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特開2024-72903撥水剤、撥水剤処理液および撥水剤処理液を用いた撥水性繊維製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072903
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】撥水剤、撥水剤処理液および撥水剤処理液を用いた撥水性繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/333 20060101AFI20240522BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20240522BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20240522BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
D06M15/333
D06M13/395
D06M11/79
D06M15/643
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183767
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 智行
(72)【発明者】
【氏名】細矢 陽子
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA20
4L031AB32
4L031BA20
4L031BA31
4L033AA08
4L033AB05
4L033AC03
4L033BA69
4L033CA29
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】縫目滑脱の悪化を抑制し、柔軟な風合いを有する撥水性繊維製品が得られる、撥水剤、撥水剤処理液および撥水剤処理液を用いた撥水性繊維製品の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数が8以上の脂肪族基を有するビニル系ポリマーである撥水成分(A)と、親水性無機微粒子である縫目滑脱抑制成分(B)を含有することを特徴とする撥水剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が8以上の脂肪族基を有するビニル系ポリマーである撥水成分(A)と、親水性無機微粒子である縫目滑脱抑制成分(B)を含有することを特徴とする撥水剤。
【請求項2】
前記縫目滑脱抑制成分(B)がコロイダルシリカである請求項1記載の撥水剤。
【請求項3】
さらに風合い改質成分(C)である水溶性シリコーンを含有する請求項1または2に記載の撥水剤。
【請求項4】
前記撥水成分(A)100質量%に対する前記縫目滑脱抑制成分(B)の割合が5質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の撥水剤。
【請求項5】
前記撥水成分(A)100質量%に対する前記風合い改質成分(C)の割合が5質量%以下である、請求項3または4に記載の撥水剤。
【請求項6】
炭素数が8以上の脂肪族基を有するビニル系ポリマーである撥水成分(A)と、親水性無機微粒子である縫目滑脱抑制成分(B)を含有することを特徴とする撥水剤処理液。
【請求項7】
前記縫目滑脱抑制成分(B)がコロイダルシリカである請求項6記載の撥水剤処理液。
【請求項8】
さらに風合い改質成分(C)である水溶性シリコーンを含有する請求項6または7に記載の撥水剤処理液。
【請求項9】
前記撥水成分(A)100質量%に対する前記縫目滑脱抑制成分(B)の割合が5質量%以下である、請求項6~8のいずれかに記載の撥水剤処理液。
【請求項10】
前記撥水成分(A)100質量%に対する前記風合い改質成分(C)の割合が5質量%以下である、請求項8または9に記載の撥水剤処理液。
【請求項11】
請求項6~10のいずれかに記載の撥水剤処理液で繊維を撥水処理する撥水処理工程を含む撥水性繊維製品の製造方法。
【請求項12】
前記撥水処理工程において、前記撥水剤処理液にイソシアネート架橋剤(D)を含有させ、前記撥水成分(A)を架橋させる請求項11記載の撥水性繊維製品の製造方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれかに記載の撥水剤における前記撥水成分または前記撥水成分の架橋物が繊維に付着していることを特徴とする撥水性繊維製品。
【請求項14】
請求項6~10のいずれかに記載の撥水剤における前記撥水成分または前記撥水成分の架橋物が繊維に付着していることを特徴とする撥水性繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水剤、撥水剤処理液および撥水剤処理液を用いた撥水性繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維等に使用する撥水剤としては、フッ素元素を含むフッ素系撥水剤が広く用いられている(特許文献1等)。
また、非フッ素系撥水剤を使用することも検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-262970号公報
【特許文献2】国際公開第2020/022367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素系撥水剤には生活環境、生物に影響を及ぼす可能性のある化合物、例えばパーフルオロオクタン酸(以降PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(以降PFOS)等が含まれていることが判明している。そこで、昨今では該化合物を含まない撥水剤を使用した繊維製品が要望されており、該環境配慮型フッ素フリー撥水剤として2、3種類の化合物が提案されている。但し、フッ素フリー撥水剤を処理することで、繊維構造物の風合いは粗硬となり、更には縫目滑脱が悪化することが課題であった。
【0005】
