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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072961
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】給湯装置及び給湯装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24H 4/02 20220101AFI20240522BHJP
   F24H 15/144 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/156 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/16 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/212 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/258 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/32 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/375 20220101ALI20240522BHJP
   F24H 15/421 20220101ALI20240522BHJP
【FI】
F24H4/02 F
F24H15/144
F24H15/156
F24H15/16
F24H15/212
F24H15/258
F24H15/32
F24H15/375
F24H15/421
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183878
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 和裕
(72)【発明者】
【氏名】中山 賢一
【テーマコード(参考)】
3L122
【Fターム(参考)】
3L122AA02
3L122AA12
3L122AA23
3L122AA54
3L122AB22
3L122AB33
3L122BA02
3L122BA12
3L122BA13
3L122BA32
3L122BB05
3L122BB12
3L122BB15
3L122DA01
3L122DA02
3L122EA42
3L122EA50
3L122FA02
(57)【要約】
【課題】ヒートポンプユニット及び補助熱源機を備えた給湯装置の効率化を改善する。
【解決手段】給湯装置は、電気エネルギーを駆動源として作動するヒートポンプユニットと、ヒートポンプユニットにより加熱された湯水を貯留する貯湯タンクと、貯湯タンクの貯湯熱量が給湯使用熱量に対して不足する場合に、燃料を燃焼させて給湯する湯水を加熱するための補助熱源機とを備える。制御装置は、過去の給湯使用実績に基づいて単位時間帯毎の予測給湯使用熱量を算出し、予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差分布を推定する。制御装置は、推定された誤差分布を用いて、実給湯使用熱量を生成するときにヒートポンプユニットの貯湯運転及び補助熱源機の燃焼動作により生じる、対象指標における損失の期待値を算出する。制御装置は、損失の期待値を最小とする最適貯湯熱量を求め、貯湯タンクが最適貯湯熱量を貯湯するようにヒートポンプユニットを制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーを駆動源として作動するヒートポンプユニットと、
前記ヒートポンプユニットにより加熱された湯水を貯留する貯湯タンクと、
前記貯湯タンクから給湯を行う給湯回路と、
前記貯湯タンクの貯湯熱量が給湯使用熱量に対して不足する場合に、燃料を燃焼させて給湯する湯水を加熱するための補助熱源機と、
前記ヒートポンプユニット及び前記補助熱源機を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
過去の給湯使用実績に基づいて、単位時間帯毎の予測給湯使用熱量を算出し、
前記予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差分布を推定し、
推定された前記誤差分布を用いて、前記実給湯使用熱量を生成するときに前記ヒートポンプユニットの貯湯運転及び前記補助熱源機の燃焼動作により生じる、対象指標における損失の期待値を算出し、
前記損失の期待値を最小とする最適貯湯熱量を求め、前記貯湯タンクが前記最適貯湯熱量を貯湯するように前記ヒートポンプユニットを制御する、給湯装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差が正規分布に従うものと仮定して前記誤差分布を推定する、請求項1に記載の給湯装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記対象指標として、前記ヒートポンプユニット及び前記補助熱源機の作動に伴うコストを用いる、請求項1または2に記載の給湯装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記貯湯タンクの貯湯熱量が前記実給湯使用熱量よりも小さい場合、及び、前記貯湯タンクの貯湯熱量が前記実給湯使用熱量よりも大きい場合に損失するコストを算出し、
算出された前記損失するコストと、推定された前記誤差分布とを用いて、前記損失の期待値を算出する、請求項3に記載の給湯装置。
【請求項5】
