(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072752
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ガラス繊維およびガラス繊維用組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20240521BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20240521BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20240521BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20240521BHJP
C03C 3/112 20060101ALI20240521BHJP
C03C 3/115 20060101ALI20240521BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C3/085
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/112
C03C3/115
C03C3/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027736
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2022183744の分割
【原出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】中村 文
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA05
4G062BB01
4G062DA06
4G062DB04
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4G062KK10
4G062MM05
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】 耐酸性、ヤング率、および量産性のバランスに優れたガラス繊維に適したガラス組成物を提供する。
【解決手段】質量%で表示して、SiO2:59.5~62.5%、Al2O3:19~2
1.2%、B2O3:0~0.5%、MgO:16~18%、CaO:0~1.5%、Li2O:0~1.0%、Na2O:0~0.2%、K2O:0~0.1%、TiO2:0~5%、 ZrO2:0~5%、ZnO:0~1.5%、F2:0~0.1%を含む、ガラス繊維用ガラス組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表示して、
SiO2 59.5~62.5%
Al2O3 19~21.2%
B2O3 0~0.5%
MgO 16~18%
CaO 0~1.5%
Li2O 0~1.0%
Na2O 0~0.2%
K2O 0~0.1%
TiO2 0~5%
ZrO2 0~5%
ZnO 0~1.5%
F2 0~0.1%
を含む、ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項2】
質量%で表示して、SiO2の含有率、TiO2の含有率およびZrO2の含有率の合計
(SiO2+TiO2+ZrO2)が60%以上である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
質量%で表示して、TiO2の含有率およびZrO2の含有率の合計(TiO2+ZrO2)が0.1%以上である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
Y2O3およびLa2O3を実質的に含まない、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
ヤング率が97GPa以上である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項6】
粘度が103dPa・sとなる温度T3から失透温度TLを差し引いたΔTが正の値で
ある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
ΔW1が0.1質量%以下である、請求項1に記載のガラス組成物。
ここで、前記ΔW1は、質量を前記ガラス組成物の比重と同じ値のグラム数とした前記
ガラス組成物を、比重1.2、温度99℃の硫酸80mLに60分間浸漬したときの質量減少率である。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス組成物を含むガラス繊維。
【請求項9】
ストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態を有する、請求項8に記載のガラス繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維と、ガラス繊維に適したガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
実用に供されているガラス繊維の多くはそのヤング率が90GPa以下であるガラス組成物により構成されている。ただし、ヤング率が90GPaを超えるガラス組成物も知られている。例えば、特許文献1には、多量の希土類酸化物を配合したガラス組成物が開示されている。特許文献1のガラス組成物におけるY2O3およびLa2O3の含有率の合計は、20~60重量%の範囲にある。しかし、希土類酸化物の含有率が高いと製造コストが上昇する。これを考慮し、特許文献2には、多量の希土類酸化物を必要とすることなく、ガラス組成物のヤング率を向上させる技術が開示されている。特許文献2のガラス組成物は、ヤング率を向上させる成分として、モル%で表示して15~30%のMgOを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/057405号
【特許文献2】特許第6391875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2では、ガラス組成物の耐酸性については検討されていない。また、ガラス繊維その他のガラス成形体の量産においては、失透を生じさせることなく量産を継続できることが望ましい。そこで、本発明は、ヤング率が高く、耐酸性に優れ、量産に適したガラス繊維と、そのようなガラス繊維の製造に適したガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ガラス成分の配合比率について検討を重ね、耐酸性、ヤング率、および量産性のバランスに優れたガラス繊維に適したガラス組成物を完成させた。
【0006】
本発明は、質量%で表示して、
SiO2 59.5~62.5%
Al2O3 19~21.2%
B2O3 0~0.5%
MgO 16~18%
CaO 0~1.5%
Li2O 0~1.0%
Na2O 0~0.2%
K2O 0~0.1%
TiO2 0~5%
ZrO2 0~5%
ZnO 0~1.5%
F2 0~0.1%
を含む、ガラス繊維用ガラス組成物、を提供する。
【0007】
また、本発明は、本発明によるガラス繊維用ガラス組成物を含むガラス繊維、を提供す
る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐酸性、ヤング率、および量産性のバランスに優れたガラス繊維と、そのようなガラス繊維に適したガラス繊維用ガラス組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の説明は本発明を特定の実施形態に限定する趣旨ではない。本明細書において、以降のガラス組成物の成分の含有率は、すべて質量%により示し、基本的に質量%は「%」と表示する。本明細書において、「実質的に含有しない」および「実質的に含有されない」は、含有率が、0.1質量%未満、0.05質量%未満、0.01質量%未満、0.005質量%未満、さらに0.003質量%未満、場合によっては0.001質量%未満であることを意味する。「実質的に」は、ガラス原料、製造装置などに由来する微量の不純物の含有を許容する趣旨である。「アルカリ金属酸化物」は、Li2O、Na2OおよびK2Oを意味し、R2Oと表記することがある。以下に述べる含有率の上限および下限は、上限および下限が個別に記載されている場合、上限および下限が範囲として記載されている場合の両方において、任意に組み合わせることができる。
【0010】
[ガラス組成物]
<成分>
以下、本実施形態のガラス組成物を構成しうる各成分について説明する。
【0011】
(SiO2)
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度
を調整し、耐酸性を向上させる成分でもある。SiO2の含有率は、例えば59.5~6
2.5%である。SiO2の含有率の下限は、59.6%以上、59.8%以上、さらに
60%以上であってもよい。SiO2の含有率の上限は、62.3%以下、62%以下、
61.8%、さらに61.5%以下であってもよい。SiO2の含有率は、59.6~6
1.5%であってもよい。
【0012】
(Al2O3)
Al2O3は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整し、ガラスの耐水性の向上に寄与する成分である。Al2O3の含有率は、例えば19~21.2%である。Al2O3の含有率の下限は、例えば19.3%以上、19.5%以上、19.7%以上、さらに20%以上であってもよい。Al2O3の含有率の上限は、21%以下、20.8%以下、さらに20.6%以下であってもよい。Al2O3の含有率は、19.7~20.6%であってもよい。
