(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072686
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】スピーカグリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
H04R1/02 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183666
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】308016242
【氏名又は名称】豊和化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大輔
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AF07
5D017AF09
(57)【要約】
【課題】簡便に表皮部材をグリルに貼り付けることができ、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができるスピーカグリルの製造方法を提供する。
【解決手段】スピーカグリル1の製造方法は、溶融工程と、該溶融工程の次の圧着工程とを有する。溶融工程は、パンチンググリル2の上側に、樹脂シート3を重ね、パンチンググリル2及び樹脂シート3を加熱し、樹脂シート3を溶融させる。圧着工程は、溶融した樹脂シート3の上側に、合成樹脂ファブリック部材4を重ね、パンチンググリル2、樹脂シート3及び合成樹脂ファブリック部材4をプレス圧着させる。樹脂シート3を構成する樹脂は、ポリアミドである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有するパンチンググリルの上側が表皮部材で装飾されたスピーカグリルの製造方法であって、
該パンチンググリルの上側に、樹脂シートを重ね、該パンチンググリル及び該樹脂シートを加熱し、該樹脂シートを溶融させる、溶融工程と、
該溶融工程の次に、溶融した該樹脂シートの上側に、該表皮部材を重ね、該パンチンググリル、該樹脂シート及び該表皮部材をプレス圧着させる、圧着工程と、を有し、
該樹脂シートを構成する樹脂がポリアミドであることを特徴とするスピーカグリルの製造方法。
【請求項2】
前記表皮部材が合成樹脂ファブリック部材であることを特徴とする請求項1に記載のスピーカグリルの製造方法。
【請求項3】
前記合成樹脂ファブリック部材を構成する合成樹脂繊維が、低融点樹脂で被覆されたものであることを特徴とする請求項2に記載のスピーカグリルの製造方法。
【請求項4】
前記パンチンググリルは、開口率が40~60%であることを特徴とする請求項1に記載のスピーカグリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、自動車室内等に配置されたスピーカを覆うスピーカグリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車室内等に配置されたスピーカを覆うスピーカグリルとして、音を透過させる複数の貫通孔を有するスピーカグリルが広く使用されている。この種のスピーカグリルとして、従来、下記特許文献1により、グリルの表面が表皮部材で装飾されたスピーカグリルが提案されている。このスピーカグリルは、表皮部材を容易に貼り付けることができるように、グリル表面に接着剤が塗布され、グリル表面の接着剤に表皮部材が接着されて貼り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された従来のスピーカグリルは、グリル表面に接着剤が塗布されて表皮部材が接着されるため、接着剤の塗布工程を要し、簡便に貼り付けることができないという課題があった。また、従来のスピーカグリルは、接着剤の塗布工程において、接着剤がグリルの貫通孔を塞いでしまい、スピーカからの音の透過を阻害するおそれがあるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、簡便に表皮部材をグリルに貼り付けることができ、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができるスピーカグリルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスピーカグリルの製造方法は、複数の貫通孔を有するパンチンググリルの上側が表皮部材で装飾されたスピーカグリルの製造方法であって、
