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特開2024-72893カテーテル、治療システムおよび治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072893
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】カテーテル、治療システムおよび治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240522BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 33/40 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240522BHJP
   A61L 29/10 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20240522BHJP
【FI】
A61M25/00 610
A61N5/06 Z
A61K31/409
A61K33/40
A61P35/00
A61K47/68
A61L29/10
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043360
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】岡村 遼
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C082
4C084
4C085
4C086
4C267
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB32
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF68
4C081AC08
4C081BB03
4C081CG02
4C081DA03
4C082AC01
4C082PA03
4C082PC10
4C082PE10
4C082PL05
4C084AA11
4C084MA67
4C084ZB261
4C084ZB351
4C085AA13
4C086AA01
4C086BC05
4C086HA22
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA67
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB35
4C267AA02
4C267BB06
4C267BB09
4C267BB48
4C267CC08
4C267GG16
4C267GG21
(57)【要約】
【課題】適切な量のラジカルアニオンを、がん細胞に結合した抗体-親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができるカテーテル、治療システムおよび治療方法を提供する。
【解決手段】内腔13を有するカテーテル10であって、内腔13に配置される酸化チタンを含む光触媒14と、外部から供給されるエネルギーを光触媒14へ到達させる誘導部17と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有するカテーテルであって、
前記内腔に配置される酸化チタンを含む光触媒と、
外部から供給されるエネルギーを前記光触媒へ到達させる誘導部と、を有するカテーテル。
【請求項2】
前記光触媒は、前記内腔の少なくとも一部に被覆されている請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記光触媒は、メッシュ状またはスポンジ状の通液性を備えた触媒保持部材に混合されている請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記内腔とは異なるガイドワイヤルーメンを有する請求項1~3のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記誘導部は、前記カテーテルの前記エネルギーを透過可能な壁に形成される請求項1~4のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカテーテルと、
ラジカルアニオンを生成可能な物質を前記カテーテルに供給する供給装置と、
エネルギーを前記カテーテルへ照射可能な照射装置と、を有する治療システムであって、
前記供給装置は、
前記ラジカルアニオンを生成可能な物質を収容する収容部と、
前記収容部へエネルギーを照射する事前照射部と、を有する治療システム。
【請求項7】
がんの治療方法であって、
抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、
がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテルを挿入するステップと、
過酸化水素水を含む溶液をカテーテルに供給し、前記カテーテルの内部へエネルギーを照射して前記カテーテルの内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、
前記カテーテルから前記ラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有するがんの治療方法。
【請求項8】
がんの治療方法であって、
抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、
がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテルを挿入するステップと、
塞栓物質およびエタノールを含む溶液をカテーテルに供給し、前記カテーテルの内部へエネルギーを照射して前記カテーテルの内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、
前記カテーテルから前記ラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有するがんの治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞を壊死させるための治療に用いられるカテーテル、治療システムおよび治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞などのがん細胞を壊死(ネクローシス)させるための治療方法として、光免疫療法を用いた方法が知られている。この治療方法では、がん細胞の表面にある特有の抗原のみに特異的に結合する抗体である免疫グロブリンと、その免疫グロブリンと対になる光感受性物質とを結合させた抗体-光感受性物質を、薬剤として使用する。例えば、波長700nm付近の近赤外線に反応する物質である親水性フタロシアニン(IR700)と抗体を結合した抗体-親水性フタロシアニンを用いた治療方法は、腫瘍に集積した親水性フタロシアニンに対して近赤外線を照射することで、IR700を活性化して凝集を生じさせ、正常細胞などの非がん細胞を壊死させずに、非侵襲的にがん細胞を特異的に壊死させることができる。このため、この方法を用いることで、副作用を軽減しながら高い治療効果を得ることが期待される。
【0003】
一方で、近赤外線が親水性フタロシアニンを活性化させるメカニズムは、最近まで不明であった。また、近赤外線の組織内への深達度は短いため、光免疫療法は、体表面に近いがん細胞で効果が得られやすい一方、深部のがん細胞では効果が得られにくい。このため、例えば特許文献1には、光ファイバを備える長尺なデバイスを、経血管的に腫瘍の近くへ挿入し、血管内から光を照射する方法が開示されている。
【0004】
ところで、近年、光免疫療法では、近赤外線が直接的に親水性フタロシアニンを活性化させているのではなく、近赤外線が照射されたことにより親水性フタロシアニン上のπ電子雲が励起され、ラジカルアニオンが発生して親水性フタロシアニンのSi-O軸配位子を加水分解・切断していることが報告されている。すなわち、近赤外線を照射せずとも、ラジカルアニオンがあれば、親水性フタロシアニンの加水分解を生じさせることが可能であり、がん細胞を壊死させることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018-0113246号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ヒドロキシラジカル(OH)は、攻撃性が高いが非常に短命である。したがって、ヒドロキシラジカルの生産や出荷時に、ラジカル性を保持したまま病院へ届けることが大変難しい。このため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させることが困難である。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、適切な量のラジカルアニオンを、がん細胞に結合した抗体-親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができるカテーテル、治療システムおよび治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るカテーテルは、内腔を有するカテーテルであって、前記内腔に配置される酸化チタンを含む光触媒と、外部から供給されるエネルギーを前記光触媒へ到達させる誘導部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成したカテーテルは、内腔にラジカルアニオンを生成可能な物質を供給して光触媒にエネルギーを照射することで、酸化チタンの励起電子と、ラジカルアニオンを生成可能な物質とを反応させて、ラジカルアニオンを生成できる。このため、カテーテルは、寿命の短いラジカルアニオンを内腔で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。
