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特開2024-7302環境保全と経済性を両立させる低エントロピー・エンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007302
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】環境保全と経済性を両立させる低エントロピー・エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02C 9/00 20060101AFI20240111BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240111BHJP
   F02C 9/20 20060101ALI20240111BHJP
   F02K 1/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
F02C9/00 B
F02C7/00 F
F02C9/20
F02K1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022117559
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】591217492
【氏名又は名称】根本 勇
(72)【発明者】
【氏名】根本 勇
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コアの排気ノズルを可変機構とし、離陸定格で可変コアノズル(VCN)を広げて、推力を落さずタービン入口温度(TIT)を下げる。巡航時にファン回転数を下げずに燃料流量を減らして推力を制御し、燃料消費率(SFC)を低減する。
【解決手段】ファン回転数が最大の離陸定格を空力設計点(ADP)とし、高圧タービン(HPT)、低圧タービン(LPT)、VCNのノズルをADPでチョークさせ、VCNを開いたとき高圧軸回転数を高めずに低圧軸回転数を高めることを可能とし、亜音速機用ターボファン・エンジンのための新たな「TITと流量と推力」の関係を生み出して、上記課題を解決する。
【効果】低エントロピー・サイクルによって熱効率を高め、SFCを低減してCO2排出量を削減、低いTITによってNOXの排出量を低減し、タービン寿命を伸ばして、経済性と環境適合性の両立を果たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は可変サイクル・ターボファンエンジンの機構として
1)コアの排気ノズルを可変ノズル(VCN)とする。
2)ファンの回転数が最大の離陸定格を空力設計点(ADP)とする。
3)ADPを高圧タービン(HPT)、低圧タービン(LPT)のチョーク点とする。
進歩性として
4)チョーク点ADPで高圧圧縮機(HPC)の作動線をチョーク側に移動し、HPC圧力比が下がるように下流側のHPT、LPT、VCNのノズル面積と膨張比を設定する。
その作動として、
5)VCNを開くとエンジン背圧が下がりLPT膨張比が増して、ファン回転数が上昇、燃料流量の増加なくしてコア流量、バイパス流量ともに増加する。
6)コア流量の増加により燃空比が下がりタービン入口温度(TIT)が降下する。
7)バイパス流量の増加によりバイパス側の推力を高め総推力を維持する。
タービン特性の新規制として
8)VCNを開くことで、HPT膨張比一定でLPT膨張比を高め、従来の2軸直列フリータービンの仕事の分配法則を覆すタービン特性を生み出し、
9)高圧軸回転数を増さずに低圧軸回転数を増す。
サイクル特性の新規制として
10)燃焼過程の温度上昇が少なく、膨張過程の温度差が大きい低エントロピー・サイクルを形成し、低エントロピー・サイクルにより熱効率を高める。
11)亜音速機のための新たなTITと流量と推力の関係を生み出す。
効果として
12)離陸定格でVCNを開くと、推力を落さずTITを下げることが出来る。
13)また巡航時にVCNを開き、ファン回転数を下げずに燃料流量を減らして推力を制御し、燃料消費率(SFC)を低減することが出来る。
産業上の利用可能性として
14)SFCの低減によりCO2の排出量を削減し、燃焼ガス温度を下げることによってNOx排出量を低減し、タービン寿命の延伸を図りライフサイクル・コストを節減する。
