(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072896
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】心拍出量計測センサ、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/029 20060101AFI20240522BHJP
A61B 5/0507 20210101ALI20240522BHJP
【FI】
A61B5/029
A61B5/0507
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054938
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢部 滝太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭
(72)【発明者】
【氏名】須田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根 淳
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA03
4C017AB04
4C017AC40
4C017BC20
4C017DD14
4C017EE01
4C017FF05
4C127AA10
4C127EE03
(57)【要約】
【課題】適正な位置に配置した送受信アンテナを用いて、心臓から拍出される血液量を高い精度で推定する。
【解決手段】心拍出量計測センサ1000は、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、心臓から拍出される血液量を推定する心拍出量推定部214を備え、送信アンテナ11および受信アンテナ12の少なくとも一方は、生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子rを含み、さらに、アンテナ素子rそれぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データをアンテナ素子rそれぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成部211と、波形分布データに基づいて、複数のアンテナ素子の中から、血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する素子決定部213と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した電磁波を用いて、心臓から拍出される血液量を推定する心拍出量推定部と、を備え、
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含み、
さらに、前記アンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データを前記アンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成部と、
前記1次分布作成部が作成した前記波形分布データに基づいて、複数の前記アンテナ素子の中から、前記血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する素子決定部と、を備える、心拍出量計測センサ。
【請求項2】
さらに、前記1次分布作成部により作成された波形分布データに基づいて、前記アンテナ素子の位置に応じた評価値の分布データを作成する2次分布作成部を備え、
前記素子決定部は、前記2次分布作成部により作成された前記評価値の分布データに基づいて、複数の前記アンテナ素子の中から、前記血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する、請求項1に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項3】
前記計測値は、同時または略同時に計測された計測値である、請求項1、または請求項2に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項4】
複数の前記アンテナ素子を含む前記一方は、さらに、該アンテナ素子それぞれのON/OFFを、所定の周期で順次切り替える高速切替部を含み、
前記1次分布作成部は、前記高速切替部によりONとなった前記アンテナ素子それぞれにおける計測値を、該アンテナ素子と紐付けて点データとして記録する点データ記録部と、前記点データ記録部が記録した点データを、経時的に並べることで、前記波形データを作成する波形データ生成部と、を含む、請求項3に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項5】
前記所定の周期は、複数の前記アンテナ素子へのONが一巡する1サイクル時間が、心周期よりも十分に短くなるような周期に設定されている、請求項4に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項6】
前記評価値は、前記波形データの振幅、フーリエ変換後の特定周波数における強度、波形データの変曲点時間、波形データの時間積分値、および/または自己相関係数である、請求項2から請求項5のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項7】
前記評価値は、前記波形データのピークのタイミングを、基準波形のピークのタイミングと比較した、差分時間である、請求項3から請求項5のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項8】
前記素子決定部は、記憶部に予め記録された比較分布パターンを、前記2次分布作成部で作成された前記分布データと比較することで、推定の際に用いる前記アンテナ素子の決定を行う、請求項2から請求項7のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項9】
複数の前記アンテナ素子は、同一平面上に格子状に配置されたアンテナアレイであり、
前記アンテナアレイの設置状態が適正か否かを判定する設置状態判定部を、備え、
前記設置状態判定部は、前記波形分布データ、または前記評価値の前記分布データから特徴データを抽出し、該特徴データに基づいて、前記アンテナアレイの設置状態の適否を判定する、請求項2から請求項8のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項10】
前記特徴データは、波形データの振幅、自己相関係数、ピークのタイミングを基準波形のピークのタイミングと比較した差分時間、波形形状、および前記評価値のピーク位置の少なくともいずれかである、請求項9に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項11】
複数の前記アンテナ素子は、同一平面上に格子状に配置されたアンテナアレイであり、
前記基準波形は、前記アンテナアレイの中心、または最も中心に近いアンテナ素子の波形データである、請求項7、または請求項10に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項12】
複数の前記アンテナ素子は、同一平面上に格子状に配置されたアンテナアレイであり、
前記アンテナアレイの設置状態が適正か否かを判定する設置状態判定部を、備え、
前記設置状態判定部は、記憶部に予め記録された比較分布パターンを、前記2次分布作成部で作成された前記分布データと比較することで、前記アンテナアレイの設置状態の適否を判定する、請求項2から請求項8のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項13】
前記設置状態判定部が、前記特徴データを抽出する際の前記生体の状態には、静止状態、深呼吸状態、体動状態、体位変更状態の少なくともいずれか複数を含む、請求項9から請求項12のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項14】
前記設置状態判定部は、前記特徴データを、予め定めた設定範囲と比較し、前記設定範囲外となる場合は、異常を判断し、
さらに、前記設置状態判定部の前記異常の判断に基づいて、再計測、または再配置の指示を出力する第1指示部を、さらに、備える請求項9から請求項13のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項15】
前記設置状態判定部は、前記特徴データを、予め定めた設定範囲と比較し、前記設定範囲外となる前記アンテナ素子を特定し、
前記素子決定部は、前記設置状態判定部が特定した前記アンテナ素子を、前記決定の対象から除外する、請求項9から請求項13のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項16】
前記設置状態判定部は、前記特徴データから、前記アンテナアレイの設置状態の不適正を判定し、
さらに、再配置の移動方向を出力する第2指示部を、備える、請求項9から請求項15のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項17】
前記高速切替部は、複数の前記アンテナ素子の全部を一巡させる全部巡回モードと、一部の前記アンテナ素子のみを間引いて一巡させる一部巡回モードとの切り替え、