【0010】
前記光触媒は、前記内腔の少なくとも一部に被覆されてもよい。これにより、カテーテルの内腔にエネルギーを照射することで、ラジカルアニオンを生成可能な物質からラジカルアニオンを生成できる。
【0011】
前記光触媒は、メッシュ状またはスポンジ状の通液性を備えた触媒保持部材に混合されてもよい。これにより、光触媒とラジカルアニオンを生成可能な物質との接触面積を増加させて、ラジカルアニオンを効果的に生成できる。
【0012】
前記カテーテルは、前記内腔とは異なるガイドワイヤルーメンを有してもよい。これにより、ガイドワイヤに沿ってカテーテルを目的の部位まで高精度かつ迅速に導くことが可能となる。
【0013】
前記誘導部は、前記カテーテルの前記エネルギーを透過可能な壁に形成されてもよい。これにより、エネルギーを、壁を透過させて内腔に配置された光触媒へ到達させることができる。そして、壁は開口している必要がないため、カテーテルの内部を清潔に保持することが容易となる。
【0014】
上記目的を達成する本発明に係るがんの治療システムは、前記カテーテルと、ラジカルアニオンを生成可能な物質を前記カテーテルに供給する供給装置と、エネルギーを前記カテーテルへ照射可能な照射装置と、を有する治療システムであって、前記供給装置は、前記ラジカルアニオンを生成可能な物質を収容する収容部と、前記収容部へエネルギーを照射する事前照射部と、を有する。
【0015】
上記のように構成した治療システムは、供給装置の収容部の内部の物質に事前照射部からエネルギーを照射することで、ラジカルアニオンを生成できる。このため、カテーテル内だけでなく、カテーテルへラジカルアニオンを生成可能な物質を供給する前においても、ラジカルアニオンを生成できるため、寿命が短いために適切な量を維持することが困難なラジカルアニオンを確実に準備できる。
【0016】
上記目的を達成する本発明に係るがんの治療方法の一態様は、抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテルを挿入するステップと、過酸化水素水を含む溶液をカテーテルに供給し、前記カテーテルの内部へエネルギーを照射して前記カテーテルの内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、前記カテーテルから前記ラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有する。
【0017】
上記のように構成したがんの治療方法の一態様は、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンを、カテーテル内で生成して動脈に放出したラジカルアニオンにより加水分解させて凝集させて、がん細胞を壊死させることができる。そして、カテーテルは、寿命の短いラジカルアニオンを内腔で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。
【0018】
上記目的を達成する本発明に係るがんの治療方法の他の態様は、抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテルを挿入するステップと、塞栓物質およびエタノールを含む溶液をカテーテルに供給し、前記カテーテルの内部へエネルギーを照射して前記カテーテルの内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、前記カテーテルから前記ラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有する。
【0019】
上記のように構成したがんの治療方法の他の態様は、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンを、カテーテル内で生成して動脈に放出したラジカルアニオンにより加水分解させて凝集させて、がん細胞を壊死させることができると共に、塞栓物質により動脈を塞栓させてがん細胞への栄養を遮断し、がん細胞死を早めることができる。そして、カテーテルは、寿命の短いラジカルアニオンを内腔で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係るカテーテルを含む治療システムを示す平面図である。
図2】第1実施形態に係るカテーテルを用いて肝臓がんを治療する際の体内の状態を示す概略図である。
