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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072793
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】積層型熱電変換素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20240521BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20240521BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184057
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2022183531
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】松永 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(57)【要約】
【課題】単位面積当たりの発電性能を向上させる積層型熱電変換素子を提供する。
【解決手段】P型熱電変換材料で形成されたP型層11と、N型熱電変換材料で形成されたN型層12と、P型層11とN型層12との間に配置された第一絶縁層13とが積層されてなる第一積層体10と、P型層11とN型層12とを電気的に接続する第一電極20A、20Bと、を備え、第一積層体10は、P型層11とN型層12と第一絶縁層13との各層の端面が並んで縞状に表れる複数の縞状面を有し、縞状面のうちの一つを高温用の第一縞状面1A、この第一縞状面1Aの反対側の面を低温用の第二縞状面1Bとし、第一電極20A、20Bが、第一縞状面1Aおよび第二縞状面1B以外の縞状面である第三縞状面1C及び第四縞状面1Dの少なくともいずれかに設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型熱電変換材料で形成された少なくとも1つのP型層と、前記P型層に隣接する少なくとも1つの第一絶縁層と、前記第一絶縁層に隣接するN型熱電変換材料で形成された少なくとも1つのN型層とが積層されてなる少なくとも1つの第一積層体と、
前記P型層と前記N型層とを電気的に接続する第一電極と、
を備え、
前記第一積層体は、前記P型層、前記N型層、および前記第一絶縁層の各端面が並んで縞状に表れる複数の縞状面を有し、
前記縞状面のうちの一つを高温用の第一縞状面、この第一縞状面の反対側の面を低温用の第二縞状面、前記第一縞状面および前記第二縞状面以外の二つの前記縞状面を第三縞状面および第四縞状面とし、
前記第一電極が、前記第三縞状面及び前記第四縞状面の少なくともいずれかに設けられていることを特徴とする、積層型熱電変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一積層体は、複数の前記P型層と複数の前記N型層とが前記第一絶縁層を介在させて交互に複数積層されており、
複数の前記第一電極が、複数の前記P型層と複数の前記N型層とを電気的に直列に接続していることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項3】
請求項2に記載の積層型熱電変換素子であって、
複数の前記第一電極が前記第三縞状面及び前記第四縞状面に設けられていることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第三縞状面に垂直な方向に並べられた複数の前記第一積層体と、これらの複数の前記第一積層体の間に配置された第二絶縁層と、を含む第二積層体と、
前記第二絶縁層を介して隣接する二つの前記第一積層体の前記縞状面以外の面に設けられ、一方の前記第一積層体の前記P型層と、他方の前記第一積層体の前記N型層とを接続する第二電極と
を備えることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一縞状面に垂直な方向へ並べられた複数の前記第一積層体と、これら複数の前記第一積層体の間に配置された電気的絶縁性を有する第一伝熱層と、が積層されてなる第三積層体を備えることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記積層型熱電変換素子が直方体形状をしており、前記第一縞状面および前記第二縞状面が前記第三縞状面と直交していることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項7】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一絶縁層の積層方向の厚さが500μm以下であることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項8】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一絶縁層の積層方向の厚さが、前記P型層および前記N型層の積層方向の厚さの平均値の半分以下であることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項9】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一絶縁層が、樹脂、セラミックス、ガラスのいずれかであることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項10】
請求項1または2に記載の積層型熱電変換素子であって、
前記第一縞状面と前記第二縞状面とに、電気的絶縁性を有する第二伝熱層が配置されていることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項11】
請求項4に記載の積層型熱電変換素子であって、前記第二積層体において、前記第一電極は、前記第一積層体と前記第二絶縁層との間に配置されることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項12】
請求項10に記載の積層型熱電変換素子であって、さらに、前記第二積層体および前記第二電極を被覆する絶縁コートを備えることを特徴とする積層型熱電変換素子。
【請求項13】
請求項1又は請求項2に記載の積層型熱電変換素子を製造する方法であって、
前記P型熱電変換材料で形成されたP型板材と、前記P型板材に隣接する前記第一絶縁層と、前記N型熱電変換材料で形成され前記第一絶縁層に隣接するN型板材とを積層して前記第一積層体を形成する積層体形成工程と、
前記第一積層体の前記第三縞状面に、前記第一電極を設ける第一電極形成工程と、を備えたことを特徴とする、積層型熱電変換素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1又は請求項2に記載の積層型熱電変換素子を製造する方法であって、
前記P型熱電変換材料で形成されたP型板材と、前記P型板材に隣接する前記第一絶縁層と、前記N型熱電変換材料で形成され前記第一絶縁層に隣接するN型板材とを積層して分割用接合体を形成する分割用接合体形成工程と、
前記分割用接合体で各層が表れる側面に前記P型板材から前記N型板材にわたる電極を複数形成して電極付分割用接合体を形成する第一電極形成工程と、
前記電極付分割用接合体を分割して、前記第一電極を備える複数の前記第一積層体を製造する分割工程と、
を備えたことを特徴とする、積層型熱電変換素子の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の積層型熱電変換素子の製造方法であって、
前記分割工程で、前記電極付分割用接合体と共に前記第一電極を切断することを特徴とする積層型熱電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P型熱電変換材料とN型熱電変換材料とを用いたゼーベック効果による温度差発電(熱発電)やペルチェ効果による電子冷却・発熱を可能とする積層型熱電変換素子と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるπ型構造の熱電変換モジュールでは、低温側の絶縁基板と高温側の絶縁基板との間に挟み込まれるN型とP型の熱電変換素子が、電極により直列に接続されてPN接合対を成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-248819号公報(図1及び図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば200℃以下の低温廃熱からゼーベック効果を使って発電する場合に一般的に用いられる熱電材料であるBiTe系の素子のゼーベック係数は200μV/K程度である。所定の大きさの熱電変換モジュールにおいて得られる電圧を増大させるためには、熱源に接する絶縁基板の単位面積当たりのN型とP型の熱電変換素子を増やせばよい。しかしながら、特許文献1の図1に開示された構造では電極間に絶縁用の隙間を設ける必要があるため、熱電変換モジュールに設置できる熱電変換素子の数が制限されてしまう。
【0005】
熱電変換モジュールにおいてN型とP型の熱電変換素子の数を大きくするため、特許文献1には、P型とN型の熱電変換材料の間に絶縁材料を挟み込み、1000℃を超える温度で一体に焼結して、熱電変換素子を製造する方法が提案されている。この方法では、複数のPN接合対が直列に接続されるように、PN接合対の各電極が熱電変換素子の上部と下部に設けられる。これらの電極を介して、熱電変換素子が各絶縁基板に接合される。
【0006】
特許文献1の図1における熱電変換素子では、上下面の一部に設けた電極で熱源側の絶縁基板に接合するため、換言すると各熱源(絶縁基板)に対して熱電変換材料が直接接触しないので、熱流が電極を介してP型やN型の熱電変換材料を通過して、上下面間の温度差が小さくなってしまう。これでは、絶縁基板の単位面積当たりのN型とP型の熱電変換素子(熱電材料)を増やせるとしても、十分な発電量を得られないおそれがある。
【0007】
特許文献1の図2における熱電変換素子は、絶縁材料を介在させてP型熱電変換材料とN型熱電変換材料とを直接接合することにより電極を不要とした構成であるが、各熱電変換材料が均一の厚さで形成されていないことで、温度変化による熱膨張などで各熱電変換材料および絶縁材料の各接合箇所で剥離してしまうおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、単位面積当たりの発電性能を向上させる積層型熱電変換素子と、その製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層型熱電変換素子は、P型熱電変換材料で形成された少なくとも1つのP型層と、前記P型層に隣接する少なくとも1つの第一絶縁層と、前記第一絶縁層に隣接するN型熱電変換材料で形成された少なくとも1つのN型層とが積層されてなる少なくとも1つの第一積層体と、前記P型層と前記N型層とを電気的に接続する第一電極と、を備える積層型熱電変換素子であって、前記第一積層体は、前記P型層、前記N型層、および前記第一絶縁層の各端面が並んで縞状に表れる複数の縞状面を有し、前記縞状面のうちの一つを高温用の第一縞状面、この第一縞状面の反対側の面を低温用の第二縞状面、前記第一縞状面および前記第二縞状面以外の二つの前記縞状面を第三縞状面および第四縞状面とし、前記第一電極が、前記第三縞状面及び前記第四縞状面のすくなくともいずれかに設けられている。
