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特開2024-72900食品中のタンパク質の抽出用試薬および抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072900
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】食品中のタンパク質の抽出用試薬および抽出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20240522BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240522BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240522BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N33/53 Q
G01N33/543 545A
G01N33/543 521
C07K1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060509
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 久美子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昂士郎
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045DA86
4H045EA50
4H045GA01
(57)【要約】
【課題】安全性、迅速性、信頼性などの問題を解決できる、食品中のタンパク質を抽出するための改善された手段を提供する。
【解決手段】還元剤および界面活性剤を含む、食品中のタンパク質の抽出用試薬であって、前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、30分以上8時間以下の、振盪法による処理用である、抽出用試薬、あるいは当該抽出用試薬と、標的タンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、標的タンパク質に対して特異的な抗体とを含む、検査用キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤および界面活性剤を含む、食品中のタンパク質の抽出用試薬であって、
前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、
前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、
30分以上8時間以下の、振盪法による処理用である、抽出用試薬。
【請求項2】
前記メルカプトアルカノールが、チオグリセロール、2-メルカプトエタノールまたはジチオトレイトールである、請求項1に記載の抽出用試薬。
【請求項3】
前記還元剤がチオグリセロールであり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、請求項2に記載の抽出用試薬。
【請求項4】
前記還元剤が亜硫酸塩であり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して100mM以上である、請求項1に記載の抽出用試薬。
【請求項5】
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
【請求項6】
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して8.0重量%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
【請求項7】
さらに、非イオン性界面活性剤、キレート剤および防腐剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
【請求項8】
食品中の食物アレルゲンの検査用キットであって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の抽出用試薬と、
標的タンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、標的タンパク質に対して特異的な検出分子と
を含む、検査用キット。
【請求項9】
前記免疫学的測定法がELISAまたはイムノクロマトグラフィーである、請求項8に記載の検査用キット。
【請求項10】
還元剤および界面活性剤を含む抽出用試薬を用いて食品を処理する工程を含む、食品中のタンパク質の抽出方法であって、
前記還元剤は、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、
前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、
前記処理は、30分以上8時間以下の、振盪法による処理である、抽出方法。
【請求項11】
前記メルカプトアルカノールが、チオグリセロール、2-メルカプトエタノールまたはジチオトレイトールである、請求項10に記載の抽出方法。
【請求項12】
前記還元剤がチオグリセロールであり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、請求項10または11に記載の抽出方法。
【請求項13】
前記還元剤が亜硫酸塩であり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して100mM以上である、請求項10に記載の抽出方法。
【請求項14】
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、請求項10~13のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項15】
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して8.0重量%未満である、請求項10~14のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項16】
前記抽出用試薬がさらに、非イオン性界面活性剤、キレート剤および防腐剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項10~15のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項17】
食品中の食物アレルゲンの検査方法であって、
前記工程は、請求項10~16のいずれか一項に記載の抽出方法により抽出された食品中の標的タンパク質を、その標的タンパク質に対して特異的な検出分子を用いた免疫学的測定法により定量的または定性的に検出する工程を含む、検査方法。
【請求項18】
前記免疫学的測定法がELISAまたはイムノクロマトグラフィーである、請求項17に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に含まれるタンパク質(例えば食物アレルゲン)を抽出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーは、身体が摂取した食物に含まれる特定のタンパク質(食物アレルゲン)を異物として認識し、過敏な免疫学的機序を介して、皮膚のかゆみ、じんましん、せきなど様々な症状が引き起こされる症状であり、重症の場合は、意識の喪失、血圧低下・ショック症状など、生命にかかわる深刻なものとなる。食物アレルギーの患者は、全人口の1~2%(乳児に限定すると約10%)になると推定されている。食物アレルギーの患者が、原因となる食物アレルゲンを含む食品、特に外観的に判別しにくい加工品を摂取しないよう、食物アレルゲンを含む原材料を食品が含む場合は、その旨を表示することが食品衛生法により義務または推奨とされている。現在、「卵、乳、小麦、えび、かに」(発症件数が多いもの)および「そば、落花生」(症状が重くなることが多く、生命に関わるもの)の7品目は、表示義務がある「特定原材料」に指定されており、「あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、アーモンド」(過去に一定の頻度で発症が報告されたもの)の21品目は、表示が推奨されている「特定原材料に準ずるもの」に指定されている。消費者庁(以前は厚生労働省)は、食物アレルギーの全国的な実態把握のために3年毎に調査を行っており、その結果を踏まえて特定原材料等の見直しを行っている。
