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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072987
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】空調用レジスタ
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/34 20060101AFI20240522BHJP
   F24F 13/08 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60H1/34 611
F24F13/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183931
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長坂 茜
(72)【発明者】
【氏名】寺井 伸弘
【テーマコード(参考)】
3L081
3L211
【Fターム(参考)】
3L081AA02
3L081AB06
3L211BA57
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】内部構造を視認できないように意匠性が向上された空調用レジスタを提供する。
【解決手段】空調用レジスタ(100)は、リテーナ通風路(30S)を規定するリテーナ内壁(30W)、および、リテーナ通風路(30S)の下流端に設けられたリテーナ開口部(306)を有する筒状のリテーナ(30)と、リテーナ(30)の内部に設けられる蓋部材(60)であって、リテーナ開口部(306)から露出する露出面(606)、およびリテーナ開口部(306)と対向してリテーナ開口部(306)との間に吹出口を規定するリテーナ対向面を有する蓋部材(60)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調用レジスタであって、
リテーナ通風路を規定するリテーナ内壁と、前記リテーナ通風路の下流端に設けられたリテーナ開口部とを有する筒状のリテーナと、
前記リテーナの内部に設けられる蓋部材であって、前記リテーナ開口部から露出する露出面、および前記リテーナ開口部と対向して前記リテーナ開口部との間に吹出口を規定するリテーナ対向面を有する蓋部材と、を備える、
空調用レジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の空調用レジスタであって、
前記リテーナ開口部は、一辺と、前記一辺と対向する他辺とを有し、
前記リテーナ対向面は、前記吹出口として、前記リテーナ開口部の一辺との間の第一吹出口と、前記リテーナ開口部の他辺との間の第二吹出口とを規定する、
空調用レジスタ。
【請求項3】
請求項2に記載の空調用レジスタであって、
前記第一吹出口および前記第二吹出口は、前記第一吹出口から吹き出される気流の方向と、前記第二吹出口から吹き出される気流の方向とが互いに交差するように構成されている、
空調用レジスタ。
【請求項4】
請求項2に記載の空調用レジスタであって、
さらに、前記リテーナ内壁のうち前記リテーナ開口部の一辺と連続する第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間に規定され、前記第一吹出口に連通する第一リテーナ通風路と、
前記リテーナ内壁のうち前記リテーナ開口部の他辺と連続する第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間に規定され、前記第二吹出口に連通する第二リテーナ通風路と、
前記リテーナの内部に配置され、前記リテーナ通風路を前記第一リテーナ通風路と前記第二リテーナ通風路とに分流するための分流部とを備える、
空調用レジスタ。
【請求項5】
請求項4に記載の空調用レジスタであって、
前記蓋部材は、
前記リテーナの内部で回転可能に構成され、
前記回転によって、前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第一通風路距離を維持しつつ前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との第一対向面積を大きくし、前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第二通風路距離を維持しつつ前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との第二対向面積を小さくする第一回転状態と、前記第一通風路距離を維持しつつ前記第一対向面積を小さくし、前記第二通風路距離を維持しつつ前記第二対向面積を大きくする第二回転状態とに切り替え可能である、
空調用レジスタ。
【請求項6】
請求項4に記載の空調用レジスタであって、
前記分流部は、前記第一リテーナ通風路に連通する流路の開度を小さくして前記第二リテーナ通風路に連通する流路の開度を大きくする第一分流状態と、前記第一リテーナ通風路に連通する流路の開度を大きくして前記第二リテーナ通風路に連通する流路の開度を小さくする第二リテーナ分流状態とに切り替え可能である、
空調用レジスタ。
【請求項7】
請求項6に記載の空調用レジスタであって、
前記第一吹出口における前記リテーナ開口部の一辺と前記リテーナ対向面との間の第一距離が、前記第二吹出口における前記リテーナ開口部の他辺と前記リテーナ対向面との間の第二距離よりも大きく、
さらに、前記リテーナ開口部の一辺から連続し、前記リテーナの外部に向かって突出する鍔部を備える、
空調用レジスタ。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の空調用レジスタであって、
前記第一吹出口における前記リテーナ開口部の一辺と前記リテーナ対向面との間の第一距離と、前記第二吹出口における前記リテーナ開口部の他辺と前記リテーナ対向面との間の第二距離と、が互いに同じである、
空調用レジスタ。
【請求項9】
請求項4に記載の空調用レジスタであって、
前記蓋部材は、
前記リテーナの内部で摺動可能に構成され、
前記摺動によって、前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との第一対向面積の大きさを維持しつつ前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第一通風路距離を大きくし、前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との第二対向面積の大きさを維持しつつ前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第二通風路距離を小さくする第一摺動状態と、前記第一対向面積の大きさを維持しつつ前記第一通風路距離を小さくし、前記第二対向面積の大きさを維持しつつ前記第二通風路距離を大きくする第二摺動状態とに切り替え可能である、
空調用レジスタ。
【請求項10】
請求項4に記載の空調用レジスタであって、
さらに、前記第一リテーナ通風路に設けられ、前記第一リテーナ内壁に交差する中心軸の周りを回転可能に構成される平板状の第一フィンと、
前記第二リテーナ通風路に設けられ、前記第二リテーナ内壁に交差する中心軸の周りを回転可能に構成される平板状の第二フィンと、を備える、
空調用レジスタ。
【請求項11】
請求項1に記載の空調用レジスタであって、
前記露出面は、前記空調用レジスタの外側に向かって凸状の曲面である、
空調用レジスタ。
【請求項12】
請求項1に記載の空調用レジスタであって、
前記吹出口における前記リテーナ開口部と前記リテーナ対向面との間の距離が1ミリメートル以上10ミリメートル以下である、
空調用レジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空調用レジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ダクトから供給される空気を吹き出す枠体の前面開口部に、縦方向の風向きを調整するための横ブレードと、横方向の風向きを調整するための縦ブレードとが互いに交差した状態で配置される空調用のレジスタが知られている(例えば、特許文献1)。このレジスタでは、複数枚の横ブレードが相互に等間隔で離間した状態で配置され、複数枚の縦ブレードが横ブレードの後方に隣接した状態で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-138750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、互いに離間する横ブレードの間から、横ブレードの後方に位置する縦ブレードなどのレジスタ内部の構造物が見えてしまい、意匠性が損なわれるといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、空調用レジスタが提供される。この空調用レジスタは、リテーナ通風路を規定するリテーナ内壁、および、前記リテーナ通風路の下流端に設けられたリテーナ開口部を有する筒状のリテーナと、前記リテーナの内部に設けられる蓋部材であって、前記リテーナ開口部から露出する露出面、および前記リテーナ開口部と対向して前記リテーナ開口部との間に吹出口を規定するリテーナ対向面を有する蓋部材と、を備える。
