(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072788
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】体内時計調整剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/752 20060101AFI20240521BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
A61K 36/85 20060101ALI20240521BHJP
A61K 31/015 20060101ALI20240521BHJP
A61K 31/11 20060101ALI20240521BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20240521BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20240521BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20240521BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240521BHJP
A61K 36/15 20060101ALI20240521BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240521BHJP
【FI】
A61K36/752
A61P43/00 105
A61K36/85
A61K31/015
A61K31/11
A61P43/00 121
A61K9/72
A61K8/92
A61K8/35
A61Q19/10
A61K36/15
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178248
(22)【出願日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2022183151
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】岩井 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勝典
(72)【発明者】
【氏名】村本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部(米倉) 円佳
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 光
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C083
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD07
4B018MD48
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC29
4C076FF70
4C083AA121
4C083AD531
4C083CC25
4C088AB03
4C088AB55
4C088AB62
4C088BA18
4C088MA12
4C088MA52
4C088MA56
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZC01
4C088ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA04
4C206CB02
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA32
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZC01
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】概日リズムの位相を前進させることができる剤等を提供する。
【解決手段】体内時計調整剤は、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、
時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させることにより体内時計を調整する
体内時計調整剤。
【請求項2】
請求項1に記載の体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、
前記時計遺伝子の発現リズムの振幅を増大させる
体内時計調整剤。
【請求項3】
請求項2に記載の体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイルおよびシトラールの双方を有効成分として含む
体内時計調整剤。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤であって、
概日リズムの位相を前進させるための体内時計調整剤。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤であって、
概日リズム障害および概日リズム障害に付随する症状を治療、改善、または予防するための体内時計調整剤。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経皮投与製剤。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経口投与製剤。
【請求項8】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する芳香剤。
【請求項9】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する入浴剤。
【請求項10】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する吸入剤。
【請求項11】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する飲食品。
【請求項12】
体内時計調整方法であって、
概日リズム障害を起こした対象者が存在する空間内に、請求項1から3までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を拡散させて、前記対象者に前記体内時計調整剤を吸入させる
体内時計調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体内時計調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
体内時計は、生物が有する種々の時計遺伝子(例えば、Per、Cry、Bmal、Clockなど)の発現調節によって制御されることが知られている。具体的には、例えば哺乳類では、Bmal遺伝子の産物であるBMAL1タンパク質とClock遺伝子の産物であるCLOCKタンパク質との複合体が、Per遺伝子およびCry遺伝子の転写を活性化する。そして、Per遺伝子およびCry遺伝子の産物であるPERタンパク質およびCRYタンパク質の複合体が、BMAL1およびCLOCKによる転写の活性化を抑制して、24時間周期で振動するフィードバックループが形成される。このような体内時計には、脳の視床下部視交叉上核にある中枢時計と、末梢の様々な組織に存在する末梢時計とがあり、同様の機構により時計遺伝子の発現制御が行われて、末梢時計においても中枢時計と同調して時計遺伝子がリズムを刻むことが知られている。このようにして時計遺伝子のフィードバック機構により形成される概日リズムは、睡眠・覚醒リズム、体温などの自律神経系、血中ホルモン濃度などの内分泌系、免疫・代謝系などの種々の生体活動を調整している。その結果、概日リズムの乱れが、入眠および覚醒に係る睡眠障害や、肥満や糖尿病を含む生活習慣病や、鬱病を含む精神神経疾患など、心身に係る種々の症状を引き起こす要因になることが知られている。
【0003】
このような概日リズムを調整するために、時計遺伝子の発現を調節する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、黒生姜を含有して、Per2、Cry1、Bmal1およびClockの発現を促進する概日リズム調整用組成物が開示されている。また、特許文献2には、ラベンダーオイルやユーカリオイルを有効成分として含み、時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進する剤が開示されている。また、特許文献3には、エレミオイル等を有効成分として含み、時計遺伝子Bmal1の発現リズムを誘導する概日リズム調整剤が開示されている。また、特許文献4には、バレリアンオイルを有効成分として含み、吸入刺激を介して概日リズムを調整する概日リズム調整剤が開示されている。また、特許文献5には、サンショウエキスを有効成分として含み、時計遺伝子Periodの発現リズムを誘導する概日リズム調整剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-94357号公報
