(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072966
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2338 20110101AFI20240522BHJP
B60R 21/18 20060101ALI20240522BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/18
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183890
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】柿本 憲志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA07
3D054AA21
3D054BB30
3D054CC11
3D054DD13
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】シートの前方に干渉物がある場合であっても、干渉物によりラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制することができる乗員保護装置を提供する。
【解決手段】乗員保護装置10は、乗員Mの腰部MWを拘束するラップベルト部13に設けられたエアバッグ30を備える。膨張用ガスが供給されることにより膨張して乗員Mを受け止めるエアバッグ30のバッグ本体部30aは、乗員Mに当接する後壁部30a1と、後壁部30a1の前方で後壁部30a1と間隔を空けて配置され、後壁部30a1に一端が連結されたテザー30cの他端が連結された前壁部30a2と、テザー30cよりも上方で後壁部30a1と前壁部30a2とを接続する上壁部30a3と、を有し、テザー30cが支持体であるハンドル80に引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80に支持される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、
膨張用ガスを発生させるインフレーターと、
前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、
を備え、
膨張完了時の前記本体部は、
前記乗員に当接する後壁部と、
前記後壁部の前方で前記後壁部と間隔を空けて配置され、前記後壁部に一端が連結された前記テザーの他端が連結された前壁部と、
前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、
を有し、
前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記本体部が前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記本体部は基布によって形成されており、
前記テザーは、前記本体部を形成する前記基布の一部から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記シートベルトを巻き取り可能な巻き取り機構を備え、
前記インフレーターと前記巻き取り機構は、前記シートに搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記支持体は、前記車両に搭載されたハンドルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記支持体は、前記乗員の膝部であることを特徴とする請求項1乃至3のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転席に着座した乗員を保護するための構成として、ハンドルにエアバッグを設ける構成が広く知られている。また、特許文献1では、シートベルトにおける乗員の腰部を拘束するラップベルト部にエアバッグを設けて、乗員を保護する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転席は、前後方向に移動可能に構成されていることが一般的であるため、運転席の位置に応じて運転席に着座する乗員とハンドルとの間の距離が変化する。ここで運転席に着座する乗員とハンドルとの間の距離が大きい場合、ハンドルに設けられたエアバッグで乗員を保護するよりも、特許文献1に記載の構成のようにラップベルト部に設けられたエアバッグで乗員を保護する方が乗員を的確に保護できる可能性がある。特にこの構成は、車両の自動運転化などに伴い、運転席に着座する乗員の前方に広い空間を確保するため、従来よりも運転席を後方に大きく移動可能とする構成が採用された場合に有効である。
【0005】