以上のサイクル効果により、環境保全と経済性を両立させる低エントロピー・エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアの排気ノズルを可変機構にした可変サイクル・エンジン(VCE:Variable Cycle Engine)に関する。ターボファン・エンジンの環境対策に関する発明であって、温室効果ガス排出量低減とエンジンのライフサイクルコスト節減を両立させる低エントロピー・エンジンである。
【背景技術】
【0002】
従来の固定サイクルターボファンで操作できる独立変数は燃料流量である。燃料流量、即ちタービン入口温度(TIT:turbine inlet temperature)によって圧縮機やファンの回転数が決まり推力も決まる。このようにジェットエンジンの推力はTITに支配され、TITは材料の融点により制約を受ける。そのため高度なタービン空冷技術や材料の革新的技術が開発されてきた。しかし冷却空気量が多すぎると高温化による性能向上を冷却空気過剰によるサイクル損失が上回ってしまう。また燃焼機内の火炎温度の上昇にともない温室効果ガスであるNOx(窒素酸化物)の排出量は指数関数的に増加する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】森田光男、関根静雄著 「多軸ターボファンエンジンの設計点外性能」航空宇宙技術研究所報告347号
【0004】
【非特許文献2】八田桂三著 「ガスタービンおよびジェットエンジン」共立出版株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来ターボファンエンジンの技術開発の方向は、小型軽量、高推力を目的としてサイクル最高温度(タービン入口温度TIT)と最低温度(大気温度Ta)の差を大きくすることにあった。本発明が解決しようとする課題は、これに反しTITの上昇を抑え、TITに対する推力を最大化することである。
【0006】
上記課題を地上と上空に分けて説明すると、第一に離陸定格では推力を落さずTITを下げることである。一般にはTITを下げれば推力は落ちる。第二に巡航時は、エンジン流量を維持したまま燃料流量を減じて推力を制御し、燃料消費率(SFC;specific fuel consumption)を低減することである。これも一般には燃料流量を減らせばファン回転数は低下しエンジン流量は減少する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するには、高圧軸回転数を高めずに低圧軸回転数を高めるシステムを生み出せばよい。その手段は;
1)可変コア排気ノズル(VCN;Variable Core Nozzle)を装着して、操作できる独立変数を二つに増やす。
2)ファンの回転数が最大の離陸定格を空力設計点(ADP;Aerodynamic Design Point)とする。
3)ADPを高圧タービン(HPT;High Pressure Turbine)と低圧タービン(LPT;Low Pressure Turbine)のチョーク点とする。
4)VCNを広げることにより、チョーク点ADPで高圧圧縮機(HPC;High Pressure Compressor)の作動線を大流量側に移動し、作動点の流量を増して圧力比(HPR;High pressure ratio)が低下するように下流側のHPT、LPT、VCNのノズル面積と膨張比を設定する(詳細は「発明を実施するための形態」の項で説明する)。
【発明の効果】
【0008】
発明の効果は、SFCの低減によりCO2の排出量を、TITの低下によりNOxの排出量を減らし、またTITの低温化によりタービン寿命の延伸を図り、ライフサイクル・コストを低減して、温暖化対策と経済性の両立を図ることである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明低エントロピー・エンジンの基本構成。
図2】FAN作動マップ。
図3】LPC作動マップ。
図4】HPC作動マップ。
図5】タービンの流量特性曲線図、図の実線は本発明、点線は従来型エンジン(例1はHPT、例2はLPT)。
図6】本発明と従来型エンジンの離陸定格でのタービン入口温度と推力の比較。
図7】相対推力(F)/(F)desとSFCの関係を示す図(例3は地上静止状態、例4は巡航時)。
図8】HPTとLPTの空力的繋がりを示すタービン特性曲線図(例5は地上静止状態、例6は巡航時)。
図9】固定サイクル・エンジンのタービン部流量関係図。