【特許文献2】特開2016-180007号公報
【特許文献3】国際公開第2011/122040号
【特許文献4】特開2010-215561号公報
【特許文献5】特許第5868313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
概日リズム障害として、時差症候群、交代勤務睡眠障害、睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、非24時間睡眠覚醒症候群などが知られている。これらのうち、例えば時差症候群は、航空機により短時間に長距離を移動することにより引き起こされ、交代勤務睡眠障害は、勤務時間の変動を伴う交代勤務により引き起こされ、睡眠相後退症候群は、生活習慣の夜型化により引き起こされ得る。また、特に近年は、社会的制約がある平日の睡眠パターンと、制約のない休日の睡眠パターンとの差(平日と休日の就寝・起床リズムのズレ)によって引き起こされる「ソーシャルジェットラグ」の問題が顕著になっている。すなわち、生物時計と社会時計(仕事や学校等の社会的制約によるもの)との間の乖離により、睡眠障害、眠気、倦怠感、消化器症状などの、種々の精神身体症状を訴える人々が増加している。このようなソーシャルジェットラグは、慢性的な現象であり、就労等により、自身の生物時計に合致しない社会時計に従う生活を求められる期間を通して継続する。上記のような概日リズム障害のうち、例えばソーシャルジェットラグを含む少なくとも一部の概日リズム障害は、本来の体内時計によるリズムに対して、入眠および覚醒の位相が後退することが要因となる場合が多い。そのため、概日リズムの位相を前進させることができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、体内時計調整剤が提供される。この体内時計調整剤は、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させることにより体内時計を調整する。
この形態の体内時計調整剤によれば、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含むことにより、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させて、体内時計を調整する。そのため、時計遺伝子の発現リズムの位相の後退を伴う概日リズム障害や、このような概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(2)上記形態の体内時計調整剤は、ベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、前記時計遺伝子の発現リズムの振幅を増大させることとしてもよい。このような構成とすれば、時計遺伝子の発現リズムの振幅が増大することにより、概日リズムの振幅を増大させることが可能になり、概日リズムを、メリハリのある強いリズムにすることが可能になる。そのため、体内時計調整剤によって、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を治療、改善、あるいは予防する効果を高めることができる。
(3)上記形態の体内時計調整剤は、ベルガモットオイルおよびシトラールの双方を有効成分として含むこととしてもよい。このような構成とすれば、位相前進効果が得られると共に、振幅増強効果について加算的な効果を得ることができる。
(4)上記形態の体内時計調整剤は、概日リズムの位相を前進させるための体内時計調整剤としてもよい。このような構成とすれば、概日リズムの位相を前進させることにより、概日リズム障害に等により後退した位相を、望ましい(本来の)位相に近づけることが可能になる。
(5)上記形態の体内時計調整剤は、概日リズム障害および概日リズム障害に付随する症状を治療、改善、または予防するための体内時計調整剤としてもよい。このような構成とすれば、例えば、時差症候群や睡眠相後退症候群やソーシャルジェットラグ等に起因する概日リズム障害、および概日リズム障害に付随する症状(睡眠障害、眠気、倦怠感、消化器症状などの、種々の精神身体症状など)を、治療、改善、または予防することが可能になる。
(6)本開示の他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経皮投与製剤が提供される。このような構成とすれば、経皮投与によって体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(7)本開示のさらに他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経口投与製剤が提供される。このような構成とすれば、経口投与によって体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(8)本開示のさらに他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する芳香剤が提供される。このような構成とすれば、芳香剤を設置するという簡便な方法により、積極的な摂取の動作を行うことなく体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(9)本開示のさらに他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する入浴剤が提供される。このような構成とすれば、入浴剤を用いて入浴するという簡便な方法により、積極的な摂取の動作を行うことなく体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(10)本開示のさらに他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する吸入剤が提供される。このような構成とすれば、吸入剤を吸入することにより、体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(11)本開示のさらに他の一形態によれば、上記形態の体内時計調整剤を含有する飲食品が提供される。このような構成とすれば、飲食品の摂取により、体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
(12)本開示のさらに他の一形態によれば、体内時計調整方法が提供される。この体内時計調整方法は、概日リズム障害を起こした対象者が存在する空間内に、上記(1)から(3)までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を拡散させて、前記対象者に前記体内時計調整剤を吸入させる。
この形態の体内時計調整方法によれば、上記対象者が存在する空間内に体内時計調整剤を拡散させて、対象者に体内時計調整剤を吸入させることにより、積極的な摂取の動作を行うことなく体内時計調整剤を体内に取り込ませて、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を、治療、改善、あるいは予防することが可能になる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させる体内時計調整方法や、概日リズムの位相を前進させる体内時計調整方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】ゼラニウムオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図3】ゼラニウムオイル添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図4】ゼラニウムオイル添加時のBmal1の相対発現量の変化を示す説明図。
【
図5】ベルガモットオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図6】ベルガモットオイル添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図7】ベルガモットオイル添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図8】ベルガモットオイル添加時のBmal1の相対発現量の変化を示す説明図。
【
図9】ベルガモットオイル添加時のPer2の相対発現量の変化を示す説明図。
【
