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  • 特開-洗浄装置、および、洗浄方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072971
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】洗浄装置、および、洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/10 20060101AFI20240522BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20240522BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20240522BHJP
   D06F 19/00 20060101ALI20240522BHJP
   D06F 35/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B08B3/10 Z
B08B3/12 A
B08B3/08 Z
D06F19/00
D06F35/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183899
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 正成
(72)【発明者】
【氏名】林 正二
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 功一
(72)【発明者】
【氏名】京谷 浩平
【テーマコード(参考)】
3B168
3B201
【Fターム(参考)】
3B168AB04
3B168AC03
3B168AE05
3B168BA23
3B168BA42
3B168BA45
3B168BA47
3B168BA52
3B168BA84
3B168FA00
3B168JM01
3B168JM02
3B168JM03
3B201AA46
3B201AB03
3B201AB43
3B201BB02
3B201BB85
3B201BB92
3B201BB96
3B201BC01
3B201CB12
(57)【要約】
【課題】 一般的な回転力による洗濯機と同等か、より短い時間で、界面活性剤を使用せずに高い洗浄力を発揮する、洗浄対象物の一部に付着した汚れを目標にした洗浄も可能な洗浄装置、洗浄システムおよび洗浄方法を提供する。
【解決手段】 洗浄液が浸漬した洗浄対象物を収容する洗浄容器と、前記洗浄対象物に波長が350~450nmの光を照射する光源と、を備え、前記洗浄液は、過酸化水素または過炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする洗浄装置。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液が浸漬した洗浄対象物を収容する洗浄容器と、
前記洗浄対象物に波長が350~450nmの光を照射する光源と、を備え、
前記洗浄液は、過酸化水素または過炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄装置において、
更に、前記洗浄対象物に超音波振動を印加する超音波振動子を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項3】
請求項2に記載の洗浄装置において、
更に、前記洗浄対象物を固定する固定具を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項4】
請求項3に記載の洗浄装置において、
前記固定具は、前記光源が前記洗浄対象物に向けて照射した光を透過する透光材であることを特徴とする洗浄装置。
【請求項5】
請求項2に記載の洗浄装置において、
前記超音波振動子は、前記洗浄容器の下面に固着したものであることを特徴とする洗浄装置。
【請求項6】
請求項2に記載の洗浄装置において、
更に、前記洗浄対象物を載置する台座を前記洗浄容器内に備え、
前記超音波振動子は、前記台座に固着した、ランジュバン型振動子またはホーン型振動子であることを特徴とする洗浄装置。
【請求項7】
請求項2に記載の洗浄装置において、
更に、前記光源と前記超音波振動子を移動させる移動機構を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項8】
請求項2に記載の洗浄装置において、
前記洗浄容器は、底面に透光材が配置されており、
前記光源は、前記透光材を透過して前記洗浄対象物に光を照射することを特徴とする洗浄装置。
【請求項9】
請求項8に記載の洗浄装置において、
前記超音波振動子は、前記洗浄容器の上方に設けた振動子台を介して前記洗浄対象物に超音波振動を印加することを特徴とする洗浄装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の洗浄装置において、
前記洗浄液は、前記光源から照射された光によってラジカルを発生することを特徴とする洗浄装置。
【請求項11】
請求項10に記載の洗浄装置において、
前記ラジカルがヒドロキシラジカルであることを特徴とする洗浄装置。
【請求項12】
洗浄容器内の洗浄対象物に洗浄液を浸漬する工程と、
前記洗浄対象物に波長が350~450nmの光を照射する工程と、を備え、
前記洗浄液は、過酸化水素または過炭酸ナトリウムを含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項13】
請求項12に記載の洗浄方法において、
更に、前記洗浄対象物に超音波振動を印加する工程を備えることを特徴とする洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカルによる促進酸化を利用して、衣類等の洗浄対象物を洗浄する、洗浄装置、および、洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、衣類等の繊維製品の洗浄は、洗濯機を使って行われる。洗濯機は、被洗浄物を水や有機溶剤に浸漬し、水や有機溶剤を回転・撹拌することで被洗浄物に付着した汚れを機械的に除去する装置である。こうした洗浄方法における汚れ除去効果の源泉は、液体を機械的に動かすことにより繊維類に動きを伝達し、機械的な力で汚れを繊維から剥離させる機械力である。
【0003】
縦型洗濯機では、衣類等の繊維類を比較的多量の液体に浸漬し、洗濯槽内の液体の回転を利用して繊維類の運動と繊維類同士の接触により汚れを洗浄する。一方、ドラム型洗濯機では比較的少量の液体に繊維類を入れ、ドラムの回転に伴う液体を介した繊維類の運動に加え、繊維類をドラム上方から落下させることによる衝撃で汚れを落とす効果も加味される。両者の動きに多少の違いはあれ、何れにせよ機械力に起因する洗浄効果を利用している点は共通である。
