(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072878
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】高エネルギーカソード材料用の酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20240521BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044791
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2021161975の分割
【原出願日】2017-07-28
(31)【優先権主張番号】15/222,377
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508034554
【氏名又は名称】ワイルドキャット・ディスカバリー・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WILDCAT DISCOVERY TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】カイラー キャロル
(72)【発明者】
【氏名】ピン リー
(57)【要約】
【課題】性能が改善された電気化学セルを提供する。
【解決手段】電極を形成するための組成物であって、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
(式中、1.2<x≦1.75、0≦y<0.55、0.1<z<1、0≦a<0.5、0≦b<1、0≦c<0.8であり、M、N及びPは、それぞれ独立して、Ti、Ta、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上である。)
によって表される活物質を含む組成物。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む電極を含む電池であって、
前記活物質は、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
【化1】
(式中、1.30<x≦1.75、0<y<0.55、0.1<z<1、a=0、b=0、0≦c<0.8であり、2≦z/y≦18であり、前記活物質は少なくともニオブを含み、M、N及びPは、それぞれ独立して、Ti、Ta、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上である。)
によって表される、電池。
【請求項2】
x≧1.35である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
x≧1.45である、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
x≧1.55である、請求項1に記載の電池。
【請求項5】
x≧1.65である、請求項1に記載の電池。
【請求項6】
x=1.75である、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
z/y=2である、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
z/y=16.6である、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
4≦z/y≦18である、請求項1に記載の電池。
【請求項10】
10≦z/y≦18である、請求項1に記載の電池。
【請求項11】
活物質を含む電極を含む電池であって、
前記活物質は、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
【化2】
(式中、1.30<x≦1.75、y=0.5、a=0、z=0.8、0<b<0.8、0≦c<0.8であり、Mがマンガンであり、PがFe、Cr、Al及びSbから選択される。)
によって表される、電池。
【請求項12】
y=0.2、z=0.57であり、NがV、Mo、Sb、Ta、Ti、Zr及びYから選択される、請求項1に記載の電池。
【請求項13】
0<c<0.8である、請求項1に記載の電池。
【請求項14】
前記活物質の前記不規則岩塩結晶構造がFm-3m不規則岩塩結晶構造である、請求項1に記載の電池。
【請求項15】
Mがマンガンである、請求項1に記載の電池。
【請求項16】
活物質を含む電極を含む電池であって、
前記活物質は、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
【化3】
(式中、1.20<x≦1.75、0<y<0.55、0.1<z<1、a=0、b=0、0<c<0.8であり、2≦z/y≦18であり、前記活物質は少なくともニオブを含み、M、N及びPは、それぞれ独立して、Ti、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上であるか、又は
式中、1.20<x≦1.75、0<y<0.55、0.1<z<1、a=0、b=0、c=0であり、2≦z/y≦18であり、前記活物質は少なくともニオブを含み、Mは、Ti、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上である。)
によって表される、電池。
【請求項17】
x>1.25である、請求項16に記載の電池。
【請求項18】