そこで、本発明は、縫目滑脱の悪化を抑制し、柔軟な風合いを有する撥水性繊維製品が得られる、撥水剤、撥水剤処理液および撥水剤処理液を用いた撥水性繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]炭素数が8以上の脂肪族基を有するビニル系ポリマーである撥水成分(A)と、親水性無機微粒子である縫目滑脱抑制成分(B)を含有することを特徴とする撥水剤。
[2]前記縫目滑脱抑制成分(B)がコロイダルシリカである[1]記載の撥水剤。
[3]さらに風合い改質成分(C)である水溶性シリコーンを含有する[1]または[2]に記載の撥水剤。
[4]前記撥水成分(A)100質量%に対する前記縫目滑脱抑制成分(B)の割合が、5質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の撥水剤。
[5]前記撥水成分(A)100質量%に対する前記風合い改質成分(C)の割合が5質量%以下である、[3]または[4]に記載の撥水剤。
[6]炭素数が8以上の脂肪族基を有するビニル系ポリマーである撥水成分(A)と、親水性無機微粒子である縫目滑脱抑制成分(B)を含有することを特徴とする撥水剤処理液。
[7]前記縫目滑脱抑制成分(B)がコロイダルシリカである[6]記載の撥水剤処理液。
[8]さらに風合い改質成分(C)である水溶性シリコーンを含有する[6]または[7]に記載の撥水剤処理液。
[9]前記撥水成分(A)100質量%に対する前記縫目滑脱抑制成分(B)の割合が、5質量%以下である、[6]~[8]のいずれかに記載の撥水剤処理液。
[10]前記撥水成分(A)100質量%に対する前記風合い改質成分(C)の割合が5質量%以下である、[8]または[9]に記載の撥水剤処理液。
[11][6]~[10]のいずれかに記載の撥水剤処理液で繊維を撥水処理する撥水処理工程を含む撥水性繊維製品の製造方法。
[12]前記撥水処理工程において、前記撥水剤処理液にイソシアネート架橋剤(D)を含有させ、前記撥水成分(A)を架橋させる[11]記載の撥水性繊維製品の製造方法。
[13][1]~[5]のいずれかに記載の撥水剤における前記撥水成分または前記撥水成分の架橋物が繊維に付着していることを特徴とする撥水性繊維製品。
[14][6]~[10]のいずれかに記載の撥水剤における前記撥水成分または前記撥水成分の架橋物が繊維に付着していることを特徴とする撥水性繊維製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、縫目滑脱の悪化を抑制し、柔軟な風合いを有する撥水性繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について、例を挙げて説明する。ただし、本発明は以下の説明により限定されない。
【0009】
本発明の撥水剤は、撥水成分(A)と縫目滑脱抑制成分(B)と、を含む。
本発明の撥水剤は、一剤(撥水成分(A)と縫目滑脱抑制成分(B)を同一の組成物中に含む)としてもよいし、二剤以上(撥水成分(A)と縫目滑脱抑制成分(B)を別々の製品とする)としてもよい。
本発明において、「撥水剤組成物」は、撥水剤のうち、組成物であるものをいう。
【0010】
本発明において、「イソシアネート」は、分子中にイソシアネート基(イソシアナト基)-N=C=Oを有する化合物をいう。「モノイソシアネート」は、1分子中にイソシアネート基を1つのみ有するイソシアネートをいう。「ポリイソシアネート」は、1分子中にイソシアネート基を複数有するイソシアネートをいう。
【0011】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状または分枝状のアルキルを含む。本発明において、アルキル基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等があげられる。
【0012】
本発明において、「アルキレン」は、例えば、直鎖状アルキレン(メチレンもしくはポリメチレン)または分枝状のアルキレンを含む。本発明において、アルキレン基は、特に限定されないが、例えば、メチレン基、ジメチレン基(エチレン基)、エチリデン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基(プロピレン基)、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等があげられる。
【0013】
[撥水成分(A)]
本発明の撥水成分(A)は、前述のとおり、下記成分(a)および(b)の付加物(A1)を含むことを特徴とする。付加物(A1)は、下記成分(b)におけるイソシアネート基(イソシアナト基)の不飽和結合に、下記成分(a)が付加した構造の化合物である。下記成分(a)が、水酸基を有するビニル系ポリマーである場合、付加物(A1)は、例えば、ウレタンである。なお、前記「ウレタン」は、ウレタン結合(-NH-CO-O-)を有する化合物をいう。下記成分(b)が、イミノ基を有するビニル系ポリマーである場合、付加物(A1)は、例えば、ウレアである。なお、本発明において、前記「ウレア」は、尿素自体ではなく、ウレア結合(-NH-CO-NH-)を有する尿素誘導体化合物をいう。

(a)水酸基およびイミノ基の少なくとも一方を有するビニル系ポリマー
(b)炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネート
【0014】
[1-1.付加物(A1)]
成分(a)は、前述のとおり、ビニル系ポリマーである。前記ビニル系ポリマーは、例えば、末端二重結合(ビニル基CH2=CH-またはビニリデン基CH2=C=)を有するモノマーを重合して得られる構造のポリマーである。前記モノマーとしては、例えば、ビニルアルコール、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等があげられる。また、前記ビニル系ポリマーは、例えば、前記モノマーと他のモノマーとの共重合体の構造を有していてもよい。前記他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等があげられる。また、前記ビニル系ポリマーはアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽 和カルボン酸及びそのエステル、アミド、無水物、ビニルスルホン酸等のスルホン酸モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルスクシンイミド等が共重合されていてもよい。