【0004】
一般的な洗濯機では、機械力として回転力が用いられる。例えば、縦型洗濯機であれば、洗濯槽の下部に設置した攪拌翼や洗濯槽自体をモーターによって回転させることで、洗濯槽内の液体を回転させ、繊維類に機械力を伝達させる。モーター技術の進展に伴いモーターの静音化が進んだとはいえ、モーター本体やインバーター駆動回路、周辺の可動部分からの騒音は大きく、人が寛ぐ部屋の中に設置されるほどには静音化できていない。また、装置の体積の大半を占める領域が可動部となり回転するため、装置の振動も避けられない。このため、設置場所が限定されたり、洗濯時間が制限されたりするなどの課題を抱えている。
【0005】
洗浄対象の繊維類は洗濯槽へ投入され、洗剤を用いた洗濯や、複数回の濯ぎを経て洗濯終了となる。この間、洗濯後の脱水や、濯ぎ後の脱水も行われる。このため繊維類は洗濯槽へ投入された状態と最後の脱水が終了した時点でその形態が大きく変化している。引き続いて自動乾燥を行い収納する際や、洗濯後に外干しするために絡まった衣類をほどいたり、ねじれた衣類を解きほぐしたりする必要がある。現在、この作業は人が行うしかなく、脱水以降、もしくは自動乾燥以降の作業を自動化することのハードルは高い。
【0006】
更に、繊維には回転による汚れ除去の過程で折れ、曲げ、引っ張り、擦れなど多様な力が印加され、繊維が損傷する原因となる。本来は汚れの部位と汚れの程度に応じて適切な部位へ適切な機械力を印加することによる汚れ落としが望ましいが、現状では衣類全体へ機械力を印加する機構となっている。こうした損傷の発生と共に繊維の破片が洗濯液の中に拡散する。多くはフィルターにより捕集されるが、一部は最終的に洗濯機から排出される。綿や絹などの動植物起因の蛋白質であれば微生物などにより分解可能であるが、ポリエステルなどの合成繊維は分解されず、長期にわたり残存する恐れがある。このように、現状の洗濯では、汚れ除去に必要とされる以上の機械力が印加されるため、過剰な繊維排出物を生成している恐れがある。
【0007】
また、家庭で用いられる一般的な洗濯機は、汚れの剥離を促進するため水に洗剤を溶かした液体で洗濯を行う。洗剤の主成分は界面活性剤で、アルキル基などの高分子を主鎖とした有機分子で構成される。洗濯後、洗剤は液体と共に洗濯機から排出され、下水を通して処理場まで運ばれる。洗剤は石けん、合成洗剤共に主に生物分解処理により分解処理されるが、その過程で微生物に酸素を送り込む曝気処理を必要とする。下水処理過程において、曝気処理を含む水処理工程は最も電力を消費する過程であり、結果的に洗濯機からの洗剤の排水は電力消費の増大をもたらす。
【0008】
更に、一般的な洗濯機では洗濯対象の繊維類を洗濯槽に完全に入れて洗濯を行う必要がある。このため、繊維類全体が洗濯対象となり、例えば一部に汚れのついた衣類であっても全体を洗浄する必要がある。全体を洗浄するため本来洗浄不要な部分も洗浄しなければならず、洗剤使用量や機械力での損傷による繊維排出量の増加を伴う。仮に汚れの付着した部位とその周辺のみを限定して洗浄することができれば、必要な洗剤量の低減、不要な繊維ダメージの防止、洗濯に係る水量の減少、洗濯や排水の処理に係る電力の低減が可能となる。
【0009】
上述したような特性を持つ従来の洗濯機を開示する文献として、特許文献1が挙げられる。この文献では、要約書で「汚れ量に応じて最適な、高洗浄力で低消費電力となる洗濯運転を行う。」、「ドラム3を回転駆動するドラム駆動部4と、ドラム内の洗濯物の汚れを検知する汚れ検知部18と、汚れ検知部の出力を入力し、洗い、すすぎ、脱水の各工程を逐次制御する制御部30とを備え、洗い工程は、ドラム内で洗濯物が張り付かない程度の低速でドラムを回転する攪拌工程と、洗濯物がドラムの内周壁面に張り付いた状態となる高速でドラムを回転させ、洗濯物から遠心力で洗濯水を排出する遠心力洗浄工程を有し、制御部は、汚れ検知部で検知した汚れに応じて、遠心力洗浄工程におけるドラムの回転数を変化するようにしたものである。」と説明されるように、ドラム式洗濯機に汚れ検知部を設け、検知した汚れ量に応じて洗浄力を変えることにより、高洗浄力と低消費電力の両立を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-52058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のドラム式洗濯機のように、回転力による機械的な洗濯では効率的に洗浄可能な汚れの種類に制限があるため、機械的な洗浄で落ちにくい汚れ(例えば、分厚い布にしみ込んだ汚れ)が付着した衣類等を選択する場合には、汚れ検知機能により一般的な洗濯時間を超えて長時間の洗濯が継続される恐れがある。また、短時間の洗濯だけで汚れが検知されなくなったとしても、汚れの種別が、機械的な洗浄で落ちにくい油汚れであった場合などには、実際には汚れが落ち切らず残存していることも考えられる。即ち、回転力の限定的な洗浄力では落としきれない汚れが残存してしまうことが考えられる。
【0012】
本発明はこうした事情に鑑み、一般的な回転力による洗濯機と同等程度かより短い時間での洗濯でありながら、界面活性剤を使用せずに高い洗浄力を発揮し、かつ、局所的な洗浄への対応が容易で水や電力の使用量を抑制しやすい洗浄装置、及び、洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様の洗浄装置は、洗浄液が浸漬した洗浄対象物を収容する洗浄容器と、前記洗浄対象物に波長が350~450nmの光を照射する光源と、を備え、前記洗浄液は、過酸化水素または過炭酸ナトリウムを含むものとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明の洗浄装置、および、洗浄方法によれば、機械力の使用を抑えつつ、洗浄対象物に付着した局所的な汚れを短時間で洗浄することができる。
【0015】
上記に記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】実施例1の洗浄装置の断面を示す模式図。
図1B】実施例1の洗浄装置の装置上部の下面を示す模式図。
図1C】実施例1の洗浄装置の装置下部の上面を示す模式図。
図2】実施例1の洗浄装置の制御システムの一例を示すブロック図。
図3】実施例3の洗浄装置の断面を示す模式図。
図4】実施例4の洗浄装置の側面を示す模式図。
図5A】実施例5の洗浄装置の側面を示す模式図。
図5B】実施例5の洗浄装置の上面を示す模式図。
図5C】実施例5の洗浄装置の上面を示す模式図。
図6】実施例6の洗浄装置の断面を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて、局所的な汚れが付着した洗浄対象物Cを洗浄するための、本発明の洗浄装置、および、洗浄方法の実施例を説明する。
