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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072952
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ペリクルおよびペリクルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20240522BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20240522BHJP
   C01B 32/984 20170101ALI20240522BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G03F1/62
C01B32/186
C01B32/984
C23C16/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183860
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 啓介
(72)【発明者】
【氏名】山下 昂将
(72)【発明者】
【氏名】奥 秀彦
【テーマコード(参考)】
2H195
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
2H195BC32
2H195BC33
2H195BC34
2H195BC37
2H195BC38
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AD36
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC09
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146BC38A
4G146BC38B
4G146DA03
4G146MA14
4G146MB03
4G146MB24
4G146NA02
4G146NB07
4G146NB16
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA27
4K030BB02
4K030CA05
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】ペリクル膜の破損を抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供する。
【解決手段】ペリクル1は、一方の主面2aおよび他方の主面2bを含み、SiCからなるペリクル膜2と、ペリクル膜2の一方の主面2aに形成された第1のグラフェン膜3と、ペリクル膜2の他方の主面2bに形成された第2のグラフェン膜4と、孔51を含み、ペリクル膜2の他方の主面2b側からペリクル膜2を支持するボーダー5とを備える。第1のグラフェン膜3および第2のグラフェン膜4のうち少なくとも一方は、複数のグラフェンドメインを含み、複数のグラフェンドメインのうち少なくとも一部のグラフェンドメインは、第1の部分と、第1の部分の周囲においてペリクル膜2から離れる方向に突出した第2の部分とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜と、
前記ペリクル膜の前記一方の主面に形成された第1のグラフェン膜と、
前記ペリクル膜の前記他方の主面に形成された第2のグラフェン膜と、
孔を含み、前記ペリクル膜の前記他方の主面側から前記ペリクル膜を支持するボーダーとを備え、
前記第1および第2のグラフェン膜のうち少なくとも一方は、複数のグラフェンドメインを含み、
前記複数のグラフェンドメインのうち少なくとも一部のグラフェンドメインは、
第1の部分と、
前記第1の部分の周囲において前記ペリクル膜から離れる方向に突出した第2の部分とを含む、ペリクル。
【請求項2】
前記ペリクル膜は、前記ペリクル膜の前記他方の主面に複数の突起を含み、
前記ペリクル膜の前記他方の主面側から見た場合に、前記複数の突起の各々は多角形状を有し、
前記ペリクル膜の前記他方の主面の突起の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下である、請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記複数の突起の各々の表面の少なくとも一部は、(111)面を含み、
前記ボーダーは、Siを含む単結晶の材料よりなる、請求項2に記載のペリクル。
【請求項4】
一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜と、
孔を含み、Siよりなるボーダーとを備え、
前記ボーダーは、前記ペリクル膜の前記他方の主面側から前記ペリクル膜を支持し、
前記ペリクル膜は、前記他方の主面に複数の突起を含み、
前記ペリクル膜の前記他方の主面側から見た場合に、前記複数の突起は多角形状を有し、
前記ペリクル膜の前記他方の主面の突起の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下である、ペリクル。
【請求項5】
一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜を基板に形成する工程を備え、前記基板は、前記ペリクル膜の前記他方の主面側から前記ペリクル膜を支持し、
前記基板に孔を形成する工程と、
前記ペリクル膜の前記一方の主面に第1のグラフェン膜を形成する工程と、
前記ペリクル膜の前記他方の主面に第2のグラフェン膜を形成する工程とをさらに備え、
前記第2のグラフェン膜を形成する工程において、1000℃以上前記基板を構成する材料の融点未満の温度に前記ペリクル膜を加熱した状態で、カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスを前記ペリクル膜の前記他方の主面に供給する、ペリクルの製造方法。
【請求項6】
