(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072660
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】油脂組成物の流動性回復剤
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
A23D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183627
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小谷 真由
(72)【発明者】
【氏名】泉 雄斗
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DG02
4B026DK04
4B026DK10
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】低温下での保存により流動性を失った場合であっても、室温にて流動性が回復するパームオレイン油と液状油を含有する油脂組成物を調製することができる油脂組成物の流動性回復剤を提供することを目的とする。
【解決手段】下記(A)及び(B)を有効成分とし、且つ、該(A)及び(B)の合計量100質量%中、(B)の量が60~98質量%である、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂を含有する油脂組成物の流動性回復剤。(A)構成脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であるソルビタン脂肪酸エステル;(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はソルビタンオレイン酸エステル。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を有効成分とし、且つ、該(A)及び(B)の合計量100質量%中、(B)の量が60~98質量%である、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂を含有する油脂組成物の流動性回復剤。
(A)構成脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であるソルビタン脂肪酸エステル
(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はソルビタンオレイン酸エステル
【請求項2】
油脂組成物100質量%中、請求項1に記載の(A)及び(B)を0.2~1.0質量%、パームオレイン油を30~59.8質量%、並びに20℃で液状の油脂を40~69.8質量%含有する、油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物の流動性回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パームオレイン油はフライ食品に良好な風味を与えることから、ドーナツ、唐揚げ等のフライ油として使用される。しかし、パームオレイン油は、低温ないし室温での保存中に結晶化が進み、容器の底で固化して取り出し難くなるという問題がある。そこで、結晶化抑制のため菜種油等の液状油(以下、「20℃で液状の油脂」ともいう。)と混合して使用されるが、その効果は十分とはいえない。
【0003】
このような問題に対し、特定の乳化剤の添加により固体脂結晶の析出を抑制する方法が知られている。例えば、20℃における固体脂含有量が3~20重量%である油脂に、HLBが2以下であって、構成脂肪酸が炭素数8~22の飽和脂肪酸20~80%と、炭素数16~22の不飽和脂肪酸20~80%とからなるショ糖脂肪酸エステルを特定量配合含有させる方法(特許文献1)、同様の油脂にエステル化率が75%以上、構成脂肪酸の90重量%以上が炭素数8~22の飽和及び不飽和脂肪酸の特定の組合せからなるポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量含有させる方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
上記の方法では、室温での流動性維持及び固結抑制のために乳化剤を油脂組成物に添加しているが、冬期又は冷蔵下での保存により油脂が強固に固結し、室温に戻しても流動性が回復しないことがあるため、これらに変わり得る新規な方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-228677号公報
【特許文献2】特開平9-299027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温下での保存により流動性を失った場合であっても、室温にて流動性が回復するパームオレイン油と液状油を含有する油脂組成物を調製することができる油脂組成物の流動性回復剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤2種類を併用することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の(1)及び(2)からなっている。
(1)下記(A)及び(B)を有効成分とし、且つ、該(A)及び(B)の合計量100質量%中、(B)の量が60~98質量%である、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂を含有する油脂組成物の流動性回復剤。
(A)構成脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であるソルビタン脂肪酸エステル
(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はソルビタンオレイン酸エステル
(2)油脂組成物100質量%中、(1)に記載の(A)及び(B)を0.2~1.0質量%、パームオレイン油を30~59.8質量%、並びに20℃で液状の油脂を40~69.8質量%含有する、油脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流動性回復剤を油脂組成物に添加することにより、低温下での保存により該油脂組成物の流動性が失われた場合であっても、室温にて流動性を回復することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の油脂組成物の流動性回復剤(以下、単に「流動性回復剤」ともいう。)は、下記(A)及び(B)を有効成分とし、該(A)及び(B)の合計量100質量%中、(B)の量が60~98質量%(好ましくは65~95質量%)である。
(A)構成脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であるソルビタン脂肪酸エステル(以下、「成分(A)」ともいう。)
(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はソルビタンオレイン酸エステル(以下、「成分(B)ともいう。」)
【0011】
本発明で成分(A)として用いられるソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビトール又はその縮合物とパルミチン酸及び/又はステアリン酸とがエステル結合したものであり、ソルビトール及び/又はその縮合物とパルミチン酸及び/又はステアリン酸(例えば、パルミチン酸及び/又はステアリン酸の含有量が50質量%以上の脂肪酸混合物)とのエステル化反応等自体公知の方法で製造される。
【0012】
本発明で成分(B)として用いられるポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと不飽和脂肪酸のエステルであり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。
【0013】
上記ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度に特に制限はないが、例えば、平均重合度が2~10のもの、具体的にはジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)又はデカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられる。
