(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072960
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】生体信号測定装置および生体信号測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20240522BHJP
A61B 5/262 20210101ALI20240522BHJP
A61B 5/291 20210101ALI20240522BHJP
【FI】
A61B5/256 110
A61B5/262
A61B5/291
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183876
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】北添 雄眞
(72)【発明者】
【氏名】尾野 慈厚
(72)【発明者】
【氏名】石川 英治
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127LL07
4C127LL13
4C127LL15
4C127LL18
(57)【要約】
【課題】生体信号の測定において、生体信号測定装置、特に電極を身体に適切に接触させる技術を提供する。
【解決手段】脳波測定装置10(生体信号測定装置)は、被験者の測定部位(頭部99)に接触して生体信号を取得する電極ユニット30と、前記電極ユニット30を支持する支持部材20と、を有する生体信号測定装置であって、前記支持部材20は、フィルム部材を有して構成されており、前記フィルム部材を構成する材料のポアソン比が0.15~0.4である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の測定部位に接触して生体信号を取得する電極ユニットと、前記電極ユニットを支持する支持部材と、を有する生体信号測定装置であって、
前記支持部材は、フィルム部材を有して構成されており、
前記フィルム部材を構成する材料のポアソン比が0.15~0.4である生体信号測定装置。
【請求項2】
前記フィルム部材を構成する材料の弾性率と厚みの積が0.4~9.1である、請求項1に記載の生体信号測定装置。
【請求項3】
前記フィルム部材は、長尺状に形成されており、
前記電極ユニットは、前記フィルム部材の長手方向に所定間隔に並んで複数配置されている、請求項1または2に記載の生体信号測定装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記フィルム部材に設けられて前記電極ユニットを実装する実装部を有し、
前記電極ユニットは、前記実装部との嵌合構造により前記フィルム部材に固定される、
請求項1または2に記載の生体信号測定装置。
【請求項5】
前記測定部位は頭部であって、前記生体信号は脳波である、請求項1または2に記載の生体信号測定装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の生体信号測定装置を被験者に装着して生体信号を測定する生体信号測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号測定装置および生体信号測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳波、心電図、血中酸素飽和度等といった生体信号を測定する生体信号取得装置に関して様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、形状記憶材料からなり、ユーザの頭部に装着されるヘッドバンドである支持体と、前記支持体に取り付けられた、ユーザの生体信号を取得するバイタルセンサとを具備した生体信号測定装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の技術によれば、生体信号の測定の際には、支持体を予め形状記憶されたユーザの身体形状に適合する形状に容易に復元させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体信号の測定は、電極を身体(すなわち皮膚)に接触させるために、どのように身体にフィットさせるかが重要となる。しかしながら、身体の形状は千差万別であり、対応する技術が求められていた。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、生体信号の測定において、生体信号測定装置、特に電極を身体に適切に接触させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]
被験者の測定部位に接触して生体信号を取得する電極ユニットと、前記電極ユニットを支持する支持部材と、を有する生体信号測定装置であって、
前記支持部材は、フィルム部材を有して構成されており、
前記フィルム部材を構成する材料のポアソン比が0.15~0.4である生体信号測定装置。
[2]
前記フィルム部材を構成する材料の弾性率と厚みの積が0.4~9.1である、[1]に記載の生体信号測定装置。
[3]
前記フィルム部材は、長尺状に形成されており、
前記電極ユニットは、前記フィルム部材の長手方向に所定間隔に並んで複数配置されている、[1]または[2]に記載の生体信号測定装置。
[4]
前記支持部材は、前記フィルム部材に設けられて前記電極ユニットを実装する実装部を有し、
前記電極ユニットは、前記実装部との嵌合構造により前記フィルム部材に固定される、
[1]から[3]までのいずれか1に記載の生体信号測定装置。
[5]
前記測定部位は頭部であって、前記生体信号は脳波である、[1]から[4]までのいずれか1に記載の生体信号測定装置。
[6]
[1]から[5]までのいずれか1に記載の生体信号測定装置を被験者に装着して生体信号を測定する生体信号測定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体信号の測定において、生体信号測定装置、特に電極を身体に適切に接触させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る、頭部に脳波測定装置を装着した状態を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態に係る、支持部材および取付部を示す模式図である。
【
図3】第1の実施形態に係る、脳波測定装置を装着したときに頭部に作用する力(頭部への電極押付力F)をモデル化して説明する図である。
【
図4】第1の実施形態に係る、モデル化に用いたキャプスタン原理(方程式)を説明する図である。
【
図5】第1の実施形態に係る、支持部材に装着された状態の電極ユニットの断面図である。
【
図6】第2の実施形態に係る、頭部に脳波測定装置を装着した状態を示す模式図である。
【
図7】第2の実施形態に係る、支持部材および取付部を示す模式図である。
【
図8】第2の実施形態に係る、支持部材に装着された状態の電極ユニットの断面図である。
【
図9】第2の実施形態に係る、調整部を模式的に示した図である。
【