図3】第2実施形態に係るカテーテルを含む治療システムを示す平面図である。
図4】第3実施形態に係るカテーテルを含む治療システムを示す平面図である。
図5】第4実施形態に係るカテーテルを含む治療システムを示す平面図である。
図6】第5実施形態に係るカテーテルを含む治療システムを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、デバイスの生体管腔に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0022】
<第1実施形態>
【0023】
第1実施形態に係るカテーテル10は、ラジカルアニオンを、カテーテル10の内部で生成して供給するデバイスである。このカテーテル10を用いた治療方法では、がん細胞の表面にある特有の抗原のみに特異的に結合する抗体(免疫グロブリン)と、その抗体と対になる親水性フタロシアニンとを結合させた抗体-親水性フタロシアニンを、カテーテル10を用いた手技の前に静脈に投与する薬剤として使用する。抗体は、特に限定されないが、例えば、パニツムバブ、トラスツズマブ、HuJ591等である。親水性フタロシアニンは、カテーテル10により供給されるラジカルアニオンによってSi-O軸配位子を加水分解されて凝集し、抗体を介して結合しているがん細胞を細胞死させることができる。第1実施形態に係るカテーテル10を用いた治療方法は、例えば、体表面から離れているために、体表面から近赤外線を照射することが困難な器官のがん治療に好適である。第1実施形態に係るカテーテル10を用いた治療方法は、例えば、肝臓がん、脾臓がん、すい臓がん、前立腺がん、または子宮筋腫などのような、経皮血管的に深部のがん細胞にアクセスできる腫瘍に対して、光免疫療法と同等の効果を得ることができる。
【0024】
第1実施形態に係るカテーテル10は、図1に示すように、治療システム1の一部を構成する。まず、治療システム1について説明する。
【0025】
治療システム1は、カテーテル10と、エネルギーを照射する照射装置20と、過酸化水素水(H)の水溶液を供給する供給装置30とを備えている。
【0026】
カテーテル10は、長尺な管体11と、管体11の近位に連結されたハブ12とを有している。管体11およびハブ12の内腔13の少なくとも一部は、酸化チタン(TiO)を含む光触媒14が被覆されている。
【0027】
ハブ12は、供給装置30に接続される第1ポート15と、照射装置20に接続される第2ポート16とを有している。第1ポート15は、供給装置30から過酸化水素水の溶液を供給されて、内腔13へ流通させる。第2ポート16は、照射装置20の照射部21を接続されて、照射部21から照射されるレーザー光を光触媒14へ誘導可能な通路が形成された誘導部17を有している。
【0028】
照射装置20は、レーザー光を出力する出力装置22と、出力装置22から出力されたレーザー光を外部へ照射する照射部21とを有している。出力装置22から出力されるレーザー光は、光触媒14に励起電子を生じさせる波長であることが好ましく、400nm以下の波長の光であることが好ましい。レーザー光は、例えば355nmの波長のYAGレーザー光である。照射部21は、例えば光ファイバにより形成される。光ファイバの先端には、レーザー光を照射するために、例えば、レンズ、ディフューザー、ミラー等が適宜配置されてもよい。
【0029】
供給装置30は、カテーテル10の第1ポート15に接続されて、第1ポート15へ過酸化水素水を含む水溶液を供給する。供給装置30は、例えば溶液を収容したシリンジである。なお、供給装置30の構成は、特に限定されず、例えば溶液を収容したソフトバッグや、シリンジポンプ等であってもよい。
【0030】
<第1の治療方法>
次に、第1実施形態に係るカテーテル10を使用した第1の治療方法を、肝臓がんを治療する場合を例として説明する。なお、本説明は、治療する器官を限定するものではない。
【0031】
始めに、抗体-親水性フタロシアニンを、静脈投与する。静脈投与から約12~36時間経過後に、術者は、図2に示すように、例えば大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈、遠位橈骨動脈、静脈等から、ガイドワイヤやガイディングカテーテル等を用いて、カテーテル10の先端を、がん細胞のある腫瘍Cが形成された肝臓の主要動脈(例えば、栄養動脈)である肝動脈に挿入する。すなわち、カテーテル10の先端を、腫瘍Cに対して心臓側(血流の上流側)に配置する。
【0032】