前記ペリクル膜を形成する工程は、
1000℃以上前記基板を構成する材料の融点未満の温度に前記基板を加熱した状態で、炭化水素分子および水素分子を含むガスを前記基板に供給することにより、Siよりなる前記基板を炭化する工程と、
前記基板を炭化する工程の後で、SiCをエピタキシャル成長させる工程とを含み、
前記基板を炭化する工程において、炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である、請求項5に記載のペリクルの製造方法。
【請求項7】
前記基板を炭化する工程において、前記炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である。請求項6に記載のペリクルの製造方法。
【請求項8】
前記第2のグラフェン膜を形成する工程において、1×103Pa以上2×105Pa以下の圧力の雰囲気において、1100℃以上1300℃以下の温度に前記ペリクル膜を加熱した状態で前記カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスを供給し、
前記カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスにおける水素分子に対するカーボンプリカーサのモル比は、0.1%以上0.2%以下である、請求項5に記載のペリクルの製造方法。
【請求項9】
一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜をSiよりなる基板に形成する工程を備え、前記基板は、前記ペリクル膜の前記他方の主面側から前記ペリクル膜を支持し、
前記基板に孔を形成する工程をさらに備え、
前記ペリクル膜を形成する工程は、
1000℃以上前記基板を構成する材料の融点未満の温度に前記基板を加熱した状態で、炭化水素分子および水素分子を含むガスを前記基板に供給することにより、前記基板を炭化する工程と、
前記基板を炭化する工程の後で、SiCをエピタキシャル成長させる工程とを含み、
前記基板を炭化する工程において、炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である、ペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルおよびペリクルの製造方法に関する。より特定的には、本発明は、ペリクル膜の破損を抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスに用いられるフォトリソグラフィー技術においては、半導体ウエハにレジストを塗布し、塗布したレジストの必要な箇所に対してフォトマスクを用いて露光光を照射することにより、半導体ウエハ上に必要な形状のレジストパターンが作製される。レジストに対して露光光を照射する際には、ペリクルと呼ばれる防塵用のカバーでフォトマスクを覆うことにより、フォトマスクへの異物の付着が防止される。
【0003】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィー技術の微細化に対する要求が高まっている。近年では、露光光としてKrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザーを光源とする光(248nm)やArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーを光源とする光(193nm)などを用いることが主流となっている。また、これらの光よりも短波長であるEUV(Extreme Ultra Violet)光(13.5nm)などを用いることも検討されている。
【0004】
KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーを光源とする場合、ペリクル膜として有機系薄膜が用いられている。しかし、EUV光のように露光光の波長が短くなると、ペリクル膜が露光光から受けるエネルギーは大きくなる。このため、EUV光を用いたフォトリソグラフィーでは、EUV光に対して高い透過率および高い耐性を有する無機系薄膜を用いることが検討されている。この種の無機系薄膜には、Si(ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)、C(炭素)(グラファイト、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ(CNT)など)、およびSiC(炭化ケイ素)などが含まれる。
【0005】
ペリクルに関する技術は、たとえば下記特許文献1~4などに開示されている。
【0006】
下記特許文献1には、Si基板の表面にSiC膜を形成する工程と、Si基板の裏面の少なくとも一部をウエットエッチングにより除去する工程とを備えた化合物半導体基板の製造方法が開示されている。Si基板の裏面の少なくとも一部を除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi基板およびSiC膜が相対的に動かされる。また下記特許文献1には、SiCよりなるペリクル膜と、ペリクル膜の一方の主面に形成されたグラフェンまたはグラファイトよりなる膜とを備えたペリクルが開示されている。
【0007】
下記特許文献2には、ペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持材とを備えたペリクルが開示されている。ペリクル膜は、DLC、アモルファスカーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、または炭化ケイ素などよりなっている。ペリクル枠は、ケイ素または金属などよりなっている。このペリクルは、基板をエッチングすることで支持材に成形し、基板上にペリクル膜を形成することで製造される。
【0008】
下記特許文献3には、単一のグラフェン膜などよりなるペリクル膜を含むペリクルが開示されている。
【0009】
