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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007286
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】超音波用探触子
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
H04R17/00 332A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108701
(22)【出願日】2022-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔1〕 ▲1▼発行日 令和4年4月1日 ▲2▼刊行物 超音波TECHNO 2022年3-4月号、第52~56頁「空中超音波計測のための1-3セラミック-空気コンポジット探触子の開発」日本工業出版株式会社 発行 <資 料>刊行物公開ページ プリントアウト
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】三原 毅
(72)【発明者】
【氏名】小原 良和
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA21
5D019BB19
5D019FF01
(57)【要約】
【課題】従来の設計では得られなかった、超音波の送信効率が高い、空中超音波法に適用できる超音波用探触子を提供することを目的とする。
【解決手段】圧電素子は、基材の一面において、第1方向、および第1方向に直交する第2方向にそれぞれ配列され、複数の圧電素子に均一な電圧を印加した際に、前面板は、対角配置された圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きい前面板局所振動を生じ、制御部は、圧電素子の振動の位相と圧電素子間の対角位置の前面板局所振動の位相差が60°以下となるように制御することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面が平坦面を成す基材と、前記基材の一面に、互いに一定の間隔を開けて配列された複数の圧電素子と、前記圧電素子と接合されて前記基材の一面に対向するように配された前面板と、前記圧電素子を制御する制御部と、を有する超音波用探触子であって、
前記圧電素子は、前記基材の一面において、第1方向、および前記第1方向に直交する第2方向にそれぞれ配列され、
複数の前記圧電素子に均一な電圧を印加した際に、前記前面板は、対角配置された前記圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きい前面板局所振動を生じ、
前記制御部は、前記圧電素子の振動の位相と前記圧電素子間の対角位置の前記前面板局所振動の位相差が60°以下となるように制御することを特徴とする超音波用探触子。
【請求項2】
前記圧電素子どうしの間隔をw、前記前面板に生じるA0モードのラム波の波長をλA0とした時に、λA0<wを満たすことを特徴とする請求項1に記載の超音波用探触子。
【請求項3】
前記前面板の厚みは、前記圧電素子の分極方向の長さの1/10以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波用探触子。
【請求項4】
前記制御部は、前記圧電素子の共振周波数が、前記前面板のうち前記圧電素子と接しない部位に生じる前記前面板局所振動のたわみ共振の共振周波数の1.6倍以上、2.0倍以下となるように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波用探触子。
【請求項5】
前記圧電素子は、前記基材の一面に沿って延びる短辺と、前記基材と前記前面板との間で延びる長辺とのアスペクト比が、1:6~1:2の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波用探触子。
【請求項6】
一面が平坦面を成す基材と、前記基材の一面に、互いに一定の間隔を開けて配列された複数の圧電素子と、前記圧電素子と接合されて前記基材の一面に対向するように配された前面板と、前記圧電素子を制御する制御部と、を有する超音波用探触子であって、
前記圧電素子は、前記基材の一面において、第1方向、および前記第1方向に直交する第2方向にそれぞれ配列され、
複数の前記圧電素子に均一な電圧を印加した際に、前記前面板は、対角配置された前記圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きい前面板局所振動を生じ、