前記ヒートポンプユニットの作動に伴うコストは、前記ヒートポンプユニットにおける一次エネルギー消費量、電気エネルギーの購入費用、及び電気エネルギーによって発生するCO量の少なくとも1つを含み、
前記補助熱源機の作動に伴うコストは、前記補助熱源機における一次エネルギー消費量、燃料の購入費用、及び燃料の燃焼により発生するCO量の少なくとも1つを含む、請求項3に記載の給湯装置。
【請求項6】
前記制御装置は、発電所から送電された電気エネルギーを駆動源として前記ヒートポンプユニットが作動する場合、前記発電所の発電効率、前記発電所からの送配電損失及び前記ヒートポンプユニットの成績係数に基づいた一次エネルギーの消費量を用いて、前記ヒートポンプユニットの作動に伴うコストを設定し、
前記ヒートポンプユニットに接続された太陽光発電装置により生成された電気エネルギーを駆動源として前記ヒートポンプユニットが作動する場合、前記ヒートポンプユニットの成績係数に基づいた一次エネルギー消費量を用いて、前記ヒートポンプユニットの作動に伴うコストを設定する、請求項5に記載の給湯装置。
【請求項7】
給湯装置における貯湯運転を制御する制御方法であって、
前記給湯装置は、
電気エネルギーを駆動源として作動するヒートポンプユニットと、
前記ヒートポンプユニットにより加熱された湯水を貯留する貯湯タンクと、
前記貯湯タンクから給湯を行う給湯回路と、
前記貯湯タンクの貯湯熱量が給湯使用熱量に対して不足する場合に、燃料を燃焼させて給湯する湯水を加熱するための補助熱源機とを含み、
過去の給湯使用実績に基づいて、単位時間帯毎の予測給湯使用熱量を算出するステップと、
前記予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差分布を推定するステップと、
推定された前記誤差分布を用いて、前記実給湯使用熱量を生成するときに前記ヒートポンプユニットの貯湯運転及び前記補助熱源機の燃焼動作により生じる、対象指標における損失の期待値を算出するステップと、
前記損失の期待値を最小とする最適貯湯熱量を算出するステップと、
前記貯湯タンクが前記最適貯湯熱量を貯湯するように前記ヒートポンプユニットを制御するステップとを含む、給湯装置の制御方法。
【請求項8】
前記誤差分布を推定するステップは、前記予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差が正規分布に従うものと仮定して前記誤差分布を推定するステップを含む、請求項7に記載の給湯装置の制御方法。
【請求項9】
前記損失の期待値を算出するステップは、
前記対象指標として前記ヒートポンプユニット及び前記補助熱源機の作動に伴うコストを用いて、前記実給湯使用熱量の生成により損失するコストを算出するステップと、
前記損失するコストと前記誤差分布とを用いて、前記損失の期待値を算出するステップとを含む、請求項7または8に記載の給湯装置の制御方法。
【請求項10】
前記ヒートポンプユニットの作動に伴うコストは、前記ヒートポンプユニットにおける一次エネルギー消費量、電気エネルギーの購入費用、及び電気エネルギーによって発生するCO量の少なくとも1つを含み、
前記補助熱源機の作動に伴うコストは、前記補助熱源機における一次エネルギー消費量、燃料の購入費用、及び燃料の燃焼により発生するCO量の少なくとも1つを含む、請求項9に記載の給湯装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯装置及び給湯装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6086014号公報(特許文献1)には、給湯や浴槽の湯張り用の湯水を予め加熱して貯湯タンクに貯留するためのヒートポンプ式貯湯装置と、給湯等の使用時に湯水を加熱するための燃焼式補助熱源機とを備えたヒートポンプ給湯器が開示されている。
【0003】
特許文献1では、過去の給湯使用実績に基づいて単位時間帯毎に要求される給湯使用熱量が予測される。そして、ヒートポンプ式貯湯装置による貯湯運転を行うときには、予測給湯使用熱量に基づいて設定した貯湯運転の複数の運転パターンのうち、省エネルギー性が最大となる運転パターンで貯湯運転を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6086014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、過去の給湯使用実績から求められる予測給湯使用熱量を、実給湯使用熱量に完全に一致させることは極めて困難であり、予測給湯使用熱量と実給湯使用熱量との間には少なからず誤差が存在する。
【0006】
そのため、予測給湯使用熱量に従って貯湯運転を行った場合には、実給湯使用熱量に対して貯湯タンクの貯湯熱量が不足する、又は、貯湯タンクの貯湯熱量が実給湯使用熱量を上回る貯湯過剰となる事態が起こり得る。このような貯湯不足及び貯湯過剰に伴って、ヒートポンプユニット及び補助熱源機の作動に伴うコストには損失が発生する。したがって、給湯装置の効率化には改善の余地がある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ヒートポンプユニット及び補助熱源機を備えた給湯装置の効率化を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある局面では、給湯装置が提供される。給湯装置は、電気エネルギーを駆動源として作動するヒートポンプユニットと、ヒートポンプユニットにより加熱された湯水を貯留する貯湯タンクと、貯湯タンクから給湯を行う給湯回路と、貯湯タンクの貯湯熱量が給湯使用熱量に対して不足する場合に、燃料を燃焼させて給湯する湯水を加熱するための補助熱源機と、ヒートポンプユニット及び補助熱源機を制御する制御装置とを備える。制御装置は、過去の給湯使用実績に基づいて、単位時間帯毎の予測給湯使用熱量を算出し、予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差分布を推定する。制御装置は、推定された誤差分布を用いて、実給湯使用熱量を生成するときにヒートポンプユニットの貯湯運転及び補助熱源機の燃焼動作により生じる、対象指標における損失の期待値を算出する。制御装置は、損失の期待値を最小とする最適貯湯熱量を求め、貯湯タンクが最適貯湯熱量を貯湯するようにヒートポンプユニットを制御する。