図10】シダーウッドバージニアオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図11】シダーウッドバージニアオイル添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図12】シダーウッドバージニアオイル添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図13】β-カリオフィレン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図14】β-カリオフィレン添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図15】シトラール添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図16】シトラール添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図17】シトラール添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図18】ゲラニオール添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図19】イソメントン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図20】リナロール添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図21】d-リモネン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図22】γ-テルピネン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図23】α-セドレン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図24】ラベンダーオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図25】パルマローザオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図26】ローズマリーオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図27】イランイランオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図28】プチグレンオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図29】ユーカリオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図30】シダーウッドアトラスオイル添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図31】カフェイン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図32】カフェイン添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図33】カフェイン添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図34】ベルガモットオイルおよびシトラール添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図35】ベルガモットオイルおよびシトラール添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図36】ベルガモットオイルおよびシトラール添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図37】ベルガモットオイルおよびβ-カリオフィレン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図38】ベルガモットオイルおよびβ-カリオフィレン添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図39】ベルガモットオイルおよびカフェイン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図40】ベルガモットオイルおよびカフェイン添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図41】ベルガモットオイルおよびカフェイン添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【
図42】シトラールおよびβ-カリオフィレン添加時の発光リズムを示す説明図。
【
図43】シトラールおよびβ-カリオフィレン添加時のピークの位相の変化量を示す説明図。
【
図44】シトラールおよびβ-カリオフィレン添加による振幅の大きさの変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態の体内時計調整剤は、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、概日リズムの位相を前進させる体内時計調整剤である。本実施形態の体内時計調整剤は、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちのいずれか1種を単独で有効成分として含んでいてもよく、上記した有効成分のうちの複数種類を組み合わせて含んでいてもよい。ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンは、いずれも、市販品として容易に入手可能である。
【0009】
(1)ベルガモットオイル
ベルガモットオイルは、ミカン科のベルガモット(Citrus bergamia)から得られる精油である。ベルガモットオイルには、主に、リモネン、酢酸リナリル、リナロール、βピネン、γ-テルピネン、β-ミルセン、p-シメンなどが含まれる。ベルガモットオイルは、圧搾法によりベルガモットの果皮から抽出することができる。
【0010】
(2)ゼラニウムオイル
ゼラニウムオイルは、フクロソウ科のゼラニウム(Pelargonium graveolens)から得られる精油である。ゼラニウムオイルには、主に、シトロネロール、ゲラニオール、ギ酸シトロネリル、イソメントン、リナロール、ギ酸ゲラニル、β-カリオフィレンなどが含まれる。ゼラニウムオイルは、水蒸気蒸留法により、ゼラニウムの花や葉から抽出することができる。
【0011】
(3)シダーウッドバージニアオイル
シダーウッドバージニアオイルは、ヒノキ科のシダーウッドバージニア(Juniperus Virginiana)から得られる精油である。シダーウッドバージニアオイルには、主に、α-セドレン、ツジョプセン、セドロール、β-セドレン、β-フネブレン、ウイッドロール、β-ヒマカレン、β-カリオフィレンなどが含まれる。シダーウッドバージニアオイルは、水蒸気蒸留法により、シダーウッドバージニアの木部から抽出することができる。
【0012】
(4)シトラール
シトラールは、鎖状モノテルペンアルデヒドであって、シス-トランス異性体であるゲラニアール(trans(E)体)とネラール(cis(Z)体)の総称である。シトラールは、レモングラス、レモンバーム、レモンバーベナ、レモンマートル、レモン、オレンジ等の精油の成分である。ただし、本実施形態の体内時計調整剤がシトラールを含有する場合には、シトラールは、精油の形態とは異なる形態で、例えば、精製されたシトラールや合成されたシトラールの形態で、体内時計調整剤に含まれることが望ましい。
【0013】
(5)β-カリオフィレン
β-カリオフィレンは、二環式のセスキテルペンであり、イランイランオイル、レモンバームオイル、ローズマリーオイル、ラベンダーオイル、パルマローザオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル等の精油の成分である。本実施形態の体内時計調整剤がβ-カリオフィレンを含有する場合には、例えば、上記した精油のうちのゼラニウムオイルの形態あるいはシダーウッドバージニアオイルの形態で含有することが望ましい。また、本実施形態の体内時計調整剤がβ-カリオフィレンを含有する場合には、β-カリオフィレンは、精油の形態とは異なる形態で、例えば、精製されたβ-カリオフィレンや合成されたβ-カリオフィレンの形態で、体内時計調整剤に含まれることが望ましい。
【0014】
(6)体内時計調整剤
既述したように、時計遺伝子には、Per、Cry、Bmal、Clockなど種々の遺伝子が存在し、本実施形態の体内時計調整剤が発現リズムの位相を前進させる時計遺伝子は、特に限定されない。本実施形態の体内時計調整剤は、Bmal1遺伝子の発現リズムの位相を好適に前進させるが、本実施形態の体内時計調整剤が発現リズムの位相を前進させる時計遺伝子は、例えば、Bmal遺伝子の産物であるBMAL1タンパク質によって遺伝子の転写が活性化されるPer遺伝子やCry遺伝子であってもよい。概日リズムは、時計遺伝子の転写翻訳のフィードバックループに基づいて形成されるため、本実施形態の体内時計調整剤は、上記のように時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させることにより、概日リズム全体の位相を前進させることが可能になる。
【0015】
