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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072627
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】繊維シートの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/04 20060101AFI20240521BHJP
   D01D 5/08 20060101ALI20240521BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240521BHJP
【FI】
D01D5/04
D01D5/08 D
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183577
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】池山 卓
(72)【発明者】
【氏名】茂木 知之
(72)【発明者】
【氏名】平野 喬大
【テーマコード(参考)】
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L045AA01
4L045AA05
4L045AA08
4L045BA34
4L045CB08
4L045DA45
4L045DA46
4L047AA14
4L047AA17
4L047AA23
4L047AB08
4L047CA12
4L047CA14
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】電界紡糸法によって繊維を生成させながら基材層上の所望の位置に精度良く堆積させて良好に繊維シートを形成することができる、繊維シートの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】ノズルから原料液を吐出させ、電界紡糸法により前記原料液から生じた繊維を基材層に堆積させる繊維シートの製造方法であって、前記ノズルと離間して配置した前記基材層に対して、該基材層の前記ノズルとは反対側の面に対向電極を配し、電圧の印加によって前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせ、前記ノズルと前記対向電極との間に電界を形成し、該電界にて、前記ノズルから吐出する前記原料液を繊維として紡糸する紡糸工程を行うに当たり、前記対向電極を、前記基材層側に、前記基材層に接する平坦部と、該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分とを備えた頂部を有するものとし、前記紡糸工程において、前記平坦部と前記基材層とを当接させた状態にして前記ノズルと前記平坦部との間に電位差を発生させ、前記基材層の前記当接させた領域に前記紡糸した繊維を堆積させる、繊維シートの製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから原料液を吐出させ、電界紡糸法により前記原料液から生じた繊維を基材層に堆積させる繊維シートの製造方法であって、
前記ノズルと離間して配置した前記基材層に対して、
該基材層の前記ノズルとは反対側の面に対向電極を配し、
電圧の印加によって前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせ、前記ノズルと前記対向電極との間に電界を形成し、
該電界にて、前記ノズルから吐出する前記原料液を繊維として紡糸する
紡糸工程を行うに当たり、
前記対向電極を、
前記基材層側に、前記基材層に接する平坦部と、
該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分と
を備えた頂部を有するものとし、
前記紡糸工程において、
前記平坦部と前記基材層とを当接させた状態にして前記ノズルと前記平坦部との間に電位差を発生させ、
前記基材層の前記当接させた領域に前記紡糸した繊維を堆積させる、
繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記角部を有さないように構成された部分は前記基材層から離れるように外面を湾曲させた曲面部である、請求項1記載の繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記ノズルを前記対向電極に対して移動させながら紡糸する、請求項1又は2記載の繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記ノズル及び前記対向電極を移動させ、片方をもう一方に追従させながら紡糸する、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記ノズル又は前記対向電極に印加する電圧の絶対値を紡糸時間に応じて大きくさせながら紡糸する、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記対向電極に印加する電圧の絶対値を紡糸時間に応じて大きくさせながら紡糸する、請求項5記載の繊維シートの製造方法。
【請求項7】
原料液を吐出するノズルと、該ノズルと離間しながら対向するように配され、該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極とを備える繊維シートの製造装置であって、
前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせるように電圧を印加する手段を有し、
