IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図1
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図2
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図3
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図4
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図5
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図6
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図7
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図8
  • 特開-圧縮機および空気調和装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072985
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】圧縮機および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240522BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20240522BHJP
   F04C 29/06 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F04B39/00 101Z
F04C29/12 C
F04C29/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183922
(22)【出願日】2022-11-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敬悟
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB04
3H003AC03
3H003BA00
3H003BB00
3H003CE01
3H003CF00
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB25
3H129BB32
3H129CC09
3H129CC26
3H129CC30
(57)【要約】
【課題】 アキュームレータの共振を回避することが可能となる圧縮機および空気調和装置を提供すること。
【解決手段】 圧縮機は、電動機と該電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、密閉容器とアキュームレータとに接合され、アキュームレータを密閉容器に固定するための支持具38とを含む。支持具38は、密閉容器に隣接する面を有する支持面部50と、支持面部50に連続し、アキュームレータへ向けて延びる腕部51とを備える。腕部51は、腕部51の一端から支持面部50に向けて形成されたスリット52を有する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部が、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有する、圧縮機。
【請求項2】
前記スリットが延びる方向の所定の位置に、前記腕部の前記スリットにより分断された第1の板状部と第2の板状部とを接合する接合点を有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記密閉容器への前記支持面部の接合と、前記アキュームレータへの前記腕部の接合と、前記接合点を設ける場合の前記第1の板状部と前記第2の板状部との接合を、溶接により行う、請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記アキュームレータへの前記腕部の接合と、前記接合点を設ける場合の前記第1の板状部と前記第2の板状部との接合を、同一の溶接により行う、請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、
前記スリットは、前記腕部の短辺方向の一端から湾曲する隙間である第1の曲線部と、アキュームレータ側から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である第2の曲線部とを有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、
前記スリットは、前記腕部の長辺方向の一端から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記腕部の短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である曲線部とを有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記腕部は、前記支持面部の両端に連続して2つ設けられ、前記各腕部が、前記スリットを有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項8】
圧縮機を備える空気調和装置であって、
前記圧縮機が、