x>1.3である、請求項17に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池技術の分野に関し、より具体的には、電気化学セルの電極に使用するための高エネルギー材料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属酸化物は、リチウムイオン電池用のカソード材料を配合するために使用されてきた。カソードは、例えばスピネル、かんらん石及び層状酸化物構造など、いくつかの基本的な結晶構造タイプから得られる。層状酸化物構造には、さらなるリチウムが構造中に存在するリチウム過剰タイプの構造が含まれる。
【0003】
最近、特定のリチウム金属酸化物から形成されたものなどの岩塩構造が注目されている。式:
【化1】
(式中、Mは3価のカチオンである。)
により表される化合物は、リチウムイオン電池のカソードとして使用するための有望な部類の遷移金属酸化物であることが示された。式(1)の化合物は、リチウム及び遷移金属イオンのランダムな原子配列が立方最密充填系に充填されている不規則岩塩(disordered rock salt)であると考えられている。これらの不規則岩塩組成物は、従来のリチウム過剰層状材料よりも多い、化学式単位当たり最高3個までのリチウム原子を含む能力を提供し、これは。式(1)を変形して、Li
xM
yN
zO
wと表すことができる。
【0004】
不規則岩塩構造は、リチウムイオン電池のカソード材料として使用される場合、以下の利点及び課題を有する。有利には、不規則岩塩構造は、他の最先端のカソード材料と比較して著しく高い理論エネルギー密度を有する。例えば、ある種の不規則岩塩構造材料が約1120Wh/kgの理論重量エネルギー密度を有するのに対し、LiMn2O4活物質は約492Wh/kgの理論重量エネルギー密度を有し、LiMn1.5Ni0.5O4は、約691Wh/kgの理論重量エネルギー密度を有する。このエネルギー密度は、不規則岩塩構造がマンガンという比較的低コストの原料を使用してこのより高いエネルギー密度を達成するため、マンガンが主成分として使用される場合に特に魅力的である。すなわち、匹敵するエネルギー密度を有する化合物はより高価な原料を使用する。
【0005】
リチウムイオン電池に使用するための不規則岩塩に関する研究の中に、Wang, R; Li, X.; Liu, L.; Lee, J.; Seo, D.-H.; Bo, S.-H.; Urban, A.; Ceder, G. A Disordered Rock-Salt Li-Excess Cathode Material with High Capacity and Substantial Oxygen Redox Activity: Li1.25Nb0.25Mn0.5O2. Electrochem. Commun. 2015, 60, 70-73がある。この刊行物では、式Li1.25Nb0.25Mn0.5O2を有する不規則岩塩化合物が合成され、試験された。この材料は、Mn3+/Mn4+酸化還元反応に基づく理論容量よりも高い容量を示した。この刊行物は、Li1.25Nb0.25Mn0.5O2不規則岩塩の有用性を実証している。しかしながら、本明細書に開示された実施形態は、この刊行物には開示も示唆もされていない不規則岩塩構造及び組成のバリエーションを提供する。
【0006】
リチウムイオン電池に使用するための不規則岩塩に関する研究の別の例は、Yabuuchi, N.; Takeuchi, M.; Nakayama, M.; Shiiba, H.; Ogawa, M.; Nakayama, K.; Ohta, T.; Endo, D.; Ozaki, T.; Inamasu, T.; et al. High-Capacity Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries: Li3NbO4-Based System with Cation-Disordered Rock Salt Structure. Proc. Natl. Acad. Sci. 2015, 112, 7650-7655である。この刊行物は、式Li1.3Nb0.3Mn0.4O2、Li1.3Nb0.3Fe0.4O2、Li1.3Nb0.43Ni0.27O2、及びLi1.3Nb0.43Co0.27O2のいくつかの組成物の性能を開示している。したがって、この刊行物は、「3d」金属(以下に定義)をいくらか変えて不規則岩塩組成物のいくつかの性能属性を実証しているが、本明細書に開示の実施形態の不規則岩塩構造及び組成のバリエーションは開示又は示唆していない。
【0007】
リチウムイオン電池に使用するための不規則岩塩に関する研究のさらに別の例は、Ceder, G; Lee, J.; Li, X.; Kim, S.; Hautier, G.のHigh-Capacity Positive Electrode Active Material. US 2014/0099549, 2014年4月10日である。この刊行物は、LixMyO2(式中、0.6≦y≦0.85、0≦x+y≦2であり、Mは、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Sn及びSbのうちの1種又は2種以上である。)の一般的な不規則岩塩組成を開示している。しかしながら、本明細書に開示された実施形態は、この刊行物には開示も示唆もされていない不規則岩塩構造及び組成のバリエーションを提供する。
【0008】
リチウムイオン電池に使用するための不規則岩塩に関する研究のさらに別の例は、Takeuchi, M.; Yabuuchi, N.; Komaba, S.; Endo, D. Active Material For Nonaqueous Electrolyte Electricity Storage Elements. US2016/049640, 2016年2月18日である。この刊行物は、Li1+xNbyMezApO2(式中、MeはFe及び/又はMnなどの遷移金属であり、0.6<x<1、0<y<0.5、及び0.25≦z<1であり、AはNb及びMe以外の元素であり、0≦p≦0.2である。)の一般的な不規則岩塩組成物を開示している。しかしながら、本明細書に開示された実施形態は、この刊行物には開示も示唆もされていない不規則岩塩構造及び組成のバリエーションを提供する。