図10】本発明と従来型エンジンの離陸定格でのエントロピー変化の比較。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明低エントロピー・エンジンの基本構成を図1に示す。その機構はコアノズルを可変機構にした可変サイクルエンジンである。図においてFANはファン、LPCは低圧圧縮機、HPCは高圧圧縮機、COMBは燃焼器、HPTは高圧タービン、LPTは低圧タービン、VCNは可変コアノズルである。また数字はエンジン位置番号を表す。
【0011】
本発明低エントロピー・エンジンのサイクル特性及びその効果を説明するには、エンジン前面面積が等しい従来型固定サイクルエンジンと可変コアノズルを装着した本発明を比較してその違いを示す方法が分かり易い。よってこの作動説明では、ファン前面面積が等しく、FAN、LPC、HPCの幾何形状が同じ二つのエンジン、即ちコアの排気ノズル固定の従来型ターボファンとVCNを装着した可変サイクル・エンジン(本発明)の離陸定格、及び巡航(同じ飛行条件)における作動を計算し比較して示す。
【0012】
図2、3、4にFAN、LPC、HPCの作動マップを示す。これらは航空宇宙技術研究所報告347号(非特許文献1)に掲載されているマップから、回転数に対する流量特性を、流量に対して放物線近似する方法で再現し、その作動線上に計算した各作動点をプロットしたものである。図5はタービン流量特性曲線を後記する数1を用いて描いた図である。例1は高圧タービンHPTの特性曲線、例2は低圧タービンLPTの特性曲線である。図において実線は本発明、点線は従来型の流量特性曲線である。図から明らかなようにここで比較する従来型と本発明はFAN、LPC、HPCは同一ハードウエアであり、タービンは異なるハードウエアである。尚、航技研報告347号は工学単位系で書かれており、この明細書もそれに準じた。
【実施例0013】
先ず「実施例1」としてエンジンの基本諸元の設定値を示し、計算方法を説明する。また計算に基づき本発明と従来型の作動の違いを示す。図2~5において、点Aは排気ノズル固定の従来型エンジンの空力設計点(ADP)でファン相対修正回転数Nfc=100%、TIT=2000Kである。簡単のため従来型のHPT、LPTはA点でチョークするものとする。
【0014】
点TS(Top speed)はファンの回転数を従来型と同じ作動線上のNfc=105%まで高めた作動点である。TS点は本案のADPでファン相対修正回転数105%、TIT=1773Kである。本発明はHPT、LPTとも点TSでチョークする。また本案は相対修正回転数100%の時、TIT=1614.6Kである。
【0015】
離陸定格の計算では、従来型の点Aにおける推力と、VCNを開いてファン相対修正回転数を105%に高めTITを227度下げた本発明の点TSにおける推力がほぼ等しくなることを証明する。従来型の点Aにおける計算方法は通常の設計点性能計算である。
【0016】
点TSにおける本発明の計算方法を説明する。ファン修正回転数を105%に高めると、LPCはファンと同軸であるから機械回転数は同じで入口温度はファンより高くなるので修正回転数は99.5%と低くなる。LPCマップ上にNlc=99.5%の等回転数曲線を描くと、その曲線とLPC作動線の交点が本案のLPCの作動点TSである。よってLPC修正流量と圧力比が得られるのでLPC出口条件からHPC入口修正流量が分かる。HPC入口相対修正流量1.026を図4のHPCマップ上に点線で示す。
【0017】
HPC修正流量を示す点線とHPC作動線の交点は、従来型固定サイクルで燃料流量を増しファン回転数Nfcを100%から105%に高めた時のHPC作動点で、HPR=9.015、TIT=2088Kとなるので限界超過、運転不可になる。そこでTITを1773Kに降下させるためのタービン及びVCNの設計が必要になる。
【0018】
NAL報告347号(非特許文献1)ではタービン流量特性を数1に示す楕円式で近似している。数1においてiは入口、eは出口である。離陸定格の計算ではG*Sqrtθi/δiは空力設計点の修正流量、Pi/Peは空力設計点の膨張比である。i=4、e=5とすれば数1左辺はHPT入口修正流量を表す。次にTITを1773Kに指定した燃焼器出口修正流量を数2に示す。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
