(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072728
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】逆電力遮断継電器及び逆電力遮断継電器における逆電力遮断方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/38 20060101AFI20240521BHJP
H02H 3/027 20060101ALI20240521BHJP
H02H 3/05 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H02H3/38 M
H02H3/027 D
H02H3/05 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183745
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊介
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142CC08
5G142EE03
5G142GG02
5G142GG03
5G142GG09
(57)【要約】
【課題】ノイズ等の影響を避けながら逆電力の検出感度を上昇させた逆電力遮断継電器を提供する。
【解決手段】スポットネットワーク給電システムにおいて、ネットワークリレーは、(1)検出された逆方向の電流値の方向と大きさが、第1の閾値関数式ax+b(a、bは係数、xは電流遅れ90°方向の大きさ)を下回っているか否かを判定し、さらに(2)電流値の大きさの絶対値が第2の閾値c未満であるか否か(但し、b<c)を判定することにより、2種類の閾値を用いることで逆電力の発生有無を判定する。ネットワークリレーは、第1の閾値及び第2の閾値の双方を超える逆電流を検出した場合に、電力回線中に設けられる遮断器によって電力回線をネットワーク母線から遮断する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流の電力回線の各相の電圧を測定する電圧検出部と、
前記電力回線の各相の電流値を測定する電流検出部と、
前記電圧検出部によって検出された電圧測定値と、前記電流検出部によって検出された電流測定値から励磁電流を求め、前記励磁電流が逆方向に閾値を超えた際に前記電力回線に設けられた遮断器にて遮断するように制御する演算部を有する逆電力遮断継電器であって、
前記演算部は、
検出された逆方向の前記電流値の方向と大きさが、第1の閾値関数式ax+b(a、bは係数、xは電流遅れ90°方向の大きさ)を下回っているか否かを判定し、前記電流値の大きさの絶対値がc未満であるか否かを判定する第2の閾値を用い(但し、b<c)、
前記第1の閾値関数以上、及び、前記第2の閾値以上の双方を満たす場合に、前記遮断器によって前記電力回線を遮断するようにしたことを特徴とする逆電力遮断継電器。
【請求項2】
前記cの値は、変圧器の定格電流の0.05%未満とすることを特徴とする請求項1に記載の逆電力遮断継電器。
【請求項3】
前記演算部は、前記電流値が逆方向であって、その大きさが第1の閾値関数式を超えていない場合には、前記第2の閾値を用いることなく前記電力回線の接続を維持することを特徴とする請求項2に記載の逆電力遮断継電器。
【請求項4】
前記電流値の逆方向への大きさが、前記第1の閾値関数式ax+b以上であって、前記第2の閾値c未満となる領域が存在するように、前記a、b、cの値が設定されることを特徴とする請求項3に記載の逆電力遮断継電器。
【請求項5】
表示部を設け、
前記演算部が逆電力を検出することによって前記遮断器を遮断させた際に、前記表示部にてアラーム表示を行うことを特徴とする請求項4に記載の逆電力遮断継電器。
【請求項6】
三相交流の電力回線の各相の電圧を測定する電圧検出部と、
前記電力回線の各相の電流値を測定する電流検出部と、
前記電圧検出部によって検出された電圧測定値と、前記電流検出部によって検出された電流測定値から電流値を求め、前記電流値が逆方向に閾値を超えた際に前記電力回線に設けられた遮断器にて遮断するように制御する演算部と、を有する逆電力遮断継電器における逆電力遮断方法であって、
前記演算部は、
(a)前記電流値が逆方向であって、前記電流値の方向と大きさが、所定の関数式ax+bを下回っているか否かを判定し、
(b)前記関数式ax+bを下回っている際には正常と判定し、
(c)前記関数式ax+b以上である際には、前記電流値の絶対値がc未満であるか否かを判定し、
