価し得ることを見出した。
【0018】
すなわち、ある好適な一態様において、許容載荷回数の推定に用いられる上記破壊基準曲線は、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)であり得る。あるアスファルト混合物層についての当該基準曲線(ε/ε-N曲線)は、上述した供試体を用いて曲げ疲労試験及び曲げ試験を行うことにより取得することができる。具体的には、当該供試体に所定の大きさのひずみ(ε)を繰り返し与えた場合に、当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し載荷回数(N)を測定するとともに、その一方、当該供試体に徐々に大きなひずみを与えていった場合に、当該供試体が破断するときのひずみ(破断ひずみ)を測定すれば良い。ε/ε-N曲線は、例えば、曲げ疲労試験で供試体に与えたひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)を縦軸に、当該ひずみを供試体に繰り返し与えたときの疲労破壊までの繰り返し回数(N)を横軸にプロットし、近似式を得ることにより求めることができる。曲げ疲労試験と同様、曲げ試験も当業者であれば常法に従って実施することができるが、例えば、「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B005 曲げ試験方法」に記載されている方法に従って実施してもよい。また、上記基準曲線(ε/ε-N曲線)を得るにあたって、舗装の破壊確率を考慮しても良いことはε-N曲線についてと同様である。
【0019】
なお、許容載荷回数の推定に用いられる破壊基準曲線が、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)である場合、供用後の舗装のアスファルト混合物層についての破断ひずみ(ε)を測定する必要があるが、破断ひずみの測定には前記舗装から採取した供試体を用いることが好ましい。すなわち、本発明は、ある好適な一態様において、上記工程(2)の前に、前記舗装から採取した前記アスファルト混合物層の破断ひずみを取得する工程を含み得る。このように評価対象となる舗装から採取したアスファルト混合物層を用いて、当該アスファルト混合物層の破断ひずみを測定することで、個々の舗装の経年劣化の指標となる破断ひずみを得ることができる。舗装から採取される供試体は、少なくともアスファルト混合物層の一部を含む供試体であり得るが、当該供試体を用いて、アスファルト混合物層の破断ひずみを測定することができるものであれば、基本的にどのようなものであっても良い。当業者であれば、適宜、適切な供試体を採取し得る。なお、破断ひずみを測定するためには、最低1つ供試体が有ればよいので、破断ひずみは、曲げ疲労試験により疲労曲線を得るために必要な供試体の数と比較して圧倒的に少ない数の供試体を用いて測定され得ることを付言しておく。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、舗装に過度の損傷を与えることなく、また、少ない作業負担で、舗装の残存寿命を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】アスファルト混合物層を有する舗装に荷重が載荷されたときの、アスファルト混合物層におけるたわみの発生と、発生したたわみに基づいてアスファルト混合物層のひずみ量を推定する計算方法を説明する概念図である。
図2】路線A及び路線Bのアスファルト混合物層を再現した供試体を用いて得られた破壊基準曲線(ε-N曲線)を示す図である。
図3】路線A及び路線Bのアスファルト混合物層を再現した供試体を用いて得られた破壊基準曲線(ε/ε-N曲線)を示す図である。
図4】20℃及び5℃におけるアスファルト混合物の破壊基準曲線(ε-N曲線)を示す図である。
図5】20℃及び5℃におけるアスファルト混合物の破壊基準曲線(ε/ε-N曲線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1.舗装の残存寿命を評価する方法>
以下、本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法について、工程ごとにより詳細に説明する。
【0023】
<ひずみ量を取得する工程>
アスファルト混合物層を有する舗装に、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を載荷したときに、当該アスファルト混合物層に生じるひずみ量を取得する工程である。
【0024】
交通荷重に相当する所定の荷重の大きさに特段の制限はなく、評価対象となる舗装について想定される交通荷重に相当する大きさの荷重が適宜用いられ得る。用いられ得る荷重の大きさに特段の制限はないが、例えば、普通道路の標準輪荷重である49kN又は小型道路の標準輪荷重である17kNであり得る。載荷される荷重の大きさの種類は、1つであっても良いし、2つ以上であっても良い。舗装への荷重の載荷方法に特段の制限はなく、例えば、フォーリング・ウェイト・デフレクトメータ(FWD)を用いて荷重を載荷しても良いし、所定の重量の車両等、例えば、ダンプトラック等を走行させても良い。
【0025】
ひずみ量とは、アスファルト混合物層の舗装横断方向に生じる単位寸法当たりの変形量であり、好適にはアスファルト混合物層の下面のひずみ量であり得る。ひずみ量を取得する具体的な方法に特段の制限はなく、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を前記舗装に載荷し、このとき前記アスファルト混合物層のひずみ量を取得できさえすれば、如何なる方法を用いても良い。敢えて例示するのであれば、例えば、以下に述べるとおり、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を舗装に載荷したときの当該舗装のたわみ量を測定し、測定された当該たわみ量に基づいて推定しても良いし、或いは、ひずみセンサーやひずみゲージを利用して、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を前記舗装に載荷したときの前記アスファルト混合物層のひずみ量を測定しても良い。
