(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072723
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】光集積回路モジュール及び光通信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/065 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
G02F1/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183739
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田村 宣明
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】柳田 百合香
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA03
2K102BA40
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA23
2K102DA04
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD01
2K102EA21
2K102EB10
2K102EB11
2K102EB12
2K102EB16
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB29
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】有機電気光学材料の光酸化現象が抑制された光集積回路モジュール及び光通信装置を提供する。
【解決手段】光集積回路モジュールは、有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、前記光集積回路素子上の少なくとも前記光導波路を真空封止するカバーと、を有する。更に、光集積回路モジュールは、前記カバー内部に設けられて、前記カバー内部の酸素を吸着する酸素ゲッターを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子上の少なくとも前記光導波路を真空封止するカバーと、
前記カバー内部に設けられて、前記カバー内部の酸素を吸着する酸素ゲッターと、
を有することを特徴とする光集積回路モジュール。
【請求項2】
前記光集積回路素子はパッケージに収容されており、
前記カバーは、
前記パッケージのリッドであることを特徴とする請求項1に記載の光集積回路モジュール。
【請求項3】
前記カバーは、
前記光集積回路素子上の前記光導波路を局所的に真空封止するキャップであることを特徴とする請求項1に記載の光集積回路モジュール。
【請求項4】
前記酸素ゲッターは、前記カバーに固定されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項5】
前記酸素ゲッターは、
前記カバーの内面に形成された酸素吸着層を含むことを特徴とする請求項4に記載の光集積回路モジュール。
【請求項6】
前記真空封止された前記カバー内の真空度が1×10-1Pa以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項7】
前記真空封止において、前記光導波路を前記カバーで接合する接合時の有機電気光学材料の温度が110℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の光集積回路モジュール。
【請求項8】
前記光集積回路素子は、2本の電極の間に前記有機電気光学材料が充填されたスロット導波路で形成された光変調器を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項9】
前記酸素ゲッターは、
Zr、Ti、ZrAl合金、ZrNi合金、ZrFe合金、ZrVFe合金、ZrVE合金(EはFe、Ni、Mg、Alまたはその混合物)、ZrM1M2合金(M1、M2はCr、Mn、Fe、Co、Niから選択される)、ZrCoA合金(AはY、La等の希土類金属またはその混合物)、及び、ZrFeMgMm(Mmは希土類金属とCe、La、Ndとの混合物)の中から選択される酸素吸着材料を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項10】
前記有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子と電気的に接続される電気回路素子と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項11】
電気信号に対する信号処理を実行するプロセッサと、
前記プロセッサから出力される電気信号を用いて、光源から発生する光を変調する光変調器を集積する光集積回路モジュールと、を有する光通信装置であって、
前記光集積回路モジュールは、
有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子の少なくとも前記光導波路を真空封止するカバーと、
前記カバー内部に設けられて、前記カバー内部の酸素を吸着する酸素ゲッターと、
を有することを特徴とする光通信装置。
【請求項12】
前記光集積回路モジュールは、