図10】実施形態の実施例に係る、電極押付力Fの理論値(計算値)と実測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。本実施形態では、電極ユニットを有し、被験者に装着して生体信号を取得する生体信号測定装置および生体信号測定装置を用いた生体信号測定方法について説明する。特に、生体信号として脳波を取得する脳波測定装置および脳波測定方法について例示する。生体信号として、脳波の他に、例えば、心電位や筋電位、皮膚電位が挙げられる。
【0010】
[第1の実施形態]
<脳波測定装置10の概略構造>
図1は人の頭部99に脳波測定装置10を装着した状態を正面から見た模式図である。
図2は、電極ユニット30を支持する支持部材20および取付部70を示した図である。
【0011】
脳波測定装置10は、人の頭部99に装着され脳波を生体からの電位変動として検出し、検出した脳波を脳波表示装置に出力する。脳波表示装置は、脳波測定装置10が検出した脳波を取得して、モニタ表示したり、データ保存したり、周知の脳波解析処理(測定処理)を行う。
【0012】
脳波測定装置10は、被験者の測定部位(すなわち頭部99)に接触して生体信号である脳波を取得する複数の電極ユニット30と、電極ユニット30を取り付けて支持する長尺シート状(フィルム基材)の支持部材20と、支持部材20を頭部99に固定する取付部70とを有する。本実施形態では、取付部70を被験者の耳に装着することで、脳波測定装置10を頭部99に固定する。
【0013】
支持部材20には、電極ユニット30を固定するための凹型スナップボタン25が設けられており、電極ユニット30の凸型スナップボタン35が嵌合するようになっている。また、支持部材20において、左右方向における凹型スナップボタン25が設けられる位置は、ちょうど支持部材20が折れ曲がった屈曲部27とされている。支持部材20が十分に薄い場合は屈曲部27は不要であるが、屈曲部27があることで、電極ユニット30間の支持部材20を直線的にすることができる。
【0014】
取付部70は、耳装着部40と、調整部50と、張力表示部60とを有し、それらは伸長しない部材(ここでは紐65)で連結されている。
【0015】
脳波測定装置10を頭部99に装着したときに、電極ユニット30の位置が概ね多角形の頂点となり、電極ユニット30間が支持部材20でわたされる形状となっている。すなわち、ちょうど電極ユニット30が取り付けられる部分(屈曲部27)で、支持部材20が屈曲している。
【0016】
<頭部への電極押付力F>
ここで、
図3および
図4を参照して本実施形態の特徴について説明する。
図3は、脳波測定装置10を装着したときに頭部99に作用する力(頭部への電極押付力F)をモデル化して説明する図である。
図4は、モデル化に用いたキャプスタン原理(方程式)を説明する図である。
【0017】
図3に示すように、脳波測定装置10を頭部99に装着した状態において、複数の電極ユニット30を頂点とし、電極ユニット30間を支持部材20で連結した多角形を形成する。このとき、支持部材20の張力によって、電極ユニット30を頭部99に押し付けていると想定すると、電極ユニット30を頭部99に押しつける力(電極押付力F)は、次の式1で表すことができる。
F=2・T
1・cos(θ)・・・式1
すなわち、頭部凹凸の個人差によって生じるθの差が電極押付力Fの差になって現れる。
【0018】
さらに、電極ユニット30の高さ及び間隔から、内接する円の最小曲率が求まる。また、電極ユニット30に必要な電極押付力Fと、キャプスタンの原理から最大曲率が求まる。なお、頭部99への電極押付力Fは、キャプスタン方程式に従うため、頭頂部よりも側頭部の方が大きくなる。
【0019】
ここで、支持部材20(フィルム基材)を頭部99に巻き付けている状態に近似と仮定する。頭部99と支持部材20との間には摩擦があるため、各電極ユニット30の張力は、次の式2に示すキャプスタン方程式に従うと考えられる。
T1=T2・e^(μ・φ) ・・・式2
μ:摩擦係数
φ:中心角
【0020】
上記式1および式2から支持部材20(フィルム基材)の端部に加える張力T1と電極ユニット30が頭部99に与える荷重(電極押付力F)の関係式が把握できる。
なお、上記の理論計算から算出した荷重値と実際に計測した荷重値を後述の実施例(
図6参照)で示す。
【0021】
<電極ユニット30>
電極ユニット30は、脳波測定に必要な部位にのみに、着脱可能に設けられている。電極ユニット30の取り付け位置は、例えば国際10-20電極配置法におけるT3、C3、Cz、C4、T4の位置に対応しており、
図1に示すように正面視で左右対称の配置となっている。
【0022】
図5に、支持部材20の凹型スナップボタン25に電極ユニット30が取り付けられた状態の断面図を示す。電極ユニット30は、ボタン電極として構成されており、接続端子として設けられた凸型スナップボタン35を有し、凸型スナップボタン35が支持部材20の所定位置に設けられた凹型スナップボタン25に脱着可能に取りつけられる。すなわち、凹型スナップボタン25が電極ユニット30を嵌合構造により取り付けるための実装部として機能する。
【0023】
電極ユニット30は、全体として導電性金属により構成されてもよいし、ゴム状の弾性部材をベースとして表面に導電性部材が設けられる構成であってもよい。以下では、ゴム状の弾性部材をベースとした構成について例示する。
【0024】
電極ユニット30は、円柱状の基部31と、基部31の一端(ここでは基部下面36)に一体に設けられた突起部32と、導電性接触部33と、信号線部34と、基部31の他端(ここでは基部上面37)に設けられた凸型スナップボタン35とを有する。なお、以下では基部31と突起部32とを便宜的に電極部本体39と称する。
【0025】
電極部本体39は、ゴム状の弾性部材によって一体に設けられている。弾性部材の具体的な材料については後述する。なお、電極部本体39(すなわち基部31と突起部32)は一体に設けられる構成に限らず、別体に設けたものを接着剤や嵌合構造により組み付けた構成でもよい。
【0026】
<基部31及び突起部32の形状>
基部31は略円柱形状である。基部31の一端側(図示では下側)の円形の基部下面36に、図示下側方向に突出する略円錐状の複数の突起部32が設けられている。なお、基部31は、柱状であればよく、断面が円のほかに多角形等の他の形状としてもよい。また、突起部32の形状は円錐形状に限らず、三角錐等の角錐や円柱形状など様々な形状を採用することができる。
【0027】
突起部32の少なくとも先端側表面には導電性接触部33が設けられている。突起部32の表面全体に導電性接触部33が設けられてもよい。
【0028】
基部31の外径は、例えば10mm~50mmである。基部31の高さ(厚さ)は、例えば0.1mm~30mmである。突起部32の高さは、例えば1mm~20mmである。突起部32の幅(根元部分の外径)は例えば1mm~10mmである。
【0029】
<電極部本体39(基部31及び突起部32)の材料>