【0026】
<たわみ量に基づいてひずみ量を推定する工程>
上述したとおり、ある好適な一態様においては、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を舗装に載荷したときの当該舗装のたわみ量を測定し、測定された当該たわみ量に基づいて当該舗装が有するアスファルト混合物層のひずみ量を推定しても良い。すなわち、本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法は、ある好適な一態様において、想定される交通荷重に相当する所定の荷重を舗装に載荷したときの前記舗装のたわみ量を測定する工程と、測定されたたわみ量に基づいて、前記舗装が有するアスファルト混合物層のひずみ量を推定する工程をさらに含み得る。なお、たわみ量とは、舗装に荷重が作用した際の舗装の変形量を意味する。
【0027】
たわみ量の具体的な測定方法に特段の制限はないが、例えば、フォーリング・ウェイト・デフレクトメータ(FWD)によれば、荷重の載荷とたわみ量の測定の双方を行うことができるので極めて便利である。なお、FWDとは、舗装路面に設置した載荷板を介して、舗装の表面に衝撃荷重を与えて、これにより舗装に発生するたわみ量を測定する装置である。FWDは荷重の載荷中心(D)、及び、載荷中心から半径方向に所定の位置、典型的には、荷重の載荷中心から200mm、300mm、450mm、600mm、900mm、1200mm、1500mm、及び2000mm離れた位置にたわみセンサーを備えており、これにより荷重載荷時の舗装のたわみ量が測定される。FWDによれば、非破壊的にたわみ量を測定できるという利点がある。
【0028】
本工程において測定されるたわみ量は、当該たわみ量に基づいて、評価対象となる舗装が有するアスファルト混合物層のひずみ量を推定し得るものであれば、どのようなたわみ量、具体的には、どのような位置のたわみ量であっても良い。
【0029】
本発明者らが見出した知見によれば、舗装の少なくとも2つの位置において発生するたわみ量を測定すれば、これらの測定値に基づいて、幾何学的な計算により、比較的簡便に、当該舗装が有するアスファルト混合物層に生じるひずみ量を算出することができる。したがって、本発明のある好適な一態様においては、交通荷重に相当する荷重を載荷したときの舗装のたわみ量は、少なくとも2つの位置において測定されることが好ましい。より好適には、荷重の載荷中心のたわみ量(第1のたわみ量)と荷重の載荷中心から半径方向に所定の距離離れた位置のたわみ量(第2のたわみ量)を含むことが好ましい。第2のたわみ量は、例えば、荷重の載荷中心から半径方向に50~900mm離れた位置のたわみ量であり得るが、好ましくは100~600mm、より好ましくは100~450mm、さらに好ましくは100~300mm、よりさらに好ましくは150~250mm離れた位置のたわみ量であり得、荷重の載荷中心から半径方向に200mm離れた位置のたわみ量(D200)であることが特に好ましい。載荷中心のたわみ量(D)及び載荷中心から半径方向に200mm離れた位置のたわみ量(D200)の2つのたわみ量に基づいて、舗装表層の弾性係数をよく反映した弾性係数を算出できるとされている(「舗装工学ライブラリー2 FWD及び小型FWD運用の手引き」公益社団法人 土木学会)。
【0030】
以下、荷重の載荷中心のたわみ量(D)と荷重の載荷中心から半径方向に所定の距離L離れた位置のたわみ量(D)に基づいて、アスファルト混合物層に生じるひずみ量を推定する方法の一例について説明する。
【0031】
図1にアスファルト混合物層を表層に有する舗装に荷重が載荷される前、及び、荷重が載荷された時のアスファルト混合物層の状態変化を示す。図1に示されるとおり、本例においては、荷重載荷時の舗装について、荷重の載荷中心におけるたわみ量をD、荷重の載荷中心から半径方向に距離L離れた位置におけるたわみ量D、アスファルト混合物層の層厚をhとする。また、荷重載荷時のアスファルト混合物層表面の曲率半径は一定であると仮定し、この曲率半径をρ´、また、荷重載荷時のアスファルト混合物層の中心軸の曲率半径を一定であると仮定し、この曲率半径をρとする。図1に示されるとおり、三平方の定理により以下の式(1)が成り立つので、ρ´及びρは、それぞれ以下の式(2)及び式(3)で表される:
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
【数3】
【0035】
ここで、梁等において曲率が一定であると仮定した場合、曲率半径ρとひずみεについては次の式(4)の関係が成り立つことが知られている。よって、式(3)及び式(4)に基づいて、荷重載荷時のアスファルト混合物層の下面のひずみεについて、次の式(5)が成り立つ。
【0036】
【数4】
【0037】
【数5】
【0038】
以上のようにして荷重の載荷中心におけるたわみ量をD及び荷重の載荷中心から半径方向に距離L離れた位置におけるたわみ量Dに基づいて、荷重載荷時のアスファルト混合物層の下面のひずみεを推定し得る。
【0039】
以上の方法によれば、比較的簡便に、舗装の所定の位置におけるたわみ量に基づいて、ひずみ量の推定値を算出することができるので大変便利であり、また、後述する実施例に示すとおり、以上の方法に基づいて推定されたひずみ量によれば、舗装の残存寿命を極めて精度よく予測することができる。しかしながら、たわみ量に基づいてひずみ量を推定する方法は以上のものに限られず、労力、精度、コスト等の事情に応じて、適宜の方法を用いれば良い。