前記光源から発生する光を用いて受信光を復調する光受信器を集積することを特徴とする請求項11に記載の光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光集積回路モジュール及び光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光データ伝送容量の急増を支えるための通信デバイスまたは機器の開発が、急務となっている。光変調器は高速データ伝送のコアであり、産業界からは800Gbit/sec(シンボルレートで130Gbaud)の高速化が望まれている。光変調器の材料として、これまで主流であったニオブ酸リチウム(LiNbO3)に替わる、より高い電気光学効果と広帯域特性をもつ有機電気光学材料(電気光学ポリマ)が期待されている。電気光学ポリマを2本の電極間に塗布、充填したスロット導波路を用いた光変調器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。電気光学ポリマ材料は、信頼性に対する懸念があることから実用化が進んでいなかったが、信頼性試験(例えば、85℃、2000時間)において電気光学定数を保持可能な有機非線形光学材料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
大気中、すなわち酸素がある状態で、電気光学ポリマに光通信波長である1550nm帯の強い光を透過させると、ポリマ自体が劣化し、変調特性または光学特性が劣化することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。酸素によるこの劣化現象は、光酸化現象と呼ばれている。電気光学ポリマ導波路を実用化するには、光酸化現象を考慮する必要がある。LiNbO3光変調器を気密封止する構成が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7643714号明細書
【特許文献2】特許第6935884号公報
【特許文献3】特開2019-53313号公報
【特許文献4】特開2000-337959号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0243799号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2002/0181866号明細書
【特許文献7】特開2013-171958号公報
【特許文献8】特開2001-281050号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Rezzonico, M. Jazbinsek, P. Gunter, C. Bosshard, D. H. Bale, Y.Liao, L. R. Dalton, and P. J. Reid, “Photostabililty studies of pi-conjugated chromophores with resonant and nonresonant light excitation for long-life polymeric telecommunication devices,” J. Opt. Soc. Am. B., vol. 24, no. 9, pp. 2199-2207, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、電気光学ポリマ材料等の有機電気光学材料を用いたスロット導波路を含む光集積回路に公知の気密封止構造を適用しても、実用に耐え得る特性が得られないことを見出した。電気光学ポリマ材料を用いたスロット導波路を含む光集積回路を接着剤で気密封止パッケージ内に接着固定し、ベイキング等で水分をできるだけ揮発させ、窒素雰囲気中で気密封止しても、ある程度の酸素や水分がパッケージ内に残る。電気光学ポリマ材料や接着剤が酸素、空気、水分等を吸収しており、ベイキングを行っても吸収された酸素や水分を十分に揮発されず、気密封止パッケージ内に残留するためと考えられる。
【0007】
一つの側面では、有機電気光学材料の光酸化現象が抑制された光集積回路モジュール等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様の光集積回路モジュールは、有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、光集積回路素子上の少なくとも光導波路を真空封止するカバーと、カバー内部に設けられて、カバー内部の酸素を吸着する酸素ゲッターと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
一つの態様の光集積回路モジュールでは、有機電気光学材料の光酸化現象を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の光集積回路モジュールのXY面に沿った断面模式図である。
【
図3A】
図3Aは、電気光学ポリマ充填前のスロット導波路の断面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、電気光学ポリマ充填後のスロット導波路の断面模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1の光集積回路モジュールの電気特性を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施例2の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
【
図6】
図6は、
図5の光集積回路モジュールのXY面に沿った断面模式図である。
【
図7】
図7は、実施例3の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