【0009】
本発明の別の局面では、給湯装置における貯湯運転を制御する制御方法が提供される。給湯装置は、電気エネルギーを駆動源として作動するヒートポンプユニットと、ヒートポンプユニットにより加熱された湯水を貯留する貯湯タンクと、貯湯タンクから給湯を行う給湯回路と、貯湯タンクの貯湯熱量が給湯使用熱量に対して不足する場合に、燃料を燃焼させて給湯する湯水を加熱するための補助熱源機とを含む。制御方法は、過去の給湯使用実績に基づいて、単位時間帯毎の予測給湯使用熱量を算出するステップと、予測給湯使用熱量に対する実給湯使用熱量の誤差分布を推定するステップと、推定された誤差分布を用いて、実給湯使用熱量を生成するときにヒートポンプユニットの貯湯運転及び補助熱源機の燃焼動作により生じる、対象指標における損失の期待値を算出するステップと、損失の期待値を最小とする最適貯湯熱量を算出するステップと、貯湯タンクが最適貯湯熱量を貯湯するようにヒートポンプユニットを制御するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒートポンプユニット及び補助熱源機を備えた給湯装置の効率化を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に従う給湯装置の全体構成例を示すブロック図である。
図2】コントローラのハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に従う給湯装置における貯湯制御の処理手順を説明するフローチャートである。
図4】正規分布の確率密度関数の一例を示す図である。
図5】実給湯使用熱量の生成により損失するコストを説明するための図である。
図6】損失するコストの期待値を説明するための図である。
図7】線形近似式の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0013】
<給湯装置の全体構成>
図1は、本実施の形態に従う給湯装置の全体構成例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態に従う給湯装置5は、ハイブリッド給湯装置であって、貯湯給湯ユニット10と、ヒートポンプユニット60と、リモートコントローラ(以下、「リモコン」と表記する)200とを備える。貯湯給湯ユニット10には、給湯装置5の主制御部であるコントローラ100が内蔵されており、コントローラ100とリモコン200とは通信線17によって接続されている。
【0015】
貯湯給湯ユニット10は、燃料ガス燃焼式の補助熱源機31と、貯湯タンク30と、入水配管32,33と、出湯配管34と、循環用配管35,36と、高温水配管37と、補助熱源機31用の配管38,39と、循環ポンプ40と、比例弁42と、混合弁44と、逆止弁45,46と備える。
【0016】
入水配管33は、入水口20と、貯湯タンク30の底部との間に接続される。入水配管33には、逆止弁46が介挿接続される。入水配管33により貯湯タンク30に低温水が導入される。
【0017】
循環用配管35,36は、循環ポンプ40の作動時に、ヒートポンプユニット60と貯湯タンク30との間に循環経路を形成するように配置される。貯湯タンク30に湯水を貯留する貯湯運転では、循環ポンプ40の回転数等の調整によって、循環用配管36に配置された温度センサ53により検出される、貯湯タンク30に対する戻り温度が目標貯湯温度になるように制御される。
【0018】
ヒートポンプユニット60は、電気エネルギーを駆動源として、家庭内で消費される熱負荷(給湯や暖房)に必要なエネルギーを供給するための主電源として作動する。ヒートポンプユニット60は、貯湯運転時に、外気から吸熱した熱により温水を加熱して貯湯タンク30に貯留する。貯湯運転により貯湯タンク30に貯留された湯水は給湯及び浴槽の湯張りに使用される。
【0019】
なお、主熱源には、ヒートポンプユニット60以外に、燃料電池ユニット、又は、エンジン及び発電機を有するエンジン発電ユニット等の発熱を伴って発電する発電ユニットを採用することができる。発電ユニットの冷却に伴う排熱回収により、貯湯タンク30の貯留水を加熱して貯湯タンク30に戻すことができる。
【0020】
ヒートポンプユニット60は、圧縮機61、凝縮熱交換器62、膨張弁63、蒸発熱交換器64を冷媒回路65により接続して構成される。ヒートポンプユニット60は、冷媒回路65に封入された冷媒を圧縮機61で圧縮して高温にし、循環ポンプ40により循環用配管35,36を通流する湯水を、凝縮熱交換器62にて高温の冷媒との熱交換により加熱する。熱交換後の冷媒は、膨張弁63による膨張されて外気よりも低温になり、蒸発熱交換器64で外気から吸熱した後、再び圧縮機61に導入される。
【0021】
蒸発熱交換器64は、図示は省略するが、外気温度を検出する外気温度センサと、送風機とを有する。ヒートポンプユニット60は、圧縮機61、膨張弁63、送風機等を制御する補助制御部66を備えている。補助制御部66は、コントローラ100に通信可能に接続されており、コントローラ100からの指令に従ってヒートポンプユニット60を制御する。
【0022】