ここでεは燃焼器全圧損失係数である。計算の初めの段階ではHPTがチョークすることを避けるため、数1の修正流量と膨張比のチョーク値を大きめに仮定した上で、数2の右辺第2項、分母のHPR=P03/P02をいろいろ変えて計算し、左辺の燃焼器出口修正流量と数1の左辺のHPT入口修正流量を一致させれば、図4に示す点TSのHPRの値を知ることが出来る。このHPRの値は、VCNを広げたときの値でVCNの作動条件が上流のHPCに伝わっている状態であり、この計算段階では、HPCの作動線を支配するのはVCNである。
【0022】
つまりHPC下流の絞りを開いてHPC作動線を大流量側に移動し、その作動線とLPC出口条件から導いたHPC修正流量の交点の値がHPRとなる。よってコア流量Ghcが増しHPC出口圧P03が過昇にならないマッチング計算となる。数1と数2の左辺が等しくなった時点で数1の修正流量と膨張比のチョーク値を計算値と一致させれば、本発明のHPTは図5例1の点TS(本発明のADP)でチョークすることになる。
【0023】
次に数1のエンジン位置番号をLPT入口、出口の位置番号5、6に替えて計算し、HPT出口修正流量とLPT入口修正流量を合致させれば、LPTの特性を得ることが出来る。ここでもLPTの入口修正流量及び膨張比のチョーク値はVCNの動作条件が上流に伝わることを妨げない値とし、計算後チョーク値を計算値に一致させる。つまりLPTも点TSでチョークさせる。よってHPT、LPTともにそのチョーク値は、上述のHPC作動を許容する最小面積となる。尚、流量と仕事の釣合の計算方法は既知なので省略する。
【0024】
以上述べてきたマッチング計算から、本発明はコア排気ノズルを広げることで燃料流量を増さずにファン流量が増し、コアの流量、バイパス流量ともに増加するので推力を落さずTITを下げることが出来る。その流量とTITと推力の関係を表1に示す。また離陸定格での本発明と従来型エンジンのタービン入口温度と推力の比較を図6に示す。離陸定格での本発明のVCN面積は従来型の1.355倍である。この設定により本発明は推力を落さず従来型よりTITを227度下げることが出来ることが表1と図6より分かる。
【0025】
【表1】
【0026】
次に地上静止状態の部分負荷性能を図7の例3に、高度10km、飛行マッハ数0.9の巡航性能を図7の例4に示す。例3はコアノズル固定の従来型のターボファン(Conventional TF)と本エンジンVCEの地上静止状態における部分負荷性能を比較したものである。図において点線で結んだ二つの作動点でのSFCは従来型が0.387、本エンジンが0.32で、本案はSFCを約17%低減できている。例4は高度10km、飛行マッハ数0.9における同一条件での巡航性能の比較である。図において点線で結んだ二つの作動点でのSFCは従来型が0.804、本案が0.7である。VCNを開いた本発明は、巡航時の点線位置のSFCを従来型より約13%改善できている。
【実施例0027】
次に「実施例2」として本サイクルの新たな二つのセオリーを示す。先ず本サイクルのセオリーその1は、本サイクルはHPTとLPTの関係が通常の2軸直列フリータービンのエネルギー配分と異なることを示す。本発明のHPTとLPTの空力的繋がりを示すタービン特性曲線図を図8に示す。図8の例5は地上静止状態、例6は巡航時(高度10km、飛行マッハ数0.9)である。図から分かるようにVCNを開いてTITを下げると、HPT膨張比一定でLPT膨張比が大きくなっている。これは従来の固定サイクルエンジンでタービンが直列につながるときの部分負荷の膨張比配分と全く異なる。
【0028】
図9にコアノズル固定の従来型ターボファンのタービン部流量関係図を示す。図9から分かるように設計点では両タービン間の関係は実線で示されるように結ばれるが、部分負荷時に全膨張比が減ると点線のようになりHPTでは膨張比減少が少なく、LPTで大きく減少する。即ちTITを下げるとHPTの仕事とLPTの仕事の比は大きくなりLPTの出力は急激に減少する(非特許文献2、26頁より)。
【0029】
図8図9で注目すべきは、LPT膨張比の増減を示す矢印の方向が正反対なことでる。図8の本発明の作動は、二つのタービンを結ぶ従来の空力的法則を打ち破る、今迄にない新規な現象である。図8の例5、6の作動は「課題を解決するため手段」で述べた「高圧軸回転数を高めずに低圧軸回転数を高めるシステム」を具現したものである。このシステムはタービンの新しいセオリーを生み出している。広いVCN面積によりもたらされるこの現象は理に適っており本サイクルの要であって、本発明の進歩性を現している。
【0030】