【0040】
また、ある一態様においては、アスファルト混合物層の下層に存在する構造物(例えば、路盤層及び路床等)の影響等を考慮して、以上の方法により推定されたひずみ量を、多層弾性理論に基づき補正しても良い。すなわち、ある一態様において、本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法は、上記式(5)に基づいて推定されたひずみ量を多数弾性理論に基づき補正する工程をさらに含み得る。
【0041】
なお、推定された前記ひずみ量を多数弾性理論に基づき補正する具体的な方法に特段の制限はない。多層弾性理論については、例えば、「舗装工学ライブラリー3 多層弾性理論による舗装構造解析入門」、公益社団法人土木学会、2005年4月、第69~94頁)に、多層弾性理論に基づく舗装構造解析プログラム「GAMES」とともに紹介されており、当業者であれば、適宜の方法により補正することができるが、例えば、ある好適な一態様においては、上記式(5)に基づいて推定された前記ひずみ量に、
(A)多層弾性理論に基づいて、想定される交通荷重に相当する前記荷重を前記舗装に載荷した場合に前記アスファルト混合物層に発生すると推定されるひずみ量(εA)と、
(B)多層弾性理論に基づいて、想定される交通荷重に相当する前記荷重を前記舗装に載荷した場合に発生すると推定される載荷中心のたわみ量(D)と載荷中心から半径方向に距離L離れた位置のたわみ量(D)を、上記式(5)に代入して得られるひずみ量(ε
の比率(ε/ε)を乗じることにより、補正することができる。
【0042】
評価対象となる舗装の構成が分かっていれば、舗装を構成する各層の弾性係数を適宜設定することにより、多層弾性理論により、舗装に所定の荷重を載荷した場合に、舗装表面に発生すると予測されるたわみ量、及び、舗装を構成する各層に発生すると予測されるひずみ量を計算することができる。多層弾性理論により推定されたひずみ量と、多数弾性理論により推定されたたわみ量を上記式(5)に代入することにより得られるひずみ量の推定値とを比較すれば、その層構成を有する舗装について、アスファルト混合物層の下層に存在する構造物(例えば、路盤層及び路床等)の影響等を考慮した場合のひずみ量と、上記式(5)により得られるひずみ量の推定値との間のズレが見出され得る。
【0043】
<アスファルト混合物層が破壊するまでの許容載荷回数を推定する工程>
上述した工程において取得されたひずみ量と、予め取得した破壊基準曲線に基づいて、前記荷重が繰り返し載荷された場合にアスファルト混合物層が破壊するまでの許容載荷回数を推定する工程である。上述した工程において取得された前記ひずみ量は、想定される交通荷重に相当する荷重が載荷されたときアスファルト混合物層に発生するひずみ量に相当するので、取得した前記ひずみ量を予め取得した破壊基準曲線に適用する、例えば、破壊基準曲線から求められる破壊基準式に当てはめることにより、日々交通荷重にさらされている舗装があと何回程度交通荷重にさらされた場合にアスファルト混合物層が破壊へと至るのかを推定することができる。
【0044】
許容載荷回数の推定に用いられる上記破壊基準曲線は、基本的にどのようなものであっても良いが、前述したとおり、ある好適な一態様において、許容載荷回数の推定に用いられる上記破壊基準曲線は、ひずみ(ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)、より詳細には、ひずみ(ε)と当該ひずみが繰り返し与えられた場合の疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)であり得、より好適には、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)、より詳細には、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と、当該比率に相当するひずみが繰り返し与えられた場合の疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)であり得る。前述したとおり、供用後の舗装は、交通荷重や環境変化など様々な要因により経年変化するため、特に、供用後、ある程度の期間が経過した舗装にあっては、予め取得した疲労曲線(ε-N曲線)と現場の舗装のアスファルト混合物層が示す疲労曲線との間に隔たりが生じる場合がある。これに対して、本発明者らが見出した知見によれば、舗装においては、経年変化に伴い曲げ疲労が蓄積するのみならず、それと同時に、アスファルト混合物層の破断ひずみも低下しており、アスファルト混合物層に与えられるひずみ量(ε)と当該アスファルト混合物層の破断ひずみ(ε)の比率(ε/ε)を基準として、疲労破壊までの繰り返し回数を表した基準曲線(ε/ε-N曲線)によれば、経年劣化の影響を受け難い基準曲線が得られ、供用後の舗装についても、より正確に残存寿命を評価し得る。なお、上記破壊基準曲線を、舗装の破壊確率を考慮して補正しても良いことは既に述べたとおりである。破壊基準曲線を舗装の破壊確率に基づいて補正することにより、各路線に求められる信頼度に応じた破壊基準曲線を得ることができる。
【0045】
許容載荷回数の推定に用いられる破壊基準曲線が、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)である場合、供用後の舗装のアスファルト混合物層について破断ひずみ(ε)を測定することが好ましく、破断ひずみの測定には前記舗装から採取した供試体を用いることが好ましいことは前述したとおりである。評価対象となる舗装から採取したアスファルト混合物層を用いて、当該アスファルト混合物層の破断ひずみを測定することで、個々の舗装の経年劣化の状態を反映する破断ひずみを得ることができる。すなわち、本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法は、ある好適な一態様において、舗装から供試体を採取する工程と、採取した前記供試体の破断ひずみを測定する工程をさらに含み得る。
