(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072612
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】生体認証システム、生体認証装置、生体認証方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/117 20160101AFI20240521BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A61B5/117 200
A61B5/0245 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183552
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】和泉 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 博
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 歩夢
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AB04
4C017AC40
4C017BC02
4C017BC07
4C017BC11
4C017BC16
4C017FF15
4C038VA07
4C038VB25
4C038VB29
(57)【要約】
【課題】ドップラーセンサの計測信号を用いても、生体認証の精度を向上させる。
【解決手段】開示の生体認証システムは、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサと、前記心拍を計測した前記ドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置と、を備え、前記認証装置は、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、を実行するよう構成され、前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の心拍を計測するためのドップラーセンサと、
前記心拍を計測した前記ドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置と、
を備え、
前記認証装置は、
前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、
前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、
を実行するよう構成され、
前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む
生体認証システム。
【請求項2】
前記所定の周波数帯域は、少なくとも5Hzよりも低い帯域を含む
請求項1に記載の生体認証システム。
【請求項3】
前記認証装置は、前記強調信号において生じる複数のピークそれぞれを検出する検出処理を更に実行するよう構成されている
請求項1又は請求項2に記載の生体認証システム。
【請求項4】
前記認証装置は、検出された前記ピークに基づいて、前記強調信号を前記心拍の1拍毎に分割した複数の分割信号を得る分割処理を更に実行するよう構成され、
前記認証処理は、前記複数の分割信号に基づいて前記生体認証をする
請求項3に記載の生体認証システム。
【請求項5】
前記認証処理は、前記複数の分割信号それぞれに基づいて、1拍毎に前記生体をクラス分類することを含む
請求項4に記載の生体認証システム。
【請求項6】
前記認証処理は、前記複数の分割信号それぞれの特徴量を求め、前記特徴量に基づいて、クラス分類して得られたクラスを検証することを含む
請求項5に記載の生体認証システム。
【請求項7】
前記強調信号は、前記計測信号における前記所定の周波数帯域の信号を減衰させた信号の周波数スペクトログラムを含み、前記所定の周波数帯域は、少なくとも5Hzよりも低い帯域を含む、
請求項1に記載の生体認証システム。
【請求項8】
前記認証処理は、前記強調信号が入力されると前記生体を分類した結果を出力するよう構成された第1機械学習モデルを用いて、前記強調信号に基づいて前記生体をクラス分類することを含む
請求項1に記載の生体認証システム。
【請求項9】
前記認証処理は、
前記強調信号に基づいて前記生体を複数のクラスのいずれかにクラス分類し、
前記強調信号の第1特徴量を求め、
前記第1特徴量に基づいて、クラス分類して得られたクラスを検証する、
ことを備え、
前記クラスを検証することは、前記複数のクラスそれぞれに予め対応付けて設定された第2特徴量の中から、クラス分類して得られた前記クラスに対応付けられた対比用第2特徴量を選択し、前記第1特徴量と前記対比用第2特徴量とを対比することを含む
請求項1に記載の生体認証システム。
【請求項10】
生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置であって、
前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、
前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、
を実行するよう構成され、
前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む
認証装置。
【請求項11】
コンピュータによって実行される生体認証方法であって、
生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、
前記強調信号に基づいて生体認証をする
ことを備え、
前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む
生体認証方法。
【請求項12】
処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記処理は、
生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、
前記強調信号に基づいて生体認証をする
ことを備え、
前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体認証システム、生体認証装置、生体認証方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、ドップラーセンサを使用して心臓の動きを計測して生体認証をする技術を開示している。非特許文献1では、ディープ畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)を用いて個人認証が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】P. Cao, W. Xia, Y. Li, “Heart ID: Human identification based on radar micro-doppler signatures of the heart using deep Learning,” Remote Sens, 11, 1220, 2019.
