(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072598
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ボールねじ及び工作機械
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240521BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F16H25/22 A
F16H25/24 A
F16H25/24 H
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183522
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】押川 慧悟
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA22
3J062AB22
3J062BA15
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD45
3J062CD54
3J062CD60
(57)【要約】
【課題】異なるリードを持つ複数のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧荷重を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供する。
【解決手段】ボールねじは、ねじ軸と、第1のナットと、第2のナットと、第1のナットと第2のナットとを、軸線方向における相対移動は許容するが、回転方向における相対移動は不能とするように連結する拘束連結機構と、第1のナットと第2のナットとの距離に応じて、第1のナットと第2のナットとに対して軸線方向に付勢力を発生する付勢部材と、対向する第1の外周ねじ溝と第1の内周ねじ溝とにより形成される転動路内、及び対向する第2の外周ねじ溝と第2の内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、を有し、第1の外周ねじ溝と第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第1のリードを有し、第1の外周ねじ溝と第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第2のリードを有し、第1のリードと第2のリードとは異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1の外周ねじ溝と第2の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記第1の外周ねじ溝に対向して第1の内周ねじ溝が形成された第1のナットと、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記第2の外周ねじ溝に対向して第2の内周ねじ溝が形成された第2のナットと、
前記第1のナットと前記第2のナットとを、軸線方向における相対移動は許容するが、回転方向における相対移動は不能とするように連結する拘束連結機構と、
前記第1のナットと前記第2のナットとの距離に応じて、前記第1のナットと前記第2のナットとに対して軸線方向に付勢力を発生する付勢部材と、
対向する前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝とにより形成される転動路内、及び対向する前記第2の外周ねじ溝と前記第2の内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
を有するボールねじであって、
前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第1のリードを有し、
前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第2のリードを有し、
前記第1のリードと前記第2のリードとは異なる、
ことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記第1のリードと前記第2のリードは、前記第1の外周ねじ溝と前記第2の外周ねじ溝とが交差しない値に決定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記拘束連結機構は、前記第1のナットと前記第2のナットのうち一方に取り付けられた案内レールと、前記第1のナットと前記第2のナットのうち他方に取り付けられ、前記案内レールに沿ってスライドするスライダとからなる、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記拘束連結機構は、前記第1のナットと前記第2のナットのうち一方に取り付けられたシャフトと、前記第1のナットと前記第2のナットのうち他方に取り付けられ、前記シャフトに対して摺動可能であるブッシュとからなる、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記第1の外周ねじ溝と前記第2の外周ねじ溝とは、前記ねじ軸の外周面に隣接して形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記第1の外周ねじ溝と前記第2の外周ねじ溝とは、前記ねじ軸の軸線方向における異なる領域に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のボールねじを用いた工作機械であって、