電極部本体39の材料について説明する。電極部本体39は、上述のようにゴム状の弾性体とすることができる。ゴム状の弾性体として、具体的にはゴムや熱可塑性エラストマー(単に「エラストマー(TPE)」ともいう)である。ゴムとしては、例えばシリコーンゴムがある。熱可塑性エラストマーとして、例えば、スチレン系TPE(TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、塩化ビニル系TPE(TPVC)、ウレタン系TPE(TPU)、エステル系TPE(TPEE)、アミド系TPE(TPAE)などがある。
【0030】
電極部本体39の材料がシリコーンゴムである場合、37℃、JIS K 6253(1997)に準拠して測定される、電極部本体39の表面におけるタイプAデュロメータ硬さをゴム硬度Aとしたとき、ゴム硬度Aが、例えば、15以上55以下である。
【0031】
ここで、上記シリコーンゴム系硬化性組成物について説明する。
上記シリコーンゴムは、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成することができる。シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100~250℃で1~30分間加熱(1次硬化)した後、100~200℃で1~4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
【0032】
絶縁性シリコーンゴムは、導電性フィラーを含まないシリコーンゴムであり、導電性シリコーンゴムは導電性フィラーを含むシリコーンゴムである。
【0033】
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含むことができる。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0034】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを含んでもよい。同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンとは、少なくとも官能基が同じビニル基を含み、直鎖状を有していればよく、分子中のビニル基量や分子量分布、あるいはその添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるビニル基含有オルガノポリシロキサンをさらに含んでもよい。
【0035】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0036】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0037】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01~12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。なお、本実施形態において、「~」は、その両端の数値を含むことを意味する。
【0038】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0039】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000~10000程度、より好ましくは2000~5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0040】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9~1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0041】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0042】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
【0043】
【0044】
式(1)中、R1は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0045】
また、R2は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0046】
また、R3は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0047】
さらに、式(1)中のR1およびR2の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R3の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0048】
なお、式(1)中、複数のR1は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R2、およびR3についても同様である。
【0049】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0~2000の整数、nは1000~10000の整数である。mは、好ましくは0~1000であり、nは、好ましくは2000~5000である。
【0050】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
【0051】
【0052】
式(1-1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0053】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有するものであるのが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0054】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0055】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0056】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0057】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。
【0059】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、架橋剤を含んでもよい。架橋剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0060】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の架橋剤を含んでもよい。同種の架橋剤とは、少なくとも直鎖構造や分岐構造などの共通の構造を有していればよく、分子中の分子量分布や異なる官能基が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なる架橋剤をさらに含んでもよい。