この形態の空調用レジスタによれば、蓋部材をリテーナの内部からリテーナ開口部を介して露出させることにより、内部構造が容易に視認できず意匠性が向上された空調用レジスタを提供することができる。
(2)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記リテーナ開口部は、一辺と、前記一辺と対向する他辺とを有してよい。前記リテーナ対向面は、前記吹出口として、前記リテーナ開口部の一辺との間の第一吹出口と、前記リテーナ開口部の他辺との間の第二吹出口とを規定してよい。
この形態の空調用レジスタによれば、吹出口を2箇所に備えることにより、空調用レジスタから気流が吹き出される範囲を拡大することができる。
(3)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記第一吹出口および前記第二吹出口は、前記第一吹出口から吹き出される気流の方向と、前記第二吹出口から吹き出される気流の方向とが互いに交差するように構成されてよい。
この形態の空調用レジスタによれば、第一吹出口および第二吹出口から吹き出される気流を合流させることにより、気流の流量のバランスを調節するという簡易な方法により、空調用レジスタから吹き出される気流の流動方向を調節することができる。
(4)上記形態の空調用レジスタにおいて、さらに、前記リテーナ内壁のうち前記リテーナ開口部の一辺と連続する第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間に規定され、前記第一吹出口に連通する第一リテーナ通風路と、前記リテーナ内壁のうち前記リテーナ開口部の他辺と連続する第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間に規定され、前記第二吹出口に連通する第二リテーナ通風路と、前記リテーナの内部に配置され、前記リテーナ通風路を前記第一リテーナ通風路と前記第二リテーナ通風路とに分流するための分流部とを備えてよい。
この形態の空調用レジスタによれば、空調用空気の供給源を第一リテーナ通風路と第二リテーナ通風路とに対して個別に設けることなく、第一吹出口および第二吹出口の複数の吹出口から気流を吹き出すことができる。
(5)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記蓋部材は、前記リテーナの内部で回転可能に構成され、前記回転によって、前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第一通風路距離を維持しつつ前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との第一対向面積を大きくし、前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第二通風路距離を維持しつつ前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との第二対向面積を小さくする第一回転状態と、前記第一通風路距離を維持しつつ前記第一対向面積を小さくし、前記第二通風路距離を維持しつつ前記第二対向面積を大きくする第二回転状態と、に切り替え可能であってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、蓋部材の回転という簡易な方法により第一吹出口と第二吹出口とのそれぞれの気流の流量を調節することができる。
(6)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記分流部は、前記第一リテーナ通風路に連通する流路の開度を小さくして前記第二リテーナ通風路に連通する流路の開度を大きくする第一分流状態と、前記第一リテーナ通風路に連通する流路の開度を大きくして前記第二リテーナ通風路に連通する流路の開度を小さくする第二リテーナ分流状態とに切り替え可能であってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、第一リテーナ通風路に連通する流路および第二リテーナ通風路に連通する流路の流量調整という簡易な方法により空調用レジスタから吹き出される気流の向きを切り替えることができる。
(7)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記第一吹出口における前記リテーナ開口部の一辺と前記リテーナ対向面との間の第一距離が、前記第二吹出口における前記リテーナ開口部の他辺と前記リテーナ対向面との間の第二距離よりも大きくてよい。さらに、前記リテーナ開口部の一辺から連続し、前記リテーナの外部に向かって突出する鍔部を備えてよい。
この形態の空調用レジスタによれば、第一吹出口の開口が大きくされた場合であっても鍔部により外部から視認しにくくすることができる。
(8)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記第一吹出口における前記リテーナ開口部の一辺と前記リテーナ対向面との間の第一距離と、前記第二吹出口における前記リテーナ開口部の他辺と前記リテーナ対向面との間の第二距離と、が互いに同じであってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、二つの吹出口が対称性を有することにより、空調用レジスタの意匠性を向上させることができる。
(9)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記蓋部材は、前記リテーナの内部で摺動可能に構成され、前記摺動によって、前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との第一対向面積の大きさを維持しつつ前記第一リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第一通風路距離を大きくし、前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との第二対向面積の大きさを維持しつつ前記第二リテーナ内壁と前記蓋部材との間の第二通風路距離を小さくする第一摺動状態と、前記第一対向面積の大きさを維持しつつ前記第一通風路距離を小さくし、前記第二対向面積の大きさを維持しつつ前記第二通風路距離を大きくする第二摺動状態と、に切り替え可能であってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、蓋部材の摺動という簡易な方法により第一吹出口と第二吹出口とのそれぞれの気流の流量を調節することができる。
(10)上記形態の空調用レジスタにおいて、さらに、前記第一リテーナ通風路に設けられ、前記第一リテーナ内壁に交差する中心軸の周りを回転可能に構成される平板状の第一フィンと、前記第二リテーナ通風路に設けられ、前記第二リテーナ内壁に交差する中心軸の周りを回転可能に構成される平板状の第二フィンとを備えてよい。
この形態の空調用レジスタによれば、第一フィンおよび第二フィンの回転という簡易な方法により、第一吹出口の気流の流動方向と、第二吹出口の気流の流動方向とを切り替えることができる。
(11)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記露出面は、前記空調用レジスタの外側に向かって凸状の曲面であってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、露出面を曲面で構成することにより空調用レジスタの意匠性を向上させることができる。
(12)上記形態の空調用レジスタにおいて、前記吹出口における前記リテーナ開口部と前記リテーナ対向面との間の距離が1ミリメートル以上10ミリメートル以下であってよい。
この形態の空調用レジスタによれば、意匠性と吹き出される空気の流量とのバランスが好適な空調用レジスタを提供することができる。
本開示は、空調用レジスタ以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、空調用レジスタの製造方法、空調用レジスタを備える移動体、空調装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の第1実施形態に係る空調用レジスタの設置例を示す説明図。
図2】空調用レジスタの外観構成を示す斜視図。
図3】空調用レジスタの各部の構成を示す分解斜視図。
図4】蓋部材の各部の構成を示す分解斜視図。
図5図2のV-V位置の断面図。
図6】中立状態の空調用レジスタの内部での空調用空気の流動方向を示す説明図。
図7】中立状態の空調用レジスタにおける気流の流速シミュレーション結果を示す説明図。
図8】第一回転状態の空調用レジスタ内の空気の流動方向を模式的に示す説明図。
図9】第一回転状態の空調用レジスタにおける気流の流速シミュレーション結果を示す説明図。
図10】第2実施形態に係る空調用レジスタの外観構成を示す斜視図。
図11図10のXI-XI位置の断面図。
図12】中立状態の空調用レジスタ内の空気の流動方向を模式的に示す説明図。
図13】第一分流状態の空調用レジスタ内での空気の流動方向を示す説明図。
図14】第3実施形態に係る空調用レジスタの外観構成を示す斜視図。
図15図14のXV-XV位置の断面図。
図16】中立状態の空調用レジスタ内での空気の流動方向を模式的に示す説明図。
図17】中立状態の空調用レジスタにおける気流の流速シミュレーション結果を示す説明図。
図18】第一分流状態の空調用レジスタの流速のシミュレーション結果を示す説明図。
図19】第二分流状態の空調用レジスタの流速のシミュレーション結果を示す説明図。