本実施形態の体内時計調整剤は、時計遺伝子の発現リズムの周期短縮作用を有する。具体的には、本実施形態の体内時計調整剤は、体内時計調整剤の投与によって少なくとも時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させ、その結果、時計遺伝子の発現リズムの周期を短縮する。
【0016】
また、本実施形態の体内時計調整剤は、既述した有効成分に加えて、いずれかの時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させる他の成分を、さらに含んでいてもよい。例えば、Bmal1遺伝子の発現リズムの位相を前進させる、上記した本実施形態の有効成分とは異なる成分や、BMAL1タンパク質と複合体を形成するCLOCKタンパク質をコードするClock遺伝子の発現リズムの位相を前進させる成分や、Bmal1とは逆の増減リズムで発現するPer遺伝子やCry遺伝子の発現リズムの位相を前進させる成分を、上記した有効成分に組み合わせて、体内時計調整剤を構成してもよい。
【0017】
本実施形態の体内時計調整剤は、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させる効果を損なわない限り、既述した有効成分に加えて、さらに他の成分を含有していてもよい。体内時計調整剤が含有する他の成分としては、例えば、賦形剤、増量剤、希釈剤、溶解剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、滑沢剤、緩衝剤、界面活性剤、酸化防止剤、着色料、香料を挙げることができ、後述するような体内時計調整剤の製品形態等に応じて、適宜選択すればよい。
【0018】
本実施形態の体内時計調整剤は、種々の製品形態で用いることができ、例えば、経口用組成物や、非経口用組成物とすることができる。経口的あるいは非経口的に体内に摂取された体内時計調整剤中の有効成分は、例えば血中に取り込まれて、体内の各部の細胞に供給されて作用する。
【0019】
本実施形態の体内時計調整剤を経口用組成物として用いる場合には、経口用組成物の製品形態は、例えば、経口投与製剤などの医薬品、医薬部外品、健康食品やサプリメントや飲料を含む飲食品等とすることができる。経口用組成物の剤形は、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、細粒、粉末などの固形剤や、シロップや懸濁液などの液剤とすることができる。
【0020】
本実施形態の体内時計調整剤を非経口用組成物として用いる場合には、非経口用組成物の製品形態は、例えば、経皮投与製剤、経鼻投与製剤、または経肺投与(吸入等)製剤等の医薬品とすることができる。また、非経口用組成物のその他の製品形態として、化粧品や、本実施形態の有効成分を体内に摂取させるための雑貨類とすることができる。
【0021】
医薬品の内、経皮投与製剤や経鼻投与製剤の剤形は、例えば、液剤、クリームや乳液等の乳化剤、ジェル剤、パッチ剤とすることができる。また、経肺投与製剤の剤形は、例えば、体内時計調整剤を噴霧して用いる吸入製剤とすることができる。
【0022】
化粧品の製品形態としては、例えば、クリームや化粧水等を含む基礎化粧料や、メーキャップ化粧料や、毛髪・頭皮用化粧料や、オードトワレ等を含む香水類や、マッサージ等に用いるトリートメント剤や、石鹸等を含む洗浄料等とすることができる。本実施形態の体内時計調整剤を化粧品の製品形態で用いる場合には、体内時計調整剤中の有効成分を、経皮的および経肺的に摂取することができる。
【0023】
有効成分を体内に摂取させるための雑貨類としては、例えば、体内時計調整剤中の有効成分を空間中に拡散させて用いる芳香剤や、入浴剤や、体内時計調整剤中の有効成分を揮発させ、あるいは噴霧することにより吸入するための吸入剤とすることができる。芳香剤は、体内時計調整剤を容器等に収容して有効成分を徐々に空間中に揮発させる使用形態の芳香剤の他、加熱式、超音波式、あるいはネプライザー式等のディフューザーを用いて有効成分を空間中に拡散させる使用形態の芳香剤や、アロマキャンドルやインセンス等を含む。本実施形態の体内時計調整剤を、芳香剤や入浴剤や吸入剤として用いる場合には、体内時計調整剤中の有効成分を、経肺的に摂取することができる。また、本実施形態の体内時計調整剤を入浴剤として用いる場合には、体内時計調整剤中の有効成分を、経皮的に摂取することができる。
【0024】
本実施形態の体内時計調整剤に含有される既述した有効成分の含有量は、時計遺伝子の発現リズムの位相前進効果が得られれば特に限定されないが、体内時計調整剤である組成物全体に対する割合は、0.00001質量% 以上とすることが望ましく、0.0001質量% 以上とすることがより望ましい。このような有効成分の含有量は、例えば、体内時計調整剤の有効成分の投与(摂取)の態様によって定まる体内への取り込み効率や、既述した有効成分による皮膚や粘膜等への刺激の影響等を考慮して、適宜設定すればよい。例えば、有効成分をキャリアオイルで希釈してオイルトリートメントに用いる場合には、有効成分の濃度は、キャリアオイルに対して1%以下が望ましい。また、有効成分を室内などの空間に拡散させて用いる場合には、拡散された有効成分の濃度が0.01ppb~100ppmとなるようにすることが望ましい。
【0025】
以上のように構成された本実施形態の体内時計調整剤によれば、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含むことにより、時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させることができる。そのため、本実施形態の体内時計調整剤は、概日リズムの位相を前進させるために用いることができ、概日リズム障害に等により後退した位相を、望ましい(本来の)位相に近づけることが可能になる。以上より、本実施形態の体内時計調整剤は、例えば、時差症候群や睡眠相後退症候群やソーシャルジェットラグ等に起因する概日リズム障害、および概日リズム障害に付随する症状(睡眠障害、眠気、倦怠感、消化器症状などの、種々の精神身体症状など)を、治療、改善、または予防するために用いることができる。
【0026】
本実施形態の体内時計調整剤が、既述した有効成分のうちのベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを有効成分として含む場合には、上記した時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させる効果に加えて、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増大させる効果を得ることができる。そのため、有効成分としてベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを含む本実施形態の体内時計調整剤は、概日リズムの振幅を増大させるために用いることができる。特に、ベルガモットオイルおよびシトラールの双方を有効成分として含む場合には、振幅増強効果について加算的な効果を得ることができる。振幅の増大により、概日リズムは、メリハリのある強いリズムになる。そのため、本実施形態の体内時計調整剤は、概日リズム障害や、概日リズム障害に付随する症状を治療、改善、あるいは予防する上記した効果を高めることができる。また、例えば高齢者では、一般に、概日リズムの振幅が小さくなってメリハリがなくなる傾向があることが知られている。そのため、ベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを有効成分として含む本実施形態の体内時計調整剤を用いることで、高齢者等において概日リズムの維持力の低下に起因して生じる種々の障害を改善することが可能になる。
【0027】
また、本実施形態の体内時計調整剤が含む有効成分であるベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンは、いずれも揮発性の芳香成分である。そのため、本実施形態の体内時計調整剤を、概日リズム障害を起こした対象者が存在する空間内に拡散させて、対象者に体内時計調整剤を吸入させることにより、対象者への体内時計調整剤の投与を容易に行うことが可能になる。すなわち、対象者が存在する室内等の空間を上記有効成分で満たしてウェルビーイングな空間を形成することにより、例えば薬剤等を積極的に摂取する等の特別な行動を要することなく、自然に体内時計のリズムを整えることが可能になる。
【実施例0028】
<被検物質の概日リズムへの影響の評価方法>