【発明の概要】
【0004】
ドップラーセンサは、ドップラー効果を利用して物体の動きを検出する。ドップラーセンサは、マイクロ波などの送信波を、被検出物に対して放射し、被検出物からの反射波の周波数を監視する。被検出物が動いていると、ドップラー効果によって、反射波の周波数が変化する。ドップラーセンサは、周波数の変化(周波数シフト)を検出し、その変化を計測信号として出力する。計測信号は、被検出物の動きを示す。ドップラーセンサによって心拍を計測する場合、ドップラーセンサは、主に、心拍に起因する胸壁振動を検出する。
【0005】
ドップラーセンサ以外のセンサによって心拍情報を得るには、多くの場合、センサを身体に接触させる必要がある。例えば、心電図によって心拍情報を得るには、心電計の電極を身体に装着する必要がある。身体への装着が必要であると、ユーザビリティが低くなる。
【0006】
これに対して、ドップラーセンサは、身体に非接触であっても心拍情報を得ることができ有利である。つまり、ドップラーセンサは、ユーザビリティが高い。例えば、ドップラーセンサを利用すると、車内又は居住空間などのプライベート空間において、非接触であっても、心拍を容易に計測することができる。この結果、車内などの様々な場所において、心拍を用いた生体認証が可能となる。
【0007】
しかし、ドップラーセンサの計測信号用いた心拍生体認証に関する先行技術においては、様々な原因によって、認証の精度が十分に高くないという問題がある。したがって、ドップラーセンサの計測信号を用いても、生体認証の精度の向上を可能とする技術が望まれる。
【0008】
本開示のある側面は、生体認証システムである。開示のシステムは、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサと、前記心拍を計測した前記ドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置と、を備え、前記認証装置は、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、を実行するよう構成され、前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。
【0009】
本開示の他の側面は、認証装置である。開示の装置は、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置であって、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、を実行するよう構成され、前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。
【0010】
本開示の他の側面は、生体認証方法である。開示の方法は、コンピュータによって実行される生体認証方法であって、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、前記強調信号に基づいて生体認証をすることを備え、前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。
【0011】
本開示の他の側面は、コンピュータプログラムである。開示のプログラムは、処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記処理は、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、前記強調信号に基づいて生体認証をすることを備え、前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。
【0012】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、学習方法を示すフロチャートである。
【
図4】
図4は、強調信号、加速度波形、心電図、脈波を示す図である。
【
図5】
図5は、心電図、脈波、並びにドップラーセンサの計測信号から得られる低周波成分及び強調信号を示す図である。
【
図8】
図8は、生体認証の手順を示すフロチャートである。
【
図10】
図10は、学習時の潜在変数の分布と登録人物での分類結果を示す図である。
【
図11】
図11は、学習時の潜在変数の分布と未登録人物での分類結果を示す図である。
【
図12】
図12は、強調信号と計測信号それぞれでの認証結果の精度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.生体認証システム、生体認証装置、生体認証方法、及びコンピュータプログラムの概要>
【0015】
(1)実施形態に係る生体認証システムは、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサと、前記心拍を計測した前記ドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置と、を備え得る。前記認証装置は、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、を実行するよう構成され得る。前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含み得る。強調処理によって、心拍成分を強調することで、生体認証の精度が向上する。
【0016】
(2)前記所定の周波数帯域は、少なくとも5Hzよりも低い帯域を含むのが好ましい。この場合、心拍成分を適切に強調できる。
【0017】
(3)前記認証装置は、前記強調信号において生じる複数のピークそれぞれを検出する検出処理を更に実行するよう構成されているのが好ましい。この場合、心拍成分が強調された強調信号のピークは、心拍のR波に相当し得るため、強調信号のピークを検出することで、R波を検出し得る。
【0018】
(4)前記認証装置は、検出された前記ピークに基づいて、前記強調信号を前記心拍の1拍毎に分割した複数の分割信号を得る分割処理を更に実行するよう構成され得る。前記認証処理は、前記複数の分割信号に基づいて前記生体認証をするのが好ましい。1拍毎の分割信号に基づいて生体認証を行うことで、心拍間隔の変動の影響を排除して、精度よく認証を行うことができる。
【0019】
(5)前記認証処理は、前記複数の分割信号それぞれに基づいて、1拍毎に前記生体をクラス分類することを含むのが好ましい。
【0020】
(6)前記認証処理は、前記複数の分割信号それぞれの特徴量を求め、前記特徴量に基づいて、クラス分類して得られたクラスを検証することを含むのが好ましい。検証によって認証の精度を向上させることができる。
【0021】
(7)前記強調信号は、前記計測信号における前記所定の周波数帯域の信号を減衰させた信号の周波数スペクトログラムを含み、前記所定の周波数帯域は、少なくとも5Hzよりも低い帯域を含むのが好ましい。
【0022】