前記制御部は、前記圧電素子の共振周波数が、前記前面板のうち前記圧電素子と接しない部位に生じる前記前面板局所振動のたわみ共振の共振周波数の1.6倍以上2.0以下となるように制御することを特徴とする超音波用探触子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波計測用の超音波用探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、測定対象に対して非破壊検査を行う方法として、超音波を用いた測定法が広く用いられている。このうち、測定対象に対して非接触で測定が可能な方法として、レーザー超音波法、電磁超音波法、および空中超音波法が知られている。
【0003】
このうち、レーザー超音波法は、適用可能な対象の範囲が広く、高温環境でも計測が可能であるが、一方で計測対象に対して、正確に配置を行う必要性があり、受信感度が低いという課題がある。また、電磁超音波法は、計測の自動化が容易であるものの、計測対象が導電体に限られるという大きな制約がある。
【0004】
一方、空中超音波法は、空気層を介して対象物に超音波を照射してその反射波を受信するという簡易な構成であり、低コストで広範囲な超音波計測が可能である。しかしながら、従来の空中超音波法は、空気層における超音波の減衰や、音響インピーダンスの不整合による送信効率の低さが課題とされてきた。空中超音波法による超音波探触子として、低音響インピーダンスと高電気機械結合係数を両立させることが求められていた。
【0005】
従来の空中超音波法において最も送信効率の高い超音波用探触子として、研究されてきたのは、音響的に厚みの厚い前面板を用いた超音波用探触子である。詳細な原理は、本発明の原理との対比で後述するが、このような超音波用探触子として、例えば、非特許文献1には、背板の一面に所定の間隔を開けて直方体状の圧電素子を配列して、圧電素子の側面の周囲を空気層にするとともに、これら圧電素子を介して、背板と対向するように厚みの厚い前面板を設けた超音波用探触子が提案されている。
【0006】
また、特許文献1には、2つの基板の間に円筒状の圧電素子を等間隔で配列し、これら圧電素子の周囲をセルロース製のハニカムコアで補強し、圧電素子間の干渉を抑制した超音波用探触子が提案されている。
このような、音響的に厚みの厚い前面板を用いた超音波用探触子は、送信面の弾性特性は均一ではないが、素子間隔が十分に短い場合には、振動面の位相は一様と見なすことが可能で、既存の超音波用探触子は、これを前提に材料等の設計がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7382082号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C. Oakley and P. Marsh: ““Development of 1-3 ceramic-air composite transducers”, Proc. New Developments in Ultrasonic Transducers and Transducer Systems, SPIE 1733(1992) 274-282.
【非特許文献2】辻他、日本非破壊検査協会 平成28年度秋季講演大会
【非特許文献3】辻他、圧電材料・デバイスシンポジウムVol.2017 Page.119-122
【非特許文献4】辻他、応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集(CD-ROM) Vol.78th Page.ROMBUNNO.5p-C22-4
【非特許文献5】辻他、2017年度非破壊検査協会秋季講演大会_講演概要集
【非特許文献6】辻他、圧電材料・デバイスシンポジウムVol.2018 Page.11-14
【非特許文献7】辻他、応用物理学会春季学術講演会講演予稿集(CD-ROM) Vol.65th Page.ROMBUNNO.19a-B303-8
【非特許文献8】辻他、超音波Techno Vol.30 No.4 Page.80-84
【非特許文献9】大志田他、日本非破壊検査協会秋季講演大会講演概要集 Vol.2019 Page.151-152
【非特許文献10】大志田他、圧電材料・デバイスシンポジウム Vol.2020 Page.25-30
【非特許文献11】大志田他、IEICE Technical Report US2020-38(2020-09)
【非特許文献12】Hiroki Ohshida et al., The 41st Symposium on UltraSonic Electronics (USE2020) (Online).