【0010】
この積層型熱電変換素子では、第三縞状面に設けた第一電極によって、前記P型層と前記N型層とが電気的に接続されている。
【0011】
従来の熱電変換モジュール(特許文献1の図1)では、π型構造の熱電変換素子が、上端面や下端面に比べて小さく形成された複数の電極を介して高温側基板や低温側基板に接合していて、また電極間に隙間が設けられているために、従来の熱電変換モジュールの高温側基板の面積或いは低温側基板の面積に占める素子の密度が低く、単位面積当たりの素子密度を十分に大きくすることは困難であった。
【0012】
この積層型熱電変換素子では、第一電極が第三縞状面に設けられているため、対向する第一縞状面や第二縞状面を、熱の受け渡しを行う例えばセラミックス基板等の対象物(高温側、低温側)の面に接触させることができる。このため、熱電変換モジュールで使用した場合には、対象物の面に占める熱電変換材料(P型層やN型層)の密度を十分に大きくすることができ、熱電変換素子の単位面積当たりの発電電圧(出力電圧密度)が増大する。
【0013】
換言すると、本発明の積層型熱電変換素子では、第一絶縁層を介在させてP型層とN型層とが交互に積層されてなる第一積層体において、第一絶縁層、P型層およびN型層の各端面が交互に並ぶ第一縞状面、第一縞状面の反対面である第二縞状面、および第一縞状面と第二縞状面との間の第三縞状面および第四縞状面が形成されており、P型層とN型層とを電気接続する第一電極は第三縞状面または第四縞状面に設けられている。したがって、電極が設けられていない第一縞状面および第二縞状面を熱源に接触させることができ、第一縞状面と第二縞状面との温度差を効率よく大きくでき、熱電変換効率のよい熱電変換素子が得られる。
【0014】
この積層型熱電変換素子は、好ましくは、前記第一積層体は、複数の前記P型層と複数の前記N型層とが前記第一絶縁層を介在させて交互に複数積層されており、複数の前記第一電極が、複数の前記P型層と複数の前記N型層とを電気的に直列に接続している。
【0015】
複数のP型層と複数のN型層とが隙間なく積層されて第一積層体を構成しているため、熱の受け渡しを行う対象物の面に対して、熱電変換材料(P型層およびN型層)を密度高く配置することができる。
【0016】
この積層型熱電変換素子は、好ましくは、複数の前記第一電極が前記第三縞状面及び前記第四縞状面に設けられている。この構造により、第三縞状面とその反対側の第四縞状面とに第一電極を適宜配置できるので、スペース効率をより向上させ、出力電圧密度を大きくできる。
【0017】
この積層型熱電変換素子は、好ましくは、前記第三縞状面に垂直な方向に並べられた複数の前記第一積層体と、これらの複数の前記第一積層体の間に配置された第二絶縁層と、を含む第二積層体と、前記第二絶縁層を介して隣接する二つの前記第一積層体の前記縞状面以外の面に設けられ、一方の前記第一積層体の前記P型層と他方の前記第一積層体の前記N型層とを接続する第二電極とを備える。
【0018】
換言すると、この積層型熱電変換素子は好ましくは、複数の第一積層体が第二絶縁層を介して第三縞状面と第三縞状面または第四縞状面とを対向させて積層されており、第二絶縁層に当接せず縞状面ではない面に設けられた第二電極によって、隣接する第一積層体同士が直列に接続されている。
【0019】
この積層型熱電変換素子は、好ましくは、前記第一縞状面に垂直な方向へ並べられた複数の前記第一積層体と、これら複数の前記第一積層体の間に配置された電気的絶縁性を有する第一伝熱層と、が積層されてなる第三積層体を備える。
【0020】
第三縞状面に垂直な方向に、また第一縞状面に垂直な方向に複数の第一積層体が並べられることで、熱の受け渡しを行う対象物(高温側、低温側)の面に対して、熱電変換材料(P型層およびN型層)を密度高く配置することができる。
【0021】
この積層型熱電変換素子は、好ましくは、前記積層型熱電変換素子が直方体形状をしており、前記第一縞状面および前記第二縞状面が前記第三縞状面と直交している。
【0022】
この積層型熱電変換素子では、好ましくは、前記第一絶縁層の積層方向の厚さが500μm以下である。
【0023】
積層型熱電変換素子を熱電変換モジュールで用いた場合、全体にかかる電圧は数ボルト程度であることから、第一絶縁層の厚さとしては500μm以下であっても十分に絶縁される。第一絶縁層が薄いほど、熱電変換モジュールにおけるセラミックス基板等の対象物の面に占める熱電変換材料(P型層およびN型層)の密度を高めることができる。
【0024】
前記第一絶縁層の積層方向の厚さは、前記P型層および前記N型層の積層方向の厚さの平均値の半分以下としてもよい。
【0025】
各積層型熱電変換素子においてP型層とN型層との間の第一絶縁層の厚さとしては10μm以上ある事が望ましい。10μm未満であると、起電力が大きくなった場合に絶縁破壊の可能性がある。
【0026】
この積層型熱電変換素子において、前記第一絶縁層は樹脂、セラミックス、ガラスのいずれかであるとよい。絶縁層の熱伝導率はP型層およびN型層の熱伝導率よりも小さく10W/mK以下であり、望ましくは5W/mK以下である。また、絶縁層の電気抵抗率はP型層およびN型層の電気抵抗率の100倍以上もしくは0.1Ωm以上であり、望ましくは1Ωm以上である。
【0027】
この積層型熱電変換素子において、前記第一縞状面と前記第二縞状面とに、電気絶縁性を有する第二伝熱層が配置されているとよい。この場合、高温側および低温側の接触対象に対して第二伝熱層により効率よく熱伝達を行うことができ、熱電変換素子の出力電圧を向上させることができる。
【0028】
この積層型熱電変換素子において、前記第二積層体において、前記第一電極は、前記第一積層体と前記第二絶縁層との間に配置されているとよい。換言すると、前記第二積層体において最も外側に積層された各前記第一積層体は、前記第一電極を内側に向けて配置されているとよい。
【0029】
この場合、内側に向けて配置された第一電極は第二絶縁層に接しており、隣接する第一積層体の電極には接触しない。この構造により、各第一積層体を接続する第一電極が大気に曝されないので、熱電変換素子の耐湿性を向上させることができる。なお、電極がAg製であれば、イオンマイグレーションの影響を低減できる。また、電極面が接近している場合は、間に絶縁層が設けられているとよい。
【0030】
この積層型熱電変換素子において、さらに、前記第二積層体および前記第二電極を被覆する絶縁コートを備えるとよい。この場合、素子及び、電極の酸化をより効果的に防止できる。
【0031】
本発明の積層型熱電変換素子の製造方法は、前記P型熱電変換材料で形成されたP型板材と、前記P型板材に隣接する前記第一絶縁層と、前記N型熱電変換材料で形成され前記第一絶縁層に隣接するN型板材とを積層して前記第一積層体を形成する積層体形成工程と、前記第一積層体の前記第三縞状面に、前記第一電極を設ける第一電極形成工程と、を備えている。
【0032】
この積層型熱電変換素子の製造方法では、前記P型層と前記N型層とを前記第一絶縁層を介して隙間を設けずに一体にした前記第一積層体を構成するので、熱電変換材料(P型層およびN型層)の密度を高くして製造することができる。
【0033】
本発明の積層型熱電変換素子の製造方法は、前記P型熱電変換材料で形成されたP型板材と、前記P型板材に隣接する前記第一絶縁層と、前記N型熱電変換材料で形成され前記第一絶縁層に隣接するN型板材とを積層して分割用接合体を形成する分割用接合体形成工程と、前記分割用接合体で各層が表れる側面に前記P型板材から前記N型板材にわたる電極を複数形成して電極付分割用接合体を形成する第一電極形成工程と、前記電極付分割用接合体を分割して、前記第一電極を備える複数の前記第一積層体を製造する分割工程と、を備えている。
【0034】
この積層型熱電変換素子の製造方法では、P型層とN型層の間に第一絶縁層を配置した積層構造を有する分割用接合体(大面積の接合体)を作るため、印刷などの方法で分割用接合体の側面に複数の電極の配設が容易である。電極付分割用接合体の分割の仕方は限定されるものではなく、例えば分割用接合体のいずれかの側面とこの反対にある側面に複数の電極を配設して、両側面の間で電極付分割用接合体を分割した後に分割片をさらに細分化することで、複数の積層型熱電変換素子を製造することができる。このように電極付分割用接合体を分割することで、生産性が向上する。
【0035】
この製造方法において、前記分割工程で、前記電極付分割用接合体と共に前記第一電極を切断してもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、セラミックス基板等の対象物(高温側、低温側)の面に対する熱電変換材料(P型層およびN型層)の接触面積が増大することで熱電変換材料(P型層およびN型層)を通過する熱流が大きくなり、従来の熱電変換モジュール(特許文献1の図1)に比べて、出力電圧密度を増加させることができる。
【0037】
また、高温側基板上で電極間に隙間を設けた従来のπ型構造の熱電変換モジュールでは、電極の腐食対策として隙間を樹脂で埋めたりする方法が従来提案されていたが、本発明の積層型熱電変換素子では、側面に電極が設けられているため、電極の腐食に対する処理を行い易い。
【0038】
さらに、P型層とN型層とが間に第一絶縁層を配置して積層されているため、P型層およびN型層の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子を示す斜視図である。
図2図1の積層型熱電変換素子を構成するP型素子(N型素子)および第一絶縁層を示す斜視図である。
図3図1の円で囲った部分の拡大図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子の第一積層体の変形前の状態を示す図である。
図5図4の第一積層体の変形後の状態を示す図である。
図6】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図7】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図8】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図9】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図10】本発明の第一実施形態に係る積層型熱電変換素子の変形例を示す斜視図である。
図11図10の積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図12図10の積層型熱電変換素子を製造する工程を説明するための図である。
図13図1の積層型熱電変換素子を用いた熱電変換モジュールを示す正面図である。
図14】本発明の第二実施形態に係る積層型熱電変換素子の構成を説明するための図である。
図15】本発明の第二実施形態に係る積層型熱電変換素子の構成を説明するための図である。
図16】本発明の第二実施形態に係る積層型熱電変換素子を示す斜視図である。
