(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072924
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】接合用ペースト、接合体及び接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 7/08 20060101AFI20240522BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240522BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240522BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240522BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240522BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240522BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240522BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F1/00 K
B22F1/05
B22F9/00 B
H01L21/52 E
B22F1/102
B22F1/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183808
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 直宏
(72)【発明者】
【氏名】上杉 隆彦
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5F047
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA07
4K017DA07
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB04
4K018JA36
4K018KA32
5F047AA03
5F047BA15
5F047BB11
5F047BB16
(57)【要約】
【課題】銀粒子用いており、接合強度に優れ、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下が抑制された、無加圧接合可能な接合用ペースト、該接合用ペーストを用いた接合体及び接合体の製造方法の提供。
【解決手段】上記課題は、平均粒子径が100nm~500nmである銀粒子(A)、二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)、並びに、分散媒(C)を含有する接合用ペースト、並びに該接合用ペーストを用いた接合体及び接合体の製造方法によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が100nm~500nmである銀粒子(A)、
二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)、並びに、
分散媒(C)を含有する接合用ペースト。
【請求項2】
銀粒子(A)の焼結温度をT1℃、化合物(B)の50%重量減少温度をT2℃、分散媒(C)の50%重量減少温度をT3℃とした場合に、T3<T1<(T2+10)を満たす請求項1に記載の接合用ペースト。
【請求項3】
前記T2が、200~300℃である請求項2に記載の接合用ペースト。
【請求項4】
前記化合物(B)が、三級窒素原子を有する請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項5】
前記化合物(B)における三級窒素原子数が、2~3である請求項4に記載の接合用ペースト。
【請求項6】
前記化合物(B)における水酸基数が、4~6である請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項7】
前記化合物(B)が、25℃において液状である請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項8】
前記化合物(B)の含有率が、前記銀粒子(A)の質量を基準として0.05~1.0質量%である請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項9】
前記銀粒子(A)は、平均粒子径が150nm~400nmである請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項10】
前記分散媒(C)は、沸点が250℃以上である請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項11】
さらに、水酸基、カルボキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を2つ以上有する炭素数20~80の化合物(D)を含有する請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項12】
さらに、カルボキシ基を1つ有する炭素数14~20の化合物(E)を含有する請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項13】
前記銀粒子(A)の含有率が、接合ペーストの質量を基準として80~95質量%である請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペースト。
【請求項14】
請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合された接合体。
【請求項15】
前記第一の被接合部が、メッキレス基材である請求項14に記載の接合体。
【請求項16】
前記第二の被接合部が、SiCである請求項14に記載の接合体。
【請求項17】
請求項1~3いずれか1項に記載の接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合された接合体の製造方法であって、下記工程を含むことを特徴とする接合体の製造方法。
(1)接合用ペーストを第一の被接合体に塗布する工程。
(2)接合用ペーストを塗布した第一の被接合部の塗布部に第二の被接合部を載置する工程。
(2a)載置した積層体を加熱して予備乾燥する工程。
(3)載置した積層体を無加圧環境下で焼結する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合用ペースト、接合体及び接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材同士、金属部材と半導体素子、金属部材と発光ダイオード(LED)素子等を接着するための接合材として、はんだが使用されていた。近年、次世代パワーエレクトロニクスの技術分野では、高温動作可能なSiC等のデバイスが求められている。このようなデバイスを製造するための接合材としては、高温駆動信頼性の観点で、はんだの代替材料が求められており、例えば、特許文献1~3に示すように、焼結性を有する金属粒子を用いた接合用ペースト等の接合材が提案されている。
【0003】
特許文献1には、アミンにより被覆されている金属ナノ粒子と直鎖のアルキルアミン又はアルカノールアミンであるアミンを含む接合材が開示されている。
特許文献2には、平均粒子径が20~500nmである銀粒子と、アルカノールアミン類と溶媒とを含む導電性接着剤を接合材として用いることが開示されている。
特許文献3には、銅粉、液媒体及び還元剤を含み、還元剤が、少なくとも1個のアミノ基及び複数の水酸基を有する、接合用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-214357号公報
【特許文献2】特開2022-117824号公報
【特許文献3】国際公開第2020-032161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような接合材を用いた接合プロセスとしては、無加圧下で行う方法(以下、無加圧接合という)と、加圧下で行う方法(以下、加圧接合という)とがある。加圧接合はボイド低減に有効であり、ボイドを起点にしたクラックが抑制されるため、接合強度及び冷熱サイクル特性に優れるという利点がある。しかし、加圧接合は専用設備を必要とし、さらに接合する対象が加圧環境に耐え得るものでなければならず、接合対象や用途が限定されてしまう。そのため、無加圧接合においてボイドを低減し、接合強度及び冷熱サイクル特性を向上させることが求められている。
一方、近年、半導体素子の大面積化が進んでいるが、素子が大面積になるほど内部のガス等が抜け難く、ボイドが発生し易い傾向にあることが知られている。