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部が、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有する、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機において発生する騒音原因の一つとして、アキュームレータの共振がある。アキュームレータの共振は、圧縮仕事により発生する振動や、モータで発生する電磁力を加振源とし、アキュームレータを圧縮機に固定する支持具と、アキュームレータから圧縮機へ冷媒を吸い込むための吸い込みパイプとを介してアキュームレータを加振し、その加振周波数とアキュームレータの固有振動数とが略一致した場合に発生する。
【0003】
アキュームレータの固有振動数は、主にアキュームレータおよび支持具の仕様に依存し、例えば、アキュームレータ内に支持板を追加する等して変更することができる。しかしながら、支持板の追加等は、部品点数やコストの増加に繋がりやすい。
【0004】
そこで、部品点数やコストを増加することなく、騒音を低減することを目的として、支持具としての接合部材のアキュームレータ側接合部に切欠部を設け、切欠部の内部から縁部分の外部にわたって盛られた溶接材によって溶接強度を増加させることで、アキュームレータに伝播する振動を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-180397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の技術では、アキュームレータの固有振動数が構造的に決まることから、圧縮機の運転回転数によっては、加振周波数と固有振動数が略一致し、共振が発生する懸念があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電動機と該電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと
密閉容器とアキュームレータとに接合され、アキュームレータを密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
支持具が、密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、支持面部に連続し、アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
腕部が、該腕部の一端から支持面部に向けて形成されたスリットを有する、圧縮機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アキュームレータの共振を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】空気調和装置の構成例を示した図。
図2】空気調和装置の冷媒回路について説明する図。
図3】圧縮機の構成例を示した図。
図4】支持具の一例を示した図。
図5】アキュームレータの固有振動数の調整が可能であることを説明する図。
図6】接合点を変えた場合のバネ定数の違いについて説明する図。
図7】スリット端部での応力集中について説明する図。
図8】アキュームレータとの接合とスリットの接合とを同一の溶接で行う方法について説明する図。
図9】スリットの有無で固有振動数が変化することを実測した結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、空気調和装置の構成例を示した図である。空気調和装置10は、空気調和を行う空間内(室内)に設置される少なくとも1台の室内機11と、室外に設置される少なくとも1台の室外機12とを含む。空気調和装置10は、室内機11と室外機12との間で冷媒を循環させ、室内の空気と冷媒との間で熱交換させることにより空気調和を行う。このため、室内機11と室外機12とは、冷媒を循環させるための冷媒配管13、14により接続される。
【0011】
冷媒は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を使用することができる。HFCの種類としては、R-410A、R-32、R-134a等を挙げることができ、HFOの種類としては、R-1234yf等を挙げることができる。これらの冷媒は、塩素原子を有しないため、オゾン層破壊について一定の抑止効果を有している。
【0012】
室内機11は、室内に配置されるリモートコントローラ15からの運転指令、設定温度の変更、運転停止指令等を、赤外線等を使用した無線通信により受け付ける。室内機11は、リモートコントローラ15からの運転指令を受信して起動し、室外機12に対して起動を指示する。室外機12は、起動後、室内温度が設定温度になるように、室外機12が備える圧縮機や膨張弁等を制御し、冷媒の循環量等を調整する。
【0013】
室内機11は、設定温度の変更、運転停止指令を受け付けた場合、室外機12に対して設定温度の変更、運転停止を指示する。室内機11は、室外機12に対して運転停止を指示した後、自身の運転を停止する。室外機12は、設定温度の変更の指示を受けた場合、設定温度を変更し、変更した設定温度になるように、圧縮機や膨張弁等を制御する。室外機12は、運転停止の指示を受けた場合、圧縮機を停止し、自身の運転を停止する。
【0014】
図2は、空気調和装置10を構成する室内機11および室外機12の構成と冷媒回路について説明する図である。空気調和装置10は、冷房モードや暖房モード等の複数の運転モードを備える。図2に示す矢印は、冷房モードにおける冷媒が流れる方向を示しており、ここでは、冷房モードにおける冷房運転を中心に説明する。なお、暖房モードでは、矢印が逆向きになる。
