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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072596
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】量子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20240521BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H10N60/10 Z ZAA
H01L25/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183516
(22)【出願日】2022-11-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】菊池 克
(72)【発明者】
【氏名】宮田 明
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC08
4M113AC45
4M113AC48
4M113AC50
4M113AD21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】超伝導量子回路を立体配線構造で実装する量子デバイスにおいて、複数のチップを組み立てた状態でのテストを安定した接続性能を確保して行うことを可能とするとともに、外部との接続のための接続端子領域を確保可能とする量子デバイスを提供する。
【解決手段】量子デバイス1は、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する第1のチップ10と第2のチップ20を備える。第1のチップと第2のチップとを組み立てた状態で、第1のチップは、第2のチップの外周の側縁より張り出した領域18を有し、張り出した領域に端子12を有する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導量子回路を立体配線構造で実装する第1のチップと第2のチップを備え、
前記第1のチップと前記第2のチップとを組み立てた状態で、前記第1のチップは、前記第2のチップの外周の側縁より張り出した領域を有し、前記張り出した領域に端子を有する、ことを特徴とする量子デバイス。
【請求項2】
前記第1のチップと前記第2のチップは、前記第1のチップの第1の面と、前記第2のチップの第1の面とを対向させて配置され、
前記第1のチップの前記第1の面と前記第2のチップの前記第1の面の少なくとも一方に、量子ビット回路が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の量子デバイス。
【請求項3】
前記第1のチップの前記張り出した領域は、前記第2のチップの側縁から張り出した前記第1のチップの外縁部とされ、
前記第1のチップの前記外縁部に配置された前記端子は、前記第1のチップと前記第2のチップを組み立てた状態の前記第1のチップ及び/又は前記第2のチップのテストに用いられる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項4】
前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を、前記第1のチップと前記第2のチップの少なくとも一方に備えている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項5】
前記第2のチップは、前記第2のチップの外周部に、前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項6】
前記第2のチップは、前記第2のチップの四つのコーナーの少なくとも一つに、前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を備えた、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項7】
前記被テスト回路は、量子ビット(qubit)、量子ビット結合器(qubit coupler)、共振器、発振器、超伝導量子干渉デバイス (Superconducting Quantum Interference Device, SQUID)、磁場印加回路の少なくとも一つを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の量子デバイス。
【請求項8】
複数の前記端子は、前記被テスト回路の信号線に接続する信号端子と、グランドに割り当てられたグランド端子を備え、
前記信号端子の両側に前記グランド端子が配設され、相隣る前記信号端子の間の前記グランド端子は面積が前記信号端子の面積よりも大であるか、前記信号端子と同一面積の前記グランド端子の個数が1つ以上である、ことを特徴とする請求項4に記載の量子デバイス。
【請求項9】
前記第1のチップにおいて、前記第2のチップと対向する面の反対面に外部と接続する接続端子を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【請求項10】
前記第2のチップにおいて、前記第2のチップと対向する面の反対面に外部と接続する接続端子を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子デバイスに関し、特に超伝導量子回路を備えた量子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子ビット回路を備えた量子デバイスにおいて、量子ビット数の増加に合わせて、平面から立体的な配置とする検討が進められている。立体配線構造を備えた量子デバイスの関連技術として、例えば特許文献1には、図8に示すように、量子ビット回路206のアレイが設けられた第1のチップ202と、第1のチップ202とバンプ結合214を介して対向配置され、量子ビット回路206の読み出し素子208と制御素子210、212を備えた第2のチップ204を備えた積層型の量子デバイスが開示されている。
【0003】