【0046】
<舗装の残存寿命を評価する工程>
上述した工程において推定された許容載荷回数に基づいて、舗装の残存寿命を評価する工程である。ここで、残存寿命を評価するという場合、評価対象となる舗装の残存寿命を推定することに加え、所定の基準と比較して残存寿命の大小を評価することが含まれる。すなわち、残存寿命の評価は、評価対象となる舗装の残存寿命を推定するような絶対的な評価であっても良いし、所定の荷重を載荷したときの許容載荷回数(例えば、残存破壊輪数)の基準値との比較によるような相対的な評価であっても良い。
【0047】
残存寿命を評価する方法に特段の制限がないことは勿論であるが、例えば、上述した工程において推定された許容載荷回数と、評価対象となる舗装に想定される交通量に基づいて、舗装の残存寿命を推定しても良い。各舗装に想定される交通量としては、評価対象となる舗装の現場に応じた適宜の交通量が用いられ得るが、例えば、各舗装の交通区分に応じて定められている舗装計画交通量を用いても良い。
【0048】
一般に、舗装の性能指標として、想定される舗装計画交通量に応じて、疲労破壊輪数の基準値が定められている。例えば、交通区分N7(舗装計画交通量3,000台/日・方向以上)についての疲労破壊輪数は35,000,000回/10年、交通区分N6(舗装計画交通量1,000台/日・方向以上3,000台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は7,000,000回/10年、交通区分N5(舗装計画交通量250台/日・方向以上1,000台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は1,000,000回/10年、交通区分N4(舗装計画交通量100台/日・方向以上250台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は150,000回/10年、交通区分N3(舗装計画交通量40台/日・方向以上150台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は30,000回/10年、交通区分N2(舗装計画交通量15台/日・方向以上40台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は7,000回/10年、交通区分N1(舗装計画交通量40台/日・方向未満)についての疲労破壊輪数は1,500回/10年とされている。簡便には、評価対象となる舗装の交通区分に応じて、これらの基準値と、上述した方法により推定された許容載荷回数とを比較することにより、評価対象となる舗装の残存寿命を予測しても良い。なお、疲労破壊輪数とは、『舗装道において、舗装路面に49キロニュートンの輪荷重を繰り返し加えた場合に、舗装にひび割れが生じるまでに要する回数で、舗装を構成する層の数並びに各層の厚さ及び材質(以下「舗装構成」という。)が同一である区間ごとに定められるもの』(国土交通省、「舗装の構造に関する技術基準」より)。とされている。したがって、想定される交通荷重として49kNの荷重を用いた場合には、上記疲労破壊輪数と比較することができるので大変便利である。
【0049】
また、想定される交通荷重として異なる大きさの荷重が複数ある場合には、いわゆるマイナー則に基づいて、残存寿命を評価しても良い。すなわち、交通荷重として想定される荷重が合計m種類ある場合、それぞれの荷重i(i=1~m)について、その許容載荷回数(N)を推定し、所定の期間内に想定される当該荷重の載荷回数(n)と当該許容載荷回数の比率(n/N)を疲労度として求め、m種類の荷重それぞれについての疲労度を足し合わせれば良い。マイナー則によれば、各荷重について得られた疲労度の和が1.0を超えた場合に、その材料は破壊すると考えられるので、上記所定の期間内に想定される交通荷重により、舗装が破壊するか否かを予測することができる。
【0050】
以上説明した本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法は、アスファルト混合物層を有する舗装、すなわち、アスファルト舗装に特に好適に用いられ得る。評価対象となる舗装は、表層としてアスファルト混合物層を有するものであっても、基層としてアスファルト混合物層を有するものであっても、その双方としてアスファルト混合物層を有するものであっても良いが、少なくとも表層としてアスファルト混合物層を有するものであることが好ましい。なお、表層とは、舗装において、その表面、或いは、最上部にある層を意味する。アスファルト混合物層は、基本的にどのようなアスファルト混合物から形成されたものであっても良く、例えば、密粒度アスファルトコンクリートなどの加熱アスファルト混合物から形成されたものであっても、常温アスファルト混合物から形成されたものであっても良い。また、以下に示す実施例においては、一般道路を例として舗装の残存寿命を評価する方法を説明するが、本発明に係る方法は、一般道路に限られず、自動車専用道路、構内道路、公園内道路、散策路、自転車道、運動場、駐車場、飛行場、港湾施設、公会堂等に付帯する広場、歩道等の舗装にも適用され得るものである。
【0051】
<2.実施例及び実験例>
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が実施例のものに限られないことは言うまでもない。
【0052】
<実施例1>