【0015】
成分(a)は、前述のとおり、水酸基およびイミノ基の少なくとも一方を有するビニル系ポリマーであり、例えば、水酸基を有するビニル系ポリマーでもよい。前記水酸基を有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体等があげられる。成分(a)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合、ビニルアルコール構造単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、10~80モル%、40~80モル%、または40~70モル%である。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の平均重合度は、特に限定されないが、例えば、100以上、500以上、または800以上であり、例えば、3,000以下、2,500以下または1,500以下である。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の市販品としては、例えば、株式会社クラレ製の商品名エバール:グレードE-171B、E-151B、E-105B、E-171A、E-151A、E-105A、日本合成化学工業株式会社製のソアノール:グレードAT4403、AT4406、A4412等があげられる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体のビニル基に酸化エチレンを付加重合することによって合成される、酸化エチレンを付加したエチレン-ビニルアルコール共重合体も使用できる。市販品としては、例えば、住友化学社製の商品名スミガード グレード300K、スミガード グレード300G等があげられる。成分(a)がポリビニルアルコールである場合、平均重合度は、特に限定されないが、例えば、100~3,000または150~2,000である。前記ポリビニルアルコールのケン化度も特に限定されないが、例えば、70%以上、80%以上、または90~100%である。
【0016】
成分(a)は、例えば、イミノ基を有するビニル系ポリマーでもよい。前記イミノ基を有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン等があげられる。
【0017】
成分(a)は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。成分(a)は、例えば、前述のとおり、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、およびポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0018】
成分(b)は、前述のとおり、炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネートである。成分(b)は、モノイソシアネートでもポリイソシアネートでもよいが、例えば、モノイソシアネートである。前記脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等があげられ、好ましくはアルキル基である。前記脂肪族基は、分枝鎖状であってもよいが、直鎖状の方が好ましい。前記脂肪族基の炭素数は8以上であり、上限は特に限定されないが、例えば30以下、または20以下である。成分(b)としては、例えば、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート(ラウリルイソシアネート)、オクタデシルイソシアネート(ステアリルイソシアネート)等のモノアルキルイソシアネートがあげられ、特に好ましくはオクタデシルイソシアネート(ステアリルイソシアネート)があげられる。なお、オクタデシルイソシアネートは、例えば、アルキル基の炭素の数が12、炭素数14、炭素数16、炭素数17、炭素数18、炭素数20のモノアルキルイソシアネートを含有している混合物が市販されており、それを用いてもよい。前記混合物中の各成分の含有割合としては、好ましくは、アルキル基の炭素数が16のイソシアネートが1~10質量%、アルキル基の炭素数が17のイソシアネートが0.5~4質量%、アルキル基の炭素数が18のアルキル基が80~98質量%の混合物である。また、前記混合物は、例えば、主成分の混合比がアルキル基の炭素数が16のイソシアネートが8~9質量%、アルキル基の炭素数17のイソシアネートが3~4質量%、炭素数18のイソシアネートが85~87質量%の混合物である。そのような混合物の市販品としては、例えば、保土谷化学工業株式会社製、商品名ミリオネートOがあげられる。本発明において、成分(b)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0019】
付加物(A1)において、成分(a)中の水酸基およびイミノ基の数の合計と、成分(b)中のイソシアネート基の数との比は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり、4/1~1/1であってもよく、例えば、4/3~1/1または2/1~1/1であってもよい。
【0020】
付加物(A1)の製造方法は、特に限定されず、例えば、一般的な水酸基含有ポリマーまたはイミノ基含有ポリマーとイソシアネートとの付加反応と同様またはそれに準じてもよい。付加物(A1)の製造方法は、具体的には、例えば、以下のようにして行なうことができる。
【0021】
まず、成分(a)(ポリマー)は、必要に応じ脱水してもよいし、しなくてもよい。前記脱水は、特に限定されないが、例えば、粒子状の成分(a)をトルエン等の非極性溶媒に分散し、共沸脱水する。それ以外には、例えば、乾燥機等により水分を除く方法があげられる。工業的には、効率等の観点から、共沸脱水が好ましい。共沸脱水の操作として、例えば、還流を行いながら還流装置の途中で水分を分離除去する方法等でもよい。また使用する溶剤は水と共沸する溶剤であれば特に限定されないが、本発明の剥離処理剤との溶解性などからトルエン、キシレンが好ましい。水分除去工程後の成分(a)中の水分含有量は、特に限定されないが、150ppm以下とするのが好ましい。
【0022】
