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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072974
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】抵抗溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20240522BHJP
   B23K 11/11 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
B23K11/30 320
B23K11/30 310
B23K11/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183903
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 紘次朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝治
(72)【発明者】
【氏名】川口 秀明
(72)【発明者】
【氏名】家永 篤志
(72)【発明者】
【氏名】森脇 幹文
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博紀
(72)【発明者】
【氏名】中井 正規
(72)【発明者】
【氏名】氏平 直樹
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA12
4E165AA32
4E165AB02
4E165AB03
4E165AB13
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB21
4E165BB22
(57)【要約】
【課題】抵抗溶接における溶接品質の低下を抑制する。
【解決手段】抵抗溶接装置は、積層された複数の被溶接材101、102からなるワーク100を加圧しかつ、ワークに給電することによって、複数の被溶接材を溶接する。抵抗溶接装置は、ワークに当接する先端面211を有しかつ、ワークに対する加圧及び給電を行う電極2を備え、電極には、先端面と基端との間の中間部に、電極の外周面に開口するスリット41~44であって、電極の中心軸X方向に交差する面において周方向に延びるスリットが形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の被溶接材からなるワークを加圧しかつ、前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接装置であって、
前記ワークに当接する先端面を有しかつ、前記ワークに対する加圧及び給電を行う電極を備え、
前記電極には、前記先端面と基端との間の中間部に、前記電極の外周面に開口するスリットであって、前記電極の中心軸方向に交差する面において周方向に延びるスリットが形成されている、抵抗溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記スリットは、前記ワークを挟んだ第1側に位置する第1電極と、第2側に位置する第2電極との少なくとも一方の電極に形成されている、抵抗溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記スリットの開口は、前記電極の外周面において、前記中心軸方向に直交する方向の周方向に延びている、抵抗溶接装置。
【請求項4】
請求項3に記載の抵抗溶接装置において、
前記電極は、前記中心軸方向に並んだ複数のスリットを有している、抵抗溶接装置。
【請求項5】
請求項4に記載の抵抗溶接装置において、
前記電極には、径方向の中央部に、前記中心軸方向に延びる孔が形成され、
前記スリットは、前記孔に連通し、
前記電極は、
前記中心軸方向に隣り合う第1スリットと第2スリットとによって形成されかつ、前記孔を囲む環状であって、前記中心軸方向に撓むよう弾性変形可能な厚みを有するベースと、
前記第1スリット内及び前記第2スリット内のそれぞれに形成されかつ、前記中心軸方向に延びて前記ベースに接続されるコラムと、を有している、抵抗溶接装置。
【請求項6】
請求項5に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1スリット内及び前記第2スリット内にはそれぞれ、前記周方向に間隔を空けて複数のコラムが形成されている、抵抗溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1スリット内に形成されたコラムと、前記第2スリット内に形成されたコラムとは、前記周方向に位置がずれている、抵抗溶接装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抵抗溶接装置において、
前記電極は、前記ワークに当接するキャップチップと、前記キャップチップがその先端に取り付けられるシャンクと、前記シャンクを保持するホルダと、を有し、
前記スリットは、前記シャンク又は前記ホルダに形成されている、抵抗溶接装置。
【請求項9】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記ワークは、板状の第1被溶接材と、前記第1被溶接材の上に載る非板状の第2被溶接材と、からなり、
前記第2被溶接材は、前記第1被溶接材の表面に当接する複数の突起を有し、前記複数の突起の箇所において、前記第1被溶接材及び前記第2被溶接材は互いに溶接され、
前記第1被溶接材に当接する第1電極は、前記第1被溶接材及び前記第2被溶接材を前記中心軸方向に貫通するガイドピンを有し、
前記第2被溶接材に当接する第2電極は、前記先端面に、前記ガイドピンが内挿される凹部を有している、抵抗溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、抵抗溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スポット溶接装置が記載されている。スポット溶接装置は、ロボットと、溶接ガンとを備えている。ロボットは、溶接ガンを保持すると共に、溶接ガンを被溶接材の溶接箇所に位置づける。溶接ガンとロボットとの間には、イコライジング機構が介設している。イコライジング機構は、被溶接材の位置ずれ、及び/又は、ロボットのティーチング誤差を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-92181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スポット溶接は抵抗溶接の一つである。抵抗溶接は、以下のプロセスを経ることによって、複数の被溶接材が溶接される。つまり、(1)第1電極及び第2電極が、複数の被溶接材からなるワークを挟み込んでワークを加圧しながら、ワークに給電する。(2)加圧によって被溶接材同士が接触することにより、ワークの接合界面に通電経路が形成されると共に、その接合界面においてジュール熱が発生する。(3)ワークの接合界面において、被溶接材が溶融する。(4)溶融した被溶接材が凝固してナゲットが生成され、溶接プロセスが完了する。
【0005】
抵抗溶接のプロセスにおいて、電極と被溶接材との間で放電が発生する場合がある。このような放電は、電極の先端を摩耗させる。溶接を繰り返している間に、電極の先端の形状が摩耗によって次第に変化することにより、溶接品質が低下するという課題が、抵抗溶接の技術分野には存在する。
【0006】
ここに開示する技術は、抵抗溶接における溶接品質の低下を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、放電の発生が、前述した(1)~(4)のプロセスのうち、(2)及び/又は(3)において被溶接材が軟化/溶融する際に起きることを見出した。
【0008】