下表1に示す設計条件にて設計、施工された路線Aについて、供用年数1年の時点で、舗装の残存寿命を評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すとおり、路線Aの設計寿命は10年である。路線Aは、表層として密粒度アスファルト混合物(再生密粒20F)から形成される設計厚さ5cmのアスファルト混合物層を有するアスファルト舗装である。路線Aの設計CBRは3%であり、設計期間(設計寿命)は10年である。
【0055】
まず、路線Aのアスファルト混合物層(表層)について、破壊基準曲線として、ひずみ(ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)を得た。すなわち、路線Aの表層の構築に用いられたアスファルト混合物(ストレートアスファルト60/80、再生密粒度アスファルト混合物(20F))から厚さ4.5cmの供試体を作製した。作製した供試体を用いて、「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B018T アスファルト混合物の曲げ疲労試験方法」に記載の方法に従って曲げ疲労試験を行い、所定の大きさのひずみ(ε)を与えた場合に当該供試体が破断に至るまでの繰り返し回数(N)を測定した。得られた結果に基づいて、破壊基準曲線として、ひずみ(ε)と当該ひずみを前記供試体に繰り返し与えた場合に前記供試体が破断するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)を得た。得られた破壊基準曲線を図2に示す。
【0056】
次に、路線Aについて、FWDを用いて、舗装に49kNの荷重を載荷し、載荷中心における舗装のたわみ量(D)及び載荷中心から半径方向に200mm離れた位置における舗装のたわみ量(D200)を測定し、測定されたたわみ量に基づいて、上記式(5)の計算式に従って、ひずみ量を計算した。FWDによるたわみ量の測定は独立して3回行い、各測定結果から計算されたひずみ量の平均値を求め、以降の実験では当該平均値を路線Aについてのひずみ量として用いた。なお、以下、FWDを用いて各舗装の現場において測定されたたわみ量に基づいて得られたひずみ量を「現場ひずみ」という場合がある。得られた結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すとおり、路線Aについての現場ひずみは34.6×10―6と計算された。この現場ひずみと図2に示す破壊基準曲線に基づいて、当該現場ひずみに対応する疲労破壊までの繰り返し回数を、舗装に対し前記荷重(49kN)が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数として得た。
【0059】
また、現場ひずみと図2に示す破壊基準曲線に基づき得られた許容載荷回数に基づいて、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を推定した。すなわち、曲げ疲労試験における破断時の破壊はアスファルト混合物層の下面で発生することから、上記破壊基準曲線に基づき求められた許容載荷回数は、アスファルト混合物層の下面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を示している。一方、現場において舗装が破壊したか否かの判断は、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生したことに基づいて判断される。よって、アスファルト混合物層の上面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数は、舗装が破壊するまでの許容載荷回数を反映する指標としてより好適に用いられ得る。そこで、上記破壊基準曲線に基づき得られた許容載荷回数、すなわち、アスファルト混合物層の下面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を、「舗装設計便覧 平成18年度版」(社団法人日本道路協会)に記載のひび割れ伝播の補正係数(K)に基づいて、より具体的には、下記式(6)及び(7)に従って、アスファルト混合物層の上面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算した。
【0060】
【数6】
【0061】
【数7】
【0062】
なお、上記式(6)において、Kはひび割れ伝播の補正係数、Hはアスファルト混合物層の厚さ(cm)を表し、上記式(7)において、Nsurfaceはアスファルト混合物層の上面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数、Nbottomはアスファルト混合物層の下面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数(すなわち、上記破壊基準曲線に基づき得られた許容載荷回数)を表す。アスファルト混合物層の下面にひび割れが発生した時を基準とすると、アスファルト混合物層の下面に生じたひび割れがアスファルト混合物層の上面、すなわち、表面に現れるまでにはK(5cm)/K(0cm)倍要すると考えられる。
【0063】
以上の実験により得られた結果を下表3に示す。
【0064】

【表3】
【0065】
表3に示されるとおり、路線Aについての現場ひずみは34.6×10―6であり、当該現場ひずみと図2に示す破壊基準曲線に基づいて得られた破断までの許容載荷回数は703,535回であった。この値を式(6)及び(7)に従って、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると1,190,507回であった。表1に示すとおり、本路線における設計交通量区分はN5である。交通量区分N5における疲労破壊輪数は1,000,000回/10年であることに鑑みると、以上の許容載荷回数の推定値は、路線Aは約11~12年供用可能であることを示している。この結果は、路線Aの設計寿命は10年であり、路線Aの供用年数は1年であることとよく対応しており、また、路線Aは設計基準を満たしていることを示している。このように本発明の一態様に係る舗装の残存寿命を評価する方法によれば、既設舗装の残存寿命を既設舗装に損傷を与えることなく評価することができる。