高温水配管37は、貯湯タンク30の上部と、混合弁44の高温側ポートとの間に接続される。一方で、混合弁44の低温側ポートと、入水口20との間には、逆止弁45が介挿接続された入水配管32が接続される。さらに、混合弁44の出湯ポートと、出湯口25との間には、出湯配管34が接続される。さらに、入水配管32及び出湯配管34の間には、混合弁44をバイパスして入水配管32及び出湯配管34を接続する電磁弁48が配置される。
【0023】
出湯口25の先に接続される給湯栓(図示せず)が開栓されると、入水口20への入水圧に応じて、入水配管33を介して貯湯タンク30へ低温水が導入されるとともに、貯湯タンク30から、高温水配管37を介して混合弁44(高温側ポート)へ高温水が出力される。さらに、入水配管32を介して、低温水が混合弁44(低温側ポート)へ入力される。これにより、混合弁44の出力ポートから出湯配管34を介して出湯口25へ、高温水及び低温水を混合することによって、給湯設定温度に従う適温の湯が出力される。
【0024】
補助熱源機31は、燃料ガスの燃焼熱によって湯水を加熱する瞬間式給湯器である。補助熱源機31は、コントローラ100からの指令により作動され、配管38を介して貯湯タンク30から導入された湯水を加熱して配管39へ出力する。配管39には、補助熱源機31の通流量を制御するための比例弁42が設けられる。
【0025】
貯湯タンク30の貯湯水の温度が高いときには、コントローラ100は、補助熱源機31を停止するとともに比例弁42を全閉として、貯湯タンク30に貯留された高温水を混合弁44(高温側ポート)へ供給することによって給湯することができる。
【0026】
一方で、貯湯タンク30の貯湯水の温度が低いときには、コントローラ100は、比例弁42を開放状態とするとともに補助熱源機31を作動して、補助熱源機31で加熱された高温水を混合弁44(高温側ポート)へ供給することによって給湯することができる。比例弁42の開度を全開及び全閉の中間とすると、貯湯タンク30及び補助熱源機31の両方から高温水を供給することも可能である。
【0027】
貯湯タンク30には、貯留水の温度を検出するための複数の温度センサ51が設けられる。複数の温度センサ51は、貯湯タンク30の表面に、鉛直方向に高さを変えて取り付けられている。複数の温度センサ51及び貯湯タンク30は、貯留された湯水の放熱を低減するために、図示しない保温材で覆われている。
【0028】
複数の温度センサ51の検出値は、貯湯タンク30内の貯湯熱量を算出するときに用いられる。本明細書において「貯湯熱量」とは、貯湯タンク30に貯留された湯水の量、または、当該湯水に湯温を加味した熱量(蓄熱量)を意味している。
【0029】
循環用配管35及び36には、ヒートポンプユニット60に対する往き温度及び戻り温度を検出するための温度センサ52及び53がそれぞれ設けられる。また、入水配管32に配置された温度センサ54によって入水温度が検出され、出湯配管34に配置された温度センサ55によって出湯温度が検出される。高温水配管37には、混合弁44に入力される高温水の温度を検出するための温度センサ58が配置される。さらに、補助熱源機31についての入力温度及び出力温度を検出するための温度センサ56及び57が、配管38及び39にそれぞれ配置される。
【0030】
リモコン200は、台所及び浴室等に配置された、給湯装置5を操作するための入力装置である。リモコン200は、ユーザが視認可能な態様で情報を出力するための表示部と、給湯装置5の運転オンオフを操作する運転スイッチと、ユーザ等による入力設定操作を受け付けるための操作部とを含む。表示部は、代表的には、液晶パネルによって構成されている。操作部は、代表的には、プッシュボタンやタッチボタンによって構成されており、給湯設定温度に代表される、給湯装置5の設定操作を受け付け可能に構成される。
【0031】
コントローラ100は、リモコン200に入力されたユーザ指示に従って給湯装置5が動作するように、上述したセンサを含むセンサ群の検出値を用いて、給湯装置5の各構成機器の動作を制御する。コントローラ100に入力される各種センサの検出値を含む、給湯装置5の運転状態を示す状態データの一部はコントローラ100の内部に蓄積される。
【0032】
一例として、コントローラ100は、温度センサ51の検出値から算出される貯湯タンク30の貯留熱量に基づいて、上述のように、補助熱源機31の作動及び停止、並びに、比例弁42の開度を制御する。あるいは、コントローラ100は、貯湯タンク30の貯湯熱量に基づいて、ヒートポンプユニット60の動作、並びに循環ポンプ40の作動及び停止を制御する。
【0033】
また、コントローラ100は、温度センサ55によって検出される出湯温度に基づいて、混合弁44による低温水及び高温水の混合比を制御することができる。また、出湯温度の過上昇時には、電磁弁48を開放して、出湯温度を低下させることができる。
【0034】
さらに、コントローラ100は、記憶した給湯装置5の使用実績に基づいて、将来の給湯使用熱量を予測する。コントローラ100は、予測した給湯使用熱量に相当する熱量を、給湯使用の前にヒートポンプユニット60を作動して貯湯タンク30に貯留するように貯湯運転を制御する。コントローラ100は、後述するように、過去の給湯使用実績に基づいて、予測給湯使用熱量、貯湯時刻、及び目標貯湯熱量等を含む貯湯運転条件を設定する貯湯制御を実行する。コントローラ100は「制御装置」の一実施例に対応する。
【0035】
<コントローラのハードウェア構成>
次に、図2を用いて、コントローラ100のハードウェア構成例を説明する。
【0036】
図2に示すように、コントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)70と、RAM(Random Access Memory)72と、ROM(Read Only Memory)74と、I/F(Interface)装置76と、記憶装置78とを含んで構成される。CPU70、RAM72、ROM74、I/F装置76及び記憶装置78は、通信バス80を通じて各種データを遣り取りする。