つぎに、成分(a)に、例えば、反応触媒として、水溶性の高い弱酸性のアルカリ金属塩、有機スズ(例えば、ジブチルジスズラウレート)等を添加する。このとき、必要に応じ、ジメチルスルホキシド等の水溶性の溶媒を添加してもよい。つぎに、成分(b)(イソシアネート)を滴下し反応させる。なお、触媒添加の時期は、前述のとおり、例えば、反応前に添加するが、反応途中に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよい。反応温度および反応時間は、特に限定されず、例えば、一般的な水酸基含有ポリマーまたはイミノ基含有ポリマーとイソシアネートとの付加反応と同様またはそれに準じてもよい。反応温度は、前述のとおり特に限定されないが、例えば、50~150℃であってもよく、75~140℃であってもよい。また、反応時間は、例えば、100~240分であってもよく、120~200分であってもよい。反応の終点は、例えば、反応混合物中の未反応イソシアネート化合物の残存量を赤外分光光度計により測定して確認することができる。
【0023】
反応触媒としては、3級アミン及びその塩以外に有機ジルコニウム系、有機チタン系、アルミニウム系、無機スズ系、無機ビスマス系などが挙げられる。
反応触媒として使用できる具体的な商品名としては、「オルガチックス」シリーズ(株式会社マツモト交商);「ネオスタン」シリーズ(日東化成株式会社製);「TOYOCAT」シリーズ(東ソー株式会社製);DBU、DBN、U-CAT 2110、U-CAT 660M(以上、サンアプロ株式会社製);TD-33A、TD-20、DMCHA、ZR-50(以上、ハンツマン社製)等が挙げられる。
環境負荷低減のため、従来反応触媒として汎用されてきたジブチル錫(スズ)ジラウレートのような有機金属系は避けたほうが好ましい。
【0024】
反応終了後、例えば、水を加えて油層と水層を分離し、前記触媒を水層に移行させて除去することができる。なお、例えば、前記触媒の除去が不要である場合は、この操作を省略してもよい。一方、目的生成物の付加物(A1)は油層に移行する。この油層を、ろ過機(フィルター)を通してろ過し、副生成物(例えばビスウレア体)を除去してもよい。なお、例えば、前記副生成物の除去が不要である場合は、この操作を省略してもよい。前記ろ過機は特に限定されないが、例えば、トルエン等の有機溶剤に不溶な副生成物の除去が目的であることから、密閉型加圧ろ過機が好ましい。ろ過の方式は、特に限定されず、例えば、溶液を入れた器からフィルターを通し別の受器で溶液を受ける方式、あるいは、溶液を入れた器からフィルターを通し、再び溶液を入れてある器に戻す循環方式のどちらでも使用できる。
【0025】
さらに、あらかじめメタノールを入れておいた器内に、付加物(A1)を含む前記油層を入れ、沈殿した付加物(A1)をろ過により分離して本発明の撥水剤に使用する。例えば、前記触媒および前記副生成物の分離操作を省略する場合は、前記反応終了後の混合物を、直接メタノールに入れて付加物(A1)を沈殿させてもよい。
【0026】
[1-2.撥水剤組成物およびその製造方法]
本発明の撥水剤組成物は、例えば、前述のとおり、前記付加物(A1)に加え、さらに、界面活性剤(Ab)と、水(Ac)とを含んでいてもよい。また、本発明の撥水剤は、例えば、前述のとおり、前記付加物(A1)に加え、さらに、有機溶媒(Ad)を含み、前記付加物(A1)が前記有機溶媒(Ad)に溶解していてもよい。以下において、前者を「水系撥水剤組成物」、後者を「溶剤系撥水剤組成物」ということがある。
【0027】
本発明の水系撥水剤組成物において、界面活性剤(Ab)は、特に限定されず、例えば、一般的な界面活性剤でもよい。前記界面活性剤は、例えば、ノニオン(非イオン)性界面活性剤、カチオン(陽イオン)性界面活性剤、アニオン(陰イオン)性界面活性剤のいずれでも良い。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等があげられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、青木油脂工業株式会社製の商品名ブラウノン230、ファインサーフ1502.2等があげられる。陽イオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩等があげられる。前記第4級アンモニウム塩としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名リポカード18-63、レオミックス11等があげられる。陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸等があげられる。界面活性剤(Ab)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0028】
本発明の水系撥水剤組成物において、界面活性剤(Ab)の含有率は、特に限定されないが、付加物(A1)の質量に対し、例えば1質量%以上、3質量%以上、または5質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、または100質量%以下である。
【0029】
本発明の水系撥水剤組成物において、水(Ac)は特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水等があげられる。
【0030】
また、本発明の水系撥水剤組成物において、付加物(A1)の含有率は、特に限定されないが、水(Ac)の質量に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、または3質量%以上であり、例えば90質量%以下、70質量%以下、または50質量%以下である。
【0031】
本発明の溶剤系撥水剤組成物において、有機溶媒(Ad)は、特に限定されないが、付加物(A1)を溶解しやすい溶媒が好ましい。有機溶媒(Ad)は、例えば、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素(ノルマルヘキサン等)等の炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、グリコール系溶媒(エチレングリコール等)、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン(MEK)等)、芳香族系溶媒(トルエン、キシレン等)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)等があげられる。前記芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン等があげられる。有機溶媒(Ad)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0032】