該パンチンググリルの上側に、樹脂シートを重ね、該パンチンググリル及び該樹脂シートを加熱し、該樹脂シートを溶融させる、溶融工程と、
該溶融工程の次に、溶融した該樹脂シートの上側に、該表皮部材を重ね、該パンチンググリル、該樹脂シート及び該表皮部材をプレス圧着させる、圧着工程と、を有し、
該樹脂シートを構成する樹脂がポリアミドであることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るスピーカグリルの製造方法によれば、スピーカグリルは、パンチンググリルの上側に、樹脂シートを重ねて溶融させて、溶融した樹脂シートの上側に、表皮部材を重ねてプレス圧着させることによって、表皮部材をパンチンググリルに貼り付けることができるため、簡便に製造することができる。また、樹脂シートを構成する樹脂がポリアミドであることによって、溶融工程において、溶融した樹脂シートが、ポリアミドの水素結合によりパンチンググリルに馴染み、パンチンググリルに引っ張られ、パンチンググリルの貫通孔を塞ぐことなくパンチンググリルの貫通孔に沿って穿孔される。これにより、スピーカグリルは、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができる。
【0008】
ここで、上記スピーカグリルの製造方法において、前記表皮部材が合成樹脂ファブリック部材であるものとすることができる。
【0009】
これによれば、スピーカグリルは、表皮部材が合成樹脂ファブリック部材であるため、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができるとともに、合成樹脂ファブリック部材の繊維がアンカー効果によって溶融した樹脂シートに入り込み強固に密着するため、密着強度に優れるものとすることができる。
【0010】
また、上記スピーカグリルの製造方法において、前記合成樹脂ファブリック部材を構成する合成樹脂繊維が、低融点樹脂で被覆されたものとすることができる。
【0011】
これによれば、スピーカグリルは、合成樹脂ファブリック部材を構成する合成樹脂繊維を被覆する低融点樹脂が溶融した樹脂シートに溶け込み強固に密着するため、密着強度に優れるものとすることができる。
【0012】
また、上記スピーカグリルの製造方法において、前記パンチンググリルは、開口率が40~60%であるものとすることができる。
【0013】
これによれば、樹脂シートの密着面積を確保することができるとともに、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスピーカグリルの製造方法によれば、簡便に製造することができ、かつ、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のスピーカグリルの製造方法の溶融工程の下面受治具の上に配置されたパンチンググリルと樹脂シートが、上下から加熱される状態のイメージ図(A)、圧着工程の下面受治具と圧着プレス型がパンチンググリルと樹脂シートと表皮部材を圧着する状態のイメージ図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るスピーカグリルの製造方法について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態に係るスピーカグリル1は、自動車室内に配置されたスピーカを覆い、スピーカを保護する目的で使用される。
【0017】
実施形態のスピーカグリル1は、
図1(B)に示すように、複数の貫通孔(図示せず)を有するパンチンググリル2の上側(表面側)が表皮部材としての合成樹脂ファブリック部材4で装飾され、合成樹脂ファブリック部材4は樹脂シート3によってパンチンググリル2に圧着されている。なお、スピーカグリル1の向きは、スピーカ側を下側(裏面側)、車室内側を上側(表面側)とする。
【0018】
パンチンググリル2は、複数の貫通孔を有する金属板であり、金属板の材質として特に限定されるものではないが、汎用の鋼板又はステンレス鋼板(SUS( Steel Use Stainless ))とすることができる。なお、鋼板は、別の実施形態として、防錆処理が施された電気亜鉛メッキ鋼板(SECC( Steel Electrolytic Cold Commercial ))とすることができる。
【0019】
パンチンググリル2の板厚は、0.3~1.0mmとすることができる。スピーカグリル1としての強度を確保しつつ圧着工程における曲げ加工性を確保することができるためである。パンチンググリル2の板厚が0.3mm未満である場合には、スピーカグリル1としての強度が劣るおそれがある。一方、板厚が1.0mmを超えると圧着工程における曲げ加工性が劣るおそれがある。別の実施形態として、パンチンググリル2の板厚は、0.4~0.8mmとすることができる。
