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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073018
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ストレッチパンツ
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20240522BHJP
   A41D 1/08 20180101ALI20240522BHJP
   A41D 1/06 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A41D13/00 115
A41D1/08
A41D1/06 501D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183985
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】517170052
【氏名又は名称】デサントジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】岡野 哲大
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 拓実
(72)【発明者】
【氏名】牧 太陽
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AA05
3B011AB11
3B011AC17
3B211AA05
3B211AB11
3B211AC17
(57)【要約】
【課題】膝周辺の圧迫を抑制する。
【解決手段】ストレッチパンツ10は、胴部11と、胴部11から下向きに突出する左右一対の脚部12とを備え、脚部12及び胴部11のうち少なくとも一方の背面側23に、殿部2の下部に位置する起端31aから殿部2以外の部分へ延び、殿部2に位置する部分の生地を膨出させる縫合線31を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と、前記胴部から下向きに突出する左右一対の脚部とを備え、
前記脚部及び前記胴部のうち少なくとも一方の背面側に、着用者の殿部に対応する部分の下部に位置する起端から前記殿部以外の部分へ延び、前記殿部に位置する部分の生地を膨出させる第1縫合線を備える、ストレッチパンツ。
【請求項2】
前記第1縫合線は、前記生地を内向きに折り込んで縫合した第1ダーツにより形成されており、
前記第1ダーツによる前記生地の折込量は、前記起端から離れるに従って多くなっている、請求項1に記載のストレッチパンツ。
【請求項3】
前記第1縫合線は、前記殿部から膝に向かうように、前記起端から外側下方へ傾斜している、請求項1又は2に記載のストレッチパンツ。
【請求項4】
前記第1縫合線の前記起端は、前記脚部の幅方向中央を通り前記脚部の長さ方向に延びる中心線と、前記殿部の下部を幅方向に延びる直線との交点に位置する、請求項1又は2に記載のストレッチパンツ。
【請求項5】
前記胴部の正面側に、着用者の股関節に対応する部分の内側から着用者の腰において幅方向外側に最も突出した部分に向かうように、前記一対の脚部の頂部である股ぐり部から幅方向外側に向けて上側へ傾斜して延び、前記股ぐり部が位置する部分の前記生地を膨出させる第2縫合線を備える、請求項1又は2に記載のストレッチパンツ。
【請求項6】
前記第2縫合線は、前記生地を内向きに折り込んで縫合した第2ダーツにより形成されており、
前記第2ダーツによる前記生地の折込量は、前記胴部の幅方向中央側の内端よりも前記胴部の幅方向外側の外端の方が多い、請求項5に記載のストレッチパンツ。
【請求項7】
前記第2ダーツによる前記生地の折込量は、前記第2縫合線の全長のうちの中間部分が最も多い、請求項6に記載のストレッチパンツ。
【請求項8】
前記脚部は、裾が着用者の膝の下側に位置する長さであり、背面側の膝裏に対応する部分に、幅方向に延びて、正面側の前記膝に対応する部分の前記生地を膨出させる第3縫合線を備える、請求項1又は2に記載のストレッチパンツ。
【請求項9】
前記胴部と前記左右一対の脚部を構成する前身頃と後身頃を備え、
前記前身頃と前記後身頃を重ねると、前記一対の脚部のうちの一方の股下縫合線と他方の股下縫合線とがなす角は、75度以上120度以下である、請求項1又は2に記載のストレッチパンツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチパンツに関する。