前記ノズルと前記対向電極との間に基材層を導入できる空間を備え、
前記対向電極は、
前記基材層側に、前記基材層に接する平坦部と、
該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分と
を備えた頂部を有する、
繊維シートの製造装置。
【請求項8】
前記ノズル及び前記対向電極の一方または両方を移動させながら、前記基材層上に、紡糸する繊維を堆積することを可能にする機構を備える、請求項7記載の繊維シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートの製造方法として、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)が知られている。該電界紡糸法では、繊維となる原料液(繊維の原料となる樹脂の溶液又は溶融液)に高電圧を作用させて、極細繊維(例えばナノメートルオーダーの繊維)を紡糸し堆積させて、繊維シートを形成する。このような電界紡糸法に関する技術について、これまでいくつかの提案がなされてきた。
例えば、特許文献1記載の製造方法では、原料液の吐出部と対向配置されるコレクタ電極について、基材との距離Aを変更しながら繊維の堆積状態を制御する技術が記載されている。前記コレクタ電極の頂部について、半球状等の曲面状にする形態が記載されている。
特許文献2記載の製造方法では、紡糸開始部に相対する対向電極を運動させて紡糸原液の飛翔方向を変化させる技術が記載されている。飛翔する方向を制御する観点から、前記対向電極の捕集体側に、鋭角な突起を設ける形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-167641号公報
【特許文献2】特開2013-019073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電界紡糸法による繊維シートの製造方法では前述の通り電圧の作用を利用する。具体的には、ノズルの先端において原料液の液滴表面に電荷が集まり、該電荷の電気的反発力で前記液滴が引き延ばされ、テイラーコーンと呼ばれる円錐状に変形する。電荷の電気的反発力が原料液の表面張力を越えると、円錐状の原料液がノズル先端から吐出されて次第に螺旋を描きながら延伸され、基材層の目標領域に向けて紡糸される。
しかし、基材層上に捕集され堆積した繊維と、堆積する前の紡糸された繊維とは同極性の電荷を帯びるため、この両者間での電荷反発が発生することがある。例えば、ノズル1から正極の電荷の原料液Lを吐出して繊維8Aとして紡糸していくと(図13(A))、基材層4の目標着地点49に正極の電荷の捕集繊維8Bが堆積する(図13(B))。更にその後から紡糸される繊維8Aは同じ正極の電荷を帯びるため、捕集繊維8Bとの間で電荷反発が生じる(図13(C))。この現象によって、基材層上の所望の領域を外れて繊維が堆積する可能性があり(例えば図13(C))、該堆積位置を好適に制御することが求められている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、電界紡糸法によって繊維を生成させながら基材層上の所望の位置に精度良く堆積させて良好に繊維シートを形成することができる、繊維シートの製造方法及び製造装置の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ノズルから原料液を吐出させ、電界紡糸法により前記原料液から生じた繊維を基材層に堆積させる繊維シートの製造方法であって、前記ノズルと離間して配置した前記基材層に対して、該基材層の前記ノズルとは反対側の面に対向電極を配し、電圧の印加によって前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせ、前記ノズルと前記対向電極との間に電界を形成し、該電界にて、前記ノズルから吐出する前記原料液を繊維として紡糸する紡糸工程を行うに当たり、前記対向電極を、前記基材層側に、前記基材層に接する平坦部と、該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分とを備えた頂部を有するものとし、前記紡糸工程において、前記平坦部と前記基材層とを当接させた状態にして前記ノズルと前記平坦部との間に電位差を発生させ、前記基材層の前記当接させた領域に前記紡糸した繊維を堆積させる、繊維シートの製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、原料液を吐出するノズルと、該ノズルと離間しながら対向するように配され、該ノズルとの間に電界を生じさせる対向電極とを備える繊維シートの製造装置であって、前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせるように電圧を印加する手段を有し、前記ノズルと前記対向電極との間に基材層を導入できる空間を備え、前記対向電極は、前記基材層側に、前記基材層に接する平坦部と、該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分とを備えた頂部を有する、繊維シートの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維シート製造方法によれば、電界紡糸法によって繊維を生成させながら基材層上の所望の位置に精度良く堆積させて良好に繊維シートを形成することができる。また、本発明の繊維シート製造装置によれば、上記の製造方法を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の繊維シートの製造方法に用いられる製造装置の好ましい一実施形態を模式的に示す概要図である。