特許文献2には、ベース基板上に第1及び第2の量子ビット基板がフェースダウンで実装され、第1の量子ビット基板の第1の超伝導配線の2つの端部と、ベース基板上の第3の超伝導配線の一方の2つの端部とが超伝導はんだを介して接合し、第2の量子ビット基板の第2の超伝導配線の2つの端部と第3の超伝導配線の他方の2つの端部とが超伝導はんだを介して接合し、第1から第3の3つの超伝導配線は1つの連続した超伝導ループを形成した構成が開示されている。特許文献3には、量子コンピューティング装置がインターポーザに取り付けられた量子回路デバイスを備え、インターポーザは量子回路デバイスの表面上の端子(電気接点)と接続する中間層(intermediate layer)と、中間層を支持しケーブル用のコネクタを備えたコネクタ化層(connectorization layer)を含む構成が開示されている。さらに特許文献4には、量子ビットを備えた第1のチップと、前記第1のチップに結合されている第2のチップを備え、第2のチップは互いの反対側を向いた第1および第2の表面を有する基板を含み、前記第1の表面が前記第1のチップに面している構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0058702号明細書
【特許文献2】国際公開第2018/212041号
【特許文献3】米国特許第9836699号明細書
【特許文献4】特許第6789385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記関連技術に開示された積層型の量子デバイスは、複数の部材(例えば複数のチップ)により構成されている。複数の部材を量子デバイスに組み立てる前に各々の部材を検査(テスト)するだけでは、量子デバイスに組み立てた後の量子ビット回路の特性を判定することはできない。
【0006】
本開示の目的は、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する量子デバイスにおいて、複数のチップを組み立てた状態でのテストを、安定した接続性能を確保して行うこと可能とするとともに、外部との接続のための接続端子領域を確保可能とした量子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示で開示される一つの形態によれば、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する第1のチップと第2のチップを備え、前記第1のチップと前記第2のチップとを組み立てた状態で、前記第1のチップは、前記第2のチップの外周の側縁より張り出した領域を有し、前記張り出した領域に端子を有する、ことを特徴とする量子デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する複数のチップを組み立てた状態でのテストを、安定した接続性能を確保して行うことを可能とするとともに、外部との接続のための接続端子領域を確保可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本開示の実施形態の構成を説明する模式斜視図である。
図1B】本開示の実施形態の構成を説明する模式平面図である。
図1C】本開示の実施形態の構成を説明する模式端面図である。
図2A】本開示の実施形態を説明する模式平面図である。
図2B】本開示の実施形態を説明する模式平面図である。
図3A】本開示の第2の量子チップの非限定的な一例を説明する模式平面図である。
図3B】本開示の第1の量子チップの非限定的な一例を説明する模式平面図である。
図3C】本開示の量子デバイスの非限定的な一例を説明する模式断面図である。
図3D】本開示の量子デバイスの別の非限定的な例を説明する模式断面図である。
図4】本開示の量子デバイスの非限定的な例を説明する模式平面図である。
図5A】本開示の被テスト回路(量子ビット)の非限定的な一例を説明する模式平面図である。
図5B】本開示の被テスト回路(量子ビット)の非限定的な別の例を説明する模式平面図である。
図5C】本開示の被テスト回路(結合器)の非限定的な一例を説明する模式平面図である。
図6】本開示のプローブテストを説明する模式平面図である。
図7】本開示の実施形態の変形例を説明する模式平面図である。
図8】関連技術(特許文献1)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
超伝導量子回路を立体配線構造で実装する量子デバイスにおいて、複数のチップを組み立てた状態で該量子デバイスのパッド(接続端子)に高周波プローブ(プローブ針)の先端を接触させてテストを行う場合、パッド表面に凹凸(傷、接触痕)が発生する。この量子デバイスを、コネクタを備えた基板(PCB(Printed Circuit Board))等に接続し該コネクタから同軸ケーブル等を介して信号発生器や信号受信機(読み出し部)に接続して動作させる場合、量子デバイスの当該パッドにおいてPCBのパッドとの間で安定した接合を得ることが困難となる場合が生じ得る。
【0011】
この問題に対処するため、複数部材を組み立てた状態で量子ビット回路等をテストするために、テスト専用のパッド(実使用時には用いられない)を設ける場合、チップの外部への接続端子の領域を奪うことになる。例えば第1のチップに結合される第2のチップの前記第1のチップとの対向面(第1面)とは反対側の第2面に、外部への接続端子とテスト用のパッドとを備えた場合、外部への接続端子の領域は、テスト専用のパッドのために確保された領域によって制限される。
【0012】
上記課題は一つの例であるが、本開示によれば、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する複数のチップを備えた量子デバイスにおいて、様々な場面でのテストにおける接続性能を向上することや、あるいは、様々な場面で外部との接続のための接続端子領域を確保することができる。以下、いくつかの実施形態を説明する。
【0013】
図1Aは、本開示の実施形態の構成を説明する模式斜視図である。図1Aを参照すると、量子デバイス1は、第1のチップ10と、第1のチップ10に積層される第2のチップ20と、を備えている。第2のチップ20は、量子ビット等の超伝導量子回路が形成された第1面を下にして第1のチップ10の第1面(表面)に実装されている。ここでは、対向配置される第1のチップ10と第2のチップ20の各チップについてその対向面を第1面という。第1のチップ10の平面形状(矩形)は、第2のチップ20の平面形状(矩形)よりも大とされ、第1のチップ10は、第1面に第2のチップ20を搭載した状態で、第2のチップ20の外周の側縁から外側に張り出した領域(張り出し領域)18を備えている。第1のチップ10の張り出し領域18には、テスト専用の端子(電極パッド)12が、第1のチップ10の側縁に沿って複数設けられている。