【0037】
CPU70は、ROM74に格納されているプログラムをRAM72に展開して実行する。ROM74に格納されているプログラムには、コントローラ100によって実行される処理が記述されている。
【0038】
I/F装置76は、リモコン200及びヒートポンプユニット60と信号及びデータを遣り取りするための入出力装置である。I/F装置76は、リモコン200からユーザ指示を受信する。
【0039】
記憶装置78は、各種情報を記憶するストレージであって、ヒートポンプユニット60の情報、貯湯給湯ユニット10の情報、及び、過去の給湯使用実績に関する情報等を記憶する。記憶装置78は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)またはソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)等である。
【0040】
<貯湯制御>
次に、図3を用いて、コントローラ100による給湯装置5の貯湯制御について説明する。この貯湯制御に付随して、給湯装置5では、給湯使用がなされる毎に、その月日、時刻及び給湯使用熱量に関するデータがコントローラ100の記憶装置78に格納されて、給湯使用実績として蓄積されている。
【0041】
図3は、本実施の形態に従う給湯装置5における貯湯制御の処理手順を説明するフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、予め区分された単位時間帯(例えば1時間)毎に、コントローラ100によって繰り返し実行される。図中の符号Si(i=10,20,・・・)は各ステップを示す。
【0042】
図3に示すように、本実施の形態に従う貯湯制御は、予測給湯使用熱量を算出するステップ(S10)、予測誤差分布を推定するステップ(S20)、損失するコストを算出するステップ(S30)、損失するコストの期待値を算出するステップ(S40)、最適貯湯熱量を算出するステップ(S50)と、最適貯湯熱量に基づいて貯湯運転を制御するステップ(S60)とを主に有している。
【0043】
(1)予測給湯使用熱量を算出するステップ(S10)
S10では、給湯装置5の過去の給湯使用実績に基づいて、給湯使用熱量xが予測される。具体的には、コントローラ100は、給湯使用実績として、1日の予め区分された時間帯(例えば1時間)毎の給湯使用量、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の駆動状況、入水温度、並びに外気温度等を記録した時系列データを更新しながら、1週間分の時系列データを蓄積している。コントローラ100は、この蓄積された時系列データに基づいて、当日の各時間帯における給湯使用量を予測し、予測給湯使用量に相当する予測給湯使用熱量xを算出する。
【0044】
なお、過去の給湯使用熱量等の時系列データの蓄積期間は、1日に限定されず、例えば1か月と長くすることができる。あるいは、曜日毎に給湯使用熱量等を集計した時系列データ、平日と休日とで給湯使用熱量等を集計した時系列データ等、ユーザの生活パターンに合うようにデータ蓄積期間を適宜変更することができる。
【0045】
また、給湯装置5の使用開始直後は十分な時系列データが蓄積されていないため、予め設定された初期値を用いて、予測給湯使用熱量xが算出される。
【0046】
(2)予測誤差分布を推定するステップ(S20)
S20では、S10で算出された、各時間帯の予測給湯使用熱量xと、この時間帯の給湯使用熱量の実績値x(以下、「実給湯使用熱量x」と表記する)との誤差x-xの分布が推定される。
【0047】
本実施の形態では、予測給湯使用熱量xと実給湯使用熱量xとの誤差x-xの分布が、平均を0とし、かつ、分散をσとする正規分布N(0,σ)に従うと仮定する。これによると、ある時間帯における予測給湯使用熱量xに対して、当該時間帯の実給湯使用熱量xは正規分布N(x,σ)に従うことになる。図4には、正規分布N(x,σ)の確率密度関数φ(x)の一例が示される。正規分布N(x,σ)は、x=xに対して左右対称となる。確率密度関数φ(x)を全区間で積分すると1となる。
【0048】
(3)損失するコストを算出するステップ(S30)
S30では、実給湯使用熱量xの生成により損失するコストf(x)が算出される。
【0049】
(損失するコスト)
まず、図5を用いて、損失するコストの基本的な考え方について説明する。
【0050】
図5は、実給湯使用熱量xの生成により損失するコストの損失を説明するための図である。図5には、S20にて推定された予測誤差分布(正規分布N(x,σ))に重ね合わせて、コストの損失f(x)を表すグラフが示されている。
【0051】
従来の給湯装置では、各時間帯の予測給湯使用熱量xに基づいて貯湯運転が行われる。具体的には、給湯使用が予測される時間帯の開始時刻までに、当該時間帯の予測給湯使用熱量xに相当する熱量を貯湯タンク30に貯留するように、ヒートポンプユニット60の動作、並びに、循環ポンプ40の作動及び停止が制御される。
【0052】
しかしながら、予測給湯使用熱量xと実給湯使用熱量xとが完全に一致することは原理的にあり得ず、図4に示したように、予測給湯使用熱量xと実給湯使用熱量xとの間には誤差x-xが生じる。この誤差x-xは、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の作動に伴うコストにおいて損失となって現れる。
【0053】
このコストは、実給湯使用熱量xを生成するために必要となるものであって、金銭以外の概念を含んでいる。後述するように、コストには、例えば、各種エネルギー(電気、燃料ガス等)の消費量、各種エネルギーの購入費用、及び各種エネルギーによって発生する二酸化炭素(CO)量等を含めることができる。