【
図8】
図8は、
図7の光集積回路モジュールのXY面に沿った断面模式図である。
【
図9】
図9は、スロット導波路及びキャップの断面模式図である。
【
図10】
図10は、
図9のキャップを光集積回路素子に接合する際の製造方法を説明する断面模式図である。
【
図11】
図11は、実施例3の光集積回路モジュールの電気特性を示す説明図である。
【
図13】
図13は、比較例の光集積回路モジュールの断面模式図である。
【
図14】
図14は、比較例の光集積回路モジュールの電気特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
先ず、本実施例の光集積回路モジュールについて説明する前に、電気光学ポリマを用いたスロット導波路の比較例の光集積回路モジュールについて説明する。
図13は、比較例の光集積回路モジュール300の断面模式図である。
【0012】
図13に示す光集積回路モジュール300は、電気光学ポリマを用いたスロット導波路を含む光集積回路素子320と、光集積回路素子320を気密封止するパッケージ321とを有する。パッケージ321内に、光集積回路素子320が接着剤327で固定されている。電気光学ポリマを用いたスロット導波路で、例えば、光変調器等の光学素子が形成されている。パッケージ321はリッド328で覆われ、パッケージ321の内部が窒素で気密状態になっている。光集積回路素子320と光学的に接続された光ファイバ322は、気密封止用のパイプ324を通してパッケージ321の外部に引き出されている。パイプ324とパッケージ321との間には、半田材料325が充填され、光ファイバ322の周囲も気密封止されている。
【0013】
光集積回路モジュール300の組み立て時には、光集積回路素子320を接着剤327でパッケージ321の内部に固定した後、真空中でベイキングして水分をできるだけ揮発し、続いて窒素置換された雰囲気中で、パッケージ321の上面開口に、リッド328をシーム溶接する。さらに、パイプ324から外部に引き出される光ファイバ322の周囲を半田材料325で埋める。これにより、純度が100%に近い窒素ガスで気密封止された光集積回路モジュール300が得られることになる。しかしながら、窒素ガスでの気密封止によってもなお、パッケージ321の内部に、例えば、0.05~0.20Volume%程度の酸素や水分が残存することになる。
【0014】
図14は、比較例の光集積回路モジュール300の電気特性を示す説明図である。尚、
図14に示す電気特性の横軸は高温通電時間(hour)、縦軸は、半波長電圧(Vπ)である。半波長電圧は、光変調器の電気特性の指標の一つであり、出力光の位相が180°(πラジアン)変化するのに必要な電圧である。電気光学ポリマを用いたスロット導波路を含む光集積回路素子320に、実用上必要となる18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DCバイアス3.5V、AC駆動電圧±2.0Vの条件下で高温通電を実行した場合の半波長電圧を測定した。その結果、半波長電圧は経時変化に応じて増加し、2000時間では、高温通電前に比較して、半波長電圧が約7.5倍以上に増加する。このような半波長電圧の増加は、電気光学ポリマ材料の光酸化現象によるものと推測される。そこで、電気光学ポリマ材料の光酸化現象を抑制できる光集積回路モジュールが求められている。
【0015】
そこで、本実施例では、実用上求められる強度の光を透過させながら光集積回路素子を駆動しても有電気光学材料の光酸化現象を抑制できる光集積回路モジュールを提供する。尚、説明の便宜上、同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
【実施例0016】
図1は、実施例1の光集積回路モジュール10AのYZ面に沿った断面模式図、
図2は、
図1の光集積回路モジュール10AのXY面に沿った断面模式図である。光集積回路モジュール10Aは、光導波路を有する光集積回路素子20と、光集積回路素子20を真空封止するパッケージ21と、パッケージ21内に設けられた酸素ゲッター50とを有する。光導波路は、例えば、電気光学ポリマ材料等の有機電気光学材料を用いたスロット導波路191と、例えば、シリコンフォトニクスで形成されたシリコン導波路123とを有する。光集積回路モジュール10Aは、光集積回路素子20と、電気回路素子とを有する。尚、電気回路素子は、例えば、光変調器19と電気的に接続されるドライバや、受光素子アレイ2a及び2bと電気的に接続されるトランスインピーダンスアンプ(TIA)を含む。
【0017】
図1を参照すると、光集積回路素子20は、パッケージ21内に接着剤27で固定されている。パッケージ21はリッド28で覆われ、パッケージ21の内部30が1×10
-1Pa以下の真空度で封止されている。リッド28は、光集積回路素子20上の少なくとも光導波路を真空封止するカバーである。光集積回路素子20の端面では、ガラスブロック23により、光ファイバ22が光集積回路素子20上の光導波路にバットジョイント接続されている。ガラスブロック23は、光学接着剤で光集積回路素子20の端面に固定されている。光ファイバ22は、パイプ24からパッケージ21の外部に引き出されている。光ファイバ22の外周の一部にメタライズ部25を形成し、パイプ24とメタライズ部25との間に低融点の半田材料26を充填することで、光ファイバ22の周囲が気密封止される。
【0018】
パッケージ21の内部30には、酸素ゲッター50が設けられる。酸素ゲッター50は、例えば、リッド28の内面281に設けられている。酸素吸着層29の表面積が限られていることから、複数枚の酸素ゲッター50を僅かな隙間を設けて重ねても設けても良い。