また、SiやSiC素子の線膨張係数と、銀粒子及び基材として使用される銅の線膨張係数との差が非常に大きく、冷熱サイクルの際に、銅基材/銀粒子を含む接合層/Si素子の層間でひずみが生じ、クラックが発生し冷熱サイクル特性が低下しやすい傾向にある。さらに、SiC素子はSi素子と同程度の線膨張係数であるが、Si素子に比べて硬度が高いため、Si素子に比べて冷熱サイクル時にかかる歪が大きく、接合層にクラックが生じやすい傾向にある。
すなわち、SiC半導体素子の接合強度及び冷熱サイクル特性の向上に関する要求レベルは、近年ますます高まっている。
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、銀粒子とトリエタノールアミン等のアルカノールアミンとを含む接合材を用いて、面積の小さい銅素子を加圧接合するというものであり、無加圧接合且つ大面積SiC素子における接合強度と冷熱サイクル特性の課題を解決できない。
また特許文献2に記載の発明は、銀粒子とジグリコールアミン等のアルカノールアミンとを含む接合材を用いて、面積の小さいSi素子を無加圧接合するというものであり、大面積SiC素子における接合強度と冷熱サイクル特性の課題を解決できない。
さらに、特許文献3に記載の発明は、銅粒子とアルカノールアミンとを含む接合材を用いて、面積の小さい銅素子を加圧接合するというものであるが、銅粒子は銀粒子と比べて、酸化され易く、酸化されると銅粒子の機能を発現することができないため、取り扱いに課題がある。特に、200℃程度以上に加熱する接合用途においては、加熱工程時に僅かな酸素が存在すると酸化が進行してしまうため酸化抑制が難しく、無加圧接合且つ大面積SiC素子における接合強度と冷熱サイクル特性の課題を解決できない。なお、特許文献3には銀粒子を用いることは記載されていない。
したがって、本開示が解決しようとする課題は、銀粒子用いており、接合強度に優れ、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下が抑制された、無加圧接合可能な接合用ペースト、及び該接合ペーストを用いた接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本開示に至った。
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、平均粒子径が100nm~500nmである銀粒子(A)、二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)、並びに、分散媒(C)を含有することを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、銀粒子(A)の焼結温度をT1℃、化合物(B)の50%重量減少温度をT2℃、分散媒(C)の50%重量減少温度をT3℃とした場合に、T3<T1<(T2+10)を満たすことを特徴とする。
【0008】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記T2が、200~300℃であることを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記化合物(B)が、三級窒素原子を有することを特徴とする。
【0010】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記化合物(B)における三級窒素原子数が、1~3であることを特徴とする。
【0011】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記化合物(B)における水酸基数が、4~6であることを特徴とする。
【0012】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記化合物(B)が、25℃において液状であることを特徴とする。
【0013】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記化合物(B)の含有率が、前記銀粒子(A)の質量を基準として、0.05~1.0質量%であることを特徴とする。
【0014】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記銀粒子(A)は、平均粒子径が150nm~400nmであることを特徴とする。
【0015】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記分散媒(C)は、沸点が250℃以上であることを特徴とする。
【0016】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、さらに、水酸基、カルボキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を2つ以上有する炭素数20~80の化合物(D)を含有することを特徴とする。
【0017】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、さらに、カルボキシ基を1つ有する炭素数14~20の化合物(E)を含有することを特徴とする。
【0018】
本開示の一態様に係る接合用ペーストは、前記銀粒子(A)の含有率が、接合ペーストの質量を基準として、80~95質量%であることを特徴とする。
【0019】
本開示の一態様に係る接合体は、上記接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合されたことを特徴とする。
【0020】
本開示の一態様に係る接合体は、前記第一の被接合部が、メッキレス基材であることを特徴とする。
【0021】
本開示の一態様に係る接合体は、前記第二の被接合部が、SiCであることを特徴とする。
【0022】
本開示の一態様に係る接合体の製造方法は、上記接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とが接合された接合体の製造方法であって、下記工程を含むことを特徴とする。
(1)接合用ペーストを第一の被接合体に塗布する工程。
(2)接合用ペーストを塗布した第一の被接合部に第二の被接合部を載置する工程。
(2a)載置した積層体を加熱して予備乾燥する工程。
(3)載置した積層体を無加圧環境下で焼結する工程。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、銀粒子用いており、接合された箇所の接合強度が高く、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下が抑制された、無加圧接合可能な接合用ペースト、及び該接合ペーストを用いた接合体を提供することができる。これにより、面積の大きなSiC素子を無加圧で接合した場合であっても、優れた接合強度と冷熱サイクル特性とを発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書では、「平均粒子径が100nm~500nmである銀粒子(A)」を「銀粒子(A)」、「二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)」を「化合物(B)」と略記することがある。
【0025】
本開示の接合用ペーストは、平均粒子径が100nm~500nmである銀粒子(A)、二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)、並びに、分散媒(C)を含有することを特徴とする。
本開示の接合用ペーストは、銀粒子(A)と所定の構造を備える化合物(B)とを組み合わせることで、化合物(B)の高い不揮発性により、所定の粒子径を有する銀粒子(A)の焼結段階において、基材への濡れ性が向上し、且つ塗膜中の空隙ボイドの生成が抑制されて、無加圧接合においても緻密な塗膜が形成される。
さらに、被接合部がメッキレス銅のようなメッキ処理を施していない基材(メッキレス基材)である場合、焼結時の加温によって、メッキレス基材の表面が酸化され酸化物を形成するため、銀粒子と酸化物に被覆されたメッキレス基材との接合が不十分となり、接合強度の低下や冷熱サイクル特性が悪化する傾向にある。しかしながら、化合物(B)を含むことで、化合物(B)の還元機能によりメッキレス基材の表面の酸化が抑制、及び/又は、酸化物が還元され、銀粒子とメッキレス基材との間で強固な接合が可能となる。そのため、接合強度の向上や良好な冷熱サイクル特性を得るだけでなく、基材にメッキ処理を施すことや、基材を予め洗浄する等の所作を省くことができる。
上記により、無加圧接合、並びに、メッキレス基材及び大面積のSiC半導体素子のような安定した接合が困難な被接合部の接合においても、ボイドの生成が抑制され優れた接合強度や冷熱サイクル後の接合強度を発揮することができる。
【0026】
<銀粒子(A)>
銀粒子(A)は、接合体の導電性及び熱伝導性を発現し、且つ焼結の過程で被接合体を接合する役割を担うものであり、銀を含む合金、酸化銀、金属(銀を除く)を核体としその表面を銀で被覆した銀コート粒子も含む。銀粒子(A)を用いることで、優れた強度を有する接合体が得られる。また、幅広い焼成温度に対応することができ、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、又は還元雰囲気等の様々な焼成環境にも対応できる。