【0066】
<実施例2>
次に、下表4に示す設計条件にて設計、施工された路線Bについて、供用年数2年の時点で、舗装の残存寿命を評価した。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示すとおり、評価対象とする路線Bの設計寿命は20年である。路線Bは、表層として密粒度アスファルト混合物(ストレートアスファルト60/80、再生密粒度アスファルト混合物(20F))から形成される設計厚さ5cmのアスファルト混合物層を有するアスファルト舗装である。すなわち、路線Bの表層は、路線Aの表層と同じ組成のアスファルト混合物で構成されており、その設計厚さも、路線Aの表層と同じである。一方、路線Bの設計CBRは4%であり、路線Aの設計CBR(3%)より大きく、それゆえ、設計期間(設計寿命)も20年と大きい。すなわち、路線Bは、路線Aと比較して、路床の支持力が大きく、それゆえ、設計期間も長い設計となっている。
【0069】
実施例1においてと同様に、路線Bについて、FWDを用いて、載荷中心における舗装のたわみ量(D)及び載荷直下から半径方向に200mm離れた位置における舗装のたわみ量(D200)を測定し、測定されたたわみ量に基づいて、上記式(5)の計算式に従って、ひずみ量を計算した。FWDによるたわみ量の測定は独立して3回行い、各測定結果から計算されたひずみ量の平均値を求め、以降の実験では当該平均値を路線Bについてのひずみ量として用いた。なお、以下、FWDを用いて各舗装の現場において測定されたたわみ量に基づいて得られたひずみ量を「現場ひずみ」という場合がある。得られた結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示すとおり、路線Bについての現場ひずみは10.8×10―6と計算された。この現場ひずみと図2に示す破壊基準曲線とに基づいて、当該現場ひずみに対応する疲労破壊までの繰り返し回数を、舗装に対し前記荷重(49kN)が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数として得た。また、実施例1においてと同様、式(6)及び(7)に従って、得られた許容載荷回数に基づいて、アスファルト混合物層の上面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を推定した。なお、上述したとおり路線Bの表層のアスファルト混合物層と路線Aの表層のアスファルト混合物層は同じ組成であり、また、設計厚さも同じであるので、以上の工程においては、実施例1と同様、図2に示す破壊基準曲線を用いて許容載荷回数を推定した。得られた結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
表6に示されるとおり、路線Bについての現場ひずみは10.8×10―6であり、当該現場ひずみと図2に示す破壊基準曲線に基づき得られた破断までの許容載荷回数は984,359回であった。この値を式(6)及び(7)に基づいて、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると1,665,838回であった。表4に示すとおり、本路線における設計交通量区分はN5である。交通量区分N5における疲労破壊輪数は1,000,000回/10年であることに鑑みると、以上の許容載荷回数の推定値は、路線Bは約16年供用可能であることを示している。この推定値は、路線Aについて予測された残存寿命(約11~12年)よりも長いものであり、路線Bの設計寿命(20年)が路線Aの設計寿命(10年)よりも長いことを反映するものである。しかしながら、路線Bについての残存寿命の予測値は、設計期間である20年から既に供用された2年を差し引いた18年よりも若干短かった。
【0074】
<実施例3>
許容載荷回数の推定に用いる破壊基準曲線として、ε-N曲線に代えて、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)を用いて、路線A及び路線Bの残存寿命を評価した。
【0075】
まず、路線A及び路線Bのアスファルト混合物層(表層)について、破壊基準曲線として、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)を得た。すなわち、路線A及び路線Bの表層の構築に用いられたアスファルト混合物(再生密粒20F)から作成した供試体を用いて、実施例1及び2で行った曲げ疲労試験に加えて、更に、「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B005 曲げ試験方法」に記載の方法に従って曲げ試験を行い、当該供試体についての破断ひずみ(ε)を得た。得られた破断ひずみ(ε)に基づいて、ひずみ(ε)を破断ひずみ(ε)で除した比率(ε/ε)(以下、「ひずみ比」ということがある)と当該ひずみ比に相当するひずみを前記供試体に繰り返し与えた場合に前記供試体が破断するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)を破壊基準曲線として得た。得られた破壊基準曲線を図3に示す。
【0076】