【0009】
本明細書に開示される実施形態は、既知の不規則岩塩組成物と比較して、改善された容量、エネルギー密度、電圧減衰、レート性能及び容量維持を示すことができ、いくつかの場合には実証した。
【発明の概要】
【0010】
本発明の実施形態は、リチウムイオン電池に使用するための活物質を含む。いくつかの実施形態では、活物質は、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
【化2】
(式中、1.2<x≦1.75、0≦y<0.55、0.1<z<1、0≦a<0.5、0≦b<1、及び0≦c<0.8であり、M、N及びPは、それぞれ独立して、Ti、Ta、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上である。)
によって表される。
【0011】
本発明の実施形態は、上に開示した活物質のうちのいずれかから形成された電極を有する電池を含む。本発明の実施形態は、本明細書で上に開示した活物質を製造するための方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、リチウム含有量の増加の結果としてエネルギー密度の改善が示されている。
【0013】
【
図1B】
図1Bは、化学量論的リチウム含有量が1.2から1.5に増加し、化学量論的マンガン含有量が0.6から0.5に減少する、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。
【0014】
【
図1C】
図1Cは、
図1Bの本発明の実施形態についての、電圧の関数として対応する微分容量を示す。
【0015】
【
図2A】
図2Aは、ニオブとマンガンの比が系統的に変化させた本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。
【0016】
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの本発明の実施形態についての、電圧の関数として対応する微分容量を示す。
【0017】
【
図3】
図3は、様々な遷移金属ドーパントがニオブサイトにドープされた本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。
【0018】
【
図4】化学量論的リチウム含有量が1.2から1.65に増加し、化学量論的マンガン含有量が0.83から0.70に減少する、本発明のいくつかの実施形態の一連のX線回折パターンを示す図である。
【0019】
【
図5A】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここでは、摂氏1000度で様々な雰囲気中で不規則岩塩組成物をアニーリングした場合の第1サイクル性能を測定した。
【0020】
【
図5B】
図5Bは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここでは、摂氏1000度で様々な雰囲気中で不規則岩塩組成物をアニーリングした場合の第1サイクル性能を測定した。
【0021】
【
図6A】
図6Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的特性評価を示し、ここでは、組成物中のニオブを様々に置換した不規則岩塩組成物について第1サイクル性能を測定した。
【0022】
【
図6B】
図6Bは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここでは、組成物中のニオブを様々なダブルドーパント置換(double dopants substitution)した不規則岩塩組成物について第1サイクル性能を測定した。
【0023】
【
図7A】
図7Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、酸素サイトへのフッ素ドーピングを伴う不規則岩塩組成物について第1サイクル性能を測定した。
【0024】
【
図7B】
図7Bは、
図2Aの本発明の実施形態についてのサイクル数の関数としての対応する放電容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の定義は、本発明のいくつかの実施形態に関して説明するいくつかの態様に適用される。これらの定義は、本明細書において同様に拡張できる。各用語は、発明の詳細な説明、図面及び実施例を通してさらに説明され例示される。この説明における用語のいかなる解釈も、本明細書に提示されている完全な説明、図及び例を考慮に入れるべきである。
【0026】
単数形の用語「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形を含む。したがって、例えば、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、ある対象への言及は複数の対象を含むことができる。
【0027】
用語「実質的に(substantially)」及び「相当な(substantial)」はかなりの程度又は度合いを指す。事象又は状況と組み合わせて使用される場合、それらの用語は、その事象又は状況が、正確に起こる場合や、例えば本明細書に記載の実施形態の典型的な許容レベル又は変動性(variability)を説明するようにほぼ起こりうる場合も指す。