より詳細に説明をすると、溶接プロセス中、電極の先端面はワークに押し付けられている。ワークに押し付けられた電極は、ワークと溶接ガンとによって拘束されている。前記(2)及び/又は(3)において被溶接材が軟化/溶融すると、ワークと溶接ガンとによる電極の拘束が緩む。電極に付与されている荷重の中心が、電極の中心軸上であれば、拘束が緩んでも、電極の先端面は被溶接材の表面に対して相対的に動かずに、電極はワークに対して、電極の中心軸方向に押し付けられたままになる。尚、抵抗溶接においては一般的に、電極の中心軸は、ワークの表面に対して直交している。
【0009】
ところが、電極に付与されている荷重の中心が、電極の中心軸に対して偏心していたり、中心軸に対して傾いたりしていると、電極の拘束が緩むことに伴い、電極の先端面が被溶接材の表面を滑るように微少に動いてしまう。この移動時に、電極と被溶接材との間にズレが生じて、電極と被溶接材との間で放電が発生する。
【0010】
尚、以下において、電極に付与されている荷重の中心が、電極の中心軸に対して偏心していたり、中心軸に対して傾いたりしていることを、「荷重の中心が電極の中心軸に対してずれている」と言う。
【0011】
本願発明者らは、前述した放電の発生メカニズムに鑑みて、電極を、中心軸に対して、弾性的に曲げる点に着目した。電極の曲げが可能であれば、電極に付与されている荷重の中心が電極の中心軸に対してずれていても、電極の弾性変形によって、電極の先端面の全体が被溶接材の表面に均一に当接するようになり、電極はワークに対して中心軸方向に荷重を付与することができる。この場合、被溶接材が軟化/溶融して、ワークと溶接ガンとによる電極の拘束が緩んでも、電極の先端面は被溶接材の表面に対して動かない、又は、ほとんど動かない。電極と被溶接材との間にズレが生じることが抑制され、電極と被溶接材との間で放電が発生することが抑制される。
【0012】
具体的に、ここに開示する技術は、積層された複数の被溶接材からなるワークを加圧しかつ、前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接装置に係る。この抵抗溶接装置は、
前記ワークに当接する先端面を有しかつ、前記ワークに対する加圧及び給電を行う電極を備え、
前記電極には、前記先端面と基端との間の中間部に、前記電極の外周面に開口するスリットであって、前記電極の中心軸方向に交差する面において周方向に延びるスリットが形成されている。
【0013】
この構成によると、電極の先端面はワークに当接する。電極の基端は、例えば溶接ガンに支持されていてもよい。溶接ガンは、電極の先端面を被溶接材の表面に押し付ける。電極は、ワークを、電極の中心軸方向に加圧すると共に、ワークに対する給電を行う。
【0014】
ワークに対する加圧及び給電によって被溶接材が軟化/溶融すると、ワークに押し付けられている電極の拘束が緩む。電極に付与されている荷重の中心が電極の中心軸に対してずれている場合、電極の拘束が緩むと電極の先端面が微少に動いて、電極の先端面と被溶接材の表面との間にズレが生じる場合がある。
【0015】
前記の電極の中間部には、スリットが形成されている。スリットは、電極の外周面に開口すると共に、中心軸方向に交差する面において周方向に延びる。尚、中心軸方向に交差する面は、電極における仮想的な面である。スリットは、電極に付与されている荷重の中心が電極の中心軸に対してずれている場合に、電極の中間部が、電極の中心軸に対して弾性的に曲がることを許容する。
【0016】
電極の中間部が弾性変形すると、電極の先端面の全体が被溶接材の表面に均一に当接できる。電極は、被溶接材の表面に均一に当接した先端面を通じて、ワークに対し荷重を付与する。この場合、被溶接材が軟化/溶融することによって電極の拘束が緩んだ際に、電極の先端面は被溶接材の表面に対して動かない、又は、ほとんど動かない。被溶接材は変形するが、互いに当接している電極の先端面と被溶接材の表面との位置関係の変化が抑制される。電極の先端面と被溶接材の表面との間のズレの抑制は、電極と被溶接材との間の放電の発生を抑制するから、電極の先端の摩耗が抑制される。摩耗が抑制されるから、溶接を繰り返しても、電極の先端の形状が変化しない、又は、変化しにくい。前記の抵抗溶接装置は、高い溶接品質を維持できる。また、前記の抵抗溶接装置は、電極の長寿命化にも有利である。
【0017】
また、前記の抵抗溶接装置では、電極のみが新たな構造を有し、電極を除く部位は、従来の抵抗溶接装置を流用できるという利点がある。
【0018】
前記スリットは、前記ワークを挟んだ第1側に位置する第1電極と、第2側に位置する第2電極との少なくとも一方の電極に形成されている、としてもよい。
【0019】
第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極が、弾性変形可能であれば、抵抗溶接装置は、溶接品質を安定にできる。第1電極及び第2電極の両方が、弾性変形可能であれば、抵抗溶接装置は、溶接品質を、より一層安定にできる。
【0020】
前記スリットの開口は、前記電極の外周面において、前記中心軸方向に直交する方向の周方向に延びている、としてもよい。
【0021】
スリットの開口が中心軸方向に直交する方向の周方向に延びていると、電極の中間部は、電極の全周方向について、中心軸に対し安定的に曲がることができる。
【0022】
前記電極は、前記中心軸方向に並んだ複数のスリットを有している、としてもよい。
【0023】
スリットの数が増えると、電極の中間部の弾性率が下がる。電極に形成するスリットの数の調整は、電極の中間部の弾性率を適切な弾性率に定める。適切な弾性率は、電極を通じたワークの加圧を可能にしながら、溶接の最中に電極の先端面と被溶接材の表面との間にズレが生じることを抑制する。
【0024】
前記電極には、径方向の中央部に、前記中心軸方向に延びる孔が形成され、
前記スリットは、前記孔に連通し、
前記電極は、
前記中心軸方向に隣り合う第1スリットと第2スリットとによって形成されかつ、前記孔を囲む環状であって、前記中心軸方向に撓むよう弾性変形可能な厚みを有するベースと、
前記第1スリット内及び前記第2スリット内のそれぞれに形成されかつ、前記中心軸方向に延びて前記ベースに接続されるコラムと、を有している、としてもよい。
【0025】
スリット内のコラム、及び、コラムが接続されたベースは、電極の先端面と基端との間で、中心軸方向に荷重を伝達する。スリット内のコラムは、電極がワークを加圧できる剛性を確保する。
【0026】
ベースは、コラムを通じて中心軸方向の荷重を受けると、中心軸方向に撓もうとする。ベースに隣接するスリットは、ベースが中心軸方向に撓むことを許容する。ベースが中心軸方向に撓むと、スリットが中心軸方向に潰れるようになるから、電極の中間部は、中心軸方向に圧縮変形できる。
【0027】
前記第1スリット内及び前記第2スリット内にはそれぞれ、前記周方向に間隔を空けて複数のコラムが形成されている、としてもよい。
【0028】
前述したように、ベースは、コラムを通じて中心軸方向の荷重を受けると、中心軸方向に撓む。電極に付与されている荷重の中心が電極の中心軸に対してずれていると、周方向に間隔を空けた複数のコラムの内の一部のコラムを通じて伝達される荷重が相対的に大きくなるから、ベースにおいて、当該コラムが接続された箇所が相対的に大きく撓む。その結果、電極は、中心軸に対して曲がる。つまり、周方向に間隔を空けた複数のコラムは、電極が中心軸に対して安定的に曲がることを可能にする。
【0029】
前記第1スリット内に形成されたコラムと、前記第2スリット内に形成されたコラムとは、前記周方向に位置がずれている、としてもよい。
【0030】
ベースを挟んだ第1スリット内のコラムと第2スリット内のコラムとの位置がずれているため、ベースは、それそれのコラムから、周方向の異なる位置において荷重を受ける。ベースは中心軸方向に効率的に撓むことができる。その結果、電極は中心軸に対して弾性的に曲がることができる。一方で、電極は、互いに位置がずれている複数のコラムを通じて中心軸方向に荷重を伝達することができるから、荷重伝達に必要な剛性が確保できる。電極は、ワークを確実に加圧できる。