および/または、前記所定の周期、もしくは複数の前記アンテナ素子へのONが一巡する1サイクル時間の変更が可能である、請求項3、または請求項4に記載の心拍出量計測センサ。
【請求項18】
前記素子決定部は、前記特徴データに基づいて、前記アンテナ素子を選択し、
前記心拍出量推定部は、前記素子決定部が選択した、前記アンテナ素子の計測値から得られた信号を演算処理した処理後信号を用いて、心拍出量を推定する、請求項9から請求項17のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項19】
前記電磁波は、マイクロ波である、請求項1から請求項18のいずれかに記載の心拍出量計測センサ。
【請求項20】
電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナに対して、生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した電磁波を用いて、心臓から拍出される血液量を推定する心拍出量推定部と、を備え、
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含む、心拍出量計測センサを制御するコンピューターで実行される制御プログラムであって、
前記アンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データを前記アンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成ステップと、
前記1次分布作成ステップで作成された前記波形分布データに基づいて、複数の前記アンテナ素子の中から、前記血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する素子決定ステップと、を含む処理を、前記コンピューターに実行させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍出量計測センサ、および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心拍出量の検出に関する従来技術として、特許文献1には、送信アンテナと、受信アンテナと、推定部と、を備えた装置が開示されている。この装置では、送信アンテナは患者の胸部にマイクロ波等の電波を送信し、受信アンテナは送信アンテナから送信された電波を受信し、推定部は、受信アンテナが受信した電波の位相又は振幅強度に基づいて、測定対象者の心拍出量を検出する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電波を送受信する1対の送受信アンテナの生体に対する位置、特に心臓に対する送受信アンテナの位置関係によっては、受信アンテナが得る受信波が心拍出量の測定に適さない場合も考えられる。心臓に対して送受信アンテナの位置がずれている等で、心拍出量の測定に適さない状態で用いられた場合、得られる心拍出量の計測精度が低下する。
【0005】
また、計測毎の心拍出量の変化を診療に用いる際、送受信アンテナの位置を、測定に適した場所に配置させる技術がなければ、得られた心拍出量の変化がアンテナの設置位置が変化したためなのか、患者状態の変化によるものなのか判断できない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、適正な位置に配置した送受信アンテナを用いて、心臓から拍出される血液量を高い精度で推定可能な心拍出量計測センサ、および制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の心拍出量計測センサは、電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、前記送信アンテナに対して、生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した電磁波を用いて、心臓から拍出される血液量を推定する心拍出量推定部と、を備え、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含み、さらに、前記アンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データを前記アンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成部と、前記1次分布作成部により得られた前記波形分布データに基づいて、複数の前記アンテナ素子の中から、前記血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する素子決定部と、を備える。
【0008】
また、上記目的を達成するため本発明の制御プログラムは、電磁波を生体に向けて送信する送信アンテナと、前記送信アンテナに対して、生体の心臓を挟んで対向するように配置された受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した、前記生体を透過した電磁波を用いて、心拍出量を推定する心拍出量推定部と、を備え、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの少なくとも一方は、前記生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子を含む、心拍出量計測センサを制御するコンピューターで実行される制御プログラムであって、
前記アンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データを前記アンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成ステップと、前記1次分布作成ステップで作成された前記波形分布データから、複数の前記アンテナ素子の中から、前記血液量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する素子決定ステップと、を含む処理を、前記コンピューターに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る心拍出量計測センサおよび制御プログラムによれば、適切な位置に配置した送受信アンテナを用いて、高い精度で心臓から拍出される血液量を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態における心拍出量計測センサ全体を示す概略斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る心拍出量計測センサの構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図4A】変形例における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図4B】別の変形例における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【
図5A】素子走査処理における各アンテナ素子の高速切り替え処理を示す模式図である。
【
図5B】
図5Aの処理で得られた点データを示す模式図である。
【
図5C】
図5Bの点データにより生成した波形データを示す模式図である。
【
図6】第1の実施形態におけるアンテナ素子決定処理および心拍出量測定処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図8】波形分布データ(1次分布データ)の例を示す模式図である。
【
図10】評価値の分布データ(2次分布データ)の例を示す模式図である。
【
図11A】ピークタイミングの差分時間を説明する模式図である。
【
図11B】位置による差分時間の違いを説明するための模式図である。
【
図12A】第2の実施形態における
図6のステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図14】2次分布データに、特徴データとしてのピーク位置を重ねて示したものである。
【
図15A】XYステージの構成を示す斜視図である。
【
図15B】XYステージの構成を示す側面図である。
【
図16】変形例における
図12Aに続く処理を示すフローチャートである。
【
図17】第3の実施形態におけるアンテナ素子決定処理および心拍出量測定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本発明の技術的範囲は、以下に説明する実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々形態を変更して実施することができる。なお、心拍出量とは、通常は、1分間に心臓から拍出される血液量のことをいうが、本明細書において、心臓から拍出される血液量のことを心拍出量ということがある。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る心拍出量計測センサ1000全体を示す概略図である。
図2は、第1の実施形態に係る心拍出量計測センサ1000の構成を示すブロック図であり、
図3は、第1の実施形態における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【0013】
図1では、ベッド95上に患者90(生体または被検者ともいう)が横たわっている状態(仰臥位)を示している。心拍出量計測センサ1000により患者90の心拍出量等の心臓から拍出される血液量を測定(推定)する。例えば、心拍出量計測センサ1000は、心不全の検査、心臓手術後の経過観察、心臓病の投薬効果・副作用等の検証、等で用いられる。