【0020】
パンチンググリル2の開口率は、40~60%とすることができる。パンチンググリル2の強度と樹脂シート3の密着面積を確保することができるとともに、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができるためである。パンチンググリル2の開口率が40%未満である場合には、スピーカからの音の透過が阻害されるおそれがある。一方、開口率が60%を超える場合には、パンチンググリル2の強度が劣るおそれがあるとともに、樹脂シート3の密着面積が確保されず、スピーカグリル1の表面が荷重や負荷を受けた際に、合成樹脂ファブリック部材4に変形や剥がれが生じるおそれがある。別の実施形態として、パンチンググリル2の開口率は、40~50%とすることができる。
【0021】
パンチンググリル2の貫通孔の直径は、0.5~5.0mmとすることができる。樹脂シート3が貫通孔を塞ぐことなく、合成樹脂ファブリック部材4の変形や剥がれを抑制することができるためである。パンチンググリル2の貫通孔の直径が0.5mm未満である場合には、樹脂シート3が貫通孔を塞いでしまうおそれがある。一方、貫通孔の直径が5.0mmを超える場合には、スピーカグリル1の表面が荷重や負荷を受けた際に、合成樹脂ファブリック部材4に変形や剥がれが生じるおそれがある。別の実施形態として、パンチンググリル2の貫通孔の直径は、1.5~2.5mmとすることができる。
【0022】
また、パンチンググリル2は、表面にカチオン電着塗装を施すことができる。カチオン電着塗装を施すことにより、パンチンググリル2は、耐腐食性を向上させることができる。また、パンチンググリル2に塗装されたカチオンが、樹脂シート3の溶融の際の水素結合との馴染みを向上させ、溶融した樹脂をパンチンググリル2への引っ張りを強くし、樹脂シート3が、パンチンググリル2の貫通孔を塞ぐことなく、パンチンググリル2の貫通孔に沿って穿孔され易くなると推測される。カチオン電着塗装は、汎用のカチオン電着塗装機と汎用のカチオン電着塗料を用いておこなうことができる。汎用のカチオン電着塗料として、パワーフロートシリーズ(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)、パワーニックスシリーズ(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)、エレクロンシリーズ(関西ペイント株式会社製)などを使用することができる。
【0023】
樹脂シート3は、溶融することによって、パンチンググリル2に合成樹脂ファブリック部材4を溶着させるものである。樹脂シート3は、樹脂シート3を構成する樹脂の組成として、ポリアミド、ポリウレタンを使用することができる。これらは熱可塑性樹脂であり、熱融着(ホットメルト)が可能なものであり、樹脂シート3が、ポリアミド又はポリウレタンであることによって、溶融工程において、パンチンググリル2の貫通孔を塞ぐことなくパンチンググリル2の貫通孔に沿って穿孔されるものである。ポリアミドとポリウレタンは、水素結合を有し、水素結合により金属であるパンチンググリル2に馴染み、樹脂シート3を溶融させる溶融工程において、溶融した樹脂がパンチンググリル2に引っ張られ、パンチンググリル2の貫通孔を塞ぐことなく、パンチンググリル2の貫通孔に沿って穿孔されるためと推測される。
【0024】
樹脂シート3を構成する樹脂は、ホットメルト樹脂の市販品も使用することができる。ポリアミドのホットメルト樹脂として、THERMETALシリーズ(東亞合成株式会社製)、TECHNOMELTシリーズ(ヘンケルジャパン株式会社製)、ポリアミド系ホットメルトSHMシリーズ(シーダム株式会社製)などを使用することができる。ポリウレタンのホットメルト樹脂として、エラストランシリーズ(BASFジャパン株式会社製)、ユーファインシリーズ(AGC株式会社製)、タイフォースシリーズ(DIC株式会社製)などを使用することができる。これらのブロック状であるものは、もちろん、厚みを調整し、シート状に加工して使用する。
【0025】
樹脂シート3は、さらに別の実施形態として、樹脂シート3を構成する樹脂の材質として、ポリアミドとすることができる。耐水性に優れるためである。なお、樹脂の組成は、主成分(含有率として50質量%以上)を表すものである。樹脂シート3を構成する樹脂は、樹脂の混合物も取り得るものであり、樹脂の特徴が最も現れる主成分をその樹脂の組成とするものである。