下記特許文献4には、Siよりなる主層と、主層の両面に形成されたグラフェンとを備えたペリクルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-218358号公報
【特許文献2】国際公開第2014/187710号
【特許文献3】特許第6189907号明細書(特開2016-21078号公報)
【特許文献4】特開2020-098227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の技術では、露光時にペリクル膜の破損が起こりやすかった。高精度の露光を実現するなどの目的で、露光光の照射強度はなるべく高いことが好ましい。しかし、露光光の照射強度が高くなるとペリクル膜が高温になりやすい。ペリクル膜が高温になると、特にペリクル膜がSiCを含む場合などには、ペリクル膜を構成する材料が蒸発しやすくなる。加えて、ペリクル膜が高温になると、露光雰囲気に存在する水素がラジカルに変化しやすくなる。この水素ラジカルによってペリクル膜がエッチングされる。その結果、従来の技術では、ペリクル膜を構成する材料の蒸発や、水素ラジカルによるエッチングなどに起因して、ペリクル膜の破損が起こりやすかった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、ペリクル膜の破損を抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の局面に従うペリクルは、一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜と、ペリクル膜の一方の主面に形成された第1のグラフェン膜と、ペリクル膜の他方の主面に形成された第2のグラフェン膜と、孔を含み、ペリクル膜の他方の主面側からペリクル膜を支持するボーダーとを備え、第1および第2のグラフェン膜のうち少なくとも一方は、複数のグラフェンドメインを含み、複数のグラフェンドメインのうち少なくとも一部のグラフェンドメインは、第1の部分と、第1の部分の周囲においてペリクル膜から離れる方向に突出した第2の部分とを含む。
【0014】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜は、ペリクル膜の他方の主面に複数の突起を含み、ペリクル膜の他方の主面側から見た場合に、複数の突起の各々は多角形状を有し、ペリクル膜の他方の主面の突起の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下である。
【0015】
上記ペリクルにおいて好ましくは、複数の突起の各々の表面の少なくとも一部は、(111)面を含み、ボーダーは、Siを含む単結晶の材料よりなる。
【0016】
上記ペリクルにおいて好ましくは、第2のグラフェン膜における複数のグラフェンドメインの各々の粒径は、1nm以上1μm以下であり、より好ましくは3nm以上50nm以下である。
【0017】
上記ペリクルにおいて好ましくは、第2のグラフェン膜における少なくとも一部のグラフェンドメインの第2の部分の密度は、1×106個/cm2以上1×1014個/cm2以下である。
【0018】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜は、5nm以上100nm以下の厚さを有しており、より好ましくは5nm以上30nm以下の厚さを有している。
【0019】
本発明の他の局面に従うペリクルは、一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜と、孔を含み、Siよりなるボーダーとを備え、ボーダーは、ペリクル膜の他方の主面側からペリクル膜を支持し、ペリクル膜は、他方の主面に複数の突起を含み、ペリクル膜の他方の主面側から見た場合に、複数の突起は多角形状を有し、ペリクル膜の他方の主面の突起の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下である。
【0020】
本発明のさらに他の局面に従うペリクルの製造方法は、一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜を基板に形成する工程を備え、基板は、ペリクル膜の他方の主面側からペリクル膜を支持し、基板に孔を形成する工程と、ペリクル膜の一方の主面に第1のグラフェン膜を形成する工程と、ペリクル膜の他方の主面に第2のグラフェン膜を形成する工程とをさらに備え、第2のグラフェン膜を形成する工程において、1000℃以上基板を構成する材料の融点未満の温度にペリクル膜を加熱した状態で、カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスをペリクル膜の他方の主面に供給する。
【0021】
上記製造方法において好ましくは、ペリクル膜を形成する工程は、1000℃以上基板を構成する材料の融点未満の温度に基板を加熱した状態で、炭化水素分子および水素分子を含むガスを基板に供給することにより、基板を炭化する工程と、基板を炭化する工程の後で、SiCをエピタキシャル成長させる工程とを含み、基板を炭化する工程において、炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である。
【0022】
上記製造方法において好ましくは、基板を炭化する工程において、炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である。
【0023】
上記製造方法において好ましくは、基板を炭化する工程において、1100℃以上1300℃以下の温度に基板を加熱する。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、第1のグラフェン膜を形成する工程と、第2のグラフェン膜を形成する工程とは並行して行われ、第1および第2のグラフェン膜を形成する工程において、1000℃以上基板を構成する材料の融点未満の温度にペリクル膜を加熱した状態で、カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスをペリクル膜の一方の主面および他方の主面の各々に供給する。