【0027】
銀粒子(A)は、平均粒子径が100nm~500nmの範囲にあることで、接合ペーストが加熱及び焼結される200℃から350℃の温度範囲で粒子同士が溶融又は結着(以下、焼結ともいう)する機能を有し、バルクの金属に変化することが可能となっている。その結果、被接合体を接合するに至る。以下、被接合体の間に存在する銀粒子(A)が焼結することで形成される部位を接合層と呼ぶ。
【0028】
本開示では、特定の平均粒子径を有する銀粒子(A)を用いることが重要である。本明細書でいう「平均粒子径」とは、実施例に記載した測定方法よって求められた体積基準の50%積算粒子径分布粒子径(d50)を意味する。銀粒子(A)のd50は100~500nmであり、好ましくは150nm以上、より好ましくは180nm以上、さらに好ましくは、200nm以上である。また、銀粒子(A)のd50は、好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは350nm以下、特に好ましくは300nm以下である。
【0029】
銀粒子(A)は、表面を有機成分(a)で被覆されていることが好ましい。有機成分(a)で被覆されていると接合用ペーストの保存安定性が増すことが期待できる。有機成分(a)としては、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール等が挙げられるが、飽和又は不飽和の脂肪酸であることが好ましく、炭素数が3~18の飽和又は不飽和の脂肪酸であることがより好ましく、炭素数が6~18の飽和又は不飽和の脂肪酸であることがさらに好ましい。有機成分(a)は、1種又は2種以上含んでいても良い。
【0030】
銀粒子(A)は、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて、銀粒子(A)以外の金属粒子を併用してもよい。銀粒子(A)以外の金属粒子を併用する場合は、平均粒子径500nmを超える粒子径の金属粒子を組み合わせてもよく、平均粒子径1000nmを超える粒子径の金属粒子を組み合わせてもよい。
【0031】
<化合物(B)>
本開示の接合用ペーストは、二級窒素原子及び三級窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の窒素原子を有し、且つ水酸基数が4以上である化合物(B)を含有する。 化合物(B)は、銀粒子を均一に分散させる機能を担い、経時での銀粒子の凝集を抑制し、さらに良好な粘度特性、及び塗工性を可能とする。詳細には、二級窒素原子及び三級窒素原子は、銀粒子や被接合部を還元する機能に優れる。また、二級窒素原子及び三級窒素原子は銀粒子との結合性に優れるため、分散性を向上させる。特に、三級窒素原子は分岐構造を有するため、立体障害効果により分散性に優れる。
また、二級窒素原子及び三級窒素原子は、銀粒子や被接合部を還元する機能に優れるため、化合物(B)を含むことで、銀粒子が還元され、焼結後の銀層は強固なものとなる。また、被接合部である基材表面の酸化が抑制され、界面の接合力が強化される。
さらに、化合物(B)は、焼成時に銀粒子に流動性を付与し、焼結後の銀層を緻密化する機能を担う。
化合物(B)は、接合強度、冷熱サイクル特性の観点から、三級窒素原子を有することが好ましく、好ましくは、三級窒素原子数が1~3、より好ましくは2~3である。三級窒素原子数が2以上であることで、銀粒子との結合性が高まり、分散性が顕著に向上する。また三級窒素原子は、銀粒子や被接合部を還元する機能を有しており、三級窒素原子数が2以上であることで、還元機能が高まる。
また、化合物(B)の水酸基数は、分散性及び還元機能の観点から、好ましくは4~6である。特に、水酸基は銀粒子との結合性に優れるため、分散性を向上させる傾向にあり、水酸基数が4以上であることで銀粒子との結合性が高まり、分散性が顕著に向上する。また水酸基は、銀粒子や被接合部を還元する機能を有しており、水酸基数が4以上であることで、還元機能が大きく向上する。
【0032】
化合物(B)は、25℃において液状の化合物であることが好ましい。本明細書において、液状とは、固体状ではなく流動性を有しており、E型粘度計を用いて25℃、2.5rpmの条件で測定される粘度が1000Pa・s以下であることを意味する。
25℃において液状であることで、溶剤乾燥から焼結の過程において被接合部との接合界面における濡れ性が増し、接触面積が増大する。その結果、強固な接合界面を有する接合体を製造することが可能となる。また、溶剤乾燥から焼結の過程において、接合層中にボイドが形成された場合であっても、接合用ペーストの流動性が増すため、ボイド等の欠陥部に液状の化合物(B)が流入し、欠陥の少ない接合層及び接合体を得ることが可能となる。
【0033】
一般に、銀粒子は粉体であるため、化合物(B)を含まない場合、接合用ペースト中から後述する分散媒(C)が揮発するに伴い、被接合部との界面形成をしにくくなる。しかしながら、本開示の化合物(B)を含むことで、分散媒(C)の一部又は全部が揮発した後も、液状組成物として存在できるため、被接合部と一体となった良好な接合界面を形成することができる。
また、接合層中の欠陥(ボイド)の要因の一つとして、分散媒(C)の揮発が不十分であった場合に、焼成温度帯で急激に分散媒(C)が揮発することが挙げられるが、化合物(B)を含むことで、分散媒(C)が乾燥し除去された後でも、塗膜が流動し、接合界面を形成することができる。これにより、分散媒(C)を予め乾燥させる予備乾燥工程を設けることができ、より欠陥の少ない接合層を形成することが可能となる。
また、化合物(B)が銀粒子の焼結温度領域で液状である性質を有する場合、被接合部との接合界面における濡れ性が向上し、接触面積が増大するため、より強固な接合界面を有する接合体を得ることができる。さらに、焼結時の接合層にボイドが生じたとしても、接合ペーストが流動性を有するため、ボイド部に液状の化合物(B)が流入し、ボイドを低減することができる。
【0034】
化合物(B)の具体例としては、例えば、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(三級窒素原子数1、水酸基数5)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(三級窒素原子数2、水酸基数4)、N,N,N',N'',N''-ペンタキス(2-ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン(三級窒素原子数3、水酸基数5)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(三級窒素原子数2、水酸基数4)、1,3-ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン(二級窒素原子数2、水酸基数6)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド(三級窒素原子数2、水酸基数4)、ビス(2-ヒドロキシプロピル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(三級窒素原子数1、水酸基数5)、N,N,N',N'',N''-ペンタキス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン(三級窒素原子数3、水酸基数5)が挙げられる。
特にビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンが好ましく用いられる。これら化合物(B)は単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。
【0035】
化合物(B)の含有率は、銀粒子(A)の質量を基準として、好ましくは0.02質量%以上である。0.02質量%以上であると、銀粒子の分散性を向上させ、また、塗膜に化合物(B)が残存した状態で焼結が進行し、塗膜が流動性を有した状態で焼結が進むため、基材への密着性、及び接合層の欠陥が低減する。分散性、基材への密着性、接合層の欠陥低減の観点から、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。
また、化合物(B)の含有率は、銀粒子(A)の質量を基準として、好ましくは2.00質量%以下である。2.00質量%以下であることで、焼結後塗膜への残存量を低減することができ、接合強度及び冷熱サイクル特性に優れる。残存量低減の観点から、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
<分散媒(C)>
本開示の接合用ペーストは、分散媒(C)(ただし化合物(B)及び後述の化合物(D)を除く)を含有する。分散媒(C)は、銀粒子(A)と化合物(B)を分散する機能を担う。また、分散媒(C)は、銀の焼結工程において塗膜に流動性を付与する役割を担う。分散媒(C)の炭素数は、好ましくは20未満である。
【0037】