【0031】
前記電極は、前記ワークに当接するキャップチップと、前記キャップチップがその先端に取り付けられるシャンクと、前記シャンクを保持するホルダと、を有し、
前記スリットは、前記シャンク又は前記ホルダに形成されている、としてもよい。
【0032】
ワークに当接するキャップチップは、摩耗が進むと交換される。キャップチップの交換頻度は、シャンクの交換頻度又はホルダの交換頻度よりも高い。
【0033】
キャップチップにスリットを形成しようとすれば、キャップチップの製造コストが高くなる。交換頻度の高いキャップチップの製造コストが高くなることは、抵抗溶接装置の維持コストを増大させる。これに対し、シャンク又はホルダは、交換頻度が相対的に低いため、スリットの形成箇所として適している。
【0034】
前記ワークは、板状の第1被溶接材と、前記第1被溶接材の上に載る非板状の第2被溶接材と、からなり、
前記第2被溶接材は、前記第1被溶接材の表面に当接する複数の突起を有し、前記複数の突起の箇所において、前記第1被溶接材及び前記第2被溶接材は互いに溶接され、
前記第1被溶接材に当接する第1電極は、前記第1被溶接材及び前記第2被溶接材を前記中心軸方向に貫通するガイドピンを有し、
前記第2被溶接材に当接する第2電極は、前記先端面に、前記ガイドピンが内挿される凹部を有している、としてもよい。
【0035】
抵抗溶接装置は、プロジェクション溶接を行ってもよい。プロジェクション溶接においては、第2被溶接材の複数の突起に対し、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重が加わることが、複数の箇所を均一に溶接して溶接品質を向上させる。
【0036】
スリットを有する電極は、前述したように、電極の先端面と基端との間で弾性変形が可能である。電極は、その先端面の全体が被溶接材の表面に均一に当たって、被溶接材に、中心軸方向の荷重を均一に加えることができる。つまり、抵抗溶接装置は、第2被溶接材の複数の突起に対し、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重を加えることができる。抵抗溶接装置は、プロジェクション溶接の溶接品質を向上させる。
【0037】
このように、ここに開示する抵抗溶接装置は、ワークに対し、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重を加えることができる。この特徴を利用して、抵抗溶接装置の対象となるワークは、例えば筒状の被溶接材同士を軸方向に突き合わせたワークであってもよい。前述した抵抗溶接装置は、被溶接材の接合箇所の全周に亘って、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重を加えることができる。抵抗溶接装置は、溶接品質を向上させることができる。
【0038】
また、ここに開示する抵抗溶接装置は、リングマッシュ溶接に適用することができる。リングマッシュ溶接は、第1被溶接材に形成した孔と、当該孔よりも僅かに大きい外形を有する第2被溶接材とを、孔の周囲に亘って溶接する。前述した抵抗溶接装置は、孔の周囲の溶接箇所に、均一に荷重を加えることができる。抵抗溶接装置は、リングマッシュ溶接の溶接品質を向上させる。
【発明の効果】
【0039】
前記の抵抗溶接装置は、抵抗溶接の最中に、電極の先端面と被溶接材の表面との間のズレの発生を抑制できる。また、ワークに対して荷重を均一に付与することができる。抵抗溶接装置は、溶接品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、スポット溶接装置を示している。
図2図2は、スポット溶接装置の第1電極を示している。
図3図3は、第1電極のシャンクを示している。
図4図4の上図は、シャンクの上面図、下図は、A-A断面図である。
図5図5は、スリットの作成手順を示している。
図6図6の上図は、シャンクが弾性変形した状態を示し、下図は、B-B断面を示している。
図7図7は、シャンクが曲がった状態を示している。
図8図8は、スリットに関する電極の変形例を示している。
図9図9は、コラムに関する電極の変形例を示している。
図10図10は、プロジェクション溶接装置の溶接プロセスを示している。
図11図11は、プロジェクション溶接装置の第1電極の分解図である。
図12図12は、プロジェクション溶接装置の第2電極を示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、抵抗溶接装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する抵抗溶接装置は例示である。
【0042】
(スポット溶接装置の全体構造)
図1は、抵抗溶接装置の全体を例示している。抵抗溶接装置は、積層された複数の被溶接材101、102からなるワーク100を加圧しかつ、ワーク100に給電することによって、複数の被溶接材101、102を溶接する。図1の抵抗溶接装置は、いわゆるスポット溶接装置1である。図1のスポット溶接装置1において、ワーク100の加圧方向は、紙面上下方向である。加圧方向は上下方向に限定されない。
【0043】
スポット溶接装置1は、共に板状の被溶接材101、102を溶接する。2つの被溶接材101、102は、金属板である。2つの被溶接材101、102は、共に鉄系部材であってもよい。鉄系部材は、例えば高張力鋼のように強度及び剛性が高い鋼部材である。また、2つの被溶接材101、102は、例えば、1つが鉄系部材であり、残りの1つがアルミニウム系部材であってもよい。アルミニウム系部材は、例えばアルミニウム合金部材である。尚、図1の例においてワーク100は、2つの被溶接材101、102からなるが、ワーク100は、3つ以上の被溶接材からなってもよい。また、図1において2つの被溶接材101、102は同じ厚みであるが、被溶接材101、102の厚みは異なっていてもよい。
【0044】
図1に例示するスポット溶接装置1は、溶接ガン11を備えている。溶接ガン11は、例えば図示しないロボットに支持されている。ロボットは、溶接ガン11を、ワーク100において溶接を行う位置に位置づける。
【0045】
溶接ガン11は、第1電極2と、第2電極20とを支持する。溶接ガン11の第1アーム111は、基端が固定されかつ先端が固定されていない片持ちで支持されており、第1アーム111は、その自由端において第1電極2を支持している。第2アーム112も、片持ちで支持されており、第2アーム112は、その自由端において第2電極20を支持している。
【0046】
第1電極2は、ワーク100を挟んだ第1側に位置する。図1において、第1電極2は、ワーク100の下側に位置している。第2電極20は、ワーク100を挟んだ第2側に位置する。図1において、第2電極20は、ワーク100の上側に位置している。第1電極2と第2電極20とは、ワーク100を、被溶接材101、102の積層方向に挟み込んで、積層方向にワーク100を加圧する。
【0047】
第1電極2は、略柱状である。第2電極20も、略柱状である。第1電極2と第2電極20とは、電極の中心軸Xの方向に対向している。
【0048】
溶接ガン11は、加圧装置14を有している。加圧装置14は、第2電極20を、ワーク100に対して相対的に、中心軸X方向に移動させる。加圧装置14は、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、又はサーボモータを含んで構成される。溶接ガン11が、第1電極2の先端をワーク100の表面に接触させた状態で、加圧装置14が第2電極20を移動させることによって、第1電極2及び第2電極20は、ワーク100を中心軸X方向に挟み込んで、中心軸X方向にワーク100を加圧することができる。
【0049】