【0025】
上記製造方法において好ましくは、第2のグラフェン膜を形成する工程において、1×103Pa以上2×105Pa以下の圧力の雰囲気において、1100℃以上1200℃以下の温度にペリクル膜を加熱した状態でカーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスを供給し、カーボンプリカーサおよび水素分子を含むガスにおける水素分子に対するカーボンプリカーサのモル比は、0.01%以上0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以上0.2%以下である。
【0026】
本発明のさらに他の局面に従うペリクルの製造方法は、一方の主面および他方の主面を含み、SiCからなるペリクル膜をSiよりなる基板に形成する工程を備え、基板は、ペリクル膜の他方の主面側からペリクル膜を支持し、基板に孔を形成する工程をさらに備え、ペリクル膜を形成する工程は、1000℃以上基板を構成する材料の融点未満の温度に基板を加熱した状態で、炭化水素分子および水素分子を含むガスを基板に供給することにより、基板を炭化する工程と、基板を炭化する工程の後で、SiCをエピタキシャル成長させる工程とを含み、基板を炭化する工程において、炭化水素分子および水素分子を含むガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ペリクル膜の破損を抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施の形態において、ペリクル膜2の主面2aに対して垂直な平面で切った場合のペリクル1の構成を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態において、ペリクル膜2の主面2a側から見た場合のペリクル1の構成を示す平面図である。
図3図1中A部の拡大図である。
図4】ペリクル膜2の主面2bの状態を模式的に示す図である。
図5】グラフェン膜3および4の各々を構成するグラフェンドメイン41の構成を示す断面図である。
図6】グラフェン膜のラマンスペクトルを模式的に示す図である。
図7】本発明の一実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図8】本発明の一実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図9】本発明の一実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
図10】本発明の一実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第4の工程を示す断面図である。
図11図7中B部拡大図である。
図12図8中C部拡大図である。
図13図10中D部拡大図である。
図14】本発明の一実施の形態において、CVD装置内でペリクル膜2を保持する方法の一例を示す平面図である。
図15】試料1~5の観察結果および試験結果を示す図である。
図16】試料1におけるボーダー側のグラフェン膜の主面のSEM画像である。
図17】試料1の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。本明細書において「面に形成されている」という表現は、その面と接触して形成されていることを意味している。「面側に形成されている」という表現は、その面と接触して形成されていることと、その面と接触せずに(その面と間隔をおいて)形成されていることとの両方を意味している。図面に示された各部材のサイズは概念上のサイズであり、各部材の実際の寸法とは異なる場合がある。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態において、ペリクル膜2の主面2aに対して垂直な平面で切った場合のペリクル1の構成を示す断面図である。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態におけるペリクル1(ペリクルの一例)は、ペリクル膜2(ペリクル膜2の一例)と、グラフェン膜3(第1のグラフェン膜の一例)と、グラフェン膜4(第2のグラフェン膜の一例)と、ボーダー5(ボーダーの一例)とを備えている。以降の説明において、ボーダー5に対するペリクル膜2の積層方向(図1中縦方向)を厚さ方向と記すことがある。
【0032】
ペリクル膜2は、露光光を透過し、フォトマスクへの異物の付着を防止する。ペリクル膜2は、SiCからなっている。ペリクル膜2は、主面2aおよび主面2bを含んでいる。EUV光の透過性およびペリクル膜2の機械的強度を確保する観点から、ペリクル膜2は、5nm以上100nm以下の厚さwを有することが好ましい。ペリクル膜2は、5nm以上30nm以下の厚さwを有することがより好ましい。ペリクル膜2は、単結晶3C-SiC、多結晶SiC、またはアモルファスSiCなどよりなっている。特に、ペリクル膜2がボーダー5の主面5aにエピタキシャル成長されたものである場合、一般的に、ペリクル膜2は3C-SiCよりなっている。
【0033】
グラフェン膜3および4の各々は、ペリクル膜2の放熱を促進し、ペリクル膜2を保護する。グラフェン膜3はペリクル膜2の主面2aに形成されており、ペリクル膜2の主面2aと接触している。グラフェン膜4はペリクル膜2の主面2bに形成されており、ペリクル膜2の主面2bと接触している。
【0034】
ボーダー5は、ペリクル膜2の主面2b側からペリクル膜2を支持している。言い換えれば、ペリクル膜2は、ボーダー5の主面5a側に形成されている。ボーダー5は、孔51(孔の一例)を含んでいる。孔51の底部には、グラフェン膜4の主面4aが露出している。ボーダー5は、たとえばSiを含む単結晶の材料よりなっている。ボーダー5は、Siよりなっていてもよい。ボーダー5は、閉曲線の平面形状を有している。ボーダー5は主面5aおよび主面5bを含んでいる。ボーダー5がSiからなる場合、ボーダー5の主面5aには(100)面が露出している。ボーダー5がSiからなる場合、ボーダー5の主面5aには(111)面や(110)面が露出していてもよい。
