(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072716
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】動体検知装置
(51)【国際特許分類】
E04H 6/18 20060101AFI20240521BHJP
G01S 13/50 20060101ALI20240521BHJP
G01S 13/34 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
E04H6/18 601G
G01S13/50
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183716
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 誠彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 賢貴
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH40
5J070AK25
(57)【要約】
【課題】動体の検知精度を向上させる。
【解決手段】動体検知装置は、車両が入出庫される乗降室と、乗降室の入出口を開閉する入出庫扉と、を有する機械式駐車設備に設けられ、乗降室内に位置する車両内の動体を検知する動体検知装置であって、乗降室内に位置する車両内に電波を照射し、照射した電波の反射波を受信し、受信した反射波に基づく計測データを生成するレーダー装置と、時系列の計測データに基づいて、入出庫扉が振動している時間である扉振動時間を特定する扉振動時間特定部と、計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除し、扉振動時間の部分に所定のデータを埋めるデータ補正部と、データ補正部による処理後のデータに基づいて、車両内に動体が存在するかを判定する動体判定部と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が入出庫される乗降室と、前記乗降室の入出口を開閉する入出庫扉と、を有する機械式駐車設備に設けられ、前記乗降室内に位置する前記車両内の動体を検知する動体検知装置であって、
前記乗降室内に位置する前記車両内に電波を照射し、照射した電波の反射波を受信し、受信した反射波に基づく計測データを生成するレーダー装置と、
時系列の前記計測データに基づいて、前記入出庫扉が振動している時間である扉振動時間を特定する扉振動時間特定部と、
前記計測データのうち前記扉振動時間の部分のデータを削除し、前記扉振動時間の部分に所定のデータを埋めるデータ補正部と、
前記データ補正部による処理後のデータに基づいて、前記車両内に動体が存在するかを判定する動体判定部と、
を備える、動体検知装置。
【請求項2】
前記扉振動時間特定部は、前記計測データに対して位相アンラップ処理を行い、前記位相アンラップ処理により生成されたデータに基づいて前記扉振動時間を特定する、請求項1に記載の動体検知装置。
【請求項3】
前記扉振動時間特定部は、前記位相アンラップ処理により生成されたデータに対して第1ローパスフィルタ処理を行い、前記第1ローパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて前記扉振動時間を特定する、請求項2に記載の動体検知装置。
【請求項4】
前記扉振動時間特定部は、前記位相アンラップ処理により生成されたデータと前記第1ローパスフィルタ処理により生成されたデータとの差分の絶対値を導出するハイパスフィルタ処理を行い、前記ハイパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて前記扉振動時間を特定する、請求項3に記載の動体検知装置。
【請求項5】
前記扉振動時間特定部は、前記ハイパスフィルタ処理により生成されたデータに対して第2ローパスフィルタ処理を行い、前記第2ローパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて前記扉振動時間を特定する、請求項4に記載の動体検知装置。
【請求項6】
前記扉振動時間特定部は、
前記第2ローパスフィルタ処理により生成された時系列の複数のデータの平均値を導出し、導出した前記平均値に所定の調整係数を乗算することで、扉振動閾値を導出し、
前記第2ローパスフィルタ処理により生成された時系列のデータが前記扉振動閾値以上となっている時間を、前記扉振動時間の候補とする、請求項5に記載の動体検知装置。
【請求項7】
前記レーダー装置からの距離ごとに周波数ビンが対応付けられており、
前記計測データは、周波数ビンごとに取得され、
前記扉振動時間特定部は、
複数の周波数ビンのうち前記入出庫扉が存在する距離に対応する所定範囲内の複数の周波数ビンのそれぞれについて、前記扉振動時間の候補を導出し、
前記扉振動時間の候補が所定周波数ビン数以上重なる部分の時間を、前記扉振動時間とする、請求項6に記載の動体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械式駐車設備の乗降室内に位置する車両内の動体を検知する動体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、機械式駐車設備の乗降室内に位置する車両内に、人間や動物などの動体が存在するかを検知する動体検知装置が開示されている。かかる特許文献1では、電波の送信波を車両に送信し、動体を含む複数の物体での反射波を受信し、送信波と反射波との合成波に基づいて車両内に動体が存在するか否かが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、機械式駐車設備の乗降室の入出口には、入出庫扉が設けられ、入出庫扉は、振動することがある。乗降室内に位置する車両内の動体を電波によって検知する技術において、入出庫扉が振動すると、入出庫扉の振動が動体を示す振動として誤検知されることがある。その結果、動体の検知精度が低下していた。
【0005】