スポット溶接装置1は、制御器12を備えている。制御器12は、スポット溶接装置1において、ワーク100に対する加圧及び給電を制御する。制御器12は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであり、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力バスを含んでいる。CPUは、コンピュータプログラムを実行する中央演算処理装置である。コンピュータプログラムは、OS(Operating System)等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含んでいる。ROMには、種々のコンピュータプログラムや、データ等が格納されている。RAMは、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バスは、制御器12に対して電気信号の入出力をする。
【0050】
制御器12は、ROMに格納されている制御プログラムに従って、加圧装置14に制御信号を出力する。ワーク100は、第1電極2及び第2電極20によって加圧される。制御器12はまた、第1電極2及び第2電極20を通じて、電源13からの溶接電流を、ワーク100へ供給する。
【0051】
ここで、スポット溶接装置1による、溶接プロセスを簡単に説明する。
(1)第1電極2及び第2電極20が、ワーク100を中心軸X方向に挟み込んでワーク100を加圧しながら、ワーク100に給電する。
(2)加圧によって被溶接材101、102同士が接触することにより、ワーク100の接合界面に通電経路が形成されると共に、ワーク100の接合界面においてジュール熱が発生する。
(3)ワーク100の接合界面において、被溶接材101,102が溶融する。
(4)溶融した被溶接材101、102が凝固してナゲットが生成され、溶接プロセスが完了する。
【0052】
(電極の構造)
図2は、第1電極2の構造を例示している。尚、第1電極2及び第2電極20の構造は、上下が反転することを除き、同じである。第2電極20の構造の説明は、省略する。
【0053】
第1電極2のキャップチップ21は、第1電極2の先端に位置する。キャップチップ21は、ワーク100に当接する先端面211を有している。スポット溶接装置1が溶接を繰り返すことによって先端面211が摩耗すれば、キャップチップ21は、交換される。
【0054】
キャップチップ21は、凹部212を有している。凹部212は、キャップチップ21の基端面に開口すると共に、基端面から第1電極2の中心軸Xに沿って凹む。凹部212は、後述するように、冷媒路26の一部を形成する。
【0055】
シャンク22は、第1電極2の中心軸Xに沿って伸びている。キャップチップ21は、シャンク22の先端に取り付けられる。シャンク22は、キャップチップ21を支持する。シャンク22は、第1孔221を有している。第1孔221は第1電極2の中心軸Xに沿って伸びている。第1孔221は、シャンク22の先端及び基端のそれぞれに開口している。第1孔221は、シャンク22を貫通している。シャンク22は、筒形状を有している(図3、4も参照)。
【0056】
キャップチップ21がシャンク22の先端に取り付けられた状態で、第1孔221は、キャップチップ21の凹部212に接続される。後述するように、第1孔221は、冷媒路26の一部を形成する。
【0057】
第1孔221内には、内管222が配設されている。内管222は、第1電極2の中心軸Xに沿って伸びている。内管222は、シャンク22の基端から突出している。内管222は、後述するホルダ23の第2孔231にも内挿される。
【0058】
シャンク22にはまた、スリット41~44が形成されている。図2に例示する第1電極2は、複数のスリット41~44を有している。スリット41~44の形状の詳細は、後述する。
【0059】
ホルダ23は、第1電極2の中心軸Xに沿って伸びる筒状物である。ホルダ23は、第2孔231を有している。第2孔231は、第1電極2の中心軸Xに沿って伸びている。第2孔231は、ホルダ23を貫通している。
【0060】
シャンク22の基端部は、ホルダ23の先端から第2孔231内に挿入されている。ホルダ23は、シャンク22を支持している。ホルダ23の第2孔231と、シャンク22の第1孔221とは連通している。
【0061】
ここで、前述したように、内管222は、シャンク22とホルダ23とにまたがっている。内管222は、冷媒をキャップチップ21へ供給するための送り路24を形成する。内管222の先端は、キャップチップ21の凹部212につながっている。冷媒は、内管222を通って凹部212の中へ供給される。冷媒は、キャップチップ21を効果的に冷却する(図2の矢印参照)。
【0062】
シャンク22の第1孔221と内管222との間は、冷媒の戻り路25の一部を形成する。また、ホルダ23の第2孔231と内管222との間も、冷媒の戻り路25の一部を形成する。戻り路251と戻り路252とは、互いに連通している。キャップチップ21の凹部212の中へ供給された冷媒は、凹部212の中で反転し、戻り路251、252の中を通ってホルダ23の基端まで戻る。送り路24と戻り路25とを含む二重構造の冷媒路26は、キャップチップ21を効率的に冷却できる。
【0063】
(スリットの構造)
図3の左の図は、シャンク22の斜視図である。図3の中央の図は、シャンク22を第1スリット41の位置で切断した断面を示す斜視図である。図3の右の図は、シャンク22を第2スリット42の位置で切断した断面を示す斜視図である。
【0064】
シャンク22は、前述したように、複数のスリット41~44を有している。より詳細に、シャンク22は、上テーパ部223と、下テーパ部224と、中間部225と、からなる。上テーパ部223は、上向きに先細である。上テーパ部223の先端にキャップチップ21が取り付けられる。下テーパ部224は、下向きに先細である。下テーパ部224の基端は、ホルダ23に支持される。中間部225は、上テーパ部223と下テーパ部224との間に位置している。中間部225は、外径が一定である。
【0065】
スリット41~44は、中間部225に形成されている。複数のスリット41~44は、第1電極2の中心軸X方向に並んでいる。図例のシャンク22は、先端から基端の順に、第1スリット41、第2スリット42、第3スリット43及び第4スリット44を有している。
【0066】
各スリット41~44は、中心軸X方向に交差する面、より正確には、中心軸X方向に直交する面において、周方向に延びている。中心軸X方向に直交する面は、第1電極2における仮想的な面である。各スリット41~44は、シャンク22の外周面に開口している。各スリット41~44の開口は、シャンク22の外周面において、中心軸X方向に直交する方向の周方向に延びている。各スリット41~44はまた、図3及び4に示すように、シャンク22の第1孔221に連通している。
【0067】
図3及び4に示すシャンク22において、各スリット41~44は、中心軸X方向に同じ幅を有している。また、中心軸X方向に隣り合うスリット41~44同士の間隔も、同じである。
【0068】
中心軸X方向に隣り合う第1スリット41と第2スリット42とによって、第1ベース45が形成されている。同様に、第2スリット42と第3スリット43とによって、第2ベース46が形成され、第3スリット43と第4スリット44とによって、第3ベース47が形成されている。各ベース45~47は全て、第1孔221を囲む環状である。また、中心軸X方向に隣り合うスリット41~44同士の間隔が同じであるため、各ベース45~47の中心軸X方向の厚みは、同じである。
【0069】
各スリット41~44には、コラム31~33、34~36が形成されている。コラム31~36は、スリット41~44内において中心軸X方向に延びて、ベース45~47に接続されている。尚、第1スリット41の上側にはベースが無いため、第1スリット41に形成されているコラム31~33の上端は、第1スリット41を形成する上壁に接続されている。同様に、第4スリット44の下側にはベースが無いため、第4スリット44に形成されているコラム34~36の下端は、第4スリット44を形成する下壁に接続されている。