次に、術者は、図1に示すように、カテーテル10の第1ポート15へ供給装置30を接続し、光触媒14が配置された内腔13へ、過酸化水素水を含む溶液を供給する。さらに、術者は、カテーテル10の第2ポート16へ照射部21を接続し、過酸化水素水が接する光触媒14へ、レーザー光を照射する。光触媒14にレーザー光が照射されると、光触媒14から励起電子が発生して過酸化水素水と反応し、ヒドロキシラジカルが生成される。ヒドロキシラジカルを含む溶液が、カテーテル10の内腔13を通って、カテーテル10の先端開口から動脈に放出される。動脈に放出されたヒドロキシラジカルは、血流により、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンに到達する。ヒドロキシラジカルのラジカルアニオンは、親水性フタロシアニンのSi-O軸配位子を加水分解して凝集させる。これにより、抗体によって親水性フタロシアニンと結合しているがん細胞が細胞死する。この後、術者は、カテーテル10を血管から抜去し、手技を完了する。
【0033】
以上のように、第1実施形態に係るカテーテル10は、内腔13を有するカテーテル10であって、内腔13に配置される酸化チタンを含む光触媒14と、外部から供給されるエネルギーを光触媒14へ到達させる誘導部17と、を有する。
【0034】
上記のように構成したカテーテル10は、内腔13にラジカルアニオンを生成可能な物質(例えば、過酸化水素水)を供給して光触媒14にエネルギーを照射することで、酸化チタンの励起電子と、ラジカルアニオンを生成可能な物質とを反応させて、ラジカルアニオンを生成できる。このため、カテーテル10は、寿命の短いラジカルアニオンを内腔13で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。そして、近赤外線を照射することが困難な深部のがんに対しても、非侵襲的にがん細胞を特異的に壊死させる光免疫療法と同様の効果を提供できる。
【0035】
また、光触媒14は、内腔13の少なくとも一部に被覆されている。これにより、カテーテル10の内腔13にエネルギーを照射することで、ラジカルアニオンを生成可能な物質からラジカルアニオンを生成できる。
【0036】
また、上述した第1の治療方法は、がんの治療方法であって、抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテル10を挿入するステップと、過酸化水素水を含む溶液をカテーテル10に供給し、カテーテル10の内部へエネルギーを照射してカテーテル10の内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、カテーテル10からラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有する。
【0037】
上記のように構成したがんの治療方法は、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンを、カテーテル10内で生成して動脈に放出したラジカルアニオンにより加水分解させて凝集させて、がん細胞を壊死させることができる。そして、カテーテル10は、寿命の短いラジカルアニオンを内腔13で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。そして、近赤外線を照射することが困難な深部のがんに対しても、非侵襲的にがん細胞を特異的に壊死させる光免疫療法と同様の効果を提供できる。
【0038】
<第2の治療方法>
次に、第1実施形態に係るカテーテル10を使用した第2の治療方法を、肝臓がんを治療する場合を例として説明する。第2の治療方法は、ラジカルアニオンの供給に加えて、塞栓物質を用いた動脈塞栓術を併用する。なお、本説明は、治療する器官を限定するものではない。第2の治療方法では、供給装置30には、塞栓物質であるリピオドールおよびエタノール溶液の混合物が収容されている。リピオドールを塞栓物質に用いた治療術は、肝動脈の塞栓に適用される場合には、肝動脈化学塞栓術(TACE:transcatheter arterial chemoembolization)と称される。なお、塞栓する血管は、肝動脈に限定されない。
【0039】
第2の治療方法は、カテーテル10の先端を、腫瘍Cに対して心臓側(血流の上流側)に配置するまでは、第1の治療方法と同様であるため、説明を省略する。
【0040】