分散媒(C)は、銀粒子(A)と化合物(B)とを均一に分散することできればよく、具体例としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブTOE-100、テルソルブMTPH(日本テルペン化学株式会社製)、テキサノール(2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート)、カルビトール、カルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、エチレングリコール、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコール、1,3ブタンジオール、1,4ブタンジオール、2エチル1,3ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、炭化水素系溶剤に含まれるイソパラフィン系溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
分散媒(C)は、沸点が200℃以上である分散媒を含むことが好ましい。沸点が200℃以上である分散媒を含むと、銀の焼結工程において、塗膜内の分散媒は比較的緩やかに乾燥減少するため、塗膜は高い流動性を維持したまま焼結することができる。これにより、被接合部との密着性の向上や、より欠陥の少ない強固な接合体を得ることが可能となる。分散媒(C)の質量に占める、沸点が200℃以上である分散媒の割合は、好ましくは70質量%以上である。
【0039】
沸点が200℃以上である分散媒の沸点は、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上である。250℃以上であると、塗膜はより長い時間、高い流動性を維持したまま焼結することができる。そのため、より欠陥の少ない強固な接合体を形成し、冷熱サイクル性に優れるため好ましい。また、沸点は、分散媒の残留を抑制する観点から、好ましくは350℃以下である。200℃以上である分散媒を複数種含む場合は、200℃以上である分散媒の沸点は、各々の沸点とその質量比率から算出することができる。
【0040】
沸点が200℃以上である分散媒としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブTOE-100、テルソルブMTPH(日本テルペン化学株式会社製)、テキサノール(2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート)、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレン、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、沸点200℃以上の炭化水素系溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。これら沸点が200℃以上である分散媒は、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0041】
沸点が200℃以上である分散媒の中で、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等のジオール系;ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系;が好ましく用いられる。より好ましくは、グリコールエーテル系である。
沸点が250℃以上であるグリコールエーテル系の分散媒としては、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテルが特に好ましく用いられる。
【0042】
特に好ましくは、分散媒(C)は沸点が250℃以上であることである。分散媒(C)が分散媒を複数種含む場合は、各々の分散媒の沸点とその質量比率から、分散媒(C)の沸点として算出することができる。
分散媒(C)全体としての沸点が250℃以上であると、銀の焼結工程において、塗膜内の分散媒は比較的緩やかに乾燥減少するため、塗膜は高い流動性を維持したまま焼結することができる。これにより、被接合部との密着性の向上や、より欠陥の少ない強固な接合体を得ることが可能となるため好ましい。
【0043】
<焼結温度、50%重量減少温度>
本開示の接合用ペーストは、銀粒子(A)の焼結温度をT1℃、化合物(B)の50%重量減少温度をT2℃、分散媒(C)の50%重量減少温度をT3℃とした場合に、T3<T1<(T2+10)を満たすことが好ましい。この際、T3<T2を満たすことが好ましい。このように、分散媒(C)の50%重量減少温度T3を、銀粒子(A)の50%重量減少温度T1、化合物(B)の50%重量減少温度T2より低くし、且つ、化合物(B)の50%重量減少温度T2を、銀粒子(A)の50%重量減少温度T1(焼結温度)より10℃程度低い温度を超える温度帯とすることで、最初に分散媒(C)が揮発除去し、且つ、銀粒子の焼結時及び焼結後において化合物(B)が存在すると推察される。これにより、接合層中の欠陥が低減し、強固な接合界面の形成、及び緻密な接合が可能となり、優れた接合強度と冷熱サイクル特性を発揮すると考えられる。
【0044】
化合物(B)及び分散媒(C)の50%重量減少温度T2及びT3は、熱重量示差熱分析(以下、TG-DTA分析ともいう)を用いて測定することができる。測定方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
熱重量示差熱分析装置(TG/DTA8122(RIGAKU社製))を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度1℃/分で加熱し、50%重量減少した温度を、各々50%重量減少温度T2及びT3とする。化合物(B)又は分散媒(C)が2種以上の混合物である場合は、混合物を用いて上記測定を行った結果を用いる。
【0045】
化合物(B)の50%重量減少温度T2は、好ましくは200~300℃、より好ましくは210℃~270℃であり、さらに好ましくは210℃~255℃である。200℃以上であると、焼結温度帯でも化合物(B)が十分に塗膜中に残存することができ、焼結中の塗膜の流動性が向上し、基材への密着性が向上し、接合強度に優れる。300℃以下であると、焼結後の塗膜中の残存を低減でき、接合強度や冷熱サイクル特性に優れる。
【0046】
銀粒子(A)の焼結温度T1は、熱重量示差熱分析(以下、TG-DTA分析ともいう)を用いて測定することができる。測定方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
銀粒子(A)の焼結温度T1は、窒素雰囲気下、昇温速度1℃/分で400℃まで加熱し、保護剤を分解させ、その減量分を100としたときに、50%重量減少した温度をT1とする。
【0047】
<化合物(D)>
本開示の接合用ペーストは、水酸基、カルボキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基(以下、官能基(d)という)を2つ以上有する炭素数20~80の化合物(D)を含有してもよい。このような化合物(D)を含むことで、分散媒(C)の一部又は全部が揮発した後も、液状組成物として存在できるため、被接合部と一体となった良好な接合界面を形成することができる。また、それぞれの官能基は、銀粒子との結合性が高く、優れた分散性を発揮する。
【0048】
化合物(D)の炭素数は、官能基(d)中の炭素も含んだ数値を表す。したがって、化合物(D)中の官能基(d)が、カルボキシ基の場合は、このカルボキシ基中の炭素も含めた炭素数を化合物(D)の炭素数とみなす。
【0049】
化合物(D)において、官能基(d)を除いた骨格(部分構造)は、有機残基であるが、炭化水素基又は複数の炭化水素基がヘテロ原子を含む連結基で結合された基であることが好ましい。このようなヘテロ原子を含む連結基としては、例えば、-O-基(エーテル基)、-C(=O)-基(カルボニル基)、-C(=O)-O-基(エステル基又はオキシカルボニル基)、-C(=O)-NH-基(アミド基又はイミノカルボニル基)が挙げられる。化合物(D)は、官能基(d)以外の官能基を有さないことが好ましい。
【0050】
化合物(D)の性状は、特に限定されないが、本開示の接合用ペーストが焼成される温度領域である200℃~350℃において液状であることが好ましい。化合物(D)は、常温(25℃)で固体でも液状でもよいが、接合用ペースト中に均一に分散して、効果的に作用する観点から、常温で液状であることがより好ましい。
【0051】
化合物(D)が上記温度領域で液状である性質を有する場合は、被接合部との接合界面における濡れ性が増し、接触面積が増大することが期待できる。その結果、強固な接合界面を有する接合体を製造することが可能となる。また、焼結時の接合層中にボイドが形成された場合であっても、接合用ペーストの流動性が増すため、ボイド等の欠陥部に液状の化合物(D)が流入し、欠陥の少ない接合層及び接合体を得ることが可能であると考えられる。
【0052】
化合物(D)中の官能基(d)の数は、2又は3であることが好ましい。