図17図16の積層型熱電変換素子の第二積層体の分解斜視図である。
図18】本発明の第二実施形態に係る積層型熱電変換素子の変形例を示す斜視図である。
図19図18の積層型熱電変換素子の複合体の分解斜視図である。
図20図18の積層型熱電変換素子を用いた熱電変換モジュールを示す正面図である。
図21】本発明の他の実施形態に係る積層型熱電変換素子を示す斜視図である。
図22】本発明の第三実施形態に係る積層型熱電変換素子を示す分解斜視図である。
図23図1の積層型熱電変換素子の第一積層体の変形例を示す斜視図である。
図24図1の積層型熱電変換素子の第一積層体の変形例を示す斜視図である。
図25】実施例1の熱電変換モジュールを示す正面図である。
図26図25の熱電変換モジュールにおける温度差と出力電圧密度との関係を示すグラフである。
図27】実施例2の熱電変換モジュールを示す正面図である。
図28図27の熱電変換モジュールにおける温度差と出力電圧密度との関係を示すグラフである。
図29】比較例の熱電変換モジュールを示す正面図である。
図30図29の熱電変換モジュールの構成を説明するための図である。
図31図29の熱電変換モジュールの構成を説明するための図である。
図32図29の熱電変換モジュールにおける温度差と出力電圧密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
(第一実施形態)
【0041】
図1に示すように、積層型熱電変換素子1は、第一積層体10と、この第一積層体10に取り付けられた複数の第一電極20A,20Bと、を備える。符号20Aは図1において上側に設けられた第一電極、符号20Bは下側に設けられた第一電極である。
【0042】
第一積層体10は、P型熱電変換材料で形成された複数(本実施形態では3個)のP型層11と、N型熱電変換材料で形成された複数(本実施形態では3個)のN型層12と、P型層11とN型層12との間に配置された複数(本実施形態では5個)の第一絶縁層13とからなる。第一積層体10において、複数のP型層11と複数のN型層12とが第一絶縁層13を間に配置して交互に積層されている。
【0043】
第一積層体10は、直方体形状をしており、その表面は、各層(P型層11,N型層12,第一絶縁層13)の端面が並んで縞状に表れる四つの縞状面1A~1Dと、P型層11又はN型層12のいずれかの平面が表れる二つの非縞状面1E,1Fとからなる。
【0044】
以下、縞状面のうちの一つを高温用の第一縞状面1A、この第一縞状面1Aの反対面を低温用の第二縞状面1B、残りの二つの縞状面を第三縞状面1C,第四縞状面1Dとする。図1において、第一積層体10の第一縞状面1Aを上端とし、第二縞状面1Bを下端として説明を進める。第一積層体10では、第三縞状面1C、一方の非縞状面1E、第四縞状面1D及び他方の非縞状面1Fがこの並びの順で第一積層体10の周方向に連なっており、これらを総称して第一積層体10の側面と呼ぶ場合がある。図面では、P型層11に「P」、N型層12に「N」を付している。
【0045】
第一積層体10で複数のP型層11はそれぞれ一つのP型素子として機能するものであり、以下、P型層をP型素子と呼ぶ場合があり、これと同様に、N型層をN型素子と呼ぶ場合がある。
【0046】
(P型層11とN型層12)
P型層11及びN型層12は、例えばテルル化合物、スクッテルダイト、充填スクッテルダイト、ホイスラー、ハーフホイスラー、クラストレート、シリサイド、酸化物、シリコンゲルマニウム等の焼結体により形成される。なお、ドーパントによりP型とN型の両方をとれる化合物と、P型かN型のどちらか一方のみの性質をもつ化合物がある。
【0047】
P型熱電変換材料として、BiTe、SbTe、PbTe、TAGS(=Ag‐Sb‐Ge‐Te)、ZnSb、CoSb、CeFeSb12、Yb14MnSb11、FeVAl、MnSi1.73、FeSi、NaxCoO、CaCo、BiSrCo、SiGe、Mn0.930.03Fe0.04Si1.7,P型HH(ハーフホイスラー)素子(Sn50at%-Ni25at%-Zr10at%-Ti15at%)などが用いられる。P型熱電変換材料は、ゼーベック係数100μV/K、電気伝導率3500S/cm、熱伝導率5.5W/mKである。
【0048】
N型熱電変換材料として、BiTe、PbTe、LaTe、CoSb、FeVAl、ZrNiSn、BaAl16Si30、MgSi、MgSiSn1-x(但し、x=0~1)、FeSi、SrTiO、CaMnO、ZnO、SiGe,N型HH(ハーフホイスラー)素子(Sb45at%-Fe20at%-Nb25at%-Ti5at%-V5at%)などが用いられる。N型熱電変換材料は、ゼーベック係数-150μV/K、電気伝導率1500S/cm、熱伝導率5.5W/mKである。
【0049】
例えば、マンガンシリサイドから形成されたP型層11、及びマグネシウムシリサイドから形成されたN型層12は、それぞれ母合金をボールミルにて粉砕して例えば粒径75μm以下の粉砕粉末を作製した後、粉砕粉末をプラズマ放電焼結、ホットプレス、熱間等方圧加圧法により焼結して、例えば角板状のバルク材に作製される。
【0050】
第一積層体10では、積層方向における、各P型層11の厚さtp1~tp3と各N型層12の厚さtn1~tn3とが同等に設定されている。
【0051】
個別のP型層11およびN型層12は、図2に示すように直方体形状をしている。
【0052】
P型層11は第一積層体10の表面を形成する四つの端面を有し、四つの端面のうちの一つが矩形の高温用の端面11A、この端面11Aの反対面が低温用の端面11B、残りの二つが高温用の端面11Aと低温用の端面11Bとの間で平行に延びる端面11C,11Dである。N型層12もP型層11と同様に、高温用の端面12A、この端面12Aの反対にある低温用の端面12B、端面12Aと端面12Bとの間で平行に延びる二つの端面12C,12Dを有する。
【0053】
また、P型層11は、前記の四つの端面11A,11B,11C,11Dに隣接して、第一絶縁層13との接合用に設けられた平面11E,11Fを有しており、この平面11E,11Fの全体で第一絶縁層13と接合する。N型層12もP型層11と同様に、第一絶縁層13との接合用に設けられた平面12E,12Fを有する。なお、平面11E,11F,12E,12Fは、第一絶縁層13と接合しない場合には、第一積層体10の外表面を形成する。
【0054】
P型層11およびN型層12において、好ましくは、矩形の高温用(低温用)の端面11A,11B,12A,12Bの各辺の寸法x1(tp1~tp3、tn1~tn3)、y1よりも高温用の端面11A,12Aと低温用の端面11B,12Bとの間の寸法z1を大きく設定されていて、端面11C,11D,12C,12Dが端面11A,11B,12A,12Bよりも大きく形成される。以下、図2に示すz1方向をP型層11やN型層12の長手方向、y1方向を積層方向と称す。
【0055】
第一積層体10におけるP型層11やN型層12の剥離を防止するためには、P型層11およびN型層12が第一絶縁層13との接合用の平面11E,11F,12E,12Fを有することに加えて、下記の追加条件1~4のいずれか又は組み合わせを満たすように第一積層体10を構成するとよい。
【0056】
追加条件1: P型層11の熱膨張係数と、N型層12の熱膨張率とがほぼ一致していること。
追加条件2: 第一電極20A,20Bの熱膨張係数と、P型層11及びN型層12の熱膨張率とがほぼ一致していること。
追加条件3: 第一絶縁層13の熱膨張係数と、P型層11及びN型層12の熱膨張率とがほぼ一致していること。
追加条件4: P型層11およびN型層12と第一電極20A,20Bとが反応してボイド等が生成されないこと。
【0057】
(第一絶縁層13)
第一絶縁層13は樹脂、セラミックス、ガラスのいずれかで形成されており、図2に示すように第一積層体10の表面を形成する四つの端面13A,13B,13C,13D、およびP型層11またはN型層12に接合される平面13E,13Fを有する。
【0058】
樹脂は、耐熱性樹脂等の熱伝導性の低い材料が望ましく、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂を用いることができる。セラミックスは、例えば、陶器、磁器、ステアタイト、コージライト、フォルステライト、ムライト、マセライト、マコール、ホトベール、ジルコニア、チタニア、イットリア、アルミナ、窒化ケイ素などを用いることができる。
【0059】
第一絶縁層13の物性値は、以下の通りである。
【0060】
・熱伝導率
熱電変換材料の熱伝導率よりも小さく、10W/mK以下である。望ましくは5W/mK以下である。
・電気抵抗率
熱電変換材料の電気抵抗率の100倍以上、もしくは、0.1Ωm以上である。望ましくは1Ωm以上である。
【0061】
積層型熱電変換素子1の大きさにも依るが、第一絶縁層13は、積層方向における厚さt3が下記の値v1、v2の内、少なくとも一方の値以下であるように形成される。好ましくは第一絶縁層13の厚さt3は値v1及び値v2の各値以下である。
値v1: 500μm
値v2: P型熱電変換材料(P型層11)およびN型熱電変換材料(N型層12)の積層方向の厚さ(tp1~tp3,tn1~tn3)の平均値を半分にした値
【0062】
図1に示すように第一積層体10が三つのP型層11(それぞれの厚さtp1,tp2,tp3)と三つのN型層12(それぞれの厚さtn1,tn2,tn3)で形成されている場合には、値v2は((tp1+tp2+tp3+tn1+tn2+tn3)/6)/2となる。
【0063】
なお、後述の熱電変換モジュール300,300A,300Bにかかる電圧が数ボルト程度であることから、例えば第一絶縁層13の厚さt3を10μm程度に設定することができ、好ましくは10μm以上とする。
【0064】
積層型熱電変換素子1では、好ましくは第一絶縁層13を流れる熱流を小さくする。熱の流量が熱伝導率に比例することから熱伝導率が低い第一絶縁層13を用いることが望ましい。
【0065】
第一積層体10では、P型層11,N型層12及び第一絶縁層13の端面11A,12A,13Aが面一状に連なって第一縞状面1Aが形成され、P型層11,N型層12及び第一絶縁層13の端面11B,12B,13Bが面一状に連なって第二縞状面1Bが形成され、P型層11,N型層12及び第一絶縁層13の端面11C,12C,13Cが面一状に連なって第三縞状面1Cが形成され、P型層11,N型層12及び第一絶縁層13の端面11D,12D,13Dが面一状に連なって第四縞状面1Dが形成されている。
【0066】
第一積層体10では、積層方向で最も外側(両端)に位置する熱電変換材料(P型層11又はN型層12)が最外層を形成し、二つ設けられていて、一方の最外層が非縞状面1Eを形成し、他方の最外層が非縞状面1Fを形成している。
【0067】
第一積層体10において、第一絶縁層13が厚い樹脂で形成されている場合は、積層型熱電変換素子1が可撓性を有し、フレキシブル熱電変換素子として形成することができる。
【0068】
例えば、図4に示す第一積層体101は、P型層11とN型層12とをそれぞれ二つ備え、さらに第一絶縁層13がP型層11とN型層12との間に配置されている。P型層11およびN型層12の厚さを平均した値(=(tp1+tp2+tn1+tn2)/4)をtpn、各第一絶縁層13の厚さ(t31,t32,t33)をt3として、第一絶縁層13の厚さt3は下記の式(1)に設定されている。