一方、特許文献1に記載のエアバッグは、膨張完了時に乗員の前方側で隙間なく広がる形状であることから、運転席とハンドルとの間の距離が近い状態でエアバッグが膨張する場合、エアバッグがハンドルと干渉して広がりにくくなるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、シートの前方に干渉物がある場合であっても、干渉物によってラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制することができる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の代表的な構成は、車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、膨張用ガスを発生させるインフレーターと、前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、を備え、膨張完了時の前記本体部は、前記乗員に当接する後壁部と、前記後壁部の前方で前記後壁部と間隔を空けて配置され、前記後壁部に一端が連結された前記テザーの他端が連結された前壁部と、前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、を有し、前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記本体部が前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、乗員保護装置において、シートの前方に干渉物がある場合であっても、干渉物によってラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置を搭載したシートの斜視図である。
【
図4】エアバッグが膨張した際のシートの左側面図である。
【
図5】
図3に示すA-A部を切断したバッグ組付体の断面図である。
【
図6】エアバッグが膨張した状態のバッグ組付体を下側から見た斜視図である。
【
図8】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
【
図9】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
【
図10】乗員保護装置を助手席に搭載した構成において、エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、まず本発明の一実施形態に係る乗員保護装置10の全体構成について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、以下の説明において、左右方向は、乗員保護装置10を搭載したシート1の左方向と右方向、具体的にはシート1に着座する乗員Mから見た左方向と右方向を意味する。前後方向は、シート1の前方向と後方向、具体的にはシート1に着座する乗員Mから見た前方向と後方向を意味する。上下方向は、鉛直方向の上方向と下方向を意味する。
【0011】
図1は、乗員保護装置10を搭載したシート1の斜視図である。
図2は、シート1の左側面図である。
図3は、シート1の正面図であり、シート1に着座してシートベルト11を装着した状態の乗員Mと乗員保護装置10の膨張状態のエアバッグ30とを二点鎖線で示している。
図4は、エアバッグ30が膨張した際のシート1の左側面図であり、シート1に着座してシートベルト11を装着した状態の乗員Mを二点鎖線で示している。
【0012】
図1~
図4に示す様に、乗員保護装置10は、車両の運転席であるシート1に搭載されており、シート1に着座した乗員Mを保護するために設けられている。乗員保護装置10は、シートベルト11、エアバッグ30を備えるバッグ組付体29、及びエアバッグ30に膨張用ガスを供給するインフレーター24から構成されている。シート1は、背もたれ部2と座部5を備える。また、シート1は、不図示のシートスライドによって前後方向にスライド移動可能に構成されている。シートスライドは、シート1の下側で左右二本のレールを車両のボディに取り付け、シートフレーム4にこの二本のレールに係合するレールを取り付け、その間にロック機構を設けたものである。なお、本実施形態の車両には自動運転モードは搭載されていないものの、シート1は自動運転モードを搭載した車両にも対応可能となるように、不図示のシートスライドによって後方に大きく移動可能に構成されており、乗員Mの足元の空間を広く確保できるようになっている。
【0013】
シートベルト11は、滑り性能が良好なポリエステル繊維等を編んだ帯状の材料で形成されている。シートベルト11は、シート1に着座した乗員Mの左肩口付近において、その上端11a側を背もたれ部2の左上縁付近の内部に設けられた巻き取り機構15から繰り出し可能に構成されている。シートベルト11の下端11b側は、座部5の左側に設けられたアンカ部材17に固定された固定端となっている。また、シートベルト11の中間部位には、タング20が設けられている。タング20は、シート1の座部5の右側に設けられたバックル19に締結される。乗員Mがシート1に着座し、タング20がバックル19に締結された状態が、乗員Mにシートベルト11が装着された状態である。
【0014】