【非特許文献13】大志田他、電子情報通信学会技術研究報告(Web) Vol.120 No.174(US2020 27-42) Page.61-62 (WEB ONLY)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1では、圧電素子に接合される前面板が音響的に厚いものであるために、前面板は一様な変位となるものの、変位の絶対値は圧電素子の変形量と同程度であり、送信効率の向上は難しかった。
また、特許文献1に開示された超音波用探触子は、圧電素子の周面が隣接する圧電素子と力学的に結合しないためノイズが抑えられるものの、個々の圧電素子縦伸び変形がハニカムコアによって拘束されるため、送信効率が低下するという課題がある。
【0010】
本発明者らは、前述した事情に鑑み、従来、前提と考えられていた音響的に厚みの厚い前面板を用いない、薄い前面板での超音波用探触子の研究を行っていた(非特許文献2~13)。
しかしながら、当初の研究は圧電素子の設計パラメータを広帯域励振を用いて調査したものであり、非破壊検査を目的とした空中超音波用探触子において有用な送信効率が得られないものであった(例えば、非特許文献2~8)。
【0011】
発明者らは、さらに研究を続けていく過程で、圧電素子に支持されない薄い前面板が、局所的に大振幅振動を起こすことがあること、及び、その振動が超音波の送信効率の向上に有用な可能性があるのではないかということを見出した(例えば、非特許文献9~13)。
しかしながら、上記研究で得られたのは、圧電素子の励振効率が最大化する縦伸び共振周波数と前面板の自由振動周波数を一致させるだけでは、超音波の送信効率が改善できないことだった。
発明者らは、様々な観点から試行錯誤をおこなったものの、これまで、薄い前面板で大きな超音波の送信効率は得ることはできなかった。
【0012】
本発明は、それら多くの試行錯誤を経て実現した、新しい原理に基づく超音波用探触子である。
【0013】
本発明では、従来の設計では得られなかった、超音波の送信効率が高い、空中超音波法に適用できる超音波用探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明者は、基材の一面に所定の間隔を開けて配列した圧電素子に接合される前面板を音響的に薄いものにすることによって、前面板が圧電素子に接しない部位において局所的に大きなたわみ共振が生じ、それを制御することにより、空中超音波法に適用できる超音波用探触子の超音波の送信効率を高めることができることを見出した。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の超音波用探触子は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の超音波用探触子は、一面が平坦面を成す基材と、前記基材の一面に、互いに一定の間隔を開けて配列された複数の圧電素子と、前記圧電素子と接合されて前記基材の一面に対向するように配された前面板と、前記圧電素子を制御する制御部と、を有する超音波用探触子であって、前記圧電素子は、前記基材の一面において、第1方向、および前記第1方向に直交する第2方向にそれぞれ配列され、複数の前記圧電素子に均一な電圧を印加した際に、前記前面板は、対角配置された前記圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きい前面板局所振動を生じ、前記制御部は、前記圧電素子の振動の位相と前記圧電素子間の対角位置の前記前面板局所振動の位相差が60°以下となるように制御することを特徴とする。
【0016】
(2)本発明の態様2の超音波用探触子は、一面が平坦面を成す基材と、前記基材の一面に、互いに一定の間隔を開けて配列された複数の圧電素子と、前記圧電素子と接合されて前記基材の一面に対向するように配された前面板と、前記圧電素子を制御する制御部と、を有する超音波用探触子であって、前記圧電素子は、前記基材の一面において、第1方向、および前記第1方向に直交する第2方向にそれぞれ配列され、複数の前記圧電素子に均一な電圧を印加した際に、前記前面板は、対角配置された前記圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きい前面板局所振動を生じ、前記制御部は、前記圧電素子の共振周波数が、前記前面板のうち前記圧電素子と接しない部位に生じる前記前面板局所振動のたわみ共振の共振周波数の1.6倍以上2.0以下となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の設計では得られなかった、超音波の送信効率が高い、空中超音波法にも適用できる超音波用探触子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の超音波用探触子を示す外観斜視図である。