【0003】
上記のような食物アレルゲンに関する制度の運用のために、食品メーカーや公的な検査機関等において、食物アレルゲンを含む原材料(特定原材料等)が食品(加工品)中に含まれていないか、キット等を使用して検査されている。加工品中に含まれる特定原材料等の検出技術としては、一般的に、スクリーニング検査として抗原抗体反応を用いたELISA法、および確定検査としてDNAの増幅反応を用いたPCR法が存在している。このうちELISA法は、食品に含まれている食物アレルゲンおよびその他のタンパク質を抽出した後、検出対象とするタンパク質を認識する抗体を用いることで、加工品中に特定原材料等が含まれていることを検出する。また、ELISA法やPCR法のような定量的な測定ではなく、定性的ながら迅速に測定できる方法として、やはり抗原抗体反応を用いたイムノクロマトグラフィーによる検査も行われている。
【0004】
ELISA法やイムノクロマトグラフィーのように食品中のタンパク質を検出する場合は、まずは食品からそこに含まれているタンパク質を抽出する必要があるが、加工品のように加熱処理や加圧処理を含む工程を経て製造される食品は、食物アレルゲン等のタンパク質が不溶化し、抽出されにくい傾向にある。例えば、パンや麺類などは、製造工程における加熱により、タンパク質が変性したり、グルテンと卵タンパク質がSH基を介して結合したりすることで、それらのタンパク質が不溶化すると考えられている。そのため、加工品ではこのような抽出効率の悪さに起因して、正確な検査結果が得られにくいという問題があった。
【0005】
抽出されにくい加工品中のタンパク質を抽出するために、従来、SDS等の界面活性剤、尿素等の変性剤、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸塩等の還元剤などが、タンパク質の可溶化剤として用いられてきた。このような可溶化剤を含む溶液(抽出用試薬)を用いて加工品等の食品を処理することで、タンパク質を抽出する工程を行った後、得られた抽出液を検体として、ELISA法やイムノクロマトグラフィーにより標的タンパク質を検出する工程を行っていた。
【0006】
従来のタンパク質の抽出工程では、例えば、容器に入れた食品に抽出用試薬を添加した後に、その容器を沸騰水中に浸漬することで加熱する方法(以下「加熱法」と呼ぶ。)、室温で振盪する方法(以下「振盪法」と呼ぶ。)、ミルサーでせん断撹拌する方法(以下「せん断撹拌法」と呼ぶ。)などが採用されていた。
【0007】
特許文献1には、イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも0.3%(w/v)のSDS)を含み、さらに2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等の還元剤を含んでいてもよい水性溶媒を用いて、食品等の試料中の水難溶性/難抽出性タンパク質を抽出および/または可溶化することが記載されている。特許文献1には、上記の水性溶媒を用いた好ましい態様として、水難溶性/難抽出性タンパク質を高濃度のイオン性界面活性剤含有水性溶媒で抽出し、次いで、得られたタンパク質溶液を煮沸、すなわち、少なくとも80℃以上の温度で5分以上加熱することが記載されている。
【0008】
特許文献2には、還元剤としてチオグリセロールと、その他の可溶化剤(例えば尿素および/またはSDS等のアルキル硫酸塩)とを含む、食品抽出液(試薬)が記載されている。当該特許文献には、そのような食品抽出液の処理方法としては、従来用いられている粉砕、乳化、攪拌、振とう、又は煮沸法など適宜の方法を単独又は組み合わせて用いることができるが、ミルサー等を用いた「高速攪拌及び剪断処理法」を用いることで、抽出工程を短縮化することができること、還元剤としてチオグリセロールを採用することで、煮沸しなくても変性され難溶性状態にあるタンパク質であっても抽出可能であること、「振盪法」による抽出法も好ましく用いることができ、具体的には、対象食品をそのまま、もしくは粉砕した後に、チオグリセロール及び可溶化剤を含む抽出液と混合し、12時間以上、好ましくは16時間(例えば一晩)振盪機を用いて振盪させること等が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-106629号公報(特許第3600231号)
【特許文献2】WO2013/179663(特許第6129832号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のタンパク質の抽出工程で用いられていた加熱法は、沸騰水が必要となるため作業に危険性が伴うという問題がある。従来の振盪法は、長時間、一般的には16時間以上を要し、抽出から測定まで2日以上かかるため、工程時間に改善の余地が残されていた。撹拌せん断法には、他検体とのコンタミネーションのおそれがある。
【0011】
本発明は、上記のような従来の抽出工程が抱える安全性、迅速性、信頼性などの問題を解決できる、食品中のタンパク質を抽出するための改善された手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、食品中に含まれるタンパク質(各種の食物アレルゲン等)を抽出する際に使用する還元剤および界面活性剤として特定のものを用いた場合、意外なことに、振盪法における処理時間を従来よりも短時間としても、従来の処理時間と同程度に標的タンパク質を抽出および検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。換言すれば、本発明者らは、特定の種類の還元剤および界面活性剤を含むことで、従来は一般的に行われていなかった、特定の短時間での振盪法による処理用のものとなった、食品中のタンパク質の抽出用試薬を見出した。
【0013】
すなわち、本発明は一側面において、下記の発明を提供する。
[1]
還元剤および界面活性剤を含む、食品中のタンパク質の抽出用試薬であって、
前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、
前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、
30分以上8時間以下の、振盪法による処理用である、抽出用試薬。
[2]
前記メルカプトアルカノールが、チオグリセロール、2-メルカプトエタノールまたはジチオトレイトールである、項1に記載の抽出用試薬。
[3]
前記還元剤がチオグリセロールであり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、項2に記載の抽出用試薬。
[4]
前記還元剤が亜硫酸塩であり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して100mM以上である、項1に記載の抽出用試薬。
[5]
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、項1~4のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
[6]
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して8.0重量%未満である、項1~5のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
[7]
さらに、非イオン性界面活性剤、キレート剤および防腐剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、項1~6のいずれか一項に記載の抽出用試薬。
[8]
食品中の食物アレルゲンの検査用キットであって、
項1~7のいずれか一項に記載の抽出用試薬と、
標的タンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、標的タンパク質に対して特異的な検出分子と