【0013】
(B2O3)
B2O3は、ガラスの骨格を形成し、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する任意成分である。B2O3の含有率は、例えば0~0.5%である。B2O3の含有率の下限は、0.02%以上であってもよい。B2O3の含有率の上限は、0.3%以下、0.1%以下、さらに0.08%以下であってもよい。B2O3は、実質的に含有されていなくてもよい。
【0014】
(MgO)
MgOは、ヤング率の向上に寄与し、失透温度、粘度等に影響を与える成分である。MgOの含有率は、例えば16~18%である。MgOの含有率の下限は、16.5%以上、16.6%以上、16.8%以上、さらに17%以上であってもよい。MgOの含有率
の上限は、17.8%以下、17.7%以下、さらに17.6%以下であってもよい。MgOの含有率は、16.6~17.6%であってもよい。
【0015】
(CaO)
CaOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する任意成分である。CaOの含有率は、例えば0~1.5%である。CaOの含有率の下限は、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、さらに0.7%以上であってもよい。CaOの含有率の上限は、1.4%以下、1.3%以下、1.2%以下、さらに1%以下であってもよい。
【0016】
(アルカリ金属酸化物)
アルカリ金属酸化物(R2O)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する任意
成分である。アルカリ金属酸化物の含有率の合計、具体的にはLi2O+Na2O+K2O
、は、例えば0~1.3%である。アルカリ金属酸化物の含有率の下限は、0.05%以上、0.1%以上、0.2%以上、さらに0.3%以上であってもよい。R2Oの含有率
の上限は、1.2%以下、1.0%以下、0.9%以下、さらに0.8%以下であってもよい。R2Oの含有率が高いと、ヤング率が十分に上昇しない場合がある。
【0017】
Li2Oの含有率は、例えば0~1.0%である。Li2Oの含有率の下限は、0.1%以上、0.2%以上であり、0.3%以上、さらに0.4%以上であってもよい。Li2
Oの含有率の上限は、0.8%以下、0.6%以下、さらに0.5%以下であってもよい。Li2Oの含有率の好ましい一例は、0.1~0.8%である。Li2Oは、ヤング率を低下させる影響を抑制しながら失透温度等の特性を調整することに関しては、Na2Oお
よびK2Oより有利である。Li2Oの含有率は、Na2Oの含有率より高くてもよく、K2Oの含有率より高くてもよく、Na2Oの含有率およびK2Oの含有率の合計より高くてもよい。もっとも、Li2Oは、実質的に含有されていなくてもよい。
【0018】
Na2Oの含有率は、例えば0~0.2%である。Na2Oの含有率の上限は、0.18%以下、0.15%以下、0.13%以下、0.1%以下、さらに0.08%以下であってもよい。Na2Oは、実質的に含有されていなくてもよい。
【0019】
K2Oの含有率は、例えば0~0.1%である。K2Oの含有率の上限は、0.08%以下、さらに0.06%以下、さらに0.04%以下であってもよい。K2Oは、実質的に
含有されていなくてもよい。
【0020】
(TiO2およびZrO2)
TiO2およびZrO2は、耐酸性の向上に寄与しうる任意成分である。TiO2および
ZrO2は、それぞれ例えば0~5%の範囲で添加される。TiO2の含有率およびZrO2の含有率は、それぞれ0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、1%以上、さらに
1.2%以上であってもよい。TiO2の含有率およびZrO2の含有率は、それぞれ4%以下、3%以下、2.5%以下、さらに2%以下であってもよい。ただしTiO2および
ZrO2を添加しなくても、本実施形態のガラス組成物は、良好な耐酸性を有しうる。T
iO2は、実質的に含有されていなくてもよい。ZrO2も、実質的に含有されていなくてもよい。
【0021】
(ZnO)
ZnOは添加が許容される任意成分である。ZnOは、例えば0~1.5%の範囲で添加される。ZnOの含有率の上限は、1.4%以下、1%以下、さらに0.5%以下であってもよい。ZnOは、実質的に含有されていなくてもよい。
【0022】
(F2)
F2も清澄などのために添加が許容される任意成分である。F2は、例えば0~0.1%の範囲で添加される。F2の含有率の上限は、0.08%以下であってもよい。F2は、実質的に含有されていなくてもよい。
【0023】
(SiO2+TiO2+ZrO2)