【0028】
「遷移金属」という用語は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru))、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、ラザホージウム(Rf)、ドブニウム(Db)、シーボーギウム(Sg)、ボーリウム(Bh)、ハッシウム(Hs)及びマイトネリウム(Mt)などの周期表の第3~12族の化学元素を指す。
【0029】
用語「3d元素」は、Mシェルの3dサブシェルが不完全充填である遷移金属を指し、「3d元素」としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnが挙げられる。
【0030】
「4d元素」という用語は、Nシェルの4dサブシェルが不完全充填である遷移金属を指し、「4d元素」としては、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru及びRhが挙げられる。
【0031】
レート「C」は、電池(実質的に完全に充電された状態にある)が1時間で実質的に完全に放電するであろう「1C」電流値に対する分数又は倍数としての放電電流、あるいは、電池(実質的に完全に放電された状態にある)が1時間で実質的に完全に充電されるであろう「1C」電流値に対する分数又は倍数としての充電電流のいずれか(文脈に応じて)を指す。
【0032】
いくつかの電池特性が温度とともに変化しうる限り、そのような特性は、文脈が明らかにそうでないことを指していない限り、30℃で規定されている。
【0033】
ここに提示された範囲はそれらの端点を含む。したがって、例えば、範囲1~3は、値1及び3と、それらの中間値を含む。
【0034】
本発明の実施形態は、電気化学セルのカソードを配合するのに使用するための不規則岩塩組成物を提供する。先行技術の不規則岩塩組成物と比較して、本明細書に開示されている不規則岩塩のいくつかの実施形態から形成されたカソードは、リチウムイオン電池の電気化学的性能の改善をもたらす。本明細書に開示された実施形態は、改善された容量、エネルギー密度、電圧減衰、レート性能及び容量維持を可能にし、そしていくつかの場合には実証した。本明細書に開示される組成物は、ベースの不規則岩塩組成物と比較して優れた性能を示す。
【0035】
不規則岩塩組成物では、リチウムと遷移金属の両方が八面体サイトの立方最密充填格子を占める。電気化学反応において、リチウム拡散は、1つの八面体サイトから他の八面体サイトへの中間四面体サイトを介したリチウムホッピングによって進行する。中間四面体サイトのリチウムは、リチウム拡散における活性化状態である。活性化四面体リチウムイオンは、以下のように4つの八面体サイトと面を共有する:(i)以前にそのリチウムイオン自体によって占められていたサイト;(ii)リチウムイオンが移動するであろう空孔;並びに(iii及びiv)リチウム、遷移金属又は空孔によって占められる可能性がある2つのサイト。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩中のリチウム含有量を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学性能をもたらす。先行技術の不規則岩塩材料は、典型的には1.4以下、より好ましくは約1.25又は1.3の化学量論的リチウム含有量を使用する。対照的に、本発明のいくつかの実施形態は、リチウムが典型的なものよりも高い化学量論的含有量で存在する不規則岩塩組成物を含む。
【0037】
いくつかの好ましい実施形態において、リチウムの化学量論量は、1.20以上、1.25以上、1.30以上、1.35以上、1.40以上、1.45以上、1.50以上、1.55以上、1.60以上、1.65以上、1.70以上、又は1.75以上である。
【0038】
そのような実施形態において、不規則岩塩組成物中の他の元素の化学量論的含有量は、リチウム含有量の増加によって引き起こされる正味電荷の差を補償するために減少する。増加したリチウムと減少した元素との間の関係は、例示的な式:
【化3】
に取り込まれている。ここで、0.1<x≦1.95、0.01≦z≦1であり、Mはリチウムの増加を電荷補償する元素である。典型的には、この電荷を均衡させる元素(charge-balancing element)は3d又は4d元素であり、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru又はRhであることができる。好ましくは、元素はMnである。これらの実施形態における元素の化学量論量における関係についてのより一般的な式は、
【化4】
である。ここで、1.2<x≦1.75、0.01≦y≦0.55、0.01≦z≦1であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru又はRhである。
【0039】
表1は、より広い範囲の化学量論量のリチウム、ニオブと、リチウム含有量の増加による電荷の差を補償するために使用されるMの量を示す。
【表1】
【0040】
表1の縦軸は式3中に存在するリチウムの化学量論量を列挙し、横軸は式3中に存在するニオブの化学量論量を列挙する。表1のデータは、これらの様々な化学量論量のリチウムを電荷補償するために使用されるM(この場合、マンガン)の化学量論量である。したがって、表1は、式3の範囲を以下のように列挙する:1.0≦x≦3.7、0.00≦y≦0.55、0.017≦z≦1。これらの範囲は、本発明の好ましい実施形態及び本発明の他の実施形態を含む。
【0041】