図20】空調用レジスタを備える車両内での気流の流動方向を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態に係る空調用レジスタ100の設置例を示す説明図である。空調用レジスタ100は、例えば、車両などの移動体の車室内に設置される。図1の例では、空調用レジスタ100は、例えば、車両のハンドル12近傍のインストルメントパネル10に組み込まれている。空調用レジスタ100は、車両に備えられる図示しない空調装置から送風ダクトを通じて供給される空調用空気を車室内に吹き出す。なお、図1ならびに図1以降の各図に示すX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とも呼ぶ。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用し、各図の矢印が向かう向きを+方向、その反対方向を-方向として説明する。本開示では、X方向が、車両の車幅方向と一致し、+X方向が車両を後方から見た右方向と一致し、-X方向が左方向と一致し、Y方向が、車両の進行方向と一致し、+Y方向が後進方向と一致し、-Y方向が前進方向と一致する場合を例に説明する。Z方向は、鉛直方向と一致し、+Z方向は鉛直下向きと一致し、-Z方向は鉛直上向きと一致する。ただし、各方向は、空調用レジスタ100が配置される向きを限定するものではない。
【0009】
図2は、空調用レジスタ100の外観構成を示す斜視図である。図2に示すように、空調用レジスタ100は、リテーナ30と、ベゼル20と、蓋部材60と、露出面606と、第一吹出口101と、第二吹出口102と、を備えている。
【0010】
図3は、空調用レジスタ100の各部の構成を示す分解斜視図である。図3に示すように、リテーナ30は、リテーナ通風路30Sが内部に形成された筒状の構造体である。リテーナ30は、第一壁部302と、第二壁部304と、側壁部303とを有している。第一壁部302は、リテーナ30を構成する鉛直方向上側の壁面である。第二壁部304は、鉛直方向下側の壁面である。側壁部303は、第一壁部302と第二壁部304とを接続する。側壁部303には、後述するように、蓋部材60に設けられる突出部646と嵌合するための嵌合孔308が設けられている。各壁部302,303,304の内壁面を総称して「リテーナ内壁30W」とも呼ぶ。リテーナ内壁30Wは、リテーナ通風路30Sを規定している。第一壁部302の内壁面を「第一リテーナ内壁302W」とも呼び、第二壁部304の内壁面を「第二リテーナ内壁304W」とも呼ぶ。
【0011】
図3に示すように、リテーナ30の一端には、リテーナ開口部306が形成され、他端には流入口305が形成されている。流入口305は、車両の空調装置から供給される空気を受け入れる。リテーナ開口部306は、リテーナ通風路30Sの下流端に位置し、車室に面するように配置されている。リテーナ開口部306は、リテーナ通風路30Sを介して流入口305と連通している。リテーナ開口部306は、車幅方向に沿って長尺な略矩形形状を有している。リテーナ開口部306の長辺のうち一辺を「第一辺306s1」とも呼び、他辺を「第二辺306s2」とも呼ぶ。本実施形態では、第一辺306s1は、鉛直方向上側に配置され、リテーナ内壁30Wのうち第一リテーナ内壁302Wと連続している。第二辺306s2は、鉛直方向下側で第一辺306s1と対向して配置されている。第二辺306s2は、リテーナ内壁30Wのうち第二リテーナ内壁304Wと連続している。
【0012】
図2に示すように、後述する蓋部材60がリテーナ30の内部に収容された状態では、第一辺306s1と蓋部材60との間には、第一辺306s1に沿ったスリット状の第一吹出口101が形成され、第二辺306s2と蓋部材60との間には、第二辺306s2に沿ったスリット状の第二吹出口102が形成される。図2に矢印ARで示すように、図示しない空調装置から供給される空調用空気は、流入口305からリテーナ通風路30Sへと流入し、第一吹出口101および第二吹出口102から車室内へと吹き出される。なお、本開示では、空調用空気の流動方向において、所定の基準位置に対して空調装置に近い位置を「上流」あるいは「上流側」とも呼び、空調装置から遠い位置を「下流」、「下流側」、「前面」、あるいは「前面側」とも呼ぶことがある。
【0013】
蓋部材60は、内部を空調用空気が流動可能な中空の構造体である。図3に示すように、蓋部材60には、第一吹出口101と連通する第一スリット602と、第二吹出口102と連通する第二スリット604とが形成されている。蓋部材60は、略円柱状の外観形状を有しており、軸方向が車幅方向と一致するようにリテーナ通風路30Sに配置されている。より具体的には、蓋部材60は、リテーナ通風路30Sのうちリテーナ開口部306の近傍で、リテーナ30の内部からリテーナ開口部306を覆うように配置されている。リテーナ開口部306が蓋部材60で覆われることにより、空調用レジスタ100の内部構造を外部から視認できないように構成されている。なお、「蓋部材60がリテーナ開口部306を覆う」とは、空調用レジスタ100の内部構造を外部から視認できない程度に蓋部材60がリテーナ開口部306を覆うことを意味し、第一吹出口101や第二吹出口102などの空調用空気の流路が蓋部材60とリテーナ開口部306との間に形成されることを許容する。
【0014】
露出面606は、蓋部材60のうちリテーナ開口部306から露出する部分である。露出面606には、例えば意匠性向上などを目的とする加飾を行うことができる。「加飾」とは、装飾的要素を加えることを意味する。加飾には、例えば、塗装、めっき、印刷、着色、表面処理、表面加工、装飾部材の付加などが含まれ得る。加飾は、空調用レジスタ100の製造時に行われてもよく、車両や空調用レジスタ100のユーザによって行われてもよい。
【0015】
ベゼル20は、ベゼル開口部206が形成された枠体である。ベゼル開口部206は、車幅方向に長尺な矩形形状を有しており、本実施形態では、リテーナ開口部306の形状と略一致するように形成されている。ベゼル20は、ベゼル開口部206がリテーナ開口部306と重なるように、リテーナ30の下流端に接続されており、ベゼル開口部206から露出面606を露出させている。これにより、ベゼル20は、露出面606とともに空調用レジスタ100の正面視での意匠面を構成している。
【0016】
図4は、蓋部材60の各部の構成を示す分解斜視図である。図4に示すように、蓋部材60は、前壁部62と、上壁部63と、下壁部64と、フィン66と、分流部68とが互いに組み付けられることにより形成されている。
【0017】
前壁部62は、蓋部材60の前側の壁面として機能する。前壁部62は、前面626と、軸嵌合部628とを備えている。軸嵌合部628は、前面626とは逆側である蓋部材60の背面に設けられており、分流部68が嵌合される。前面626は、空調用レジスタ100の外側に向かって凸状の曲面で構成されている。前面626は、その上端に位置する直線状の端辺623と、下端に位置する直線状の端辺624とを有している。前面626は、一部がリテーナ開口部306から露出し、それ以外の部分は、リテーナ内壁30Wと対向する。前面626のうちリテーナ開口部306から露出する面は、露出面606として機能する。蓋部材60のうちリテーナ内壁30Wと対向する面を、「リテーナ対向面」とも呼ぶ。
【0018】
上壁部63は、蓋部材60の上側の壁面として機能する。上壁部63は、上面部632と、上面部632の両端に連続する2枚の側壁部634とを備えている。上面部632には、フィン66に設けられる突出部662と嵌合するための嵌合孔638がフィン66と同数だけ形成されている。上面部632の前面側には直線状の端辺632Eが形成されている。端辺632Eは、蓋部材60が形成された状態では、前壁部62の端辺623と離間かつ対向している。これにより、端辺632Eと端辺623との間に、図3に示す第一スリット602が形成される。
【0019】
下壁部64は、蓋部材60の下側の壁面として機能する。下壁部64は、下面部642と、下面部642の両端に連続する2枚の側壁部644とを備えている。下壁部64には、フィン66に設けられる突出部662と嵌合するための嵌合孔648がフィン66と同数だけ形成されている。下面部642の前面側には直線状の端辺642Eが形成されている。端辺642Eは、蓋部材60が形成された状態では、前壁部62の端辺624と離間かつ対向している。これにより、端辺642Eと端辺624との間に、図3に示す第二スリット604が形成される。
【0020】
2枚の側壁部644のそれぞれの上端644Tは、上壁部63の側壁部634の下端634Bと接合される。上端644Tのそれぞれには、蓋部材60の外側に向かって突出する突出部646が形成されている。突出部646は、略円柱形状を有しており、リテーナ30の側壁部303に形成された嵌合孔308と嵌合する。これにより、蓋部材60は、リテーナ通風路30Sにおいて中心軸AX周りに回転可能に支持される。
【0021】
フィン66は、第一吹出口101および第二吹出口102から吹き出される気流の向きを、車幅方向に沿って左右に切り替える。フィン66は、蓋部材60の内部に収容される。フィン66は、突出部662と、第一フィン664と、第二フィン665と、軸部666と、連結部668とを備えている。
【0022】
