(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072604
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】リポソーム組成物、細胞増殖促進方法及び培養細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20240521BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240521BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240521BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240521BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240521BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/28
A61K47/44
A61K47/24
A61K45/00
A61P43/00 107
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183537
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩良
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潔
(72)【発明者】
【氏名】森 彩香
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB10
4B065BC41
4B065BD21
4B065CA44
4C076AA19
4C076AA95
4C076DD63
4C076DD70
4C084AA17
4C084MA24
4C084NA13
4C084ZB22
4C084ZC212
(57)【要約】
【課題】薬剤を細胞に送達する機能は有しつつ、従来のリポソーム組成物よりも細胞に対する毒性を低減したリポソーム組成物を提供すること。
【解決手段】コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、細胞培養用のリポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合が40モル%以上であり、該リポソームのゼータ電位がマイナスである、リポソーム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、細胞培養用のリポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合が40モル%以上であり、該リポソームのゼータ電位がマイナスである、リポソーム組成物。
【請求項2】
コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、リポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合が40モル%以上であり、該リポソームのゼータ電位がマイナスであり、該リポソームが親水性薬剤及び疎水性薬剤を包含する、リポソーム組成物。
【請求項3】
細胞増殖促進するための請求項2に記載のリポソーム組成物。
【請求項4】
前記リポソームの平均粒子径が50~150nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム組成物。
【請求項5】
親水性薬剤が抗酸化剤であり、疎水性薬剤がp53インヒビターである、請求項2又は3に記載のリポソーム組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム組成物を細胞に添加する工程を含む、細胞増殖促進方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の存在下で細胞を培養する工程、
前記培養により得られた細胞を回収する工程
を含む、培養細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム組成物、当該リポソーム組成物を用いる細胞増殖促進方法及び培養細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、薬剤、遺伝子等のキャリア;皮膚への美容品のキャリア;植物への殺虫剤のキャリア;食品への酵素、サプリメント等のキャリア;皮膚への美容品のキャリア等に用いることができる。一般的に細胞がマイナスチャージを帯びているため、目的物質を細胞内に導入する観点からは、カチオン性リポソームが用いられている。しかし、カチオン性キャリアは細胞内のさまざまなタンパク質と非特異的に吸着することによって細胞の正常な働きを阻害するという欠点も有している。かかる状況の下、より細胞毒性の低いリポソームの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-24852
【特許文献2】特開2007-277218
【特許文献3】特開2013-255912
【特許文献4】特開2009-120584
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Langmuir 2020, 36, 12735-12744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬剤を細胞に送達する機能は有しつつ、従来のリポソーム組成物よりも細胞に対する毒性を低減したリポソーム組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる状況の下、本発明者らは、多くの試行錯誤の後、細胞から分泌される天然エクソソームと脂質組成が近いリポソーム(合成エクソソーム)を調製し、細胞の当該リポソームの取り込み能を調べたところ、当該リポソームは粒子表面がマイナスチャージを有するにもかかわらず細胞への取り込みが良好であり、かつ細胞毒性が低いことを見出した。かかる新規の知見に基づき、当該リポソームの脂質組成、包含させる薬剤の種類等を研究した結果、本発明を完成するに至った。従って、典型的な実施形態として、本発明は、以下の項を提供する:
項1.コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、細胞培養用のリポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合が40モル%以上であり、該リポソームのゼータ電位がマイナスである、リポソーム組成物。
【0007】
項2.コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、リポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合が40モル%以上であり、該リポソームのゼータ電位がマイナスであり、該リポソームが親水性薬剤及び疎水性薬剤を包含する、リポソーム組成物。
【0008】
項3.細胞増殖促進するための請求項2に記載のリポソーム組成物。
【0009】