【背景技術】
【0002】
着用者のボディラインが明瞭に現れるように、胴部と脚部をスリムな周長としたストレッチパンツが知られている。特許文献1には、このようなストレッチパンツの1つであるスポーツ用パンツが開示されている。このスポーツ用パンツは、一対の半身部によって構成され、縫合箇所を少なくすることによって生地の伸張性阻害を低減し、着用者の動きに対する追従性向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5651213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
着用者が膝を曲げて腰を低くした姿勢では、脚部の膝まわりの生地が引っ張られ、膝が圧迫される。このような膝周辺の圧迫抑制について、特許文献1には改善の余地がある。
【0005】
本発明は、膝周辺の圧迫を抑制できるストレッチパンツを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、着用者が膝を曲げて腰を低くした姿勢で膝が圧迫される要因の1つが、胴部において殿部まわりの生地が伸張し、この伸張に連れられて脚部の膝まわりの生地が引っ張られることによることを見いだした。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明は、胴部と、前記胴部から下向きに突出する左右一対の脚部とを備え、前記脚部及び前記胴部のうち少なくとも一方の背面側に、着用者の殿部に対応する部分の下部に位置する起端から前記殿部以外の部分へ延び、前記殿部に位置する部分の生地を膨出させる第1縫合線を備える、ストレッチパンツを提供する。
【0008】
ストレッチパンツの背面側には、着用者の殿部に対応する部分の下部に位置する起端から殿部以外の部分へ延び、殿部に位置する部分の生地を膨出させる第1縫合線が設けられている。これにより、胴部の殿部を覆う部分にゆとりを持たせる一方、殿部以外の部分は着用者のボディラインに沿うスリムな状態に維持できる。胴部の殿部まわりにゆとりがあるため、着用者が膝を曲げて腰を低くした姿勢で、殿部による胴部の伸張を低減できる。そのため、胴部の伸張に連れられて膝まわりの脚部の生地が引っ張られることを低減できる。よって、胴部の伸張に伴う脚部による膝周辺の圧迫を抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、膝周辺の圧迫を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るストレッチパンツの1つである野球用パンツを平坦に折り重ねた状態の側面図。
図2図1の野球用パンツの正面斜視図。
図3図1の野球用パンツの背面斜視図。
図4図1の野球用パンツの前身頃と後身頃を重ねた状態の正面図。
図5図1の野球用パンツの前身頃と後身頃を重ねた状態の背面図。
図6図1のVI-VI線断面図。
図7図6を縫合線と直交する方向から見た図。
図8】正面側の縫合線の図7と同様の図。
図9図1のIX-IX線断面図。
図10図9を縫合線と直交する方向から見た図。
図11】前側左身頃の裁断図。
図12】前側右身頃の裁断図。
図13】上側後半身頃の裁断図。
図14】下側後半身頃の裁断図。
図15】模型を用いた人体部位の説明図。
図16】ダーツがない従来の野球用パンツを着用して膝を曲げて腰を低くした姿勢での圧力分布を示す図。
図17】実施形態に係る野球用パンツを着用して膝を曲げて腰を低くした姿勢での圧力分布を示す図。
図18】変形例の野球用パンツの背面図。
図19】他の変形例の野球用パンツの背面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0012】
図1から図3を参照すると、本発明の実施形態に係るストレッチパンツの一例である野球用パンツ10は、胴部11と、胴部11に連なる一対の脚部12とを備える。以下では、図15に示す人体部位を参照しながら、着用状態を基準として野球用パンツ10の構成を説明する。
【0013】
まず、野球用パンツ10の概要を説明する。
【0014】
図1から図3を参照すると、胴部11は、筒状で、図15に示す身体の腰1から殿部2までの部分を覆う。左右一対の脚部12は、胴部11よりも周長が短い筒状で、胴部11から下向きに突出している。本実施形態の脚部12は所謂ショートフィット型であり、図15に示す脚5のうち膝6よりも下側かつ膨ら脛7よりも上側に裾12aが位置する。胴部11と脚部12の境界は、脚部12の幅方向中央を通り脚部12の長さ方向に延びる中心線CLに対して直交し、一対の脚部12の頂部である股ぐり部14に接する直線として定義される。