乗員Mに装着された状態のシートベルト11は、タング20から巻き取り機構15側に延び、乗員Mの上半身MUの前面側に配置され、乗員Mの上半身MUを拘束可能な部位であるショルダーベルト部12と、タング20から下端11b側に延び、乗員Mの腰部MWの前面側に配置され、腰部MWを拘束可能な部位であるラップベルト部13を有する。なお、乗員Mは、バックル19に設けられた不図示のリリースボタンを押圧操作することによってタング20のバックル19に対する締結状態を解除し、タング20をバックル19から取り外すことができる。
【0015】
巻き取り機構15は、シートベルト11の急激な引き出しがある場合は引き出しを停止させ、さらに車両の衝突等があれば引き出したシートベルト11を巻き取り可能に構成されたプリテンショナー機構16を有する。プリテンショナー機構16は、汎用のものであって、内蔵したガスジェネレータを作動させてシートベルト11を巻き付けていた軸を回転させて、シートベルト11を瞬時に巻き取るものである。
【0016】
インフレーター24は、膨張用ガスを放出するインフレーター本体25と、インフレーター本体25から放出された膨張用ガスをエアバッグ30に案内するパイプ部26から構成されている。インフレーター本体25は、シート1の座部5を支持するシートフレーム4に取り付けられている。パイプ部26は、インフレーター本体25から延出し、座部5の底面から側面に沿うように略L字状に屈曲した形状をしている。
【0017】
バッグ組付体29は、バッグ本体部30aや導管部30bを有するエアバッグ30と、バッグ連結部52と、バッグカバー59を備える。バッグ本体部30aは、エアバッグ30が作動する前の状態では、折り畳まれた状態でバッグカバー59の内部に収納されている。エアバッグ30の導管部30bは、インフレーター24のパイプ部26に接続されており、インフレーター24から放出される膨張用ガスを取り込んでバッグ本体部30aまで案内する。エアバッグ30の導管部30bの基端部30bx2と、インフレーター24のパイプ部26は、クランプ27で締結されることによって連結されている。
【0018】
次に、乗員保護装置10による乗員Mの保護動作について説明する。まず車両が衝突すると、巻き取り機構15のプリテンショナー機構16が作動し、乗員Mのシート1への着座姿勢を安定させるために乗員Mに装着したシートベルト11が巻き取られる。これによりシートベルト11のラップベルト部13がタング20側に引き込まれるとともに、ラップベルト部13から連なるショルダーベルト部12が乗員Mの肩口側に引き込まれる。その後、インフレーター24が作動し、膨張用ガスがインフレーター本体25からパイプ部26、エアバッグ30の導管部30bを経由してエアバッグ30のバッグ本体部30aに供給されると、バッグ本体部30aが膨張する。これにより前方移動する乗員Mの上半身MUがバッグ本体部30aに受け止められて乗員Mが保護される。
【0019】
次に、バッグ組付体29の構成について説明する。
図5は、
図3に示すA-A部を切断したバッグ組付体29の断面図である。
図6は、エアバッグ30が膨張した状態のバッグ組付体29を下方から見た斜視図であり、バッグカバー59は省略している。
図7は、エアバッグ30の展開平面図である。
図5、
図6、
図7に示す様に、バッグ組付体29は、エアバッグ30、バッグ連結部52、及びバッグカバー59を備える。
【0020】
エアバッグ30は、膨張用ガスにより膨張して乗員Mを受け止める本体部としてのバッグ本体部30aと、インフレーター24のパイプ部26に接続され、インフレーター24から放出される膨張用ガスをバッグ本体部30aの流入口30a1aまで案内してバッグ本体部30aに膨張用ガスを流入させる導管部30bと、バッグ本体部30aの外周面に連結されたテザー30cから構成されている。バッグ本体部30aと導管部30bは、縫合されることによって連結されている。
【0021】
膨張完了時のバッグ本体部30aは、乗員Mの直ぐ前方に配置され、前方移動する乗員Mの上半身MUに当接して上半身MUを受け止める後壁部30a1と、後壁部30a1の前方で後壁部30a1と間隔を空けて配置された前壁部30a2と、後壁部30a1の上部と前壁部30a2の上部を接続する上壁部30a3を有する。前壁部30a2は、後壁部30a1に対し、乗員M側とは反対側に配置されている。また、後壁部30a1と前壁部30a2が前後方向において間隔を空けて配置されていることから、上壁部30a3の下方において、後壁部30a1と前壁部30a2との間には空隙35が形成されている。また、テザー30cは、上壁部30a3の下方、即ち後壁部30a1と前壁部30a2との間の空隙35内において、一端部30c1が後壁部30a1に連結されており、他端部30c2が前壁部30a2に連結されている。つまり上壁部30a3は、テザー30cの上方において前壁部30a2と後壁部30a1とを接続している。また、後壁部30a1の下部には、導管部30b内の膨張用ガスを流入させるための開口部である流入口30a1aが設けられている。このバッグ本体部30aの形状は、略直方体状のバッグ本体部30aがテザー30cの張力によって屈曲されることで作られている。
【0022】
