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  • 特開-耐震建築物 図1
  • 特開-耐震建築物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072819
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】耐震建築物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023195290
(22)【出願日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】U2200175
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(71)【出願人】
【識別番号】523434649
【氏名又は名称】ヘーデル,ラヨシュ
【氏名又は名称原語表記】HEDER,Lajos
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ヘーデル,ラヨシュ
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BD34
2E139CA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】地震時に発生する水平方向及び垂直方向の両方の変位に抵抗し、その結果、地震が建物に与える影響が最小限になり、ほとんど知覚されないため、建物に損傷を与えることはなく、居住者に危険をもたらすこともない耐震建築物を提供する。
【解決手段】固体の建築構造体9を有する耐震建築物であって、建築構造体9が、固体の裏打材2aを有し且つ液体2で満たされたプール内に配置され、建築構造体9の下部領域には、空気のクッションLを含み且つプールと連通する少なくとも1つの開放チャンバKが形成され、建築構造体9は、開放チャンバKの上方に配置された少なくとも2つのバラストタンク3を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の建築構造体(9)を有する耐震建築物であって、
前記建築構造体(9)は、固体の裏打材(2a)を有し且つ液体(2)で満たされたプール(1)内に配置され、
前記建築構造体(9)の下部領域には、空気のクッション(L)を含み且つ前記プール(1)と連通する少なくとも1つの開放チャンバ(K)が形成され、
前記建築構造体(9)は、前記開放チャンバ(K)の上方に配置された少なくとも2つのバラストタンク(3)を備える、耐震建築物。
【請求項2】
前記液体(2)は、水である、請求項1に記載の耐震建築物。
【請求項3】
前記プール(1)の縁部(P)上の任意の点と前記建築構造体(9)の縁部(P1)上の最も近い点との間の距離は、好ましくは、建物の建設現場の地理的位置で記録された地震変位の最大水平成分の少なくとも10倍である、請求項2に記載の耐震建築物。
【請求項4】
前記プール(1)内の水の自由表面(F)は、前記プール(1)の固体の裏打材(2a)及び建築構造体(9)の両方に水密的に固定されたスカート(7)によって閉鎖されている、請求項3に記載の耐震建築物。
【請求項5】
前記バラストタンク(3)は、水源、有利には前記プール(1)内の液体(2)に接続されている、請求項2~4のいずれか1つに記載の耐震建築物。
【請求項6】
前記スカート(7)の下方には、前記スカートを支持する保護グリッド(6)が配置されている、請求項1に記載の耐震建築物。
【請求項7】
前記建築構造体(9)に取り付けられた折り畳み式のスロープ(8)を備える、請求項1又は6に記載の耐震建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実用新案は、固体の建築構造体を有する耐震建築物に関するものであり、当該建築構造体は、固体の裏打材を有し且つ液体で満たされたプール内に配置され、建築構造体の下部領域には、空気のクッションを含み且つプールと連通する少なくとも1つの開放チャンバが形成され、建築構造体は、開放チャンバの上方に配置された少なくとも2つのバラストタンクを備えるものである。
【背景技術】
【0002】
地震による建物の被害は通常、非常に甚大である。深刻な結果をもたらす地震のリスクは、主に地震断層の近くに集中しているが、世界の他の多くの地域で地震が発生する確率も無視はできない。例えば、10年前に日本で発生した福島の地震及び津波による被害の復旧には、3000億ドルの費用がかかったと推定されている。