(8)前記認証処理は、前記強調信号が入力されると前記生体を分類した結果を出力するよう構成された第1機械学習モデルを用いて、前記強調信号に基づいて前記生体をクラス分類することを含むのが好ましい。
【0023】
(9)前記認証処理は、前記強調信号に基づいて前記生体を複数のクラスのいずれかにクラス分類し、前記強調信号の第1特徴量を求め、前記第1特徴量に基づいて、クラス分類して得られたクラスを検証する、ことを備え、前記クラスを検証することは、前記複数のクラスそれぞれに予め対応付けて設定された第2特徴量の中から、クラス分類して得られた前記クラスに対応付けられた対比用第2特徴量を選択し、前記第1特徴量と前記対比用第2特徴量とを対比することを含むのが好ましい。
【0024】
(10)実施形態に係る装置は、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号に基づいて生体認証を行う認証装置であり得る。認証装置は、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を得る強調処理と、前記強調信号に基づいて生体認証をする認証処理と、を実行するよう構成され得る。前記強調処理は、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含み得る。
【0025】
(11)実施形態に係る方法は、コンピュータによって実行される生体認証方法であり得る。生体認証方法は、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、前記強調信号に基づいて生体認証をすることを備え得る。前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含み得る。
【0026】
(12)実施形態に係るコンピュータプログラムは、処理をコンピュータに実行させる。前記処理は、生体の心拍を計測するためのドップラーセンサから出力された計測信号から、前記計測信号における心拍成分を強調した強調信号を求め、前記強調信号に基づいて生体認証をすることを備え得る。前記強調信号を求めることは、前記計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含み得る。
【0027】
<2.生体認証システム、生体認証装置、生体認証方法、及びコンピュータプログラムの例>
【0028】
図1は、実施形態に係る生体認証システムを示している。実施形態に係る生体認証システムは、ドップラーセンサ11と認証装置20とを備える。ドップラーセンサ11は、一例として、マイクロ波ドップラーセンサである。マイクロ波ドップラーセンサ11は、マイクロ波を送信波として、被検出物(ユーザUの胸部付近)に送信し、被検出物からの反射波を受信する。ドップラーセンサ11は、反射波の周波数シフトを検出し、その変化を計測信号として出力する。心拍を測定するドップラーセンサ11の計測信号は、心拍に起因する胸壁振動を示す。計測信号は、経時的に振幅が変化する時系列データとして構成され得る。
【0029】
マイクロ波は周波数が高いため、マイクロ波ドップラーセンサ11は、心臓の拍動により生じる体表面の微細な振動を検知することができる。ただし、ドップラーセンサ11は、マイクロ波ドップラーセンサに限定されるものではなく、マイクロ波以外の送信波を送信するものであってもよい。
【0030】
実施形態に係るドップラーセンサ11は、一例として、センサ装置10内に設けられている。センサ装置10は、その筐体内に、ドップラーセンサ11を備え得る。センサ装置10は、増幅器12を備える。増幅器12は、ドップラーセンサ11から出力された計測信号を増幅する。センサ装置10は、ドップラーセンサ11から出力された計測信号を受信するマイクロコントローラ13を備える。マイクロコントローラ13は、例えば、増幅された計測信号を受信する。マイクロコントローラ13は、受信した計測信号を、通信インターフェース14に与える。通信インターフェース14は、計測信号をセンサ装置10の外部へ送信する。計測信号は、例えば、認証装置20へ送信される。通信インターフェース14は、無線通信又は有線通信を担う。無線通信の場合、計測信号は、アンテナ15から外部へ送信される。通信インターフェース14は、例えば、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信のための無線インターフェースである。
【0031】
ドップラーセンサ11(センサ装置10)は、一例として、着座のための器具100に設けられ得る。着座のための器具100は、例えば、自動車その他の乗り物の座席、又は居住空間等に設置される椅子、ソファである。ドップラーセンサ11(センサ装置10)は、ベッドなど睡眠のための器具に設けられてもよい。ドップラーセンサ11(センサ装置10)は、着座のための器具100又は睡眠のための器具以外に設けられてもよい。例えば、ドップラーセンサ11は、心拍が計測されるユーザUが接近することがあり得るその他の位置に配置されてもよい。例えば、ドップラーセンサ11は、着座のための器具100又は睡眠のための器具の近傍に配置されてもよい。
【0032】
ドップラーセンサ11は、心拍が計測されるユーザの背面側、正面側、上方側、下方側のいずれに配置されてもよい。ドップラーセンサ11は、心拍が計測されるユーザUとの相対位置が固定され得る位置に設けられるのが好ましい。例えば、ドップラーセンサ11は、ユーザUの背面又は正面において、相対位置が固定され得る位置に設けられる。ドップラーセンサ11とユーザUとの相対位置が固定されていると、ドップラーセンサ11が、心拍とは関係のない身体の動きを検出するのを抑制できる。例えば、ドップラーセンサ11が、着座のための器具100の背もたれ101に設けられていると、ドップラーセンサ11はユーザUとの相対位置がほぼ固定され、ユーザUの心拍に起因する胸壁振動することができ、身体の動きを検出するのを抑制できる。
【0033】
実施形態に係る認証装置20は、例えば、認証のための処理を実行するコンピュータによって構成される。コンピュータは、例えば、ユーザUが登場する車両の車載コンピュータ、又は、ユーザが存在し得る建物に設けられたコンピュータである。コンピュータは、ネットワークを介して、ユーザUの遠隔地に設けられていてもよい。例えば、コンピュータは、インターネット上のサーバであってもよい。
【0034】
認証装置20を構成するコンピュータは、プロセッサ21及び記憶装置23を備える。なお、認証装置20は、1つのコンピュータによって構成されてもよいし、ネットワークを介して接続される複数のコンピュータによって構成されてもよい。
【0035】
記憶装置23は、プロセッサ21に接続されている。記憶装置23は、例えば、一次記憶装置及び二次記憶装置を備える。一次記憶装置は、例えば、RAMである。二次記憶装置は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)である。記憶装置23は、プロセッサ21によって実行されるコンピュータプログラム23Aを備える。プロセッサ21は、記憶装置23に格納されたコンピュータプログラム23Aを読み出して実行する。コンピュータプログラム23Aは、コンピュータを、認証装置20として機能させるための命令を示すプログラムコードを有する。すなわち、実施形態に係るコンピュータプログラム23Aは、コンピュータに、実施形態に係る生体認証方法を実行させるよう構成されている。