【0014】
測定時には、看護師、医師等のユーザーにより、送信アンテナ11と受信アンテナ12の中心を結ぶ線が、心臓91に対応するように、両アンテナユニット(以下、単に「送受信アンテナ」ともいう)は、心臓91を挟んで互いに対向するように配置される。なお、外部電波による影響を減少させるために、測定中は、布製の電波シールドで、患者90の胸部および送受信アンテナ全体を覆うようにしてもよい。例えば、受信アンテナ12は、患者90の下に配置され、送信アンテナ11は、患者90の上方に配置される。具体的には、受信アンテナ12はベッド95の上に配置され、その上に患者90が仰向けに寝る。上方の送信アンテナ11は、側面視でコの字型の移動式の固定台(図示せず)に取り付けられる。この固定台は、手動で送信アンテナ11の高さを調整可能である。送信アンテナ11は、固定台により、患者90からわずかに離間した状態で、患者90の上方に配置される。離間させるのは、患者90の呼吸動作を妨げないことと、患者90との接触による、意図しない送信アンテナ11の移動を防止するためである。なお、送受信アンテナの配置は、
図1等の配置に限定されない。例えば、上下を逆にし、送信アンテナ11を患者90の下方(背面側)に配置し、受信アンテナ12を患者90の上方側(前面側)に配置してもよい。
【0015】
図2に示すように、心拍出量計測センサ1000は、送信アンテナ11、受信アンテナ12、および装置本体20を含む。装置本体20は、移動式の架台(図示せず)に載せられてベッド95の脇に配置される。装置本体20は、内蔵バッテリまたは、商用電源から供給された電力により動作する。また、両アンテナユニットは、信号ケーブル13を通じて、装置本体20と接続されており、この信号ケーブル13を通じて、データ信号の送受信および電力供給が行われる。送受信アンテナに関しては、後述する。
【0016】
(装置本体20)
装置本体20は、送受信コントローラー14、制御部21、記憶部22、入出力I/F(インターフェース)23、および通信I/F24を備える。
【0017】
(送受信コントローラー14)
送受信コントローラー14は、信号ケーブル13を介して、送信アンテナ11および受信アンテナ12と電気的に接続される。制御部21の制御の下で、送受信コントローラー14は、両アンテナユニット間の送受信のタイミングを制御したり、受信アンテナ12からの計測値(受信信号)を取得したりする。
【0018】
(制御部21)
制御部21は、CPU、RAM、ROM、等を含みROMまたは記憶部22に記憶されたプログラムにしたがって、装置内の各部の制御を行う。制御部21は、プログラムを実行することにより、1次分布作成部211、2次分布作成部212、素子決定部213、心拍出量推定部214、設置状態判定部215、および指示部216として機能する。また、1次分布作成部211には、点データ記録部301、および波形データ生成部302が含まれる。
【0019】
1次分布作成部211は、点データ記録部301と波形データ生成部302の機能によりアンテナ素子それぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成する(以下、「前段処理」という)。また1次分布作成部211は、この波形データをアンテナ素子それぞれと対応付けた波形分布データを作成する(以下、「後段処理」という)。2次分布作成部212は、評価値を算出するとともに、アンテナ素子の位置に応じた評価値の分布データを作成する。素子決定部213は、1次分布作成部が作成した波形分布データに基づいて、2次分布作成部212により作成された評価値の分布データに基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定する。すなわち、素子決定部213は、2次分布作成部212により作成された評価値の分布データに基づくことで、間接的に1次分布作成部211が作成した波形分布データに基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定している。また、素子決定部213は、1次分布作成部211が作成した波形分布データに基づいて、算出された評価値に基づいて、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子を決定してもよい。2次分布作成部212は、評価値算出部として機能し、波形データまたは波形分布データから評価値(後述の評価値1~6)を算出する。心拍出量推定部214は、患者90の心拍出量、すなわち心臓91から拍出される血液量を推定(算出)する。設置状態判定部215は、送受信アンテナ(アンテナアレイ)の設置状態の適否を判定する。指示部216は、第1指示部として機能し、設置状態判定部215の判定結果に応じて、再計測または再配置の指示を出力する。また、指示部216は第2指示部として機能し、再配置の移動方向を指示する。これらの機能についての詳細は後述する(後述の
図12B等)。
【0020】
(記憶部22)
記憶部22は、予め各種プログラムや各種データを格納しておく半導体メモリや、ハードディスク等の磁気メモリから構成される。また記憶部22には、点データ、波形データ、波形分布データ、比較分布パターン、特徴データの設定範囲、等が記憶される。記憶部22には、アンテナアレイにおけるアンテナ素子(後述のアンテナ素子rx、tx)の位置情報が記憶されている。位置情報は例えば、基板上のXY座標や、相対的な位置関係(距離、方向)の情報である。
【0021】
(入出力I/F23)
入出力I/F23は、入出力部として機能し、USB、DVIの規格等に準拠した入出力端子を備え、キーボード、マウス、マイク等の入力装置およびディスプレイ、スピーカ、プリンタ等の出力装置と接続するインターフェースである。
図1、
図3に示す例では、入出力I/F23には、タッチパネル51が接続されている。また、XYステージ52が接続されていてもよい。タッチパネル51は、液晶パネルおよびこれに重畳させたタッチパッドで構成され、これを介して、ユーザーからアンテナ素子決定処理、および心拍出量測定の開始指示を受け付ける。XYステージ52は、指示部216の再配置の指示に応じて、両アンテナユニットの少なくとも一方を移動させ、配置位置を変更する。なお、タッチパネル51、XYステージ52等の入出力装置を、装置本体20または心拍出量計測センサ1000の構成に含めてもよい。
【0022】
(通信I/F24)
通信I/F24は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット端末、等の外部の端末装置とネットワーク経由、またはピアツーピアで、有線または無線通信によるデータの送受信を行うインターフェースである。有線通信では、イーサネット(登録商標)、SATA、PCI Express、IEEE1394、等の規格によるネットワークインターフェースを用いてもよく、無線通信では、Bluetooth(登録商標)、IEEE802.11、4Gなどの無線通信インターフェースを用いてもよい。
図1、
図3に示す例では、通信I/F24には、PC61が接続されている。
【0023】
(送信アンテナ11)
図2、
図3に示すように送信アンテナ11は、基板110、送信波形生成部111、およびアンテナ素子t1で構成される。
図3に示す第1の実施形態では、後述の変形例(
図4A等)とは異なり、送信アンテナ11は、単一のアンテナ素子t1を備え、受信側は複数のアンテナ素子を備える(1対多の構成)。
【0024】
送信アンテナ11は、生体を透過する電磁波乃至電波を送信する。基板110は、各辺が数十mm~二百数十mmの全体が矩形板状の部材であり、この基板110上に送信波形生成部111、およびアンテナ素子t1が配置される。アンテナ素子t1として、一辺または直径が数十mmから百数十mmのパッチアンテナ、ダイポール形式の線状アンテナ、またはループアンテナを適用できる。例えば、アンテナ素子t1は、パッチアンテナである。
【0025】
送信波形生成部111は、電波生成器を含む。生成する電磁波の周波数は、生体の心臓91を電離作用なく透過することができれば特に限定されない。例えば、周波数300MHzから30GHzのマイクロ波が好ましく、より好ましくは400M~1.0GHzのマイクロ波である。マイクロ波は、生体透過性と、心臓91の収縮、拡張における損失変化による感度(電界強度の変化率)が高いため、心拍出量の測定に好適である。生成する電波の電力は、受信アンテナ12において十分な電力が検出できれば特に限定されないが、例えば、数mW~数十mWとしてもよい。また、生成する電波は、連続波、パルス波、または位相変調若しくは周波数変調を施した電波のいずれでもよい。
【0026】
(受信アンテナ12)
図2、
図3に示すように受信アンテナ12は、基板120、アンテナアレイ121、高速切替部122、およびサンプリング部123を含む。アンテナアレイ121、高速切替部122、およびサンプリング部123は、各辺が数十mm~二百数十mmの全体が矩形板状の基板120上に形成される。
【0027】
アンテナアレイ121は、複数のアンテナ素子r1~rx(以下、これらを総称して、「アンテナ素子r」ともいう(アンテナ素子tも同じ))で構成され、これらは平面状の基板120の表面に、同一平面上で格子状に配置される。送信側を単一のアンテナ素子t、受信側を複数のアンテナ素子rで構成することで、電界を作る送信アンテナの位置が一定となり、電磁波による電界が安定する。