本開示は、動体の検知精度を向上させることが可能な動体検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る動体検知装置は、車両が入出庫される乗降室と、乗降室の入出口を開閉する入出庫扉と、を有する機械式駐車設備に設けられ、乗降室内に位置する車両内の動体を検知する動体検知装置であって、乗降室内に位置する車両内に電波を照射し、照射した電波の反射波を受信し、受信した反射波に基づく計測データを生成するレーダー装置と、時系列の計測データに基づいて、入出庫扉が振動している時間である扉振動時間を特定する扉振動時間特定部と、計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除し、扉振動時間の部分に所定のデータを埋めるデータ補正部と、データ補正部による処理後のデータに基づいて、車両内に動体が存在するかを判定する動体判定部と、を備える。
【0007】
扉振動時間特定部は、計測データに対して位相アンラップ処理を行い、位相アンラップ処理により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定するようにしてもよい。
【0008】
扉振動時間特定部は、位相アンラップ処理により生成されたデータに対して第1ローパスフィルタ処理を行い、第1ローパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定するようにしてもよい。
【0009】
扉振動時間特定部は、位相アンラップ処理により生成されたデータと第1ローパスフィルタ処理により生成されたデータとの差分の絶対値を導出するハイパスフィルタ処理を行い、ハイパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定するようにしてもよい。
【0010】
扉振動時間特定部は、ハイパスフィルタ処理により生成されたデータに対して第2ローパスフィルタ処理を行い、第2ローパスフィルタ処理により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定するようにしてもよい。
【0011】
扉振動時間特定部は、第2ローパスフィルタ処理により生成された時系列の複数のデータの平均値を導出し、導出した平均値に所定の調整係数を乗算することで、扉振動閾値を導出し、第2ローパスフィルタ処理により生成された時系列のデータが扉振動閾値以上となっている時間を、扉振動時間の候補とするようにしてもよい。
【0012】
レーダー装置からの距離ごとに周波数ビンが対応付けられており、計測データは、周波数ビンごとに取得され、扉振動時間特定部は、複数の周波数ビンのうち入出庫扉が存在する距離に対応する所定範囲内の複数の周波数ビンのそれぞれについて、扉振動時間の候補を導出し、扉振動時間の候補が所定周波数ビン数以上重なる部分の時間を、扉振動時間とするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、動体の検知精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る動体検知装置が適用される機械式駐車設備について説明する概略平面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る動体検知装置が適用される機械式駐車設備について説明する概略側面図である。
【
図3】
図3は、動体検知装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、周波数ビンについて説明する図である。
【
図5】
図5は、扉領域内の1つの周波数ビンの計測データの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、データ補正部による処理が行われた後の計測データの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、データ処理装置の動作の流れを説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、扉振動時間特定処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、位相アンラップ処理により生成されたデータの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、第1ローパスフィルタ処理により生成されたデータの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、ハイパスフィルタ処理により生成されたデータの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、第2ローパスフィルタ処理により生成されたデータの一例を示す図である。
【
図14】
図14は、扉振動閾値導出処理による扉振動閾値の概念図を示す図である。
【
図15】
図15は、扉振動時間の候補導出処理により導出された扉振動時間の候補の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、扉振動時間の候補から扉振動時間を特定する処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る動体検知装置1が適用される機械式駐車設備10について説明する概略平面図である。
図2は、本実施形態に係る動体検知装置1が適用される機械式駐車設備10について説明する概略側面図である。
【0017】
機械式駐車設備10は、車両12を駐車可能な構成となっている。機械式駐車設備10は、乗降室20および入出庫扉22を有する。乗降室20は、車両12が入出庫され、車両12の運転者などが車両12に対して乗降可能な空間である。なお、入出庫は、車両12が機械式駐車設備10に進入する入庫、および、車両12が機械式駐車設備10から退出する出庫を総称した表現である。
【0018】
乗降室20には、入出口24が設けられている。入出口24は、乗降室20の内外を連通する。車両12は、入出口24を通じて乗降室20外から乗降室20内に進入することができ、入出口24を通じて乗降室20内から乗降室20外に退出することができる。