次に、術者は、カテーテル10の第1ポート15へ供給装置30を接続し、光触媒14が配置された内腔13へ、リピオドールおよびエタノールの混合物を供給する。さらに、術者は、カテーテル10の第2ポート16へ照射部21を接続し、リピオドール-エタノール混合物が接する光触媒14へ、レーザー光を照射する。光触媒14にレーザー光が照射されると、光触媒14から励起電子が発生してリピオドールおよびエタノールと反応する。リピオドールは、π電子雲を有しているため、eラジカルを発生させてヒドロキシラジカルを発生させる。さらに、エタノールは、励起電子と反応してヒドロキシラジカルを発生させる。したがって、ヒドロキシラジカルを含む溶液が、カテーテル10の内腔13を通って、カテーテル10の先端開口から動脈に放出される。動脈に放出されたヒドロキシラジカルを含むエタノール溶液は、血流により、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンに到達する。ヒドロキシラジカルのラジカルアニオンが親水性フタロシアニンのSi-O軸配位子を加水分解して凝集させて、がん細胞を壊死させる。また、動脈に放出されたリピオドールは、肝動脈を塞栓し、がん細胞への栄養を遮断し、がん細胞死を早めることができる。この後、術者は、カテーテル10を血管から抜去し、手技を完了する。
【0041】
なお、リピオドールを用いたTACEではなく、抗癌剤を含侵させた薬剤溶出性の血管塞栓用ビーズを塞栓物質に用いたDrug Eluting Beads TACEが、抗体-親水性フタロシアニンにラジカルアニオンを作用させてがん細胞を壊死させる方法に併用されてもよい。血管塞栓用ビーズの素材は、例えばアクリル系やアルコール系のポリマーを適用できる。このため、血管塞栓用ビーズは、リピオドールと同様に、エネルギー照射によりe-ラジカルアニオンを発生させる。このため、塞栓と、抗体-親水性フタロシアニンにラジカルアニオンを作用させてがん細胞を壊死させる方法を、併せて実施できる。なお、塞栓する血管は、肝動脈に限定されない。
【0042】
また、放射線ビーズを塞栓物質に用いた選択的内部放射線療法(SIRT:Selective Internal Radiation Therapy)が、抗体-親水性フタロシアニンにラジカルアニオンを作用させてがん細胞を壊死させる方法に併用されてもよい。放射線ビーズは、放射性同位体であるイットリウム(Y90)やホルミウム(Ho166)を含んでいる。これらの放射性ビーズは、単体で高エネルギーの放射線を放出しており、過酸化水素水そのものと反応してラジカルアニオンを発生させやすい。したがって、SIRTと、抗体-親水性フタロシアニンにラジカルアニオンを作用させてがん細胞を壊死させる方法を併せて実施することは、非常に効果的である。なお、塞栓する血管は、肝動脈に限定されない。
【0043】
以上のように、第2の治療方法は、がんの治療方法であって、抗体-親水性フタロシアニンを静脈投与するステップと、がん細胞を有する器官の主要の動脈にカテーテル10を挿入するステップと、塞栓物質(リピオドール、薬剤溶出性ビーズまたは放射性ビーズ等)およびエタノールを含む溶液をカテーテル10に供給し、カテーテル10の内部へエネルギーを照射してカテーテル10の内部でラジカルアニオンを含む溶液を生成するステップと、カテーテル10からラジカルアニオンを含む溶液を動脈内へ放出するステップと、を有する。
【0044】
上記のように構成したがんの治療方法は、がん細胞に結合させた抗体-親水性フタロシアニンを、カテーテル10内で生成して動脈に放出したラジカルアニオンにより加水分解させて凝集させて、がん細胞を壊死させることができると共に、塞栓物質により動脈を塞栓させてがん細胞への栄養を遮断し、がん細胞死を早めることができる。そして、カテーテル10は、寿命の短いラジカルアニオンを内腔13で生成しつつ体内へ供給できるため、適切な量のラジカルアニオンを親水性フタロシアニンへ到達させて、がん細胞を効果的に壊死させることができる。そして、近赤外線を照射することが困難な深部のがんに対しても、非侵襲的にがん細胞を特異的に壊死させる光免疫療法と同様の効果を提供できる。
【0045】
なお、上述の第1の治療方法および第2の治療方法において、照射装置20は、レーザーを出力する装置ではなく、紫外線を照射する装置や、プラズマを照射する装置であってもよい。酸化チタンを含む光触媒14は、エネルギーとして紫外線やプラズマを照射されても、励起電子を生じさせて、ラジカルアニオンを生成することができる。
【0046】
<第2実施形態>
【0047】
第2実施形態に係るカテーテル40は、図3に示すように、光触媒14が、内腔13に被覆されるのではなく、内腔13に配置される触媒保持部材18に含まれる点でのみ、第1実施形態と異なる。
【0048】
触媒保持部材18は、メッシュ状またはスポンジ状の多孔性の部材であり、通液性を備えている。触媒保持部材18は、ハブ12の内腔13に収容されるが、管体11の内腔13に収容されてもよい。触媒保持部材18は、酸化チタンTiOを含む光触媒14の粉末が、多孔性の樹脂材料に混合されている。多孔性の樹脂材料は、例えばシリコン樹脂等である。触媒保持部材18は、多孔性の部材であるため、表面積が大きい。触媒保持部材18は、過酸化水素水を含む溶液を流通させつつ、レーザー光を照射されることで、光触媒14から発生する励起電子を過酸化水素水と反応させて、ラジカルアニオンを生成できる。触媒保持部材18は、光触媒14と過酸化水素水の接触面積を増加させて、ラジカルアニオンを効果的に生成できる。