図2】(A)は対向電極を基材層と共に示す側面図であり、(B)はその対向電極の平面図である。
図3】(A)は、対向電極の頂部において、平坦部の平面方向外方における角部を有さないように構成された部分が、直線部が組み合わさってなる、一例を示す側面図であり、(B)はその平面図である。
図4】角部を有さないように構成された部分が、直線部が組み合わさってなる、別の例を示す一部拡大側面図である。
図5】角部を有さないように構成された部分が、直線部が組み合わさってなる、更に別の例を示す一部拡大側面図である。
図6】本実施形態の繊維シートの製造方法により、基材層における対向電極の平坦部を当接させた領域に、繊維を紡糸する一例を模式的に示す斜視図である。
図7】ノズル移動機構の一例とこれに基づいてノズルを移動させた状態を模式的に示す斜視図である。
図8】対向電極移動機構の一例を模式的に示す斜視図である。
図9】(A)は、繊維の紡糸時間に応じて捕集繊維の電位が増えていく過程と対向電極に印加する電圧の絶対値を紡糸時間に応じて大きくさせながら紡糸する過程との関係を模式的に示す説明図であり、(B)は対向電極に印加する電圧の絶対値を大きくすることで電位差が一定に保持される状態を模式的に示す説明図である。
図10】本実施形態の繊維シートの製造方法において、複数のノズルを用いて一度に複数の紡糸を行う場合の好ましい態様について模式的に示す斜視図である。
図11】本実施形態の繊維シートの製造方法において、複数のノズルを用いて一度に複数の紡糸を行う場合に好ましく用いられるリング電極及びサイド電極を前記ノズルと共に模式的に示す斜視図である。
図12図11に示すサイド電極による作用の一例を模式的に示す説明図である。
図13】(A)~(B)は、従来の電界紡糸法を用いた繊維シートの製造法における繊維の紡糸過程を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の繊維シートの製造方法及び製造装置の好ましい一実施形態について説明する。
本実施形態の繊維シートの製造方法は、ノズルから原料液を吐出させ、電界紡糸法により前記原料液から生じた繊維を基材層に堆積させる方法であり、具体的には次の紡糸工程を行う。
すなわち、前記ノズルと離間して配置した前記基材層に対して、該基材層の前記ノズルとは反対側の面に対向電極を配し、電圧の印加によって前記ノズル及び前記対向電極の互いの極性を異ならせ、前記ノズルと前記対向電極との間に電界を形成し、該電界にて、前記ノズルから吐出する前記原料液を繊維として紡糸する紡糸工程を行う。
【0011】
本実施形態の繊維シートの製造方法において、前記対向電極は、後述するように、前記基材層に接する平坦部と、該平坦部の平面方向外方に、角部を有さないように構成された部分とを、備えた頂部を有するものである。この対向電極を用いて、前記紡糸工程において、前記平坦部と前記基材層とを当接させた状態にして前記ノズルと前記平坦部との間に電位差を発生させる。そして、前記基材層の前記当接させた領域に前記紡糸した繊維を堆積させる。後述するように、平坦部と基材層とが当接する位置においてノズルとの電位差が最も大きくなり、その位置において紡糸する繊維が集中しやすくなる。これにより、電界紡糸法によって繊維を生成させながら基材層上の所望の位置に精度良く堆積させて良好に繊維シートを形成することができる。対向電極の詳細は後述する。
【0012】
このような本実施形態の繊維シートの製造方法を実施する製造装置の好ましい一実施形態としては、例えば、図1に示すようなものが挙げられる。ただし、図1に示すものに限定されず、後述の対向電極2の構成及び対向電極2と基材層4との配置構成を含むものである限り、その他の装置構成を適宜変更することができる。
【0013】
図1に示す製造装置100(以下、電界紡糸装置100ともいう)は、原料液Lを吐出するノズル1と、ノズル1と離間しながら対向するように配され、ノズル1との間に電界を生じさせる対向電極2とを備える。また、製造装置100は、ノズル1及び対向電極2の互いの極性を異ならせるように電圧を印加する手段(電圧印加装置)3を有し、ノズル1と対向電極2との間に基材層4を導入できる空間5を備える。
【0014】
吐出する原料液Lは、電界紡糸法によって紡糸する繊維の原料となるものである。例えば、樹脂を溶媒に溶解させた樹脂溶液や、樹脂をその融点以上に溶融させた樹脂溶融液が挙げられる。
前記樹脂溶液に用いられる樹脂や溶媒としては、電界紡糸法において通常用いられる種々のものを採用できる。例えば、前記樹脂としてはポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
アクリル樹脂としては、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ポリアミド樹脂としては、ナイロン等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
前記溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o-クロロトルエン、p-クロロトルエン、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ピリジン等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