項4.前記リポソームの平均粒子径が50~150nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム組成物。
【0010】
項5.親水性薬剤が抗酸化剤であり、疎水性薬剤がp53阻害剤である、請求項2~4のいずれか一項に記載のリポソーム組成物。
【0011】
項6.請求項1~5のいずれか一項に記載のリポソーム組成物を細胞に添加する工程を含む、細胞増殖促進方法。
【0012】
項7.請求項1~5のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の存在下で細胞を培養する工程、
前記培養により得られた細胞を回収する工程
を含む、培養細胞の作製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬剤を細胞に送達する機能は有しつつ、従来のリポソーム組成物よりも細胞に対する毒性を低減したリポソーム組成物を提供することができる。
従って、本発明のリポソーム組成物は様々な対象、特に生きた細胞に対し目的物質を導入する用途に有効である。生きた細胞に対する目的物質の導入は様々な場面で使用されているが、好ましい実施形態において、例えば、細胞治療用途に用いることができる。具体的には、患者自身(または健常ドナー)の血液から採取された細胞を用いて疾患を治療する細胞治療では、採取した細胞を体外で培養、増殖、活性化などをさせてから投与に用いられている。しかし、長時間培養を行うと細胞は老化して治療効果や増殖率などが低下する。そのため、体外拡大培養中における細胞老化を抑制する手法が求められている。
【0014】
細胞老化の主原因の1つは、細胞内の機能不全ミトコンドリア(Mt)の蓄積であると考えられている。マイトファジーは機能不全Mtを選択的に除去するMtの品質管理機能を担っているが、老化細胞では細胞質内に大量に高発現したp53タンパクがマイトファジー誘導に必要なParkinタンパクと相互作用して会合体を形成するため、マイトファジーの誘導が阻害されている。かかる状況の下、本発明者らは、老化細胞の割合が減少した細胞群を得るためにマイトファジー誘導により細胞老化を抑制する手法の研究を進め、ミトコンドリア膜電位低下剤、p53阻害剤、及びこれらの共送達が可能なキャリアを含む複合体を開発している(特許文献1)。本発明のリポソーム組成物は、薬剤を細胞に送達する機能は有しつつ、従来のリポソーム組成物よりも細胞に対する毒性が低減しているため、細胞培養の際にマイトファジーを誘導して細胞老化の抑制をもたらす薬剤のキャリアとして本発明のリポソーム組成物を使用することにより、細胞老化を抑えたさらなる長期培養が可能となり、細胞治療用の細胞数を従来よりも大幅に増加させることができるため非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例10,11,12で調製したRhodamine BとFITCを含むリポソームを投与したHCT116細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真を示す。
【
図2】実施例8,9で調製したRhodamine BとFITCを含むリポソームを投与した間葉系幹細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
リポソーム組成物
一実施形態において、本発明は、コレステロール及び脂質を含むリポソームを含む、細胞培養用のリポソーム組成物であって、脂質がアニオン性脂質を含み、該リポソームのゼータ電位がマイナスである、リポソーム組成物を提供する。
【0017】
本発明において用いるリポソームは、脂質としてアニオン性脂質を含むことを特徴とする。アニオン性脂質としては、ジアシルホスファチジルセリン(ジアシルグリセロホスファチジルセリン);ジアシルホスファチジン酸;ジアシルホスファチジルグリセロール;ジアシルホスファチジルイノシトール;モノアシルリゾホスファチジン酸;カルジオリビン;リゾビスモノアシルホスファチジン酸等が挙げられる。これらのアニオン性脂質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、当該リポソームは脂質二重膜を含み、当該脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちアニオン性脂質の割合は、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上である。当該脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちアニオン性脂質の割合の上限は限定されないが、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは30モル%以下である。
【0019】
本発明において、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロールの割合は、好ましくは15モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上である。当該脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロールの割合の上限は限定されないが、好ましくは50モル%以下であり、より好ましくは40モル%以下である。
【0020】
本発明において、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうち、コレステロール及びアニオン性脂質の合計割合は、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは44モル%以上である。当該脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうちコレステロール及びアニオン性脂質の合計割合の上限は限定されないが、好ましくは75モル%以下であり、より好ましくは60モル%以下である。
【0021】
また、本発明において、リポソームは、中性脂質及び/又はカチオン性脂質を含んでいてもよい。
【0022】
中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルエタノールアミン;ジアシルホスファチジルコリン;リゾホスファチジルコリン;スフィンゴミエリン;スフィンゴミシン;セラミド;セレブロシド;ガングリオシド;コレステロール;コール酸;ジアシルグリセロール等が挙げられ、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホスファチジルコリン等が好ましく、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等が好ましい。これらの中性脂質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明においてリポソームが中性脂質を含む場合、脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうち中性脂質の割合は、好ましくは25モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上である。当該脂質二重膜を構成するコレステロール及び脂質のうち中性脂質の割合の上限は限定されないが、好ましくは65モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下である。