第一フィン664および第二フィン665は、蓋部材60内の流路形状に対応する外径形状を有する略平板状の部材である。第一フィン664および第二フィン665は、その面が軸部666の軸方向である中心軸AX2周りに回転できるように、軸部666に取り付けられている。本実施形態では、第一フィン664および第二フィン665は、一つの軸部666および連結部668とともに一体的に形成されており、中心軸AX2を共有している。なお、第一フィン664と、第二フィン665とが別体であってもよく、中心軸が個別に設定されてもよい。
【0023】
突出部662は、軸部666の上下の先端に配置されている。突出部662は、略円柱形状を有しており、上壁部63の嵌合孔638と、下壁部64の嵌合孔648とに嵌合する。これにより、フィン66は、蓋部材60の内部において、軸部666の中心軸AX2周りを回転可能に支持されている。本実施形態において、中心軸AX2は、鉛直方向と一致する。ただし、中心軸AX2は、鉛直方向には限らず、第一リテーナ内壁302Wおよび第二リテーナ内壁304Wに対して交差する任意の方向となるように構成されてもよい。
【0024】
連結部668は、軸部666を回転させるためのいわゆるリンク機構として機能する。本実施形態では、例えば、連結部668を、前壁部62と連結することができる。この場合には、前壁部62を車幅方向に沿って往復移動させることにより、連結部668は、車幅方向に沿って移動する。連結部668の往復移動が軸部666に伝達されることで、軸部666は中心軸AX2周りを回転する。軸部666の回転により、第一フィン664と第二フィン665の面方向が切り替えられる。この結果、蓋部材60内の空気の流動方向が車幅方向に沿って左右に切り替えられる。連結部668は、前壁部62に代えて、不図示の操作レバーなどと連結されてもよい。
【0025】
図4に示すように、分流部68は、車幅方向に沿って長尺な軸部材である。分流部68は、蓋部材60の内部の流路を二方向に分流させる。分流部68は、フィン66の軸部666を回転可能に支持するための支持凹部682と、突出部684とを備えている。分流部68は、軸部666を支持凹部682に挿通した状態で、前壁部62の軸嵌合部628に組み付けられる。
【0026】
分流部68は、突出部684を頂点として互いに接続される第一斜面683と第二斜面685との2つの斜面を有している。突出部684は、リテーナ通風路30Sの上流側に配置される。この結果、分流部68は、流入口305に向かって突出した状態でリテーナ通風路30Sに配置される。分流部68を一方向に向かって突出する形状とすることにより、流路抵抗の増加を抑制しつつ流路を上下に分流させることができる。なお、分流部68の断面形状は、三角形に限らず、平板状、円形や楕円形、四角形、六角形、八角形などの多角形などの種々の形状とされてもよい。リテーナ通風路30Sが第一吹出口101および第二吹出口102それぞれに個別に対応する二つの流路を有するなど、第一吹出口101および第二吹出口102に個別に空調用空気が供給される場合には、分流部68を省略することもできる。これに対して、本実施形態の空調用レジスタ100では、分流部68を設けることにより、リテーナ通風路30Sに複雑な流路を設けることなく簡易な構成により、第一吹出口101および第二吹出口102に流路を分流させることができる。
【0027】
図5は、図2のV-V位置の断面図である。図5には、中立状態の空調用レジスタ100が示されている。「中立状態」とは、空調用レジスタ100の内部構造が、第一吹出口101から吹き出される空気の流量と、第二吹出口102から吹き出される空気の流量とが略一致するように構成された状態を意味する。本実施形態では、空調用レジスタ100の内部構造は、後述するように、蓋部材60の回転により蓋部材60の向きを調節することによって切り替えることができる。なお、図5および後述する図6図8では、技術の理解を容易にするために、前壁部62および分流部68の断面構造を簡略化して示している。
【0028】
図5に示すように、本実施形態では、中立状態は、空調用レジスタ100の内部構造が中心軸AXを含むY方向に対して上下で線対称とされるいわゆる鏡像対称の状態となることで形成される。中立状態における蓋部材60の向きは、Y方向と略一致する方向DT1である。「蓋部材60の向き」は、例えば、蓋部材60における前面626の中点CPと、中心軸AXとを結ぶ直線DTで規定することができる。「前面626の中点CP」は、例えば、端辺623までの直線距離と、端辺624までの直線距離とが略一致する前面626上の位置を用いて規定することができる。
【0029】
図5に示すように、蓋部材60の内部および周囲には、流入口305から流入してくる空調用空気を第一吹出口101および第二吹出口102へと導くための流路が形成されている。具体的には、蓋部材60の内部には、分流部68の第一斜面683と上面部632との間の第一内部流路601と、第二斜面685と下面部642との間の第二内部流路603とが形成されている。第一内部流路601は、第一スリット602と連通し、第二内部流路603は、第二スリット604と連通している。蓋部材60の外部には、第一リテーナ通風路612および第二リテーナ通風路614が形成されている。第一リテーナ通風路612は、第一リテーナ内壁302Wと、蓋部材60の前面626との間に規定される流路であり、第二リテーナ通風路614は、第二リテーナ内壁304Wと、前面626との間に規定される流路である。第一リテーナ通風路612は、第一スリット602と第一吹出口101とを連通し、第二リテーナ通風路614は、第二スリット604と第二吹出口102とを連通している。
【0030】
図5に示すように、本実施形態では、第一リテーナ内壁302Wおよび第二リテーナ内壁304Wの断面形状は、蓋部材60の断面形状に対応する略円弧形状とされている。これにより、蓋部材60の内部および周囲の流路は、以下(1)-(3)の特徴を備えている。
【0031】
(1)第一吹出口101における第一辺306s1と前面626との間の第一距離T10と、第二吹出口102における第二辺306s2と前面626との間の第二距離T20とが略同じ大きさになるように構成されている。すなわち、第一吹出口101の開口幅と、第二吹出口102の開口幅とが略一致している。
【0032】
第一吹出口101における第一距離T10は、空調用レジスタ100の意匠性と吹き出される空気の流量とのバランスを良好にする観点から、1ミリメートル以上10ミリメートル以下であることが好ましい。第一距離T10が10mmよりも大きくなると、例えば第一吹出口101が視認しやすくなり空調用レジスタ100の意匠性の低下が懸念される。第一距離T10が1mmよりも小さくなると流路抵抗が過剰に高くなり、一般的な流量・流速の空調用空気では第一吹出口101の流量が充分に得られなくなる懸念がある。意匠性と空気の流量とのバランスをより好適とするためには、3ミリメートル以上9ミリメートル以下であることがより好ましい。
【0033】
(2)第一リテーナ通風路612の全域に亘って、第一リテーナ内壁302Wと前面626との間の第一通風路距離T1が略一定とされている。また、第二リテーナ通風路614の全域に亘って、第二リテーナ内壁304Wと前面626との間の第二通風路距離T2が略一定とされている。このように構成することにより、蓋部材60を回転させても、第一通風路距離T1および第二通風路距離T2が変化しないように構成されている。
【0034】
(3)第一通風路距離T1と、第二通風路距離T2とが互いに略同じとなるように構成されている。すなわち、第一リテーナ通風路612の流路高さと、第二リテーナ通風路614の流路高さとが略一致している。
上記(1)-(3)の特徴を有することにより、第一吹出口101から吹き出される空気と、第二吹出口102から吹き出される空気との互いの流量・流速等のバランスを容易に調節することができる。
【0035】
図5には、第一吹出口101から吹き出される空気の吹出方向DS1と、第二吹出口102から吹き出される空気の吹出方向DS2とが模式的に示されている。「空気の吹出方向」とは、吹出口の位置における巨視的な空気の流動方向を意味する。空気の吹出方向DS1は、例えば、断面視における第一リテーナ内壁302Wにおける第一辺306s1の位置の接線、あるいは当該位置に対向する蓋部材60表面上の接線などを用いて規定することができ、吹出方向DS2は、第二リテーナ内壁304Wにおける第二辺306s2の接線、あるいは当該位置に対向する蓋部材60表面上の接線などで規定することができる。本実施形態では、吹出方向DS1と、吹出方向DS2とが図5に示す交点ISで互いに交差するように構成されており、これにより、第一吹出口101から吹き出された空気と、第二吹出口102から吹き出された空気とが前面626近傍で合流するように構成されている。
【0036】
図6は、中立状態の空調用レジスタ100の内部での空調用空気の流動方向を模式的に示す説明図である。図7は、中立状態の空調用レジスタ100における気流の流速のシミュレーション結果を示す説明図である。空調装置からの空気が空調用レジスタ100に供給されると、図6に矢印S11,S21で示すように、流入口305からリテーナ通風路30Sへと流入した空調用空気は、分流部68の突出部684まで流動すると、矢印S12,S22で示すように、突出部684によって第一内部流路601と、第二内部流路603とに分流される。フィン66の操作により軸部666を回転させて第一フィン664と第二フィン665の面方向を切り替えることによって、矢印S12,S22で示す分流後の空気の流動方向を車幅方向に沿って左右に切り替えることができる。
【0037】
