(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072647
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240521BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240521BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240521BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183605
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 敦
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC03
3D232CC04
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA46
3D232DA62
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC08
3D232DD01
3D232DD06
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】ステアリングホイールと転舵輪との間のねじり剛性の変化を抑制できるようにした操舵制御装置を提供する。
【解決手段】PU52は、転舵輪34の転舵角を制御量として且つ目標転舵角を制御量の目標値とするフィードバック制御によって転舵モータ42のトルクを制御する。PU52は、軸力に応じてステアリングホイール12に反力を付与する。PU52は、目標転舵相当角に応じて角度軸力を算出する。PU52は、転舵モータ42の電流に応じて電流軸力を算出する。PU52は、角度軸力と電流軸力との加重平均処理値を軸力とする。PU52は、軸力に対する電流軸力の割合に応じて上記フィードバック制御のゲインを変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに反力を付与する反力モータと、転舵輪を転舵させる転舵モータと、を備える操舵装置に適用され、
前記ステアリングホイールおよび前記転舵輪間の動力伝達が遮断された状態において、転舵制御処理、角度軸力算出処理、モータ軸力算出処理、配分処理、反力制御処理、およびゲイン可変処理を実行するように構成され、
前記転舵制御処理は、転舵相当角を制御量として且つ目標転舵相当角を前記制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量に応じて前記転舵モータを操作する処理であり、
前記転舵相当角は、転舵角を示す変数であり、
前記目標転舵相当角は、前記転舵相当角の目標値であり、
前記角度軸力算出処理は、軸力用角度変数の値を入力として角度軸力を算出する処理であり、
前記軸力用角度変数は、前記操舵装置の角度を示す変数であって且つ前記角度軸力を算出する際に参照される変数であり、
前記モータ軸力算出処理は、前記転舵モータのトルクを示す変数であるトルク変数の値を入力としてモータ軸力を算出する処理であり、
前記配分処理は、前記角度軸力と前記モータ軸力との加重平均処理値に応じて配分軸力を算出する処理であり、
前記反力制御処理は、前記配分軸力に応じて前記反力モータのトルクを制御する処理であり、
前記ゲイン可変処理は、前記配分軸力に応じて前記フィードバック制御のゲインを変更する処理であって且つ、前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合が大きい場合の前記ゲインを前記割合が小さい場合の前記ゲイン以上とする処理である操舵制御装置。
【請求項2】
前記配分処理は、配分用角度変数の値に応じて前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合を変更する処理を含み、
前記配分用角度変数は、前記操舵装置の角度を示す変数であって且つ前記割合を算出する際に参照される変数である請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
目標転舵相当角算出処理、および目標操舵角算出処理を実行するように構成され、
前記目標転舵相当角算出処理は、操舵角と舵角比とに応じて前記目標転舵相当角を算出する処理であり、
前記目標操舵角算出処理は、前記転舵相当角と前記舵角比とに応じて目標操舵角を算出する処理であり、
前記角度変数の値は、前記目標操舵角である請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記転舵制御処理は、前記転舵相当角と前記目標転舵相当角との差を入力とする比例要素の出力値に応じて前記操作量を算出する処理を含み、