【0015】
野球用パンツ10は、伸縮性を有する生地からなる前身頃20と後身頃23を備える。前身頃20と後身頃23を構成する生地は、例えば組成がポリエステル100%で、目付が200~300(g/m)であり、吸汗性とストレッチ性を有する。
【0016】
図2及び図4を参照すると、前身頃20は、図11に示す前側左身頃21と図12に示す前側右身頃22によって構成されている。前側左身頃21は、図示しないファスナを覆う天狗13を備える。前側右身頃22は、天狗13を備えていない点で、前側左身頃21と相違している。前側左身頃21と前側右身頃22は、天狗13の下側の縫合によって縫着される。この縫着によって、1つの前身頃20が形成され、前側左身頃21と前側右身頃22の間には縫合線26が形成される。ここで、縫合線26とは、糸による縫い目だけでなく、縫合により表面に現れる生地の境界線(図6及び図9参照)が含まれる。後に説明する縫合線26以外の縫合線も同様である。
【0017】
図3及び図5を参照すると、後身頃23は、左右一対の図13に示す上側後半身頃24と、左右一対の図14に示す下側後半身頃25とで構成されている。一対の上側後半身頃24はそれぞれ同一形状であり、一対の下側後半身頃25はそれぞれ同一形状である。一対の上側後半身頃24は互いに縫着され、これらの下端に下側後半身頃25がそれぞれ縫着される。これらの縫着によって、1つの後身頃23が形成され、一対の上側後半身頃24の間には縫合線27が形成され、上側後半身頃24と下側後半身頃25の間には縫合線33が形成される。なお、縫合線33の具体的構成については後に詳述する。
【0018】
このように形成された前身頃20と後身頃23の幅方向の中央側と外側を縫着することによって、野球用パンツ10が形成される。これにより、前身頃20と後身頃23の幅方向中央側には股下縫合線28が形成され、前身頃20と後身頃23の幅方向外側には脇縫合線29が形成される。
【0019】
図1から図3を参照すると、以上の基本構成を有する野球用パンツ10に対し、本実施形態では、開脚して図15に示す膝6を曲げて腰1を低くした姿勢、つまり内野手が守備姿勢をとったとき、着用者の脚5の負担低減と外観向上を図るために、3種の縫合線31~33がそれぞれ左右一対に設けられている。そのうち、1つの縫合線(第1縫合線)31は、後身頃(背面側)23の胴部11から脚部12にかけて設けられている。他の1つの縫合線(第2縫合線)32は、前身頃(正面側)20の胴部11を構成する部分に設けられている。残り1つの縫合線(第3縫合線)33は、後身頃23の脚部12を構成する部分に設けられている。
【0020】
以下、縫合線31~33について、図11から図14に示す身頃の裁断図を併せて参照しながら具体的に説明する。なお、それぞれの裁断図において、太線は裁断した生地の外縁であり、細線は生地の折曲予定線又は縫合予定線である。
【0021】
図1図3、及び図5を参照すると、縫合線31は、胴部11において図15に示す殿部2が位置する部分にゆとりを持たせる一方、着用者のボディラインに沿うように脚部12をスリム化するために設けられている。この縫合線31は、図15に示す殿部2の下部から殿部2以外の部分である膝6に向けて延びるように、胴部11の幅方向中央側から脚部12の幅方向外側へ下向きに傾斜して延びている。
【0022】
詳しくは、縫合線31は、図15に示す殿部2に対応する部分の下部に位置する起端31aと、脚部12における脇縫合線29上に位置する終端31bとを備え、これらの間を直線状に延びている。但し、縫合線31は、曲線状であってもよく、図15に示す殿部2から膝6に対応する部分に向けて延びる構成であればよい。
【0023】
起端31aは、脚部12の中心線CLと、殿部2の下部を幅方向に延びる直線SLとの交点に位置する。但し、起端31aは、殿部2の下部に位置していれば、幾何学的に厳密な意味で中心線CLと直線SLの交点に位置していなくてもよい。一方で、終端31bは、図15に示す膝6の上側かつハムストリングス8の中央よりも下側に対応する部分に位置している。
【0024】