SiO2、TiO2およびZrO2の含有率の合計(SiO2+TiO2+ZrO2)は、60%以上、60.5%以上、さらに61%以上であってもよい。(SiO2+TiO2+ZrO2)が高いガラス組成物は、優れた耐酸性の実現に適している。(SiO2+TiO2
+ZrO2)の上限は、特に制限されないが、例えば、63.5%以下、63%以下、さ
らに62.5%以下である。
【0024】
(TiO2+ZrO2)
TiO2およびZrO2の含有率の合計(TiO2+ZrO2)は、0.1%以上、0.2%以上、0.5%以上、さらに1%以上であってもよい。(TiO2+ZrO2)が適切な範囲にあるガラス組成物は、優れた耐酸性の実現に適している。(TiO2+ZrO2)の上限は、特に制限されないが、例えば、5%以下、さらに3%以下である。ガラス組成物は、59.5~61.5%、さらに60~61%のSiO2と、0.1~3%の(TiO2+ZrO2)とを有しうる。
【0025】
(SiO2+Al2O3+MgO)
SiO2、Al2O3、およびMgOの成分の含有率の合計(SiO2+Al2O3+MgO)は、95%以上、96%以上、97%以上、さらに97.5%以上であってもよい。(SiO2+Al2O3+MgO)は、例えば99%以下、さらに98.5%以下であっても
よい。
【0026】
(CaO+R2O)
CaOおよびアルカリ金属酸化物(R2O)の添加は、ガラス組成物の失透温度の調整
に適している。CaOの含有率およびR2Oの含有率の合計(CaO+R2O)は、0~2.5%であってもよい。(CaO+R2O)の下限は、0.05%以上、0.1%以上、
0.3%以上、0.5%以上、0.7%以上、さらに1%以上であってもよい。(CaO+R2O)の上限は、例えば2.3%以下、2.2%以下、2%以下、さらに1.8%以
下であってもよい。
【0027】
(その他の成分)
ガラス組成物は、上記以外の成分を含んでいてもよい。ガラス組成物が含みうるその他の成分としては、Fe2O3、Y2O3、La2O3、SrO、BaO、Cl2、SnO2、CeO2、P2O5、SO3を例示できる。
【0028】
Fe2O3は、例えば0~1%の範囲で添加される。Fe2O3の含有率の上限は、0.5%、0.3%以下、0.2%以下、さらに0.15%以下であってもよい。Fe2O3は、実質的に含有されていなくてもよい。なお、酸化鉄は、その一部がFeOとしてもガラス組成物中に存在するが、その含有率は、慣用に従ってFe2O3に換算して示すこととする。
【0029】
Y2O3およびLa2O3は、ヤング率の向上に寄与する任意成分である。ただし、これらの成分は、その原料が相対的に高価である。Y2O3およびLa2O3の含有率の合計は、例えば0~5%である。Y2O3およびLa2O3の含有率の合計の上限は、3%以下、2%以下、1%以下、さらに0.5%以下であってもよい。Y2O3は、実質的に含有されていなくてもよい。La2O3も、実質的に含有されていなくてもよい。
【0030】
SrO、BaO、Cl2、SnO2、CeO2、P2O5、およびSO3の含有率は、それぞれ例えば0~0.5%である。これらの成分のそれぞれの含有率の上限は、0.3%以下、0.2%以下、さらに0.1%以下であってもよい。これらの各成分は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。
【0031】
<特性>
(ヤング率)
本実施形態のガラス組成物のヤング率は、例えば97GPa以上である。ヤング率の下限は、98GPa以上、99GPa以上、場合によっては100GPa以上とすることもできる。ヤング率の上限は、特に限定されないが、例えば115GPa以下、さらに110GPa以下であってもよい。
【0032】
(耐酸性)
耐酸性は、実施例の欄において述べる試験により得た質量減少率ΔW1(%)により評
価することができる。本実施形態のガラス組成物のΔW1は、例えば0.1質量%以下で
ある。ΔW1の上限は、0.08%質量以下、0.07質量%以下、さらには0.06%
質量以下とすることもできる。
【0033】
(耐アルカリ性)
耐アルカリ性は、実施例の欄において述べる試験により得た質量減少率ΔW2(%)に
より評価することができる。本実施形態のガラス組成物のΔW2は、例えば0.8質量%
以下である。ΔW2の上限は、0.7質量%以下、0.65質量%以下、さらには0.6
質量%以下とすることもできる。
【0034】
(密度)
本実施形態のガラス組成物の密度は、例えば2.65g/cm3以下である。密度の上
限は、2.63g/cm3以下、2.6g/cm3以下、さらには2.59g/cm3以下
とすることもできる。密度の下限は、特に制限されないが、例えば2.45g/cm3以
上、さらには2.5g/cm3以上であってもよい。
【0035】
(特性温度)
本実施形態において、溶融ガラスの粘度が103dPa・sとなるときの温度T3は、