【0019】
このような真空中で用いられる酸素吸着層29は、非蒸発型の酸素ゲッターであることが好ましい。酸素吸着層29として、例えば、Zr、Ti、ZrAl合金、ZrNi合金、ZrFe合金、ZrVFe合金、ZrVE合金(EはFe、Ni、Mg、Alまたはその混合物)等を用いることができる。また、酸素吸着層29として、例えば、ZrM1M2合金(M1、M2はCr、Mn、Fe、Co、Niから選択される)、ZrCoA合金(AはY、La等の希土類金属またはその混合物)、ZrFeMgMm(Mmは希土類金属とCe、La、Ndとの混合物)等を用いることができる。これらの酸素吸着層29の材料は、例えば、蒸着、スパッタ等の物理的成膜方法でリッド28に直接、2~3μmの厚さに成膜してもよい。あるいは、上述した酸素ゲッター材料を、例えば、NiCrFe、SUS、コバール(登録商標)等の薄い金属シートに蒸着し、蒸着後の金属シートを、スポット溶接又は耐熱性接着剤でリッド28に固定してもよい。
【0020】
パッケージ21をリッド28で真空封止する前に、リッド28内面に設けた酸素吸着層29のデガスと活性化を行うことが望ましい。例えば、真空中で、200℃で30分~1時間の加熱でデガスを行い、続いて、真空中で、300~450℃で15分以上活性化を行う。その後、光集積回路素子20が接着固定されているパッケージ21内を1×10-1Pa以下の真空度で真空封止する。この際、1×10-1Pa以下の真空度の真空チャンバー内でリッド28をパッケージ21にシーム溶接することにより容易に1×10-1Pa以下の真空封止が可能となる。また、有機電気光学材料の分極や電気光学係数の劣化を防ぐために、有機電気光学材料部分の温度は少なくとも130℃以下、望ましくは110℃以下の低温になるようなシーム溶接条件とする必要があるが、実際に発明者らが実施した結果、十分実現可能であった。尚、説明の便宜上、真空封止されたパッケージ21内の真空度は1×10-1Pa以下としたが、例えば、1×10-2Pa以下にすることが望ましい。
【0021】
図2を参照すると、パッケージ21に3つのパイプ24が設けられ、3本の光ファイバ22-1、22-2、22-3がパッケージ21から引き出されている。光ファイバ22-1、22-2、22-3の各々は、ガラスブロック23により光集積回路素子20の端面に露出する3本の光導波路にバットジョイント接続されている。光集積回路素子20は、シリコンフォトニクス技術で作製され、シンボルレートが、例えば、130Gbaud以上の高速光通信に適用可能である。
【0022】
図2に示す光集積回路素子20は、基板15上に、光導波路で形成された光変調器19を有する。光変調器19は、シンボルレート130GbaudのDP-QPSK方式の変調器であり、マッハツェンダ干渉計の組み合わせで構成されている。光変調器19を構成する光導波路のうち、電気と光が相互作用する領域に、電気光学ポリマ材料を用いたスロット導波路191が形成されている。8本のスロット導波路191で、4つの子マッハツェンダ干渉計SMZ1~SMZ4と、2つの親マッハツェンダ干渉計MMZ1及びMMZ2が形成されている。スロット導波路191及びシリコン導波路123は、モード変換器により接続されている。
【0023】
図3Aは、電気光学ポリマ充填前のスロット導波路191の断面模式図、
図3Bは、電気光学ポリマ充填後のスロット導波路191の断面模式図である。
図3Aに示すSiの基板15上にSiO
2層16が形成され、SiO
2層16のエッチングされた溝161の内部に、所定間隔だけ離れた2本の電極17が、互いに近接して形成されている。電極17は、例えば、不純物が適切な濃度に添加されたシリコンで形成され、2本の電極17の間にスロットが形成されている。
【0024】
図3Bに示す溝161内に電気光学ポリマ18を充填する。電極17間のスロットの内部も電気光学ポリマ18で充填される。その結果、スロット導波路191が形成される。電気光学ポリマ18として、特許文献2に開示される非線形光学活性ポリマを用いてもよい。スロット導波路191は、電気光学ポリマ18を用いることで電気と光の速度整合性が良好であり、高速、広帯域の光伝送に適している。光Lは、2本の電極17で決まる領域に閉じ込められて伝搬する。
【0025】
2本の電極17に電圧を加えると、電気光学ポリマ18の屈折率nが変化して、光学的な光路長ndが変化する。
図2に示す光変調器19のマッハツェンダ干渉計の2つのアームで適切な電圧差を与えることで干渉条件が変化し、スロット導波路191を伝搬する信号光に光位相変調がかけられることになる。尚、電気光学ポリマ18が充填された状態でスロット導波路191の光伝搬損失が小さくなるように、2本の電極17の形状やスロット間隔が設計されているものとする。
【0026】
図2に示す光集積回路素子20は、光変調器19に加えて、受光素子アレイ2a及び2b、90°ハイブリッド素子3a及び3b、偏波ビームスプリッタPBS、偏波ビームコンバイナPBC、偏波ローテータPR1及びPR2を有する。受光素子アレイ2a及び2bは、例えば、Ge受光素子の配列を含む光受信器である。パッケージ21の外部のレーザ光源から出射された光LLDは、光ファイバ22-2を通って光集積回路素子20に入射し、その一部が分岐されて光変調器19で所望の光変調を受ける。レーザ光源は、例えば、波長可変レーザ光源である。
【0027】