次に、実施例1及び2において、路線A及び路線Bについて、FWDを用いてたわみ量の測定を行い、ひずみ量を求めたことに加えて、路線A及び路線Bのそれぞれから大きさ30cm×30cm程度のアスファルト混合物層(表層)を試験片として切り出し、当該試験片を用いて「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B005 曲げ試験方法」に記載の方法に従って、曲げ試験を行い、破断ひずみ(ε)を得た。なお、以下、各現場の舗装から切り出された試験片を用いて測定された破断ひずみを「現場破断ひずみ」という場合がある。FWDにより得られた現場ひずみと曲げ試験により得られた現場破断ひずみに基づいてひずみ比(ε/ε)を得た。当該ひずみ比は、49kNの荷重が舗装に載荷される場合に、当該舗装のアスファルト混合物層に発生すると想定されるひずみ(ε)を現場破断ひずみ(ε)を基準として規格化した値である。すなわち、49kNの荷重の載荷により発生するアスファルト混合物層のひずみが、現場破断ひずみ(ε)と比較してどの程度の大きさかを示す値である。得られたひずみ比と図3に示す破壊基準曲線とに基づいて、当該ひずみ比に対応する疲労破壊までの繰り返し回数を、舗装に対し前記荷重(49kN)が繰り返し載荷された場合に前記アスファルト混合物層が疲労破壊するまでの許容載荷回数として得た。また、実施例1及び2においてと同様、式(6)及び(7)に従って、得られた許容載荷回数に基づいて、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を推定した。得られた結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7に示されるとおり、路線Aについての現場ひずみは34.6×10―6、現場破断ひずみは7,697×10―6であった。当該現場ひずみ及び現場破断ひずみから得られるひずみ比は0.00450である。当該ひずみ比と図3に示す破壊基準曲線に基づき得られた破断までの許容載荷回数は729,416回であった。これをアスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると1,234,397回であった。表1に示すとおり、路線Aにおける設計交通量区分はN5である。交通量区分N5の舗装に要求される疲労破壊輪数は1,000,000回/10年であることに鑑みると、以上の載荷回数の推定値は、路線Aは約11~12年供用可能であることを示している。この結果は、路線Aの設計寿命は10年であり、路線Aの供用年数は1年であることとよく対応しており、また、この結果から路線Aは設計基準を満たしていることが分かる。
【0079】
一方、同じく表7に示されるとおり、路線Bについての現場ひずみは10.8×10―6、現場破断ひずみは14,135×10―6であった。当該現場ひずみ及び現場破断ひずみから得られるひずみ比は0.00076である。当該ひずみ比と図3に示す疲労曲線に基づき得られた許容載荷回数は1,244,551回であった。これをアスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると2,106,164回であった。表4に示すとおり、路線Bにおける設計交通量区分はN5である。交通量区分N5の舗装に要求される疲労破壊輪数は1,000,000回/10年であることに鑑みると、以上の許容載荷回数の推定値は、路線Aは約21年供用可能であることを示している。この結果は、路線Bの設計寿命は20年であり、路線Bの供用年数は2年であることとよく対応しており、また、この結果から路線Bは設計基準を満たしていることが分かる。
【0080】
以上の結果は、ひずみ比を用いること、すなわち、疲労破壊におけるひずみの大きさをアスファルト混合物層の破断ひずみを基準とした相対的な大きさとして整理することにより、供用による経年劣化の影響を受け難い破壊基準曲線(ε/ε-N曲線)が得られ、供用後の舗装についても、精度よく、舗装の残存寿命を評価できることを示している。
【0081】
<実施例4>
実施例3において推定されたひずみ量を、多層弾性理論に基づき補正し、アスファルト混合物層の下層に存在する構造物(例えば、路盤層及び路床等)の影響を考慮して、路線A及び路線Bについて、舗装の残存寿命を評価した。
【0082】
表1及び表4に示した路線A及び路線Bの層構成に基づいて、路線A及び路線Bのそれぞれについて、多層弾性理論に基づき、想定される交通荷重(49kN)を上記舗装に載荷した場合に表層のアスファルト混合物層に発生すると推定されるひずみ量(ε)と、想定される交通荷重(49kN)を上記舗装に載荷した場合に発生すると推定される載荷中心における舗装のたわみ量(D)及び載荷中心から半径方向に200mm離れた位置における舗装のたわみ量(D200)を求めた。得られたD及びD200を上記式(5)に代入して、対応するひずみ量(ε)を求めた。両者の比率(ε/ε)を、多層弾性理論に基づくひずみ量と上記式(5)に基づくひずみ量のズレを補正するための補正係数として得た。なお、路線A及び路線Bのいずれについても補正係数は1.3であった。多層弾性理論に基づくひずみ量、たわみ量及び補正係数の計算は、舗装構造解析プログラム「GAMES」を用いて行った。
【0083】
実施例3において得られたひずみ量に上記補正係数を乗じ、得られた値を補正現場ひずみとした。補正現場ひずみ及び実施例3において得られた現場破断ひずみに基づいて、ひずみ比(補正現場ひずみ/現場破断ひずみ)を計算し、得られたひずみ比と図3に示す破壊基準曲線に基づいて、アスファルト混合物層が破断するまでの許容載荷回数を得、上記式(6)及び(7)に従って、舗装表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数を求めた。得られた結果を表8に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