【0070】
各スリット41~44には、三つのコラム31~36が形成されている。より詳細に、第1スリット41には、第1コラム31、第2コラム32、及び、第3コラム33が形成されている。第3スリット43にも、第1コラム31、第2コラム32、及び、第3コラム33が形成されている。
【0071】
第2スリット42には、第4コラム34、第5コラム35、及び、第6コラム36が形成されている。第4スリット44にも、第4コラム34、第5コラム35、及び、第6コラム36が形成されている。
【0072】
第1~第6コラム31~36は全て、図4の上図に示すように、横断面が略三角形の同一形状を有している。第1~第3コラム31~33は、第1孔221を囲むように、第1孔221の周囲に配置されている。各コラム31~33の三角形の頂点は、第1電極2の径方向の外方に位置している。図例のシャンク22において、第1~第3コラム31~33は、互いに120°の間隔を空けている。第1コラム31と第2コラム32との間には、スリット41、43と第1孔221とをつなぐ連通口37が形成されている。同様に、第2コラム32と第3コラム33との間、及び、第3コラム33と第1コラム31との間にも、スリット41、43と第1孔221とをつなぐ連通口37が形成されている。
【0073】
第4~第6コラム34~36も、第1孔221を囲むように、第1孔221の周囲に配置されている。各コラム34~36の三角形の頂点は、第1電極2の径方向の外方に位置している。図例のシャンク22において、第4~第6コラム34~36は、互いに120°の間隔を空けている。第4コラム34と第5コラム35との間、第2コラム32と第3コラム33との間、及び、第3コラム33と第1コラム31との間にはそれぞれ、スリット42、44と第1孔221とをつなぐ連通口37が形成されている。
【0074】
第1コラム31と第4コラム34とは、周方向に60°だけ角度がずれている。同様に、第2コラム32と第5コラム35とは、周方向に60°だけ角度がずれ、第3コラム33と第6コラム36とは、周方向に60°だけ角度がずれている。従って、図4の上図に示すように、任意のベース45~47を間に挟む、隣り合う二つのスリット41~44に形成されたコラム31~36は全て、周方向に位置がずれている。
【0075】
シャンク22に対する、スリットとコラムの作成は、一例として、以下のようにして行うことができる。図5は、シャンク22に対して、第1スリット41と第1~第3コラム31~33を作成する手順を示している。
【0076】
先ず、第1孔221が形成されているシャンク22を用意する。工程P1において、シャンク22を固定し、当該シャンク22の外周部に対して、中心軸Xに直交する方向に、切削工具5を相対移動させる。これにより、シャンク22の横断面において、円弧と弦とによって囲まれる弓形の箇所が、切削工具5によって削り取られる。尚、切削工具5は、弦がシャンク22の第1孔221と干渉する位置まで、シャンク22の径方向の内方に送られる。工程P1において、シャンク22の外周面に開口すると共に、第1孔221に連通するスリット41が、シャンク22に形成される。
【0077】
次いで、工程P2において、シャンク22を、中心軸周りに120°回転させて、シャンク22を固定する。工程P1と同様に、切削工具5を、シャンク22の外周部に対して、中心軸Xに直交する方向に相対移動させる。これにより、工程P1と同様に、シャンク22の横断面において、円弧と弦とによって囲まれる弓形の箇所が、切削工具5によって削り取られる。シャンク22の外周面における、前記とは別の位置に開口すると共に、第1孔221に連通するスリット41が形成される。また、工程P2において、第1コラム31が形成される。
【0078】
次いで、工程P3において、シャンク22を、中心軸周りにさらに120°回転させて,シャンク22を固定する。そして、工程P1と同様に、切削工具5を、当該シャンク22の外周部に対して、中心軸Xに直交する方向に相対移動させる。これにより、工程P1と同様に、シャンク22の横断面において、円弧と弦とによって囲まれる弓形の箇所が、切削工具5によって削り取られる。シャンク22の外周面における、前記とは別の位置に開口すると共に、第1孔221に連通するスリット41が形成される。また、工程P3において、第2コラム32及び第3コラム33が形成される。尚、図例のシャンク22においては、三つの工程のそれぞれにおいて、スリット41が個別に形成されるが、スリット41は、第1コラム31、第2コラム32及び第3コラム33それぞれの先端箇所を通じて、互いにつながっている。
【0079】
工程P1~P3によって、第1スリット41と第1~第3コラム31~33がシャンク22に形成されれば、シャンク22と切削工具5との、中心軸X方向の相対位置を変えて、前述した工程P1~P3により、第2スリット42と第4~第6コラム34~36がシャンク22に形成される。尚、シャンク22の周方向の向きが調整されることによって、第1~第3コラム31~33の位置と、第4~第6コラム34~36の位置とは、60°だけずれる。シャンク22に対する、第3スリット43と第1~第3コラム31~33との形成、及び、第4スリット44と第4~第6コラム34~36との形成も、同様に行うことができる。
【0080】
(電極の弾性変形)
前述したように、第1電極2には、スリット41~44及びコラム31~36が形成されている。第2電極20にも、スリット及びコラムが形成されている。スリット41~44及びコラム31~36は、第1電極2の先端面211と基端との間の中間部において、第1電極2を弾性変形させる。
【0081】
図6は、第1電極2に対して、中心軸X方向の荷重が、中心軸X方向に直交する面において均一に付与された状態を例示している。第1電極2に付与されている荷重の中心は、中心軸X上にあることと等価である。荷重は、シャンク22において、コラム31~36と、ベース45~46とを介して、中心軸X方向に伝達される。
【0082】
図6の下図に示すように、第1スリット41の第1~第3コラム31~33は、周方向に等間隔を開けて位置している。また、第1ベース45を挟んで第1スリット41に隣り合う第2スリット42の第4~第6コラム34~36は、第1~第3コラム31~36に対し、周方向に位置がずれている。第1ベース45の上側の第1~第3コラム31~33の位置と、第1ベース45の下側の第4~第6コラム34~36の位置とがずれているため、中心軸X方向に直交する方向に広がる第1ベース45に対し、中心軸X方向の荷重が付与される位置が、図6の上図に黒い矢印で例示するように周方向にずれる。その結果、第1ベース45は、図6の上図に二点鎖線で例示するように、中心軸方向に撓む。換言すると、第1ベース45の中心軸方向の厚みは、荷重が付与された際に撓みが生じる程度の厚みである。
【0083】
同様に、第2スリット42の第4~第6コラム34~36と、第3スリット43の第1~第3コラム31~33とが周方向に位置がずれているから、第2ベース46は、図6の上図に二点鎖線で例示するように、中心軸X方向に撓む。
【0084】
また、第3ベース47も、第3スリット43の第1~第3コラム31~33と、第4スリット44の第4~第6コラム34~36とが周方向に位置がずれているから、図6の上図に二点鎖線で例示するように、中心軸X方向に撓む。尚、図6は、各ベース45~47の撓みを誇張して描いている。
【0085】
コラム31~36は、ベース45~47の撓みを促進し、スリット41~44は、ベース45~47の撓みを許容する。シャンク22は、第1電極2に付与されている荷重の中心が、中心軸X上にある場合は、中心軸X方向に縮むように弾性変形をする。つまり、シャンク22は、中心軸X方向に荷重を伝達しつつ、弾性的に圧縮変形可能である。
【0086】