【0015】
室内機11は、室内熱交換器20と、室内ファン21とを備える。室内ファン21は、室内ファン用駆動モータにより駆動し、室内の空気を取り込み、室内熱交換器20へ送り込む。室内熱交換器20は、内部に冷媒が流れる複数の伝熱管を有し、室内ファン21により送り込まれた空気が複数の伝熱管の外表面に接触して熱交換を行うように構成されている。室内熱交換器20により熱交換された空気は、室内へ排出される。
【0016】
室内機11は、そのほか、室内温度や室内の湿度等を計測するための各種センサや、室内機11へ供給する冷媒の量を調整するための室内膨張弁等を備えることができる。
【0017】
室外機12は、圧縮機30と、四方弁31と、室外膨張弁32と、室外熱交換器33と、室外ファン34とを備える。圧縮機30は、圧縮機用駆動モータにより駆動し、低圧のガス冷媒を圧縮し、高圧のガス冷媒として吐出する。圧縮機30は、圧縮機構を備える圧縮機本体35と、圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータ36とを含む。アキュームレータ36は、圧縮機構への液戻りを防止し、冷媒を適度な乾き度に調整する機能も有する。なお、乾き度は、蒸気と微小液滴との混合状態を示す湿り蒸気中における蒸気の占める割合である。
【0018】
四方弁31は、空気調和装置10の運転モードに応じて、冷媒が流れる方向を切り替える弁である。室外膨張弁32は、高圧の冷媒を減圧し、膨張させるとともに、冷媒の流量を制御する弁である。室外ファン34は、室外ファン用駆動モータにより駆動し、室外の空気を取り込み、室外熱交換器33へ送り込む。室外熱交換器33は、室内熱交換器20と同様、内部に冷媒が流れる複数の伝熱管を有し、室外ファン34により取り込まれた空気が複数の伝熱管の外表面に接触して熱交換を行うように構成されている。室外熱交換器33により熱交換された空気は、室外へ排出される。
【0019】
室外機12は、制御装置37を備えている。制御装置37は、圧縮機30、四方弁31、室外膨張弁32、室外ファン34、室内ファン21の制御を行う。具体的には、制御装置37は、圧縮機30、室外ファン34、室内ファン21を駆動する各モータの回転数、室外膨張弁32の開度、四方弁31の切り替え等の制御を行う。室外機12は、圧縮機30等の制御を行うために、吐出温度等を検出する温度センサ等の各種センサを備えることができる。制御装置37は、室内機11および室外機12が備える各種センサにより検出された情報に基づき、上記の各制御を行う。
【0020】
冷房モードで冷房運転を行う場合、室内熱交換器20は、蒸発器として機能し、室外熱交換器33は、凝縮器として機能する。このため、制御装置37は、矢印に示すように、圧縮機30、室外熱交換器33、室外膨張弁32、室内熱交換器20、四方弁31、アキュームレータ36、圧縮機30の順で系内に封入された冷媒を循環させる。
【0021】
圧縮機30は、低温低圧のガス状態の冷媒を圧縮し、高温高圧の冷媒ガスとして吐出する。室外熱交換器33は、圧縮機30から吐出された冷媒ガスを室外の空気と熱交換し、冷媒ガスを冷却して凝縮させる。室外膨張弁32は、凝縮した冷媒を減圧して一部を気化させる。このため、冷媒は、気液が混合した状態で室内機11へ供給される。室外膨張弁32は、適度な液体量となるように制御装置37により開度が調整される。
【0022】
室内熱交換器20は、室内機11へ供給された冷媒を室内の空気と熱交換し、冷媒を全て気化する。室内熱交換器20を出た冷媒は、低温低圧のガス状態の冷媒であり、四方弁31を介してアキュームレータ36へ送られ、圧縮機30へ戻される。
【0023】
制御装置37は、室外機12に実装されることに限定されない。したがって、制御装置37は、室内機11に実装されていてもよいし、その他の中央制御盤等に実装されていてもよい。また、制御装置37は、2つの装置に分け、室内機11と室外機12のそれぞれに実装されてもよい。
【0024】
図3は、圧縮機30の構成例を示した図である。図3(a)は、圧縮機30を正面側から見た図で、図3(b)は、圧縮機30を上側から見た図である。圧縮機30は、圧縮機本体35と、アキュームレータ36と、圧縮機本体35とアキュームレータ36とに接合され、アキュームレータ36を圧縮機本体35に固定するための支持具38とを含む。
【0025】
圧縮機本体35は、電動機40と、圧縮機構41と、密閉容器42とを含む。電動機40と圧縮機構41は、密閉容器42内に収容される。電動機40は、回転子と固定子とを含み、固定子が交流電圧から発生させた回転磁界により内部の回転子を回転させる。回転子には、回転軸43が取り付けられており、回転子の回転により回転軸43が回転する。圧縮機30がロータリ圧縮機の場合、回転軸43には、偏心部が設けられる。
【0026】
圧縮機構41は、偏心部が挿入されるローラと、ローラが収納される圧縮室を構成するシリンダと、シリンダの上下を覆う主軸受および副軸受とを備える。密閉容器42とアキュームレータ36とは、アキュームレータ36に貯留する冷媒を密閉容器42内の圧縮機構41へ吸い込むための吸い込みパイプ39により連結される。なお、吸い込みパイプ39により吸い込まれた冷媒は、シリンダ内に収容され、シリンダ内を偏心して回転するローラによって圧縮される。
【0027】
アキュームレータ36は、下側が密閉容器42に吸い込みパイプ39で連結され、上側が支持具38によって連結される。
【0028】