を含む、検査用キット。
[9]
前記免疫学的測定法がELISAまたはイムノクロマトグラフィーである、項8に記載の検査用キット。
[10]
還元剤および界面活性剤を含む抽出用試薬を用いて食品を処理する工程を含む、食品中のタンパク質の抽出方法であって、
前記還元剤は、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、
前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、
前記処理は、30分以上8時間以下の、振盪法による処理である、抽出方法。
[11]
前記メルカプトアルカノールが、チオグリセロール、2-メルカプトエタノールまたはジチオトレイトールである、項10に記載の抽出方法。
[12]
前記還元剤がチオグリセロールであり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、項10または11に記載の抽出方法。
[13]
前記還元剤が亜硫酸塩であり、その濃度が前記抽出用試薬全量に対して100mM以上である、項10に記載の抽出方法。
[14]
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して0.5重量%以上である、項10~13のいずれか一項に記載の抽出方法。
[15]
前記界面活性剤の濃度が、前記抽出用試薬全量に対して8.0重量%未満である、項10~14のいずれか一項に記載の抽出方法。
[16]
前記抽出用試薬がさらに、非イオン性界面活性剤、キレート剤および防腐剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、項10~15のいずれか一項に記載の抽出方法。
[17]
食品中の食物アレルゲンの検査方法であって、
前記工程は、項10~16のいずれか一項に記載の抽出方法により抽出された食品中の標的タンパク質を、その標的タンパク質に対して特異的な検出分子を用いた免疫学的測定法により定量的または定性的に検出する工程である、検査方法。
[18]
前記免疫学的測定法がELISAまたはイムノクロマトグラフィーである、項17に記載の検査方法。
【0014】
なお、当業者であれば、本発明の技術的思想、本明細書の記載事項および技術常識に基づき、上記の各項に記載の発明に関する事項を、他のカテゴリーの発明に関する事項に変換する(読み替える)ことが可能である。例えば、項1の「還元剤および界面活性剤を含む、食品中のタンパク質の抽出用試薬であって、前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、30分以上8時間以下の、振盪法による処理用である、抽出用試薬。」は、「食品中のタンパク質を抽出するために使用される、還元剤および界面活性剤を含む試薬であって、前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、前記抽出は、30分以上8時間以下の、振盪法による処理で行われる、試薬。」などの発明に変換することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、室温で、比較的短時間(最長でも8時間程度)の振盪処理であっても、食品中のタンパク質を抽出することができる抽出用試薬が提供される。このような本発明の抽出用試薬を用いることにより、迅速性および安全性に優れた抽出方法および検査方法を実施できるようになる。特に、これまで16時間以上の処理が必要とされていた従来の振盪法と比較して、本発明の振盪法は最長でも8時間程度の処理で、従来と同程度のタンパク質を抽出し、検出できるようになるため、抽出から測定までの検査工程が従来は2日以上かかっていたのが最短で半日で完了できるようになる。別の言い方をすれば、従来の迅速性に特化した抽出方法、例えば沸騰水中での加熱を必要とする代わりに処理時間を10分程度とする加熱法と比較して、本発明の振盪法は、抽出および検出される標的タンパク質の量がはるかに多くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、試験例1において、表1に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれる小麦タンパク質を抽出し、ELISA法により定量した結果を表す。縦軸は、試験区1-Aの測定値を1としたときの相対値である。棒グラフは、左から、乾麺、チョコスナックおよびバウムクーヘンの結果である。
図2図2は、試験例2において、表2に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれる小麦タンパク質を抽出し、ELISA法により定量した結果を表す。縦軸は、試験区2-Aの測定値を1としたときの相対値である。
図3図3は、試験例3において、表3に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれる小麦タンパク質を抽出し、ELISA法により定量した結果を表す。縦軸は、試験区3-Aの測定値を1としたときの相対値である。
図4-1】図4(A)および(B)は、試験例4において、表4に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれるタンパク質を抽出し、総タンパク質濃度を定量した結果を表す。棒グラフは、右が試験区4-A、左が試験区4-Bについての結果である。
図4-2】図4(C)および(D)は、試験例4において、表4に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれるタンパク質を抽出し、卵アレルゲン濃度をELISA法により定量した結果を表す。棒グラフは、右が試験区4-A、左が試験区4-Bについての結果である。
図5図5は、試験例5において、表5に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれるタンパク質を抽出し、総タンパク質濃度を定量した結果を表す。
図6図6は、試験例6において、表6に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれるタンパク質を抽出し、総タンパク質濃度を定量した結果を表す。
図7図7は、試験例7において、表7に示した各抽出用試薬および抽出方法で、各検体に含まれるタンパク質を抽出し、総タンパク質濃度を定量した結果を表す。(A)横軸は、チオグリセロールの濃度[%(w/v)]を表す。(B)横軸は、SDSの濃度[%(w/v)]を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
―抽出用試薬―
本発明の「抽出用試薬」は、還元剤および界面活性剤を含む、食品中のタンパク質の抽出用試薬であって、前記還元剤はメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩であり、前記界面活性剤はアルキル硫酸塩であり、30分以上8時間以下の、振盪法による処理である。なお、「30分以上8時間以下の、振盪法による処理」の詳細は、「検査用キット」との関係で後述することが、「抽出用試薬」との関係でも同様に適用可能である。
【0018】
本発明の抽出用試薬の用途は特に限定されるものではない。本発明の抽出用試薬は、典型的には、食品(例えば加工品)中に食物アレルゲンを含む特定原材料が含まれていないかを検査するためのキットにおいて、食品中のタンパク質を抽出するために使用される。しかしながら、本発明の抽出用試薬は、それ以外の態様で、例えば、食品に含まれる各種の標的タンパク質(食物アレルゲンまたはその他のタンパク質)に対する検出分子(例えば抗体等)を作製するために、食品(例えば加工品)中のタンパク質を抽出するために使用してもよい。
【0019】
抽出用試薬は一般的に、適切なpHを有する緩衝液に、食品中の各種のタンパク質を抽出するための剤、すなわち可溶化剤を添加することにより調製される溶液である。本発明では、可溶化剤として、少なくとも特定の還元剤および界面活性剤を用いる。
【0020】