図6図7、及び図13を参照すると、縫合線31は、生地を内向きに折り込んで縫合したダーツ(第1ダーツ)35により形成されている。上側後半身頃24には、ダーツ35を形成するための裁断は行われていない。ダーツ35による生地の折込量は、起端31aから離れるに従って多くなり、終端31bで最も多くなっている。この構成によって、胴部11のうち起端31aが位置する部分では、ゆとりを有するように生地を膨出させることができる。一方で、図15に示す殿部2から離れるに従って細くなる脚5に沿うように、脚部12を上側から下側に向けて次第に細くでき、終端31bが位置する部分では十分にスリム化できる。
【0025】
図1図2、及び図4を参照すると、縫合線32は、胴部11において股ぐり部14の上側部分にゆとりを持たせる一方、図15に示す股関節3に対応する部分の生地の弛みや皺の発生を低減するために設けられている。この縫合線32は、図15に示す股関節3に対応する部分の内側から、ウェストラインにおいて最も外側に突出した腸骨稜が位置する部分4に向かうように、股ぐり部14から幅方向外側に向けて上側へ傾斜して延びている。
【0026】
詳しくは、縫合線32は、胴部11の幅方向中央側に位置する内端32aと、胴部11における脇縫合線29上に位置する外端32bとを備え、これらの間を直線状に延びている。但し、縫合線32は、曲線状であってもよく、図15に示す股関節3に対応する部分の内側から腸骨稜が位置する部分4に向けて延びる構成であればよい。
【0027】
内端32aは、股ぐり部14よりも上側かつ幅方向外側で、概ね天狗13の下部の幅方向外側に隣接して位置する。上下方向において、内端32aの位置は、縫合線31の起端31aの位置と概ね同じである。一方で、外端32bは、脇縫合線29上において、図15に示す殿部2に対応する部分の上側に設けられたポケット15と同じ高さ位置に配置されている。つまり、外端32bは、縫合線31の起端31aよりも上側に配置されている。
【0028】
縫合線32は、図6に示す縫合線31と同様に、生地を内向きに折り込んで縫合したダーツ(第2ダーツ)36により形成されている。図8図11、及び図12を参照すると、前側左身頃21と前側右身頃22には、ダーツ36を形成するための裁断は行われていない。ダーツ36による生地の折込量は、縫合線32の全長のうち、内端32aと外端32bの間に位置する中間点(中間部分)32cの位置が最も多くなっている。より具体的には、ダーツ36の折込量は、内端32aから中間点32cに向けて漸増し、中間点32cから外端32bに向けて漸減しており、内端32aの方よりも外端32bの方が多い。中間点32cは、縫合線32のうち脚部12の中心線CLとの交点に位置する。但し、中間点32cは、図15に示す股関節3に対応する部分に位置していれば、幾何学的に厳密な意味で中心線CLとの交点上に位置してなくてもよい。この構成によって、胴部11のうち内端32aが位置する股ぐり部14の上側部分では、ゆとりを有するように生地を膨出させることができる。一方で、股ぐり部14から離れるに従って胴部11を細くでき、中間点32cが位置する部分では十分にスリム化できる。
【0029】
図1図3、及び図5を参照すると、縫合線33は、脚部12において膝6が位置する部分にゆとりを持たせる一方、図15に示す膝裏6aに対応する部分に位置する生地の弛みや皺の発生を低減するために設けられている。この縫合線33は、上側後半身頃24と下側後半身頃25を縫合した切り替え37により形成され、脚部12を幅方向に延びている。
【0030】
ここで、図11から図14を参照すると、上側後半身頃24と下側後半身頃25の脚部12を構成する部分の横幅は、前側左身頃21と前側右身頃22の脚部12を構成する部分の横幅よりも広い。これにより、図4及び図5に示すように、前身頃20と後身頃23を重ねた状態とし、図4に示すように正面側から見ると、前身頃20の両側に後身頃23の一部が現れ、図5に示すように背面側から見ると、後身頃23の両側には前身頃20が現れない。
【0031】
図1から図3に示すように、脚部12において、図15に示す膝6よりも下側の部分は、切り替え37によって上側の部分に対して背面側に屈曲した形状をなす。その結果、前身頃20の脚部12を構成する部分のうち膝6に対応する部分が、切り替え37によって後身頃23の脚部12を構成する部分から膨出する。また、後身頃23の脚部12を構成する部分の全長は、前身頃20の脚部12を構成する部分の全長よりも長くなっている。また、切り替え37による縫合線33は、図13図14に示す上側後半身頃24と下側後半身頃25の裁断状態では曲線状に設定されるが、図1図3、及び図5に示す縫着状態では外観的に直線状となる。なお、脚部12のうち、縫合線33よりも上側の部分に対する縫合線33よりも下側の部分の屈曲角度θ1は、10度以上90度以下に設定することが好ましく、本実施形態では15度に設定されている。