前記ゲイン可変処理は、前記比例要素のゲインを可変とする処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記ゲイン可変処理は、前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合を入力として前記ゲインを変更する処理と、車速を入力として前記ゲインを変更する処理と、を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が遮断された状態で、ステアリングホイールおよび転舵輪を制御対象とする制御装置が記載されている。この制御装置は、軸力に応じてステアリングホイールに、運転者がステアリングホイールを操作するトルクとは逆側のトルクである反力トルクを付与する。ここで、制御装置は、軸力を、角度の目標値に応じた軸力である角度軸力と、転舵輪を転舵させるモータの電流に応じた軸力である電流軸力との配分比を調整して算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、転舵輪に対して外部から大きな力が加わる場合、モータの電流が大きくなる。そのため、転舵輪に対して外部から大きな力が加わる場合、電流軸力が大きく変化する。一方、角度軸力は、目標値に応じた量であることから、転舵輪に対して外部から大きな力が加わっても、大きく変化しない。そのため、転舵輪に対して外部から大きな力が加わったときにステアリングホイールに加わる反力は、角度軸力と電流軸力との配分比に応じて変化する。これは、運転者に、ステアリングホイールと転舵輪との間のねじり剛性の変化として体感される要因となる懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
ステアリングホイールに反力を付与する反力モータと、転舵輪を転舵させる転舵モータと、を備える操舵装置に適用され、前記ステアリングホイールおよび前記転舵輪間の動力伝達が遮断された状態において、転舵制御処理、角度軸力算出処理、モータ軸力算出処理、配分処理、反力制御処理、およびゲイン可変処理を実行するように構成され、前記転舵制御処理は、転舵相当角を制御量として且つ目標転舵相当角を前記制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量に応じて前記転舵モータを操作する処理であり、前記転舵相当角は、転舵角を示す変数であり、前記目標転舵相当角は、前記転舵相当角の目標値であり、前記角度軸力算出処理は、軸力用角度変数の値を入力として角度軸力を算出する処理であり、前記軸力用角度変数は、前記操舵装置の角度を示す変数であって且つ前記角度軸力を算出する際に参照される変数であり、前記モータ軸力算出処理は、前記転舵モータのトルクを示す変数であるトルク変数の値を入力としてモータ軸力を算出する処理であり、前記配分処理は、前記角度軸力と前記モータ軸力との加重平均処理値に応じて配分軸力を算出する処理であり、前記反力制御処理は、前記配分軸力に応じて前記反力モータのトルクを制御する処理であり、前記ゲイン可変処理は、前記配分軸力に応じて前記フィードバック制御のゲインを変更する処理であって且つ、前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合が大きい場合の前記ゲインを前記割合が小さい場合の前記ゲイン以上とする処理である操舵制御装置である。
【0006】
上記構成では、配分軸力に占めるモータ軸力の割合に応じてゲインを可変としつつ、同割合が大きい場合のゲインを同割合が小さい場合のゲイン以上とする。したがって、割合が大きい場合には小さい場合と比較して、転舵角が目標転舵角から乖離することが迅速に抑制される。転舵角と目標転舵角との乖離が大きいほど、フィードバック制御の操作量が大きくなる傾向がある。そのため、上記ゲインの変更は、モータ軸力の大きさが大きくなることを抑制することに繋がる。したがって、上記割合が大きい場合に小さい場合よりも、転舵輪に対して外部から大きな力が加わったときにステアリングホイールに加わる反力が大きくなることを抑制できる。
【0007】
2.前記配分処理は、配分用角度変数の値に応じて前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合を変更する処理を含み、前記配分用角度変数は、前記操舵装置の角度を示す変数であって且つ前記割合を算出する際に参照される変数である上記1記載の操舵制御装置である。
【0008】
上記構成では、配分用角度変数の値に応じて適切な割合を設定できる。
3.目標転舵相当角算出処理、および目標操舵角算出処理を実行するように構成され、前記目標転舵相当角算出処理は、操舵角と舵角比とに応じて前記目標転舵相当角を算出する処理であり、前記目標操舵角算出処理は、前記転舵相当角と前記舵角比とに応じて目標操舵角を算出する処理であり、前記角度変数の値は、前記目標操舵角である上記2記載の操舵制御装置である。