前記樹脂溶融液に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ナイロン系ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル-エチレン共重合体等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、液晶ポリマー等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ビニル系ポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリスチレン等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
アクリル系ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステル等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
ナイロン系ポリマーとしては、ナイロン6及びナイロン66等から選ばれる一又は二以上を含むことができる。
前記樹脂溶液や前記樹脂溶融液は種々の添加剤を含んでもよい。
原料液Lは、原料供給部(図示せず)に保持され、該原料供給部において定量的にノズル1へと供給可能にされている。
【0015】
ノズル1及び対向電極2は、金属等の導電性材料によって構成されている。ノズル1は、通常採り得る種々の構造、形状のものを用いることができ、ノズル1の先端の口径は原料液Lの吐出口として、紡糸する繊維の繊維径(例えばナノメートルオーダー)に応じて適宜設定できる。対向電極2も通常採り得る種々の構造のものを用いることができ、例えば円柱状の金属棒が挙げられる。電圧印加装置3は、直流高圧電源などの電圧印加部31と電線32とを有し、電線32によって電圧印加部31とノズル1及び対向電極2とを電気的に接続している。加えて、対向電極2は接地されている。これにより、電圧の印加によってノズル1及び対向電極2の互いの極性を異ならせることができる。互いに極性が異ならせるとは、例えば一方に印加する電圧の極性が正であるとき、他方に印加する電圧の極性は負とするか、あるいは、正負の無いゼロ極性とすることを意味する。
【0016】
図1に示す製造装置100においては、ノズル1に対し正の電圧を印加し、対向電極2に対して負の電圧を印加するものとしている。ただし、本発明の繊維シートの製造方法及び製造装置においてはこれに限定されず、前述の通り種々の印加の形態を採用できる。例えば、ノズル1に対し負の電圧を印加し、対向電極2に対して正の電圧を印加してもよい。また、ノズル1に正又は負の電圧を印加し、対向電極2をゼロ極性としてもよく、その逆であってもよい。ゼロ極性は、例えば図1の製造装置100において、ノズル1ないし対向電極2を接地することによってなされる。
【0017】
製造装置100において、電圧印加装置3が電圧を印加することによってノズル1及び対向電極2の互いの極性を異ならせ、ノズル1と対向電極2との間の空間5に電界を形成する。この空間5が、基材層4を導入できる領域であり、ノズル1から吐出する原料液Lを繊維として紡糸する領域となる。
【0018】
電界が形成された空間(以下、電界空間ともいう)5では、ノズル1と対向電極2との間に電位差が生じる。ノズル1の先端では、原料液Lの液滴表面に電荷が集まり、該電荷の電気的反発力で前記液滴が引き延ばされ、テイラーコーンと呼ばれる円錐状に変形する。電荷の電気的反発力が原料液Lの表面張力を越える段階で、円錐状の原料液Lがノズル1の先端から電界空間5へと吐出する。吐出した原料液Lは帯電しており、電界空間5での電位差に基づく電気的引力(静電引力)により対向電極2に向けて引き寄せされる。その際、吐出した原料液Lは、電界空間5での電位差に基づく外的な電気的引力に加え、帯電された原料液L内の電気的自己反発力等の種々の力の影響を受け、次第に螺旋を描きながら延伸を繰り返して、対向電極2上の基材層4に向けて紡糸される。このようにして、本実施形態の繊維シートの製造方法における前述の紡糸工程を実施することができる。
【0019】
前記紡糸工程に用いる対向電極2は、図2(A)及び(B)に示すように、基材層4の側に、基材層4に接する平坦部21と、平坦部21の平面方向外方(以下、縁部ともいう)22に、角部を有さないように構成された部分と、を備えた頂部23を有する。ここで平坦部21の「平坦」とは、基材層4と面状に当接し得る形状を言う。この定義に該当する限り、表面粗さのような微細な(例えばマイクロメートルの)凹凸を有する場合であっても平坦であるとする。
【0020】
対向電極2において、図2(B)に示すように、基材層4に接する平坦部21が、頂部23の基材層4側を平面視した領域の中央に位置する。その平面方向外方の縁部22に、前述の角部を有さないように構成された部分が、平坦部21を囲むように配されている。この対向電極2により、平坦部21とノズル1との間で電位差を発生させる。
通常、電界において、一般的な対向電極では縁部分が角部とされ、この箇所は避雷針のように電場が集中し、電荷が偏りやすい。電場が集中しやすい角部に繊維が集まってしまうと、狙った位置に捕集するよう制御することが難しくなる場合があった。これに対し、本実施形態で用いる対向電極2は、平坦部21の平面方向外方の縁部22に、前述の角部を有さないように構成された部分を配することで、縁部22で電場が集中するのを回避するようにしている。また、平坦部21は、ノズル1との距離が一定で、ノズル1との電位差が頂部23の中でより大きく均一化されやすい。前述の角部を有さないように構成された部分は、上記のように電場の集中を回避できる種々の形状とすることができる。例えば、図2(A)に示すように、基材層4から離れるように外面を湾曲させた曲面部とすることができる。
【0021】
前述の「角部」とは、頂部23の表面において、電場が集中する程の角度で外側に突出する部分を意味する。「角部を有さないように構成された部分」は、前述の外側に突出する部分を含まない部分であり、縁部22において、基材層4から緩やかな角度で離れるようにして延出していることが好ましい。
