(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072962
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】研磨用モノフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 6/00 20060101AFI20240522BHJP
D01F 6/82 20060101ALI20240522BHJP
D01F 6/86 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
D01F6/00 Z
D01F6/82
D01F6/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183882
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】西井 義尚
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD14
4L035FF01
(57)【要約】
【課題】熱可塑性エラストマーにより構成されるモノフィラメントであって、工程通過性、取扱い性、耐久性に優れ、さらに柔軟性をも兼ね備える研磨用のモノフィラメントを提供する。
【解決手段】融点が150℃以上の熱可塑性エラストマー100質量部、高分子型帯電防止剤1~20質量部、摺動剤0.01~5質量部を含む樹脂組成物により構成され、糸径0.05mm以上、引張強度100MPa以上、初期弾性率100~1500MPaである研磨用モノフィラメント。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用モノフィラメントであって、該モノフィラメントは、融点が150℃以上の熱可塑性エラストマー100質量部、高分子型帯電防止剤1~20質量部、摺動剤0.01~5質量部を含む樹脂組成物により構成され、モノフィラメントの糸径は0.05mm以上であり、引張強度が100MPa以上、初期弾性率が100~1500MPaであることを特徴とする研磨用モノフィラメント。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーが、ポリエステル系熱可塑性エラストマーまたはポリアミド系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1記載の研磨用モノフィラメント。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーのデュロメーター硬度(D)が50~80であることを特徴とする請求項1記載の研磨用モノフィラメント。
【請求項4】
摺動剤が、ポリオレフィン樹脂、シリコーン化合物、フッ素化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の研磨用モノフィラメント。
【請求項5】
樹脂組成物中に含む摺動剤として、ポリオレフィン樹脂とシリコーン化合物との両者を含むことを特徴とする請求項1記載の研磨用モノフィラメント。
【請求項6】
モノフィラメントの体積抵抗率が1×1011Ω・cm未満であることを特徴とする請求項1記載の研磨用モノフィラメント。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項載のモノフィラメントが所定の長さに切断されてなる研磨材。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項記載のモノフィラメントから構成されることを特徴とする研磨用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーからなるモノフィラメントであって、柔軟性、制電性、工程通過性、耐熱性に優れており、工業用ブラシ、砥粒、投射材、研磨布、化粧用ブラシ、タワシ、浴用タオルなどの研磨用具に好適に用いられる研磨用モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モノフィラメントは釣糸、漁網、防球ネット、フィルター類、抄紙用織物、ラケット用ストリングなどに広く用いられており、材質としてはポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフルオロカーボンなどが用いられている。また、モノフィラメントの用途として、砥粒、投射材等の研磨材、タワシ、ブラシ、研磨布などの研磨用具があり、研磨材や研磨用具における種々の用途における要求性能は様々だが、共通する要求性能としては、工程通過性、耐久性が挙げられる。また、いずれの用途でも柔軟な製品グレードがあり、このような柔軟なグレードは、研磨対象として柔軟な樹脂製やゴム製の製品用に適用するものであり、過度な研削を避けるために使用される。このような柔軟なグレードの研磨材や研磨用具を得るためには、工程通過性や耐久性を有するうえで、柔軟性をも兼ね備えた研磨用モノフィラメントが必要となる。