【0061】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0062】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0063】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0064】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0065】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0066】
【0067】
式(2)中、R4は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0068】
また、R5は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0069】
なお、式(2)中、複数のR4は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R5についても同様である。ただし、複数のR4およびR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0070】
また、R6は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR6は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0071】
なお、式(2)中のR4,R5,R6の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0072】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0073】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0075】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0076】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0077】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0078】
平均組成式(c)
(Ha(R7)3-aSiO1/2)m(SiO4/2)n
(式(c)において、R7は一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0079】
式(c)において、R7は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0080】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0081】
また、式(c)において、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0082】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0083】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0084】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0085】
【0086】
式(3)中、R7は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R7の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0087】
なお、式(3)中、複数のR7は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0088】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0089】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0091】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、非導電性フィラーを含む。非導電性フィラーは、必要に応じ、シリカ粒子(C)を含んでもよい。これにより、エラストマーの硬さや機械的強度の向上を図ることができる。
【0092】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の非導電性フィラーを含んでもよい。同種の非導電性フィラーとは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、粒子径、比表面積、表面処理剤、又はその添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるシランカップリング剤をさらに含んでもよい。
【0093】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50~400m2/gであるのが好ましく、100~400m2/gであるのがより好ましい。また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1~100nmであるのが好ましく、5~20nm程度であるのがより好ましい。
【0095】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。
【0096】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0097】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種のシランカップリング剤を含んでもよい。同種のシランカップリング剤とは、少なくとも共通の官能基を有していればよく、分子中の他の官能基や添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるシランカップリング剤をさらに含んでもよい。
【0098】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子(C)の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子(C)とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子(C)の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子(C)の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0099】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0100】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0101】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0102】
Yn-Si-(X)4-n・・・(4)