【0036】
認証装置20は、通信インターフェース25を備える。通信インターフェース25は、ドップラーセンサ11の計測信号を外部から受信する。例えば、認証装置20は、通信インターフェース14から送信された計測信号を、アンテナ27を介して、受信する。通信インターフェース25は、例えば、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信のためのインターフェースである。認証装置20は、その他のネットワーク(例えば、インターネット)を介して、計測信号を受信してもよい。
【0037】
認証装置20は、ユーザUの心拍を計測したドップラーセンサ11から取得した計測信号に基づいて、ユーザUの生体認証をする。認証装置20は、ドップラーセンサ11から取得した計測信号を記憶装置23に保存し、保存された計測信号対して、生体認証のための処理を実行することで、ユーザUの生体認証をする。認証装置20は、例えば、オフィスの椅子に装着されたドップラーセンサ11から取得した計測信号に基づいて、ユーザUである社員の生体認証をし、その生体認証結果に基づいて、社員の出退勤管理をするためのシステムにおいて用いられ得る。また、認証装置20は、営業車の車両シートに装着されたドップラーセンサ11から取得した計測信号に基づいて、ユーザUの生体認証をし、その生体認証結果に基づいて、車両の運行管理をしたり、車両の盗難防止を図ることができる。
【0038】
記憶装置23は、生体認証に用いられる機械学習モデル23B,23Cのデータを備え得る。実施形態の生体認証は、一例として、機械学習モデルを用いて行われる。
図1に示す記憶装置23は、一例として、機械学習モデルを複数備える。
図1には、一例として、第1モデル23B及び第2モデル23Cという2つの機械学習モデルが示されている。第1モデル23Bは、一例として、クラス分類器である。クラス分類器23Bは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)によって構成され得る。第2モデル23Cは、一例として、特徴抽出器である。特徴抽出器23Cは、例えば、入力データを次元圧縮して特徴量を抽出するよう構成される。特徴抽出器23Cは、例えば、変分オートエンコーダ(VAE)が備えるエンコーダによって構成され得る。
【0039】
記憶装置23は、第2モデル23Cの機械学習に用いられた学習データの特徴量23Dを備え得る。学習データの特徴量23Dは、同一ユーザ(同一ラベル)についての複数の特徴量が、特徴空間において有する各座標の平均座標であり得る。学習データの特徴量23Dについては後述される。
【0040】
図2は、実施形態の生体認証に用いられる機械学習モデル23B,23Cの学習のための手順を示している。まず、複数の被験者それぞれについてリファレンス信号及びドップラーセンサ11の計測信号が取得される(ステップS21)。リファレンス信号は、一例として、心電計によって計測された心電図(心電波形信号)である。リファレンス信号及びドップラーセンサ11の計測信号は同時に計測される。なお、リファレンス信号は、学習に用いられなくてもよいし、用いられてもよい。なお、ここでのドップラーセンサ11の計測信号は、一例として、身体の背面から10cm離れた位置から測定されたものである。リファレンス信号及び計測信号は複数拍分の時間長さを持つ。
【0041】
続いて、ドップラーセンサ11の計測信号の強調処理(前処理)が行われる(ステップS22)。強調処理によって、計測信号に含まれる心拍成分を強調した強調信号が得られる。強調処理は、例えば、計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。減衰される所定の周波数帯域は、低周波帯域であるのが好ましい。低周波帯域の信号を減衰させるには、例えば、低周波帯域の成分を遮断させるローパスフィルタが用いられる。低周波帯域の動きは、ユーザUの身体の動き(体動)又はユーザUの呼吸の影響を受けたものであることが多いため、計測信号から低周波帯域の成分を除去することで、心拍成分を強調した強調信号を得ることができる。減衰される所定の周波数帯域は、例えば、5Hzよりも低い帯域を含むのが好ましく、10Hzよりも低い帯域を含むのがより好ましい。ユーザUの身体の動き(体動)又はユーザUの呼吸による身体の動きは、心拍の動きに比べて、比較的、緩やかであるため、少なくとも5Hzよりも低い帯域の成分を減衰させることで、心拍成分を強調できる。また、10Hzよりも低い帯域の成分を減衰させることで、心拍成分をより強調できる。
【0042】
図3は、ステップS22の強調処理前の計測信号の波形(生信号波形)と、強調処理後の強調信号の波形とを示している。
図3の強調信号は、計測信号における10Hz以上の成分を示す。また、
図3には、参考として、計測信号の5Hz以下の成分が示されている。なお、
図3において、各波形の横軸は時間であり、縦軸は振幅である。
【0043】
図4は、
図3に示す強調信号が、心拍成分を良く表していることを示すため、同一人について、加速度センサで心拍を計測した波形、心電計で計測した心電図、及び指先に取り付けられた脈波計で計測した脈波を示している。加速度センサで心拍を計測した波形は、胸部に貼り付けられた加速度センサを使用して記録された低周波振動波形であり、心理心電図(SCG)と呼ばれる。なお、
図4において、各波形の横軸は時間であり、縦軸は振幅である。
【0044】
図4に示すように、加速度センサ波形(SCG)及び脈波では、心電図におけるピークR(R波)が生じる時刻においてピークが生じており、心拍成分のピークをよく表している。そして、加速度センサ波形(SCG)及び脈波おいてピークが生じる時刻には、強調信号においても振幅が大きくなっている。したがって、強調信号は、加速度センサ波形(SCG)又は脈波と同様に、心拍成分を良く表しているといえる。つまり、強調信号は、R波の時刻を表し得る。
【0045】
これに対して、ドップラーセンサ11の計測信号(生信号波形)では、
図3に示すように、その波形ピークが、R波が生じる時刻とは無関係に生じ得る。ドップラーセンサ11の計測信号(生信号波形)は、ユーザUの身体の動き(体動)又はユーザUの呼吸の影響を受け得るため、例えば、心拍とは無関係に生じる呼吸等の影響で大きな動きがあると、計測信号(生信号波形)にピークが生じ得る。しかし、ステップS22の強調処理によって、心拍成分を強調して、R波が生じる時刻に同期してピークが生じる強調信号が得られる。したがって、身体に非接触で心拍を計測するドップラーセンサ11であっても、身体に接触して心拍を計測する方式と同様に、心拍のピークを検出することが可能となる。
【0046】
また、
図5に示すように、ドップラーセンサ11の計測信号(生信号波形)では、心拍に関連する成分のピークが、R波が生じる時刻から大きくずれて生じることがある。