【実施例0018】
まず、図1Aから図1C、および、図2を用いて、本発明の実施例1に係る洗浄装置を説明する。
【0019】
(1)洗浄装置の構成
図1Aから図1Cは、実施例1の洗浄装置1を示す模式図である。なお、以下では、図示する3軸直交座標系を用いて方向を定義することとする。
【0020】
図1Aは、洗浄装置1の断面を示す模式図である。ここに示すように、本実施例の洗浄装置1は、手動または自動で分離可能な、装置上部10と装置下部20から構成される。洗浄装置1の上側を構成する装置上部10は、上ケース11、仕切り12、光源13、ヒートシンク14、タンク15、ポンプ16、基板17、窓板18(透光材)、支え板19等から構成される。また、洗浄装置1の下側を構成する装置下部20は、下ケース21、洗浄容器22、固定用スペーサ23、超音波振動子24等から構成される。以下、各部を順次説明する。
【0021】
<装置上部10>
図1Aに示すように、装置上部10の上部には、蓋状の上ケース11と板状の仕切り12で囲まれた空間S1が形成される。この空間S1の床に相当する仕切り12の中央には、穴12aが形成されている。光源13は、穴12aを通して下方に光を射出できるよう配置されたLEDであり、例えば、波長365nmの紫外光を射出するUV-LEDである。ヒートシンク14は、密着固定された光源13の発熱を放熱する金属部材であり、熱伝導率の低いスペーサ14aを介して仕切り12の上面に固定される。これにより、光源13の下方に位置する空間S2への熱の蓄積を抑制することができる。
【0022】
空間S1には、洗浄に用いる液体Lを溜めるタンク15、タンク15内の液体Lを下方に供給するポンプ16、チューブ16a、バルブ16b、および、洗浄装置1の各部を制御する電子回路を実装した基板17なども配置している。
【0023】
タンク15には、液体Lを補給する注入口を設けておく。洗浄時に使用する液体Lが複数存在する場合(例えば、水と洗浄液)は、液体Lの種類に応じて、複数のタンク15を設置してもよい。また、複数のタンク15を設置する場合、タンク15の数に合わせてポンプ16を設置してもよいし、共用のポンプ16を1つだけ用意し、複数のタンク15とポンプ16の間にバルブを設けて電子的に切り替えて所望の液体Lを下方に供給できるようにしてもよい。
【0024】
基板17には、装置外部からの電源供給を受け取る電源部、各部の制御に必要な電源を作り出すコンバータ部、各部の動作を制御する制御部などが実装される。これらについては、図2を用いて後述する。
【0025】
仕切り12の下方の空間S2には、窓板18、支え板19などが配置される。窓板18は、紫外光を透過する透光材(アクリル樹脂、ガラス等)で成形された平板であり、複数の柱18aを介して仕切り12の下面に接続される。なお、洗浄装置1の構成要素のうち、窓板18以外の構成要素(特に、上ケース11と下ケース21)は、非透光材である。これは、装置外に紫外線が漏れるのを防止するためである。柱18aは、窓板18を下方に付勢する機能も担っている。例えば、リニアアクチュエータを内蔵した柱18aであれば、窓板18を持ち上げた状態と、窓板18を押し下げた状態を、基板17からの指令に応じて切り替えることができる。なお、簡易な構造としたい場合は、円筒内に、ばね、ゴム、スポンジ等の弾性体を配置して伸縮性を持たせたものを、柱18aとして用いても良い。支え板19は、窓板18の外周に、空間S2の側方を囲むように配置されることで、空間S2内に液体Lが侵入するのを防止する機能を担う。柱18aによって窓板18を上下に移動するため、柱18aが最も短い状態、即ち窓板18が最も持ち上げられた状態で窓板18と仕切り12の間が囲まれるように支え板19の高さは制限する必要がある。なお、柱18aの伸縮に対応できるよう、支え板19も伸縮自在な構造(弾性体構造、蛇腹構造など)としてもよい。
【0026】
このように、柱18aによって、仕切り12と窓板18が接続されているため、使用者等が装置上部10を持ち上げると、装置上部10の上端である上ケース11から下端である窓板18までが一体となって、装置下部20から分離する構造となっている。
【0027】
図1Bは、分離した装置上部10を下方から見た構造を示す平面図である。ここに示すように、窓板18は、略正方形をしており、中心に光源13が臨むような位置で固定される。柱18aは、略正方形の窓板18の四隅に配置される。支え板19は、略正方形の窓板18の外周全体を囲むように配置されている。これにより、いわば、仕切り12が天井、窓板18が床、柱18aが柱、支え板19が壁になるような形で、ほぼ閉じた空間S2が光源13の下方に形成される。
【0028】
<装置下部20>
次に、再び図1Aを用いて、装置下部20の詳細を説明する。装置下部20の外殻を為す箱状の下ケース21の内部には、洗浄対象物Cを収容するために、皿状の洗浄容器22が配置される。この洗浄容器22は、固定用スペーサ23を介して下ケース21の上面に固定される。また、洗浄容器22の下面には平板型の超音波振動子24を接着剤により強固に固定する。
【0029】
ここで、図1Cの模式図を用いて、図1AのA-A’断面での装置下部20の構造を説明する。図示するように、超音波振動子24は、円形平板型の振動子であり、その出力仕様は、例えば、超音波周波数が40kHz、超音波出力が35Wである。超音波振動子24は電歪型の振動子であるため、その表面には、第1電極24a、第2電極24b、絶縁領域24cが設けられる。第1電極24aは、円形平板の接着面(上面)の全体とその反対面(下面)の大部分を覆うように形成された金属薄膜の電極である。また、第2電極24bは、円形平板の下面の一部を覆うように形成された金属薄膜の電極である。絶縁領域24cは、第1電極24aと第2電極24bの間に形成された、金属膜の形成されていない領域である。この第1電極24aと第2電極24bに、リード線を介して基板17から所定の交流電力を供給することで、超音波振動子24は、上記した仕様の超音波振動を発生させる。
【0030】
また、洗浄容器22の底部には、基板17からの指令に応じて溜めた液体Lを外部に排出できるよう、チューブ22a、バルブ22bを設置した。なお、チューブ22aは、下ケース21の外部に導出し、液体Lを装置外部に排出できるようにしておくと良い。
【0031】
以上のような構成の洗浄装置1を用いて洗浄対象物Cを洗浄する場合、まず、洗浄対象物Cは、装置上部10を持ち上げた状態で洗浄容器22の内部に置かれる。その後、装置上部10を閉め、窓板18で洗浄対象物Cを押さえながら、洗浄を開始する。これにより、洗浄処理中の洗浄容器22が外界から隔離されるため、超音波振動によって洗浄容器22の内部から液体Lが跳ね出たり、光源13が紫外光を射出したりしても、それらが外部に漏洩するのを防止することができる。
【0032】