【0053】
化合物(D)は、直鎖構造でもよいし、分岐及び/又は環状構造を有していてもよいが、分岐及び/又は環状構造を有することが好ましい。分岐及び/又は環状構造を有する場合は、結晶性が低く、良好な流動性を有する液状となりやすい点で、好ましい。
【0054】
化合物(D)の官能基(d)の数をnとした場合は、化合物(D)はn価の炭化水素基を有することが好ましい。化合物(D)において、官能基(d)を除いた骨格は、強固な接合体が得られる点で、n価の炭化水素基のみからなることがより好ましい。
【0055】
上記の理由から、化合物(D)は、焼結を開始した時点では直ちに蒸発しないことが好ましい。しかしながら、焼結が終了した時点では、形成された接合層中に必ずしも残存していなくてもよい。n価の炭化水素基の炭素数が30~60である場合は、焼結後の接合層中に残存する化合物(D)の量がより低減でき、より緻密な接合層が得られ易くなるため好ましい。その結果、初期の接合強度に優れ、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下抑制が一層期待できる。
【0056】
直鎖構造を有する化合物(D)としては、例えば、エイコサン二酸、ヘネイコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、トリアコンタン二酸、ドトリアコンタン二酸、テトラコンタン二酸、ペンタコンタン二酸、ヘキサコンタン二酸、バチルアルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
分岐及び/又は環状構造を有する化合物(D)としては、例えば、ダイマー酸、トリマー酸、テトラマー酸、ダイマージオール、トリマートリオール、テトラマーテトラオール、ダイマージアミン、トリマートリアミン、テトラマーテトラミン、フィタントリオールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
中でも、化合物(D)としては、先に述べた理由から、ダイマー酸、トリマー酸、ダイマージオール、トリマートリオール、ダイマージアミン、及びトリマートリアミンからなる群より選ばれる化合物であることがより好ましい。
【0059】
ダイマー酸、トリマー酸及びテトラマー酸は、不飽和脂肪酸の多量化反応で製造することができる。例えば、オレイン酸(炭素数18)とリノール酸(炭素数18)とのDiels-Alder反応や、ラジカル反応によって製造することができる。ダイマー酸の炭素数は36若しくは44、トリマー酸の炭素数は54、テトラマー酸の炭素数は72であることが好ましい。また、原料となる不飽和脂肪酸の炭素数を適宜変更することで、上記以外の炭素数を有する化合物(D)を製造することが可能である。尚、本明細書では、炭素数12以上の不飽和脂肪酸の二量体、三量体及び四量体を、それぞれダイマー酸、トリマー酸及びテトラマー酸と呼称するものとする。
【0060】
ダイマージオールはダイマー酸のカルボキシ基を、トリマートリオールはトリマー酸のカルボキシ基を、テトラマーテトラオールはテトラマー酸のカルボキシ基を、それぞれ、水酸基に還元した構造を有している。ダイマージオールの炭素数は36、トリマートリオールの炭素数は54、テトラマーテトラオールの炭素数は72であることが好ましい。
【0061】
ダイマージアミンはダイマー酸のカルボキシ基を、トリマートリアミンはトリマー酸のカルボキシ基を、テトラマーテトラミンはテトラマー酸のカルボキシ基を、それぞれ、アミノ基に官能基変換した構造を有している。ダイマージアミンの炭素数は36、トリマートリアミンの炭素数は54、テトラマーテトラミンの炭素数は72であることが好ましい。
【0062】
化合物(D)は、製法上、多量化度が異なる化合物の混合物である場合があるが、異なる多量体の混合物として使用してもよいし、特定の単一化合物を使用してもよい。
【0063】
本開示の接合用ペーストにおいて、化合物(D)の含有量は、銀粒子(A)100質量部に対して、好ましくは0.05~2.0質量部、より好ましくは0.1~1.0質量部である。この範囲であれば、初期の接合強度に特に優れ、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下を抑制された接合体を得ることが可能である。
【0064】
[化合物(Dx)]
本開示の接合用ペーストは、化合物(D)として、カルボキシ基を3つ有する炭素数が20~80の化合物(Dx)を含むことが好ましい。化合物(Dx)は、直鎖構造でもよいし、分岐及び/又は環状構造を有していてもよいが、分岐及び/又は環状構造を有することが好ましい。分岐及び/又は環状構造を有する場合は、結晶性が低く、良好な流動性を有する液状となりやすい点で、好ましい。化合物(Dx)は3価の炭化水素基を有することが好ましい。化合物(Dx)において、カルボキシ基を除いた骨格は、強固な接合体が得られる点で、3価の炭化水素基のみからなることがより好ましい。分岐及び/又は環状構造である化合物(Dx)の具体例としては、トリマー酸が挙げられ、好適に用いられる。
【0065】
本開示の接合用ペーストは、化合物(Dx)を、銀粒子(A)100質量部に対して、0.03~2.0質量部含有することが好ましい。上記範囲量であることで、メッキ処理されていない被接合基材を用いた場合等、より厳しい条件においても、優れた接合強度と冷熱サイクル特性を発揮することができる。
【0066】
[化合物(Dy)]
本開示の接合用ペーストは、化合物(D)としてさらに、カルボキシ基を2つ有する炭素数が20~80の化合物(Dy)を含むことが好ましい。上述する化合物(Dx)と、カルボキシ基数が異なる化合物(Dy)とは、揮発又は分解する温度が異なり、化合物(Dy)は、化合物(Dx)より揮発又は分解する温度が低い。そのため、これらを組み合わせて用いると、銀の焼結工程において、特定の温度で一斉に揮発又は分解することを抑制できる。そのため、塗膜はより長い時間、高い流動性を維持したまま焼結することができる。これにより、被接合部との密着性がさらに向上し、より欠陥の少ない強固な接合体を得ることが可能となる。
【0067】
化合物(Dy)は、直鎖構造でもよいし、分岐及び/又は環状構造を有していてもよいが、分岐及び/又は環状構造を有することが好ましい。分岐及び/又は環状構造を有する場合は、結晶性が低く、良好な流動性を有する液状となりやすい点で、好ましい。化合物(Dy)は、2価の炭化水素基を有することが好ましい。化合物(Dy)において、カルボキシ基を除いた骨格は、強固な接合体が得られる点で、2価の炭化水素基のみからなることがより好ましい。
【0068】
直鎖構造である化合物(Dy)としては、例えば、エイコサン二酸、ヘネイコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、トリアコンタン二酸、ドトリアコンタン二酸、テトラコンタン二酸、ペンタコンタン二酸、ヘキサコンタン二酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。分岐及び/又は環状構造である化合物(Dy)としては、例えば、ダイマー酸が挙げられ、好適に用いられる。
【0069】
本開示の接合用ペーストは、化合物(Dy)を、銀粒子(A)100質量部に対して、0.03~2.0質量部含有することが好ましい。上記範囲量であることで、メッキ処理されていない被接合基材を用いた場合等、より厳しい条件においても、優れた接合強度と冷熱サイクル特性を発揮することができる。
【0070】
本開示の接合用ペーストは、化合物(Dx)及び化合物(Dy)を合計で、銀粒子(A)100質量部に対して、0.05~2.0質量部含有することが好ましい。化合物(Dx)及び化合物(Dy)の合計が上記範囲であると、初期の接合強度に特に優れ、冷熱サイクルに伴う接合強度の低下を抑制された接合体を得ることができる。
【0071】
<化合物(E)>
本開示の接合用ペーストは、カルボキシ基を1つ有する炭素数14~20の化合物(E)を含有してもよい。化合物(E)の炭素数は、カルボキシ基の炭素も含めた炭素数である。
化合物(E)は脂肪酸であり、このような化合物(E)を含むことで、分散媒(C)の一部又は全部が揮発した後も、液状組成物として存在できるため、被接合部と一体となった良好な接合界面を形成することができる。また、それぞれの官能基は、銀粒子との結合性が高く、優れた分散性を発揮する。
【0072】
化合物(E)としては、例えば、直鎖飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸又は分岐脂肪酸が挙げられる。直鎖飽和脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸が挙げられる。直鎖不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸が挙げられる。分岐脂肪酸としては、例えば、2-ヘキシルデカン酸が挙げられる。
化合物(E)として好ましくは直鎖不飽和脂肪酸である。本開示の接合用ペーストが直鎖不飽和脂肪酸を含有することで、親油性が高まり、非水性溶剤中での安定性が向上する。また、直鎖不飽和脂肪酸は分解温度が低く、低温焼結性に優れるため好ましい。