【0032】
縫合線33は、股下縫合線28上に位置する内端33aと、脇縫合線29上に位置する外端33bとを備え、これらの間を外観的に直線状に延びている。但し、縫合線33は、曲線状であってもよく、図15に示す膝裏6aに対応する部分に位置する構成であればよい。
【0033】
内端33aは、図15に示す膝6の頂部に対応する部分よりも下側に配置されている。外端33bは、内端33aよりも上側、より具体的には図15に示す膝6の頂部に対応する部分よりも上側で、縫合線31の終端31bよりも下側に配置されている。つまり、本実施形態の縫合線33は、脚部12の幅方向の内側から外側に傾斜して延びている。
【0034】
図4及び図5を参照すると、本実施形態の野球用パンツ10では、前身頃20と後身頃23を重ねた状態で、一対の脚部12が胴部11から離れるに従って次第に離間するように構成されている。一対の脚部12のうちの一方の股下縫合線28と他方の股下縫合線28とがなす角θ2を過度に小さくすると、着用者が開脚すると、脚部12の内側部分の生地が伸びて圧迫により脚5に負担がかかる。一方で、なす角θ2を過度に大きくすると、着用者が直立すると、脚部12の内側部分に弛みや皺が生じて外観が悪くなる可能性がある。これらの不都合を防ぐために、一対の脚部12間のなす角θ2は、75度以上120度以下の範囲に設定することが好ましく、本実施形態では80度に設定されている。
【0035】
図16図17に、着用者が開脚し、膝6を曲げて腰1を低くした守備姿勢での体型変化解析結果を示す。図16は縫合線31~33がない従来の野球用パンツを着用した場合の解析結果であり、図17は縫合線31~33を備える本実施形態の野球用パンツ10を着用した場合の解析結果である。これらの図の濃淡は生地によって脚5に加わる圧力の高低を表しており、濃い(カラー画像では赤色)部分は淡い(カラー画像では薄緑色)部分よりも圧力が高いことを示している。
【0036】
図16を参照すると、従来の野球用パンツでは、ハムストリングス8から膝6を経由して膝6の下側まで、高い圧力が生じていることが解る。これは、守備姿勢をとったとき、殿部2によって胴部の生地が伸張し、この伸張に連れられて脚部の膝まわりの生地が引っ張られ、膝を圧迫することによる。
【0037】
図17を参照すると、本実施形態の野球用パンツ10では、ハムストリングス8の一部と膝6まわりの一部に高い圧力が生じているが、全体として従来の野球用パンツよりも生地によって加わる圧力が低くなっていることが解る。これは、殿部2の近傍に設けた縫合線31によって胴部11にゆとりを持たせ、守備姿勢をとったとき、殿部2による胴部11の生地の伸張を低減し、脚部12の膝まわりの生地の引っ張りを低減したことによる。また、股ぐり部14の近傍に設けた縫合線32によって股ぐり部14にゆとりを持たせ、股関節3まわりの生地の引っ張りを低減したことによる。また、膝裏6aに設けた縫合線33によって脚部12の膝6まわりにゆとりを持たせ、膝6まわり生地の引っ張りを低減したことによる。そして、この結果から本実施形態の野球用パンツ10では、胴部11の伸張に伴う脚部12による膝6まわりの圧迫を抑制でき、着用者の脚5の負担の低減できることが解る。
【0038】
このように構成された野球用パンツ10は、以下の特徴を有する。
【0039】
後身頃23には、着用者の殿部2に対応する部分の下部に位置する起端31aから殿部2以外の部分へ延び、殿部2に位置する部分の生地を膨出させる縫合線31が設けられている。これにより、胴部11の殿部2を覆う部分にゆとりを持たせる一方、殿部2以外の部分は着用者のボディラインに沿うスリムな状態に維持できる。胴部11の殿部2まわりにゆとりがあるため、着用者が膝6を曲げて腰1を低くした姿勢で、殿部2による胴部11の伸張を低減できる。そのため、胴部11の伸張に連れられて脚部12の膝6まわりの生地が引っ張られることを低減できる。よって、胴部11の伸張に伴う脚部12による膝6周辺の圧迫を抑制できる。
【0040】
縫合線31は生地を折り込んだダーツ35により形成されており、ダーツ35による生地の折込量は起端31aから離れるに従って多くなっている。これにより、胴部11の殿部2まわりにはゆとりを持たせ、脚部12では着用者のボディラインに沿うスリムな状態を実現できる。
【0041】