【0014】
図1Bは、図1Aの量子デバイス1を上方(z軸の正方向)から見た模式平面図である。図1Bにおいて、第2のチップ20の破線で囲む領域21は、量子ビット回路が設けられた領域である。参照符号22で示す十字形状の回路は、第2のチップ20において、量子ビット回路が設けられた領域21とは、別の領域に設けられたテスト用の回路(被テスト回路)である。被テスト回路22は、領域21に設けられた量子ビット回路と同一構成の量子ビット回路であってもよい。
【0015】
被テスト回路22は、第2のチップ20の第1面(表面)の配線層において、第1のチップの外周部に配設されたテスト用の端子12との接続の距離等を考慮すると、好ましくは、第2のチップ20の外周部に配設される。さらに、第1のチップ10に第2のチップ20を搭載する時の位置精度について、第2のチップ20の四つのコーナーの少なくとも一つのコーナーに配設することが好ましい。なお、図1A図1Bでは、テスト専用の端子(パッド)12の列が、第1のチップ10の外周部において各辺の全範囲に沿って所定のピッチで設けられており、端子12やその列を欠いた領域は存在していないが、端子(パッド)12は、第1のチップ10の辺の一部の範囲に設ける構成としてもよい。
【0016】
図1Cは、図1Aの量子デバイス1を側面(y軸の正方向)から見た模式端面図である。図1Cでは、配線層、バンプ等は説明のため、金属部材の断面を表すハッチングが施してある。第1のチップ10は、基板15の第1面(第2のチップ20の第1面に対向する面)に配線層13を有する。第2のチップ20の基板25の第1面の配線層23の領域21内に設けられた量子ビット回路の接続端子(配線パッド)は、バンプ(金属突起)32を介して、第1のチップ10の第1面の配線層13の接続端子(配線パッド)と電気的に接続する。第2のチップ20の第1面の配線層23の領域21の外部に設けられた被テスト回路22の接続端子は、バンプ(金属突起)31を介して、第1のチップ10の第1面の配線パッドに接続し配線14を介して端子12に接続する。なお、第2のチップ20の配線層23の領域21内の量子ビット回路と被テスト回路22は、第2のチップ20を作製する半導体プロセスのパタンニング工程でパタン形成するようにしてもよい。第1のチップ10の配線層13と配線14、端子12は、第1のチップ10を作製する半導体プロセスのパタンニング工程でパタン形成するようにしてもよい。
【0017】
被テスト回路22は、非線形素子であるジョセフソン接合を含む共振器や発振器(例えばジョセフソンパラメトリック発振器)や、ジョセフソン接合を含む結合器、ループに二つ又はそれ以上のジョセフソン接合を含む超伝導量子干渉デバイス (Superconducting Quantum Interference Device, SQUID)、磁場印加回路や、量子ビット(qubit)であってもよい。さらに、被テスト回路22は、ジョセフソン接合を含まないLC共振回路(超伝導部材からなるLC共振器)等であってもよい。
【0018】
なお、図1Aの例では、第2のチップ20の第1面の配線層23、被テスト回路22は、それぞれバンプ32、31を介して第1のチップ10の第1面の配線パッドに接続されるが、無線結合(容量結合や誘導結合)で接続する構成としてもよい。
【0019】
図1Bを参照すると、第1のチップ10の外周部の端子12として、被テスト回路22に信号の入力及び/又は出力を行う端子(S)の間には、グランド端子(G)が配置される。グランド端子(G)の幅は信号端子(S)の幅以上としてもよい。あるいは、相隣る信号端子(S)の間に複数のグランド端子(G)が配置される構成としてもよい。信号端子(S)の間にグランド端子(G)(グランドパタン)を配置した構成とすることで、クロストークノイズ等の低減を図っている。なお、第1の量子チップ10の外周部の端子12のグランド端子(G)は、配線14を介して1つ又は複数のバンプ31で第2のチップ20の配線層23のグランド面(グランドパタン)に接続するようにしてもよいし、第1の量子チップ10の配線層13のグランド面を延長するかグランド面に接続するようにしてもよい。
【0020】
第2のチップ20において、被テスト回路22は、第2のチップ20の外周部に配置されることが好ましい。これは、第2のチップ20の被テスト回路22は、第1のチップ10の外縁に配設された端子12に接続されるため、第2のチップ20の領域21(量子ビット回路が配置される領域)内に設けるよりも、第2のチップ20の外縁部に配置した方が、配線長が短くなることもその理由の一つである。また、被テスト回路22を第2のチップ20の領域21内に設けた場合、第2のチップ20の領域21は、被テスト回路22を設けた分、量子ビット回路用の面積が削減されることもその理由の一つである。
【0021】
さらに、被テスト回路22を第2のチップ20の領域21内に設けた場合、被テスト回路22をテストした後に、量子デバイス1として実使用時に、被テスト回路22による量子ビット回路への影響を考慮したことも、その理由である。例えば、図8において、量子ビット回路206の特性等を評価する場合、量子ビット回路206の通常の読み出し素子208とは別にテスト専用の読み出し素子を第2のチップ204に設け、テスト専用の読み出し素子をバンプ等で第1のチップ202のテスト対象の量子ビット回路206のテスト専用ポートに接続させる必要がある。この場合、テスト後も、量子ビット回路206には、実使用時に使用されるポート(読み出しポート)のほか、量子ビット回路206に近接してテスト専用ポートが存在し、量子ビット回路206への入出力信号がテスト専用ポートにも結合(例えば容量結合又は誘導結合)して信号の漏洩、反射等が生じる可能性があり、その結果、量子ビット回路206の性能に影響を与える可能性がある。
【0022】
第2のチップ20において、被テスト回路22は、第2のチップ20の四つのコーナー(隅)、三つのコーナー、二つのコーナー、又は、一つのコーナーのいずれかに配置することがより好ましい。これは、チップの搭載精度から、第2のチップ20のコーナーは、パタンの位置ずれ等の影響が大きいためである。
【0023】