【0003】
しかしながら、これまで、地震による被害を軽減するための本当に効果的な解決策はほとんど見つかっていない。地震活動が活発化する環境では、地震マップが建設実務に役立つ。地震による被害を軽減するために、大きな建物では制振システムが使われている。小規模な建物では、事前に、或いは事後に設置することができる補強システムが使用され、建物の致命的な倒壊を防ぐことができるため、人命への危険は軽減されるが、地震発生時には、建物に甚大な損害をもたらす可能性がある。これらの装置は通常、非常に高価であるため、小規模の建物で使用されることはほとんどない。
【0004】
このような解決策は、中国出願公開第114575483号公報に記載されており、小型の建物及び建物システム用の地震減衰、防振システムが開示されている。このシステムは、上部プレート本体と下部プレート本体とで構成され、上部プレート本体と下部プレート本体との間に第1締結具が配置され、第1締結具内に複数の第1鋼球が配置されている。第1鋼球は、上部プレート本体と下部プレート本体とに転がり接触する。上部プレート本体の下面から下方に上部隔壁が延び、下部プレート本体の上面には上方に突出する下部隔壁が配置されている。上部隔壁、下部隔壁、及び第1固定部材は、水平方向に一定の間隔を空けて配置され、隣接する2つの隔壁の間にはゴムリングが挟持固定され、各ゴムリングには複数の独立した気泡室が均一に配置されている。この解決策の垂直荷重容量は比較的高く、全体の高さは比較的小さい。この解決策の欠点は、一方では、減衰させることができる地震による変位が隔壁の大きさに依存し、その実施には費用のかかる構造設計が必要であること、他方では、地震による垂直変位を減衰させることができず、その後に修復する方法がないことである。
【0005】
従って、本実用新案における我々の目的は、機械的な解決策とは対照的に、地震時の水平方向及び垂直方向の両方の変位に強いハイドロニューマチック・ソリューションを開発することであり、その結果、地震が建物に与える影響を最小限に抑え、ほとんど知覚させず、地震時に最高レベルの安全性を提供することにある。
【0006】
我々の目標は、建物を地面からできるだけ離すことで達成することができる。この目的に最も適しているのは、建物を、好ましくは水に浮かべることである。特に後者は、どこにでもあり、安価に入手でき、光が当たらない閉鎖的な場所では、食物無しでは生命が定着することはなく、物理的な静水圧特性を無期限に保つことができる。
【発明の概要】
【0007】
我々は、固体の建築構造を有する耐震建築物を設計することによって我々の目的を達成した。当該建築構造体は、固体の裏打材を有し且つ液体で満たされたプール内に配置され、建築構造体の下部領域には、空気のクッションを含み且つプールと連通する少なくとも1つの開放チャンバが形成され、建築構造体は、開放チャンバの上方に配置された少なくとも2つのバラストタンクを備える。
【0008】
液体は、好ましくは水である。
【0009】
プールの縁部上の任意の点と建築構造体の縁部上の最も近い点との間の距離は、好ましくは、建物の建設現場の地理的位置で記録された地震変位の最大水平成分の少なくとも10倍である。
【0010】
プール内の水の自由表面は、プールの固体の裏打材及び建築構造体の両方に水密的に固定されたスカートによって閉鎖されている。
【0011】
バラストタンクは、水源、有利にはプール内の液体に接続されている。
【0012】
スカートの下方には、スカートを支持する保護グリッドが配置されている。
【0013】
耐震建築物は、好ましくは、建築構造体に取り付けられた折り畳み式のスロープを備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下、添付図面に基づいて本実用新案を詳細に説明する。
【0015】
図1】本実用新案に係る耐震建築物の断面図である。