【0009】
上記構成では、舵角比を所望の比率とする上で、実際の転舵角と整合する値を目標操舵角とする。そして、上述の割合を、目標操舵角に応じた適切な値に設定できる。
4.前記転舵制御処理は、前記転舵相当角と前記目標転舵相当角との差を入力とする比例要素の出力値に応じて前記操作量を算出する処理を含み、前記ゲイン可変処理は、前記比例要素のゲインを可変とする処理を含む上記1~3のいずれか1つに記載の操舵制御装置である。
【0010】
上記構成では、割合が大きい場合に比例要素の応答性を高めることができる。
5.前記ゲイン可変処理は、前記配分軸力に占める前記モータ軸力の割合を入力として前記ゲインを変更する処理と、車速を入力として前記ゲインを変更する処理と、を含む上記1~4のいずれか1つに記載の操舵制御装置である。
【0011】
上記構成では、割合に加えて車速に応じてゲインを変更することにより、転舵角の制御性を車速に応じた適切な制御性とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態にかかる操舵装置および操舵制御装置の構成を示す図である。
【
図2】同実施形態における操舵制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態にかかる軸力算出処理の詳細を示すブロック図である。
【
図4】同実施形態にかかるフィードバック処理の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示す車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の装置である。操舵装置10は、ステアリングホイール12と、ステアリング軸14と、反力アクチュエータ20と、転舵アクチュエータ30と、を備えている。ステアリング軸14は、ステアリングホイール12に連結されている。反力アクチュエータ20は、運転者がステアリングホイール12を操作する力に抗する力を付与するアクチュエータである。反力アクチュエータ20は、反力モータ22と、反力用インバータ24と、反力用減速機構26とを有している。反力モータ22は、ステアリング軸14を介してステアリングホイール12に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する。反力モータ22は、反力用減速機構26を介してステアリング軸14に連結されている。反力モータ22には、一例として、3相の同期電動機が採用されている。反力用減速機構26は、たとえば、ウォームアンドホイールからなる。
【0014】
転舵アクチュエータ30は、運転者によるステアリングホイール12の操作が示す運転者の操舵の意思に応じて転舵輪34を転舵させる用途を有したアクチュエータである。転舵アクチュエータ30は、ラック軸32と、転舵モータ42と、転舵用インバータ44と、転舵伝達機構46と、変換機構48とを備えている。転舵モータ42には、一例として、3相の同期電動機が採用されている。転舵伝達機構46は、ベルト伝達機構からなる。転舵伝達機構46によって、転舵モータ42の回転動力が変換機構48に伝達される。変換機構48は、伝達された回転動力を、ラック軸32の軸方向の変位動力に変換する。ラック軸32の軸方向への変位によって、転舵輪34が転舵される。
【0015】
操舵制御装置50は、ステアリングホイール12および転舵輪34を制御対象とする。すなわち、操舵制御装置50は、制御対象としてのステアリングホイール12の制御量である、運転者の操舵に抗する操舵反力を制御する。また、操舵制御装置50は、制御対象としての転舵輪34の制御量である転舵角を制御する。転舵角は、転舵輪34としてのタイヤの切れ角である。
【0016】
操舵制御装置50は、制御量の制御のために、トルクセンサ60によって検出される操舵トルクThを参照する。操舵トルクThは、運転者がステアリングホイール12の操作を通じてステアリング軸14に付与したトルクである。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、操舵側回転角センサ62によって検出される、反力モータ22の回転軸の角度である回転角θaを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、反力モータ22を流れる電流ius,ivs,iwsを参照する。電流ius,ivs,iwsは、たとえば反力用インバータ24の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵側回転角センサ64によって検出される、転舵モータ42の回転軸の角度である回転角θbを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵モータ42を流れる電流iut,ivt,iwtを参照する。電流iut,ivt,iwtは、たとえば転舵用インバータ44の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。操舵制御装置50は、車速センサ66によって検出される車速Vを参照する。