上記式(4)中、nは1~3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0103】
疎水性基は、炭素数1~6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0104】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0105】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0106】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、次の通りである。
上記官能基として疎水性基を有するものとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0107】
上記官能基としてビニル基を有するものとして、例えば、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0108】
またシランカップリング剤(D)がトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤の2種を含む場合、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンを含むことが好ましい。
【0109】
トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤(D2)を併用する場合、(D1)と(D2)の比率は、特に限定されないが、例えば、重量比で(D1):(D2)が、1:0.001~1:0.35、好ましくは1:0.01~1:0.20、より好ましくは1:0.03~1:0.15である。このような数値範囲とすることにより、所望のシリコーンゴムの物性を得ることができる。具体的には、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。
【0110】
本実施形態において、シランカップリング剤(D)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤(D)の含有量上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、エラストマーを含む柱状部と導電性樹脂層との密着性を高めることができる。また、シリコーンゴムの機械的強度の向上に資することができる。また、シランカップリング剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な機械特性を持つことができる。
【0111】
<<白金または白金化合物(E)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、触媒を含んでもよい。触媒は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0112】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の触媒を含んでもよい。同種の触媒とは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、触媒中に異なる組成が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なる触媒をさらに含んでもよい。
【0113】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0114】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性組成物中における白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にはビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、白金族金属が重量単位で0.01~1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1~500ppmとなる量である。
白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴム系硬化性組成物が適切な速度で硬化することが可能となる。また、白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、製造コストの削減に資することができる。
【0116】
<<水(F)>>
また、本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)~(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0117】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。
【0118】
(その他の成分)
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、他の成分をさらに含むことができる。この他の成分としては、例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等のシリカ粒子(C)以外の無機充填材、反応阻害剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等の添加剤が挙げられる。
【0119】
本実施形態に係る導電性溶液(導電性シリコーンゴム組成物)は、導電性フィラーを含まない上記シリコーンゴム系硬化性組成物に加えて、上記導電性フィラーおよび溶剤を含むものである。
【0120】
上記溶剤としては、公知の各種溶剤を用いることができるが、例えば、高沸点溶剤を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
上記溶剤の一例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリドなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロアルカン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類などを例示することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
上記導電性溶液は、溶液中の固形分量などを調整することで、スプレー塗布やディップ塗布等の各種の塗布方法に適切な粘度を備えることができる。
【0123】
また、上記導電性溶液が上記導電性フィラーおよび上記シリカ粒子(C)を含む場合、電極部本体39が含むシリカ粒子(C)の含有量の下限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上とすることができる。これにより、電極部本体39の機械的強度を向上させることができる。一方で、上記電極部本体39が含むシリカ粒子(C)の含有量の上限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。これにより、電極部本体39における導電性と機械的強度や柔軟性とのバランスを図ることができる。