抽出用試薬を調製するための「緩衝液」としては、例えば、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、EDTA緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液が挙げられる。本発明における緩衝液としては、例えば、Tris緩衝液およびリン酸緩衝液が好ましい。緩衝液のpHは、一般的には4.5~8.0(生体内で起こりうる範囲のpH)、例えば6.0~8.0である。当業者であれば、適切な化合物を適量用いる(複数の化合物を、それぞれ適量、水に添加して溶解する)ことにより、所望の濃度の、所望のpHを有する緩衝液を調製することができる。
【0021】
本発明では「界面活性剤」として、少なくとも「アルキル硫酸塩」を用いる。アルキル硫酸塩の「アルキル」は、例えば、ドデシル、デシル、ノニル、オクチルである。アルキル硫酸塩の「塩」は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。アルキル硫酸塩の具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。
【0022】
本発明の抽出用試薬における、界面活性剤としてのアルキル硫酸塩の濃度は、アルキル硫酸塩の種類およびその作用効果(本発明の作用効果への影響)、抽出用試薬中のその他の成分(還元剤および必要に応じて用いられるその他の成分)の種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。特に本発明では、「30分以上8時間以下の、振盪法による処理用」の抽出用試薬としての作用効果を奏するよう、界面活性剤としてのアルキル硫酸塩の濃度を調節することが適切である。当業者であれば、例えば、振盪法において、従来の処理時間(例えば16時間)における標的タンパク質の抽出および/または検出の測定値と比較して、「30分以上8時間以下」における標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)が、同等または上昇している、あるいは用途上許容できる(例えば検査キットとしての実用性に問題を生じない)範囲の低下に留まるよう、アルキル硫酸塩の濃度を設定することができる。また、振盪法以外の方法、例えば加熱法(例:処理温度100℃)において処理時間を「30分以上8時間以下」(またはそれより短く、例えば10分)としたときの標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)と比較して、本発明の振盪法において処理時間を「30分以上8時間以下」としたときの標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)が、同等または上昇しているよう、アルキル硫酸塩の濃度を設定することができる。
【0023】
本発明の抽出用試薬におけるSDS等のアルキル硫酸塩の濃度は、例えば0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%、2.0重量%、5.0重量%、8.0重量%または10.0重量%とすることができ、これらの数値は任意で、下限値または上限値とする(任意で組み合わせる)ことができる。例えば、下限値を0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%または2.0重量%から選択し、上限値を10.0重量%、8.0重量%または5.0重量%から選択し、一例として下限値を0.5重量%とし、上限値は設けないか、必要に応じて8.0重量%とすることができる。例えば、本発明の抽出用試薬におけるSDS等のアルキル硫酸塩の濃度が比較的高い場合、検出される標的タンパク質の量、またはタンパク質の総量に対する検出される標的タンパク質の量の比率が低下する傾向にあり、その理由としては、ELISA法またはその他の免疫学的測定法において反応系(抗原抗体反応等)が阻害されている可能性がある。
【0024】
本発明では、必要に応じて、また本発明の作用効果との関係で許容される範囲で、アルキル硫酸塩以外の界面活性剤をさらに用いても(アルキル硫酸塩と併用しても)よい。アルキル硫酸塩以外の界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩以外の陰イオン性(アニオン性)界面活性剤、陽イオン性(カチオン性)界面活性剤および非イオン性(ノニオン性)界面活性剤が挙げられる。アルキル硫酸塩以外の陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩の「アルキル」は、例えば、ドデシル、デシル、ノニル、オクチルである。アルキルベンゼンスルホン酸塩の「塩」は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。アルキルベンゼンスルホン酸塩の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。陽イオン性界面活性剤の具体例としては、塩化ヘキサデシルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが挙げられる。非イオン性界面活性剤の具体例としては、「Tween 20」(ポリオキシエチレンソルビタンモノララウレート)、「Tween 40」(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、「Tween 60」((ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、「Tween 80」(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。
【0025】
本発明の抽出用試薬が、界面活性剤としてアルキル硫酸塩以外のものを含む場合、その濃度は、併用するアルキル硫酸塩の種類およびその作用効果(本発明の作用効果への影響)、抽出用試薬中のその他の成分(還元剤および必要に応じて用いられるその他の成分)の種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。本発明の抽出用試薬におけるアルキル硫酸以外の界面活性剤の濃度は、下限値は、例えば0.005重量%、0.01重量%または0.02重量%(w/v%)とすることができ、上限値は、例えば1.0重量%、0.5重量%または0.1重量%(w/v%)とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組みあわせることができる。
【0026】
本発明では、「還元剤」として、メルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩を用いる。「メルカプトアルカノール」としては、例えば、チオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール(「ジチオスレイトール」と呼ばれることもある。)およびこれらと類似の構造を有する化合物または誘導体が挙げられる。なお、本発明における「メルカプトアルカノール」とは、2-メルカプトエタノールのように、直鎖状または分岐鎖状のアルカノールの主鎖の一端がメルカプト基で置換された化合物のみならず、チオグリセロールのように、直鎖状または分岐鎖状のアルカノールの主鎖の一端がメルカプト基で置換されると共に他の部位において水酸基で置換された化合物、ジチオトレイトールのように、直鎖状または分岐鎖状のアルカノールの主鎖の両端がメルカプト基で置換されると共に他の部位において水酸基で置換された化合物なども包含する用語、換言すれば、2-メルカプトエタノールのような直鎖状または分岐鎖状のアルカノールの主鎖の一端がメルカプト基で置換された化合物の誘導体を包含する用語である。従来の抽出用試薬における還元剤として用いられることのあった、シアノ水ホウ素化ナトリウム、ジメチルアミノボラン、水ホウ素化ナトリウムは、本発明における「メルカプトアルカノール」に該当しないことは明らかである。亜硫酸塩としては、例えば、アルカリ金属亜硫酸塩およびその他の金属亜硫酸塩が挙げられ、そのアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。亜硫酸塩の具体例としては、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウムが挙げられる。