本明細書に提示される結果において、化学量論量のリチウムを増加させた本発明の実施形態が、不規則岩塩組成物の電気化学的性能を改善することが示されている。先行技術とは対照的に、本発明の実施形態は、不規則岩塩組成を電荷補償するとともに、化学量論量のリチウムを増加させる。不規則岩塩組成物の構成要素間の上記の具体的な関係は、本実施形態を先行技術と区別する少なくとも1つの事項である。いかなる特定の理論又は作用機序にも縛られずに、4dと3dの比を変化させることによって、O2二量体を捕捉することができ、その結果、構造から放出される酸素の量が従来の不規則岩塩におけるよりも著しく少なくなるようにO2二量体を捕捉することができる。このメカニズムは、特定の4dと3dの比で発生しうる還元的カップリングに関係している。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩中の様々なカチオンの比を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学性能をもたらす。先行技術が先行技術の不規則岩塩組成物中の様々なカチオン間の比を特定及び/又は好んでいる範囲内では、3d/4dから導き出されるその比は典型的には2.0である。すなわち、3d元素は4d元素の2倍の化学量論量で存在する。
【0043】
これらの実施形態における3d及び4d元素の化学量論量における関係の一般式は、
【化5】
である。ここで、0.2<x≦0.75、0<y≦0.55、及び1≦z/y≦18であり、M4dは4d元素、M3dは3d元素である。いくつかの好ましい実施形態では、比z/yは2を超え、そして他の好ましい実施形態では10以上である。いくつかの好ましい実施形態では、M4dはニオブであり、M3dはマンガンである。
【0044】
いくつかの実施形態では、4d元素に対する3d元素の化学量論比は、少なくとも2.0、少なくとも2.5、少なくとも3.0、少なくとも3.5、少なくとも4.0、少なくとも4.5、少なくとも5.0、少なくとも5.5、少なくとも6.0、少なくとも6.5、少なくとも7.0、少なくとも7.5、少なくとも8.0、少なくとも8.5、少なくとも9.0、少なくとも9.5、少なくとも10.0、少なくとも10.5、少なくとも11.0、少なくとも11.5、少なくとも12.0、少なくとも12.5、少なくとも13.0、少なくとも13.5、少なくとも14.0、少なくとも14.5、少なくとも15.5、少なくとも15.5、少なくとも16.0、少なくとも16.5、少なくとも17.0、少なくとも17.5、又は少なくとも18.0である。
【0045】
本明細書中に示される結果において、3d元素の化学量論量と4d元素の化学量論量との間の比が比較的高い本発明の実施形態は、不規則岩塩組成物の電気化学的性能を改善することを示す。先行技術とは対照的に、本発明の実施形態は、不規則岩塩組成物中の3d元素の化学量論量と4d元素の化学量論量との間の特定の比の有用性を実証し、この比は、本実施形態を先行技術と区別する少なくとも1つの事項である。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩中の3d元素サイト及び4d元素サイトにおけるドーパントの含有量を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学性能をもたらす。従来技術の不規則岩塩材料は、通常、3d又は4dサイトのいずれにもドーパントを含まない。いくつかの実施形態において、好ましい4d元素はニオブであり、好ましい3d元素はマンガンである。不規則岩塩のドープ合成(doped synthesis)は、固相反応によって達成することができる。
【0047】
これらの実施形態において、マンガンが3d元素として選択され、ニオブが4d元素として選択された、3d及び4d元素のサイトでのドーピングを示す組成の一般式は、
【化6】
である。ここで、1.2<x≦1.75、0.01<y≦0.55、0.1<z<1、0≦a<0.5、0≦b<1であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru及びRhのうちの1種又は2種以上であり、Nは、V、Mo、Sb、Ta、Ti、Zr及びYのうちの1種又は2種以上であり、Pは、Fe、Cr、Al及びSbのうちの1種又は2種以上である。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、a又はbの一方はゼロに等しい。すなわち、ドーパントは、ニオブサイト又はマンガンサイトのいずれかに存在するが、両方のサイトに存在することはない。a=0の一例は、次のとおりである。
【化7】
ここで、0<b<0.8であり、Pは、Fe、Cr、Al及びSbのうちの1種又は2種以上である。b=0の一例は次のとおりである。
【化8】
ここで、0<a<0.2であり、Nは、V、Mo、Sb、Ta、Ti、Zr及びYのうちの1種又は2種以上である。
【0049】
いくつかの好ましい実施形態では、a及びbの両方がゼロに等しい。
【0050】
本明細書に示した結果には、不規則岩塩中の3d元素又は4d元素サイトにドーパントを有する本発明の実施形態が、不規則岩塩組成物の電気化学的性能を改善することが示されている。従来技術とは対照的に、本発明の実施形態は、不規則岩塩中の3d元素又は4d元素サイトにおけるドーパントの有用性を実証しており、これらのドーパントの存在は、本実施形態を従来技術と区別する少なくとも1つの事項である。ドーパントは、例えばエネルギー密度、レート性能及び容量維持などの1つ又は複数の電気化学的性能指標を改善することが見出された。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩中のニオブの存在を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学的性能をもたらす。従来技術の不規則岩塩材料は、典型的にはニオブを含む。いくつかの実施形態では、ニオブは1つ以上の他の元素と完全に置き換えられている。