【0017】
操舵制御装置50は、PU52、および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。記憶装置54は、電気的に書き換え不可能な不揮発性メモリであってもよい。また記憶装置54は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ、およびディスク媒体等の記憶媒体であってもよい。
【0018】
「制御の概要」
図2に、操舵制御装置50が実行する処理を示す。
図2に示す処理は、記憶装置54に記憶されたプログラムをPU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0019】
操舵角算出処理M10は、回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ22の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵角算出処理M10は、換算して得られた積算角に反力用減速機構26の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。
【0020】
転舵相当角算出処理M12は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸32の位置であるラック中立位置からの転舵モータ42の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。転舵相当角算出処理M12は、換算して得られた積算角に転舵伝達機構46の減速比および変換機構48のリード等に応じた換算係数を乗算することで、転舵輪34の転舵角に応じた転舵相当角θpを演算する。転舵相当角θpは、転舵角と比例関係にある量である。なお、転舵相当角θpは、一例として、ラック中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。
【0021】
舵角比設定処理M14は、操舵角θsおよび車速Vに応じて、操舵角θsと転舵相当角θpとの比率である舵角比を定める舵角比変数Dstの値を設定する処理である。
目標操舵角算出処理M16は、転舵相当角θpおよび舵角比変数Dstの値に応じて、目標操舵角θs*を算出する処理である。目標操舵角θs*と転舵相当角θpとの比率は、舵角比変数Dstの値によって定まる舵角比となっている。
【0022】
目標転舵相当角算出処理M18は、操舵角θsと、舵角比変数Dstの値とに応じて、目標転舵相当角θp*を算出する処理である。操舵角θsと目標転舵相当角θp*との比は、舵角比変数Dstが示す舵角比である。
【0023】
操舵力設定処理M20は、操舵トルクTh、および車速Vを入力として、操舵力Tb*を算出する処理である。操舵力Tb*は、運転者の操舵方向と同一方向の量となっている。操舵力Tb*の大きさは、運転者による操舵をアシストする力を大きくする場合に大きい値に設定される。操舵力設定処理M20は、たとえば、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、操舵力Tb*をより大きな値に算出する処理を含んでもよい。またたとえば、操舵力設定処理M20は、車速Vが小さいほど、操舵力Tb*をより大きな値に算出する処理を含んでもよい。
【0024】
配分軸力算出処理M22には、車速V、転舵モータ42のq軸電流iqt、および目標転舵相当角θp*を入力として、転舵輪34を通じてラック軸32に作用する配分軸力Fを算出する処理である。配分軸力Fは、ステアリング軸14に加わるトルクに換算されている。配分軸力Fは、運転者の操舵方向とは反対方向に作用する量である。
【0025】
目標反力算出処理M24は、操舵力Tb*から配分軸力Fを減算した値を、目標反力トルクTs*に代入する処理である。目標反力トルクTs*は、反力モータ22がステアリング軸14に加えるトルクの目標値である。
【0026】
反力用操作信号生成処理M26は、ステアリング軸14に加えるトルクが目標反力トルクTs*となるように、反力モータ22のトルクを制御すべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを生成する処理である。詳しくは、反力用操作信号生成処理M26は、目標反力トルクTs*を反力モータ22の目標トルクに換算する処理を含む。また、反力用操作信号生成処理M26は、電流のフィードバック制御によって、反力モータ22を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを算出する処理を含む。なお、操作信号MSsは、実際には、反力用インバータ24の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0027】