図2図1の超音波用探触子を構成する発振部を示す斜視図である。
図3】音響的に厚みの厚い前面板を用いた従来の超音波用探触子の動作模式図である。
図4】音響的に厚みの薄い前面板を用いた本実施形態の超音波用探触子の動作模式図である。
図5】本実施形態の超音波用探触子の前面板における表面変位振幅の模式図である。
図6】実施例における超音波用探触子の断面構造の模式図である。
図7】空中超音波送信特性の計測の模式図である。
図8】厚板および薄板コンポジットのインピーダンススペクトルを示すグラフである。
図9】厚板コンポジットの表面振動の様子を示す写真である。
図10】薄板コンポジットの表面振動の様子を示す写真である。
図11】空中伝搬波形を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の超音波用探触子について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際のものと同じであるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態の本発明の一実施形態の超音波用探触子を示す裏面から見た外観斜視図である。また、図2は、超音波用探触子を構成する発振部を示す斜視図である。
本実施形態の超音波用探触子10は、直方体状の基材(背面板)11、この基材11の一面11a上に配列形成された複数の圧電素子12,12…、この圧電素子12を介して基材11の一面11aと平行に対向するように形成された前面板13、を有する発振部15と、この発振部15の圧電素子12を制御する制御部16と、発振部15を収容するケース17と、を備えている。
【0021】
基材(背面板)11は、圧電素子12に駆動電圧を印加可能な導電体を含み、かつ空中超音波で用いられる1MHz以下において音響ノイズを抑制することが可能な材料から構成されればよい。本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)基板の一面に、導電体としてアルミニウム膜導電性粘着テープ(寺岡製作所、No. 8303)を積層させ、積層構造を形成したものを用いた。
基材11のサイズは、本実施形態では縦横13mm程度、厚みは0.5mm程度になるように形成した。
【0022】
圧電素子12は、基材11の一面11aと前面板13の他面13bとの間に配された、直方体状に形成された圧電材料から構成されている。本実施形態では、個々の圧電素子12は、基材11の一面11aに沿って延びる短辺Sが0.95mm、基材11と前面板13との間で延びる長辺Lが2.0mm程度の直方体に形成されている。
【0023】
なお、圧電素子12は、本実施形態では形状の一例として直方体状に成型しているが、圧電素子12は直方体に限らず、例えば、円柱形状、多角形形状など、各種形状にすることができる。
【0024】
こうした圧電素子12の短辺Sと長辺Lとのアスペクト比は、1:6~1:2の範囲になるように形成されればよい。
【0025】
従来の厚板の前面板を用いた超音波用探触子では、アスペクト比(長辺L/短辺S)の大きな圧電素子でないと原理上、前面板の変位を得られなかったので、そのようなもの用いる必要があったが、本発明では、前面板の変位だけでなく前面板の圧電素子の不支持部(後述する、圧電素子間の対角線Dの交点Dnの箇所の局所振動の変位)も用いるので、アスペクト比の小さな圧電素子も用いることができる。そのため、アスペクト比の大きな圧電素子は壊れやすく、また、高価であったが、頑強で安価なアスペクト比の小さな圧電素子も用いることができる。
【0026】
直方体状の圧電素子12をこうしたアスペクト範囲の直方体に形成することで、設計において圧電素子12の選択の幅を広げ、また、アスペクト比の小さな圧電素子を用いた場合、発振部15の機械的な強度を高め、超音波用探触子10の繰り返し使用による耐久性を向上させることができる。
【0027】
複数の圧電素子12は、基材11の一面11aにおいて、第1方向(x)と、この第1方向(x)に直交する第2方向(y)に、それぞれ所定の間隔wを保って配列される。なお、本実施形態の図2では、模式図として説明を容易にするために第1方向(x)と第2方向(y)にそれぞれ3個ずつ、即ち、基材11の一面11aに9個の圧電素子12を配列しているが、圧電素子12の配列個数はこれに限定されるものではなく、例えば、縦横13mm程度の基材11の一面11aに、10個×10個=100個程度の圧電素子12を配列することができる。
なお、間隔wは全ての圧電素子12間で等間隔とした方が、設計上容易で好ましい。
【0028】