(d)c未満である場合は正常と判定し、
(e)c以上の時は逆電力が流れていると判定すると共に、前記遮断器によって前記電力回線を遮断することを特徴とする逆電力遮断方法。
【請求項7】
前記電圧検出部と前記電流検出部は、一定の時間間隔において断続的に電圧値と電流値を測定し、それらの平均値を用いることによって前記電圧測定値と前記電流測定値を算出することを特徴とする請求項6に記載の逆電力遮断方法。
【請求項8】
前記逆電力遮断継電器は表示部を有し、
前記演算部は、前記電力回線が遮断されたら前記表示部に遮断された旨の表示と、その時刻を表示することを特徴とする請求項7に記載の逆電力遮断方法。
【請求項9】
異なる供給元からの複数の電力ラインを有し、前記電力ラインには、それぞれネットワーク変圧器と、プロテクタヒューズと、遮断器が直列に接続され、
複数の電力ラインが、共通にネットワーク母線に接続されることによって前記ネットワーク母線から負荷への電力供給が行われるスポットネットワーク給電システムにおいて、
それぞれの前記電力ライン内の前記ネットワーク変圧器と前記遮断器の間に、請求項1から4のいずれか一項に前記逆電力遮断継電器を設けたことを特徴とするスポットネットワーク給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポットネットワーク受電方式の電力回線に用いられて好適な逆電力遮断継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社の変電所より、複数回線(例えば、22kV配電線を3回線)で受電し、各回線に設置された受電変圧器を介して二次側をネットワーク母線で並列接続するようにしたスポットネットワーク受電方式が知られている。この受電方式は、複数回線受電により配電線1回線が停止しても何の支障もなく受電できる方式であり、無停電運転を可能とし、電力供給の信頼性を向上させることができる。スポットネットワーク受電方式は、常用予備2回線受電やループ受電等の従来例と比較した場合に、常時3回線受電による高信頼性、シンプルな構成による省スペース化、スポットネットワーク特有の機能による省保守化という特徴を有する。このようなスポットネットワーク受電方式は、例えば、下記特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0003】
スポットネットワーク受電方式を採用する際には、ネットワーク変圧器の2次側において、逆電力遮断、差電圧投入、無電圧投入、過負荷警報、電源電圧検出等の保護機能を有する遮断継電器が用いられることが一般的である。ここで、「逆電力遮断」とは、供給側の複数回線のいずれかが遮断されたことにより、ネットワークに供給される電力が遮断されると、ネットワーク側からネットワーク変圧器側へ逆電流が流れることがあるので、逆電流の発生を検出して、逆電流が発生した回線を遮断することであり、遮断継電器が有する保護機能の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-322394号公報
【特許文献2】特開2005-130609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ネットワーク変圧器としてアモルファス変圧器の利用が検討されるようになってきた。アモルファス変圧器は、鉄心としてアモルファス金属を用いた変圧器であり、無負荷時の鉄損が少なく、珪素鋼板を使用する従来の変圧器と比較して損失が少ない。このため、待機ロス(無負荷損)を大幅に抑えることができ、省電力と温暖化ガス(CO2)削減を可能にするという特徴を有する。一方、アモルファス変圧器を用いる場合は、励磁電流が小さくなるために、逆電力時の励磁電流が小さくなって、逆電力の検出がしにくくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ノイズ等の影響を避けながら逆電力の検出感度を上昇させた逆電力遮断継電器を提供することにある。