転舵フィードバック処理M30は、転舵相当角θpを制御量として且つ目標転舵相当角θp*を制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量を、目標転舵トルクTt*に代入する処理である。目標転舵トルクTt*は、転舵モータ42のトルクと一定の比率を有する。
【0028】
転舵用操作信号生成処理M32は、転舵モータ42のトルクが目標転舵トルクTt*と一定の比率を有した値となるように、転舵モータ42のトルクを制御すべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを生成する処理である。詳しくは、転舵用操作信号生成処理M32は、目標転舵トルクTt*を転舵モータ42の目標トルクに換算する処理を含む。また、転舵用操作信号生成処理M32は、電流のフィードバック制御によって、転舵モータ42を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを算出する処理を含む。なお、操作信号MStは、実際には、転舵用インバータ44の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0029】
「軸力算出処理」
図3に、配分軸力算出処理M22の詳細を示す。
角度軸力算出処理M40は、目標転舵相当角θp*、および車速Vを入力として、角度軸力Frを算出する処理である。角度軸力Frは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値である。角度軸力Frは、路面情報が反映されない軸力として算出される。路面情報とは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の情報である。例えば、角度軸力算出処理M40は、目標転舵相当角θp*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Frの絶対値が大きくなるように算出してもよい。またたとえば、角度軸力算出処理M40は、車速Vが大きくなるにつれて角度軸力Frの絶対値が大きくなるように算出してもよい。
【0030】
電流軸力算出処理M42には、転舵モータ42のq軸電流iqtとして、電流軸力Fiを算出する処理である。q軸電流iqtは、PU52によって、転舵相当角θpと、電流iut,ivt,iwtとに応じて算出される。電流軸力Fiは、転舵輪34を転舵させるべく動作するラック軸32に実際に作用する軸力、すなわちラック軸32に実際に伝達される軸力の推定値である。電流軸力Fiは、上記路面情報が反映される軸力として算出される。例えば、電流軸力算出処理M42は、転舵モータ42によってラック軸32に加えられるトルクと、転舵輪34を通じてラック軸32に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、電流軸力Fiを算出する。すなわち、電流軸力算出処理M42は、q軸電流iqtの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Fiの絶対値を大きい値に算出する処理である。
【0031】
配分比算出処理M46は、車速Vおよび目標操舵角θs*を入力として、割合Diを算出する処理である。割合Diは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとの和に対する電流軸力Fiの割合である。割合Diは、ゼロ以上1以下の値を有する。配分比算出処理M46は、たとえば記憶装置54にマップデータが記憶された状態でPU52によって割合Diをマップ演算する処理とすればよい。ここで、マップデータは、車速Vおよび目標操舵角θs*を入力変数として且つ、割合Diを出力変数とするデータである。
【0032】
なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0033】
第2配分比算出処理M48は、「1」から割合Diを減算することによって、第2割合「1-Di」を算出する処理である。第2割合は、角度軸力Frと、電流軸力Fiとの和に対する角度軸力Frの割合である。
【0034】
第1割合乗算処理M50は、電流軸力Fiに割合Diを乗算する処理である。第2割合乗算処理M52は、角度軸力Frに第2割合を乗算する処理である。加算処理M54は、第1割合乗算処理M50の出力値と、第2割合乗算処理M52の出力値とを加算した値を、配分軸力Fに代入する処理である。すなわち、配分軸力Fは、角度軸力Frと電流軸力Fiとの加重平均処理値となっている。
【0035】
「転舵フィードバック処理」
図4に、転舵フィードバック処理M30の手順を示す。
図4に示す処理は、記憶装置54に記憶されたプログラムをPU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、