第1電極2に付与されている荷重の中心が、第1電極2の中心軸Xに対して偏心していたり、中心軸Xに対して傾いたりしていると、荷重は、中心軸X方向に直交する面において不均一に付与される。この場合、各スリット41~44の三つのコラム31~36を通じてベース45~47に付与される荷重が不均一になるから、ベース45~47において、コラム31~36から相対的に大きい荷重が付与された箇所は、局所的に、中心軸X方向に大きく撓むようになる。例えば図7は、白抜きの矢印で示すように、中心軸Xに対し紙面左側に偏心した軸に沿って圧縮荷重が第1電極2に付与された例を示している。この場合、スリット41~44における、紙面左側の箇所が相対的に潰れるようになるから、シャンク22は、中心軸Xが傾くように曲がる(図7の矢印参照)。シャンク22が曲がるから、キャップチップ21の先端面211は、ワーク100の表面に当接した状態を維持する。尚、図7は、シャンク22の曲がりを誇張して描いている。
【0087】
前述した溶接プロセスの(2)及び/又は(3)において被溶接材101、102が軟化/溶融する際に、溶接ガン11とワーク100とによって拘束されていた電極が、その拘束が緩むことにより動こうとする。より具体的に、第1電極2及び第2電極20はそれぞれ、図1に示すように、片持ち支持された第1アーム111及び第2アーム112に保持されている。このため、被溶接材101、102が軟化/溶融する際に、第1電極2及び第2電極20は、図1に白抜きの矢印で示す方向に傾くように動こうとする。
【0088】
このときに、スリット41~44及びコラム31~36を有する電極2、20では、前述したようにシャンク22が曲がることによって、キャップチップ21の先端面211は、ワーク100の表面に当接した状態を維持することができる。その結果、電極2、20の先端面211と被溶接材101、102の表面との間にズレが生じず、電極2、20と被溶接材101、102との間で放電が発生することが抑制される。放電の抑制によって電極2、20の先端の摩耗が抑制されるから、このスポット溶接装置1は、溶接を繰り返しても、溶接品質の低下を抑制できる。また、キャップチップ21の摩耗が抑制されるから、キャップチップ21の寿命が長くなる。
【0089】
また、前記のスポット溶接装置1では、電極2、20のみが新たな構造を有し、電極2、20を除く部位は、従来のスポット溶接装置を流用できるという利点がある。
【0090】
(スリット及びコラムの変形例)
スリット41~44の開口は、電極2、20の外周面において、中心軸X方向に直交する方向の周方向に延びている。この構成は、電極2、20に付与されている荷重の中心が電極2、20の中心軸Xに対してずれている場合に、電極2、20の全周方向について、電極2、20を、曲げ方向に、安定的に弾性変形できるという利点がある。尚、スリットの開口は、電極の外周面において、中心軸X方向に交差する面において周方向に延びていてもよい。この構造の電極も、電極に付与されている荷重の中心が電極の中心軸に対してずれている場合に、電極を、曲げ方向に弾性変形させることができる。
【0091】
電極2、20に形成されるスリットの位置又は数、及び/又は、コラムの位置又は数を変更すれば、電極2、20の弾性率を変えることができる。スポット溶接装置1の溶接条件に応じて、電極2、20の弾性率を適切に設定することにより、電極2、20を通じたワーク100の加圧を可能にしながら、電極2、20の先端面211とワーク100との間にズレが発生することを抑制できる。
【0092】
電極に形成されるベースの厚みは、複数のベースについて同じであってもよいし、異なってもよい。図8は、電極2、20の先端側に位置する第1ベース45の厚みH1を相対的に分厚く、電極2、20の基端側に位置する第3ベース47の厚みH3を相対的に薄くしている。ベースの厚みが分厚いと、ベースの曲げ剛性が高い。つまり、ベースは、中心軸X方向に撓みにくい。ベースの厚みが薄いと、ベースの曲げ剛性が低い。ベースは、中心軸X方向に撓みやすい。電極2、20の先端側に位置する第1ベース45の厚みを相対的に分厚く、電極2、20の基端側に位置する第3ベース47の厚みを相対的に薄くすることによって、電極2、20が安定的に弾性変形する。電極2、20の先端面211とワーク100の表面との間にズレが生じることが、より効果的に抑制できる。
【0093】
尚、図8では、第1ベース45の厚みH1、第2ベース46の厚みH2、及び、第3ベース47の厚みH3を、順に薄くしている(H1>H2>H3)。複数のベースの厚みの大小関係は、図例に限定されない。例えば、複数のベースの厚みの大小関係を、H1=H2>H3としてもよいし、H1>H2=H3としてもよい。
【0094】
また、ベースの数は、三つに限らない。電極2、20は、少なくとも一つのベースを有すればよく、それに伴い、電極2、20は、少なくとも二つのスリットを有すればよい。電極2、20に形成可能なスリットの数は、電極2、20の中心軸X方向の長さに依存する。電極2、20は、例えば最大5つのスリットを有してもよい。
【0095】
図6に例示するように、電極2、20に形成される複数のコラム31~36が全て、周方向に位置がずれていることにより、電極2、20は、電極2、20に要求される中心軸X方向の剛性を確保しながら、曲げ方向に安定的に弾性変形することができる。
【0096】
図9は、コラムの配置を変更した電極2、20を例示している。図9の上図に示すスポット溶接装置10は、シャンク220が、途中で折れ曲がっている。こうした形状のシャンク220は、ワーク100との干渉を回避することができる。図9では図外のホルダに保持されるシャンク220の基端と、キャップチップ21を支持するシャンク220の先端とは、水平方向に位置がずれている(図9のX1、X2参照)。第1電極2及び第2電極9がワーク100を加圧している状態において、キャップチップ21及びシャンク220には、常時、偏心荷重が付与される。
【0097】
スリット4は、シャンク220に形成されている。キャップチップ21に偏心荷重が付与される電極構造の場合、キャップチップ21の先端面211の全体をワーク100の表面に対して均一に当接させるためには、シャンク220における、軸X1よりも図9の紙面右側の箇所の剛性を高く、紙面左側の箇所の剛性を低くすることが好ましい。
【0098】
図9の下図に示すように、スリット4に形成される三つのコラム301、302、303は、スリット4において、軸X1を挟んだ一側に偏って位置している。コラム301とコラム302との間の角度は、90°であり、コラム302とコラム303との間の角度も、90°である。こうすることで、シャンク220は、図9の紙面右側の箇所の剛性が高く、紙面左側の箇所の剛性が低くなる。キャップチップ21は、安定的にワーク100を加圧できると共に、キャップチップ21の先端面211とワーク100の表面との間にズレが生じることが抑制される。
【0099】
尚、図9のシャンク220において、スリット4に形成される三つのコラム301、302、303と、当該スリット4に対して軸X1の方向に隣り合うスリット4のコラムとは、周方向に位置がずれていてもよい。
【0100】
一つのスリット41~44、4に形成されるコラム31~36、310~330の数は、三つに限らない。但し、コラム31~36、310~330が三つあれば、その三つのコラム31~36、310~330が接続される平面は一つに定まる。一つのスリット41~44、4におけるコラム31~36、310~330が三つであることは、複数のスリット41~44、4が軸方向に重なる電極構造において、電極2、20が安定的に曲がる、という利点がある。
【0101】
尚、図3に例示するシャンク22では、コラム31~36の径方向の最外端(つまり、平面視で略三角形のコラム31~36の頂点に相当)が、シャンク22の外周面よりも径方向の内方に位置している。コラム31~36の径方向の最外端は、シャンク22の外周面と同じ位置であってもよい。それによってコラム31~36は、スリット41~44を、周方向に複数のスリットに分断してもよい。