【0052】
これらの実施形態に従ってニオブが完全に置換されている組成物の一般式は、
【化9】
である。ここで、M及びNは金属であり、1.2<x≦1.75、0<y<0.55、0≦u≦0.55、及び0.2<z<1.0である。いくつかの好ましい実施形態では、MはTi、Ta、Zr、W及びMoから選択され、Nは、独立して、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru及びSbから選択される。いくつかの好ましい実施形態では、単一のドーパントが存在し(すなわち、y又はuの一方がゼロである)、他の好ましい実施形態では、2種のドーパントが存在する。
【0053】
本明細書に示した結果には、不規則岩塩中のニオブを完全に置き換える単一ドーパント及び2種のドーパントを有する本発明の実施形態が、不規則岩塩組成物の電気化学的性能を改善することが示されている。先行技術とは対照的に、本発明の実施形態は、不規則岩塩中のニオブを完全に置換することの有用性を実証し、ニオブが存在しないことは、本実施形態を先行技術と区別する少なくとも1つの事項である。同様に、特定の4dと3dの比は、O2二量体の安定化をシフトさせることができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩中の酸素量を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学的性能をもたらす。具体的には、酸素サイトのいくつかにフッ素をドープすることは、電気化学的性能の改善をもたらす。
【0055】
先行技術の不規則岩塩材料は、典型的には酸素サイトにドーパントを含まず、代わりにドーピング工程を含まずに材料を目標の化学量論的組成に合成する。さらに、先行技術の不規則岩塩組成物は、典型的にはフッ素を含まない。フッ素置換不規則岩塩の合成経路を以下に開示する。
【0056】
これらの実施形態における酸素サイトでのドーピングについての一般式は、
【化10】
である。ここで、1.2<x≦1.75、0≦y≦0.55、0.1<z<1、0≦a<0.5、0≦b<1、及び0<c<0.8であり、M、N及びPは、それぞれ独立に、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru及びRhのうちの1種又は2種以上である。
【0057】
本明細書に示される結果において、不規則岩塩中の酸素サイトにフッ素ドーパントを有する本発明の実施形態が、不規則岩塩組成物の電気化学的性能を改善することが示されている。従来技術とは対照的に、本発明の実施形態は、不規則岩塩中の酸素サイトにおけるドーパントの有用性を実証しており、これらのドーパント、特にフッ素ドーパントの存在は、本実施形態を先行技術と区別する少なくとも1つの事項である。
【0058】
特定の理論又は作用機序に縛られずに、酸素をフッ素でアニオン置換すること(オキシフルオライドの形成)は、高電圧での電解質分解からのHF攻撃に対するより大きな耐性を持たせることによってサイクル性能を向上させることができる。あるいは、金属-酸素結合よりも金属-フッ素結合の方が高イオン性であることは、カソードから電解質への遷移金属の浸出の低減をもたらすことができ、構造をさらに安定化させる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩組成物がアニールされる雰囲気を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学的性能をもたらす。具体的には、アルゴンガス流、窒素ガス流及び空気流の間の変動は、改善された電気化学的性能をもたらす。特に、アニーリング環境によってもたらされる改善は、出発組成及びドーパントに左右される。特定の理論又は作用機序に縛られずに、アルゴン又は窒素環境では、酸素化学量論は保持されるが、空気アニールでは、酸素が放出されることがあり、化学量論に影響を及ぼし、より劣った電気化学的性能をもたらす。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態によれば、不規則岩塩組成物をミリングするのに用いられる様々な炭素前駆体の存在を変化させること及び制御することは、これらのいくつかの実施形態の組成物から形成されたカソードを有するリチウムイオン電池セルにおいて改善された電気化学性能をもたらす。炭素前駆体の例としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、又はKJ600が挙げられるが、これらに限定されない。前駆体は、カソード材料の約10質量%から約40質量%までで存在することができる。
【0061】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態の具体的な態様を説明し、当業者に説明を示し提供する。実施例は、単に、本発明のいくつかの実施形態を理解し実施するのに有用な特定の方法論を提供するためのものであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例0062】
標準的合成
不規則岩塩材料をミリングとアニーリングの2段階法により合成した。典型的には、化学量論量の前駆体(例えばMn2O3、Li2CO3、Nb2O5など)をミリングした。次に、粉砕した粉末をアルゴンガス流(約19L/分)下で、約900~約1000℃の間で、約6~約12時間アニールした。場合によっては、アニールを窒素ガス流又は空気流の下で行った。アニーリング工程に続いて、粉末を、再度、炭素前駆体(例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト又はKJ600)と共に80:20の質量比(アニールされた粉末:炭素)でミリングした。