(2)洗浄方法
次に、綿の布に中濃ソースを滴下し、乾燥させたものを洗浄対象物Cとする場合の、本実施例の洗浄装置1による洗浄処理を具体的に説明する。
【0033】
<洗浄対象物Cの設置処理>
まず、上記の様に、装置上部10を取り外し、洗浄容器22に洗浄対象物Cを収容する。その際、洗浄対象物Cの汚れを落としたい部分を、洗浄容器22の中央付近に置く。洗浄容器22の中央付近は光源13に近く洗浄時の光照射量が最大となるため最も汚れが落ちる領域であり、汚れが付いた部分がこの位置に来るようにすることにより、洗浄時間を短縮できるからである。その後、装置上部10を装置下部20の上に乗せ蓋を閉じる。この状態で洗浄対象物Cの洗浄準備ができたので、以降、機械力、促進酸化による洗浄を行う。
【0034】
<超音波振動による洗浄処理>
次に、タンク15に溜めた水を、ポンプ16を介して洗浄容器22に給水する。これにより、洗浄容器22に収容した洗浄対象物Cが水に浸漬する。その状態で超音波振動子24に電圧を印加し、超音波振動を発生させる。発生した超音波振動は超音波振動子24が固着された洗浄容器22を伝搬し、容器内の液体L及び洗浄対象物Cに印加される。この時、無理のない略一定の圧力範囲で窓板18を洗浄対象物Cに押し付けることにより、超音波振動を洗浄対象物Cへ効率よく伝達することができる。なお、超音波振動を印加する際、窓板18は必ずしも洗浄対象物へ押し付けた状態である必要はなく、完全に離れた状態であっても超音波による洗浄の効果はある。ただし、洗浄対象物Cと超音波振動を伝達する媒体(図1では洗浄容器22)の距離は近い方が洗浄の効果は高く、接触している状態が最も洗浄効果が高い。ただし、汚れによって超音波洗浄による汚れの落ち具合が異なるため、常に接触した状態である必要はない。例えば細かい粉末が混じった汚れは汚れが液中に分散しやすく、押し付けなくともある程度まで汚れを落とすことができる。一方、油脂の様な分散しにくい汚れは窓板を押し付けて振動を効率よく伝達することにより効果的に落とすことができる。
【0035】
超音波振動を印加した状態で1~3分程度の間保持する。この間、可能であれば押し付ける圧力を変えたり窓板18を洗浄対象物Cから離したりすることにより、洗浄対象物Cから離脱した汚れの液体L中への分散や拡散を促進でき、より効率よく汚れを落とすことができる。
【0036】
<超音波洗浄後の排水処理>
超音波振動子24への電圧印加を停止した後、洗浄対象物Cを入れた洗浄容器22のバルブ22bを開き、洗浄容器22に溜まった液体Lを排出する。この時、洗浄対象体に押し付けていた窓板18は洗浄対象物Cから離しておくことが望ましい。それによって洗浄対象物Cや窓板18から汚れが離脱し流れやすくなる。また、超音波振動子24に電圧を印加している間にタンク15から水を流しつつ、洗浄容器22のバルブ22bを開くことにより更に汚れを除去しやすくなる。特に油汚れの場合、洗浄対象物Cから離脱した油は液面に浮く成分が多いため、超音波振動子24を動作させている間に前記の様に液体Lを流すことにより窓板18や洗浄対象物Cへの再付着を防ぎやすくなる。この場合、容器底面のバルブ22bから排水するよりも容器側面から液体Lを排出する方がより効果が高い。そのためには、洗浄容器22の側面にバルブ22bをつけるか、洗浄容器22の上端部から液体Lを溢れさせて排出する方法がある。液体Lを排出した後、タンク15からポンプ16を介して再度給水し濯ぐ工程を入れるとより汚れを除去でき、この後に行う促進酸化洗浄の効果をさらに高めることができる。
【0037】
液体Lの排出時には液体Lに流れが生じるため、洗浄対象物Cの位置がずれる恐れがある。これを避けるために洗浄容器22の側面と窓板18の支え板19の隙間を利用して洗浄対象物Cを抑える機構を設けることは有効である。また、排水の際に柱18aの一つのみを洗浄対象物Cに接触させて押さえておく方法もある。洗浄装置1に入りきらない大きな布などが洗浄対象物Cの場合は装置上部10と装置下部20で挟み込んで固定できるため、布の位置ずれが大きくなる心配はない。
【0038】
上記では超音波振動を印加する際に水を使用したが、水の代わりに過酸化水素水や、過酸化水素を成分として含有する液体(過酸化水素洗浄液)、例えば、容易に入手できる過炭酸ナトリウムを使うこともできる。この場合、水を使った場合に比べ、超音波振動を印加したことによる洗浄効果が高まる。
【0039】
<促進酸化による洗浄処理>
次に、促進酸化による洗浄を行う。まず、タンク15に貯留した過酸化水素洗浄液を、ポンプ16を介して洗浄容器22へ導入する。これにより、洗浄容器22に収容した洗浄対象物Cに過酸化水素洗浄液が浸漬する。なお、本実施例では、過酸化水素洗浄液として、濃度3%の過酸化水素水を用いた。次に、光源13から洗浄対象物Cに、窓板18を介して、波長365nmの紫外光を照射する。光照射強度は洗浄対象物Cの位置で50~100mW/cmあれば、通常の汚れに対しては十分である。強固な汚れの場合は光照射強度を上げることにより一定の洗浄時間内での洗浄力を上げることが可能である。ここでは50mW/cmに設定した。
【0040】
光源13にLEDを1つだけ使う場合、洗浄対象物C上での光照射強度は、光源真下が最も高い値となる。洗浄装置1として洗浄領域を想定し、その領域で光源13から最も遠い位置で必要な光強度となるように光源13の駆動条件を設定する必要がある。また、洗浄対象物Cへは窓板18を通して光を照射するため、使用する光源13の波長に対する窓板18の光透過率も勘案して光源13の光出力に裕度を持たせておく必要がある。1つのLEDでは強度や照射領域が不足する場合は複数のLEDを使えばよい。特に広い面積を均一な強度で照射するためには複数のLEDによる照射システムが必須となる。上述のように強固な汚れに対しては、光照射強度を高めると良い。光照射強度は数W/cm程度まで上げても問題はないが、この場合も光源に複数のLEDを使用するか、より容易に光照射強度を上げやすい放電ランプを使用する必要がある。
【0041】
光源13からの光照射は、洗浄対象物Cの汚れの程度や種類に応じて時間を変えることが望ましいが、通常は事前に超音波振動による洗浄を実施しておけば10~15分程度で良い。本実施例では12分間光照射を行った。この間、窓板18は洗浄対象物Cへ押し付けた状態、離れた状態の何れでも良い。
【0042】
<促進酸化洗浄後の排水処理>
光照射の終了後、バルブ22bを開いて、洗浄容器22内の過酸化水素洗浄液を排出する。上記した超音波洗浄後の排水処理と同様に、光照射時に過酸化水素洗浄液を排出と同時に給水し続けると、離脱した汚れを流し去る効果により洗浄対象物Cへの再付着を防止しやすくなる。また、油系の汚れの場合は促進酸化洗浄によって分解した油起因の汚れが液面に浮くため、これも同様に容器側面や上面から流し去ると再付着の防止に高い効果がある。光照射が完了していれば再付着を防止しつつ汚れを流すために供給する液体Lは単なる水で良い。