tpn/2 ≦ t3 ≦ tpn×2 (1)
【0069】
各第一絶縁層13の厚さt3が、P型層11およびN型層12の平均厚さtpnの半分以上であり、且つP型層11およびN型層12の平均厚さtpnの2倍以下であることで、図5に示すように、第一積層体101を撓ませることができる。
【0070】
例えば第一絶縁層13は耐熱温度が260℃以下のポリイミド樹脂で形成することができる。樹脂の耐熱温度によってフレキシブル熱電変換素子の使用可能な温度の上限が変わる。この耐熱温度の上限は、高分子の軟化温度(ガラス転移点Tg)よりも低い温度であり、高分子材料として利用できる温度の上限である。
【0071】
また、図示することを省略する粘着剤を用いて、第一絶縁層13とP型層11とを接合し、さらに第一絶縁層13とN型層12とを接合する場合には、粘着剤の耐熱温度と第一絶縁層13の耐熱温度の内、低い温度以下で使用可能である。
【0072】
このようなフレキシブル熱電変換素子では、第一絶縁層13とP型層11やN型層12との熱膨張率が相違している場合に第一絶縁層13が樹脂であると、熱応力が緩和されて、第一絶縁層13との熱膨張率差に由来するP型層11やN型層12の剥離の発生を抑えることができる。
【0073】
以下の説明では、図1の第一積層体10の構成を前提に説明を進める。
【0074】
(第一電極20A,20B)
第一電極20A,20Bは、第一積層体10の側面の内、各層の端面が表れる第三縞状面1Cに設けられている。第一電極20Aは第一縞状面1Aの縁E1に寄せて設けられ、第一電極20Bは第二縞状面1Bの縁E2に寄せて設けられている。
【0075】
上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとは、それぞれP型層11から一つの第一絶縁層13を間に配置して横に設けられたN型層12に亘って形成されている。これらの上部の第一電極20Aと下部の第一電極20BとがP型層11とN型層12とを交互に直列に電気的に接続している。
【0076】
上部電極20Aは、第一縞状面1Aの縁E1から離れていて、それらの間には第三縞状面1Cの一部が設けられている。
【0077】
第一電極20A,20Bは、Cu,Ag,Al,Ni,Au,Pt,Pd,Ti,V,Bi,Fe,Cr,Ta,W,Mo,In、Zn若しくはこれらの元素を一つ以上含む合金で形成されており、好ましくは電気抵抗率の低いCuを用いる。
【0078】
第一電極20A,20Bとしては、第一積層体10を構成する一つのP型素子、或いは一つのN型素子における電気抵抗の10%以下に相当するものが望ましい。
【0079】
例えば、原料BiTeを用いて図2に示す直方体型のP型素子(N型素子)として、端面11A,12Aの寸法が縦(x1)3mm,横(y1)3mmで、長さ(z1)が5mmにした場合には、電気抵抗率を1.0×10-5[Ωm]程度とすると、P型素子(N型素子)の電気抵抗は5.5mΩとなる。
【0080】
このようなP型素子(N型素子)に対し、Cu合金を用いて、P型層11からN型層12へ長く延びる矩形状の第一電極20A,20Bを形成した場合、例えば図3に示すようにP型素子(N型素子)の長手方向に沿った寸法z2が1mm、積層方向に沿った寸法y2が4mmとした矩形型で、厚さを0.1mmにすると、第一電極20A,20Bの電気抵抗は約0.3mΩとなる。
【0081】
このような第三縞状面1Cに設ける第一電極20A,20Bの形成方法は限定されるものではないが、印刷、めっき、スパッタリング、蒸着によって非焼結型の第一電極20A,20Bを第一積層体10の第三縞状面1Cに設けることができる。
【0082】
(外部配線部)
積層型熱電変換素子1では、図1に示すように、外部配線部31が非縞状面1Eを形成するP型層11に設けられ、具体的にはP型層11の第一電極20B側の端面11Bとは反対に位置する端面11Aに設けられている。また、外部配線部32が非縞状面1Fを形成するN型層12に設けられ、具体的にはN型層12の第一電極20B側の端面12Bとは反対に位置する端面12Aに設けられている。換言すると、外部配線部31,32は第一電極20A,20Bから離れた位置に設けられている。
【0083】
外部配線部31,32としては、P型素子やN型素子に固定した電極に限らず、積層型熱電変換素子1を収容するケースの内面などに設けられていてP型素子やN型素子に対して弾力的に接するスプリングなどのばね部材を電極として用いてもよい。
【0084】
また、外部配線部31,32は第三縞状面1Cに設けてもよい。
【0085】
(素子の製造)
次に、積層型熱電変換素子1の製造方法を説明する。この製造方法は、P型熱電変換材料で形成されたP型板材とN型熱電変換材料で形成されたN型板材とが間に絶縁材料を配置して積層方向に交互に設けられた積層構造を有する大面積の分割用接合体を形成する分割用接合体形成工程と、分割用接合体で各層が表れる側面に、P型板材からN型板材にわたる電極を複数設けて電極付分割用接合体を形成する第一電極形成工程と、電極付分割用接合体を複数の積層型熱電変換素子1に分割する分割工程と、を備えている。
【0086】
以下、工程別に説明する。
【0087】
(分割用接合体形成工程)
分割用接合体形成工程を行うに際しては、P型熱電変換材料を焼結して板状に形成された複数のP型板材と、N型熱電変換材料を焼結して板状に形成された複数のN型板材と、絶縁材料で形成された複数のシート状絶縁材料部材とを、予め用意しておく。P型板材、N型板材、シート状絶縁材料部材は平面視で同じ大きさで長方形型に形成されている。シート状絶縁材料部材としては、両面に粘着性を有するものを用いることができる。
【0088】
図6に示すように、P型板材110とN型板材120との間にシート状絶縁材料部材130を配置しながら、P型板材110とN型板材120とを交互に積層し、これらをシート状絶縁材料部材130で貼り合わせて、図7に示す直方体形状の分割用接合体200を製造する。
【0089】
なお、絶縁材料として、平面視での外形がP型板材110とN型板材120の同じ形でありセラミックスで形成された板材を用いる場合には、絶縁性の板材を間に配置しながらP型板材110とN型板材120とを積層方向に交互に配置して、これらを重ねた状態で焼結して、分割用接合体200を製造する。
【0090】
(電極形成工程)
電極形成工程では、図8に示すように、分割用接合体200の上面200Aの一方の長辺縁E3に沿った広い側面200Bと、この広い側面200Bの反対側に位置する他方の広い側面200Cとに第一電極20A,20Bを設けて、電極付分割用接合体201を形成する。換言すると、P型板材110、N型板材120およびシート状絶縁材料部材130が層状に現れている側面200B,200Cに、第一電極20A,20Bを設ける。
【0091】
第一電極20A,20Bとしては、複数の上部の第一電極20AがP型板材110、N型板材120およびシート状絶縁材料部材130の積層方向に並んだ上部電極列210と、この上部電極列210の位置から電極付分割用接合体201の各層の境界線Bが延びる境界方向へ離れた位置に設けられており複数の下部の第一電極20BがP型板材110、N型板材120およびシート状絶縁材料部材130の積層方向に並んだ下部電極列220と、が設けられる。上部電極20Aと下部電極20Bとは、P型板材からN型板材に亘って形成されている。
【0092】
電極付分割用接合体201では、上部電極列210と下部電極列220とを一組とした電極セットが側面200B,200Cに第一積層体10の各層の境界方向に並んで複数設けられる。一組の電極セットにおいて、上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとは、上端部(下端部)同士が同一層内で横に並ばないよう、第一電極20A及び第一電極20Bの一方がP型板材110(P型層11)或いはN型板材120(N型層12)の一層分、積層方向にオフセットして、設けられる。
【0093】
電極付分割用接合体201では、一組の電極セットにおける第一電極20Aと第一電極20Bの間隔W1が広く、各電極セットの間隔W2が狭く(W2<W1)、設定されている。
【0094】
(分割工程)
分割工程では、電極付分割用接合体201を複数の積層型熱電変換素子1に分割する。
【0095】
図9に示すように、電極付分割用接合体201を、その上面200Aに破線で示す、短辺縁と平行に延びる複数の切断ラインL1と、長辺縁E3と平行に延びる一つの切断ラインL2で分割する。分割工程では、広い側面200Bに設けた複数の電極セットが一組毎に分かれるよう、切断ラインL1が各電極セット間に設定され、広い側面200Bが区切られる。
【0096】
図示例では、電極付分割用接合体201から16個の積層型熱電変換素子1が製造される。なお、上面200Aの短辺縁を短く設定している場合には、一方の広い側面200Bにだけ電極を形成し、反対の側面200Cには電極を設けずに、切断ラインL2を設定せず、短辺縁と平行に延びる複数の切断ラインL1で電極付分割用接合体201を複数の積層型熱電変換素子1に分割してもよい。
【0097】
分割工程で作製した積層型熱電変換素子1では、第三縞状面1Cに設けられた複数の第一電極(上部の第一電極20A,下部の第一電極20B)が、P型板材110で形成されたP型層11とN型板材120で形成されたN型層12とを電気的に直列に接続している。
【0098】
この分割工程によって形成された積層型熱電変換素子1を、後述するように、第一板状部310と第二板状部320との間に配置して熱電変換モジュールを構成することができる。
【0099】
(電極の別の配置例)
前記の製造方法で製造した積層型熱電変換素子1では、上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとが図1に示すように第一積層体10の上下の第一縞状面1A,第二縞状面1Bの縁E1,E2から離れて設けられていたが、図10に示す積層型熱電変換素子2のように、上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとを第一積層体10の上下の第一縞状面1A,第二縞状面1Bの縁E1,E2に隣接させて(第三縞状面1Cの端部に)設けてもよい。
【0100】
この場合の電極製造工程では、図11に示すように、上部の第一電極20Aを二つ並べた大きさに相当する上部電極形成部21Aが積層方向に並ぶ上部電極列210Aと、この上部電極列210Aの位置から境界線Bが延びる境界方向へ離れた位置に設けられ下部の第一電極20Bを二つ並べた大きさに相当する下部電極形成部21Bが積層方向に並ぶ下部電極列210Bとを電極付分割用接合体202に設ける。この電極付分割用接合体202において、上部電極列210Aと下部電極列210Bとは、各層の境界線Bが延びる境界方向に等間隔W3で交互に並ぶように複数設けられる。
【0101】
上部電極形成部21Aと下部電極形成部21Bとは、隣接するP型板材110とN型板材120に亘って設けられている。上部電極形成部21Aと下部電極形成部21Bとは、上端部同士(下端部同士)が同一層内で横に並ばないよう、上部電極形成部21A及び下部電極形成部21Bの一方がP型板材110或いはN型板材120の一層分、積層方向にオフセットして、設けられる。