【0027】
本発明の抽出用試薬における、還元剤としてのメルカプトアルカノールおよび/または亜硫酸塩の濃度は、還元剤の種類およびその作用効果(本発明の作用効果への影響)、抽出用試薬中のその他の成分(界面活性剤および必要に応じて用いられるその他の成分)の種類および濃度などを考慮して、適宜調節することができる。特に本発明では、「30分以上8時間以下の、振盪法による処理用」の抽出用試薬としての作用効果を奏するよう、還元剤としてのアルキル硫酸塩の濃度を調節することが適切である。当業者であれば、例えば、振盪法において、従来の処理時間(例えば16時間)における標的タンパク質の抽出および/または検出の測定値と比較して、「30分以上8時間以下」における標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)が、同等または上昇している、あるいは用途上許容できる(例えば検査キットとしての実用性に問題を生じない)範囲の低下に留まるよう、還元剤の濃度を設定することができる。また、振盪法以外の方法、例えば加熱法(例:処理温度100℃)において処理時間を「30分以上8時間以下」(またはそれより短く、例えば10分)としたときの標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)と比較して、本発明の振盪法において処理時間を「30分以上8時間以下」としたときの標的タンパク質の抽出および/または検出の効率(その指標としての測定値)が、同等または上昇しているよう、還元剤の濃度を設定することができる。
【0028】
本発明の抽出用試薬におけるメルカプトアルカノール(例えばチオグリセロール)の濃度は、例えば0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%、2.0重量%、5.0重量%、8.0重量%または10.0重量%とすることができ、これらの数値は任意で、下限値または上限値とする(任意で組み合わせる)ことができる。例えば、下限値を0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%または2.0重量%から選択し、上限値を10.0重量%、8.0重量%または5.0重量%から選択し、一例として下限値を0.5重量%とし、上限値は設けないか、必要に応じて10.0重量%とすることができる。
【0029】
本発明の抽出用試薬における亜硫酸塩(例えば亜硫酸ナトリウム)の濃度は、例えば10mM、50mM、100mM、200mM、500mM、1000mMとすることができ、これらの数値は任意で、下限値または上限値とする(任意で組み合わせる)ことができる。例えば、下限値を10mM、50mMまたは100mMから選択し、上限値を10.0、8.0または5.0重量%から選択し、一例として下限値を0.5重量%とし、上限値は設けないか、必要に応じて10.0重量%とすることができる。
【0030】
本発明の可溶化剤は、必要に応じて、また本発明の作用効果との関係で許容される範囲で、還元剤および界面活性剤以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、カオトロピック剤およびキレート剤が挙げられる。カオトロピック剤としては、例えば、尿素、ホルムアミド、塩溶効果のある陰イオンまたは陽イオンを含む塩(例:グアニジニウムイオンを含む塩酸グアニジン、ナトリウムイオンを含む塩化ナトリウム、カリウムイオンを含む塩化カリウム等)が挙げられる。キレート剤としては、例えば、EDTAが挙げられる。これらの成分の濃度は、従来の可溶化剤における濃度に準じて、必要に応じて本発明における作用効果を考慮して、適切に設定することができる。
【0031】
本発明の抽出用試薬は、必要に応じて、また本発明の作用効果との関係で許容される範囲で、可溶化剤以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、ProClin(商標、メルク社)、アジ化Na等の防腐剤(微生物生育阻害剤)が挙げられる。これらの成分の濃度は、従来の抽出用試薬における濃度に準じて、必要に応じて本発明における作用効果を考慮して、適切に設定することができる。
【0032】
―検査用キット―
本発明の「検査用キット」は、食物アレルゲンを検査するためのキットであって、本発明の抽出用試薬と、標的タンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するための、標的タンパク質に対して特異的な検出分子とを含む。
【0033】
「標的タンパク質」は特に限定されるものではなく、食物アレルゲンを検査するために利用できるタンパク質であれば、食物アレルゲンタンパク質そのものであっても、食物アレルゲンを含む原材料(特定原材料等)に特有の食物アレルゲン以外のタンパク質であってもよい。
【0034】
「検出分子」は、その用途に応じて必要な特異性でもって、標的タンパク質を認識して結合でき、かつ検出のために修飾できる分子であればよい。検出分子は、食品に含まれる各種のタンパク質、例えば検査対象とする特定原材料に含まれるタンパク質以外のタンパク質(検査対象としない原材料に含まれる食物アレルゲンまたはその他のタンパク質)と結合しないこと、少なくとも、本発明の検査方法による結果に影響しない程度の結合に留まることが好ましいが、用途や程度に応じて、標的タンパク質以外のタンパク質と一定程度結合する(交差反応する)ことや、検出分子の性質上不可避的なタンパク質またはその他の物質に対して非特異的に吸着することは許容される。
【0035】
本発明における検出分子は特に限定されるものではなく、タンパク質に結合することのできる公知の各種のものから選択することができるが、例えば、抗体ならびにその抗原結合性断片(本明細書において「抗体等」と呼ぶ。)、アプタマー、レセプター、抗菌ペプチドまたはその他のペプチドなどが挙げられる。
【0036】
「抗体」は、検査用キットの用途や実施形態に応じて、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体とでは、特異性(標的タンパク質のみに反応し、それ以外のタンパク質とは反応(交差)しないか)、再現性(製造ロットにより検査結果に差が生じないか)、安定性(キットにおける抗体の固相化処理、標識処理等により、抗原への結合性が失われないか)などが異なるため、検査用キットの用途や実施形態によっては好ましい抗体が変動する場合もあるので、そのことを考慮してポリクローナル抗体とモノクローナル抗体のどちらを用いるか、またはその両方を組み合わせて用いるかを選択することができる。「抗原結合性断片」としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディー(二重特異性抗体)、ナノボディーなどが挙げられる。
【0037】
検出分子は、標的タンパク質を免疫学的測定法により定量的または定性的に検出するのに適した形態のものとすることができる。
【0038】
「免疫学的測定法」は、標的タンパク質と検出分子(典型的には抗体)との特異的な反応を利用することにより、標的タンパク質を定量的または定性的に検出することを可能とする方法であればとくに限定されず、公知の様々な方法を利用することができる。また、各種の免疫学的測定法に対応した検査用キットも公知で、市販もされており、本発明の検査用キットも、抽出用試薬として本発明の特定のものを使用するよう変更すること以外は、公知の検査用キットに準じて製造することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、免疫学的測定法は、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay、エライザ法)である。ELISAは、標的タンパク質を高い精度で定量的に検出することが可能で、加熱等した加工品から食物アレルゲンを含む特定原材料等を検出するために好適な測定法であり、消費者庁ガイドラインに準拠している。
【0040】