【0054】
図5では、予測給湯使用熱量xと貯湯タンク30の貯湯熱量aとが一致している場合を想定している(x=a)。このような場合において、実給湯使用熱量xが予測給湯使用熱量xよりも小さくなると(x<x)、給湯装置5は、実給湯使用熱量xに対して貯湯タンク30の貯湯熱量aが過剰となる「貯湯過剰」の状態となる。貯湯過剰において、貯湯熱量aと実給湯使用熱量xとの差a-xは、ヒートポンプユニット60の作動により生じた貯湯タンク30の余剰熱量に相当する。
【0055】
この余剰熱量a-xの一部は再利用される一方で、その残りは貯湯タンク30からの放熱により失われる。本実施の形態では、余剰熱量の再利用効率β(0≦β≦1)に従って(a-x)×βが再利用され、(a-x)×(1-β)が放熱損失となるものと仮定する。
【0056】
このようにx<xとなる場合には、給湯装置5が貯湯過剰となり、ヒートポンプユニット60の作動に伴うコストにおいて損失が発生し得る。図5に示すように、貯湯過剰によって損失するヒートポンプユニット60のコストは、余剰熱量a-xが大きくなるに従って大きくなる。
【0057】
反対に、実給湯使用熱量xが予測給湯使用熱量xより大きくなると(x>x)、給湯装置5は、実給湯使用熱量xに対して貯湯タンク30の貯湯熱量aが不足する「貯湯不足」の状態となる。貯湯不足によって貯湯タンク30内の湯水を給湯設定温度に調整することが困難となると、補助熱源機31が作動し、配管38を経由して貯湯タンク30から導入された湯水を加熱して配管39へ出力する。このとき配管39に設けられた比例弁42の開度が制御される。すなわち、補助熱源機31は、貯湯タンク30内の湯水を再加熱して、給湯設定温度に調整して給湯する。実給湯使用熱量xと貯湯熱量aとの差x-aは、補助熱源機31が賄った熱量に相当する。
【0058】
このようにx>xとなる場合には、給湯装置5が貯湯不足となり、補助熱源機31の作動に伴うコストが発生する。図5に示すように、貯湯不足時の補助熱源機31の作動に伴って損失するコストは、実給湯使用熱量xと貯湯熱量aとの差x-aが大きくなるに従って大きくなる。
【0059】
次に、貯湯過剰及び貯湯不足により損失するコストの算出方法について説明する。ここでは、熱量の生成にヒートポンプユニット60を作動させるコストをHとし、補助熱源機31を作動させるコストをGとする。
【0060】
貯湯過剰によって損失するコストをCeとすると、Ceは、貯湯熱量a、実給湯使用熱量x、ヒートポンプユニット60のコストH、及びヒートポンプユニット60における余剰熱量の再利用効率βを用いて、次式(1)のように表すことができる。Ceはx≦aの場合に正値となり、x>aの場合には0となる。
【0061】
【数1】
【0062】
貯湯不足によって損失するコストをCsとすると、Csは、貯湯熱量a、実給湯使用熱量x、ヒートポンプユニット60のコストH、及び補助熱源機31のコストGを用いて、次式(2)のように表すことができる。Csはx≦aの場合には0となり、x>aの場合に正値となる。
【0063】
【数2】
【0064】
そして、式(1)及び式(2)から、貯湯過剰又は貯湯不足によって損失するコストf(x)は、次式(3)のように表すことができる。
【0065】
【数3】
【0066】
(コスト)
上述したヒートポンプユニット60の作動に伴うコストH、及び補助熱源機31の作動に伴うコストGは、ヒートポンプユニット60による貯湯運転、及び補助熱源機31における燃焼動作を評価するための「対象指標」に相当する。コストH,Gは、実給湯使用熱量xを生成するために必要となるものであり、省エネルギー性、経済性、及び環境保全等の観点から設定することができる。
【0067】
例えば、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の各々を作動するための各種エネルギー(電気、燃料ガス等)の消費量をコストとして設定することができる。なお、各種エネルギーの消費量は、比較のために、一次エネルギーの消費量に換算される。一次エネルギーとは、化石燃料、原子力燃料、水力、風力、太陽光等の自然から得られるエネルギーである。この場合、ヒートポンプユニット60の運転効率に相当する成績係数COP(Coefficient Of Performance)を用いてコストHが設定される。補助熱源機31の固有の運転効率Eを用いてコストGが設定される。
【0068】
あるいは、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の各々を作動するための各種エネルギーの購入費用をコストとして設定することができる。この場合、ヒートポンプユニット60のCOP及び補助熱源機31の運転効率Eに加えて、各種エネルギーの料金単価を用いて、コストH,Gがそれぞれ設定される。
【0069】
または、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の各々を作動するための各種エネルギーによって発生するCO量をコストとして設定することができる。
【0070】
[コストを1次エネルギー消費量とした場合]
ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の作動に伴うコストを、各々の一次エネルギー消費量とした場合には、使用する電気の起源に応じて以下のように場合分けすることができる。
【0071】