【0028】
図3に示す第1の実施形態においては、各アンテナ素子rとして、ダイポール形式の線状アンテナ、または微小ループアンテナを適用できる。アンテナ素子rは、例えばそれぞれが、一辺または直径が数mm~十数mmのループアンテナである。隣接するアンテナ素子r同士は、密着することなく配置している。アンテナアレイ121全体のサイズとしては、生体の背面側から視たときの心臓91のサイズよりも大きいサイズに設定している。例えば、1辺が100~150mmの矩形形状である。
【0029】
また、アンテナ素子rの総個数は、好ましくは40個以上100個以下である。後述の使用するアンテナ素子rを決定する際の位置精度(位置解像度)の観点から、40個以上とすることが好ましい。上限個数は、周期tsと総個数を乗じることで算出される1サイクル時間tc(サンプリングレート)の観点や、コストの観点から100個以下が好ましい。例えば
図3に示す例では、アンテナ素子rそれぞれは12mmの略矩形のループアンテナであり、アンテナアレイ121は、縦横7個ずつの総数49個のアンテナ素子r1~r49で構成される。そして、隣接するアンテナ素子r同士の間隔は2mm程度で配置され、アンテナアレイ121全体のサイズは約100mm角である。以下においては、横軸(後述の行A-Gの行方向)をX方向、縦軸(後述の列1-7の列方向)をY方向ともいう。これらのアンテナ素子rそれぞれの位置情報(XY座標)は、上述のように記憶部22に記憶されており、2次分布作成部212の処理に用いられる。
【0030】
高速切替部122は、各アンテナ素子r1~rxに対応した複数のスイッチング素子s1~sx(以下、これらを総称して、「スイッチング素子s」ともいう)で構成される。高速切替部122では、いずれか1個のスイッチング素子s(例えば素子s1(
図2参照))のみをON状態にし、その他のスイッチング素子s(例えば素子s2~sx)は全てOFFにする。複数のアンテナ素子を同時にON状態で動作させた場合、アンテナ同士が結合し、1つのアンテナとして動作してしまい、所望の計測値が得られない虞がある。このような現象を避けるため、高速切替部122では、1つのアンテナ素子r(および
図4A等の例では送信アンテナ素子t)のみをON状態にする。
【0031】
また、高速切替部122は、OFF状態のアンテナ素子rの終端条件を制御する、すなわち、OFF状態のアンテナ素子rを、高周波的に接地する。このようにすることで、OFF状態のアンテナ素子による誘導障害等の影響を減らせる。
【0032】
サンプリング部123は、サンプリング回路と、AD変換回路、バッファー回路を含む。サンプリング部123は、ON状態のアンテナ素子r(例えば素子r1)が受信した電波信号をサンプリングし、電界強度をデジタル信号(計測値)に変換する。各アンテナ素子rに対応したデジタル化した計測値は、逐次、または所定単位(例えば、1サイクル周期)でまとめて、装置本体20の送受信コントローラー14に送られる。
【0033】
(送受信アンテナの変形例)
図4Aは、変形例(多対多)における送受信アンテナの構成例を示す図であり、
図4Bは、別の変形例(多対1)における送受信アンテナの構成例を示す図である。
【0034】
上述した
図3に示す第1の実施形態(1対多)では、受信アンテナ12側に複数のアンテナ素子を配置した。すなわち、受信アンテナ12がアンテナアレイ121、およびこれをスイッチング制御する高速切替部122を備えた。しかしながら、
図4Aに示す変形例のように、送信アンテナ11b側にも複数のアンテナ素子t1~txを配置してもよい。すなわち、
図4Aに示すように、送信アンテナ11bが、送信波形生成部111とともに、アンテナアレイ113、およびこれをスイッチング制御する高速切替部112を備えてもよい。なお、アンテナアレイ113および高速切替部112は、受信アンテナ12のアンテナアレイ121および高速切替部122と同様の構成を備えるため、説明を省略する。
【0035】
また、
図4Bに示す別の変形例(多対1)のように、受信アンテナ12b側を1つのアンテナ素子としてもよい。
図4Bに示す受信アンテナ12bは、1つの受信アンテナr1とこれに接続したサンプリング部123で構成される。なお、
図3、
図4A、
図4Bの実施形態でのアンテナアレイを構成する送受信アンテナ素子の数は、あくまでも例示であり、49個よりも少なくともよく、多くてもよい。例えば、送信側アンテナアレイ113のアンテナ素子tの個数を数個にしてもよく、100個以上にしてもよく、受信側アンテナアレイ121のアンテナ素子rの個数を数個にしてもよく、100個以上にしてもよい。これらの数の下限はアンテナ素子の配置の位置精度に影響し、上限は、サンプリングレートに影響する。数を多くすると、1サイクル時間tcが長くなり、サンプリングレートが低くなり、正しい波形データ(後述の
図5C参照)が得られなくなる。
【0036】
図3の受信アンテナ側をアンテナアレイにする構成と
図4Bの送信アンテナ側をアンテナアレイにする構成を比較すると、受信アンテナ側をアンテナアレイにする構成の方が、送信アンテナ側をアンテナアレイにする構成よりも、心拍出量の測定に好適なアンテナ素子をより正確に選定できることが発明者の検討により明らかになっている。
【0037】
(1次分布作成部211の前段処理)
次に、
図5A~
図5Cを参照し、1次分布作成部211による、波形データ作成までの前段処理について説明する。この前段処理は、以下に説明するように、主に点データ記録部301、および波形データ生成部302により行われる。なお、以下の説明においては、送受信アンテナの構成は、
図3に示した第1の実施形態のような構成例であるとして説明する(
図6以降も同様)。この場合、以下に説明するように点データ記録部301は、高速切替部122によりONとなったアンテナ素子rそれぞれに関して計測された計測値を、アンテナ素子rそれぞれと紐付けて点データとして記録する。
【0038】
なお、
図4Aに示した変形例(多対多)を適用する場合には、送信側のアンテナ素子t、および受信側のアンテナ素子rを順次、高速切替部112、122により切り替える。すなわち、ある時刻では、同時に1系統のアンテナ素子t、rの伝播経路のみが作動するように、両アンテナユニットを同期させながら高速で切り替える。この場合、点データ記録部301は、高速切替部112、122によりONとなったアンテナ素子t、rそれぞれに関する計測値を、アンテナ素子t、rそれぞれと紐付けて点データとして記録する。例えば、ある時刻では、送信のアンテナ素子txと受信のアンテナ素子rxの伝播経路で送受信された受信信号を、これらの送受信のアンテナtx、rxに紐付けて、点データとして記録される。
図4Bに示した別の変形例(多対1)でも同様の処理により、それぞれのアンテナ素子tx(と1つのアンテナ素子r1)に紐付けて、点データとして記録される。
【0039】
図5Aは、素子走査処理における各アンテナ素子の高速切り替え処理を示す模式図である。送受信コントローラー14は、素子走査処理時(後述の
図6のステップS101~S107に対応)には、高速切替部122を制御する。
図5Aでは、巡回モードが「全巡回モード」で、所定の周期tsが100μsecに設定された例を示している。素子走査処理時においては、高速切替部122は巡回モードと周期の設定に応じて、アンテナ素子r1からr49まで、それぞれのON/OFFを周期tsで順次切り替える。なお、他の巡回モードとしては、「一部巡回モード」がある。この一部巡回モードでは、アンテナアレイ121のうち一部のアンテナ素子rのみを間引いて一巡させる。例えば、アンテナ素子r1、r3,r5……r47、r49のように1つ置きのアンテナ素子rを使用したり、奇数列のアンテナ素子rのみを使用したりする。
【0040】
また周期tsは、および/または1サイクル時間tcも任意の値に設定できる。例えば周期tsは、10μsec~1msecの間で任意の値を設定できる。また、1サイクル時間tcは、周期tsの設定にともない1msec~100msecの間で任意の値に設定したり、周期tsによらず、例えば周期tsを固定(例えば100μsec固定)で、ウェイト時間を調整することで、1サイクル時間tcを5~100msecの間で任意の設定にしたりしてもよい。この巡回モードと周期/1サイクル時間の設定は、ユーザーによりおこなわれてもよく、制御部21側で自動におこなってもよい。この巡回モードと周期/1サイクル時間の設定は、ユーザーにより行われてもよく、制御部21側で自動に行ってもよい。
【0041】
制御部21により自動で行う場合には、走査時間の短縮、および必要なメモリ容量を低減させるという観点から、例えば、多段階で変更する。この多段階の変更は、一連の素子走査処理(
図6参照)で行ってもよく、再計測(後述の12B等)する際に、変更するようにしてもよい。例えば、最初は、半分または1/4間引きの一部巡回モードで動作させ、粗くアンテナ素子の候補を決定し、次にその周辺のアンテナ素子の周辺を動作させ、より細かく、アンテナ素子の受信特性を判定する。また、最初は周期tsを短くして、粗くアンテナ素子の候補を決定し、次に、減じた個数の(例えば半分の)アンテナ素子に対して周期tsをその逆数分(例えば2倍)長くして、より詳細に候補のアンテナ素子の受信特性を判定する。
【0042】
サンプリング部123はON状態にあるアンテナ素子rが受信した電界強度に応じた受信信号を取得する。点データ記録部301は、送受信コントローラー14を介して、この受信信号を取得し、各素子rと紐付けて、記憶部22またはRAMに一時的に記録する。
【0043】
図5Bは、