ELISA用の検出分子(典型的には抗体等)は、例えば、固相化用の検出分子および酵素標識用の検出分子を含む。固相化用の検出分子は、ELISAを行う部材の表面、例えばプレート(ウェル)の底部に固相化するためのものである。酵素標識用の検出分子は、固相化された検出分子に補足された標的タンパク質に結合し、その後基質と反応することで、標的タンパク質の量に応じた強度で発色させるためのものである。酵素標識用の検出分子は、直接的に酵素で標識された検出分子、すなわち検出分子自体に共有結合により(例えばリンカーを介して)あらかじめ酵素が結合している抗標的タンパク質であってもよいが、間接的に酵素で標識されることとなる検出分子、例えば「検査方法」との関係で後述する手順に例示した、ストレプトアビジンと結合した酵素とさらに反応することによって酵素標識された検出分子を完成させることができる、ビオチンが結合した検出分子のようなものであってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、免疫学的測定法はイムノクロマトグラフィー(immunochromatography、イムノクロマト法)である。イムノクロマトグラフィーは、簡便な操作により、比較的短時間で、標的タンパク質を定性的に検出することができる測定法である。
【0042】
イムノクロマトグラフィー用の検出分子(典型的には抗体等)は、例えば、固定化用の検出分子および発色標識(例、金コロイド標識、ラテックス粒子標識、白金粒子標識)用の検出分子を含む。発色標識用の検出分子は、一般的に、テストストリップの所定の位置(試料滴下部)に含ませる、あらかじめ発色標識と結合している検出分子であり、標的タンパク質と複合体を形成した状態で固定化検出分子に捕捉された後、基質と反応することで、標的タンパク質の存在を示すよう発色させるための検出分子である。固定化用の検出分子は、一般的に、テストストリップの所定の位置(テストライン)に含ませる検出分子であり、毛細管現象により移動してきた標的タンパク質と発色標識用の検出物質との複合体を捕捉するための検出分子である。目視可能な発色標識の代わりに、例えばシリカ等のナノ粒子からなる量子ドットのように、蛍光観察用の蛍光標識が結合した検出分子を用いることもできる。
【0043】
本発明の検査用キットは、抽出用試薬として、少なくとも還元剤および界面活性剤を含み、必要に応じてさらなる成分を含むことができるが、それらの各成分は、検査用キットにおいて分包されていて、使用する際に、緩衝剤またはその他の適切な溶媒(希釈液)と混合して用いられるような実施形態であってもよい。
【0044】
本発明の検査用キットは、少なくとも本発明の抽出用試薬および検出分子を含むが、必要により、実施形態に応じた、その他の試薬、部材等の任意の内容物を含むことができる。ELISA用のキットであれば、例えば、ウェルを備えたプレート、標的タンパク質の溶液を調製するための希釈液、各工程を行った後にプレート(ウェル)を洗浄するための洗浄液、ELISAにおける酵素反応停止液、抽出されたタンパク質を分解から保護するためのBSA、ELISAによる検査方法の手順を記載した取扱説明書などが、本発明の抽出用試薬および検出分子とともに、キットの内容物に含めることができる。イムノクロマトグラフィー用のキットであれば、例えば、毛細管現象により各種の溶液および試薬を展開させることができるテストストリップ、標的タンパク質の溶液を調製するための希釈液、イムノクロマトグラフィーによる検査方法の手順を記載した取扱説明書などが、本発明の抽出用試薬および検出分子とともに、キットの内容物に含めることができる。
【0045】
―抽出方法―
本発明の「抽出方法」は、食品中のタンパク質を抽出するための方法であって、本発明の抽出用試薬、すなわち前述したような所定の還元剤および界面活性剤を含む抽出用試薬を用いて食品を処理する工程(本明細書において「抽出工程」と呼ぶ。)を含む。
【0046】
本発明の抽出方法の用途は特に限定されるものではない。本発明の抽出方法は、典型的には、食品(例えば加工品)中に食物アレルゲンを含む特定原材料が含まれていないかを検査するための方法において、食品中のタンパク質を抽出するために使用される。しかしながら、本発明の抽出方法は、それ以外の態様で、例えば、食品に含まれる各種の標的タンパク質(食物アレルゲンまたはその他のタンパク質)に対する検出分子(例えば抗体等)を作製するために、食品(例えば加工品)中のタンパク質を抽出するために使用してもよい。
【0047】
「食品」は、特定原材料等となり得る、食物アレルゲンを含む食品であってもよいし、特定原材料等を含む(かどうかの検査対象とする)加工品であってもよい。食品(加工品)の形態は特に限定されるものではないが、例えば、加熱および/または加圧条件下で行われる工程を経て製造されることにより、一般的にタンパク質が不溶化して難抽出状態となる傾向にある加工品であってもよい。食品は、例えば、固形状、半固形状、ゼリー状、液状、乳化液状のいずれであってもよい。
【0048】
・抽出工程
「抽出工程」は、本発明による特定の還元剤および界面活性剤を含む抽出用試薬を用いて抽出処理を行うこと以外は、従来の抽出用試薬を用いて食品中のタンパク質を抽出する処理を行う工程と同様であり、さらに必要に応じて本発明に適合するよう適宜改変することができる。
【0049】
抽出工程に供する食品は、そのままの状態で振盪法による処理に供することができるが、食品の形態に応じて必要であれば、フードカッター、ミルサー、ミキサー、ホモジナイザー等を用いた高速剪断・撹拌処理により、均質な状態に微細化または乳化することもできる。このような微細化等の処理は、抽出工程の前にあらかじめ食品等に対して行い、得られた微細化等された食品と本発明の抽出用試薬とを混合するようにしてもよいし、食品と本発明の抽出用試薬の混合物に対して行い、微細化等の処理と同時に抽出処理が行われるようにしてもよい。微細化等の処理条件(時間、温度、回転数(rpm)または遠心力(×g)等)は、選択した微細化等の処理方法や用いる処理装置に応じて、また本発明の作用効果を考慮して、適宜調節することができる。また、抽出工程に供する食品は、必要に応じて、例えば脱脂処理など、標的タンパク質の抽出および/または抽出後の検出などを考慮した処理がさらに行われていてもよい。
【0050】
そのままの状態の食品、または上記のように微細化等した食品と、本発明の抽出用試薬とを混合した後、その混合物を振盪処理することにより、抽出工程を行うことができる。振盪の処理条件(時間、温度、振盪数もしくは回転数(rpm)等)は、選択した還元剤および界面活性剤の種類および濃度や、抽出用試薬に含まれるその他の成分の種類および濃度、さらに振盪処理方法や用いる処理装置に応じて、本発明の作用効果を考慮しながら、適宜調節することができる。
【0051】
本発明において、振盪処理の時間は、室温(加熱または冷却をしていない条件下、通常10~40℃、例えば20℃~30℃)においては、30分以上、8時間未満であるが、本発明の実施形態、例えば還元剤および界面活性剤の種類および濃度や、奏される作用効果の程度等を考慮しながら、上記の時間の範囲内で調節することができる。振盪処理の時間は、例えば、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間または6時間とすることができ、これらの数値は任意で、下限値または上限値とする(任意で組み合わせる)ことができる。例えば、下限値を1時間、2時間または3時間から選択し、上限値を6時間、5時間または4時間から選択し、一例として下限値を1時間とし、上限値を4時間とすることができる。
【0052】
振盪処理の温度は、通常は室温であるが、必要であれば、また抽出方法の実施形態として許容される場合は、例えば実施される現場の状況に応じて、加熱した温度であってもよい。振盪処理の温度は、例えば、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃または100℃とすることができ、これらの数値は任意で、下限値または上限値とする(任意で組み合わせる)ことができる。例えば、下限値を40℃または50℃から選択し、上限値を80℃または70℃から選択し、一例として下限値を40℃とし、上限値を80℃とすることができる。タンパク質の可溶化の観点からは温度の上限値を必ずしも設けなくてもよい(例えば上限を100℃としてもよい)が、作業の安全性等を考慮して、煮沸のような激しい加熱条件を必要としないよう、上限値は100℃未満であることが好ましい。前述した振盪処理の時間は、室温における実施形態を想定して設定されているが、加熱下で振盪処理を行う場合は、上記の振盪処理の時間よりも短くできる(下限値をより低くできる)傾向にある。例えば、加熱下で振盪処理の時間は、5分以上、10分以上、20分以上または30分以上とすることもできる。室温での振盪処理の時間範囲である「30分以上8時間未満」と同等の作用効果が奏されるよう、所望の加熱条件下での振盪処理の時間範囲を調節することが可能である。