また、本発明の溶剤系撥水剤組成物において、付加物(A1)の含有率は、特に限定されないが、有機溶媒(Ad)の質量に対し、例えば1質量%以上、2質量%以上、または3質量%以上であり、例えば90質量%以下、80質量%以下、または70質量%以下である。
【0033】
本発明の撥水剤組成物は、前記成分(A)、(Ab)~(Ad)以外の他の任意成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記任意成分としては、例えば、NAA-45(ステアリルアルコール、日油株式会社製)等の高級アルコール(Ae)が挙げられる。
【0034】
本発明の水系撥水剤組成物または溶剤系撥水剤組成物において、高級アルコール(Ae)の含有率は、特に限定されないが、付加物(A1)の質量に対し、例えば1質量%以上、3質量%以上、または5質量%以上であり、例えば30質量%以下、20質量%以下、または10質量%以下である。
【0035】
本発明の水系撥水剤組成物または溶剤系撥水剤組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、全ての成分を混合して溶解または分散させるのみでもよい。また、各成分を溶解または分散させやすいように、適宜加熱等をしながら溶解または分散させてもよい。例えば、水系撥水剤組成物の場合、付加物(A1)および界面活性剤(Ab)を加熱撹拌しながら混合し、その後、加熱撹拌を続けながら水(Ac)を加えて付加物(A1)および界面活性剤(B)を水(C)中に分散させ、水系撥水剤を製造してもよい。この場合の加熱温度は、特に限定されないが、例えば、30℃以上、または50℃以上であり、例えば、180℃以下、または160℃以下である。加熱撹拌の時間は特に限定されないが、例えば、全ての成分が均一に混合するまで行なえばよい。
【0036】
本発明の水系撥水剤組成物の製造方法においては、特に制限はないが、例えば、一般的な機械式乳化方法を用いることができる。前記機械式乳化方法に用いる機械は、特に限定されないが、バッチ方式では、例えば、ナウターミキサー、アンカーミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー、プラネタリミキサー等が挙げられ、それらを組み合わせた多軸乳化分散装置、例えばプライミクス株式会社製のコンビミックスシリーズであってもよい。連続式では、例えば、ラインホモミキサー等が挙げられ、または、それらを組み合わせた装置であってもよい。特に装置内を高圧にすることが出来る高温高圧乳化分散装置が好ましい。
【0037】
[縫目滑脱抑制成分(B)]
本発明の縫目滑脱抑制成分は親水性無機微粒子であり、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物のいずれかであることが好ましい。これらのうち、入手しやすさ、選択耐久性の向上の点で、親水性シリカ微粒子がより好ましく、使用しやすさで、コロイダルシリカがより好ましい。
コロイダルシリカは、市場で入手できる製品としては、
スノーテックス20、スノーテックス20P、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックス50、スノーテックスO、スノーテックスS、スノーテックスOS、スノーテックスC、スノーテックスAK、スノーテックスPS等のスノーテックス(登録商標)シリーズ(日産化学株式会社製);
クォートロンPL-1等のクォートロン(登録商標)シリーズ(扶桑化学工業株式会社製);
シリカドール20、シリカドール30、シリカドール40、シリカドール20AL等のシリカドール(登録商標)シリーズ(日本化学工業社製);
カタロイドS-20L、カタロイドS-30H、カタロイドSI-550、カタロイドSA等のカタロイド(登録商標)シリーズ(日揮触媒化成株式会社製);
Klebosol30R9、Klebosol30CAL25等のKlebosolシリーズ(デュポン社製);
アデライトAT-20、アデライトAT-20Q等のアデライトシリーズ(株式会社ADEKA製);
等が挙げられる。
親水性無機微粒子の粒径は、平均一次粒子径が1~100nmの微粒子が好ましく、より好ましいのは平均一次粒子径5~50nmの微粒子であり、さらに好ましくは平均一次粒子径5~30nmの微粒子である。生地表面に微細な粒子が付着することによって縫目滑脱性が向上することが一般的に知られており、より小さな粒子径を持つ粒子は生地の単位面積当たりに多く付着させることができるため、縫目滑脱の改善効果が大きくなることが期待できる。一方、平均一次粒子径が100nmを超えると単位面積当たりの粒子量が減ることにより、充分な縫目滑脱の改善効果が得られないおそれがある。
縫目滑脱抑制成分(B)の添加量は、撥水成分(A)である付加物(A1)に対し、5質量%以下であり、下限については、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
【0038】
[風合い改質成分(C)]
本発明の風合い改質成分(C)は水溶性シリコーンである。
水溶性シリコーンとしては、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル(ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン等)変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、アミドポリエーテル変性シリコーン、カルボキシポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
水溶性シリコーンの市場で入手できる製品としては、
BY16-849、BY16-853、BY16-872、BY16-892、BY16-879B(以上、東レ・ダウコーニング社製)、TSF4706(GE東芝シリコーン社製)、KF―8001、KF-8004、KF-857(以上、信越化学工業株式会社製)等のアミノ変性シリコーン;