複数の圧電素子12どうしの間隔wは、空気などの媒質で満たされる空気層とされる。即ち、圧電素子12の周面は、部材等で覆われることが無く、圧電素子12の周面を部材で拘束せずに空気層にすることで、圧電素子12どうしの間でノイズ等の伝搬を抑制することができる。
【0029】
なお、圧電素子は、圧電素子の縦伸び方向の粒子速度が0になるノード位置に、両面からのダイシングにより隣接する圧電素子を力学的に結合する薄板を作製することで支持構造を形成し、圧電素子を補強してもよい。
また、媒質は、ノイズの伝搬を抑制できる場合は、空気に限らず、別の媒質を用いてもよい。例えば、水、油、ポリマーなどの媒質で満たしてもよい。
【0030】
複数の圧電素子12どうしの間隔wは、制御部16を介して複数の圧電素子12に動作電圧を印加した際に、前面板13に生じるA0モードのラム波(振動面が板表面に対して垂直な弾性波)の波長をλA0とした時に、λA0<wを満たすように設定することが好ましい。
【0031】
圧電素子12の上面及び下面は、前面板13(前面板13が圧電素子12に駆動電圧を印加可能な導電体である場合は、圧電素子12に直接固着される。一方、前面板13が絶縁体で構成される場合、前面板13と圧電素子12との間に設けられる不図示の駆動電圧を印加可能な導電体(薄膜電極)を介して固着される。)および基材11にそれぞれ固着される。
圧電素子12を前面板13および基材11に固着する際には、任意の接合材料による接合層(図示略)を介して固着する構成であればよい。
【0032】
前面板13は、音響的に厚みの薄い板とされ、他面13b側に圧電素子12の上面が接合(固着)され、一面13a側が超音波の送出面とされる。
【0033】
こうした前面板13は、制御部16によって複数の圧電素子12に均一な電圧を印加した際に、第1方向(x)および第2方向(y)においてそれぞれx、yの2行2列のユニットとしてみる4つの圧電素子12で、対角配置された圧電素子12((x,y)と(x+1,y+1)及び(x,y+1)と(x+1,y)))間の中心をそれぞれ結ぶ対角線Dの交点Dnに対応する部位(簡単に換言すると、対角配置された圧電素子の中心間の交点位置(以下、「対角線不支持部」という。)の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きくなる振動(以下、「前面板局所振動」)が生じる厚みtを有するものを用いる。
【0034】
本発明における前面板の設計は、既存の設計に比べて複雑である。前面板の厚さは、材料の弾性率、密度等を決めないと、たわみ変位を予測できない。柱形状の圧電素子、伝搬媒質の空気については音波の伝搬方向に並行な変形をする点で共通点があるものの、前面板についてはたわみ変形を利用するため板を伝搬する超音波(ラム(Lamb)波A0モード)の伝搬方向に対して垂直方向の変位を設計に考慮しなければならない。
【0035】
圧電素子12に拘束を受けない前面板13の対角線不支持部が、屈曲する進行波(ラム波A0モード)を伝搬可能である状況が最も効率的であると考えられる。そのため、前面板13の膜厚は、複数の圧電素子12の隣接間隔wを、超音波用探触子10の目標とする動作周波数において、前面板13に生じるA0モードのラム波の分散曲線の波長λA0においてλA0<wを満たす膜厚、前記間隔wとして設定することが好ましい。
【0036】
なお、幾何的な観点で膜厚の厚みtを定義するならば、圧電素子の分極方向の厚さは周波数と反比例の関係にあり、本発明では、後述するように、圧電素子の縦伸び共振周波数の1.6~2.0倍で規定されるので、圧電素子の分極方向の厚さ(一般的には、長辺L(基材と前面板の方向の長さ))の1/10以下、より好ましくは、1/20以下にするのが好ましい。
【0037】
こうした前面板13は、基材11とともに圧電素子12の電極を構成するので、導電材料、例えば、金属薄板を用いる。
本実施形態では、動作周波数400kHzに対し、前面板13として、例えば、厚みが0.1mmのアルミニウム板を用いている。
【0038】
超音波用探触子の超音波を生じる前面板13の面全体の大きさは、どのような大きさであってもよいが、本実施形態では、13mm四方を複数の圧電素子12で振動させる振動領域としている。
なお、本実施形態では、前面板13の面は、平面視、正方形としているが、これに限らず、円形、長方形であってもよい。
【0039】
制御部16は、前面板13および基材11に電圧を印加して、圧電素子12を振動させる電源装置、および印加電圧を制御するコントローラなどから構成されている。
【0040】