角部を有さないように構成された部分は、図2(A)に示すように、平坦部21となだらかに接続する曲面からなっていてもよく、側面から視た時に直線部が組み合わさってその部分を構成していてもよい。
前記「角部を有さないように構成された部分」が、直線部が組み合わさって構成されている場合、直線部同士の交差部(後述の直線部を変化させせる変化点に相当)は、外側に突出するものでないか、外側に突出する角度が90°超とされる。この場合、前記交差部には、内側に突出するものが含まれてもよい。また、前記交差部には、平坦部21との交差部も含まれる。前記交差部が90°以下の鋭角で外側に突出していなければ、その部分が避雷針のようにならず、予期せぬ放電を回避できる。
【0022】
直線が組み合わせって前記「角部を有さないように構成された部分」を構成した場合の一例を図3に示す。図3では平坦部21の表面の直線部21Aから外方に向かうにつれて基材層4から離れるように直線部22Aを変化させる変化点Kを有する。
変化点Kの大きさ(直線部同士の交差角度)θは、平坦部21以外の部位と基材層4との距離が近接することを防ぎ、狙った位置に繊維を捕集するよう制御する観点から、175°以下が好ましく、160°以下がより好ましく、150°以下が更に好ましい。また変化点Kの大きさθは、変化点Kへの繊維集中を防ぎ捕集ムラのないナノファイバシートを形成する観点から、95°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、120°以上が更に好ましい。
変化点Kは、図4に示すように直線部22Aが外側に向かうにつれて、直線を変化させ、K1、K2と複数有していてもよい。この場合の各変化点Kの大きさθ1、θ2は、前述の大きさθの範囲にあることが好ましい。
また、図5に示すように、一度変化点Kをつけたあとに平坦部21の表面の直線部21Aと平行に直線部22Bが進み、再び変化点Kを有していてもよい。
更に、複数の変化点Kがある場合に、平坦部21との交差部を変化点Kとせず、なだらかな曲線としてもよい。
【0023】
対向電極2の頂部23では前述の通り、平坦部21と基材層4とを当接させた状態にしている。そのため、この当接させた領域(以下、当接領域)41に、ノズル1とは異なる極性の電荷が流れやすい。一方、基材層4の当接領域41以外の領域42では、縁部分での電場の集中もなく、繊維8と同極に帯電しやすい。すなわち、領域42では繊維8との間で電荷反発が生じやすい。これにより、基材層4の平面領域の中で当接領域41が、電界空間5との関係で最も強い電気的引力を作用させる領域となる。
このようにして、前述の紡糸工程においては、平坦部21と基材層4とを当接させた状態にしてノズル1と平坦部21との間に電位差を発生させる。この当接させた状態を保持しながら前述の紡糸を行うことで、基材層4の当接領域41の面状領域に繊維8を集中させることができる。基材層4の当接領域41以外の領域42では、前述の電荷反発で、繊維8の堆積を防止することができる。更に、基材層4の当接領域41では平坦部21の電荷が最も強く及ぶので、これとは異なる極性の電荷(ノズル1の電荷)を有する繊維8の除電作用が生じやすく、ノズル1との間の電位差を保持しやすい。これにより、例えばノズル1の先端に生じる原料域Lのテイラーコーンの向きが変化しても、また堆積した繊維8と堆積する前の紡糸した繊維8との間の電荷反発があっても、基材層4の当接領域41に紡糸した繊維8をより強く引き込むことができる。その結果、当接領域41を紡糸の目標領域として繊維8の堆積位置を好適に制御することができる(例えば図6参照)。
【0024】
このようにして、本実施形態の繊維シートの製造方法によれば、電界紡糸法によって繊維8を生成させながら基材層上の所望の位置に精度良く堆積させて良好に繊維シート10を形成することができる。また、本実施形態の繊維シートの製造装置100よれば、上記の製造方法を好適に実施することができる。
【0025】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置では、ノズル1と対向電極2とを鉛直方向に対向させ、紡糸を上方から下方へと行うものとして示しているが、これに限定されない。例えば、ノズル1と対向電極2との位置を上下逆にして紡糸を下方から上方へと行うようにしてもよく、ノズル1と対向電極2とを水平方向に沿って対向させて紡糸を水平方向に行うようにしてもよい。また、ノズル1と対向電極2とを、鉛直方向及び水平方向と交差する方向に沿って対向させて、紡糸をその方向に行うようにしてもよい。
【0026】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、空間5は、ノズル1と対向電極2との離間によって形成されるものであり、前述の電気的引力で紡糸を好適に行う観点から適宜設定することができる。
例えば、ノズル1の先端と対向電極2の平坦部21の表面との間の距離は、繊維化のための延伸を良好に行う観点から、30mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましく、80mm以上が更に好ましい。
また、ノズル1の先端と対向電極2の平坦部21の表面との間の距離は、良好な電界を形成する観点、紡糸した繊維8を基材層4の所望の位置に好適に堆積させる観点から、300mm以下が好ましく、250mm以下がより好ましく、200mm以下が更に好ましい。
【0027】
ノズル1と対向電極2の平坦部21との電位差は、原料液Lの帯電性を向上させる観点から、1kV以上が好ましく、10kV以上がより好ましく、15kV以上が更に好ましい。
また、電位差は、放電を防止する観点から、100kV以下が好ましく、50kV以下がより好ましく、30kV以下が更に好ましい。