化合物(E)は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
本開示の接合用ペーストは、化合物(E)を、銀粒子(A)100質量部に対して、0.1~2.0質量部含有することが好ましく、0.2~1.0質量部含有することがより好ましい。上記範囲であると、被接合部がメッキ処理されていない基材であっても、優れた接合強度と冷熱サイクル特性を発揮することができる。
【0074】
<接合用ペーストの製造>
本開示の接合用ペーストは、少なくとも銀粒子(A)、化合物(B)及び分散媒(C)を含有していればよく、その製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いて調整することができる。銀粒子(A)、化合物(B)及び分散媒(C)とから接合用ペーストを調製する装置としては、ディスパー、3本ロール、ビーズミル、超音波分散機、自公転式撹拌機等が挙げられる。
【0075】
接合用ペーストの質量を基準とする銀粒子(A)の質量の割合は、好ましくは80質量%~95質量%、より好ましくは85質量%~94質量%である。銀粒子(A)を上記範囲で含むことにより、接合用ペーストとして良好な印刷適性を発現するとともに、接合体中での分散媒(C)の残留を抑制し、分散媒(C)由来のボイドの発生を抑制し、良好な接合強度を発現することができる。
【0076】
本開示の接合用ペーストは、添加剤を含むことができ、例えば、焼結促進剤やバインダー樹脂、又は樹脂型分散剤を含有することができる。
【0077】
<接合体及び接合体の製造方法>
本開示の接合用ペーストによって、第一の被接合部と第二の被接合部とを接合し、接合体を得ることができる。接合体は、例えば下記製造方法(I)又は製造方法(II)によって製造することができる。
【0078】
[製造方法(I)]
製造方法(I)は、無加圧接合による方法であり、例えば、下記工程(1)~(3)を含むことが好ましい。
(1)接合用ペーストを第一の被接合体に塗布する工程。
(2)接合用ペーストを塗布した第一の被接合部に第二の被接合部を載置する工程。
(3)載置した積層体を無加圧環境下で焼結する工程。
【0079】
(1)塗布工程
接合用ペーストを被接合体に塗布する方法としては、部材上に均一に塗布できる方法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、メタルマスク印刷、グラビアオフセット印刷等の各種印刷法、ディスペンサーを使用した吐出法等が挙げられる。本開示の接合用ペーストは、高濃度で金属粒子を含有していても流動性に優れているため、特にメタルマスク印刷と組み合わせて用いることが好ましい。
【0080】
(2)載置工程
次いで、本開示の接合用ペーストを塗布した第一の被接合部に第二の被接合部を載置させる。本開示の接合用ペーストを用いた場合、無加圧で載置することができる。無加圧接合においては、本載置工程も無加圧で行うことが好ましいが、圧力をかけながら載置することも可能である。加圧する場合、その圧力は接合用ペーストの粘度やペーストの乾燥状態により適宜設定されるが、好ましくは0.1~40MPa、より好ましくは0.3~30MPaである。
【0081】
(3)焼結工程
第一の被接合部に第二の被接合部を載置した積層体を無加圧接合するための焼結の条件は、適宜変更されるが、例えば、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、又は還元雰囲気で200~350℃等の条件を挙げることができる。焼成装置としては、熱風オーブン、焼成炉、電気炉、赤外線オーブン、リフローオーブン、マイクロウエーブオーブン、ホットプレート、光焼成装置等が挙げられる。これら装置を適宜、単独で又は複数用いることができる。
無加圧焼結条件として好ましくは、2℃~30℃/分の昇温測定で設定温度まで昇温した後、該設定温度以上の温度で10分間~2時間程度維持する、というものである。設定温度として好ましくは200~350℃、より好ましくは250℃~330℃、さらに好ましくは280~320℃である。
【0082】
(2a)予備乾燥工程
無加圧接合を用いた製造方法(I)においては、工程(2)と工程(3)との間に、接合塗膜中の有機成分を取り除く目的で、予備乾燥工程(2a)を設けることが好ましい。本開示の接合用ペーストは化合物(B)を含むことで、分散媒(C)を予め乾燥させて除去した後でも塗膜が流動し接合界面を形成することができるため、予備乾燥工程を設けることができる。予備乾燥工程を設けることで、接合層中の欠陥(ボイド)の一因である分散媒(C)の残留を抑制でき、接合層中の緻密性に優れるため好ましい。
予備乾燥は、例えば、焼成装置と同様な装置を用いて60~220℃の範囲で1分~300分の条件で行うことができる。好ましくは70~100℃の範囲で30分~120分である。
【0083】
すなわち、製造方法(I)として特に好ましくは、下記工程を含むものである。
(1)接合用ペーストを第一の被接合体に塗布する工程。
(2)接合用ペーストを塗布した第一の被接合部に第二の被接合部を載置する工程。
(2a)載置した積層体を加熱して予備乾燥する工程。
(3)載置した積層体を無加圧環境下で焼結する工程。
【0084】
[製造方法(II)]
製造方法(II)は、加圧接合による方法であり、例えば、下記工程(10)~(30)を含むことが好ましい。
(10)接合用ペーストを第一の被接合体に塗布する工程。
(10a)塗布した積層体を加熱して予備乾燥する工程。
(20)接合用ペーストを塗布・予備乾燥した第一の被接合部に第二の被接合部を載置する工程。
(30)載置した積層体を加圧環境下で焼結する工程。
【0085】
(10)塗布工程
接合用ペーストを被接合体に塗布する方法としては、部材上に均一に塗布できる方法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、メタルマスク印刷、グラビアオフセット印刷等の各種印刷法、ディスペンサーを使用した吐出法等が挙げられる。本開示の接合用ペーストは、高濃度で金属粒子を含有していても流動性に優れているため、特にメタルマスク印刷と組み合わせて用いることが好ましい。
【0086】
(10a)予備乾燥工程
加圧接合を用いた製造方法(II)においては、工程(10)と工程(20)との間に、接合塗膜中の有機成分を取り除く目的で、予備乾燥工程(10a)を設けることができる。予備乾燥工程を設けることで、予備乾燥は、例えば、焼成装置と同様な装置を用いて60~220℃の範囲で1分~300分の条件で行うことができる。
【0087】
(20)載置工程
次いで、本開示の接合用ペーストを塗布・予備乾燥した第一の被接合部に第二の被接合部を載置させる。加圧接合の場合、載置工程も加圧下で行ってもよい。その圧力は接合用ペーストの粘度やペーストの乾燥状態により適宜設定されるが、好ましくは0.1~40MPa、より好ましくは0.3~30MPaである。
【0088】
(30)焼結工程
第一の被接合部に第二の被接合部を載置した積層体を加圧接合するための焼結の条件は、適宜変更されるが、例えば、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、又は還元雰囲気で200~350℃等の条件を挙げることができる。焼成装置としては、熱風オーブン、焼成炉、電気炉、赤外線オーブン、リフローオーブン、マイクロウエーブオーブン、ホットプレート、光焼成装置等が挙げられる。これら装置を適宜、単独で又は複数用いることができる。
圧力としては、接合用ペーストの粘度やペーストの乾燥状態により適宜設定されるが、好ましくは0.1~40MPa、更に好ましくは0.3~30MPaである。
【0089】
いずれの製造方法においても、接合用ペーストで被接合部を接合した際に形成される接合層の厚みは制限されず、接合層の厚みは、好ましくは3μm~500μm、より好ましくは10μm~200μm、さらに好ましくは20μm~100μmである。
【0090】
[被接合部]
被接合部の種類は特に限定されず、例えば、金属材料、半導体材料、プラスチック材料、セラミック材料のほか、電子素子を挙げることができる。金属としては、例えば、銅、金、アルミニウムが挙げられる。半導体材料としては、例えば、シリコン(ケイ素)、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、硫化カドミウム、窒化珪素、黒鉛、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ガリウムが挙げられる。プラスチック材料としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。
セラミック材料としては、例えば、ガラス、シリコンが挙げられる。電子素子としては、例えば、半導体素子、LED素子、パワーデバイス素子が挙げられる。
【0091】
第一の被接合部及び第二の被接合部は、同じ種類だけではなく、異なる種類の部材であってもよい。被接合部は、接合された箇所の接合強度を大きくするため、被接合部の表面にコロナ処理、メッキ処理等が施されていてもよい。