本発明の他の目的は、検出された逆電力の向きと大きさを用いて、簡単なソフトウェア演算にて逆電力遮断の要否の判断を行うことができる逆電力遮断継電器を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、高精度の逆電力遮断継電器を用いたスポットネットワーク受電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、三相交流の電力回線の各相の電圧を測定する電圧検出部と、電力回線の各相の電流値を測定する電流検出部と、電圧検出部によって検出された電圧測定値と、電流検出部によって検出された電流測定値から励磁電流を求め、励磁電流が逆方向に閾値を超えた際に電力回線に設けられた遮断器にて遮断するように制御する演算部を有する逆電力遮断継電器であって、演算部は、(1)検出された逆方向の電流値の方向と大きさが、第1の閾値関数式ax+b(a、bは係数、xは電流遅れ90°方向の大きさ)を下回っているか否かを判定し、(2)電流値の大きさの絶対値がc未満であるか否かを判定する第2の閾値(但し、b<c)の2種類の閾値を用いることで逆電力を検出するようにした。逆電力遮断継電器は、第1の閾値以上及び第2の閾値以上の双方を満たす逆電流を検出した場合に、電力回線中に設けられる遮断器によって回線を遮断するようにした。第2の閾値のcの値は、「67整定電流値」の0.05%未満とすると良く、好ましくは0.025%程度とする。演算部は、電流値の判定の際に、電流値が逆方向に第1の閾値関数式を超えているか否かを判定し、超えていない場合には、第2の閾値を用いることなく“遮断を要する逆電力量なし”として電力回線の接続を維持する。一方、電流値が第1の閾値関数式を超えている場合は、逆方向への電流値の大きさが第2の閾値c未満となるか否かを判定する。第1の閾値関数式ax+bと、第2の閾値cの大きさは、電流値の逆方向への大きさが、第1の閾値関数式ax+b以上であって、第2の閾値c未満となる領域が存在するような関係を満たすように、関数式のa、bの値、閾値cの値が設定される。
【0008】
本発明の他の特徴によれば、演算部が逆電力を検出することによって遮断器を遮断させた際に、表示部にてアラーム表示を行うようにした。本発明は、異なる供給元からの複数の電力ラインを有し、電力ラインには、それぞれネットワーク変圧器と、プロテクタヒューズと、遮断器が直列に接続され、複数の電力ラインが、共通にネットワーク母線に接続されることによってネットワーク母線から負荷への電力供給が行われるスポットネットワーク給電システムに適用でき、それぞれの電力ライン内のネットワーク変圧器と遮断器の間に、本発明の逆電力遮断継電器を設けるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スポットネットワーク受電方式において励磁電流が小さいアモルファス変圧器を用いる場合であっても、逆方向に流れる小さな逆電流を精度良く検出できるようになった。また、検出精度を高めるにあたって、外来ノイズの影響による誤動作の発生確率の増大を回避できるようにしたので、信頼性が高い逆電力遮断継電器を実現できた。さらに、アモルファスタイプの変圧器を用いたネットワーク受電システムにも適用しやすい逆電力遮断機能を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係るスポットネットワーク受電システム1の概略構成を示す回路図である。
【
図2】
図1のネットワークリレー50の詳細構成を示すブロック図である。
【
図3】従来例のネットワークリレーを用いた逆電力検出方法を説明するための図であり、67動作域の閾値190を示す図である。
【
図4】従来例のネットワークリレーを用いた逆電力検出方法において、67動作域の閾値191を1/2レベルまで下げた状態を説明するための図である。
【
図5】本実施例による67動作域を設定する閾値91を示す図である。
【
図6】
図5において、逆起電力をうまく検出できない状況を説明するための図である。
【
図7】本実施例の変形例に係る67動作域を設定する閾値92を示す図である。
【
図8】本実施例の逆電力遮断継電器における動作手順を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図8のステップ77におけるアラーム表示例を示す図である。
【
図10】スポットネットワーク受電方式における逆電力の発生原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
図1は本発明の実施例に係るスポットネットワーク受電システム1の概略構成を示す回路図である。スポットネットワーク受電システム1は、供給信頼性を高めるために、同一の需要者又は異なる需要者から複数回線(
図1では3回線)の受電により無停電運転を可能とし、電力供給の信頼性を向上させるものである。この受電システム1は、都市部の超高層ビル等で広く用いられ、大容量の負荷に対応できる上に、高信頼性、シンプルな構成による省スペース化を実現できる。さらに、スポットネットワーク特有の機能による省保守化を実現するという特徴を持つ。
【0012】