例えば、図2Aに模式的に示すように、第2のチップ20の平面形状を、縦:2a、横幅:2b (b<a)とする矩形とし、中心から角度θの位置ずれが生じた場合、被テスト回路22は22’の位置に移動する。第2のチップ20のコーナー部は、図の矢線方向にほぼ{√(a2+b2)}*sinθ≒{√(a2+b2)}*θのずれが生じ、縦辺の中間点では、a*sinθのずれが生じ、横辺の中間点では、b*sinθのずれが生じ、辺の中間点と該辺の一端との間では、{√(a^2+b^2)}*sinθよりも小さなずれとなる。したがって、被テスト回路22を第2のチップ20のコーナー部に配置することで、角度θの位置ずれが生じた被テスト回路22’と本来の位置の被テスト回路22との間の離間距離は、被テスト回路22を他の位置に配置した場合よりも大となることがわかる。
【0024】
ただし、第2のチップ20において、被テスト回路22は第2のチップ20のコーナーにのみ配置されるものでなく、一つ乃至四つの被テスト回路22を第2のチップ20のコーナーに配置すれば、他の被テスト回路をコーナーの間の辺に沿って配置してもよいことは勿論である。
【0025】
図2Bは、第1のチップ10に搭載される第2のチップ20の回路(配線)パタンのずれの様子を模式的に説明する図である。(a)では、第1のチップ10に対して第2のチップ20の被テスト回路22が正しく搭載されている。(b)では、第1のチップ10に対して第2のチップ20の被テスト回路22の搭載位置に回転ずれが生じている。(c)では、第1のチップ10に対して第2のチップ20の被テスト回路22の搭載位置にxy座標平面上での位置ずれが生じている。
【0026】
第1のチップ10と第2のチップ20間でのパタンの位置ずれが大きくなると、グランド(GND)パタンが各回路に近接するため、キャパシタンスが大きくなる。共振器、発振器、結合器などのグランドとの結合力(グランドとの間のキャパシタンスによる容量性の結合)が変化すると、量子性を示すコヒーレンス状態が変化する。例えば、結合が強くなるとエネルギー損失が大きくなり、コヒーレンス時間(量子重ね合わせ状態が持続する時間の長さ)が短くなる。被テスト回路22の測定として、SQUIDに用いるジョセフソン接合の臨界電流値Iの測定や既定の電流値範囲を維持しているかで、被テスト回路22の性能(特性)の判定を行うようにしてもよい。被テスト回路22が量子ビット回路、結合器等の場合、Q値等を測定するようにしてもよい。
【0027】
図1Cにおいて、第2のチップ20の基板25は、例えばシリコン(Si)を含む。ただし、基板15はシリコンを含むものに限らず、サファイアや化合物半導体材料(IV族、III-V族、II-VI族)等の他の電子材料を含んでもよい。また、単結晶である方が望ましいが、多結晶やアモルファスでもよい。
【0028】
第2のチップ20の第1面の配線層23は、超伝導量子回路の配線パタンとグランド面(グランドパタン)を含む。配線層23(被テスト回路22の配線も含む)は、ニオブ(Nb)等の超伝導材料を含んでいる。なお、配線層13に用いられる超伝導材料は、例えば、ニオブ(Nb)に制限されるものでなく、ニオブ窒化物、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、レニウム(Re)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、及び、これらのうちの少なくともいずれかを含む合金であってもよい。
【0029】
第2のチップ20は、その第1面の配線層23、被テスト回路22を、第1のチップ10の第1面の配線層13に対向させてバンプ32、31で接続する。すなわち、第2のチップ20の第1面の配線層23と被テスト回路22の端子(配線パッド)を、バンプ(金属突起)32、31で、第1のチップ10の第1面の配線層13の対応する端子(配線パッド)と、配線14の配線パッドに直接接続させる。なお、バンプ32、31は、第1のチップ10の第1面の配線層13に形成してもよいし、第2のチップ20の第1面の配線層23側に形成してもよい。
【0030】
バンプ31は、接合する基板間隔の高さの制御に適した突起状であり、柱状(円柱、多角柱等)、錐状(円錐台、角錐の他、円錐台、角錐台等も含み得る)、球状、矩形等の任意の形状を選定できる。バンプ31(32)は、常伝導材料で構成して超伝導材料の積層により成型してもよい。バンプ31は、第2のチップ20の配線層23と同じ超伝導材料を含んでもよいし、配線層23と異なる超伝導材料を含んでもよい。
【0031】
バンプ31が複数の金属層を含む場合には、少なくとも1層は、超伝導材料を含むことが好ましい。バンプ31(32)は、Nb/In(Sn、Pb及びこれらのうちの少なくともいずれかを含む合金)/Ti/Nb(第1のチップ10の配線層13の表面)/銅(Cu)を含む層状でもよいし、Nb(第2のチップ20の配線層23の表面)/Nb(第1のチップ10の配線層13の表面)/Cuを含む層状でもよいし、Nb(第2のチップ20の配線層23の表面)/In(Sn、Pb及びこれらのうちの少なくともいずれかを含む合金)/Ta(第1のチップ10の配線層13の表面)/Cuを含む層状でもよい。また、バンプ31(32)がAl及びInを含む場合には、AlとInとの間の合金化を防ぐために、TiNをバリア層に用いてもよい。その場合、バンプ31(32)は、Al(第2のチップ20の配線層23の表面)/Ti/TiN/In(Sn、Pb及びこれらのうちの少なくともいずれかを含む合金)/TiN/Ti/Al(第1のチップ10の配線層13の表面)/Cuを含む層状でもよい。ここで、Tiは密着層である。好ましいフリップチップ接続は、Nb(第2のチップ20の配線層23の表面)/In/Ti/Nb(第1のチップ10の配線層13の表面)/Cu、または、Nb(第2のチップ20の配線層23の表面)/Nb(第1のチップ10の配線層13の表面)/Cuである。あるいは、バンプ31(32)は、例えばCu等の常伝導部材又は二酸化シリコン(SiO2)等からなり、その表面を超伝導材料の膜が覆う構成としてもよい。
【0032】
特に制限されないが、非限定的な一例として、バンプ31(32)の幅は数乃至数十μm(micrometer)のオーダ、バンプ31(32)の高さは数乃至数十μmのオーダであってもよい。チップ10とバンプ31(32)の接合は、例えば固相接合で行うようにしてもよい。冷凍機内は真空排気される。また、固相接合のなかでも表面活性化接合や超音波接合工法で行ってもよい。さらに、接合の際に高温を加えることが可能な場合には溶融接合を行ってもよく、樹脂を使用できる場合には圧接接合を行ってもよい。
【0033】