【0026】
樹脂シート3の目付量は、20~200g/m2とすることができる。パンチンググリル2に合成樹脂ファブリック部材4を十分な密着強度をもって溶着させることができるためである。樹脂シート3の目付量が20g/m2未満の場合には、溶融する樹脂の厚みが薄く、合成樹脂ファブリック部材4の繊維によるアンカー効果が弱く、密着強度が劣るおそれがある。一方、目付量が200g/m2を超える場合には、樹脂が過剰になり、また、樹脂を溶融させるのに熱量を要し、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、樹脂シート3の目付量は、40~100g/m2とすることができる。
【0027】
樹脂シート3の融点(耐熱温度)は、60~200℃とすることができる。樹脂シート3が耐熱性に優れ、融着工程において容易に融着させることができるためである。樹脂シート3の融点が60℃未満の場合には、スピーカグリル1が取り付けられた自動車が炎天下に置かれた際に樹脂シート3が流動し、合成樹脂ファブリック部材4が変形するおそれがある。一方、樹脂シート3の融点が200℃を超える場合には、融着工程における加熱温度が200℃以上となり、樹脂を溶融させるのに熱量を要し、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、樹脂シート3の融点は、80~180℃とすることができ、さらに別の実施形態として、100~160℃とすることができる。なお、樹脂シート3の融着工程における加熱温度は、融点(耐熱温度)より10~50度高い温度となる。
【0028】
合成樹脂ファブリック部材4は、スピーカグリル1の表面(上側)を装飾するものであり、ファブリック(繊維)部材であるため、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止し、繊維がアンカー効果によって溶融した樹脂シート3に入り込み強固に密着するものである。
【0029】
合成樹脂ファブリック部材4を構成する樹脂の組成として、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンなどを使用することができる。これらは可撓性を有し、耐候性に優れるものである。別の実施形態として、耐候性に優れるポリエステル、特にPET( Poly Ethylene Terephthalate )とすることができる。なお、合成樹脂ファブリック部材4を構成する樹脂は、着色させるための着色顔料、可撓性を高めるための可塑剤、耐候性を高めるための紫外線吸収剤などを含有させることができる。着色顔料、可塑剤及び紫外線吸収剤などは、市販されている汎用品を使用することができる。
【0030】
また、合成樹脂ファブリック部材4は、ファブリック部材を構成する繊維が低融点樹脂で被覆されたものとすることができる。低融点樹脂が溶融した樹脂シート3に溶け込み強固に密着するため、スピーカグリル1は、密着強度に優れるものとすることができるためである。低融点樹脂とは、ファブリック部材を構成する繊維より融点が低い樹脂であり、ポリエチレン(低密度ポリエチレン)、(メタ)アクリル樹脂などを使用することができる。なお、合成樹脂ファブリック部材4は、低融点樹脂を鞘とする芯鞘構造の繊維を使用することもできる。
【0031】
合成樹脂ファブリック部材4の目付量は、50~500g/m2とすることができる。合成樹脂ファブリック部材4が、破損に対抗する強度を有し、スピーカからの音の透過を阻害することを効果的に防止することができるためである。合成樹脂ファブリック部材4の目付量が50g/m2未満である場合には、引っ掻きなどの外的要因を受けることにより、合成樹脂ファブリック部材4が破損してしまうおそれがある。一方、目付量が500g/m2を超える場合には、スピーカからの音の透過が阻害されるおそれがある。別の実施形態として、合成樹脂ファブリック部材4の目付量は75~300g/m2とすることができ、さらに別の実施形態として、目付量は100~200g/m2とすることができる。
【0032】
次に、実施形態のスピーカグリル1の製造方法について述べる。実施形態のスピーカグリル1の製造方法は、溶融工程と圧着工程とから構成される。
【0033】
溶融工程は、
図1(A)に示すように、スピーカグリル1の形状を型取った下面受治具31に、上側に樹脂シート3を重ねたパンチンググリル2を重ねて、パンチンググリル2及び樹脂シート3を加熱して樹脂シート3を溶融させる工程である。パンチンググリル2及び樹脂シート3の加熱は、下面受治具31からの熱Hと、樹脂シート3の上側に間隔を置いて配置される遠赤外線ヒータ(図示せず)からの熱Hとによって行なわれる。