【0043】
なお、以上では、超音波振動による洗浄処理の終了後に、促進酸化による洗浄処理を実施するものとして説明したが、両方の洗浄処理を同時に実施しても良いし、促進酸化による洗浄処理の終了後に超音波振動による洗浄処理しても良い。
【0044】
<本実施例による洗浄の効果>
以上で洗浄が終了した。洗浄後、光の当たらない場所で自然乾燥させた後、洗浄の効果を評価した。評価は測色計を用い布の色をLab空間での色座標として求め、汚れ前後と洗浄後の夫々の色空間内の点の距離によって評価した。具体的には汚れが付く前のきれいな状態での綿布の色、汚れが付いた状態で洗浄前の布の色、洗浄後の布の色に対して夫々色座標を計測し、汚れが付く前のきれいな状態での綿布の色座標との間の距離ΔE(洗浄前)、ΔE(洗浄後)を求め、洗浄率ηを(式1)で定義し、各布のηを比較した。
【0045】
η=1-ΔE(洗浄後)/ΔE(洗浄前) ・・・ (式1)
その結果、市販の洗濯機と液体洗剤を用いた場合の洗浄率が86%(η=0.86)であったのに対し、本実施例による洗浄では洗浄率は93%(η=0.93)となり、一般的な洗濯機に比べ高い洗浄効果があることが確認できた。
【0046】
上記では超音波振動による機械力洗浄を実施した後、促進酸化洗浄を行ったが、必ずしもこれらの洗浄を別々に実施することが必要というわけではない。汚れの程度が低い場合や、超音波振動による洗浄で水の中に分散・溶解する汚れの量が少ないか、水の濁りが低い場合には超音波振動による洗浄と促進酸化による洗浄を同時に実施しても良い。この場合、超音波振動による洗浄には水ではなく過酸化水素洗浄液を用いる必要がある。この方式による洗浄は処理を同時に進行できるため、洗浄全体にかかる時間が短くなるメリットがある。一方、汚れが過酸化水素洗浄液に溶け込む場合、光の透過率が下がるので、その分光照射直を長めに取らなければならない。
【0047】
光源13にLEDやレーザーダイオードなど半導体素子を用いる場合、光照射時間と共に光源13の温度が上昇し光出力が低下する。これは半導体素子を用いない放電管式の光源13を使う場合も同様である。このため、光照射時間を決めるには一義的に時間で決定するのではなく光照射量(光照射エネルギー)で決める必要がある。また、半導体素子もしようと共に経時劣化し単位時間当たりの光照射エネルギーは時間とともに減少する。こうしたことから装置には照射した光量をモニタリングするシステムを組み込んでおき、モニタリング量に応じて時間を調整することが望ましい。
【0048】
(3)洗浄の原理
次に、本実施例で利用する2種類の洗浄方法の原理について説明する。
【0049】
超音波振動による洗浄は、機械的な振動により洗浄対象物Cに付着した汚れを剥離したり、水溶性の汚れであれば水への溶解を促進したりすることにより、洗浄効果が発揮される。特に、汚れ成分や汚れ物質の剥離は、汚れ物質を塊として除去することができ、3次元的な汚れ除去効果がある。一方で、洗浄対象物Cが衣類であると、繊維のような細かい構造体の隙間に入り込んだ汚れに対する洗浄効果が低くなる傾向にある。
【0050】
このような特性の超音波振動による洗浄に対し、後述する特性の促進酸化による洗浄方法は、強い酸化力を用いた高い汚れ分解能を用いた洗浄方法であるが、汚れ除去は汚れ表面での分解反応によるものであり2次元的な汚れ除去効果に基づいていると言える。従って、分厚く付着した汚れや固体状の汚れに対する汚れ除去には長い時間を必要とする傾向があり、洗浄時間を短くすることが難しい。一方、超音波振動による洗浄は3次元的な汚れ除去効果が期待できるため、分厚く付着した汚れや固体状汚れに対して促進酸化洗浄を行う前に予備洗いとして実施しておくと促進酸化洗浄の時間を大幅に短くできるメリットがある。
【0051】
促進酸化洗浄は、洗浄液として光源13からの光の照射によって強い酸化力を有するラジカル分子を発生する物質を使用する。この酸化力の強いラジカルを用いて洗浄対象物Cの表面の汚れを酸化分解し洗浄効果を発揮する。このようにラジカルを用いた分解は、促進酸化処理(Advanced Oxidation Process)と呼ばれる。ラジカルを発生する物質として、例えば過酸化水素水が挙げられ、これを含有する液体Lであってもよい。例えば、炭酸ナトリウム過酸化水素化物(過炭酸ナトリウム)等を用いることで、ヒドロキシラジカルを発生することができる。
【0052】
洗浄容器22に供給する液体Lの濃度は、洗浄対象物Cの汚れの程度及び洗浄に掛けられる時間に依存するが、過酸化水素水の場合、質量百分率(w/w%、以下単に%と表記)で1~3%程度の濃度から、高くても15%以下であればよい。これは、濃度が15%よりも高いと、洗浄対象物Cを構成する繊維と汚れの種類によって、繊維のダメージや衣類の色落ちが顕著になる場合があるからである。過酸化水素水を含有する液体Lの場合、液体中の過酸化水素濃度が、過酸化水素水濃度と同程度になるように調整する。
【0053】
光源13の波長は、洗浄液の種類にもよるが、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生するためには、可視光から紫外線の範囲を選択する。ただし、長波長側の光はヒドロキシルラジカルの生成効率が悪いか、或いは生成することができないため、450nmよりも短波長の波長が望ましい。一方、短波長側はヒドロキシラジカルの生成効率は高くなるものの洗浄対象物Cの繊維が受けるダメージも大きくなるため、350nmよりも長波長側が望ましい。汚れの種類によっては350nm近辺の波長であってもダメージが大きい場合があるため、360nmより長い波長がより望ましい。光源13は放電管式ランプでも構わないが、機械的強度や大きさ、電力効率、寿命の観点からLEDやLD(レーザーダイオード)が適している。LEDの場合、この波長範囲では365nmから5nm刻みで405nmまでの光源13が容易に入手できる。
【0054】
上記の様に超音波振動による洗浄は3次元的な洗浄効果により汚れを除去するが、衣類の様な細かい繊維の集合体が洗浄対象物Cであると、繊維の間に入り込んだ汚れや繊維と比較的強く結合するような汚れに対しては効果が低くなり、汚れが残存しやすくなる。これは回転式の洗濯機に洗剤などの界面活性剤を用いて洗浄した場合も同様である。
【0055】
これに対し、本実施例の促進酸化洗浄は、機械的な洗浄や界面活性剤を用いた洗浄が不得手な上記の汚れにも高い洗浄効果を発揮する。これは、洗浄液が細かい繊維の間にもくまなく浸み込む性質があり、そこに光が照射されればラジカルが生成され、近傍の汚れ物質を酸化し分解するからである。洗浄過程がミクロな領域での酸化反応に基づいており、洗浄液と光照射があれば基本的には酸化反応がどこでも生じ得るからである。一般的にラジカルの寿命は10-6~10-9秒程度の極めて短い時間であると言われている。しかし、紫外光の照射を継続することで継続的にラジカル生成を行うことにより、汚れの分解に関係ないラジカルの消滅反応(水分子やその水中での解離物などとの反応に伴うラジカルの消滅)も含め、多数の反応を起こし汚れを分解することができると考えられる。