一方の親マッハツェンダ干渉計MMZ2からの変調信号光は、偏波ローテータPR1で偏光軸の方向が90°回転され、偏波ビームコンバイナPBCで、他方の親マッハツェンダ干渉計MMZ1からの変調信号光と偏波合成される。偏波合成された光は、DP-QPSK光信号として、光ファイバ22-1から出力される。一方、光ファイバ22-3から光集積回路素子20に受信信号光が入射し、偏波ビームスプリッタPBSで互いに直交する2つの偏波に分離される。一方の偏波は90°ハイブリッド素子3aに入射し、他方の偏波は、偏波ローテータPR2で偏光軸が90°回転されて、90°ハイブリッド素子3bに入射する。
【0028】
一方、光ファイバ22-2から入射して分岐された光LLDの別の部分は、ローカル光として、90°ハイブリッド素子3a及び3bに入射する。90°ハイブリッド素子3a及び3bは、ローカル光を参照光として受信信号光の位相状態を光強度に変換する。光強度は受光素子アレイ2a及び2bでそれぞれ検出される。
【0029】
真空封止のパッケージ21のリーク量は、MIL-STD-883で規定されているOptical Leak Testなどで測定が容易に可能であるが、リーク量がその測定限界以下であった場合でも微少なリークがないとは言い切れない。この場合、微少なリークにより酸素を21%含む微少な空気がパッケージ21内部に流入しても酸素ゲッター50に吸着される。その結果、パッケージ21の内部30は酸素がほぼ零の状態に維持され、光酸化現象を抑制することができる。
【0030】
図4は、光集積回路モジュール10Aの電気特性を示す説明図である。実施例1の光集積回路モジュール10に18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DC電圧3.5V、AC電圧±2.0Vの条件下で高温通電を実行する。2000時間経過後の半波長電圧Vπの経時変化は、ほぼ皆無であり、
図14の比較例の光集積回路モジュール300と比較しても、その差は明確である。実施例1の光集積回路モジュール10Aのパッケージ21内の酸素がほぼ無いため、有機電気光学材料である電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できた効果であると推測される。
【0031】
実施例1の光集積回路モジュール10Aでは、真空封止されたパッケージ21内の酸素ゲッター50で内部30の酸素が吸着されることで、パッケージ21の内部30の酸素がほぼ無くなる。その結果、有機電気光学材料の光酸化現象を抑制できる。そして、光酸化現象を抑制することで、光集積回路モジュール10Aの動作の長期信頼性が維持され、結果として、光集積回路モジュール10Aを内蔵した光送受信機の信頼性が向上する。
【0032】
パッケージ21は、リッド28により真空封止されており、酸素ゲッター50は、リッド28の内面に固定されているので、酸素ゲッター50の配置スペースを確保できる。
【0033】
真空封止されたパッケージ21内の真空度が1×10-1Pa以下、例えば、1×10-2Pa以下にしたので、酸素ゲッター50では、パッケージ21の内部30の酸素を効率よく吸着できる。
【0034】
光集積回路素子20は、2本の電極17の間に電気光学ポリマ18が充填されたスロット導波路191で形成された光変調器19を有する。その結果、酸素ゲッター50が、光変調器19を含む光集積回路素子20が真空封止されたパッケージ21内の酸素を吸着できるため、電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できる。
【0035】
光集積回路モジュール10Aは、電気光学ポリマ18を用いたスロット導波路191を有する光集積回路素子20と、光集積回路素子20と電気的に接続されるドライバ及びTIA等の電気回路素子とを有する。その結果、電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できる光集積回路モジュール10Aを提供できる。
実施例2の光集積回路モジュール10Bでは、真空封止されたパッケージ61内の酸素ゲッター50で内部30の酸素が吸着されることで、パッケージ61の内部30の酸素がほぼ無くなる。その結果、有機電気光学材料の光酸化現象を抑制できる。そして、光酸化現象を抑制することで、光集積回路モジュール10Bの動作の長期信頼性が維持され、結果として、光集積回路モジュール10Bを内蔵した光送受信機の信頼性が向上する。
パッケージ61は、リッド28により真空封止されており、酸素ゲッター50は、リッド28の内面に固定されているので、酸素ゲッター50の配置スペースを確保できる。
光集積回路素子20は、2本の電極17の間に電気光学ポリマ18が充填されたスロット導波路191で形成された光変調器19を有する。その結果、酸素ゲッター50が、光変調器19を含む光集積回路素子20が真空封止されたパッケージ61内の酸素を吸着できるため、電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できる。
光集積回路モジュール10Bは、電気光学ポリマ18を用いたスロット導波路191を有する光集積回路素子20と、光集積回路素子20と電気的に接続されるドライバ及びTIA等の電気回路素子とを有する。その結果、電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できる光集積回路モジュール10Bを提供できる。
尚、実施例1の光集積回路モジュール10Aでは、光集積回路素子20全体を収容するパッケージ61内の酸素ゲッター50で内部30の酸素を吸着する場合を例示した。しかしながら、光集積回路素子20全体に限定されるものではなく、光集積回路素子20内の光変調器19のスロット導波路191の部分の酸素を吸着するようにしても良く、その実施の形態につき、実施例3として以下に説明する。