制御部16は、一例として、コンピュータ(CPU)が挙げられる。また、コンピュータに限定されず、例えば、MPUやDSP、ASIC、PLD、FPGA,専用プロセッサのいずれか1つであってもよい。また、制御部は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLD、FPGA及び専用プロセッサのうちの2種類以上の組み合わせであってもよい。なお、MPUはMicro Processing Unitの略称であり、DSPはDigital Signal Processorの略称であり、ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略称である。また、PLDはProgrammable Logic Deviceの略称であり、FPGAはField Programmable Gate Arrayの略称である。
【0041】
制御部16は、不図示のメモリーなどからなる記憶部に、圧電素子12の制御のプログラムを有している。制御部16は、プログラムに基づき、圧電素子12を制御し、超音波用探触子10を制御し、所期の超音波を出力する。
【0042】
制御部16は、圧電素子12の共振周波数が、前面板13のうち圧電素子12と接しない部位(圧電素子12の対角線不支持部)に生じるたわみ共振の共振周波数の1.6倍以上、2.0倍以下とする。このように制御部16は制御することで、圧電素子の振動の位相と圧電素子12と接しない部位(圧電素子12の対角線不支持部)の位相遅れが小さい(60°以下)(ほぼ、同位相)となるように制御することができる。
【0043】
ケース17は、発振部15を収容する中空直方体状の筐体であり、例えば、アルミニウム合金などから構成される。ケース17は、一方の端面が開放面とされ、前面板13の一面13a側が外面(空気層)に露出される。
【0044】
以上の様な構成の本実施形態の超音波用探触子の原理、作用、効果を、従来の主流であった厚い前面板を用いた超音波用探触子と比較して説明する。
図3は、音響的に厚みの厚い前面板を用いた従来の超音波用探触子の動作模式図、図4は、音響的に厚みの薄い前面板を用いた本実施形態の超音波用探触子の動作模式図である。
【0045】
先に挙げた非特許文献1のような、図3に示す従来の超音波用探触子20では、電極の機能を持つ前面板23の局所振動の発生を抑制し、前面板23の全体に空間的に一様な変位を得る設計となっている。
【0046】
前面板23の全体を一様に変位させるために、基材21の一面に配列された複数の圧電素子22どうしの間隔w2は、ラム波A0モードの波長λA0よりも十分に小さくなるように、w2<λA0/4と設計され、この設計が満たされるときに、前面板23の変位の絶対値|u|は圧電素子の変形量と同程度になり、前面板23の全体に一様な変位uが生じる(厚板コンポジット)。
【0047】
一方、本実施形態の超音波用探触子10では、図3に示す従来の超音波用探触子20とは全く異なる発想で、電極の機能を持つ前面板13として、音響的に厚みの薄い前面板13を用いて、局所振動を大きくしている。具体的には、本実施形態の超音波用探触子10前面板13は、複数の圧電素子12に均一な電圧を印加した際に、対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動よりも大きくなるようにしている(図2を参照)。
【0048】
即ち、図4に示すように、前面板13厚さtを複数の圧電素子22どうしの間隔w1よりも十分小さく(例えば、t≦w/7)することにより、ラム波音速が低下して ラム波A0モードの波長λA0は間隔w1以下になるため 、前面板13にたわみ共振が生じる(薄板コンポジット)。圧電素子12が前面板13の他面13bに接する部位の変位uと、対角線不支持部の変位uには、式(1)の関係がある。変位uの位相は変位uに対して遅れるが、圧電素子の共振周波数がたわみ共振より十分高い場合には、その影響は小さい。
【0049】
|u|>|u|・・・(1)
【0050】
前面板13を局所的に変位させるために、基材11の一面に配列された複数の圧電素子12どうしの間隔wは、ラム波A0モードの波長λA0よりも大きくなるように、w>λA0と設計され、より好ましくは、ラム波A0モードの波長λA0よりも十分大きい(例えば、10倍以上。)w>>λA0で設計される。この設計が満たされるときに、前面板13は局所的に変位する。
【0051】
複数の圧電素子12に電圧を印加した際に、圧電素子12が前面板13の他面13bに接する部位の変位uよりも、対角線不支持部の変位uの方が大きくなる。図4に示す本実施形態の圧電素子12および図3に示す従来の圧電素子22に、それぞれ同一の電圧を印加した際に、本実施形態の前面板13の変位uは、従来の前面板23の一様な変位uよりも大きくなる。
図5に、こうした本実施形態の超音波用探触子10の前面板13における表面変位振幅の模式図を示す。
【0052】