【0102】
分割工程では、図12に破線で示す切断ラインL1,L2に沿って、電極付分割用接合体202を複数の積層型熱電変換素子1に分割する。この分割の際に、1つの上部電極形成部21Aを二つの上部電極20Aに分け、また1つの下部電極形成部21Bを二つの下部電極20Bに分ける。これにより、切り出した積層型熱電変換素子1では、図10に示すように、上部電極20Aが第一縞状面1Aの縁E1に隣接して設けられ、下部電極20Bが第二縞状面1Bの縁E2に隣接して設けられる。
【0103】
上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとがそれぞれ第一縞状面1Aを第二縞状面1Bに隣接して設けられると、上部電極20Aと下部電極20Bとを第一縞状面1Aや第二縞状面1Bの縁E1,E2から離れて設ける場合に比べて、各P型層11と各N型層12とにおいて上部の第一電極20Aと下部の第一電極20Bとの間の長手方向に沿った距離が長くなり、上部の第一電極20Aが接合された部分と下部の第一電極20Bが接合された部分との間でP型層11またはN型層12の温度差が大きくなる。これにより発生する起電力が増大する。
【0104】
(熱電変換モジュール300)
次に積層型熱電変換素子1を用いた熱電変換モジュール300を説明する。
【0105】
図13に示すように、熱電変換モジュール300は、板状に形成されていて高温用に設けられる第一板状部310と、板状に形成されていて低温用に設けられる第二板状部320と、第一板状部310と第二板状部320との間に設けられる積層型熱電変換素子1と、第一板状部310と積層型熱電変換素子1との間に設けられ電気的絶縁性を有する第二伝熱層331と、第二板状部320と積層型熱電変換素子1との間に設けられ電気的絶縁性を有する第二伝熱層331,332と、を備えている。
【0106】
なお、第一板状部310の絶縁性が高ければ、第二伝熱層331は必ずしも設けなくてもよい。反対に、第一板状部310が金属である場合は、第二伝熱層331は必要である。
【0107】
第一板状部310と第二板状部320とは、熱抵抗の小さいものが望ましく、樹脂、熱伝導性の高いセラミックスや金属のいずれかで形成され、例えば熱伝導シートを用いることもできる。
【0108】
第二伝熱層331,332は、熱抵抗が小さく更に電気的絶縁性を有する樹脂又はセラミックスで形成されている。第二伝熱層331,332の厚さtd1,td2は例えば10μm~10mmである。
【0109】
これらの第二伝熱層331,332の厚さtd1,td2を変えることで、積層型熱電変換素子1の温度制御を行うことができる。例えば高温用の第一板状部310に接合する第二伝熱層331の厚さtd1を、低温用の第二板状部320に接合する第二伝熱層332の厚さtd2よりも厚く(td1>td2)した場合、高温用の第一板状部310と第二伝熱層331を経て積層型熱電変換素子1に流入する熱の量が制限されて、積層型熱電変換素子1を所定の温度以下にすることができる。
【0110】
積層型熱電変換素子1は、第二伝熱層331を介して第一縞状面1Aを第一板状部310の内側の面に接合しており、また第二伝熱層332を介して下の第二縞状面1Bを第二板状部320の内側の面に接合している。
【0111】
第一板状部310と第二板状部320とが導電性を示す材料の場合には、第二伝熱層331,332を第一板状部310(第二板状部320)と積層型熱電変換素子との間に設ける必要があるが、第一板状部310と第二板状部320とが樹脂やセラミックス等の絶縁材料で形成されている場合は、第二伝熱層331、332を省いて、積層型熱電変換素子1の第一縞状面1Aを第一板状部310の内側の面に接合させ、また第二縞状面1Bを第二板状部320の内側の面に接合させてもよい。
【0112】
例えば第一板状部310の外側に図示省略の高温の熱源を配置し、第二板状部320の外側に図示省略の冷却用の装置を配置して、熱電変換モジュール300を用いられる。この場合、第一板状部310と第二板状部320と間の温度差に応じた起電力が発生することにより、熱電変換材料(P型素子とN型素子)の配列の両端の外部配線部31,32間に、各P型素子,N型素子に生じる起電力の総和の電位差が得られる。
【0113】
第一実施形態の積層型熱電変換素子1は、P型層11とN型層12とが第一絶縁層13を間に配置して積層して構成されていて、さらにP型層11とN型層12とを電気的に接続する第一電極(上部の電極20Aと下部の電極20B)を第一板状部310や第二板状部320と接触しない側面(第三縞状面1C)に設けているので、各層の端面が並んで構成された高温用の第一縞状面1Aや低温用の第二縞状面1Bの全体を、第一板状部310や第二板状部320に接合させることができる。
【0114】
この積層型熱電変換素子1を用いた熱電変換モジュール300では、高温の熱源からの熱を、第一板状部310から第一縞状面1Aを経て各熱電変換材料内へ流入させることができ、また熱を各熱電変換材料から第二縞状面1B経て第二板状部320へ流出させることができる。
【0115】
従来の一体型熱電変換素子(特許文献1の図1)では、上下面の一部に設けた各電極で高温側と低温側それぞれに設けた絶縁基板に接合しているため、電極を介してP型やN型の熱電変換材料を通過する熱流が小さくなってしまう。
【0116】
第一実施形態の積層型熱電変換素子1は、高温用の第一縞状面1A(低温用の第二縞状面1B)の全体を第一板状部310(第二板状部320)の内側の面に接触させるため、従来の一体型熱電変換素子(特許文献1)と比べて、各熱電変換材料を通過する熱流が多くなり、これにより単位面積当たりの発電性能(出力電圧密度)を向上させることができる。
【0117】
従来の一体型熱電変換素子(特許文献1の図2)では、P型の熱電材料とN型の熱電材料との間にこれらよりも面積の小さいセラミックスを配置すると共に、セラミックスが介在しない箇所を直に接続していて、P型の熱電材料とN型の熱電材料とはそれぞれ積層方向の厚さが接続箇所と絶縁箇所とで相違している。このように厚さが異なると、一体型熱電変換素子の温度変化による熱膨張などで接続箇所が剥離してしまうおそれがあった。
【0118】
一方、第一実施形態の積層型熱電変換素子1の第一積層体10では、P型層11とN型層12とがそれぞれ第一絶縁層13との接合用の平面11E,11F,12E,12Fを有していると共に、平面11E,11F,12E,12Fの全体で第一絶縁層13と接合して、P型層11とN型層12とが間に第一絶縁層13を配置して積層されているため、P型層11とN型層12の剥離を防止することができる。
【0119】
さらに、従来の一体型熱電変換素子(特許文献1の図2)ではP型とN型の熱電材料が直に接合して、空乏層(キャリアがほとんどなく、電気的に絶縁された領域)が発生するため室温から200℃程度の範囲では電気抵抗が大きく出力が大幅に低下する。これに対して、本発明では、第一絶縁層13によって熱的及び電気的に絶縁されたP型層11とN型層12とが第一積層体10の第三縞状面1Cに設けた第一電極20A,20Bで接続されているため、従来の一体型熱電変換素子(特許文献1の図2)での問題は生じず、P型層11やN型層12で発生する起電力を良好に出力することができる。
【0120】
(第二実施形態)
前記第一実施形態では、積層型熱電変換素子1が一つの第一積層体10とこの第一積層体10の第三縞状面1Cに設けた複数の第一電極20A,20Bとで構成されていたが、第二実施形態の積層型熱電変換素子2Aは、第一電極20A,20Bを設けた複数の第一積層体10と、第一積層体10間を電気的に接続する第二電極61と、を備えている(図16参照)。
【0121】
第二実施形態の積層型熱電変換素子2Aでは、複数の第一積層体10は下記の配置P1及び配置P2の少なくとも一方に従って配置されている。
【0122】
配置P1: 図14に示すように、第一電極20A,20Bを設けた第一積層体10が第三縞状面1Cに垂直な方向に複数積層され、各第一積層体10の間に第二絶縁層41が配置されて、第二積層体40が構成される。
【0123】
配置P2: 図15に示すように、第一電極20A,20Bを設けた第一積層体10が第一縞状面1Aに垂直な方向に複数積層され、各第一積層体10の間に第一伝熱層42が配置されて、第三積層体140が構成される。
【0124】
図14,15では、説明上、各第一積層体10を離して表しているが、各第一積層体10は第二絶縁層41または第一伝熱層42を介して密接される。。また、図18に示すように、配置P1及び配置P2の両方に従って複数の第一積層体10を積層させて複合体(第二積層体40であると共に、第三積層体140でもある第四積層体)を構成してもよい。
【0125】
第二絶縁層41は、電気絶縁性を有する樹脂又はセラミックス、ガラスなどからなり、並設された第一積層体10間での熱と電気の移動を抑える。熱伝導率が小さいものが特に好ましく、第一積層体10の第一絶縁層13と同じ絶縁材料を用いることができる。第二絶縁層41の厚さt4は、第一電極20A,20Bの厚さの2倍程度であり、例えば0.2mmとすることができる。
【0126】
第一伝熱層42は、第二伝熱層331,332と同様に、熱抵抗が小さく更に電気的絶縁性を有する樹脂又はセラミックスからなる。第一伝熱層42の厚さt5は、例えば50μmとすることができる。
【0127】
図16に示す積層型熱電変換素子2Aでは、第一電極20A,20Bを設けた三つの第一積層体10A,10B,10Cが前記の配置P1に従って積層されて、第二積層体40が構成されている。図17は、図16の第二積層体40の分解斜視図であり、奥行き方向に手前から順に第一積層体10A,10B,10Cが並んでいる。
【0128】
第二絶縁層41は、例えばフィルム状に形成されていて図示例では二枚設けられている。前側の第二絶縁層41が第一積層体10Aの第四縞状面1D(第一電極20A,20Bが設けられていない面)と第一積層体10Bの第三縞状面1C(第一電極20A,20Bが設けられている面)とに挟まれており、後側の第二絶縁層41が第一積層体10Bの第四縞状面1D(第一電極20A,20Bが設けられていない面)と第一積層体10Cの第三縞状面1C(第一電極20A,20Bが設けられている面)とに挟まれている。
【0129】
第二積層体40は、図16に示すように、直方体形状をしており、高温用の端面40Aと、この端面40Aの反対側に設けられる低温用の端面40Bと、端面40Aの縁から端面40Bまで延びた側面と、を有する。
【0130】
高温用の端面40Aは、複数の第一積層体10A,10B,10Cの各第一縞状面1Aが第二絶縁層41の端面41Aを間に配置して面一状に連なって形成されている。低温用の端面40Bは、複数の第一積層体10A,10B,10Cの各第二縞状面1Bが第二絶縁層41の端面を間に配置して面一状に連なって形成されている。
【0131】
第二積層体40の側面は、第一積層体10Aの第三縞状面1Cで形成された第一側面40Cと、第一積層体10Cの第四縞状面1Dで形成された第二側面40Dと、第一側面40Cの縁から第二側面40Dの縁まで延びて各第一積層体10A,10B,10Cの各非縞状面1Eが第二絶縁層41の端面を間に配置して面一状に連なる第三側面40Eと、第一側面40Cの縁から第二側面40Dの縁まで延びていると共に第三側面40Eの反対側に形成されていて各第一積層体10A,10B,10Cの各非縞状面1Fが第二絶縁層41の端面41Dを間に配置して面一状に連なる第四側面40Fと、からなる。