【0034】
下面受治具31からの加熱は、下面受治具31が樹脂シート3の融点より10~50度高い温度となるように熱電素子を用いて加熱する。遠赤外線ヒータからの加熱は、樹脂シート3を上から加熱する。加熱は、樹脂シート3が溶融するまで加熱する。樹脂シート3が溶融したとき、溶融した樹脂シート3が、樹脂内に存在する水素結合によりパンチンググリル2に馴染み、パンチンググリル2に引っ張られ、パンチンググリル2の貫通孔を塞ぐことなくパンチンググリル2の貫通孔に沿って穿孔される。樹脂シート3の溶融後に、熱電素子と遠赤外線ヒータによる加熱は停止される。
【0035】
下面受治具31は、パンチンググリル2及び樹脂シート3を加熱する治具であり、その形状がスピーカグリル1の製品形状に合わせられたものである。スピーカグリル1の製品形状に合わせられたものであるため、下面受治具31の形状は、平面のみならず、凹面や凸面などの曲面も取り得るものである。また、パンチンググリル2は、予めスピーカグリル1の製品形状に合わせられたものとすることができる。
【0036】
圧着工程は、
図1(B)に示すように、下面受治具31に、上側に溶融した樹脂シート3を表面に有するパンチンググリル2を重ねた状態、つまり、溶融工程を経た直後の状態で、溶融した樹脂シート3の上側に、合成樹脂ファブリック部材4を重ね、パンチンググリル2、樹脂シート3及び合成樹脂ファブリック部材4をプレス圧着させる工程である。プレス圧着は、下面受治具31の形状(スピーカグリル1の製品形状)に合わせられた圧着プレス型32によって行なわれる。溶融した樹脂シート3の上側に、合成樹脂ファブリック部材4がプレス圧着されるため、合成樹脂ファブリック部材4の繊維が溶融した樹脂シート3の中に入り込み、合成樹脂ファブリック部材4は、アンカー効果によって樹脂シート3に強固に密着することができる。また、合成樹脂ファブリック部材4が、ファブリック部材を構成する繊維が低融点樹脂で被覆されたものである場合には、低融点樹脂が溶融した樹脂シート3に溶け込み、より強固に密着することができる。
【実施例0037】
実施例で使用する、パンチンググリル2の規格を表1に、樹脂シート3の規格を表2に、合成樹脂ファブリック部材4の規格を表3に、それぞれ記載する。
【0038】
【0039】
【0040】
【表3】
実施例では、樹脂シートの穿孔性試験、剥離強度試験及び温冷熱繰り返し後のクリープ試験を実施して、その評価を行った。各試験の評価方法は、以下の通りである。
【0041】
<樹脂シートの穿孔性試験>
樹脂シートの穿孔性試験は、溶融工程において、溶融した樹脂シート3が、パンチンググリル2の貫通孔を塞ぐことなく、パンチンググリル2の貫通孔に沿って穿孔されるか否かを確認した。そして、溶融した樹脂シート3が、パンチンググリル2の全ての貫通孔に沿って穿孔されたものを○、全ての貫通孔のうち9割以上の貫通孔について穿孔されたものを△、9割未満の貫通孔が穿孔されたものを×、として評価した。
【0042】
<剥離強度試験>
密着強度としての剥離強度試験は、スピーカグリル1の合成樹脂ファブリック部材4側(表面側)に、エポキシ接着剤でアタッチメントを貼り付け、アタッチメントを引っ張ることにより、最大強度(剥離強度)を求めた。そして、剥離強度が0.5N/mm2以上のものを○、0.1N/mm2以上、0.5N/mm2未満であるものを△、0.1N/mm2未満であるものを×、として評価した。
【0043】
<温冷熱繰り返し後のクリープ試験>
温冷熱繰り返し後のクリープ試験は、凍結融解を想定した温冷熱繰り返しサイクル試験を行った後に、ファブリック部材の剥離性としてクリープ試験を行うものである。温冷熱繰り返しサイクル試験は、スピーカグリル1について、50℃湿度95%の環境に18h、-30℃環境に3h、80℃環境に3h、これを4サイクル行なった。クリープ試験は、スピーカグリル1の合成樹脂ファブリック部材4側(表面側)に、エポキシ接着剤でアタッチメント(φ10mm)を貼り付け、合成樹脂ファブリック部材4側を下にして、アタッチメントに100gの重りをつるし、80℃環境に24時間放置し、その状態を確認した。そして、合成樹脂ファブリック部材4の剥離が見られないものを○、剥離は見られるが、アタッチメントの貼り付け面を超える剥離は見られないものを△、貼り付け面を超える剥離が見られるものを×、として評価した。
【0044】
表4は、試験例と試験例に対する上記の試験の評価結果を記載したものである。試験例1~4及び6~9が実施例であり、試験例5が比較例である。