【0019】
入出庫扉22は、入出口24に設けられ、入出口24を開閉する。入出庫扉22は、例えば、金属製の板材で構成される。なお、入出庫扉22は、金属製の板材に限らず、例えば、合成樹脂製の板材など、任意の材料で構成されてもよい。
【0020】
乗降室20の中央には、乗降領域26が形成されている。車両12は、乗降領域26に停車される。すなわち、乗降領域26に停車された車両12は、乗降室20内に位置することになる。ここで、乗降室20における入出口24および入出庫扉22とは反対側の壁面を、乗降室20の前壁面28という場合がある。例えば、車両12は、その前面側が乗降室20の前壁面28に対向するように、乗降領域26に停車される。
【0021】
動体検知装置1は、機械式駐車設備10の乗降室20内に位置する車両12内の動体を検知することができる。動体は、例えば、人間や動物などの生体である。
【0022】
動体検知装置1は、複数のレーダー装置30およびデータ処理装置32を備える。レーダー装置30は、例えば、定在波方式やFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式などのレーダーを利用することができる。
【0023】
レーダー装置30は、前壁面28と乗降領域26との間であり、乗降室20内における前壁面28の近傍に設けられる。レーダー装置30は、例えば、12個設けられる。レーダー装置30は、鉛直方向に4行、水平方向に3列の行列状に配置される。なお、レーダー装置30の数および配置は、例示した態様に限らず、任意の数および配置とされてもよい。
【0024】
図1に示すように、水平方向に並べられたレーダー装置30は、乗降領域26における車両12の幅方向の寸法の範囲内に収まるように配置される。
【0025】
図2に示すように、レーダー装置30は、乗降室20の床面から所定高さ以上の位置に配置される。例えば、鉛直方向に4行並べられたレーダー装置30において、下方のレーダー装置30から順に、所定高さが、1.3m、1.5m、1.7m、1.9mに設定されている。なお、所定高さは、例示した数値に限らず、車両12の寸法を考慮して、例えば、1m以上の任意の値に設定されてもよい。
【0026】
レーダー装置30は、車両12が乗降領域26内に停車され、乗降室20内に位置する車両12に向けて電波を照射する。レーダー装置30は、例えば、入出庫扉22が閉じた状態で電波を照射する。レーダー装置30は、
図2の俯角αで示すように、水平方向下向きに電波を照射する。レーダー装置30は、照射した電波の反射波を受信することができる。例えば、レーダー装置30は、車両12内の動体などで反射した反射波を受信する。レーダー装置30は、受信した反射波に基づいて、レーダーによる計測結果を示す計測データを生成する。
【0027】
データ処理装置32は、レーダー装置30の計測データに基づいて、生体の呼吸時における胸の動きや、心拍による胸の動きなどを検出することができる。例えば、データ処理装置32は、計測データに所定のデータ処理を施して、生体の胸の動きを示す振幅が所定値以上となった場合、車両12内に動体が存在すると判定する。すなわち、データ処理装置32は、生体の動きを検出することで、車両12内に動体が存在するかを検知することができる。データ処理装置32については、後に詳述する。
【0028】
図3は、動体検知装置1の構成を示すブロック図である。動体検知装置1のレーダー装置30は、送信アンテナ40、受信アンテナ42および計測データ生成部44を有する。送信アンテナ40は、電波を車両12に向けて照射する。受信アンテナ42は、反射波を受信する。
【0029】
計測データ生成部44は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成される。計測データ生成部44は、送信する電波を生成して送信アンテナ40から所定のタイミングで送信させる。また、計測データ生成部44は、受信アンテナ42により受信された反射波に対して所定の信号処理を施して計測データを生成する。例えば、FMCW方式のレーダーの場合、所定の信号処理は、AD変換(Analog Digital Conversion)やFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)などである。計測データは、レーダー装置30からの距離ごとの振幅および位相の情報を含む時系列のデータである。
【0030】
動体検知装置1のデータ処理装置32は、記憶装置50、1つまたは複数のプロセッサ52、および、プロセッサ52に接続される1つまたは複数のメモリ54を備える。
【0031】
記憶装置50は、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリなどであり、不揮発性の記憶素子で構成される。記憶装置50には、例えば、レーダー装置30により生成された計測データなどが記憶される。
【0032】
メモリ54は、プログラム等が格納されたROMおよびワークエリアとしてのRAMを含む。プロセッサ52は、メモリ54に含まれるプログラムと協働して、データ処理装置32全体を制御する。
【0033】
プロセッサ52は、プログラムを実行することで、データ取得部60、扉振動時間特定部62、データ補正部64および動体判定部66としても機能する。データ取得部60は、それぞれのレーダー装置30から計測データを取得し、取得した計測データを記憶装置50に記憶させる。扉振動時間特定部62、データ補正部64および動体判定部66については、後に詳述する。
【0034】
図4は、周波数ビン(bin)について説明する図である。レーダー装置30は、計測データを周波数ビンごとに生成する。周波数ビンは、周波数が所定周波数幅ごとに区切られた領域を意味する。また、レーダー装置30では、レーダー装置30からの距離ごとに周波数ビンが対応付けられている。レーダー装置30からの距離が長くなるほど、周波数ビンの番号が大きくなる。レーダー装置30は、例えば、1ビン当たり20cmの距離分解能を有する。なお、この距離分解能は、レーダー装置30の性能や仕様によって異なっていてもよい。