第1のチップ10の基板15は、第2のチップ20の基板25がシリコンの場合、線膨張係数等を考慮すると、シリコンが用いられる。この場合、第1のチップ10は、シリコンインターポーザともいう。ただし、基板15は、シリコンを含むものに限らず、サファイアや化合物半導体材料(IV族、III-V族、II-VI族)、ガラス、セラミック等の他の電子材料を含んでもよい。バンプ31、32は、第1のチップ10の製造プロセスで第1面の配線層13上に製造するようにしてもよい。
【0034】
第1のチップ10の第1面の配線層13は、上述した超伝導材料を含んでいる。第1面の配線層13は、第2のチップ20の第1面の配線層23と同じ超伝導材料を含んでもよいし、異なる超伝導材料を含んでもよい。
【0035】
第1のチップ10、第2のチップ20は、個別に、それぞれ回路形状等から良否判定(選別)を行うことは可能であるが、組み立て後の量子ビット回路の特性(コヒーレンス時間やそれにまつわるQ値などの値)を判定することは不可能である。
【0036】
これは、第1のチップ10の第1面の量子ビット回路と第2のチップ20の第1面の量子ビット回路のように、異なる回路の近接距離が変化すると、量子ビット回路の特性が変化することも要因の一つである。すなわち、図2B等に示した平面方向の位置ずれのほか、第1のチップ10と第2のチップ2の対向面同士の距離も、量子ビット回路の特性に影響する。
【0037】
また、第1のチップ10と第2のチップ20のバンプ接続等による位置ずれも組み立て後の量子ビット回路の特性が変化する要因でもある。第1のチップ10と第2のチップ20の接続部分は高さばらつきを抑える必要がある。
【0038】
接続電極(バンプ)/接続端子(パッド)の高さばらつきが低いことだけではなく、第1のチップ10と第2のチップ20の接続面の平坦性も高いことが必要とされる。接続部を保護するアンダーフィルなどの誘電体は、量子ビット回路の特性の劣化の原因となるため、配置できない。
【0039】
このため、第1のチップ10と第2のチップ20の接続安定性を得るには、所定の高さばらつきと平坦性が必要とされる。例えば、
・高さばらつき:±15%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、
・平坦性:算術平均粗さ(Ra)が1nm(nanometer)以下、好ましくは0.5nm以下、より好ましくは0.1nm以下で、 超伝導材料にて接合される(ただし、上記に制限されない)。
【0040】
第1のチップ10と第2のチップ20を備えた量子デバイス1において、外部へ接続するための接続端子(パッド)においても、同様に接続部を保護するアンダーフィルなどの誘電体を用いることができないことから、接続端子面の高さばらつきや平坦性が必要とされる。このため、外部への接続端子(パッド)に傷(凹凸)を付けるプローブテストは実施不可能である。
【0041】
上記理由により、本実施形態では、量子ビット回路のテストを行う場合は、接続電極等に接続しない端子(パッド)をテスト専用の端子としている。
【0042】
図3Aは、第2のチップ20の非限定的な一例を示す模式平面図である。第2のチップ20の配線層23の領域21には、LHZ(Lechner, Hauke, Zoller)方式により近接四体相互作用するジョセフソンパラメトリック発振器(Josephson Parametric Oscillator, JPO)による量子アニーリングマシンの配線パタンが作製されている。LHZ方式は、最適化問題が、多数のイジング(Ising)スピン間の長距離相互作用の制御を要するという課題を、局所相互作用のグラフにマッピングすることで解決しており、N個の論理スピンの対は、M=N(N-1)/2個の物理スピンにマップされる。図3Aの領域21には、M=4の論理スピンの全結合(fully connected)型イジングマシンが模式的に例示されており、三つの結合器(結合器1、2、3)と、6つの量子ビット(JPO1~JPO6)からなるネットワークを有する。量子ビット(JPO7、JPO8)は、固定ビットである。量子ビットは、ジョセフソンパラメトリック発振器(JPO)で構成されている。複数のJPOと複数の結合器はピラミッド形の四角格子状に配置されて、四つの量子ビット(JPO)と、四つの量子ビット(JPO)が容量結合する結合器とが単位構造(基本ユニット)を構成する。JPOはそれぞれIO(入出力)ラインとポンプラインを有する。領域21の外部の四隅には、被テスト回路22として、イジングマシンを構成する量子ビット(JPO)と同一の量子ビット(JPO)が配設されている。JPOは、超伝導材料からなり、その平面形状は、例えば、アームが等しい長さでそれぞれの中央で直角に交差する十字型の電極構造とされる。JPOの十字型電極の四つのアームのうちの一つと容量結合するIOラインの結合ポート(IOポート)を白丸で表し、JPOの十字型電極の一つのアームに接続するSQUID共振器に誘導結合するポンプラインの結合ポート(ポンプポート)を灰色の丸で表している。図3Aにおいて、被テスト回路である量子ビット(JPO)のIOポートIO-9~IO-12、ポンプポートB-9~B-12は不図示のバンプで第1のチップ10の配線層に接続される。なお、JPOの平面形状は十字型に制限されるものでないことは勿論である。
【0043】
図3Bの(a)は、第1のチップ10の第1面に第2のチップ20の第1面を対向させてバンプ(31、32)で接続して組み立てた場合の一例を模式的に示す平面図である。なお、図3Bでは、第1のチップ10の配線層13において、第2のチップ20の配線層23の領域21内の配線パッドにバンプ32で接続する配線パッドと、第2のチップ20の配線層23の領域21(二点鎖線)内の配線パタンを重ね合わせて示している。図3Bにおいて、IO-9~IO-12、B-9~B-12は、第2のチップ20の四隅に設けられた被テスト回路22であるJPO9~JPO12のIOポートIO-9~IO-12、ポンプポートB-9~B-12にバンプ31を介して接続する第1のチップ10の配線層上のパッドも表している。パッドB-9~B-12、IO-9~IO-12は、それぞれ信号配線で端子12(信号端子)に接続する。第2のチップ20の配線層のJPO11のIOポートIO-11、ポンプポートB-11に接続する第1のチップ10の配線層のパッドIO-11、B-11が接続する端子(信号端子(S))の間には、グランド端子(G)が2つ分設けられている。
【0044】