SF-8428、BY16-848(以上、東レ・ダウコーニング社製)等のカルビノール変性シリコーン;
SF8413、BY16-839、BY16-855(以上、東レ・ダウコーニング社製)等のエポキシ変性シリコーン;
SH3772、SH3775、SF8410、SF8427(以上、東レ・ダウコーニング社製)、KF6016(信越化学工業社製)等のポリエーテル変性シリコーン;
BY16-837、BY16-893(以上、東レ・ダウコーニング社製)等のアミノポリエーテル変性シリコーン;
BY16-750、SF8418(以上、東レ・ダウコーニング社製)等のカルボキシ変性シリコーン;等が挙げられる。
風合い改質成分(C)の添加量は、撥水成分(A)である付加物(A1)に対し、上限については、5質量%以下であり、下限については、好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。
【0039】
[2.撥水剤の使用方法、撥水性繊維製品の製造方法、および撥水性繊維製品]
本発明の撥水剤の使用方法は特に限定されず、例えば、一般的な撥水剤、特に繊維用撥水剤の使用方法と同様またはそれに準じてもよい。本発明の撥水剤は、例えば、繊維または繊維製品の撥水処理(撥水加工)に使用可能であり、例えば、前述した本発明の撥水性繊維製品の製造方法および本発明の撥水性繊維製品に用いることができる。本発明の撥水性繊維製品を製造する方法は特に限定されないが、本発明の撥水性繊維製品の製造方法により製造することができる。なお、本発明の撥水性繊維製品の製造方法において、撥水処理(撥水加工)の対象である前記「繊維」は、特に限定されず任意であり、例えば、繊維製品でもよい。前記繊維または繊維製品は、特に限定されず、任意の繊維または繊維製品が可能であり、例えば、衣服、日用品、インテリア、カーシート等があげられる。
繊維構造物としてはナイロン100%布、ポリエステル100%布、混紡、布帛、編物、糸を用いることができる。
【0040】
本発明の撥水性繊維製品の製造方法は、本発明の撥水剤を用いて前記撥水処理工程を行なうこと以外は特に限定されず、例えば、一般的な繊維または繊維製品の撥水処理方法と同様またはそれに準じてもよい。
【0041】
本発明の撥水性繊維製品の製造方法は、具体的には、例えば、以下のようにして行なうことができる。
【0042】
まず、本発明の撥水剤を含む撥水剤処理液を準備する。例えば、本発明の撥水剤をそのまま前記処理液としてもよいし、水または有機溶媒で希釈して前記処理液としてもよい。例えば、水系撥水剤組成物の場合、水で希釈して前記処理液としてもよいし、溶剤系撥水剤組成物の場合、有機溶媒(Ad)と同種または異種の有機溶媒等で希釈して前記処理液としてもよい。前記処理液の濃度は特に限定されないが、付加物(A1)の濃度が、前記処理液の分散媒または溶媒(例えば、前記水または有機溶媒)に対し、例えば0.1質量%以上、0.3質量%以上、または0.5質量%以上であり、例えば30質量%以下、20質量%以下、または10質量%以下となるようにする。また、前記処理液には、例えば、撥水助剤等を加えてもよい。前記撥水助剤は、縫目滑脱抑制成分(B)以外は特に限定されないが、例えば、風合い改質成分(C)である水溶性シリコーン、アミノ変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、および、ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル等の反応性シリコーンオイル等があげられる。前記撥水助剤の添加量も特に限定されないが、付加物(A1)に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、または2質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、または100質量%以下である。
【0043】
つぎに、前記処理液で繊維を撥水処理する前記撥水処理工程を行なう。この撥水処理工程は、例えば、前述のとおり、一般的な繊維または繊維製品の撥水処理方法と同様またはそれに準じてもよい。具体的には、例えば、前記処理液を、撥水処理しようとする繊維または繊維製品に染み込ませた後に、前記繊維または繊維製品を乾燥させればよい。このようにして、本発明の撥水性繊維製品の製造方法を行なうことができる。なお、本発明の撥水性繊維製品の製造方法は、前記撥水処理工程以外の他の工程を含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。前記他の工程としては、例えば、後述する乾熱処理があげられる。
【0044】
前記撥水処理工程は、例えば、連続法により行なってもよいし、バッチ法により行なってもよい。
本実施形態の撥水剤組成物には必要に応じて(すなわち、撥水剤組成物にも添加可能であるし、撥水剤処理液に対しても添加可能である)添加剤などを加えることも可能である。添加剤としては、他の撥水剤、樹脂、界面活性剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、抗菌剤、着色剤、酸化防止剤、キレート剤、消臭剤、帯電防止剤、触媒、架橋剤、抗菌防臭剤、難燃剤、柔軟剤、防皺剤などが挙げられる。
また、使用する繊維構造物は染色していても構わない。
【0045】
前記連続法は、例えば、まず、前記処理液で満たされた含浸装置に、被処理物である繊維または繊維製品を連続的に送り込み、前記被処理物に前記撥水処理液を含浸させた後、不要な撥水処理液を除去する。前記含浸装置としては特に限定されないが、パッダ式付与装置、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置が好ましく、パッダ式が特に好ましい。続いて、乾燥機を用いて前記被処理物に残存する水、有機溶媒等を除去する。前記乾燥機としては、特に限定されないが、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。前記連続法は、例えば、被処理物が織物等の布帛状の場合に用いるのが好ましい。
【0046】