【0035】
周波数ビンが8ビンから28ビンまでの範囲は、レーダー装置30から1.6m(20cm×8)の距離から、レーダー装置30から5.6m(20cm×28)の距離までの範囲に対応する。つまり、8ビンから28ビンまでの範囲は、レーダー装置30から乗降領域26内の各位置までの距離に大凡対応し、動体の検出の対象となる周波数ビンの範囲を示す。以後、動体の検出の対象となる周波数ビンの範囲を、検出領域という場合がある。
【0036】
一方、周波数ビンが7ビン未満の範囲は、レーダー装置30から1.6m未満の距離に対応する。つまり、7ビン未満の範囲は、乗降領域26よりも前壁面28側の位置までの距離に大凡対応し、動体の検出の対象とならない周波数ビンの範囲を示す。以後、動体の検出の対象とならない周波数ビンの範囲を、検出外領域という場合がある。
【0037】
上述のように、乗降領域26を間に挟んで、レーダー装置30の設置位置とは反対側には、入出庫扉22が存在する。入出庫扉22は、レーダー装置30からの距離が、例えば、6m(20cm×30)から7m(20cm×35)までの範囲内に位置する。この距離範囲は、周波数ビンが30ビンから35ビンまでの範囲に対応する。つまり、30ビンから35ビンまでの範囲は、レーダー装置30から入出庫扉22までの距離の大凡対応し、入出庫扉22の状態が計測される周波数ビンの範囲を示す。以後、入出庫扉22の状態が計測される周波数ビンの範囲を、扉領域という場合がある。
【0038】
図5は、扉領域内の1つの周波数ビンの計測データの一例を示す図である。
図5では、例えば、30ビンから35ビンの周波数ビンのうちの30ビンの計測データの一例が示されている。
【0039】
ここで、入出庫扉22は、開閉に応じて振動することがある。また、入出庫扉22は、開閉のときだけでなく、入出庫扉22に風や物が当たることによっても振動することがある。入出庫扉22が振動すると、扉領域内の周波数ビンの計測データに、入出庫扉22の振動に起因した振幅変動、すなわち、ノイズが含まれる。
【0040】
入出庫扉22の振動は、通常、生体の呼吸や心拍による胸の動きと比べ、間欠的に発生し、振幅が大きい。また、入出庫扉の振動の周波数が、生体の胸の動きの振動の周波数と近いこともある。これらより、入出庫扉22の振動に起因するノイズを含んだまま動体が存在するかの判定を行うと、動体が存在しないにも拘らず、入出庫扉22の振動によって動体が存在する旨の誤検知が行われるおそれがある。
【0041】
そこで、本実施形態の動体検知装置1の扉振動時間特定部62は、レーダー装置30により生成された時系列の計測データに基づいて、入出庫扉22が振動している時間である扉振動時間を特定する。扉振動時間を特定する方法については、後に詳述する。
図5では、入出庫扉22の振動が発生している時間区間が、扉振動時間として特定されている様子が概念的に例示されている。
【0042】
扉振動時間の特定後、データ補正部64は、時系列の計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除する。これにより、扉振動時間の部分の入出庫扉22の振動に起因するノイズが計測データから除かれる。そして、データ補正部64は、扉振動時間の部分に所定のデータを埋める。例えば、データ補正部64は、扉振動時間の直前のデータをコピーして、扉振動時間の部分にペーストするようにして、扉振動時間の部分のデータを補完する。
【0043】
なお、扉振動時間の部分に埋めるデータは、扉振動時間の直前のデータに限らない。例えば、扉振動時間の直後のデータが、扉振動時間の部分に埋められてもよい。また、予め決められた所定値が、扉振動時間の部分に埋められてもよい。ただし、扉振動時間の直前のデータを埋める態様の方が、扉振動時間の前と扉振動時間との間の境界でデータを連続させることができ、その結果、動体の検知精度を、より向上させることができるため、より好ましい。
【0044】
図6は、データ補正部64による処理が行われた後の計測データの一例を示す図である。
図6で示すように、扉振動時間の部分のノイズが削除されているとともに、扉振動時間の部分に、扉振動時間の直前のデータが埋め合わせされている。
【0045】
動体判定部66は、データ補正部64による処理後のデータに基づいて、車両12内に動体が存在するかを判定する。例えば、動体判定部66は、データ補正部64による処理後のデータにおいて、所定値以上の振幅が検出された場合に、動体が存在すると判定する。
【0046】
図6で示すように、扉振動時間の部分のノイズが削除されているため、動体判定部66は、入出庫扉22の振動の影響を除いて、動体の存在を判定することができる。このため、本実施形態の動体検知装置1では、動体の検知精度を向上させることができる。
【0047】
また、データ補正部64は、扉振動時間の部分のノイズを削除するだけでなく、扉振動時間の部分が所定のデータによって補完される。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、時系列のデータの欠損を回避することができ、その結果、適切に動体を検知することが可能となる。
【0048】
図7は、データ処理装置32の動作の流れを説明するフローチャートである。データ処理装置32は、所定時間間隔ごとに、
図7の一連の処理を繰り返し実行する。
【0049】
所定時間間隔ごとに到来する所定タイミングとなると、データ取得部60は、それぞれのレーダー装置30から計測データを取得し、取得した計測データを記憶装置50に記憶させる(S10)。
【0050】
次に、扉振動時間特定部62は、時系列の計測データに基づいて扉振動時間を特定する扉振動時間特定処理(S11)を行う。扉振動時間特定処理については、後に詳述する。
【0051】
次に、データ補正部64は、特定された扉振動時間に基づいて、計測データを補正するデータ補正処理(S12)を行う。具体的には、データ補正部64は、計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除し(S12a)、扉振動時間の部分に所定のデータを埋めるパディングを行う(S12b)。
【0052】