【0102】
また、コラムの横断面形状は、略三角形に限らない。コラムは任意の形状に形成することができる。
【0103】
また、スリット41~44、4は、シャンク22、220に形成されることに限らない。スリット41~44、4は、例えばホルダに形成されてもよい。また、スリット41~44、4は、キャップチップ21に形成されることもできる。しかし、キャップチップ21にスリット41~44、4を形成しようとすれば、キャップチップ21の製造コストが高くなる。交換頻度の高いキャップチップ21の製造コストが高くなることは、スポット溶接装置1、10の維持コストを増大させる。シャンク22、220又はホルダ23は、交換頻度が相対的に低いため、スリット41~44、4の形成箇所として適している。
【0104】
また、スポット溶接装置1、10の第1電極2及び第2電極20の両方に、スリット41~44、4及びコラム31~36、310~330を設けなくても、第1電極2及び第2電極20のいずれか一方に、スリット41~44、4及びコラム31~36、310~330を設けてもよい。
【0105】
(冷媒の漏れを抑制する構造)
シャンク22に形成された各スリット41~44は、冷媒路26を形成する第1孔221に、連通口37を介して連通している。このため、冷媒路26の戻り路25を流れる冷媒が、連通口37及びスリット41~44を通じて電極2、20の外へ漏れてしまう。
【0106】
電極2、20は、冷媒の漏れを抑制する抑制部を備えている。抑制部は、図2に示すように、シャンク22に取り付けられたカバー6である。
【0107】
カバー6は、シャンク22の外周面に形成された、第1~第4スリット41~44の開口を覆う。図2に矢印で示すように、第1~第4スリット41~44の開口から電極2の外に漏れた冷媒は、カバー6の内部に留まる。
【0108】
シャンク22とカバー6との間には、Oリング61が介在している。Oリング61は、シャンク22の上部と下部とのそれぞれに取り付けられている。Oリング61は、シャンク22とカバー6との隙間からの冷媒の漏れを抑制する。
【0109】
こうして、冷却構造を有する電極2、20において、スリット41~44による弾性変形と、冷媒の漏れの抑制とが両立する。
【0110】
尚、抑制部は、スリット41~44、4が形成されている電極2、20についてのみ、取り付ければよい。冷媒の漏れはスリット41~44、4が無ければ生じないためである。
【0111】
(プロジェクション溶接装置の構造)
ここに開示する技術は、スポット溶接装置1への適用に限定されない。ここに開示する電極は、弾性変形するという機能を有するため、電極の先端面211とワーク100の表面とのズレの発生を抑制する作用効果の他に、電極の先端面211がワーク100に対して、荷重を均一に加えることができるという作用効果を発揮できる。この作用効果は、被溶接材が有する複数の突起を均一に溶接することが求められるプロジェクション溶接装置に有用である。プロジェクション溶接は、抵抗溶接の一つである。
【0112】
図10は、プロジェクション溶接装置7の第1電極8及び第2電極9の構造の一部を例示している。プロジェクション溶接装置7の溶接対象であるワーク1000は、第1被溶接材1010と第2被溶接材1020とからなる。第1被溶接材1010は、平板状である。第1被溶接材1010には、貫通孔1011を有している。貫通孔1011は、第1被溶接材1010を厚み方向に貫通する。
【0113】
第2被溶接材1020は、ナットである。第2被溶接材1020は、非板状である。第2被溶接材1020は、図10の左に示すように、平面視で略正方形であり、その中央にネジ孔1021を有している。第2被溶接材1020は、ネジ孔1021が第1被溶接材1010の貫通孔1011と同軸となるよう、第1被溶接材1010の上に載せられる。第2被溶接材1020はまた、四つの角部のそれぞれに突起1022を有している。四つの突起1022はそれぞれ、第2被溶接材1020が第1被溶接材1010の上に載った状態において、第1被溶接材1010の表面に当たる。
【0114】
第1電極8は、キャップチップ81とガイドピン82とを有している。キャップチップ81は、第1被溶接材1010の表面に当接する。キャップチップ81は、貫通孔811を有している。貫通孔811は、キャップチップ81を、中心軸X方向に貫通している。
【0115】
ガイドピン82は、第1電極8の中心軸X方向に延びている。ガイドピン82は、キャップチップ81の貫通孔811に内挿される。ガイドピン82は、後述する伸縮アクチュエータ88によって、中心軸X方向に往復移動する。図10は、ガイドピン82の突出状態を示している。ガイドピン82は、第1被溶接材1010の貫通孔1011及び第2被溶接材1020のネジ孔1021に挿入される。ガイドピン82の先端は、第2被溶接材1020から突出する。ガイドピン82は、第1被溶接材1010と第2被溶接材1020との相対位置を、貫通孔1011とネジ孔1021とが同軸となるよう規制する。尚、第1電極8の構造の詳細は、後述する。
【0116】
第2電極9のキャップチップ91は、第1凹部911と第2凹部912とを有している。第1凹部911は、キャップチップ91の基端部に形成されている。第1凹部911は、キャップチップ91の基端に開口しており、第2電極9の中心軸X方向に延びている。第1凹部911は、後述するように、第2電極9の冷媒路93の一部を形成する。
【0117】
第2凹部912は、キャップチップ91の先端部に形成されている。第2凹部912は、キャップチップ91の先端面913に開口している。キャップチップ91の先端面913における、第2凹部912の周囲は、第2被溶接材1020に当接する。第2凹部912は、第2電極9の中心軸X方向に延びている。尚、第1凹部911と第2凹部912とは、非連通である。ガイドピン82の先端は、第1電極8及び第2電極9がワーク1000を中心軸X方向に挟み込む際に、第2凹部912に内挿される。
【0118】
ここで、プロジェクション溶接装置7による、溶接プロセスを説明する。
(1)第1電極8は、第1被溶接材1010に当接すると共に、ガイドピン82が第1被溶接材1010の貫通孔1011を通って、第2電極9の側へと突出する(図10のP11参照)。
(2)第2被溶接材1020がガイドピン82に外挿され、第2被溶接材1020の突起1022が、第1被溶接材1010の上に当たる(図10のP12参照)。
(3)第2電極9の先端面913が第2被溶接材1020に当たり、第1電極8及び第2電極9が、ワーク1000を中心軸方X向に挟み込んでワーク1000を加圧しながら、ワーク1000に給電する(図10のP13参照)。
(4)加圧によって第2被溶接材1020の突起1022が、第1被溶接材1010に接触し、当該突起1022の箇所において通電経路が形成されかつ、ジュール熱が発生する。第2被溶接材1020の突起1022、及び、第1被溶接材1010において突起1022に接する箇所が溶融する(図10のP14参照)。
(5)溶融した第1被溶接材1010及び第2被溶接材1020が凝固してナゲットが生成され、溶接プロセスが完了する。
【0119】
プロジェクション溶接装置7の第1電極8及び第2電極9は、弾性変形が可能である。これにより、第2被溶接材1020の四つの突起1022に、均一な荷重が加わるようになって、プロジェクション溶接装置7は、四つの突起1022を均一に、第1被溶接材1010に溶接させることができる。以下、図11及び12を参照しながら、弾性変形可能な、第1電極8及び第2電極9の構造を説明する。
【0120】
図11は、第1電極8の分解図を示している。第1電極8のキャップチップ81は、前述したように、貫通孔811を有している。ガイドパイプ83は、キャップチップ81の基端に取り付けられ、キャップチップ81を保持する。ガイドパイプ83はまた、ガイドピン82が挿入される内孔を有している。ガイドパイプ83は、ガイドピン82の往復移動を案内する。