前記付勢部材が、前記第1のナットと前記第2のナットに対して付勢力を発生したときに、ワークの加工を行うことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、ボールねじやリニアガイド等の直動装置が使用されているが、加工精度を高めるためには、直動装置の高剛性を確保する必要がある。
【0003】
一般的に、ボールねじは、ナットとねじ溝との間のバックラッシを抑制することが容易であり、それにより高剛性を確保できるという利点がある。ボールねじのバックラッシを抑制するために、軸方向すきまを小さく抑えるという手法が通常用いられるが、そのためにナットとねじ溝との間に予圧荷重を付与することが行われる。
【0004】
特許文献1には、ねじ軸の外周面に形成された転動体転動溝のリード、若しくはねじ軸側の転動体ピッチ円径を連続的または部分的に変化させて、ねじ軸とナットとの間に予圧荷重を付与するボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す技術によれば、ねじ軸とナットの間における予圧荷重を調整して、剛性や精度を高める必要がある部分のみに予圧荷重を生じさせることができるボールねじを提供できる。
【0007】
しかしながら、特許文献1のボールねじによれば、リードが異なる領域に先行して進入したボールのみに摩擦が発生するため、そこを起点に、いわゆる玉詰まりが発生するおそれがある。
【0008】
また、特許文献1においては1条ねじのボールねじを対象としており、そのため、ナットのリードとねじ軸のリードの関係により予圧荷重が変化する。したがって、剛性が必要な箇所と剛性が必要でない箇所それぞれにおける予圧荷重の条件を維持するために、ボールねじを分解して径の違うボールを入れ替えるなどの調整が必要であり、取り扱いに手間を要するという問題がある。加えて、特許文献1のボールねじにおいて、リードが短くなり軸線方向の予圧荷重が大きくなる領域では、ボールからの荷重を受けるねじ溝のランド部(ねじ軸のねじ山)が薄くなってしまい、許容できる負荷荷重が制限されるという問題もある。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、異なるリードを持つ複数のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧荷重を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のボールねじは、
外周面に第1の外周ねじ溝と第2の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記第1の外周ねじ溝に対向して第1の内周ねじ溝が形成された第1のナットと、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記第2の外周ねじ溝に対向して第2の内周ねじ溝が形成された第2のナットと、
前記第1のナットと前記第2のナットとを、軸線方向における相対移動は許容するが、回転方向における相対移動は不能とするように連結する拘束連結機構と、
前記第1のナットと前記第2のナットとの距離に応じて、前記第1のナットと前記第2のナットとに対して軸線方向に付勢力を発生する付勢部材と、
対向する前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝とにより形成される転動路内、及び対向する前記第2の外周ねじ溝と前記第2の内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、を有するボールねじであって、
前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第1のリードを有し、
前記第1の外周ねじ溝と前記第1の内周ねじ溝は、互いに等しい第2のリードを有し、
前記第1のリードと前記第2のリードとは異なる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異なるリードを持つ複数のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧荷重を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、第1の実施形態にかかるボールねじの概略断面図である。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、ボールねじの外周ねじ溝と内周ねじ溝付近を拡大して示す図であるが、理解しやすいように部材間の隙間を誇張して示す。
【
図3】
図3(a)は、ボールねじのボール付近を拡大して幾何学的関係を示す図であり、
図3(b)は、ねじ軸の外周ねじ溝付近を拡大して幾何学的関係を示す図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、ねじ軸の外周ねじ溝付近を拡大して幾何学的関係を示す図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態にかかるボールねじの概略断面図である。
【
図6】
図6は、第3の実施形態にかかるボールねじの概略断面図である。
【
図7】