また、バッグ本体部30aは、ポリエステル繊維を平織り等して形成した織布である略長方形状(帯状)の二枚の基布61、62の縁部61a、62a同士を縫合することによって形成されている。基布61は、基布62に対し、長手方向の長さが長く、短手方向の長さが同じとなるように構成されている。この基布61における基布62よりも長い部分61dは、その先端部61d1がバッグ本体部30aの外部において基布61のテザー縫合部61eに縫合されることによりテザー30cとなる。このようにバッグ本体部30aを略長方形状の材料で形成することにより、エアバッグ30の歩留まりが良くなる。また、テザー30cをバッグ本体部30aを形成するための基布61を用いて形成することにより、エアバッグ30を形成するための材料を削減することができる。このような点を考慮しなければ、テザー30cは別の基布や他の材料のものをバッグ本体部30aの外周面に連結して構成してもよい。また、後壁部30a1、前壁部30a2、及び上壁部30a3の厚みを確保するため、二枚の基布61、62を離隔するための略長方形状の二種類の内部テザー63、64がバッグ本体部30aの内部に複数設けられている。内部テザー63は、内部テザー64に対し、長手方向の長さが長く、短手方向の長さが同じとなるように構成されている。内部テザー63は基布61、62のテザー縫合部61b、62bに縫合され、内部テザー63は基布61、62のテザー縫合部61c、62cに縫合される。
【0023】
導管部30bは、インフレーター24のパイプ部26とバッグ本体部30aにそれぞれ連結され、ラップベルト部13の長手方向に沿って延びる筒状の部材である。導管部30bは、バッグ本体部30aの流入口30a1aと連通する連通口30b1を有する。導管部30bの内部の膨張用ガスは、連通口30b1、流入口30a1aを経由して、バッグ本体部30aの内部に流入する。
【0024】
また、導管部30bは、バッグ本体部30aの素材と同じ素材であるバッグ用基布で形成された下側材67及び上側材68の縁部67a、68a同士を縫合することによって形成されている。下側材67は、縫合部67bにおいてバッグ連結部52に縫合されることによりバッグ連結部52と連結されている。上側材68には連通口30b1が形成されており、連通口30b1の周縁68bがバッグ本体部30aを形成する基布62に形成された流入口30a1aの周縁62eに縫合されることによりバッグ本体部30aに連結されている。なお、下側材67と上側材68の外形寸法は同じとなっている。
【0025】
バッグ連結部52は、エアバッグ30を形成するバッグ用基布と同様の素材で形成された筒状の部材であり、エアバッグ30をラップベルト部13に連結する部材である。バッグ連結部52の筒内部の空間は、ラップベルト部13が挿通されるベルト挿通部52aとなっている。ベルト挿通部52aにラップベルト部13が挿通された後、両者が縫合されることでバッグ連結部52とラップベルト部13とが連結される。また、バッグ連結部52の上面は、エアバッグ30の導管部30bを形成する下側材67の縫合部67bに縫合されて連結される。
【0026】
バッグカバー59は、シート1の素材に使用されるようなファブリックで形成された筒状の部材である。バッグカバー59は、筒内部に折り畳まれた状態のエアバッグ30のバッグ本体部30a、導管部30bの一部、バッグ連結部52、及びラップベルト部13におけるバッグ組付体29に組み付けられる部分を収容する。バッグカバー59は、エアバッグ30のバッグ本体部30aが膨張する際にバッグ本体部30aから圧力を受けてその一部が破断し、バッグ本体部30aをバッグカバー59から繰り出させる。
【0027】
次に、エアバッグ30が膨張した際のバッグ本体部30aとその周囲の部材との位置関係について説明する。
図8は、シート1が後方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。
図9は、シート1が前方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が近い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。
【0028】
図8に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が遠い場合、まずエアバッグ30のバッグ本体部30aは上方且つ前方に向かって膨張し、その後に先端30ax側が重力によって垂れ下がる。これによりテザー30cが乗員Mの膝部MK(支持体)に上方から引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが乗員Mの膝部MKに支持される。このようにテザー30cが膝部MKに引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持されることにより、乗員Mの膝部MKによってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部から反力を得やすくなる。