【0063】
Nbなしの合成
Nbを含まない不規則岩塩材料をミリングとアニーリングの2段階法により合成した。典型的には、化学量論量の前駆体(例えば、Mn2O3、Li2CO3、及び他の4d酸化物(Ta2O5、TiO2、MoO2、WO3))をミリングした。次に、粉砕した粉末をアルゴンガス流(約19L/分)下で、約900℃~約1000℃の間で、約6~約12時間アニールした。アニーリング工程に続いて、粉末を、再度、炭素前駆体(例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン、カーボン単層又は二層ナノチューブ、又はKJ600)と共に80:20の質量比(アニールされた粉末:炭素)でミリングした。
【0064】
フッ素ドープ合成(Fluorine-doped Synthesis)
酸素サイトにフッ素をドーピング(置換)した不規則岩塩材料を、ミリングとアニーリングの2段階法で合成した。典型的には、化学量論量の前駆体(例えばMn2O3、Li2CO3、Nb2O5、NbF5など(又は他のフッ化物前駆体))をミリングした。次に、ミリングした粉末をアルゴンガス流(約19L/分)下で、約900℃~約1000℃の間で、約6~約12時間アニールした。アニーリング工程に続いて、粉末を、再度、炭素前駆体(例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン、カーボン単層又は二層ナノチューブ、又はKJ600)と共に80:20の質量比で粉砕した(アニールされた粉末:カーボン)。
【0065】
セルアセンブリ
電池セルを、高純度アルゴン充填グローブボックス(M-Braun、O2及び湿分含有量<0.1ppm)中で形成した。不規則岩塩粉末をポリ(フッ化ビニリデン)(Sigma Aldrich)及び1-メチル-2-ピロリジノン(Sigma Aldrich)と混合し、得られたスラリーをステンレス鋼集電体上に堆積させ、乾燥させることによって、複合カソードフィルムを形成した。アノードについては、薄いリチウム箔を必要なサイズに切断した。各電池セルは、複合カソードフィルム、ポリプロピレンセパレータ、及びリチウム箔アノードを含んでいた。エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートと添加剤との混合物中にヘキサフルオロリン酸リチウムを含有する電解質を使用した。電池セルを密封し、55℃、場合によっては30℃で、1.5Vと4.8Vの間でサイクルを繰り返した。
【0066】
結果
図1Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、リチウム含有量の増加の結果としてエネルギー密度の改善が示されている。
図1Bは、化学量論的リチウム含有量が1.2から1.5に増加し、化学量論的マンガン含有量が0.6から0.5に減少した、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。
図1Cは、
図1Bの本発明の実施形態についての電圧の関数として対応する微分容量を示す。
【0067】
図1Aでは、化学量論的リチウム含有量が増加し、化学量論的ニオブ含有量が一定に保たれ、リチウム含有量を電荷補償するために化学量論的マンガン含有量が減少し、化学量論的酸素含有量が一定に保たれた。種々の不規則岩塩組成は、Li
1.20Nb
0.20Mn
0.60O
2(対照として)、Li
1.25Nb
0.20Mn
0.58O
2、Li
1.35Nb
0.20Mn
0.55O
2、Li
1.40Nb
0.20Mn
0.53O
2、Li
1.50Nb
0.20Mn
0.50O
2及びLi
1.65Nb
0.20Mn
0.45O
2であった。
【0068】
図1Bは、リチウム含有量の増加に伴う第1サイクル容量の改善を実証しており、その含有量はマンガン含有量の減少と釣り合っている。最も高い化学量論的リチウム含有量は、第1サイクル充電容量の約36%の改善をもたらし、第1サイクル放電容量の約40%の改善をもたらした。
【0069】
図2Aは、ニオブとマンガンの比が系統的に変化する、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。
図2Bは、
図2Aの本発明の実施形態についての、電圧の関数としての対応する微分容量を示す。
【0070】
図2Aは、より高い3d/4d比が電気化学的性能の改善をもたらすことを示している。
図2Aにおける比は2(0.50/0.25);4(0.60/0.15);14(0.70/0.05)、及び16.6(0.83/0.05)であった。より高い比率は、第1サイクル放電容量の約17%の改善をもたらした。
【0071】
図3は、様々な遷移金属ドーパントがニオブサイトにドープされた、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電圧トレースを示す。表2は、ニオブサイトでのドーピングの結果、並びにそれぞれの第1サイクル放電容量及び比エネルギー密度を開示している。これらのデータは、C/40のCレートで4.8Vと1.5Vとの間のサイクリングから生じた。
【表2】
【0072】
図3は、表2中のいくつかのドープされた不規則岩塩組成物についての電圧トレースを示す。ドープされた不規則岩塩組成物の多くは、ドープされていない不規則岩塩組成物よりも優れた性能を示した。
【0073】