第1のチップ10の配線層13と、第2のチップ20のコーナー部に対応する領域19において、パッドIO-11とB-11と、端子IO-11と端子B-11は、それぞれの縁のまわりを間隙を挟んでグランド面(グランドパタン)で囲繞されており、パッドIO-11、B-11と、端子(IO-11)、端子(B-11)をそれぞれ接続する配線(信号配線)14は、その両側に間隙を介してグランド面(グランドパタン)が配設されたコプレーナ線路として構成されている。
【0045】
この場合、第1のチップ10の外周部の端子12の配列として、隣接する信号端子(S)の間の2個分のグランド端子(G)は、図3B(b)に示すように、信号端子(S)の周りを囲むグランド面(グランドパタン)のうち隣接する信号端子(S)(端子(IO-11)と端子(B-11))の間のグランド面(グランドパタン)となる。なお、第1のチップ10の配線層13のグランド面は、第2のチップ20の配線層23のグランド面にバンプ32(図1C)等で接続するようにしてもよい。
【0046】
あるいは、第1のチップ10において、端子12のグランド端子(G)は、配線14とバンプ31(図1A)を介して第2のチップ20のグランド面に接続する構成としてもよい。
【0047】
第2のチップ20の領域21内のJPO1~JPO8のIOポートIO-1~IO-8とポンプポートB-1~B-8は、不図示のバンプで第1のチップ10の配線層のパッドIO-1~IO-8、B-1~B-8にそれぞれ接続する。なお、図3Bでは、簡単のため、第2のチップ20のJPOのIOポートとポンプポートに接続するパッド(第1のチップ10の配線層のパッド)を第2のチップ20のJPOのIOポートとポンプポートと同一の符号としている。
【0048】
第1のチップ10の配線層13のパッドIO-1~IO-8、B-1~B-8は、例えば図3Cに示すように、貫通ビア17を介して、第1のチップ10の第2面(裏面)の配線層16に接続する。第1のチップ10の第2面(裏面)の配線層16は、好ましくは、第1のチップ10の第1面(裏面)の配線層13と同一の超伝導材料で構成される。なお、図3Cでは、第1のチップ10の配線層13のパッドIO-1~IO-8、B-1~B-8に接続するバンプ32と貫通ビア17の平面上の位置を同一としているが、第1のチップ10の配線層のパッドIO-1~IO-8、B-1~B-8に接続するバンプ32と貫通ビア17の平面上の位置は同一でなく、バンプ32と第1のチップ10の配線層との接続点であるパッドを貫通ビア17まで延在させるようにしてもよい。貫通ビア17は、コンフォーマルビア(ビア穴の形状に従って一様の厚さで導体層が形成されたビア)として図示されているが、フィルドビア(ビア穴の内部が導体でうめられたビア)であってもよいことは勿論である。ビア穴の導体は超伝導部材であってもよいことは勿論である。なお、第1のチップ10の配線層16において貫通ビア17から配線を引き回し第1のチップ10の周辺の接続端子(外部と接続するための接続端子)に接続するようにしてもよい。
【0049】
この量子デバイス1を、テスト終了後に実機として使用する時は、例えば第1のチップ10の第2面(裏面)の配線層16(図3C)の接続パッド(接続端子)や貫通ビア17の第2面側のパッドを、PCB(不図示)の配線層に対してバンプ(金属突起)で接続するか、あるいは別のインターポーザ(不図示)の第1面の配線層にバンプで接続し、さらに該インターポーザの第2面の配線層に一端が当接する可動ピンを収容するハウジングを有するソケットを介してPCB(不図示)に接続し、該PCBに設けられたコネクタ(同軸コネクタ等)を介して、希釈冷凍機外部のいずれも不図示の信号源、読み出し回路等に接続するようにしてもよい。
【0050】
あるいは、図3Dに示すように、第2のチップ20の領域21内のJPO1~JPO8のIOポートIO-1~IO-8とポンプポートB-1~B-8は第2のチップ20の基板25に設けられた貫通ビア27を介して第2のチップ20の第2面の配線層26に接続するようにしてもよい。貫通ビア27は、コンフォーマルビアとして図示されているが、フィルドビア(ビア穴の内部が導体で充填されたビア)であってもよいことは勿論である。ビア穴の導体は超伝導部材であってもよいことは勿論である。
【0051】
この量子デバイス1を、テスト終了後に実機として使用する時は、例えば第2のチップ20の第2面(裏面)の配線層26の接続パッド(接続端子)や貫通ビア27の第2面側のパッドをPCB(不図示)の配線層に対してバンプ(金属突起)で接続するか、あるいは別のインターポーザ(不図示)の第1面の配線層にフリップチップ実装し、該インターポーザの第2面の配線層に一端が当接する可動ピンを収容するハウジングを有するソケットを介してPCB(不図示)に接続し、該PCBに設けられたコネクタ(同軸コネクタ等)を介して希釈冷凍機外部のいずれも不図示の信号源、読み出し回路等に接続するようにしてもよい。
【0052】
なお、第1のチップ10において、第2のチップ20のコーナーの被テスト回路22に接続する端子12である信号端子(S)の配置は、例えば図3Bに例示したように、信号端子(S)の2倍以上の幅のグランド端子(G)を信号端子(S)の両側に配置する構成のほか、図4の(a)に示すように、1つのグランド端子(G)と1つの信号端子(S)を交互に配置する(1つ1つの信号端子(S)の両側にグランド端子(G)を配置する)構成(G、S、G、S、G)や、図4の(b)に示すように、1つのグランド端子(G)と1つの信号端子(S)と1つのグランド端子(G)を単位とした構成([G、S、G]、[G、S、G])や、あるいは、図4の(c)に示すように、1つの信号端子(S)を1つのグランド端子(G)と信号端子(S)の2倍以上の幅のグランド端子で挟む構成等を用いてもよい。なお、信号端子(S)は、プローブテスト終了後、未使用端子となるため、両隣のグランド端子(G)に接続するようにしてもよい。
【0053】