【0035】
ここでは、グラフェン膜4は、孔51の底部にのみ形成されており、ペリクル膜2とボーダー5との間には形成されていない。ペリクル膜2の主面2bとボーダー5の主面5aとは互いに接触している。グラフェン膜4は、ペリクル膜2の主面2b全体に形成されていてもよい。この場合、ペリクル膜2の主面2bとボーダー5の主面5aとはグラフェン膜4によって隔てられる。
【0036】
図2は、本発明の第1の実施の形態において、ペリクル膜2の主面2a側から見た場合のペリクル1の構成を示す平面図である。図1は、図2におけるI-I線に沿った断面図に相当する。図2では、ボーダー5の形状を示す目的で、ボーダー5は点線で示されているが、実際にはボーダー5は直接には見えない。
【0037】
図2を参照して、ペリクル膜2、グラフェン膜3および4、ボーダー5、および孔51の各々は、任意の平面形状を有している。ペリクル膜2はその外周端部を閉曲線状のボーダー5によって支持されている。これにより、ペリクル膜2の機械的強度がボーダー5によって補強されている。ペリクル膜2、ならびにグラフェン膜3および4の各々は、たとえば図2(a)および図2(c)に示すように、円の平面形状を有していてもよいし、図2(b)に示すように、矩形の平面形状を有していてもよい。ボーダー5は、図2(b)に示すように、四角形状の平面形状を有していてもよいし、図2(a)および図2(c)に示すように、円の平面形状を有していてもよい。孔51は、図2(b)および図2(c)に示すように、四角形状の平面形状を有していてもよいし、図2(a)に示すように、円の平面形状を有していてもよい。
【0038】
図3は、図1中A部の拡大図である。図4は、ペリクル膜2の主面2bの状態を模式的に示す図である。
【0039】
図3および図4を参照して、ペリクル膜2は、ペリクル膜2の主面2bに形成された複数の突起22(突起の一例)とを含んでいる。ペリクル膜2の主面2b側から見た場合に、複数の突起22の各々は多角形状を有している。複数の突起22を構成する各辺は、特定の方位を有する結晶面によって構成されている。ここでは、ペリクル膜2の主面2b側から見た場合に、複数の突起22の各々は四角形状を有している。
【0040】
複数の突起22の各々の表面の少なくとも一部は、たとえば(111)面を含んでいる。具体的には、突起22が四角形状である場合、1つの突起22における一辺は2つの結晶面221および222を含んでいる。1つの突起22は8つのSiCの結晶面221および222を含んでいる。結晶面221は、1つの突起22における外側の結晶面である。結晶面222は、1つの突起22における内側の結晶面である。結晶面221の各々は、たとえば(111)面によって構成されている。ペリクル膜2の主面2aの突起22の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下である。
【0041】
ペリクル膜の主面の突起の密度は、ペリクル膜の主面の平面SEM(Scanning Electron Microscope)画像もしくは鳥瞰SEM画像を撮影し、所定の領域(たとえば1μmの一辺を有する正方形の領域)に存在する突起の数を数えることにより、測定される。
【0042】
上述のペリクル膜2の構成は、後述するペリクル膜2の成膜方法を採用することで実現される。ペリクル1におけるペリクル膜2は、突起22を含んでいなくてもよい。
【0043】
図5は、グラフェン膜3および4の各々を構成するグラフェンドメイン41の構成を示す断面図である。
【0044】
図3図5を参照して、グラフェン膜3および4の各々は、複数のグラフェンドメイン41(グラフェンドメインの一例)を含んでいる。複数のグラフェンドメイン41の各々は厚さ方向に積層されている。1つのグラフェンドメイン41の層と、その上のグラフェンドメイン41の層とは、ファンデルワールス力によって、0.345nmの間隔をおいて形成されている。ペリクル膜2の主面2aおよび2bの各々には、複数のグラフェンドメイン41が多重に敷き詰められている。ペリクル膜2の主面2aおよび2bの各々は、複数のグラフェンドメイン41によって覆われている。グラフェン膜3および4の各々を構成する複数のグラフェンドメイン41の各々は、単結晶または多結晶である。グラフェン膜3および4の各々を構成する複数のグラフェンドメイン41(より詳細には、グラフェン膜3および4の各々の表面付近を構成する複数のグラフェンドメイン41)のうち少なくとも一部のグラフェンドメイン41は、中央部分411(第1の部分の一例)と、外周部分412(第2の部分の一例)とを含んでいる。中央部分411は、ペリクル膜2の主面2aまたは2bに沿って延在している。中央部分411は、ペリクル膜2または下層のグラフェンドメイン41と接触している。外周部分412は、中央部分411の周囲においてペリクル膜2から離れる方向に突出している。外周部分412は、グラフェンドメイン41における端部であり、ペリクル膜2から離れる方向にめくれ上がっている。
【0045】
なお、グラフェン膜3および4のうちいずれか一方のみ(たとえばグラフェン膜4のみ)が複数のグラフェンドメイン41を含んでいてもよい。
【0046】
グラフェン膜3および4の各々におけるグラフェンドメイン41の突出した部分である外周部分412の密度は、1×106個/cm2以上1×1014個/cm2以下である。グラフェン膜3および4の各々における複数のグラフェンドメイン41の各々の粒径は、好ましくは1nm以上1μm以下であり、より好ましくは3nm以上50nm以下である。
【0047】
グラフェン膜におけるグラフェンドメインの粒径は、グラフェン膜のラマンスペクトルに基づいて次の方法で測定される。
【0048】
図6は、グラフェン膜のラマンスペクトルを模式的に示す図である。
【0049】