【0053】
・回収工程
本発明の抽出方法では、所定の抽出用試薬を用いて振盪処理を行った後、得られた処理物を用いて、さらに遠心分離を行って上清を回収する、または濾過を行って濾液を回収する工程(本明細書において「回収工程」と呼ぶ。)を行うことができる。回収工程により得られた上清または濾液に、食品から抽出された標的タンパク質およびその他のタンパク質が含まれている。遠心分離、濾過等による回収処理の処理条件(時間、温度、遠心分離の回転数(rpm)または遠心力(×g)、濾過のフィルター孔径等)は、選択した回収処理の方法や用いる処理装置などに応じて、適宜調節することができる。
【0054】
・精製工程
本発明では、さらに抽出工程および回収工程の後に、得られた回収液に含まれているタンパク質を精製する工程(本明細書において「精製工程」と呼ぶ。)を行うことができる。例えば、SDS-PAGEに代表されるゲル濾過クロマトグラフィーや、イオン交換クロマトグラフィーのような適切な手段を用いることにより、回収液に含まれている標的タンパク質およびその他のタンパク質の混合物の中から標的タンパク質を単離して精製することができる。ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の精製処理の処理条件は、選択した精製処理の方法や用いる処理装置などに応じて、適宜調節することができる。
【0055】
なお、回収工程により得られる回収液に含まれている標的タンパク質は、それを抽出した食品がどのようなものかによって、例えば、どのような製造過程や保存過程(混捏、成形、加圧、加熱、乾燥、酵素処理、冷凍、解凍など処理の有無や処理条件)を経た加工食品であるかによって、天然の標的タンパク質とは物理的および/または化学的に相違しているタンパク質、つまり一定程度変性しているタンパク質である可能性がある。あるいは、回収される標的タンパク質は、変性の程度が様々な標的タンパク質の混合物である可能性もある。
【0056】
-抽出処理物-
本発明は別の側面において、本発明の抽出方法により得られる、本発明の抽出用試薬またはその本質的な機能を担っている所定の還元剤および界面活性剤と、食品に由来する可溶化しているタンパク質を含む抽出処理物が提供される。
【0057】
本発明の抽出処理物は、濾過処理により上清を抽出処理液として分離する前は、さらに抽出残渣としての食品など、所定の還元剤および界面活性剤および可溶化したタンパク質以外の物質を含んでいてもよい。
【0058】
―検査方法―
本発明の「検査方法」は、食物アレルゲンの検査方法であって、(1)本発明の抽出方法により食品中のタンパク質を抽出する工程(前述した「抽出工程」に相当する。)、および(2)抽出された食品中の標的タンパク質を、その標的タンパク質に対して特異的な検出分子を用いた免疫学的測定法により、定量的または定性的に検出する工程(本明細書において「検出工程」と呼ぶ。)を含む。
【0059】
「免疫学的測定法」は、食品から抽出された食物アレルゲン等のタンパク質を検出できるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法から選択することができる。
【0060】
本発明の一実施形態において、検出工程における免疫学的測定法は、ELISAである。ELISAは、例えば下記のような手順により、検体中の標的タンパク質およびそれと結合する抗体を用いて行うことができる。
1)固相化抗体を備えたプレートのウェルに、標的タンパク質の溶液を添加し、固相化用の検出分子(典型的には抗体等)と標的タンパク質とを接触させ、特異的な反応(典型的には抗原抗体反応)により結合させることで、第1の複合体を形成する。
2)上記ウェルを洗浄後、ビオチン結合検出分子(典型的には抗体等)の溶液を添加し、第1の複合体中の標的タンパク質とビオチン標識検出分子とを接触させ、特異的な反応(典型的には抗原抗体反応)により結合させることで、第2の複合体を形成する。
3)上記ウェルを洗浄後、ストレプトアビジン結合酵素の溶液を添加し、第2の複合体中のビオチン結合検出分子とストレプトアビジン結合酵素とを接触させ、ビオチン-ストレプトアビジン反応により結合させることで、第3の複合体を形成する。
4)上記ウェルを洗浄後、基質の溶液(発色剤)を添加し、第3の複合体中の酵素と基質とを反応させ、発色させる。
5)発色反応を停止させた後、プレートリーダーで所定の波長における吸光度を測定する。
6)別途標準溶液を測定して得られた吸光度から標準曲線グラフを作成しておき、5)で測定した吸光度および標準曲線グラフから、標的タンパク質の量(溶液の濃度)を読み取り、溶液の希釈倍率を乗じて、検体中の標的タンパク質の量を算出する。
【0061】
本発明の一実施形態において、検出工程における免疫学的測定法は、イムノクロマトグラフィーである。イムノクロマトグラフィーは、例えば下記の手順により、検体中の標的タンパク質およびそれと結合する抗体を用いて行うことができる。
1)発色標識用の検出分子(典型的には、金コロイド等で標識された抗体等)が含まれているテストストリップ上の所定の部位(試料滴下部)に、標的タンパク質を含む試料溶液を滴下し、発色標識用の検出分子と標的タンパク質とを接触させ、特異的な反応(典型的には抗原抗体反応)により結合させることで、第1の複合体を形成する。
2)第1の複合体や未反応の発色標識用の検出分子などを含む試料溶液は、テストストリップ上の所定の部位(展開部)を展開していき、それに伴い第1の複合体等も毛細管現象によって移動する。
3)第1の複合体が、固定化用の検出分子(典型的には抗体等)が含まれている所定の部位(テストライン部)に到達し、固定化抗体に捕捉されると、発色標識により発色したライン(例えば、金コロイドによる赤紫色のライン)が出現する。テストラインが出現した場合、試料溶液中に標的タンパク質が含まれていたことを示す。
4)未反応の発色標識用の検出分子が、その検出分子に対して特異的に結合する物質(典型的には、抗免疫グロブリン抗体が)含まれている所定の部位(コントロールライン部、テストラインより下流側)に到達して捕捉されると、発色標識により発色したラインが出現する。コントロールラインが出現しなかった場合、試料中に標的タンパク質が含まれていたか否かにかかわらず、試料溶液の展開に異常があったことが示唆される(再検査が必要となる)。
【実施例0062】
以下、実施例を通じて、本発明の実施形態をより具体的に開示するが、本発明の技術的範囲は実施例として開示した実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、目的とする本発明の用途や作用効果に適応するよう、本発明の技術的思想ならびに本明細書および図面の内容を全体的に考慮して、実施例として開示した実施形態を拡張したり、他の様々な実施形態に改変したりすること、あるいは必要に応じて、従来技術(公知の発明)が備える技術的特徴をさらに組み合わせたりできることを、当業者は理解することができる。本明細書に記載したもの以外の、本発明を実施するために必要な事項は、本発明の属する技術分野における技術常識や従来技術を適宜参酌することができる。
【0063】
[試験例1]
常法に従って、表1に示すベースバッファーおよび各種の成分(表中の%は、特に断らない限りw/v%を表す。実施例における他の試験例の表についても同様。)を含む検出用試薬を調製した。検体(乾麺、チョコスナックまたはバウムクーヘン)1gに、各抽出用試薬19mLを添加し、表1に示す抽出方法で処理した。得られた抽出処理物を室温で遠心分離し(3000×g、20分、20℃)、上澄みを5A濾紙で濾過し、濾液(抽出原液)を得た。
【0064】
検出用試薬として表1に従って調製したものを用いたり、抽出方法を変更したりしたこと以外は、製品「FASTKITエライザ Ver.III 小麦」(日本ハム株式会社)のプロトコールに従って、抽出原液中の小麦タンパク質の量をELISA法により測定した。なお、試験区A~Cの配合は、上記製品に含まれている標準の検出用試薬に相当するものであり、かつ試験区Aの抽出方法は、上記製品の標準のプロトコールに従ったものである。ELISA法による測定の具体的な手順は次の通りである。