つまりテザー30cよりも上壁部30a3が下方にある場合、膨張用ガスが流入した上壁部30a3が膝部MKに当接する際に上壁部30a3の反発力によって上壁部30a3が膝部MKから弾かれやすく、バッグ本体部30aが膝部MKに安定的に支持されない可能性がある。一方、本実施形態のように上壁部30a3がテザー30cの上方に配置されている場合、膨張用ガスが流入していないテザー30cが膝部MKの上面に沿うように引っ掛かって係止されることから、テザー30cと膝部MKとの接触面積を大きく確保して摩擦力を大きくし、バッグ本体部30aをテザー30cを介して膝部MKに安定的に支持させることができる。このため、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部から反力を得やすくなる。なお、バッグ本体部30aの前壁部30a2を乗員Mの膝部MKの前方に配置してテザー30cを膝部MKに引っ掛かりやすくするとともに、乗員Mの膝部MKを的確に保護するために、テザー30cにおける一端部30c1と他端部30c2との間の長さL(
図6)は、300mm以上であることが好ましい。
【0029】
図9に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が近い場合、まずエアバッグ30のバッグ本体部30aはハンドル80を乗り越えるように上方且つ前方に向かって膨張し、その後に先端30ax側が重力によって垂れ下がる。この時、ハンドル80は、バッグ本体部30aの後壁部30a1と前壁部30a2との間に形成された空隙35に配置されることから、バッグ本体部30aが膨張して広がる際にバッグ本体部30aとハンドル80が干渉しにくく、バッグ本体部30aが広がることが妨げられにくい。このように本実施形態の乗員保護装置10によれば、シート1の前方に干渉物であるハンドル80がある場合であっても、バッグ本体部30aとハンドル80との干渉が抑制され、ハンドル80によってエアバッグ30のバッグ本体部30aが広がりにくくなることを抑制することができる。
【0030】
また、ハンドル80を乗り越えたバッグ本体部30aは、テザー30cがハンドル80(支持体)における乗員Mが把持して回転操舵するリング部80aの上面に上方から引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80のリング部80aに支持される。このようにテザー30cがハンドル80に引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持されることにより、ハンドル80によってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。つまりテザー30cよりも上壁部30a3が下方にある場合、膨張用ガスが流入した上壁部30a3がハンドル80に当接する際に上壁部30a3の反発力によって上壁部30a3がハンドル80から弾かれやすく、バッグ本体部30aがハンドル80に安定的に支持されない可能性がある。一方、本実施形態のように上壁部30a3がテザー30cの上方に配置されている場合、膨張用ガスが流入していないテザー30cがハンドル80のリング部80aの上面に沿うように引っ掛かって係止されることから、テザー30cとハンドル80との接触面積を大きく確保して摩擦力を大きくし、バッグ本体部30aをテザー30cを介してハンドル80に安定的に支持させることができる。このため、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。
【0031】
なお、本実施形態では、乗員保護装置10を車両の運転席に設ける構成について説明したものの、本発明はこれに限られず、車両の後部座席や助手席に設けることもできる。例えば車両の助手席に設ける場合、
図10に示す様に、シート1とシート1の前方のインストルメントパネル95との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張すると、テザー30cが助手席に着座する乗員Mの膝部MKに上方から引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが乗員Mの膝部MKに支持される。
【0032】
また、本実施形態では、シートベルト11がショルダーベルト部12とラップベルト部13を備えるいわゆる三点式のシートベルト11を例示して乗員保護装置10を説明したものの、本発明はこれに限られるものではない。即ち、シートベルト11がショルダーベルト部12を備えずにラップベルト部13を備えるいわゆる二点式のシートベルト11に本発明を適用しても、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1…シート、10…乗員保護装置、11…シートベルト、13…ラップベルト部、15…巻き取り機構、19…バックル、20…タング、24…インフレーター、30…エアバッグ、30a…バッグ本体部(本体部)、30a1…後壁部、30a2…前壁部、30a3…上壁部、30b…導管部、30c…テザー、61、62…基布、80…ハンドル(支持体)、M…乗員、MK…膝部(支持体)、MW…腰部