【0003】
柔軟なモノフィラメントとしては、熱可塑性エラストマーにより構成される弾性を有するモノフィラメントが挙げられ、このようなエラストマー製のモノフィラメントは、優れた弾性回復率を活かして衣料用途、産業資材用途などで利用されている。しかし、熱可塑性エラストマーからなるモノフィラメントは、タック感が強く、紡糸延伸、撚糸、製織、製編などでの工程通過性や取扱い性が悪く、特に硬度の低い熱可塑性エラストマーからなる場合には顕著である。この問題に対し、特殊な油剤での表面処理する技術(特許文献1)や、エラストマーからなるモノフィラメントを非弾性繊維によって被覆する技術(特許文献2)による対策が挙げられる、専用設備が必要になる、コストアップとなるといったデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-352878号公報
【特許文献2】特開2010-116641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱可塑性エラストマーにより構成されるモノフィラメントであって、工程通過性、取扱い性、耐久性に優れ、さらに柔軟性をも兼ね備える研磨用のモノフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、研磨用モノフィラメントであって、該モノフィラメントは、融点が150℃以上の熱可塑性エラストマー100質量部、高分子型帯電防止剤1~20質量部、摺動剤0.01~5質量部を含む樹脂組成物により構成され、モノフィラメントの糸径は0.05mm以上であり、引張強度が100MPa以上、初期弾性率が100~1500MPaであることを特徴とする研磨用モノフィラメントを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨用モノフィラメントは、主として熱可塑性エラストマーにより構成されるものであり、柔軟性、工程通過性、耐久性を兼ね備え、各種の研磨材や研磨用具に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のモノフィラメントは、研磨材や研磨用具に適用するための研磨用モノフィラメントであり、熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物により構成される。樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーの割合は60質量%以上とすることが好ましく、中でも70質量%以上とすることが好ましい。熱可塑性エラストマーの割合が少ないと、本発明が目的とする柔軟性を付与できないため好ましくない。
【0011】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、ポリ塩化ビニル系などが挙げられるが、耐熱性や取扱い性の観点ではポリアミド系またはポリエステル系の熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントより構成される場合は多いが、ハードセグメントは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであれば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12などが配され、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレートなどを配される。ソフトセグメントとしては、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコールや、脂肪族ポリエステルグリコール、脂肪族ポリエーテルエステルグリコールなどが挙げられる。
【0012】
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は特に限定されず、使用するハードセグメントやソフトセグメントの種類や組合せにもよるが、得られる熱可塑性エラストマーの硬度や融点、モノフィラメントの物性や取扱い性などから適宜選定すればよいが、耐熱性の観点で一定以上のハードセグメントを配合することが好ましいため、熱可塑性エラストマー100質量部のうちハードセグメントの配合比は20質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。
【0013】
材料の耐熱性の観点から熱可塑性エラストマーの融点は150℃以上であることが好ましく、中でも160℃以上であるものが好ましい。融点が150℃未満では、摩擦や衝撃による発熱で、モノフィラメントが変質や破壊、劣化する恐れが大きくなるため好ましくない。融点の上限は、モノフィラメントを製造する際の紡糸加工性の観点から300℃以下であることが好ましく、より好ましくは270℃以下である。本発明で用いる熱可塑性エラストマーの硬度は、研磨する対象等の用途に応じて適宜選択すればよいが、紡糸操業性や取扱い性、モノフィラメントとしての柔軟性の観点から、ショア硬度(D)が50~80であることが好ましく、より好ましくは50~70である。なお、ショア硬度(D)はJIS K6253に準拠してデュロメータを用いて測定した値である。