第一内部流路601を流動する空気は、第一スリット602から蓋部材60の外部へと送り出されて、矢印S13で示すように、第一リテーナ通風路612を流動する。同様に、第二内部流路603を流動する空気は、第二スリット604から蓋部材60の外部へと送り出されて、矢印S23で示すように、第二リテーナ通風路614を流動する。
【0038】
ここで、本実施形態の空調用レジスタ100では、図6に示すように、中立状態では、第一対向面積と第二対向面積とが略同じになるように構成されている。「第一対向面積」とは、第一リテーナ内壁302Wと、蓋部材60の前面626とが互いに対向する領域の面積を意味する。「第二対向面積」とは、第二リテーナ内壁304Wと前面626とが互いに対向する領域の面積を意味する。換言すれば、中立状態の空調用レジスタ100では、第一リテーナ通風路612の流路長W11と、第二リテーナ通風路614の流路長W21とが略同じになるように構成されている。また、上述した特徴(1)-(3)と併せて構成することにより、中立状態において、第一リテーナ通風路612の流路抵抗と、第二リテーナ通風路614の流路抵抗とが略同一になるように構成されている。この結果、中立状態では、第一吹出口101から吹き出される空気と、第二吹出口102から吹き出される空気との流量等を略同じとすることができる。
【0039】
矢印S14,S24で示すように、第一吹出口101および第二吹出口102からリテーナ30の外部へと吹き出された空気は、コアンダ効果に従って前面626の表面上を流動し、前面626の表面上、あるいは剥離により前面626の表面から離れた位置で合流する。図6および図7に示すように、互いの流量等が略同じ状態で合流した空気は、矢印S200で示すように略水平方向に沿って空調用レジスタ100の前方に向かって流動する。
【0040】
図8は、第一回転状態の空調用レジスタ100の内部での空調用空気の流動方向を模式的に示す説明図である。図9は、第一回転状態の空調用レジスタ100における気流の流速のシミュレーション結果を示す説明図である。本実施形態の空調用レジスタ100では、蓋部材60を回転させることによって、吹き出される空気の方向を鉛直方向に沿って上下に調節することができる。ユーザは、例えば、露出面606を手動操作することによって蓋部材60を上下方向に回転させて空気の向きを調節することができる。蓋部材60は、露出面606の手動操作には限らず、蓋部材60に接続されるリンク機構を介した操作レバーなどによって回転されてもよい。蓋部材60が矢印D20に示す上側に回転されると、蓋部材60の向きは、図5で示した方向DT1から方向DT2へと切り替えられる。この結果、空調用レジスタ100を、図8に示す第一回転状態とすることができる。
【0041】
第一回転状態では、中立状態に対して、図5で示した第一リテーナ通風路612の第一通風路距離T1は維持されつつ、流路長は流路長W11から流路長W12へと延長される。また、第二リテーナ通風路614の第二通風路距離T2は維持されつつ、流路長は流路長W21から流路長W22へと短縮される。換言すれば、第一回転状態とは、中立状態に対して、第一リテーナ通風路612の流路長を長くした分だけ流路抵抗を増加させ、第二リテーナ通風路614において流路長が短くした分だけ流路抵抗を減少させた状態である。
【0042】
図8に矢印S31,S41で示すように、流入口305からリテーナ通風路30Sへと流入した空調用空気は、分流部68の突出部684まで流動すると、矢印S32,S42で示すように、突出部684によって第一内部流路601と、第二内部流路603とに分流されて第一スリット602および第二スリット604へと導かれる。第一内部流路601を流動する空気は、第一スリット602から蓋部材60の外部へと送り出され、矢印S33で示すように、流路長が延長された状態の第一リテーナ通風路612を流動する。第二内部流路603を流動する空気は、第二スリット604から蓋部材60の外部へと送り出されて、矢印S43で示すように、流路長が短縮された状態の第二リテーナ通風路614を流動する。
【0043】
第一回転状態では、矢印S44で示される第二吹出口102から吹き出される空気の流量は、流路抵抗の減少に応じて中立状態よりも大きくなり、また矢印S34で示される第一吹出口101から吹き出される空気の流量よりも大きくなる。そのため、第一吹出口101からの空気と第二吹出口102からの空気との合流点が中立状態に対して上側となる。この結果、図8および図9に矢印S202で示すように、空調用レジスタ100から吹き出される空気は、水平方向に対して上向き、すなわち仰角となる方向に向かって流動する。
【0044】
図示を省略するが、本実施形態の空調用レジスタ100では、蓋部材60を中立状態よりも下側に回転させた第二回転状態とすることで、空調用レジスタ100から車室内に吹き出される空気を中立状態よりも下向きにすることも可能である。第二回転状態は、例えば、蓋部材60を回転させて、第一回転状態を方向DT1に対して上下反転させた状態にすることで形成することができる。第二回転状態では、中立状態に対して、第一リテーナ通風路612の第一通風路距離T1を維持しつつ流路長を短縮し、第二リテーナ通風路614の第二通風路距離T2を維持しつつ流路長を延長する。これにより、中立状態に対して、第一リテーナ通風路612において流路長を短縮した分だけ流路抵抗が減少され、第二リテーナ通風路614において流路長を延長した分だけ流路抵抗が増加される。この結果、空調用レジスタ100から吹き出される空気を、水平方向に対して下向き、すなわち俯角となる方向に向かって流動させることができる。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態の空調用レジスタ100は、リテーナ通風路30Sを規定するリテーナ内壁30W、および、リテーナ通風路30Sの下流端に設けられたリテーナ開口部306を有する筒状のリテーナ30と、リテーナ30の内部に配置される蓋部材60とを備えている。蓋部材60は、リテーナ開口部306から露出する露出面606と、リテーナ開口部306と対向してリテーナ開口部306との間に吹出口を規定するリテーナ対向面を有する蓋部材60とを備えている。蓋部材60をリテーナ30の内部からリテーナ開口部306を介して露出させることにより、内部構造が容易に視認できず意匠性が向上された空調用レジスタ100を得ることができる。
【0046】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、リテーナ開口部306は、第一辺306s1と、第一辺306s1と対向する第二辺306s2と、を有している。リテーナ対向面としての前面626は、第一辺306s1との間の第一吹出口101と、第二辺306s2との間の第二吹出口102とを規定している。吹出口を2箇所に備えることにより、空調用レジスタ100から気流が吹き出される範囲を拡大することができる。
【0047】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、第一吹出口101および第二吹出口102は、第一吹出口101から吹き出される空気の吹出方向DS1と、第二吹出口102から吹き出される空気の吹出方向DS2とが交点ISで互いに交差するように構成されている。第一吹出口101および第二吹出口102から吹き出される空気を合流させることにより、第一吹出口101と第二吹出口102との空気の流量等のバランスを調節するという簡易な方法により、空調用レジスタ100から吹き出される空気の流動方向を容易に調節することができる。
【0048】
本実施形態の空調用レジスタ100は、さらに、リテーナ30の内部に配置され、リテーナ通風路30Sを第一リテーナ通風路612と第二リテーナ通風路614とに分流するための分流部68とを備えている。このように構成することにより、第一リテーナ通風路612と第二リテーナ通風路614とに対して個別に連通する2つの流路を形成することなく、また、空調用空気の供給源を第一リテーナ通風路612と第二リテーナ通風路614とに対して個別に設けることなく簡易な構成により、第一吹出口101および第二吹出口102の複数の吹出口に空気を流動させることができる。
【0049】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、蓋部材60がリテーナ30の内部で回転可能に構成されている。蓋部材60の回転によって、第一通風路距離T1を維持しつつ第一対向面積を大きくすることで第一リテーナ通風路612の流路抵抗を大きくし、第二通風路距離T2を維持しつつ第二対向面積を小さくすることで第二リテーナ通風路614の流路抵抗を小さくする第一回転状態と、第一通風路距離T1を維持しつつ第一対向面積を小さくすることで第一リテーナ通風路612の流路抵抗を小さくし、第二通風路距離T2を維持しつつ第二対向面積を大きくすることで第二リテーナ通風路614の流路抵抗を大きくする第二回転状態と、に切り替え可能に構成されている。蓋部材60の回転という簡易な方法により第一吹出口101と第二吹出口102とのそれぞれの空気の流量を調節することができる。第一吹出口101からの空気と、第二吹出口102からの空気とを合流させる場合には、蓋部材60の回転という簡易な方法により、合流させた空気の流動方向を切り替えることができる。また、合流させる第一吹出口101の流量と第二吹出口102の流量とのバランスによって空気の流動方向を調節することができるため、フィンなどを用いる従来の技術と比較して、空調用レジスタ100から吹き出される空気の流動方向を広い範囲で調節することができる。