【0124】
導電性溶液を必要に応じて加熱乾燥することで、導電性シリコーンゴムが得られる。
導電性シリコーンゴムは、シリコーンオイルを含まない構成であってもよい。これにより、電極部本体39の表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで導通性が低下することを抑制できる。
【0125】
<導電性接触部33の材料>
導電性接触部33の導電部材は、例えば、良導性金属を含むペースト(いわゆる導電性ペースト)である。良導性金属は、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、或いはこれらの合金からなる群から選択される一種以上を含む。特に、入手性や導電性の観点から、銀や塩化銀、銅が好適である。
【0126】
良導性金属を含むペーストで導電性接触部33を形成する場合は、ゴム状の弾性体でできた突起部32の頂部を、良導性金属を含むペースト状の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)する。これにより、突起部32の表面に導電性接触部33が形成される。
【0127】
なお、導電性フィラーおよび溶剤を含む導電性溶液を、突起部32に塗布することにより、導電性樹脂層としての導電性接触部33を形成してもよい。このとき、溶剤を突起部32と同じ系統の材質(シリコーンゴム)とすることで、導電性接触部33(導電性樹脂層)の密着性を高められる。
【0128】
導電性溶液を必要に応じて加熱乾燥することで、導電性シリコーンゴムが得られる。
導電性シリコーンゴムは、シリコーンオイルを含まない構成であってもよい。これにより、導電性接触部33の表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで導通性が低下することを抑制できる。
【0129】
これにより、脳波測定装置1を頭部99へ装着する際の毛髪の掻き分け性能を向上させることができる。また、脳波測定装置1を装着した際の導電性接触部33の接触面積の十分な確保が可能となる。
【0130】
<信号線部34の構造>
電極ユニット30には、導電性接触部33に接続する信号経路として信号線部34が設けられている。信号線部34は、基部31及び突起部32を介して導通する態様であれば各種の配線構造を採用し得る。ここでは、信号線部34は、突起部32の先端の導電性接触部33から、突起部32及び基部31の内部を通り、基部上面37に露出するように設けられている。信号線部34のうち、基部上面37から突出している部分(ここでは端部34a)が、凸型スナップボタン35(より具体的には後述の円盤部35a)と基部上面37との間に挟まれて、凸型スナップボタン35との導通が確保される。
【0131】
信号線部34の下側先端は、突起部32の先端部分またはその近傍、すなわち導電性接触部33が形成される領域に対して、突出した構造、略同一面上となる構造、埋没した構造のいずれでもよい。導電性接触部33との接続安定性の観点から、突出した構造を用いてもよい。信号線部34の先端の突出部分は、一部または全体が導電性接触部33で覆われている。信号線部34の先端の突出構造は、折り返し無し、折り返し有り、突起部32の先端部の表面に巻き付ける構造が採用し得る。
【0132】
信号線部34の他の配線構造として、突起部32及び基部31の表面に設けられる構造であってもよいし、一部が内部に一部が表面に設けられる配線構造であってもよい。すなわち、導電性接触部33が検出した信号が最終的に凸型スナップボタン35に伝わればよい。
【0133】
<信号線部34の材料>
信号線部34は、公知のものを使用することができるが、例えば、導電繊維で構成され得る。導電繊維としては、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0134】
上記金属繊維、金属被覆繊維、の金属材料は、導電性を有するものであれば限定されないが、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ステンレス、アルミニウム、銀/塩化銀およびこれらの合金等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、導通性の観点から、銀を用いることができる。また、金属材料は、クロム等の環境に負荷を与える金属を含まないことが好ましい。
【0135】
上記金属被覆繊維、導電性ポリマー被覆繊維、導電ペースト被覆繊維の繊維材料は、特に限定されないが、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、絹および綿等を用いることが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
上記炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0137】
上記導電性ポリマー繊維および導電性ポリマー被覆繊維の導電性ポリマー材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体等の導電性高分子およびバインダ樹脂の混合物、あるいは、PEDOT-PSS((3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸))等の導電性高分子の水溶液が用いられる。
【0138】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる樹脂材料は特に限定されないが伸縮性を有することが好ましく、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、およびエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる導電性フィラーは特に限定されないが、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0140】
上記導電性フィラーを構成する金属は、特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、銀/塩化銀、或いはこれらの合金のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。この中でも、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅が好ましい。
【0141】
信号線部34が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成されてもよい。これにより、変形時における信号線部34の断線を抑制できる。
【0142】
本実施形態において、導電繊維における被覆とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚り合わせた撚糸などの場合は、その撚糸の中の繊維間隙に金属、導電性ポリマー、または導電ペーストが含浸し、撚糸を構成する単繊維を1本毎に被覆するものを含む。