図6を参照して、グラフェン膜のラマンスペクトルは、メインのピークとして、Dバンド(1350cm-1付近)と、Gバンド(1582cm-1付近)と、2Dバンド(2685cm-1付近)とを有している。Dバンドは、不規則構造または欠陥に由来するピークである。Gバンドは、グラフェンを構成するsp2結合カーボンの平面内運動に由来するピークである。Gピークの高さIGに対するDピークの高さIDの比を比ID/IGとし、ラマンスペクトル測定時の入射光の波長を波長λとした場合、グラフェンドメインの粒径GDは、以下の式(1)を用いて算出される。
【0050】
粒径GD=(2.4×10-10(nm-3))×λ4/(比ID/IG) ・・(1)
【0051】
上記式(1)によれば、波長λが532nmであり、比ID/IGが1である場合、粒径GDは19.2nmとなる。
【0052】
上述のグラフェンドメイン41を含むグラフェン膜3および4の構成は、後述するグラフェン膜3および4の形成方法を採用することで実現される。
【0053】
続いて、本実施の形態におけるペリクル1の製造方法について説明する。
【0054】
図7図10は、本発明の一実施の形態におけるペリクル1の製造方法を工程順に示す断面図である。図11は、図7中B部拡大図である。図12は、図8中C部拡大図である。図13は、図10中D部拡大図である。
【0055】
図7および図11を参照して、板状の基板5(基板の一例)を準備する。基板5は、孔が形成される前の状態のボーダーに相当する。次に、ペリクル膜2を基板5の主面5aに形成する。
【0056】
ペリクル膜2は、次のように2段階の工程で形成される。
【0057】
1段階目の工程として、基板5の主面5aを炭化する。具体的には、1000℃以上基板5を構成する材料(ここではSi)の融点未満の温度に基板5を加熱した状態で、炭化水素分子およびH(水素)分子を含む混合ガスを基板5の主面5aに供給する。これにより、基板5の主面5aが炭化され、SiC膜23が形成される。基板5の加熱温度は、1100℃以上1300℃以下であることが好ましい。
【0058】
上記の条件下では、混合ガス中のC原子が基板5の主面5aのSiと反応して、SiC膜23となる。SiC膜23の形成と並行して、混合ガス中のH原子がラジカルに変化して、基板5の主面5aにおけるSiC膜23で被覆されていない部分のSiを選択的にエッチングする。これにより、基板5の主面5aに窪み53が形成される。窪み53を構成するSiの結晶面531は、(111)面などの特定の面となり、基板5の主面5aの結晶面の面方位に依存する。
【0059】
上記の混合ガスにおけるH分子に対する炭化水素分子のモル比は、0より大きく10%以下である。これにより、混合ガス中の炭化水素分子の濃度がSiC膜を緻密に形成する濃度に達しない程度に低くなるため、SiC膜23が網目状の構造になる。その結果、網目状のSiC膜23の隙間に窪み53を形成することができる。
【0060】
図8および図12を参照して、2段階目の工程として、SiC膜23の主面23aにSiC膜24をエピタキシャル成長させる。SiC膜24は、網目状のSiC膜23の隙間および窪み53にも形成される。SiC膜23および24は、ペリクル膜2となる。これにより、主面2aおよび2bを含むペリクル膜2が、基板5の主面5aに形成される。基板5は、ペリクル膜2の主面2b側からペリクル膜2を支持する。SiC膜24における窪み53を埋める部分は、突起22となる。突起22はSiC膜23よりも基板5側に突出し、ペリクル膜2の主面2bの一部を構成する。突起22における基板5と接触する結晶面は、結晶面221となり、窪み53を構成するSiの結晶面531と同じ面方位を有する。窪み53の結晶面531が(111)面を含む場合には、突起22の結晶面221も(111)面を含む。ペリクル膜2の主面2aの突起22の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下となる。
【0061】
なお、1段階目の工程で使用する混合ガスにおけるH分子に対する炭化水素分子のモル比が小さい程、基板5の主面5aに窪み53の数が増加し、ペリクル膜2の突起22の数が増加する。具体的には、混合ガスにおけるH分子に対する炭化水素分子のモル比が0より大きく10%以下である場合には、ペリクル膜2の主面2aの突起22の密度は、1×107/cm2以上1×1010/cm2以下となる。
【0062】
図9を参照して、基板5の主面5bの外周端部に、SiCなどよりなるマスク層91を形成する。マスク層91をマスクとして、基板5の主面5bの中央部RG1を除去する。中央部RG1の除去は任意の方法で行われ、たとえばサンドブラスト加工などの機械研磨により行われる。
【0063】
中央部RG1が除去された結果、基板5の主面5bには、基板5を構成する材料を底面とする溝52が形成される。溝52は基板5を貫通しない程度の深さを有している。溝52の存在により、基板5の中央部の厚さは、基板5の外周端部の厚さよりも薄くなる。
【0064】
なお、基板5に溝52を形成した後で、ペリクル膜2が基板5の主面5aに形成されてもよい。
【0065】
図10および図13を参照して、ペリクル膜2の形成後に、基板5の一部である溝52の底面RG2をウエットエッチングにより除去する。底面RG2が除去された結果、溝52は、基板5を貫通する孔51となり、基板5はボーダー5となる。孔51の底面にはペリクル膜2の主面2bが露出する。底面RG2の除去方法としてウエットエッチングを採用することで、底面RG2の除去の際にペリクル膜2へ与えるダメージを抑止することができる。なお、任意の方法での溝52の形成を行わずに、ウエットエッチングのみを用いて板状の基板5に孔51が形成されてもよい。孔51の形成後、マスク層91を除去する。これにより、構造体1aが得られる。なお、構造体1aにおいて、マスク層91は除去されなくてもよい。
【0066】
底面RG2のウエットエッチングの際に用いる薬液としては、たとえばフッ酸および硝酸などの酸化作用のある酸を含む混酸や、水酸化カリウム(KOH)水溶液などが用いられる。ペリクル膜2がエッチングされることを抑止し、ペリクル膜2の品質を良好にするためには、基板5のウエットエッチングの薬液としてフッ酸および硝酸からなる混酸を用いることが好ましい。
【0067】