図4において、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0036】
図4に示す一連の処理において、PU52は、まず車速Vを取得する(S10)。次にPU52は、割合Diを取得する(S12)。また、PU52は、目標転舵相当角θp*から転舵相当角θpを減算した値を、偏差Δθに代入する(S14)。
【0037】
そしてPU52は、偏差Δθを入力とする比例要素の出力値、偏差Δθの時間微分値を入力とする微分要素の出力値、および偏差Δθに応じた値の積分要素の出力値の和を、目標転舵トルクTt*に代入する(S16)。
【0038】
ここで、PU52は、割合Diおよび車速Vに応じて比例要素のゲインである比例ゲインKpを可変設定する。ここで、PU52は、割合Diが大きい場合の比例ゲインKpを割合Diが小さい場合の比例ゲインKp以上とする。この処理は、記憶装置54にマップデータが記憶された状態でPU52によって比例ゲインKpをマップ演算する処理とすればよい。なお、マップデータは、割合Diおよび車速Vを入力変数として且つ、比例ゲインKpを出力変数とするデータである。
【0039】
また、PU52は、割合Diおよび車速Vに応じて微分要素のゲインである微分ゲインKdを可変設定する。ここで、PU52は、割合Diが大きい場合の微分ゲインKdを割合Diが小さい場合の微分ゲインKd以上とする。この処理は、記憶装置54にマップデータが記憶された状態でPU52によって微分ゲインKdをマップ演算する処理とすればよい。なお、マップデータは、割合Diおよび車速Vを入力変数として且つ、微分ゲインKdを出力変数とするデータである。
【0040】
また、PU52は、割合Diおよび車速Vに応じて積分要素のためのゲインである、積分ゲインKiを可変設定する。ここで、PU52は、割合Diが大きい場合の積分ゲインKiを割合Diが小さい場合の積分ゲインKi以上とする。この処理は、記憶装置54にマップデータが記憶された状態でPU52によって積分ゲインKiをマップ演算する処理とすればよい。なお、マップデータは、割合Diおよび車速Vを入力変数として且つ、積分ゲインKiを出力変数とするデータである。
【0041】
なお、PU52は、S16の処理を完了する場合、
図4に示す一連の処理を一旦終了する。
「本実施形態の作用および効果」
PU52は、目標転舵相当角θp*に応じて角度軸力Frを算出する。また、PU52は、q軸電流iqtに応じて電流軸力Fiを算出する。PU52は、割合Diに応じて、角度軸力Frおよび電流軸力Fiから配分軸力Fを算出する。PU52は、操舵トルクThに応じてアシスト力等を定める操舵力Tb*から配分軸力Fを減算することによって、目標反力トルクTs*を算出する。そしてPU52は、目標反力トルクTs*に応じて反力モータ22のトルクを制御する。これにより、配分軸力Fの大きさが大きいほど、ステアリングホイール12に加わる反力を大きくすることができる。
【0042】
ところで、転舵輪34に外部から大きな力が加わることによって、転舵相当角θpが目標転舵相当角θp*から大きく乖離する場合、q軸電流iqtの大きさが大きくなる。q軸電流iqtの大きさが大きくなると、電流軸力Fiの大きさが大きくなる。その場合、転舵輪34に外部から大きな力が加わる場合に、割合Diの大小に応じて、ステアリングホイール12に加える操舵トルクThに対する転舵輪34の転舵角のねじり剛性が異なることが懸念される。
【0043】
そこでPU52は、転舵フィードバック処理M30のゲインを、割合Diが小さいときと比較して割合Diが大きいときに大きくした。これにより、割合Diが大きいときには、割合Diが小さいときと比較して、転舵輪34に外部から大きな力が加わる場合に、転舵相当角θpが目標転舵相当角θp*から乖離する傾向がより迅速に抑制される。これにより、電流軸力Fiの大きさが大きくなることが抑制される。そのため、転舵輪34に外部から大きな力が加わる場合に、割合Diの大小によって、ステアリングホイール12に加える操舵トルクThに対する転舵輪34の転舵角のねじり剛性が異なることを抑制できる。
【0044】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,4]転舵制御処理は、転舵フィードバック処理M30および転舵用操作信号生成処理M32に対応する。モータ軸力算出処理は、電流軸力算出処理M42に対応する。配分処理は、配分比算出処理M46、第2配分比算出処理M48、第1割合乗算処理M50、第2割合乗算処理M52、加算処理M54に対応する。反力制御処理は、目標反力算出処理M24および反力用操作信号生成処理M26に対応する。ゲイン可変処理は、S16の処理に対応する。[2]配分用角度変数は、目標操舵角θs*に対応する。[3]目標転舵相当角算出処理は、目標転舵相当角算出処理M18に対応する。目標操舵角算出処理は、目標操舵角算出処理M16に対応する。[5]S16の処理において、比例ゲインKp、微分ゲインKd、および積分ゲインKiが、車速Vおよび目標操舵角θs*に応じて変更されることに対応する。