例えば、被処理物である繊維または繊維製品を前記処理液に浸漬する浸漬工程、および、前記撥水処理液に浸漬した前記被処理物に残存する水、有機溶媒等を除去する液除去工程からなる。前記バッチ法は、例えば、前記被処理物が連続法による処理に適さない場合に用いるのが好ましい。より具体的には、前記被処理物が布帛状でない場合、例えば、前記被処理物が、バラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等である場合、または、前記被処理物が編み物である場合等があげられる。前記浸漬工程においては、例えば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。前記液除去工程においては、例えば、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。
【0047】
また、例えば、前述のとおり、前記撥水処理工程において、前記処理液にイソシアネート架橋剤(D)を含有させ、前記イソシアネート架橋剤(D)により前記撥水成分(A)である付加物(A1)を架橋させてもよい。イソシアネート架橋剤(D)を加えることで、例えば、製造される撥水性繊維製品の、洗濯後の撥水性(洗濯耐久性)がさらに向上する。
[イソシアネート架橋剤(D)]
イソシアネート架橋剤(D)は、特に限定されないが、例えば、分子中に2個以上のイソシアネート官能基を含む有機化合物を用いることができる。
イソシアネート架橋剤(D)としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルトリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリトリレンジイソシアネートアダクト体、グリセリントリトリレンジイソシアネートアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレット体、トリメチロールプロパントリヘキサメチレンジイソシアネートアダクト体、グリセリントリヘキサメチレンジイソシナネートアダクト体等があげられる。
また、イソシアネート架橋剤(D)としては、さらに、前記イソシアネート官能基を含む有機化合物等に対し、加熱時に解離して活性なイソシアネート基が再生するフェノール、マロン酸ジエチルエステル、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ、ε-カプロラクタム等を反応させてイソシアネート基をブロックした、ブロックドイソシアネート官能基を含む有機化合物等があげられる。
具体的な商品名としては、「タケネート」シリーズ(三井化学株式会社製);「メイカネート」シリーズ(明成化学株式会社製);エラストロンBN-11等の「エラストロン」シリーズ(第一工業製薬株式会社製);「アクアネート」シリーズ、コロネートB-45E、コロネートHX(以上、東ソー株式会社製);デュラネートWB40-100、デュラネートWT20-100、デュラネートWE50-100、デュラネートD101、デュラネートD201(以上、旭化成株式会社製)等が挙げられる。
イソシアネート架橋剤(D)の添加量も特に限定されないが、撥水成分(A)である付加物(A1)に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、または3質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、または100質量%以下である。イソシアネート架橋剤(D)により付加物(A1)を架橋させる架橋反応において、反応温度は、特に限定されないが、例えば、100℃以上、または120℃以上であり、例えば、200℃以下、または180℃以下である。反応時間は特に限定されないが、例えば、0.1分以上、または0.3分以上であり、例えば、20分以下、または15分以下である。
【0048】
また、本発明の撥水剤を付着させた前記被処理物には、乾熱処理を行うことが好ましい。前記乾熱処理を行うと、本発明の前記第1の撥水剤または前記第2の撥水剤の有効成分が、前記被処理物に、より強固に付着しやすいためである。ただし、本発明は、乾熱処理を行わなくても良い。また、本発明の撥水剤は、紙製品、木質板(例えば、パーティクルボード、MDFボード等)等にも用いることができる。
【0049】
本発明の撥水剤は、前述のとおり、撥水性が優れている。これによれば、例えば、撥水性に優れた撥水性繊維製品を製造することができる。また、本発明の撥水剤によれば、例えば、洗濯後の撥水性(洗濯耐久性)に優れた撥水製品を製造することもできる。本発明の撥水剤によれば、例えば、フッ素系撥水剤と同等の撥水性または洗濯耐久性を発揮することも可能である。
【0050】
本発明の撥水剤は、例えば、低コストで効率良く使用可能であり、かつ、撥水性、加工浴の安定性、保存安定性等に優れる。本発明の撥水剤の用途は、前述のとおり、特に限定されず、衣服、雨傘、レインコート、テント地、日用品、インテリア、カーシート等の繊維製品、さらには撥水紙、撥水ボード等に広く適用可能である。さらに、本発明の撥水剤の用途は、前記各用途に限定されず、任意の用途に広く用いることができる。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[合成例1]
以下のようにして、付加物(A1)を製造した。
ファウドラー羽を有する撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えるとともに、加熱および冷却が可能な反応容器を準備した。つぎに、前記反応容器中に、ステアリルイソシアネート(成分(b)、炭素数17以下の脂肪族基の含有率2.0%)を67.1質量部入れ、これに、原料高分子としてポリビニルアルコール共重合物(成分(a)、ケン化度80モル%、平均重合度240)を14.9質量部入れ、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンを0.2質量部加え、攪拌して分散させた。なお、前記ステアリルイソシアネート(成分(b))および前記ポリビニルアルコール共重合物成分(a))の質量比は、イソシアネートと水酸基のモル比が0.8/1となるように調整した比である。この溶液をさらに攪拌および昇温しながら50℃まで加温し、17.7質量部のジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略記する)を約60分かけて滴下した。その後0.1質量部の1,8ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセンー7を加え、攪拌して溶解させ、さらに充分な攪拌下にて反応を継続させた。反応の進行状況を確認しつつ、約50℃で、約60分間攪拌をしたところ、反応が完結していることを確認できた。なお、反応の進行状況は、適宜反応液をサンプリングして、反応液中のステアリルイソシアネート化合物の量を、赤外分光方法により測定することにより調べた。反応完結後、この反応混合物を、反応混合物量に対して5倍量のメタノール中に注いだところ、白色沈殿物を得た。これに、クエン酸を反応混合物に対して0.1質量部を加え、攪拌して溶解させた。反応液中のDMSOはメタノールに溶解するので、ろ過により、DMSOを沈殿物から除去することができる。したがって、ろ過により前記白色沈殿物を分離し、さらに、この白色沈殿物をメタノールで洗浄して乾燥後、粉砕することにより、目的物である高分子ウレタン化物(成分(a)および(b)の付加物(A1)を得た。