【0132】
第四側面40Fには、第一積層体10Aと第一積層体10Bとをつなぐ第二電極61を設けている。第三側面40Eには、第一積層体10Bと第一積層体10Cとをつなぐ第二電極62を設けている。これらの第二電極61,62は、第一積層体10A,10B,10Cの第一電極20A,20Bと同様に、Cu,Ag,Al,Ni,Au,Pt,Pd,Ti,V,Bi,Fe,Cr,Ta,W,Mo,In,Zn、若しくはこれらの元素を一つ以上含む合金で形成されており、好ましくは電気抵抗率の低いCuを用いる。第二電極61,62としては、第一積層体10を構成する一つのP型素子、或いは一つのN型素子における電気抵抗の10%以下に相当するものが望ましい。
【0133】
図17に示すように、第二絶縁層41を介して隣接する二つの第一積層体10A,10Bでは、第一積層体10AのP型層11とN型層12の積層方向の並び(P,N,P,N,P,Nの順で並んでいること)と、第一積層体10BのP型層11とN型層12の積層方向の並び(N,P,N,P,N,Pの順で並んでいること)とが相違している。第一積層体10B,10Cにおいても同様に、P型層11とN型層12の積層方向の並びが相違している。
【0134】
第三側面40Eでは、各第一積層体10A,10B,10Cの各非縞状面1Eとして、P型層11とN型層12とが第三縞状面1Cに垂直な方向で交互に並んでいる。第四側面40Fでは、各第一積層体10A,10B,10Cの各非縞状面1Fとして、P型層11とN型層12とが第三縞状面1Cに垂直な方向で交互に並んでいる。積層型熱電変換素子2Aでは、第二積層体40の第四側面40Fに第二電極61を設け、第二積層体40の第三側面40Eに第二電極62を設けている。
【0135】
第二電極61は、第一積層体10AのN型素子(N型層12)と第一積層体10BのP型素子(P型層11)とを接続している。第二電極61は、第四側面40Fを形成する第一積層体10AのN型素子(図17に示されるN型層112)では、第一電極20B側の端面12Bとは反対にある端面12Aに寄せて、第一積層体10Aの非縞状面1Fに設けられている。また、第二電極61は、第四側面40Fを形成する第一積層体10BのP型素子(図17に示されるP型層211)では、第一電極20B側の端面11Bとは反対にある端面11Aに寄せて、第一積層体10Bの非縞状面1Fに設けられている。
【0136】
図17に模式的に実線で示すように、第二電極62は第一積層体10BのN型素子(N型層12)と第一積層体10CのP型素子(P型層11)をつないでいる。第二電極62は、第三側面40Eを形成する第一積層体10BのN型素子(図17に示されるN型層212)では、第一電極20B側の端面12Bとは反対にある端面12Aに寄せて、第一積層体10Bの非縞状面1Eに設けられている。また、第二電極62は、第三側面40Eを形成する第一積層体10CのP型素子(図17に示されるP型層311)では、第一電極20B側の端面11Bとは反対にある端面11Aに寄せて、第一積層体10Cの非縞状面1Eに設けられている。
【0137】
このように、第二電極61,62を第二積層体40の側面、具体的には各第一積層体10A,10B,10Cの各非縞状面1E,1Fを利用して設けることで、各第一積層体10A,10B,10Cを構成するP型素子(P型層11)とN型素子(N型層12)とが直列に電気的に接続される。
【0138】
(外部配線部)
さらに、図17に示すように、積層型熱電変換素子2Aでは、積層された第一積層体10A,10B,10Cの内、第二電極61が接続されていない第一積層体10Cの非縞状面1Fに板状の外部配線部32を設けているとともに、第二電極62が接続されていない第一積層体10Aの非縞状面1Eに、板状の外部配線部31を設けている。
【0139】
第一積層体10Aでは、外部配線部31が,第二電極61を接続していない非縞状面1Eを有するP型素子(図17に示されるP型層111)で電極20B側の端面11Bとは反対にある端面11Aに接合されている。第一積層体10Cでは、外部配線部32が,第二電極61を接続していない非縞状面1Fを有するN型素子(図17に示されるN型層312)で電極20B側の端面12Bとは反対にある端面12Aに接合されている。
【0140】
外部配線部31,32は第一積層体10Aの第三縞状面1Cや,第一積層体10Cの第四縞状面1Dに設けてもよい。
【0141】
このように作製された積層型熱電変換素子2Aを用いた熱電変換モジュール300Aでは、図13に示すように、積層型熱電変換素子2Aは、第一板状部310と第二板状部320との間に配置される。第一板状部310と第二板状部320が導電性を示す材料で形成される場合には、積層型熱電変換素子2Aの端面40Aを第二伝熱層331で覆い、端面40Bを第二伝熱層332で覆った後に、端面40Aが第二伝熱層331を介して第一板状部310の内側の面に接合され、また端面40Bが第二伝熱層332を介して第二板状部320の内側の面に接合される。
【0142】
このように構成された熱電変換モジュール300Aが使用される場合は、例えば第一板状部310を図示省略の高温の熱源に接触させ、第二板状部320を図示省略の冷却装置に接触させて、第一板状部310と第二板状部320と間の温度差に応じた起電力が発生することにより、各素子の配列の両端の外部配線部31,32間に、各P型素子,N型素子に生じる起電力の総和の電位差が得られる。
【0143】
第二実施形態の積層型熱電変換素子2Aによれば、P型素子(P型層11)とN型素子(N型層12)とが隙間を設けずに第一絶縁層13や第二絶縁層41を介して積層されていて、P型素子とN型素子とを接続する第一電極20A,20Bや第二電極61,62が第一積層体10や第二積層体40の側面に設けられて、高温用の端面40A(低温用の端面40B)の全体を第一板状部310(第二板状部320)の内側の面に接触させることができる。
【0144】
一方、特許文献1に示す従来の熱電変換モジュールでは、一体型熱電変換素子が隙間を設けて並設した電極を介して高温側基板(低温側基板)に接合するため、高温側基板(低温側基板)の面積に対する熱電変換の効率が低くなる。
【0145】
本実施形態では、高温用の端面40A(低温用の端面40B)の全体を第一板状部310(第二板状部320)に接触させるため、従来の一体型熱電変換素子(特許文献1)と比べて、各熱電変換材料を通過する熱流が多くなり、これにより単位面積当たりの発電性能を向上させることができる。
【0146】
(複数の第一積層体の他の配置例)
図18に示す積層型熱電変換素子2Bでは、第一積層体10と同じ構成の四つの第一積層体L1,L2,H1,H2が前記配置P1と前記配置P2とに従って配置されて、直方体形状の複合体240が構成されている。四つの第一積層体L1,L2,H1,H2の内、二つの第一積層体L1,L2が複合体240の下部40Lを構成し、残りの二つの第一積層体H1,H2が複合体240の上部40Hを構成している。
【0147】
図19に示すように、下部40Lでは、二つの第一積層体L1,L2が第二絶縁層41を間に配置して第三縞状面1Cに垂直な方向に積層されている。上部40Hでも、二つの第一積層体H1,H2が第二絶縁層41を間に配置して第三縞状面1Cに垂直な方向に積層されている。
【0148】
下部40Lと上部40Hとの間に第一伝熱層42が配置されていて、これにより下部40Lの第一積層体L1と上部40Hの第一積層体H1とが、また下部40Lの第一積層体L2と上部40Hの第一積層体H2とが、それぞれ第一伝熱層42を間に配して第一縞状面1A(端面40)に垂直な方向に積層されている。
【0149】
なお、複合体240では、下部40Lと上部40Hとで同じP型熱電変換材料でP型層11を形成し、同じN型熱電変換材料でN型層12を形成する場合に限らず、下部40Lと上部40Hとで異なる熱電変換材料でP型層11やN型層12が形成されてもよい。
【0150】
複合体240は、図18に示すように、高温用の端面40Aと、この端面40Aの反対側に設けられる低温用の端面40Bと、端面40Aの縁から端面40Bまで延びた側面と、を有する。端面40Aは、上部40Hの各第一積層体H1,H2の各第一縞状面1Aと、これら第一積層体H1,H2の間に配置された第二絶縁層41の端面とが面一状に連なって形成されている。端面40Bは、下部40Lの各第一積層体L1,L2の第二縞状面1Bと、これら第一積層体L1,L2の間に配置された第二絶縁層41の端面とが面一状に連なって形成されている。
【0151】
複合体240の側面は、第一積層体L1,H1の各第三縞状面1Cとこれら第一積層体L1,H1の間に配置された第一伝熱層42の端面とが面一状に連なる第一側面40Cと、この第一側面40Cの反対側に形成されていて第一積層体L2,H2の各第四縞状面1Dとこれら第一積層体L1,H1の間に配置された第一伝熱層42の端面とが面一状に連なる第二側面40Dと、各第一積層体L1,L2,H1,H2の各非縞状面1Eとこれら第一積層体L1,L2,H1,H2の間に配置された第二絶縁層41の各端面と第一伝熱層42の端面とが面一状に連なって形成され第一側面40Cの縁から第二側面40Dの縁まで延びる第三側面40Eと、各第一積層体L1,L2,H1,H2の各非縞状面1Fとこれら各第一積層体L1,L2,H1,H2の間に配置された各第二絶縁層41の各端面と第一伝熱層42の端面とが面一状に連なって形成され第三側面40Eの反対側で第一側面40Cの縁から第二側面40Dの縁まで延びる第四側面40Fと、からなる。
【0152】
積層型熱電変換素子2Bでは、複合体240を構成する四つの第一積層体L1,L2,H1,H2が第三側面40Eおよび第四側面40Fに設けられた電極61,81で接続されている。すなわち、第三側面40Eに設けられ第一積層体H1,L1を接続する第三電極81と、第四側面40Fに設けられ第一積層体L1,L2を接続する第二電極61と、第四側面40Fに設けられ第一積層体L2,H2を接続する第三電極81とによって、第一積層体L1,L2,H1,H2は直列に接続されている。
【0153】
図示例の複合体240では、二つの第一積層体L1,L2をつなぐ第二電極61が第三側面40Eに設けられており、さらに二つの第三電極81,82が第四側面40Fに設けられている。一方の第三電極81が第一積層体L1と第一積層体H1とを接続し、他方の第三電極82が第一積層体L2と第一積層体H2とを接続している。
【0154】
第三電極81,82は、第二電極61と同様に、Cu,Ag,Al,Ni,Au,Pt,Pd,Ti,V,Bi,Fe,Cr,Ta,W,Mo,In,Zn、若しくはこれらの元素を一つ以上含む合金で形成されており、好ましくは電気抵抗率の低いCuを用いる。第三電極81,82としては、第一積層体L1,L2,H1,H2を構成する一つのP型素子、或いは一つのN型素子における電気抵抗の10%以下に相当するものが望ましい。
【0155】
図19に示すように、下部40Lにおいて第二絶縁層41を介して隣接する二つの第一積層体L1,L2では、第一積層体L1のP型層11とN型層12の積層方向の並び(P,N,P,N,Pの順で並んでいること)と、第一積層体L2のP型層11とN型層12の積層方向の並び(N,P,N,P,Nの順で並んでいること)とが相違している。上部40Hにおいても同様に、第一積層体H1と第一積層体H2とは、P型層11とN型層12の積層方向の並びが相違している。