【0028】
対向電極2の頂部23側からの平面視において、平坦部21の平面形状は、図2(B)に示す円形に限定されず、種々の形状とすることができる。例えば、楕円形、多角形等が挙げられる。ただし、頂部23における平坦部21での電極の偏在を抑え広く均等に電荷を行き渡らせる観点から、平坦部21の平面形状は、外縁に角が無く、外縁が閉曲線で示される形状であることが好ましく、円形がより好ましい。平坦部21の平面形状が円形であると、電荷を放射線状に均等に行き渡らせることができ好ましい。また、対向電極2の頂部23側からの平面視において、前述の角部を有さないように構成された部分(例えば曲面部)は、平坦部21の外縁に沿って縁取りするように配されることが好ましい。前述の角部を有さないように構成された部分と平坦部21との接続部分の外表面は、段差のような角部がなく、なだらかな曲面であることが好ましい。
側面視した時の曲面の曲率半径Rは、曲面への電場集中を防ぎ捕集ムラのないナノファイバシートを形成する観点から、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上が更に好ましい。また、上記の曲面の曲率半径Rは、繊維8の堆積位置をより良好に制御する観点から、18mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、12mm以下が更に好ましい。
【0029】
対向電極2の頂部23を平面視した領域に占める平坦部21の割合は、基材層4との接触面積を増やし、帯電した電荷の除電を促す観点から、15%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、45%以上が更に好ましい。
また、上記の平坦部21の割合は、繊維8の堆積位置をより良好に制御する観点から、85%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。
【0030】
対向電極2の頂部23側からの平面視において、平坦部21の平面面積は、上記の堆積位置の好適な制御によって種々設定することが可能となる。
例えば、上記の平坦部21の平面面積は、基材層4との接触面積を増やし、帯電した電荷の除電を促す観点から、15mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましく、70mm以上が更に好ましい。
また、上記の平坦部21の平面面積は、繊維8の堆積位置をより良好に制御する観点から、7500mm以下が好ましく、2000mm以下がより好ましく、300mm以下が更に好ましい。
【0031】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、ノズル1を対向電極2に対して移動させながら紡糸することが好ましい。これにより、基材層4の平坦部21に当接する領域(当接領域)41を紡糸の目標領域とし、該当接領域41全体に対してより精度良く繊維8を堆積させ、より均一な坪量の繊維シート10を良好に製造することができる。また、平坦部21及び当接領域41の面積をより大きくしてノズル1の移動範囲を広げ、より大きな繊維シート10を良好に製造することができる。更に、ノズル1の移動範囲を適宜設定して、基材層4の当接領域41内に部分的な目標領域を設定し、任意の様々な平面形状の繊維シート1を良好に製造することもできる。
ノズル1を移動させる機構としては、この種の製造方法において通常用いられる種々のものを採用することができる。例えば、図7に示すように、支柱部61と、支持部61に支持されたレール部62と、レール部62に沿って移動可能で、ノズル1を固定した可動部63とを有するノズル移動機構6が挙げられる。レール部62に沿って可動部63を移動させることで、ノズル1を基材層1の当接領域41内を移動させることができる。その際、レール部62が支持部61に沿って移動可能であるとより好ましい。
【0032】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、ノズル1及び対向電極2を移動させて、片方をもう一方に追従させながら紡糸することが好ましい。この場合、基材層4における、対向電極2の平坦部21が当接する領域(当接領域)41は、対向電極2の移動に伴って移動する。そのため、基材層4における紡糸の目標領域は、移動する前の当接領域41よりも大きい面積を設定することができる。これにより、より大きく様々な平面形状の繊維シート10を良好に製造することができる。
例えば、ノズル1が移動した箇所を対向電極2が追従してもよく、対向電極2が移動した箇所をノズル1が追従してもよい。前述した追従箇所の座標Pは完全に一致する必要はなく、対向電極2の平面方向に対し相対的に変化しても良い。追従箇所の座標Pのズレ量は、繊維8の堆積位置をより良好に制御する観点から、30mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい。対向電極2が平坦部21とその縁の角部を有さないように構成された部分を有し、平坦部21にて基材層4と当接していることで堆積位置を好適に制御できることから可能となる。すなわち、前述の通り、基材層4の当接領域41における強い電気的引力で、繊維8が対向電極2の平坦部21に追従して基材層4に堆積していく。そのため、ノズル1の動作と対向電極2の動作とが完全に同期するものでなくても、前述のように紡糸する繊維8を所望の位置に精度良く堆積させることが可能となる。また、ノズル1と対向電極2を紡糸方向の軸方向で同軸上に移動させると、両者が同期して動き、上記の所望の位置への繊維堆積をより精度良く行うことができ更に好ましい。同軸上に動作させる際は、ノズル1の中心位置と対向電極2の中心位置は必ずしも同じである必要はなく、オフセットしたまま動作しても良い。上記オフセット量は繊維8の堆積位置をより良好に制御する観点から、30mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい。