縫合線31は起端31aから外側下方へ傾斜している。つまり、着用者が膝6を曲げて腰1を低くした姿勢で、生地が伸びる方向に沿って縫合線31が延びている。よって、生地の伸張性の阻害を低減しつつ、生地の伸びによる縫合の解れを低減できる。
【0042】
縫合線31の起端31aは、脚部12の長さ方向に延びる中心線CLと、殿部2の下部を幅方向に延びる直線SLとの交点に位置する。よって、胴部11における殿部2を覆う部分にゆとりを確実に持たせることができる。
【0043】
前身頃20の胴部11を構成する部分には、股ぐり部14から幅方向外側に向けて上側へ傾斜して延び、股ぐり部14が位置する部分の生地を膨出させる縫合線32が設けられている。これにより、胴部11において股ぐり部14の上側部分にゆとりを持たせる一方、股ぐり部14以外の部分は着用者のボディラインに沿うスリムな状態に維持できる。しかも、着用者が腰1を前向きに曲げた姿勢で、股関節3の部分に生じる前身頃20の弛みや皺を低減できる。よって、このような姿勢での野球用パンツ10の外観を向上できる。
【0044】
縫合線32は生地を内向きに折り込んだダーツ36により形成されており、ダーツ36による生地の折込量は、胴部11の内端32aよりも外端32bの方が多い。これにより、胴部11の股ぐり部14の上側部分にはゆとりを持たせ、股ぐり部14以外の部分では着用者のボディラインに沿うスリムな状態を実現できる。
【0045】
ダーツ36による生地の折込量は、縫合線32の全長のうち中間点32cの部分が最も多い。これにより、着用者が腰1を前向きに曲げた姿勢での前身頃20の弛みや皺を効果的に低減できるため、野球用パンツ10の外観を向上できる。
【0046】
後身頃23における脚部12の膝裏(6a)に位置する部分に、幅方向に延びて前身頃20側の生地を膨出させる縫合線33が設けられている。そのため、着用者が膝6を曲げた姿勢で、生地による膝6の圧迫を低減しつつ、膝裏6aの部分に生じる後身頃23の弛みや皺を低減できる。よって、このような姿勢での野球用パンツ10の外観を向上できる。
【0047】
前身頃20と後身頃23を重ねると、一対の脚部12のうちの一方の股下縫合線28と他方の股下縫合線28とがなす角θ2(図4参照)は、75度以上120度以下である。これにより、着用者が開脚した姿勢で、脚部12の内側部分の生地の伸びを低減できるため、生地による脚5の圧迫を抑制できる。よって、開脚して膝6を曲げ、腰1を低くした守備姿勢を頻繁にキープする野球のパンツ10として好適である。
【0048】
以下、本発明の変形例を説明するが、これらの説明において、特に言及しない点は実施形態と同様である。以下で言及する図面において、実施形態と同一の要素には同一の符号を付している。
【0049】
縫合線31の起端31aは、脚部12の幅方向中央の上端に位置していてもよい。
【0050】
図18に示すように、縫合線31は、起端31aから脚部12の幅方向内側へ下向きに傾斜して延び、終端31bは、股下縫合線28上に位置していてもよい。
【0051】
図19に示すように、縫合線31は、図15に示す殿部2に対応する部分を迂回するように、胴部11に位置する起端31aから幅方向外側へ上向きに湾曲して延び、終端31bは、胴部11における脇縫合線29上に位置していてもよい。
【0052】
図5図18、及び図19に示す縫合線31を2以上組み合わせて設けてもよい。
【0053】
縫合線31の終端31bは、股下縫合線28又は脇縫合線29に達することなく、縫合線28,29に対して間隔をあけて位置していてもよい。
【0054】
以上のように、縫合線31は、起端31aが殿部2の下部に位置し、殿部2以外の部分に延びる構成であればよい。
【0055】
縫合線31,32は、いせ込み、伸ばし縫い、タック、及び切り替えによって形成されてもよい。縫合線33は、ダーツ、いせ込み、伸ばし縫い、及びタックの縫い目によって形成されてもよい。
【0056】
野球用パンツ10は、左半分を構成する左側半身頃と、右半分を構成する右側半身頃とで構成されてもよい。
【0057】
以上の説明では、野球用パンツ10を例に挙げて本発明のストレッチパンツを説明したが、ストレッチパンツはゴルフ用又は作業用であってもよい。これらの場合、脚部12は、裾12aが踝に達する全長とする。また、ゴルフ用パンツの場合、一対の脚部12間のなす角θ2(図4参照)は10度以上40度以下の範囲に設定し、脚部12の縫合線33よりも上側の部分に対する縫合線33よりも下側の部分の屈曲角度は、10度以上40度以下に設定することが好ましい。
【0058】