図7は、第4の実施形態にかかるボールねじの概略断面図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、第5の実施形態にかかるボールねじの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態にかかるボールねじ100の概略断面図であるが、断面のハッチングを省略している。本実施形態のボールねじ100においては、外周ねじ溝17A,17Bが隣接して形成される2条のねじ軸11の周囲に、2つのナット13A,13Bが配置される。なお、外周ねじ溝17Bは、外周ねじ溝17Aとの識別を容易にするために、便宜上破線で図示する。
【0015】
ねじ軸11において、
図1に実線で示す外周ねじ溝(第1の外周ねじ溝)17Aのリード(第1のリード)laと、点線で示す外周ねじ溝(第2の外周ねじ溝)17Bのリード(第2のリード)lb(=la+d)とは互いに異なっている。ここで、dは、0より大きい値である。
【0016】
これに対し、第1のナットであるナット13Aの内周ねじ溝(第1の内周ねじ溝)19Aのリードはlaであり、第2のナットであるナット13Bの内周ねじ溝(第2の内周ねじ溝)19Bのリードはlb(=la+d)である。
【0017】
内周ねじ溝19Aは、ねじ軸11の外周ねじ溝17Aに対応し、内周ねじ溝19Bは、ねじ軸11の外周ねじ溝17Bに対応する。互いに対向する内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間には、複数のボール15が転動可能に配置されている。
【0018】
内周ねじ溝19Aの両端がナット13Aの循環溝(不図示)と連結されることで、一本の閉じられた環状の転動溝が形成される。同様に、内周ねじ溝19Bの両端がナット13Bの循環溝(不図示)と連結されることで、一本の閉じられた環状の転動溝が形成される。つまり、ナット13A,13Bは、それぞれ環状に形成された転動溝を複数有する。
【0019】
内周ねじ溝19A及び循環溝からなる転動溝と、外周ねじ溝17Aと、の間には、複数のボール15が転動自在に収容される循環回路が画成される。また、内周ねじ溝19B及び循環溝からなる転動溝と、外周ねじ溝17Bと、の間にも、複数のボール15が転動自在に収容される循環回路が画成される。
【0020】
ナット13A、13Bに対するねじ軸11の相対的な回転に伴って、複数のボール15が循環回路内を循環することによって、ナット13A,13Bをねじ軸11に対してねじ軸11の軸方向に相対的に直線運動させることが可能となる。ここで、ナット13A,13Bが互いに拘束されていない限り、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に、予圧荷重は付与されないこととなる。
【0021】
ナット13Aの外周には、ねじ軸11の軸線方向に平行に延在するリニアガイド(直動案内)21の案内レール22が固定され、ナット13Bの外周には、案内レール22に対してスライド可能なスライダ23が固定されている。このため、ナット13A、13Bは、ねじ軸11の軸線方向に相対移動可能であるが、回転方向には相対移動不能である。案内レール22及びスライダ23により拘束連結機構を構成する。
【0022】
さらに、ナット13A、13Bと対向する端面には、2組のシャフト25A,25Bが対向して植設され、シャフト25A、25Bにはコイルバネ(付勢部材)27,27の端部がそれぞれ挿入され、ナット13A、13Bの対向端面に当接した状態に維持される。
【0023】
本実施形態のボールねじ100によれば、
図1(a)に示すようにコイルバネ27,27が自由長X1の状態では、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に予圧荷重が付与されないため、ねじ軸11の回転に応じて、ナット13A、13Bは、ほとんど抵抗なく、ねじ軸11の軸線方向に沿って移動可能である。したがって、本実施形態のボールねじ100を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの早送りを行うことにより、摩擦熱の軽減やねじ軸11の駆動力低減を実現できる。
【0024】
これに対し、
図1(a)に示す状態から、ねじ軸11を回転させることにより、外周ねじ溝17A,17Bのリード差に従って、
図1(b)に示すようにナット13A,13Bが相対回転することなく距離ΔXだけ接近し、コイルバネ27,27の長さがX2に縮長したものとする。かかる状態では、コイルバネ27,27が圧縮されるため、ナット13A,13Bが離間する方向に、距離ΔXに応じた付勢力が付与される。それにより内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に、コイルバネ27,27の付勢力に応じた予圧荷重が付与されるので、ナット13A、13Bの支持剛性が高くなる。したがって、本実施形態のボールねじ100を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの加工を行うことで、高精度な加工を実現できる。
【0025】
本実施形態によれば、内周ねじ溝19Aと外周ねじ溝17Aのリードが等しく、また内周ねじ溝19Bと外周ねじ溝17Bのリードが等しいため、全領域にわたって玉詰まり等が生じにくく、ボール15はスムーズに転動溝を転動できる。また、コイルバネ27,27をバネ定数が異なるものに変更したり、コイルバネ27,27の本数を変更したり、あるいはナット13A,13Bとコイルバネ27,27との間にシムなどを入れることによって予圧荷重を調整できる。このため、例えば従来技術のボールねじのように、予圧荷重調整のため分解して径が異なるボールを入れ替えるなどの必要がなく、予圧荷重調整が容易である。さらに、本実施形態の場合、ナット13A,13B間距離が縮まって予圧荷重が大きくなる領域ほど、ボール15からの荷重を受けるねじ溝のランド部が厚くなるため、より大きな予圧荷重に対応できる。