【0014】
本発明のモノフィラメントを構成する樹脂組成物には、高分子型帯電防止剤を含んでいる。研磨材は、その使用において、研磨材と研磨対象物との間での摩擦、研磨材とその周辺部材との間での摩擦、研磨材間における摩擦等によって帯電すると、取扱い性が低下する。例えば、研磨ブラシ用途では、モノフィラメントからなる毛材が帯電すると周辺の毛材と引き合って掻き出し性が低下したり、掻きだした汚れと引き合ってしまいソイルリリース性が劣るという問題が発生する。研磨用の投射材においては、研磨対象物へ衝突した投射材が帯電すると、研磨対象物に強固に付着して容易に脱落せず、除去作業が必要となる。また、研磨用モノフィラメントを製造する段階においては、紡糸延伸時に、摩擦帯電によるフィラメントの集束性の低下や金属製ローラーやガイド類に対する工程通過性の低下が発生しうる。高分子型帯電防止剤を含むことにより、モノフィラメントの制電性が向上し、上述したような摩擦帯電による取扱い性の低下を改善することができる。
【0015】
高分子型帯電防止剤は、湿度依存性が少なく、モノフィラメントからのブリードアウトが起こりにくい利点があることから、界面活性剤のような低分子型の帯電防止剤を用いるのではなく、本発明においては、高分子型帯電防止剤を含有させる。高分子型帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド系、ポリエーテルアミド系、ポリエーテルエステル系、ポリスチレンスルホン酸系、第四級アンモニウム塩基含有アクリレート重合体系などがあり、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。また、本発明で使用する高分子型帯電防止剤の融点は、モノフィラメントとしての耐熱性の観点から150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上である。融点は150℃未満ではモノフィラメントの熱劣化やブリードアウトの恐れがある。
【0016】
本発明においては、モノフィラメントを構成する樹脂組成物において、樹脂組成物の主たる構成成分である熱可塑性エラストマーを100質量部としたときに、1~20質量部の割合で高分子型帯電防止剤が配合されている。高分子型帯電防止剤の配合割合を1質量部以上とすることにより、モノフィラメントの制電性の向上効果を得ることができ、一方、20質量部以下とすることにより、得られるモノフィラメントの加工安定性や機械的物性、柔軟性、耐久性を保持することができる。
【0017】
本発明のモノフィラメントは、高分子帯電防止剤を特定量含むことにより静電性を発揮し、その体積抵抗率が1×1011Ω・cm未満であり、より好ましくは1×1010Ω・cm未満、さらに好ましくは1×109Ω・cm未満である。モノフィラメントの体積抵抗率が1×1011Ω・cm未満であればモノフィラメントに十分な制電性を有するものとなるが、1×1011Ω・cm以上になると制電性が不十分であり、摩擦により帯電し、取扱い性に劣るものとなる。モノフィラメントの体積抵抗率の下限値としては、特に限定しないが、例えばブラシや研磨布などの形態で実使用の際に、機械類からの漏電対策が必要な場合は、1×106Ω・cm以上であるとよい。
【0018】
モノフィラメントの体積抵抗率は、定電流源、電圧計、電極を備えた装置を用いて、モノフィラメントの繊維軸方向に特定の間隔で2つの電極を取り付け、電極間に500Vの電圧を印加した際の抵抗値Rを読み取り、下式から体積抵抗率を求める。モノフィラメントの糸径が小さい場合には、複数本引き揃えた状態として、測定するとよい。
ρ=(R×S×f)/L
ここで、ρは体積抵抗率(Ω・cm)、Rは抵抗測定値(Ω)、Sはモノフィラメントの断面積(cm2)、fは測定時に引き揃えたフィラメント本数(本)、Lは電極間の距離(cm)である。
【0019】
本発明においては、モノフィラメントを構成する樹脂組成物において、樹脂組成物を構成する主たる成分である熱可塑性エラストマーを100質量部としたときに、0.01~5質量部の割合で摺動剤が配合されている。摺動剤は、摩擦を和らげて摺動性を向上させるものであり、工程通過性や耐摩耗性の向上に寄与する。
【0020】
摺動剤としては、ポリオレフィン樹脂、シリコーン化合物、フッ素化合物などが挙げられ、これらを少なくとも1種用いる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどがあり、これらの共重合体や変性品(不飽和カルボン酸変性、アクリル酸変性、メタクリル酸変性、エポキシ変性、水酸基変性、酢酸ビニルなどの極性基含有モノマー共重合など)も用いてよい。シリコーン化合物としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンなどのオイル類、ポリシロキサンやシリコーンゴムなどのパウダー類などを用いることができる。フッ素化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマーなどを用いることができる。上記した摺動剤を1種用いればよいが、ポリオレフィン樹脂とシリコーン化合物との両者を含むことがより好ましい。