次に、動体判定部66は、データ補正処理後のデータに対して位相アンラップ処理(S13)を行う。
【0053】
ここで、レーダー装置30による計測原理上、計測データに含まれる位相の情報は、「-π/2」から「π/2」までの範囲となる。電波を反射させた材料の誘電率などに起因して、送信した電波の位相に対する反射波の位相にオフセットが生じることがある。位相のオフセットが生じて蓄積されると、計測データの位相の値が、時間とともに変化する。例えば、位相が「0」から「π/2」まで増加して「π/2」を超えると、計測データにおける位相は、「π/2」から「-π/2」に飛び越えた値になる。そうすると、本来は位相が連続して変化するところ、「π/2」と「-π/2」との間で変曲点が生じる。変曲点があると、その変曲点のところに余分な周波数成分が発生し、そこの周波数成分の振幅が大きくなることがある。その結果、変曲点のところでノイズが生じ、動体の検知精度が低下するおそれがある。
【0054】
位相アンラップ処理では、位相が「π/2」から「-π/2」に飛んだことを検出すると、計測データに「π」を加算することで、位相を「π/2」から連続する値に修正する。位相アンラップ処理を行うことで、位相に変曲点が生じることを防止することができる。なお、位相が「-π/2」から「π/2」に飛んだことを検出した場合、計測データに「-π」を加算することで、位相を「-π/2」から連続する値に修正する。
【0055】
動体判定部66は、位相アンラップ処理(S13)の後、周波数分解処理を行う(S14)。具体的には、動体判定部66は、位相アンラップ処理(S13)により生成されたデータに対して高速フーリエ変換を行い、生体の動きが属する周波数成分を抽出する。生体の動きが属する周波数成分は、呼吸、脈拍、および、体動の周波数成分であり、例えば、約0.2~0.5Hz、約1~2Hz、約5Hz以上などが挙げられる。
【0056】
次に、動体判定部66は、周波数分解処理(S14)で得られた判定対象となる周波数成分を、所定の閾値と比較して動体が存在するかを判定する動体判定処理を行う(S15)。所定の閾値は、生体の動きとノイズとを区別可能な適切な値に設定される。動体判定部66は、判定対象となる周波数成分のうちいずれかにおいて振幅が所定の閾値以上となる部分があった場合、動体が存在すると判定してもよい。
【0057】
動体が存在すると判定された場合、データ処理装置32は、動体が存在する旨を、表示装置や警報装置などの所定の報知装置を通じて報知してもよい。また、動体が存在すると判定された場合、データ処理装置32は、例えば、機械式駐車設備10の動作を停止させるなどの安全を確保する処置を行わせるようにしてもよい。
【0058】
図8は、扉振動時間特定処理(S11)の流れを説明するフローチャートである。
図9は、計測データの一例を示す図である。
図10は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータの一例を示す図である。
図11は、第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータの一例を示す図である。
図12は、ハイパスフィルタ処理(S23)により生成されたデータの一例を示す図である。
図13は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成されたデータの一例を示す図である。
図14は、扉振動閾値導出処理(S25)による扉振動閾値の概念図を示す図である。
図15は、扉振動時間の候補導出処理(S26)により導出された扉振動時間の候補の一例を示す図である。
図16は、扉振動時間の候補から扉振動時間を特定する処理を説明する図である。以下、
図8~
図16を参照して、扉振動時間特定処理(S11)について説明する。
【0059】
図8で示すように、扉振動時間特定処理(S11)が開始されると、扉振動時間特定部62は、まず、処理対象の周波数ビンを決定する(S20)。以後、説明の便宜のため、処理対象として決定された周波数ビンの計測データを、処理対象の計測データという場合がある。
【0060】
ここで、扉領域内には30ビンから35ビンまでの6つの周波数ビンがあるため、これら6つの周波数ビンが、処理対象の周波数ビンの候補として挙げられる。扉振動時間特定部62は、これら6つの周波数ビンのそれぞれについて、後述するステップS21からステップS26までの処理を行うことになる。これを実現するために、扉振動時間特定部62は、これら6つの周波数ビンのうちから順番に1つの周波数ビンを選択してステップS21からステップS26までの処理を行うことを、選択する周波数ビンを変えながら繰り返す。
【0061】
ステップS20において、例えば、30ビンが処理対象の周波数ビンに決定されたとする。
図9は、30ビンの計測データの一例である。
図9の計測データにおいて、振幅が大きく変化しているところが、入出庫扉22の振動に起因する部分であるとする。
【0062】
図8で示すように、周波数ビンの決定(S20)の後、扉振動時間特定部62は、処理対象の計測データに対して位相アンラップ処理(S21)を行う。ここでの位相アンラップ処理(S21)の具体的な処理内容は、上述した動体判定部66による位相アンラップ処理(S13)と同じである。すなわち、扉振動時間特定部62は、処理対象の計測データの位相を連続する値に修正する。
【0063】
ここで、処理対象の計測データにおける入出庫扉22の振動に起因する部分では、位相のオフセットや位相の飛びが頻繁に発生し易い。このことから、入出庫扉22の振動を含む計測データに位相アンラップ処理(S21)を行うと、入出庫扉22の振動に起因する部分の振幅が強調された時系列のデータを生成することができる。
【0064】
図10は、入出庫扉22の振動を含む30ビンの計測データに位相アンラップ処理(S21)を行って生成されたデータの一例である。
図10で示すように、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータに、入出庫扉22の振動に起因する振幅のピークが現れている。
【0065】