【0049】
なお、照射装置20は、レーザーを出力する装置ではなく、紫外線を照射する装置や、プラズマを照射する装置であってもよい。
【0050】
<第3実施形態>
【0051】
第3実施形態に係るカテーテル50は、図4に示すように、ガイドワイヤルーメン51が形成される点でのみ、第2実施形態と異なる。
【0052】
カテーテル50は、管体11およびハブ12に、管体11の先端からハブ12の基端まで貫通するガイドワイヤルーメン51が形成されている。ガイドワイヤルーメン51は、ラジカルアニオンを送液する内腔13とは異なるルーメンである。すなわち、カテーテル50は、いわゆるオーバーザワイヤ型のカテーテルである。カテーテル50は、ガイドワイヤルーメン51にガイドワイヤ100を挿入して、ガイドワイヤ100に沿って移動可能である。したがって、カテーテル50は、ガイドワイヤ100に沿って、血管の目的の位置まで高精度かつ迅速に到達可能となる。なお、光触媒14は、第2実施形態と同様に触媒保持部材18に配置されているが、第1実施形態と同様に内腔13に被覆されてもよい。また、ガイドワイヤルーメン51は、オーバーザワイヤ型ではなく、ラピッドエクスチェンジ型であってもよい。また、照射装置20は、レーザーを出力する装置ではなく、紫外線を照射する装置や、プラズマを照射する装置であってもよい。
【0053】
<第4実施形態>
【0054】
第4実施形態に係るカテーテル60は、図5に示すように、管体11の先端部にガイドワイヤルーメン62が形成され、ハブ12に第2ポート16が配置されず、かつレーザー光ではなく紫外線を照射される点で、第2実施形態と異なる。
【0055】
カテーテル60は、管体11の先端部の側壁面に、ガイドワイヤルーメン62が形成された先端チューブ61が固定されている。ガイドワイヤルーメン62は、ヒドロキシラジカルを送液する内腔13とは異なるルーメンである。すなわち、カテーテル60は、いわゆるラピッドエクスチェンジ型のカテーテルである。カテーテル60は、ガイドワイヤルーメン62にガイドワイヤを挿入して、ガイドワイヤに沿って移動可能である。したがって、カテーテル60は、ガイドワイヤに沿って、血管の目的の位置まで高精度かつ迅速に到達可能となる。さらに、ガイドワイヤルーメン62が、カテーテル60の先端部にのみ配置されるため、使用するガイドワイヤ100を短くすることができ、カテーテル60の操作性が向上する。
【0056】
カテーテル60のハブ12は、過酸化水素水の溶液が供給される第1ポート15のみが配置され、他のポートは配置されていない。第1ポート15には、逆流を防止する弁体19が配置されている。光触媒14を含有する触媒保持部材18は、紫外線の透過性の高いシリコン樹脂により形成されるメッシュ状またはスポンジ状の多孔性の部材であり、通液性を備えている。触媒保持部材10は、酸化チタンTiOを含む光触媒14の粉末が混合されている。また、ハブ12の少なくとも触媒保持部材18を囲む部位は、紫外線の透過性の高いシリコン樹脂により形成されて、紫外線を透過させる誘導部として機能する。誘導部は、ハブ12の内面と外面を形成する壁に形成される。なお、触媒保持部材18およびハブ12の材料は、紫外線を透過できるのであれば、シリコン樹脂以外の材料であってもよい。
【0057】
治療システム1は、カテーテル60の内腔13に供給された過酸化水素水の溶液に紫外線を照射する照射装置80を有している。照射装置80は、紫外線を照射できれば特に限定されないが、例えば公知の筒状のハンディライトである。照射装置80は、筒状のハンディライトであれば、リユースが容易である。照射装置80は、例えば波長が222nmの紫外線を照射する。222nmの波長の紫外線は、人体に無害であり、かつ殺菌効果および殺ウイルス効果があるため、例えばCOVID-19にも有効であると共に、カテーテル60を血管に挿入する際の皮膚の穿刺部の消毒も兼ねることができる。また、波長が222nmの紫外線は、シリコン樹脂を透過することができる。
【0058】
術者は、カテーテル60を使用する際には、カテーテル60の先端を血管の所定の位置に配置した後に、第1ポート15へ供給装置30を接続し、光触媒14が配置された内腔13へ、過酸化水素水を含む溶液を供給する。さらに、術者は、触媒保持部材18を囲むカテーテル60の外部から、照射装置80によって紫外線を照射する。照射された紫外線は、ハブ12の壁および触媒保持部材18の樹脂材料を透過して光触媒14に到達する。これにより、光触媒14から励起電子が発生して過酸化水素水と反応し、ヒドロキシラジカルが生成される。この後、ヒドロキシラジカルを含む溶液が、カテーテル60の内腔13を通って、カテーテル60の先端開口から動脈に放出される。
【0059】