具体的には、発電所を起源とする電気のみを使用する場合には、ヒートポンプユニット60のコストHは、H=0.369×COPで与えられる。0.369は、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)に採用されている、需要端電力の一次エネルギー換算係数である。この数値は、発電所の発電効率、及び発電端から受電端までの送配電損失等を考慮したものである。COPは、ヒートポンプユニット60の性能を示す指標の1つである。ヒートポンプユニット60は、外気の熱を、冷媒を介して加熱対象に移動させるものであるため、COPは外気温度及び入水温度により変動する。COPは、入水温度、外気温度、及び貯湯運転の設定温度に基づいて演算することができる。
【0072】
一方、給湯装置5に太陽光発電装置等の小規模発電装置が接続されており、この発電装置を起源とする電気のみを使用する場合には、送配電損失及び発電損失を無視できるため、ヒートポンプユニット60のコストHは、H=COPで与えられる。
【0073】
補助熱源機31のコストGは、補助熱源機31固有の運転効率E(例えばE=約0.93)を用いて、G=Eで与えられる。
【0074】
[コストを各種エネルギーの購入費用とした場合]
ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31の作動に伴うコストを、各種エネルギーの購入費用とした場合には、コストは、各々の運転効率及びエネルギー料金単価を用いて演算される。
【0075】
具体的には、コントローラ100は、電気料金プラン及びガス料金プランを予め記憶している。電気料金プラン及びガス料金プランは、電力又はガスの月間使用量を複数の段階に区分し、その使用量区分別に料金単価が設定されている。使用量区分別に基本料金が設定されていてもよく、この場合は現時点の月間使用量に対応する使用量区分の基本料金をその月間使用量で除算し、その値をその使用量区分の料金単価に加算することにより、基本料金を含んだ料金単価に換算することができる。これらの料金プランは、リモコン200から入力設定することができる。
【0076】
電気料金プランに基づいて、現時点の月間使用電力量に対応する電力料金単価M[円/kwh]が設定される。ガス料金プランに基づいて、現時点の月間使用ガス量に対応するガスの料金単価M[円/m]が設定される。
【0077】
ヒートポンプユニット60のコストHは、COP、電力熱量換算値(1kwh=860kcal)、及び電力料金単価M[円/kwh]を用いて、H=COP×860/M[kcal/円]で与えられる。
【0078】
補助熱源機31のコストGは、補助熱源機31の運転効率E、使用するガスの種類に応じて設定される単位熱量Q[kcal/m]、及び使用するガスの料金単価M[円/m]を用いて、G=E×Q/M[kcal/円]で与えられる。
【0079】
(4)損失するコストの期待値を算出するステップ(S40)
S40では、S30で求めたコストの損失f(x)と、S20で推定した予測誤差分布である正規分布N(x,σ)の確率密度関数φ(x)とを用いて、貯湯過剰又は貯湯不足によって損失するコストf(x)の期待値M(a)が算出される。
【0080】
損失するコストf(x)の期待値M(a)は、損失f(x)の全ての値に確率の重みを付けた加重平均であり、次式(4)のように表すことができる。
【0081】
【数4】
【0082】
ここで、正規分布N(x,σ)における実給湯使用熱量xを、z=(x-x)/σに標準化したときの確率密度関数をψ(x)とし、その累積分布関数をΨ(x)と定義する。この場合、式(4)は次式(5)のように変形することができる。
【0083】
【数5】
【0084】
図6は、損失するコストの期待値M(a)を説明するための図である。図6の上段には、確率密度関数φ(x)、及び貯湯熱量aを予測給湯使用熱量x未満とした場合に損失するコストf(x)が示されている。図6の下段には、図6の上段に示す損失f(x)及び確率密度関数φ(x)の積を示す曲線と、当該曲線を積分することによって得られる期待値M(a)を表した曲線とが示されている。これによると、期待値M(a)は下に凸となる放物線となる。図6の例では、貯湯熱量aを予測給湯使用熱量xよりも増加させることで期待値M(a)が最小となることが分かる。
【0085】
(5)最適貯湯熱量を算出するステップ(S50)
S50では、S40で求めた損失するコストの期待値M(a)から最適貯湯熱量aoptが算出される。最適貯湯熱量aoptは、図6の下段に示した放物線において、期待値M(a)が最小となるときの貯湯熱量aに相当する。次式(6)に示すように、期待値M(a)を微分した値が0となるときの貯湯熱量aを求めることにより、最適貯湯熱量aoptを算出することができる。
【0086】
【数6】
【0087】
式(6)を解くことにより次式(7)が得られる。この式(7)から、最適貯湯熱量aoptを表す次式(8)が導かれる。
【0088】
【数7】
【0089】
【数8】
【0090】
式(8)に示すように、最適貯湯熱量aoptは、予測給湯使用熱量x、誤差x-xの標準偏差σ、及び累積分関数の逆関数Ψ-1から構成されている。累積分布関数の逆関数Ψ-1は、1-(1-β)G/(H-βG)>0.5の場合に正値となり、1-(1-β)G/(H-βG)<0.5の場合に負値となる。したがって、1-(1-β)G/(H-βG)>0.5の場合には、aopt>xとなり、最適貯湯熱量aoptは、予測給湯使用熱量xよりも大きくなる。反対に、1-(1-β)G/(H-βG)<0.5の場合には、aopt<xとなり、最適貯湯熱量aoptは、予測給湯使用熱量xよりも小さくなる。
【0091】
なお、式(8)の右辺のうち、誤差x-xの標準偏差σには、過去数日間の給湯使用実績と予測給湯使用熱量との誤差から算出される不偏標準偏差、又はその不偏標準偏差の加重平均値等を採用することができる。コストH,Gは、上述したように、コストの種類に応じて、ヒートポンプユニット60のCOP、補助熱源機31の運転効率E、及びエネルギー料金単価等を用いて算出することができる。