ノズル1及び対向電極2の両方を移動させる機構としては、この種の製造方法において通常用いられる種々のものを採用することができる。例えば、図8に示すように、前述のノズル移動機構6に加え、支持部71と、支持部71に支持されたレール部72と、レール部72に沿って移動可能で、対向電極2を固定した可動部73とを有する対向電極移動機構7を組み合わせたものが挙げられる。対向電極移動機構7は、前述のノズル移動機構6と同様の仕組みで作動することが好ましい。この機構により、ノズル1及び対向電極2の両方を移動させながら、紡糸する繊維8を、基材層4上に更に精度良く堆積することができる。図8に示す例において、対向電極2の平坦部21は、図7に示すものよりも小さい面積とすると、互いに移動するノズル1と対向電極2との間における紡糸方向の直線性を更に高めて、紡糸を好適に制御することができ好ましい。
【0033】
図8に示す例において、図7に示すようにノズル1のみを移動させてもよく、対向電極2のみを移動させるようにしてもよい。また、対向電極2のみを移動させる場合、製造装置100は、ノズル移動機構6を有さず対向電極移動機構7のみを備える構成としてもよい(図示せず)。対向電極2のみを移動させる場合にも、図7に示すノズル1のみを移動させた場合と同様に紡糸を制御して、より大きく様々な平面形状の繊維シート10を良好に製造することができる。なお、より大きく様々な平面形状の繊維シート10を良好に製造する観点からは、前述のとおり、ノズル1及び対向電極2の両方を移動させることがより好ましい。
【0034】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、ノズル1又は対向電極2に印加する電圧(捕集電圧)の絶対値を紡糸時間に応じて大きくさせながら紡糸することが好ましい。なお、ノズル1又は対向電極2に印加する電圧がゼロ極性である場合、紡糸開始時のみゼロ極性とし、紡糸時間と共に、対向する対向電極2又はノズル1に印加する電圧の極性と逆極性の電圧の絶対値を増加させることが好ましい。
例えば図9(A)に示すように、基材層4の当接領域41に繊維8が堆積するにつれて捕集繊維の電位が増えていく場合でも、対向電極2に対して、紡糸時間に応じて繊維8とは逆極性の電圧の絶対値を大きくする。これにより、基材層4の当接領域41にノズル1と同極の電荷を帯びた繊維8が多く堆積してノズル1との電位差が小さくなろうとしても、電位差を一定に保持するように制御することが可能となる(図9(B))。これは、電位差が低減して原料液Lを引き出す静電引力が弱まることで生じかねない、原料液Lの供給量と静電引力とのバランス崩壊を防ぐ。そして、バランス崩壊により引き起こされかねない原料液Lの液滴(繊維になり切れない液滴)の落下の発生を防止することができる。これにより、良好な紡糸を安定化することができる。加えて、電位差を一定に保つことができるので、ノズル1から対向電極2に向かう繊維8の直進性も保持できる。これにより、紡糸する繊維8の堆積位置をより好適に制御でき、より良好な繊維シート10をより歩留まり良く製造することができる。
上記の電圧制御は、次のようにすることが好ましい。前述したノズル1または対向電極2の移動機構に入力された移動軌跡データから紡糸時間を算出する。紡糸開始時と紡糸終了時の電圧値は予め所定の値を設定し、紡糸時間に基づき連続的に電圧値を変化させることが好ましい。あるいは、紡糸開始時から紡糸終了時までの電圧増加分と前述した紡糸時間を複数回に分割し、段階的に電圧を制御することが好ましい。
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、電圧(捕集電圧)の絶対値を紡糸時間に応じて大きくさせるのは、ノズル1に比べ対向電極2の電圧値の絶対値は低く、装置との放電リスクを低減させる観点から、対向電極2であることが好ましい。
【0035】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置においては、前述の対向電極2を用いることから、紡糸する繊維8の堆積位置を好適に制御することができる。そのため、基材層4の平面領域内において複数本の対向電極2を配置し、複数個所に紡糸の目標領域を設定して複数の繊維シート10を良好に製造することも可能となる。その際、基材層4に対して対向電極2を複数互いに離間させて配置することが、紡糸の直進性を担保する観点から好ましい。これにより、1回の紡糸サイクルで複数の目標領域への紡糸が可能となる。すなわち、基材層4の所定の平面領域内に、互いに離間する複数の繊維シートを配した型(パターン)を効率的に形成すること(パターン紡糸)が可能となる。また、複数本の対向電極2に対して複数本のノズル1を一対一で対向させてもよい。これにより、一度に複数の紡糸(パターン紡糸)が可能となる。このとき、対向電極2とノズル1との本数は同数であることが好ましいが、ノズル1の本数を対向電極2の本数よりも少なくして、複数本のノズル1による紡糸バッチを複数回行い、対向電極2の数に対応する枚数の繊維シート10を形成するようにしてもよい。なお、このパターン紡糸における、各対向電極2に対応する個々の目標領域は、対向電極2が移動しないで固定された当接領域41の場合(例えば図6)もあれば、対向電極2の移動に伴って当接領域41が移動して形成される、より広い領域の場合(例えば図8)もある。また、紡糸の目標領域は、図7に示すようにノズル1の移動範囲で設定される領域であってもよい。