ストレッチパンツは、裾12aが膝6よりも上側に位置するショートパンツであってもよい。この場合、縫合線33は不要であり、サッカー用、バレー用、及びバスケットボール用として好適である。
【0059】
本発明の第1態様は、
胴部11と、前記胴部11から下向きに突出する左右一対の脚部12とを備え、
前記脚部12及び前記胴部11のうち少なくとも一方の後身頃23側に、着用者の殿部2に対応する部分の下部に位置する起端31aから前記殿部2以外の部分へ延び、前記殿部2に位置する部分の生地を膨出させる縫合線31を備える、ストレッチパンツ10を提供する。
【0060】
本発明の第2態様は、
前記縫合線31は、前記生地を内向きに折り込んで縫合したダーツ35により形成されており、
前記ダーツ35による前記生地の折込量は、前記起端31aから離れるに従って多くなっている、第1態様に記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0061】
本発明の第3態様は、
前記縫合線31は、前記殿部2から膝6に向かうように、前記起端31aから外側下方へ傾斜している、第1態様又は第2態様に記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0062】
本発明の第4態様は、
前記縫合線31の前記起端31aは、前記脚部12の幅方向中央を通り前記脚部12の長さ方向に延びる中心線CLと、前記殿部2の下部を幅方向に延びる直線SLとの交点に位置する、第1態様から第3態様のいずれかに記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0063】
本発明の第5態様は、
前記胴部11の前身頃20側に、着用者の股関節3に対応する部分の内側から着用者の腰1において幅方向外側に最も突出した部分4に向かうように、前記一対の脚部12の頂部である股ぐり部14から幅方向外側に向けて上側へ傾斜して延び、前記股ぐり部14が位置する部分の前記生地を膨出させる縫合線32を備える、第1態様から第4態様のいずれかに記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0064】
本発明の第6態様は、
前記縫合線32は、前記生地を内向きに折り込んで縫合したダーツ36により形成されており、
前記ダーツ36による前記生地の折込量は、前記胴部11の幅方向中央側の内端32aよりも前記胴部11の幅方向外側の外端32bの方が多い、第5態様に記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0065】
本発明の第7態様は、
前記ダーツ36による前記生地の折込量は、前記縫合線32の全長のうちの中間点32cが最も多い、第6態様に記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0066】
本発明の第8態様は、
前記脚部12は、裾12aが着用者の膝6の下側に位置する長さであり、後身頃23側の膝裏6aに対応する部分に、幅方向に延びて、前身頃20側に前記膝6に対応する部分の前記生地を膨出させる縫合線33を備える、第1態様から第7態様のいずれかに記載のストレッチパンツ10を提供する。
【0067】
本発明の第9態様は、
前記胴部11と前記左右一対の脚部12を構成する前身頃20と後身頃23を備え、
前記前身頃20と前記後身頃23を重ねると、前記一対の脚部12のうちの一方の股下縫合線28と他方の股下縫合線28とがなす角は、75度以上120度以下である、第1態様から第8態様のいずれかに記載のストレッチパンツ10を提供する。
【符号の説明】
【0068】
1 腰
2 殿部
2a 頂部
3 股関節
4 腸骨稜が位置する部分
5 脚
6 膝
6a 膝裏
7 膨ら脛
8 ハムストリングス
10 野球用パンツ(ストレッチパンツ)
11 胴部
12 脚部
12a 裾
13 天狗
14 股ぐり部
15 ポケット
20 前身頃(正面側)
21 前側左身頃
22 前側右身頃
23 後身頃(背面側)
24 上側後半身頃
25 下側後半身頃
26 縫合線
27 縫合線
28 股下縫合線
29 脇縫合線
31 縫合線(第1縫合線)
31a 起端
31b 終端
32 縫合線(第2縫合線)
32a 内端
32b 外端
32c 中間点(中間部分)
33 縫合線(第3縫合線)
33a 内端
33b 外端
35 ダーツ(第1ダーツ)
36 ダーツ(第2ダーツ)
37 切り替え
CL 中心線
SL 直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19