表3は、マンガンサイトでのドーピングの結果、並びにそれぞれの第1サイクル放電容量及び比エネルギー密度を開示している。これらのデータは、C/40のCレートで4.8Vと1.5Vとの間のサイクリングから生じた。
【表3】
【0074】
図4は、化学量論的リチウム含有量が1.2から1.65に増加し、化学量論的マンガン含有量が0.85から0.70に減少した、本発明のいくつかの実施形態の一連のX線回折パターンを示す図である。(*)記号は、Fm-3m岩塩結晶構造を示す。
【0075】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、第1サイクル性能は、摂氏1000度で様々な雰囲気中での不規則岩塩組成物のアニーリングについて測定した。
図5Bは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、第1サイクル性能は、摂氏1000度で様々な雰囲気中での不規則岩塩組成物のアニーリングについて測定した。2つの異なる系、Li
1.25Nb
0.25Mn
0.5O
2の基本的な不規則岩塩組成及びLi
1.4Nb
0.2Mn
0.53O
2のより高いリチウム含有量組成では、窒素雰囲気が第1サイクル性能の向上をもたらした。
【0076】
図6Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的特性評価を示し、ここで、第1サイクル性能は、組成物中のニオブを様々に置換した不規則岩塩組成物について測定した。
図6Bは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、第1サイクル性能は、組成物中のニオブを種々のダブルドーパント置換した不規則岩塩組成物について測定した。
【0077】
図6Aは、ニオブをタンタルに置き換えた場合の改善を示し、
図6Bは、タンタル、タングステン、チタン及びジルコニウムの組合せを含むいくつかのダブル置換(double substitutions)が、第1サイクル性能の改善をもたらすことを示す。
【0078】
図7Aは、本発明のいくつかの実施形態を含む電池の電気化学的キャラクタリゼーションを示し、ここで、第1サイクル性能は、酸素サイトにフッ素ドーピングした不規則岩塩組成物について測定した。
図7Bは、
図2Aの本発明の実施形態についてのサイクル数の関数としての対応する放電容量を示す。
図7Aは、酸素サイトでのフッ素ドーピングが第1サイクル性能を改善することを示し、
図7Bは、より高いサイクルでも酸素サイトでのフッ素ドーピングの性能の改善を示す。
【0079】
本明細書に開示された実施形態は、改善された容量、エネルギー密度、電圧減衰、レート性能及び容量維持を可能にし、そしてある場合には実証した。本明細書に開示される組成物は、ベースの不規則岩塩組成物と比較して優れた性能を示す。
【0080】
本発明をその特定の実施態様を参照して説明したが、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加えたり等価物を置き換えたりすることができることが当業者に理解されよう。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、方法又はプロセスを本発明の目的、精神及び範囲に適合させるために多くの変更を加えることができる。かかる変更は全て、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図されている。特に、本明細書に開示された方法は特定の順序で実行される特定の動作を参照して説明されているが、発明の教示から外れずに、これらの動作を組み合わせたり、細分したり、順番を替えたりして、等価な方法を形成することができる。したがって、本明細書に具体的に示されていない限り、動作の順序及びグループ分けは本発明を限定するものではない。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
電極を形成するための組成物であって、不規則岩塩結晶構造により特徴付けられ、かつ、化学式(i):
【化11】
(式中、1.2<x≦1.75、0≦y<0.55、0.1<z<1、0≦a<0.5、0≦b<1、0≦c<0.8であり、M、N及びPは、それぞれ独立して、Ti、Ta、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Y、Mo、Ru、Rh及びSbのうちの1種又は2種以上である。)
によって表される活物質を含む組成物。
[態様2]
x≧1.25である、態様1に記載の組成物。
[態様3]
x≧1.35である、態様1に記載の組成物。
[態様4]
x≧1.45である、態様1に記載の組成物。
[態様5]
x≧1.55である、態様1に記載の組成物。
[態様6]
x≧1.65である、態様1に記載の組成物。
[態様7]
x=1.75である、態様1に記載の組成物。
[態様8]
a=0、b=0、及び1≦z/y≦18である、態様1に記載の組成物。
[態様9]
z/y=2である、態様8に記載の組成物。
[態様10]
z/y=4である、態様8に記載の組成物。
[態様11]
z/y=14である、態様8に記載の組成物。
[態様12]
z/y=16.6である、態様8に記載の組成物。
[態様13]
a又はbの1つだけがゼロに等しい、態様1に記載の組成物。
[態様14]
y=0.5、a=0、z=0.8、0<b<0.8であり、Mがマンガンであり、PがFe、Cr、Al及びSbから選択される、態様13に記載の組成物。
[態様15]
y=0.2、0<a<0.2、z=0.57、b=0であり、NがV、Mo、Sb、Ta、Ti、Zr及びYから選択される、態様13に記載の組成物。
[態様16]
y-a=0である、態様1に記載の組成物。
[態様17]
0<c<0.8である、態様1に記載の組成物。