【0045】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
「軸力用角度変数について」
・角度軸力の算出処理の入力とする軸力用角度変数としては、目標転舵相当角θp*に限らない。たとえば、操舵角θsであってもよい。またたとえば、転舵相当角θpであってもよい。さらにたとえば、上述の目標操舵角θs*であってもよい。ただし、軸力用角度変数の値は、転舵モータ42のトルクと相関を有する変数の値を参照することなく算出される値であることが望ましい。
【0047】
「配分用角度変数について」
・角度軸力Frと電流軸力Fiとの割合Diを定めるための角度変数としては、目標操舵角θs*に限らない。たとえば転舵相当角θpおよび操舵角θsの組であってもよい。また、これに代えて、転舵相当角θpとしてもよい。
【0048】
「配分軸力算出処理について」
・割合Diを算出するための入力としては、車速Vおよび目標操舵角θs*に限らない。たとえば、「配分用角度変数について」に記載した配分用角度変数と、車速Vとを入力としてもよい。また例えば「配分用角度変数について」に記載した配分用角度変数のみを入力としてもよい。なお、割合Diを算出するための入力に、配分用角度変数が含まれることは必須ではない。
【0049】
「モータ軸力について」
・転舵モータ42のトルクを示す変数であるトルク変数の値を入力として算出されるモータ軸力としては、電流軸力Fiに限らない。たとえば、転舵モータ42のトルクの推定値を入力として算出される軸力であってもよい。ここで、転舵モータ42が表面磁石同期機であるなら、転舵モータ42のトルクの推定値は、q軸電流に電機子鎖交磁束定数を乗算した値とすればよい。また、たとえば、転舵モータ42が埋め込み磁石同期電動機の場合、d軸電流、q軸電流と、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス、および電機子鎖交磁束定数とに基づく周知のモデル式に応じて算出される値とすればよい。
【0050】
「転舵相当角について」
・転舵相当角として、転舵角自体を採用してもよい。
「転舵角制御処理について」
・転舵角制御処理が、比例要素の出力値、微分要素の出力値、および積分要素の出力値の和に応じて目標転舵トルクTt*を算出する処理を含むことは必須ではない。たとえば、積分要素の出力値を含むことなく、比例要素の出力値および微分要素の出力値の和に応じて目標転舵トルクTt*を算出する処理を含んでもよい。またたとえば、微分要素の出力値を含むことなく、比例要素の出力値、および積分要素の出力値の和に応じて目標転舵トルクTt*を算出する処理を含んでもよい。またたとえば、微分要素の出力値および積分要素の出力値を含むことなく、比例要素の出力値に応じて目標転舵トルクTt*を算出する処理を含んでもよい。
【0051】
・微分要素としては、制御量とその目標値との差の1階の時間微分を入力とするものに限らない。たとえば、制御量の1階の時間微分値を入力とするものであってもよい。換言すれば、転舵角制御処理において、先行微分型の制御器を利用してもよい。
【0052】
「ゲイン可変処理について」
・ゲイン可変処理としては、比例ゲインKp、微分ゲインKd、および積分ゲインKiの全てを割合Diに応じて変更する処理に限らない。これは、転舵角制御処理が、目標転舵トルクTt*を算出するときに用いる出力値が、比例要素の出力値、微分要素の出力値、および積分要素の出力値の3つの全てを含まない場合に限らない。たとえば、積分要素の出力値を含むことなく、比例要素の出力値および微分要素の出力値の和に応じて目標転舵トルクTt*を算出する場合において、比例ゲインKpのみ割合Diに応じて変更してもよい。
【0053】
「操舵制御装置について」
・操舵制御装置としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、操舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0054】
「そのほか」
・転舵モータ42が同機機であることは必須ではない。たとえば、誘導機であってもよい。
【0055】
・上記各実施形態は、操舵装置10を、ステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチによりステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリング軸
20…反力アクチュエータ
22…反力モータ
24…反力用インバータ
30…転舵アクチュエータ
32…ラック軸
34…転舵輪
40…伝達機構
42…転舵モータ
44…転舵用インバータ
50…操舵制御装置