図5に示すように、指先で計測される脈波のピークが生じる時刻T2は、心電図においてR波が生じる時刻T1とはずれて生じることがある。ドップラーセンサ11の計測信号(生信号波形)の低周波成分のピークも、脈波と同様に、時刻T2付近に生じ得る。これに対して、低周波成分がカットされた強調信号では、そのピークが、R波と同様に時刻T1付近に生じ得る。したがって、強調信号は、心拍のピークをより適切に表すことができる。
【0047】
このようにドップラーセンサ11の計測信号(生信号波形)は、様々な影響を受け得るため、その波形ピークが心拍のピーク(R波)を示しているとは限らない。このことは、ドップラーセンサ11の計測信号のどこが1拍分であるかを把握することを困難にするという問題を生じさせる。この問題によって、例えば、ドップラーセンサ11の計測信号を、1拍毎に分割することが困難になる。この問題は、また、ドップラーセンサ11の計測信号から心拍に関するパラメータ(心拍変動パラメータ)を取得することを困難にする。心拍変動パラメータは、例えば、R波の位置に基づいて得られるパラメータ(RR間隔等)であって、時間領域パラメータ及び周波領域パラメータを含み得る。
【0048】
上記の問題に関し、計測信号の心拍成分を強調した強調信号は、前述のように、計測信号よりも、心拍のピークを適切に表す。したがって、実施形態に係る強調信号は、1拍の把握(信号波形においてR波に相当する時間位置の把握)が容易であり、後述のように、心拍の1拍毎に信号を適切に分割でき有利である。また、強調信号から心拍変動パラメータを得るのも容易になる。
【0049】
図2に示すように、強調処理(ステップS22)に続いて、検出処理(ステップS23)が行われる。検出処理では、強調信号において生じる複数のピークそれぞれが検出される。強調信号のピークの検出は、例えば、振幅が所定の閾値を超えた時刻として検出される。なお、強調信号に基づく検出処理は、ステップS22で求められた強調信号(時間-振幅信号)自体に基づいて行われてもよいし、ステップS22で求められた強調信号のスペクトログラム(強調信号を時間周波数解析したデータ)に基づいて行われてもよい。スペクトログラムは、強調信号を時間-周波数-信号成分強さで表したデータである。例えば、スペクトログラムにおいて、心拍に相当する周波数の信号成分強さが所定の閾値を超えた時刻が、ピークの位置として検出される。
【0050】
強調信号では、前述のように、R波に対応した位置においてピークが生じやすい。したがって、検出処理で検出される強調信号のピークは、概ね、R波の位置に相当する。なお、強調信号は心臓の拍動に起因した物理的な動きを示すのに対して心電図は拍動において生じる電気信号を示すため、強調信号のピークは、心電図におけるR波の位置(時刻)よりもやや遅れるが、R波に同期して生じ得る。
【0051】
ここで、
図6の(A1)は、ステップS22で得られた強調信号(時間-振幅信号)を示し、(A2)は、(A1)の強調信号のスペクトログラムを示す。また、
図6のPB,PC,PD,PEは、検出処理によって、(A1)又は(A2)から検出されたピークを示す。
【0052】
図2に示すように、検出処理(ステップS23)に続いて、分割処理(ステップS24)が行われる。分割処理では、検出処理で検出されたピークに基づいて、強調信号が心拍の1拍毎に分割される。強調信号の分割処理によって複数の分割信号が抽出される。分割信号は、例えば、強調信号のピークPB,PC,PD,PEそれぞれを基準にした所定時間幅Lを持つ信号である。所定時間幅Lは、例えば、ピークPB,PC,PD,PEそれぞれよりも所定の第1時間L1前から、所定の第2時間L2後の時間幅(L=L1+L2)として設定され得る。強調信号から、ピークPB,PC,PD,PEそれぞれを基準にした所定時間幅Lを切り出すことで、複数の分割信号が抽出され得る。時間幅Lをピークの前後に跨るように設定することで、ピーク前後を含む1拍分の分割信号が得られ好適である。なお、時間幅Lは、例えば、安静時における平均的な心拍数の上限(例えば、1分間に100回、85回、及び70回のいずれか)に相当するRR間隔より短く設定され得る。
【0053】
なお、ピークに対する所定の時間幅Lの位置を変化させることで、一つのピークから、複数の分割信号を得ることができる。例えば、時間幅Lを一定に保ったまま、L1及びL2の時間幅を変化させることで、分割信号内でのピークの位置が互いに異なる複数の分割信号を得ることができる。これにより、学習データとなる分割信号(分割信号のスペクトログラムを含む)を増加させることできる。
【0054】
図6の(B1)(C1)(D1)(E1)は、(A1)の強調信号から得られる複数の分割信号それぞれを示す。(B1)はピークPBを含む分割信号であり、(C1)はピークPCを含む分割信号であり、(D1)はピークPDを含む分割信号であり、(E1)はピークPEを含む分割信号である。
【0055】
ここで、心拍のRR間隔は一定ではなく変動する。したがって、
図6の(A1)のような複数拍分の信号は、RR間隔の変動の情報を有している。しかし、生体認証では、1拍毎の信号の特性が重要である。このため、複数拍分の信号は、RR間隔の変動の影響を受けているため、生体認証のためのモデルの学習に悪影響を与えるとともに、そのモデルを用いた生体認証の精度を低下させるおそれがある。そこで、
図6の(B1)(C1)(D1)(E1)のように、1拍毎の分割信号を用いることで、RR間隔の変動の影響を回避するとともに、生体認証の精度を向上させることができる。
【0056】
図2に示すように、分割処理(ステップS24)に続いて、スペクトログラムを取得するための時間周波数解析(ステップS25)が行われ得る。時間周波数解析は、例えば、連続ウェーブレット変換によって行われる。時間周波数解析は、例えば、
図6の分割信号(B1)(C1)(D1)(E1)に対して行われる。これにより、分割信号それぞれのスペクトログラムが得られる。
【0057】
なお、分割処理の前に、ステップS22で得られた強調信号(分割前信号)に対して時間周波数解析をして得られたスペクトログラム(
図6の(A2))を分割することで、分割信号それぞれのスペクトログラムを得てもよい。この場合、ステップS25の時間周波数解析は、ステップS22とステップS23の間に行われ得る。
【0058】
図6の(B2)(C2)(D2)(E2)それぞれは、分割信号のスペクトログラムを示す。(B2)は分割信号(B1)のスペクトログラムであり、(C2)は分割信号(C1)のスペクトログラムであり、(D2)は分割信号(D1)のスペクトログラムであり、(E2)は分割信号(E2)のスペクトログラムである。
【0059】
実施形態では、一例として、分割信号のスペクトログラムを学習データとして、機械学習が行われる(
図2のステップS26,S27)。なお、機械学習に用いられる学習データは、分割信号のスペクトログラムに限られず、強調信号に基づく他の信号であってもよい。例えば、学習データは、
図6の(B1)(C1)(D1)(E1)に示すような分割信号自体であってもよい。また、学習データは、
図6の(A1)又は(A2)に示すような複数拍分の信号であってもよい。本実施形態においては、強調信号から派生して得られる他の信号も、強調信号の特性を受け継いでいるため、強調信号として取り扱われる。つまり、分割信号のスペクトログラム及びその他の強調信号に基づく他の信号も強調信号として取り扱われる。