【0156】
第三側面40Eでは、第一積層体L1のP型層211と第一積層体L2のN型層112とが、第二絶縁層41を介して隣接しており、図19に模式的に実線で示すように第二電極61で接続されている。
【0157】
第二電極61は、第三側面40Eを形成する第一積層体L1のP型層211では、第一電極20A側の端面11Aとは反対にある端面11Bに寄せて、第一積層体L1の非縞状面1Eに設けられている。また、第二電極61は、第三側面40Eを形成する第一積層体L2のN型層112では、第一電極20A側の端面12Aとは反対にある端面12Bに寄せて、第一積層体L2の非縞状面1Eに設けられている。
【0158】
さらに、図19に示すように、第一伝熱層42を介して隣接する二つの第一積層体L1,H1では、P型層11とN型層12の積層方向の並びが同じで、それぞれP,N,P,N,Pの順で並んでいる。第一伝熱層42を介して隣接する二つの第一積層体L2,H2においても、P型層11とN型層12の積層方向の並びが同じで、それぞれN,P,N,P,Nの順で並んでいる。
【0159】
図18に示すように、第三電極81が第四側面40Fに設けられていて、第一積層体L1のP型層11Lと第一積層体H1のP型層11Hとを電気的に接続している。
【0160】
第三電極81は、第一積層体L1の非縞状面1Fと第一積層体H1の非縞状面1Fとに亘って形成されており、具体的には第一積層体L1の第一伝熱層42寄りの箇所と第一積層体H1の第一伝熱層42寄りの箇所とを接続している。
【0161】
第三電極81で接続された第一積層体L1のP型層11Lの第一電極20Bと第一積層体H1のP型層11Hの第一電極20Aとは、第三電極81から離して設けられている。すなわち、第一積層体L1においてP型層11Lに取り付けられた第一電極20Bは端面11Bに寄せられ、第一積層体H1においてP型層11Hに取り付けられた第一電極20Aは端面11Aに寄せられている。
【0162】
さらに第四側面40Fには第三電極82が設けられていて、第一積層体L2のN型層12Lと第一積層体H2のN型層12Hとを電気的に接続している。
【0163】
第三電極82は、第一積層体L2の非縞状面1Fと第一積層体H2の非縞状面1Fとに亘って形成されており、具体的には第一積層体L2の第一伝熱層42寄りの箇所と第一積層体H2の第一伝熱層42寄りの箇所とを第一伝熱層42を介して接続している。
【0164】
第三電極82で接続された第一積層体L2のN型層12Lの第一電極20Bと第一積層体H2のN型層12Hの第一電極20Aとは、第三電極82から離して設けられている。すなわち、第一積層体L2においてN型層12Lに取り付けられた第一電極20Bは端面12Bに寄せられ、第一積層体H2においてN型層12Hに取り付けられた第一電極20Aは端面12Aに寄せられている。
【0165】
このように、第二電極61および第三電極81,82を複合体240の側面40D,40E、具体的には各第一積層体L1,L2,H1,H2の各非縞状面1E,1Fを利用して設けることで、各第一積層体L1,L2,H1,H2を構成するP型素子とN型素子とが直列に電気的に接続される。
【0166】
(外部配線部)
図19に示すように、積層された第一積層体L1,L2,H1,H2の内、第二電極61が設けられていない非縞状面1Eを有する第一積層体H1,H2に、板状の外部配線部31,32が設けられている。
【0167】
第一積層体H1に対して、第二電極61や第三電極81,82が設けられていない非縞状面1Eを有するP型層11tの、電極20B側の端面11Bとは反対の端面11Aに、外部配線部31が接合されている。第一積層体H2に対して、第二電極61や第三電極81,82を接続していない非縞状面1Eを有するN型層12tの、電極20B側の端面12Bとは反対の端面12Aに、外部配線部32が接合されている。
【0168】
なお、外部配線部31,32は第一積層体H1の第三縞状面1Cや,第一積層体H2の第四縞状面1Dに設けてもよい。換言すると、外部配線部31は複合体240の第一側面40C上、外部配線部32は第2側面40D上の、それぞれ端面40Aに近い位置に設けてもよい。
【0169】
このように作製された積層型熱電変換素子2Bを用いた熱電変換モジュール300Bでは、図20に示すように、積層型熱電変換素子2Bは第一板状部310と第二板状部320との間に配置される。第一板状部310と第二板状部320が導電性を示す材料で形成される場合には、積層型熱電変換素子2の端面40Aを電気絶縁性を有する第二伝熱層331で覆い、端面40Bも電気絶縁性を有する第二伝熱層332で覆った後に、端面40Aが第二伝熱層331を介して第一板状部310の内側の面に接合され、また端面40Bが第二伝熱層332を介して第二板状部320の内側の面に接合される。
【0170】
例えば第一板状部310を図示省略の高温の熱源に接触させ、第二板状部320を図示省略の冷却装置に接触させると、複合体240では、熱源から冷却装置に向けて熱が流れる。すなわち、熱は、第一板状部310及び第二伝熱層331を介して端面40Aから上部40H内へ流入して、上部40Hの各P型素子やN型素子、第一伝熱層42を経て下部40L内へ流入し、下部40Lの各P型素子やN型素子を通じて端面40Bに向けて流れ、第二伝熱層332及び第二板状部320へ移動する。これにより、第一板状部310と第二板状部320と間の温度差に応じた起電力が発生し、各素子の配列の両端の外部配線部31,32間に、各P型素子,N型素子に生じる起電力の総和の電位差が得られる。
【0171】
図17~20に示される第二実施形態の変形例の積層型熱電変換素子2Bは、前記の積層型熱電変換素子2(第十子形態の変形例)と同様に、高温用の端面40A(低温用の端面40B)の全体を第一板状部310(第二板状部320)に接触させるため、従来の一体型熱電変換素子(特許文献1)と比べて、各熱電変換材料を通過する熱流が多くなり、これにより単位面積当たりの発電性能を向上させることができる。
【0172】
以上説明したが、本発明は、上記の説明や図示例に限定することなく、実施することができる。例えば、積層型熱電変換素子に設けるP型層やN型層の寸法や数、接合体の寸法は、寸法の比率や設ける素子の数を変えて実施することができることは勿論である。第二積層体、第三積層体及び複合体のいずれにおいても、第一積層体の積層数は図示例に限るものではない。使用方法も前記の実施形態に限らず、ペルチェ効果による電子冷却・発熱を発現する積層型熱電変換素子として利用することもできる。
【0173】
図21は本発明の他の実施形態に係る積層型熱電変換素子3を示す斜視図である。この積層型熱電変換素子3は、P型層11とN型層12とを一つずつ設けていて、これらの間に第一絶縁層13が配置されている。外部配線部31がP型層11の端面11Aに設けられ、外部配線部32がN型層の端面12Aに設けられている。これら外部配線部31,32とは反対にある第二縞状面1Bの縁E2に寄せて、第一電極20Bが第三縞状面1Cに設けられている。なお、下部の第一電極20Bに代えて上部の第一電極20Aを第一縞状面1Aの縁E1に寄せて設けると共に、外部配線部31,32を第二縞状面1B側(端面11B,12B)に配置してもよい。また、外部配線部31,32は第三縞状面1Cに設けてもよい。
【0174】
(製造方法)
熱電変換モジュールの製造は、電極付分割用接合体201を分割して積層型熱電変換素子1の製造を行う方法に限らず、分割せずに単体として個別に作製してもよい。この場合、電極付分割用接合体201を用いずに積層型熱電変換素子1を作製するので、前述した分割用接合体200を作製する「分割用接合体形成工程」、電極付分割用接合体201を作製する「第一電極形成工程」、電極付分割用接合体201を分割して複数の第一電極が設けられた第一積層体を作製する「分割工程」に代えて、以下の「積層体形成工程」と「第一電極形成工程」とを備えている。
【0175】
「積層体形成工程」では、P型熱電変換材料で形成されたP型板材と、N型熱電変換材料で形成されたN型板材と、これら板材の間に配置された第一絶縁層とを積層して第一積層体を形成する。「第一電極形成工程」では、第一積層体の第三縞状面に、第一電極を形成する。このようにして作製した積層型熱電変換素子1を第一板状部310と第二板状部320との間に配置することで、熱電変換モジュールを製造することができる。
【0176】
(第一電極の配置)
前記第一実施形態などでは、第一電極(上部の第一電極20Aと下部の第一電極20B)が第一積層体の一つの面(第三縞状面1C)に配置されていたが、第一積層体がP型層11とN型層12との間に第一絶縁層13を配置して複数積層して構成されている場合には、第一積層体10のP型層11とN型層12とをつなぐ複数の第一電極20A,20Bは、高温用の第一縞状面1Aと低温用の第二縞状面1B以外の縞状面(第三縞状面、第四縞状面)に分散して配置することができる。
【0177】
例えば図22及び図23の第一積層体10Dは、複数の縞状面(高温用の第一縞状面1A、低温用の第二縞状面1B、第三縞状面1C,第四縞状面1D)を有し、複数の第一電極20Aが第三縞状面1Cの上部に形成され、複数の第一電極20Bが第四縞状面1Dの下部に形成されている。複数の第一電極20A,20Bを一つの面(第三縞状面1C)に配置する場合に比べて、上部第一電極20Aに対して下部の第一電極20Bが反対の面に配置されることで、第一電極20Aから第一電極20Bまでの直線距離が長くなり、発生する起電力が増大する。
【0178】
第一電極の好ましい配置の一例として、第3実施形態に係る積層型熱電変換素子540を図22に示す。この積層型熱電変換素子500は、第一積層体510,511と第二絶縁板41とが交互に積層された第二積層体540と、第二積層体540に取り付けられた外部配線部31,32とを備える。ここで、前述した各実施形態における要素と同様の要素については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0179】
積層型熱電変換素子500を構成する第二積層体540において、各第一電極10A,20Bは、各第一積層体510,511,512と各第二絶縁板41との間に設けられている。
【0180】
換言すると、外側に配置された各第一積層体511は、各第一電極20A,20Bが設けられる各第三縞状面511Cを内側に向けて隣接する第二絶縁層41に当接するように配置される。したがって、各第四縞状面511Dが第二積層体500の外面に露出している。これら第四縞状面511D上には、外部配線部31,32を取り付けることができる。
【0181】
これにより、各第一電極20A,20Bは全て第二積層体540の内部に配置され、大気に曝されないので、電極の酸化が防止され、積層型熱電変換素子500の耐湿性が向上する。耐湿性の向上により、電極が銀製である場合に発生しやすいイオンマイグレーションの防止に効果的である。
【0182】
積層型熱電変換素子540としては、外部配線部31,32および第二電極61が第二積層体500の外面に設けられる。これら外部配線部31,32および第二電極61とともに第二積層体500全体を電気絶縁材で被覆してもよい(図示略)。この場合、積層型熱電変換素子540の耐湿性をより向上させることができる。さらに、この電気絶縁材の熱伝導性が低ければ、積層型熱電変換素子540の高温側と低温側との間の温度差をより大きくでき、より大きい起電力を得ることができる。