底面RG2のウエットエッチングの際は、ウエットエッチングに用いる薬液に対してペリクル膜2および基板5を相対的に動かすことにより行われることが好ましい。特に、ペリクル膜2および基板5を動かしている間に薬液から受ける圧力によりペリクル膜2が破損する事態を回避するためには、ペリクル膜2の主面2aに対して平行な平面内の方向にペリクル膜2および基板5を動かすことが好ましい。このようなウエットエッチングとして、スピンエッチングが最も好ましい。
【0068】
なお、マスク層91は、Siに対して酸化作用のある酸とフッ酸とを含む薬液と、Siに対して酸化作用の無い成分のみで構成されたアルカリ水溶液とのうち少なくともいずれか一方に対して不溶性である材料よりなっていればよい。マスク層91は、たとえばSiC、SiN、SiO2(酸化ケイ素)、またはフォトレジストなどよりなっていてもよい。
【0069】
図10に示す構造体1aは、図1のペリクル1においてグラフェン膜3および4を省略した構造を有している。グラフェン膜3および4を省略した構造体1aをペリクルとして用いることも可能である。
【0070】
図1を参照して、続いて、CVD(Chemical vapor deposition)法などを用いて、ペリクル膜2の主面2aにグラフェン膜3を形成し、ペリクル膜2の主面2bにグラフェン膜4を形成する。グラフェン膜3および4の形成は並行して行われることが好ましい。グラフェン膜3および4を形成する際には、1000℃以上基板5を構成する材料(ここではSi)の融点未満の温度にペリクル膜2を加熱した状態で、カーボンプリカーサおよびH分子を含む混合ガスが、ペリクル膜2の主面2aおよび主面2bの各々に供給される。
【0071】
グラフェン膜3および4の形成の際の雰囲気の圧力は、減圧、常圧、および加圧のいずれで行われてもよい。但し、ペリクル膜2の成膜装置などを使ってグラフェン膜3および4の形成を行う観点から、グラフェン膜3および4の形成の際の雰囲気の圧力は、1×10-4Pa以上2×105Pa以下の圧力であることが好ましく、1×103Pa以上2×105Pa以下の圧力であることがより好ましい。熱による基板5の変形を抑止する観点で、グラフェン膜3および4の各々を形成する際のペリクル膜2の温度は、1100℃以上1200℃以下の温度であることが好ましい。
【0072】
カーボンプリカーサおよびH分子を含む混合ガスにおけるH分子に対するカーボンプリカーサのモル比は、たとえば0.01%以上100%以下である。カーボンプリカーサおよびH分子を含む混合ガスにおけるH分子に対するカーボンプリカーサのモル比は、0.01%以上1%以下であることが好ましく、0.1%以上0.2%以下であることがより好ましい。
【0073】
カーボンプリカーサとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、アセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、またはオクチンなどの炭化水素が用いられる。カーボンプリカーサとして、特にメタン、エタン、またはプロパンを用いることが好ましい。
【0074】
なお、グラフェン膜を形成する際のペリクル膜2の温度が低い程、グラフェン膜におけるグラフェンドメインの密度は増加し、グラフェン膜におけるグラフェンドメインの粒径は小さくなる。グラフェン膜3および4の各々を形成する際のペリクル膜2の温度が1100℃以上1200℃以下である場合、グラフェン膜3および4の各々における複数のグラフェンドメイン41の各々の粒径は、3nm以上50nm以下となる。
【0075】
グラフェン膜3および4の形成を並行して行うために、グラフェン膜3および4の形成の際に、ペリクル膜2は次の方法で保持されることが好ましい。
【0076】
図14は、本発明の一実施の形態において、CVD装置内でペリクル膜2を保持する方法の一例を示す平面図である。
【0077】
図14を参照して、CVD装置は、ペリクル膜2を保持するための保持部81を含んでいる。保持部81は、環状の外周部81aと、外周部81aの内周側端部に等間隔で設けられた複数(ここでは3つ)の突出部81bとを含んでいる。複数の突出部81bの各々は直線状であり、外周部81aの中心に向かって突出している。ペリクル膜2は、主面2aが上を向くように複数の突出部81bの各々の先端上に載置される。カーボンプリカーサおよびH分子を含む混合ガスは、ペリクル膜2の主面2a上において矢印AR1で示す方向に流される。カーボンプリカーサおよびH分子を含む混合ガスの一部は、外周部81aと複数の突出部81bとの間の空間SPを通じてペリクル膜2の主面2bに回り込む。
【0078】
上述の方法を用いることにより、カーボンプリカーサおよび水素分子を含む混合ガスがペリクル膜2の主面2aおよび2bの各々に供給される。ペリクル膜2の主面2aおよび2bの両方がカーボンプリカーサと接触する。その結果、ペリクル膜2の主面2aおよび2bの各々にグラフェン膜3および4の各々を並行して形成することができる。
【0079】
[実施の形態の効果]
【0080】
上述の実施の形態では、ペリクル膜2の主面2aおよび2bの各々がグラフェン膜3および4の各々によって覆われる。ペリクル膜2を構成するSiCの原子間結合力と比較して、グラフェン膜3および4を構成するグラフェンの原子間結合力は強い。このため、ペリクル膜を構成するSiCの蒸発や、水素ラジカルによるペリクル膜のエッチングを防止することができる。その結果、ペリクル膜2の破損を抑止することができる。
【0081】
加えて、グラフェン膜3および4の各々を構成する複数のグラフェンドメイン41の各々の外周部分412は、ペリクル膜2から離れる方向に突出している。突出した外周部分412の存在により、グラフェン膜3および4の表面積が増加し、ペリクル膜2の放熱効率が向上する。その結果、ペリクル膜2が高温になりにくくなり、ペリクル膜2の破損を抑止することができる。
【0082】
さらに、ペリクル膜2の主面2bには複数の突起22が存在している。突起22の存在により、ペリクル膜2の表面積が増加し、ペリクル膜2の放熱効率が向上する。その結果、ペリクル膜2が高温になりにくくなり、ペリクル膜2の破損を抑止することができる。