【0060】
実施形態では、一例として、第1モデル23B及び第2モデル23Cそれぞれの機械学習が行われる。ステップS26では、第1モデル23B(CNN)の学習が行われ、ステップS27では、第2モデル23C(VAE)の学習が行われる。なお、実施形態では、2つのモデル23B,23Cが用いられるが、一方だけが用いられてもよい。
【0061】
図7は、学習の一例を説明する模式図を示している。
図7では、学習データ(train Data)として、前述の分割信号のスペクトログラムそれぞれに、被験者を示すラベルが付与されたものが用いられる。ラベルによって示される被験者は、分割信号のスペクトログラムのもとになった計測信号が計測された被験者である。
【0062】
第1モデル23B(CNN)は、分割信号のスペクトログラムが入力されると、その分割信号がどのユーザのものかをクラス分類した結果(推定ラベル)を出力するよう構成されている。なわち、第1モデル23B(第1機械学習モデル)は、強調信号が入力されると生体をクラス分類した結果を出力するよう構成されている。ステップS26における第1モデル23Bの学習では、分割信号のスペクトログラムそれぞれに、被験者(生体)を示すラベルが付与された学習データを用いて、前述のクラス分類をするように、CNNが機械学習される。
【0063】
第2モデル23C(VAE)は、入力データから特徴量を取得し、特徴量から入力データの復元データを出力するニューラルネットワークである。第2モデル23Cは、例えば、変分オートエンコーダ(VAE)である。第2モデル23Cは、入力データから特徴量z(潜在変数)を求めるエンコーダ201と、特徴量zから復元データを生成するデコーダ202と、を備える。なお、学習時には、エンコーダ201とデコーダ202とを含む第2モデル23C全体が用いられるが、生体認証時には、エンコーダ201だけが用いられ、デコーダ202は用いられなくてもよい。
【0064】
第2モデル23Cの学習のため、分割信号のスペクトログラムがエンコーダ201に入力され、入力データと復元データとの誤差が小さくなるように第2モデル23Cの機械学習が行われる。
【0065】
図7に示すLatent space(潜在空間)は、学習済のエンコーダ201に各学習データ(分割信号のスペクトログラム)を入力したときに出力される特徴量z(潜在変数)を示している。
図7に示す潜在空間中の数字は、学習データである分割信号のスペクトログラム付与されたラベル(ユーザ)を示す。
図7の潜在空間では、各ラベル(各ユーザ)についての1拍毎の特徴量が、複数プロットされている。この潜在空間に示すように、同じラベル(ユーザ;被験者)についての複数の学習データの特徴量は、特徴空間である潜在空間において、集中して存在し得る。なお、
図7に示す潜在空間は2次元空間として表現されているが、実際には、3次元以上の多次元(例えば、5次元)の空間であり、当該多次元空間の特徴量が2次元空間に投影されている。変分オートエンコーダは、
図7に示すような特徴量分布を得るのが容易であり、有利である。
【0066】
図1に示すように、各ユーザ(被験者)に対応付けられた特徴量23Dが、記憶装置23に保存される。記憶装置23に保存される特徴量23Dは、
図7に示す特徴空間(潜在空間)における座標であり得る。各ユーザ(被験者)に対応付けられる座標(特徴量23D)は、各ラベル(各ユーザ)についての複数の1拍毎特徴量の平均座標であり得る。
【0067】
第2モデル23Cを用いた生体認証の際には、前述のエンコーダ201のほか、記憶装置23に保存された特徴量23Dが用いられる。
【0068】
図8は、モデル23B,23Cを用いた生体認証の手順を示している。
図8に示す処理は、認証装置20によって実行される。まず、認証装置20は、ユーザの心拍を計測したドップラーセンサ11の計測信号を取得する(ステップS81)。認証装置20は、心拍が測定されたユーザが、認証装置20に登録されたユーザであるかどうかを判定し、その判定結果を出力する。計測信号は、複数拍分の時間長さを持つ。
【0069】
続いて、認証装置20は、ドップラーセンサ11の計測信号の強調処理(前処理)を実行し得る(ステップS82)。強調処理によって、計測信号に含まれる心拍成分を強調した強調信号が得られる。ステップS82の強調処理は、ステップS22の強調処理と同様でよく、ステップS22に関する説明が援用される。すなわち、強調処理は、例えば、計測信号における所定の周波数帯域の信号を減衰させることを含む。減衰される所定の周波数帯域は、低周波帯域であるのが好ましい。低周波帯域の信号を減衰させるには、例えば、低周波帯域の成分を遮断させるローパスフィルタが用いられる。減衰される所定の周波数帯域は、例えば、5Hzよりも低い帯域を含むのが好ましく、10Hzよりも低い帯域を含むのがより好ましい。
【0070】
ステップS81の強調処理によって、心拍成分を強調して、R波が生じる時刻に同期してピークが生じる強調信号が得られる。したがって、身体に非接触で心拍を計測するドップラーセンサ11であっても、身体に接触して心拍を計測する方式と同様に、心拍のピークを検出することが可能となる。計測信号の心拍成分を強調した強調信号は、計測信号よりも、心拍のピークを適切に表す。したがって、実施形態に係る強調信号は、1拍の把握(信号波形においてR波に相当する時間位置の把握)が容易である。また、強調信号から心拍変動パラメータを得るのも容易になる。
【0071】
図8に示すように、認証装置20は、強調処理(ステップS82)に続いて、検出処理(ステップS83)を実行し得る。検出処理では、強調信号において生じる複数のピークそれぞれが検出される。ステップS83の検出処理は、ステップS23の検出処理と同様でよく、ステップS23に関する説明が援用される。
【0072】
図8に示すように、認証装置20は、検出処理(ステップS83)に続いて、分割処理(ステップS84)を実行し得る。分割処理では、検出処理で検出されたピークに基づいて、強調信号が心拍の1拍毎に分割される。強調信号の分割処理によって複数の分割信号(複数の1拍分信号)が抽出される。ステップS84の分割処理は、ステップS24の分割処理と同様でよく、ステップS24に関する説明が援用される。
【0073】
複数拍分の時間長さを持つ強調信号を分割して1拍分信号にすることで、RR間隔の変動の影響を回避して、生体認証の精度を向上させることができる。なお、1拍分信号は、同一ユーザについての複数の1拍分信号を平均したものであってもよい。
【0074】
図8に示すように、認証装置20は、分割処理(ステップS84)に続いて、スペクトログラムを取得するための時間周波数解析(ステップS85)を実行し得る。時間周波数解析は、例えば、1拍分信号に対する連続ウェーブレット変換によって行われる。ステップS85の時間周波数解析は、ステップS25の時間周波数解析と同様でよく、ステップS25に関する説明が援用される。
【0075】
なお、分割処理の前に、ステップS82で得られた強調信号(分割前信号)に対して時間周波数解析をして得られたスペクトログラムを分割することで、分割信号それぞれのスペクトログラムを得てもよい。この場合、ステップS85の時間周波数解析は、ステップS82とステップS83の間に行われ得る。