【0056】
尚、本実施例では機械力による洗浄として超音波振動による洗浄を組み合わせたが、必ずしも機械力洗浄を超音波振動による洗浄に限定するものではない。例えば一般的な選択に用いられる回転式の洗濯機も機械力を洗浄の源泉としており、その効果は既に述べたような3次元的な洗浄効果が期待できるものである。従って、促進酸化洗浄と組み合わせる機械力洗浄に回転式の洗濯機を洗濯しても同様の効果が期待できる。本実施例で超音波振動による洗浄を用いた理由は、回転式の洗濯機は局所的な汚れの処理よりも洗浄対象物C全体を洗浄することに向いているのに対し、超音波振動による洗浄方法は局所的な洗浄と親和性が高いためである。従って、洗濯機で洗浄した衣類に残存する洗濯機では落としきれない汚れの洗浄や、シミなどひどい汚れを洗濯機で選択する前に促進酸化洗浄を行うような使用方法では、機械力による洗浄として回転式の洗濯機を組み合わせることは十分考えられる。
【0057】
(4)洗浄装置1の制御システム
次に、図2の機能ブロック図を用いて、洗浄装置1の制御システムを説明する。図中、実線は電力もしくはアナログ信号を伝達する接続であり、点線は制御信号などのデジタル信号を伝達する接続を示している。なお、水や洗浄液の給排水線は省略している。
【0058】
洗浄装置1の電源入力部E1は、コンセントや電池から入力された電力を、装置内で使用しやすい電力に変換して各構成要素に給電する。給電を直流・交流のどちらで行うかや、給電電圧を何Vにするか等は適宜設計すれば良いが、本例の構成では直流で駆動する要素が多いため、直流で給電する方が望ましい。
【0059】
制御部E2は、制御システムの全体を制御するコンピュータであり、洗浄対象物C毎の洗浄プログラムや、洗浄条件に応じて各所の制御を行う。入力部E3は、洗浄プログラムの選択や洗浄条件の設定など、使用者が洗浄に対して選択や設定すべき事項を指示するために用いる。表示部E4は、洗浄に関する選択肢の表示や設定可能事項の表示、洗浄中の状態表示などに用いる。入力部E3や表示部E4は、タッチパネル式の表示装置であってもよいし、表示と入力を別の装置で担ってもよい。
【0060】
本発明の洗浄装置1による洗浄の基本的流れは、上述したように洗浄対象物Cをセットした後、給水、超音波振動による洗浄、排水、すすぎの為の給水と排水、過酸化水素洗浄液の給水、光源13の点灯と消灯、排水、すすぎと排水で構成されている。そこで、制御部E2は、各要素を順次制御してこの一連の手順を実施する。また、特定の手順の条件を変える場合や特定の条件だけを実施するような洗浄にも対応できるようにいくつかの手順を選べるよう制御部内に複数の洗浄プログラムを準備する。表示部E4と入力部E3を使いこれらの洗浄プログラムの選択や条件設定を行う。
【0061】
洗浄容器22に給水する場合は、バルブセレクタE5で給水バルブE6を選択し、このバルブを開く。この状態で水を貯留するタンク15に接続されたポンプ16のポンプ電源E7を駆動させることによりポンプ16を動作させ、給水する。ポンプ電源E7には、例えばEnable/Disable選択端子付きのDCDCコンバータを使うことにより、ポンプ電源E7へのデジタル制御信号でポンプ16の動作を制御できる。このときの給水量は、ポンプ16の給水スピードと時間から調整する方法が容易である。
【0062】
ポンプ16は、本実施例では5cm角で厚さが1cm程度の小型ダイアフラムポンプを使用したが、駆動に必要な電圧はポンプ電源にて給電された電力を変換する。ポンプ16に変換器が内蔵されているものを用いると使用空間の低減や回路実装などの点で利点がある。
【0063】
洗浄容器22から排水する場合は、バルブセレクタE5で排水用のバルブ22bを選択して排水する。制御部E2では、供給した液体Lの量が分かっているので、排水に必要な時間も概ね推測できる。なお、センサなどで洗浄容器22内の残液量を測定する方法を組み入れ、そこから得られる情報で制御する方法もある。
【0064】
光源13の駆動も同様である。光源13を点灯する手順になったら光源電源E8を駆動し光源13に電力を供給する。LEDは通常直流入力で駆動するため、電源入力部E1から直流が入力される設計の場合、ポンプ電源E7と同様に、光源電源E8にもEnable信号入力付きのDCDCコンバータを用いればよい。LEDの点灯に合わせて装置外部に設置したパイロットランプE9を点灯すると紫外光の照射中であることを明示でき安全である。図2では、光源13に入力する電力を分岐しパイロットランプE9を点灯させる構成としている。
【0065】
超音波振動子24の駆動には高周波電圧を印加する必要がある。このため、高周波電源E10では、電源入力部E1からの直流入力を交流に変換し、さらに周波数変換する。超音波振動子24による超音波振動は、使用する洗浄容器22や洗浄液量との兼ね合いもあるが、基本的には10W程度の出力があれば十分なのでなるべく小型の電源構成を選ぶと良い。また、超音波周波数も洗浄用に市販されている10kHz~50kHz程度のものであればよい。
【0066】
窓板18に接続している柱18aにリニアアクチュエータE11を内蔵することにより、窓板18の上下方向の位置を制御できるようになる。超音波振動による洗浄時に、窓板18の洗浄対象物Cへの押し付け具合を調整することにより汚れを効率よく液体中へ逃がすことができるようになり、洗浄の効率が挙げられることを述べた。リニアアクチュエータE11の利用により、押し付け具合の調整を自動でできるようになる。なお、窓板18の押し付け具合の調整には押し付けている圧力が必要なため、圧力センサE12を用いる。また、窓板18を洗浄対象物Cから離した状態で保持する際は、窓板18の位置を確認するために位置センサE13があると良い。これらのセンサから出力されるアナログ信号はコンバータE14を介してデジタル信号に変換され、制御部E2で取り込まれ、窓板18の位置制御に使用される。
【0067】
光センサE15は、光源13の熱による出力変動や経時変化による出力低下の影響を排除するために使用する。光センサE15のアナログ出力をコンバータE16によりデジタル信号に変換し、制御部E2に取り込む。制御部E2は、光源13の点灯時に光センサE15の入力を取り込み、促進酸化洗浄中の光源13の光出力をモニタリングする。光照射エネルギーが所定の値に達したら光源13を止め、促進酸化洗浄を終了する。光センサE15による光出力の取り込みは、光源13からの光を直接取り込む必要は無く、反射光など光源13の光に比例する間接的な光の取り込みから洗浄対象物Cへの照射エネルギーを算出してもよい。なお、光量モニタリングをせずとも照射時間の制御だけで洗浄は可能であるが、光センサE15を用いることにより光源13の出力変動を補償し、促進酸化洗浄時の汚れ除去を安定して実施することができる。