【0024】
カチオン性脂質としては、例えば、N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);ジオクタデシル-ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA);3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド等が挙げられる。これらのカチオン性脂質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記脂質に含まれるアシル基としては、例えば、炭素数が12~20の飽和または不飽和アシル基が挙げられる。より具体的には、上記脂質に含まれるアシル基としては、例えば、ドデカノイル基(ラウロイル基)、テトラデカノイル基(ミリストイル基)、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基(パルミトイル基)、9-ヘキサデセノイル基(パルミトレノイル基)、ヘプタデカノイル基(マルガロイル基)、オクタデカノイル基(ステアロイル基)、9-オクタデセノイル基(オレオイル基)、11-オクタデセノイル基(バクセノイル基)、9,12-オクタデカジエノイル基(リノレオイル基)、9,12,15-オクタデカントリエノイル基(9,12,15-リノレノイル基)、6,9,12-オクタデカトリエノイル基(6,9,12-リノレノイル基)、エイコサノイル基(アラキジノイル基)、8,11-エイコサジエノイル基、5,8,11-エイコサトリエノイル基、5,8,11-エイコサテトラエノイル基(アラキドノイル基)等が包含される。
【0026】
本発明において、リポソームのゼータ電位はマイナスであり、好ましくは-10~-90mVであり、より好ましくは-30~-70mVである。ゼータ電位は、電気泳動法(レーザードップラー法)等により測定することができる。
【0027】
また、本発明において、リポソームの粒径(平均粒径)は限定されないが、好ましくは40~200nmであり、より好ましくは50~130nmである。平均粒径は、動的光散乱法、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)法、透過型電子顕微鏡(TEM)等により測定することができ、典型的には、動的光散乱法により測定することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームは薬剤を包含していてもよい。薬剤としては、例えば、細胞老化、細胞死等の抑制に寄与する薬剤、加齢性疾患や生活習慣病の治療に寄与する薬剤、がん治療に寄与する薬剤、免疫系を制御する薬剤等が挙げられる。より具体的には、抗酸化剤、p53阻害剤、エピジェネティック作用薬、抗がん剤、マイクロRNA等が挙げられる。
【0029】
抗酸化剤の例として、例えば、ポルフィリン系抗酸化剤、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール化合物、トコトリエノール化合物、カロテノイド、キサントフィル化合物、ポリフェノール、フラボノイド化合物が挙げられ、ポルフィリン系抗酸化剤等が好ましい。
【0030】
ポルフィリン系抗酸化剤は、下記式(I):
【0031】
【0032】
(式中、
M1は、遷移金属元素または卑金属元素を示し、
R1は、以下:
【0033】
【0034】
からなる群より選択される基を示し、式中、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示し、
R2、R3、およびR4は、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ以下:
【0035】
【0036】
からなる群より選択される基を示し、式中、R9は、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示す)
で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体であってもよい。
【0037】
前記式(I)における中心金属M1は、遷移金属元素または卑金属元素であれば特に制限はない。遷移金属元素の例としては、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子が挙げられる。卑金属元素の例としては、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アルミニウム原子、または亜鉛原子が挙げられる。好ましい態様において、前記式(I)における中心金属M1は遷移金属元素であり、さらに好ましくはマンガン原子である。
【0038】
式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体において、アルキル基は、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数1~5の直鎖状または分枝状のアルキル基であってよい。また、アルコキシ基は、前記したアルキル基を含むアルコキシ基であってもよい。
【0039】
好ましい態様において、式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体におけるR1は、
【0040】
【0041】
であり、式中、R5及びR6は、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ、水素、アルキル基およびアルコキシ基から成る群より選択される基であり、好ましくはR5及びR6は共にメチルである。
【0042】
別の好ましい態様において、式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体におけるR2、R3、およびR4は共に
【0043】
【0044】
であり、式中、R9は、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基であり、好ましくはR9はすべて水素である。
【0045】
さらに別の好ましい態様において、ミトコンドリア膜電位低下剤は、式(II)
【0046】
【0047】
で表されるカチオン性マンガンポルフィリン錯体である。
【0048】
本発明において、p53阻害剤としては、p53の機能又は作用を阻害し得る化合物である限り特に限定されないが、例えば、下記式(III)、(IV)、または(V)で表される化合物等が挙げられる:
【0049】
【0050】
ここで、式(III)のp53阻害剤は、ピフィスリン-α臭化水素酸塩(PFT-α、別名:2-(2-イミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾチアゾール-3-イル)-1-p-トリルエタノン ヒドロブロミド)である。式(IV)のp53阻害剤は、ピフィスリン-μ(PFT-μ、別名:ピフィトリン-μ、2-フェニルエチンスルホンアミド)である。式(V)のp53阻害剤は、p-ニトロピフィスリン-α臭化水素酸塩(p-nitro-PFT-α、別名:1-(4-ニトロフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-2-イミノ-3(2H)-ベンゾチアゾール)エタノン ヒドロブロミド)である。これらのp53阻害剤のうち、ピフィスリン-α臭化水素酸塩(構造式:式(III))等が好ましい。