マウス胚性繊維芽細胞を用いた系を用いて、ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンを含む種々の被検物質(精油または精油成分等)による、概日リズムへの影響を評価した。具体的には、時計遺伝子Bmal1またはPer2のプロモーター下流に、レポーター遺伝子として、ヒカリコメツキムシ由来のルシフェラーゼであるEmerald Luc(Eluc)の遺伝子を導入したマウス胚性繊維芽細胞を、評価細胞として用いた。評価細胞を、37℃、5% CO2雰囲気下において、10% FBSおよび100U/mL Penicillin/Streptomycinを含むD-MEM培地(High glucose)中で培養した。次に、上記評価細胞を、96wellプレート、24wellプレート、または35mm dishに播種し、24時間後に100nMデキサメタゾンで2時間処理して、評価細胞の概日リズムのサイクルをリセットして同調させた。その後、プレートまたはdish内の上記培地を、400μMのD-Luciferinを含む培地(発光基質含有培地)に置換し、測定装置である培養機能付きルミノメーター(Kronos HTまたはKronos Dio、アトー株式会社製)内に上記評価細胞を設置し、経時的に発光(レポーター遺伝子の発現量)を測定した。測定開始後、発光値がピークに到達する時間を確認した。発光値がピークに到達した3時間後に、0.3%DMSO(ジメチルスルホキシド)溶液で希釈した被検物質を種々の濃度となるように添加した発光基質含有培地に培地交換し、プレートまたはdishを測定装置に戻して測定を再開した。上記した被検物質を含む培地への交換と同じタイミングで、被検物質を含まない0.3%DMSO溶液を添加した発光基質含有培地に培地交換した評価細胞を、コントロールとした。取得データをもとに、測定された発光強度の周期や振幅をコントロールと比較して、被検物質の作用を評価した。
【0029】
図1は、被検物質の作用の評価の指標を示す説明図である。
図1では、横軸に時間を示し、縦軸に発現量を表す発光強度を示している。
図1では、トレンド除去(デトレンド)したレポーター遺伝子の発現量の変動の様子(発現リズム)を模式的に表している。時計遺伝子のプロモーターの下流に組み込まれたレポーター遺伝子は、上記時計遺伝子の発現リズムに従って発現する。発現リズムのピークは、被検物質を含む培地に交換した後の最初のピークから順に、peak1、peak2、peak3・・・と呼ぶ。隣り合うピーク間の長さ、すなわち1周期の長さを「周期長」として示しており、周期長は約24時間である。また、1周期における発光量(時計遺伝子の発現量)の変動の大きさ(当該周期の始まりのピークとボトムの差)を「振幅」と呼ぶ。例えば、peak1-peak2間の周期における振幅を振幅1と呼び、peak2-peak3間の周期における振幅を振幅2と呼ぶ。
図1では、振幅1の大きさを両矢印によって示している。また、発現リズムの「位相」の変化は、発現リズムにおける各ピークが表れるタイミング(時間)によって評価した。
図1に示す発現リズムにおいて、波形が時間軸に沿って左側にシフトする場合を「位相が前進する」といい、波形が右側にシフトする場合を「位相が後退する」という。
【0030】
<時計遺伝子の相対発現量の解析方法>
上記の「被検物質の概日リズムへの影響の評価方法」の説明と同様にして評価細胞を用意し、この評価細胞を6wellプレートに播種し、24時間後に100nMデキサメタゾンで2時間処理して、評価細胞の概日リズムのサイクルをリセットして同調させた。その後、プレート内の培地を既述した発光基質含有培地に置換して、既述した培養機能付きの測定装置内に評価細胞を設置した。そして、発光値がピークに到達した3時間後に、0.3%DMSO(ジメチルスルホキシド)溶液で希釈した被検物質を種々の濃度となるように添加した発光基質含有培地に交換して、培養を継続した。被験物質添加から、0、4、8、12、16、20、24時間後の細胞を回収し、FastGene RNA Basic Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、上記した回収のタイミングごとに、3wellずつRNAを抽出した。抽出したRNA300ngを用いて、PrimeScript(登録商標)RTMaster Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ株式会社製)により逆転写反応を行った。その後、Power SYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、定量PCR(qPCR;quantitative PCR)を行い、Bmal1あるいはPer2の相対発現量を解析した。上記した被検物質を含む培地への交換と同じタイミングで、被検物質を含まない0.3%DMSO溶液を添加した発光基質含有培地に培地交換した評価細胞を、コントロールとして用いて、同様の解析を行った。
【0031】
<評価結果>
[ゼラニウムオイル]
図2は、被検物質としてゼラニウムオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図2では、発光基質含有培地に添加したゼラニウムオイルの濃度が100μg/mLの場合と、20μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図2に示すように、被検物質としてゼラニウムオイルを用いる場合には、濃度依存的に位相が前進した。
【0032】
図3は、
図2に示した結果のうちの、ゼラニウムオイル濃度が100μg/mLの場合について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を示す説明図である。
図3では、縦軸に、コントロールと比較した位相の変化量を示しており、負の値の絶対値が大きいほど、位相が前進していることを示す。
図3に示すように、ゼラニウムオイルの添加によって、位相が最大で約3.7時間前進した。
【0033】
図4は、被検物質としてゼラニウムオイルを添加したときの、Bmal1遺伝子の相対発現量の変化を示す説明図である。
図4では、被検物質の添加のタイミングにおけるBmal1の発現量を1.0として、各経過時間におけるBmal1の発現量の相対値を示している。
図4に示すように、被検物質としてゼラニウムオイルを用いる場合には、ゼラニウムオイルの濃度依存的に、Bmal1遺伝子の発現リズムの位相が前進した。具体的には、コントロールでは、16時間後にBmal1の発現量がピークになるのに対し、100μg/mLの濃度でゼラニウムオイルを添加した場合には、4時間後にBmal1の発現量がピークになり、20μg/mLの濃度でゼラニウムオイルを添加した場合には、8時間後にBmal1の発現量がピークになった。
【0034】
[ベルガモットオイル]
図5は、被検物質としてベルガモットオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図5では、発光基質含有培地に添加したベルガモットオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図5に示すように、被検物質としてベルガモットオイルを用いる場合には、濃度依存的に位相が前進すると共に、振幅が増大した。
【0035】
図6は、
図5に示した結果のうちの、ベルガモットオイル濃度が100μg/mLの場合について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図6に示すように、ベルガモットオイルの添加によって、位相が最大で約2.7時間前進した。
【0036】
図7は、
図5に示した結果のうちの、ベルガモットオイル濃度が100μg/mLの場合について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図7に示すように、振幅1および振幅2のいずれも、ベルガモットオイルの添加により振幅の大きさが2倍以上大きくなった。このように、ベルガモットオイルの添加により、Bmal1の発現リズムは、メリハリのある強いリズムになることが確認された。
【0037】
図8は、被検物質としてベルガモットオイルを添加したときの、Bmal1遺伝子の相対発現量の変化を示す説明図である。
図8では、被検物質の添加のタイミングにおけるBmal1の発現量を1.0として、各経過時間におけるBmal1の発現量の相対値を示している。
図8に示すように、被検物質としてベルガモットオイルを用いる場合には、Bmal1遺伝子の発現リズムの位相が前進した。具体的には、コントロールでは、12時間後にBmal1の発現量がピークになるのに対し、100μg/mLの濃度でベルガモットオイルを添加した場合には、4時間後にBmal1の発現量がピークになった。
【0038】
図9は、被検物質としてベルガモットオイルを添加したときの、Per2遺伝子の相対発現量の変化を示す説明図である。
図9では、被検物質の添加のタイミングにおけるPer2の発現量を1.0として、各経過時間におけるPer2の発現量の相対値を示している。
図9に示すように、被検物質としてベルガモットオイルを用いる場合には、Per2遺伝子の発現リズムの位相が前進した。具体的には、コントロールでは、16時間後にPer2の発現量がボトムになるのに対し、100μg/mLの濃度でベルガモットオイルを添加した場合には、12時間後にPer2の発現量がボトムになった。
【0039】
[シダーウッドバージニアオイル]
図10は、被検物質としてシダーウッドバージニアオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図10では、発光基質含有培地に添加したシダーウッドバージニアオイルの濃度が100μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図10に示すように、被検物質としてシダーウッドバージニアオイルを用いる場合には、位相が前進すると共に振幅が増大した。