例えば1370℃以下である。T3の上限は、1360℃以下、1350℃以下、1345℃以下、さらに1320℃以下とすることもできる。低いT3は、ガラス繊維の製造装置の長寿命化に寄与しうる。T3の下限は、特に制限されないが、例えば1280℃以上である。同様に、溶融ガラスの粘度が102.5dPa・sとなるときの温度T2.5は、
例えば1450℃以下である。
【0036】
失透温度TLは、溶融したガラス素地中に結晶が生成し、成長しはじめる温度である。TLは、例えば1360℃以下である。TLの上限は、1350℃以下、1340℃以下、1330℃以下、1320℃以下、さらに1300℃以下とすることもできる。TLの下限は、特に制限されないが、1200℃以上、さらには1230℃以上であってもよい。
【0037】
本実施形態において、TLはT3よりも低い温度とすることが可能である。このとき、差分T3-TL(=ΔT)は正の値をとる(ΔT>0)。作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔT(T3-TL)が大きいほど、ガラス成形時に失透が生じがたく、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。本実施形態のガラス組成物のΔTは、2℃以上、5℃以上、さらには10℃以上でありうる。ΔTの上限は、特に制限されないが、50℃以下、さらに40℃以下であってもよい。
【0038】
ガラス繊維のうち、ガラス長繊維は、通常、溶融したガラス素地を窯槽底部に設けられたブッシングのノズルより引き出し、巻き取り機により連続的に巻き取り、繊維状に紡糸することにより製造される。ガラス短繊維は、例えば、熔融ガラス素地を窯槽底部より高速回転させたスピナーに流し出し、遠心力によりスピナー側面に設けられた穴から飛び出した繊維状のガラスを、ガスジェット等の圧力でさらに細く引き延ばすことにより製造される。これらの製造工程から理解できるとおり、量産を考慮すると、ガラス繊維用ガラス組成物は、正のΔTを有することが望ましい。
【0039】
[ガラス繊維]
本実施形態のガラス組成物は、ガラス繊維の製造に適している。ガラス繊維は、ガラス長繊維であってもガラス短繊維であってもよい。ガラス繊維は、例えばストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態であってよい。クロスは、例えばロービングクロス、ヤーンクロスである。
【0040】
ただし、上記各形態のガラス組成物は、その優れた特性から、ガラス繊維以外のガラス成形体としても使用できる。ガラス成形体の一例は、粒子状ガラスである。粒子状ガラスは、ガラス繊維としての外形が失われる程度にまで微細に破断し、或いはガラス繊維と同様、目的とする形状に応じたノズルを使用して、製造されうる。上記各形態のガラス組成物は、失透を回避しながら粒子状ガラスを製造することにも適している。本発明の一形態において、粒子状ガラスは、上記各形態のガラス組成物を含み、或いは上記各形態のガラス組成物により構成されている。
【0041】
粒子状ガラスは、例えば、鱗片状ガラス、ガラス粉末、ガラスビーズ、およびファインフレークからなる群から選ばれる少なくとも1種に相当するものであってもよい。粒子状ガラスは、FRPへの使用、すなわち樹脂に代表される被補強体の補強その他に使用できる。
【0042】
粒子状ガラスにも使用できることを考慮すると、上述のガラス組成物は、ガラス繊維または粒子状ガラス用のガラス組成物としても把握できる。
【0043】
[不織布、ゴム補強用コード]
本発明により提供される各ガラス繊維は、従来のガラス繊維と同様の用途に供することができる。本発明の一形態からは、ガラス繊維を含むガラス繊維不織布が提供される。また、本発明の一形態からは、ガラス繊維が束ねられたストランドを含むゴム補強用コードが提供される。ガラス繊維はその他の用途に供することもできる。その他の用途には、樹脂に代表される被補強体の補強が挙げられる。
【0044】
[実施例]
以下、実施例および比較例により本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。なお、以下の表においても、組成の含有率は、質量%により表示されている。
<ガラス組成物の調製>
表1及び2に示した各組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例ごとにガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1500~1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)の一部を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷し、バルクとしてのガラス組成物(板状物、ガラス試料)を得た。これらのガラス組成物について、以下のとおり特性を評価した。結果を表1及び2に併せて示す。空欄は未測定である。