【0051】
エピジェネティック作用薬としては、特に限定されないが、例えば、アザシチジン、デシタビン等のDNA脱メチル化剤、ボリノスタット、パノビノスタット、ロミデプシン、ベリノスタット、トリコスタチンA等のHDAC阻害剤、ダズベリグ等のEZH2阻害剤、(+)-JQ1等のBET阻害剤のような各種低分子阻害剤のほか、ヒストン修飾酵素を発現するプラスミドDNA等が挙げられる。
【0052】
抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等のプラチナ製剤、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ぺプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロンなどの抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド、エリブリン、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等の植物アルカロイド、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサート等の代謝拮抗薬、イホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチンなどのアルキル化剤、イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ等の分子標的薬、アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾール等のホルモン剤、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン、ウベニメクス、乾燥BCG、レンチナンなどの生物学的応答調節剤等が挙げられる。
【0053】
また、本発明においてリポソームに包含されてもよい薬剤は、疎水性薬剤、親水性薬剤等に分類できる。本発明において、疎水性とは、水との相互作用が弱く、水との親和力が弱い性質を意味している。よって、例えば、分配係数P(n-オクタノール/水)すなわち、n-オクタノールに溶解する当該薬剤の濃度と水に溶解する薬剤の濃度の比が薬剤の親水性・疎水性の指標となり得る。分配係数が1.0より大きければ疎水性薬剤、小さい場合は親水性薬剤に分類される。また、分配係数を対数(logP)で示した場合、疎水性(脂溶性)薬剤はプラス(+)、親水性(水溶性)薬剤はマイナス(-)となり、脂溶性・親水性が高いほどlogPの絶対値が大きな値となる。
【0054】
当該実施形態において、リポソームが包含する薬剤は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができ、二種以上(例えば、2種類、2~3種類、2~4種類等)を組み合わせることが好ましい。二種以上の薬剤を用いる場合、リポソームの構造安定性や薬剤の封入量の制御等の観点から、親水性薬剤及び疎水性薬剤を包含することが好ましい。
【0055】
本発明においては、上記リポソームの分散液そのものをリポソーム組成物として用いてもよいが、本発明のリポソーム組成物は、上記の薬剤であったり、pH調節剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を含んでいてもよい。
【0056】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩等が挙げられる。
【0057】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。
【0058】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0059】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。
【0060】
本発明のリポソーム組成物は、例えば、以下の手順により形成することができる。
1.リポソームを構成する脂質及びコレステロールを先に有機溶媒中で混合した後、有機溶媒を留去して乾燥薄膜を得る;
2.得られた乾燥薄膜に水を加え、超音波撹拌を行い、リポソームの分散液を得る。
【0061】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、クロロホルム、エタノール、アセトン等を用いることができる。pH調節剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等は上記有機溶媒、水等に添加しておいてもよいし、リポソーム分散液に添加してもよい。また前述の薬剤のうち疎水性薬剤を用いる場合、例えば、上記工程1において乾燥薄膜を得る際に、リポソームを構成する脂質及びコレステロールと疎水性薬剤とを先に有機溶媒中で混合した後、有機溶媒を留去することにより、脂質二重層の内部に疎水性薬剤を含ませることができる。また、また前述の薬剤のうち親水性薬剤を用いる場合、例えば、上記工程2において乾燥薄膜に、水の代わりに親水性薬剤を含む水溶液を加え、超音波撹拌することで、リポソームの内水相に親水性薬剤を含ませることができる。
【0062】
細胞増殖促進方法
一実施形態において、本発明は、上記リポソーム組成物を細胞に添加する工程を含む、細胞増殖促進方法を提供する。
【0063】
対象となる細胞としては特に限定されないが、例えば、哺乳動物、両生類、鳥類等に由来するものが挙げられる。哺乳動物としては、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ハムスター、ブタ等が挙げられ、好ましくはヒトである。また、当該細胞としては、初代培養細胞、株化細胞等が挙げられる。また、細胞としては、単離した細胞であっても、平面状、細胞塊のように凝集したものであっても、組織片等であってもよい。従って、典型的には、本発明においては、生体外で、上記リポソーム組成物が細胞に添加される。リポソーム組成物の添加量としては、特に限定されないが、例えば、細胞培養液中で、1~100μg/mL、好ましくは10~50μg/mLの範囲で設定できる。リポソーム組成物を細胞に添加する際の温度は特に限定されず、例えば、15~30℃、好ましくは20~25℃の範囲で設定できる。本実施形態においては、リポソーム組成物は、前述した細胞老化、細胞死等の抑制に寄与する薬剤等を含むことが好ましい。本発明のリポソーム組成物はゼータ電位がマイナスであるにもかかわらず、細胞に取り込まれやすく、また、リポソーム自体の細胞毒性も低いため、細胞老化、細胞死等の抑制に寄与する薬剤等を包含させたリポソーム組成物を細胞に添加することにより、細胞老化、細胞死が抑制され、その結果、細胞増殖が促進されるため有用である。
【0064】
培養細胞の作製方法
別の実施形態において、本発明は、上記リポソーム組成物の存在下で細胞を培養する工程、
前記培養により得られた細胞を回収する工程