【0040】
図11は、
図10に示した結果について、シダーウッドバージニアオイル濃度が100μg/mLの場合について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図11に示すように、シダーウッドバージニアオイルの添加によって、位相が最大で約1時間前進した。
【0041】
図12は、
図10に示したシダーウッドバージニアオイル濃度が100μg/mLの場合について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図12に示すように、シダーウッドバージニアオイルの添加により振幅の大きさが最大で1.6倍大きくなった。このように、シダーウッドバージニアオイルの添加により、Bmal1の発現リズムは、メリハリのある強いリズムになることが確認された。
【0042】
[β-カリオフィレン]
図13は、被検物質としてβ-カリオフィレンを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図13では、発光基質含有培地に添加したβ-カリオフィレンの濃度が500μMの場合と、100μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図13に示すように、被検物質としてβ-カリオフィレンを用いる場合には、濃度依存的に位相が前進した。
【0043】
図14は、
図13に示した結果に基づいて、β-カリオフィレン濃度が500μMの場合と100μMの場合のそれぞれについて、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図14に示すように、β-カリオフィレンの添加によって、濃度依存的に位相が前進し、β-カリオフィレンの濃度を500μMとすることによって、位相が最大で約2.3時間前進した。
【0044】
[シトラール]
図15は、被検物質としてシトラールを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図15では、発光基質含有培地に添加したシトラールの濃度が100μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図15に示すように、被検物質としてシトラールを用いる場合には、位相が前進すると共に振幅が増大した。
【0045】
図16は、
図15に示した結果に基づいて、シトラール濃度が100μMの場合について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図16に示すように、シトラールの添加によって位相が前進し、シトラールの濃度を100μMとすることによって、位相が最大で約4時間前進した。
【0046】
図17は、
図15に示した結果について、シトラール濃度が100μMの場合について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図17に示すように、シトラールの添加により振幅の大きさが最大で1.4倍大きくなった。このように、シトラールの添加により、Bmal1の発現リズムは、メリハリのある強いリズムになることが確認された。
【0047】
[ゼラニウムオイルの成分]
図18は、被検物質としてゲラニオールを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図18では、発光基質含有培地に添加したゲラニオールの濃度が100μMの場合と、10μMの場合と、1μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図18に示すように、ゲラニオール濃度やゲラニオールの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、ゲラニオールの添加による位相の変化は認められなかった。
【0048】
図19は、被検物質としてイソメントンを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図19では、発光基質含有培地に添加したイソメントンの濃度が100μMの場合と、10μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図19に示すように、イソメントン濃度やイソメントンの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、イソメントンの添加による位相の変化は認められなかった。
【0049】
図20は、被検物質としてリナロールを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図20では、発光基質含有培地に添加したリナロールの濃度が100μMの場合と、10μMの場合と、1μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図20に示すように、Bmal1の発現リズムにおいて、リナロールの添加による位相の変化は認められなかった。
【0050】
上記したゲラニオール、イソメントン、およびリナロールは、ゼラニウムオイルに含まれる化合物である。また、ゼラニウムオイルの他の成分である、シトロネロール、ギ酸シトロネリル、およびギ酸ゲラニルについても、被検物質として評価細胞に添加したときの発光リズムを調べたところ、添加による位相の変化は認められなかった(データ示さず)。このように、ゼラニウムオイルの成分のうち、
図13に示したβ-カリオフィレン以外では、Bmal1の発現リズムの位相前進効果は認められなかった。なお、
図2に示したゼラニウムオイルを用いた例において、発光基質含有培地に添加したゼラニウムオイルの濃度が100μg/mLの場合には、β-カリオフィレンの濃度は約6.6μMとなる。
【0051】
[ベルガモットオイルの成分]
図21は、被検物質としてd-リモネンを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図21では、発光基質含有培地に添加したd-リモネンの濃度が100μMの場合と、10μMの場合と、1μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図21に示すように、d-リモネン濃度やd-リモネンの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、d-リモネンの添加による位相の変化は認められなかった。
【0052】
図22は、被検物質としてγ-テルピネンを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図22では、発光基質含有培地に添加したγ-テルピネンの濃度が100μMの場合と、10μMの場合と、1μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図22に示すように、γ-テルピネン濃度やγ-テルピネンの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、γ-テルピネンの添加による位相の変化は認められなかった。
【0053】
上記したd-リモネンおよびγ-テルピネンは、ベルガモットオイルに含まれる化合物である。また、ベルガモットオイルの他の成分であるリナロールにおいても、
図20に示したように、Bmal1の発現リズムの位相を前進させる効果は認められなかった。また、ベルガモットオイルのさらに他の成分であるβ-ピネン、β-ミルセン、およびp-シメンについても、被検物質として評価細胞に添加したときの発光リズムを調べたところ、添加による位相の変化は認められなかった(データ示さず)。このように、ベルガモットオイルに含まれる主要な成分のいずれにおいても、Bmal1の発現リズムの位相前進効果は認められなかった。ベルガモットオイルを被検物質として用いたときには発現リズムの位相前進効果を示すものの、ベルガモットオイルの各成分を被検物質として用いたときには位相前進効果を示さないことから、例えば、ベルガモットオイル中の複数の成分が組み合わされることにより、位相前進効果が生じる可能性があると考えられる。あるいは、ベルガモットオイルに含まれる、上記した成分とは異なる他の微量成分により、位相前進効果が生じる可能性があると考えられる。なお、ベルガモットオイルの成分のうち、酢酸リナリルは、体内で酢酸とリナロールとに分解されるため、成分評価を行わなかった。
【0054】
[シダーウッドバージニアオイルの成分]
図23は、被検物質としてα-セドレンを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図23では、発光基質含有培地に添加したα-セドレンの濃度が100μMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図23に示すように、α-セドレンの添加によって、わずかに位相の前進が認められたが、α-セドレンの添加による振幅増強効果は認められなかった。なお、シダーウッドバージニアオイルの成分のうち、β-カリオフィレンも、