【0045】
(T2.5およびT3)
得られたガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度との関係を調べ、その結果からT2.5およびT3を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に白金球を浸し、その白金球を等速運動で引き上げる際の負荷荷重(抵抗)と、白金球に働く重力および浮力などとの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度との関係を示したストークス(Stokes)の法則にあてはめることにより、粘度を測定する方法である。
【0046】
(TL)
粒子径1.0~2.8mmの大きさに粉砕したガラス組成物を白金ボートに入れ、温度勾配(800~1400℃)を設けた電気炉中で2時間保持し、結晶の出現した位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度TLを求めた。ガラスが白濁して結晶が観察できない場合は、白濁の出現した位置に対応する電気炉の最高温度を失透温度とした。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラス組成物は、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。
【0047】
(ヤング率)
ヤング率は、通常の超音波法により、ガラス中を伝播する弾性波の縦波速度vlと横波速度vtを測定し、別にアルキメデス法により測定したガラスの密度ρから、E=3ρ・vt
2・(vl
2-4/3・vt
2)/(vl
2-vt
2)の式により求めた。
【0048】
(耐酸性および耐アルカリ性)
直径15μmのガラス単繊維を長さ20mmに切断し、ガラスの比重と同じグラム数量り取り、このガラス繊維を99℃、比重1.2の硫酸水溶液80mLに60分間浸漬したときの質量減少率を求め、この質量減少率をΔW1とした。また、直径15μmのガラス
単繊維を長さ20mmに切断し、ガラスの比重と同じグラム数量り取り、このガラス繊維を80℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液100mLに24時間浸漬した場合の質量減少率を求め、この質量減少率をΔW2とした。
【0049】
なお、上記質量減少率は、浸漬前の質量をWa、浸漬後の質量をWbとして、以下の式に基づいて算出した。
質量減少率(%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
【0050】
【0051】
【0052】
各実施例によると、97GPa以上のヤング率、0.1%以下のΔW1、および正のΔ
Tが達成された。一方、各比較例ではこれらの特性をすべて満たすことはできなかった。
【0053】
以上のとおり、本明細書は、以下の技術を開示する。
【0054】
(技術1)
質量%で表示して、
SiO2 59.5~62.5%
Al2O3 19~21.2%
B2O3 0~0.5%
MgO 16~18%
CaO 0~1.5%
Li2O 0~1.0%
Na2O 0~0.2%
K2O 0~0.1%
TiO2 0~5%
ZrO2 0~5%
ZnO 0~1.5%
F2 0~0.1%
を含む、ガラス繊維用ガラス組成物。
【0055】
(技術2)
質量%で表示して、SiO2の含有率、TiO2の含有率およびZrO2の含有率の合計
(SiO2+TiO2+ZrO2)が60%以上である、技術1のガラス組成物。
【0056】
(技術3)
質量%で表示して、TiO2の含有率およびZrO2の含有率の合計(TiO2+ZrO2)が0.1%以上である、技術1または技術2のガラス組成物。
【0057】
(技術4)
Y2O3およびLa2O3を実質的に含まない、技術1~3のいずれか1つのガラス組成物。
【0058】
(技術5)
ヤング率が97GPa以上である、技術1~4のいずれか1つのガラス組成物。
【0059】
(技術6)
粘度が103dPa・sとなる温度T3から失透温度TLを差し引いたΔTが正の値で
ある、技術1~5のいずれか1つのガラス組成物。
【0060】
(技術7)
ΔW1が0.1質量%以下である、技術1~6のいずれか1つのガラス組成物。
ここで、前記ΔW1は、質量を前記ガラス組成物の比重と同じ値のグラム数とした前記
ガラス組成物を、比重1.2、温度99℃の硫酸80mLに60分間浸漬したときの質量減少率である。
【0061】
(技術8)
技術1~7のいずれか1つのガラス組成物を含むガラス繊維。
【0062】
(技術9)
ストランド、ロービング、ヤーン、クロス、チョップドストランド、グラスウール、及びミルドファイバーからなる群より選択される少なくとも1つに該当する形態を有する、技術8のガラス繊維。