図8で示すように、位相アンラップ処理(S21)の後、扉振動時間特定部62は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータに対して第1ローパスフィルタ処理(S22)を行う。
【0066】
より詳細には、第1ローパスフィルタ処理(S22)は、位相アンラップ処理(S21)により生成された時系列のデータに対して5項移動平均を導出する処理である。5項移動平均を導出する処理は、平均化処理の一例である。5項移動平均を導出することで、ローパスフィルタと同様の効果が得られる。5項移動平均は、時系列のデータのうち、連続する5つのサンプルポイントのデータを使って移動平均を導出するものである。ここでの5項移動平均は、例えば、5つのサンプルポイントのうちの中央の位置の移動平均を導出する5項中心化移動平均とする。5項中心化移動平均とすることで、5つのサンプルポイントのうちの5つ目の位置の移動平均を導出する態様と比べ、振幅波形に遅れが生じることを抑制することができる。
【0067】
なお、振幅波形に遅れが生じることを許容できる場合、5項移動平均を、5つのサンプルポイントのうちの5つ目の位置の移動平均を導出する態様としてもよい。また、5項に限らず、連続する任意の数のサンプルポイントのデータを使って移動平均を導出してもよい。また、第1ローパスフィルタ処理(S22)は、5項移動平均に限らず、任意のローパスフィルタを用いてもよい。
【0068】
図11は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータに第1ローパスフィルタ処理(S22)を行って生成されたデータの一例である。
図11で示すように、第1ローパスフィルタ処理(S22)を行うことで、入出庫扉22の振動に起因する振幅のピークが滑らかになり、データを取り扱い易くすることができる。
【0069】
図8で示すように、第1ローパスフィルタ処理(S22)の後、扉振動時間特定部62は、ハイパスフィルタ処理(S23)を行う。
【0070】
より詳細には、ハイパスフィルタ処理(S23)は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータと第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータとの差分の絶対値を導出する処理である。
【0071】
ここで、入出庫扉22の振動に起因する周波数成分は、生体の動きに起因する周波数成分よりも高い成分を多く含む。
【0072】
また、入出庫扉22における電波の反射強度は、比較的大きい。このため、入出庫扉22の振動に起因するノイズは、扉領域内の周波数ビンの計測データだけでなく、検出領域の周波数ビンの計測データにも、減衰しながら伝搬して生じる。このことから、例えば、入出庫扉22を叩いた瞬間などの振幅の大きい成分が扉領域内の周波数ビンに含まれていると、入出庫扉22の振動の影響が検出領域の周波数ビンにも大きく現れることがある。
【0073】
これらを考慮し、振幅の大きい成分を抑制して、高周波成分を抽出するために、扉振動時間特定部62は、ハイパスフィルタ処理(S23)を行う。ハイパスフィルタ処理(S23)が行われると、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータから生体の動きに起因する周波数成分を極力除くことができる。換言すると、ハイパスフィルタ処理(S23)が行われると、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータから入出庫扉22の振動に起因する周波数成分を抽出することができる。また、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータと第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータとの差分をとることで、入出庫扉22を叩くような振幅の大きな信号成分が抑圧される。このため、例えば、入出庫扉22の振動のうち相対的に振幅の小さい成分なども広く検出可能となる。
【0074】
図12は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータにハイパスフィルタ処理(S23)を行って生成されたデータの一例である。
図12では、生体の動きに起因する周波数成分が極力除かれた振幅波形が示されている。
【0075】
図8で示すように、ハイパスフィルタ処理(S23)の後、扉振動時間特定部62は、ハイパスフィルタ処理(S23)により生成されたデータに対して第2ローパスフィルタ処理(S24)を行う。
【0076】
より詳細には、第2ローパスフィルタ処理(S24)は、ハイパスフィルタ処理(S23)により生成された時系列のデータに対して5項移動平均を導出する処理である。5項移動平均を導出する処理は、平均化処理の一例である。5項移動平均の具体的な処理内容は、第1ローパスフィルタ処理(S22)の5項移動平均と同じであり、5項中心化移動平均とする。
【0077】
図13で示すように、第2ローパスフィルタ処理(S24)を行うことで、振幅波形が滑らかになり、データを取り扱い易くすることができる。その結果、例えば、第2ローパスフィルタ処理(S24)の後に行う扉振動閾値を用いた比較を、適切に行うことが可能となる。
【0078】
また、第2ローパスフィルタ処理(S24)として5項中心化移動平均を行うことで、5つのサンプルポイントのうちの5つ目の位置の移動平均を導出する態様と比べ、振幅波形に遅れが生じることを抑制することができる。
【0079】
なお、振幅波形に遅れが生じることを許容できる場合、5項移動平均を、5つのサンプルポイントのうちの5つ目の位置の移動平均を導出する態様としてもよい。また、5項に限らず、連続する任意の数のサンプルポイントのデータを使って移動平均を導出してもよい。また、第2ローパスフィルタ処理(S24)は、5項移動平均に限らず、任意のローパスフィルタを用いてもよい。
【0080】
図8で示すように、第2ローパスフィルタ処理(S24)の後、扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成されたデータに基づいて扉振動閾値を導出する扉振動閾値導出処理(S25)を行う。扉振動閾値は、後述する扉振動時間の候補を決定するための比較基準である。