【0068】
なお、図2中で、一点鎖線で囲んだ圧力/位置センサや光センサは洗浄に必須の要素ではないが、システムに組み込むことにより洗浄力を確実に発揮できるようになる。
【0069】
以上で説明した本実施例の洗浄装置1によれば、機械力の使用を抑えつつ、洗浄対象物に付着した局所的な汚れを短時間で洗浄することができる。
【実施例0070】
次に、本発明の実施例2に係る洗浄装置を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0071】
実施例1では、超音波振動による洗浄と、促進酸化による洗浄を併用したが、本実施例の洗浄装置1では、促進酸化による洗浄のみを用いて洗浄対象物Cを洗浄する。
【0072】
上記したように、超音波振動による洗浄は、洗浄対象物Cの表面に分厚くこびりついた汚れの洗浄に特に有効であり、促進酸化による洗浄は、洗浄対象物Cの繊維にしみ込んだ汚れの洗浄に特に有効である。従って、洗浄対象物Cの表面に分厚くこびりついた汚れが少なく、繊維にしみ込んだ汚れが多いような場合は、超音波振動による洗浄を省いても十分な洗浄力が得られる。
【0073】
本実施例のように、超音波振動による洗浄を省略することで、水や電力の消費が抑えられるだけでなく、超音波振動子の駆動時に発生する可聴音の発生が無いため、洗浄時の音の発生がほぼ無く、住環境に悪影響を与えない洗浄が提供できる。
【0074】
<本実施例の効果の実証>
以下、本実施例の洗浄装置1による洗浄対象物Cの洗浄結果を説明する。
【0075】
まず、実施例1と同様に汚れの付いた洗浄対象物Cを装置内にセットする。本実施例では白い綿布に辣油を滴下して汚れを付けた布を洗浄対象物Cとした。次に、過酸化水素洗浄液を導入する。超音波振動による洗浄は行わず、直ちに促進酸化洗浄を行う。波長365nmのUV光を100mW/cmの強度に設定し、30分間光照射を行う。
【0076】
窓板18は洗浄対象物Cから離しておいてもよいし接触させておいても構わないが、促進酸化洗浄の間に分解された油成分が液面に浮遊してくるため、窓板18への接触を避けるために離しておく方が良い。所望の量の光照射を実施した後、照射を停止し、給水してすすぎを行う。その後、洗浄対象物Cを取出し乾燥させて洗浄が完了する。
【0077】
光が当たらない状態で自然乾燥した洗浄対象物Cの汚れの落ち具合を評価したところ、洗浄率は94%(η=0.94)であった。一方、市販の洗濯機に液体洗剤を用いて洗浄したところ、洗浄率は46%(η=0.46)であり、促進酸化洗浄でも高い洗浄力があることが分かる。尚、促進酸化洗浄の前に超音波振動による洗浄を行った場合の洗浄率は96%(η=0.96)であった。促進酸化洗浄のみの洗浄に比べ僅かに高い洗浄力であるが、汚れによっては促進酸化洗浄のみでも十分高い洗浄力が得られることが分かる。
【0078】
このように、機械力洗浄と促進酸化洗浄を組み合わせた洗浄、促進酸化のみの洗浄の夫々を汚れに応じて選択して洗浄することができる。機械力洗浄と促進酸化洗浄を組み合わせた洗浄は高い洗浄力と短時間での洗浄が特徴であるのに対し、促進酸化だけの洗浄は、同じく高い洗浄力でありながら洗浄時に発生する音が極めて静かであること、洗浄に使用する水量が低減できることなどの特徴を有する。
【実施例0079】
次に、図3を用いて、本発明の実施例3に係る洗浄装置を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0080】
実施例1では、平板型の超音波振動子24を用いたが(図1C参照)、本実施例では、実施例1の超音波振動子24とは異なる構造の超音波振動子を用いる。
【0081】
図3に、超音波振動子としてボルト締めランジュバン型振動子25(BLT)を用いた構成の洗浄装置1を示す。なお、実施例1と共通する構成については図示を省略している。
【0082】
ここに示すように、本実施例の洗浄容器22の上面には、固定用スペーサ26aを介して、台座26が固定されている。この台座26の上面には、洗浄対象物Cを載置するための低部と、ランジュバン型振動子25を固定するための高部が形成されており、洗浄容器22を規定量の液体Lで満たしたときに、低部が水位より低く、高部が水位よりも高くなるように、台座26の形状が設計されている。
【0083】
台座26の高部上面には、ランジュバン型振動子25が、ボルトと接着剤により固定されている。ランジュバン型振動子25への電力供給は、ランジュバン型振動子25の上部に設けた、電極25a、25bを介して行われる。なお、液体Lによる腐食や短絡を防ぐため、両電極は接着剤などの樹脂でカバーしておくことが望ましい。
【0084】
ランジュバン型振動子25の振動は、台座26を介して、洗浄対象物Cに伝達される。洗浄対象物Cは、実施例1と同様に、光透過窓18で押さえられるようになっている。本実施例では、洗浄対象物Cが浸り、かつ、ランジュバン型振動子25が浸らない程度の洗浄液を洗浄容器22に溜めて洗浄対象物Cを洗浄する。これは、促進酸化洗浄によって、ランジュバン型振動子25と台座26を結合する接着剤が促進酸化洗浄によって分解されない様にするためである。従って、促進酸化洗浄に耐性のある接着剤を使用する場合は、ランジュバン型振動子25が浸る程度の洗浄液を洗浄容器22に溜めても良い。この場合、液体Lに浸る部分は耐性のある樹脂などでコーティングしておくことが望ましい。ランジュバン型振動子25は一般に振動子に対して垂直方向の長さ(高さ)が大きいため洗浄機の容量が大きくなる欠点があるが、構造、出力、周波数の選択肢が多い利点がある。
【実施例0085】
次に、図4を用いて、本発明の実施例4に係る洗浄装置を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0086】
図4には、図3のランジュバン型振動子25に代え、棒状のホーン型振動子27を用いた構成例を示す。本図では、棒状のホーン型振動子27を台座26の側面に設置している。このホーン型振動子27と台座26の接続はねじ止めに接着剤による固着で行った。洗浄液の導入に関してはランジュバン型振動子25と同様である。ホーン型振動子27のメリットは占有スペースが小さいため、洗浄装置1が小型にしやすい点である。
【実施例0087】
次に、図5Aから図5Cを用いて、本発明の実施例5に係る洗浄装置を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0088】
実施例1の洗浄装置1では、洗浄対象物Cの上方の光源13と、下方の超音波振動子24が、何れも実用位置に固定されていたが、本実施例の洗浄装置1では、両者が実用位置に固定されておらず、後述する移動機構30を用いて、洗浄処理の進行に伴い任意の一方を実用位置に移動させて択一的に使用する構成とした。なお、本実施例では、超音波振動子としてランジュバン型振動子25を用いているが、超音波振動子の種別はこれに限るものではない。