表8に示すとおり、路線Aについての現場ひずみは34.6×10―6であり、これに多層弾性理論に基づき得られた補正係数1.3を乗じて得た補正現場ひずみは45.0×10―6であった。一方、路線Aから切り出した試験片より得られた現場破断ひずみは7,697×10―6であるから、ひずみ比(補正現場ひずみ/現場破断ひずみ)は0.00584と計算された。当該ひずみ比と、図3に示す破壊基準曲線に基づき得られる許容載荷回数は602,336回であった。この値を、上記式(6)及び(7)に基づいて、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると1,019,339回であった。この結果から予測される路線Aの残存寿命は約10年である。この結果は、路線Aの設計寿命は10年であり、路線Aの供用年数は1年であることと極めてよく一致するものであった。
【0086】
一方、同じく表8に示すとおり、路線Bについての現場ひずみは10.8×10―6であり、これに多層弾性理論に基づき得られた補正係数1.3を乗じて得た補正現場ひずみは14.2×10―6であった。一方、路線Bより切り出した試験片より得られた現場破断ひずみは14,135×10―6であるから、ひずみ比(補正現場ひずみ/現場破断ひずみ)は0.00099と計算された。当該ひずみ比と、図3に示す破壊基準曲線に基づき得られる許容載荷回数は1,204,324回であった。この値を、アスファルト混合物層の上面、すなわち、舗装の表面にひび割れが発生するまでの許容載荷回数に換算すると2,038,086回であった。この結果から予測される路線Bの残存寿命は約20年である。この結果は、路線Bの設計寿命は20年であり、路線Bの供用年数は2年であることと極めてよく一致するものであった。
【0087】
また、路線Aと路線Bについて推定された残存寿命を比較すると、その比は2.0となり、路線Aの設計寿命(10年)と路線Bの設計寿命(20年)の違いを極めてよく反映した評価結果が得られた。
【0088】
以上の結果は、ひずみ比と多数弾性理論の組み合わせによれば、供用後、かつ、比較的長い設計期間を有する舗装についても、極めて精度よく、舗装の残存寿命を評価できることを示している。
【0089】
<実験例>
ひずみ比(ε/ε)を基準とする破壊基準曲線(ε/ε-N曲線)が経年変化後の舗装についても適用できることをモデル実験により検証した。
【0090】
具体的には、アスファルト混合物(長寿命改質アスファルト(製品名「シナヤカファルト」、ニチレキ株式会社製)、密粒度アスファルト混合物(13))から厚さ4cmの供試体を作製し、20℃において曲げ試験及び曲げ疲労試験を行い、得られた結果から、ひずみ(ε)と当該ひずみを供試体に繰り返し与えた場合に当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)と、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と、当該比率に相当するひずみを供試体に繰り返し与えた場合に当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)の2種類の基準曲線を得た。一方、アスファルト混合物は経年変化することにより、次第に硬くなることが知られている。そこで、経年劣化モデルとして、同じくアスファルト混合物(長寿命改質アスファルト(製品名「シナヤカファルト」、ニチレキ株式会社製)、密粒度アスファルト混合物(13))から同様にして厚さ4cmの供試体を作製し、5℃において曲げ試験及び曲げ疲労試験を行い、得られた結果から、ひずみ(ε)と当該ひずみを供試体に繰り返し与えた場合に当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す疲労曲線(ε-N曲線)と、ひずみ(ε)の破断ひずみ(ε)に対する比率(ε/ε)と、当該比率に相当するひずみを供試体に繰り返し与えた場合に当該供試体が疲労破壊するまでの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)の2種類の基準曲線を得た。なお、曲げ試験及び曲げ疲労試験は、それぞれ「平成31年度版 舗装調査・試験法便覧」(公益社団法人 日本道路協会)の「B005 曲げ試験方法」及び「B018T アスファルト混合物の曲げ疲労試験方法」に記載の方法に従って行った。得られた結果を図4及び図5に示す。
【0091】
図4に示すとおり、20℃における実験から得られたε-N曲線と比較して、経年劣化モデルである5℃における実験から得られたε-N曲線は若干左にスライドした。この挙動は、経年劣化によるアスファルト混合物の疲労曲線のスライド現象とよく一致する挙動であり、5℃における実験によりアスファルト混合物の経年劣化が良く再現できていることを示している。
【0092】
一方、図5に示すとおり、ひずみ比を基準として、ひずみ比と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)を描いた場合、20℃における実験から得られた基準曲線と5℃における実験から得られた基準曲線はぴったりと重なった。この結果は、ひずみ比を基準とする、ひずみ比と疲労破壊までの繰り返し回数(N)の関係を表す基準曲線(ε/ε-N曲線)は、経年劣化による変動を受け難いことを示しており、当該基準曲線によれば、経年変化後に基準曲線を取得せずとも、経年変化後の疲労の程度を適切に評価し得ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したとおり、本発明に係る舗装の残存寿命を評価する方法によれば、舗装に過度の損傷を与えることなく、また、少ない作業負担で、舗装の残存寿命を評価することができる。また、一実施態様によれば、供用後の舗装についても、より正確に残存寿命を評価することができる。残存寿命の適切な予測により、より地球環境に配慮した舗装補修計画の策定等が実現され得る。本発明が道路管理者や道路施工者にもたらす利便性には極めて多大であり、その産業上の利用可能性は大きい。

図1
図2
図3
図4
図5