【0081】
より詳細には、扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成された時系列の複数のデータの平均値を導出する。扉振動時間特定部62は、導出した平均値に所定の調整係数を乗算することで、扉振動閾値を導出する。所定の調整係数は、実験結果やシミュレーション結果などを考慮して予め設定される。
【0082】
図14では、一点鎖線A10により扉振動閾値の一例が示されている。ここで、仮に、扉振動閾値を予め決めた固定値とした場合、計測データの直流成分が計測ごとに変化すると、扉振動閾値を用いた比較が、適正に行うことができないことがある。これに対し、扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成されたデータに基づいて扉振動閾値を導出している。このため、計測データの直流成分が計測ごとに変化したとしても、適切な扉振動閾値を導出することができ、扉振動閾値を用いた比較を、適正に行うことができる。
【0083】
また、扉振動時間特定部62は、導出した平均値に所定の調整係数を乗算することで扉振動閾値を導出するため、所定の調整係数を適切に設定することで、扉振動時間の候補の決定を、扉振動閾値によって適切に決定することができる。
【0084】
図8で示すように、扉振動閾値導出処理(S25)の後、扉振動時間特定部62は、扉振動時間の候補を導出する候補導出処理(S26)を行う。より詳細には、扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成されたデータと、扉振動閾値導出処理(S25)により導出された扉振動閾値とを比較する。扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成された時系列のデータが扉振動閾値以上となっている時間を、扉振動時間の候補とする。
【0085】
図15では、一点鎖線A10で示すように、扉振動閾値が「200」になっている。また、
図15では、第2ローパスフィルタ処理により生成されたデータの振幅波形のうち、扉振動閾値以上となる部分がカットされている。そして、
図15では、振幅波形がカットされた部分の時間が、扉振動時間の候補とされることが示されている。このようにして、例えば、30ビンの計測データに関する扉振動時間の候補が決定される。
【0086】
図8で示すように、処理対象に決定された周波数ビンについてステップS21からステップS26までが行われた後、扉振動時間特定部62は、処理対象の周波数ビンの候補のうち未処理の周波数ビンがあるかを判定する(S27)。
【0087】
未処理の周波数ビンがある場合(S27におけるYES)、扉振動時間特定部62は、処理対象の候補の周波数ビンのうち未処理の周波数ビンの中から周波数ビンを1つ決定する(S20)。そして、扉振動時間特定部62は、決定した周波数ビンについて、ステップS21以降の処理を行う。
【0088】
このようにして、複数の周波数ビンのうち入出庫扉22が存在する距離に対応する所定範囲内の複数の周波数ビン、すなわち、扉領域内の複数の周波数ビンのそれぞれについて、扉振動時間の候補が導出される。
【0089】
未処理の周波数ビンがない場合(S27におけるNO)、扉振動時間特定部62は、周波数ビンごとに導出された扉振動時間の候補に基づいて、扉振動時間を特定し(S28)、扉振動時間特定処理(S11)を終了する。
【0090】
より詳細には、扉振動時間特定部62は、扉振動時間の候補が所定周波数ビン数以上重なる部分の時間を、扉振動時間とする。
【0091】
例えば、
図16の上段で示すように、30ビンから35ビンまでのそれぞれの周波数ビンについて、振幅が扉振動閾値以上となった部分の振幅が、得点「1」に対応付けられ、それ以外の振幅が得点「0」に対応付けられる。つまり、得点が「1」である時間は、扉振動時間の候補に対応する。
【0092】
扉振動時間特定部62は、30ビンから35ビンまでのそれぞれの周波数ビンの得点を、時点ごとに加算する。そうすると、
図16の下段で示すように、合計得点の波形が得られる。扉振動時間の候補が複数の周波数ビンで重なるほど合計得点が高くなるため、この合計得点の波形は、扉振動時間の候補の重なり具合を示す。
【0093】
そして、扉振動時間特定部62は、合計得点が所定得点以上となる時間を、扉振動時間とする。合計得点が所定得点以上となる時間は、扉振動時間の候補が所定周波数ビン数以上重なる時間に相当する。
【0094】
所定得点、換言すると、所定周波数ビン数は、扉振動時間の候補から扉振動時間を特定するための比較基準である。所定得点、換言すると、所定周波数ビン数は、
図16では一点鎖線A20で示されており、例えば、「5」である。なお、所定得点、換言すると、所定周波数ビン数は、例示した数値に限らず、扉領域内の周波数ビンの総数や扉振動時間の候補の導出精度などを考慮した任意の数値としてもよい。
図16の下段の例では、合計得点が「5」以上となる時間が、扉振動時間とされている。
【0095】
このようにして、扉振動時間特定部62は、扉振動時間を特定することができる。そして、上述したように、データ補正部64は、計測データにおける扉振動時間の部分を削除し、扉振動時間の部分に所定のデータを埋める。
【0096】
以上のように、本実施形態の動体検知装置1において、扉振動時間特定部62は、レーダー装置30による時系列の計測データに基づいて扉振動時間を特定する。データ補正部64は、計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除し、扉振動時間の部分に所定のデータを埋める。動体判定部66は、データ補正部64による処理後のデータに基づいて、車両12内に動体が存在するかを判定する。
【0097】
これにより、本実施形態の動体検知装置1では、入出庫扉22の振動を示すデータが、動体が存在するかの判定に反映されないようにすることができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、入出庫扉22の振動が動体を示す振動として誤検知されることを防止することができる。