【0089】
図5Aは、本実施例の洗浄装置1の側面を示す模式図であり、洗浄対象物Cに超音波振動子が接触している状態を表している。また、図5Bは、図5Aの状態の洗浄装置1を上方から見た模式図である。
【0090】
両図に示すように、本実施例の洗浄装置1は、移動ステージ31、32、および、保持台33、34を備えており、これらによって本実施例の移動機構30を構成している。この移動機構30において、光源13とヒートシンク14は、保持台33の先端下部に固定されており、ランジュバン型振動子25は、保持台34の先端下部に固定されている。この保持台33、34は、両保持台を水平方向(X方向)に移動させる移動ステージ32に接続されており、移動ステージ32を適当に駆動することで、保持台33、34を、図の左右方向に移動させることができる。また、移動ステージ32は、移動ステージ32を垂直方向(Z方向)に移動させる移動ステージ31に接続されており、移動ステージ31を適当に駆動することで、保持台33、34を、図の上下方向に移動させることができる。
【0091】
従って、超音波洗浄を実施する際には、基板17が移動ステージ32を適当に駆動することで、洗浄容器22に収容した洗浄対象物Cの上方に、ランジュバン型振動子25を移動させた後、基板17が移動ステージ31を適当に駆動することで、Z方向の移動によりランジュバン型振動子25を接触したり離したりしながら超音波洗浄を行う。
【0092】
その後、促進酸化洗浄を実施する際には、まず、移動ステージ31を駆動して、ランジュバン型振動子25を洗浄対象物Cから離した後、さらに、移動ステージ32を駆動して、洗浄対象物Cの上方からランジュバン型振動子25を移動させるとともに、洗浄対象物Cの上方に光源13を配置する。このようにして、洗浄対象物Cの上方に、光源13が移動する(図5C参照)。その後、移動ステージ31を駆動して、光源13と洗浄対象物Cの距離を適宜設定し、光照射を開始する。
【0093】
図5Aから図5Cでは、一定距離を隔てた2つの支持台33、34の双方を、一組の移動ステージ31、32を駆動することで同期して移動させる構成としたが、振動子のサイズや光源13と洗浄対象物Cの設定距離によっては同期して移動すると振動子と他の構成物が干渉したり、光源13と洗浄対象物Cの間を所望の距離に設定できないような位置関係となったりすることがある。この場合は支持台を独立に動かせるような構成にする必要がある。
【0094】
この移動機構30を用いる構成は、振動子と洗浄対象物Cが直接接触する構造を持つため、窓板18が不要になるなど一部の構成が単純になる利点がある。一方、ステージを搭載するなど他の要素で大掛かりな構成が必要になるが、例えば洗浄対象物Cが大きくその一部を洗浄する場合、洗浄対象物Cが複数箇所ある場合や場所の設定まで含めた自動化を行う際にはこうした機構を組み込むことで実現可能となる(この場合、洗浄容器22に液を溜めるのではなく、少量の液体Lを滴下もしくは噴霧して洗浄対象物Cにしみ込ませるようにして洗浄を行う)。従って、衣類全体を本発明の洗浄装置1で自動洗浄するような場合には必須の構成となる。
【実施例0095】
次に、図6を用いて、本発明の実施例6に係る洗浄装置を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0096】
実施例1の洗浄装置1では、洗浄対象物Cの上方に光源13を配置し、下方に超音波振動子24を配置したが、本実施例の洗浄装置1では、洗浄対象物Cの上方に超音波振動子24を配置し、下方に光源13を配置した。
【0097】
すなわち、本実施例では、図6に示すように、下ケース21の上端に窓板18を設置するとともに、上ケース11の下面に超音波振動子24と振動子台28を設置し、下ケース21の上面に光源13とヒートシンク14を設置している。
【0098】
ここで、本実施例においては、窓板18に載置した洗浄対象物Cに洗浄液を供給した後、下方から紫外光を照射することにより促進酸化洗浄を実施する。すなわち、本実施例の窓板18は、洗浄対象物Cを収容する洗浄容器22の底面を構成することになる。そこで、本実施例では、下ケース21と窓板18の間にスペーサ29を配置し、これと窓板18を接着剤で固定することで、洗浄容器22への洗浄液の導入時に、下ケース21の内部に洗浄液が漏洩しない様にした。なお、下ケース21の底面のヒートシンク14に面する部分には、図示するように、光源13とヒートシンク14の固定に支障が出ない範囲で穴21aをあけ、この穴21aを介してヒートシンク14の放熱を促進する構造とした。
【0099】
また、上ケース11の上部では、超音波振動子24を振動子台28に固定し、さらに、柱28aを介して振動子台28を上ケース11の下面に固定する。柱28aには、ゴムやバネ等の弾性体を使い、図面上下方向に伸縮性を持たせる。もしくは、実施例1の柱18aと同様に、リニアアクチュエータを用いて上下方向に可動する機構を持たる。これにより振動子台28を洗浄対象物Cへ接触させたり離したりできるようにする。なお、本実施例では、超音波振動子24を振動子台28に載せており振動子台28を介して洗浄対象物Cに振動を付加しているが、超音波振動子24を洗浄対象物Cへ直接接触させて振動を付加する構造として良い。
【0100】
本例の様に窓板18が洗浄対象物Cの洗浄容器22を兼ねる場合、機械的強度が必要となる。このため、窓板18に樹脂を使う場合は厚みのあるものを用いる必要がある。厚みが増すと光透過率が落ちるため、光源13の光照射強度と機械強度のバランスをとる必要がある。樹脂の代わりに石英の様なUV透過率の高いガラスを使う方法もある。ガラスを使うことにより光透過率を高く保ちながらガラスの厚さを薄くしやすい利点や樹脂に比べ表面に傷がつきにくくなる利点がある。
【符号の説明】
【0101】
1…洗浄装置、
10…装置上部、
11…上ケース、
12…仕切り、
12a…穴、
13…光源、
14…ヒートシンク、
14a…スペーサ、
15…タンク、
16…ポンプ、
16a…チューブ、
16b…バルブ、
17…基板、
18…窓板、
18a…柱、
19…支え板、
20…装置下部、
21…下ケース、
21a…放熱穴、
22…洗浄容器、
22a…チューブ、
22b…バルブ、
23…固定用スペーサ、
24…超音波振動子、
24a、24b…電極、
24c…絶縁領域、
25…ランジュバン型振動子、
25a、25b…電極、
26…台座、
26a…固定用スペーサ、
27…ホーン型振動子、
28…振動子台、
28a…
29…スペーサ
30…移動機構、
31、32…移動ステージ、
33、34…保持台、
C…被洗浄物、
L…液体、
S1、S2…空間
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6