図13および
図14に示したように位相前進効果が認められたが、振幅増強効果は認められなかった。
【0055】
[β-カリオフィレンを含む精油]
図24は、被検物質としてラベンダーオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図24では、発光基質含有培地に添加したラベンダーオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図24に示すように、ラベンダーオイル濃度やラベンダーオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、ラベンダーオイルの添加による位相の変化は認められなかった。
【0056】
図25は、被検物質としてパルマローザオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図25では、発光基質含有培地に添加したパルマローザオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図25に示すように、パルマローザオイル濃度やパルマローザオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、パルマローザオイルの添加による位相の変化は認められなかった。
【0057】
図26は、被検物質としてローズマリーオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図26では、発光基質含有培地に添加したローズマリーオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図26に示すように、ローズマリーオイル濃度やローズマリーオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、ローズマリーオイルの添加による位相の変化は認められなかった。
【0058】
図27は、被検物質としてイランイランオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図27では、発光基質含有培地に添加したイランイランオイルの濃度が1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図27に示すように、コントロールとの間でBmal1の発現リズムに顕著な差はなく、イランイランオイルの添加による位相の変化は認められなかった。なお、発光基質含有培地に添加したイランイランオイルの濃度が100μg/mLの場合および10μg/mLの場合には、細胞毒性が認められた。
【0059】
上記したラベンダーオイル、パルマローザオイル、ローズマリーオイル、およびイランイランオイルは、β-カリオフィレンを含む精油である。また、β-カリオフィレンを含む他の精油であるレモンバームオイルについても、被検物質として評価細胞に添加したときの発光リズムを調べたところ、添加による位相の変化は認められなかった(データ示さず)。このように、β-カリオフィレンを含む精油のうち、
図2に示したゼラニウムオイル以外では、Bmal1の発現リズムの位相前進効果は認められなかった。β-カリオフィレンを被検物質として用いたときには発現リズムの位相前進効果を示すものの、β-カリオフィレンを含む精油を被検物質として用いたときには、ゼラニウムオイル以外では位相前進効果を示さないことから、例えば、ゼラニウムオイル以外の上記精油は、β-カリオフィレンの上記効果を阻害する成分を含む可能性があると考えられる。
【0060】
[シトラールを含む精油]
図28は、被検物質としてプチグレンオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図28では、発光基質含有培地に添加したプチグレンオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図28に示すように、プチグレンオイル濃度やプチグレンオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、プチグレンオイルの添加による位相の変化は認められなかった。
【0061】
上記したプチグレンオイルは、シトラールを含む精油である。また、シトラールを含む他の精油であるレモンバームオイルについても、被検物質として評価細胞に添加したときの発光リズムを調べたところ、添加による位相の変化は認められなかった(データ示さず)。このように、シトラールを含む精油では、Bmal1の発現リズムの位相前進効果は認められなかった。シトラールを被検物質として用いたときには発現リズムの位相前進効果を示すものの、シトラールを含む精油を被検物質として用いたときには位相前進効果を示さないことから、例えば、シトラールを含む上記のような精油は、シトラールの上記効果を阻害する成分を含む可能性があると考えられる。
【0062】
[その他の精油の例]
図29は、被検物質としてユーカリオイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図29では、発光基質含有培地に添加したユーカリオイルの濃度が100μg/mLの場合と、10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図29に示すように、ユーカリオイル濃度やユーカリオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、ユーカリオイルの添加による位相の変化は認められなかった。
【0063】
上記したユーカリオイルや、
図24に示したラベンダーオイルは、例えば既述した従来技術文献2において、Bmal1遺伝子等の時計遺伝子の発現促進効果が示されている。しかしながら、このように時計遺伝子の発現促進効果が報告されているユーカリオイルやラベンダーオイルであっても、Bmal1遺伝子の発現リズムの位相を変化させる効果は認められなかった。
【0064】
図30は、被検物質としてシダーウッドアトラス(アトラスシダー)オイルを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図30では、発光基質含有培地に添加したシダーウッドアトラスオイルの濃度が10μg/mLの場合と、1μg/mLの場合と、コントロールについての結果を示している。
図30に示すように、シダーウッドアトラスオイル濃度やシダーウッドアトラスオイルの添加の有無にかかわらず、Bmal1の発現リズムに顕著な差はなく、シダーウッドアトラスオイルの添加による位相の変化は認められなかった。シダーウッドアトラスオイルの濃度が100μg/mLの場合には、細胞毒性が認められた。なお、シダーウッドアトラス(Cedrus atlantica)は、マツ科の植物であり、シダーウッドバージニアとは異なる科に属している。
【0065】
[位相後退作用を示す成分の例]
図31は、被検物質としてカフェインを添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図31では、発光基質含有培地に添加したカフェインの濃度が1mMの場合と、0.3mMの場合と、コントロールについての結果を示している。
図31に示すように、カフェインの添加により、ピークの位相後退効果が認められると共に、振幅増強効果が認められた。
【0066】
図32は、
図31に示した結果に基づいて、カフェイン濃度が0.3mMの場合と1mMの場合のそれぞれについて、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図32に示すように、カフェインの添加によって、位相が後退することが確認された。
【0067】
図33は、
図31に示した結果について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図33に示すように、振幅1および振幅2のいずれも、カフェインの添加により振幅の大きさが約2倍から2倍以上に大きくなった。
【0068】
[ベルガモットオイルとシトラールの組み合わせ]
図34は、被検物質として、ベルガモットオイル、シトラール、および、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせた混合物を添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図34では、発光基質含有培地に添加したベルガモットオイルの濃度が100μg/mLの場合と、シトラールの濃度が100μMの場合と、濃度が100μg/mLのベルガモットオイルと濃度が100μMのシトラールとを組み合わせて用いた場合と、コントロールについての結果を示している。
図34に示すように、被検物質としてベルガモットオイルおよびシトラールを組み合わせて用いる場合には、位相が前進すると共に振幅が増大した。
【0069】
図35は、