本開示の接合用ペーストは、メッキレス基材及びSiC素子に対する接合強度に優れており、第一の被接合部がメッキレス基材である接合体に好適に用いられる。また、第二の被接合部が、SiCである接合体に好適に用いられる。
中でも、化合物(B)を含むことで、基材表面の酸化が抑制され、及び/又は、酸化物が還元され、銀粒子と基材との間で強固な接合が可能となる。上記効果は、特に易酸化性の基材に対して有効であるため、本発明の接合用ペーストは、酸化しやすい銅基材、特にメッキレス銅基材に対する接合材料として、非常に有効である。
【実施例0092】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示を詳細に説明するが、本開示の技術的範囲はこれに限定されるものではない。尚、例中、特に断りがない限り「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表す。表中の数値は、特に断りがない限り「部」を表す。
【0093】
[銀粒子(A)の焼結温度T1]
銀粒子(A)の焼結温度T1は、熱重量示差熱分析装置(TG/DTA8122(RIGAKU社製))を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度1℃/分で400℃まで加熱し、保護剤を分解させ、その減量分を100としたときの、50%重量減少した温度を用いた。
【0094】
[化合物(B)及び分散媒(C)の50%重量減少温度T2及びT3]
化合物(B)及び分散媒(C)の50%重量減少温度T2及びT3は、熱重量示差熱分析装置(TG/DTA8122(RIGAKU社製))を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度1℃/分で加熱し、50%重量減少した温度を、各々50%重量減少温度T2及びT3とした。化合物(B)又は分散媒(C)が2種以上の混合物である場合は、混合物を用いて上記測定を行った結果を用いた。
【0095】
<金属粒子の製造>
(製造例1)金属粒子A1
窒素雰囲気下、25℃で攪拌しながらトルエン200部及びヘキサン酸銀22.3部を混合し、0.5Mの溶液とした後に、分散剤としてジエチルアミノエタノール1.6部、オレイン酸0.28部を添加し溶解させた。その後、還元剤として濃度20%のコハク酸ジヒドラジド(以下、SUDH)水溶液73.1部を滴下すると液色が淡黄色から濃茶色に変化した。さらに反応を促進させるために40℃に昇温し、反応を進行させた。静置、分離した後、水相を取り出すことで過剰の還元剤や不純物を除去し、さらにトルエン層に数回蒸留水を加え、洗浄、分離を繰り返した後、トルエンを加え遠心分離後に上澄み液を除去する工程を2回繰り返した。沈殿物を乾燥させて、銀粒子がヘキサン酸及びオレイン酸で被覆された金属粒子A1を得た。金属粒子A1の平均粒子径(d50)を後述する方法で求めたところ、d50は210nmであった。
【0096】
(製造例2)金属粒子A2
ジエチルアミノエタノール2.4部、オレイン酸の量を0.42部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A2を得た。d50は120nmであった。
(製造例3)金属粒子A3
ジエチルアミノエタノール2.0部、オレイン酸の量を0.34部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A3を得た。d50は155nmであった。
(製造例4)金属粒子A4
ジエチルアミノエタノール1.8部、オレイン酸の量を0.31部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A4を得た。d50は185nmであった。
(製造例5)金属粒子A5
ジエチルアミノエタノール1.2部、オレイン酸の量を0.18部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A5を得た。d50は290nmであった。
(製造例6)金属粒子A6
ジエチルアミノエタノール1.0部、オレイン酸の量を0.14部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A6を得た。d50は390nmであった。
【0097】
(製造例10)比較例用金属粒子A10
ジエチルアミノエタノール1.4部、オレイン酸の量を0.09部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A10を得た。d50は600nmであった。
(製造例11)比較例用金属粒子A11
ジエチルアミノエタノール0.6部、オレイン酸の量を0.070部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A11を得た。d50は1100nmであった。
(製造例12)比較例用金属粒子A12
ジエチルアミノエタノール2.3部、オレイン酸の量を2.8部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A12を得た。d50は20nmであった。
(製造例13)比較例用金属粒子A13
ジエチルアミノエタノール2.1部、オレイン酸の量を0.71部とした以外は、製造例1と同様にして、金属粒子A13を得た。d50は85nmであった。
【0098】
[銀粒子の平均粒子径の測定方法]
各銀粒子にイソプロピルアルコールを加え超音波分散機にて分散し、0.5質量%の分散液を得た。得られた分散液を、ナノトラックUPA-EX150(日機装社製)を用いて、分散液中の金属粒子の粒子径を測定し、平均粒子径(d50)を求めた。上記の方法で製造された金属粒子の内、金属粒子A1-A6が本開示の銀粒子(A)に該当し、金属粒子A10-A13が銀粒子(A)ではない金属粒子に該当する。
【0099】
<化合物(B)>
化合物(B)としては下記の材料を使用した
B1:ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(三級窒素原子数1、水酸基数5、25℃において固体)
B2:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(三級窒素原子数2、水酸基数4、25℃において液状)
B3:N,N,N',N'',N''-ペンタキス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン(三級窒素原子数3、水酸基数5、25℃において液状)
B4:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(三級窒素原子数2、水酸基数4、25℃において液状)
B5:1,3-ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン(二級窒素原子数2、水酸基数6、25℃において固体)
B6:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド(三級窒素原子数2、水酸基数4、25℃において固体)
B11:トリエタノールアミン(三級窒素原子数1、水酸基数3、25℃において液状)
B12:2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(水酸基数3、25℃において固体)
B13:2-(2-アミノエトキシ)エタノール(水酸基数1、25℃において液状)
B14:キシリトール(水酸基数5、25℃において固体)
B15:イミダゾール(25℃において固体)
【0100】
<分散媒(C)>
分散媒(C)としては下記の材料を使用した。括弧内に入手したメーカー名、補足情報と沸点を記載した。
分散媒C1:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(グリコールエーテル系、沸点255℃)
分散媒C2:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(グリコールエーテル系、沸点278℃)
分散媒C3:トリエチレングリコールモノメチルエーテル(グリコールエーテル系、沸点248℃)
分散媒C4:2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(ジオール系、沸点244℃)
分散媒C5:ジエチレングリコールモノメチルエーテル(グリコールエーテル系、沸点193℃)
分散媒C6:1-デカノール(沸点233℃)
分散媒C7:日本テルペン化学株式会社製「テルソルブTOE-100」(沸点260℃)
【0101】
<化合物(D)>
化合物(D)としては下記の材料を使用した。化合物D1~D4は、いずれもクローダジャパン株式会社製であり、括弧内に、炭素数、材料名、25℃での性状を記載した。
化合物D1:プリポール1009(炭素数36の水添ダイマー酸。2つのカルボキシ基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状)
化合物D2:プリポール1040(炭素数54のトリマー酸。3つのカルボキシ基と、分岐及び環状構造を有する三価の炭化水素基とからなる。液状)