【0098】
したがって、本実施形態の動体検知装置1によれば、動体の検知精度を向上させることが可能となる。
【0099】
また、本実施形態の動体検知装置1では、データを削除した扉振動時間の部分に所定のデータが埋められる。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、計測データのうち扉振動時間の部分のデータを削除しただけの態様と比べ、時系列のデータの欠損を回避することができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、入出庫扉22の振動に起因するデータを削除したとしても、適切に動体を検知することが可能となる。
【0100】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、計測データに対して位相アンラップ処理(S21)を行い、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定する。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、計測データに入出庫扉22の振動を示すデータが含まれていた場合、入出庫扉22の振動を示す振幅波形を強調させることができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、扉振動時間が特定し易くなり、扉振動時間をより正確に特定することが可能となる。
【0101】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータに対して第1ローパスフィルタ処理(S22)を行い、第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定する。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、入出庫扉22の振動に起因する振幅のピークが滑らかになり、データを取り扱い易くすることができる。また、第1ローパスフィルタ処理(S22)を行うことで、第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータを利用して、後のハイパスフィルタ処理(S23)を行うことができるようになる。
【0102】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータと第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータとの差分の絶対値を導出するハイパスフィルタ処理(S23)を行い、ハイパスフィルタ処理(S23)により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定する。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータから周出庫扉22の振動に起因する周波数成分を抽出することができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、扉振動時間をより正確に特定することが可能となる。また、位相アンラップ処理(S21)により生成されたデータと第1ローパスフィルタ処理(S22)により生成されたデータとの差分をとることで、振幅が大きな成分を抑圧することができる。その結果、例えば、入出庫扉22の振動のうち相対的に振幅の小さい成分なども広く検出可能となり、扉振動時間をより正確に特定することが可能となる。
【0103】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、ハイパスフィルタ処理(S23)により生成されたデータに対して第2ローパスフィルタ処理(S24)を行い、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成されたデータに基づいて扉振動時間を特定する。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、振幅波形が滑らかになり、データを取り扱い易くすることができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、第2ローパスフィルタ処理(S24)の後に行う扉振動閾値を用いた比較を、適切に行うことが可能となる。
【0104】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成された時系列の複数のデータの平均値を導出し、導出した平均値に所定の調整係数を乗算することで、扉振動閾値を導出する。そして、扉振動時間特定部62は、第2ローパスフィルタ処理(S24)により生成された時系列のデータが扉振動閾値以上となっている時間を、扉振動時間の候補とする。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、計測データの直流成分が計測ごとに変化したとしても、計測データの直流成分に拘わらず適切な扉振動閾値を決定することができる。その結果、本実施形態の動体検知装置1では、扉振動時間の候補を、より適切に決定することができる。
【0105】
また、本実施形態の扉振動時間特定部62は、複数の周波数ビンのうち入出庫扉22が存在する距離に対応する所定範囲内の複数の周波数ビンのそれぞれについて、扉振動時間の候補を導出する。そして、扉振動時間特定部62は、扉振動時間の候補が所定周波数ビン数以上重なる部分の時間を、扉振動時間とする。これにより、本実施形態の動体検知装置1では、1つの周波数ビンの扉振動時間の候補だけで扉振動時間を特定する態様と比べ、扉振動時間を、より正確に特定することができる。
【0106】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0107】
1 動体検知装置
10 機械式駐車設備
12 車両
20 乗降室
22 入出庫扉
24 入出口
30 レーダー装置
62 扉振動時間特定部
64 データ補正部
66 動体判定部