【0183】
(第一積層体)
第一積層体の形状は六面体に限らず、面が七つ以上の多面体として構成することもできる。図23及び図24に示す第一積層体10Dでは、一端部に積層されたP型素子(P型層11)の長手方向(温度差が生じる方向)に沿う面取り部15が設けられており、したがって第一積層体10Dは七つの面を備えている。
【0184】
(絶縁層)
積層型熱電変換素子は、側面を電気及び熱を遮る絶縁層で被覆されていてもよい。この場合、第一電極、第二電極、第三電極が側面に形成されている場合には、これらの第一電極、第二電極、第三電極も絶縁層で被覆するとよい。側面に第一電極、第二電極、第三電極が設けられているため、第一電極、第二電極、第三電極の腐食に対する処理を行い易い。
【実施例0185】
(実施例1)
積層型熱電変換素子4を第一板状部310と第二板状部320との間に一つ設けた熱電変換モジュール301を作製して、その出力電圧を測定した。
【0186】
(1)熱電変換モジュール301の構成
積層型熱電変換素子4は、図25に示すように、P型層11とN型層12との間に第一絶縁層13を介在させて、P型層11(P型HH素子:Sn50at%-Ni25at%-Zr10at%-Ti15at%)とN型層12(N型HH素子:Sb45at%-Fe20at%-Nb25at%-Ti5at%-V5at%)とが積層方向に交互に並んで設けられる積層構造を有する。
【0187】
P型層11とN型層12は、それぞれ直方体形状をしており、端面11A,11B,12A,12B(図2参照)のサイズが縦3mm、横3mm、長さが5mmである。
【0188】
両面に粘着剤を有するポリイミドフィルム(ポリイミド厚さ150μm)を第一絶縁層13として用いて、P型層11とN型層12とを接合して第一積層体10を作製した。この第一積層体10は、P型層11とN型層12の対を積層方向に二対備えている。
【0189】
P型層11とN型層12とをつなぐ第一電極20A,20Bとして、Agペーストを第一積層体10の第三縞状面1Cに塗布して、第一電極(上部の第一電極20Aと下部の第一電極20B)を形成し、P型層11とN型層12とを交互に直列に電気的に接続した。第一電極20A,20Bを設けた第一積層体10で、端にあるP型層11の端面11BとN型層12の端面12Bに、電圧を取り出す、又は電圧を印加するための取出電極(外部配線部31,32)を設けて、さらにAl導線を取出電極(外部配線部31,32)に取り付けて、積層型熱電変換素子4を作製した。
【0190】
そして、積層型熱電変換素子4の第一縞状面1A(各P型層11の端面11A、各N型層12の端面12A、各第一絶縁層13の端面13A)を、第一伝熱層331を介して第一板状部310の内側の面に接合し、同様に、第二縞状面1B(各P型層11の端面11B、各N型層12の端面12B、各第一絶縁層13の端面13B)を、第一伝熱層332を介して第二板状部320の内側の面に接合して、熱電変換モジュール301とした。第一伝熱層331,332として、第一絶縁層13と同様の、両面に粘着剤を有するポリイミドフィルム(ポリイミド厚さが150μm)を用いた。第一板状部310及び第二板状部320として、セラミックス基板を用いた。
【0191】
(2)物性値の測定方法
この熱電変換モジュール301の上下に温度差を付けた際の積層型熱電変換素子4の出力電圧の大きさを測定した。この測定では、アドバンス理工株式会社製造の小モジュール用熱電変換効率評価装置(Mini-PEM)によって、熱電変換モジュール301の第一板状部310の外側の面に銅で形成された銅ブロック410を接触させるとともに、第二板状部320の外側の面に銅で形成された銅ブロック420を接触させて、高温側の銅ブロック410をヒーターで加熱し、低温側の銅ブロック420を恒温循環水で35℃一定とした。
【0192】
そして、グラフテック株式会社製造のデータロガーによって、熱電変換モジュール301の高温側の銅ブロック410と低温側の銅ブロック420の温度差を熱電対で計測すると共に、積層型熱電変換素子4の開放電圧を測定した。
【0193】
測定結果を図26に示す。横軸が高温側の銅ブロック410と低温側の銅ブロック420との温度差を示し、縦軸は出力電圧密度を示す。出力電圧密度は、熱電変換モジュール301の出力電圧を積層型熱電変換素子4及び取出電極(外部配線部31,32)が接合される第二板状部320の面積で割った、単位面積当たりの出力電圧である。
【0194】
第二板状部320は、第二縞状面よりも大きく形成されていて、その面積は0.42cm(縦0.3cm,横1.4mm)である。これにより、積層型熱電変換素子4の第二縞状面1Bに取り付けられて第二縞状面1Bから張り出した導線取り出し用の板状の電極(外部配線部31,32)も接合可能である。
【0195】
温度差が大きいほど出力電圧密度は高く、温度差が30℃の場合の出力電圧密度はおよそ9mV/cmとなった。
【0196】
(実施例2)
実施例2では、前記実施例1のポリイミドフィルムに代えて、エポキシ樹脂を第一絶縁層13として用いた積層型熱電変換素子5を作製して、この積層型熱電変換素子5の出力電圧を測定した。
【0197】
積層型熱電変換素子5としては、第一絶縁層13の材料が異なるだけで、図27に示すように、P型層11(N型層12)の構成材料やサイズ、第一電極20A,20Bの配置やその材料、Al導線の取り付け、第一板状部310や第二板状部320の構成などは実施例1と同じとした。
【0198】
第一絶縁層13(エポキシ樹脂)の厚さは数百μm程度である。この実施例2の第一積層体10では、P型層11とN型層12の対を積層方向に二対設けている。
【0199】
測定方法も、実施例1と同様に、アドバンス理工株式会社製造の小モジュール用熱電変換効率評価装置(Mini-PEM)によって熱電変換モジュール302の上下に温度差を付け、積層型熱電変換素子5の出力電圧の大きさをグラフテック株式会社製造のデータロガーによって測定した。
【0200】
図28は横軸に高温側(上部)と低温側(下部)の銅ブロック410,420の温度差を示し、縦軸には出力電圧を積層型熱電変換素子4及び取出電極(外部配線部31,32)が接合される第二板状部320の面積(0.42cm)で割った単位面積当たりの出力電圧(出力電圧密度)を示している。
【0201】
積層型熱電変換素子5では、温度差が大きいほど出力電圧密度が高く、温度差が30℃で出力電圧密度はおよそ8mV/cmとなった。
【0202】
(比較例)
比較例の熱電変換モジュール500では、図29から図31に示すように、間に隙間CLを有する、すなわち空気層により形成された絶縁層を介在させたP型層11とN型層12とが、第一板状部310と第二板状部320との間に二対設けられている。
【0203】
図30は、図29の矢印Aに沿う熱電変換モジュール500の矢視図であり、P型層11とN型層12の第一板状部310側の接続構造を示している。図31は、同様に図29の矢印Aに沿う熱電変換モジュール500矢視図であり、P型層11とN型層12の第二板状部320側の接続構造を示している。
【0204】
比較例では、実施例1、2と同じP型層11とN型層12を用いている。図29,30に示すように、上部電極51が第一板状部310の内側の面に形成されていて、各対のP型層11の端面11AとN型層12の端面12Aとがそれぞれ上部電極51に接合されている。
【0205】
図31に示すように、下部電極52が第二板状部320の内側の面に形成されていて、隣接する各対のP型層11の端面11BとN型層12の端面12Bとが下部電極52に接合されている。複数設けられた上部電極51と下部電極52とによってP型層11とN型層12とが交互に直列に電気的に接続されている。
【0206】
第一板状部310の内側の面では上部電極51間に非被覆面a1が設けられ、第二板状部320の内側の面でも下部電極52間に非被覆面a2が設けられている。
【0207】
上部電極51及び下部電極52,53として、純アルミニウム又はアルミニウム合金の板状部材が、第一板状部310及び第二板状部320としてのセラミックス基板の内側の面に、固相拡散接合によって接合されている。
【0208】
P型層11又はN型層12が一つだけ接合された下部電極53は、取り出し電極としても機能するよう設けられている。そのため、下部の第二板状部320は上部の第一板状部310よりも寸法が大きく設定されていて、その面積は1.5cm(縦1.0cm,横1.5cm)である。
【0209】
この熱電変換モジュール500について、実施例1,2の測定方法と同じく、アドバンス理工株式会社製造の小モジュール用熱電変換効率評価装置(Mini-PEM)によって比較例の熱電変換モジュール500の上下に温度差を付けた際の出力電圧の大きさを、グラフテック株式会社製造のデータロガーによって測定した。
【0210】
図32は横軸に高温側(上部)と低温側(下部)の銅ブロック410,420の温度差を示し、縦軸には出力電圧を第二板状部320の面積(1.5cm)で割った単位面積当たりの出力電圧(出力電圧密度)を示している。
【0211】
比較例の熱電変換モジュール500では、温度差が大きいほど出力電圧密度が高く、下部電極52の第二板状部320に対する接合面の大きさと電極配策に伴うスペースとの総和に比べて、実装する素子の端面12A,12Bの面積の割合が小さいため、30℃に達しても出力電圧密度はおよそ5mV/cmという値であり、本発明の実施例よりも低いことがわかる。
【符号の説明】
【0212】
1,2,2A,2B,3,4,5,500 積層型熱電変換素子
1A 第一縞状面
1B 第二縞状面
1C,511C 第三縞状面
1D,511D 第四縞状面
1E,1F 非縞状面
10,10A,10B,10C,10D,510,511 第一積層体
11 P型層(P型素子)
11A,11B,11C,11D 端面
110 P型板材
12 N型層(N型素子)
12A,12B,12C,12D 端面
120 N型板材
13 第一絶縁層
13A,13B,13C,13D 端面
130 シート状絶縁材料部材
15 面取り部
20A,20B 第一電極
31,32 外部配線部
40、540 第二積層体
140 第三積層体
240 複合体
40A 高温用の端面
40B 低温用の端面
40C 第一側面
40D 第二側面
40E 第三側面
40F 第四側面
41 第二絶縁層
42 第一伝熱層
61,62 第二電極
81,82 第三電極
200 分割用接合体
200A 上面
200B 側面
201,202 電極付分割用接合体
300,300A,301,302 熱電変換モジュール
310 第一板状部
320 第二板状部
331,332 第二伝熱層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
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図20
図21
図22
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図26
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図28
図29
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図31
図32