化合物D3:プリポール2033(炭素数36のダイマージオール。2つの水酸基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状)
化合物D4:プリアミン1075(炭素数36のダイマージアミン。2つのアミノ基と、分岐及び環状構造を有する二価の炭化水素基とからなる。液状)
【0102】
<化合物(E)>
化合物(E)としては下記の材料を使用した。
化合物E1:オレイン酸
【0103】
<接合用ペーストの製造>
[実施例1]
金属粒子A1(90部)とジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(10部)と化合物B1(0.2部)、その他成分D1(0.1部)、その他成分D2(0.1部)を、自公転式攪拌機を用いて混合し、接合用ペーストを調製した。
【0104】
[実施例2~43、比較例1~9]
表1~表2に記載の組成に従い、材料の種類と配合量(部)を変更した以外は、実施例1と同様にして接合用ペーストを得た。表中、空欄は配合していないことを表す。
【0105】
<接合用ペーストの評価>
得られた接合用ペーストを用いて、後述する製造方法1~5いずれかの製法により接合体を作製した。得られた接合体について、接合強度と冷熱サイクル特性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0106】
[製造方法1]
実施例1~39、比較例1~9で得られた接合用ペーストを用いて、以下の手順で接合体を製造した。
被接合部1(銅基材(メッキレス):20mm×20mm×3mm)に、実施例1~36、比較例1~9で得られた接合用ペーストをそれぞれ、下記の印刷条件にて1回印刷した後、被接合部2(金メッキ処理SiC素子:8mm×8mm×0.3mm)のメッキ処理面を接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて無加圧接合し、接合体をそれぞれ得た。
〔焼結条件〕
窒素雰囲気の焼成炉に載置した積層体を入れ、25℃から80℃まで5℃/分の条件にて昇温し、80℃で90分予備乾燥した。その後、300℃まで8℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、300℃で2時間保持した。
【0107】
[製造方法2]
実施例40で得られた接合用ペーストを用いて、以下の手順で接合体を製造した。
被接合部1(銅基材(メッキレス):20mm×20mm×3mm)に、実施例37で得られた接合用ペーストを、下記の印刷条件にて1回印刷した後、被接合部2(金メッキ処理SiC素子:8mm×8mm×0.3mm)のメッキ処理面を接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて無加圧接合し、接合体を得た。
〔焼結条件〕
窒素雰囲気の焼成炉に載置した積層体を入れ、25℃から80℃まで5℃/分の条件にて昇温し、80℃で90分予備乾燥した。その後、300℃まで2℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、300℃で2時間保持した。
【0108】
[製造方法3]
実施例41で得られた接合用ペーストを用いて、以下の手順で接合体を製造した。
被接合部1(銅基材(メッキレス):20mm×20mm×3mm)に、実施例38で得られた接合用ペーストを、下記の印刷条件にて1回印刷した後、被接合部2(金メッキ処理SiC素子:8mm×8mm×0.3mm)のメッキ処理面を接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて無加圧接合し、接合体を得た。
〔焼結条件〕
窒素雰囲気の焼成炉に載置した積層体を入れ、25℃から300℃まで8℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、300℃で2時間保持した。
【0109】
[製造方法4]
実施例42で得られた接合用ペーストを用いて、以下の手順で接合体を製造した。
被接合部1(銅基材(メッキレス):20mm×20mm×3mm)に、実施例39で得られた接合用ペーストを、下記の印刷条件にて1回印刷した後、被接合部2(金メッキ処理SiC素子:8mm×8mm×0.3mm)のメッキ処理面を接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて無加圧接合し、接合体を得た。
〔焼結条件〕
窒素雰囲気の焼成炉に載置した積層体を入れ、25℃から300℃まで2℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、300℃で2時間保持した。
【0110】
[製造方法5]
実施例43で得られた接合用ペーストを用いて、以下の手順で接合体を製造した。
被接合部1(銅基材(メッキレス):20mm×20mm×3mm)に、実施例40で得られた接合用ペーストを、下記の印刷条件にて1回印刷した後、熱風オーブンに入れ、180℃10分間予備乾燥した。次いで、被接合部2(金メッキ処理SiC素子:8mm×8mm×0.3mm)のメッキ処理面を予備乾燥後の接合ペースト面に向けて載置し、下記焼結条件にて加圧接合し、接合体を得た。
〔焼結条件〕
窒素雰囲気において、被接合部2の上から30MPaの圧力で加圧を行いながら、室温から300℃まで20℃/分の条件にて昇温し、300℃に達した後、同温度で5分間維持した。
【0111】
〔印刷条件(メタルマスク印刷)〕
メタルマスク:開口部7.5mm角、板厚100μm(セリアコーポレーション社製)
メタルスキージ:40mm×250mm、厚み1mm(セリアコーポレーション社製)
【0112】
[接合強度]
得られた接合体について、接合体を被接合部1の部位で固定し、被接合部1と接合層との界面を起点として被接合部2に向かって高さ100μmの位置を、500μm/sの速度で押し、接合が破壊される接合強度(ダイシェア強度)を求め、下記評価基準に基づいて評価した。接着強度の数値が大きいものほど良好であり、10MPa以上が実用範囲内である。測定条件を以下に示す。
〔測定条件〕
測定装置:万能型ボンドテスタ(デイジ・ジャパン株式会社製、4000シリーズ)
測定高さ:100μm
測定スピード:500μm/s
【0113】
(評価基準)
S :35MPa以上
A+:30MPa以上35MPa未満
A :25MPa以上30MPa未満
A-:20MPa以上25MPa未満
B :15MPa以上20MPa未満
C :10MPa以上15MPa未満
D :10MPa未満
【0114】
[冷熱サイクル特性]
得られた接合体を用いて下記サイクル試験を行い、サイクル試験後の接合体を用いて、上述の[接合強度]と同様にして接合強度(ダイシェア強度)を求め評価した。
〔サイクル試験〕
接合体を-40℃で30分間保持した後、150℃で30分間保持する工程を1サイクルとし、500サイクル実施した。
【0115】
【0116】
【0117】
表1及び表2の結果によれば、所定の銀粒子と所定の化合物(B)を組み合わせた本開示の接合用ペーストを用いると、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた。
特に、T3<T1<(T2+10)を満たす接合用ペーストは、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例26と実施例27、及び実施例28と実施例29)。
また、三級窒素原子数が、2~3である化合物を有する接合用ペーストは、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例1と実施例2)。
また、沸点が250℃以上である分散媒を含有する接合用ペーストは、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例4、30、35と実施例31~34)。
また、水酸基、カルボキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を2つ以上有する炭素数20~80の化合物(D)を含有する接合用ペーストは、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例2と実施例15、及び実施例4と実施例16)。
また、カルボキシ基を1つ有する炭素数14~20の化合物(E)を含有する接合用ペーストは、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例15と実施例21、及び実施例16と実施例22)。
また、上述する予備乾燥工程(2a)を含む無加圧接合方法を用いて接合した接合体は、メッキレス基材及び大面積SiC素子のような、安定した接合が極めて困難な構成とした場合であっても、接合強度が非常に高く、冷熱サイクル試験を実施した後も、接合強度の低下が抑止されていた(実施例4と実施例41、及び実施例40と実施例42)。
一方、比較例の接合用ペーストを用いた場合では、接合強度が著しく低く、冷熱サイクル試験を実施した後の接合強度も著しく低かった。