図3(b)に示すように、支持具38は、密閉容器42に隣接する面を有する支持面部50と、支持面部50に連続し、アキュームレータ36へ向けて延びる腕部51とを備える。支持具38は、上側から見ると、略コの字形であり、支持面部50の上記面が密閉容器42の外側表面に接合され、腕部51のアキュームレータ36へ延びた先端がアキュームレータ36の外側表面に接合され、アキュームレータ36を密閉容器42に固定する。
【0029】
図4は、支持具38の一例を示した図である。図4(a)が、支持具38の第1の例を示し、図4(b)が、支持具38の第2の例を示す。支持具38は、上側から見たときに略コの字形で、密閉容器42の外側表面に隣接する面を有する支持面部50と、支持面部50に連続し、アキュームレータ36へ延びる腕部51とを有する。
【0030】
支持面部50は、密閉容器42の外側表面の曲率に合わせて湾曲した面を有する。腕部51は、支持面部50の両端に連続して2つ設けられる。腕部51は、側方から見ると、略矩形の形状を有し、アキュームレータ36へ向いた方向を長辺方向とし、その長辺方向の一端がアキュームレータ36の外側表面に接合される。
【0031】
腕部51は、腕部51の輪郭を形成する長辺方向の一端を先端とし、短辺方向の両端をそれぞれ上端、下端とすると、先端、上端、下端のいずれかの一端から支持面部50に向けて形成された切れ目であるスリット52を有する。ここでは、圧縮機30の密閉容器42やアキュームレータ36の長手方向を鉛直方向に向けて、すなわち縦置きで設置するものとして説明するが、圧縮機30は横置きであってもよい。
【0032】
図4(a)に示す例では、スリット52が、腕部51の先端近くの下端から一旦上側へ向け、円弧を描くように曲がり、その後、支持面部50へ向けて延びるように形成されている。図4(b)に示す例では、スリット52が、腕部51の先端から支持面部50へ向けて水平方向に延びるように形成されている。
【0033】
スリット52は、2つの腕部51の両方に形成されていることに限らず、2つの腕部51のうちの一方にのみ形成されていてもよい。
【0034】
図5は、アキュームレータ36の固有振動数の調整が可能であることを説明する図である。圧縮機本体35とアキュームレータ36とは、支持具38と吸い込みパイプ39とにより連結される。圧縮機本体35は、圧縮機構41による圧縮仕事により振動を発生し、電動機40により電磁力を発生し、それらの振動や電磁力を加振源とし、支持具38および吸い込みパイプ39を介してアキュームレータ36を加振する。アキュームレータ36は、固有振動数を有し、アキュームレータ36の固有振動数は、アキュームレータ36の仕様に依存し、アキュームレータ36に接合される支持具38の仕様にも依存する。
【0035】
加振源から伝播する振動等により加振されたアキュームレータ36の加振周波数が、アキュームレータ36の固有振動数と略一致する場合、共振が発生する。アキュームレータ36の共振は、圧縮機30の騒音原因の1つとなり得る。したがって、圧縮機30の騒音を低減するには、共振の発生を回避することが重要になる。
【0036】
共振の発生を回避するための方法としては、加振源から伝播する振動等により加振されたアキュームレータ36の加振周波数が、アキュームレータ36の固有振動数と略一致しないように、固有振動数を調整する方法がある。すなわち、圧縮機30の運転範囲において想定される加振周波数の範囲外となる固有振動数に調整する方法である。
【0037】
アキュームレータ36および支持具38の振動をモデル化すると、図5(a)に示すような、圧縮機本体35とアキュームレータ36が支持具38で接続された1質点系モデルで考えることができる。図5(b)は、図5(a)の切断線A-Aで切断した断面図である。
【0038】
質点Mをアキュームレータ36の質量とし、バネ定数Kを支持具38のバネ定数とすると、固有振動数fは、下記式1で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
また、支持具38の長さLを、腕部51の支持面部50からアキュームレータ36に向けて延びる長さとし、支持具38の高さhを、腕部51の鉛直方向の高さ(短辺方向の長さ)とし、支持具38の厚さtを、腕部51の奥行方向の長さとし、支持具38の材質のヤング率をEとすると、バネ定数Kは、下記式2で表される。
【0041】
【数2】
【0042】
断面二次モーメントIは、支持具38の高さh、支持具38の厚さtを用いて、下記式3により算出することができる。
【0043】
【数3】
【0044】
上記式1より、固有振動数fは、支持具38の高さhの0.5乗に比例する。このことから、高さhを変えることで、固有振動数fを変えることができることが分かる。
【0045】
図6は、接合点を変えた場合のバネ定数の違いについて説明する図である。スリット52は、図4(a)に示す例のように、腕部51の下端を始点とし、当該下端から一旦上側へ向け、円弧を描くように曲がり、その後、支持面部50へ向けて延びるように形成されている。支持面部50へ向けて延びた終端が終点とされる。図6(a)に示す例では、スリット52により上下に分断された腕部51の第1の板状部51aと第2の板状部51bとを接合する接合点53が設けられていないので、上記の高さhは、圧縮機本体35とアキュームレータ36とを繋ぐ腕部51の高さ(腕部51の上端からスリット52までの長さ)h’となる。このときのバネ定数をK1とする。
【0046】
図6(b)に示す例では、スリット52の支持面部50へ向けて水平方向に延びる細長い隙間の任意の位置に接合点53が設けられている。このため、支持面部50へ向けて延びるスリット52の接合点53で接合されている部分以降(接合点から終点まで)と、それ以前(始点から接合点53まで)の腕部51の下端から上側へ湾曲し、接合点53に到達するまでの分断されたままの部分とで、高さhが異なる。すなわち、始点から接合点53までの部分は、図6(a)に示す例と同様、高さh’となり、接合点53から終点までの部分は、腕部51の上端から下端までの高さHとなる。このときのバネ定数をK2とする。