図2図1の詳細Rである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本実用新案に係る耐震建築物の断面図であり、当該耐震建築物は、固体の建築構造体9を有している。建築構造体9の設計及び内部レイアウトは、任意に設計することができるが、材料は、鉄筋コンクリートやガラス発泡体などのモノシリッックが好ましい。ガラス発泡体は、ハイドロニューマチック・プロテクションを備えた本実用新案に係る建築構造体9の建築材料として理想的である。ガラス発泡体の原料は、900℃に加熱して発泡構造体を形成するガラス製品が使用される。ガラス発泡体の特性は、非常に軽く、その比重は、最大200kg/mであり、構造用ネットを埋め込んでも水の比重をほとんど上回らない程度である。また、ガラス発泡体は、切断面の損傷を受けた気泡を除いて液体が入らない切削性独立気泡発泡体であり、約7~8MPa/mまでの耐凍害性、耐圧性があり、優れた断熱性及び700℃までの耐火性を有し、有機溶剤、酸、経年劣化、害虫に対して耐性があり、遮音性に優れた蒸気バリアであり、環境に有害な物質を含まず、再利用が可能である。ガラス発泡体は、厚板状や粒状で製造され、砂利を当該ガラス発泡体粒に置き換えてコンクリートが作製される。このようなコンクリートは、非常に軽く、防水性がある。本実用新案に係る建築構造体9をこのような壁で建設し、床をモノリシックなガラス発泡体補強コンクリートとすれば、非常に軽く(すなわち浮きやすく)、同時に非常に強い建築構造体9が得られる。
【0017】
図1に示されるように、本実用新案に係る建築構造体9は、地面Sに形成されたプール1に配置され、プール1は、液体2で満たされた固体、好ましくはステンレス鋼メッシュの鉄筋コンクリートの裏打材2aを有する。プール1と地面Sとの間には、少なくとも2層の断熱材10がある。断熱材10は、建築業界で断熱材として使用され、一般的に消火用貯水池や農業用貯水池の裏打材として使用されている、熱接着された可撓性プラスチックフィルム(好ましくは厚さ1.5mm)で正確且つ安全に作製することができる。このフィルムは、腐敗せず、数倍に伸び、紫外線に完全に安定であり、特に液体2を満たしたプール1と地面との間に貼ると、光が届かないため、その特性を更に長く保持することができる。
【0018】
建築物は、鉄筋コンクリート2aの裏打材を有するプール1の水平な中央部分に完成されるか、又はその上に準備された状態で置かれ、その後、プール1の充填中に、液体2によってその浮遊位置まで持ち上げられる。液体2は、理想的には容易に入手可能な水であるが、建築構造物9の大きさ及び重量を必要とする場合、比重の大きい他の液体を使用してもよい。液体2の自由表面Fは、建築構造物9と裏打材2aとの間に位置するため、プール1の固体の裏打材2aの縁部Pと建築構造物9の縁部P1とに密封可能に取り付けられたスカート7で覆われ、スカート7は、ステンレス鋼メッシュで作製されるスカート支持保護グリッド6によって下方から覆われて浸水が防止されている。
【0019】
図1のRの詳細である図2において、プール1の縁部P上の任意の点と建築構造物9の縁部の最も近い点P1との間の距離は、理想的には、建設時までに記録された地震変位の最大水平成分の少なくとも10倍であり、建築構造物9の最も低い点P2とプール1の点P3との間の同一水平面内の距離は、建設時までに記録された地震変位の最大水平成分の少なくとも3倍であることが詳細に観察できる。スカート支持グリッド6及びスカート7の上方において、建築構造体9には、建築構造体9と周囲の地面Sとの間の往来を可能にする折り畳み式のスロープ8が接続されている。
【0020】
極めて強靭で柔軟な材料で作製されたスカート7は、二重の機能を有する。一方では、建築構造物9の周囲に固定された堅く閉じた弾性スカート7として、建築構造物9を安定した位置に保持し、地震時には周囲の地面Sと建築構造物9との間の柔軟な接続を提供する。建築構造物9を両側の位置に保持するのに必要な引張力はわずか数kNであるが、建築構造物9の重量が数百トンであることを考えると、動く地面Sによって動かされるスカート7は、重い建築構造物9を動かすことができずに伸びる。地震時の急激な動きの方向は1秒間に15回も変化するため、大きな質量の慣性力により建物は実質的に動かない。地震時のスカート7の材料の伸びは、縁部P,P1間の距離の約4~10%である。縁部P,P1に沿って建築構造物9を囲む閉じたスカート7のもう1つの機能は、液体2を外界から密閉的に遮断し、地震時の波動によって液体2がプール1から出るのを抑えることである。
【0021】
プール1内に配置された液体2中に建築構造体9を浮遊させるために、建築構造体9の下部領域には、プール1に接続された、すなわちプール1のライナー2bに向けて開口された、少なくとも1つ(好ましくは、図示の実施形態のように2つ、或いは更に多く)のチャンバKが形成されている。チャンバKには、気体(好ましくは、空気L)のクッションが配置され、当該クッションは、プール1のライナー2bの方向から流体2によって、建築構造体9の重量に等しい力で圧縮される。従って、プール1を満たす前のチャンバKK内の空気Lのクッションの体積V1は、理想気体であると仮定すると、統一気体の法則によって与えられる:
【0022】
V1=m/Te*ρ*p1, (m
【0023】
ここで、m-建築構造物9の質量(kg)、
Te-チャンバーK内の液体2の表面積(m)、
ρ-液体2の比重(kg/m)、
p1-初期、例えば周囲気圧(Pa)。
【0024】
気体体積V1が得られた場合、又はこれより大きい場合、建築構造物9は、プール1内で浮遊する。スペースが限られているなどの理由で、適切な体積V1を生成することができない場合は、圧力p1を周囲圧力値よりも高くすることが可能である。圧力p1は、チャンバKに空気供給ラインGを設け、当該空気供給ラインGを介して高圧ガスを空気のクッションLに供給することによって増加させることができ、空気のクッションLの厚さHを、建設時までに建設現場で記録された地震変位の最大垂直成分の少なくとも1.5倍に達するようにすることができる。
【0025】
この解決策は、建築構造体9の質量が増加した場合にも有利である。しかしながら、建築構造物9の質量分布が不均等であることも考慮しなければならない。従って、チャンバKの上方、好ましくは同じ高さに、バラストタンク3が形成され、当該バラストタンク3は、液体供給源、好ましくはプール1内に配置された液体2に接続される。建築構造物9がより多くのバラストタンク3を有していればいるほど、質量分布に応じたバラストタンク3によるバランスを、例えばバラストタンク3への注水又はバラストタンク3からの排水によって、より細かく制御することができる。必要であれば、十分な数のチャンバKが利用可能であれば、異なる量の空気をチャンバKに充填することによっても、質量分布のバランスを調整することができる。
【0026】
建築構造物9が液体2よりも比重の小さい材料で作製されている場合、例えば、比重が約200kg/mである上述のガラス発泡体で作製されている場合、建築構造物9は、空気のクッションLの助けがなくてもプール1内で浮遊する。浮遊は、横方向の地盤変動を中和するが、垂直方向の変位の影響は中和しない。しかしながら、既に説明した空気のクッションLは、強い垂直方向の衝撃の力を中和するのにも適している。空気のLクッションは、好ましくは、図に示されるように、建築構造体9の垂直壁fが建築構造体9の底部よりも下方に延びるように形成され、このようにして形成されたチャンバKに空気を吹き込むことによって、適切な厚さの空気のクッションLを形成することができ、更に下方に延びる垂直壁fによって、可能な最大変位が生じた場合であっても、空気のクッションLから空気が逃げないことが保証される。空気のクッションLの内圧は、既に述べた空気供給ラインGを使用することによって変化させることができる。建築構造体9は、少なくとも1つの、好ましくは1~2m幅の折り畳み式のスロープ8に接続されており、好ましくは、建築構造体9は、スカート7の全面に渡って折り畳み式のスロープ8に囲まれている。
【0027】
建築構造物9の重量の大部分は、前述の空気のクッションLによって支持され、建築構造物9の水平方向の下側を莫大な力で押し上げるので、本実用新案に係る解決策は、数百メートルの延長部を有する建築物を建設する可能性を与える。隣接する建築構造物9が互いに近接し、2つの建築構造物9の間にプール1の共通の鉄筋コンクリートの垂直壁ffがある場合、建築構造物9とプール1の垂直壁ffとの間には、理想的には、建設現場の地理的位置で記録された地震変位の最大水平成分の少なくとも10倍の距離が必要である。一方向の水平変位が15cmの場合、これは150cmを意味し、一方では、より小さな力が建物に作用するために重要であり、他方では、地震変位によって生じる水の変位は、水位が10%上昇することを意味し、水深2.5mのプール1の場合、25cmとなる。この量の水は、タイトなスカート7の下方のスペースに収まる。
【0028】
最新の解決策と比較した場合における本実用新案に係る耐震建築物の利点は、機械的な解決策とは異なり、地震時に発生する水平方向及び垂直方向の両方の変位に抵抗し、その結果、地震が建物に与える影響が最小限になり、ほとんど知覚されないため、建物に損傷を与えることはなく、居住者に危険をもたらすこともないという、地震時に最高レベルの安全性を提供することにある。
図1
図2
【外国語明細書】