【0021】
摺動剤の配合割合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.05質量部以上とすることにより、摺動性の向上による耐摩耗性の改善効果を得ることができ、一方、5質量部以下とすることにより、得られるモノフィラメントの実用的な機械的物性を保持することができる。
【0022】
モノフィラメントの摺動性は、モノフィラメント間の摩擦係数(FF摩擦係数)、モノフィラメントと金属円柱との間の摩擦係数(FM摩擦係数)によって評価できる。
FF摩擦係数は、0.05~0.30であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.25である。FF摩擦係数が0.05以上とすることにより、パーン巻きやボビン巻きされるモノフィラメントで巻き形態が崩れる恐れがなく、また、モノフィラメントを用いた織編物においては、交点の拘束が弱くならず、寸法崩れに繋がることがない。FF摩擦係数が0.30以下とすることにより、モノフィラメント間の摩擦抵抗が大きくなり過ぎず、パーン巻きやボビン巻きされたモノフィラメントの解舒性や、織編加工などでの工程通過性が良好となり、ブラシ用途では毛材同士の絡まりが発生しにくく取扱い性が良好となり、投射材用途ではパウダーの流動性が良好となる。
【0023】
FF摩擦係数を測定する際の概略図を
図1に示す。滑車を介してモノフィラメントを数回撚り合わせて交差させて設置し、モノフィラメントの一端を移動可能なヘッドに取り付けたロードセルに繋げ、他端に所定荷重を吊るした状態で、ヘッドを500mm/分の速度で150mmのストロークで、モノフィラメントをロードセルの方向へ移動させる間の荷重値を記録し、下式からFF摩擦係数を算出する。なお、モノフィラメントを撚り合わせる回数は、2~3回がよい。
μf=[LN(A/B)]/[(T-0.5)×4π×sinθ]
ここで、μfはFF摩擦係数、LNは自然対数、Aは荷重測定値のうちストローク位置で100~150mmの区間の平均値(N)、Bはモノフィラメントの端に吊るした所定荷重の荷重値(N)、Tは撚り数(回)、πは円周率、θは撚り角(rad)である。
【0024】
FM摩擦係数は0.15~0.45であることが好ましく、より好ましくは0.20~0.40である。FM摩擦係数が0.15以上であることにより、紡糸延伸時や各種加工時に金属製のローラーやガイドで良好に把持できるため、糸道が乱れてモノフィラメントに傷が生じることがなく、またブラシ毛材や投射材を作製する過程でモノフィラメントを所定長にカットする場合は、金属製のカット刃がモノフィラメント表面で滑ることなく、ミスカットが生じることを防止できる。FM摩擦係数が0.45以下であることにより、紡糸延伸時や各種加工時に金属製のローラーやガイドとの摩擦抵抗が過度に大きくならないため、モノフィラメントへの過度に引張負荷がかからず、糸切れや物性低下が生じにくい。
【0025】
FM摩擦係数を測定する際の概略図を
図2に示す。表面を金属クロムメッキで鏡面化した金属製の円筒(相手材)に巻き付け角83度で接触させてモノフィラメントを設置し、一端を移動可能なヘッドに取り付けたロードセルに繋げ、他端に所定荷重を吊るした状態で、ヘッドを500mm/分の速度で150mmのストロークで、モノフィラメントをロードセルの方向へ移動させる間の荷重値を記録し、下式からFM摩擦係数を算出した。
μm=LN(A/B)/M
ここで、μmはFM摩擦係数、LNは自然対数、Aは荷重測定値のうちストローク位置で100~150mmの区間の平均値(N)、Bはモノフィラメントの端に吊るした所定荷重の荷重値(N)、Mは巻き付け角(rad)である。
【0026】
本発明のモノフィラメントを構成する樹脂組成物は、上記した熱可塑性エラストマー、高分子型帯電防止剤、摺動剤により構成されるが、これら以外に、本発明の目的が達成される範囲において、エラストマー性能を有しない熱可塑性樹脂や、各種の添加剤を混合することができる。エラストマー性能を有しない熱可塑性樹脂を混合する場合は、樹脂組成物を構成するベースとなる熱可塑性エラストマーと親和性が高いものを選択することが好ましく、例えば、熱可塑性エラストマーがポリエステル系エラストマーの場合には、ポリエステル系ポリマーを添加すること好ましく、また、熱可塑性エラストマーがポリアミド系エラストマーの場合には、ポリアミド系ポリマーを添加することが好ましい。熱可塑性エラストマーに添加する添加剤としては、可塑剤、艶消し剤、充填剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、耐候剤、耐熱剤、熱安定剤、酸化防止剤、分散剤、相溶化剤、粘度調整剤、pH調整剤、滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、抗菌剤、抗カビ材、抗ウイルス剤、防腐剤、赤外線吸収材料、マイクロ波吸収材料、熱伝導性材料等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲内で使用できる。