【0047】
図6(c)に示す例では、腕部51の下端から上方へ湾曲するスリット52の始点の位置に接合点53が設けられている。この場合、スリット52が設けられていないのと同じ状態になり、腕部51の高さは、始点から終点に至るまで、図6(b)に示す接合点53から終点までの部分の高さと同じ、高さHとなる。このときのバネ定数をK3とする。
【0048】
図6(a)~(c)に示す例におけるバネ定数K1~K3の関係は、バネ定数に影響する1質点モデルに等価な支持具38の上下方向の高さの大小により、K1<K2<K3となる。
【0049】
このことから、支持具38の高さ方向を2つに分断する方向に設けたスリット52の任意の位置に接合点53を設ける、または接合点53を設けないことにより、バネ定数の調整が可能であり、ひいては固有振動数の調整が可能となる。
【0050】
接合点53は、固有振動数を調整する必要がある場合に設けることができる。接合点53を設ける位置は、調整したい固有振動数に合わせて決定することができる。接合点53を設ける方法としては、スリット52により分断された任意の位置を、接着剤等を用いて接合する方法であってもよいし、溶接により接合する方法であってもよい。
【0051】
なお、支持具38が備える支持面部50と、圧縮機本体35の密閉容器42との接合、および支持具38が備える2つの腕部51の先端と、アキュームレータ36との接合は、いずれも溶接により行われる。このため、接合点53を設ける方法も、溶接に統一することで、生産性を向上することができる。
【0052】
図7は、スリット端部での応力集中について説明する図である。図7(a)に示すように、スリット52が、腕部51を側方から見て、先端に近い側の下端から上側に延び、垂直に曲がり、支持面部50側へ水平方向に延びている場合、丸で囲んだ、形状が急激に大きく変化する、垂直に曲がる部分と、スリット52の終端の部分とで、振動による応力の集中が起こり、支持具38が疲労破壊するおそれがある。
【0053】
そこで、図7(b)に示すように、スリット52が、腕部51の側方から見て、先端に近い側の下端から、形状を緩やかに変化させるように、曲線状の隙間である第1の曲線部52aと、終端にも下端側へ湾曲した曲線状の隙間である第2の曲線部52bとを有するものとすることができる。スリット52の始点は、腕部51の先端をアキュームレータ36に接合する際の接合長さ分、支持面部50側へ移動した下端位置とすることができる。なお、第1の曲線部52aと第2の曲線部52bとの間は、アキュームレータ36側から支持面部50へ向けて直線状に延びる隙間である直線部52cとなる。
【0054】
形状を緩やかに変化させることができれば、曲線状の隙間でなくてもよい。スリット52は、例えば、下端から鉛直方向に延びる第1の直線部と支持面部50へ向けて水平方向に延びる第2の直線部との間とに、鉛直方向もしくは水平方向に対して斜めに設けた直線状の第3の直線部を介在させ、終端に、下端に向けて鉛直方向もしくは水平方向に対して斜めに設けた直線状の第4の直線部を有するものであってもよい。鉛直方向もしくは水平方向に対する第3、第4の直線部の傾斜角度は、略45°とすることができるが、これに限られるものではない。これにより、応力集中の発生を抑制することができる。
【0055】
図8は、アキュームレータ36との接合とスリット52の接合とを同一の溶接で行う方法について説明する図である。図7(b)に示したような、第1の曲線部52aと第2の曲線部52bとを有するスリット52では、接合点を設けるスリット52の接合と、アキュームレータ36と支持具38の腕部51の先端との接合とを同一の溶接で行うことはできない。溶接する位置が、それぞれの接合で異なるからである。
【0056】
一方、図4(b)に示すような、スリット52が、腕部51の先端から支持面部50へ向けて水平方向に延びるように形成される場合、応力集中を回避するべく、終端に、第2の曲線部52bを有する形状となるが、接合点53を設けるスリット52の接合位置が、スリット52の始点である、腕部51の先端であれば、アキュームレータ36と支持具38との接合も先端であるので、同一の位置を接合すればよい。このため、図8の丸印で示される先端位置を同一の溶接で接合することができるので、生産性を向上することができる。
【0057】
なお、スリット52は、腕部51の先端から支持面部50へ向けて水平方向に延び、また、腕部51の下端から上側に湾曲し、その後、支持面部50へ向けて水平方向に延びる形状を説明してきたが、支持面部50へ向けて延びる部分は、水平方向に延びることに限定されるものではなく、水平方向に対して斜めに延びていてもよい。水平方向に対して斜めに延びる方向は、斜め上方に延びていてもよいし、斜め下方に延びていてもよい。また、スリット52は、腕部51の下端の始点から支持面部50へ向けて斜めに延びる形状であってもよい。
【0058】
図9は、スリット52の有無で固有振動数が変化することを、実際に試験を行い、実測した結果を示した図である。実測した結果は、スリット52を、支持面部50に向けて水平方向に延びる細長い隙間として形成したものではないが、腕部51の一部に高さhが変化する鉛直方向に切込みを入れたものをスリット有の支持具38とし、その切込みのないものをスリット無の支持具38として用い、加振させた場合の実測データである。図9は、横軸が周波数(Hz)を示し、縦軸が応答倍率(dB)を示す。