【0076】
認証装置20は、生体認証のための認証処理を実行し得る(ステップS86)。実施形態では、一例として、分割信号のスペクトログラムを、入力データとして、生体認証のための認証処理が行われる(ステップS86)。なお、認証処理の入力データは、分割信号のスペクトログラムに限られず、強調信号に基づく他の信号であってもよい。例えば、入力データは、ステップS84で得られた分割信号自体であってもよい。また、入力データは、分割されていない複数拍分の信号であってもよい。本実施形態においては、強調信号から派生して得られる他の信号も、強調信号の特性を受け継いでいるため、強調信号として取り扱われる。つまり、分割信号のスペクトログラム及びその他の強調信号に基づく他の信号も強調信号として取り扱われる。
【0077】
認証装置20は、認証処理の結果を出力し得る(ステップS87)。認証処理結果の出力は、例えば、認証処理結果を、視覚的又は聴覚的にユーザが認識し得るように、スクリーン表示又は音声出力により認証処理結果をユーザに提示することである。なお、認証処理結果は、ユーザに提示される必要はなく、認証処理結果が単に記憶装置へ保存されるだけであってもよい。
【0078】
実施形態の認証処理(ステップS86)では、一例として、第1モデル23B及び第2モデル23Cの両方が用いられる。なお、認証処理では、第1モデル23B及び第2モデル23Cのいずれか一方だけが用いられてもよいが、複数のモデル23B,23Cを用いることで認証精度を向上させることができる。
【0079】
図9は、第1モデル23B及び第2モデル23Cの両方を用いた認証処理の一例を示している。
図9に示す処理は、「STEP1」及び「STEP2」を含む。STEP1では、第1モデル23Bを用いたクラス分類が行われる。STEP2では、STEP1のクラス分類結果を、第2モデル23Cを用いて検証し、認証結果が得られる。
【0080】
図9のSTEP1では、第1モデル23B(クラス分類器;CNN)に、1拍毎の分割信号のスペクトログラムが入力データとして与えられる。第1モデル23Bは、1拍毎のクラス分類結果(予測ラベル(Predicted Label))を出力する。クラス分類結果は、認証装置20に登録されたユーザ(学習時の被験者)のいずれかを示す。同一ユーザの複数の分割信号スペクトログラムを、第1モデル23Bに順次与えると、1拍毎のクラス分類結果が複数得られる。
【0081】
図9のSTEP2では、第2モデル23C(特徴抽出器;VAE)に、1拍毎の分割信号のスペクトログラムが入力データとして与えられる。ここでは、VAEのエンコーダ201が用いられ、デコーダは用いられない。エンコーダ201は、入力データを次元圧縮し、特徴量を抽出する。つまり、エンコーダ201は、1拍毎の特徴量を抽出する。
【0082】
認証装置20は、エンコーダ201によって求められた特徴量(第1特徴量)に基づいて、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)を検証する。例えば、認証装置20は、エンコーダ201によって求められた特徴量(第1特徴量)と、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)に対応する特徴量(対比用第2特徴量)と、を対比することによって、かかる検証を行う。
【0083】
STEP1のクラス分類で得られたクラス(ユーザ)に対応する特徴量は、例えば、認証装置20が、記憶装置23に保存された特徴量23D(第2特徴量)を参照することで得られる。記憶装置23が備える複数の特徴量23Dは、認証装置20に登録された複数のユーザ(学習のための被験者となったユーザ)それぞれに特徴量を対応付けて構成されている。したがって、認証装置20は、STEP1のクラス分類で得られたクラス(ユーザ)に基づいて特徴量23D(第2特徴量)を参照することで、STEP1のクラス分類で得られたクラス(ユーザ)に対応する特徴量(対比用第2特徴量)を選択することができる。
【0084】
認証装置20は、上記のようにして得られた第1特徴量と対比用第2特徴量とを対比して、STEP1で得られたクラス(予測ラベル)を検証する。第1特徴量と対比用第2特徴量との対比は、例えば、特徴空間(潜在空間)における第1特徴量座標と、対比用第2特徴量座標と、の対比である。なお、対比用第2特徴量座標は、各ラベル(各ユーザ)についての学習データにおける複数の1拍毎特徴量の平均座標である。
【0085】
第1特徴量座標と対比用第2特徴量座標との対比は、例えば、第1特徴量と対比用第2特徴量との距離dを求めることによって行われる。距離は、例えば、特徴空間(潜在空間)におけるユークリッド距離である。
図9では、第1特徴量が星印で示され、対比用第2特徴量が黒丸で示されている。認証装置20は、特徴空間における、星印と黒丸とのユークリッド距離dを求める。
【0086】
認証装置20は、距離dに基づいて、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)を検証し、最終的な認証処理結果を得る。例えば、距離dが所定の閾値以下である場合、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)をそのまま、最終的な認証処理結果とする。つまり、距離dが所定の閾値以下である場合、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)が承認される。したがって、認証処理結果として、予測ラベルに対応するユーザが出力され得る。
【0087】
一方、距離dが所定の閾値より大きい場合、認証装置20に登録されたユーザに該当者がいないことを出力する。つまり、距離dが所定の閾値より大きい場合、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)が否認される。したがって、認証処理結果として、ユーザが登録されたユーザではないことが出力され得る。
【0088】
図10(B)は、認証装置20に登録されたユーザU2における特徴量(潜在変数)の分布を示し、
図11(B)は、未登録ユーザにおける特徴量(潜在変数)の分布を示している。また、
図10(A)及び
図11(A)は、学習時の潜在変数(登録ユーザの学習時の1拍毎の特徴量)の分布を示す。
【0089】
ここでは、登録ユーザは、ユーザU1,U2,U3,U4・・と多数存在し、
図10(A)及び
図11(A)では、これらの各ユーザの1拍毎の特徴量(潜在変数)が、各ユーザ毎にクラスターとなって存在している。各クラスターの中心位置(平均位置)の座標が、前述の対比用第2特徴量の座標になる。
【0090】
図10(B)は、登録ユーザU2の1拍毎の特徴量(第1特徴量)の分布を示している。
図10(B)における点それぞれは、1拍毎の特徴量を示し、
図10(B)に含まれる点は、全て、登録ユーザU2についてのものである。つまり、
図10(B)には、登録ユーザU2の複数の拍それぞれの特徴量(第1特徴量)が示されている。
図10(B)において、黒い点は分類器23Bによる分類結果がユーザU2であった場合(正しい分類)を示し、グレーの点は分類器23Bによる分類結果がユーザU4であった場合(誤った分類)を示す。