【0014】
上記ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸は、炭素原子間の結合に二重結合を含む脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等が挙げられ、中でもオレイン酸が好ましい。これら脂肪酸は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0015】
上記ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしては、ポエムDO-100V(商品名;ジグリセリンモノオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0016】
本発明で成分(B)として用いられるソルビタンオレイン酸エステルは、ソルビトール又はその縮合物とオレイン酸がエステル結合したものであり、ソルビトール及び/又はその縮合物とオレイン酸とのエステル化反応等自体公知の方法で製造される。
【0017】
上記ソルビタンオレイン酸エステルとしては、例えば、ポエムO-80V(商品名;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0018】
本発明の流動性回復剤は、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂を含有する油脂組成物の製造の際に、成分(A)及び成分(B)を直接添加して用いても良く、又は成分(A)及び成分(B)を予め混合し製剤化したものを用いても良い。また、成分(A)及び成分(B)を添加することにより得られる成分(A)、成分(B)、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂を下記のように特定量含有する油脂組成物(以下、「本発明の油脂組成物」という。)も本発明に含まれる。
【0019】
本発明の油脂組成物は、該油脂組成物100質量%中、成分(A)及び(B)を0.2~1.0質量%(好ましくは0.3~0.8質量%)、パームオレイン油を30~59.8質量%(好ましくは35~54.7質量%)、並びに20℃で液状の油脂を40~69.8質量%(好ましくは45~64.7質量%)含有する。
【0020】
パームオレイン油は、パーム油を分別処理した低融点の部分であり、製造条件により種々のものがあるが、本発明においては、例えば、ヨウ素価が56~72、好ましくは60~72のものを用いることができる。ここで、パームオレイン油のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
【0021】
上記20℃で液状の油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等が挙げられる。これら20℃で液状の油脂は、いずれか1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、本発明の油脂組成物は、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で、パームオレイン油及び20℃で液状の油脂以外の油脂を含有しても良く、このような油脂としては、例えば、大豆硬化油、ナタネ硬化油、綿実硬化油、ヤシ油、カカオ脂、豚脂(ラード)等の20℃で固体又は半固体である公知の食用油脂が挙げられる。
【0023】
本発明の油脂組成物は、例えば、上記油脂及び本発明の流動性回復剤を混合し、例えば60~90℃に加熱及び溶解し、室温まで冷却することにより製造することができる。
【0024】
本発明の油脂組成物は、油脂及び本発明の流動性回復剤以外に、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で他の任意の成分〔例えば、成分(A)及び成分(B)以外の乳化剤、酸化防止剤等〕を含有していても良い。
【0025】
本発明の油脂組成物の用途に特に制限はないが、例えば、から揚げ、コロッケ、天ぷら、ドーナツ等の各種フライ食品の油ちょうに使用することができる。
【0026】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0027】
[製造例1]
[ソルビタンパルミチン酸エステル(試作品1)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;物産フードサイエンス社製)104g及びパルミチン酸(ミヨシ油脂社製)307gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.20gを加え、窒素ガス気流中235℃で、酸価10以下なるまで3時間エステル化反応を行った。得られた反応混合物を冷却し、ソルビタンパルミチン酸エステル(試作品1)約340gを得た。
【0028】
[製造例2]
[ソルビタンエルカ酸エステル(試作品2)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;物産フードサイエンス社製)135g及びエルカ酸(日油社製)265gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.40gを加え、窒素ガス気流中215℃で、酸価3以下となるまで、5.5時間エステル化反応を行った。得られた反応混合物を冷却し、ソルビタンエルカ酸エステル(試作品2)約330gを得た。
【0029】
[油脂組成物の調製及び評価]
(1)油脂組成物の原材料
1)パームオレイン油(商品名:PROエースHG;ヨウ素価63~72:植田製油社製)
2)菜種油(商品名:ナタネサラダ油;ボーソー油脂社製)
3)ソルビタンパルミチン酸エステル(試作品1)
4)ソルビタンパルミチン酸/ステアリン酸エステル(商品名:ポエムS-65V;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)
5)ソルビタンラウリン酸エステル(商品名:L-300;理研ビタミン社製)
6)ソルビタンベヘニン酸エステル(商品名:ポエムB-150;理研ビタミン社製)
7)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
8)ペンタグリセリントリオレイン酸エステル(商品名:サンソフトA-173E;太陽化学社)
9)デカグリセリンデカオレイン酸エステル(商品名:SYグリスターDAO-7S;阪本薬品工業社製)
10)ソルビタンオレイン酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)
11)ソルビタンエルカ酸エステル(試作品2)
【0030】
(2)油脂組成物の調製
表1~4に示した原材料の配合割合に従って、油脂原料が合計40gとなるよう油脂組成物1~14を調製した。より具体的には、油脂組成物1~14は、パームオレイン油及び菜種油を混合し、これに他の原材料(即ち、乳化剤)を加えて80℃で加熱及び溶解し、室温になるまで冷却して調製した。また、油脂組成物15及び16は、パームオレイン油及び菜種油を混合し、これを80℃で加熱及び溶解し、室温になるまで冷却して調製した。これら油脂組成物のうち、油脂組成物1~8は本発明に係る実施例であり、油脂組成物9~14はそれらに対する比較例である。油脂組成物15は、油脂組成物1~7に対する乳化剤無添加の対照であり、油脂組成物16は、油脂組成物8に対する乳化剤無添加の対照である。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
(3)流動性回復効果の評価
(2)で得た油脂組成物1~16を各々透明なガラス容器に入れ、5℃の恒温槽にて油脂組成物1~7、9~15を4週間、油脂組成物8、16を3日間保管した。保管した油脂組成物1~7、9~15を室温(25℃)にて10分間、油脂組成物8、16を室温(25℃)にて5分間静置した後、油脂組成物の流動性を確認した。より具体的には、ガラス容器を傾けたときに、底に強固な結晶が残らず流動性の回復がみられるものを良好「〇」とし、強固な結晶が底に残り流動しないものを不良「×」とした。結果を表5に示す。
【0036】
【0037】
表5の結果から明らかなように、実施例の油脂組成物1~8は、5℃で保管した直後は流動性を失っていたが、室温にて流動性を回復し、「○」の結果であった。これに対し、比較例の油脂組成物9~16は、「×」の結果であり、流動性が回復しなかった。