【0059】
図9中の丸で囲んだスリット有とスリット無の結果を参照してみると、切込みを入れるだけで、周波数のピーク位置が20~25Hzほど変化し、支持具38の剛性が変化し、固有振動数を変化させることができることが分かる。この結果では、水平方向に延びるスリットではなく、鉛直方向に延びるスリットであるため、水平方向の1点のみしか高さhを変化させることができない。しかしながら、上記に例示した本実施形態に係る支持具38では、水平方向にスリットが延びているため、水平方向の任意の位置に接合点を設けることで、任意の固定周波数に変化させることができる。
【0060】
これまで本発明の圧縮機およびその圧縮機を備える空気調和装置について上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、本発明の圧縮機を備える他の装置、上記支持具38で2つの部材が固定され、一方の部材が加振源となる装置やシステム等も提供することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…空気調和装置
11…室内機
12…室外機
13、14…冷媒配管
15…リモートコントローラ
20…室内熱交換器
21…室内ファン
30…圧縮機
31…四方弁
32…室外膨張弁
33…室外熱交換器
34…室外ファン
35…圧縮機本体
36…アキュームレータ
37…制御装置
38…支持具
39…吸い込みパイプ
40…電動機
41…圧縮機構
42…密閉容器
43…回転軸
50…支持面部
51…腕部
51a…第1の板状部
51b…第2の板状部
52…スリット
52a…第1の曲線部
52b…第2の曲線部
52c…直線部
53…接合点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-02-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部が、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有し、
前記スリットの少なくとも一部は、前記アキュームレータと前記腕部との接合部分よりも前記支持面部側に設けられている、
圧縮機。
【請求項2】
前記スリットが延びる方向の所定の位置に、前記腕部の前記スリットにより分断された第1の板状部と第2の板状部とを接合する接合点を有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記密閉容器への前記支持面部の接合と、前記アキュームレータへの前記腕部の接合と、前記接合点を設ける場合の前記第1の板状部と前記第2の板状部との接合を、溶接により行う、請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記アキュームレータへの前記腕部の接合と、前記接合点を設ける場合の前記第1の板状部と前記第2の板状部との接合を、同一の溶接により行う、請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記腕部は、前記支持面部の両端に連続して2つ設けられ、前記各腕部が、前記スリットを有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有し、
前記スリットは、前記腕部の短辺方向の一端から湾曲する隙間である第1の曲線部と、アキュームレータ側から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である第2の曲線部とを有する圧縮機。
【請求項7】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有し、
前記スリットは、前記腕部の長辺方向の一端から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記腕部の短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である曲線部とを有する圧縮機。
【請求項8】
請求項1、6、7のいずれか1項に記載の圧縮機を備える空気調和装置
【手続補正書】
【提出日】2023-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有し、
前記スリットは、前記腕部の短辺方向の一端から湾曲する隙間である第1の曲線部と、アキュームレータ側から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である第2の曲線部とを有する、圧縮機。
【請求項2】
電動機と前記電動機により駆動される圧縮機構とを収容する密閉容器と、
前記圧縮機構へ供給する冷媒を貯留するアキュームレータと、
前記密閉容器と前記アキュームレータとに接合され、前記アキュームレータを前記密閉容器に固定するための支持具と
を含み、
前記支持具が、前記密閉容器に隣接する面を有する支持面部と、前記支持面部に連続し、前記アキュームレータへ向けて延びる腕部とを備え、
前記腕部は、前記支持面部から前記アキュームレータへ向いた方向を長辺方向とした矩形の形状とされ、該腕部の一端から前記支持面部に向けて形成されたスリットを有し、
前記スリットは、前記腕部の長辺方向の一端から前記支持面部へ向けて延びる隙間である直線部と、前記腕部の短辺方向の一端に向けて湾曲する隙間である曲線部とを有する、圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮機を備える空気調和装置。