【0143】
信号線部34の引張破断伸度は、例えば、1%以上~50%以下、好ましくは1.5%以上~45%である。このような数値範囲内とすることで、変形時の破断を抑制しつつも、突起部32の過度な変形を抑制できる。
【0144】
<凸型スナップボタン35および凹型スナップボタン25>
凸型スナップボタン35は、例えば、良導体の金属からなり、円盤状の円盤部35aと、円盤部35aの上面の中心から延出する凸ボタン状のボタン部35bとを有する。良導体の金属として、例えばステンレス、銅合金、アルミニウム合金、真鍮などを用いることができる。
【0145】
円盤部35aは基部31の基部上面37に、導電性接着剤等により取り付けられる。このとき、上述したように、円盤部35aと基部上面37との間に信号線部34の端部34aが挟まれて、凸型スナップボタン35との導通が確保される。
ボタン部35bは、支持部材20に設けられた凹型スナップボタン25に嵌合するように取り付けられる。
凹型スナップボタン25は、凸型スナップボタン35と同様に、良導体の金属からなり、電極ユニット30が取得した脳波を、所定の配線構造(図示せず)により脳波表示装置等に出力する。
【0146】
<支持部材20>
支持部材20は、長尺帯状のフィルム基材を有して構成されている。支持部材20は、1種類のフィルム基材から構成されてもよいし、複数のフィルム基材から構成された複合部材であってもよい。いずれにせよ、支持部材20は、電極ユニット30を取り付けるための十分な強度を有するように構成される。すなわち、凹型スナップボタン25を設け電極ユニット30を取り付けたときに、破損しない十分な強度を有する。また、複数の電極ユニット30が頭部99に適正な圧力で押しつけられるように、すなわち、一定の張力が作用するようにする観点から、伸縮しない物性を有する。
【0147】
支持部材20の縦幅(奥行き方向長さ)は、装着される電極ユニット30の大きさにもよるが、例えば、5mm~50mmとすることができる。
支持部材20の横幅(左右方向長さ)は、頭部99の大きさや電極位置にもよるが、例えば、200mm~400mmとすることできる。
支持部材20の厚みは、材料にもよるが、例えば、0.01mm~5mmとすることができる。支持部材20の厚みを上記範囲とすることで、電極ユニット30を一定の張力で押しつけた状態とすることができる。なお、支持部材20は、頭部99の形状や頭髪の状態に応じて、張力が実質的に変化しない程度に湾曲してもよい。
【0148】
支持部材20(フィルム部材)の材料としては、例えば、樹脂部材や金属部材、ガラスフィルムを用いることができる。樹脂部材としては、ポリイミド樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂フィルム、ポリアミドイミド樹脂フィルム等のポリイミド樹脂系樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム等のポリアミド樹脂系フィルム、ポリエステル樹脂フィルム等のポリエステル樹脂系フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂系フィルム、PS(ポリスチレン)樹脂系フィルムが挙げられる。このうち、屈曲性、弾性率および耐熱性を向上させる観点から、特にポリイミド樹脂系フィルムが好ましく用いられる。金属部材としては、例えば、アルミ箔や銅箔を用いることができる。
【0149】
<支持部材20の物性値等>
支持部材20の物性値(ポアソン比、ヤング率、最大厚み、ヤング率×厚み)を規定すると、例えば、以下の通りである。
(ポアソン比)
支持部材20のポアソン比は、0.15~0.4である。ポアソン比の下限は好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.25以上である。ポアソン比の上限は好ましくは0.38以下であり、より好ましくは0.35以下である。
支持部材20のポアソン比を上記範囲とすることで、支持部材20が変形しづらい。すなわち、脳波測定装置10を頭部99に装着した場合、電極ユニット30が頭部99に押しつけられた状態のときに、支持部材20が伸長する方向に力が作用する。すなわち、張力が作用する。このとき、支持部材20がゴムのような弾性部材であると、支持部材20が不適切に伸長してしまい、電極ユニット30が頭部99を張力が変化し、押しつける力が不均一になってしまうことがある。その結果、得られる脳波の信号品位が低下してしまうことがある。しかしながら、支持部材20のポアソン比を上記範囲とすることで、電極ユニット30が頭部99を押しつける力を一定の範囲に制御することができ、安定した脳波測定が可能となる。
【0150】
(ヤング率)
支持部材20のヤング率(弾性率)は、0.4GPa~150GPaである。ヤング率の下限値は、好ましくは3GPa以上であり、より好ましくは5GPa以上である。上限値は、好ましくは140GPa以下であり、より好ましくは135GPa以下である。
支持部材20のヤング率を上記範囲とすることで、支持部材20の強度を保ち、変形してしまうことを防止できる。
【0151】
(ヤング率×厚み)
フィルム部材を構成する材料のヤング率(弾性率)と厚みの積が0.4~9.1である。
変形しやすい材料(すなわちヤング率が小さい材料)であっても、厚みが一定程度以上であれば、実質的に変形することなく、電極ユニット30が頭部99を押しつける力を一定の範囲に制御することができる。また、硬い材料(すなわちヤング率が大きい材料)の場合、ある程度厚みを薄くしないと、脳波測定装置10を頭部99の形状への追従が著しく低下してしまう。したがって、ヤング率(弾性率)と厚みの積を上記範囲とすることで、支持部材20に取り付けられた電極ユニット30が頭部99を押しつける力を一定の範囲に制御することができ、安定した脳波測定が実現できる。
【0152】
<取付部70>
取付部70は、支持部材20の長手方向両端のそれぞれに取り付けられ、被験者の測定部位とは異なる部位(ここでは耳)と支持部材20との間にわたされて、電極ユニット30を所定の電極押付力Fで頭部99に押しつける。
【0153】
具体的には、取付部70は、調整部50と、耳装着部40と、張力表示部60と、を備え、それらは伸長しない紐65で連結されている。
【0154】
耳装着部40は被験者の耳に装着される。本実施形態では、耳装着部40が耳下から巻き付けるようにして装着される。
【0155】
調整部50は、支持部材20の両端のそれぞれに取り付けられる。調整部50は、支持部材20に取り付けられる板状部材52と、板状部材52の長さを固定するためのロック部51とを有する。
【0156】
板状部材52は、複数の歯が列設した長尺帯状である。ロック部51には、爪が形成された開口が設けられており、その開口に板状部材52を挿通し所望の位置でロックする。また、ロック部51は、爪と連動してロック状態を解除する解除部が設けられている。調整部50の材料として特に限定はしないが各種のプラスチックを用いることができる。物性、加工性やコスト等の観点から、66ナイロンを好んで用いることができる。
【0157】