【0050】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、第一吹出口101におけるリテーナ開口部306の第一辺306s1とリテーナ対向面との間の第一距離T10と、第二吹出口102における第二辺306s2とリテーナ対向面との間の第二距離T20と、が互いに同じである。第一吹出口101の開口幅と、第二吹出口102の開口幅とが互いに同じになるように構成することにより、各吹出口からの気流の流量の均一化が容易となる。また、二つの吹出口が対称性を有することにより、空調用レジスタ100の意匠性を向上させることができる。
【0051】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、第一リテーナ通風路612に設けられ、第一リテーナ内壁302Wに交差する軸線の周りを回転可能に構成される平板状の第一フィン664と、第二リテーナ通風路614に設けられ、第二リテーナ内壁304Wに交差する軸線の周りを回転可能に構成される平板状の第二フィン665と、を備えている。第一フィン664および第二フィン665の回転という簡易な方法により、第一吹出口101の空気の流動方向と、第二吹出口102の空気の流動方向とを車幅方向の左右に切り替えることができる。
【0052】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、露出面606は、空調用レジスタ100の外側に向かって凸状の曲面で構成されている。露出面606を曲面で構成することにより空調用レジスタ100の意匠性を向上させることができる。また、第一吹出口101および第二吹出口102から吹き出される気流を、コアンダ効果を利用して、露出面606近傍で合流させやすくすることができ、空調用レジスタ100からの気流の流量や吹出方向を安定して調整することができる。
【0053】
本実施形態の空調用レジスタ100によれば、第一吹出口101における第一距離T10および第二吹出口102における第二距離T20が1ミリメートル以上10ミリメートル以下で構成されている。したがって、空調用レジスタ100の意匠性と吹き出される空気の流量とのバランスが好適な空調用レジスタ100を提供することができる。
【0054】
B.第2実施形態:
図10は、第2実施形態に係る空調用レジスタ100bの外観構成を示す斜視図である。第2実施形態の空調用レジスタ100bは、蓋部材60に代えて蓋部材60bを備える点と、さらに操作レバー40を備える点とにおいて、第1実施形態の空調用レジスタ100とは相違し、それ以外の構成は同様である。第1実施形態では、蓋部材60がリテーナ通風路30S内で回転可能に支持される例を示した。これに対して、本実施形態では、蓋部材60bは、リテーナ通風路30S内で固定されており、第一吹出口101bおよび第二吹出口102bの空気の流量の調整は、後述するように、操作レバー40を用いた分流部68bの操作によって実現される。
【0055】
図11は、図10のXI-XI位置の断面図である。図11には、中立状態の空調用レジスタ100bが示されている。空調用レジスタ100bの中立状態は、第1実施形態と同様に、内部構造が中心軸AXを含むY方向に対して鏡像対称となることで形成される。
【0056】
図11に示すように、蓋部材60bは、前壁部62bと、フィン66bと、分流部68bとを備えている。蓋部材60bは、第1実施形態で示した蓋部材60とは、上壁部63、下壁部64、第一スリット602ならびに第二スリット604を備えない点において相違する。蓋部材60bの外部には、第一リテーナ通風路612bおよび第二リテーナ通風路614bが形成されている。第一リテーナ通風路612bの第一通風路距離T12と、第二リテーナ通風路614bの第二通風路距離T22とが略同一であり、かつ、第一リテーナ通風路612bの流路長W31と、第二リテーナ通風路614bの流路長W41とが略同一とされている。すなわち、第一リテーナ通風路612bと第二リテーナ通風路614bとの流路抵抗が互いに略同一になるように構成されている。なお、第一吹出口101bおよび第二吹出口102bの構成は、第1実施形態で示した第一吹出口101および第二吹出口102と同様であるので説明を省略する。
【0057】
前壁部62bは、第1実施形態で示した前壁部62とは、同様の断面形状の前面626を備える点で共通し、軸嵌合部628を備えない点において相違する。前壁部62bは、不図示の固定具によりリテーナ内壁30Wに固定されている。
【0058】
フィン66bは、蓋部材60bの内部で中心軸AX2周りに回転する。フィン66bは、第1実施形態で示したフィン66とは形状が相違し、それ以外の機能・構成は同様である。本実施形態では、フィン66bの上端の突出部662は、上壁部63の嵌合孔638に代えて、第一リテーナ内壁302Wの嵌合孔302Tに嵌合され、下端の突出部662は、下壁部64の嵌合孔648に代えて、第二リテーナ内壁304Wの嵌合孔304Tに嵌合されている。フィン66bの回転は、例えば、図示しない操作レバーの操作によって調整することが可能である。
【0059】
分流部68bは、車幅方向に沿って長尺な板状部材である。分流部68bは、上流側の端部が突出部684として機能し、リテーナ通風路30Sを上下に分流している。図12の例では、分流部68bは、その面方向が水平面と略一致する方向DT3となるようにリテーナ通風路30Sに配置されている。本実施形態では、分流部68bの向きは、分流部68bの面方向によって規定することができる。
【0060】
本実施形態では、分流部68bの上面と、第一リテーナ内壁302Wとの間に第一内部流路601bが形成され、分流部68bの下面と、第二リテーナ内壁304Wとの間に第二内部流路603bが形成されている。第一内部流路601bは、第一リテーナ通風路612bを介して第一吹出口101bと連通し、第二内部流路603bは、第二リテーナ通風路614bを介して第二吹出口102bと連通している。
【0061】
分流部68bは、図11に矢印AG2で示すように、分流部68bの下流側の端部近傍に設定された中心軸AXの周りを回転可能となるように、リテーナ内壁30Wに支持されている。分流部68bは、不図示のリンク機構により、図10で示した操作レバー40と連結されている。図10に矢印AG1で示す上下方向に操作レバー40を操作することにより、分流部68bを中心軸AX周りに回転させることができる。これにより、分流部68bは、突出部684が第一リテーナ内壁302Wに近接する第一分流状態と、突出部684が第二リテーナ内壁304Wに近接する第二分流状態とに切り替えられる。第一分流状態は、第一リテーナ通風路612bに連通する第一内部流路601bの開度が小さくされるとともに、第二リテーナ通風路614bに連通する第二内部流路603bの開度が大きくされた状態である。第二分流状態は、第一内部流路601bの開度が大きくされ、第二内部流路603bの開度が小さくされた状態である。
【0062】
図12は、中立状態の空調用レジスタ100bの内部での空調用空気の流動方向を模式的に示す説明図である。中立状態の空調用レジスタ100bでは、分流部68bによる第一内部流路601bの開度と、第二内部流路603bの開度とが略同じである。図12に矢印S51,S61で示すように、流入口305からリテーナ通風路30Sへと流入した空調用空気は、分流部68bの突出部684まで流動すると、矢印S52,S62で示すように、突出部684によって第一内部流路601bと、第二内部流路603bとに分流される。
【0063】
第一内部流路601bを流動する空気は、矢印S53で示すように、第一リテーナ通風路612bを流動する。第二内部流路603bを流動する空気は、矢印S63で示すように、第二リテーナ通風路614bを流動する。第一リテーナ通風路612bと第二リテーナ通風路614bとの流路抵抗は略同じであり、第一吹出口101bから吹き出される気流の流量と、第二吹出口102bから吹き出される空気の流量とは略同じになる。
【0064】
矢印S54,S64で示すように、第一吹出口101bおよび第二吹出口102bからリテーナ30の外部へと吹き出された空気は、コアンダ効果に従って、前面626の表面上を流動し、前面626の表面上、あるいは剥離により前面626の表面から離れた位置で合流する。合流した空気は、矢印S204で示すように、略水平方向に沿って空調用レジスタ100bの前方に向かって流動する。
【0065】
図13は、第一分流状態の空調用レジスタ100b内部での空気の流動方向を示す説明図である。操作レバー40の操作により、分流部68bが矢印D21に示す上側に回転されると、分流部68bの面方向は方向DT3から方向DT4に切り替えられる。この結果、図13に示す第一分流状態とすることができる。
【0066】
矢印S71,S81で示すように、空調用空気は、分流部68bの突出部684まで流動する。突出部684に到達した空気は、矢印S32で示すように、分流部68bによって、流量が小さくされた状態で第一内部流路601bに流入するとともに、矢印S42で示すように、流量が大きくされた状態で第二内部流路603bに流入する。矢印S73で示すように、第一内部流路601bに流入された空気は、第一リテーナ通風路612bを流動し、矢印S83で示すように、第二内部流路603bに流入された空気は、第二リテーナ通風路614bを流動する。
【0067】
第一分流状態では、第二リテーナ通風路614bに送り出される空気の流量は、中立状態よりも大きく、また第一リテーナ通風路612bに送り出される空気の流量よりも多い。したがって、矢印S84で示す第二吹出口102bから吹き出される空気の流量が、矢印S74で示す第一吹出口101bから吹き出される空気の流量よりも大きくなる。そのため、第一吹出口101からの空気と第二吹出口102bからの空気との合流点が中立状態に対して上側となる。この結果、図13に矢印S206で示すように、空調用レジスタ100bから吹き出される空気は、中立状態よりも上向きとなる。