を含む、培養細胞の作製方法を提供する。
【0065】
対象となる細胞、培養工程におけるリポソーム組成物の濃度等は上記と同様である。培養に用いる培地としては、液体培地等が好ましい。液体培地としては、DMEM培地、MEM培地、RPMI培地などの基本培地のほか、PRIME-XV MSC Expansion(登録商標)、Essential 8(登録商標)などの幹細胞用培地、NK細胞継代用培地、αβT細胞継代用培地などの免疫系細胞用培地、がん細胞増殖培地等を用いることができる。培地には、血清、緩衝剤、成長因子、分化因子、安定剤、抗酸化物質、抗生物質、生理活性分子(アミノ酸、核酸、ビタミン、脂質、タンパク質、炭水化物、インスリン、トランスフェリン、セリン(亜セレン酸ナトリウム)、ピルビン酸ナトリウム、グルタミン、エタノールアミン、リノール酸、オレイン酸、牛血清アルブミン(BSA)など)、コレステロール、ラクトフェリン、グルカゴン、シクロデキストリン、酵母抽出液等の添加物を配合してもよい。培養する際の温度は37℃。培養時間は特に限定されず、例えば、12~360時間、好ましくは24~72時間の範囲で設定できる。回収工程は、本発明の属する細胞培養の分野において用いられる方法を広く使用することができる。回収工程に用いる方法としては、洗浄、剥離、遠心分離、ろ過、吸着等の方法を用いることができる。
【0066】
本実施形態においても、リポソーム組成物は、前述した細胞老化、細胞死等の抑制に寄与する薬剤等を含むことが好ましい。本発明のリポソーム組成物はゼータ電位がマイナスであるにもかかわらず、細胞に取り込まれやすく、また、リポソーム自体の細胞毒性も低いため、細胞老化、細胞死等の抑制に寄与する薬剤等を包含させたリポソーム組成物を細胞に添加することにより、細胞老化、細胞死が抑制されるため、老化していない細胞の割合が多い細胞群を得ることができるため有用である。
【0067】
以下に実施例を用いて本発明の特定の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。尚、以下の実施例において、リポソームの粒径(平均粒径)は、動的光散乱法により測定した。
【実施例0068】
実施例1:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000μL, メタノール500μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 37.3 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 42.1 μL, および10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 20.6 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0069】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLと1 mg/mLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0070】
実施例2:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE) in CHCl3 15.2 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC) in CHCl3 21.5 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 15.8 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 33.1 μL, および10 mg/mLスフィンゴミエリン(SM)in CHCl3:CH3OH=2:1 14.4 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0071】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、45℃で30分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0072】
実施例3:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 50.0 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 24.0 μL, および10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 26.0 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0073】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0074】
実施例4:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE) in CHCl3 20.1 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC) in CHCl3 25.5 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 17.9 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 17.5 μL, および10 mg/mLスフィンゴミエリン(SM)in CHCl3:CH3OH=2:1 19.0 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0075】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、45℃で30分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0076】
実施例5:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 54.8 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 26.8 μL, および10 mg/mLリゾホスファチジルグリセロール(Lyso PG) in CHCl3 18.4 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0077】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0078】
実施例6:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 50.2 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 24.5 μL, および10 mg/mLホスファチジルグリセロール(DOPG) in CHCl3 25.3 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0079】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0080】