【0121】
ホルダ84は、ガイドパイプ83及びキャップチップ81を保持する。ホルダ84は、筒状であり、後述するロッド87が内挿される孔841を有している。孔841は、ホルダ84を、中心軸X方向に貫通している。
【0122】
第1ジョイント85は、ホルダ84とキャップチップ81との間に介在している。第1ジョイント85は、第1電極8において弾性変形可能な部位である。第1ジョイント85は、筒状であり、中心軸X方向に貫通する貫通孔を有している。ガイドピン82が、この貫通孔に挿入される。第1ジョイント85には、スリット851が形成されている。スリット851は、第1ジョイント85の外周面に開口している。スリット851は、中心軸X方向に交差する面、より正確には中心軸X方向に直交する面において、周方向に延びている。図11に例示する第1ジョイント85は、三つのスリット851を有している。三つのスリット851は、中心軸X方向に並んでいる。尚、第1ジョイント85に形成するスリット851の数は、三つに限らない。各スリット851内にはコラムが形成され、中心軸X方向に隣り合うスリット851とスリット851との間には、ベースが形成されている。第1ジョイント85は、二つのベースを有している。二つのベースはそれぞれ、第1ジョイント85の貫通孔を囲む環状であって、中心軸X方向に撓むよう弾性変形可能な厚みを有している。これらスリット851とコラムとによって、第1ジョイント85は、中心軸X方向の荷重に対して弾性変形することが可能である。
【0123】
第2ジョイント86は、ガイドピン82とロッド87との間に介在している。第2ジョイント86は、ガイドピン82とロッド87とをつなぐ。ロッド87は、中心軸X方向に延びている。ロッド87は、ガイドピン82を伸縮アクチュエータ88に接続する。
【0124】
伸縮アクチュエータ88は、エアシリンダ881とピストンロッド882とから構成されている。ピストンロッド882は、ホルダ84に内挿される。エアシリンダ881に空気が供給されると、ピストンロッド882が伸長する。ピストンロッド882の伸長によって、ガイドピン82は、第2電極9の方へ突出する。
【0125】
従って、第1電極8は、ガイドピン82を進退させる機構を有していると共に、キャップチップ21の先端と第1電極8の基端との間の第1ジョイント85において、弾性変形可能である。荷重の中心が第1電極8の中心軸Xに対してずれている場合に、第1ジョイント85が曲がることにより、キャップチップ81は、第1被溶接材1010に対して、先端面の全体について均一な荷重を付与できる。
【0126】
図12は、第2電極9の構造を例示している。第2電極9は、キャップチップ91を冷却するための冷媒路93を有している。キャップチップ91は、前述したように、第1凹部911と第2凹部912とを有している。
【0127】
ホルダ92は、キャップチップ91を保持する。ホルダ92は、筒状である。ホルダ92は、その先端に、保持部921を有している。保持部921は、ホルダ92の先端面に開口する凹部である。キャップチップ91の基端は、ホルダ92の保持部921に差し込まれる。キャップチップ91の第1凹部911は、ホルダ92の保持部921につながる。
【0128】
ホルダ92の内孔922は、保持部921に連通していると共に、ホルダ92の基端に開口している。内孔922は、冷媒路93の一部を形成する。冷媒は、内孔922及び保持部921を通って、キャップチップ91の第1凹部911へ送られる共に、第1凹部911から、保持部921及び内孔922を通って戻る。尚、ホルダ92の内孔922に、前述した内管222(図2参照)を配置することによって、冷媒路93を二重構造にしてもよい。
【0129】
第2電極9では、ホルダ92にスリット923が形成されている。スリット923は、ホルダ92の外周面に開口している。スリット923は、中心軸X方向に交差する面、より正確には中心軸X方向に直交する面において、周方向に延びている。図12に例示する第2電極9は、四つのスリット923を有している。四つのスリット923は、中心軸X方向に並んでいる。尚、ホルダ92に形成するスリット923の数は、四つに限らない。中心軸X方向に隣り合うスリット923とスリット923との間には、ベースが形成されている。ホルダ92は、三つのベースを有している。三つのベースはそれぞれ、冷媒路93を形成する内孔922を囲む環状であって、中心軸X方向に撓むよう弾性変形可能な厚みを有している。
【0130】
図12では詳細な図示を省略するが、各スリット923には、複数のコラムが形成されている。複数のコラムはそれぞれ、中心軸X方向に延びてベースに接続されている。第2電極9は、キャップチップ91の先端面913と、第2電極9の基端との間のホルダ92において、弾性変形可能である。ホルダ92が弾性変形をすることにより、キャップチップ91の先端面913は、第2被溶接材1020に対して均一な荷重を付与できる。第2被溶接材1020の四つの突起1022は、第1被溶接材1010に対して、均一に溶接される。
【0131】
第2電極9は、冷媒路93を有しているため、スリット923を通じて冷媒が漏れる。第2電極9は、冷媒の漏れを抑制する抑制部を有している。抑制部は、図12に示すように、ホルダ92の外周面に取り付けられたカバー60である。
【0132】
カバー60は、ホルダ92の外周面に形成された、四つのスリット923それぞれの開口を覆う。ホルダ92とカバー60との間には、Oリング601が介在している。Oリング601は、ホルダ92とカバー60との隙間からの冷媒の漏れを抑制する。
【0133】
こうして、冷却構造を有する第2電極9が、冷媒の漏れを抑制しながら、スリット923によって弾性変形することが実現する。
【0134】
(他の実施形態)
ここに開示する技術は、スポット溶接装置1、10又はプロジェクション溶接装置7に適用することに限らない。前述したように、ここに開示する技術は、ワークに対し、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重を加えることができる。この特徴を利用して、抵抗溶接装置の対象となるワークは、例えば筒状の被溶接材同士を軸方向に突き合わせたワークであってもよい。抵抗溶接装置は、被溶接材の接合箇所の全周に亘って、第1電極及び第2電極を通じて均一に荷重を加えることができる。抵抗溶接装置は、溶接品質を向上させることができる。
【0135】
また、ここに開示する技術は、リングマッシュ溶接に適用することができる。抵抗溶接装置は、第1被溶接材に形成した孔と、当該孔よりも僅かに大きい外形を有する第2被溶接材とを、孔の周囲に亘って溶接するリングマッシュ溶接において、孔の周囲の溶接箇所に、均一に荷重を加えることができる。、抵抗溶接装置は、リングマッシュ溶接の溶接品質を向上させる。
【0136】
また、前述した複数の実施形態に記載された特徴は、可能な範囲で組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0137】
100 ワーク
101 被溶接材
102 被溶接材
1000 ワーク
1010 第1被溶接材
1020 第2被溶接材
2 第1電極
20 第2電極
21 キャップチップ
22 シャンク
220 シャンク
221 第1孔
222 内管
23 ホルダ
24 送り路
25 戻り路
251 戻り路
252 戻り路
26 冷媒路
31 第1コラム
32 第2コラム
33 第3コラム
34 第4コラム
4 スリット
41 第1スリット
42 第2スリット
43 第3スリット
44 第4スリット
45 第1ベース
46 第2ベース
47 第3ベース
6 カバー
60 カバー
61 Oリング
610 Oリング
8 第1電極
81 キャップチップ
84 ホルダ
851 スリット
9 第2電極
91 キャップチップ
92 ホルダ
922 内孔
923 スリット
93 冷媒路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12