図5Aの処理で得られた点データを示す模式図である。隣接するアンテナ素子rでは、1つの周期ts(100μsec)分だけ、取得タイミングがずれる。例えば、素子r2の点データp12の取得時刻は、素子r1の点データp11の取得時刻よりも周期ts分だけ遅れた時刻になる。同様に最後のアンテナ素子r49の点データp149は、素子r1の点データp11よりも、48の周期ts分(4.8msec)遅れることになる。また、1つの素子においては、隣接する点データは、1サイクル時間tc分の間隔となる。例えば、素子r1の点データp11よりも1サイクル時間tc後に点データp21が取得されることになる。1サイクル時間tcは、総個数(多対多の場合は組み合わせ数)に周期tsを乗じることにより算出できる。例えば
図5Bでは、1サイクル時間tcは4.9msec(=49×100μsec)となる。なお、
図5Bおよび以下においては、数値を丸めて4.9msecを5msecで表記する。
【0044】
図5Cは、
図5Bの点データにより生成した波形データを示す模式図である。この波形データは、波形データ生成部302が、点データ記録部301が記録した点データを、素子r毎に収集して、経時的に並べたものである。
図5Cでは、素子r1を用いた際の波形データw1を代表として示している。この波形データは、素子r1に紐付けられた多数の点データp11、p21、p23等で構成される。
【0045】
(所定の周期tsの範囲)
周期tsの上限は、複数のアンテナ素子rへのONが一巡する1サイクル時間tcが、心周期よりも十分に短くなるような周期である。具体的には、心拍数の最大値は、心疾患を考慮して最大180回/分、すなわち3Hzとする。一般に、精度よく波形を生成するためのサンプリングレートは、その10倍以上が好ましく30Hz(33msec)となる。これをアンテナ素子rの総個数の好ましい範囲40~100個の下限個数の40で除すると0.8msecとなる。周期tsの上限としては、これよりも少し広めの1.0msec(サンプリングレートを8倍程度想定)とした。なお周期tsの下限は、回路構成に依存するサンプリングの安定性により適宜決定される。例えば周期tsの下限は数十μsecである。
【0046】
(アンテナ素子決定処理および心拍出量測定処理)
図6は、アンテナ素子決定処理および心拍出量測定処理を示すフローチャートである。
【0047】
(ステップS11)
制御部21は、ユーザーの測定開始指示により送受信アンテナによる送受信を開始させる。具体的には、ユーザーは、送信アンテナ11と受信アンテナ12を互いに、心臓91を挟んだ状態で対向させて配置する。その後、ユーザーは、タッチパネル51やキーボード等により、測定開始の指示を入力する。この時に、ユーザーは、巡回モードと周期tsの設定を行ってもよい。以下においては、
図5A~
図5Cと同様に、巡回モードは全巡回モードで、素子数は49個で、周期tsが100μsec、1サイクル時間tcが5msecとして説明する。
【0048】
(素子走査処理(S12からS17))
このステップS12からS17の処理は素子走査処理である。この素子走査処理では、複数のアンテナ素子の中から心拍出量の測定に好適な、すなわち、心臓91に対する配置位置が最もよいアンテナ素子rを決定するために、各アンテナ素子rを順に走査して、計測信号を収集する。なお、素子走査処理の実行中は、送信アンテナ11では、マイクロ波を送信し続ける、または、受信側のアンテナ素子rの切り替えタイミングに合わせた、パルス波を送信する。
【0049】
(ステップS12)
ステップS12では、制御部21は、ステップS16との間でループaの処理を行う。このループaでは、全巡回モードの設定に応じて、アンテナ素子r1から最後のアンテナ素子rx(r49)まで1つずつ順々に対象のアンテナ素子rを切り替える。
【0050】
(ステップS13)
高速切替部122により、対象となるアンテナ素子rをON状態に切り替える。例えば、アンテナ素子r1をOFF状態からON状態に変更し、他のON状態のアンテナ素子rがあればこれをOFF状態に変更する。
【0051】
(ステップS14)
サンプリング部123は、ON状態のアンテナ素子rでの計測値を取得する。
【0052】
(ステップS15)
点データ記録部301は、ステップS14で取得した計測値を、対象のアンテナ素子rと紐付けて点データとして記録する。なお、このステップS15は所定単位(例えば1サイクル周期の49個分)でまとめて処理するようにしてもよい。例えば、サンプリング部123のバッファーで所定単位のデータを保持しておく。そして点データ記録部301では、この所定単位のデータをまとめて取得し、一括して処理する。
【0053】
(ステップS16)
最後のアンテナ素子rxでなければ、所定周期tsで、対象のアンテナ素子rを次に変更して、ステップS12以下のループ処理を繰り返す。最後のアンテナ素子rxであればループを抜けて処理をステップS17に進める。
【0054】
(ステップS17)
制御部21は、終了条件を満たしているか判定し、満たしていれば(YES)、処理をステップS18に進め、満たしていなければ(NO)、ステップS12以下のループ処理を繰り返す。終了条件としては、例えば1~数回の心拍相当の時間(例えば数秒から十数秒)が経過した場合、または繰り返し回数(数百~千回)に到達した場合である。
【0055】
(ステップS18)
波形データ生成部302は、点データから素子r1~素子rxの波形データを生成する。例えば
図5Cのような波形データを生成する。ここまでが1次分布作成部211による前段処理である。
【0056】
(ステップS19)
ここでは、1次分布作成部211、2次分布作成部212、および素子決定部213が協働することで、最も特性がよいアンテナ素子rを決定する。決定するアンテナ素子rの個数は、1個でもよく、複数個(例えば4個)でもよい。
図7は、このステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【0057】
(ステップS511)
ここでは、1次分布作成部211は後段処理を行う。すなわち、1次分布作成部211は、ステップS18で作成した、各アンテナ素子rの波形データを、アンテナ素子rそれぞれと対応付けた波形分布データを作成する。
図8は、ステップS511で作成した波形分布データの例を示す模式図である。波形分布データは、各アンテナ素子rに対応づけて波形データを並べたものである。以下においては、波形分布データを1次分布データともいう。
【0058】
(ステップS512)
2次分布作成部212は、1次分布に基づいて各アンテナ素子rに対応する波形の評価を行い、評価値を算定する。そして、アンテナ素子rの位置に応じた評価値の分布データ(以下、「2次分布データ」ともいう)を作成する。
図9は、各種の評価値の例を示す表である。
図10は、評価値を各アンテナ素子rの位置に対応づけて並べて作成した2次分布データの例を示す模式図である。2次分布作成部212が算出する評価値の指標としては、同図に示すように評価値1~6のいずれを用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0059】
(1)評価値1の「波形データの振幅」は、波形データに含まれる1波形の振幅である。通常の心周期に近い周波数の波形を抽出し、その波形の振幅を評価値1として求める。波形データに数個の波形が含まれていれば、振幅の平均値を用いてもよい。この評価値を求める際の前処理として、通常の心周期の範囲(30~180回/分)に対応した周波数(0.5~3Hz)よりも、外側の周波数を除外するようにバンドパスフィルタ処理を行ってもよい。波形データの振幅の大きさからアンテナ素子と心臓の位置関係を推定可能である。また、このようなバンドパスフィルタ処理は心周期の範囲以外の周波数、例えば呼吸変動の周波数帯の成分を取得するように前処理を行ってもよく、これによりアンテナ素子rの位置を推定可能である。
【0060】
(2)評価値2の「フーリエ変換後の特定周波数における強度」は、波形データに関してFFT処理を行い、心周期に対応する周波数およびその整数倍(2~4倍)までの範囲の特定周波数(0.5~10Hz)における強度を評価値2として求める。特定周波数における強度分布によって心臓との位置関係を推定できる。また、評価値2は心周期の範囲以外の周波数帯、例えば呼吸変動の周波数帯における強度をその位置関係の推定に用いても良い。
【0061】
(3)評価値3は、「波形データの変曲点時間」である。変曲点時間は、波形データを2階微分することにより算出できる。この評価値3は、波形の形状を表す評価値である。アンテナ素子と心臓の位置関係によって波形の形状が変化する傾向があるため、この評価値3から心臓との位置関係を推定できる。
【0062】
(4)評価値4は、「波形データの時間積分値」であり、1波形を時間積分することにより算出できる。
【0063】
(5)評価値5は、「自己相関係数」であり、複数の波形が含まれる波形データから算出できる。自己相関係数は、連続する波形の類似性を表す指標である。安定して波形取得ができているアンテナ素子の波形は変化が少ないと考えられるため、連続するアンテナ素子の波形の類似性が高い(自己相関係数が大きい)アンテナ素子を心拍出量推定に用いる。
【0064】