図10(B)では、ほとんどの拍が正しくユーザU2に分類されていることを示す。また、
図10(B)では、特徴量(第2特徴量)は、学習時のユーザU2の特徴量(第1特徴量)の大部分はクラスターを含む円C1内に存在するか、その近傍に存在する。つまり、登録ユーザの特徴量(第1特徴量)は、学習時のユーザの特徴量(第2特徴量)の近傍に集中して存在し得る。
【0091】
図11(B)は、未登録ユーザ(未登録人物)の1拍毎の特徴量(第1特徴量)の分布を示している。
図11(B)における点それぞれは、1拍毎の特徴量を示し、
図11(B)に含まれる点は、全て、ある一人の未登録ユーザについてのものである。つまり、
図11(B)には、未登録ユーザの複数の拍それぞれの特徴量(第1特徴量)が示されている。
図11(B)では、分類器23Bによる分類では、1拍毎に、様々な登録ユーザに誤って分類され得る。例えば、ある1拍では、ユーザU1に分類され、次の1拍では、ユーザU4に分類され、次の1拍では、ユーザU2に分類される、というように、分類結果がバラバラになる。また、
図11(B)では、特徴量(第2特徴量)が存在する範囲を示す円C2は、
図10(B)の円C1よりも大きくなる。つまり、未登録ユーザの場合、特徴空間における特徴量(第2特徴量)の分散が大きくなる。
【0092】
登録ユーザの心拍の1拍毎の特徴量(第1特徴量)の分布と、未登録ユーザの1拍毎の特徴量との分布には、上述したような違いが生じるという性質がある。
図9におけるSTEP2の検証は、かかる性質のうち、登録ユーザの第1特徴量は、未登録ユーザの第1特徴量に比べて、対比用第2特徴量(学習時の特徴量)に近い位置に存在しやすいという性質を利用したものである。つまり、第1特徴量と対比用第2特徴量との距離dが小さければ、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)を承認できる。
【0093】
検証は、上述の性質における他の性質を利用してもよい。例えば、登録ユーザの第1特徴量を複数の拍それぞれについてみた場合、第1特徴量の分散が小さくなり、未登録ユーザの第1特徴量を複数の拍それぞれについてみた場合、第1特徴量の分散が大きくなる。したがって、第1特徴量の分散が、所定の閾値よりも小さければ、STEP1のクラス分類で得られたクラス(予測ラベル)を承認し得る。また、距離dが所定の第1閾値よりも小さく、かつ、第1特徴量の分散が所定の第2閾値よりも小さいことを承認の条件としてもよい。
【0094】
また、本実施形態の認証処理では、1拍毎に、認証結果を得てもよいが、1拍毎の認証結果を、複数拍分、総合して、最終的な認証結果を得てもよい。例えば、連続する複数拍において、1拍毎の認証結果が、同一のユーザ(ラベル)であれば、そのユーザであることを認証するようにしてもよい。また、連続する複数拍(例えば、連続する5拍)又は連続しない任意の複数拍において、1拍毎に分類されたユーザのうち最も多いユーザ、又は過半数のユーザを、認証結果とすることができる。例えば、連続する5拍の場合、1拍毎の分類結果が5つ得られる。このとき、過半数である3つ以上の分類結果がユーザU2であることを示していれば、認証結果はユーザU2になる。このように、1拍毎の認証を複数拍にわたって行うことで、1拍毎の認証で誤りが生じても、最終的な誤りを防止して、認証精度を向上させることができる。
【0095】
[第1実験]
【0096】
図12は、実施形態の認証装置20において、
図8に示す手順に従って生体認証をした場合、及び、
図8に示す手順のうち強調処理(ステップS82)を省略して生体認証をした場合の認証結果を示している。
図8に示す手順に従った生体認証の場合、認証処理に用いられる信号は強調信号(ここでの強調信号は、計測信号の5Hzから50Hzの信号成分)の分割信号のスペクトログラムである。また、強調処理(ステップS82)を省略した生体認証の場合、認証処理に用いられる信号は計測信号(1Hzから50Hzの信号)の分割信号のスペクトラムである。
【0097】
また、
図12において、BAC(%)は、Balanced Accuracyを示す評価値である。F1Scoreは、適合率と再現率の調和平均を示す評価値である。
図12において、「single」は、1拍毎の分割信号での認証した場合の評価値を示し、「多数決5」は、連続する5拍について、1拍毎の認証結果の多数決をとって最終的な認証結果とした場合の評価値を示す。
【0098】
図12に示すように、計測信号自体に基づいて認証するよりも、強調信号に基づいて認証したほうが、いずれの評価値も大きくなる。したがって、強調信号に基づいて認証すると、認証精度が向上する。
【0099】
また、
図12によると、強調信号及び計測信号いずれで認証する場合でも、「single」よりも「多数決5」の認証精度が向上する。したがって、1拍毎の認証を複数拍分行うことで、認証精度を高めることができることがわかる。
【0100】
[第2実験]
また、本発明者らは、ドップラーセンサの計測データからDCNNを用いて生体認証を行っている非特許文献1に記載の技術と、本実施形態に係る技術と、の対比実験を行った。本実施形態に係る技術としては、
図1に示す認証装置20を用いて、
図8に示す手順に従って生体認証を行った。
【0101】
非特許文献1では、4人の場合、6人の場合、8人の場合、10人の場合それぞれの認証の精度(accuracy)が示されている(非特許文献1のFigure15のグラフ参照)。4人の場合の精度は、98.5%であり、6人の場合の精度は約95%であり、8人の場合の精度は約90%であり、10人の場合の精度は約80人である。本実施形態に係る技術によって、非特許文献1と同条件で認証した場合、4人の場合の精度は100%(1.5%向上)であり、6人の場合の精度は100%(5%向上)であり、8人の場合の精度は99.1%(9.1%向上)であり、10人の場合の精度は9.62%(16.2%)となり、いずれの人数条件においても、非特許文献1よりも精度が向上した。
【0102】
このように、非特許文献1の技術では、登録ユーザ数が増加すると精度が低下しやすいのに対して、本実施形態に係る技術では、登録ユーザ数が増加しても精度の低下を抑えることができる。
【0103】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0104】
10 :センサ装置
11 :ドップラーセンサ
12 :増幅器
13 :マイクロコントローラ
14 :通信インターフェース
15 :アンテナ
20 :認証装置
21 :プロセッサ
23 :記憶装置
23A :コンピュータプログラム
23B :第1モデル(第1機械学習モデル)
23C :第2モデル(第2機械学習モデル)
23D :特徴量
25 :通信インターフェース
27 :アンテナ
100 :器具
101 :背もたれ
201 :エンコーダ
202 :デコーダ
C1 :円
C2 :円
L :時間幅
L1 :第1時間
L2 :第2時間
PB :ピーク
PC :ピーク
PD :ピーク
PE :ピーク
U :ユーザ
U1 :ユーザ
U2 :ユーザ
U3 :ユーザ
U4 :ユーザ
d :ユークリッド距離
z :特徴量