【0027】
添加剤として、照射光に対し発色、変色または発光するような機能性を有する色剤を添加すれば、ブラシ毛材の切断端や脱落品、砥粒や投射材の残留品を発見および除去する際に作業性が向上するため好ましい。また照射光に応答して発色や変色する色剤としてはフォトクロミック色剤(例えば、アゾベンゼン・スピロピラン・ジアリールエテン)が挙げられる。また、照射光に応答して発光する色剤としては、例えば紫外線や可視光に応答する蛍光色剤や燐光色剤などが挙げられる。蛍光色剤や燐光色剤としては公知のものを用いればよく、蛍光増白剤や、標識類・各種ディスプレイの発光素子などに使用される有機材料や無機材料、また、量子ドットやCNTなどのナノ材料であっても発光色剤として用いることができる。有機材料としては、低分子のものとしては、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類等が挙げられ、高分子のものとしては、ポリ(1,4-フェニレンビニレン)類、ポリチオフェニン類、ポリフルオレン類等が挙げられる。また、無機材料としては、アルミン酸塩類、シリケート類、ハロリン類、酸窒化物類等が挙げられる。また、抹茶やターメリックなど蛍光特性を有する天然材料の粉体を発光色剤として用いてもよい。
【0028】
本発明のモノフィラメントの糸径は0.05mm以上である。上限は特に限定しないが5mm程度がよい。また、モノフィラメントを製造する際の紡糸操業性や取扱い性を考慮すると、0.1~3mmであることが好ましい。なお、モノフィラメントの横断面形状が円形ではなく異型の場合は、その横断面の断面積を中実の円形へ換算した際の直径をモノフィラメントの糸径とする。
【0029】
本発明のモノフィラメントは、前記した樹脂組成物により構成されるが、前記樹脂組成物のみから構成される単相型のものがよい。また、前記樹脂組成物であって、全く同一の樹脂組成物ではなく、混合比や混合する剤等が異なる樹脂組成物同士の組合せからなる複合型のモノフィラメントであってもよい。樹脂組成物同士の組合せからなる複合型としては、芯鞘型や海島型、サイドバイサイド型等が挙げられる。さらには、本発明の目的が達成されれば、前記樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とが複合してなる複合型であってもよい。この場合、前記樹脂組成物が、モノフィラメント表面を覆ってなる形態とし、前記樹脂組成物が鞘部を形成する芯鞘型や、前記樹脂組成物が海部を形成する海島型がよい。
【0030】
本発明のモノフィラメントの横断面形状は、紡糸性や加工性の観点では中実の円形断面が好ましいが、三角、四角等の多角形、多葉形、楕円形、扁平等の異形断面であってもよく、また、中空部を有するものでもよい。
【0031】
本発明のモノフィラメントは、引張強度は100MPa以上であり、より好ましくは150MPa以上、さらに好ましくは200MPa以上である。引張強度が200MPa未満では、各種の研磨用具としての実用に耐えられないため好ましくない。引張強度の上限は特にないが、過度に高強度化をさせると、これに伴い初期弾性率も大きくなり、柔軟性が損なわれるため好ましくなく、上限は500MPa程度がよい。
【0032】
本発明のモノフィラメントの初期弾性率は、100~1500MPaであり、より好ましくは150~1200MPa、さらに好ましくは200~900MPaである。初期弾性率が100MPa未満ではモノフィラメントの紡糸延伸や織編工程などで製造過程や加工過程において最低限付加される工程張力での伸びが過度に大きくなり、加工精度が下がるため好ましくない。また初期弾性率が1500MPa以上となるとモノフィラメントとしての柔軟性が不十分となり本発明の目的を達成しないものとなる。
【0033】
モノフィラメントの引張伸度は特に限定されないが、加工性や柔軟性の観点から30~200%であることが好ましく、より好ましくは50~150%である。30%以上であることにより、モノフィラメントが過度に剛直となり過ぎず、取扱い性が良好であり、一方、200%以下であることにより、寸法安定性が良好である。
【0034】
本発明のモノフィラメントを用いて織編物の形態として、研磨布などに用いる場合は、モノフィラメントの結節強度は70MPa以上、引掛強度は80MPa以上であることが好ましい。
【0035】
前記した引張強度、初期弾性率および引張伸度は、JIS-L-1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分、初荷重(モノフィラメントの断面積1平方ミリメートルあたり5N)の条件で測定する。また、結節強度および引掛強度は、JIS-L-1013に記載の方法に従い、上記した引張強度を測定する際と同様の条件で測定する。