以上のように、第4実施形態において、誘導部17は、カテーテル60のエネルギーを透過可能な壁に形成される。これにより、エネルギーを、壁を透過させて内腔13に配置された光触媒14へ到達させることができる。そして、壁は開口している必要がないため、カテーテル60の内部を清潔に保持することが容易となる。
【0060】
なお、ガイドワイヤルーメン62は、オーバーザワイヤ型であってもよく、または設けられなくてもよい。また、光触媒14は、第2実施形態と同様に触媒保持部材18に配置されているが、第1実施形態と同様に内腔13に被覆されてもよい。また、照射装置80は、レーザーを出力する装置や、プラズマを照射する装置であってもよい。
【0061】
<第5実施形態>
【0062】
第5実施形態に係るカテーテル10は、図6に示すように、第1実施形態に係るカテーテル10と同様であるが、接続される供給装置70が異なる。
【0063】
供給装置70は、カテーテル10の第1ポート15に接続されて、第1ポート15へ過酸化水素水を含む溶液を供給する。供給装置70は、例えば溶液を任意の流量で供給できるシリンジポンプであり、溶液を収容したシリンジ71(収容部)と、シリンジ71から溶液を任意の流量で押し出す駆動部72と、シリンジ71内の溶液に紫外線を照射する事前照射部73と、紫外線を効果的にシリンジ71内へ照射するために内面にミラー74が配置されてシリンジ71および事前照射部73を覆うカバー75とを有している。供給装置70は、シリンジ71に収容される。供給装置70は、例えばUSB電源へ接続可能であり、内蔵バッテリーを有することで紫外線を照射しつつ移動可能であり、手術部屋へ容易に持ち運ぶことができる。
【0064】
術者は、カテーテル10を使用する際には、第1実施形態と同様に、カテーテル10の内腔13の光触媒14にレーザー光を照射して、カテーテル10の内部でヒドロキシラジカルを生成できるだけなく、カテーテル10に供給する前の過酸化水素水を収容する供給装置70の内部で、過酸化水素水からヒドロキシラジカルを生成できる。すなわち、供給装置70の事前照射部73から紫外線を照射すると、シリンジ71内の過酸化水素水から、ラジカルアニオンを生成できる。そして、十分に紫外線を照射して供給装置70の内部でラジカルアニオンを確実に生成した後に、ラジカルアニオンを含む溶液を、第1ポート15からカテーテル10の内腔13へ送液できる。術者は、さらに、第1実施形態と同様に、カテーテル10の内腔13の光触媒14にレーザー光を照射して、カテーテル10の内部でラジカルアニオンを生成できる。
【0065】
以上のように、第5実施形態におけるがんの治療システム1は、カテーテル10と、ラジカルアニオンを生成可能な物質をカテーテル10に供給する供給装置70と、エネルギーをカテーテル10へ照射可能な照射装置20と、を有する治療システム1であって、供給装置70は、ラジカルアニオンを生成可能な物質を収容するシリンジ71(収容部)と、収容部へエネルギーを照射する事前照射部73と、を有する。
【0066】
上記のように構成した治療システム1は、供給装置70の収容部の内部の物質に事前照射部73からエネルギーを照射することで、ラジカルアニオンを生成できる。このため、カテーテル10内だけでなく、カテーテル10へラジカルアニオンを生成可能な物質(例えば、過酸化水素水)を供給する前においても、ラジカルアニオンを生成できるため、寿命が短いために適切な量を維持することが困難なラジカルアニオンを確実に準備できる。
【0067】
なお、供給装置70の構成は、上記の構成に限定されない。例えば、供給装置70は、シリンジポンプの形態ではなく、過酸化水素水やエタノールを収容した複数のバイアル瓶(収容部)を、内面にミラー74が配置されたカバー75で覆い、事前照射部73により複数のバイアル瓶へ紫外線を照射する構成であってもよい。これにより、カバー75内の全てのバイアル瓶の過酸化水素水やエタノールをまとめてラジカルアニオン化することができ、コストの削減や軽量化が可能である。そして、カテーテル10の先端を血管の目的の位置に配置した後に、バイアル瓶の過酸化水素水やエタノールを第1ポート15へ供給できる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、第2~第5実施形態のいずれも、第1実施形態で説明した第1の治療方法および第2の治療方法の両方を行うことができる。
【符号の説明】
【0069】
1 治療システム
10 カテーテル
11 管体
13 内腔
14 光触媒
15 第1ポート
16 第2ポート
17 誘導部
18 触媒保持部材
20、80 照射装置
21 照射部
22 出力装置
30、70 供給装置
51、62 ガイドワイヤルーメン
61 先端チューブ
71 シリンジ(収容部)
73 事前照射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6