図1においては、電力会社から3つの回線、即ち“受電No.1”で示される第一回線10、“受電No.2”で示される第二回線20、“受電No.3”で示される第三回線30にて電力が供給される。第一回線10、第二回線20、第三回線30は同一電力供給者から提供される同一又は異なる電力供給網からの給電であっても良いし、別の電力供給者から提供される同一又は異なる電力供給網からの給電であっても良いし、それらの混在であっても良い。第一回線10~第三回線30は、例えば、三相三線にて供給される22kVの交流である。
図1では三線を個別に図示するのではなく、各回線10~30ではそれぞれ1本の線にて簡略的に図示している。3つの回線10~30によって供給される電力は、共通のネットワーク母線2に接続され、配線3によって需要家、受電室等へ供給される。尚、配線3の経路中に遮断器等の種々の機器が設けられるが、ここではそれらの図示を省略している。
【0013】
第一回線10、第二回線20、第三回線30の回路構成は同一に構成される。第一回線10の構成機器11~19は、それぞれ第二回線20の構成機器21~29、第三回線30の構成機器31~39に対応し、それぞれ同じ部品(又は同等の部品)にて構成できる。よって、本明細書では第一回線10についてのみ詳細に説明し、第二回線20と第三回線30の説明は省略する。第一回線において
図1の図示部分よりも上側が、電力供給者側が責任を持つ回線の範囲(図示せず)である。第一回線10には、最初に第一VD11が設けられる。第一VD11は、電圧検出器である。第一VD11の負荷側には、断路器12を介して変圧器13が設けられる。スポットネットワーク受電方式に用いられる変圧器13は、いわゆるネットワーク用変圧器と呼ばれるもので、短絡電流抑制及び変圧器間の負荷分担を複数の回線(第一回線10~第三回線30)で均等にするため、インピーダンスと過負荷耐量の大きいものを選定することが重要である。また、変圧器間の横流が生じないよう、変圧器タップは同一とするとともに、高圧回線間の電圧に不ぞろいが生じないように考慮することが重要である。本実施例では、省エネルギーを一層促進するためにアモルファス変圧器を用いることが好ましい。
【0014】
変圧器13の二次側には、プロテクタヒューズ14が設けられる。プロテクタヒューズ14は、ネットワーク母線2の短絡事故時に遮断することで、電力供給所側の変電所での不必要な遮断を防止する。プロテクタヒューズ14は、後述のネットワークリレー50又はその他の継電器で制御可能に構成することも可能である。ネットワークリレー(NWRY:Network Relay)50は、様々な事象の発生時に第一回線10の保護の観点から第一回線10とネットワーク母線2との接続を解除する制御を行うための機器である。ネットワークリレー50の保護装置の一つに、高圧側の停電に対する他の高圧回線からの逆流を防止するための逆電力遮断機能がある。本明細書における「逆電力遮断継電器」は、ネットワークリレー50を用いて実現される機能のうち逆電力遮断機能を有する部分を示すものであり、以下の明細書では、ネットワークリレー50を「逆電力遮断継電器」とほぼ同義であるとして説明する。ネットワークリレー50は、ネットワーク変圧器13の二次側であって、遮断器19との間の回線に設けられる。
【0015】
スポットネットワーク方式の保護装置としては、高圧側の停電時に、他の高圧回線(第2回線20、第3回線30)からの逆流を防止するために逆電力遮断継電器の使用が必要である。ここではネットワークリレー50が逆電力遮断継電器としての機能を有するように構成した。ネットワークリレー50は、自動再閉路特性及び開閉制御の機能を、最も簡単な構造の下に満足させるようにした一種の遮断装置で、遮断器部(遮断器19)と継電器部(ネットワークリレー50)とからなっている。遮断器19とネットワークリレー50は、制御信号線64によって接続される。ネットワークリレー50は、主に三つの機能、即ち、無電圧投入特性、過電圧(差電圧)投入特性、逆電力遮断特性を有する。
【0016】
ここで
図10を用いて上述したスポットネットワーク受電方式における逆電力の発生原理を説明する。上側の配電線1-1、1-2、1-3はそれぞれ三相三線の電力線であって、3つの電力供給経路によって供給される。ここでは配電線1-1、1-2、1-3からネットワーク母線102の間に、ネットワーク変圧器113、123、133と遮断器119、129、139が設けられる。逆電力遮断継電器に求められる機能は、ネットワークに供給するフィーダが変電所で遮断されると、ネットワーク側から変圧器側へ逆電流が流れるので、その逆電流を遮断する機能である。
【0017】