【0045】
【表4】
(試験例1)
試験例1の溶融工程は、パンチングクリル2にカチオン電着塗装された電気亜鉛メッキ鋼板(SPCC)のPG1、その上に、樹脂シート3としてポリアミド60g/m
2のRS1、を重ねて、下面受治具31の上に配置し、熱電素子と遠赤外線ヒータを用いて、150℃5分加熱した。この状態で、樹脂シートの穿孔性試験を確認したところ、溶融した樹脂シート3が、パンチンググリル2の全ての貫通孔に沿って穿孔されていた。圧着工程は、熱電素子と遠赤外線ヒータの加熱を止めたのちに、溶融した樹脂シート3の上に、合成樹脂ファブリック部材4として低密度ポリエチレンでコーティングされたPETファブリック(150g/m
2)のRF1を重ね、下面受治具31の上に配置されたこれらを圧着プレス型32で2分間圧着した。このようにして得られた試験例1のスピーカグリル1は、剥離強度試験において、剥離強度が0.5N/mm
2以上であり、温冷熱繰り返し後のクリープ試験において、合成樹脂ファブリック部材4の剥離が見られないものであった。
【0046】
(試験例2)
試験例2は、試験例1から樹脂シート3をポリアミド30g/m2のRS2に変更したものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、温冷熱繰り返し後のクリープ試験が、剥離は見られるが、アタッチメントの貼り付け面を超える剥離は見られないものであった。樹脂シート3の目付量が少ないことが原因と推測する。その他の試験結果は、試験例1と同じであった。
【0047】
(試験例3)
試験例3は、試験例1から樹脂シート3をポリアミド150g/m2のRS3に変更したものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、試験例1と同じであった。
【0048】
(試験例4)
試験例4は、試験例1から樹脂シート3をポリウレタン60g/m2のRS4に変更し、溶融工程の加熱温度を155℃にしたものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、温冷熱繰り返し後のクリープ試験が、剥離は見られるが、アタッチメントの貼り付け面を超える剥離は見られないものであった。樹脂シート3のポリウレタンが加水分解したことが原因と推測する。その他の試験結果は、試験例1と同じであった。
【0049】
(試験例5)
試験例5は、試験例1から樹脂シート3をポリエチレン60g/m2のRS5に変更し、溶融工程の加熱温度を160℃にしたものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、樹脂シートの穿孔性試験が、全ての貫通孔が穿孔されない×評価であった。ポリエチレンは、水素結合を有していないため、パンチンググリル2への馴染みが弱く、溶融工程において、溶融した樹脂がパンチンググリル2に引っ張られなかったため、樹脂シート3が、パンチンググリル2の貫通孔を塞いでしまったものと推測される。
【0050】
(試験例6)
試験例6は、試験例1からパンチンググリル2をカチオン電着塗装されていない電気亜鉛メッキ鋼板(SPCC)のPG2に変更したものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、試験例1と同じであった。今回の試験においては、パンチンググリル2のカチオン電着塗装の効果は確認できなかった。
【0051】
(試験例7)
試験例7は、試験例1からパンチンググリル2をカチオン電着塗装されたステンレス鋼板(SUS304)のPG3に変更したものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、試験例1と同じであった。パンチンググリル2は、カチオン電着塗装されたステンレス鋼板を使用できることが確認できた。
【0052】
(試験例8)
試験例8は、試験例7からパンチンググリル2をカチオン電着塗装されていないステンレス鋼板(SUS304)のPG4に変更したものであり、その他の条件は試験例7と同じである。試験結果は、試験例7と同じであった。今回の試験においては、パンチンググリル2のカチオン電着塗装の効果は確認できなかった。
【0053】
(試験例9)
試験例9は、試験例1から合成樹脂ファブリック部材4をポリプロピレンファブリック(70g/m2)のRF2に変更したものであり、その他の条件は試験例1と同じである。試験結果は、試験例1と同じであった。しかし、合成樹脂ファブリック部材4が低融点樹脂でコーティングされていないため、剥離強度試験は、試験例1と比較して、数値的に劣るものであった。