実施例7:リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 51.4 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 25.1 μL, および10 mg/mLホスファチジン酸(DOPA) in CHCl3 23.5 μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0081】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0082】
実施例8:Rhodamine BおよびFITC含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 50.0 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 24.0 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 26.0 μL,および1 mg/mL FITC in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0083】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Rhodamine B in H2O 50μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0084】
実施例9:Rhodamine BおよびFITC含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE) in CHCl3 20.1 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC) in CHCl3 25.5 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 17.9 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 17.5 μL, 10 mg/mLスフィンゴミエリン(SM)in CHCl3:CH3OH=2:1 19.0 μL,および1 mg/mL FITC in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0085】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Rhodamine B in H2O 50μLを加え、45℃で30分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0086】
実施例10:Rhodamine BおよびFITC含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 54.8 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 26.8 μL, 10 mg/mLリゾホスファチジルグリセロール(Lyso PG) in CHCl3 18.4 μL,および1 mg/mL FITC in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0087】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Rhodamine B in H2O 50μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0088】
実施例11:Rhodamine BおよびFITC含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 50.2 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 24.5 μL, 10 mg/mLホスファチジルグリセロール(DOPG) in CHCl3 25.3 μL,および1 mg/mL FITC in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0089】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Rhodamine B in H2O 50μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0090】
実施例12:Rhodamine BおよびFITC含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 51.4 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 25.1 μL, 10 mg/mLホスファチジン酸(DOPA) in CHCl3 23.5 μL,および1 mg/mL FITC in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0091】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Rhodamine B in H2O 50μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0092】
実施例13:MnポルフィリンおよびPFT-α含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC) in CHCl3 50.0 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 24.0 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 26.0 μL, および1 mg/mL PFT-α in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0093】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Mnポルフィリン in H2O 50μLを加え、70℃で10分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のMnポルフィリンおよびPFT-α含有リポソーム分散液を得た。粒径は50.5±11.8nmの値を示した。
【0094】
実施例14:MnポルフィリンおよびPFT-α含有リポソームナノキャリアの調製