ここで、何らかの要因によって、配電線1-3の矢印(1)において短絡又は地絡事故等の障害が発生した場合に、配電線1-3を有する電力会社は矢印(2)に示す遮断器4-3によって電力経路を遮断する。この結果、配電線1-3から第三回線130への電力供給は遮断される。この際、第一回線110及び第二回線120からネットワーク母線102への通電が継続している状態にあるので、矢印(3)で示す破線のように、第一回線110及び第二回線120から供給される電力が、ネットワーク母線102を経由して第三回線130を逆流して配電線1-3に流れるという現象が生じる。このような場合は、何らかの安全機能を設けて第三回線130の矢印(4)に示す遮断器139を遮断させることが必要になる。この機能を実現するのが逆電力遮断継電器(
図1のネットワークリレー50参照)である。このように、矢印(3)のように逆電力が流れたことを検知すると、逆電力遮断継電器は瞬時に、例えば0.1秒以内に開閉器139にて経路を遮断するように制御する。
【0018】
再び
図1に戻る。第一回線10の変圧器13の二次側であって、ネットワーク母線2への接続点よりも変圧器13側には、遮断器19が設けられる。遮断器19は、制御信号線64を介して伝送される制御信号によってその開閉がネットワークリレー50から制御可能である。通常、遮断器19は閉じた状態であって電力を通すが、第一回線10上に何らかの異常が生じた場合に、遮断することによって第一回線10とネットワーク母線2との接続を電気的に切り離す。
【0019】
ネットワークリレー50には、第一回線10からの電圧を検知するための信号と、電流を検知するための信号が入力される。第一回線10の電圧を測定するために、変圧器16が設けられる。変圧器16の一次側は第一回線10に接続され、二次側はネットワークリレー50に接続される。変圧器16と第一回線10の接続点よりもネットワーク母線2側には、第一回線10の電圧を測定するために、計測用の変流器17が設けられる。本実施例の電流検出器は、第一回線10の各線に設けられる3つの変流器17a~17c(
図2で後述)と、電流検出部(
図2にて55として後述)によって構成される。
【0020】
次に、
図2を用いて、ネットワークリレー50及びその周辺部分の構成をさらに説明する。ネットワークリレー50は、プロセッサ61を有する演算部60と、電圧検出部51と、電流検出部55を主に有して形成される。ネットワークリレー50は、変圧器13等の電力供給側からネットワーク母線2に至る回線10部分に設けられる。回線10は、交流三相3線式であって、3本の電線(R相、S相、T相)を有する。ネットワークリレー50は、回線10に流れる電流の大きさ等の検出を行い、それらが閾値を超えた際には、遮断器19を制御することによって回線10をネットワーク母線2から切り離す。このネットワークリレー50の機能は公知であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0021】
ネットワークリレー50はさらに逆電力を検出し、3つの回線10、20、30のいずれか一つ又は2つの回線のうち、変圧器13、23、33の一次側電力供給が遮断された場合に、ネットワーク母線2を介して正常に電力が供給されている回線から、電力供給が停止されている回線に対して逆方向の電流が流れることを防止する。この電流は正方向の電力(例えば、数百A)に比べると極めて小さい電力である。ネットワークリレー50は、その逆方向に流れる電流を検出した場合に瞬時に遮断器19にて遮断することによって回線10とネットワーク母線2との電気的に切り離す(いわゆる“67動作”)。尚、
図1ではネットワーク母線2を1回線分だけしか図示していないが、ネットワーク母線2を冗長化するために2回線以上とする場合もあるので、その場合は、第一回線10から、すべてのネットワーク母線2への電気的な接続状態を遮断する。
【0022】
電圧検出部51は回線10の電圧の向きと大きさを監視する。この電圧は、例えば400V(低圧の場合)であるので、変圧器16を介して変圧された電圧が電圧検出部51に入力される。変圧器16は、単相トランスを3つ合わせたもので、相間の電圧を降圧して、3本の線52~54によって電圧検出部51に出力する。電圧検出部51は、回線10の電圧値をリアルタイムで監視し、測定値を演算部60に出力する。電圧検出部51の構成は、公知のネットワークリレーと同様に構成すればよい。
【0023】