図5Aの(a)は、第2のチップ20の被テスト回路22の非限定的な一例として、図3AのJPOの一例とその接続例を模式的に説明する図である。JPOの十字型の電極28の縦アームの一端と、グランド間に接続されたSQUID(ループ内にジョセフソン接合JJ1、JJ2を含む)を備えている。第1の量子チップ10のIO端子(図1の端子12に対応)は、不図示の希釈冷凍機外部のテスト装置(信号源)からの信号を不図示のプローブを介して受ける。IO端子で受信した信号は、バンプ31を介して第2のチップ20の被テスト回路22であるJPOの電極28(横アーム)に、キャパシタンスCcを介した容量結合により伝送され、JPOからの信号(反射信号)は、JPOの電極28(横アーム)からキャパシタンスCcを介した容量結合により、バンプ31を介して、IO端子に伝送され、不図示の希釈冷凍機外部のテスト装置(受信回路)に供給される。不図示の希釈冷凍機外部のテスト装置(信号源)からのマイクロ波信号は、第1の量子チップ10のポンプ端子(図1の端子12に対応)に供給される。なお、図5Aの(a)では、図4の信号端子(S)であるIO端子とポンプ端子の間に配設されるグランド端子(G)は省略されている。ポンプ端子からの信号(電流)は、グランドに一端が接続されたポンプライン(インダクタL1)に流れ、SQUIDループと鎖交する磁束(磁場)を発生する。ポンプ端子には、マイクロ波信号にDCバイアス電流を重畳した信号を供給する構成としてもよい。JPOの共振角周波数ω(=2πf)の約2倍の角周波数のポンプ信号(マイクロ波信号)を供給し、ポンプ信号の強さが閾値を超えると発振を起こし入力信号が存在しなくても角周波数ωのシグナルを出力する(パラメトリック発振)。なお、SQUIDは、二つのジョセフソン接合JJ1、JJ2がループ内に含まれているが、三つ以上のジョセフソン接合を含む構成としてもよいことは勿論である。
【0054】
なお、第2のチップ20のJPOの電極28と、第1のチップ10の配線14をバンプ31で接続するかわりに、図5Aの(b)にその断面を模式的に示したように、電極28の横アームに突設部28Aを備え、配線14の一端の突設部14Aと対向配置させることで、図5Aの(a)のキャパシタンスCcによる容量結合を実現するようにしてもよい。
【0055】
図5Bは、図5Aに示した第2のチップ20の被テスト回路22の変形例を模式的に説明する図である。図5Bを参照すると、ループ内にジョセフソン接合JJ1、JJ2を含むSQUIDループを貫通する磁束(磁場)を生成するインダクタL1が、第1のチップ10の配線層13において、第2のチップ20の被テスト回路22であるJPOのSQUIDループに対向した位置に設けられている。第1の量子チップ10において、ポンプ端子(図1の端子12に対応)は、一端がグランドに接続されたインダクタL1の他端に、ポンプライン(配線14)で接続されている。なお、インダクタL1は、例えば第2のチップ20の被テスト回路22であるJPOのSQUIDループの直下に配置されるが(この場合、インダクタL1はポンプ端子から直線のポンプラインで接続してもよい)、図5Bでは、見やすさ等、図面作成の都合で、第2のチップ20の被テスト回路22であるJPOのSQUIDと、第1のチップ10に配置されたインダクタL1とはxy平面上で離間して示されている。インダクタL1は、スパイラルインダクタとして図示されている。第2のチップ20の被テスト回路22であるJPOのSQUIDループの直下からSQUIDループを貫通する磁束(磁場)を生成する構成としてループ形状の構成が好ましい。ただし、インダクタL1はループ形状に制限されない。図5Bに示したように、被テスト回路22である量子ビット回路の少なくとも一部を、第1の量子チップ10の配線層13に備えた構成としてもよい。なお、図5Bでは、図4の信号端子(S)であるIO端子とポンプ端子の間に配設されるグランド端子(G)は省略されている。
【0056】
図5Cは、第2のチップ20の被テスト回路22の非限定的な一例として、4つの量子ビットを四体相互作用で結合する結合器を模式的に説明する図である。結合器は、対向する第1、第2の電極29A、29B(超伝導部材からなる)間に並列に接続されたジョセフソン接合JJ11、JJ12を備えている。二つのジョセフソン接合JJ11、JJ12と、第1、第2の電極29A、29Bは、SQUIDループを構成している。超伝導部材からなる第1、第2の電極29A、29Bは、それぞれ二つの量子ビットに容量結合する接続部を有する。IO端子からの結合器を初期設定する制御信号を容量結合で結合器に伝達し、また、ポンプ端子にはDCバイアス電流あるいはマイクロ波信号を供給する構成としてもよい。なお、図5Cでは、図5A図5Bと同様、図4の信号端子(S)であるIO端子とポンプ端子の間に配設されるグランド端子(G)は省略されている。
【0057】
図6は、第1のチップ10と第2のチップ20を組み立てた量子デバイス1のプローブテストの一例を説明する図であり、(a)はプローブカードの模式平面図、(b)は模式断面図である。第1のチップ10の周辺(第2のチップ20から張り出した領域、図1の18)に配置された端子12をプローブする場合、図6に示したようなカンチレバー(cantilever)型プローブカードが用いられる。図6において、プローブカード42は不図示のテスト装置に電気的に接続され支持部40から傾斜して突設したプローブ針41の先端が、第1のチップ10の外周部に四辺に沿って配列された複数の端子12(信号端子(S))の表面と接触しテスト信号の伝送が行われる。プローブ針41は、例えば、パラジウム合金、ベリリウム銅合金、タングステン合金(タングステンレニウム等)などを用いてもよい。量子デバイス1を希釈冷凍機内に配置し超伝導状態でテストする場合、プローブ針41は、超伝導材料で構成してもよい。複数のプローブ針41に対応してプローブカード42(PCB)上にスルーホール(不図示)が設けられており、これらのスルーホールを介して、複数のプローブ針41とPCBに設けられた配線パタンとが接続されている。信号線に使用するスルーホールを介してプローブ針41(信号端子(S)と接触するプローブ針41)と高周波コネクタ(不図示)が配線(マイクロストリップライン)で接続されている。そして、いずれも不図示の高周波コネクタから同軸ケーブルを介してテスト装置に接続される。グランド端子(G)に接触するプローブ針41は、プローブカード42のグランド(グランド面)に接続される構成としてもよい。なお、被テスト回路22の接続試験(continuity test, open/short test)を行う場合、量子デバイス1を常温でテストするようにしてもよい。なお、図6は、プローブテストの一例を示したものであり、量子デバイス1のプローブテストは、図6の構成に制限されるものでないことは勿論である。例えば、カンチレバー型プローブでなく、垂直型プローブを用いてもよい。また、プローブカード42は円形でなく矩形であってもよい。さらに、プローブカードを、複数の量子デバイス1を搭載して並列テスト可能な構成としてもよいことは勿論である。
【0058】