所期の送信効率を達成するためには、前面板13はたわみ共振周波数で励振し、励振源となる圧電素子12の負荷時の周波数はたわみ共振周波数よりも高い必要がある。これを実現するために、制御部16で、圧電素子12の共振周波数を、前面板13の対角線不支持部に生じる前面板局所振動のたわみ共振の共振周波数の1.6倍以上、2.0倍以下にする。制御部をこのように制御することで圧電素子の振動の位相と圧電素子12と対角線不支持部の位相遅れが略同相(圧電素子12の振動が前面板13に伝達して共振が起こるメカニズム上、これらの位相が同相になることはあり得ない)となる位相遅れの小さい(60°以下)位相となる。これにより、たわみ共振により、所期の送信効率を達成できる。
【0053】
以上のように、本実施形態の超音波用探触子10によれば、対角線不支持部の振動が、それ以外の領域の振動(圧電素子12が前面板13に接する部位など)よりも大きくなるように前面板13の厚みtを選択した、音響的に厚みの薄い前面板13を用い、また制御部で制御することにより、前面板13にたわみ共振が発生して、空中超音波の送信効率を大きく高めることが可能になる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0055】
本発明の超音波用探触子の効果を検証した。
(超音波用探触子の作成)
本実施形態の超音波用探触子を構成する複数の圧電素子の平均音響インピーダンスを共通にして、動作周波数400kHzの超音波用探触子を設計した。この周波数は従来例である図3に示す厚板コンポジットにおいては圧電素子、本発明例である図4に示す薄板コンポジットにおいては前面板のたわみ共振周波数にそれぞれ一致させた。
【0056】
図6は超音波用探触子の断面構造の模式図である。超音波用探触子の開口sは13mmとした。空気コンポジットには四角柱状にダイシングされた圧電素子を支持・補強する電極板が必要であるが、 空中超音波で一般的に用いられる周波数1MHz以下の条件で電極板の音響ノイズを抑制することは容易ではないので、電極と基材とを兼ね備えた背面板として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)(C9:株式会社富士セラミックス製)の矩形の基板(厚さ2mm)の一面に、導電体としてアルミニウムテープ(No.8303:寺岡製作所株式会社製)を積層した(厚さt0.5mm)。
【0057】
次に、従来の図3に示す厚板コンポジットにおいて、前面板をアルミニウム板としてラム波の分散曲線を計算し、動作周波数400kHzにおいてw<λA0/4が満たされるように、前面板の厚みtFを0.5mm(λA0=3.5mm)とした。続けて、圧電連成有限要素法解析(Onscale社)を用いて、圧電素子の幅a=0.95mm、長さL=2.0mmとした(無負荷における共振周波数670kHz)。
【0058】
次に、本実施形態の図4に示す薄板コンポジットのたわみ共振を400kHzとするため 、λA0<wを満たす前面板の厚みtFを0.1mm(λA0=0.5mm)とした。更にコンポジットの基本構造の解析を行い、圧電素子どうしの間隔wを0.7mmにした。
【0059】
これらのパラメータに従ってチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)をダイシングして形成した圧電素子は、空気コンポジット部分の平均音響インピーダンスが4.3MRayls になった。
【0060】
インピーダンススペクトルにおける絶対値の極小周波数により圧電素子および前面板による共振周波数を判断し、ファンクションジェネレータ(Tabor Electronics、Model 1071)により探触子の動作周波数を制御した。
具体的には、圧電素子の共振周波数が、前面板の圧電素子非接触部に生じるたわみ共振の共振周波数より1.6倍以上2.0以下で制御した。
この制御により、圧電素子の振動の位相と圧電素子間の対角位置の前面板局所振動の位相差が60°以下となった。
【0061】
(空中超音波送信特性の計測)
図7に、空中超音波送信特性の計測の模式図を示す。
励振には正弦波トーンバーストを用いた(20サイクル、50Vpp)。典型的な空中超音波伝搬波形を評価するため 、中心軸上の近距離音場限界距離(x=50mm)に、 ポリイミド製の薄膜(厚さ5μm、クロム膜蒸着(膜厚100nm))を受信センサとして設置し、その振動をレーザードップラー振動計により測定した。薄膜の粒子速度vは以下の式(1)により、空気中の粒子速度vairに換算することができる。式(1)では、fは周波数、mは薄膜の質量、ρは薄膜の密度、cは薄膜の縦波音速であり、f=400kHzにおいてvair≒vである。
【0062】
【数1】
【0063】
また、薄膜を外して連続波駆動時の表面振動を測定し、ロックインアンプで処理することにより、送信面(前面板の一面)の振幅・位相分布をそれぞれ測定した。
【0064】
(測定結果).