【0068】
図示を省略するが、本実施形態の空調用レジスタ100bでは、操作レバー40の操作により分流部68bを中立状態よりも下側に回転させた第二分流状態とすることで、空調用レジスタ100bから車室内に吹き出される空気を中立状態よりも下向きにすることも可能である。第二分流状態は、例えば、分流部68bを回転させて、第一分流状態を方向DT3に対して上下反転させた状態にすることで形成することができる。第二分流状態では、中立状態に対して、第一リテーナ通風路612bの開度を大きくして流量を大きくし、第二リテーナ通風路614bの開度を小さくして流量を小さくする。この結果、空調用レジスタ100から吹き出される空気を、水平方向に対して下向き、すなわち俯角となる方向に沿って流動させることができる。
【0069】
本実施形態の空調用レジスタ100bによれば、分流部68bは、第一リテーナ通風路612bに連通する第一内部流路601bの開度を小さくするとともに第二リテーナ通風路614bに連通する第二内部流路603bの開度を大きくする第一分流状態と、第一内部流路601bの開度を大きくして第二内部流路603bの開度を小さくする第二リテーナ分流状態とに切り替え可能である。空調用レジスタ100b内の流路抵抗の切り替えに代えて、分流部68bによる第一内部流路601bおよび第二内部流路603bの流量調整という簡易な構成により、空調用レジスタ100bから吹き出される空気の向きを切り替えることができる。
【0070】
C.第3実施形態:
図14は、第3実施形態に係る空調用レジスタ100cの外観構成を示す斜視図である。第3実施形態の空調用レジスタ100cは、蓋部材60に代えて蓋部材60cを備える点と、ベゼル20に代えてベゼル20cを備える点とにおいて、第1実施形態の空調用レジスタ100とは相違し、それ以外の構成は同様である。本実施形態では、蓋部材60cは、第2実施形態で示した蓋部材60bのように、リテーナ通風路30S内に固定されており、後述する分流部68cの操作によって第一吹出口101cおよび第二吹出口102cの空気の流量が調整される。
【0071】
図15は、図14のXV-XV位置の断面図である。図15には、中立状態の空調用レジスタ100cが示されている。空調用レジスタ100cの中立状態は、分流部68cの向きをY方向と略一致させることで形成できる。本実施形態では、分流部68cの向きは、例えば、突出部684の先端と、分流部68cの回転軸AX5とを結ぶ直線DT5で規定することができる。
【0072】
図15に示すように、蓋部材60cは、前壁部62cと、フィン66cと、分流部68cとを備えている。蓋部材60cは、第1実施形態で示した蓋部材60とは、上壁部63、下壁部64、第一スリット602ならびに第二スリット604を備えない点において相違する。蓋部材60cの外部には、第一リテーナ通風路612cおよび第二リテーナ通風路614cが形成されている。
【0073】
前壁部62cは、第1実施形態で示した前壁部62とは、前面626を備える点で共通し、軸嵌合部628を備えない点で相違する。前壁部62cは、不図示の固定具によりリテーナ内壁30Wに固定されている。
【0074】
フィン66cは、第一フィン664と、第二フィン665とが別体であり、図15に示す中心軸AX3,AX4をそれぞれ個別に有している。連結部668cは、第一フィン664と、第二フィン665とを連結しており、各フィンの回転方向を互いに同期させている。連結部668cは、車幅方向に延在する長尺な平板形状を有している。連結部668cは、図14で示したように、空調用レジスタ100cの外部にまで延在しており、空調用レジスタ100cの外部で図示しない操作レバーと連結されている。第一フィン664および第二フィン665は、操作レバーの操作により連結部668cが車幅方向に沿って摺動されることにより、中心軸AX3,AX4周りを回転する。これにより、第一吹出口101cおよび第二吹出口102cから吹き出される空気の向きは、車幅方向に沿って左右に切り替えられる。
【0075】
分流部68cは、第一斜面683と第二斜面685との2つの斜面を有している。第一斜面683と第二斜面685とは、突出部684の先端を頂点として互いに接続されている。第一斜面683は、第一リテーナ内壁302Wとの間に第一内部流路601cを規定し、第二斜面685は、第二リテーナ内壁304Wとの間に第二内部流路603cを規定している。第一内部流路601cは、第一リテーナ通風路612cを介して第一吹出口101cと連通し、第二内部流路603cは、第二リテーナ通風路614cを介して第二吹出口102cと連通している。
【0076】
分流部68cは、図15に矢印AG3で示すように、分流部68cよりも下流側に位置する回転軸AX5の周りを回転可能となるように、リテーナ内壁30Wに支持されている。分流部68cは、例えば、不図示の操作レバーの操作により回転軸AX5周りを回転させることができる。これにより、分流部68cは、リテーナ通風路30Sを、突出部684が第一リテーナ内壁302Wに近接する第一分流状態と、突出部684が第二リテーナ内壁304Wに近接する第二分流状態とに切り替えることができる。第一分流状態は、第一内部流路601cの開度が小さくされ、第二内部流路603cの開度が大きくされた状態である。第二分流状態は、第一内部流路601cの開度が大きくされ、第二内部流路603cの開度が小さくされた状態である。本実施形態の空調用レジスタ100cによれば、第2実施形態と同様に、分流部68cによる流量調整という簡易な方法により空調用レジスタ100cから吹き出される空気の向きを切り替えることができる。
【0077】
本実施形態の空調用レジスタ100cは、第一リテーナ通風路612cと、第二リテーナ通風路614cとが上下非対称の構造を有しており、内部構造がY方向に対して鏡像対称とはならない。具体的には、空調用レジスタ100c内の流路等は、以下(4)-(6)の特徴を有している。
【0078】
(4)第一吹出口101cにおける第一距離T13と、第二吹出口102cにおける第二距離T23とが互いに異なるように設定されている。具体的には、第一距離T13が第二距離T23よりも大きく、第一吹出口101cの開口幅が第二吹出口102cの開口幅よりも大きくなるように設定されている。図15の例では、第一距離T13は、10mmであり、第二距離T23は、5mmである。なお、図示を省略するが、第一吹出口101cおよび第二吹出口102cは、互いの吹き出し方向が前面626の前方で交差するように構成されている。
(5)第一内部流路601cと第一リテーナ通風路612cとの流路長の合計値W51が、第二内部流路603cと第二リテーナ通風路614cとの流路長の合計値W61よりも大きい。すなわち、分流部68cによる分流後の流路において、第一吹出口101cまでの流路の方が第二吹出口102cまでの流路よりも長い。
(6)分流部68cによる分流後の流路において、第一吹出口101cまでの流路の高さ612hの平均値が第二吹出口102cまでの流路の高さ614hの平均値よりも大きい。
【0079】
上記(4)-(6)の特徴は、分流部68cによる分流後の流路において、第一吹出口101cまでの流路の流路抵抗と、第二吹出口102cまでの流路の流路抵抗とを略同じにするために導かれた設定値である。上記(4)-(6)の特徴を有することにより、本実施形態のように空調用レジスタ100cが上下非対称の構造を有する場合であっても、中立状態において、第一吹出口101cから吹き出される空気の流量と、第二吹出口102cから吹き出される空気の流量とを略同じにすることができる。
【0080】
ベゼル20cは、第1実施形態で示したベゼル20とは、鍔部210を備える点において相違する。鍔部210は、図15に示すように、リテーナ開口部306の第一辺306s1から連続する部分である。鍔部210は、第一辺306s1から空調用レジスタ100cの外部に向かって突出する形状を有している。このように構成することにより、第一吹出口101cは、ユーザから視認されにくくなるので、本実施形態のように第一吹出口101cの開口幅が大きく形成された場合であっても、第一吹出口101cを視認しにくくすることができ、車室内のユーザから空調用レジスタ100cの内部の構造物が見えることを抑制することができる。なお、鍔部は、ベゼル20cに代えてリテーナ30に形成されてもよい。
【0081】
図16は、中立状態の空調用レジスタ100cの内部での空調用空気の流動方向を模式的に示す説明図である。図17は、中立状態の空調用レジスタ100cにおける気流の流速のシミュレーション結果を示す説明図である。中立状態の空調用レジスタ100cでは、分流部68cによる第一内部流路601cの開度と、第二内部流路603cの開度とが略同じである。図16に矢印S91,S101で示すように、流入口305からリテーナ通風路30Sへと流入した空調用空気は、分流部68cまで流動すると、矢印S92,S102で示すように、突出部684によって第一内部流路601cと、第二内部流路603cとに分流される。
【0082】
第一内部流路601cを流動する空気は、矢印S93で示すように、第一リテーナ通風路612cへと送り出され、第二内部流路603cを流動する空気は、矢印S103で示すように、第二リテーナ通風路614bへと送り出される。第一リテーナ通風路612cと第二リテーナ通風路614cとの流路抵抗は互いに略同じであり、第一吹出口101cから吹き出される空気の流量と、第二吹出口102cから吹き出される空気の流量とは略同じになる。