図34に示した各々の被検物質について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図35に示すように、被検物質として、ベルガモットオイル、シトラール、および、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせたもののいずれを用いる場合であっても、位相前進効果が認められた。ただし、位相前進効果においては、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせることによる加算的な効果は認められなかった。
【0070】
図36は、
図34に示した各々の被検物質について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図36に示すように、被検物質として、ベルガモットオイル、シトラール、および、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせたもののいずれを用いる場合であっても、振幅増強効果が認められた。このとき、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせることにより振幅の大きさが最大で2.7倍に増大し、ベルガモットオイルとシトラールを組み合わせることによる加算的な効果が認められた。
【0071】
[ベルガモットオイルとβ-カリオフィレンの組み合わせ]
図37は、被検物質として、ベルガモットオイル、β-カリオフィレン、および、ベルガモットオイルとβ-カリオフィレンを組み合わせた混合物を添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図37では、発光基質含有培地に添加したベルガモットオイルの濃度が100μg/mLの場合と、β-カリオフィレンの濃度が100μMの場合と、濃度が100μg/mLのベルガモットオイルと濃度が100μMのβ-カリオフィレンとを組み合わせて用いた場合と、コントロールについての結果を示している。
図37に示すように、被検物質としてベルガモットオイルおよびβ-カリオフィレンを組み合わせて用いる場合には、被検物質としてベルガモットオイルを用いる場合や、被検物質としてβ-カリオフィレンを用いる場合と同様に、位相前進効果が認められた。
【0072】
図38は、
図37に示した各々の被検物質について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図38に示すように、被検物質として、ベルガモットオイル、β-カリオフィレン、および、ベルガモットオイルとβ-カリオフィレンを組み合わせたもののいずれを用いる場合であっても、振幅増強効果が認められた。ここで、ベルガモットオイルとβ-カリオフィレンのうち、ベルガモットオイルは単独で振幅増強効果を有するが、ベルガモットオイルとβ-カリオフィレンを組み合わせた場合の振幅増強効果は、ベルガモットオイル単独の場合の振幅増強効果と同程度であった。
【0073】
[ベルガモットオイルとカフェインの組み合わせ]
図39は、被検物質として、ベルガモットオイル、および、ベルガモットオイルとカフェインを組み合わせた混合物を添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図39では、発光基質含有培地に添加したベルガモットオイルの濃度が100μg/mLの場合と、濃度が100μg/mLのベルガモットオイルと濃度が0.3mMのカフェインとを組み合わせて用いた場合と、コントロールについての結果を示している。
【0074】
図40は、
図39に示した各々の被検物質について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図32に示したように、カフェインは位相後退作用を示すが、位相前進効果を示すベルガモットオイルをカフェインに組み合わせることにより、カフェインの位相後退作用が抑えられて、全体として位相前進効果が得られるようになることが確認された。
【0075】
図41は、
図39に示した各々の被検物質について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図41に示すように、ベルガモットオイルは単独で振幅増強効果を示し、カフェインも単独で振幅増強効果を示す(
図33参照)。そして、
図41に示すように、ベルガモットオイルとカフェインを組み合わせた場合には、振幅1ではベルガモットオイル単独の場合に比べて振幅増強効果が高まったが、他の振幅ではベルガモットオイル単独の場合と同程度の振幅増強効果であった。このように、振幅増強効果を示す被検物質を組み合わせても、振幅増強効果が加算的に得られるとは限らないことが確認された。
【0076】
[シトラールとβ-カリオフィレンの組み合わせ]
図42は、被検物質として、シトラール、β-カリオフィレン、および、シトラールとβ-カリオフィレンを組み合わせた混合物を添加したときの発光リズム(Bmal1遺伝子の発現リズム)を示す説明図である。
図42では、発光基質含有培地に添加したシトラールの濃度が100μMの場合と、β-カリオフィレンの濃度が100μMの場合と、濃度が100μMのシトラールと濃度が100μMのβ-カリオフィレンとを組み合わせて用いた場合と、コントロールについての結果を示している。
【0077】
図43は、
図42に示した各々の被検物質について、コントロールと比較した各ピーク(peak1、peak2、peak3)の位相の変化量を、
図3と同様にして示す説明図である。
図43に示すように、被検物質として、シトラール、β-カリオフィレン、および、シトラールとβ-カリオフィレンを組み合わせたもののいずれを用いる場合であっても、位相前進効果が認められた。ただし、位相前進効果においては、シトラールとβ-カリオフィレンを組み合わせることによる加算的な効果は認められなかった。
【0078】
図44は、
図42に示した各々の被検物質について、振幅1および振幅2の大きさをコントロールと比較した結果を示す説明図である。
図44に示すように、被検物質として、シトラールを用いた場合、および、シトラールとβ-カリオフィレンを組み合わせた場合のいずれであっても、振幅増強効果が認められた。ここで、シトラールとβ-カリオフィレンのうち、シトラールは単独で振幅増強効果を有するが、シトラールとβ-カリオフィレンを組み合わせた場合の振幅増強効果は、シトラール単独の場合の振幅増強効果と同程度であった。
【0079】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0080】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイル、ゼラニウムオイル、シダーウッドバージニアオイル、シトラール、およびβ-カリオフィレンのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、
時計遺伝子の発現リズムの位相を前進させることにより体内時計を調整する
体内時計調整剤。
[適用例2]
適用例1に記載の体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイル、シダーウッドバージニアオイル、およびシトラールのうちの少なくとも一つを有効成分として含み、
前記時計遺伝子の発現リズムの振幅を増大させる
体内時計調整剤。
[適用例3]
適用例2に記載の体内時計調整剤であって、
ベルガモットオイルおよびシトラールの双方を有効成分として含む
体内時計調整剤。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項または2に記載の体内時計調整剤であって、
概日リズムの位相を前進させるための体内時計調整剤。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤であって、
概日リズム障害および概日リズム障害に付随する症状を治療、改善、または予防するための体内時計調整剤。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経皮投与製剤。
[適用例7]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する、概日リズム障害の治療用経口投与製剤。
[適用例8]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する芳香剤。
[適用例9]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する入浴剤。
[適用例10]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する吸入剤。
[適用例11]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を含有する飲食品。
[適用例12]
体内時計調整方法であって、
概日リズム障害を起こした対象者が存在する空間内に、適用例1から5までのいずれか一項に記載の体内時計調整剤を拡散させて、前記対象者に前記体内時計調整剤を吸入させる
体内時計調整方法。