(6)評価値6は、「ピークのタイミングの差分時間」である。2次分布作成部212は、最初に、心臓91の収縮(または拡張)にともなう信号強度が最大(または最小)となるピークのタイミングを算出する。次に、このピークタイミングを、基準波形と比較することで差分時間を算出する。基準波形とは、予め定められたいずれかのアンテナ素子rの波形データである。例えば、アンテナアレイ122の中心付近のアンテナ素子r(例えばアンテナ素子r25)の波形データである。ピークのタイミングはアンテナ素子と心臓の位置関係によって異なる傾向がある。その理由は、心臓から拍出される血流量の時間変化は場所によって異なり、心臓とアンテナ素子の位置関係によってそのピークとなるタイミングを捉える時間には差があると考えられるからである。評価値6についての詳細は後述する。
【0065】
2次分布作成部212は、このような評価値1~6の少なくともいずれかにより、2次分布データを作成する。2次分布データは、各アンテナ素子rの位置(XY座標)と、そのアンテナ素子rの波形データから算出した評価値の分布を表したものである。
図10に示す例では、模式的に、評価値の高低に応じてレベル0~5の6段階の濃淡で示している。レベルが高い程、最も評価値が高く、最も特性が好適なアンテナ素子rである。通常は、心臓91(特に左心室)との位置関係が良好なアンテナ素子r程、評価値が高くなる。
【0066】
(ステップS513)
素子決定部213は、ステップS512で作成された2次分布から心拍出量の推定に用いるアンテナ素子を決定する。素子決定部213は、
図10(a)に示す2次分布データの例では、評価値が最も高い位置E4(列4、行E)にあるアンテナ素子r32を決定する。
図10(b)の例では、評価値が同レベルのアンテナ素子rが複数ある(アンテナ素子r18-20、r25-27)ので、素子決定部213は、これらの複数のアンテナ素子rの中から、予め設定された所定のアルゴリズムで1つのアンテナ素子rに決定するようにしてもよい。例えば、所定のアルゴリズムとしては、中心の素子(位置C5)を選択したり、右上の素子(位置C4)を選択したりものがある。また、別の評価値により新たに2次分布データを作成し、この新たな2次分布データにより、複数の素子の中から1つのアンテナ素子rに絞り込むようにしてもよい。
【0067】
なお、評価値のレベルは
図10(a)、(b)に示すようにある位置(例えば
図10(a)では位置E4)が最も高く、その位置から離れるにしたがって、評価値が変化するという特性を示す。このようなことから、素子決定部213は、2次分布データを、X軸、Y軸、またはXY平面上で、多項式近似することによりピーク位置を算出し、そのピーク位置に最も近い位置にあるアンテナ素子rを、心拍出量測定用のアンテナ素子rとして選択(決定)するようにしてもよい。また、素子決定部213は、記憶部22に記憶してある比較分布パターンと比較することで、心拍出量測定用のアンテナ素子rを決定するようにしてもよい。また、別の例として、素子決定部213は、(2次分布データの生成を経由せずに)、2次分布作成部212により算出された評価値(例えば評価値1~評価値5)から、心拍出量測定用のアンテナ素子rを決定するようにしてもよい。以上により、
図7のサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻る。
【0068】
(ステップS20)
心拍出量推定部214は、ステップS19で決定されたアンテナ素子rを用いて取得された波形データを、ステップS18で生成した素子r1~素子rxに関する波形データから抽出し、抽出したアンテナ素子rに関する波形データに基づいて、心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。具体的には、
図5Cに示したような波形データにおいて、心臓が収縮期にあるときと、拡張期にあるときの信号強度の差分から、患者90の心臓91の心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。心臓91は、収縮期に比べて拡張期においては、損失がより大きくなり、信号の減衰が大きくなる。すなわち収縮期に比べて拡張期では、受信信号の強度が小さくなる。この信号強度の変化は、心臓の大きさの変化、すなわち1拍出量に比例するので、信号強度の変化、すなわち心拍に応じた波形における振幅により心拍出量を推定(算出)できる。なお、心拍出量に加えて、1つの波形の振幅強度から算出される1回拍出量を表示させてもよい。また、心拍出量に加えて、さらに心拍動の周波数を、心拍数として表示してもよい。さらに、入力された被験者の身長や体重等の情報から体表面積を算出し、心拍出量を体表面積で割ることで、心係数として表示してもよい。
【0069】
(評価値6(ピークタイミングの差分時間))
ここで、上記で簡単に触れた評価値6について、
図11A、
図11Bを参照し、より詳細に説明する。
図11Aは、ピークタイミングの差分時間を説明する模式図である。
図11Bは、位置による差分時間の違いを示す模式図である。
図11Aでは、対象となるアンテナ素子rx(例えば素子r1)における波形と、基準波形を示している。基準波形は、上述したように中心のアンテナ素子r25から得られた波形データである。
【0070】
2次分布作成部212は、同時、または略同時に計測した2つの対象アンテナ素子r1と基準アンテナ素子r25の点データから作成した波形データのピークタイミングの差分時間を算出し、この差分時間から評価値を算出する。ここで略同時に計測した点データから作成した波形データとは、
図5A等で説明したように、1サイクル時間tcが、心周期よりも十分に短くなるような周期で、計測した点データから作成した波形データである。同時とは、文字通り1つの送信アンテナ素子tから送信された電磁波を、複数のアンテナ素子rで同時に計測した点データから作成した波形データである。この場合、アンテナ同士が結合し、1つのアンテナとして動作しないように、互いにある程度、距離が離れた、アンテナ素子rxで計測された点データを用いる。
【0071】
図11Bでは、あるアンテナ素子rのX方向の位置を変位させながら測定させた際の波形データの差分時間の変化を示している。
図11Bの実験においては、実施形態と異なり差分時間の算出時は、基準波形として心電図の波形を用いる。
図11Bに示すように、差分時間(遅延時間)は、左端で最も(絶対値が)大きく、X方向のプラス方向に移動させることで徐々に小さくなり、-10~-30mmの範囲で最小となり、-40でまた増加傾向を示すことがわかる。この遅延時間は、心臓の各位置(左心室、右心室、またはこの各部分)による動きの違いにより生じると考えられる。このようなことから、アンテナ素子rの心臓91との相対位置の違いにより、すなわち、受信アンテナ12のアンテナ素子tと、アンテナ素子rとの間の電波の伝播経路中の心臓91の位置により(特に左心室)、ピークの遅延時間が異なる。つまり、評価値6においては、2次分布作成部212は、差分時間の分布を利用して心臓位置と各アンテナ素子rの位置関係を算出する。そして、素子決定部213は、複数のアンテナ素子rから、最も評価値が心拍出量の算出に適した位置にあるアンテナ素子rを選択する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る心拍出量計測センサ1000は、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、受信アンテナ12で受信した生体を透過したマイクロ波を用いて、心臓から拍出される血液量を推定する心拍出量推定部214と、を備え、送信アンテナ11および受信アンテナ12の少なくとも一方は、生体に対する位置が異なる複数のアンテナ素子rを含み、さらに、アンテナ素子rそれぞれに関して計測された計測値の経時的変化を表す波形データを作成するとともに、該波形データをアンテナ素子rそれぞれと対応付けた波形分布データを作成する1次分布作成部211と、1次分布作成部211により作成された波形データに基づいて、複数のアンテナ素子rの中から、心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子rを決定する素子決定部213と、を備える。このように構成することで、最適なアンテナ素子を用いて測定でき、ひいては、心臓から拍出される血液量を比較的高い精度で推定できる。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、
図12Aから
図15Bを参照し、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、アンテナ素子rを決定する前に、特徴データを用いてアンテナ12の設置状態の適否を判定するものである。
図12A、
図12Bは、第2の実施形態における
図6のステップS19の処理を示すサブルーチンフローチャートである。なお、第2の実施形態においては、メインルーチンフローチャートは、
図6に示した第1の実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0074】
(ステップS531、S532)
ここでは、制御部21は、
図7のステップS511、S512と同じ処理を行う。具体的には、制御部21の1次分布作成部211は波形分布データ(1次分布データ)を作成し、2次分布作成部212は、評価値の分布データ(2次分布データ)を作成する。
【0075】
(ステップS533)
設置状態判定部215は、1次または2次分布データ(波形分布データ、または評価値の分布データ)から特徴データを抽出し、アンテナの設置状態を判定する。
図13は、各種の特徴量の例を示す表である。
【0076】