20 mLナスフラスコに、クロロホルム1000 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE) in CHCl3 20.1 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC) in CHCl3 25.5 μL, 10 mg/mL コレステロール(Chol) in CHCl3 17.9 μL, 10 mg/mL ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS) in CHCl3 17.5 μL, 10 mg/mLスフィンゴミエリン(SM)in CHCl3:CH3OH=2:1 19.0 μLおよび1 mg/mL PFT-α in CHCl3:CH3OH=2:1 50μLを溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0095】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Mnポルフィリン in H2O 50μLを加え、45℃で30分間ボルテックスを行った。その後、30分間超音波攪拌を行い、目的のMnポルフィリンおよびPFT-α含有リポソーム分散液を得た。粒径は50.5±11.8nmの値を示した。
【0096】
比較例1:カチオン型リポソームナノキャリアの調製
ナスフラスコに、20 mLナスフラスコに、クロロホルム500 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mLジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)in CHCl3:CH3OH = 2:1 50μL、10 mg/mL N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)in CHCl3:CH3OH = 2:1 50μLを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0097】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水1000 μLを加え、氷水で冷やしながら20分間ボルテックスを行った。その後、20分間超音波攪拌を行い、目的のリポソーム分散液を得た。
【0098】
比較例2:MnポルフィリンおよびPFT-α含有カチオン型リポソームナノキャリアの調製
ナスフラスコに、20 mLナスフラスコに、クロロホルム500 μL, メタノール500 μLを加えた後、10 mg/mLジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)in CHCl3:CH3OH = 2:1 50μL、10 mg/mL N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)in CHCl3:CH3OH = 2:1 50μL、および1 mg/mLPFT-α in CHCl3:CH3OH = 2:1 50μLを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【0099】
得られた乾燥薄膜に、蒸留水950 μLと1 mg/mL Mnポルフィリン in H2O 50μLを加え、氷水で冷やしながら20分間ボルテックスを行った。その後、20分間超音波攪拌を行い、目的のMnポルフィリンおよびPFT-α含有リポソーム分散液を得た。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
実施例15:リポソームの細胞内取込と内包薬物の共送達評価
実施例10,11,12で調製したRhodamine BとFITCを含むリポソームを脂質濃度50μg / mLでHCT116細胞(DEEM培地に5.0 × 10
4cells/mLで播種)に投与し、24時間後に共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。結果を
図1に示す。
図1に示されるように、いずれのリポソームでも2種類の蛍光色素が細胞内に取り込まれており、内包薬物を細胞内に共送達可能であった。
【0104】
実施例16:リポソームの安定性評価
実施例1~7で調製したリポソームを脂質濃度1 mg /mL,4℃,分散液状態で静置し、保存前、保存一週間後、二週間後及び三週間後の時点で平均粒径を測定した。平均粒径の測定は動的光散乱法により行った。結果を表4に示す。表4に示されるように、いずれのリポソームも平均粒径に変化は見られず、形態が非常に安定していた。
【0105】
【0106】
実施例17:リポソームの細胞毒性評価
実施例3,4で調製した空のリポソームを脂質濃度0-50 μg / mLの範囲で老化した間葉系幹細胞(Prime XV MSC expansion XSFM培地に5.0 × 104 cells/mLで播種)に投与し、48時間後にCell Counting Kit-8(CCK-8)を用いて生細胞数を計測した。結果を表5に示す。表5に示されるように、カチオン性脂質と中性脂質で構成される従来型リポソーム組成物では投与量が15μg / mLを越えると細胞毒性が表れたのに対し、本発明のリポソーム組成物では添加濃度50μg / mLまで増やしても生細胞数は変化せず、細胞に対する毒性が大幅に低減された。
【0107】
【0108】
実施例18:細胞増殖率の評価
実施例13,14で調製したMnポルフィリンおよびPFT-αを含むリポソームを脂質濃度0-50μg / mLの範囲で老化した間葉系幹細胞(Prime XV MSC expansion XSFM培地に5.0 × 104cells/mLで播種)に投与し、48時間後にCell Counting Kit-8(CCK-8)を用いて生細胞数を計測した。結果を表6に示す。表6に示されるように、カチオン性脂質と中性脂質で構成される従来型リポソーム組成物では投与量が15μg / mLを越えると細胞生存率が減少に転じたのに対し、本発明のリポソーム組成物では添加濃度に応じて細胞生存率が増加しており、細胞に対する毒性を低減した状態で細胞増殖停止状態からの回復が可能であった。
【0109】
【0110】
実施例19:リポソームの細胞内取込と内包薬物の共送達評価
実施例8,9で調製したRhodamine BとFITCを含むリポソームを脂質濃度50μg / mLで間葉系幹細胞(Prime XV MSC expansion XSFM培地に5.0 × 10
4cells/mLで播種)に投与し、24時間後に共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。結果を
図2に示す。
図2に示されるように、いずれのリポソームでも2種類の蛍光色素が細胞内に取り込まれており、内包薬物を細胞内に共送達可能であった。
【0111】
実施例20:リポソーム組成物の細胞老化抑制作用の評価
実施例13で調製したMnポルフィリンおよびPFT-αを含むリポソームを脂質濃度0-80μg / mLの範囲で老化した間葉系幹細胞(Prime XV MSC expansion XSFM培地に1.5 × 105cells/mLで播種)に投与し、72時間後にSPiDER-βGal Cellular Senescence Detection Kitを用いてβ-ガラクトシラーゼ活性の変化を蛍光顕微鏡とフローサイトメーターで計測した。結果を表7に示す。表7に示されるように、老化した間葉系幹細胞ではβ-ガラクトシラーゼ活性が高いのに対し、本発明のリポソーム組成物で処理した細胞ではβ-ガラクトシラーゼ活性が低下しており、細胞に対する毒性を低減した状態で細胞老化からの回復が可能であった。
【0112】