【0092】
累積分布関数の逆関数Ψ-1の計算には、事前に1-(1-β)G/(H-βG)が取り得る範囲を確認し、線形近似式又は逆関数Ψ-1の値を示すテーブルを作成しておくことによって対応することができる。図7は、線形近似式の一例を示す図である。図7の横軸は1-(1-β)G/(H-βG)であり、縦軸は累積分布関数の逆関数Ψ-1である。1-(1-β)G/(H-βG)には、既存のテーブル化された値を採用することができる。図7の例では、線形近似式は、複数の一次関数から構成されている。
【0093】
(6)最適貯湯熱量aoptに基づいて貯湯運転を制御するステップ(S60)
S60では、S50で求められた最適貯湯熱量aoptに基づいて貯湯運転が制御される。具体的には、コントローラ100は、給湯使用が予測される時間帯の開始時刻までに、当該時間帯の最適貯湯熱量aoptを貯湯タンク30に貯留するように、温度センサ51の検出値から算出される貯湯タンク30の貯留熱量に基づいてヒートポンプユニット60の動作、並びに、循環ポンプ40の作動及び停止を制御する。
【0094】
以上説明したように、本実施の形態に従う給湯装置5では、予測給湯使用熱量xに対する実使用給湯熱量xの誤差分布を考慮して、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31において実給湯使用熱量xの生成により損失するコストf(x)の期待値M(a)が算出される。そして、この算出された期待値M(a)を最小とする最適貯湯熱量aoptが求められ、最適貯湯熱量aoptに基づいてヒートポンプユニット60による貯湯運転が制御される。これによると、予測給湯使用熱量xに対する実使用給湯熱量xの誤差に起因する貯湯不足及び貯湯過剰によって損失するコストf(x)を最小化することができる。よって、給湯装置5の効率化を改善することが可能となる。
【0095】
また、コストを、給湯装置5に対して要求される運用目的(省エネルギー性、経済性、環境保全等)の観点から設定することによって、その運用目的にとって最も効率的な貯湯運転を実現することができる。
【0096】
<その他の構成例>
(1)予測誤差分布について
上述した実施の形態では、予測給湯使用熱量xと実給湯使用熱量xとの誤差x-xの分布である予測誤差分布が正規分布N(0,σ)に従うと仮定したが、予測誤差分布は正規分布に限定されるものではない。予測誤差分布は、t分布、又は離散確率分布として表されてもよい。例えば、過去の給湯使用実績の時系列データのサンプル数がn個である場合には、予測誤差分布を自由度n-1のt分布で表すことができる。
【0097】
(2)コストについて
上述した実施の形態では、熱量の生成にかかるコストとして、ヒートポンプユニット60及び補助熱源機31における一次エネルギー消費量、各種エネルギーの購入費用、及び各種エネルギーによって発生するCO量を例示したが、これらに限定されるものではない。また、一次エネルギー消費量、各種エネルギーの購入費用、及び各種エネルギーによって発生するCO量のうちの2以上を組み合わせてコストを設定してもよい。
【0098】
(3)貯湯制御の主体について
上述した実施の形態では、貯湯給湯ユニット10のコントローラ100が、図3に示した貯湯制御を実行する構成について説明したが、予測給湯使用熱量を算出するステップ(S10)、予測誤差分布を推定するステップ(S20)、損失するコストを算出するステップ(S30)、損失するコストの期待値を算出するステップ(S40)、及び最適貯湯熱量を算出するステップ(S50)を行う主体は、コントローラ100に限定されるものではない。例えば、コントローラ100と通信接続され、給湯装置5を遠隔管理するサーバがS10~S50を実行することによって最適貯湯熱量aoptを算出する構成としてもよい。この場合、サーバは、算出した最適貯湯熱量aoptをコントローラ100へ送信する。コントローラ100は、サーバから受信した最適貯湯熱量aoptに基づいて、貯湯運転を制御するステップ(S60)を実行することになる。すなわち、サーバ及びコントローラ100が「制御装置」の一実施例に対応する。
【0099】
(4)貯湯制御について
図3に示した貯湯制御のうち、損失するコストを算出するステップ(S30)、及び、損失するコストの期待値を算出するステップ(S40)については、コントローラ100又はサーバによって単位時間帯毎に繰り返し実行される処理から省略することができる。
【0100】
例えば、ヒートポンプユニット60のコストH、補助熱源機31のコストG、及びヒートポンプユニット60における余剰熱量の再利用効率βが与えられて、これらを用いて累積分布関数の逆関数Ψ-1を表す線形近似式又はテーブルを予め用意しておくことにより、S10において算出された予測給湯使用熱量xと、S20において求められた誤差x-xの標準偏差σとに基づいて、S50において式(8)から最適貯湯熱量aoptを求めることができる。
【0101】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
5 給湯装置、10 貯湯給湯ユニット、30 貯湯タンク、31 補助熱源機、32,33 入水配管、34 出湯配管、35,36 循環用配管、37 高温水配管、38,39 配管、40 循環ポンプ、42 比例弁、44 混合弁、45,46 逆止弁、48 電磁弁、51~58 温度センサ、60 ヒートポンプユニット、61 圧縮機、62 凝縮熱交換器、63 膨張弁、64 蒸発熱交換器、65 冷媒回路、66 補助制御部、70 CPU、72 RAM、74 ROM、76 I/F装置、78 記憶装置、80 通信バス、100 コントローラ、200 リモコン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7