電流検出部55は、回線10に流れる電流の大きさを検出する。電流の向きは、電圧の向きを基準にして演算部60にて判断できる。ここでは、R相、S相、T相の各相それぞれに変流器17a~17cが設けられ、それぞれの出力が出力線56~58によって電流検出部55に出力される。このようにして電流検出部55は、回線10に流れる電流値を測定して、演算部60に出力する。ここで電圧検出部51と電流検出部55は、一定の時間間隔で電圧値と電流値を測定し、それらの平均値や実効値を用いることによって電圧測定値と電流測定値を算出するようにすれば良い。また、変流器17a~17cの構成や、電流検出部55の構成は、公知のネットワークリレーと同様に構成すれば良い。尚、電流検出部55と演算部の間に、増幅部や、出力信号のうち50Hz又は60Hzの基本波信号帯域を通すフィルタ回路を設けても良い。
【0024】
演算部60は、プロセッサ61を含んで構成される。どのようなプロセッサ61を設けるかは任意であり、ネットワークリレー50にマイコンを組み込んで装置構成としても良い。演算部60には、メモリ62が設けられる。演算部60はメモリ62にあらかじめ格納された逆電力監視及び逆電力検出時の遮断機能を実行するためのプログラムを実行する。メモリ62の形態は任意であり、不揮発性メモリを含めるようにすると良い。マイコンに内蔵されるメモリを用いるようにしても良い。遮断器19は、回線10をネットワーク母線2から遮断するための機器であり、制御信号線64を介して演算部60から送られる電気信号によって、三相の回線全てを遮断し、または、接続する。
【0025】
次に、
図3~
図7を用いて本実施例における逆電力遮断手順を説明する。
図3は公知のネットワークリレー(いわゆる交流電力方向継電器「67」)の動作を説明するための図である。ネットワークリレーは、電流と電圧を取り込み、所定の閾値を超えた電力を検出した際に、遮断器19を遮断するように制御する。
図3は、回線10に励磁される電流の大きさと向きを示したものであり、縦軸上方向が電流の向きが0°の方向であり、ネットワーク母線2から変圧器13へ向かう逆電流の流れる方向である。縦軸の下方向への電流の向き(180°の方向)は、変圧器13からネットワーク母線2へ向かう正常時の電力供給方向である。電流の位相は電圧の位相に対して遅れる場合も、進む場合もあるので、遅れる場合を横軸右側方向(90°遅れ)に表示し、進む場合を横軸左側方向(進み90°)に表示している。
【0026】
スポットネットワーク受電方式が正常に動作して、3つの回線10~30が正常に稼働している際の電流値をプロットすると点線87~88のようになる。変圧器13を介して電力供給元から供給される電力は極めて大きいので、点線87~88で示す約180°方向に向いた電流の大きさは、矢印81、82、181とは比べられないほど大きい。実際には
図3のスケール中による図中に86~87をプロットするには不適切であるが、81、82等と方向を比較するためにあえて図示した。3つの回線10~30から正常に電力が供給されている場合には、ネットワークリレー50にて検出される電流の向きは、例えば87である。
【0027】
3つの回線10~30のうち、1回線又は2回線が遮断された場合に、遮断された回線中のネットワークにて検出される電流は、例えば電流181である。電流181は、変圧器13としてアモルファスタイプではない従来のトランスを用いた場合のトランス13が消費する励磁電流に相当する。電流181は遅れ又は進みの方向に沿った向きで図示されており、電流181の大きさは縦軸と横軸の中心点からの長さ(絶対値)で示される。このようにネットワークリレー50の演算部60は、電流181を検出したら、それが逆電力として回路10を遮断すべき大きさか否かを判定する。この判定のために閾値190が設定される。ここでは、閾値190として一次関数ax+b1にて示される値を用いる。xは横軸の位置を示す変数であり、aは一次関数の傾きを示す係数であり、b1は切片である。
【0028】
ネットワークリレー50にて、逆方向の電流181が検出されたとする。この場合、電流181の矢印の先端位置は、ax+b1にて示される閾値190よりも上側、即ち、逆電流が大きい側に位置する範囲(いわゆる「67動作域」)に含まれるため、ネットワークリレー50が、遮断器19を遮断するように制御する。鎖線矢印82は、逆電力の検出が可能な最小の電力値であり、逆向きの電流がわずかに進み電流の場合、閾値190に最小電流値で到達する。この逆電力として検出される電流の絶対値の最小値(67整定値)は、例えば、変圧器13の定格電流の0.05%程度である。
【0029】
スポットネットワーク受電方式ではアモルファス変圧器13に用いることが広く行われている。本実施例のようにアモルファストランスを用いる場合には、逆電流発生時に、トランス13にて励磁電流として消費される電流81が図示のように従来の電流181よりも小さくなるため、従来のネットワークリレーの閾値190では67動作域に含まれなことになる。従ってアモルファストランスを用いると、従来通りの閾値190の設定では、逆方向に流れる小さい電流81が存在しても、演算部60のプロセッサ61が検出できないという問題が生じる虞があった。