【0036】
次に、本発明のモノフィラメントの製造方法についてであるが、本発明のモノフィラメントは、紡糸延伸法により得ることが好ましく、特に2.5倍以上の延伸倍率が付与されていることが好ましい。溶融押出後に延伸されることなく巻き取られたモノフィラメント状物の場合、モノフィラメント内部の分子が配向結晶化されず、機械的物性や耐熱性などの観点で好ましくない。
【0037】
以下に、製造方法の一例を説明する。所定分量の熱可塑性エラストマーチップ(100質量部)、高分子型帯電防止剤(1~20質量部)、摺動成分(0.01~5質量部)をチップブレンド、または事前に混練した原料を用意し、これをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度180~300℃で溶融し、紡糸孔を1個以上有する紡糸口金より吐出させる。紡糸糸条を5~30℃の水で冷却後、引き続き60~95℃の湯浴中で2~4倍に延伸(第一段延伸)し、その後、100~300℃の乾熱ヒーター中で1~2倍に延伸(第二段延伸)する。その後、100~300℃の温度で0.6~1倍の弛緩熱処理を行い、本発明のモノフィラメントを得る。なお、必要に応じて延伸前後で各種の繊維用油剤を塗布してもい。
【0038】
高分子型帯電防止剤、摺動成分および他の添加剤は、マスターバッチ化したものを用いて添加してもよい。また、延伸時の加熱方法は限定されず、例えば、第一段延伸を前記した湯浴ではなく、乾熱ヒーターにより実施してもよい。また、第二段延伸を前記したように乾熱ヒーターではなく、湯浴で実施してもよい。また、延伸は二段に限定されるものではなく、三段以上であっても、また、一段延伸のみとしてもよい。モノフィラメントの巻取り速度は、特に限定されず、押出や延伸の条件によって適性値は異なるが、10~200m/分であることが好ましく、より好ましくは20~120m/分である。モノフィラメントが、芯鞘、海島などの複合糸とする場合は、複合する成分ごとに原料とエクストルーダー型溶融押出機を使い分けて、複合ノズルにて共押出する方法などが採用できる。
【0039】
本発明のモノフィラメントは、紡糸延伸や後加工、実用時の工程通過性や取扱い性、柔軟性、制電性に優れているため、砥粒、投射材、ブラシ毛材等の研磨材や、工業用ブラシ、タワシ、浴用タオル、浴用ブラシ、歯ブラシ、化粧ブラシ、研磨布、掃除用布などの研磨用具として、好適に使用できる。本発明のモノフィラメントをブラシ用毛材や投射材、砥粒として用いる場合は、本発明のモノフィラメントを所定長にカットして使用する。例えば、投射材や砥粒の場合、長さ0.05~10mm程度に裁断してペレット状物の形態として得ることができる。本発明のモノフィラメントを織物や編物に適用する場合には、織編物を構成する糸条の50質量%以上が本発明のモノフィラメントとすることにより、柔軟性を効果的に発揮できる研磨布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【実施例0041】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。なお、各種の値の測定方法は次の通りである。
(A)糸径
無張力下の試料糸に対し、長手方向50cmおきに20カ所を測定した数値の平均値を糸径(mm)とした。
(B)引張試験
試料糸を解舒したものを室温下で24時間以上静置したものについて、JIS-L-1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分、初荷重(モノフィラメントの断面積1平方ミリメートルあたり5N)の条件で切断するまで荷重をかけ、最大強力と破断伸度、初期弾性率をn=5で測定し、平均値を最大強力(N)、破断伸度(%)、初期弾性(N)とした。そして、引張強度(MPa)は、引張強力(N)の値を、モノフィラメントの横断面積(mm2)で除した値を算出して求めた。初期弾性率(MPa)は、初期弾性(N)の値を、モノフィラメントの横断面積(mm2)で除した値を算出して求めた。
(C)体積抵抗率
前記した方法により測定した。より具体的には、測定装置として東亜電波工業社製の絶縁計SM-10Eを用い、また、実施例にて得られたモノフィラメントの糸径が小さいものであることから、モノフィラメント10本を引き揃えた状態(並列させた状態)とし、この並列させたモノフィラメントの繊維軸方向と直行するように電極(金属製クリップ)を取り付けて10本のモノフィラメントを把持し、この電極を取り付けた箇所から、繊維軸方向に10cmの間隔を開けて、もうひとつの電極(金属製クリップ)を同様に取り付け、電極間に500Vの電圧を印加した際の抵抗値Rを読み取り、体積抵抗率を求めた。
(D)FF摩擦係数
前記した方法により測定した。なお、実施例で得られたモノフィラメントの糸径が小さいものであったため、測定試料としてモノフィラメント16本を引き揃えて設置した。吊下げ荷重は、糸の横断面積(mm2)あたり1Nとした。