[共振特性]
図8(a)に、従来例である厚板コンポジットのインピーダンススペクトルを、また図8(b)に、本発明例である薄板コンポジットのインピーダンススペクトルを、それぞれグラフで示す。
図8に示す結果によれば、従来例(厚板コンポジット)の設計周波数付近の極小値は385kHz単独だった。一方、本発明例(薄板コンポジット)は、複数の極小値が近接しており、415kHzが最小値であった。
【0065】
[表面振動特性]
図9に、従来例である厚板コンポジットの表面振動の様子を示す(385kHz,5V)。なお、図9(a)は振幅、図9(b)は位相をそれぞれ示している。また、図8中の破線は圧電素子が前面板に固着された範囲を示している。
【0066】
図9によれば、点線で囲われた全域に渡って振幅は数nm以下であり、前面板に局部的な位相変化は観察できなかった。よって、従来例である厚板コンポジットは、前面板が全域に渡って一律にほぼ均一な振れ幅で振動することが確認された。
【0067】
図10に、本発明例である薄板コンポジットの表面振動の様子を示す(415kHz,5V)。なお、図10(a)は振幅、図10(b)は位相をそれぞれ示している。また、図10中の破線は圧電素子が前面板に固着された範囲を示している。
【0068】
図10によれば、対角配置された圧電素子の中心間の交点位置である対角線不支持部において、圧電素子に接する部分よりも振幅の増加が顕著に観察された。振幅が大きい部分では、10nm以上の振幅が発生した箇所もあった。なお、位相において圧電素子に対する前面板の位相遅れが見られたが、面内で相殺 されるほどの遅れではなかった。よって、本発明例である薄板コンポジットは、前面板が圧電素子どうしの間の振動が、圧電素子に接する部分の振動よりも大きくなることが確認された。
【0069】
[空中伝搬特性]
図11は設計周波数付近でインピーダンスが最小になる周波数において、印加電圧50Vで圧電素子を励振した場合の空中伝搬波形を表すグラフである。なお、図11(a)は従来例である厚板コンポジット(385kHz)、図11(b)は本発明例である薄板コンポジット(415kHz)をそれぞれ示している。
【0070】
図11に示す結果によれば、定常状態の振幅を比較すると、薄板コンポジットの振幅(図11(b))は厚板コンポジット(図11(a))の約1.2倍だった。図10(a)によれば、大振幅領域は多くて27%だったことを考慮すると、上述した薄板コンポジットの式(1)の原理は、大振幅による超音波送信に有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の超音波用探触子は、超音波による非接触非破壊検査において、より広範囲な測定領域を高精度に測定するための超音波用探触子の実現に寄与する。こうした超音波用探触子は、各種部品の非破壊検査装置、医療用の断面像測定装置、航空宇宙分野での各種非破壊検査装置などの測定精度の向上を図ることができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0072】
10…超音波用探触子
11…基材(背面板)
12…圧電素子
13…前面板
15…発振部
16…制御部
17…ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11