【0083】
[実施例]
【0084】
本願発明者らは、以下の試料1~5を作製した。
【0085】
試料1(本発明例):上述の実施の形態に記載した製造方法を用いて、図1に示すペリクル1を製造した。基板の主面を炭化することにより第1のSiC膜を形成する工程と、第1のSiC膜の主面に第2のSiC膜をエピタキシャル成長させる工程とを含む2段階の工程で、基板の主面にペリクル膜を形成した。第1のSiC膜の形成の際には、1175℃に基板を加熱した状態で、炭化水素分子および水素分子を含む混合ガスを基板に供給した。混合ガスにおける水素分子に対する炭化水素分子のモル比を1%とした。ペリクル膜の2つの主面の各々にグラフェン膜を形成する際には、カーボンプリカーサおよび水素分子(H2分子)を含む混合ガスを、ペリクル膜の2つの主面の各々に供給した。混合ガスにおける水素分子に対するカーボンプリカーサのモル比を0.15%とした。ペリクル膜の2つの主面の各々にグラフェン膜を形成する際には、ペリクル膜の温度を1200℃に設定し、雰囲気の圧力を1×105Paに設定した。
【0086】
試料2(本発明例):図10に示す構造体1a(グラフェン膜の無いペリクル)を製造した。グラフェン膜を形成しない以外は、試料1のペリクルの製造方法と同じ方法を用いてペリクルを製造した。
【0087】
試料3(本発明例):第1のSiC膜の形成の際には、炭化水素分子を含み水素分子を含まないガスを基板に供給した。これ以外は、試料1のペリクルの製造方法と同じ方法を用いてペリクルを製造した。
【0088】
試料4(比較例):グラフェン膜の無いペリクルを製造した。第1のSiC膜の形成の際には、炭化水素分子を含み水素分子を含まないガスを基板に供給した。これ以外は、試料2と同じ方法でペリクルを製造した。
【0089】
試料5(比較例):ペリクル膜の2つの主面の各々にグラフェン膜を形成する際には、カーボンプリカーサおよび水素分子を含む混合ガスを基板に供給した。混合ガスにおける水素分子に対するカーボンプリカーサのモル比を0.005%とした。これ以外は、試料3と同じ方法でペリクルを製造した。
【0090】
図15は、試料1~5の観察結果および試験結果を示す図である。図16は、試料1におけるボーダー側のグラフェン膜の主面のSEM画像である。図17は、試料1の断面のSEM画像である。図17では、ボーダー側のグラフェン膜におけるグラフェンドメインの形状が点線で示されている。
【0091】
図15図17を参照して、次に本願発明者らは、SEMを用いて試料1~5の各々を観察した。グラフェン膜を含んでいる試料1、3、および5については、ボーダー側のグラフェン膜の主面を観察した。グラフェン膜を含んでいない試料2および4については、ボーダー側のペリクル膜の主面を観察した。SEMとしては、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6700F、日本電子株式会社、日本)を用いた。加速電圧を5kVとした。
【0092】
観察の結果、試料1および2では、ペリクル膜におけるボーダー側の主面に、四角形状を有する複数の突起が生じていた。突起の密度は1×107/cm2以上1×1010/cm2以下であった。一方、試料3~5では、突起は生じていなかった。
【0093】
グラフェン膜を含んでいる試料1、3、および5のうち試料1および3では、グラフェン膜全体にわたって、グラフェンドメインに突出した外周部分(図16中白い紐状の部分)が生じていた。試料5では、グラフェンドメインに突出した外周部分は生じていなかった。
【0094】
次に本願発明者らは、試料1および3の各々のボーダー側のグラフェン膜のラマンスペクトルを計測した。Gピークの高さIGに対するDピークの高さIDの比ID/IGに基づいて、グラフェン膜における複数のグラフェンドメインの各々の粒径およびグラフェンドメインの密度を算出した。その結果、グラフェン膜における複数のグラフェンドメインの各々の粒径は、3nm以上50nm以下であった。グラフェン膜におけるグラフェンドメインの密度は、1×106個/cm2以上3×107個/cm2以下であった。
【0095】
次に本願発明者らは、試料1~5の各々の耐久性を評価した。試料1~5の各々を5Paの圧力の水素雰囲気に設置した状態で、27.6W/cm2の照度を有するEUV光を2.5時間にわたってペリクル膜に照射した。
【0096】
EUV光を照射した結果、試料1のペリクル膜は破損しなかった。試料2のペリクル膜は照射開始から2.1時間後に破損した。試料3のペリクル膜は照射開始から2.4時間後に破損した。試料4のペリクル膜は照射開始から24分後に破損した。試料5のペリクル膜は照射開始から1.1時間後に破損した。
【0097】
[その他]
【0098】
上述の実施の形態および実施例は、適宜組み合わせることができる。
【0099】
上述の実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 ペリクル(ペリクルの一例)
1a 構造体(ペリクルの一例)
2 ペリクル膜(ペリクル膜の一例)
2a,2b ペリクル膜の主面
3,4 グラフェン膜(第1および第2のグラフェン膜の一例)
3a,4a グラフェン膜の主面
5 ボーダーまたは基板(ボーダーおよび基板の一例)
5a,5b ボーダーの主面
22 ペリクル膜の突起(突起の一例)
23,24 ペリクル膜のSiC膜
23a,23b SiC膜の主面
41 グラフェンドメイン(グラフェンドメインの一例)
51 ボーダーの孔(孔の一例)
52 ボーダーの溝
53 ボーダーの窪み
81 保持部
81a 保持部の外周部
81b 保持部の突出部
91 マスク層
221,222 ペリクル膜の突起を構成するSiCの結晶面
411 グラフェンドメインの中央部分(第1の部分の一例)
412 グラフェンドメインの外周部分(第2の部分の一例)
531 ボーダーの窪みを構成するSiの結晶面
RG1 ボーダーの主面の中央部
RG2 孔の底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17