(E)FM摩擦係数
前記した方法により測定した。なお、実施例で得られたモノフィラメントの糸径が小さいものであったため、測定試料としてモノフィラメント16本を引き揃えて設置した。吊下げ荷重は、糸の横断面積(mm2)あたり1Nとした。
(F)融点
熱可塑性エラストマー、高分子型帯電防止剤などの融点は、示差走査型熱量計を用い、昇温速度10℃/分にて室温から300℃までの範囲で測定し、融解ピーク位置を融点とした。
(G)ショア硬度
前記した方法により測定した。
【0042】
実施例1
熱可塑性エラストマーとしてポリアミド系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製「Pebax Rnew 63R53」 融点180℃、ショア硬度(D)61)100質量部に対し、高分子型帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミド(融点195℃)を5質量部、摺動剤としてポリエチレン樹脂(融点130℃、MFR=20)2質量部およびシリコーンオイル(ジメチルシリコーン)0.5質量部をチップブレンドしたものを、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置を使用し、210℃の温度で溶融紡出した。紡出した連続糸条を20℃の水浴中で冷却して未延伸糸条を得た。この未延伸糸条を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で、延伸倍率3.1倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が4.0倍となるように、120℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.5倍)、さらに130℃の加熱ゾーンを通過させて0.9倍の弛緩熱処理を行い、糸径0.2mmの中実円形断面のモノフィラメントを得た。
【0043】
実施例2
熱可塑性エラストマーとしてポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レデュポン社製「ハイトレル6377」 融点217℃、ショア硬度(D)63)を用いたこと、紡出温度を255℃としたこと以外は、実施例1と同様にし、糸径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0044】
実施例3
熱可塑性エラストマーとしてポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レデュポン社製「ハイトレル6347」 融点215℃、ショア硬度(D)63)を用いたこと、紡出温度を235℃としたこと以外は、実施例1と同様にし、糸径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0045】
比較例1
熱可塑性エラストマーに替えて、非エラストマーであるポリアミド6樹脂(融点215℃、ショア硬度(D)80)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、糸径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0046】
比較例2
原料として熱可塑性エラストマーのみを用い、高分子帯電防止剤および摺動剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、糸径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0047】
比較例3
熱可塑性エラストマーとして、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製「Pebax Rnew 40R53」 融点148℃、ショア硬度(D)42)を用いた以外は実施例1と同様にして、糸径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0048】
実施例および比較例で得られたモノフィラメントの物性を表1、2に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
比較例1は、初期弾性率が高く、柔軟性が不足しているため、本発明が目的とするものではない。比較例2は、制電性が不十分であり、また摩擦係数がFF、FMとも大きく、紡糸延伸時や使用時の工程通過性や取扱い性に難がある。比較例3は、摩擦係数が大きく工程通過性や取扱い性に問題があり、また融点が低く耐熱性にも難がある。
【0052】
これらの比較例に対し、実施例1~3はいずれも、一定以上の引張強度を持ちながら初期弾性率の低い柔軟なモノフィラメントであり、制電性も良好であった。また、摩擦係数はFF、FMとも一定の範囲内に収まっており、工程通過性や取扱い性が良好であった。