得られた高分子ウレタン化物(付加物(A1))10.5質量部、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名レオミックス11(水素化牛脂アルキルアミン酢酸塩、カチオン性界面活性剤)1.3質量部、日油株式会社製の商品名NAA-45(ステアリルアルコール、)2.0質量部、青木油脂工業株式会社製の商品名ブラウノン230(ポリオキシエチレンステアリルエーテル(2E.O.)、ノニオン系界面活性剤)0.5質量部を、アンカーミキサーを有する分散機の容器に入れて密閉し、120℃にて溶融混合したのち、110℃以上を保ち、攪拌を続けながら95℃以上の熱水85.7質量部を混合して本実施例の乳化物を得た。
【0053】
[実施例1]
繊維構造物としてはナイロン100%布帛を用いる。合成例で得られた乳化物を6%soln.、乳化物の撥水成分に対して、無機微粒子3質量%を含むコロイダルシリカ0.1%soln.、乳化物の撥水成分に対して1質量%となる水溶性シリコーン0.01%soln.、ブロック化イソシアネートとして、第一工業製薬株式会社製の商品名エラストロンBN-11を1%soln.の処理液を調製し、浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して得られた布の撥水性及び洗濯耐久撥水を評価した。
【0054】
[比較例1]
繊維構造物としてはナイロン100%布帛を用いる。合成例で得られた乳化物を6%sol.、ブロック化イソシアネートとして、第一工業製薬株式会社製の商品名エラストロンBN-11を1%soln.の処理液を調製し、浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して得られた布の撥水性及び洗濯耐久撥水を評価した。
【0055】
[比較例2]
繊維構造物としてはナイロン100%布帛を用いる。合成例で得られた乳化物を6%sol.、乳化物の撥水成分に対して1質量%となる水溶性シリコーン0.01%soln.、ブロック化イソシアネートとして、第一工業製薬株式会社製の商品名エラストロンBN-11を1%soln.の処理液を調製し、浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して得られた布の撥水性及び洗濯耐久撥水を評価した。
【0056】
以上のようにして製造した実施例1~7および比較例1~3の撥水性繊維製品(撥水処理された布)および熱処理された撥水性繊維製品(撥水処理された布)について、下記の方法により、撥水性、洗濯耐久性(洗濯後の撥水性)および風合いを評価した。これらの評価結果は、下記表1にまとめて示す。
【0057】
[繊維製品の撥水性及び耐久撥水性評価]
JIS L 1092(1998)のスプレー法に準じてシャワー水温を23℃として試験をした。本試験においては、ナイロン布を、ポリマーの含有量が2質量%となるように、実施例及び比較例の撥水剤組成物及び上記薬剤を水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率50質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して得られた布をJIS L 1930 C4Mによる洗濯にて20回(L-20)行った布の撥水性を上記撥水性評価方法と同様に評価した。結果を表1に示す。
撥水性:状態
5:表面に付着湿潤のないもの
4:表面にわずかに付着湿潤を示すもの
3:表面に部分的湿潤を示すもの
2:表面に湿潤を示すもの
1:表面全体に湿潤を示すもの
0:表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0058】
[繊維製品の縫目滑脱抑制評価方法]
JIS L 1096 8.23 縫目滑脱法 B法に準じて、荷重78Nにて経糸及び緯糸滑脱で試験をした。本試験においては、ナイロン布を、実施例及び比較例の撥水剤組成物をポリマーの含有量が2質量%となるように水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率50質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して、得られた布の縫目滑脱抵抗力(mm)を測定した。 縫目滑脱抵抗力は一般的に3mm以下の性能が必要とされており、本発明における縫目滑脱抑制の基準として、3mm以下を設定した。結果を表1に示す。
【0059】
[繊維製品の風合い評価方法]
JIS L 1096 8.21.5 剛軟度 E法(ハンドルオーダー法に準じて、剛軟度を測定することで風合いの評価を行った。本試験においては、ナイロン布を、実施例及び比較例の撥水剤組成物をポリマーの含有量が2質量%となるように水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率50質量%)した後、130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して、得られた布の剛軟度(g)を測定した。本発明剛軟度は、未加工品(撥水処理および加熱処理をしていない)の剛軟度と同程度であることを良好とし評価を行った。
【0060】
【表1】
【0061】
実使用上、撥水級数 3級以上 良好
2級以下 不良 と判断する。
縫目滑脱抵抗力 3.0mm以下が良好
剛軟度 13g(未加工品)以下が良好