【0065】
マイクロタイタープレートの各ウェル中に、希釈した標準溶液および測定溶液(抽出原液)を100μL加え、室温(20~25℃)で、1時間静置した。ウェル内の溶液を捨て、洗浄液で5回洗浄した。各ウェルに調製したビオチン結合抗体溶液100μLを加え、室温で、1時間静置した。ウェルを5回洗浄し、酵素-ストレプトアビジン結合物溶液100μLを加えて、室温で30分間静置した。各ウェルを5回洗浄後、発色剤100μLを加え、室温(20~25℃)で、20分間静置した。各ウェルに反応停止液100μLを加え、発色を停止し、プレートリーダーにて主波長450nm、副波長600~650nmの吸光度を測定した。
【0066】
小麦タンパク質の量の測定結果(試験区1-Aを1とする相対値)を図1に示す。本発明の検出用試薬を用いて振盪法で1時間処理した試験区1-Gは、使用した製品の標準的な検出試薬を用いて振盪法で16時間処理した試験区1-Aと概ね同等以上の量の小麦タンパク質を抽出/検出しており、また加熱法(100℃)で10分間処理した試験区1-Hとも同等以上の量の小麦タンパク質を抽出/検出していることから、安全性および迅速性を備えた本発明の抽出方法に該当すると評価できる。使用した製品の標準的な検出試薬を用いつつ、振盪法による処理時間が1時間に短縮された試験区1-Bは、振盪法による処理時間も使用した製品の標準的な16時間とした試験区1-Aと比較して、食品によっては抽出/検出される小麦タンパク質の量が概ね同等またはやや増加しており、実施形態によっては処理時間を短縮することのできる、本発明の検出試薬に該当するものと評価できる。一方、界面活性剤(SDS)を含まない検出用試薬を用いて振盪法で1時間処理した試験区1-Fは、同様の検出用試薬を用いて振盪法で16時間処理した試験区1-Dおよび剪断撹拌法で処理した試験区1-Eとともに、抽出/検出された小麦タンパク質の量が十分ではなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
[試験例2]
検出用試薬の組成および抽出方法を表2に示すように変更したこと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た後、小麦タンパク質の量をELISA法により測定した。結果を図2に示す。界面活性剤および還元剤として、SDSおよびチオグリセロールを組み合わせて用いる場合、SDSの濃度が2%(w/v)であれば、チオグリセロールの濃度は0.5%以上の全てにわたって、試験区2-E(試験区1-G)と同程度の量の小麦タンパク質を抽出/検出できていることから、試験例2のいずれの試験区も本発明の抽出方法に該当すると評価できる。
【0069】
【表2】
【0070】
[試験例3]
検出用試薬の組成および抽出方法を表3に示すように変更したこと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た後、小麦タンパク質の量をELISA法により測定した。結果を図3に示す。界面活性剤および還元剤として、SDSおよびチオグリセロールを組み合わせて用いる場合、チオグリセロールの濃度が2%(w/v)であれば、SDSの濃度は0.5%以上の全てにわたって、試験区3-E(試験区1-G)と同程度の量の小麦タンパク質を抽出/検出できていることから、試験例3のいずれの試験区も本発明の抽出方法に該当すると評価できる。
【0071】
【表3】
【0072】
[試験例4]
検体とする食品をパンおよび麺とし、検出用試薬の組成および抽出方法を表4に示すように変更した(振盪法による抽出時間は1、3、6または16時間とした)こと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た。その後、抽出原液中の総タンパク質濃度を「Quant Kit」(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社)を用いて測定した。また、抽出原液中の小麦タンパク質(アレルゲン)および卵タンパク質(アレルゲン)の濃度をそれぞれ「FASTKITエライザ Ver.III 小麦」および「FASTKITエライザ Ver.III 卵」(日本ハム株式会社)を用いてELISA法により測定した。
【0073】
結果を図4-1および図4-2に示す。試験区4-Aの抽出用試薬は、パン中の総タンパク質濃度、麺中の総タンパク質濃度、およびパン中の卵アレルゲンの濃度それぞれ、振盪法における処理時間を3または6時間としたとき、処理時間を16時間としたときと同程度の濃度となったが、麺中の卵アレルゲンの濃度は、振盪法における処理時間を短くするにつれて、処理時間を16時間としたときよりも徐々に低下する傾向が見られた。試験区4-Aの抽出用試薬は、抽出処理の時間や対象とする食品またはタンパク質を適切なものとすることなどで、本発明の抽出用試薬となり得ることが示された。一方、試験区4-Bの抽出用試薬は、パンおよび麺それぞれ、総タンパク質の濃度、卵アレルゲンタンパク質の濃度どちらも、振盪法における処理時間を1、3または6時間としても、処理時間を16時間としたときと同程度の濃度となった。また、試験区4-Bの抽出用試薬は、試験区4-Aの抽出用試薬に比べて、各タンパク質の濃度の測定値が高い傾向にあった。試験区4-Bの抽出用試薬は、抽出処理の時間をより短くしたり、より広い範囲の食品またはタンパク質を対象としたりすることができる、本発明の好ましい抽出用試薬となり得ることが示された。
【0074】
【表4】
【0075】
[試験例5]
検体とする食品をパスタ(乾麺ではない)、チョコスナックまたはバウムクーヘンに変更し、検出用試薬の組成および抽出方法を表5に示すように変更した(振盪法による抽出時間は30分または1時間とした)こと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た。その後、抽出原液中の総タンパク質濃度を「Quant Kit」(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社)を用いて測定した。
【0076】
結果を図5に示す。パスタ、チョコスナックおよびバウムクーヘンについては、振盪法による抽出時間が30分(試験区5-A)、1時間(5-B)いずれも、タンパク質の抽出量は良好であった。なお、パスタ(乾麺ではない)、チョコスナックおよびバウムクーヘンは、タンパク質の抽出が困難な部類の食品である。
【0077】
【表5】
【0078】
[試験例6]
検体とする食品をチョコスナックに変更し、検出用試薬の組成および抽出方法を表6に示すように変更した(振盪法による抽出時間は1時間とした)こと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た。その後、抽出原液中の総タンパク質濃度を「Quant Kit」(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社)を用いて測定した。
【0079】
結果を図6に示す。還元剤としてチオグリセロール以外のメルカプトアルカノール(ジチオトレイトールおよび2-メルカプトエタノール)または亜硫酸ナトリウムを用いた場合も、チオグリセロールを用いた場合と同程度の量の、検体中に含まれるタンパク質を抽出および検出することができた。
【0080】
【表6】
【0081】
[試験例7]
検体とする食品をパスタ(乾麺ではない)、チョコスナックまたはバウムクーヘンに変更し、検出用試薬の組成および抽出方法を表7に示すように変更した(振盪法による抽出時間は1時間とした)こと以外は、試験例1と同様にして、抽出原液を得た。その後、抽出原液中の総タンパク質濃度を「Quant Kit」(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社)を用いて測定した。
【0082】
結果を図7に示す。抽出用試薬におけるチオグリセロールおよびSDSの濃度は、どちらも0.1w/v%以上から、本発明の作用効果が奏される実施形態となり得ることが示された。
【0083】
【表7】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7