(1)特徴量1の「波形データの振幅」は、波形データに含まれる1つまたは複数の波形の振幅である。通常の心周期に近い周波数の波形を抽出し、その波形の振幅を特徴量1として求める。この特徴量1は、上述の評価値1と同様の手法により求め得る。そして設置状態判定部215は、この特徴量1と、記憶部22に記憶されている特徴量1用の設定範囲とを比較し、設定範囲内の場合は設置状態が適正、設定範囲外の場合は不適正と判定する。例えば心臓91との位置関係が正しくなく、振幅が所定範囲よりも小さい場合には不適正と判定する。
【0077】
(2)特徴量2は、「自己相関係数」であり、複数の波形が含まれる波形データから算出できる。この特徴量2は、上述の評価値5と同様の手法により求め得る。そして設置状態判定部215は、この特徴量2と、記憶部22に記憶されている特徴量2用の設定範囲とを比較し、設定範囲内の場合は設置状態が適正、設定範囲外の場合には不適正と判定する。例えば、波形が安定せず、自己相関係数が所定範囲よりも小さい場合には、不適正と判定する。
【0078】
(3)特徴量3は、「ピークのタイミングの差分時間」である。設置状態判定部215は、対象のアンテナ素子rの波形のピークタイミングを、基準波形と比較することで差分時間を算出する。この特徴量3は、上述の評価値6と同様の手法により求め得る。そして設置状態判定部215は、この特徴量3と、記憶部22に記憶されている特徴量3用の設定範囲とを比較し、設定範囲内の場合は設置状態が適正、設定範囲外の場合には不適正と判定する。例えば、反射波の影響等により差分時間が、所定範囲よりも大きい場合には不適正と判断する。
【0079】
(4)特徴量4は、「波形形状」である。設置状態判定部215は、記憶部22に記憶している通常波形形状と比較し、ノイズが含まれていることにより、通常波形形状と異なる波形である場合には、設置状態が不適正と判定する。これ以外は適正と判定する。
【0080】
(5)特徴量5は、「ピーク位置」である。2次分布データから、ピーク位置を特定する。この2次分布データは、評価値1~評価値6のいずれを用いて作成してもよい。特定されたピーク位置は、アンテナ素子rのいずれかの位置にあり範囲内と判定される場合と、ピーク位置が、アンテナ素子rのいずれにも存在せず、範囲外(外側に)にあると判定される場合がある。例えば、最も外周にあるアンテナ素子rでは、増加している途中であり、そのさらに外側にピークが存在すると推定される場合である。設置状態判定部215は、範囲内の場合は、設置状態が適正、範囲外の場合は不適正と判定する。また、直接波だけでなく反射波を受信する等により複数のピーク位置が、検出された場合は、異常であるとして、設置状態が不適正と判断する。
図14は、そのような場合の特徴データを示す模式図である。
図14は、2次分布データに、特徴データとしてのピーク位置を重ねて示したものであり、この図では、2つのピーク1、2が表れており設置状態が不適正である。
【0081】
なお、特徴量により設置状態の適否の判定に比較分布パターンを用いてもよい。例えば、患者90毎に同じベッド95で測定した直前(例えば前日)の特徴データを比較分布パターンとして、記憶部22に記憶させておき、この読み出した比較分布パターンと、今回の特徴データとの類似性により、設置状態が適切であると判定する。例えば略同じパターンであれば、設置状態が適切であると判定する。
【0082】
(ステップS534)
設置状態判定部215は、ステップS533での判定が適正である場合(YES)、処理をステップS535に進め、判定が不適正の場合(NO)、処理を
図12BのステップS541に進める。
【0083】
(ステップS535)
この処理は、ステップS513と同様の処理である。素子決定部213は、ステップS532で作成された2次分布から心拍出量の推定に用いるアンテナ素子rを決定する。そして、
図12Aのサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻り、以降は、決定したアンテナ素子rを用いた心拍出量の測定を行う。
【0084】
(ステップS541)
制御部21は、ピーク位置が範囲外(アンテナアレイ122の外側)であれば処理をステップS542に進める。一方で、これ以外、例えば、特徴量1~4に関して設定範囲外の場合、または特徴量5で複数のピークが存在する場合(例えば
図14)、等には処理をステップS550に進める。
【0085】
(ステップS542)
第2指示部として機能する指示部216は、特徴データに基づいて、アンテナ12全体の移動方向を決定する。
【0086】
(ステップS543)
指示部216は、アンテナ12の移動方向を指示する。具体的には、タッチパネル51に移動方向を表示して、看護師、医師等のユーザーに対してアンテナ12の移動を促す。あるいは、以下に説明するXYステージ52に移動信号を出力する。この移動方向を指示する際に移動量も同時に表示、または移動信号に含ませてもよい。
【0087】
図15A、
図15Bは、XYステージ52の構成を示す図である。心拍出量計測センサ1000は、これらの図に示すようにXYステージ52によりXY方向が移動可能なように構成してもよい。
図15A、
図15Bでは、患者90が横たわるベッド95の上方、下方それぞれに送信アンテナ11および受信アンテナ12を配置している。
【0088】
XYステージ52は、コントローラー520、上方の送信アンテナ11を筐体内部に保持する保持部521、この保持部521をXY方向に移動させる移動部522、下方の受信アンテナ12を筐体内部に保持する保持部523、この保持部523をXY方向に移動させる移動部524、およびこれらの部材を上下方向にそれぞれ移動させる垂直移動部525で構成される。
【0089】
移動部522、524は、同様の構成を備え、それぞれレール、駆動部、および保持部と連結する連結部を含む。XYステージ52は、保持部521、523でそれぞれ保持する送信アンテナ11、および受信アンテナ12の高さ(Z方向)、およびXY方向の位置を、指示部216の制御信号に応じて移動可能である。
【0090】
本実施形態では、XYステージ52は、指示部216から送られた移動信号に応じて、複数のアンテナ素子rを有する受信アンテナ12をXY方向に所定量移動させる。
【0091】
(ステップS544)
XYステージ52のコントローラー520は、指示部216の指示に応じて、送信アンテナ11を移動させた後、移動完了信号を指示部216に返信する。あるいは、ユーザーからの再計測開始指示を、タッチパネル51等を介して受け取る。これを受けた、第1指示部として機能する指示部216は、再計測の指示を制御部21に送る。以降は、
図6のステップS11に戻り、以降の処理を再び実行し、再計測する。
【0092】
(ステップS551)
ここでは、第1指示部として機能する指示部216は、再計測、または再配置を指示する。具体的には、指示部216は、制御部21に再計測を指示し、現時点の配置状態のまま、ステップS11の処理に戻り、再計測を実施する。または、タッチパネル51に配置状態の確認を促す指示を表示させる。そして、ユーザーからの再計測開始指示を、タッチパネル51等を介して受け取った後、ステップS11の処理に戻り、再計測を実施する。なお、再計測する場合に、巡回モードの変更、および/または周期tsの変更を行うようにしてもよい。
【0093】
以上説明したように、第2の実施形態に係る心拍出量計測センサ1000は、第1の実施形態の構成に加えて、設置状態判定部215を備え、この設置状態判定部215によりアンテナアレイ122の設置状態が適正か否かを判定する。このようにすることで、設置状態が不適正な場合に、再設置を行ったり、再測定を行ったりすることで、不適正な設置状態下で使用するアンテナ素子が決定されることを未然に防ぐことができ、心臓から拍出される血液量をより高い精度で推定できる。
【0094】
(変形例)
第2の実施形態では、特徴データが、設定範囲外の場合には、再計測を指示したが、以下に説明する変形例のように処理してもよい。
図16は、変形例における
図12Aに続く処理を示すフローチャートである。
【0095】
図16に示す例では、ステップS541~S544、およびステップS551は、
図12Aに示した処理と同じであり説明を省略する。
【0096】
(ステップS550)
ここでは、設置状態判定部215は、特徴量1~4に関して設定範囲外の場合(YES)には処理をステップS555に進める。一方で、設定範囲外でない場合(NO)、すなわち特徴量5で複数のピークが存在する場合は、処理をステップS551に進め、このステップS551で再計測を指示する。
【0097】
(ステップS555)
設置状態判定部215は、設定範囲外となったアンテナ素子rを対象から除外する。
【0098】
(ステップS556)
ここでは、素子決定部213は、ステップS555で除外されたアンテナ素子以外の中からアンテナ素子rを決定する。例えば、特徴量4(波形形状)で設定範囲外となったアアンテナ素子rを除外する。これにより、除外されたこのアンテナ素子rは、仮に評価値1(振幅)が最も高くても、心拍出量の推定に用いるアンテナ素子として選択されない。以降は、
図16のサブルーチンフローチャートでの処理を終了し、
図6の処理に戻り、以降は、決定したアンテナ素子rを用いた心拍出量の測定を行う。
【0099】
このように変形例では、特徴データが設定範囲外となったアンテナ素子rを選択対象から除外し、これ以外のアンテナ素子rの中から心拍出量測定に用いるアンテナ素子を決定する。これにより不適切なアンテナ素子が選択されることを未然に防ぐことができ、心臓から拍出される血液量をより高い精度で推定できる。
【0100】
(他の変形例)
なお、他の変形例として、素子決定部213は、特徴データに基づいて、1つまたは複数のアンテナ素子rを選択してもよい。例えば、