前記実施形態では、第1のチップ10の平面形状は、第2のチップ20の平面形状よりも大とされ、第1のチップ10と第2のチップ20とを対向配置して組み立てた場合、例えば図1Bに示したように、第1のチップ10は、その外周部の四辺がいずれも第2のチップ20の四辺から張り出す構成とされているが、本開示はかかる構成に制限されるものでないことは勿論である。例えば図7の(a)に示すように、第2のチップ20が第1のチップ10の外周部の一辺を覆う構成や、図7の(b)に示すように、第1のチップ10の外周部の二辺を覆う構成としてもよい。あるいは、図7の(c)に示すように、第2のチップ20の平面形状は、第1のチップ10の平面形状よりも大としてもよい。この場合、外部への接続端子は、第2のチップ20の第1面と反対側の第2面(例えば図3Dの配線層26)に配置する構成としてもよい。図7の(a)乃至(c)の構成の場合、プローブカードのプローブ針(図6)は、第1のチップ10の四辺の端子に対して設けられず、必要な端子12のみをプローブする構成とされる。
【0059】
上記実施形態として示したように、超伝導量子ビット回路を立体配線構造で実装する複数のチップ(第1のチップと第2のチップ)を備えた量子デバイスにおいて、
・第1のチップと第2のチップを組み立てた状態でのテストを安定した接続性能を確保して行うことを可能としている。
・外部との接続のための接続端子領域を確保可能としている。
・外部との接続のための接続端子(パッド)の平坦性(接続安定性)を確保している。これは、外部との接続のための接続端子(パッド)はプローブテストの対象とされず、接続端子(パッド)にプローブ針の接触痕は生じることはないためである。
・第1のチップと第2のチップを接続時の位置ずれ等に起因する超伝導量子ビット回路の動作や性能の不良等の検出を行うためのプローブテストを容易化している(テスト容易化設計)。これは、積層型の量子デバイスにおいて、第1のチップの外周部の第2のチップの側縁からはみ出した領域(張り出し領域)にプローブ針をコンタクトする端子(パッド)を備え、該端子(パッド)の上方を遮るものがないためである。
・プローブテストによりテストされる被テスト回路を第1のチップのコーナー部に配置することで、第1のチップと第2のチップを接続時の位置ずれ等に起因する超伝導量子ビット回路の動作や性能の不良の検出をさらに容易化している。
【0060】
上記した実施形態及び実施例は以下のように付記される(ただし。以下に制限されない)。
【0061】
(付記1)量子デバイスは、超伝導量子回路を立体配線構造で実装する第1のチップと第2のチップを備え、前記第1のチップと前記第2のチップとを組み立てた状態で、前記第1のチップは、前記第2のチップの外周の側縁より張り出した領域を有し、前記張り出した領域に端子を有する。
【0062】
(付記2)付記1の量子デバイスにおいて、前記第1のチップと前記第2のチップは、前記第1のチップの第1の面と、前記第2のチップの第1の面とを対向させて配置され、
前記第1のチップの前記第1の面と前記第2のチップの前記第1の面の少なくとも一方に、量子ビット回路が設けられている。
【0063】
(付記3)付記1又は2の量子デバイスにおいて、前記第1のチップの前記張り出した領域は、前記第2のチップの側縁から張り出した前記第1のチップの外縁部とされ、前記第1のチップの前記外縁部に配置された前記端子は、前記第1のチップと前記第2のチップを組み立てた状態の前記第1のチップ及び/又は前記第2のチップのテストに用いられる。前記第1のチップの平面形状は前記第2のチップの平面形状よりも大とされる。ただし、前記第1のチップの平面形状は前記第2のチップの平面形状よりも小であるか同一の構成であってもよい。
【0064】
(付記4)付記1乃至3のいずれかの量子デバイスにおいて、前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を、前記第1のチップと前記第2のチップの少なくとも一方に備えている。
【0065】
(付記5)付記1乃至3のいずれかの量子デバイスにおいて、前記第2のチップは、前記第2のチップの外周部に、前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を備える。
【0066】
(付記6)付記1乃至5のいずれかの量子デバイスにおいて、前記第2のチップは、前記第2のチップの四つのコーナーの少なくとも一つに、前記第1のチップの前記張り出した領域の前記端子に電気的に接続され、前記端子を介してテストが行われる被テスト回路を備える。
【0067】
(付記7)付記4又は5の量子デバイスにおいて、前記被テスト回路は、量子ビット、又は二つ又は四つの量子ビットを結合する結合器を含む。
【0068】
(付記8)付記1乃至7のいずれかの量子デバイスにおいて、複数の前記端子は、前記被テスト回路の信号線に接続する信号端子と、グランドに割り当てられたグランド端子を備え、前記信号端子の両側に前記グランド端子が配設され、相隣る前記信号端子の間の前記グランド端子は面積が前記信号端子の面積よりも大であるか、前記信号端子と同一面積の前記グランド端子の個数が1つ以上である。
【0069】
(付記9)付記1乃至8のいずれかの量子デバイスにおいて、前記第1のチップにおいて、前記第2のチップと対向する面の反対面に外部と接続する接続端子を有する。
【0070】
(付記10)付記1乃至8のいずれかの量子デバイスにおいて、前記第2のチップにおいて、前記第2のチップと対向する面の反対面に外部と接続する接続端子を有する。
【0071】
なお、上記の特許文献1乃至4の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
1 量子デバイス
10 第1のチップ(第1の量子チップ)
11 突設部
12 端子
13 配線層
14 配線
14A 突設部
15 基板
16 配線層
17 貫通ビア
18 張り出し領域
19 領域
20 第2のチップ(第2の量子チップ)
21 領域(量子ビット回路配置領域)
22、22’ 被テスト回路
23 配線層
24 突設部
25 基板
26 配線層
27 貫通ビア
28 電極
28A 突設部
29A 第1の電極
29B 第2の電極
31、32 バンプ
40 支持部
41 プローブ針
42 プローブカード
202 第1のチップ
204 第2のチップ
206 量子ビット回路
208 読み出し素子
210、212 制御素子
214 バンプ結合(bump bonds)
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8