張力表示部60は、バネ部材と、バネ部材の伸長状態を表示する表示目盛りとを有し、バネ部材の伸長状態から張力表示部60に作用している張力、すなわち、支持部材20の両端に作用している張力が視認可能になっている。張力表示部60の表示から、上述したキャプスタン方程式に基づくモデル化の原理により、電極ユニット30に作用している電極押付力Fを把握できる。換言すると、調整部50を調整することで電極押付力Fを制御できる。
【0158】
以上、本実施形態によると、脳波測定装置10において、電極ユニット30がフィルム基材で構成される支持部材20に固定され、必要部位にのみ取り付けられた電極ユニット30を頂点とした多角形を形成する。このため、電極ユニット30の頭部形状への追従性を良好にすることができる。また、脳波測定装置10の装着状態を、キャプスタン方程式によるモデル化したことで、電極ユニット30による電極押付力Fを適切に把握できる。
【0159】
[第2の実施形態]
図6~
図9を参照して第2の実施形態について説明する。本実施形態と第1の実施形態と異なる点は、(1)電極ユニット30の支持部材20への取付構造をネジ嵌合構造にした点と、(2)調整部150の構造および設置位置にある。以下、第1の実施形態と異なる点について主に説明し、同様の構成については適宜同一の符号を付して説明を省略する。
【0160】
図6は人の頭部99に脳波測定装置110を装着した状態を正面から見た模式図である。
図7は、電極ユニット30を支持する支持部材20および取付部70を示した図である。
図8に、支持部材20の雌ネジ型接続端子125に電極ユニット30が取り付けられた状態の断面図を示す。
【0161】
支持部材20には、電極ユニット30を固定するための雌ネジ型接続端子125が設けられており、電極ユニット30の雄ネジ型接続端子135がネジ嵌合するようになっている。
具体的には、電極ユニット30は、接続端子として設けられた雄ネジ型接続端子135を有する。雄ネジ型接続端子135が支持部材20の所定位置に設けられた雌ネジ型接続端子125に、ネジ嵌合により脱着可能に取りつけられる。すなわち、雌ネジ型接続端子125が電極ユニット30を嵌合構造により取り付けるための実装部として機能する。
【0162】
雄ネジ型接続端子135は、円盤状の円盤部135aと、円盤部135aの上面の中心から延出する凸部135bとを有する。凸部135bは、円柱状に形成され、その周面には螺刻が形成された雄ネジとなっている。
雌ネジ型接続端子125は、螺刻された開口125aを有する。
雌ネジ型接続端子125(すなわち開口125a)と雄ネジ型接続端子135(すなわち凸部135b)とがネジ嵌合することで、支持部材20に電極ユニット30が取り付けられる。
電極ユニット30と支持部材20の取り付け態様としてネジ嵌合を採用することで、取り付け部分を安定させてノイズ発生を抑制することができる。
【0163】
図9に調整部150を示す。
図9(a)は側面図、
図9(b)は平面図である。
調整部150は、
図6に示すように、支持部材20において電極位置C3とT3の間及び電極位置C4とT4の間のそれぞれに縫い付けられている。調整部150は、支持部材20に取り付けられる板状部材152と、板状部材152をスライドするとともに所望の位置で固定するロック部151とを有する。ロック部151には、紐65を取り付ける紐取付部154が設けられている。なお、支持部材20の長手方向の両端には、凸状の紐ガイド部126が設けられている。紐ガイド部126には左右方向に連通する開口が設けられ、紐65が挿通される。これにより、紐65が基材21の両端部を必ず通るようになり、脳波測定装置10の装着状態を適正にすることができる。
【0164】
板状部材152は、複数の凸部152aが列設したレール状の長尺帯状である。ロック部151は、凸部152aにより形成されているレールにスライド可能に嵌め込まれる。ロック部151は、スライド不能に保持するロック機構156を有する。ロック機構156に対する所定操作(例えば横方向に押し込む操作)により、スライド不能な状態が解除される。
ロック部151が板状部材152上でスライドすることで、紐65に取り付けれた耳装着部40と支持部材20との距離を調整することができる。
【0165】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0166】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下の実施例では、「支持部材(フィルム基材)の検証」と「キャプスタン方程式に基づくモデル化の検証」について確認を行った。
【0167】
<<支持部材(フィルム基材)の検証>>
実施例1~7および比較例1の計8サンプルについて、支持部材20として適正であるか否かの評価を行った。
評価基準は、次の通り3段階で評価した。
評価A…一定の張力(0.6N)を加えた際に、電極位置のずれが小さい(5mm以下)
評価B…一定の張力(0.6N)を加えた際に、電極位置のずれが許容範囲である(10mm以下)
評価C…一定の張力(0.6N)を加えた際に、電極位置のずれが許容範囲である(10mmより大きい)
【0168】
実施例1~7および比較例1の各サンプルの材料は次の通りである。また、表1に各物性(ポアソン比、ヤング率、最大厚み、ヤング率×厚み)を示す。
実施例1…PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂
実施例2…PI(ポリイミド)樹脂
実施例3…アルミ箔
実施例4…銅箔
実施例5…PS(ポリスチレン)樹脂
実施例6…PE(ポリエチレン)樹脂
実施例7…ガラスフィルム
比較例1…ゴム
【0169】
実施例1~6では、一定の張力を加えた際の電極の位置ずれが小さく、狙いの位置で脳波取得を安定して行うことができた。
実施例7では、支持部材20のヤング率が実施例1~6と比較して小さく、厚みを他サンプルと比較して大きくして変形の抑制を狙ったが、一定の張力を加えた際の電極のずれが若干大きかった。
比較例1では、支持部材20ではヤング率が小さく、かつポアソン比が大きいため、厚みを厚くしても変形が抑制できず、一定の張力を加えた際に電極位置が大きくずれた。
【0170】
【0171】
<<キャプスタン方程式に基づくモデル化の検証>>
実施形態に示した脳波測定装置10を、頭部モデルに装着させ、頭部モデル表面に配置した圧力センサーを用いて電極押付力Fを測定し、キャプスタン方程式に基づくモデルから算出して得られた計算値と比較した。
【0172】
脳波測定装置10の具体的な仕様は次の通りである。
脳波測定位置:T3、C3、Cz、C4、T4の5箇所
電極ユニット:基部直径 10mm
基部厚み 5mm
突起部高さ 5mm
突起部数 7
電極間距離 70mm
支持部材(フィルム基材):
PI樹脂
ポアソン比 0.3
ヤング率 3.4GPa
最大厚さ 0.225mm
なお、耳装着部40による耳への固定の代わりに、両端に各200gの重りを取り付けて、脳波測定装置10の装着状態を模した。
【0173】
図10に、T3、C3、Cz、C4、T4の5箇所の電極押付力Fの理論値(計算値)と実測値のグラフを示す。図示から分かるように、理論値と実測値がほぼ一致しており、モデル化が妥当であることが確認できた。