【0026】
上述した実施形態では、ねじ軸11を回転させることにより、ナット13A,13Bが接近する例を説明した。このため、
図2(a)に示すように、ナット13A,13Bが接近することで、ボール15を挟んで、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に外向きの力F1が発生し、それにより予圧荷重が付与される。
【0027】
これに対し、ねじ軸11を回転させることにより、ナット13A,13Bが離間するボールねじとすることもできる。かかる場合、
図2(b)に示すように、ナット13A,13Bが離間することで、ボール15を挟んで、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に内向きの力F2が発生する。この例では、圧縮することにより圧縮付勢力を発生するコイルバネの代わりに、伸長することで引っ張り付勢力を発生するコイルバネをナット13A,13B間に配置すればよい。
【0028】
ところで、ねじ軸11において、外周ねじ溝17Aのリードlaと、点線で示す外周ねじ溝17Bのリードlb(=la+d)と、が互いに異なることから、外周ねじ溝17A,17Bには本来的に制限がある。より具体的には、外周ねじ溝17A,17Bのリード差(d)と、ねじ軸11の回転に応じて、外周ねじ溝17A,17Bは互いに接近してゆくが、両者が交差した場合には、ねじ軸11が成立しなくなる。そこで、外周ねじ溝17A,17Bが交差しない条件について検討する。
【0029】
図3(a)は、ボールねじ100のボール15付近を拡大して幾何学的関係を示す図であり、
図3(b)は、ねじ軸11の外周ねじ溝付近を拡大して幾何学的関係を示す図である。
図4は、ねじ軸11の外周ねじ溝付近を拡大して幾何学的関係を示す図である。ここで、ボールねじ100のBCD(ボール中心径)をDbcd、軸外径をD、鋼球(ボール)径をDw、接点角をα、溝R比をrとしたとき、溝直角断面から見た時の溝幅Wは以下の式(1)であらわされる。
【0030】
【0031】
また、リード角をθとした場合、ねじ軸の軸方向断面で見た時の溝幅は、(W/cosθ)であらわされる。
【0032】
基準となるナットをナット13Aとしたとき、ナット13A内のボール15が通るねじ軸11の外周ねじ溝を19Aとし、もう一方のナット13B内のボール15が通るねじ軸11の外周ねじ溝を19Bとする。
【0033】
ナット13Aの鋼球径をDwa、リードをla、リード角をθa、溝直角断面から見た時の溝幅をWaとし、同様にナット13Bの鋼球径をDwb、リードをlb、リード角θb、溝直角断面から見た時の溝幅をWbとする。
【0034】
ここで、ナット13Aのストローク量をLとすると、ねじ軸11の必要回転回数Nは、L/laとなる。
【0035】
ねじ軸11が、n回転後に外周ねじ溝17Aと外周ねじ溝17Bが交差しないようにする条件を検討する。例えば右ねじにおいて、ナット13Aとナット13Bが最も離れた状態から、ねじ軸11を反時計回りにてk回転させたときに、外周ねじ溝17Aと外周ねじ溝17Bが離れる側の溝間距離をPak、接近する側の溝間距離をPbkとする(ねじ軸11を反時計回りにて0回転とする場合、外周ねじ溝17Aと外周ねじ溝17Bが離れる側の溝間距離はPa0、接近する側の溝間距離はPb0である)と、以下の関係式(2)が成立する。
【0036】
【0037】
また、k回転後のそれぞれ の溝間距離は、以下の式(3)、(4)で表すことができる。
Pak=Pa0+(lb-la)×k・・・(3)
Pbk=Pb0-(lb-la)×k・・・(4)
【0038】
n回転後に外周ねじ溝17Aと外周ねじ溝17Bが交差しない条件は、Pa0>0かつPbn>0であるから、
図4(a)及び(b)を参照して、以下の式(5)を満たす必要がある。式(5)を満たす範囲で、ねじ軸11の使用可能なリード及び回転数を決定できる。
【0039】
【0040】
[第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態にかかるボールねじ101の概略断面図であるが、断面のハッチングを省略している。ナット13Aの外周には、例えばワークを搭載可能なテーブル20が取り付けられている。テーブル20には、ねじ軸11の軸線方向に平行に延在する案内レール22が固定され、ナット13Bの外周には、案内レール22対してスライド可能なスライダ23が固定されている。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0041】
[第3の実施形態]
図6は、第3の実施形態にかかるボールねじ102の概略断面図であるが、断面のハッチングを省略している。ナット13Aの外周には、例えばワークを搭載可能なテーブル20が取り付けられている。一方、ナット13Bの外周には、ねじ軸11の軸線方向に平行に延在する案内レール22が固定され、テーブル20には案内レール22に対してスライド可能なスライダ23が固定されている。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0042】
[第4の実施形態]