【0030】
図3にて説明した電流81を検出できないという問題を解決する簡単な方法は、閾値190をより厳しく設定し、閾値の設定値を小さくすれば良い。この改善案を示したのが
図4である。ここでは、閾値191を示す一次関数をax+b
2(ただし、xは
図3の横軸位置、aは傾きを示す係数、b
2は切片を示す係数)にて定義可能とした。閾値191の一次関数の傾きaは
図3と同じであり、切片をb
1>b
2の関係とした。
図4の例ではb
2=b
1/2とした。現在用いられている演算部60の入力信号のA/D変換器によれば、精度的に
図3で示す閾値190の半分まで小さくすることが理論上は可能である。従って、閾値191を設定することによって逆方向に流れる小さい電流81を67動作域内に入るようにして、「逆電力」として正しく検出可能になる。しかしながら、逆電力として検出される電流の絶対値の最小値(67整定値)が、矢印82に示すように定格電流の0.025%と小さくなりすぎるので、ノイズなどによる誤動作の虞が高くなってしまい、好ましくない。
【0031】
そこで本実施例では、改良した閾値91を用いることで、小さな電流81を検出可能としながら、逆電力として検出される電流の絶対値の最小値(67整定値)が、矢印82に示すように定格電流の0.05%となるようにした。この閾値の大きさは、電流81のような最小値(67整定値)以上の電流に対しては、従来の1/2の大きさの閾値に相当する。
図5で明確なように、この閾値91は、
図4で示した一次関数ax+b
2より上方、かつ、縦軸と横軸の交差線からの絶対距離がc以上、の双方の要件を満たす範囲を「67動作域」とした。特に、第1の閾値関数式ax+b
2以上となりつつ、第2の閾値c未満となる領域が存在するように、前記a、b、cの値が設定される。この場合、b<cの関係となる。このような閾値91により67動作域を設定することにより、電流83で示す逆電力として検出される電流の絶対値の最小値(67整定値)を、定格電流の0.05%以上を確保しつつ、ax+b
2で示される一次関数を併用した閾値91により境界域縦軸と交差しる付近の形状を半円状に変更することで、高精度の逆電力検出が可能となった。尚、
図5の閾値91であっても、条件によってはケーブルの進み電流と合成されると検出できないという現象が生じる。この現象を示すのが
図6である。
【0032】
図6は矢印84、85を除いて
図5と同一の図である。例えば、AMT励磁電流81と、点線で示す進み電流85(これは電力会社側のケーブルに流れる電流で90°進んでいる)が合成されると、矢印84で示す電流として電流検出部55が検出することになり、半円の内側になってしまい検出できないためである。尚、ケーブルの進み電流85が図に示した矢印の大きさよりも十分に大きければ矢印84で示す電流が再び67動作域内に入るため検出できる。一方、ケーブルの進み電流の大きさは、ケーブルの長さに支配されるが、現実的にはケーブルは十分に長く、進み電流が十分に大きいため、問題とはなることは少ない。
【0033】
図7は、
図4、
図5で示した検出される電流86の最小値(67整定値)を、定格電流の0.025%以上にして精度をさらに向上させた例を示している。この閾値92は
図3で示した一次関数ax+b
2より上方、かつ、縦軸と横軸の交差線からの距離がc/2以上、の双方の要件を満たす範囲を「67動作域」としたものである。このように一次関数ax+b
3で判定される67動作域に加えて、電流値の大きさによる第2の基準(縦軸と横軸の交差線からの距離がc/2以上)を併用することで、回線のいずれかが受電停止された際に、正常な他の回線から停止された回路の変圧器側へ逆流する電流を精度良く検出できるので、無駄な電力消費を抑えて省エネルギー化を図り、環境にやさしく、検出精度の高い逆電力遮断継電器(ネットワークリレー)を実現できる。
【0034】
次に
図8のフローチャートを用いて演算部60のプロセッサ61が実行する逆電力検出手順を説明する。この手順は、プロセッサ61がメモリ62にあらかじめ格納されたコンピュータプログラム(図示せず)を実行することで、ソフトウェアによって実現できる。ネットワークリレー50は、回線10に電力が供給されたら動作を開始し、電力供給が続く限り継続して動作する。尚、