【0036】
基材層4は、所定の寸法を有する枚葉のシートであってもよく、原反ロールから繰り出される長尺の連続シートであってもよい。連続シートは機械流れ方向(Machine Direction;MD)に搬送と停止を繰り返し、間欠的に基材層を搬送することで、連続シート上に複数個所パターン紡糸を行うことができる。
基材層4の素材としては、この種の物品において通常用いられるものを種々採用できる。例えば、不織布、フィルム、スポンジ、織布、編み地、紙、メッシュシート及びそれらの積層体などが挙げられる。
【0037】
特に、連続シートの場合、前述の複数の対向電極2、又は、複数の対向電極2及び複数のノズル1を用いることが好ましい。この場合、機械流れ方向及びこれに直交する幅方向(Cross Drection;CD)に広がる所定の領域内に複数の目標領域を設定してパターン紡糸を行うことができる。これにより、連続シート46の所定の平面領域内に、設定した枚数の繊維シートの型(パターン)を迅速かつ良好に形成できる。しかも、これを連続シート46の長手方向に沿って繰り返し実施することができる。例えば、一度に複数の目標領域に紡糸を行う紡糸バッチを機械流れ方向に繰り返し行うことができる。
【0038】
基材層4を連続シートとし、複数のノズル1を用いて一度に複数の目標領域に紡糸を行う紡糸バッチを機械流れ方向に繰り返し行う場合、例えば、図10に示すようにすることができる。なお、図10に示す具体例では、ノズル移動機構6は可動部63にノズル集約盤63Aを有し、このノズル集約盤63Aに9個のノズル1が取り付けられている。また、対向電極2は9個配置されている。以下、この9個のノズル1をノズル1群といい、9個の対向電極2を対向電極2群という。
図10に示す具体例では、原反ロール45から繰り出される連続シート46に対し、9個のノズル1群が9個の対向電極2群に対向する位置で、一度に複数の目標領域に対して紡糸を行う(紡糸バッチを実施する)。その際、可動部63に取り付けられたノズル集約盤63Aを移動させなら、図7に示すように、各目標領域に対して所定の面積及び形状の繊維シートを形成することができる。また、図8に示すように、ノズル1及び対向電極2を移動させて片方をもう一方に追従させながら紡糸するようにしてもよい。
【0039】
図10に示す具体例では、連続シートの所定の平面領域に対し、9個のノズル1群及び9個の対向電極2群による紡糸バッチを2回行っている。2回の紡糸バッチは、連続シート46の搬送を一時停止させた状態でノズル移動機構6のレール部62を支持部61に沿って可動させて、1回目と2回目とで異なる目標領域に対して実施している。これにより、連続シート46の所定の平面領域内に18枚の繊維シート10の型(パターン)を形成するようにしている。なお、連続シートの所定の平面領域に対する紡糸バッチの回数は、上記の2回に限定されず、1回の紡糸バッチであってもよく、3回以上の紡糸バッチであってもよい。これは、連続シート46において繊維シート10の型(パターン)を区切る所定の平面領域の広さ、繊維シート10の枚数、ノズル1及び対向電極2の個数に応じて適宜設定できる。
図10に示す具体例では、18枚の繊維シート10の型(パターン)を形成した後、連続シート46の所定の平面領域は次のレーザーカット工程へ移行する。レーザーカット工程では、例えばレーザーカッター91によって、繊維シート10と連続シート46の素材(基材層4)とを一緒に、繊維シート10の外縁にてくり抜く。くり抜かれた繊維シート10と基材層4との積層シートは製品出口へと搬送される。残りの連続シート46はトリム回収される。
このような一連の工程が、連続シート46が搬送される間、繰り返し行われる。
【0040】
本実施形態の繊維シートの製造方法及び製造装置において、前述の通り複数本の対向電極2に対して複数本のノズル1を一対一で対向させて一度に紡糸する場合、次のような構成にて行うことがより好ましい。
すなわち、図11に示すように、各ノズル1の先端を囲むようにリング電極81を配することが好ましい。リング電極81は、ノズル1及び吐出する原料液Lと同じ極性の電圧で帯電することが好ましい。これにより、吐出する原料液Lを対向電極2へと向かわせる紡糸の直進性を向上させることができる。
また、図11に示すように、複数配されたノズル1及び対向電極2の間の電界空間5の周囲をサイド電極82で囲むようにしてもよい。サイド電極82もノズル1及び吐出する原料液Lと同じ極性の電圧で帯電することが好ましい。これにより、図12に示すように、電荷反発によって外側に拡がろうとする繊維の軌道を補正することができ、紡糸の直進性を向上させることができる。
なお、前述のリング電極81及びサイド電極82は、基材層4が枚葉の場合でも連続シートの場合でも用いることができる。
【0041】
前述の、複数の繊維シート10を複数、互いに離間させて形成するパターン紡糸においては、基材層4の全面ではなく、余白を残して一部に繊維シートを形成する。そのため、本実施形態の繊維シートの製造方法ではその余白を有効活用することができる。
すなわち、本実施形態の繊維シートの製造方法を開始するために定常的な紡糸に移行する以前の段階で、繊維8を堆積する目標領域以外の余白(非堆積予定領域)に端切り紡糸(捨て打ち紡糸)をすることが好ましい。これにより、ノズル1からの原料液Lの吐出の安定化を高めた状態で目標領域に対する紡糸を行うことができる。これにより紡糸が安定化する。
【符号の説明】
【0042】
1 ノズル
2 対向電極
21 平坦部
23 頂部
3 電圧を印加する手段(電圧印加装置)
4 基材層
8 繊維
10 繊維シート
100 繊維シートの製造装置
L 原料液

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13