図7は、第4の実施形態にかかるボールねじ103の概略断面図であるが、断面のハッチングを省略している。ナット13Bに対向するナット13Aの端面には、ねじ軸11の軸線方向に平行に延在するロングシャフト29A、29Aが植設されており、またナット13Bのフランジ部には、ロングシャフト29A、29Aが挿通可能な貫通穴29B、29Bが形成されている。さらに貫通穴29B、29B内には、ロングシャフト29A、29Aが摺動可能に嵌合するブッシュ29C、29Cが形成されている。ロングシャフト29A、29Aとブッシュ29C、29Cとにより、ナット13Aとナット13Bとの軸線方向における相対移動を許容するが、回転方向における相対移動を不能とする拘束連結機構を構成する。
【0043】
ロングシャフト29A、29Aの周囲には、付勢部材であるコイルバネ27、27が配置され、その両端はナット13A,13Bの端面に当接している。なお、ナット13Aに貫通穴29B及びブッシュ29Cを形成し、ナット13Bにロングシャフト29Aを形成してもよい。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0044】
本実施形態のボールねじ103によれば、コイルバネ27,27が自由長の状態では、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に予圧荷重が付与されないため、ねじ軸11の回転に応じて、ナット13A、13Bは、ほとんど抵抗なく、ねじ軸11の軸線方向に沿って移動可能である。したがって、本実施形態のボールねじ103を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの早送りを行うことにより、摩擦熱の軽減やねじ軸11の駆動力低減を実現できる。
【0045】
これに対しねじ軸11を回転させることにより、外周ねじ溝17A,17Bのリード差に従って、ロングシャフト29A、29Aとブッシュ29C、29Cとが相対摺動しつつ、ナット13A,13Bが相対回転することなく接近し、コイルバネ27,27が縮長したものとする。かかる状態では、コイルバネ27,27が圧縮されるため、ナット13A,13Bが離間する方向に、その付勢力が付与される。それにより内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に、コイルバネ27,27の付勢力に応じた予圧荷重が付与されるので、ナット13A、13Bの支持剛性が高くなる。したがって、本実施形態のボールねじ103を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの加工を行うことで、高精度な加工を実現できる。
【0046】
[第5の実施形態]
図8(a)及び(b)は、第5の実施形態にかかるボールねじ104の概略断面図であるが、拘束連結機構及び付勢部材を省略している。上述した実施形態では、2条のねじ軸において、一方の外周ねじ溝と他方の外周ねじ溝のリードを異ならせていた。これに対し本実施形態のボールねじ104は、リードlaの外周ねじ溝17Aを設けた領域Aと、リードlb(=la+d)の外周ねじ溝17Bを設けた領域Bとを軸線方向に分割して設けたねじ軸11’を有している。領域Aにはナット13Aが配置され、領域Bにはナット13Bが配置され、ナット13A,13Bは上述した拘束連結機構により連結されている。
【0047】
ナット13Aの内周ねじ溝19Aは、ねじ軸11’の外周ねじ溝17Aに対応してリードlaを有し、ナット13Bの内周ねじ溝19Bは、ねじ軸11’の外周ねじ溝17Bに対応してリードlb(=la+d)を有する。対向する内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間には、複数のボール15が転動可能に配置されている。
【0048】
本実施形態のボールねじ104によれば、ナット13A、13Bに付勢力が付与されない状態(例えば
図8(a)の状態)では、内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に予圧荷重が付与されないため、ねじ軸11’の回転に応じて、ナット13A、13Bは、それぞれの領域A,B内でほとんど抵抗なく、ねじ軸11の軸線方向に沿って移動可能である。したがって、本実施形態のボールねじ103を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの早送りを行うことにより、摩擦熱の軽減やねじ軸11’の駆動力低減を実現できる。
【0049】
これに対し、ねじ軸11’を回転させると、外周ねじ溝17A,17Bのリード差に従って、
図8(b)に示すようにナット13A,13Bが相対回転することなく接近し、不図示の付勢部材により付勢力が付与される。それにより内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとの間に予圧荷重が付与されるので、ナット13A、13Bの支持剛性が高くなる。したがって、本実施形態のボールねじ104を工作機械に用いた場合、かかる状態でナット13A、13Bに搭載したワークの加工を行うことで、高精度な加工を実現できる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。例えば、本発明は循環コマ式ボールねじ、チューブ式ボールねじ、デフレクタ式ボールねじ、エンドキャップ式ボールねじなど、種々のボールねじに適用できる。また、ねじ軸は3条以上の外周ねじ溝を有している場合、そのうち一つのリードが異なれば足りる。
【符号の説明】
【0051】
100,101,102,103,104 ボールねじ
11,11’ ねじ軸
13A、13B ナット
17A,17B 外周ねじ溝
19A,19B 内周ねじ溝
20 テーブル
21 リニアガイド
22 案内レール
23 スライダ
25A,25B シャフト
27 コイルバネ
29A ロングシャフト
29B 貫通穴
29C ブッシュ