図8のフローチャートの制御手順は、第一回線10の設けられるネットワークリレー50の内部だけでなく、第二回線20及び第三回線30に設けられるネットワークリレー50の内部でも並列して同様に実行される。ネットワークリレー50の動作電力は、対応するそれぞれの回線10~30から供給可能であるが、電力供給元から回線10、20、30への電力供給が遮断された場合であっても、図示しないバッテリバックアップ等によって継続動作が可能となるように構成される。
【0035】
最初に、演算部60は電圧検出部51の出力から回線10の電圧値を測定し(ステップ71)、電流検出部55によって回線10に流れる電流値を検出する(ステップ72)。この際、演算部61は、電流の大きさだけでなく電流の位相の進みと遅れについても検出することで、電流の向き判定をすることにより
図5に示す電流81、82のように電流のベクトル値が判定される(ステップ73)。次に演算部60は、検出された電流(例えば
図5の電流81)の絶対値が、
図4の“67動作域”に含まれるか否かを、関数式ax+b
2によって判定する(ステップ74)。ステップ74で“67動作域”に含まれない場合は、逆電流が発生していないとしてステップ71に戻る。
【0036】
ステップ74で
図4に示した“67動作域”に含まる場合は、検出された電流値の向きが+90°~0°~-90°の方向(つまり逆方向)であって、その大きさが閾値C以上であるかを判定する(ステップ75)。ここで絶対値がC未満の場合は、
図5で示した“67動作域”には含まれないことになるので、ステップ71に戻る。ここで絶対値がC以上の場合は、測定された電流のベクトルの先端位置が、
図5の“67動作域”の領域内位置することを意味するので、この場合(Yesの場合)は、演算部60は逆電力が検出されたとして遮断器19を動作させて第一回線10とネットワーク母線2との電気的な接続を解除することにより電路を遮断し(ステップ76)、表示部65にてアラーム出力をして処理を終了する(ステップ77)。次に、
図9を用いてアラーム出力の一例を説明する。
【0037】
図9(A)は、ネットワークリレー50が逆電力の発生を検出していない正常時の表示部65を示す図である。表示部65の中央にはドットマトリックス式の表示画面69が設けられ、その上には動作状態を示す3つのランプ66a~66cが設けられる。通常動作時には、入ランプ66cが点灯する。表示画面69の下側には、操作者が操作するための押しボタン68a~68dが設けられる。表示画面69には、通常時には電流の計測値Irが、アンペアを単位として表示される。表示画面69の上側には、ネットワークリレー50が動作していないことを示す切ランプ66aと、正常に動作していることを示す動作ランプ68が表示される。切ランプ66aと動作ランプ68の間には、回線10にて逆電力による故障が発生したことを示す故障ランプ66bが設けられる。表示画面69の下には、計測ボタン68aと復帰ボタン68dが設けられる。計測ボタン68aは表示画面69に表示される内容(各種計測データ)を切り替えるためのボタンである。計測ボタン68aを押した後に、左ボタン68b、右ボタン68cのいずれかを押すことで計測データの選択と表示画面69の表示画面を切り替えることができる。復帰ボタン68dは、計測ボタン68aにて切り替えられた表示画面69を元の画面に戻すためのボタンである。
【0038】
図9(B)は、ネットワークリレー50が逆電力の発生を検出したことにより遮断器19を遮断した後の表示画面を表示するものである。ここでは、回線10から電力がネットワークリレー50に対して正常に供給されていないことを示す切ランプ66aが点灯し、回線10に何らかの不具合が生じたことを示す故障ランプ66bが高速で点滅する。表示画面69には、逆電力を検出したことによるリレーの動作ログ(“RYログ 01:”と表示)と、リレーが動作した原因が番号(ここでは、逆電力を示す“67”)にて表示される。“RYログ01:67”の下側には、********:**:**の部分には日時、例えば、2022年10月01日 17時30分20秒ならば、“221001 17:30:20“と表示される。このように遮断器19によって回線10が遮断された場合は、故障が生じた旨を示す故障ランプ66bが点滅するとともに、表示画面69を介して操作者に対して必要な情報を表示する。この際、図示しないブザー等の音源によって警告音を発するようにしても良い。
【0039】
以上説明したように、本実施例によれば、従来よりも逆電力を精度よく検出することができるので、スポットネットワーク受電方式において励磁電流が小さいアモルファス変圧器を用いる場合であっても、逆方向の小さな逆電力を誤動作することなく正確に検出できるようになった。尚、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。