航空機用エンジンの可変排気ノズルは昔からある。世界で最初の量産エンジンユモ004B型エンジンは、高速稼働中にTITを一定に保つため排気ノズルが可変になっていた。現在は超音速軍用機にVCNが用いられ、アフターバナー使用時にVCNを開いている。しかし使用目的が本発明とはまったく違い、図8のタービン結合特性はまだこの世に存在していなかった。
【実施例0031】
次に本サイクルのセオリー2として、本サイクルが低エントロピー・サイクルであり、そのことによって熱効率が高いことを示す。図7例3の本発明と従来型の比較は、地上静止状態であるから推進効率は関係ない。例3の離陸定格の計算結果からコアエンジンの離陸時のT-s線図を作成した。その線図を図10に示す。図10において外側の面積が従来型の点Aにおけるコアエンジンの仕事量を表し、内側の面積が本案の点TSにおけるコアエンジンの仕事量(熱量)を表す。燃焼器入口3と出口4の温度差が少ない本発明は低エントロピー・サイクルである。図から明らかに低エントロピー・サイクルはコアエンジンの単位流量当りの仕事量が少ない。しかしエンジン流量の増加によって推力が保たれていることが表1に明示されている。
【0032】
重量G[kgf]の物体に熱量dQが与えられたときの温度上昇をdt[℃]とすると、ΔtはΔQに比例し、重量Gに逆比例する。Δt∝ΔQ/G。本エンジンは離陸時にQを増さずに、Gを増す装置であり、Gとはコア流量Ghp+Gfのこと、ガスゼネレータ流量である。即ちWork Coefficient(仕事率)で考えれば点Aと点TSのエンジンの仕事率はほぼ変わらない(表1参照)。本エンジンの特性は、1)受熱過程、放熱過程における温度差が小さい、2)断熱膨張過程の温度差が大きい(タービン膨張比が大きい)、この2点から本サイクルは低エントロピー・サイクルであると云える。燃料を増さずに仕事率を維持できる理由は図10から明らかなように排気残留エネルギが小さくなるからである。
【0033】
本可変サイクル・エンジンはVCNを広げてファン回転数を高めファン吸込み流量を増した時バイパス流量のみでなくコア流量も増加する。従ってバイパス比は寧ろ低下する。地上静止状態で従来型より本エンジンのSFCが高いのは、偏に熱効率の改善によるものである(但し、巡航時は推進効率が良くなる)。これが本サイクルの特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
航空業界は世界のCO2排出量の2.6%を占めており、大量の二酸化炭素(CO2)を排出している。ジェット燃料は深刻な大気汚染源であり、航空業界は温室効果ガス排出量削減の取り組みを強く求められている。他方、環境対策にコストを掛けると開発経費がかさみ、航空運賃が高騰、経済活動が阻害されてしまう。経済性と環境保全の両立を図ることが、持続可能な航空機用エンジンを実現する上で必須である。
【0035】
本サイクルのセオリーは、第1にタービンの特性が従来の2軸直列フリータービンの仕事の配分と異なり、HPT膨張比を変化させずLPT膨張比を高めることが出来ることである。第2に燃焼器入口と出口の温度差が小さく低エントロピー・サイクルとなり、熱効率を高めることである。これらの理論からTITと流量と推力の新たな関係を生み出す。
【0036】
本発明、低エントロピー・エンジンは環境対策としてSFCの低減によってCO2の排出量を削減し、燃焼ガス温度を下げることによってNOx排出量を低減する。その上経済性向上策として、推力を落さずタービン入口温度を下げ、タービン寿命の延伸を図りライフサイクル・コストを節減して、環境と経済の両立を図ることが出来るので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0037】
A 面積 ADP 空力設計点
BPR バイパス比 COMB 燃焼器
Cpt タービン部定圧比熱 FAN ファン
f 燃料空気混合比 G 実流量
HPC 高圧圧縮機 HPT 高圧タービン
LPC 低圧圧縮機 LPT 低圧タービン
M マッハ数 N 回転数
Nfc ファン相対修正回転数 Nlc LPC相対修正回転数
s エントロピー Sqrt() 自乗根
SLS 海面上静止状態 TS 高速回転域(トップスピード)
VCN 可変コアノズル
(G√θi/δi)/(G√θi/δi)des 相対修正流量
δ P/Ps ε 全圧損失係数
θ T/Ts
数字
a.大気 1.ファン入口
22.ファン出口 2.LPC出口
3.HPC出口(燃焼器入口) 4.燃焼器出口(HPT入口)
5.LPT入口 6.LPT出口
7.コアノズル出口 8.バイパスノズル出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10