図10(b)のような2次分布データから得られた特徴データに基づいて、複数のアンテナ素子rを選択する。例えば特徴データとしてピーク位置に近い複数のアンテナ素子rを選択する。そして心拍出量推定部214は、選択されたアンテナ素子rの計測値から得られた信号(デジタル信号)を、加算平均(単純加算平均)、またはピーク位置との距離に応じて重み付けした加重平均(重み付け平均)、等の演算処理した処理後信号を用いて、心拍出量を推定する。このようにすることで、より高い精度で、心臓から拍出される血液量を推定できる。
【0101】
(第3の実施形態)
第3の実施形態においては、看護師、医師等のユーザーの指示の基、患者90は体位等の状態を変更する。そして患者90の異なる複数の状態で、素子走査処理を行い、その計測結果から抽出した特徴データにより設置状態を判定する。
【0102】
図17は、第3の実施形態におけるアンテナ素子決定処理および心拍出量測定処理を示すフローチャートである。
図17のステップS11~S20は、上述の
図6のステップS11~S20と同様の処理であり、説明を省略する。
【0103】
(ステップS11)
制御部21は、ユーザーの測定開始指示により送受信アンテナによる送受信を開始させる。
【0104】
(ステップS115)
ステップS115では、制御部21は、ステップS176との間でループbの処理を行う。このループbでは、患者90(生体)の状態の変更が行われる。この状態には、静止状態、深呼吸状態、体動状態、体位変更状態のうち、少なくともいずれか複数を含む。ここで静止状態、深呼吸状態とは、文字通り、ベッド95上で臥位状態(仰臥位)の患者90がなるべく動かない状態、または、深く呼吸する状態を維持することである。体位変更状態とは、仰臥位、側臥位、および腹臥位の間で体位変更を行うことである。体動状態とは、体位変更を伴わない動き、例えば手脚の曲げ伸ばしの動きを行うことである。いずれの状態も、ユーザーが指示する所定期間以上の間行われる。ここで所定期間とは、1単位の素子走査処理の期間程度(例えば数秒から十数秒)である。
【0105】
(ステップS12~S17(ループa、および素子走査処理))
このステップS12では、制御部21は、ステップS16との間でループaの処理を行い、ステップS17で終了条件を満たすまで、このループaの処理を繰り返す。終了条件を満たした場合、処理をステップS175に進める。
【0106】
(ステップS175)
制御部21は、タッチパネル51等に1単位の素子走査処理が終了したことを表示する。このときに、合わせて次の状態(例えば深呼吸状態)を表示するようにしてもよい。ユーザーはその表示に応じて、次の状態、例えば静止状態から深呼吸状態となるように患者90に指示する。このときにユーザーによる操作を受け付けるようにしてもよい。例えば、ユーザーは、次の状態となるような患者90への指示を行った後に、計測開始指示をタッチパネル51から入力する。
【0107】
(ステップS176)
患者90が所定種類数の状態での計測を終了していなければ、ステップS115以下のループbの処理を繰り返す。一方で、全ての状態の計測が終わっていれば、ループbを抜けて処理をステップS18に進める。
【0108】
(ステップS18)
波形データ生成部302は、点データから素子r1~素子rxの波形データ(第1分布データ)を生成する。このときに、状態それぞれと対応付けた波形データを生成してもよい。
【0109】
(ステップS19)
ここでは、制御部21は、設置状態を判定し、判定後に心拍出量推定に用いるアンテナ素子rを決定する。ここでは、制御部21は、
図12A、および、これに続く
図12Bもしくは
図16に示した処理を行う。具体的には、2次分布データ生成部212は2次分布データを生成し、設置状態判定部215は、特徴データを生成し、これにより設置状態を判定する。その結果に応じた処理を実行した後、素子決定部213により、心拍出量推定に用いるアンテナ素子rを決定する。なお、この設置状態の判定処理、およびアンテナ素子rの決定処理を実行する際に、患者の状態毎に処理するようにしてもよく、複数の状態をまとめて(区別せず)に処理するようにしてもよい。
【0110】
(ステップS20)
心拍出量推定部214は、ステップS19で決定されたアンテナ素子rを用いて、心拍出量、または心臓から拍出される血液量を推定する。ここでの処理は、
図6のステップS20の処理と同様の処理である。
【0111】
第3の実施形態に係る心拍出量計測センサ1000は、第2の実施形態の構成において、患者90の複数の状態において計測されたデータから、設置状態の判定処理および素子の決定処理を行うので、ロバスト性が高い状態にできる。これにより心拍出量の測定(ステップS43)を行っている間に患者90の状態が変化したとしても、安定して計測できるので、心臓から拍出される血液量をより高い精度で安定して推定できる。
【0112】
また、本実施形態においては、同時または略同時に、各アンテナ素子で計測された計測値を用い、得られた計測値から波形データを作成する。このように同時または略同時に計測された計測値を用いることにより、評価値1~6のいずれかを用いた2次分布データおよび、特徴量1~5のいずれかを用いた特徴データを抽出する際の精度が向上する。なお、変形例として、ピークのタイミングの差分時間(評価値6、特徴量3)以外を用いる場合においては、各アンテナ素子で異なる時刻に計測した計測値を用いてもよい。例えば、1つの送信側アンテナ素子tと1つの受信側アンテナ素子rとの間の伝播経路での受信信号の計測を数秒周期で順次切り替えながら行い、これをアンテナ素子r全数分繰り返すことにより、計測値を取得するようにしてもよい。
【0113】
また、本実施形態においては、高速切替部122(または高速切替部112)を含み、1次分布作成部211は、点データ記録部301および波形データ生成部302を含む。これにより、略同時に複数のアンテナ素子での計測を行え、ひいては上述の精度向上を図れる。
【0114】
また、所定の周期は、複数のアンテナ素子へのONが一巡する1サイクル時間tcが、心周期よりも十分に短くなるような周期、例えば1msec以下に設定されている。これにより十分なサンプリングレートを確保でき、波形を精度よく生成できる。
【0115】
また、評価値は、(評価値1)波形データの振幅、(評価値2)フーリエ変換後の特定周波数における強度、(評価値3)波形データの変曲点時間、(評価値4)波形データの時間積分値、(評価値5)自己相関係数、および(評価値6)ピークのタイミングの差分時間、の少なくともいずれかである。これらの評価値1~6のいずれも用いても、精度よく、複数のアンテナ素子の中から好適なアンテナ素子を決定できる。
【0116】
また、特徴量は、(特徴量1)波形データの振幅、(特徴量2)自己相関係数、(特徴量3)ピークのタイミングの差分時間、(特徴量4)波形形状、および(特徴量5)ピーク位置、の少なくともいずれかである。これらの特徴量1~5のいずれも用いても、適切に、アンテナアレイ122(またはアンテナアレイ113)の設置状態の適否を判定できる。
【0117】
また巡回モードと周期を変更可能とすることで、電磁波の送受信条件を最適な条件に設定できる。
【0118】
また、本実施形態では電磁波としてマイクロ波を用いる。マイクロ波は、人体を透過する際の減衰が他の周波数よりも少なく、また損失が比較的高い心臓の拡張/収縮の動きに応じた損失変化にともなう信号の変化の感度(振幅の増減率)が他の周波数よりも大きく、心拍出量の測定に好適である。
【0119】
以上に説明した、心拍出量計測センサ1000の構成は、上述の実施形態の特徴を説明するにあたって主要構成を説明したのであって、上述の構成に限られず、特許請求の範囲内において、種種改変することができる。
【0120】
例えば、心拍出量の推定には、素子決定部が決定したアンテナ素子rを用いて、精度を向上させるために再度計測を行い、再度計測した波形データに基づいて心拍出量を推定しても良く、また決定時および再計測時のアンテナ素子は複数であっても良い。具体的には、例えば、隣接する4つのアンテナ素子rのステップS19(
図7/
図12A)で算出された評価値または特徴量が非常に近い場合、この4つのアンテナ素子rを心拍出量の推定の際に用いるアンテナ素子rとして決定し、各アンテナ素子rを用いて得られた波形データに基づいて算出された心拍出量の平均値から心拍出量を推定してもよい。
【0121】
また、上述した心拍出量計測センサ1000における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、USBメモリやDVD-ROM等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、一機能として装置のソフトウエアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1000 心拍出量計測センサ
11、11b 送信アンテナユニット
110 基板
111 送信波形生成部
112 高速切替部
113 アンテナアレイ(送信側)
t1~tx アンテナ素子(送信側)
12、12b 受信アンテナユニット
120 基板
121 アンテナアレイ(受信側)
122 高速切替部
123 サンプリング部
13 信号ケーブル
14 送受信コントローラー
20 装置本体
21 制御部
211 1次分布作成部
301 点データ記録部
302 波形データ生成部
212 2次分布作成部
213 素子決定部
214 心拍出量推定部
215 設置状態判定部
216 指示部
22 記憶部
23 入出力I/F
24 通信I/F
51 タッチパネル
52 XYステージ
61 PC