【0083】
第二吹出口102cから外部へと吹き出された空気は、コアンダ効果に従って、前面626の表面を流動し、前面626の表面上、あるいは剥離により前面626の表面から離れた位置で第一吹出口101cから吹き出された空気と合流する。合流した空気は、図16および図17に矢印S208で示すように、略Y方向に沿って空調用レジスタ100cの前方に向かって流動する。
【0084】
図18は、第一分流状態の空調用レジスタ100cにおける気流の流速のシミュレーション結果を示す説明図である。分流部68cの向きが、図17で示した方向DT5よりも上側の方向DT6に切り替えられることによって、第一分流状態を形成することができる。第一分流状態では、第二吹出口102cからの流量が第一吹出口101cからの流量よりも大きくなるため、図18に矢印S210で示すように、空調用レジスタ100cから吹き出される空気は、中立状態よりも上向きに向かって流動する。
【0085】
図19は、第二分流状態の空調用レジスタ100cにおける気流の流速のシミュレーション結果を示す説明図である。分流部68cの向きが方向DT5よりも下側となる方向DT7に切り替えられることによって第二分流状態を形成することができる。第二分流状態では、第一吹出口101cからの流量が第二吹出口102cからの流量よりも大きくなるため、図19に矢印S212で示すように、空調用レジスタ100cから吹き出される空気は、中立状態よりも下向きに向かって流動する。
【0086】
図20は、本実施形態の空調用レジスタ100cを備える車両80内での気流の流動方向を示す説明図である。図20には、運転席82で車両80を操作する運転手HMが示されている。空調用レジスタ100cは、第一吹出口101cの流量と第二吹出口102cの流量とのバランスによって気流の流動方向を調節することができる。そのため、従来の技術のように横ブレードで気流の流動方向を調節する場合と比較して、気流の流動方向を広い範囲で調節することができる。一般的には、横ブレードを用いた空調用レジスタでは、水平方向HZに対して、仰角約30度から俯角約30度までの流動方向の調節が可能である。これに対して、本実施形態の空調用レジスタ100cは、図20に角度θ10で示す仰角約60度から、角度θ12で示す俯角約35度までの流動方向、あるいはそれ以上の角度範囲で流動方向を調節することが可能である。
【0087】
例えば、車両80内を冷却するために、空調用レジスタ100cから冷風を吹き出す場合、仰角30度の気流は、運転手HMの頭部HHに直接当たることになり、運転手HMに不快感を与える要因となり得る。これに対して、矢印S300で示すように、本実施形態の空調用レジスタ100cによって実現される仰角60度の気流であれば、運転手HMの頭部HHに気流を直接当てることなく車両80の天井80Tに向けて気流を吹き出すことができる。天井80Tに到達した冷風は、例えば、天井80Tに沿って車室内に広がるとともに、矢印S302で示すように、冷気の特性からダウンフローとなって車室全体を冷却する。したがって、運転手HMに不快感を与えることを抑制または防止することができるとともに、車室上部からのダウンフローにより車室内を均一に冷却することができる。
【0088】
また、例えば、車両80内を暖めるために、空調用レジスタ100cから温風を吹き出す場合、俯角30度の気流では、運転手HMの膝HNあるいはそれよりも下側となる下腿に向けて吹き出すことは難しい。これに対して、矢印S310で示すように、俯角35度以上の気流であれば、膝HNや下腿に向けて温風を吹き出すことができる。この場合には、下腿を直接暖めることができる。また、矢印S400で示すように、車両80の底面80Bに備えられる暖房装置から運転手HMの足先を暖めるための温風が供給される場合には、俯角35度以上の気流をエアカーテンとして機能させることにより、矢印S402で示すように、暖房装置からの温風の上昇を抑制させて、運転手HMの下腿近傍で停滞させることができる。
【0089】
D.他の実施形態:
(D1)上記第1実施形態において、蓋部材60は、リテーナ30の内部で回転することにより、第一通風路距離T1を維持しつつ第一リテーナ内壁302Wと蓋部材60との第一対向面積を大きくし、第二通風路距離T2を維持しつつ第二リテーナ内壁304Wと蓋部材60との第二対向面積を小さくする第一回転状態と、第一通風路距離T1を維持しつつ第一対向面積を小さくし、第二通風路距離T2を維持しつつ第二対向面積を大きくする第二回転状態とに切り替える例を示した。これに対して、蓋部材60が、リテーナ30の内部において、例えば、鉛直方向の上下に摺動することによって、第一吹出口101と第二吹出口102との流量が調節できるように構成されてもよい。例えば、蓋部材60を鉛直方向下側へ摺動させることによって、蓋部材60が第一リテーナ内壁302Wよりも第二リテーナ内壁304Wに近い位置に配置されることにより、第一リテーナ内壁302Wと蓋部材60との第一対向面積の大きさを維持しつつ第一リテーナ内壁302Wと蓋部材60との間の第一通風路距離を大きくし、第二リテーナ内壁304Wと蓋部材60との第二対向面積の大きさを維持しつつ第二リテーナ内壁304Wと蓋部材60との間の第二通風路距離を小さくする第一摺動状態とすることができる。また、蓋部材60を鉛直方向上側へ摺動させることにより、第一対向面積の大きさを維持しつつ第一通風路距離を小さくし、第二対向面積の大きさを維持しつつ第二通風路距離を大きくする第二摺動状態とすることができる。この形態の空調用レジスタ100によれば、蓋部材60の摺動という簡易な方法により第一吹出口101と第二吹出口102とのそれぞれの気流の流量を調節することができる。
【0090】
(D2)上記各実施形態では、空調用レジスタ100が第一吹出口101と、第二吹出口102との2つの吹出口を備える例を示した。これに対して、例えば、第一吹出口101と、第二吹出口102とのいずれか一方のみが備えられてもよい。このように構成した場合であっても、意匠性を向上した空調用レジスタ100を提供することができる。
【0091】
(D3)上記第1実施形態では、蓋部材60が円柱状である例を示した。これに対して、蓋部材60は、円柱状には限らず、多角柱などの任意の柱状体であってもよく、球体とされてもよい。蓋部材60が多角柱である場合において、露出面606は、多角柱のいずれか一つの平面であってもよく、角部を含む2以上の平面であってもよい。
【0092】
(D4)上記各実施形態では、リテーナ開口部306が矩形である例を示した。これに対して、リテーナ開口部306は、矩形に限らず円形や楕円、多角形などの任意の幾何学的形状であってもよい。また、上記各実施形態において、ベゼル開口部206の形状がリテーナ開口部306の形状と一致する例を示したが、これに限らず、ベゼル開口部206の形状とリテーナ開口部306の形状とが一致しなくてもよい。この場合において、露出面606の形状もリテーナ開口部306に応じた任意の形状とされてもよい。
【0093】
(D5)上記各実施形態では、リテーナ開口部306の第一辺306s1および第二辺306s2が車幅方向に沿って配置される例を説明した。これに対して、空調用レジスタ100は、リテーナ開口部306の第一辺306s1および第二辺306s2が車幅方向に交差する向きになるように配置されるなど、車幅方向に対して垂直を含む任意の角度に傾斜させた状態で配置されてもよい。
【0094】
(D6)上記各実施形態では、第一辺306s1および第二辺306s2が直線状である例を示したが、直線状には限らず、円弧などの種々の曲線とされてもよく、波状などの種々の形状とされてもよい。第一吹出口101および第二吹出口102も同様である。
【0095】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
10…インストルメントパネル、20,20c…ベゼル、30…リテーナ、30S…リテーナ通風路、30W…リテーナ内壁、40…操作レバー、60,60b、60c…蓋部材、62,62b、62c…前壁部、63…上壁部、64…下壁部、66…突出部、66,66b,66c…フィン、68,68b、68c…分流部、80B…底面、80T…天井、82…運転席、100,100b,100c…空調用レジスタ、101,101b、101c…第一吹出口、102,102b,102c…第二吹出口、206…ベゼル開口部、210…鍔部、302…第一壁部、302T…嵌合孔、302W…第一リテーナ内壁、303…側壁部、304…第二壁部、304T…嵌合孔、304W…第二リテーナ内壁、305…流入口、306…リテーナ開口部、306s1…第一辺、306s2…第二辺、308…嵌合孔、601,601b,601c…第一内部流路、602…第一スリット、603,603b,603c…第二内部流路、604…第二スリット、606…露出面、612,612b,612c…第一リテーナ通風路、612h…高さ、614,614b,614c…第二リテーナ通風路、614h…高さ、623…端辺、624…端辺、626…前面、628…軸嵌合部、632…上面部、632E…端辺、634…側壁部、634B…下端、638…嵌合孔、642…下面部、642E…端辺、644…側壁部、644T…上端、646…突出部、648…嵌合孔、662…突出部、664…第一フィン、665…第二フィン、666…軸部、668,668c…連結部、682…支持凹部、683…第一斜面、684…突出部、685…第二斜面、CP…中点、HH…頭部、HM…運転手、HN…膝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20